説明

新規の間葉系幹細胞及び骨形成性細胞

本発明は、少なくとも1つの間葉系マーカー、好ましくは少なくともCD105とCD34とを共発現する、新たな種類の間葉系幹細胞(MSC)に関する。類似の表現型を有する骨形成性細胞も提供される。本発明は、細胞及び細胞集団に加えて、このような細胞及び細胞集団を含むさらなる製品並びに骨療法におけるそれらの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、細胞表現型及び細胞分化の分野に関し、医学における細胞の使用に関する。より具体的には、本発明は新たな間葉系幹細胞(MSC)型及び新たな骨形成性細胞型を同定し、上記MSCの骨形成分化、並びに骨疾患における上記MSC及び上記骨形成性細胞の治療的及び予防的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨形成分化を受けることが可能であるか、又はその傾向を有する幹細胞の移植は、骨関連疾患の治療に対して、特に治療に新たな骨の産生が必要となる場合に有望な手段(avenue)である。
【0003】
骨髄間質細胞又は間葉系幹細胞(BMSC又はMSCと略される)は、成体骨髄及び幾つかの他の組織から、これらの細胞の組織培養プラスチックへの接着性に基づいて容易に単離し、増加させることができる。MSCは主に三分化能性の(tri-potential)中胚葉関連運命、すなわち骨形成分化、脂肪細胞分化及び軟骨細胞分化を受ける能力を示すが(非特許文献1)、神経細胞、肝細胞及び筋細胞を産生することが可能なMSCも報告されている(非特許文献2)。
【0004】
MSCは可溶性表面マーカー、中でもCD105、CD90及びCD73を含めて、それらの発現によって規定することができる。さらに、従来技術では一般に、MSCがCD34抗原に対して陰性であることが示されており、CD34抗原はむしろ未熟血液細胞及び内皮細胞において高度に発現されることが知られている。特に、CD34陽性の骨髄起源MSCは、これまでに説明されていなかった。また、CD34陽性MSC、特に骨髄に由来するCD34陽性MSCに関して、骨形成性及び骨再生(osteoregenerative)性の向上は以前には記載されていなかった。
【0005】
骨髄移植は骨障害を治療するために利用されている(非特許文献3)。しかしながら、MSCは骨髄試料中に存在する全ての細胞のうちわずかな割合しか占めず、さらには多様な骨形成分化の傾向を示すことができるため、そのように移植された細胞のかなりの割合が最終的に所望の骨組織の形成に寄与しないだろう。実際、ヒト成体間葉系幹細胞前駆細胞の約14%しか骨形成能を維持しないことが示されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Pittenger et al. 1999. Science 284: 143-7
【非特許文献2】Prockop 1997. Science 276: 71-4
【非特許文献3】Gangji et al. 2005. Expert Opin Biol Ther 5: 437-42
【非特許文献4】D'Ippolito et al. 1999. J Bone Miner Res. 14: 1115-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の点を鑑みると、間葉系幹細胞からの骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨形成性細胞の産生収率を改善することが引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、単離し、任意で増加させたMSC細胞の小サブセットが、少なくとも1つの間葉系マーカー、例えばCD90又はCD105、より好ましくは少なくともCD105を、一般に細胞の未熟血液的及び内皮的特質を表すと考えられるマーカーであるCD34と共に共発現することを結論付けた。
【0009】
一般的なMSC細胞集団と比べると、この新たな細胞型は、骨細胞マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)を有意なレベルで発現し、新たな骨マトリクスを合成及び石灰化することができる。したがって、該細胞は、骨再構築に有用な骨形成性細胞を産生する比較的高い可能性を有する。本発明者らはまた、該細胞を大いに増加させることができ、それにより特に骨障害に対する細胞ベース療法にとって十分な量の骨形成性細胞を生成可能であることに気付いた。本発明者らは、その表現型的性質及び生物学的性質を維持する上記細胞サブタイプに関してMSC細胞を富化することに成功した。
【0010】
本発明の一態様は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現することを特徴とする単離間葉系幹細胞(MSC)を提供する。
【0011】
さらなる態様は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞を得る方法であって、MSC細胞集団から、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化又は単離することを含む、方法を提供する。実施の形態は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞を得る方法であって、(a)被験体の試料からMSC細胞を単離すること、(b)任意で、(a)のMSC細胞を富化する及び/又は増加させること、並びに(c)(a)又は(b)のMSC細胞から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化又は単離することを含む、方法を提供する。
【0012】
別の態様は、MSC細胞集団から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを単離することを含む方法によって得ることができるMSC細胞に関する。実施の形態は、(a)被験体の試料からMSC細胞を単離すること、(b)任意で、(a)のMSC細胞を増加させること、並びに(c)(a)又は(b)のMSC細胞から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを単離することを含む複数の工程によって得ることができるMSC細胞を提供する。
【0013】
上述の態様のいずれかにおいて規定されるような、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離間葉系幹細胞(MSC)を含む細胞集団も提供される。
【0014】
本発明が、上記で教示されるようなMSC細胞及び細胞集団、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞並びにこのようなMSC細胞を含む細胞集団の様々な操作、とりわけ培養、維持、増加、富化(例えば選別による)、並びに上記MSC細胞及び細胞集団の富化後の増加も含めて包含していることを理解されよう。
【0015】
さらなる態様は、単離間葉系幹細胞(MSC)、好ましくは本明細書中で教示されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離MSCを、インビトロ(in vitro)で増加させる方法であって、上記MSC細胞を造血成長因子及び/又は血管新生成長因子、好ましくは造血成長因子及び血管新生成長因子、例えば1つ又は複数の造血成長因子及び/又は1つ又は複数の血管新生成長因子に曝露することを含む、方法を提供する。
【0016】
この方法はまた、好適な培養条件を用いて、MSC集団(すなわち、比較的不均一性の高いMSC集団)から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞を得ること、及び/又はMSC集団(すなわち、比較的不均一性の高いMSC集団)を少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞に富化することに適合する場合もある。この方法は、上記比較的不均一性の高いMSC集団(例えば、被験体の試料から単離したMSC細胞)を、造血成長因子及び/又は血管新生成長因子、好ましくは造血成長因子及び血管新生成長因子、例えば1つ又は複数の造血成長因子及び/又は1つ又は複数の血管新生成長因子に曝露することを必要とする。
【0017】
有利には、該方法によって、出発又は初期MSC細胞集団から、CD34と1つ又は複数の間葉系マーカー、例えば、好ましくはCD105、CD90及び/又はCD73、同様に好ましくは少なくともCD105、との発現を有するMSC細胞が得られる及び/又は富化される場合がある。有利には、富化されたMSC細胞は、造血マーカー及び/又は内皮マーカー、例えばCD45、CD133、CD31、CD14及び/又はCD19の発現を欠いている場合がある。したがって、実施の形態では、富化されたMSC細胞は、CD34、並びにCD105、CD90及びCD73の1つ又は複数、又は好ましくは全て、同様に好ましくは少なくともCD105の発現を有し、CD45、CD133、CD31、CD14及びCD19の1つ又は複数、又は好ましくは全ての発現を欠いている場合がある。有利には、本方法は、該方法を適用する過程で、初期MSC集団におけるCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの共発現を有するMSC細胞の割合の増大を実現する(例えば、非限定的な実験では、CD105陽性MSC細胞及びCD34陽性MSC細胞の割合は培養の間に、それぞれ15%から95%、及び1%から59.4%へと増大した)。
【0018】
有利には、本明細書中で教示されるような造血成長因子及び/又は血管新生成長因子に曝露することによって増加及び/又は富化されたMSC細胞は、十分な骨形成性(例えば、ALPの発現及び染色によって示される)、及び有益な血管新生促進性(例えば、好適なアッセイにおいて、vWF及びVEGFの発現によって、及び/又は毛細血管様構造の形成によって示される)の両方を示す場合がある。
【0019】
したがって、骨形成性(限定するものではないが、好適にはALP発現、ALP酵素活性及び/又はALP染色によって示される)、及び血管新生促進性(限定するものではないが、好適にはマトリゲルモデル等の好適なモデルにおけるvWF及び/又はVEGF、好ましくはvWF及びVEGFの発現によって、及び/又は分岐した新生血管構造又は偽管(pseudotubes)へと組織化する能力によって示される)の両方を示す、概してMSC細胞、特に少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞も本明細書中に開示される。このようなMSC細胞を含む細胞集団がさらに意図される。
【0020】
MSC細胞又は細胞集団を、造血成長因子及び/又は血管新生成長因子を用いて増加させるか、又は富化する上記の方法によって得ることができるか、又は直接得られるMSC細胞も提供される。
【0021】
別の態様は、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)を、骨形成性細胞、例えば骨芽細胞又は骨芽前駆細胞にin vitroで分化させる方法に関する。
【0022】
さらなる態様は、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)を、骨形成性細胞にin vitroで分化させることによって得ることができる骨形成性細胞、例えば骨芽細胞又は骨芽前駆細胞を提供する。
【0023】
このような骨形成性細胞の少なくとも一部は、元のMSC細胞に関連する発現プロファイルを維持することができるため、別の態様は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現することを特徴とする単離骨形成性細胞、例えば骨芽細胞又は骨芽前駆細胞を提供する。
【0024】
少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離骨形成性細胞を含む細胞集団がさらに開示される。したがって、本明細書中で教示されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離MSCを含み、且つ本明細書中で教示されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離骨形成性細胞をさらに含む細胞集団も開示される。
【0025】
本発明が、上記に教示されるような骨形成性細胞及び細胞集団、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、並びにこのような骨形成性細胞を含む細胞集団の様々な操作、とりわけ培養、維持、増加、富化(例えば選別による)、並びに上記骨形成性細胞及び細胞集団の富化後の増加も含めて包含していることも理解されよう。
【0026】
少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞を得る方法であって、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞を、骨形成性細胞に分化させることを含む、方法も開示される。
【0027】
少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するこのような骨形成性細胞は、他の方法によっても得ることができる。したがって、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞を得る方法であって、骨形成性細胞の集団から、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化又は単離することを含む、方法も開示される。実施の形態は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞を得る方法であって、(a)被験体の試料から骨形成性細胞を単離すること、又は被験体の試料から単離したMSC細胞から骨形成性細胞を分化させること、(b)任意で、(a)の骨形成性細胞を富化する及び/又は増加させること、並びに(c)(a)又は(b)の骨形成性細胞から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化又は単離することを含む、方法を提供する。
【0028】
さらなる態様は、単離骨形成性細胞、好ましくは本明細書中で教示されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離骨形成性細胞を、in vitroで増加させる方法であって、上記骨形成性細胞を造血成長因子及び/又は血管新生成長因子、好ましくは造血成長因子及び血管新生成長因子、例えば1つ又は複数の造血成長因子及び/又は1つ又は複数の血管新生成長因子に曝露することを含む、方法を提供する。
【0029】
この方法はまた、好適な培養条件を用いて、骨形成性細胞集団(すなわち、比較的不均一性の高い骨形成性細胞集団)から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞を得る、及び/又は骨形成性細胞集団(すなわち、比較的不均一性の高い骨形成性細胞集団)を少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞に富化するのに適する場合もある。この方法は、上記比較的不均一性の高い骨形成性細胞集団(例えば、被験体の試料から単離した骨形成性細胞、又は被験体の試料から単離したMSC細胞から分化させた骨形成性細胞)を、造血成長因子及び/又は血管新生成長因子、好ましくは造血成長因子及び血管新生成長因子、例えば1つ又は複数の造血成長因子及び/又は1つ又は複数の血管新生成長因子にin vitroで曝露することを必要とする。
【0030】
有利には、該方法によって、出発又は初期骨形成性細胞集団から、CD34と1つ又は複数の間葉系マーカー、例えば、好ましくはCD105、CD90及び/又はCD73、同様に好ましくは少なくともCD105との発現を有する骨形成性細胞が得られる及び/又は富化される場合がある。有利には、富化された骨形成性細胞は、造血マーカー及び/又は内皮マーカー、例えばCD45、CD133、CD31、CD14及び/又はCD19の発現を欠いている場合がある。したがって、実施の形態では、富化された骨形成性細胞は、CD34、並びにCD105、CD90及びCD73の1つ又は複数、又は好ましくは全て、同様に好ましくは少なくともCD105の発現を有し、CD45、CD133、CD31、CD14及びCD19の1つ又は複数、又は好ましくは全ての発現を欠いている場合がある。有利には、本方法は、該方法を適用する過程で、初期骨形成性細胞集団におけるCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの共発現を有する骨形成性細胞の割合の増大を実現する。
【0031】
有利には、本明細書中で教示されるような造血成長因子及び/又は血管新生成長因子に曝露することによって増加及び/又は富化された骨形成性細胞は、十分な骨形成性(例えば、ALPの発現及び染色によって示される)、及び有益な血管新生促進性(例えば、好適なアッセイにおいて、vWF及びVEGFの発現によって、及び/又は毛細血管様構造の形成によって示される)の両方を示す場合がある。
【0032】
したがって、骨形成性(限定するものではないが、好適にはALP発現、ALP酵素活性及び/又はALP染色によって示される)、及び血管新生促進性(限定するものではないが、好適にはマトリゲルモデル等の好適なモデルにおけるvWF及び/又はVEGF、好ましくはvWF及びVEGFの発現によって、及び/又は分岐した新生血管構造又は偽管へと組織化する能力によって示される)の両方を示す、概して骨形成性細胞、特に少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞も本明細書中に開示される。このような骨形成性細胞を含む細胞集団がさらに意図される。
【0033】
骨形成性細胞又は細胞集団を、造血成長因子及び/又は血管新生成長因子を用いて増加させるか、又は富化する上記の方法によって得ることができるか、又は直接得られる骨形成性細胞も提供される。
【0034】
実施の形態では、造血成長因子は、当該技術分野で既知の明らかな造血活性を有する任意の成長因子、例えば造血細胞を動員する、その増殖を誘導する、及び/又は造血細胞を刺激することが可能な任意の成長因子を含み得る。実施の形態では、本明細書全体を通して意図される造血成長因子は、コロニー刺激因子2(CSF2)、CSF3、マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球単球CSF(GM−CSF)、インターフェロン(IFN)、とりわけIFN−α及びIFN−γ、腫瘍壊死因子(TNF)、並びに造血活性のあるサイトカイン、とりわけインターロイキン2(IL2)、IL4、IL17及びIL18を含むか、又はこれらから成る群から選択される。好ましくは、造血成長因子は、GM−CSF及びIFN−γから選択され、より好ましくはIFN−γであり得る。
【0035】
実施の形態では、血管新生成長因子は、当該技術分野で既知の明らかな血管新生活性を有する任意の成長因子、例えば内皮細胞を動員するか、又は内皮細胞による毛細血管構造の形成を誘導することが可能な任意の成長因子を含み得る。実施の形態では、本明細書全体を通して意図される血管新生成長因子は、血小板由来成長因子(PDGF)、とりわけPDGFaa、PDGFab、PDGFbb、血管内皮成長因子(VEGF1又はVEGF2)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、アンジオポエチン1又はアンジオポエチン2、線維芽細胞成長因子(FGF−1、FGF−3、若しくは他のFGF因子;又はFGF−1以外、及び/又はFGF−2以外のFGF因子)、並びにエリスロポエチン(EPO)を含むか、又はこれらから成る群から選択される。別の実施の形態では、血管新生成長因子は、PDGF、VEGF、vWF、アンジオポエチン2及びEPOを含むか、又はこれらから成る群から選択され得る。好ましくは、血管新生成長因子は、PDGF、FGF−1及びFGF−3から選択され、より好ましくはPDGF又はFGF−3、さらに好ましくはPDGFであり得る。
【0036】
好ましくは、MSC又は骨形成性細胞は、上記細胞の維持、増加、取得、富化及び/又は骨形成分化をさらに促すために、上記造血成長因子及び/又は血管新生成長因子に加えてFGF−2に曝露され、好ましくは同時に曝露され得る。
【0037】
したがって、好ましい実施の形態では、MSC又は骨形成性細胞、例えば本明細書中で教示されるようなCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの発現を有するMSC又は骨形成性細胞を増加させることは、上記MSC又は骨形成性細胞を、GM−CSF、IFN−γ、PDGF、FGF−1及びFGF−3から選択される1つ又は複数の成長因子、例えばGM−CSF及びIFN−γの1つ又は複数、及び/又はPDGF、FGF−1及びFGF−3の1つ又は複数、例えばGM−CSF及びIFN−γの1つ又は複数、並びにPDGF、FGF−1及びFGF−3の1つ又は複数に曝露することを含み得る。これらの実施の形態では、任意で、細胞をFGF−2にさらに曝露しても、好ましくは同時に曝露してもよい。特に好ましい実施の形態では、MSC又は骨形成性細胞、例えば本明細書中で教示されるようなCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの発現を有するMSC又は骨形成性細胞を増加させることは、上記MSC又は骨形成性細胞をIFN−γに曝露することを含み得る。この処理によって、そのように処理した細胞の骨形成特性及び血管新生促進特性の両方が著しく向上する。
【0038】
別の好ましい実施の形態では、初期MSC集団又は骨形成性細胞集団から、本明細書中で教示されるようなCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの発現を有するMSC又は骨形成性細胞を富化することは、上記初期MSC集団又は骨形成性細胞集団を、GM−CSF、IFN−γ、PDGF、FGF−1及びFGF−3から選択される1つ又は複数の成長因子、例えばGM−CSF及びIFN−γの1つ又は複数、及び/又はPDGF、FGF−1及びFGF−3の1つ又は複数、例えばGM−CSF及びIFN−γの1つ又は複数、並びにPDGF、FGF−1及びFGF−3の1つ又は複数に曝露することを含み得る。これらの実施の形態では、任意で、細胞をFGF−2にさらに曝露しても、好ましくは同時に曝露してもよい。特に好ましい実施の形態では、初期MSC集団又は骨形成性細胞集団から、本明細書中で教示されるようなCD34及び1つ又は複数の間葉系マーカーの発現を有するMSC又は骨形成性細胞を富化することは、上記MSC又は骨形成性細胞をIFN−γに曝露することを含み得る。この処理によって、そのように処理した細胞の骨形成特性及び血管新生促進特性の両方が著しく向上する。
【0039】
さらなる態様は、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)、及び/又は上述の態様において規定されるような骨形成性細胞、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、並びに1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、上記MSC及び/又は骨形成性細胞を含む細胞集団、並びに1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤を含み得る。
【0040】
医薬品製剤を調製する製法(process)であって、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)、及び/又は上述の態様において規定されるような骨形成性細胞、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、又はこのようなMSC及び/又は骨形成性細胞を含む細胞集団を、上記1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤と混合することを含む、製法も提供される。
【0041】
本発明の細胞産物は、骨関連障害の予防的及び治療的処置に特に好適である。したがって、さらなる態様は以下のものに関する:
骨関連障害の治療に使用される、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)、又は上述の態様において規定されるような骨形成性細胞、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、又は上記に規定されるような細胞を含む細胞集団若しくは医薬組成物;
骨関連障害の治療用の薬物の製造のための、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)、又は上述の態様において規定されるような骨形成性細胞、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、又は上記に規定されるような細胞を含む細胞集団の使用;
このような治療を必要とする被験体において骨関連障害を治療する方法であって、上記被験体に、上述の態様において規定されるような少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する間葉系幹細胞(MSC)、又は上述の態様において規定されるような骨形成性細胞、例えば少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞、又は上記に規定されるような細胞を含む細胞集団若しくは医薬組成物を、治療的又は予防的に有効な量で投与することを含む、方法。
【0042】
本発明は、被験体に、例えば全身的に又は骨病変の部位へと組成物を投与するのに適した外科用器具を含み、かつ上記で規定される細胞、細胞集団又は医薬組成物のいずれかをさらに含む装置(arrangement)も提供する。
【0043】
上記態様及び実施の形態のいずれにおいても、少なくとも1つの間葉系マーカーは、好ましくはCD105、CD90及びCD73から選択され、より好ましくはCD90又はCD105であり得る。特に好ましくは、少なくとも1つの間葉系マーカーはCD105であり得る。すなわち、本明細書中で教示されるようなMSC又は骨形成性細胞は、少なくともCD105とCD34とを共発現し得る。
【0044】
上記態様のいずれかの一部の実施の形態では、細胞(MSC細胞、骨形成性細胞)はヒト起源である。好ましくは、MSCは骨髄に由来し得る。
【0045】
これらの及びさらなる態様及び実施形態が、以下の章及び特許請求の範囲において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】CD90(FITC)及びCD34(APC)の発現の二色フローサイトメトリー分析を示す図である。このドットプロットヒストグラムは、リストモードデータとして収集した5000個の事象(event)を表す。
【図2】1週間の培養後のCD90/CD34+細胞の光学顕微鏡検査を示す図である。
【図3】添加培養条件下で増加させた後のCD90(FITC)及びCD34(APC)の発現の二色フローサイトメトリー分析を示す図である。このドットプロットヒストグラムは、リストモードデータとして収集した5000個の事象を表す。
【図4】CD90/CD34+細胞の石灰化(A)及びALP染色(B)を示す図である
【図5】CD34+の百分率に対する石灰化能力の依存関係を示す図である。
【図6】ALP染色による細胞の骨形成性を示す図である。
【図7】毛細血管様構造形成アッセイによる細胞の血管新生促進性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確な指示のない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。
【0048】
本明細書中で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「で構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又は無制限であり、付加的な、記載されていない成員、要素又は方法工程を除外するものではない。
【0049】
端点による数値範囲の記載は、それぞれの範囲内に含まれる全ての数及び分数、並びに記載された端点を含む。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「約(about)」という用語は、パラメータ、量、時間幅(temporal duration)等の測定可能な値を表す場合には、特定の値の、及び特定の値から±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を、開示する発明において実施するのにこのような変動が適切である限りにおいて、包含することを意味する。修飾語「約」が表す値自体も、具体的にかつ好ましく開示されると理解すべきである。
【0051】
本明細書に引用される全ての文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0052】
特に規定のない限り、本発明を開示する際に使用される、技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)によって一般的に理解される意味を有する。さらなる指針を用いて、用語の定義が本発明の教示をよりよく理解するために記載される。
【0053】
「幹細胞」という用語は、概して、未だ特殊化しておらず(unspecialised)又は比較的特殊化の程度が低くかつ増殖能を有する細胞であって、自己再生することができ、すなわち分化せずに増殖することができ、且つ自身又はその子孫が少なくとも1つの比較的特殊化の程度の高い細胞型を生じることができる細胞を表す。この用語は、実質的に無制限に自己再生することができる幹細胞、すなわち、幹細胞の子孫又は少なくともその一部分が、母幹細胞の未だ特殊化していない又は比較的特殊化の程度が低い表現型、分化可能性、及び増殖能力を実質的に保持している幹細胞と、限定的な自己再生を示す幹細胞、すなわち、子孫又はその一部分のさらに増殖及び/又は分化する能力が、母細胞と比較して明らかに低減している幹細胞とを包含する。例えば限定するものではないが、幹細胞は、1つ又は複数の系列に沿って分化して、段階的に比較的特殊化の程度の高い細胞を産生することができる子孫(このような子孫、及び/又は段階的に比較的特殊化の程度の高い細胞は、それ自体が本明細書で規定される幹細胞であり得る)、又はさらに、最終分化した細胞、すなわち完全に特殊化した細胞(有糸分裂後のものであり得る)を産生することができる子孫を生じることができる。
【0054】
本明細書中で使用される場合、「成体幹細胞」という用語は、胎生期又は出生後の生物中に存在する、又はそれらから得た(例えばそれらから単離した)幹細胞を表す。
【0055】
本明細書中で使用される場合、「間葉系幹細胞」又は「MSC」という用語は、間葉系系列、典型的には2つ、好ましくは3つ以上の間葉系系列、例えば骨細胞(骨)系列、軟骨細胞(軟骨)系列、筋細胞(myocytic)(筋肉)系列、腱細胞(tendonocytic)(腱)系列、線維芽細胞(結合組織)系列、脂肪細胞(脂肪)系列、及び間質生成(stromogenic)(髄間質)系列の細胞を生成することができる、成体の中胚葉由来の幹細胞を表す。限定するものではないが、一般に、細胞は、当該技術分野において認められている標準的な分化条件及び細胞表現型評価方法、例えば、非特許文献1又はBarberi et al.(PLoS Med 2: e161, 2005)に記載される方法を用いて、脂肪細胞系列、軟骨細胞系列及び骨細胞系列の各々の細胞を形成することが可能であればMSCであると見なすことができる。MSC細胞は、例えば骨髄、血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢、真皮、特に胎生期及び青年期の皮膚(Young et al. 2001. Anat Rec 264: 51-62)、骨膜、並びに脂肪組織(Zuk et al. 2001. Tissue Eng 7: 211-28)から単離することができる。ヒトMSC、その単離、in vitroでの増殖及び分化は、例えば非特許文献1、米国特許第5,486,359号明細書、米国特許第5,811,094号明細書、米国特許第5,736,396号明細書、米国特許第5,837,539号明細書、又は米国特許第5,827,740号明細書に記載されている。
【0056】
この用語は、骨髄から得られるMSC、一般に「骨髄間質細胞」又は「BMSC」と称されるものも包含する。BMSCの単離用の骨髄試料は、例えば腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨又は他の髄腔から得ることができる。
【0057】
好ましい実施形態では、本明細書中で使用される場合、MSC又はMSC集団は骨髄に由来するものであってもよく、例えば骨髄試料から単離され、任意で増加され得る。骨髄に由来するMSC及びMSC集団は、他の組織に由来するMSCとは異なる、及び/又はそれよりも都合のよい特性(例えばマーカープロファイル、機能、増加、分化等)を有していてもよく、例えば、限定するものではないが、より効率的及び/又はより制御可能に骨形成性細胞に分化することができる。
【0058】
「MSC」及び「BMSC」という用語は、MSC又はBMSCの子孫、例えば被験体の生体試料から得られるMSC又はBMSCのin vitro又はex vivo増殖によって得られる子孫も包含する。
【0059】
特定の成分に関して「単離する(isolating)」という用語は、該特定の成分がそれにより「単離される」組成物の少なくとも1つの他の成分からその成分を分離することを示す。任意の細胞、細胞の群又は細胞集団との関係で使用される「単離(isolated)」という用語は、このような細胞、細胞の群又は細胞集団が動物又はヒトの身体の一部分を形成しないことも示唆する。
【0060】
本明細書で開示される細胞、特にMSC細胞又は骨形成性細胞は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する(すなわち、それらに関して陽性である)。本明細書全体を通して、「共発現する(co-express)」とは、細胞が該細胞を特徴付ける記載された特定のマーカーだけでなく、他のマーカーを発現し得るように、「の共発現を有する(comprising co-expression of)」という意味を包含することを意図する。
【0061】
細胞が特定のマーカーに関して陽性であると言う場合、これは、当業者が、適切な測定を実施した場合、好適な対照と比較して、そのマーカーに関して、例えば抗体により検出可能な、又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により検出可能な(detection)顕著なシグナルの存在又は証拠を結論づけるであろうことを意味する。本方法によりそのマーカーの定量的評価が可能になる場合、陽性の細胞は、対照と有意に異なり、より高い又はより強いシグナル、例えば、限定するものではないが、対照細胞が生成したかかるシグナルより少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高い、又はさらに高いシグナルを生成する。
【0062】
細胞特異的マーカーの発現は、当該技術分野で既知の任意の好適な免疫学的手法、例えば免疫細胞化学的検査若しくは親和性吸着法、ウエスタンブロット分析、FACS、ELISA等を使用して、又は酵素活性の任意の好適な生化学的アッセイにより、又はマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な手法、例えばノーザンブロット、半定量的若しくは定量的RT−PCR等により検出することができる。
【0063】
本開示において列挙したマーカータンパク質に関する核酸及びアミノ酸の配列データは概して既知であり、公的データベース、とりわけNIHの「Protein Reviews on the Web」データベース(http://mpr.nci.nih.gov/prow/)、NIHの「Entrez Gene」データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)、又はUniprot/Swissprotデータベース(http://www.expasy.org/)等から得ることができる。上記マーカーに対して好適な検出試薬及び方法は、このような配列情報に基づいて設計することができるか、又はより一般的には、市販されている(例えば標識モノクローナル抗体試薬)。
【0064】
例えば、限定するものではないが、上記データベースの登録をこの順序で参照すると、ヒトCD34抗原は、「CD34」、遺伝子ID947、及びアクセッション番号P28906(配列バージョン2、エントリバージョン74)(また、Simmons et al. 1992. J Immunol 148: 267-271、Civinet al. 1984. J Immunol 133: 157)の名で存在し、ヒトCD105抗原(エンドグリンとしても知られる)は、「CD105」、遺伝子ID2022、及びアクセッション番号P17813(配列バージョン2、エントリバージョン91)(また、Bellon et al. 1993. Eur J Immunol 23: 2340)の名で存在し、ヒトCD90抗原(Thy−1膜糖タンパク質としても知られる)は、「CD90」、遺伝子ID7070、及びアクセッション番号P04216(配列バージョン2、エントリバージョン94)(また、Cell surface Thy-1, ed. AF Reif and M Schlesinger, 1989, MarcelDekker Inc., New York)の名で存在し、そしてヒトCD73抗原(エクト−5’−ヌクレオチダーゼ、EC3.1.3.5としても知られる)は、「CD73」、遺伝子ID4907、及びアクセッション番号P21589(配列バージョン1、エントリバージョン87)(また、Thomson et al. 1990. Tissue Antigens 35: 9)の名で存在する。
【0065】
CD34の検出に利用可能な抗体試薬の例としては、とりわけモノクローナル抗体6A6、7E10及び4H11が挙げられ、CD105の検出に利用可能な抗体試薬の例としては、とりわけモノクローナル抗体44G4、1G2、E−9及びGRE(Letarte et al. 1995. In: Leukocyte Typing V, ed. SF Schlossman etal., Oxford University Press, Oxford, p. 1756-1759)が挙げられ、CD90の検出に利用可能な抗体試薬の例としては、とりわけモノクローナル抗体5E10(Craig et al. 1993. J Exp Med 177: 1331)が挙げられ、CD73の検出に利用可能な抗体試薬の例としては、とりわけモノクローナル抗体1E9及び7G2(Thompson et al. 1990、上掲)及び4G4(Airas et al.1993. J Immunol 151: 4228)が挙げられる。
【0066】
一実施形態では、少なくとも1つの間葉系マーカーは、CD105、CD90及びCD73から選択される。好ましくは、少なくとも1つの間葉系マーカーはCD90又はCD105であり、より好ましくは、少なくとも1つの間葉系マーカーはCD105である。本発明は、CD105とCD34とを共発現する細胞、特にMSC細胞又は骨形成性細胞、CD90とCD34とを共発現する細胞、並びにCD73とCD34とを共発現する細胞を意図する。CD105、CD90及びCD73のいずれか2つ又は3つ全てをCD34と共に共発現する細胞、特にMSC細胞又は骨形成性細胞、例えば、少なくともCD105及びCD90をCD34と共に共発現する細胞、又は少なくともCD105及びCD73をCD34と共に共発現する細胞等も包含される。
【0067】
実施例に示すように、上記マーカープロファイルの細胞は、アルカリホスファターゼ(ALP)も共発現し得る。したがって、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現し、かつALP、より好ましくは骨−肝臓−腎臓型のALP(ALPL)をさらに発現する細胞、特に本明細書で開示されるようなMSC細胞又は骨形成性細胞も提供される。後者の種類のヒトALPの例は、Weiss et al. 1986(PNAS 83: 7182-7186)に、Uniprot/Swissprotアクセッション番号P05186(配列バージョン4、エントリバージョン110)で記載されている。ALPは、その既知の配列及び標識抗体等の市販の検出試薬を用いて、基本的には上記で説明したように検出することができる。基質、例えば4−メチルウンベリフェリルリン酸(Fernley et al. 1965. Biochem J. 97: 95-103)又はp−ニトロフェニルリン酸等を用いた酵素ベースのアッセイも既知である。
【0068】
上記マーカープロファイルのMSC細胞は、典型的には間葉系細胞の他の属性も示し得る。例えば、MSC細胞は、CD106(VCAM)、CD166(ALCAM)、CD29、CD44、CD54及びGATA−4から選択される間葉系マーカーの1つ、複数又は全てをさらに発現し得る。MSC細胞は、或る特定の形態学的特徴、例えば組織培養プラスチックへの接着性、単層での成長、及び顕著な核小体を有する円形〜楕円形の核を持った単核の卵形、星形又は紡錘形の形状のいずれか1つ又は複数をさらに示す場合がある。
【0069】
本明細書中で使用される場合、「骨形成性細胞」という用語は概して、骨材料及び/又は骨マトリクスの形成に寄与することが可能な細胞を表し、特に部分的に又は完全に骨形成分化経路に沿って進行した単離細胞又は細胞集団を示す。限定するものではないが、骨形成性細胞は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、骨細胞、及び当該技術分野で既知の他の骨形成系列の細胞型を特に包含する。
【0070】
したがって、当業者は概して、「骨形成性細胞」という用語の範囲を本明細書で意図されるように理解する。しかし、さらなる指針を用いると、限定するものではないが、本発明の骨形成性細胞は以下の特性のいずれか1つ、複数又は全てを示し得る:
a)細胞がアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現を有すること;
b)細胞が1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON)、オステオポンチン(OP)、オステオカルシン(OCN)及び骨シアロタンパク質(BSP)のいずれか1つ又は複数の発現を有すること;
c)細胞が外部環境を石灰化するか、又はカルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の証拠を示すこと(例えば、骨形成培地に曝露された場合;Jaiswal et al. 1997. J Cell Biochem 64: 295-312を参照されたい)。カルシウムの細胞内での蓄積、及びマトリクスタンパク質中への沈着は、例えば45Ca2+中で培養し、洗浄及び再培養し、そしてその後細胞内に存在する若しくは細胞外マトリクス中に沈着した放射活性を確定すること(米国特許第5,972,703号明細書)により、又はアリザリンレッドベースの石灰化アッセイ(例えば、Gregory et al. 2004. Analytical Biochemistry 329: 77-84を参照されたい)を用いて、従来のように測定することができる;
d)細胞が、脂肪細胞系列(例えば脂肪細胞)又は軟骨細胞系列(例えば軟骨細胞)の細胞のいずれか一方に、好ましくはいずれにも実質的に分化しないこと。これらの細胞系列へ分化しないことは、当該技術分野で確立されている標準的な分化誘導条件(例えばPittenger et al. 1999. Science 284: 143-7を参照されたい)と、アッセイ方法(例えば誘導された場合、脂肪細胞は典型的には脂質蓄積を示すオイルレッドOで染色され、軟骨細胞は典型的にはアルシアンブルー又はサフラニンOで染色される)とを使用して試験することができる。脂肪生成分化及び/又は軟骨形成分化への傾向を実質的に欠くとは、典型的には、試験した細胞の50%未満、又は30%未満、又は5%未満、又は1%未満が、それぞれの試験に適用したときに、脂肪生成分化又は軟骨形成分化の徴候を示すことを意味し得る。
【0071】
一実施形態では、骨形成性細胞は、上記a)、c)及びd)で挙げた全ての特性を示し得る。
【0072】
本明細書で開示されるような単離MSC細胞若しくは骨形成性細胞を含むか、又は上記細胞型の両方を含む任意の細胞集団がさらに意図される。本明細書で開示されるような上記MSC細胞若しくは骨形成性細胞は、又は上記細胞型の両方を一緒にして、このような細胞集団中に存在する細胞の少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%、例えば少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、例えば少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、例えば少なくとも50%、又は非常に好ましくは少なくとも60%、例えば少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は最大で100%を構成し得る。
【0073】
好ましくは、本明細書で開示されるようなMSC細胞又は骨形成性細胞、又はそれらを含む細胞集団は、動物起源、より好ましくは非ヒト哺乳動物起源又はヒト起源、さらにより好ましくはヒト起源である。
【0074】
少なくとも1つの間葉系マーカー及びCD34、並びに任意で、本明細書で開示されるような任意の付加的な対象のマーカーを共発現するMSC細胞は、それ自体が既知の方法によって得ることができる。
【0075】
例えば、従来の方法によって、被験体の生体試料からMSC又はBMSC細胞を単離し、任意で増加させることが可能である。
【0076】
本明細書中で使用される場合、「生体試料」又は「試料」という用語は概して、生物源、例えば個体、器官、組織又は細胞培養物等から得られる試料を表す。非ヒト哺乳動物被験体又はヒト被験体等の動物被験体の生体試料は、上記被験体から取り出され、その細胞を含む試料を表す。被験体の生体試料を得る方法は、例えば組織生検又は血液若しくは骨髄採取のように、当該技術分野で既知である。被験体の有用な試料は、そのMSC又はBMSC細胞を含む。このような試料は、典型的には、被験体の骨髄から、例えば腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨又は他の髄空間から得ることができる。MSCを含むさらに有用な生体試料は、例えば被験体の血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢、皮膚、骨膜又は脂肪組織から得ることができる。
【0077】
MSC又はBMSCを、基板表面、特に組織培養プラスチック表面に接着することができる細胞から選択し、培養することによって、骨髄又は他の供給源から単離し、増加させることができることが記載されている。この原理に基づくプロトコルは、非特許文献1及び本明細書の他の部分で言及した関連の特許文献に詳述されており、Alhadlaq & Mao 2004(Stem Cells Dev 13:436-48)において概説されている。これらのプロトコルは本明細書に適用可能である。
【0078】
所望のマーカータンパク質を共発現する細胞を、単離して任意で増加させたMSC又はBMSC細胞の母集団から、それ自体が既知の方法、例えば蛍光活性化細胞選別(FACS)、磁気活性化細胞選別(MACS)、又は親和性ベースの技術、とりわけ親和性クロマトグラフィー等を用いて選択、富化又は単離することができる。所望の発現プロファイルを有する生細胞を、それぞれのマーカーに特異的な試薬(最も一般的には免疫学的試薬、例えばモノクローナル抗体等)に結合させるが、上記試薬は、例えば上記試薬によって結合されている細胞を、そのように結合されていない細胞から選択又は捕捉するのを促進するために、(例えば、フルオロフォアによって、又は磁性粒子若しくは別の種類の固定相への固定化によって)修飾されている。
【0079】
これらの方法に関する一般的な指針については、とりわけ、Flow Cytometry and Cell Sorting, 2nd ed., by Andreas Radbruch (ed.),Springer 1999(ISBN 3540656308)、In Living Color: Protocolsin Flow Cytometry and Cell Sorting, 1st ed., by RA Diamond and S Demaggio(eds.), Springer 2000(ISBN 3540651497)、Flow CytometryProtocols (Methods in Molecular Biology), 2nd ed., by TS Hawley and RG Hawley(eds.), Humana Press 2004(ISBN 1588292355)、AffinitySeparations: A Practical Approach, P Matejtschuk (ed.), Oxford UniversityPress, 1997(ISBN 0199635501)、及びDainiak et al. 2007. AdvBiochem Eng Biotechnol 106: 1-18を参照されたい。
【0080】
本発明者らはまた、MSC細胞又は骨形成性細胞のin vitro増加、特に少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する、本明細書で規定されるような単離MSC細胞又は骨形成性細胞のin vitro増加に対して有利な条件を実現したが、これは比較的不均一性の高いMSC又は骨形成性細胞集団から、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現するMSC細胞又は骨形成性細胞を富化するのにも適している可能性がある。
【0081】
「富化する」という用語は、この文脈で使用される場合、細胞集団における所望の細胞型又は細胞表現型の相対的割合を増大させることを表す。例えば、上記CD34陽性MSC細胞又は骨形成性細胞は、富化を受ける出発細胞集団から、得られる細胞集団中に存在する細胞の少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%、例えば少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、例えば少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、例えば少なくとも50%、又は非常に好ましくは少なくとも60%、例えば少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は最大で100%にまで富化され得る。MSC細胞若しくはMSC細胞集団、又は骨形成性細胞若しくは骨形成性細胞集団を、造血成長因子、又は血管新生成長因子、又は造血成長因子及び血管新生成長因子の組み合わせに曝露するが、後者の組み合わせは細胞増加又は富化に対して相乗効果を達成する。造血成長因子及び血管新生成長因子は、同時に又は任意の順序で順次に、好ましくは同時に細胞と接触させることができる。有利には、細胞をFGF−2に曝露、好ましくは同時に曝露して、その増加及び/又は富化をさらに向上させてもよい。
【0082】
一実施形態では、造血成長因子は、コロニー刺激因子2(CSF2)、CSF3、マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球単球CSF(GM−CSF)、IFN−γを含むインターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)、及び造血活性のあるサイトカイン、例えばとりわけインターロイキン2(IL2)を含むか、又はこれらから成る群から選択される。より好ましくは、造血成長因子は、GM−CSF及びIFN−γから選択され、さらにより好ましくはIFN−γであり得る。一実施形態では、血管新生成長因子は、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF1又はVEGF2)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF)、アンジオポエチン2、線維芽細胞成長因子(FGF−1、FGF−3又は他のFGF因子)、及びエリスロポエチン(EPO)を含むか、又はこれらから成る群から選択される。より好ましくは、血管新生成長因子は、PDGF、FGF−1及びFGF−3、さらにより好ましくはPDGF及びFGF−3から選択され、さらにより好ましくはPDGFであり得る。
【0083】
「曝露する」という用語は、本明細書中で使用される場合、1つ又は複数の分子、成分又は材料と別の分子、成分又は材料とを直接的又は間接的に一緒にすること、すなわち接触させ、それによってそれらの間の相互作用を促進することを意味する。典型的には、成長因子(複数可)を、細胞を培養している培地に加えることによって、上記細胞と接触させることができる。本明細書で適用可能な培地、消耗品、及び細胞培養の条件は概して、当該技術分野、例えばMSC、BMSC及び骨形成性細胞を増殖及び分化させる技術分野において知られている。
【0084】
骨形成性細胞は、当該技術分野で既知のように単離MSC細胞から分化させることによって得ることができる。一例では、単離MSC細胞を血清又は血漿、及び塩基性線維芽細胞成長因子(FGF−2)の存在下で培養する、国際公開第2007/093431号パンフレットの方法を使用することができる。別の例では、骨形成系列細胞は、非特許文献1及びJaiswal et al. 1997(上掲)によって記載されるように、MSC細胞を骨形成培地中で分化させることによって得ることができる。任意で、従来の骨形成培地にFGF−2を添加してもよい。骨形成性細胞はまた、Skjodt et al. 1985(J Endocrinol 105: 391-6)によって記載されるように、骨梁から直接単離して培養してもよい。
【0085】
一実施形態では、骨形成性細胞は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する単離MSC細胞から分化させることができる。このような場合、そのように得られた骨形成性細胞集団を、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞に関して富化することができる。別の例では、骨形成性細胞は、少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する細胞に関して富化されていないMSC細胞から得てもよく、又は被験体から直接単離してもよい。このような場合、そのように得られた骨形成性細胞集団は概して、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞に関して富化されていない。
【0086】
これらの状況のどれにおいても、MSC細胞に関して上記で記載されるような手法(例えばFACS、MACS又は親和性ベースの技術等)を同様に用いて、比較的不均一性の高い骨細胞集団から、上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞を選択、富化又は単離することができる。上記少なくとも1つの間葉系マーカーとCD34とを共発現する骨形成性細胞は、本明細書中で教示されるような造血成長因子及び/又は血管新生成長因子を用いて富化することもできる。
【0087】
本発明の様々な態様との関連において、「骨関連障害」という用語は、その治療が、障害を有する被験体への骨形成系列細胞又は骨形成性細胞、例えば骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨細胞の投与の利益を受け得る、任意の種類の骨疾患を表す。特に、このような障害は、例えば骨形成の減少、又は過剰な骨吸収により、骨中に存在する骨芽細胞又は骨細胞の数、生存度又は機能の減少、被験体中の骨量の減少、骨痩せ、骨の強度又は弾性の損失等により、特徴づけることができる。
【0088】
例えば限定するものではないが、該用語は、局所性又は全身性の障害、例えば任意の種類の骨粗鬆症又は骨減少症、例えば原発性、閉経後、老人性、コルチコイド誘発性、任意の二次性の、単一性骨壊死又は多部位性骨壊死、任意の種類の骨折、例えば非癒合、変形癒合、遅延癒合の骨折又は圧迫、骨融合(例えば脊髄融合及び再建)を必要とする病状、顎顔面骨折、例えば外傷性傷害又は癌外科手術後の骨再構築、頭蓋顔面骨再構築、骨形成不全症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症、低カルシウム血症、腎性骨異栄養症、骨軟化症、無形成骨症、関節リウマチ、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、歯周疾患、ゴーハム病(Gorham-Stout disease)並びにマクキューン・オールブライト症候群を包含する。
【0089】
本発明によって記載されるようなものを含むMSC、BMSC及び骨形成性細胞及び集団は、多岐にわたって、特に骨関連障害の研究、予防及び療法の分野で使用される。
【0090】
一態様では、細胞又は細胞集団は、in vitroで骨マトリクスを産生するために使用することができる。上記骨マトリクスは、骨関連疾患の治療において、例えば細胞若しくは細胞集団と併用して、又は併用せずに利用され得る。
【0091】
本発明の細胞又は細胞集団を被験体に導入することは、上記被験体における骨折及び骨関連障害の治療に有用であり得る。「被験体」又は「患者」という用語は、治療、観察又は実験の対象とした、好ましくは動物、より好ましくは温血動物、さらにより好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物、具体的にはヒト及び非ヒト哺乳動物を表す。「哺乳動物」という用語は、そのように分類されるいかなる動物をも含み、ヒト、家畜(domestic and farm animals)、動物園の動物、競技用動物、愛玩動物、伴侶動物及び実験動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、畜牛、乳牛、ヒツジ、ウマ、ブタ、並びに霊長類、例えばサル及び類人猿が挙げられるが、これらに限定されない。性別及び年齢層を問わず、ヒト被験体が特に好ましい。
【0092】
本発明の治療は、特に、それを必要とする被験体に対して行なわれるが、「それを必要とする被験体」という表現は骨折又は骨関連障害等の所与の病状の治療から利益を受け得る被験体を含む。このような被験体は、上記病状と診断された被験体、上記病状を発症しやすい被験体、及び/又は上記病状が予防されるべき被験体を含み得るが、これらに限定されない。
【0093】
「治療する」又は「治療」という用語は、既に発症した障害の治療的処置、例えば既に発症した骨関連障害の療法、及び予防的(prophylactic or preventative)措置の両方を包含し、骨関連障害の罹患及び進行の機会を予防する等のように、望ましくない苦痛が発生する機会を予防するか又は減らすことを目的とする。有益な又は所望の臨床結果は、1つ又は複数の症状、又は1つ又は複数の生物学的マーカーの軽減、疾患の範囲の縮小、安定した(すなわち悪化しない)疾患状態、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和等を含み得るが、これらに限定されない。「治療」は、治療を受けない場合の予想生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。
【0094】
「予防的に有効な量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって求められるような、被験体において障害の発症を阻止するか又は遅延させる活性化合物又は医薬品の量を表す。「治療的に有効な量」という用語は、本明細書中で使用される場合、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって求められる、被験体において生物学的反応又は薬理反応を誘発する活性化合物又は医薬品の量を表し、とりわけ治療中の疾患又は障害の症状の軽減を含み得る。治療的及び予防的に有効な用量を確定する方法は当該技術分野で既知である。
【0095】
治療は、自家性(すなわち、治療を受ける被験体に由来する細胞)、同種(すなわち、治療を受ける被験体以外であるが、同じ種に属する被験体(複数可)に由来する細胞)、又は異種(すなわち、治療を受ける被験体以外の種に属する被験体(複数可)に由来する細胞)の本明細書で規定されるようなMSC、BMSC又は骨形成性細胞又は細胞集団を利用し得る。
【0096】
特に、本明細書中で得られるようなヒト自家性又は同種MSC、BMSC又は骨形成性細胞又は細胞集団を用いたヒト被験体の治療が想定される。
【0097】
好適には、本明細書中で得られたMSC、BMSC又は骨形成性細胞及び細胞集団を、医薬組成物へと製剤化して、投与することができる。
【0098】
医薬組成物は典型的には、活性成分としての本発明のMSC、BMSC又は骨形成性細胞又は細胞集団、及び1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤を含む。本明細書中で使用される場合、「担体」又は「賦形剤」には、あらゆる溶媒、希釈剤、緩衝液(例えば中性緩衝食塩水又はリン酸緩衝食塩水)、可溶化剤、コロイド、分散媒、ビヒクル、増量剤、キレート剤(例えばEDTA又はグルタチオン)、アミノ酸(例えばグリシン等)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤(aromatisers)、増粘剤、デポー効果(depot effect)を達成するための薬剤、コーティング剤、抗真菌剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、吸収遅延剤等が含まれる。このような媒体及び薬剤の医薬品活性物質への使用は、当該技術分野で既知である。このような材料は無毒性でなくてはならず、細胞の活性を妨げるものであってはならない。
【0099】
担体又は賦形剤又は他の材料の正確な性質は、投与経路に応じて異なる。例えば、組成物は、発熱物質を含まず、かつ好適なpH、等張性及び安定性を有する、非経口で許容可能な水溶液の形態であり得る。薬用製剤の一般的な原理に関しては、Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and CellularImmunotherapy, by G. Morstyn & W. Sheridan eds., Cambridge UniversityPress, 1996、及びHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D.Ball, J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。
【0100】
このような医薬組成物は、その中での細胞の生存度を確保するためのさらなる成分を含有していてもよい。例えば、組成物は、望ましいpH、より通常は中性付近のpHを達成する好適な緩衝系(例えば、リン酸又は炭酸緩衝系)を含んでいてもよく、細胞に対する浸透圧ストレスを防ぐ等張条件を確保するための十分な塩を含んでいてもよい。例えば、これらの目的のための好適な溶液は、当該技術分野で既知の、リン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンガー液又は乳酸加リンガー液であり得る。さらに組成物は、細胞の生存度を増大させ得る担体タンパク質、例えばアルブミンを含んでいてもよい。
【0101】
医薬組成物は、骨の創傷及び欠損の修復に有用なさらなる成分を含み得る。例えば、このような成分は、限定するものではないが、骨形態発生タンパク質、骨マトリクス(例えば、本発明の細胞又は他の方法によってin vitroで産生された骨マトリクス)、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸、キトサン、ポリ−L−リジン及びコラーゲンを含み得る。例えば、骨芽細胞は、脱灰骨マトリクス(DBM)、又は複合体を骨形成性(それ自体で骨を形成する)及び骨誘導性にする他のマトリクスと組み合わせてもよい。自家性骨髄細胞と共に同種DBMを使用する同様の方法により、良好な結果が得られている(Connolly et al. 1995. Clin Orthop 313: 8-18)。
【0102】
医薬組成物は、補完的生物活性因子、例えば骨形態発生タンパク質、例えばBMP−2、BMP−7若しくはBMP−4、又は任意の他の成長因子を、さらに含んでいてもよいし、又はそれらと同時投与してもよい。他の考え得る共存成分は、骨再生を補助するのに好適なカルシウム又はリン酸塩の無機源を含む(国際公開第00/07639号パンフレット)。必要に応じて、細胞調製物を、担体マトリクス又は担体材料上で投与して、組織再生を向上させてもよい。例えば、材料は、粒状セラミック、又は生体高分子、例えばゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノーゲン若しくはオステオカルシンであり得る。多孔質マトリクスは、標準的な手法に従って合成することができる(例えば、Mikos et al., Biomaterials 14:323, 1993;Mikoset al., Polymer 35:1068, 1994;Cook et al., J. Biomed.Mater. Res. 35:513, 1997)。
【0103】
代替的に又は付加的に、本発明の細胞は、被験体の骨病変、例えば外科手術又は骨折の部位への導入の前に、対象となる核酸で安定的に又は一過性に形質転換することができる。対象となる核酸配列は、骨芽細胞の成長、分化及び/又は石灰化を増強する遺伝子産物をコードするものを含むがこれらに限定されない。例えば、BMP−2に関する発現系を、難治性骨折又は骨粗鬆症を治療する目的で、安定に又は一過性に導入することができる。細胞を形質転換する方法は、当業者に既知である。
【0104】
さらなる一態様では、本発明は、被験体に、例えば全身的に、局所的に、又は骨病変の部位に組成物を投与するための外科用器具を含み、かつ本発明の細胞若しくは細胞集団、又は上記細胞若しくは細胞集団を含む医薬組成物をさらに含む装置であって、例えば全身的な、局所的な、又は骨病変の部位での医薬組成物の投与に適している装置に関する。例えば、好適な外科用器具は、例えば全身的に、又は骨病変の部位に、本発明の細胞を含む液体組成物を注入することができるものであってもよい。
【0105】
細胞又は細胞集団は、目的の組織部位にそれらが移植され又は移動して、且つ機能が欠損した領域をそれらが再構成又は再生することができるように、投与してもよい。組成物の投与は、修復される筋骨格部位に応じて異なる。例えば、骨形成は、組織を再構築する、又は開裂、若しくは人工補装具、例えば人工股関節置換具を挿入する外科手順に従って促進することができる。他の状況では、侵襲的な外科手術は必要ではなく、組成物は、注入により、又は(例えば、脊柱の修復に)誘導型内視鏡を使用して、投与することができる。
【0106】
一実施形態では、上で規定した医薬細胞調製物は、液体組成物の形態で投与してもよい。複数の実施形態では、細胞、又は細胞を含む医薬組成物は、全身的に、局所的に、又は病変の部位で、投与してもよい。
【0107】
別の実施形態では、細胞又は細胞集団を、好適な基板に移して、及び/又は好適な基板上で培養して、移植部材を提供してもよい。細胞を適用及び培養することができる基板は、金属、例えばチタン、コバルト/クロム合金又はステンレス鋼、生物活性表面、例えばリン酸カルシウム、ポリマー表面、例えばポリエチレン等であり得る。あまり好ましくはないが、ケイ質材料、例えばガラスセラミックスも、基板として使用することができる。最も好ましくは、金属、例えばチタン、及び、リン酸カルシウムは基板の不可欠な成分ではないが、リン酸カルシウムである。基板は多孔質又は非多孔質であり得る。
【0108】
例えば、増殖した細胞、又は培養皿で分化させている細胞を、必要に応じて、本発明の液体栄養培地中で固体支持体をインキュベートすることにより、それらを増殖させ、及び/又は分化過程を継続させるために、三次元固体支持体上に移すことができる。細胞は、例えば、上記細胞を含有する液体懸濁液に上記支持体を含浸させることにより、三次元固体支持体上に移すことができる。このようにして得られた含浸支持体は、ヒト被験体に移植することができる。このような含浸支持体を、最終的に移植する前に、液体培養培地中に浸漬することにより、再培養することもできる。
【0109】
三次元固体支持体は、ヒトへのその移植を可能にするために、生体適合性を有することが必要である。三次元固体支持体は、任意の好適な形状、例えば円筒、球、平板、又は任意の形状の一部分のものであり得る。生体適合性を有する三次元固体支持体に好適な材料のうち、炭酸カルシウム、特にアラゴナイト、具体的にはサンゴ骨格の形態のアラゴナイト、アルミナ、ジルコニア、リン酸三カルシウムをベースとする多孔質セラミックス、及び/又はヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウムをヒドロキシアパタイトに変換することができる水熱交換により得られる擬似サンゴ骨格、又は他にはアパタイト−珪灰石ガラスセラミックス、生物活性ガラスセラミックス、例えばBioglass(商標)ガラスに特に言及することができる。
【0110】
上述の態様及び実施形態を、以下の非限定的な例によりさらに裏づける。
【実施例】
【0111】
実施例では、骨形成性及び血管新生促進性が向上した、高レベルのCD34(造血−血管新生(haemato-angiogenic)特性)及びCD105(間葉系特性)を共発現する間葉系間質細胞に由来する骨芽前駆細胞の新たな集団サブセットの単離を実証する。この集団は標準的に増加した間葉系間質細胞の1%未満を占めるにすぎない。しかしながら、この集団は、二重(dual)細胞選別によって及び/又は特別な条件下での培養によって最大で90倍まで首尾よく富化することができる。このような(例えば5%〜50%まで)富化したCD105/CD34+細胞集団は、有意に高い増殖可能性及び有意に高い骨再構築性を有するため、骨疾患の治療に関して非常に重要である。加えて、その血管新生(CD34+)性は、血管再生誘導及び骨再構築の組み合わせが好ましい場合に、治療利益を増大させる。
【0112】
実施例1
骨髄MSCの単離及び培養
100mlのヘパリン処置した骨髄(BM)を、患者の腸骨稜、又は健康なボランティアから得た。BMを、リン酸緩衝食塩水(PBS、2v:v)と混合し、密度勾配フィコール溶液上に重層した。遠心分離後、単核細胞を界面から回収し、PBS中で2回洗浄した。細胞を、20%血漿を添加し、任意でFGF−2を添加したDMEM培地中に再懸濁した。細胞を、1×10細胞/175cmでフラスコにプレーティングし(試験範囲1×10〜1×10)、5%COを含有する37℃加湿雰囲気中で維持した。細胞を1日〜4日間付着させた後、初期培地を交換し、続いて下記に定めた期間で培養した。
【0113】
CD34陽性細胞の単離
14日間の標準的な間葉培養(DMEM及び20%血漿)後、約1×10個の細胞を回収し、PBS中で維持した。次いで、全細胞集団を室温で1時間、APC標識抗CD34モノクローナル抗体で標識した。PBSによる洗浄工程の後、細胞を遠心分離によって沈降させ、1mlの脱気した(degasses)冷選別バッファー中に再懸濁した。
【0114】
細胞の精製を、Becton Dickinsonのイムノサイトメトリーシステム上で行った。細胞を680nmでの緑色蛍光パラメータを用いて選別した後、蛍光細胞を含有する液滴を滅菌微小遠心管(Fisher scientific)に収集し、遠心分離によって沈降させ、割り当てられた(appropriated)フラスコに即座に播種した。
【0115】
培養による富化
28日目に、37℃で1分間〜5分間トリプシン溶液を使用して、MSC細胞を剥がした。細胞を計数し、1×10細胞/175cmでプレーティングし、実施例中で定めた成長因子を用いて又は用いずに、同じ標準的な条件でさらに1週間培養した。
【0116】
表現型分析
免疫生物学的細胞表面マーカーをフローサイトメトリーにより分析した。細胞を以下の標識モノクローナル抗体:CD105、CD90及びCD73、並びにCD34と共に15分間インキュベートし、その後PBSで洗浄した後、遠心分離し、0.3mlのPBS中に再懸濁した。
【0117】
ALP染色
28日目又は35日目に、細胞をALP検出のために染色した。細胞をPBSで2回洗浄し、その後室温で30秒間、60%クエン酸緩衝アセトンで固定した後、再度蒸留水で45秒間すすいだ。次いで、細胞を室温、暗所で30分間、ファストブルーRR/ナフトールAS−MXフォスフェート溶液を用いて染色した。細胞を蒸留水で2分間洗浄した後、Mayerのヘマトキシリン溶液中で10分間対比染色した。最後に、細胞を蒸留水で3分間洗浄した。
【0118】
石灰化アッセイ
28日目又は35日目に、細胞をトリプシンと共にインキュベートすることによって培養物から回収し、60〜120000細胞/ウェルで、6ウェルプレートの増加培地にプレーティングした(12500細胞/cm)。翌日、培地を2.5mlの骨形成培地と交換した。細胞を2週間、3週間又は4週間培養した。培地は3日〜4日毎に交換した。2週間の培養後、細胞を、3.7%ホルムアルデヒド/PBS中で固定し、アリザリンレッドにより染色した。
【0119】
ネットワーク形成アッセイ
細胞集団が毛細血管様構造のネットワークを形成する能力を評価するために、マトリゲル管形成アッセイを行った。簡潔に述べると、24ウェル培養プレートを、1ウェル当たり10μl(3.5mg/ml)の純粋な成長因子低減マトリゲル(BD Matrigel Basement Membrane Matrix、BD Biosciences、Erembodegem-Aalst、Belgium)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってコーティングした後、37℃で30分間重合させた。合計で30×10細胞/ウェルをマトリゲル上に播種し、37℃で6時間インキュベートした。洗浄した後、倒立位相差顕微鏡を用いてネットワーク形成及び管形成を観察した。
【0120】
培地
デキサメタゾン希釈物:
Dex1(5×10−4M):2μlのデキサメタゾン原液(5×10−2M)+198μlのα−MEM
Dex2(10−6M):2μlのDex1(5×10−4M)+998μlのαMEM
骨形成培地(40ml)
容量 最終濃度
αMEM 31ml /
FCS 6ml 15%
PenStrepGlu(100×) 400μl 1×
デキサメタゾン(Dex2) 400μl 10−8
アスコルビン酸 200μl 50μg/ml
β−グリセロリン酸 2ml 10mM
【0121】
実施例2
細胞表現型
実施例1(「骨髄MSCの単離及び培養」)で説明したように得られ、細胞選別又は成長因子刺激を行っていないMSC細胞集団は、その間葉系起源と一致して、高レベルの間葉系マーカー(CD90、CD105及びCD73)を発現した。造血CD34表面分子は低レベル(通常、全集団の5%〜15%)で発現された。細胞の骨分化能(bone potential)を表すALPマーカーも高度に発現された(表1及び表2)。CD34+細胞の3分の1がCD90+でもあった(図1−低レベル及び高レベルのCD90/CD34+発現)。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
実施例3
CD34陽性細胞の単離
実施例1(「骨髄MSCの単離及び培養」)で説明したように行った、細胞選別前の第1の増加工程の終了時に、MSC細胞をフラスコから回収した。CD90/CD34+集団を単離するために、フローサイトメトリー選別による陽性選択の方法を用いた。細胞をまず、特異的APC結合抗CD34抗体溶液で染色した。次いで、細胞集団をBecton Dickinsonの蛍光活性化細胞選別装置に注入し、CD34標識細胞を集団から単離した。CD34+細胞を次に、リン酸緩衝食塩溶液中に収集した。
【0125】
細胞の一定分量を分析して、純度を確認した。1×10個の初期細胞から平均で約50×10個の細胞を選別したが、その15%〜90%がCD90/CD34+骨芽前駆細胞であった。これは10倍〜30倍の富化に相当する。これらの細胞を同じ条件下でさらに培養した。
【0126】
実施例4
増加方法
実施例3で説明したように得られた単離CD34+細胞を、1週間の培養プロトコルで増加させた。単離画分のうち約70%〜75%が精製工程まで生存した。これらの細胞を、成長因子及びサイトカインを添加した、血漿を含有する標準培地中でインキュベートした。代替的に、選別していない細胞を同様に培養することができた。選別の有無にかかわらず同様の結果が得られた。
【0127】
単独の又は組み合わせた造血因子(例えばCSF2、CSF3、M−CSF、GM−CSF、IFN、TNF、又はIL2等のサイトカイン)と共にインキュベートした細胞は、標準的な条件で成長させた細胞と同じ収率で成長させることが可能であった。しかしながら、単独の又は組み合わせた血管新生因子(例えばFLT1、PDGF、VEGF、vWF、アンジオポエチン2、FGF−1、FGF−3及びEPO)と共にインキュベートした細胞の収率は、標準的な条件で得られる収率よりも平均で25%高かった。より興味深いことに、造血因子及び血管新生因子両方の組み合わせは、50%近くという最も高い増加収率の増大をもたすことが可能であった。これは、この組み合わせの相乗効果を示唆している。
【0128】
骨形成培地中でインキュベートした細胞を対照として使用したが、これはCD90/CD34+初期集団の中程度の増加率を示す。
【0129】
例えば、FGF−2の存在下で造血因子GM−CSFと共にインキュベートした細胞は、その収率をGM−CSF又はFGF−2単独と比べて大幅に増大させた(表3)。
【0130】
【表3】

【0131】
さらに、1週間の培養後のCD90/CD34+細胞の形態は、初期骨形成性細胞と同じ紡錘状であった(図2)。
【0132】
これらの骨芽前駆細胞は、(培養期間中)常に接着したままであり、このことはこの新たな集団が循環することはなく、したがって循環骨芽細胞系列(例えば、Eghbali-Fatourechi et al. 2007. Bone 40: 1370-7の骨芽細胞)とは区別されることを示唆する。
【0133】
これらの細胞の増加終了時の表面マーカープロファイルを、標準的な培養条件で分析した。CD34マーカーは高レベルで維持されたが、他の間葉系マーカー又は骨特異的マーカーは変化しなかった。これにより、骨形成特性(ALP)及び造血特性(CD34陽性)の両方を併せ持つ新たな集団の発見が支持される(表4及び図3)。
【0134】
【表4】

【0135】
実施例5
骨再構築性
この(GM−CSF及びFGF−2の組み合わせの存在下で実施例3において得られるような)新たな集団の生物学的性質を、ALP産生(ALP染色)、並びに新たな骨マトリクスを形成及び石灰化するその能力を測定することによって評価した。CD34+細胞は、相当量の骨マトリクスを産生し(最大値2のスコアで2)、ALP染色処置に対して有意に陽性であり(最大値2のスコアで2)、この細胞集団に高い骨再構築可能性があったことが示唆される(図4)。比較としては、標準的なMSC培養物の骨マトリクススコアは1〜1.5であり、ALP染色スコアは1.5である。
【0136】
興味深いことに、集団中のCD34+細胞の%が高いほど、石灰化能力も高くなることが示された(図5)。
【0137】
実施例6
MSC及び骨形成性細胞の増加、富化及びその性質
造血成長因子及び/又は血管新生成長因子の存在下での増殖(表5)
細胞に対し、実施例1(「培養による富化」)で説明したような富化プロトコルを行った。
【0138】
表5(n=3)に示されるように、FGF−2(2ng/ml)は、対照条件(FBS15%)と比較して、特異的骨形成性細胞集団の増殖及び増加を誘導した。本発明者らのデータによって、FGF−2の存在下で、GM−CSF(10ng/ml)又はIFN−γ(10ng/ml)のいずれかを用いると、この骨形成性細胞集団の生成及び/又は増殖が得られ及び/又は維持され、FGF−1(2ng/ml)、FGF−3(2ng/ml)又はPDGF(1ng/ml)の血管新生成長因子を用いると有意に増大することがさらに明らかになった。
【0139】
【表5】

【0140】
表現型特性化(表6)
増加させた骨形成性細胞のフローサイトメトリー分析(n=3)によって、この選択された細胞集団が、CD34をCD105、CD73及びCD90等の典型的な間葉系細胞マーカーと共に発現するが、CD45、CD133及びCD31抗原等の造血細胞表面マーカー及び内皮細胞表面マーカーを欠くという特異的な表現型プロファイルを示したことが実証された。
【0141】
【表6】

【0142】
骨形成性(表7、図6)
増加させた骨形成性細胞集団のフローサイトメトリー分析及びALP染色によって、これらの細胞が強い骨形成性を示すことが示された(n=3)。さらに、興味深いことに、IFN−γがALP発現及び染色の両方を選択的かつ大幅に増大させ、それにより細胞の骨形成特性を向上させることが示された。
【0143】
【表7】

【0144】
血管新生促進性及び毛細血管様構造形成可能性(表7、図7)
増加させた骨形成性細胞のフローサイトメトリー分析によって、vWF及びVEGF分子発現の上方制御が実証された(n=3)。さらに、図7に示すように(n=1)、本発明者らのデータによって、この骨形成性細胞集団がマトリゲルモデルにおいて分岐した新生血管構造及び偽管へと分化及び組織化可能であることが示された。加えて、IFN−γがこのネットワーク形成を、対照(及び他の造血因子及び/又は血管新生因子)と比較して明らかに向上させることが示された。これらのin vitroでの結果は、IFN−γ及び増加させた骨形成性細胞集団の両方が、管形成及び毛細血管様構造の発生を促進する能力(血管新生促進効果)を有することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCD105とCD34とを共発現することを特徴とする単離間葉系幹細胞(MSC)。
【請求項2】
CD105、CD90、CD73及びCD34を共発現する、請求項1に記載の単離MSC細胞。
【請求項3】
少なくともCD105とCD34とを共発現するMSC細胞を得る方法であって、MSC細胞集団から、少なくともCD105とCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化することを含む、方法。
【請求項4】
(a)被験体の試料からMSC細胞を単離すること、
(b)任意で、該(a)のMSC細胞を富化する及び/又は増加させること、並びに
(c)該(a)又は(b)のMSC細胞から、少なくともCD105とCD34とを共発現する細胞のサブセットを富化することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
MSC細胞、好ましくは請求項1又は2に記載のMSC細胞をin vitroで増加させる方法であって、前記MSC細胞を、1つ若しくは複数の造血成長因子、又は1つ若しくは複数の血管新生成長因子、又は1つ若しくは複数の造血成長因子及び1つ若しくは複数の血管新生成長因子に曝露することを含み、任意で、好ましくは前記MSC細胞をFGF−2に曝露することをさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1又は2に規定されるMSC細胞をMSC集団からin vitroで得る、及び/又は請求項1又は2に規定されるMSC細胞に関してMSC集団を富化する方法であって、前記MSC集団を、1つ若しくは複数の造血成長因子、又は1つ若しくは複数の血管新生成長因子、又は1つ若しくは複数の造血成長因子及び1つ若しくは複数の血管新生成長因子に曝露することを含み、任意で、好ましくは前記MSC細胞をFGF−2に曝露することをさらに含む、方法。
【請求項7】
造血成長因子がコロニー刺激因子2(CSF2)、CSF3、マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球単球CSF(GM−CSF)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)及び造血活性のあるサイトカインを含む群から選択され、且つ血管新生成長因子が血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、アンジオポエチン1又は2、線維芽細胞成長因子及びエリスロポエチン(EPO)を含む群から選択される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
造血成長因子がGM−CSF又はIFN−γ、より好ましくはIFN−γであり、且つ血管新生成長因子がPDGF、FGF−1又はFGF−3、より好ましくはPDGF又はFGF−3である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法によって得ることができるMSC細胞。
【請求項10】
請求項1、2又は9に記載のMSC細胞を、in vitroで骨形成性細胞に分化させることによって得ることができる骨形成性細胞。
【請求項11】
CD105とCD34とを共発現することを特徴とする単離骨形成性細胞。
【請求項12】
CD105、CD90、CD73及びCD34を共発現する、請求項11に記載の単離骨形成性細胞。
【請求項13】
骨形成性細胞、好ましくは請求項10〜12のいずれか1項に記載の骨形成性細胞をin vitroで増加させる方法であって、前記骨形成性細胞を、1つ若しくは複数の造血成長因子、又は1つ若しくは複数の血管新生成長因子、又は1つ若しくは複数の造血成長因子及び1つ若しくは複数の血管新生成長因子に曝露することを含み、任意で、好ましくは前記骨形成性細胞をFGF−2に曝露することをさらに含む、方法。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか1項に規定される骨形成性細胞を骨形成性細胞集団からin vitroで得る、及び/又は請求項10〜12のいずれか1項に規定される骨形成性細胞に関して骨形成性細胞集団を富化する方法であって、前記骨形成性細胞集団を、1つ若しくは複数の造血成長因子、又は1つ若しくは複数の血管新生成長因子、又は1つ若しくは複数の造血成長因子及び1つ若しくは複数の血管新生成長因子に曝露することを含み、任意で、好ましくは前記骨形成性細胞をFGF−2に曝露することをさらに含む、方法。
【請求項15】
造血成長因子がコロニー刺激因子2(CSF2)、CSF3、マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球単球CSF(GM−CSF)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)及び造血活性のあるサイトカインを含む群から選択され、且つ血管新生成長因子が血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、アンジオポエチン1又は2、線維芽細胞成長因子及びエリスロポエチン(EPO)を含む群から選択される、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
造血成長因子がGM−CSF又はIFN−γ、より好ましくはIFN−γであり、且つ血管新生成長因子がPDGF、FGF−1又はFGF−3、より好ましくはPDGF又はFGF−3である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる骨形成性細胞。
【請求項18】
骨形成性及び血管新生促進性の両方を示す、請求項1、2若しくは9に記載のMSC細胞、又は請求項10〜12若しくは17のいずれか1項に記載の骨形成性細胞。
【請求項19】
ヒト起源である、請求項1、2、9若しくは18に記載のMSC細胞、又は請求項10〜12、17若しくは18のいずれか1項に記載の骨形成性細胞。
【請求項20】
請求項1、2、9、18若しくは19に記載のMSC細胞、及び/又は請求項10〜12、17〜19のいずれか1項に記載の骨形成性細胞を含む細胞集団。
【請求項21】
骨関連障害の治療に使用される、請求項1、2、9、18若しくは19に記載のMSC細胞、及び/又は請求項10〜12、17〜19のいずれか1項に記載の骨形成性細胞、又は請求項20に記載の細胞集団。
【請求項22】
請求項1、2、9、18若しくは19に記載のMSC細胞、及び/又は請求項10〜12、17〜19のいずれか1項に記載の骨形成性細胞、又は請求項20に記載の細胞集団、並びに1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項21に記載の医薬品製剤を調製する方法であって、請求項1、2、9、18若しくは19に記載のMSC細胞、及び/又は請求項10〜12、17〜19のいずれか1項に記載の骨形成性細胞、又は請求項20に記載の細胞集団を、1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤と混合することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−520434(P2011−520434A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507925(P2011−507925)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055549
【国際公開番号】WO2009/135905
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510172826)
【Fターム(参考)】