説明

新規アルドラーゼ及び4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの製造方法

新規アルドラーゼについて記載する。4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの合成における中間体として有用である4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸は、アースロバクター属に由来する新規アルドラーゼを用いて、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸から合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物産業、詳しくは新規アルドラーゼ及び4−ヒドロキシ−L−イソロイシン又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ヒドロキシ−L−イソロイシンは、フェヌグリーク種子(コロハ(Trigonella foenum-graecum L. leguminosae))から抽出及び精製することができるアミノ酸である。4−ヒドロキシ−L−イソロイシンは、単離灌流ラット膵臓及びヒト膵島の両方で実証されているように、その促進効果が培地中の血漿グルコース濃度に明白に依存することから非常に興味深いインスリン分泌活性を示す(Sauvaire, Y.他, Diabetes, 47: 206-210 (1998))。このようなグルコース依存性は、2型糖尿病(すなわち、インスリン非依存性糖尿病(NIDD)、インスリン非依存性真性糖尿病(NIDDM))の治療に現在用いられている唯一のインスリン分泌活性剤であるスルホニル尿素(Drucker, D. J., Diabetes
47: 159-169(1998))では確認されていない。その結果、低血糖症が、スルホニル尿素治療の依然として一般的に望ましくない副作用である(Jackson, J.及びBessler, R. Drugs, 22: 211-245; 295-320(1981)、Jennings, A.他, Diabetes Care, 12: 203-208(1989))。また、耐糖能の改善方法が知られている(Am. J. Physiol. Endocrinol., Vol. 287, E463-E471, 2004)。また、この糖代謝増強活性と医薬品及び健康食品への適用可能性とが報告されている(特開平6−157302号公報)。
【0003】
植物でのみ発見されている4−ヒドロキシ−L−イソロイシンは、その特別なインスリン分泌作用のために、2型糖尿病の治療に対する新規の分泌促進剤であると考えられ得る。これは、2型糖尿病が様々な程度のインスリン耐性に関連するインスリン分泌不全を特徴とするためである(Broca, C.他, Am. J. Physiol. 277 (Endocrinol. Metab. 40): E617-E623, (1999))。
【0004】
フェヌグリーク抽出液中のジオキシゲナーゼ活性を利用することによる、鉄、アスコルビン酸、2−オキソグルタル酸、酸素依存性イソロイシンの水酸化法が4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの製造方法として報告されている(Phytochemistry, Vol. 44, No. 4, pp. 563-566, 1997)。しかし、この方法は、20mM以上のイソロイシン濃度で酵素活性が基質によって阻害されること、この酵素が同定されておらず、この酵素が植物の抽出液から誘導され、大量に得ることが容易ではないこと、またこの酵素が不安定であることから、4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの製造方法としては不十分である。
【0005】
全体的な収率が39%である光学的に純粋な(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシイソロイシンの効率的な8工程の合成が開示されている。この合成の重要な工程は、ゲオトリクム・カンジダム(Geotrichum candidum)を用いた2−メチルアセト酢酸エチルの(2S,3S)−2−メチル−3−ヒドロキシ酪酸エチルへの生物変換、及び不斉ストレッカー合成を伴う(Wang, Q.他, Eur. J. Org. Chem., 834-839(2002))。
【0006】
最終工程がEupergit C(E−PAC)上に固定化された市販のペニシリンアシラーゼGを用いた、N−フェニルアセチルラクトン誘導体の加水分解による酵素的分割法である、立体化学的に全体を制御した(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシイソロイシンの短い6工程の化学酵素的合成も開示されている(Rolland-Fulcrand, V.他, J. Org. Chem., 873-877(2004))。
【0007】
しかし、現在、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の酵素的アミノ基
転移によって、又は任意の他の出発材料からの任意の他の酵素的変換によって4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを生産したという報告はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の課題を考慮して行われた広範な研究の結果、本発明者らは、好ましくは4−ヒドロキシ−L−イソロイシン(その遊離形態及び塩形態、「4HIL」と呼ぶこともある、以下同様)の所望の前駆体の合成に用いることができるアルドラーゼを発見した。この前駆体は、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(その遊離形態及び塩形態、「HMKP」と呼ぶこともある、以下同様)であり、或る特定の微生物種に存在する。4−ヒドロキシ−L−イソロイシンが、アルドラーゼ酵素をアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼと組み合わせることによって生産されることも見出し、これにより本発明を完成させた。
【0009】
本発明の目的は、新規のアルドラーゼ、及びアルドラーゼをコードするDNA、並びにアルドラーゼを用いて4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを生産する方法を提供することを含む。上記の目的は、本発明の新規のアルドラーゼを発見することによって達成された。
【0010】
したがって、本発明の目的は、
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含するアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、および
(e)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
からなる群から選択されるDNAを提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、上記のDNAとベクターDNAとを含む組み換えDNAを提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、上記の組み換えDNAで形質転換された単離細胞を提供することである。
【0013】
本発明のまたさらなる目的は、培地中で細胞を培養すること、及び培地、細胞又はその両方においてアルドラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを含む、アルドラーゼ活性を有するタンパク質を製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、
(f)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(g)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含するアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、および
(h)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択されるタンパク質を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、以下の性質を有するタンパク質を提供することである
(A)アセトアルデヒドとα−ケト酪酸からの4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の生成を触媒する活性を有する、
(B)該活性がZn2+、Mn2+、及びMg2+からなる群から選択される二価カチオンに依存する、
(C)ゲル濾過によって測定される分子量が約186kDa、
(D)SDS−PAGEによって測定される1サブユニット当たりの分子量が27kDa。
【0016】
本発明の別の目的は、
(1)水性溶媒中で、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基2の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、および
(c)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択される少なくとも1つのアルドラーゼの存在下で、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸を反応させること、
(2)生成した4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸を4−ヒドロキシ−L−イソロイシンに変換させること、並びに
(3)生成した4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを単離すること
を含む、4−ヒドロキシ−L−イソロイシン又はその塩を製造する方法を提供する。
【0017】
本発明の目的は、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸が、アミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼによって4−ヒドロキシ−L−イソロイシンに変換され、このアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼがアミノ基供与体の存在下でアミノ基転移活性を有する、上記の方法を提供することである。
【0018】
本発明の目的は、
(1)水性溶媒中で、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含するアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、および
(c)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択されるアルドラーゼを含有する細菌の存在下で、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸を反応させる工程であって、この水性溶媒がアミノ基供与体の存在下で、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の4−ヒドロキシ−L−イソロイシンへの変換を触媒するアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲーゼも含有する、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸を反応させる工程、及び
(2)生成した4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを単離する工程
を含む、4−ヒドロキシ−L−イソロイシン又はその塩を製造する方法を提供することである。
【0019】
本発明の目的は、アミノトランスフェラーゼが、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼである、前記方法を提供することである。
【0020】
本発明の目的は、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが、エシェリヒア及びバチ
ルスからなる群から選択される細菌に由来する、前記方法を提供することである。
【0021】
本発明の目的は、アミノ基供与体がL−アミノ酸群から選択される、前記方法を提供することである。
【0022】
本発明の目的は、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが、エシェリヒア及びバチルスからなる群から選択される細菌に由来する、前記方法を提供することである。
【0023】
本発明の目的は、細菌がアルドラーゼ及び分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの少なくとも1つの活性を高めるように修飾された、前記方法を提供することである。
【0024】
本発明の目的は、アルドラーゼ及び分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの活性が、アルドラーゼ及び/又は分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの発現を増大させることによって高められた、前記方法を提供することである。
【0025】
本発明の目的は、アルドラーゼ及び/又は分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの発現が、アルドラーゼ及び/又は分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現調節配列を改変すること、又はアルドラーゼ及び/又は分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のコピー数を増加させることによって増大した、前記方法を提供することである。
【0026】
本発明の目的は、細菌がエシェリヒア属、シュードモナス属、コリネバクテリウム属、アースロバクター属、アスペルギルス属又はバチルス属に属する、前記方法を提供することである。
【0027】
本発明の目的は、細菌がエシェリヒア・コリ、アースロバクター・シンプレックス、コリネバクテリウム・グルタミカム、アースロバクター・グロビフォルミス、アースロバクター・スルフレウス、アースロバクター・ビスコーサス、又はバチルス・ズブチリスに属する、前記方法を提供することである。
【0028】
本発明の目的は、細菌が細菌培養物、細胞、又は処理細胞である、前記方法を提供することである。
【0029】
本発明の目的は、4−ヒドロキシ−L−イソロイシンが、(2S,3S,4S)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3R,4R)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3S,4R)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシイソロイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本明細書では、「4−ヒドロキシ−L−イソロイシン」又は「4HIL」という用語は、(2S,3S,4S)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3R,4R)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3S,4R)−4−ヒドロキシ−イソロイシン、及び/又は(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシイソロイシンの単一の化合物若しくはジアステレオマー混合物、又はそれらの任意の組み合わせを表す。
【0031】
本明細書で使用される「細菌」という用語は、酵素生成細菌、酵素活性が存在するか、又は高められているその細菌の突然変異体及び遺伝子組み換え体等を含む。
【0032】
以下で、添付の図面を参照して、[I]アルドラーゼ、[II]本発明のアルドラーゼ
を用いた4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの製造方法について詳細に説明する。
【0033】
[I]アルドラーゼ
本発明者らによる研究によれば、アースロバクター属において細菌株が4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸を形成する能力を有するアルドラーゼを含有することが確認された。
【0034】
本発明者らは、アースロバクター・シンプレックスが、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸をアセトアルデヒド及びα−ケト酪酸(遊離形態でも塩でもよい、以下同様)から生成する反応を触媒することができるアルドラーゼ活性を有していることを見出した。本発明者らは、培養した微生物細胞から新規のアルドラーゼを精製及び単離した。
【0035】
さらに、本発明者らは、アースロバクター・シンプレックスAKU626株(NBRC12069)(以下asiHPALと略記する)から天然アルドラーゼを精製することによって、アルドラーゼのアミノ酸配列を決定した。さらに、本発明者らは、このアルドラーゼのアミノ酸配列から推測された約30塩基対のDNA分子を合成し、このDNA分子を用いて、PCRによって、asiHPALをコードする全長DNAを単離して得た。
【0036】
asiHPALをコードするDNAは配列番号1で示される。さらに、配列番号1の塩基配列によってコードされたasiHPALのアミノ酸配列は配列番号2で示される。配列番号2は、配列番号1の塩基配列によってコードされたasiHPALのアミノ酸配列である。配列番号2のasiHPALはアルドラーゼ活性を有し、以下の式(II)で示される4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(HMKP)が、1分子のアセトアルデヒドと1分子のα−ケト酪酸とから合成される反応を触媒する。
【0037】
【化1】

【0038】
次に、(1)アルドラーゼをコードするDNA、(2)アルドラーゼの特性、及び(3)アルドラーゼ生成プロセスをこの順に詳細に説明する。
【0039】
(1)アルドラーゼをコードするDNA
配列番号1の塩基配列を有する本発明のアルドラーゼ遺伝子は、実施例の項で記載されるように、アースロバクター・シンプレックスAKU626株(NBRC12069)の染色体DNAから単離された。配列番号2のアミノ酸配列は、ブレビバクテリウム・リネンスBL2由来の既知のHHDE−アルドラーゼ(2,4−ジヒドロキシヘプト−2−エン−1,7−ジオン酸アルドラーゼ)(国立バイオテクノロジー情報センター(National
Center for Biotechnology Information)(NIH, Bethesda, MD 20894, USA)に2005年4月8日に提出された)と55%の相同性を示す(図7)。
【0040】
相同性は、「ベクターNTI」遺伝解析ソフトウェア(informax(登録商標), Invitrogen Life Science Software)を用いることによって算出された。
【0041】
以下で、アルドラーゼをコードするDNAをアルドラーゼ生成細菌から得る方法を説明する。
【0042】
最初に、精製アルドラーゼの部分アミノ酸配列を決定した。491cLCタンパク質シークエンサー(Applied Biosystems, USA)を用いるEdmanの自動分解法(Edman, P., Acta Chem. Scand. 4, 227(1950))によって、アースロバクター・シンプレックスAKU626株(NBRC12069)に由来するアルドラーゼの部分アミノ酸配列(配列番号3)を決定した。
【0043】
このアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は、アミノ酸配列に基づき推測することができる。一般(Universal)コドンを利用して、このDNAの塩基配列を推測する。
【0044】
それから、推測塩基配列に基づき、約30塩基対のDNA分子を合成した。DNA分子を合成するのに用いた方法は、Tetrahedron Letters, 22, 1859(1981)で開示されている。Applied Biosystems製の合成装置を用いてDNA分子を合成することができる。DNA分子をプローブとして用いて、アルドラーゼを生成する微生物の染色体DNAライブラリからアルドラーゼをコードする全長DNAを単離することができる。代替的に、DNAをプライマーとして用い、PCRによって、アルドラーゼをコードするDNAを増幅することもできる。しかし、PCRによって増幅したDNAはアルドラーゼの全長DNAを含有しないこともあるので、プローブとしてPCRによって増幅したDNAを用いてアルドラーゼを生成する微生物の染色体DNAライブラリから全長DNAが単離される。
【0045】
PCR手順は、White, T. J.他, Trends Genet. 5, 185(1989)等の刊行物に記載されている。染色体DNAの単離方法、及びプローブとしてDNA分子を用いて、所望のDNA分子を遺伝子ライブラリから単離する方法が、「Molecular Cloning第3版」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001))等の刊行物に記載されている。
【0046】
アルドラーゼをコードする単離DNAの塩基配列を決定する方法は、「A Practical Guide to Molecular Cloning」(John Wiley & Sons, Inc.(1985))に記載されている。さらに、塩基配列は、Applied Biosystems製のDNAシークエンサーを用いることによって決定することができる。アースロバクター・シンプレックスAKU626株(NBRC12069)由来のアルドラーゼをコードするDNAは配列番号1で示される。
【0047】
HMKPをアセトアルデヒド及びα−ケト酪酸から形成する反応を触媒するアルドラーゼをコードするDNAは、配列番号1で示されるDNAだけではない。これは、アースロバクター種間のそれぞれの種及び株由来の塩基配列に差異が存在し得るためである。
【0048】
したがって、本発明のDNAは、単離されたアルドラーゼをコードするDNAだけでなく、DNAが上記の反応を触媒することができるアルドラーゼをコードするかぎり、人工的に変異が導入されたアルドラーゼをコードするDNAも含む。突然変異を人工的に誘導する方法は、Method. in Enzymol., 154(1987)で記載されるような部位特異的な突然変異を導入する等の一般的に用いられる方法を含む。
【0049】
配列番号1の塩基配列と相補的であるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明のDNAに含まれる。本明細書で用いられるように、「ストリンジェントな条件」は、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリットは形成されない条件を表す。はっきりとした数値でこれらの条件を表すことは難しいが、例としては、例えば、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上及び特に好ましくは95%以上の相同性の高いDNA分子が互いにハイブリダイズし、相同性の低いDNA分子は
互いにハイブリダイズしない条件、又はサザンハイブリダイゼーションにおける通常の洗浄条件、すなわち37℃で0.1×SSC及び0.1%SDS、好ましくは60℃で0.1×SSC及び0.1%SDS、さらに好ましくは65℃で0.1×SSC及び0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイゼーションが起こる条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件によって、プローブの長さを好適に選択することができ、通常100bp〜1kbpである。さらに、「アルドラーゼ活性」は、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からのHMKPの合成活性を意味する。しかし、配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列は、37℃及びpH8の条件下で、アルドラーゼ活性を10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、及びさらに好ましくは70%以上維持するアルドラーゼタンパク質をコードする。
【0050】
さらに、配列番号1のDNAによってコードされるアルドラーゼと実質的に同一であるタンパク質をコードするDNAも、本発明のDNAに含まれる。すなわち、以下のDNAも本発明のDNAに含まれる:
(a)配列番号1の塩基配列を有するDNA、
(b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を保持するタンパク質をコードするDNA、並びに
(e)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性、及びさらに好ましくは少なくとも95%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0051】
本明細書で、「1又は数個」は、タンパク質の三次元構造又はアルドラーゼ活性が大きくは損なわれない範囲、より具体的には1〜78、好ましくは1〜52、より好ましくは1〜26、及びさらにより好ましくは1〜13、特に好ましくは1〜5の範囲を表す。
【0052】
1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位は、活性を維持できるような保存的変異である。代表的な保存的変異は保存的置換である。保存的置換の例としては、AlaのSer又はThrへの置換、ArgのGln、His又はLysへの置換、AsnのGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspのAsn、Glu又はGlnへの置換、CysのSer又はAlaへの置換、GlnのAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluのAsn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyのProへの置換、HisのAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleのLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuのIle、Met、Val又はPheへの置換、LysのAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetのIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheのTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerのThr又はAlaへの置換、ThrのSer又はAlaへの置換、TrpのPhe又はTyrへの置換、TyrのHis、Phe又はTrpへの置換、及びValのMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0053】
さらに、「アルドラーゼ活性」は、上記のようなアセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からのHMKPの合成を表す。しかし、アミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含する場合、このタンパク質は、37℃及びpH8の条件下でアルドラーゼ活性を、配列番号2のアミノ酸配
列を有するタンパク質の10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、及びさらに好ましくは70%以上維持することが望ましい。
【0054】
(2)アルドラーゼの特性
次に、アースロバクター・シンプレックスAKU626株(NBRC12069)(asiHPAL)由来の精製アルドラーゼの特性について説明する。
【0055】
本発明のasiHPALは、これまでに記載された遺伝子単離及び解析によって明らかなように、配列番号2のアミノ酸配列を有する。しかし、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含するアミノ酸配列を有し、且つアルドラーゼ活性も有するタンパク質も含む。
【0056】
すなわち、本発明のアルドラーゼは以下のタンパク質を含む:
(f)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(g)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を包含するアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、並びに
(h)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、より好ましくは少なくとも90%の相同性、さらに好ましくは少なくとも95%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質。
【0057】
本明細書で、「数個」及び「アルドラーゼ活性」の定義は(1)アルドラーゼをコードするDNAの項で定義されたものと同じである。
【0058】
本発明のアルドラーゼは、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からのアルドール縮合反応による4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(HMKP)の合成を触媒する。
【0059】
アルドラーゼ活性は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いることによる、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からのHMKP形成、又は続くHMKPからの4HILへの変換後の4HIL形成の検出によって測定することができる。
【0060】
本発明のアルドラーゼは、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からのアルドール縮合反応によってHMKPの合成を触媒することができる。基質として、2分子のα−ケト酸(又は置換α−ケト酸)を用いたアルドール縮合反応を触媒することができる2つの微生物酵素がこれまでに報告されている。この2つの微生物酵素は、エシェリヒア・コリ由来のMhpEアルドラーゼ(Appl. Environ. Microbiol., Vol. 64, No. 10, 4093-4094, 1998)及びSugiyama他(国際公開WO2004/018672号)によって報告されたアルドラーゼである。しかし、生成したHMKPの量は、1μM未満であることが報告され、この量は4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを生成するさらなるアミノ基転移プロセスで用いるのには十分な量ではない。したがって、産業上の利用可能性と共にHMKPの生成を記載している知見又は報告はなく、この酵素を用いてHMKPを合成することが可能であるか否かに関して完全には知られていない。すなわち、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸のアルドール縮合によるHMKP合成を触媒することができるという点で、本発明のアルドラーゼはこれまでに報告されているアルドラーゼとは異なる。
【0061】
次に、以下で精製asiHPALの酵素特性を記載する。
【0062】
asiHPALは、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からの以下の一般式(II):
【0063】
【化2】

【0064】
で表されるHMKPの形成を触媒する。このようにして、本発明のasiHPALを用いて、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からHMKPを生産するプロセスも本明細書に記載される。
【0065】
さらに、asiHPALの活性は、Zn2+、Mg2+及びMn2+イオンに強く依存し、EDTAの存在下で完全に阻害される。つまり、asiHPALは、2型アルドラーゼに属すると考えられる(表3を参照されたい)。
【0066】
asiHPALの分子量は、ゲル濾過で測定すると約186kDa、及びSDS−PAGEで測定すると約27kDaであるので、asiHPALは六量体構造を有すると考えられる。
【0067】
したがって、本発明は以下の特徴によって定義されるようなタンパク質も含む:
(A)アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からの4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の生成を触媒する活性を有し、
(B)この活性がZn2+、Mn2+及びMg2+を含む1つ又は複数の二価カチオンに依存しており、
(C)ゲル濾過で測定した分子量が約186kDaであり、SDS−PAGEで測定した1つのサブユニット当たりの分子量が約27kDaである。
【0068】
(3)アルドラーゼ生成プロセス
次に、本発明のアルドラーゼ生成プロセスを記載する。本発明のアルドラーゼを生成するのに2つの方法が存在する:(i)アルドラーゼ生成微生物を培養してアルドラーゼを生成すること、及び(ii)組み換えDNA技術によって形質転換体を調製し、この形質転換体を培養してアルドラーゼを生成すること。
【0069】
(i)微生物培養によるアルドラーゼ生成プロセス
天然のアルドラーゼ源である微生物には、アースロバクター属に属する微生物が含まれる。
【0070】
アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸からの前駆体ケト酸(HMKP)の合成を触媒するアルドラーゼを生成する微生物であればアースロバクター属に属する任意の微生物を本発明で用いることができる。好ましくは、これらの微生物としては、アースロバクター・シンプレックス(AKU626、NBRC12069)、アースロバクター・グロビフォルミス(AKU625株、NBRC12140株)、アースロバクター・スルフレウス(AKU635株、NBRC12678株)及びアースロバクター・ビスコーサス(AKU636株、NBRC13497株)が挙げられる。これらの中でも、アースロバクター・シンプレックス(AKU626、NBRC12069)が特に好ましい。これらの微生物の寄託についての詳細は以下に示される。
【0071】
上記の細菌の中で、名称がAKUから始まる株は、京都大学大学院農学研究科応用生命
科学科の発酵生理学及び醸造学研究室(the Laboratory of Fermentation Physiology and Applied Microbiology, Division of Applied Life Sciences, Faculty of Agriculture, Graduate School, Kyoto University)から得ることができる。
【0072】
名称がNBRC(前IFO)から始まる株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(the National Institute of Technology and Evaluation)(〒292−0818千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)から得ることができる。個々の株のアクセッション番号は、NBRCカタログ:
(http://www.nbrc.nite.go.jp/NBRC2/NBRCDispSearchServlet?lang=en)
に記録されている。
【0073】
微生物は液体培養及び/又は固体培養のいずれかで培養することができるが、産業的に有益な方法は、深部通気(deep-aerated)撹拌培養である。微生物培養に一般的に用いられる炭素源、窒素源、無機塩、及び他の微量栄養素を培地に用いることができる。選択された微生物株に利用可能であれば、どのような栄養源を用いてもよい。
【0074】
培養は、振盪培養、深部通気(deep ventilation)撹拌培養等による好気条件下で行われる。温度は、微生物が生育し、且つアルドラーゼが生成される範囲内であればよい。したがって、条件は厳密ではないが、通常温度は10〜50℃であり、好ましくは15〜42℃である。培養時間は、他の培養条件に従って変わる。例えば、微生物はアルドラーゼが最大量生成されるまで培養することができ、これは通常約5時間〜7日間、好ましくは約10時間〜96時間である。
【0075】
培養後、微生物細胞を遠心分離(例えば、10分間10000×g)によって回収する。大部分のアルドラーゼが細胞に存在するので、アルドラーゼは微生物細胞を破砕又は溶解させることによって可溶化する。超音波破砕、フレンチプレス破砕、又はガラスビーズ破砕を用いて、微生物細胞を破砕することができる。細胞を溶解する場合、卵白リゾチーム、ペプチダーゼ処理、又はこれらの好適な組み合わせを用いてもよい。
【0076】
アルドラーゼがアルドラーゼ生成微生物から精製される場合、細胞破砕液が用いられるが、非破砕又は非溶解の残渣又は残屑が残っている場合、可溶化溶液を再び遠心分離し、沈殿する全ての残渣又は残屑を取り除くことが精製には好ましい。
【0077】
典型的な酵素を精製するのに一般的に用いられるあらゆる方法をアルドラーゼを精製するために使用することができ、この例としては、硫酸アンモニウム沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィが挙げられる。その結果、比活性が高いアルドラーゼ含有画分を得ることができる。
【0078】
(ii)組み換えDNA技術を用いた生成プロセス
次に、組み換えDNA技術を用いて、アルドラーゼを生成するプロセスを記載する。組み換えDNA技術を用いて、酵素及び生理学的に活性な物質等の有用なタンパク質を生成する方法が数多く知られている。この技術によって、自然状態では微量しか存在しない有用なタンパク質の大量生成が可能になる。
【0079】
図1は本発明のアルドラーゼ生成プロセスのフローチャートである。
【0080】
最初に、本発明のアルドラーゼをコードするDNAを用意する(工程S1)。
【0081】
次に、このDNAをベクターDNAと連結させ、組み換えDNAを作製し(工程S2)
、細胞をこの組み換えDNAで形質転換し、形質転換体を作製する(工程S3)。それから、形質転換体を培地中で培養し、アルドラーゼを生成させて、培地、細胞、又はその両方で蓄積させる(工程S4)。
【0082】
続いて、アルドラーゼを回収及び精製する工程S5までプロセスを進める。
【0083】
アルドール縮合反応(工程S6)において、工程S5で得られた精製アルドラーゼ、又はアルドラーゼを含有する培地及び/又は細胞(工程S4)を用いることによって、大量のHMKPを生成することができる。
【0084】
アルドラーゼ遺伝子と連結したベクターDNAによって、本発明のアルドラーゼが発現する。
【0085】
ベクターDNAに連結させるアルドラーゼ遺伝子には、[I]において記載されたDNAが含まれる。
【0086】
タンパク質の大量生成に組み換えDNA技術を用いる場合、細菌細胞、放線菌細胞、酵母細胞、糸状菌細胞、植物細胞、及び動物細胞等の細胞を宿主細胞として用いることができる。宿主ベクター系が確立している細菌細胞の例としては、エシェリヒア種、シュードモナス種、アースロバクター種、コルネバクテリウム種、アスペルギルス種、及びバチルス種が挙げられる。エシェリヒア・コリ又はコリネバクテリウム・グルタミカムを本発明に用いることが好ましい。これは、エシェリヒア・コリ又はコリネバクテリウム・グルタミカムを用いたタンパク質の大量生成に関してよく知られているためである。以下で、形質転換されたエシェリヒア・コリを用いてアルドラーゼを生成するプロセスを記載する。
【0087】
エシェリヒア・コリにおける異種タンパク質生成に典型的に用いられるプロモーターを用いて、アルドラーゼをコードするDNAを発現することができる。強力なプロモーターとしては、T7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、及びPLプロモーターが挙げられる。
【0088】
融合タンパク質としてアルドラーゼを生成するために、アルドラーゼ遺伝子の上流又は下流のいずれかで別のタンパク質、好ましくは親水性ペプチドをコードする遺伝子を連結する。他のタンパク質をコードする遺伝子は、生成する融合タンパク質の量を増大させる、及び/又は変性工程及び再生工程後の融合タンパク質の可溶性を高めるように機能し得る。T7遺伝子10、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、インターフェロン−γ遺伝子、インターロイキン−2遺伝子、ポリヒスチジン遺伝子、グルタチオンS−トランスフェラーゼ遺伝子、及びプロキモシン遺伝子は、アルドラーゼ遺伝子に融合することができる遺伝子の例である。
【0089】
アルドラーゼ遺伝子と連結する場合、コドンのリーディングフレームを適合させる必要がある。この遺伝子は、好適な制限酵素部位で、又は適切な配列の合成DNAを用いて連結することができる。
【0090】
生成する量を増大させるために、融合タンパク質遺伝子の下流にあるターミネーター等の転写終結配列を連結させることが好ましい。T7ターミネーター、fdファージターミネーター、T4ターミネーター、テトラサイクリン耐性遺伝子ターミネーター、及びエシェリヒア・コリのtrpA遺伝子ターミネーターを用いることができる。
【0091】
多コピーベクターは、エシェリヒア・コリにアルドラーゼ又はアルドラーゼの融合タンパク質をコードする遺伝子を導入するのに好ましい。pUCプラスミド、pBR322プ
ラスミド又はこれらの誘導体等のCol E1由来の複製開始点を有するベクターを用いることができる。本明細書で「誘導体」は、置換、欠失、挿入、付加又は逆位等の塩基変化を有するプラスミドを表す。これらの変化には、突然変異原又はUVを用いた変異誘発処理、自然変異、又はランダム変異によって引き起こされるものが含まれ得る。
【0092】
このベクターは、形質転換体が容易に選択できるようなアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドの例としては、強力なプロモーターを有する市販の発現ベクター(pUC(タカラバイオ株式会社)、pPROK(Clontech)、及びpKK233−2(Clontech)等)が挙げられる。
【0093】
ベクターDNAを用いて、選択したプロモーター、アルドラーゼ又はアルドラーゼと別のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子、並びにターミネーターをこの順番で連結することによって組み換えDNAが得られる。
【0094】
エシェリヒア・コリを組み換えDNAで形質転換した後に培養する場合、アルドラーゼ又はアルドラーゼと別のタンパク質との融合タンパク質が発現及び生成する。異種遺伝子の発現に典型的に用いられる株を形質転換宿主として用いることができ、エシェリヒア・コリJM109(DE3)株及びエシェリヒア・コリJM109株が特に好ましい。形質転換方法及び形質転換体の選択方法が、例えば「Molecular Cloning 第3版」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001))に記載されている。
【0095】
融合タンパク質を発現する場合、アルドラーゼは血液凝固因子Xa又はカリクレイン等の制限プロテアーゼを用いて切断することができる。これらのプロテアーゼは、アルドラーゼに存在しない配列を認識する。
【0096】
エシェリヒア・コリを培養するのに典型的に用いられる培地を生成培地として用いることができる。例としては、M9−カザミノ酸培地及びLB培地が挙げられる。さらに、培養条件及び生成を誘導する条件は、用いるマーカー及びプロモーターの種類、並びに宿主微生物の種類に応じて適切に選択することができる。
【0097】
以下の方法を用いて、アルドラーゼ又は融合タンパク質を回収することができる。アルドラーゼ又は融合タンパク質が微生物細胞内で可溶化される場合、回収細胞を破砕又は溶解した後に粗酵素溶液を用いることができる。さらに、アルドラーゼ又は融合タンパク質は必要に応じて、沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィ、又は他の一般技法によっても精製することができる。アルドラーゼ又はその融合タンパク質の抗体を精製に用いることもできる。
【0098】
タンパク質封入体が形成される場合、変性剤で可溶化することができる。タンパク質封入体は微生物細胞タンパク質で可溶化することができるが、続く精製手順を考慮すると、封入体を取り出した後に可溶化することが好ましい。技術分野で既知の方法を用いて、封入体を微生物細胞から回収することができる。例えば、封入体は、微生物細胞を破砕した後、遠心分離によって回収することができる。タンパク質封入体を可溶化する変性剤の例としては、塩酸グアニジン(例えば、6M、pH5〜8)及び尿素(例えば、8M)が挙げられる。
【0099】
タンパク質封入体は、透析等の処理でこれらの変性剤を取り除くことによって活性タンパク質として再生することができる。トリス−HCl緩衝液又はリン酸緩衝液等の透析溶液を透析に用いてもよく、濃度は20mM〜0.5Mであり、pHは5〜8であり得る。
【0100】
巻き戻し工程中のタンパク質濃度は、約500μg/mL以下に維持することが好まし
い。巻き戻ししたアルドラーゼが互いに架橋するのを防ぐために、透析温度は5℃以下であることが好ましい。さらに、活性は、透析の他に希釈及び限外濾過によって変性剤を取り除くことによって回復し得る。
【0101】
アルドラーゼ遺伝子が、アースロバクター属細菌に由来する場合、宿主としてアースロバクター種の細菌を用いて、アルドラーゼを発現及び生成することができる。本明細書で用いられるこのような宿主細胞及び組み換え発現系の例としては、アースロバクター種における組み換え発現方法(Shaw P. C.他, J Gen Micobiol. 134(1988) p.903-911)、アースロバクター・ニコチノボランスにおける組み換え発現方法(Sandu C.他, Appl Environ Microbiol. 71(2005) p8920-8924)、及びアースロバクター種における組み換え発現方法(Morikawa, M.他, Appl Microbiol Biotechnol., 42(1994), p.300-303)が挙げられる。また、コリネ型細菌で発現された発現系もアースロバクター種で適用可能である(Sandu C.他)。しかし、本発明は本明細書に記載されたようなアルドラーゼに対するアースロバクター種の細菌の発現系に限定されない。
【0102】
[II]4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの製造方法
本発明の4−ヒドロキシ−L−イソロイシン(4HIL)の製造方法は、2つの工程からなる反応である:(1)アセトアルデヒドとα−ケト酪酸から4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(HMKP)を生成する酵素的アルドール縮合反応(以下の反応式(III))、および(2)HMKPから4HILへの変換、すなわちHMKPから4HILを生成する酵素的アミノ基転移(以下の反応式(IV))。
これらの工程はこの順番で連続して行うか、又は1つの容器でほとんど同時に行うことができる。それぞれの工程は以下に記載される。
【0103】
【化3】

【0104】
(1)4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(HMKP)の生成
HMKP(II):
【0105】
【化4】

【0106】
は、アセトアルデヒドとα−ケト酪酸とを反応させることによって生成され、この反応は反応を触媒するアルドラーゼの存在下で行われる。
【0107】
この反応を触媒するのに用いられるアルドラーゼには特に制限なく、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸のアルドール縮合によって一般式(II)で表されるHMKPの合成を触媒することができれば、どのようなタンパク質を用いてもよい。
【0108】
このようなアルドラーゼの好ましい例は、[1]の項に記載されたアルドラーゼである。本発明の方法において、アルドラーゼは、HMKPの生成を触媒することができれば、細菌(培養物、細菌細胞、又は細胞処理物を含む)、精製酵素、又は粗酵素等のいずれの形態で用いてもよい。細菌をアルドラーゼ源として用いる場合、アースロバクター属に属する微生物等の、アルドラーゼを自然状態で生成する細菌、及び[1]の項で記載されたような組み換えDNAで形質転換された組み換え微生物の両方が包含される。
【0109】
例えば、アルドラーゼ生成細菌、又は組み換えDNAで形質転換された細菌細胞を用いてHMKPを製造する場合、基質を培養中に培養培地に直接添加するか、又はこの基質は細菌細胞若しくは培養物から単離された洗浄細菌細胞であり得る。さらに、破砕又は溶解された細菌細胞を直接用いることもでき、又はアルドラーゼを処理細菌細胞から回収し、粗酵素溶液として用いることもでき、又は精製酵素を用いることもできる。すなわち、アルドラーゼ活性が存在する限り、アルドラーゼ活性含有画分を本発明の4HILを製造するプロセスに用いることができる。
【0110】
アルドール縮合反応は、アセトアルデヒド、α−ケト酪酸、及びアルドラーゼ又はアルドラーゼ含有組成物を含有する反応溶液中で行い、20〜50℃の適温に調節し、静置させ、pHを5〜12に維持しながら30分〜5日間振盪又は撹拌する。
【0111】
反応速度は、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Zn2+又はCo2+等の二価カチオンを反応混合物に添加することによっても増大させ得る。コスト等の点で、Zn2+を用いることが好ましい。
【0112】
これらの二価カチオンを反応溶液に添加する場合、反応を妨げなければ、どのような塩を用いてもよいが、ZnCl2、ZnSO4、MgSO4等を用いることが好ましい。これらの二価カチオンの濃度は、単純な予備研究によって好適に決定することができる。これらの二価カチオンは、0.01mM〜10mM、好ましくは0.1mM〜5mMの範囲で添加し得る。
【0113】
HMKPは、既知の技法に従って単離又は精製をすることができるが、特にアルドラーゼ及びアミノトランスフェラーゼの両方を発現する組み換え微生物によって製造する場合、単離又は精製をしなくともよい。単離及び精製の方法には、塩基性アミノ酸を吸収するイオン交換樹脂にHMKPを接触させた後に、溶離及び結晶化することが含まれる。別の精製方法は、溶離生成物が変色し、活性炭による濾過が必要な場合に、結晶化を行うことでHMKPを得ることを含む。
【0114】
本発明のHMKPの製造プロセスによって、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸から4−ヒドロキシ−L−イソロイシン(4HIL)の前駆体であるケト酸(HMKP)を製造することが可能になる。HMKPを用いて、2位のアミノ化によって4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを誘導することができるので、このHMKPは4−ヒドロキシ−L−イソロイシン合成における中間体として有用である。HMKPから4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを生産するプロセスを次に記載する。
【0115】
(2)4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の4−ヒドロキシ−L−イソロイシンへの変換
HMKPを上記の(1)に記載したように製造したのち、HMKPを4HILに変換する。
【0116】
HMKPを4HILに変換する方法は特に限定されず、化学的方法又は酵素的方法のいずれかを用いることができる。酵素的変換に関しては、酵素的アミノ基転移が好ましい。この工程では、「アミノ基転移」は、アミノ基が、供与体化合物、例えばL−グルタミン酸又はL−グルタミン酸塩からケト基を有する受容体化合物、例えば4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸等に転移される反応を意味する。アミノ基供与体は、アミノ基を有してさえいれば特に限定されないが、L−グルタミン酸及び分岐鎖アミノ酸等のL−アミノ酸を用いることが好ましい。
【0117】
本発明において、「酵素的アミノ基転移」はアミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)又はデヒドロゲナーゼによって行われるアミノ基転移反応を意味する。特に、細菌のアミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)が好ましい。これらの酵素は、上記のアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼを組み込んでさえいれば、細菌(培養物、細菌細胞、又は細胞処理物を含む)、精製酵素、又は粗酵素等のいずれの形態で用いてもよい。プロセスを単純化することによって4HILの生産コストを削減するために、培養溶液に直接、基質を添加することが最も好ましい。
【0118】
この工程で用いられるアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼは、HMKPを4HILに変換することができさえすれば、特に限定されない。分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(BCAT)が好ましい。例えば、ilvE遺伝子によってコードされるアミノトランスフェラーゼ、tyrB遺伝子によってコードされる芳香族アミノトランスフェラーゼ、aspC遺伝子によってコードされるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、エシェリヒア・コリにおけるavtA遺伝子によってコードされるバリン−ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ、バチルス・ズブチリスにおけるywaA遺伝子によってコードされるアミノトランスフェラーゼ等が例示される。
【0119】
BCATの例示的なタンパク質配列はCOG0115(配列番号13)である。また、BCATに属するタンパク質は、EC2.6.1.42で示されている。
【0120】
実際には、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼは全て、広い基質特異性を示すので、大抵のものは、アミノ基転移の基質としてHMKPを用いることができる。
【0121】
分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼは、L−グルタミン酸からのα−ケトイソ吉草酸、2−ケト−3−メチル吉草酸及び2−ケト−4−メチル−ペンタン酸等の様々なα−ケト酸へのアミノ基転移を触媒し、これによってそれぞれL−バリン、L−イソロイシン及びL−ロイシンが形成される。
【0122】
大多数の微生物由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが既知であり、これらのアミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の塩基配列も開示されている。
【0123】
ilvE遺伝子は、エシェリヒア・コリ由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼであるIlvEタンパク質(同意語はB3770、IlvE、分岐鎖アミノ酸:2−オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼ、BCAT、トランスアミナーゼB、ロイシントランスアミナーゼ、バリントランスアミナーゼ、及びイソロイシントランスアミナーゼを含む)をコードする。この分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼは、ecoBCATと略記することができる。ilvE遺伝子は、エシェリヒア・コリK−12株の染色体上のilvM遺伝子とilvD遺伝子との間に位置する。ilvE遺伝子の塩基配列は既知である(ヌクレオチド位置:3950507〜3951436、GenBankアクセ
ッション番号NC_000913.2、gi:49175990)(配列番号14)。ilvE遺伝子の塩基配列及びilvE遺伝子によってコードされるIlvEタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号14及び配列番号15に示される。
【0124】
ywaA遺伝子は、バチルス・ズブチリス由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする。この分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼは、bsuBCATと略記することができる。ywaA遺伝子は、バチルス・ズブチリス168株の染色体上のdltE遺伝子とlicH遺伝子との間に位置する。ywaA遺伝子の塩基配列は既知である(ヌクレオチド位置:3956412〜3957503、GenBankアクセッション番号NC_000964.2、gi:50812173)(配列番号16)。ywaA遺伝子の塩基配列及びywaA遺伝子によってコードされるYwaAタンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号16及び配列番号17に示される。
【0125】
他の微生物由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする他の遺伝子は、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする既知の遺伝子に対する相同性によって同定した後、この遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を評価することができる。
【0126】
2つのアミノ酸配列間の相同性は、既知の方法、例えば、3つのパラメータ:スコア、同一性及び類似性を算出する、コンピュータプログラムBLAST2.0を用いて決定することができる。
【0127】
したがって、エシェリヒア・コリ由来のilvE遺伝子及びバチルス・ズブチリス由来のywaA遺伝子は、遺伝子の既知の塩基配列に基づいたプライマーを利用するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、White, T. J.他, Trends Genet., 5, 185(1989)を参照されたい)によって得ることができる。他の微生物由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子も同様に得ることができる。
【0128】
細菌株間のDNA配列に幾つかの差異が存在し得るので、アルドラーゼ又はBCATをコードする上記の遺伝子は、配列番号1、配列番号14及び配列番号16で示される塩基配列に限定されず、配列番号1、配列番号14及び配列番号16で示されるものと類似の塩基配列を含み得る。したがって、上記の遺伝子によってコードされるタンパク質変異体は、このタンパク質が反応を触媒することができさえすれば、配列番号2、配列番号15及び配列番号17で示されるアミノ酸配列全体と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、及び最も好ましくは95%以上の相同性を有するものであってもよい。
【0129】
さらに、上記の遺伝子は、機能タンパク質をコードする場合、配列番号1、配列番号14及び配列番号16で示される塩基配列と、又はこれらの塩基配列に基づき調製されるプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる変異体によって表される。本明細書で用いられる「ストリンジェントな条件」は、上記の[1]の(1)アルドラーゼをコードするDNAの項と同じである。
【0130】
本発明で利用される細菌細胞処理物は、乾燥細菌塊(bacterial mass)、凍結乾燥細菌塊、界面活性剤又は有機溶媒による処理物、酵素処理物、超音波処理物、機械的粉砕物、溶媒処理物、細菌塊のタンパク質画分、細菌塊の固定生成物、及び処理細菌塊の形態であり得る。
【0131】
アミノ基転移によるHMKPからの4HILの生成は、アルドール反応、とそれに続く生成HMKPの単離及び/又は精製の後に連続して行うこともできるし、アルドラーゼ及
びアミノトランスフェラーゼを共存させることによって同じ反応溶液で同時に行うこともできる。反応を同じ反応溶液で行う場合(ワンポット反応)、アルドラーゼ及びアミノトランスフェラーゼを細菌中で同時に発現することができる。又は、これらの酵素は、上記のように別々に調製し、反応溶液に添加することができる。アルドラーゼをコードするDNAとアミノトランスフェラーゼをコードするDNAとを同時に発現する細菌(宿主細胞)は、それぞれアルドラーゼ及びアミノトランスフェラーゼのDNAを含有する発現ベクターによる共トランスフェクション、又は宿主細胞で発現することができる形態でアルドラーゼ及びアミノトランスフェラーゼの両方のDNAを含有する発現ベクターによる形質転換によって調製することができる。さらに、アルドラーゼ及び分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を増大させることが、アルドラーゼ及びアミノトランスフェラーゼの活性を高める好ましい方法である。
【0132】
「遺伝子の発現を増大させる」という語句は、遺伝子の発現が非改変株、例えば野生型株より高いことを意味する。このような改変の例としては、細胞1個当たりに発現する遺伝子のコピー数を増加させること、遺伝子の発現レベルを増大させること等が挙げられる。発現遺伝子のコピー数は、例えば、染色体DNAの制限酵素処理後、遺伝子配列に基いたプローブを用いたサザンブロッティング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)等によって測定することができる。遺伝子発現レベルは、ノーザンブロッティング、定量的RT−PCR等を含む様々な既知の方法によって測定することができる。発現されたタンパク質の量は、SDS−PAGE後、免疫ブロット法(ウェスタンブロッティング分析)等を含む既知の方法によって測定することができる。
【0133】
「タンパク質をコードするDNAによる細菌の形質転換」とは、例えば、従来の方法によって細菌にDNAを導入することを意味する。このDNAの形質転換によって、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が増大され、細菌細胞におけるタンパク質の活性が高まる。形質転換の方法は、これまでに報告されている任意の既知の方法を含む。例えば、DNAに対する細胞の浸透性を増大させるように塩化カルシウムでレシピエント細胞を処理することがエシェリヒア・コリK−12株で報告されており(Mandel, M.及びHiga, A., J. Mol. Biol., 53, 159(1970))、この方法を用いることができる。
【0134】
遺伝子発現を高める方法は、遺伝子コピー数を増加させることを含む。本発明の細菌で機能することができるベクターに遺伝子を導入することによって、遺伝子のコピー数が増加する。このような目的のために、好ましくは多コピーベクターを用いることができる。多コピーベクターは、pBR322、pMW119、pUC19、pET22b等で例示される。
【0135】
遺伝子発現の増強は、例えば相同組み換え、Mu融合等によって遺伝子の複数コピーを細菌染色体に導入することでも達成することができる。例えば、Mu融合の1回の実行によって、細菌の染色体に遺伝子のコピーを最大3個まで導入することができる。
【0136】
遺伝子のコピー数の増加は、遺伝子の複数コピーを細菌の染色体DNAに導入することによっても達成することができる。遺伝子の複数コピーを細菌の染色体に導入するためには、染色体DNAに複数コピー存在する標的配列を用いて、相同組み換えを行う。染色体DNAにおいて複数コピー存在する配列は、反復DNA、又は転位因子の末端にある逆方向反復を含むが、これらに限定されない。また、米国特許第5,595,889号に開示されたように、遺伝子をトランスポゾンに組み込み、それを転移させ、遺伝子の多数のコピーを染色体DNAに導入することも可能である。
【0137】
遺伝子発現の増強は、強力なプロモーターの制御下に本発明のDNAを置くことによっても達成することができる。例えば、Ptacプロモーター、lacプロモーター、tr
pプロモーター、trcプロモーター、λファージのPRプロモーター又はPLプロモーターは全て強力なプロモーターであることが知られている。強力なプロモーターは遺伝子コピーの増加と併せて用いることができる。
【0138】
代替的には、プロモーターの効果は、例えば、プロモーターの下流に位置する遺伝子の転写レベルを増加するように、突然変異をプロモーターに導入することによって高めることができる。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間のスペーサ領域における幾つかのヌクレオチド、特に開始コドンのすぐ上流にある配列の置換がmRNA翻訳能力に強く影響することが知られている。例えば、開始コドンに先行する3つのヌクレオチドの性質によって、20倍の範囲の発現レベルが見出された(Gold他, Annu. Rev.
Microbiol., 35, 365-403, 1981、Hui他, EMBO J., 3, 623-629, 1984)。これまでに、rhtA23突然変異は、ATG開始コドンに対して−1位でGをAに置換することであることが示された(1997年のアメリカ生化学分子生物学学会総会主催の第17回アメリカ生化学分子生物学学会国際会議の抄録(ABSTRACTS of 17th International Congress
of Biochemistry and Molecular Biology in conjugation with 1997 Annual Meeting of the American Society for Biochemistry and Molecular Biology), San Francisco, California August 24-29, 1997, 抄録番号457)。
【0139】
さらに、ヌクレオチド置換を細菌染色体上の遺伝子のプロモーター領域に導入することも可能であり、これによりプロモーター機能が強められる。発現制御配列の改変は、例えば、国際公開WO00/18935号及び特開平1−215280号公報に開示されたような温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様に行うことができる。
【0140】
プラスミドDNAの調製方法としては、DNAの消化及びライゲーション、形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択等、又は当業者に既知の他の方法が挙げられるが、これらに限定されない。これらの方法は、例えば「Molecular Cloning A Laboratory Manual, Third Edition」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001))に記載されている。
【0141】
[実施例]
本発明は、以下で示される実施例を参照してさらに詳細に説明する。しかし、本発明は、これらに限定されない。
【実施例1】
【0142】
asiHPALの精製
精製プロトコルは下記の手順を含む。
【0143】
工程1:アースロバクター・シンプレックスAKU626の一晩細菌培養物(34℃で12時間培養)1mLを用いて、LB培地(8×(1Lフラスコ中に375mL))5Lを接種した。細胞を約24時間最適温度で培養した。それから、細胞を4℃での遠心分離(16000×g)によって回収し、1mMのPMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)を補充した緩衝液A(50mMのKH2PO4(KOHでpH7.4に調節))30mLに再懸濁した。
【0144】
工程2:細胞を、フレンチプレス・セル(最高P=2.5psi)に3〜5回通すことによって破砕した後、遠心分離によって残屑を取り除いた。タンパク質調製物は、緩衝液Aで平衡化したSephadex G−15カラム(2.6×28cm)に通した。
【0145】
工程3:アニオン交換クロマトグラフィ(AEC1)は、DEAE(ファストフロー)カラム(d=1.6cm)50mLを備えたAKTAbasic100システムを用いて
行った。工程2で得られたタンパク質調製物40〜50mLを緩衝液Aで平衡化したカラムに加えた。溶離は、緩衝液A(10CV(カラム容積):カラム容積の10倍量))を用いて0〜0.5MのNaClの直線勾配で、流速2.5mL/分で行った。それぞれ10mL分の画分を回収した。活性画分をプールし、「工程2」に記載されたようにして脱塩した。
【0146】
工程4:アニオン交換FPLC(AEC2)はAKTAbasic100システムを用いて行い、「Sourse15Q」カラム(Amersham Pharmacia Biotech)1.6mLを補充した。工程3から得られたタンパク質調製物を、緩衝液Aで平衡化したカラムに加えた。溶離は、緩衝液A(40CV)を用いて0〜0.5MのNaClの直線勾配で、流速1mL/分で行った。それぞれ2mL分の画分を回収した。活性画分をプールした(表1及び表2)。
【0147】
工程5:疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)はAKTAbasic100システムを用いて行い、「ResourcePHE」カラム(Amersham Pharmacia Biotech)1mLを補充した。工程5で得られた調製物のタンパク質濃度を0.8mg/mLに調節し、それから、硫酸アンモニウムを最終濃度が1.5Mになるまで添加した。タンパク質溶液は、1.5Mの硫酸アンモニウムを補充した緩衝液Aで平衡化したカラムに加えた。溶離は、緩衝液A(30CV)を用いて1.5M〜0Mの硫酸アンモニウムの直線勾配で、流速1mL/分で行った。画分1mLを回収した。活性画分をプールした(表1及び表2)。
【0148】
【表1】

1)比活性は、以下の組成物(100mMのL−グルタミン酸(pH8、pH8.0で調整)、100mMのα−ケト酪酸、100mMのアセトアルデヒド)と、1mMのZnCl2と、精製bsuBCAT0.5μgと、一定分量のasiHPALの活性画分とを用いたbsuBCAT/asiHPAL二酵素反応における時間依存的な4HIL生成をHPLCでモニタリングすることによって求めた。全ての反応を37℃で行った。
2)(全タンパク質)×(比活性)として算出した。
3)100%×(全活性/粗溶解物の全活性)として算出した。
4)(比活性/粗溶解物の比活性)として算出した。
【0149】
【表2】

【0150】
工程6:サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)はSuperdex(商標)200HR 10/30A(Amersham Pharmacia Biotech)カラムを備えたAKTAbasic100システムを用いて行った。工程5で得られたタンパク質調製物を100mMのNaClを補充した緩衝液Aで平衡化したカラムに加えた。0.5mL/分の流速で定組成溶離を行った。1mLの画分を回収した。活性画分をプールした(表1、表2及び図1)。
【0151】
asiHPALの比活性は、以下の組成物(100mMのL−グルタミン酸(pH8、pH8.0で調節)、100mMのα−ケト酪酸、100mMのアセトアルデヒド)と、1mMのZnCl2と、0.5μgの精製His−タグ−bsuBCATタンパク質(バチルス・ズブチリス由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)と、一定分量の溶離画分とを含むbsuYwaA/asiHPALの二酵素反応における時間依存的な4HIL形成をHPLCでモニタリングすることによって求めた。反応は全て37℃で行った。バチルス・ズブチリス由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(bsuBCAT)をクローニングすること、及び4HIL形成を測定するHPLCはそれぞれ、実施例5及び実施例6に記載される。
【0152】
asiHPALモノマーの分子量をSDS−PAGE(図2A)を用いて求めた。その平均値は27kDaと推定された。天然asiHPALの分子量は、分子量タンパク質マーカー(Sigma)で較正したSuperdex(商標)200HR 10/30A(Pharmacia)カラムで分析用SECを用いて求めた(図2B)。その平均値は186kDaと推定された。したがって、asiHPALは六量体であると推測される。
【0153】
HMKP−アルドラーゼの金属イオン依存性を検討した。asiHPAL活性がZn2+、Mg2+及びMn2+イオンに強く依存し、EDTAの存在下で完全に阻害されることを確認した。したがって、asiHPALは、2型アルドラーゼであると推測された(表3)。
【0154】
【表3】

【実施例2】
【0155】
asiHPALのN末端配列の決定
2.1 asiHPALのウェスタンブロッティング
asiHPALは、トランスブロットSDセル(Bio-Rad)を用いて、Sequi-Blot PVDF膜(Bio-Rad)上に固定した。最適化ブロッティング条件は以下のようなものである:Dunカーボネート移動緩衝液(メタノールを含まない10mMのNaCHO3、3mMのNa2CO3)、6片の極厚濾紙/膜サンドイッチ(起動電流5.5mA/cm2、移動時間1時間)。
【0156】
2.2 asiHPALのN末端のシークエンシング
asiHPALのN末端配列の決定は、491cLCタンパク質シーケンサ(Applied Biosystems, USA)を用いて行われた。26サイクル行った。結果として、以下のアミノ酸配列を決定した:
NH2−Pro−Phe−Pro−Val−Glu−Leu−Pro−Asp−Asn−Phe−Ala−Lys−Arg−Val−Thr−Asp−Ser−Asp−Ser−Ala−Gln−Val−Gly−Leu−Phe−Ile..−COOH(配列番号3)。
【0157】
全て既知のタンパク質によるこのN末端配列のアラインメント(BLAST検索)によって、同様のN末端配列を有する単一タンパク質が明らかになった。これは、ブレビバクテリウム・リネンスBL2由来のHHDE−アルドラーゼ(2,4−ジヒドロキシヘプト−2−エン−1,7−ジオン酸アルドラーゼ)(HHDE_BLI)である(図3)。これは2型アルドラーゼであり、その天然基質である2,4−ジヒドロキシヘプト−2−エン−1,7−ジオン酸がHMKPと構造的に類似している(実際、両方ともC4位にヒドロキシル基、C2位にカルボニル基、C1位にカルボキシル基を有する)。さらに、HHDE_BLIサブユニットのMwは27kDaであり、これは実験で得られたasiHPALのサブユニットのMwと一致している。ブレビバクテリウム・リネンスはアースロバクター・シンプレックスにも密接に関連している。
【0158】
したがって、アースロバクター・シンプレックスから精製したasiHPALはブレビバクテリウム・リネンスBL2由来のHHDEアルドラーゼのホモログであると推定することができる。
【実施例3】
【0159】
アースロバクター・シンプレックス(NBRC12069)由来のHMKP−アルドラーゼをコードするasiHPAL遺伝子のクローニング
asiHPAL遺伝子を含有するアースロバクター・シンプレックスの染色体からDNA断片を増幅するために、決定されたasiHPALのN末端のアミノ酸配列(図4)に基づき設計された縮重プライマーasiN10(配列番号4)を用いてPCRを行った。プライマーasiN10は、その3’末端に縮重部を含有し、asiHPAL遺伝子とは相補的ではない21ヌクレオチドの配列を有する。これは、PCR産物のさらなる増幅に必要である。アースロバクター・シンプレックスの染色体DNA0.1μg及びプライマーasiN10(20pmol)によって40μLの容量でPCRを行った。PCR条件は以下のようなものであった:95℃で10秒、53℃で20秒、72℃で40秒の50サイクル。
【0160】
驚くべきことに、PCRの結果として、単一のPCR産物が得られた(図5のトラック3)。プライマーasiN10は、フォワードプライマー及びリバースプライマーとしての同時使用に好適であると考えられた。さらに、鋳型として1回目のPCRからの反応混合物2μLを用い、非相補的な21ヌクレオチドを含みasiN10の一部であるプライマーSVS88(配列番号5)(10pmol)を用いた2回目のPCRによって、このことが証明された。PCR条件は以下のようなものであった:95℃で10秒、65℃で
20秒、72℃で40秒の25サイクル。強い単一のPCR産物が観察された。
【0161】
PCR産物の制限酵素分析によって、DNA断片を2つの断片(0.6kbの大きい断片及び0.3kbの小さい断片)に分ける特有のNcoI部位が明らかになった(図5のトラック2)。両方の断片は、SVS88プライマーを用いて別々にシークエンシングした。0.6kbの断片で471ヌクレオチド及び0.3kbの断片で262ヌクレオチドが求められた。
【0162】
次に、プライマーSVS_108(配列番号6)及びSVS_109(配列番号7)を用いて、全DNA断片のシークエンシングを完了させた。増幅DNA断片のシークエンシング戦略が図6に示される。塩基配列の分析によって、asiHPALのORFによってコードされるN末端の26アミノ酸残基が、実施例2で求められたasiHPALのN末端配列と同一であることが明らかにされた。
【0163】
ブレビバクテリウム・リネンスBL2由来のHHDEアルドラーゼのアミノ酸配列によるORFのアラインメントによって、酵素間の高い相同性が明らかになった(図7)。
【実施例4】
【0164】
4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの生成
4−ヒドロキシ−L−イソロイシン生成におけるアースロバクター・シンプレックス由来のasiHPAL遺伝子によってコードされる組み換えasiHPALアルドラーゼの比活性を調べるために、プライマー1(配列番号8)、プライマー2(配列番号9)、及び鋳型としてアースロバクター・シンプレックスの染色体DNAを用いて、asiHPAL遺伝子を増幅することができる。プライマー1は、5’末端にHindIII制限部位を含有し、プライマー2は、5’末端にBamHI制限部位を含有する。得られたPCR断片は、HindIII制限酵素及びBamHI制限酵素で消化し、同じ制限酵素で予め処理したプラスミドpMW119に連結することができる。このようにして、プラスミドpMW119−asiHPALが得られた。それから、エシェリヒア・コリBW25113株は、プラスミドpMW119−asiHPALで形質転換することができ、得られたBW25113/pMW−asiHPAL株はIPTG(1mmol)を含有するLB培地で培養することができる。
【0165】
4−ヒドロキシ−L−イソロイシンの生成は、以下の組成物(100mMのL−グルタミン酸(pH8、pH8.0で調節)、100mMのα−ケト酪酸、100mMのアセトアルデヒド)と、1mMのZnCl2と、0.5μgの精製His−タグ−bsuBCATタンパク質(バチルス・ズブチリス由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)と、一定分量のBW25113/pMW−asiHPAL細胞溶解物とを含むbsuYwaA/asiHPALの二酵素反応で調べることができる。全ての反応を37℃で行うことができる。バチルス・ズブチリス由来の分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(bsuBCAT)をクローニングすること、及び4HIL形成を測定するHPLCはそれぞれ、実施例5及び実施例6に記載される。
【実施例5】
【0166】
バチルス・ズブチリス由来のBCATのクローニング及び効率的な発現
バチルス・ズブチリス由来のBCATは、his6−タグ誘導体としてpET発現系(Novagen, Madison, WI, USA)を用いてクローニングし発現させた。
【0167】
pET−HT−IlvE−BSUプラスミドを構築するために、BCATアミノトランスフェラーゼをコードするバチルス・ズブチリス由来のywaA遺伝子(Berger, B. J.他, J Bacteriol., 185(8), 2418-31(2003))は、鋳型としてバチルス・ズブチリス
168株の染色体DNA、それぞれ「上流」プライマー及び「下流」プライマーとしてプライマーP3(配列番号10)及びプライマーP4(配列番号11)を用いたPCRによって増幅した。プライマーP5は、5’末端にNcoI制限部位及びヒスチジンをコードする6つのコドンを含有し、プライマーP6は5’末端にNotI制限部位を含有する。得られたPCR断片は、NcoI制限酵素で消化し、予め同じ制限酵素で処理したプラスミドpET−15(b+)に連結した。それから、線状にした連結DNA断片をPCR増幅用の鋳型として用い、オリゴヌクレオチドT7(Novagen、配列番号12)及びオリゴヌクレオチドP4(配列番号11)をプライマーとして用いた。得られたプラスミドpET−15(b+)のT7プロモーターの制御下にywaA遺伝子を含有するPCR断片は、XbaI制限酵素及びNotI制限酵素で消化し、予め同じ制限酵素で処理したpET−22(b+)ベクターに連結した。このようにして、プラスミドpET−HT−IlvE−BSUが得られた。このプラスミドを用いてエシェリヒア・コリを形質転換し、His−タグ−bsuBCATタンパク質を形質転換体から精製した。
【実施例6】
【0168】
4−ヒドロキシ−L−イソロイシンのHPLC測定
HPLC分析:分光光度計1100シリーズ(Agilent, USA)を備えた高速クロマトグラフィ(Agilent Technologies)を用いた。選択した検出波範囲は、250nmの励起波長、300〜560nmの発光波長範囲であった。accq−タグ法による分離は、Nova−PakC18(150×3.9mm、4μm)(Waters, USA)カラムにおいて、37℃で行った。試料の注入量は5μLであった。アミノ酸誘導体の形成及びそれらの分離は、製造業者Watersの推奨(Liu, H.他, J. Chromatogr. A, 828, 383-395(1998)、Watersのaccq−タグ化学パッケージの取扱説明書(accq-tag chemistry package. Instruction manual)Millipore Corporation, pp.1-9 (1993))に従って行った。6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバミン酸を含むアミノ酸誘導体を得るために、Accq−Fluor(商標)(Waters, USA)キットを用いた。accq−タグ法による分析は、濃Accq−タグ溶離液А(Waters, USA)を用いて行なった。溶液は全てMilli−Q水を用いて調製し、標準液は+4℃で貯蔵した。
【産業上の利用可能性】
【0169】
アセトアルデヒドとα−ケト酪酸とのアルドール縮合反応を触媒する新規のアルドラーゼが記載され、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸(HMKP)を合成するのに好ましく用いることができる。アルドラーゼは、4−ヒドロキシ−L−イソロイシン合成における中間体としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】アルドラーゼ生成プロセスのフローチャートである。
【図2】アースロバクター・シンプレックスAKU626(NBRC12069)(以下、asiHPALと略記する)からのHMKP−アルドラーゼの精製を示す写真図である。レーン1、4:タンパク質分子量マーカー(Fermentas, Lithuania)、レーン2:粗細胞溶解物(45μg添加)、レーン3:asiHPAL調製物(0.5μg添加)。
【図3】asiHPALオリゴマーの構造決定を示す図である。A−較正SDS−PAGEゲルを用いたasiHPALモノマーのMwの決定。PageRuler(商標)タンパク質ラダー(Fermentas, Lithuania)をタンパク質マーカーとして用いた。実験データ(黒丸)はSigmaのPlot8ソフトウェアを用いて、線形回帰分析によって適合させた(黒線)。B−分子量タンパク質マーカー(Sigma)によって較正されたSuperdex(商標)200HR 10/30A(Pharmacia)カラムとSECを用いたasiHPALの天然Mwの決定。実験データ(黒丸)はSigmaのPlot8ソフトウェアを用いて、線形回帰分析によって適合させた(黒線)。
【図4】PCR増幅に対するプライマー構造及びasiHPAL遺伝子のシークエンシングを示す図である。A)アースロバクター・シンプレックス(NBRC12069)由来のHMKPアルドラーゼのN末端配列。B)縮重プライマーasiN10、I=デオキシイノシンリン酸。C)フランキングプライマーSVS88。
【図5】HMKP−アルドラーゼをコードする遺伝子を含有するアースロバクター・シンプレックス染色体の0.9kbのDNA断片の増幅を示す写真図である。増幅したDNA断片の電気泳動。トラック1:DNAのサイズマーカー、トラック3:定分量の反応混合物B、トラック2:得られたNcoI制限酵素によって消化された0.9kbのDNA断片。
【図6】増幅したDNA断片のシークエンシング戦略を示す図である。
【図7】ブレビバクテリウム・リネンスBL2由来のasiHPAL及びHHDEアルドラーゼのアラインメントを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1の塩基配列を含むDNA、
(b)配列番号1の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、および
(e)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA、
からなる群から選択されるDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAとベクターDNAとを含む組み換えDNA。
【請求項3】
請求項2に記載の組み換えDNAで形質転換された単離細胞。
【請求項4】
培地中で請求項3に記載の細胞を培養すること、及び該培地、細胞又はその両方においてアルドラーゼ活性を有するタンパク質を蓄積させることを含む、アルドラーゼ活性を有するタンパク質を製造する方法。
【請求項5】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において、1又数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、及び
(c)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択されるタンパク質。
【請求項6】
下記性質を有するタンパク質:
(A)アセトアルデヒドとα−ケト酪酸からの4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の生成を触媒する活性を有する、
(B)該活性がZn2+、Mn2+、及びMg2+からなる群から選択される二価カチオンに依存する、
(C)ゲル濾過によって測定される分子量が約186kDa、および
(D)SDS−PAGEによって測定される1サブユニット当たりの分子量が約27kDa。
【請求項7】
(1)水性溶媒中で、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、及び
(c)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択される少なくとも1つのアルドラーゼの存在下で、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸を反応させること、
(2)生成した4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸を4−ヒドロキシ−L−イソロイシンに変換すること、並びに
(3)生成した4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを単離すること
を含む、4−ヒドロキシ−L−イソロイシン又はその塩を製造する方法。
【請求項8】
アミノ基供与体の存在下でアミノ基転移活性を有する、アミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲナーゼによって、前記4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸が4−ヒドロキシ−L−イソロイシンに変換される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(1)水性溶媒中で、
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基2の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、及び
(c)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質、
からなる群から選択されるアルドラーゼを含有する細菌の存在下で、アセトアルデヒド及びα−ケト酪酸を反応させる工程であって、前記水性溶媒がアミノ基供与体の存在下で、4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ケト−ペンタン酸の4−ヒドロキシ−L−イソロイシンへの変換を触媒するアミノトランスフェラーゼ及び/又はデヒドロゲーゼも含有する工程、並びに
(2)4−ヒドロキシ−L−イソロイシンを単離する工程、
を含む、4−ヒドロキシ−L−イソロイシン又はその塩を製造する方法。
【請求項10】
前記アミノトランスフェラーゼが、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが、エシェリヒア及びバチルスからなる群から選択される細菌に由来する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ基供与体がL−アミノ酸群から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項13】
前記分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼが、エシェリヒア及びバチルスからなる群から選択される細菌に由来する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細菌が前記アルドラーゼ及び前記分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの少なくとも1つの活性を高めるように修飾されている、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記アルドラーゼ及び前記分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの活性が、該アルドラーゼ及び/又は該分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの発現を増大させることによって高められた、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アルドラーゼ及び/又は前記分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼの発現が、該アルドラーゼをコードする遺伝子及び/又は該分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現調節配列を改変すること、又は該アルドラーゼをコードする遺伝子及び/又は分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子のコピー数を増加させることによって増大された、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細菌がエシェリヒア属、シュードモナス属、コリネバクテリウム属、アースロバクター属、アスペルギルス属又はバチルス属に属する、請求項9〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記細菌がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、アースロバクター・シンプレッ
クス(Arthrobacter simplex)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、アースロバクター・グロビフォルミス(Arthrobactor globiformis)、アースロバクター・スルフレウス(Arthrobactor sulfureus)、アースロバクター・ビスコーサス(Arthrobactor viscosus)、又はバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属する、請求項9〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記細菌が細菌培養物、細胞、又は処理細胞である、請求項9〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記4−ヒドロキシ−L−イソロイシンが、(2S,3S,4S)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3R,4R)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3S,4R)−4−ヒドロキシイソロイシン、(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシイソロイシン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7〜19のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−529856(P2009−529856A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544686(P2008−544686)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際出願番号】PCT/JP2007/056756
【国際公開番号】WO2007/119575
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】