説明

新規カタラーゼ及びこれをコードする遺伝子

【課題】産業上利用価値の高いカタラーゼを遺伝子工学的に大量生産するため、安定性が高く、かつ比活性の高いカタラーゼをコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】以下のa又はbのアミノ酸配列を有するタンパク質。a特定なアミノ酸配列からなるカタラーゼ、b特定なアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、及び以下のc又はdのDNAからなる遺伝子。c特定な塩基配列を含有するDNA、d特定な塩基配列において1若しくは複数の核酸が欠失、置換若しくは付加された核酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた安定性及び高い比活性を有する新規カタラーゼ及びこれをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、酸化作用を有し、分解すると水と酸素になることから、塩素系薬剤の代替物として、繊維やパルプの漂白、食品の殺菌、半導体ウェハーの洗浄に広く使用されるようになった。しかし、この過酸化水素はそのままでは排水中の化学的酸素要求量(COD)を増加させたり生物処理工程へ悪影響を及ぼしたりするため、COD値等が水質汚濁防止法等の基準値以下となるよう、分解等の排水処理が必要とされている。
【0003】
過酸化水素の分解方法としては、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤を用いる方法が広く実施されているが、作業上の安全性の問題や、過酸化水素に対して当量添加しなければならない等の問題があるため、安全でかつ確実な処理方法が求められている。カタラーゼは過酸化水素を有効に分解する酵素であり、自然界に広く分布することが知られており、ウシ肝臓由来、アスペルギルス(Aspergillus)属由来、ミクロコッカス(Micrococcus)属由来のもの等が市販されている。しかし、カタラーゼは一般に高価であり、安定性が十分でないため、これまで広く普及するに至っていない。
【0004】
工業利用のためのカタラーゼには、高い安定性と生産性が要求される。生産性の高さは、培養日数や培養液あたりの活性及びタンパク質当たりの活性(比活性)を指標に判断される。例えば、特許文献1には、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TE124株により産生されるカタラーゼ、これをコードする遺伝子、及びこの遺伝子を用いたカタラーゼの製造方法が提案されている。また、本発明者らは、カタラーゼを高効率に生産する細菌リゾビウム
エスピー 2−1(Rhizobium sp. 2-1)株(以下、単に「2−1株」と記載することがある)を単離し、この株の生産するカタラーゼは、既に工業利用されているミクロコッカス・ルテウス由来のカタラーゼよりも遙かに強いカタラーゼ活性を示すと共に、2−1株が生産するカタラーゼは、収量のみならず、比活性においても優れていることを見出している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−275669号公報
【特許文献2】特開2006−304786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2−1株が生産するカタラーゼを安価かつ大量に製造するためのアプローチとして、遺伝子工学的手法により形質転換体に高生産させることが考えられるが、そのためには、2−1株が生産するカタラーゼをコードする遺伝子の全塩基配列を決定することが不可欠である。本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、リゾビウム
エスピー 2−1(Rhizobium sp. 2-1)株の生産するカタラーゼのアミノ酸配列、及びこれをコードする遺伝子の塩基配列を解明し、これらを基に、優れた安定性及び高い比活性を有する新規カタラーゼを、高効率かつ高純度で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は以下のような構成からなる。
(1)以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるカタラーゼ
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質
(2)以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるカタラーゼ
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質
(3)以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c)配列番号2に示される塩基配列を含有するDNA
(d)配列番号2に示される塩基配列において1若しくは複数の核酸が欠失、置換若しくは付加された核酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【発明の効果】
【0007】
本発明により、安定性が高く、かつ比活性が高いカタラーゼを遺伝子工学的に製造することが可能になり、排水処理など産業への応用を可能にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決する発明として、リゾビウム エスピー 2−1(Rhizobium sp.
2-1)株の遺伝子であって、配列番号2に示される塩基配列を有するカタラーゼ遺伝子を提供する。また本発明は、前記遺伝子の発現産物であって、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するカタラーゼを提供する。以下、これらの発明の実施形態について詳しく説明する。
【0009】
本発明の高活性カタラーゼをコードする遺伝子は、例えばリゾビウム エスピー 2−1株を起源とする。 リゾビウム エスピー 2−1株は工場排水より分離した菌株である。菌株の分離は、リゾビウム属の分離に用いることができる任意の公知の方法を用いて行うことができる。
【0010】
培養した菌体よりカタラーゼを精製するには以下のような方法が挙げられるが、ここに記載した方法に限定されるものではない。まず、培養液より遠心分離にて菌体を回収し、次いで菌体を破砕する事によりカタラーゼを抽出する。菌体の破砕方法としては、任意の公知の方法を用いることができ、例えば、リゾチームのような細胞壁溶解酵素による処理、超音波照射、ガラスビーズ破砕、フレンチプレス等の物理的処理、トルエンのような有機溶媒による自己分解、又はこれらの方法を組合せて行う事ができる。
【0011】
このようにして得られた粗酵素抽出液を50℃で一晩インキュベートし、変性したタンパク質を遠心分離によって沈殿させ得られた上清を50℃処理液とした。50℃処理液は、各種クロマトグラフィーの組み合わせや硫安沈殿等の任意の公知の方法によって高純度に精製することができる。
【0012】
上記方法により精製したタンパク質は、SDS−PAGEにおいてほぼ均一なバンドを与える。
【0013】
本発明において精製されたカタラーゼとして、具体的に次のような理化学的性質を有するものを挙げることができる。
(1)至適作用温度:pH7の50mMリン酸緩衝液で調整された30mM過酸化水素水溶液に対する、各温度下での酵素の活性測定にて、本カタラーゼは4〜70℃の範囲で活性を示し、至適温度は4〜35℃である。
(2)至適作用pH:30mM過酸化水素を含む各種pHの緩衝液を用いて、30℃で活性を測定した場合、本カタラーゼは作用pH範囲が4〜12で、至適pH範囲が6〜9の広範囲の至適領域を有している。
(3)熱安定性:pH7の50mMリン酸緩衝液に溶解してなる約15,000U/mlの酵素溶液を、各温度で15分保持した後急冷し、30℃において残存活性を測定した場合、本カタラーゼは60℃まで極めて安定で65℃でも40%以上の残存活性を示す。
(4)pH安定性:各種pHの緩衝液に750U/mlとなるように酵素を溶解し30℃で30分間処理した後、残存活性を測定した場合、本カタラーゼはpH6〜11の範囲で極めて安定であり、pH12のアルカリ側においても60%以上の残存活性を示す。
(5)分子量:約55,100
(6)比活性:約162,200U/mg−タンパク質
このような理化学的性質を有するカタラーゼは、安定性や比活性の高さにより、過酸化水素の分解に好適に用いることができる。
【0014】
本発明のカタラーゼをコードする遺伝子はリゾビウム エスピー 2−1株から抽出しても良く、また化学合成する事もできる。上記遺伝子としては、例えば配列番号2に示された塩基配列を有するDNA、配列番号1に記載されたアミノ酸配列をコードするDNA、配列番号2に示された塩基配列において1又は複数の塩基が付加、欠失若しくは置換され且つカタラーゼ活性を保持するタンパク質をコードするDNA、及び配列番号1に記載されたアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が付加、欠失若しくは置換され且つカタラーゼ活性を保持するタンパク質をコードするDNA等が挙げられる。
【0015】
本発明の遺伝子は、例えば、分離及び精製したリゾビウム エスピー 2−1株由来の染色体を超音波破砕や制限酵素等の処理により分解されたものと、リニヤーな発現ベクターとを、両DNAの平滑末端又は接着末端部を用いてDNAリガーゼ等により結合閉環させ、組換えベクターとして構築することができる。こうして得られた組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、例えば、既知カタラーゼ遺伝子の配列より作製したオリゴDNAを用いてPCRにより増幅した該カタラーゼ遺伝子の一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法等の、ベクターのマーカーとカタラーゼ遺伝子の存在を検出する方法を用いてスクリーニングし、該カタラーゼ遺伝子が挿入された組換えベクターを保持する形質転換体を得る。次いで該形質転換体を培養し、該培養菌体から該組換えベクターを分離及び精製し、カタラーゼ遺伝子を採取すればよい。
【0016】
遺伝子供与体であるリゾビウム エスピー 2−1株に由来するDNAは、具体的には以下のように採取される。すなわち、リゾビウム エスピー 2−1株を栄養培地にて一晩攪拌培養して得られた培養物を遠心分離にて集菌し、次いでこの菌体を破砕させる事によりカタラーゼ遺伝子を含有する菌体破砕液を調製する事ができる。菌体破砕の方法としては、例えば超音波照射やフレンチプレスのような物理的手法が挙げられる。
【0017】
菌体破砕液からのDNAの分離及び精製は、例えば、フェノール処理やプロテアーゼ処理による除蛋白処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈澱処理等の任意の公知の方法を適宜組合せて行う事ができる。微生物から分離精製されたDNAを切断する方法としては、例えば超音波処理、制限酵素処理等が挙げられる。
【0018】
上記の方法により得られたカタラーゼ遺伝子の塩基配列は、ジデオキシ法、マクサム−ギルバート法、又は耐熱性DNAポリメラーゼを用いたサイクルシークエンス法(PCR)等の任意の公知の方法を適宜組合せて解読する事ができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0020】
カタラーゼの活性測定は、以下のようにして行った。まず、30mM過酸化水素を含む50mMリン酸緩衝液(pH7)を調整し、この1mlを1cmの光透過石英セルに入れ、菌体抽出液を数μl添加して反応を開始させた。分光光度計により過酸化水素の減少を240nmの吸光値で検出し、その減少の初速度から活性値を算出した。具体的には、1分間に1マイクロモルの過酸化水素を分解する酵素量を1単位(U)とした。
【0021】
参考例1 リゾビウム エスピー 2−1株からのカタラーゼの精製
まず、リゾビウム エスピー 2−1株をフラスコで30ml培養した。30℃にて24時間通気・攪拌培養を(OD660が3.5〜4.5に到達するまで)実施する。次いで、この前培養液を滅菌した本培養液3Lに植菌した。 植菌後、30℃で24時間通気・攪拌培養し、遠心分離により菌体を回収した。このときの菌体収量は20g(湿重量)であった。回収された菌体は50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、以後の精製に供した。なお、種培養液と本培養液の培地組成については下記に示した。
【0022】
1% ペプトン、0.5% 酵母エキス、1.0%塩化ナトリウム
【0023】
回収した菌体からのカタラーゼ精製は、以下の通りに実施した。上記菌体懸濁液をフレンチプレスにより破砕し、遠心分離により上清を回収した(無細胞抽出液:CFE)。得られた粗酵素液を50℃にて一晩インキュベートした後、遠心分離によって変性した不要タンパク質を取り除いた。このとき得られた上清を50℃処理液とした。50℃処理液をResource Q(GEヘルスケアバイオサイエンス製)陰イオンカラムクロマトグラフィーに供し、硫安分画によって濃縮した。さらに、Superose 12(GEヘルスケアバイオサイエンス製)ゲルろ過に供したところ、本カタラーゼは分子量約280,000の位置に溶出した。これを回収し、精製酵素標品を得た。また、該方法により得られたカタラーゼ標品はSDS−PAGEにおいてほぼ均一なバンドを示し、このときの比活性は約162,200U/mg−タンパク質であった。表1に精製段階のまとめを示す。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1 N末端アミノ酸の配列決定
精製酵素約50pmolをSDS−PAGEに供した後、PVDF膜にブロッティングし、クマシーブリリアントブルーR250にて染色した後、カタラーゼのバンドを切り出し、アミノ酸シーケンサーに供した。N末端アミノ酸の配列決定は東レリサーチセンターによって行われた。詳しくは、試料をメタノールで洗浄後、蒸留水中で10分間超音波照射し、再度メタノールで洗浄後、乾燥させた。これをプロテインシーケンサー G1000A(Hewlett Packard製)、PTHアナライザー1090型(Hewlett
Packard製)、分析プログラムRoutine3.1PVDFに供してN末端より20サイクルまでを測定した。このようにして得られたアミノ酸解析の結果を以下に示す。
N末端アミノ酸配列:T-D-M-N-K-K-Q-G-G-T-G-S-T-T-G-T-G-A-P-A
【0026】
実施例2 リゾビウム エスピー 2−1株のカタラーゼ遺伝子のクローニング
相同性解析による保存領域の特定
N末端アミノ酸配列を基に米NCBIのホームページから遺伝子の相同性検索を行った。解析オプションとしてSearch
for short、nearly exact matchesを選択して解析を行ったところ、ニトロバクター・ハンバージェンシス(Nitrobacter hamburgensis) X14株由来のカタラーゼと68%の相同性が認められた。次に、ニトロバクター・ハンバージェンシス(Nitrobacter
hamburgensis) X14株由来のカタラーゼのアミノ酸配列を元にBLASTプログラムによる相同性解析を行った結果、多くのカタラーゼ遺伝子との相同性が認められた。そこで、これらのうち、リゾビウム属及びその近縁菌由来のカタラーゼを選出し、アミノ酸配列のアライメント解析を行った結果、配列が高度に保存された領域を2箇所発見した。このアミノ酸配列共通領域を以下に示す。
上流側:VGNNTPVF 下流側:NPFDLTKVWPH
【0027】
5’及び3’プライマーの合成
5’側のプライマーとして、リゾビウム
エスピー 2−1株より精製したカタラーゼのN末端アミノ酸配列情報を元に、配列番号3に示されるプライマー(CatFプライマー)を合成した。また、3’側のプライマーとして、2ヶ所のアミノ酸配列共通領域を元に、配列番号4に示されるプライマー(CatR1プライマー)、及び配列番号5に示されるプライマー(CatR2プライマー)を合成した。
【0028】
PCR反応
上記の記載にしたがい合成したプライマー(フォワード1種、リバース2種)を用いてタッチダウンPCRによる2−1株染色体DNAからのカタラーゼ遺伝子の直接取得を以下の通り実施した。DNA抽出キットISOPLANT
II(ニッポンジーン社製)を用いて前染色体DNAを抽出し、これをテンプレートとした。
下記の組成にてPCR反応液を調製した。
template DNA 1μl
(100ng)
2.5mM dNTPs 2μl
YS-Fプライマー 2μl (20pmol)
YS-Rプライマー 2μl (20pmol)
Taq DNA polymerase 0.5μl (2.5U)
(タカラバイオ製 EX-Taq)
10×buffer 2μl
D.W. 10.5μl
Total volume 20μl
また、PCRの反応サイクル条件は以下のとおりである。95℃で4分間変性処理を行った後、95℃,20秒→60℃,20秒→72℃,1分のサイクルを1サイクル毎に0.5℃下げながら19回実施し、さらに95℃,20秒→50℃,20秒→72℃,40秒のサイクルを10回実施し、最後に72℃,4分間の加温処理を行い終了した。アガロースゲル電気泳動により、このPCR産物の断片の長さを確認したところ、CatFとCatR1の組み合わせでは約400bp、CatFとCatR1の組み合わせでは約850bpであった。これは相同性検索の結果より推定される鎖長と概ね一致しており、2−1株のカタラーゼ遺伝子であると同定した。
【0029】
PCR産物の塩基配列決定
CatFとCatR1、CatFとCatR1のそれぞれの組み合わせで得られたPCR産物についてBig Dye Terminator Cycle Sequence kit Ver.3.1、及びABI310シーケンサー(PEバイオシステム社製)を用いて塩基配列を決定した。その結果、CatF−CatR1の塩基配列はCatF−CatR2の塩基配列の前半部分と完全に一致した。また、CatF−CatRの下流の配列は精製カタラーゼのN末端アミノ酸配列と完全に一致した。
【0030】
実施例3 全カタラーゼ遺伝子の塩基配列決定
PCR産物の塩基配列を基にインバースPCRによる完全長カタラーゼ遺伝子のクローニングを以下の通り実施した。2−1株の全染色体DNAを各種制限酵素で切断し、T4 DNAリガーゼ(タカラ社製)によってセルフライゲーションを行い、環状化DNAを得た。プライマーには、配列表・配列番号6記載のプライマー(invFプライマー)、配列番号7に示されるプライマー(invRプライマー)を合成した。
下記の組成にてPCR反応液を調製した。
template DNA 15μl
(150ng)
2.5mM dNTPs 8μl
YS-Fプライマー 1.25μl (125pmol)
YS-Rプライマー 1.25μl (125pmol)
Taq DNA polymerase 1μl(5U)
(タカラバイオ製 EX-Taq)
10×buffer 5μl
D.W. 18.5μl
Total volume 50μl
また、インバースPCRの反応サイクル条件は以下のとおりである。94℃で3分間変性処理を行った後、98℃,10秒→70℃,5分30秒→70℃,10分のサイクルを25回実施した。このPCR産物について制限酵素Sal IとPst Iで切断したところ、1,854bpの断片を取得し、これを塩基配列解析に供した。その結果、上流側には、開始コドン及びリボソーム結合部位(SD配列)、下流側には終始コドン、転写終結点と推定されるヘアピンループ構造が見られた。さらに、アミノ酸配列に翻訳したところ、ORF中のN末端アミノ酸配列は精製酵素のN末端アミノ酸配列(20アミノ酸)と完全に一致した。また、決定した塩基配列より求められるタンパク質の分子量は約55,100であり、精製酵素の分子量(約60,000)とほぼ一致した。以上の結果より、リゾビウム
エスピー 2−1(Rhizobium sp. 2-1)株が生産するカタラーゼの全遺伝子配列が決定された。
【0031】
実施例4 カタラーゼの理化学的性質
前述の参考例1によって精製されたリゾビウム エスピー 2−1株由来カタラーゼの理化学的性質について測定結果を示す。
【0032】
熱安定性
酵素液を15000U/mlになるように50mMリン酸緩衝液(pH7)に溶解し、各温度で15分間加温した後の残存活性を前記カタラーゼ活性測定法に従って測定し、その結果を図1に示した。これより、本カタラーゼは、60℃までは安定で、65℃でも40%の活性を保持していることが分かった。
【0033】
pH安定性
酵素液を750U/mlになるように50mMの各緩衝液に溶解し、30℃で30分間処理した後の残存活性を前記カタラーゼ活性測定法に従って測定し、その結果を図2に示した。pH3〜6は50mMのクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(図中◆印)、pH6〜7は50mMのリン酸緩衝液(図中■印)、pH8〜9は50mMのTris−塩酸緩衝液(図中▲印)、pH9〜10は50mMのグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(図中●印)、pH11〜12は50mMのリン酸水素二ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(図中◆印)を使用した。図2より、本カタラーゼはpH6〜11の範囲で極めて安定であり、pH12のアルカリ側においても60%以上の残存活性を示すことが分かった。
【0034】
至適作用温度
30mM過酸化水素を含む50mMリン酸緩衝液1mlを試験管中で各温度に予備加温した後、適当に希釈した酵素液0.008mlを添加して酵素反応を開始し、反応開始2分後に10%硫酸を150μl添加して反応を停止させた。このときの240nmにおける吸光度を測定した。また、酵素液を添加する前に硫酸を添加したものを盲検とし、同様に240nmにおける吸光度を測定した。この酵素反応後の吸光度と盲検の吸光度の吸光度差より酵素活性を求め、30℃の時の活性を100%とした相対活性を図3に示した。これより、本カタラーゼの至適作用温度は4〜35℃であることが分かった。
【0035】
至適作用pH
30mM過酸化水素を含む各緩衝液1mlを試験管中で30℃に予備加温した後、適当に希釈した酵素液0.008mlを添加して酵素反応を開始し、反応開始2分後に10%硫酸を150μl添加して反応を停止させた。このときの240nmにおける吸光度を測定した。また、酵素液を添加する前に硫酸を添加したものを盲検とし、同様に240nmにおける吸光度を測定した。この酵素反応後の吸光度と盲検の吸光度の吸光度差より酵素活性を求め、その結果を図4に示した。pH3〜6は50mMのクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(図中◆印)、pH6〜7は50mMのリン酸緩衝液(図中■印)、pH8〜9は50mMのTris−塩酸緩衝液(図中▲印)、pH9〜10は50mMのグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(図中●印)、pH11〜12は50mMのリン酸水素二ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液(図中◆印)を使用した。図4は、pH7の時の活性を100%とした相対活性を示すもので、これより本カタラーゼは至適pH範囲が6〜9の広範囲の至適領域を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明遺伝子を用いることにより、安定性が高くかつ比活性が高いカタラーゼを高効率に生産でき、安価に製造することが可能になった。これより得られるカタラーゼは、過酸化水素の分解に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のカタラーゼの熱安定性を示した図である。
【図2】本発明のカタラーゼのpH安定性を示した図である。
【図3】本発明のカタラーゼの至適作用温度を示した図である。
【図4】本発明のカタラーゼの至適作用pHを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるカタラーゼ
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるカタラーゼ
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項3】
以下の(c)又は(d)のDNAからなる遺伝子。
(c)配列番号2に示される塩基配列を含有するDNA
(d)配列番号2に示される塩基配列において1若しくは複数の核酸が欠失、置換若しくは付加された核酸配列からなり、かつカタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−17875(P2009−17875A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151410(P2008−151410)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(505122575)有限会社S.Gラボラトリー (3)
【Fターム(参考)】