説明

新規グラフト共重合体及びその製造方法

本発明は、ポリエーテル鎖をグラフト鎖に有する高いイオン導電性を有する固体電解質の基材となる新規なグラフト共重合体、及び該グラフト共重合体と電解質塩からなる固体電解質を提供することを目的とする。
式(I)


(式中、Rは、末端に活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、Xは、式(II)


で表される繰り返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位を有することを特徴とする共重合体。

【発明の詳細な説明】
技術分野:
本発明は、電池、キャパシター、センサー、コンデンサー、EC素子、光電変換素子等の電気化学用デバイス材料として好適な高分子固体電解質に適した高分子共重合体に関する。
従来技術:
高分子固体電解質として、ポリエーテル鎖がグラフト重合した重合体及び電解質塩から組成物が知られている。例えば、クロロメチルスチレンとメタクリル酸メチルとからラジカル重合法によりランダム共重合体を得た後、該ランダム共重合体を開始剤とし、銅錯体を触媒とするリビングラジカル重合法によりメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートをグラフト共重合させたランダム・グラフト共重合体をマトリックスとする真性高分子固体電解質が知られており、ポリエチレンオキサイド成分が40重量%前後で、イオン伝導性が室温で10−4S/cmオーダーであり、ヤング率が室温で数MPaであるとされている。(Polymer preprints,Japan Vol51,No.11,2742(2002)を参照)
しかし、後述するように、上記高分子固体電解質フィルムのイオン伝導性の値は、再現性に乏しく、充分満足のいくものとは言えなかった。また、上記フィルムの電子顕微鏡観察を行ったところ、相分離構造は観察されず均一構造であった。均一構造を有する高分子をマトリックスとする高分子固体電解質のイオン伝導性はポリエチレンオキサイド成分含有量に依存することが知られており、上記文献記載の高分子固体電解質は、エチレンオキサイド含有量が40重量%程度であり、この程度の含有量でイオン伝導性が10−4S/cmオーダーであることは、通常は考えられないことが予想された。
発明の開示:
本発明は、ポリエーテル鎖をグラフト鎖に有する高いイオン導電性を有する固体電解質の基材となる新規なグラフト共重合体、及び該グラフト共重合体と電解質塩からなる固体電解質を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、アルコキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート単位をグラフト鎖とするグラフト共重合体において、ポリスチレンのような無極性且つ剛直な繰り返し単位をブロック鎖等として結合させたグラフト共重合体とすることによりミクロ相分離構造が発現し、結果的に高いイオン導電性と優れた膜物性とを両立させることが可能であることを見出し、更に2種類のリビングラジカル重合法を併用することによりかかるグラフト共重合体を製造しうることを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、基本的に次の(1)〜(24)の発明単位から構成される。
(1)式(I)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、Rは、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、Rは、ハロゲン原子、または有機基を表し、Xは、式(II)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R51、及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、またはまたはC1〜C4アルキル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基、シリル基、ホスホリル基、炭化水素ホスホリル基、または炭化水素スルホニル基を表し、dは、1〜1000のいずれかの整数を表し、dが2以上の場合には、R同士、R51同士、R52同士、R同士、及びe同士は、同一または相異なっていてもよく、eは、1〜100のいずれかの整数を表し、eが2以上の場合には、R同士、及びR52同士は、同一または相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有する有する重合体鎖を表し、aは、1〜3のいずれかの整数を表し、aが2以上の場合、R同士、及びX同士は、同一または相異なっていてもよく、bは、1または2を表し、bが2の場合、X同士は、同一でも相異なっていてもよく、cは0または1〜(4−a)のいずれかの整数を表し、cが2以上の場合、R同士は、同一または相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位を有することを特徴とする共重合体。
(2)式(I)中、Rが、式(IV)

(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、式(I)におけるbが2の場合には、Xとの結合手を表す。)で表される官能基であることを特徴とする(1)に記載の共重合体。
(3)式(I)で表される繰り返し単位の重合度が、3以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の共重合体。
(4)非極性部位からなる繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の共重合体。
(5)式(II)で表される繰り返し単位を有する重合体鎖中、式(II)で表される繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の共重合体。
(6)式(I)で表される繰り返し単位と非極性部位からなる繰り返し単位が、ブロック共重合していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の共重合体。
(7)式(I)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖(A)と同一でも相異なっていてもよい非極性部位からなる繰り返し単位を有するブロック鎖(B)及び(C)が、(B)、(A)、(C)の順の配置を有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の共重合体。
(8)(B)、(A)、(C)の順の配置が、(B)−(A)−(C)の結合した配列であることを特徴とする(7)に記載の共重合体。
(9)式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、式(I)で表される繰り返し単位のモル数が、0.001〜50%の範囲であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の共重合体。
(10)式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、式(II)で表される繰り返し単位のモル数が、9.999〜80%の範囲であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の共重合体。
(11)式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、非極性部位からなる繰り返し単位のモル数が、19.999〜90%の範囲であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の共重合体。
(12)非極性部位からなる繰り返し単位が、式(III)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)で表される繰り返し単位であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の共重合体。
(13)式(III)中、Rが、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることを特徴とする(12)に記載の共重合体。
(14)式(III)で表される繰り返し単位が、式(V)

(式中、R11は、水素原子、または、メチル基を表す。)で表される繰り返し単位であることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の共重合体。
(15)数平均分子量が、10,000〜5,000,000の範囲であることを特徴とする(1)〜(14)のいずれかに記載の共重合体。
(16)式(VI)

(式中、R11は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R12は、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、Yは、ハロゲン原子を表し、R13は、ハロゲン原子、または有機基を表し、a1は、1〜3のいずれかの整数を表し、a1が、2以上の場合、R12同士、Y同士、及びb1同士は、同一でも相異なっていてもよく、b1は、1または2を表し、b1が2の場合、Y同士は、同一でも相異なっていてもよく、c1は0または1〜(4−a1)のいずれかの整数を表し、c1が2以上の場合、R13同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される化合物と、式(VII)

(式中、R17は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R18は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で表される化合物を、安定ラジカル系重合開始剤を用い、リビングラジカル重合させて共重合体を得、次いで、得られた共重合体を開始剤とし、遷移金属錯体を用いて式(VIII)

(式中、R14は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R151、及びR152は、それぞれ独立して、水素原子、またはまたはC1〜C4アルキル基を表し、R16は、水素原子、炭化水素基、アシル基、シリル基、ホスホリル基、炭化水素ホスホリル基、または、炭化水素スルホニル基を表し、e1は、1〜100のずれかの整数を表し、e1が2以上の場合には、R151同士、及びR152同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される化合物をリビングラジカル重合させることを特徴とする共重合体の製造方法。
(17)式(VI)中、R12が、式(IX)

(式中、R19及びR110は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、式(VI)において、b1が2の場合には、Yとの結合手を表す。)で表される官能基であることを特徴とする(16)に記載の共重合体の製造方法。
(18)式(VI)で表される化合物と式(VII)で表される化合物から得られる共重合体が、ブロック共重合体であることを特徴とする(16)または(17)に記載の共重合体の製造方法。
(19)安定ラジカル系開始剤が、安定フリーラジカル化合物とラジカル重合開始剤、またはアルコキシアミン類からなることを特徴とする(16)〜(18)のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
(20)安定フリーラジカル化合物が、ニトロキシル化合物であることを特徴とする(19)に記載の共重合体の製造方法。
(21)ラジカル重合開始剤が、有機過酸化物またはアゾ化合物であることを特徴とする(19)または(20)に記載の共重合体の製造方法。
(22)(1)〜(15)のいずれかに記載の共重合体、及び電解質塩を含むことを特徴とする高分子固体電解質。
(23)電解質塩が、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩、及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(22)に記載の高分子固体電解質。
(24)電解質が、リチウム塩であることを特徴とする(23)に記載の高分子固体電解質。
以下において、本発明を具体的に詳細に説明する。
(1)本発明のブロック・グラフト共重合体
本発明のブロック・グラフト共重合体は、式(I)で表される繰り返し単位及び非極性部位からなる繰り返し単位を有する共重合体であることを特徴とする。
式(I)中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ナフチル基、またはベンジル基等を例示することができる。
また、Rにおいて、適当な炭素原子上に置換基を有していてもよく、そのような置換基として具体的には、フッ素原子、クロル原子、またはブロム原子等ハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ニトリル基、ニトロ基、メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基等を例示することができる。
式(I)中、Rは、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表す。ここで、「活性ハロゲン原子を有することのできる官能基」とは、構成する炭素原子にハロゲン原子が結合した場合に、そのハロゲン原子が活性ハロゲン原子となるような構造を有する官能基という意であり、具体的には、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、ニトリル基、ニトロ基等の電子求引基等のα位にハロゲン原子を有することのできる官能基を例示することができる。
に結合するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられ、特に塩素原子、臭素原子が好ましい。
の具体例としては、以下の官能基が挙げられる。

特に、Rとして、式(IV)で表される官能基を好ましく例示することができる。式(IV)中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または置換基を有していてもよいC1〜10炭化水素基を表し、式(I)におけるbが2の場合には、Xとの結合手を表す。
、及びR10として具体的には、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭素数1〜10の炭化水素基を例示することができる。
また、Rと同様に、適当な炭素原子上に置換基を有することができ、そのような置換とし同様のものを例示することができる。
式(IV)として具体的には、下記式に示す官能基を例示することができる。

式(I)中、Rは、ハロゲン原子、または有機基を表し、cは0または1〜(4−a)のいずれかの整数を表し、cが2以上の場合、R同士は、同一または相異なっていてもよい。Rとして具体的には塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子等のハロゲン原子、またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭素数1〜10の炭化水素基、メトキシ基、エトキシ等のアルコキシ基、メチルチオ基、アセチル基等の有機基を例示することができる。
また、Rと同様に、適当な炭素原子上に置換基を有することができ、そのような置換とし同様のものを例示することできる。
式(I)中、Xは、式(II)で表される繰り返し単位を有する重合鎖を表す。式(II)中、Rは、水素原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、具体的には、Rで示した具体例と同様の官能基を例示することができる。
51、及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、またはまたはC1〜C4アルキル基を表し、そのような官能基として、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等を例示することができる。eは、1〜100のいずれかの整数を表し、eが2以上の場合、R51同士及び、及びR52同士は、同一でも相異なっていてもよい。
は、水素原子、炭化水素基、アシル基、シリル基、ホスホリル基、炭化水素ホスホリル基、または炭化水素スルホニル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、フェニル基、置換フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等のシリル基、ジメチルホスホリル基、ジフェニルホスホリル基等の炭化水素ホスホリル基、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等の炭化水素スルホニル基等を例示することができる。
dは、1〜1000のいずれかの整数を表し、dが2以上の場合に、R同士、R51同士、R52同士、R同士、及びe同士は、同一または相異なっていてもよく、eは、1〜100のいずれかの整数を表し、eが2以上の場合には、R同士及び、及びR52同士は、同一または相異なっていてもよい。
式(II)で表される繰り返し単位として、具体的には以下の化合物を例示することができる。但し、式(II)で表される繰り返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示することとする。
また、これらの繰り返し単位は、一種単独でも、2種以上を混合していても構わない。
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、「ブレンマーPMEシリーズ」〔式(I)においてR=R=水素原子、R=メチル基、m=2〜90に相当する単量体〕(日本油脂製)、アセチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンゾイルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルジメチチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールシクロヘキセン−1−カルボキシレート、メトキシポリエチレングリコール−シンナメート。
本発明の共重合体中に含まれる非極性部位からなる繰り返し単位は、フェニル基、ナフチル基、メチル基、エチル等の炭化水素基等に代表される極性基を含まない官能基、繰り返し単位全体として影響のない範囲で極性基を含む官能基、または、式(I)で表される繰り返し単位に比して極性的に差のある官能基等であれば、特に限定されないが、具体的には、式(III)で表される繰り返し単位を好ましく例示することができる。
式(III)で表される繰り返し単位中、Rは、水素原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、具体的には、Rで示した具体例と同様の官能基を例示することができる。
また、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等を例示することができ、芳香族炭化水素基を好ましく例示することができる。Rは、適当な炭素原子上に置換基を有していてもよく、そのよなうな置換基として、具体的には、フッ素原子、クロル原子、またはブロム原子等ハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ニトリル基、ニトロ基、メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基等を例示することができる。
式(III)で表される繰り返し単位として、具体的には、以下の繰り返し単位を例示することができ、特に、式(V)で表される繰り返し単位を好ましく例示することができる。但し、式(III)で表される繰り返し単位に誘導されると考えられる単量体で例示することとする。
式(III)で表される繰り返し単位は、1種単独でも、2種以上を混合していても構わない、
スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、1−ビニルナフタレン、9−ビニルアントラセン等。
式(I)で表される繰り返し単位の重合度(繰り返し単位のモル数を表す。以下同じ)は、特に制限されないが、3以上であるのが好ましい。3未満では、十分なイオン伝導性が得られない。
式(III)等で代表される非極性部位からなる繰り返し単位の重合度は、特に制限はされないが、5以上であるのが好ましい。5未満では、膜質が低下し、しかも、成膜時に鮮明なミクロ相分離構造を有しないという問題がある。
式(II)で表される繰り返し単位を有する重合体鎖中の式(II)で表される繰り返し単位中の重合度は、特に制限されないが、5以上であるのが好ましい。5未満では、十分なイオン伝導性が得られない。
本発明の共重合体は、式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表される繰り返し単位、及び式(III)等で代表される非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数(以下、該総モル数という)に対して、式(I)で表される繰り返し単位のモル数が、0.001〜50%の範囲であるのが好ましい。0.001%未満では、十分なイオン伝導性が得られず、50%より大きいと、成膜された膜の質が低下する場合がある。
また、該総モル数に対して、式(II)で表される繰り返し単位のモル数が、9.999〜80%の範囲であるのが好ましい。9.999%未満では、イオン伝導性が低下し、80%より大きい場合には、膜質が低下する場合がある。
また、該総モル数に対して、式(III)等で代表される非極性部位からなる繰り返し単位のモル数が、19.999〜90%の範囲であるのが好ましい。19.999%未満では、膜質が低下し、鮮明なミクロ相分離構造が得られず、90%より大きいと、イオン伝導性が低下する場合がある。
本発明における式(I)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖(A)、式(III)で代表される非極性部位からなる繰り返し単位を含むポリマー鎖(B)の結合状態は、特に制限されないが、ブロックで結合しているのが好ましい。ブロックで結合することにより、成形または成膜した際にミクロ相分離構造を発現し、固体状態でも、良好なイオン導電率を示す。尚、ブロックで結合しているとは、各ポリマー鎖(A)、(B)が、直接または他のポリマー鎖もしくは連結基で間接的に結合していることを意味する。また、各ポリマー鎖を構成する繰り返し単位間の成分比が徐々に変化するテーパーブロックも本発明でいうブロック結合に含まれることとする。この際、他のポリマー鎖は、ホモポリマーでも、2元以上の共重合体であってもよく、共重合体の場合には、その中の結合状態は特に制限されず、ランダム、テーパーブロック、ブロックであってもよい。また、式(I)等で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖(A)等とは、式(I)等で表される繰り返し単位のみからなるポリマー鎖、式(I)等で表される繰り返し単位と他の成分からなる共重合ポリマー鎖を意味する。
本発明の共重合体は、ポリマー鎖(A)、(B)及び、ポリマー鎖(B)と同一または相異なっていてもよいポリマー鎖(C)が、(B)、(A)、(C)の順の配置を有するのが好ましく、特に、(B)−(A)−(C)の結合した配列であるのが好ましい。
上記した配列として具体的には、[(A)−(B)]j、[(B)−(A)−(C)]j、[(A)−(B)−(A)]j(jは、1以上のいずれかの整数を表す)等を例示することができる。 また、上記各ブロックポリマーをそれぞれカップリング剤の残基を介して下記式(1)〜(3)で表わされるような、セグメントが延長または分岐されたブロックコポリマーとすることもできる。尚、式中、wは1以上の整数を表し、Xはカップリング剤の残基を表す。
[(A)−(B)]w−X・・・(1)
[(B)−(A)−(C)]w−X・・・(2)
[(A)−(B)−(A)]w−X・・・(3)
式(I)及び(III)で代表される非極性部位からなる繰り返し単位を有する共重合体の数平均分子量は、特に制限されないが、10,000〜5,000,000の範囲を好ましく例示することができる。10,000より小さい場合には、熱的特性、物理的特性が低下し、5,000,000より大きい場合には、成形性、または成膜性が低下する場合がある。
本発明の式(I)、式(II)、及び式(III)で代表される非極性部位からなる繰り返し単位を有する重合体鎖中、または各重合体鎖間には、必要に応じて、他の繰り返し単位を含めることができ、そのようなく繰り返し単位として、下記単量体から、誘導させる繰り返し単位を例示することができる。また、これらの繰り返し単位は、1種単独で、また、2種以上を混合して用いることができる。
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸2−メチル−2−アダマンチル、(メタ)アクリル酸1−メチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸1−エチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸3,7−ジメチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ノルボルナン、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロピラニル、(メタ)アクリル酸3−オキソシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ブチロラクトン、(メタ)アクリル酸メバロニックラクトン等の(メタ)アクリル酸誘導体、
1,3−ブタジエン、イソプレン、2、3−ジメチル−1、3−ブタジエン、1、3−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、1、3−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、4、5−ジエチル−1、3−オクタジエン、3−ブチル−1、3−オクタジエン、クロロプレンなどの共役ジエン類、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のα,β−不飽和カルボン酸イミド類、(メタ)アクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル類等。
(2)本発明のブロック・グラフト共重合体の製造方法
本発明のブロック・グラフト共重合体の製造方法は、以下に詳述する2種類のリビングラジカル重合法を用いることを特徴とする。即ち、安定ラジカル系開始剤を用いるリビングラジカル重合法によりブロック共重合体を得た後、得られたブロック共重合体をマクロ開始剤、遷移金属錯体を触媒とするリビングラジカル重合法によりグラフト共重合を行う方法である。
本発明の共重合体の製造方法に用いられる単量体は、式(VI)、式(VII)、及び式(VIII)で表される化合物であり、式(VI)、及び式(VIII)で表される化合物は、式(I)で表される繰り返し単位及び式(II)で表される繰り返し単位に相当し、式(VII)で表される化合物は、式(III)で表される繰り返し単位に相当するので、R11〜R14、R151、R152、及びR16〜R18で表される官能基の内容は、それぞれ、R〜R、R51、R52、R〜R表される官能基の内容に対応し、各化合物の具体例は、各繰り返し単位に誘導される単量体として例示した化合物と同様の化合物を例示することができる。また、aは、aと、b1は、bと、c1は、cと、e1はeに相当する。また、式(VI)で表される化合物中、Yは、ハロゲン原子を表し、具体的には、クロル原子、ブロム原子、ヨウ素原子等を表す。
また、式(IX)で表される官能基は、式(IV)で表される官能基に相当し、R19、R110で表される官能基の内容は、R、R10で表される官能基の内容に対応する。
本発明のブロック・グラフト共重合体の製造方法を、単量体に対応してさらに詳細に説明すると、式(VI)で表される化合物と、式(VII)で表される化合物とを、安定ラジカル系開始剤を用いるリビングラジカル重合法によりブロック共重合させた後、得られたブロック共重合体をマクロ開始剤、遷移金属錯体を触媒とするリビングラジカル重合法により、式(VIII)で表される化合物をグラフト重合させる方法となる。
式(VI)で表される化合物として、具体的には、4−クロロメチルスチレン、3−クロロメチルスチレン、4−クロロメチル−α−メチルスチレン、3−クロロメチル−α−メチルスチレン、4−ジクロロメチルスチレン等を例示することができる。
安定ラジカル系開始剤としては、安定フリーラジカル化合物とラジカル重合開始剤との混合物、または、各種アルコキシアミン類が挙げられる。
安定フリーラジカル化合物とは、室温または重合条件下で単独で安定な遊離基として存在し、また重合反応中には生長末端ラジカルと反応して再解離可能な結合を生成することができるものであり、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペルジニルオキシ、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ、4,4’−ジメチル−1,3−オキサゾリン−3−イルオキシ、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロジニルオキシ、ジ−t−ブチルニトロキシド、2,2−ジ(4−t−オクチルフェニル)−1−ピクリルヒドラジル等のニトロキシドラジカルやヒドラジニルラジカルを1〜複数個生成する化合物が例示される。
ラジカル重合開始剤とは、分解してフリーラジカルを生成する化合物であれば良く、具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物類、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのパーオキシケタール類等、キュメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類の有機過酸化物が例示できる。また、ジメチルアニリンやナフテン酸コバルト等有機過酸化物と組み合わせて用いられる公知の重合促進剤を併用しても良い。
これらのラジカル重合開始剤は、前述の安定フリーラジカル化合物1モルに対して通常0.05〜5モル、好ましくは0.2〜2モルの範囲で用いられる。
アルコキシアミン類としては、具体的には下記に示す化合物を例示することができる。

重合は、公知の各種重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが採用でき、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、重合温度は50〜200℃、好ましくは100〜150℃で行われる。溶液重合を行う場合の有機溶媒としては、特に制限されず、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、エタノール、n−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの多価アルコール誘導体類などを例示することができる。
上記安定ラジカル系開始剤を用いるリビングラジカル重合による共重合体の製造方法として、具体的には、
(1)例えば、第一の単量体の転化率が100%に達した後、第二の単量体を添加して重合を完結させ、これを繰り返すことによりブロック共重合体を得る単量体を逐次的に添加する方法、
(2)第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で第二の単量体を加えて重合を継続し、ブロック鎖間にランダム部分が存在するグラジエント共重合体を得る方法、
(3)第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で一旦反応を停止、系外に重合体を取りだし、得られた重合体をマクロ開始剤として他の単量体を加えて共重合を断続的に進め、ブロック共重合体を得る方法、
等を例示することができる。
共重合形態は、用いる安定フリーラジカル化合物が、1官能の場合には基本的にA−B型、B−A型、B−A−C型の共重合体が得られ、また、2官能の場合には基本的に、A−B−A型、B−A−B型の共重合体が得られる。
又、グラジエント共重合体を得る別の方法として、前記(2)の方法において安定フリーラジカル化合物を用いず、ラジカル重合開始剤のみで重合を行う通常のラジカル重合でもグラジエント共重合体を得る事は可能であり、この方法も本発明のグラフト共重合体の製造方法に包含される。
共重合反応過程の追跡及び反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、膜浸透圧法、NMRなどにより容易に行うことができる。共重合反応終了後は、カラム精製、減圧精製、又は、例えば水や貧溶媒中に投入して析出したポリマー分を濾過、乾燥させるなど、通常の分離精製方法を適用することにより共重合体を得ることができる。
本発明においては、前記した安定フリーラジカル系開始剤を用いるリビングラジカル重合で得られたブロック共重合体をマクロ開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とするリビングラジカル重合法により、グラフト重合を行なうことを特徴とする。
グラフト重合は、公知の各種重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが採用でき、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、重合温度は50〜200℃、好ましくは100〜150℃で行われる。溶液重合を行う場合の有機溶媒としては、特に制限されず、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、エタノール、n−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの多価アルコール誘導体類などを例示することができる。
本発明用いられる遷移金属錯体を構成する中心金属としては、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅等の周期律表第7〜11族元素(日本化学会編「化学便覧基礎編I改訂第4版」(1993年)記載の周期律表による)が好ましく挙げられる。金属種としては特に0価及び1価の銅、2価のルテニウム、及び2価の鉄を好適に例示することができる。より具体的には、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅等を例示することができる。これら銅化合物を用いた場合に、例えば、2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、トリブチルアミン等のアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルエチレンジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等のポリアミン等を、触媒活性を高める配位子として添加するのが好ましい。また、塩化ルテニウムトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)等の二価ルテニウム錯体好適に用いることができる。ルテニウム錯体を用いる場合には、トリアルコキシアルミニウム等のアルミニウム化合物を、触媒の活性を高めるために添加するのが好ましい。さらに、塩化鉄トリストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)等の二価鉄錯体も好適に用いることができる。また、これらの遷移金属錯体は、1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
グラフト鎖Xは、式(VIII)で表される化合物を重合させることにより得られるが、必要に応じて、他の重合性不飽和単量体、例えば、式(VII)で表される化合物、及び/または(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルなどの(メタ)アクリル酸エステル類との共重合体鎖とすることできる。
グラフト鎖Xを形成する方法として、具体的には、
(1)式(VIII)で表される化合物のみ用いて単独重合体鎖を得る方法、
(2)式(VIII)で表される化合物と他の重合性不飽和単量体とを反応系に同時に添加し、ランダム共重合体鎖を得る方法、
(3)式(VIII)で表される化合物と他の重合性不飽和単量体とを反応系へ逐次的に添加してブロック共重合体鎖を得る方法、
(4)式(VIII)で表される化合物と他の不飽和単量体との組成比を経時的に変化させて添加してグラジエント共重合体鎖を得る方法、
等を例示することができる。また、グラフト重合は、連続的に進めても、断続的に進めても良い。例えば、前記(3)の方法において、式(VIII)で表される化合物の重合が完了したことを確認後、他の重合性不飽和単量体を加えて共重合を連続的に行うことも、式(VIII)で表される化合物の重合が未完了でも所望の重合度又は分子量に到達したことが確認された段階で一旦系外にブロック・グラフト共重合体を取り出し、得られたブロック・グラフト共重合体をマクロ開始剤として他の重合性不飽和単量体を加えて共重合を断続的に進めることもできる。
グラフト重合反応過程の追跡及び反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、膜浸透圧法、NMRなどにより容易に行うことができる。グラフト重合反応終了後は、カラム精製、減圧精製、又は、例えば水や貧溶媒中に投入して析出したポリマー分を濾過、乾燥させるなど、通常の分離精製方法を適用することによりグラフト共重合体を得ることができる。
本発明で使用する電解質としては、特に限定されるものではなく、電荷でキャリアーとしたいイオンを含んだ電解質を用いればよいが、硬化して得られる高分子固体電解質中での解離定数が大きいことが望ましく、アルカリ金属塩、(CHNBF等の4級アンモニウム塩、(CHPBF等の4級ホスホニウム塩、AgClO等の遷移金属塩あるいは塩酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸が使用出来、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩または遷移金属塩の使用が好ましい。
使用しうるアルカリ金属塩の具体例としては、例えばLiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC(CH)(CFSO、LiCH(CFSO、LiCH(CFSO)、LiCSO、LiN(CSO、LiB(CFSO、LiPF、LiClO、LiI、LiBF、LiSCN、LiAsF、NaCFSO、NaPF、NaClO、NaI、NaBF、NaAsF、KCFSO、KPF、KI、LiCFCO、NaClO、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF等を例示することができ、これら電解質塩は混合し、使用しても良く、中でもリチウム塩が好ましい。
これら電解質塩の添加量は、高分子電解質の基材高分子である多分岐高分子中のアルキレンオキサイドユニットに対して、0.005〜80モル%、好ましくは0.01〜50モル%の範囲である。添加複合させる方法には特に制限なく、例えば、共重合体と電解質塩とをテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、エタノール、ジメチルホルムアミド等の適当な溶媒に溶解させる方法、共重合体と電解質塩とを常温又は加熱下に機械的に混合する方法等が挙げられる。
高分子固体電解質は、シート状等の形状が好ましく、その製造手段として、具体的には、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種コーティング手段により支持体上に本発明の共重合体及び電解質を含む組成物を成膜させ、次いで熱等で固化させ、その後支持体を除去することにより得る方法等を例示することができる。
本発明の高分子固体電解質は、熱的特性、物理的特性、及びイオン伝導度に優れた固体電解質として電池などの電気化学素子に重用されると期待できるものである。
発明を実施するための最良の形態:
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
(1)ブロック・グラフト共重合体の合成
4−クロロメチルスチレン(以下、4CMSと記す)131.0mmolと、1−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ)−1−フェニルエタン9.6mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、125℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して12時間後に、反応液を0℃に冷却して重合反応を停止させた。反応液をテトラヒドロフラン(THF)で希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、60℃で5時間減圧乾燥した。得られたポリマーの単離収率は56%であった。さらに、得られたポリCMSについてGPC分析を行ったところ、数平均分子量(以下、Mnと記す)は1,300、分散度(重量平均分子量(Mw)とMnとの比(Mw/Mn)、以下PDと記す)は1.35であった。
ついで、得られたポリCMS0.7mmolと、スチレン(以下、Stと記す)400mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、125℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始して24時間後に、反応液を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GC分析の結果、Stの重合転化率は63%であった。反応液をTHFで希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=37,000、PD=1.48であるポリ(4CMS−b−St)の構造を有するブロック共重合体[P−1]であった。
次いで、窒素雰囲気下において、予め窒素バブリング処理を行ったトルエン110gに、上記ブロック共重合体[P−1]0.1mmol、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−1000、式(VIII)においてe1=23)38mmol、塩化第一銅0.1mmol、2,2’−ビピリジン0.2mmolを加えて均一に混合後、攪拌下、80℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始してから20時間後に、反応系の温度を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GPC分析の結果、PME−1000の重合転化率は70%であった。反応液のカラム精製を行って金属錯体、及び未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=310,000、PD=1.52のポリマーであり、また、13CNMR分析を行ったところ、共重合体中の総繰り返し単位モル数に対する、4CMS繰り返し単位モル数、St繰り返し単位モル数、及びPME−1000繰り返し単位モル数の比率が、各々1.2%、56.8%、42.0%であるポリ((4CMS−g−PME−1000)−b−St)の構造を有するブロック・グラフト共重合体[BG−1]であった。
また、得られたブロック・グラフト共重合体[BG−1]をアセトンに溶解してテフロン(登録商標)板上に流延し、室温で24時間放置後、60℃で24時間減圧乾燥して膜厚100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの透過型電子顕微鏡写真を測定し、このブロック・グラフト共重合体は、ポリエチレンオキサイド相の中にポリスチレン相が球状に分散している海島型のミクロ相分離構造を有することがわかった。
(2)高分子固体電解質用樹脂組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたブロック・グラフト共重合体[BG−1]2gをアセトン18gに溶解させ、LiClO0.2gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(3)高分子固体電解質膜作製及びイオン伝導度測定
アルゴン雰囲気下において、上記組成物をテフロン(登録商標)板上に流延し、室温で24時間放置後、60℃で24時間減圧乾燥して均一な高分子固体電解質膜を得た(膜厚100μm)。アルゴン雰囲気下、この高分子固体電解質膜を白金板にはさみ、周波数5〜10MHzのインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン伝導度を測定した。その結果、イオン伝導度は、23℃で5×10−4S/cmであった。
【実施例2】
(1)ブロック・グラフト共重合体の合成
4CMS131.0mmolと、下記構造を有する2官能重合開始剤

1mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、125℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始して10時間後に、反応液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた。反応液をTHFで希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。得られたポリマーの単離収率は65%であった。さらに、得られたポリ4CMSについてGPC分析を行ったところ、Mn=11,800、PD=1.32であった。
ついで、得られたポリCMS0.1mmol、St65mmolを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、125℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始して20時間後に、反応液を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GC分析の結果、Stの重合転化率は59%であった。反応液をTHFで希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=49,000、PD=1.47であるポリ(St−b−4CMS−b−St)の構造を有するブロック共重合体[P−2]であった。
ついで、窒素雰囲気下において、予め窒素バブリング処理を行ったトルエン76gに、上記ブロック共重合体[P−2]0.1mmol、ブレンマーPME−1000 25mmol、塩化第一銅0.1mmol、2,2’−ビピリジン0.2mmolを加えて均一に混合後、撹拌下、80℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始してから18時間後に、反応系の温度を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GPC分析の結果、ブレンマーPME−1000の重合転化率は65%であった。反応液のカラム精製を行って、金属錯体、未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについて、GPC分析を行ったところ、Mn=209,000、PD=1.52であり、また、13CNMRを測定したところ,共重合体中の総繰り返し単位モル数に対する、4CMS繰り返し単位、St繰り返し単位、及びPME−1000繰り返し単位のモル数の比率が、各々、13.3%、61.8%、24.9%であるポリ(St−b−(4CMS−g−PME−1000)−b−St)の構造を有するブロック・グラフト共重合体[BG−2]であった。
また、得られたブロック・グラフト共重合体[BG−2]を実施例1と同様に成膜し、得られたフィルムの透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、実施例1におけると同様の海島型のミクロ相分離構造を有していた。
(2)高分子固体電解質用組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたブロック・グラフト共重合体[BG−2]2gを、アセトン18gに溶解させ、LiClO0.17gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(3)高分子固体電解質膜作製、及びイオン伝導度測定
上記組成物を実施例1におけると同様にして高分子固体電解質膜を調製し、イオン伝導度を測定したところ、23℃で2×10−4S/cmであった。
【実施例3】
(1)ブロック・グラフト共重合体の合成
St190mmolと、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ0.56mmolと、ベンゾイルパーオキサイド0.47mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、95℃で3.5時間保持後、125℃に昇温して重合反応を開始させた。重合反応を開始してから30時間後、反応液を0℃に冷却する事により重合反応を停止させた。反応液をTHFで希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。得られたポリマーの単離収率は、64%であった。さらに、得られたポリStについてGPC分析を行ったところ、Mn=43,100、PD=1.35であった。
次いで、得られたポリSt1mmolと、4CMS239mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、125℃に昇温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始して5時間後に、反応液を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GC分析の結果4CMSの重合転化率は20%であった。反応液をTHFで希釈、均一溶液とした後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=50,000、PD=1.37であるポリ(St−b−4CMS)の構造を有するブロック共重合体[P−3]であった。
ついで、窒素雰囲気下において、予め窒素バブリング処理を行ったトルエン70gに、上記ブロック共重合体[P−3]0.1mmolと、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−400、式(VIII)においてe1=9)51mmolと、塩化銅[1]0.1mmolと、ビピリジン0.2mmolとを加えて均一に混合後、攪拌下、80℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始してから15時間後に、反応系の温度を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GPC分析の結果、PME−400の重合転化率は60%であった。反応液のカラム精製を行って金属錯体、及び未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=185,000、PD=1.42のポリマーであり、また、13CNMRを測定したところ、共重合体中の総繰り返し単位モル数に対する、4CMS繰り返し単位、St繰り返し単位、及びPME−400繰り返し単位のモル数の比率が、各々6.2%、56.6%、37.2%であるポリ(St−b−(CMS−g−PME−400))の構造を有するブロック・グラフト共重合体[BG−3]であった。
また、得られたブロック・グラフト共重合体[BG−3]を実施例1と同様に成膜し、得られたフィルムの透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、実施例1におけると同様の海島型のミクロ相分離構造を有していた。
(2)高分子固体電解質用樹脂組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたブロック・グラフト共重合体[BG−3]2gをアセトン18gに溶解させ、LiClO0.15gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(3)高分子固体電解質膜作製、及びイオン伝導度測定
上記組成物を実施例1におけると同様にして高分子固体電解質膜を作製、イオン伝導度を測定したところ、23℃で8×10−5s/cmであった。
【実施例4】
(1)ブロック・グラフト共重合体の合成
窒素雰囲気下において、予め窒素バブリング処理を行ったトルエン105gに、実施例2で製造したブロック共重合体[P−2]0.1mmol、PME−400 75mmol、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.02mmolを加えて均一に混合後、ジ−n−ブチルアミン0.2mmolを加え、攪拌下、100℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始してから45時間後に、反応液を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GC分析の結果、PME−400の重合転化率は50%であった。反応液のカラム精製を行って、金属錯体、及び未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=230,000、PD=1.57であり、また、13CNMRを測定したところ、共重合体中の総繰り返し単位モル数に対する、4CMS繰り返し単位、St繰り返し単位、及びPME−400繰り返し単位のモル数の比率が、各々、9.5%、44.2%、46.3%であるポリ(St−b−(4CMS−g−PME−400)−b−St)の構造を有するブロック・グラフト共重合体[BG−4]であった。
得られたブロック・グラフト共重合体[BG−4]を実施例1と同様に成膜し、得られたフィルムの透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、実施例1におけると同様の海島型のミクロ相分離構造を有していた。
(2)高分子固体電解質用樹脂組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたブロック・グラフト共重合体[BG−4]2gをアセトン18gに溶解させ、LiClO0.15gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(3)高分子固体電解質膜作製、及びイオン伝導度測定
上記組成物を実施例1におけると同様にして高分子固体電解質膜を作製、イオン伝導度を測定したところ、23℃で9×10−5s/cmであった。
比較例1
(1)ランダム・グラフト共重合体の合成
メタアクリル酸メチル(以下、MMAと記す)40ml、4CMS0.5ml、アゾビスイソブチロニトリル0.03gをトルエン20mlに溶解し、15分間アルゴンガスでバブリング後、アルゴン雰囲気下、80℃に昇温して3時間共重合反応を行った。反応液を室温に冷却した後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、乾燥後、60℃で5時間減圧乾燥し、単離収率41%でポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=133,000、PD=2.51であり、また、13CNMRを測定したところ、4CMS単位を0.93モル%含むポリ(MMA−r−4CMS)の構造を有するランダム共重合体であった。
次いで、アルゴン雰囲気下において、予めアルゴンバブリング処理を行ったトルエン112gに、得られたポリ(MMA−r−4CMS)0.1mmol、PME−400 70mmol、塩化第一銅0.1mmol、4,4’−ジメチル−2,2’−ジピリジル0.2mmolを加えて均一に混合後、攪拌下、90℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始してから40時間後に、反応系の温度を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GPC分析の結果、重合転化率は50%であった。反応液のカラム精製を行って、金属錯体、未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=283,000、PD=2.28であり、また、13CNMRを測定したところ、ポリエチレンオキサイド成分を42.4重量%含有する、ポリ(MMA−r−(4CMS−g−PME−400))の構造を有するランダム・グラフト共重合体であった。
また、得られたランダム・グラフト共重合体をTHFに溶解し、実施例1と同様に成膜したフィルムの透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、ミクロ相分離構造は観察されず均一構造であった。
(2)高分子固体電解室用樹脂組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたランダム・グラフト共重合体2gをTHF18gに溶解させ、LiClO0.1gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(3)高分子固体電解質膜調製、及びイオン伝導度測定
アルゴン雰囲気下において、上記組成物をテフロン(登録商標)板に流延し、室温で24時間減圧乾燥を行って均一な高分子固体電解質膜を得た(膜厚100μm)。得られた高分子個体電解質膜について、実施例1におけると同様にしてイオン伝導度を測定した。また、同様にして得られた高分子個体電解質膜について、乾燥条件を室温で24時間、更に60℃で24時間減圧乾燥を行った高分子固体電解質膜についてもイオン伝導度を測定した。その結果、25℃におけるイオン伝導度は、室温乾燥したものも、室温乾燥後更に加温乾燥したものも、1〜2×10−6s/cmであった。
比較例2
(1)ブロック・グラフト共重合体の合成
t−ブチルアクリレート(以下、tBAと記す)120mmolと、2,2,5−トリメチル−3−(1’−フエニルエトキシ)−4−フェニル−3−アザヘキサン1.07mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、窒素雰囲気下、125℃に加温して重合反応を開始させた。重合反応を開始してから15時間後に、反応液を0℃に冷却して重合反応を停止させた。反応液をTHFに溶解後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、60℃で5時間減圧乾燥を行った。得られたポリマーの単離収率は、78%であった。得られたポリtBAについてGPC分析を行ったところ、Mn=10,800、PD=1.21であった。
次いで、得られたポリtBA1mmolと、4CMS100mmolとを均一に混合し、15分間窒素バブリングを行った後、125℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始して5時間後に、反応液を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GC分析の結果、4CMSの重合転化率は20%であった。反応液をTHFに溶解後、大量のメタノール中に投入してポリマーを析出させ、濾過、洗浄後、得られたポリマーを60℃で5時間減圧乾燥した。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=13,700、PD=1.23であるポリ(tBA−b−4CMS)の構造を有するブロック共重合体であった。
次いで、窒素雰囲気下において、予め窒素バブリング処理を行ったトルエン42gに、上記ポリ(tBA−b−4CMS)0.1mmol、PME−1000 15mmol、塩化第一銅0.1mmol、2,2’−ビピリジン0.2mmolを加えて均一に混合後、撹拌下、80℃に加温して共重合反応を開始させた。共重合反応を開始して20時間後に、反応系の温度を0℃に冷却して共重合反応を停止させた。GPC分析の結果、PME−1000の重合転化率は68%であった。反応液のカラム精製を行って、金属錯体、未反応モノマーを除去した後、減圧下に揮発分を除去してポリマーを得た。このポリマーについてGPC分析を行ったところ、Mn=121,000、PD=1.30であり、また、13CNMR分析を行ったところ、共重合体中の総繰り返し単位モル数に対する、4CMS繰り返し単位、tBA繰り返し単位、及びPME−1000繰り返し単位のモル数の比率が、各々、9.5%、42.3%、48.2%であるポリ(tBA−b−(4CMS−g−PME−1000))の構造を有するブロック・グラフト共重合体であった。
得られたブロック・グラフト共重合体を実施例1と同様に成膜し、得られたフィルムの透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、ミクロ相分離構造は観察されず、均一構造であった。
(1)高分子固体電解質用樹脂組成物の調製
アルゴン雰囲気下において、上記の操作で得られたブロック・グラフト共重合体2gをアセトン18gに溶解させ、LiClO0.2gを加えて均一に溶解させて高分子固体電解質用樹脂組成物を調製した。
(2)高分子固体電解膜作製、及びイオン伝導度測定
上記組成物を実施例1におけると同様にして高分子固体電解質膜を作製、イオン伝導度を測定したところ、23℃で3×10−5s/cmであった。
産業上の利用可能性:
以上述べたように、本発明の新規グラフト共重合体は、薄膜において海島構造の相分離構造を有するため、電解質との複合体において、高い伝導性を有するとともに、優れた機械的、物理的性質を有することから、電池等の各種電気デバイスの固体電解質として有用であり、産業上の利用可能性は高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、Rは、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、Rは、ハロゲン原子、または有機基を表し、Xは、式(II)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R51、及びR52は、それぞれ独立して、水素原子、またはまたはC1〜C4アルキル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基、シリル基、ホスホリル基、炭化水素ホスホリル基、または炭化水素スルホニル基を表し、dは、1〜1000のいずれかの整数を表し、dが2以上の場合には、R同士、R51同士、R52同士、R同士、及びe同士は、同一または相異なっていてもよく、eは、1〜100のいずれかの整数を表し、eが2以上の場合には、R同士、及びR52同士は、同一または相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有する有する重合体鎖を表し、aは、1〜3のいずれかの整数を表し、aが2以上の場合、R同士、及びX同士は、同一または相異なっていてもよく、bは、1または2を表し、bが2の場合、X同士は、同一でも相異なっていてもよく、cは0または1〜(4−a)のいずれかの整数を表し、cが2以上の場合、R同士は、同一または相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位を有することを特徴とする共重合体。
【請求項2】
式(I)中、Rが、式(IV)

(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、式(I)におけるbが2の場合には、Xとの結合手を表す。)で表される官能基であることを特徴とする請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
式(I)で表される繰り返し単位の重合度が、3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の共重合体。
【請求項4】
非極性部位からなる繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体。
【請求項5】
式(II)で表される繰り返し単位を有する重合体鎖中、式(II)で表される繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の共重合体。
【請求項6】
式(I)で表される繰り返し単位と非極性部位からなる繰り返し単位が、ブロック共重合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の共重合体。
【請求項7】
式(I)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖(A)と同一でも相異なっていてもよい非極性部位からなる繰り返し単位を有するブロック鎖(B)及び(C)が、(B)、(A)、(C)の順の配置を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の共重合体。
【請求項8】
(B)、(A)、(C)の順の配置が、(B)−(A)−(C)の結合した配列であることを特徴とする請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、式(I)で表される繰り返し単位のモル数が、0.001〜50%の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の共重合体。
【請求項10】
式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、式(II)で表される繰り返し単位のモル数が、9.999〜80%の範囲であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の共重合体。
【請求項11】
式(I)で表される繰り返し単位、式(II)で表されるくり返し単位、及び非極性部位からなる繰り返し単位の総モル数に対して、非極性部位からなる繰り返し単位のモル数が、19.999〜90%の範囲であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の共重合体。
【請求項12】
非極性部位からなる繰り返し単位が、式(III)

(式中、Rは、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)で表される繰り返し単位であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の共重合体。
【請求項13】
式(III)中、Rが、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることを特徴とする請求項12に記載の共重合体。
【請求項14】
式(III)で表される繰り返し単位が、式(V)

(式中、R11は、水素原子、または、メチル基を表す。)で表される繰り返し単位であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の共重合体。
【請求項15】
数平均分子量が、10,000〜5,000,000の範囲であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の共重合体。
【請求項16】
式(VI)

(式中、R11は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R12は、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、Yは、ハロゲン原子を表し、R13は、ハロゲン原子、または有機基を表し、a1は、1〜3のいずれかの整数を表し、a1が、2以上の場合、R12同士、Y同士、及びb1同士は、同一でも相異なっていてもよく、b1は、1または2を表し、b1が2の場合、Y同士は、同一でも相異なっていてもよく、c1は0または1〜(4−a1)のいずれかの整数を表し、c1が2以上の場合、R13同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される化合物と、式(VII)

(式中、R17は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R18は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。)で表される化合物を、安定ラジカル系重合開始剤を用い、リビングラジカル重合させて共重合体を得、次いで、得られた共重合体を開始剤とし、遷移金属錯体を用いて式(VIII)

(式中、R14は、水素原子、または置換基を有してもよいC1〜C10炭化水素基を表し、R151、及びR152は、それぞれ独立して、水素原子、またはまたはC1〜C4アルキル基を表し、R16は、水素原子、炭化水素基、アシル基、シリル基、ホスホリル基、炭化水素ホスホリル基、または、炭化水素スルホニル基を表し、e1は、1〜100のずれかの整数を表し、e1が2以上の場合には、R151同士、及びR152同士は、同一でも相異なっていてもよい。)で表される化合物をリビングラジカル重合させることを特徴とする共重合体の製造方法。
【請求項17】
式(VI)中、R12が、式(IX)

(式中、R19及びR110は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または置換基を有していてもよいC1〜C10炭化水素基を表し、式(VI)において、b1が2の場合には、Yとの結合手を表す。)で表される官能基であることを特徴とする請求項16に記載の共重合体の製造方法。
【請求項18】
式(VI)で表される化合物と式(VII)で表される化合物から得られる共重合体が、ブロック共重合体であることを特徴とする請求項16または17に記載の共重合体の製造方法。
【請求項19】
安定ラジカル系開始剤が、安定フリーラジカル化合物とラジカル重合開始剤、またはアルコキシアミン類からなることを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項20】
安定フリーラジカル化合物が、ニトロキシル化合物であることを特徴とする請求項19に記載の共重合体の製造方法。
【請求項21】
ラジカル重合開始剤が、有機過酸化物またはアゾ化合物であることを特徴とする請求項19または20に記載の共重合体の製造方法。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれかに記載の共重合体、及び電解質塩を含むことを特徴とする高分子固体電解質。
【請求項23】
電解質塩が、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩、及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項22に記載の高分子固体電解質。
【請求項24】
電解質が、リチウム塩であることを特徴とする請求項23に記載の高分子固体電解質。

【国際公開番号】WO2004/081068
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503529(P2005−503529)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003055
【国際出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】