説明

新規デンドリマー

【課題】安全性が高く、DNAを封入可能であり、遺伝子導入キャリアとして有用なデンドリマーを提供する。
【解決手段】デンドリマーは、ポリオキシエチレン単位で構成された親水性ユニット又はセグメントと、フルオレンユニットを有するデンドロンとで構成されている。デンドロンは、下記式で表され、かつ第g世代(g=1〜5)のデンドロンであり、水中でミセルを形成し、DNAを封入可能である。


(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)、Yはアミド結合などを含むスペーサを示し、R及びRは置換基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA封入化合物として有用なデンドリマー、特に親水性ユニット又はセグメントとフルオレン単位を有するデンドロンとが結合した新規なデンドリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療において様々な遺伝子導入キャリア(合成遺伝子キャリア)が検討されている。なかでも合成キャリアはウィルスを用いたキャリアと比較して、副作用の軽減、低毒性などの利点がある。このような合成キャリアは、DNAがリン酸基を有するアニオン性高分子であるため、カチオン電荷を有する化合物、例えば、カチオン化脂質化合物やカチオン性ポリマーなどである場合が多い。このようなカチオン性化合物はDNAと相互作用して複合体を形成する。DNAをより効率よく封入(compaction)し、遺伝子導入効率を高めるためには、カチオン化度を上げる必要がある。しかし、カチオン化度が高くなればなるほど、DNAと複合体を形成する能力が向上し、導入効率は高くなるものの、細胞に対する毒性が増大する。
【0003】
第53回高分子討論会予稿集 Polymer Preprints, Japan, Vol.53, No.2 (2004), p5258(非特許文献1)には、フルオレンがDNAとインターカレートすることが報告されている。しかし、フルオレンは疎水性が高いため、遺伝子を効率よく導入できない。
【0004】
静電気的相互作用を低減して生体に対する毒性を低減するため、電荷のないキャリアも提案されているが、このようなキャリアはDNAの封入効率及び導入効率が低い。
【非特許文献1】第53回高分子討論会予稿集 Polymer Preprints, Japan, Vol.53, No.2 (2004), p5258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、安全性が高く、DNAを効率よく封入できる新規デンドリマーを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、遺伝子導入効率を向上でき、遺伝子導入キャリアとして有用な新規デンドリマーを提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、静電気的相互作用を抑制しつつ、DNAを効率よく封入でき、遺伝子導入キャリアとして有用な新規デンドリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、遺伝子キャリアとしてDNA(デオキシリボ核酸)に対するフルオレンのインターカレートの強さを利用し、親水性ユニット又はセグメント(ポリオキシエチレンセグメントなど)に、フルオレン単位を有するデンドロン(樹状側鎖)を結合させると、デンドリマーが水中でミセルを形成し、静電的相互作用を利用することなく、インターカレーションを利用してDNAを効率よく封入できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の新規デンドリマーは、親水性ユニット又はセグメントと、このユニット又はセグメントに結合し、かつフルオレンユニットを有するデンドロンとで構成されている。すなわち、親水性ユニット又はセグメントと、フルオレンユニット(フルオレン単位)を有するデンドロンとが結合している。このようなデンドリマーは、親水性ユニット又はセグメントと、疎水性の高いフルオレンユニットとを含むため、静電気的な相互作用を利用しなくても、DNAに対する封入効率を高めることができ、生体に対する毒性を低減でき安全性が高い。
【0010】
前記デンドリマーにおいて、デンドロンは、下記式(1)で表される少なくとも1つの繰り返し単位と、下記式(2)で表され、かつ末端を構成する単位とで構成された第g世代(g=1〜5)のデンドロンであってもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Xは3価の原子又は有機基、Xは有機基、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す)
前記XとXとは直接結合していてもよいが、通常、連結基及び/又はスペーサで連結されている場合が多い。親水性ユニット又はセグメントからのデンドロンの分岐数nは1〜3程度であってもよく、デンドロンは第g世代(g=1〜4)のデンドロンであってもよい。前記親水性ユニット又はセグメントは、例えば、ポリオキシエチレン単位で構成してもよく、デンドロンは、この親水性ユニット又はセグメントから分岐数n=1〜3で分岐するとともに、下記式(3)で表され、かつ第g世代(g=1〜3)のデンドロンであってもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を含むスペーサを示し、R及びRは前記に同じ)
さらに、デンドロンは、下記式(4)で表され、かつ第g世代(g=1〜3)のデンドロンであってもよい。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、R及びRはそれぞれ直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を示し、R及びRは前記に同じ)
前記デンドリマーは、親水性ユニット又はセグメントと、疎水性の高いフルオレン単位とを有しており、水中でミセルを形成可能である。そのため、水中でミセルを形成し、DNAを効率よく取り込み、封入可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、親水性ユニット又はセグメントと、疎水性の高いフルオレンユニットを有するデンドロン(樹状側鎖)とを備えているため、電気的に中性であってもDNAを効率よく封入でき、安全性が高い。そのため、静電気的相互作用を抑制しつつ、DNAを効率よく封入でき、遺伝子導入キャリアとして有用である。また、親水性及び疎水性のバランスを調整することにより、遺伝子導入効率を大きく向上でき、遺伝子導入キャリアとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[デンドリマー]
本発明のデンドリマーは、親水性ユニット又はセグメントと、この親水性ユニット又はセグメントに結合したフルオレンユニット(疎水性ユニットとしてのフルオレンユニットを有するデンドロン(樹状側鎖))とで構成されており、樹状分岐構造を有している。親水性ユニット又はセグメントとデンドロンとは、直接結合していてもよく、連結基(又はスペーサ)を介して間接的に結合していてもよい。また、親水性ユニット又はセグメントとデンドロンとは、適当な分岐数で結合していてもよい。なお、フルオレンユニットは、フルオレニル基単独であってもよく、フルオレニル基と連結基及び/又はスペーサとで構成してもよい。
【0019】
本発明のデンドリマーは、親水性ユニット又はセグメントと、フルオレンユニットとで構成され、樹状分岐構造を有している。このようなデンドリマーは、例えば、下記式で表すことができる。
【0020】
A−[[S−(R−S−D]
(式中、Aは親水性化合物の残基を示し、S及びSは同一又は異なって連結基を示し、Rは炭化水素基を示し、Dは疎水性ユニット(デンドロンなどのフルオレンユニット)を示す。rは0又は1を示し、pは0又は1を示す。nはデンドロンなどのフルオレンユニットの分岐数を示す)
炭化水素基Rは、特に制限されず、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキレン基、置換基を有していてもよいC3−10シクロアルキレン基、置換基を有していてもよいC6−12アリーレン基などであってもよい。
【0021】
上記式において、S及びSで表される連結基としては、例えば、酸素原子(エーテル結合)、硫黄原子(スルフィド結合)、窒素原子又はイミノ基、エステル結合(−COO−又は−OCO−)、アミド結合(−CONH−又は−NHCO−)、ウレタン結合(−NHCOO−又は−COONH−)、尿素結合などが挙げられ、これらの組み合わせであってもよい。
【0022】
式において、Rで表されるアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、ブチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキレン又はアルキリデン基(好ましくはC1−6アルキレン又はアルキリデン基など)などが挙げられる。
【0023】
なお、親水性化合物とフルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]との反応により、デンドリマーを得る場合、上記式において、(i)pは0であるか、又は(ii)pが1であり、かつrが0である。すなわち、前者(i)の場合(p=0)、親水性化合物の反応性基は、2以上の結合手(価数)を有しており(例えば、価数3の窒素原子を含むアミノ基など)、この反応性基はフルオレンユニット(デンドロンなど)の分岐部位(又はデンドロンとの結合部位)を構成してもよい。
【0024】
また、親水性化合物とフルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]とスペーサ化合物との反応により、デンドリマーを得る場合、上記式において、r=p=1であり、ユニット−S−(R−S−は、スペーサ化合物の残基に相当する。なお、このようなスペーサ化合物による親水性化合物とフルオレンユニット(デンドロンなど)との連結(すなわち、親水性ユニットとデンドロンなどのフルオレンユニットとの連結)には、単一又は複数の公知の化学反応が利用できる。
【0025】
スペーサ化合物としては、親水性化合物の反応性基(又は官能基)、フルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]の反応性基の種類に応じて、前記基Rに対応する種々の多官能化合物、例えば、アルカンジカルボン酸、アルカンジオール、アルカンジアミン、ヒドロキシアルカンカルボン酸、ヒドロキシルアルキルアミン、アミノ酸などが挙げられる。以下にデンドリマーの構成成分などについて詳述する。
【0026】
(親水性ユニット又はセグメント)
親水性ユニット又はセグメントの種類は特に制限されず、例えば、アニオン性基(カルボキシル基、スルホン酸基又はこれらの塩など)、カチオン性基(アミノ基又はその塩など)などであってもよいが、ノニオン性基(又はエーテル基)であるのが好ましい。このような親水性ユニット又はセグメント(以下、単に親水性ユニットと称する場合がある)は、ポリオキシアルキレン単位(ポリオキシエチレン単位、ポリオキシプロピレン単位などのポリオキシC2−4アルキレン単位など)で構成されている場合が多い。デンドリマーは、これらの親水性ユニットを一種有していてもよく、同種又は異種の親水性ユニットを複数有していてもよい。デンドリマーは、上記親水性ユニットのうち、特に、少なくともポリオキシエチレン単位を有するのが好ましい。
【0027】
デンドリマーは、少なくとも、前記親水性ユニットを有する化合物[すなわち、親水性ユニット又はセグメントに対応する化合物(親水性化合物)]と、フルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]との反応により得ることができ、前記親水性化合物と、フルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]と、必要によりスペーサ化合物(前記連結基又はスペーサを形成可能な化合物)との反応により得てもよい。
【0028】
親水性化合物の残基に対応する親水性化合物は、前記親水性ユニットと共に、フルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]、もしくはスペーサ化合物に対する反応性基を有している。この反応性基の種類は、フルオレンユニットに対応する化合物[デンドロン(又はデンドロン前駆体)など]又はスペーサ化合物に対して結合可能である限り特に制限されず、例えば、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素原子など)、ヒドロキシル基やメルカプト基又はその反応性誘導基(低級アルコキシ基など)、カルボキシル基又はその反応性誘導体基(アシルハライド基(ハロホルミル基)、酸無水物基など)、アミノ基又はイミノ基、エポキシ基(又はグリシジル基)などが例示できる。親水性化合物において、反応性基は、ヒドロキシル基、アミノ基又はイミノ基、エポキシ基(又はグリシジル基)などである場合が多い。
【0029】
また、親水性化合物はフルオレンユニット(又はデンドロン)の分岐数nに対応した結合手(価数)の反応性基を有していてもよい。親水性化合物が1価の反応性基を有する場合、1価の反応性基を分岐数nに対応した結合手(価数)の反応性基に変換してもよく、親水性化合物とスペーサ化合物と反応させることにより、分岐数nに対応した結合手(価数)の反応性基を親水性化合物に導入してもよい。
【0030】
親水性化合物のうちヒドロキシル基を有する化合物としては、アルカンポリオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどのC2−16アルカンポリオールなど)、糖類(単糖類や二糖類など、例えば、ショ糖、乳糖、ブドウ糖などの糖類、キシリトール、エリスリトール、マンニトールなどの糖アルコール類など)、(ポリ)オキシアルキレングリコール類[(ポリ)オキシエチレングリコール類、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなど;(ポリ)オキシプロピレングリコール類、例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなど;(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレン共重合体、例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体など]、活性水素原子を有する化合物(前記アルカンポリオール類や糖類、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物など)にC2−4アルキレンオキサイド(特に、少なくともエチレンオキサイド)が付加した付加体[例えば、グリセリンエチレンオキサイド付加体、ショ糖エチレンオキサイド付加体など]が例示できる。
【0031】
アミノ基含有化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミンなどのアルキルアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルカンポリアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミンなどのアルキレンジアミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリ(アルキレンジアミン)類;脂環族又は芳香族モノ又はポリアミン類などが例示でき、カルボキシル基含有化合物としては、酢酸などのモノカルボン酸、マロン酸、コハク酸などのポリカルボン酸、乳酸などのオキシカルボン酸などが例示できる。
【0032】
アミノ基又はイミノ基やエポキシ基(又はグリシジル基)を有する親水性化合物としては、(ポリ)オキシC2−4アルキレンジアミン(例えば、(ポリ)オキシエチレンジアミンなど)、ヒドロキシ(ポリ)オキシC2−4アルキレンモノアミン(例えば、ヒドロキシ(ポリ)オキシエチレンモノアミンなど)、アルコキシ(ポリ)オキシC2−4アルキレンモノアミン(例えば、アルコキシ(ポリ)オキシエチレンモノアミンなど)、(ポリ)オキシC2−4アルキレンジグリシジルエーテル(例えば、(ポリ)オキシエチレンジグリシジルエーテルなど)、ヒドロキシ(ポリ)オキシC2−4アルキレンモノグリシジルエーテル(例えば、ヒドロキシ(ポリ)オキシエチレンモノグリシジルエーテルなど)、アルコキシ(ポリ)オキシC2−4アルキレンモノグリシジルエーテル(例えば、アルコキシ(ポリ)オキシエチレンモノグリシジルエーテルなど)などが例示できる。
【0033】
なお、前記化合物が複数の末端反応性基を有する場合、一部の反応性基は、保護基又は封止基、例えば、アルキル基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基などのC1−6アルキルカルボニル基)などで保護又は封止されていてもよい。例えば、前記アルカンポリオール類や糖類の複数のヒドロキシル基の一部が保護又は封止された化合物としては、部分エーテル又は脂肪酸エステル、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルカンポリオールC1−4アルキルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノC1−4アルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルなどが例示できる。
【0034】
これらの親水性化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。親水性ユニット又はセグメントに対応する好ましい化合物は、ポリオール類や糖類に少なくともエチレンオキサイドが付加した付加体、ポリエチレングリコール、前記付加体やポリエチレングリコールの複数の末端ヒドロキシル基のうち少なくとも一方の末端ヒドロキシル基がアミノ基に置換された化合物、前記付加体やポリエチレングリコールの複数の末端ヒドロキシル基のうち少なくとも一方の末端ヒドロキシル基にエピクロルヒドリンが付加したグリシジルエーテル、又はそれらの末端ヒドロキシル基の一部が保護又は封止された誘導体(モノアルキルエーテルなど)である。
【0035】
(ポリ)オキシエチレン単位を有する親水性化合物は、例えば、下記式で表される場合が多い。
【0036】
−(CHCHO)CHCH
(式中、Zはヒドロキシル基、アミノ基又はイミノ基、若しくはグリシジル基を示し、mは1〜500程度の整数を示す)
mは、通常、2〜400、好ましくは3〜300、さらに好ましくは5〜250(例えば、10〜200)程度であり、10〜100程度であってもよい。
【0037】
親水性ユニット又はセグメントに対応する化合物の分子量は特に制限されず、通常、重量平均分子量50〜25000(例えば、75〜20000)程度の範囲から選択でき、重量平均分子量100〜10000、好ましくは200〜8000(例えば、200〜7000)、さらに好ましくは250〜5000(例えば、300〜3000)程度であってもよい。
【0038】
(デンドロン)
デンドリマー(又はミセル形成能を有するデンドリマー)では、親水性ユニット又はセグメントにデンドロン(樹木状側鎖又は超分岐側鎖)が結合しており、デンドロンは、DNAに対してインターカレート可能なフルオレンユニットを有している。
【0039】
デンドロン(上記式におけるデンドロンD)は、少なくともフルオレニル基で構成されていればよく、通常、下記式(1)で表される少なくとも1つの繰り返し単位と、下記式(2)で表され、かつ末端を構成する単位とで構成されている。
【0040】
【化4】

【0041】
(式中、Xは3価の原子又は有機基、Xは有機基、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す)
及びRとしては、水素原子、ハロゲン原子(フッ素、臭素、塩素又はヨウ素原子)、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ基)などが例示できる。R及びRは、通常、水素原子である場合が多い。
【0042】
で表される3価の原子としては、窒素原子、リン原子、トリオール残基(グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基など)、トリカルボン酸残基などが例示できる。Xは、親水性化合物の反応性基又はスペーサ化合物の反応性基に由来する原子であってもよい。好ましいXは窒素原子である。
【0043】
で表される有機基としては、二価の有機基、例えば、エーテル基、アルキレン基、シクロアルキレン基、フェニレン基などの二価の炭化水素基、イミノ基又は置換イミノ基(例えば、アシルイミノ基、アルキルイミノ基など)などが例示できる。
【0044】
デンドロンDにおいて、前記式(1)で表される単位Xと、前記式(2)で表される単位のXとは、直接結合していてもよいが、通常、連結基(又はスペーサ)で連結されている場合が多い。すなわち、デンドロンDにおいて、デンドロンを構成する複数のユニット(又はデンドロン前駆体)が連結基(又はスペーサ)で連結されていてもよく、親水性化合物の反応性基がデンドロンの分岐部(すなわち、X)を形成する場合には、親水性化合物の反応性基とデンドロン前駆体とが連結基(又はスペーサ)で連結されていてもよい。
【0045】
これらの連結反応、すなわち、デンドロンを構成する複数のユニット(ユニットの反応性基)間の反応、及び親水性化合物の反応性基とデンドロン前駆体の反応性基との反応には、種々の反応、例えば、ハロゲン原子と、活性水素原子(又は活性水素原子を有する官能基、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基など)との反応、ヒドロキシル基やメルカプト基又はその反応性誘導基(低級アルコキシ基など)と、ハロゲン原子、カルボキシル基又は酸無水物基、アルコキシシリル基又はイソシアネート基との反応、カルボキシル基又はその反応性誘導体基(アシルハライド基、酸無水物基など)と、ヒドロキシル基、アミノ基又はエポキシ基との反応、アミノ基又はイミノ基と、α,β−不飽和炭化水素基(ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基などのアルケニル基、エチニル基、2−プロピニル基などのアルキニル基など)、カルボニル基、カルボキシル基、エポキシ基又はイソシアネート基との反応、エポキシ基(又はグリシジル基)とカルボキシル基又はアミノ基との反応などが例示できる。また、グリニャール反応やハロゲン原子などを利用したカップリング反応なども利用できる。さらに、フルオレン単位のカルボニル基(ケトン基)との反応では、カルボニル化試薬又はアミノ基を有する化合物(末端アミノ基又はイミノ基を有する化合物、ヒドラジン誘導体、セミカルバジド類など)とのカルボニル化反応を利用することもできる。フルオレン単位のヒドロキシル基(フルオレンの9−ヒドロキシル基)との反応では、ハロゲン原子(臭素、塩素原子など)、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基との反応などが利用できる。
【0046】
前記連結基の種類は特に制限されず、前記デンドリマーの項で例示の連結基S、Sと同様の連結基、又はこれらの組み合わせなどから適宜選択できる。スペーサは、これらの連結基、特にアミド結合、エステル結合、ウレタン結合などを少なくとも含む場合が多く、これらの連結基と炭化水素鎖とを含む場合も多い。
【0047】
デンドロンは、通常、フルオレニル基と連結基及び/又はスペーサとで構成されている。前記単位(1)(2)の間に連結基及び/又はスペーサを有するデンドロンとしては、例えば、下記式(3)で表わされるデンドロンが挙げられる。
【0048】
【化5】

【0049】
(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を含むスペーサを示し、R及びRは前記に同じ)
また、前記スペーサYは、脂肪族炭化水素鎖(直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキレン基など)、脂環族炭化水素鎖(シクロへキシレン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基などのC3−10シクロアルカン−ジイル基など)、芳香族炭化水素鎖(フェニレン基、キシリレニル基などのC6−12アレーン−ジイル基など)を含んでいてもよい。前記スペーサYは、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合などの連結基と、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基とを含む場合が多く、デンドロンは、例えば、下記式(4)で表わされるデンドロンであってもよい。
【0050】
【化6】

【0051】
(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、R及びRはそれぞれ炭化水素鎖、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を示し、R及びRは前記に同じ)
炭化水素鎖は、前記脂肪族炭化水素鎖、脂環族炭化水素鎖、芳香族炭化水素鎖などであってもよい。炭化水素基は、通常、脂肪族炭化水素基、特に、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基である。前記アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、2−メチルトリメチレン基、ヘキサメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキレン基などが例示できる。アルキレン基は、通常、直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルキレン基である場合が多い。
【0052】
代表的なデンドロンは、通常、前記式(1)で表される単位(少なくとも1つの繰り返し単位)を有し、かつ規則的な分岐構造を有しているが、分岐構造は規則的でないハイパーブランチ(超分岐)構造であってもよい。デンドロンは、前記式(1)で表されるn個の繰り返し単位と、前記式(2)で表される2個の単位とで第g世代(Gn)デンドロンを構成できる。例えば、1つの前記式(1)で表される繰り返し単位と、2つの前記式(2)で表される単位とで第1世代(G1)デンドロン、2つの前記式(1)で表される繰り返し単位と、4つの前記式(2)で表される単位とで第2世代(G2)デンドロン、3つの前記式(1)で表される繰り返し単位と、8つの前記式(2)で表される単位とで第3世代(G3)デンドロンを構成できる。デンドロンの世代gは、1〜5(好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3)程度である。
【0053】
さらに、親水性化合物の価数(又は反応性基の数又は反応部位の数)をnとすると、分岐数(又は結合数)nの第g世代のデンドリマーを得ることができる。分岐数nは、1〜5程度、通常、1〜4、好ましくは1〜3(例えば、1又は2)程度である。好ましいデンドリマーは、分岐数n=1の第g世代(g=1〜5、好ましくは1〜4(例えば、1〜3)程度)のデンドリマー、分岐数n=2の第g世代(g=1〜4、好ましくは1〜3程度)のデンドリマー、分岐数n=3の第g世代(g=1〜4、好ましくは1〜3程度)のデンドリマーである。デンドリマーは、分岐数n=1又は2の第g世代(g=1〜3程度)のデンドリマーである場合が多い。
【0054】
本発明の新規デンドリマーのうち第1世代及び第2世代のデンドロンを有するデンドリマーは、例えば、下記式で表すことができる。
【0055】
【化7】

【0056】
(式中、Aは親水性化合物の残基、nは分岐数、Fは置換基R,Rを有していてもよいフルオレン残基を示し、X,X,Yは前記に同じ)
この式で表されるデンドリマーにおいて、親水性化合物の残基Aは、前記のように、前記式(CHCHO)CHCHZ(Z及びmは前記に同じ)で表される(ポリ)オキシエチレン鎖であってもよい。この場合、(ポリ)オキシエチレン鎖の一方の端部は遊離のヒドロキシル基であってもよく、前記のように保護若しくは封止末端であってもよく、(ポリ)オキシエチレン鎖の両末端のX1にデンドロンが結合していてもよい。
【0057】
本発明のデンドリマーは、前記構造を有している限り、低分子又はオリゴマー領域の分子種であってもよくポリマー領域の分子種であってもよい。本発明のデンドリマーは、DNAに対してインターカレート可能なフルオレニル基を有している。また、フルオレニル基又はフルオレンユニットは、疎水性である。そのため、親水性ユニット又はセグメント(親水性化合物)とフルオレンユニット(又はデンドロン、デンドリマーの世代など)とを組み合わせて親水度と疎水度とを調整することにより、親水性と疎水性とのバランス(HLB)を調整でき、DNAに対する封入効率を向上できる。本発明のデンドリマーのHLB(hydrophile-lipophile-balance)は、DNAなどの封入物質の種類などに応じて選択でき、例えば、5〜30(例えば、7〜25)、好ましくは8〜20(例えば、10〜18)程度であってもよい。また、デンドリマーの臨界ミセル濃度(CMC)は、1×10−7〜1×10−4モル程度であり、通常、3×10−7〜5×10−5モル、好ましくは5×10−7〜7×10−5モル程度であってもよい。
【0058】
[デンドリマーの調製]
デンドロンは、公知乃至慣用の方法で調製でき、種々の書籍や文献に記載の方法を参照できる。また、デンドリマーは、公知乃至慣用の方法、例えば、コアとなる親水性化合物にモノマーを逐次結合させて枝分かれさせていくダイバージェント(Divergent)法、予め枝状デンドロンを調製し、コアとなる親水性化合物に結合させるコンバージェント(Convergent)法、これらを組み合わせた方法などを利用して調製できる。これらの反応には、前記例示の親水性化合物とデンドロンとの反応などの公知又は慣用の反応が利用できる。
【0059】
より具体的には、ダイバージェント(Divergent)法を利用して、ポリオキシエチレン単位を有する親水鎖(親水性セグメント)と、前記式(4)で表されるデンドロンとを有するデンドリマーを製造するには、例えば、(a)マンニッヒ反応を利用して、Xに対応する反応性基(アミノ基など)を有するポリオキシエチレン化合物と、基R(式中、Rは前記に同じ)に対応する化合物(例えば、アクリル酸又はそのエステルなど)とを反応させ、分岐し、かつRに対応する化合物の残基R3a(例えば、アクリル酸残基又はそのエステル残基)を有する中間体を生成させる。アクリル酸又はそのエステルとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステルなどのアクリル酸低級アルキルエステル(アクリル酸C1−4アルキルエステルなど)、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどのアクリル酸ヒドロキシC2−6アルキルエステルなど)、アクリル酸グリシジルエステルなどが利用できる。
【0060】
(b)上記反応により生成した化合物の残基R3a(アクリル酸残基又はそのエステル残基)と、式Y−R(式中、Y及びRは前記に同じ)に対応する化合物とを反応させ、Rに対応する残基R4aを有する化合物を生成させる。この反応では、式Y−Rに対応する化合物として、残基R3aの種類に応じて種々の化合物が使用できる。例えば、アクリル酸又はアクリル酸低級アルキルエステルでは、ポリアミン類(特に、ジアミン類、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミンなどのC2−10アルカンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ジアミノメチルシクロヘキサンなどの脂環族ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなど)を用いたアミド結合生成反応、ポリオール類(特に、ジオール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2−10アルカンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、キシリレンジオールなどの芳香族ジオールなど)を用いたエステル化反応などが利用できる。
【0061】
アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルでは、カルボキシル基含有化合物[ポリカルボン酸又はその低級アルキルエステル(例えば、アジピン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸など)、ヒドロキシカルボン酸(例えば、乳酸、グリコール酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシ安息香酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸など)、アミノ酸など]を用いたエステル化反応、ポリイソシアネート類(特に、ジイソシアネート類、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなど)を用いたウレタン化反応などが利用できる。また、アクリル酸グリシジルエステルでは、前記カルボキシル基含有化合物などを用いた付加反応などが利用できる。
【0062】
そして、(c)Rに対応する残基R4aとフルオレノン類(フルオレノン、フルオレノール、フルオレンアニオンなど)とを反応させることにより、前記式(4)で表されるデンドロンを有するデンドリマーを得ることができる。この反応では、必要により残基R4aをカルボニル基(ケトン基)に対して反応可能な反応性基(アミノ基など)に変換した後、残基R4aに応じてフルオレノン類の9−カルボニル基の反応性を利用した種々の反応、例えば、還元アミノ化反応又はカルボニル化試薬との反応、グリニャール反応などが利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のデンドリマーは、水中でミセルを形成することもできる。水中では、疎水部位のフルオレンユニットが内方、親水性ユニット又はセグメントが外方に向いて配向し、ミセルを形成する。ミセルの形成は、例えば、親水性溶媒中では蛍光を示さず疎水性溶媒中で蛍光を示す化合物を添加し、蛍光を測定することによりにより確認できる。
【0064】
さらに、本発明のデンドリマーは、水中でミセルを形成し、DNAを封入可能である。DNAの封入は、DNAの添加によりミセルサイズが大きくなること、ミセルの表面電位の指標となるζ電位又はZ電位を測定することにより確認できる。なお、封入成分は、DNAに限らず、生理活性成分(ペプチド、ポリペプチドを含む)などであってもよい。有用な封入成分は、薬理活性成分、特に遺伝子治療のためのDNAである。なお、シクロデキストリンなどの崩壊剤を添加すると、ミセルを崩壊することができる。そのため、この崩壊現象を利用して、封入された成分を放出させることもできる。
【0065】
従って、本発明のデンドリマーは、遺伝子治療における遺伝子導入キャリア(合成遺伝子キャリア)として有用である。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
第1世代(末端フルオレンの数が2)及び第2世代(末端フルオレンの数が4)のデンドロンを有するデンドリマーを、ポリエチレングリコールPEG鎖(CHCHO)の長さm=6,45,454(分子量又は重量平均分子量M=350,2000,20000)を代えて調製した。なお、以下に実施例で用いたデンドリマーの反応工程式を示す。
【0068】
【化8】

【0069】
実施例1
[ステップ1:トシル化反応]
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量350)(2)(n=6)10g(0.028mol)をピリジン100mlに溶解し、クロロホルム50mlを加え、氷冷下、p−トルエンスルホネートを1.5倍等量8.17g(0.043mol)加え、4時間撹拌した。撹拌後、薄層液体クロマトグラフィTLCにより原料のスポットが薄くなり、新しいスポットが発現したことを確認し、氷を加えて再び30分撹拌し、減圧濃縮後、真空乾燥した。乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィー(C−300)にてクロロホルム−エタノールでグラジエント溶出し、減圧濃縮により溶媒を除去し、化合物(3)を収率86%[12.5g(0.024mol)]で得た。
【0070】
[ステップ2:アジド化反応]
12.5g(0.024mol)の化合物(3)をジメチルホルムアミドDMF200mlに溶解し、室温で撹拌した。溶液に、DMF100mlに溶解したアジ化ナトリウム2.8g(0.04mol)を滴下し、80℃で一昼夜撹拌した。TLCにて化合物3のスポットが消失したのを確認した後、室温に戻し、過剰のアセトンに溶液を分散し、析出物(結晶)を除去した。溶液を98℃で減圧濃縮し、化合物(4)を収率78%[7.02g(0.02mol)]で得た。
【0071】
[ステップ3:アミノ化反応]
7.02g(0.02mol)の化合物(4)をエタノールに200mlに溶解し、オートクレーブに注いだ。パラジウムカーボン200gを焼いて活性化させた後、オートクレーブに添加し、エタノール100mlを追加し、60℃で2日間水素との接触還元を行なった。溶液をろ過し、減圧濃縮後、減圧乾燥した。乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィー(C−300)でクロロホルム−エタノールでグラジエント溶出し、化合物(5)を収率72%[5.03g(0.015mol)]で得た。
【0072】
[ステップ4:アクリル酸エステルとの付加反応]
2.5g(7.16×10−3mol)の化合物(5)を脱水エタノール100mlに溶解し、窒素で置換した。アクリル酸メチル1.95g(0.022mol)を脱水エタノール50mlに溶解し、氷冷下、撹拌しながらゆっくりと滴下した。滴下後、ゆっくり室温に戻し、脱水クロロホルム50mlを加え、60時間撹拌した。撹拌後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(C−300)を用いて、クロロホルム−エタノールでグラジエント溶出し、化合物(6)を収率68%[2.54g(4.89×10−3mol)]で得た。
【0073】
[ステップ5:ジアミンによるアミド化反応]
2.54g(4.89×10−3mol)の化合物(6)を脱水エーテル100mlに溶解し、窒素置換を行なった。エチレンジアミン1ml(0.017mol)をエーテル50mlに溶解し、ゆっくり滴下した。室温で72時間撹拌した。撹拌後、減圧濃縮により溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィー(C−300)を用いて、クロロホルム−エタノールでグラジエント溶出し、化合物(7)を収率55%[1.55g(2.7×10−3mol)]で得た。
【0074】
[ステップ6:第1世代のデンドリマーの調製]
1.55g(2.7×10−3mol)の化合物(7)をトルエン50mlに分散し、フルオレノン1.8g(0.01mol)を加え、ピリジン5mlを滴下し、3日撹拌した。減圧濃縮により溶媒を除去し、脱水DMFを50ml加え、シアノボロハイドライド0.7g(0.01mol)を加え4日間撹拌した。撹拌後、エーテル200mlに反応溶液を分散し、エタノールで抽出した。TLCにより3スポット確認されたので、減圧濃縮により溶媒を除去し、黄白色の結晶を得た。この結晶をエタノール−水から再結晶し、吸引ろ過した。ろ液を減圧濃縮し、ヘキサン−トルエンから再結晶を行い、吸引ろ過した。結晶を、シリカゲルクロマトグラフィー(C−300)を用いて、クロロホルム−エタノールでグラジエントにより白色(若干クリーム色)結晶の化合物(1−2:350)を収率73%[1.82g(2.0×10−3mol)]で得た。
【0075】
化合物(4)〜化合物(7)はいずれもオイル状であった。また、各化合物の生成はNMRで確認した。
【0076】
実施例2(第2世代のデンドリマー)
化合物(7)から実施例1のステップ4の反応(アクリル酸エステルとの付加反応)とステップ5の反応(ジアミンによるアミド化反応)を繰り返した後、フルオレノンとの還元アミノ化により、化合物(1−4:350)を得た。精製法は化合物(1−2:350)と同様の操作により行った。化合物(1−4:350)の生成はNMRにより確認した。反応工程式を下記に示す。
【0077】
【化9】

【0078】
実施例3及び4
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量350)に代えて、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量2000,n=45)を用いる以外、実施例1及び2と同様にして、化合物(1−2:2000)及び化合物(1−4:2000)を得た。
【0079】
実施例5及び6
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量350)に代えて、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量20000,n=454)を用いる以外、実施例1及び2と同様にして、化合物(1−2:20000)及び化合物(1−4:20000)を得た。
【0080】
実施例7(ミセルの形成)
親水部と疎水部とを有するデンドリマーでは、末端のフルオレニル基(又はフルオレニル部位)がコアとなり、両親媒性のポリエチレングリコールPEG鎖又はPEG部位がシェルとなるミセルを形成すると考えられる。一方、8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸(ANS)は親水性溶媒中では蛍光をあまり示さず、疎水性溶媒中では蛍光を示す性質を有している。そのため、前記デンドリマーの濃度を高くすると、蛍光強度が増大すると考えられる。そこで、水中でミセルを形成するか否かを確認するため、ANS濃度を2×10−6M,2×10−5M,2×10−4Mとした水溶液に、化合物(1−2:350)を添加し、蛍光強度を測定した。
【0081】
その結果、図1〜図3(図1:ANS濃度2×10−6M,図2:ANS濃度2×10−5M,図3:ANS濃度2×10−4M)に示すように、ANSの蛍光強度の増加と蛍光強度の最大値(ピーク)が、低波長側に移動(ブルーシフト)した。このことから、ANSの周りの環境が,親水性から疎水性へと変化したことがわかる。化合物(1−2:350)の添加濃度を横軸に,ANSの蛍光波長の変化と蛍光強度の変化を縦軸にプロットすると、化合物(1−2:350)の添加濃度が1×10−6Mと1×10−5Mとの間に変曲点である臨界ミセル濃度(CMC)が存在する。この臨界ミセル濃度(CMC)から化合物(1−2:350)は、水中において濃度2×10−6M〜2×10−5M程度、特に5×10−6Mでミセルを形成することがわかった。また、NMRの13C測定によって重クロロホルム中ではフルオレンに起因するシグナルの確認はできたが、重水中ではフルオレンに起因するシグナルが消失したことから、化合物(1−2:350)は水中でフルオレン部位がコアとなるミセルを形成していることが示唆される。
【0082】
なお、化合物(1−4:350)、化合物(1−2:2000)及び化合物(1−4:2000)についても同様に結果が得られた。
【0083】
実施例8(ミセルの崩壊)
化合物(1−2:350)はミセルを形成するが、遺伝子導入では内包成分又は封止成分のリリースも重要な要素となる。そこで、疎水性のフルオレン部位がシクロデキストリンで包摂可能であることを利用して、シクロデキストリンを添加すると、水に対する溶解度が向上し、ミセルが崩壊することが予想される。なおβ−シクロデキストリン(β−CD)には1つのフルオレンが取り込まれ、γ−CDには2つのフルオレンが取り込まれることが知られている。そこで、β−CDを用いフルオレン部位を包摂し、水に対する溶解度が向上するか否かを検討した。
【0084】
水に化合物(1−2:350)(1×10−2M)を添加すると、乳白色の溶液となった。この溶液にβ−CDを化合物(1−2:350)の濃度の10倍添加すると、溶液は若干の濁りはあるものの透明になった。この現象は、溶液中に存在したミセルの崩壊を意味する。このことから、β−CDを用いてミセル内に封入したDNAがリリース可能であるといえる。
【0085】
実施例9(DNAの封入)
化合物(1−2:350)を濃度1×10−4Mとし、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:略称TEM)によりミセルの形状を観察した(図4)。また、化合物(1−2:350)と同じ濃度のサケ精子(Salmon Sperm)DNA(SS−DNA)を添加し、ミセルの形状の変化を、同じくTEMにより観察した(図5)。
【0086】
TEMの結果より、SS−DNA添加前のミセルは、約100nm前後の大きさの球状構造をしていたが、SS−DNAを添加することにより、球状構造はしているが、大きさが約400nm前後へと大きくなった。このことは、化合物(1−2:350)が形成する球状ミセルに、DNAが取り込まれたためと考えられる。
【0087】
実施例10(Z電位測定によるミセルサイズの測定)
化合物(1−2:350)の濃度を1×10−5Mとし、SS−DNAを10%Mづつ添加したときのミセルサイズの変化と、Z電位の変化との関係を図6に示す。化合物(1−2:350)だけでは、約150nmの大きさのミセルを形成し、DNAの添加によりミセルサイズが400nmと大きくなった。この結果は実施例9の結果ともほぼ一致する。また、Z電位はマイナス側に大きくなっている。Z電位はミセル表面の電荷に対応し、DNAがポリアニオンであるため、ミセル内部にDNAが封入されることにより、電荷がマイナス方向へと大きくなったものと思われる。なお、図6において、横軸のD/FはDNA/デンドリマー(フルオレンデンドリマー)の濃度比(単位:モル)である。
【0088】
以上の結果から、フルオレニル基を有するデンドロン化合物(1−2:350)は水中でミセルを形成し、このミセルは内部にDNAを封入することがわかる。また、封入したミセルをシクロデキストリンによって崩壊させると、DNAの放出も可能であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は実施例での蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は実施例での蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図3】図3は実施例での蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は実施例9でのDNA添加前のミセルの形状を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図5】図5は実施例9でのDNA添加後のミセルの形状を示す電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図6】図6はミセルサイズとZ電位とD/Fとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ユニット又はセグメントと、このユニット又はセグメントに結合し、かつフルオレンユニットを有するデンドロンとで構成されている新規デンドリマー。
【請求項2】
デンドロンが、下記式(1)で表される少なくとも1つの繰り返し単位と、下記式(2)で表され、かつ末端を構成する単位とで構成された第g世代(g=1〜5)のデンドロンである請求項1記載のデンドリマー。
【化1】

(式中、Xは3価の原子又は有機基、Xは有機基、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す)
【請求項3】
とXとが連結基及び/又はスペーサで連結されている請求項2記載のデンドリマー。
【請求項4】
親水性ユニット又はセグメントからのデンドロンの分岐数nが1〜3であり、デンドロンが第g世代(g=1〜4)のデンドロンである請求項1記載のデンドリマー。
【請求項5】
ポリオキシエチレン単位で構成された親水性ユニット又はセグメントと、この親水性ユニット又はセグメントから分岐数n=1〜3で分岐するとともに、下記式(3)で表され、かつ第g世代(g=1〜3)のデンドロンとで構成されている請求項1記載のデンドリマー。
【化2】

(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を含むスペーサを示し、R及びRは前記に同じ)
【請求項6】
デンドロンが、下記式(4)で表され、かつ第g世代(g=1〜3)のデンドロンである請求項1記載のデンドリマー。
【化3】

(式中、Xは窒素原子、Xはイミノ基(−NH−)又は置換イミノ基、R及びRはそれぞれ直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、Yはイミノ基(−NH−)、アミド結合、エステル結合又はウレタン結合を示し、R及びRは前記に同じ)
【請求項7】
水中でミセルを形成可能である請求項1記載のデンドリマー。
【請求項8】
水中でミセルを形成し、DNAを封入可能である請求項1記載のデンドリマー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−238860(P2007−238860A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65992(P2006−65992)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】