説明

新規化合物、重合体、その架橋体、及びそれを有する光学素子

【課題】 従来の環状オレフィンポリマーの架橋体の線膨張係数は、十分に小さいものではなかった。
【解決手段】 下記の式(a)で表される部分構造を有する化合物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、重合体、その架橋体、及びそれを有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィンポリマーは透明性が高く、レンズ等の光学素子の材料として有用であるが、線膨張係数が大きいという課題があることが知られている。
【0003】
ここで、環状オレフィンポリマーを架橋させることで線膨張係数の小さい材料を得る技術が知られている。特許文献1には、架橋可能な環状オレフィンポリマー(下記の式(1))を架橋した例が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、nは1又は2を示し、nは1以上12以下の整数を示す。R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上10以下の炭化水素基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−74293号公報([0008]段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の環状オレフィンポリマー(式(1))のガラス転移温度は低いため、線膨張係数は十分に小さいものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る化合物は、一般式(I)で表されることを特徴とする。
A−Z−B (I)
式(I)において、Aは下記の式(a)である。式(a)中の*1、*2は結合手を表し、*1、*2のいずれか一方が、式(I)のZと結合する。*1、*2のうち式(I)のZと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0009】
【化2】



【0010】
式(I)において、Bは下記の式(b1)、式(b2)のいずれかである。式(b1)及び式(b2)中の*は結合手を表し、式(I)のZと結合する。
【0011】
【化3】

【0012】
式(I)において、Zは直接結合(z1)、式(z2)乃至式(z12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(I)のAあるいはBと結合する。
【0013】
【化4】

【0014】
式(z2)乃至式(z12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0015】
別の本発明に係る化合物は、一般式(II)で表されることを特徴とする。
C−Y−D (II)
式(II)において、Cは下記の式(c)である。式(c)中の*3、*4は結合手を表し、*3、*4のいずれか一方が、式(II)のYと結合する。*3、*4のうち式(II)のYと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0016】
【化5】

【0017】
式(II)において、Dは下記の式(d1)、式(d2)のいずれかである。式(d1)及び式(d2)中の*は結合手を表し、式(II)のYと結合する。
【0018】
【化6】

【0019】
式(II)において、Yは直接結合(y1)、式(y2)乃至式(y12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(II)のCあるいはDと結合する。
【0020】
【化7】

【0021】
式(y2)乃至式(y12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0022】
本発明に係る重合体は、式(e1)乃至式(e3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0023】
【化8】

【0024】
式(e1)乃至式(e3)において、Fは下記の式(f)である。式(f)中の*5、*6は結合手を表し、*5、*6のいずれか一方が、式(e1)乃至式(e3)のXと結合する。*5、*6のうち式(e1)乃至式(e3)のXと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0025】
【化9】

【0026】
式(e1)乃至式(e3)において、Xは直接結合(x1)、式(x2)乃至式(x12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(e1)乃至式(e3)の脂環構造中の炭素原子あるいはFとそれぞれ結合する。
【0027】
【化10】

【0028】
式(x2)乃至式(x12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0029】
別の本発明に係る重合体は、式(g1)乃至式(g3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0030】
【化11】

【0031】
式(g1)乃至式(g3)において、Hは下記の式(h)である。式(h)中の*7、*8は結合手を表し、*7、*8のいずれか一方が、式(g1)乃至(g3)のWと結合する。*7、*8のうち式(g1)乃至(g3)のWと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0032】
【化12】

【0033】
式(g1)乃至式(g3)において、Wは直接結合(w1)、式(w2)乃至式(w12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(g1)乃至式(g3)の脂環構造中の炭素原子あるいはHとそれぞれ結合する。
【0034】
【化13】

【0035】
式(w2)乃至式(w12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0036】
別の本発明に係る重合体は、式(i1)乃至式(i3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0037】
【化14】

【0038】
式(i1)乃至式(i3)において、Jは下記の式(j)である。式(j)中の*9、*10は結合手を表し、*9、*10のいずれか一方が、式(i1)乃至式(i3)のVと結合する。*9、*10のうち式(i1)乃至式(i3)のVと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0039】
【化15】

【0040】
式(i1)乃至式(i3)において、Vは直接結合(v1)、式(v2)乃至式(v12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(i1)乃至式(i3)の窒素原子あるいはJとそれぞれ結合する。
【0041】
【化16】

【0042】
式(v2)乃至式(v12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0043】
別の本発明に係る重合体は、式(k1)乃至式(k3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0044】
【化17】

【0045】
式(k1)乃至式(k3)において、Lは下記の式(l)である。式(l)中の*11、*12は結合手を表し、*11、*12のいずれか一方が、式(k1)乃至式(k3)のUと結合する。*11、*12のうち式(k1)乃至式(k3)のUと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0046】
【化18】

【0047】
式(k1)乃至式(k3)において、Uは直接結合(u1)、式(u2)乃至式(u12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(k1)乃至式(k3)の窒素原子あるいはLとそれぞれ結合する。
【0048】
【化19】

【0049】
式(u2)乃至式(u12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0050】
本発明に係る架橋体は、一般式(III)で表されることを特徴とする。
M−R−T−R’−M’ (III)
式(III)において、M、M’はそれぞれ式(m1)乃至式(m12)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有する重合体である。式(m1)乃至式(m12)中の*は結合手を表し、式(III)のR、R’とそれぞれ結合する。
【0051】
【化20】

【0052】
式(III)において、Rは直接結合(r1)、式(r2)乃至式(r12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(III)のMもしくはM’、あるいはTと結合する。
【0053】
【化21】

【0054】
式(r2)乃至式(r12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0055】
式(III)において、Tは式(t)である。式(t)中の*13乃至*20は結合手を表し、*13乃至*16のいずれか、及び、*17乃至*20のいずれかがそれぞれ式(III)のM及びM’と結合する。*13乃至*20のうち式(III)のM及びM’と結合していない結合手は水素原子と結合している。
【0056】
【化22】

【発明の効果】
【0057】
本発明に係る化合物を重合した重合体を架橋して得られる架橋体は、線膨張係数が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る化合物の製造方法の一例を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態に係る化合物の製造方法の一例を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る化合物の製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光学素子について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の実施形態について説明する。
【0060】
本明細書において、特に説明がない場合は、Cは炭素原子、Nは窒素原子、Hは水素原子、Oは酸素原子、Sは硫黄原子、Siはケイ素原子を表す。
【0061】
(実施形態1)
(化合物)
本実施形態に係る化合物は、一般式(I)で表されるモノマーであることを特徴とする。
A−Z−B (I)
式(I)において、Aは下記の式(a)である。式(a)中の*1、*2は、式(a)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*1、*2のいずれか一方が、式(I)のZと結合する。*1、*2のうち式(I)のZと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0062】
【化23】

【0063】
式(I)において、Bは下記の式(b1)、式(b2)のいずれかである。式(b1)及び式(b2)中の*は結合手を表し、式(I)のZと結合する。
【0064】
【化24】

【0065】
式(I)において、Zは直接結合(z1)、式(z2)乃至式(z12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(I)のAあるいはBと結合する。
【0066】
【化25】

【0067】
式(z2)乃至式(z12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0068】
本実施形態に係る別の化合物は、一般式(II)で表されることを特徴とする。
C−Y−D (II)
式(II)において、Cは下記の式(c)である。式(c)中の*3、*4は、式(c)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*3、*4のいずれか一方が、式(II)のYと結合する。*3、*4のうち式(II)のYと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0069】
【化26】

【0070】
式(II)において、Dは下記の式(d1)、式(d2)のいずれかである。式(d1)及び式(d2)中の*は結合手を表し、式(II)のYと結合する。
【0071】
【化27】

【0072】
式(II)において、Yは直接結合(y1)、式(y2)乃至式(y12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(II)のCあるいはDと結合する。
【0073】
【化28】

【0074】
式(y2)乃至式(y12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0075】
本実施形態に係る化合物は、式(b1)、式(b2)、式(d1)、式(d2)のいずれかを有するため、重合することにより後述する重合体を得ることができる。後述する重合体は、その重合体を加熱することで架橋体を得ることができる。得られる架橋体の線膨張係数は60ppm/℃以下の十分に小さい値であるため、温度による寸法変化が小さいため、光学素子、電子基板などの材料として好適に使用することができる。
【0076】
また、後述する重合体を架橋する際に、エチレンなどの副生成物が生じないため、気泡の無い良好な成形体を得ることができる。また、後述する重合体を架橋する際に、架橋剤や架橋助剤などが不要である。
【0077】
本実施形態に係る化合物において、式(z1)乃至式(z5)、式(z10)、式(z11)、式(y1)乃至式(y5)、式(y10)、式(y11)は、酸素原子を含まないため、吸水性が低いと考えられるため好ましい。また、式(z6)乃至式(z12)、式(y6)乃至式(y12)はヘテロ原子を有するため、銅などの金属やガラス等の基板に密着しやすいため好ましい。
【0078】
本実施形態に係る化合物の例は以下の通りである。
【0079】
【化29】

【0080】
(重合体)
本実施形態に係る重合体は、式(e1)乃至式(e3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0081】
【化30】

【0082】
式(e1)乃至式(e3)において、Fは下記の式(f)である。式(f)中の*5、*6は、式(f)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*5、*6のいずれか一方が、式(e1)乃至式(e3)のXと結合する。*5、*6のうち式(e1)乃至式(e3)のXと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0083】
【化31】

【0084】
式(e1)乃至式(e3)において、Xは直接結合(x1)、式(x2)乃至式(x12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(e1)乃至式(e3)の脂環構造中の炭素原子あるいはFとそれぞれ結合する。
【0085】
【化32】

【0086】
式(x2)乃至式(x12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0087】
本実施形態に係る別の重合体は、式(g1)乃至式(g3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする。
【0088】
【化33】

【0089】
式(g1)乃至式(g3)において、Hは下記の式(h)である。式(h)中の*7、*8は、式(h)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*7、*8のいずれか一方が、式(g1)乃至(g3)のWと結合する。*7、*8のうち式(g1)乃至(g3)のWと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0090】
【化34】

【0091】
式(g1)乃至式(g3)において、Wは直接結合(w1)、式(w2)乃至式(w12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(g1)乃至式(g3)の脂環構造中の炭素原子あるいはHとそれぞれ結合する。
【0092】
【化35】

【0093】
式(w2)乃至式(w12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0094】
本実施形態に係る別の重合体は、式(i1)乃至式(i3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【0095】
【化36】

【0096】
式(i1)乃至式(i3)において、Jは下記の式(j)である。式(j)中の*9、*10は、式(j)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*9、*10のいずれか一方が、式(i1)乃至式(i3)のVと結合する。*9、*10のうち式(i1)乃至式(i3)のVと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0097】
【化37】

【0098】
式(i1)乃至式(i3)において、Vは直接結合(v1)、式(v2)乃至式(v12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(i1)乃至式(i3)の窒素原子あるいはJとそれぞれ結合する。
【0099】
【化38】

【0100】
式(v2)乃至式(v12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0101】
本実施形態に係る別の重合体は、式(k1)乃至式(k3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【0102】
【化39】

【0103】
式(k1)乃至式(k3)において、Lは下記の式(l)である。式(l)中の*11、*12は、式(l)中のフェニル環の炭素原子の結合手を表し、*11、*12のいずれか一方が、式(k1)乃至式(k3)のUと結合する。*11、*12のうち式(k1)乃至式(k3)のUと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【0104】
【化40】

【0105】
式(k1)乃至式(k3)において、Uは直接結合(u1)、式(u2)乃至式(u12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(k1)乃至式(k3)の窒素原子あるいはLとそれぞれ結合する。
【0106】
【化41】

【0107】
式(u2)乃至式(u12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0108】
本実施形態に係る重合体は、式(f)、式(h)、式(j)、式(l)で示すように、ベンゾシクロブテン構造を有するため、その重合体を加熱することによって架橋体を得ることができる。得られる架橋体の線膨張係数は60ppm/℃以下の十分に小さい値であるため、温度による寸法変化が小さいため、光学素子、電子基板などの材料として好適に使用することができる。
【0109】
また、本実施形態に係る重合体を架橋する際に、エチレンなどの副生成物が生じないため、気泡の無い良好な成形体を得ることができる。また、後述する重合体を架橋する際に、架橋剤や架橋助剤などが不要である。
【0110】
本実施形態に係る重合体の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で、1000以上1000000以下、好ましくは3000以上500000以下、さらに好ましくは3000以上7000以下である。ただし、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として求められる値である。
【0111】
本実施形態に係る重合体において、式(x1)乃至式(x5)、式(x10)、式(x11)、式(w1)乃至式(w5)、式(w10)、式(w11)、式(v1)乃至式(v5)、式(v10)、式(v11)、式(u1)乃至式(u5)、式(u10)、式(u11)は、酸素原子を含まないため、吸水性が低いと考えられるため好ましい。また、式(x6)乃至式(x12)、式(w6)乃至式(w12)、式(v6)乃至式(v12)、式(u6)乃至式(u12)はヘテロ原子を有するため、銅などの金属やガラス等の基板に密着しやすいと考えられるため好ましい。
【0112】
また、本実施形態に係る重合体は、本発明の効果が得られる範囲で、上記の繰り返し構造単位以外の繰り返し構造単位を含む共重合体であってもよい。上記の繰り返し構造単位以外の繰り返し構造単位の例は以下の通りである。
【0113】
【化42】

【0114】
本実施形態に係る重合体が共重合体の場合、上記の式(e1)乃至式(e3)、式(g1)乃至式(g3)、式(i1)乃至式(i3)、式(k1)乃至式(k3)のいずれかで表される繰り返し構造単位と、上記の式(3−1)乃至式(3−15)のいずれかで表される繰り返し構造単位とのモル組成比が、5mol%:95mol%乃至95mol%:5mol%であることが好ましく、30mol%:70mol%乃至40mol%:60mol%であることがさらに好ましい。本実施形態に係る重合体中の上記の式(3−1)乃至式(3−15)の繰り返し構造単位の割合を調整することにより、透過率、屈折率、アッベ数などの光学特性を調整することができる。
【0115】
なお、本実施形態に係る重合体が共重合体である場合、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよく、交互共重合体でもよい。
【0116】
本実施形態に係る重合体の例は、以下の通りである。
【0117】
【化43】

【0118】
(架橋体)
本実施形態に係る架橋体は、
一般式(III)で表されることを特徴とする。
M−R−T−R’−M’ (III)
式(III)において、M、M’はそれぞれ式(m1)乃至式(m12)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有する重合体である。式(m1)乃至式(m12)中の*は結合手を表し、式(III)のR、R’とそれぞれ結合する。
【0119】
【化44】

【0120】
式(III)において、Rは直接結合(r1)、式(r2)乃至式(r12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(III)のMもしくはM’、あるいはTと結合する。
【0121】
【化45】

【0122】
式(r2)乃至式(r12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【0123】
式(III)において、Tは式(t)である。式(t)中の*13乃至*20は結合手を表し、*13乃至*16のいずれか、及び、*17乃至*20のいずれかがそれぞれ式(III)のM及びM’と結合する。*13乃至*20のうち式(III)のM及びM’と結合していない結合手は水素原子と結合している。
【0124】
【化46】

【0125】
本実施形態に係る架橋体の線膨張係数は60ppm/℃以下の十分に小さい値であるため、温度による寸法変化が小さいため、光学素子、電子基板などの材料として好適に使用することができる。また、本実施形態に係る架橋体は、上述するように、熱を加えることによって得ることができ、架橋剤や架橋助剤などが不要である。また、本実施形態に係る架橋体を得る際に、エチレンなどの副生成物が生じないため、気泡の無い良好な成形体を得ることができる。
【0126】
また、本実施形態に係る架橋体において、式(r1)乃至式(r5)、式(r10)、式(r11)は、酸素原子を含まないため、吸水性が低いと考えられるため好ましい。また、式(r6)乃至式(r12)はヘテロ原子を有するため、銅などの金属やガラス等の基板に密着しやすいと考えられるため好ましい。
【0127】
本実施形態に係る架橋体は温度による寸法変化が小さいため、レンズ、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、タッチパネルなどの光学素子、透明電極基板、CD、MD、DVDなどの光学記録基板、TFT用基板などの電子基板、カラーフィルター基板封止材、プリプレグ、樹脂付き銅箔、プリント配線板、絶縁シート、層間絶縁膜、アンテナ基板、電磁波吸収体、電磁波シールドなどの電子部品材料として好適に用いることができる。
【0128】
なお、本実施形態に係る架橋体の架橋構造は、公知の方法により同定することが可能である。具体的には、架橋体を赤外分光法(IR)にて測定し、架橋反応前後で減少するベンゾシクロブテン骨格由来の1470cm−1付近のピークと架橋反応後に現れる1500cm−1付近のピークを観測することによって同定することができる。
【0129】
本実施形態に係る架橋体の例は以下の通りである。
【0130】
【化47】

【0131】
また、本実施形態に係る架橋体は、上記重合体と、上記重合体以外のベンゾシクロブテン環を有する重合体と架橋させた架橋体であっても構わない。上記重合体以外の、ベンゾシクロブテン環を有する重合体の繰り返し構造単位は、特に限定されないが、以下の例が挙げられる。
【0132】
【化48】

【0133】
上記重合体と、上記重合体以外のベンゾシクロブテン環を有する重合体とを架橋させた架橋体の例は以下の通りである。
【0134】
【化49】

【0135】
(化合物の製造方法)
本実施形態に係る化合物は、例えば、以下に述べる方法で容易に合成することができる。
【0136】
(一般式(I)の場合)
シクロペンタジエンとビニル基を有するベンゾシクロブテン類とのDiels−Alder反応によって合成することができる。シクロペンタジエンの量を調整することにより、式(b1)と式(b2)を作り分けることが可能である(図1)。
【0137】
(一般式(II)のDが(d1)の場合)
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物と、アミノ基を有するベンゾシクロブテン類とのイミド化反応(図2(a))、またはシクロペンタジエンとN−置換マレイミド基を有するベンゾシクロブテン類とのDiels−Alder反応(図2(b))により合成することができる。
【0138】
(一般式(II)のDが(d2)の場合)
シクロペンタジエン−イタコン酸無水物付加体とアミノ基を有するベンゾシクロブテン類とのイミド化反応(図3(a))、またはシクロペンタジエンとN−置換イタコン酸イミド基を有するベンゾシクロブテン類とのDiels−Alder反応(図3(b))により合成することができる。
【0139】
(重合体の製造方法)
本実施形態に係る重合体の製造方法は、上記の化合物を(i)開環メタセシス重合、(ii)開環メタセシス重合とそれに続く水素添加反応、または(iii)付加重合することによって得られる。
【0140】
(i)開環メタセシス重合
開環メタセシス重合は、上記の化合物を開環メタセシス重合触媒と接触させ行う。
【0141】
上記の開環メタセシス重合触媒は、上記の化合物を開環メタセシス重合させることができれば特に限定されない。
【0142】
開環メタセシス重合触媒としては、(a)周期表第4から8族遷移金属カルベン錯体触媒、または(b)遷移金属化合物と助触媒として機能するアルキル化剤またはルイス酸との組み合わせによる触媒が挙げられる。
【0143】
(a)の具体例としては、タングステンアルキリデン錯体としては、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(O−t−Bu)2、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(OCMe2CF3)2、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(OCMe(CF3)2)2、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph)(O−t−Bu)2、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph)(OCMe2CF3)2、W(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph))OCMe(CF3)2)2等が、モリブデンアルキリデン錯体としては、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(O−t−Bu)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(OCMe2CF3)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CH−t−Bu)(OCMe(CF3)2)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph)(O−t−Bu)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph)(OCMe2CF3)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(CHCMe2Ph))OCMe(CF3)2)2、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(BIPHEN)、Mo(N−2,6−i−Pr2C6H3)(BINO)(THF:テトラヒドロフラン)等が、ルテニウムカルベン錯体触媒としては、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)−3,3−ジフェニルプロペニリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジイソプロピルイミダゾリジン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、[1,3−ジ(1’−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド等が挙げられる。ただし、Meはメチル基、i−Prはイソプロピル基、t−Buはtert−ブチル基、Phはフェニル基を示す。
【0144】
(b)の遷移金属化合物の具体例としては、MoCl4、MoBr2、MoBr3、MoBr4、WCl2、WBr2、WCl4、WBr4、WCl5、WBr5等が挙げられる。
【0145】
(b)の助触媒として機能するアルキル化剤としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウムメチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド等が挙げられ、ルイス酸としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、テトラメチルスズ、テトラエチルスズ、テトラブチルスズ等が挙げられる。
【0146】
これらの中でも触媒活性が高いことから、周期表第4から8族遷移金属カルベン錯体触媒を用いることが好ましく、特にルテニウムカルベン錯体触媒を用いることが好ましい。
【0147】
前記開環メタセシス重合触媒と上記の化合物とのモル比は、通常開環メタセシス重合触媒:上記の化合物=1:100から1:1,000,000、好ましくは1:1,000から1:500,000である。前記重合触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0148】
重合温度は特に制限されないが、通常−30℃以上+200℃以下、好ましくは0℃以上180℃以下である。
【0149】
重合時間は、特に制限されないが、通常1分間以上50時間以下である。
【0150】
開環メタセシス重合反応は無溶媒下で行うこともできるが、重合反応中における粘度上昇を低減させる為にも有機溶媒中で行うのが好ましい。
【0151】
このような有機溶媒としては、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒の使用が好ましい。
【0152】
重合を前記有機溶媒中で行う場合には、前記環状オレフィンモノマーの濃度は前記有機溶媒に対して1質量%以上60質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましい。前記環状オレフィンモノマーの濃度が1質量%未満の場合は生産性が悪く、60質量%を超える場合は重合後の溶液粘度が高くなり、その後の取扱いが困難となる。
【0153】
重合体の分子量を調整するために、分子量調整剤を用いることができる。分子量調整剤の具体例としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物;アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。
【0154】
分子量調整剤の使用量は、上記の化合物に対して、0モル%以上100モル%以下の範囲で任意に選択することができる。
【0155】
(ii)開環メタセシス重合とそれに続く水素添加反応
開環メタセシス重合は上述した通りである。水素添加反応は、上記の化合物の開環メタセシス重合を行った後、水素化触媒および水素を添加して行い、開環メタセシス重合体中の炭素−炭素二重結合を水素化する。水素添加反応によって得られるものを水添体と呼ぶ。
【0156】
使用される水素化触媒は、一般にオレフィン類や芳香族化合物の水素化反応に使用されるものであれば格別の制限はなく、その具体例として、(a)パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの遷移金属をカーボン、アルミナ、シリカ、ケイソウ土などの担体に担持してなる担持型金属触媒、(b)チタン、コバルト、ニッケルなどの有機遷移金属化合物とリチウム、マグネシウム、アルミニウム、スズなどの有機金属化合物からなる均一系触媒、(c)ロジウム、ルテニウムなどの金属錯体触媒などからなる均一系触媒を挙げることができる。
(a)の具体例としては、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ、白金/シリカ、白金/アルミナ、ロジウム/シリカ、ロジウム/アルミナ、ルテニウム/シリカ、ルテニウム/アルミナなどの触媒が挙げられる。
(b)の具体例としては、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムなどの組み合わせが挙げられる。
(c)の具体例としては、ジヒドリドテトラ(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリド(アセトニトリル)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリド(テトラヒドロフラン)トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどが挙げられる。
【0157】
水素化反応は、使用する水素化触媒系によっても適する条件範囲が異なるが、水素化温度は通常、−20℃以上250℃以下、好ましくは0℃以上220℃以下、より好ましくは20℃以上200℃以下であり、水素圧力は、通常0.01MPa以上10MPa以下、好ましくは0.05MPa以上7MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上5MPa以下である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅く、高すぎると副反応が起こる。また、水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となる。
【0158】
水素添加反応時間は、特に制限されないが、通常1分間から50時間である。
【0159】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で実施する。有機溶媒としては、生成する水素化物の溶解性により任意に選択することができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、デカリンなどの脂環族炭化水素;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられ、これらの中でも、本発明で使用する環状オレフィン系開環重合体水素化物の溶解性に優れる溶媒として、炭化水素系溶媒またはエーテル類が好ましく、炭化水素系溶媒の中でも脂環族炭化水素溶媒がより好ましい。
【0160】
有機溶媒は、通常は、重合反応溶媒と同じでよく、重合反応液にそのまま水素添加触媒を添加して反応させればよい。
【0161】
用いた水素化触媒を分離除去する方法としては、以下の方法を挙げることができる。
【0162】
均一系触媒を用いた場合には、重合後の反応液に酸化剤又は塩基性化合物と該反応液の貧溶媒である水やメタノール等添加して、均一系触媒を金属酸化物や金属塩にし、該金属酸化物や金属塩を貧溶媒中に抽出した後に濾過や遠心分離により分離除去する方法、吸着剤に吸着させて分離除去する方法、均一系触媒を塩酸等の酸性水溶液中に抽出することにより分離除去する方法、等を用いることができる。
【0163】
担持型水素化触媒を用いた場合には、遠心分離、濾過により容易に分離除去する方法を用いることができる。
【0164】
(iii)付加重合
付加重合は、上記の化合物を付加重合触媒と接触させ行う。
本発明に用いられる付加重合触媒は、上記の化合物を付加重合させることができれば特に限定されない。
付加重合触媒としては、(a)周期表第4から6族遷移金属触媒、または(b)周期表8から10族遷移金属触媒が挙げられる。
【0165】
(a)の具体例としては、TiCl、TiCl等を用いるチグラー−ナッタ触媒;(CTiCl、(CZrCl、(CZr(CH等の有機金属錯体を用いるメタロセン触媒;(CSi(CH)Sc(Si(CH等の有機金属を用いるハーフメタロセン触媒等が挙げられる。
【0166】
(b)の具体例としては、酢酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(II)テトラフルオロボレート、塩化コバルト、コバルト(II)ベンゾエート等のコバルト化合物;酢酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、ニッケルエチルヘキサノエート、ニッケロセン、NiCl[P(C、ビスアリルニッケル、酸化ニッケル等のニッケル化合物;塩化パラジウム、臭化パラジウム、酸化パラジウム、PdCl[P(C、PdCl(CCN)、PdCl(CHCN)、[Pd(CHCN)][BF、[Pd(CCN)][BF、パラジウムアセチルアセトナート、酢酸パラジウム等のパラジウム化合物等が挙げられる。
【0167】
また、これらの触媒系では、必要に応じて助触媒を用いてもよい。助触媒としては、例えば、メチルアルミノキサン、ポリイソブチルアルミノキサン等のアルミノキサン類;B(C、BF・(CO、[CNH(CH[B(C、[(CC][B(C、Li[B(C、Na[B(3,5−(CF)]、等のボロン化合物;トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチルフェニルホスフィン、ジシクロペンチルシクロオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(tert−ブチル)ホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシル(2−エチルヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(o−トリル)ホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられ、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0168】
前記付加重合触媒と上記の化合物とのモル比は、通常付加重合触媒:上記の化合物=1:100乃至1:1,000,000、好ましくは1:1,000乃至1:500,000である。前記重合触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0169】
重合温度は特に制限されないが、通常−30℃以上+200℃以下、好ましくは0℃以上180℃以下である。重合時間は、特に制限されないが、通常1分間以上50時間以下である。
【0170】
付加重合反応は無溶媒下で行うこともできるが、重合反応中における粘度上昇を低減させる為にも有機溶媒中で行うのが好ましい。
【0171】
このような有機溶媒としては、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒の使用が好ましい。
【0172】
重合を前記有機溶媒中で行う場合には、上記の化合物の濃度は前記有機溶媒に対して1質量%以上60質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましい。上記の化合物の濃度が1質量%未満の場合は生産性が悪く、60質量%を超える場合は重合後の溶液粘度が高くなり、その後の取扱いが困難となる。
【0173】
重合体の分子量を調整するために、分子量調整剤を用いることができる。分子量調節剤としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィン類;シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、3−エチルシクロペンテン、3−イソプロピルシクロペンテン、3−n−プロピルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、4−エチルシクロペンテン、4−イソプロピルシクロペンテン、4−フェニルシクロペンテン等のシクロペンテン環を有する化合物類;シクロオクタ−1,5−ジエン、3−メチルシクロオクター1,5−ジエン、3−エチルシクロオクタ−1,5−ジエン、シクロオクタ−1,4−ジエン、シクロヘキサ−1,4−ジエン等のシクロアルカンジエン環を有する化合物等が挙げられる。
【0174】
分子量調整剤の使用量は、上記の化合物に対して、0モル%以上100モル%以下の間で任意に選択することができる。
【0175】
(架橋体の製造方法)
本実施形態に係る架橋体の製造方法は、上記の重合体を加熱処理及び/またはマイクロ波照射処理することにより得られる。
【0176】
加熱処理における加熱温度は、前記重合体のベンゾシクロブテン環が開環する温度であれば特に限定されないが、180℃以上400℃以下が好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。架橋温度が180℃以上であると架橋が十分であり、線膨張係数が十分に小さくなる。また、架橋温度が400℃以下であると重合体及び架橋体の熱分解を抑制できる。
【0177】
マイクロ波照射処理におけるマイクロ波の周波数は、上記の重合体のベンゾシクロブテン環が開環する周波数であれば特に限定されないが、周波数2.45GHzまたは5.8GHzのマイクロ波を照射して形成される。使用されるマイクロ波の周波数は、それぞれ、いわゆるISMバンドに対応した2.45GHz帯の2,450±50MHzまたは5.8GHz帯の5,800±75MHzの周波数をさす。なお、マイクロ波の照射は、異なる条件で複数回行ってもよい。マイクロ波照射時の温度は、特に限定されないが50以上400℃以下が好ましく、より好ましくは80以上300℃以下、特に好ましくは100以上200℃以下である。
【0178】
加熱処理とμ波照射処理は、同時にまたは順次(どちらの処理が先でも構わない)行ってもよい。
【0179】
加熱処理とμ波照射処理を行う時間は、前記重合体を架橋させることができる時間であれば制限されないが、1分以上10時間以下が好ましい。架橋時間がこれより短いと架橋が不十分で本発明の効果が十分得られない可能性があり、これより長いと生産性の低下を招いたり、例えば、架橋工程に加熱を用いた場合には、架橋体の劣化を招くからである。
【0180】
本発明の架橋体の酸化劣化を防止するという観点から、加熱処理及び/またはマイクロ波照射処理時の周囲の雰囲気はアルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性雰囲気を用いることが好ましい。
【0181】
(実施形態2)
(光学素子)
実施形態2では光学素子について図4を用いて説明する。図4の(a)は、上記の架橋体からなる有機透明部材101を有する凸レンズのような光学素子を示している。図4の(b)は、ガラスのような無機材料からなる基材103の上に、上記の架橋体からなる有機透明部材102が形成された光学素子を示している。本実施形態に係る光学素子は、線膨張係数が60ppm/℃以下の十分に小さい値を有する架橋体を有するため、温度による寸法変形が小さい。また、本実施形態に係る光学素子は、式(m1)乃至式(m12)のいずれかで表される繰り返し構造単位で表される、環状オレフィンポリマー構造を有するため、可視光に対する透過率が高く、吸水性も低い。そのため、本実実施形態に係る光学素子は、可視光に対する透過率が高く、吸水性も低い。
【0182】
なお、有機透明部材101、102には、上記の架橋体の種類に応じて、酸化防止剤と、耐光安定剤とを添加してもよい。
【0183】
酸化防止剤は、上記架橋体の酸化による劣化を抑制する材料であれば特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等による着色や強度低下を防止できる。
【0184】
耐光安定剤は、上記の架橋体に光が当たることによる劣化を抑制する材料であれば特に限定されないが、例えば、としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本実施形態においては、透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。
【0185】
本実施形態に係る光学素子の例は、光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズ等のレンズ;眼鏡レンズ等の全光線透過型レンズ;光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)等光ディスクのピックアップレンズ;走査光学系のレンズとしては、レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズ等のレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズ等が挙げられる。その他の例としては、液晶ディスプレイ等の導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム等の光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板等が挙げられる。
【0186】
本実施形態に係る光学素子は、上記の例の中でレンズであることが好ましい。レンズは、表面に反射防止膜が設けられていてもよく、反射防止膜と光学素子との間に中間層を設けてもよい。反射防止膜は特に限定されないが、レンズの屈折率と近い屈折率を有するものであることが好ましい。また、中間層は特に限定されないが、レンズの屈折率と反射防止膜の屈折率との間の値をもつ材料からなることが好ましい。また、レンズにおいて、内面反射を低減するため、光が通過できない部分、通常はレンズ側端部(通称はコバ部)などに、使用波長域において実質不透明な膜を形成してもよい。
【0187】
有機透明部材101、102には一般に入手できうる樹脂を添加してもよい。この一般に入手できうる樹脂は、市販されている樹脂ならば限定はされないが、例えばポリエチレン類、ポリイソプレン類、ポリスチレン類、ポリアクリレート類、アリカーボネート類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリアミド類、シクロオレフィンポリマー類などが挙げられる。
【0188】
有機透明部材101、102には、架橋体の機械特性、電気特性、光学特性などの改善することを目的に充填剤を添加することができる。用いられる充填剤は特に限定はなく、無機物であっても有機物であってもよい。
【0189】
無機物としては、酸化ケイ素、金属酸化物、炭素化合物、金属複酸化物、金属硫化物、金属化合物半導体、金属のいずれかからなることが好ましい。金属酸化物の例としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫等が挙げられる。炭素化合物の例としては、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、グラファイト、フラーレン等が挙げられる。金属複酸化物の例としては、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等が挙げられる。金属化合物半導体の例としては、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属硫化物、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム等が挙げられる。金属の例としては、金などが挙げられる。また、1種類の無機物に他の無機成分を被覆した、いわゆるコア−シェル型の無機物を使用することもできる。また、無機物の形状は、球状、楕円状、扁平状、ロッド状などいずれの形状であっても良い。
【0190】
また、本実施形態に係る光学素子にさらに透明性が求められる場合には、無機物の散乱を抑制するために、用いる無機物の平均一次粒子径は30nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。本明細書において、平均一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)によって測定された粒子径である。
【0191】
有機物としては、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、及び廃プラスチック等が挙げられる。
【0192】
また、充填剤としては、上記の無機物及び有機物の他、チョップド(chopped)ストランドやミルドファイバー等の短繊維長繊維を用いることもできる。繊維の種類としては、ガラス繊維、カーボン繊維、及び金属繊維等の無機繊維や;アラミド繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ポリエチレン繊維、延伸ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及び延伸ポリプロピレン繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0193】
さらに、充填剤として難燃剤を用いてもよい。例えば、金属水酸化物などの無機物からなる難燃剤や、含リン化合物、含ハロゲン化合物、及び含窒素化合物などの有機物からなる難燃剤が挙げられる。中でも、環境負荷低減という観点から、金属水酸化物からなる難燃剤が好ましい。金属水酸化物からなる難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性酸化マグネシウム、及びドーソナイト等が挙げられる。
【0194】
本実施形態に係る架橋体には、一般に常用される酸化防止剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、白化剤、熱安定剤、耐光安定剤、可塑剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、増量剤、離型剤、発泡剤、加工助剤などの樹脂添加剤を必要に応じて配合することができる。なお、この添加剤の具体例としては、R.Gachter及びH.Muller,Plastics Additives Handbook,4th edition,1993に記載されている添加剤が挙げられる。
【0195】
このような樹脂添加剤としては、後述する架橋を形成する過程において架橋反応を阻害するものでなければ、各種の添加剤を適宜使用可能であり、様々な種類の添加剤を単独で又は組合せて使用してもよい。
【0196】
(光学素子の製造方法)
上記の架橋体を用いて成形された光学素子の製造方法の一例について説明する。光学素子の製造方法としては、上記の架橋体を調製した後、得られた架橋体を成形する工程を経て作製する方法(a)や、レンズ形状をした金型中で、上記化合物を塊状重合及び架橋する方法(b)などが挙げられる。
【0197】
(a)の方法において、成形方法としては、特に制限されるものではないが、目的の光学素子の形状に適した成形法を用いることが好ましい。例えば、射出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、回転成形法、真空成形法、押出成形法、カレンダー成形法、溶液流延法、熱プレス成形法、インフレーション法、溶剤キャスト法がある。
【0198】
また、光学素子は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状等種々の形態で使用することができる。
【0199】
以下、光学素子の一例として光学レンズの製造方法について説明する。
【0200】
光学レンズは、上記の架橋体を所望のレンズ形状に成形する工程と、得られた成形体を架橋させる工程を経て得られる。
【0201】
レンズ形状に成形する工程に成形方法は特に限定されないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた成形物を得る為には溶融成形が好ましい。溶融成形法としては、例えば、市販のプレス成形、市販の押し出し成形、市販の射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性がよく、生産性が高いため、好ましい。成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、射出成形をするときにおける重合体の温度は、上記重合体の架橋が進行しない温度であれば制限はされない。100℃以上300℃以下の範囲にあることが好ましい。さらに、成形加工中は不活性ガス下または真空下で行われるとより好ましい。該温度範囲である場合、該組成物が成形時に適度な流動性を有し、成形品のヒケやひずみを生じにくく、重合体の熱分解によるシルバーストリークの発生がしにくく、さらに、成形物の黄変がしにくいからである。また、不活性ガス下または真空下の場合、成形物の劣化や黄変が顕著に抑制されるからである。
【0202】
成形体を架橋させる工程は、レンズ形状の成形型に組成物を注入したあと、上記組成物中のベンゾシクロブテン環が開環する温度以上に温度を加温する。その温度は、180℃以上400℃以下が好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。成形体を架橋させる時間は、前記重合体を架橋させることができる時間であれば制限されないが、1分以上10時間以下が好ましい。架橋時間がこれより短いと架橋が不十分で本発明の効果が十分得られない可能性があり、これより長いと生産性の低下や架橋体の劣化を招くからである。必要であれば架橋時に成形型に圧力をかけても構わない。圧力は通常0.1MPa以上50MPa以下であり、3MPa以上20MPa以下が好ましい。さらに、架橋工程中は不活性ガス下または真空下で行われるとより好ましい。架橋温度が低いと架橋が不十分であり、線膨張係数が十分に小さくならない。また、架橋温度が高いと組成物及び架橋体の熱による分解が始まるからである。また、不活性ガス下または真空下の場合、架橋体の劣化や黄変が顕著に抑制されるからである。
【0203】
(b)の方法において、上記化合物を塊状重合及び架橋する方法は、レンズ形状をした成形型に、上記化合物、重合触媒を必須成分として、所望により、重合調整剤、上記連鎖移動剤、上記酸化防止剤、及び上記充填剤等を注入した後、所定の温度で加熱する。
【0204】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものである。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0205】
所定の温度は、上記化合物が重合し架橋する温度であれば制限はないが、上記化合物の重合時には20℃以上200℃以下が好ましく、架橋形成時には200℃以上300℃以下が好ましい。また、必要であれば成形型に圧力をかけても構わない。圧力は通常0.5MPa以上50MPa以下であり、3MPa以上20MPa以下が好ましい。さらに、上記工程中は不活性ガス下または真空下で行われるとより好ましい。重合に要する時間は、特に制限されないが、1分以上50時間以下が好ましい。これより短いと転化率が低く本発明の効果が得られない可能性がり、これより長いと生産性の低下を招くからである。架橋に要する時間は、前記重合体を架橋させることができる時間であれば制限されないが、1分以上10時間以下が好ましい。架橋時間がこれより短いと架橋が不十分で本発明の効果が十分得られない可能性があり、これより長いと生産性の低下や架橋体の劣化を招くからである。
【実施例】
【0206】
以下に本発明を詳しく説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた化合物の同定、重合体中の繰り返し構造単位モル組成比、水添率、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度、線膨張係数、及び架橋構造の同定は、次に述べる方法で測定した。
【0207】
(1)化合物の同定、共重合体中の繰り返し構造単位のモル組成比、及び水添率
試料15mgをCDCl 1.1gに溶解させ、核磁気共鳴装置JNM−ECA−400(日本電子製)を用いてH−NMR測定を行った。
【0208】
(2)数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)装置(ウォーターズ(WATERS)社製)で、Shodex LF−804 カラム(昭和電工株式会社製)を2本直列に配置し、40℃、展開溶媒としてTHFを用い、RI(Refractive Index、示差屈折率)検出器により測定した。得られた数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は標準ポリスチレン換算値である。
【0209】
(3)ガラス転移温度(Tg)
JIS−K7121に基づいて示差走査型熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 DSC7020)により昇温速度10℃/分の条件で、まず−30℃から170℃の昇温を行った後、−30℃から300℃まで昇温を行い、ガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0210】
(4)線膨張係数
プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法(JIS−K7197)に基づき、得られた硬化物を長さ1cmの短冊状の試験片として切り出し、試験片を熱機械分析装置(株式会社リガク製 Thermo Plus EVO TMA8310)に取り付け、窒素気流下(毎分100mL/min)にて、昇温速度5℃/分の条件で、−40℃から150℃の昇温及び降温を2回繰り返し、2回目の昇温時の0℃〜40℃平均線膨張係数を求めた。
【0211】
(5)架橋構造の同定
架橋体をフーリエ変換赤外分光装置(パーキンエルマー社製Spectrum One)によりATR法(全反射測定法)で測定を行い、縦軸を吸光度とし、架橋反応前後で1470cm−1付近のピークの減少と1500cm−1付近のピークの増加を観測することによって、架橋構造を同定した。
【0212】
(実施例1)
5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン(式(2))の合成
撹拌機付き100mlオートクレーブに4−ビニルベンゾシクロブテン10g(77mmol)、ジシクロペンタジエン4.6g(35mmol)、4−tert−ブチルカテコール438mg(2.6mmol)を加え、密閉した。300rpmで撹拌しながら170℃で2時間反応を行い、冷却後オートクレーブから反応物を取り出した。反応物をトルエンに希釈させた後、メタノールで生成したポリビニルベンゾシクロブテンを沈殿させた。生成したポリビニルベンゾシクロブテンをろ過し、溶媒を除去した後に蒸留装置に移した。反応物を減圧蒸留(127℃、5mmHg)し目的物である無色透明液体の5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネンを3.0g(15mmol、収率20%)得た。下記のH−NMRによる構造同定の結果により、本実施例によって、式(2)で表される化合物ができていることが確認された。
H−NMRによる構造同定の結果)H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.00−6.22(m,3H),6.15−6.14(m,1H),5.83−5.81(m,1H),3.37−3.32(m,1H),3.11(s,4H),3.04(m,1H),2.92(m,1H),2.19−2.15(m,1H),1.48−1.43(m,2H),1.28−1.24(m,1H)
【0213】
(実施例2)
ポリ(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン)(式(3−17)、以下P1と呼ぶ)の合成
窒素置換した撹拌子入り耐圧アンプルに5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン1.0g(5.1mmol)、1−ヘキセン10mg(0.95mmol)、THF10mlを加えた。耐圧アンプルを70℃のオイルバスに浸し、アンプル内の溶液を撹拌させながらベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド1.0mgのTHF3.0ml溶液をアンプル内に導入し重合を開始した。2時間後、エチルビニルエーテル0.5mlをアンプル内に導入し重合を停止させた。冷却後、アンプルから重合溶液を取り出し、THF100mlで希釈した。希釈した重合溶液を激しく撹拌させた1Lのメタノールに混入させることによってP1を沈殿させ、ろ過によってP1を回収した。回収したポリマーを真空乾燥機にて50℃で終夜乾燥することによって、白色のP1 0.8g(収率80%)を得た。得られたP1の分子量は、Mn=3.4×10、Mw=6.6×10であった。
【0214】
下記のH−NMRによる構造同定の結果により、本実施例によって、式(3−17)で表される重合体ができていることが確認された。
H−NMRによる構造同定の結果)
H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.19−6.52(3H),5.78−4.43(2H),3.12(4H),3.47−0.81(7H)
【0215】
(実施例3)
(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン)−ジシクロペンタジエン共重合体(式(3−18)、以下P2と呼ぶ)の合成
窒素置換した撹拌子入り耐圧アンプルに5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン1.0g(5.1mmol)、ジシクロペンタジエン1.0g(7.6mmol)、1−ヘキセン10mg(0.95mmol)、THF20mlを加えた。耐圧アンプルを70℃のオイルバスに浸し、アンプル内の溶液を撹拌させながらベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド1.0mg(1.1×10−3mmol)のTHF3.0ml溶液をアンプル内に導入し重合を開始した。2時間後、エチルビニルエーテル0.5mlをアンプル内に導入し重合を停止させた。冷却後、アンプルから重合溶液を取り出し、THF200mlで希釈した。希釈した重合溶液を激しく撹拌させた1.5Lのメタノールに混入させることによってP2を沈殿させ、ろ過によってP2を回収した。回収したポリマーを真空乾燥機にて50℃で終夜乾燥することによって、白色のP2 1.8g(収率90%)を得た。得られたP2の分子量は、Mn=6.6×10、Mw=1.4×10であった。この共重合体の共重合組成比は1H NMRより、5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン由来の繰り返し単位構造:ジシクロペンタジエン由来の繰り返し構造単位=34mol%:66mol%であった。
【0216】
下記のH−NMRによる構造同定の結果により、本実施例によって、式(3−18)で表される重合体ができていることが確認された。
H−NMRによる構造同定の結果)
H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.18−6.59(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン由来 3H),5.75−4.59(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン由来 2H,ジシクロペンタジエン由来 4H),3.11(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン由来 4H),3.40−0.80(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン由来 7H,ジシクロペンタジエン由来 6H)
【0217】
(実施例4)
ポリ(5−(4−ベンゾシクロブテニル)−2−ノルボルネン)の水添体(式(3−19)、以下P3と呼ぶ)の合成
撹拌機付100mlオートクレーブに実施例1で得られたP2 4.0g、トルエン50mlを加え、密閉した後、オートクレーブ内を窒素で数回置換した。別に準備した10mlナスフラスコにベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド10mg(1.2×10−2mmol)を加えた後、窒素でフラスコ内を置換し、トルエン3mlとエチルビニルエーテル80mg(1.1mmol)を更に加え、室温で10分撹拌した。このフラスコ内の溶液を前述のオートクレーブ内に圧送し、オートクレーブ内を水素で数回置換した後、水素圧4.5MPa、温度150℃で水素化反応を6時間行った。冷却後、反応溶液をビーカーに移し、トルエン350mlで希釈した。希釈した反応溶液を激しく撹拌させた2Lのメタノールに混入させることによってP3を沈殿させ、ろ過によってP3を回収した。回収した水添ポリマーを真空乾燥機にて50℃で終夜乾燥することによって、白色のP3 3.9g(収率98%)を得た。得られたP3の分子量は、Mn=4.2×10、Mw=8.9×10であった。また、H NMRより、P1中の主鎖の二重結合に由来する5.78−4.43ppmのピークが消失し、且つ7.0ppm前後の芳香環に由来するピークが保持されていたことから、水添は主鎖の二重結合のみで進行し(水添率は99.9%以上)、ベンゾシクロブテン構造は保持されていることを確認した。下記のH−NMRによる構造同定の結果により、本実施例によって、式(3−19)で表される重合体ができていることが確認された。
H−NMRによる構造同定の結果)
H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.20−6.63(3H),3.12(4H),2.78−0.35(11H)
【0218】
(実施例5)
P1の架橋体(式(4−1))の合成
実施例2で得られたP1 200mgを円柱状の金型(直径10mm×高さ1.2mm)に入れ、真空下で20MPaの圧力を印加しながら280℃で1時間架橋形成反応を行った。IRより、架橋構造を検出した。本実施例で得られた架橋体のTgは観測されず、線膨張係数は31ppm/℃であった。本実施例に係る架橋体は架橋剤、架橋助剤などを必要とすることなく得られた。また、得られた架橋体を目視で確認したところ、気泡の無い良好な成形体であった。
【0219】
(実施例6)
P2の架橋体(式(4−2))の合成
実施5において、P1をP2に代えた以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造を検出した。本実施例で得られた架橋体のTgは観測されず、線膨張係数は53ppm/℃であった。本実施例に係る架橋体は架橋剤、架橋助剤などを必要とすることなく得られた。また、得られた架橋体を目視で確認したところ、気泡の無い良好な成形体であった。
【0220】
(実施例7)
P3の架橋体(式(4−3))の合成
実施例5において、P1をP3に代えた以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造を検出した。本実施例に係る架橋体は架橋剤、架橋助剤などを必要とすることなく得られた。また、得られた架橋体を目視で確認したところ、気泡の無い良好な成形体であった。本実施例で得られた架橋体のTgは観測されず、線膨張係数は45ppm/℃であった。本実施例に係る架橋体は架橋剤、架橋助剤などを必要とすることなく得られた。また、得られた架橋体を目視で確認したところ、気泡の無い良好な成形体であった。
【0221】
(比較例1)
実施例5において、架橋時の温度を160℃にした以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造は検出されなかった。また、得られた成形体のTgは95℃であり、線膨張係数は77ppm/℃であった。
【0222】
(比較例2)
実施例6において、架橋時の温度を160℃にした以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造は検出されなかった。また、得られた成形体のTgは117℃であり、線膨張係数は79ppm/℃であった。
【0223】
(比較例3)
実施例7において、架橋時の温度を160℃にした以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造は検出されなかった。また、得られた成形体のTgは70℃であり、線膨張係数は77ppm/℃であった。
【0224】
(比較例4)
実施例5において、P1を日本ゼオン社製ZEONEX E48Rにした以外は同様の操作を行った。IRより、架橋構造は検出されなかった。また、得られた成形体のTgは135℃であり、線膨張係数は72ppm/℃であった。
【0225】
実施例5乃至7、比較例1乃至3をまとめた結果を表1に示す。
【0226】
【表1】

【0227】
以上のように、本実施例に係る架橋体はいずれも、線膨張係数が60ppm/℃以下の小さい値であった。また比較例のように、架橋していない場合は、線膨張係数が60ppm/℃より大きい値であった。
【符号の説明】
【0228】
101 有機透明部材
102 有機透明部材
103 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されることを特徴とする化合物。
A−Z−B (I)
式(I)において、Aは下記の式(a)である。式(a)中の*1、*2は結合手を表し、*1、*2のいずれか一方が、式(I)のZと結合する。*1、*2のうち式(I)のZと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化1】


式(I)において、Bは下記の式(b1)、式(b2)のいずれかである。式(b1)及び式(b2)中の*は結合手を表し、式(I)のZと結合する。
【化2】


式(I)において、Zは直接結合(z1)、式(z2)乃至式(z12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(I)のAあるいはBと結合する。
【化3】


式(z2)乃至式(z12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項2】
一般式(II)で表されることを特徴とする化合物。
C−Y−D (II)
式(II)において、Cは下記の式(c)である。式(c)中の*3、*4は結合手を表し、*3、*4のいずれか一方が、式(II)のYと結合する。*3、*4のうち式(II)のYと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化4】


式(II)において、Dは下記の式(d1)、式(d2)のいずれかである。式(d1)及び式(d2)中の*は結合手を表し、式(II)のYと結合する。
【化5】


式(II)において、Yは直接結合(y1)、式(y2)乃至式(y12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(II)のCあるいはDと結合する。
【化6】


式(y2)乃至式(y12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項3】
式(e1)乃至式(e3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【化7】


式(e1)乃至式(e3)において、Fは下記の式(f)である。式(f)中の*5、*6は結合手を表し、*5、*6のいずれか一方が、式(e1)乃至式(e3)のXと結合する。*5、*6のうち式(e1)乃至式(e3)のXと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化8】


式(e1)乃至式(e3)において、Xは直接結合(x1)、式(x2)乃至式(x12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(e1)乃至式(e3)の脂環構造中の炭素原子あるいはFとそれぞれ結合する。
【化9】


式(x2)乃至式(x12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項4】
式(g1)乃至式(g3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【化10】


式(g1)乃至式(g3)において、Hは下記の式(h)である。式(h)中の*7、*8は結合手を表し、*7、*8のいずれか一方が、式(g1)乃至(g3)のWと結合する。*7、*8のうち式(g1)乃至(g3)のWと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化11】


式(g1)乃至式(g3)において、Wは直接結合(w1)、式(w2)乃至式(w12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(g1)乃至式(g3)の脂環構造中の炭素原子あるいはHとそれぞれ結合する。
【化12】


式(w2)乃至式(w12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項5】
式(i1)乃至式(i3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【化13】


式(i1)乃至式(i3)において、Jは下記の式(j)である。式(j)中の*9、*10は結合手を表し、*9、*10のいずれか一方が、式(i1)乃至式(i3)のVと結合する。*9、*10のうち式(i1)乃至式(i3)のVと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化14】


式(i1)乃至式(i3)において、Vは直接結合(v1)、式(v2)乃至式(v12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(i1)乃至式(i3)の窒素原子あるいはJとそれぞれ結合する。
【化15】


式(v2)乃至式(v12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項6】
式(k1)乃至式(k3)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有することを特徴とする重合体。
【化16】


式(k1)乃至式(k3)において、Lは下記の式(l)である。式(l)中の*11、*12は結合手を表し、*11、*12のいずれか一方が、式(k1)乃至式(k3)のUと結合する。*11、*12のうち式(k1)乃至式(k3)のUと結合していない結合手は水素原子と結合する。
【化17】


式(k1)乃至式(k3)において、Uは直接結合(u1)、式(u2)乃至式(u12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、式(k1)乃至式(k3)の窒素原子あるいはLとそれぞれ結合する。
【化18】


式(u2)乃至式(u12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
【請求項7】
一般式(III)で表されることを特徴とする架橋体。
M−R−T−R’−M’ (III)
式(III)において、M、M’はそれぞれ式(m1)乃至式(m12)のいずれかで表される繰り返し構造単位を有する重合体である。式(m1)乃至式(m12)中の*は結合手を表し、式(III)のR、R’とそれぞれ結合する。
【化19】


式(III)において、Rは直接結合(r1)、式(r2)乃至式(r12)のいずれかである。式中の2つの*は結合手を表し、それぞれ、式(III)のMもしくはM’、あるいはTと結合する。
【化20】


式(r2)乃至式(r12)において、n、m、及びlはそれぞれ独立に0乃至5のいずれかの整数である。
式(III)において、Tは式(t)である。式(t)中の*13乃至*20は結合手を表し、*13乃至*16のいずれか、及び、*17乃至*20のいずれかがそれぞれ式(III)のM及びM’と結合する。*13乃至*20のうち式(III)のM及びM’と結合していない結合手は水素原子と結合している。
【化21】

【請求項8】
有機透明部材を有する光学素子において、前記有機透明部材が請求項7に記載の架橋体からなることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28758(P2013−28758A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166969(P2011−166969)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】