説明

新規微生物及び生分解性プラスチック分解酵素

【課題】高い生分解性プラスチック分解活性を有する新規微生物、および該新規微生物の生成する生分解性プラスチック分解酵素の提供。
【解決手段】不完全菌類の無胞子不完全菌目に属する糸状菌であって、該糸状菌を接種した固体培地上に置いた分子量14-15万のPBSからなる4cm2、厚さ2μmのフィルムを25℃の温度条件下で10日間静置した場合に、該フィルムを面積換算で90%以上分解する、糸状菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い生分解性プラスチック分解活性を有する新規微生物、および該微生物の生産する生分解性プラスチック分解酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
農業現場において、プラスチックは必要不可欠な資材としてパイプハウスの被覆やマルチに大量に使用されており、現在、農林業用の使用済プラスチックの排出量は約15万tといわれる。この使用済プラスチックは回収に労力がかかるばかりでなく、燃焼などによりCO2やダイオキシンが発生して地球温暖化などの環境に悪影響を及ぼす。環境に対する負荷の少ない資源を用いる観点からも、近年は生分解性プラスチックの研究が進み、実用化され始めている。
現在、農業資材以外の目的に生産されたものも含めて、生分解性プラスチックの国内生産量は10万tを超えたと推測されている。また、これまでに土壌や汚泥、空気等から採取された微生物から生分解性プラスチック分解酵素が単離されている(特許文献1、2、3)。しかしながら、農業資材に必要な強度と生分解性のバランスは難しく、資材に強度を持たせると生分解性が充分に発揮されないといった問題が存在する。また、生分解性プラスチックの種類によっては通常の条件では分解しにくい場合もある。従って、この問題を解決するため、より高い生分解性プラスチック分解活性を有する微生物、及び該微生物の生産する酵素を得ることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−261102号公報
【特許文献2】特開2004−75905号公報
【特許文献3】特開2005−304388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、高い生分解性プラスチック分解活性を有する新規微生物、および該新規微生物の生成する生分解性プラスチック分解酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本願発明者らは、様々な分離源から生分解性プラスチック分解能の高い菌株を単離、同定すべく鋭意検討した結果、高い生分解性プラスチック分解活性を有し、培養液中に高効率に分解酵素を生産する、従来公知の微生物には分類されない新規微生物を単離することに成功し、本願発明に至った。
すなわち、本発明は、不完全菌類の無胞子不完全菌目(Agonomycetales)に属する糸状菌であって、該糸状菌を接種した固体培地上に置いた分子量14-15万のPBSからなる4cm2、厚さ2μmのフィルムを25℃の温度条件下で10日間静置した場合に、該フィルムを面積換算で90%以上分解する、糸状菌を提供する。
さらに、本発明は前記糸状菌の生産する生分解性プラスチック分解酵素を提供する。
さらに、本発明は、(a) 前記糸状菌を生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、(b) 培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程、を含む生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記方法により得られる、分子量がSDS電気泳動法で約18〜22kDaの生分解性プラスチック分解酵素を提供する。
さらに、本発明は、後述する配列番号4〜8に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約18〜22kDaであり、かつ、PBSおよびPBSAの分解活性を有するタンパク質を提供する。
さらに、本発明は、前記生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法を提供する。
さらに、本発明は、前記糸状菌、および/または、前記生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質を含む、生分解性プラスチック分解製剤を提供する。
【0006】
さらに、本発明は、配列番号20の塩基配列を含む核酸、前記核酸を含むベクター、及び前記核酸がコードするタンパク質を提供する。
さらに、本発明は、配列番号21の配列を含むタンパク質、及び、配列番号21の配列のアミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PBSおよびPBSAの分解活性を有するタンパク質を提供する。
さらに、本発明は、前記タンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法を提供する。
さらに、本発明は、前記タンパク質を含む、生分解性プラスチック分解製剤を提供する。
さらに、本発明は、培地に含まれる生分解性プラスチックがPBSAペレットである、前記生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、(c) 上記糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地に加える工程、(d) 糸状菌を培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、(e) 工程(d)の培養液を回収する工程、(f) 培養液を回収した後の培養容器に残存する糸状菌に新たな培地を加える工程、(g) 工程(d)-(f)を繰り返す工程、を含む生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、(h) 上記糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、(i) 培養液の上清を凍結乾燥させる工程、を含む、生分解性プラスチック分解酵素粉末の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、上記方法により製造される生分解性プラスチック分解酵素粉末を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の糸状菌は生分解性プラスチック分解能が高く、前記糸状菌からは純度の高い酵素溶液が容易に得られる。本発明の糸状菌またはその生産する酵素を使用することにより、高い資材強度を持つが生分解性が低いために農業現場での実用化が困難となっていたポリブチレンサクシネート(PBS)を成分とする農業資材の生分解性プラスチック・マルチフィルムをも効率的に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】オートミール培地上の本発明の糸状菌(47-9菌株)の菌叢を示す。
【図2】本発明の糸状菌によるPBSA膜の分解を示す。(左 47-91:PBSAフィルム、47-92:PBSフィルム;右 無処理)
【図3】本発明の糸状菌によるPBSAエマルジョンの分解を示す。(左:培養初日、右:培養7日後)
【図4】本発明の糸状菌の生産する酵素のトリシン/SDS-PAGE(銀染色)の写真を示す。(M:マーカー、1:酵素液ろ液、2:アフィニティーを利用した精製物)
【図5】本発明の生分解性プラスチック分解酵素をトリプシンで分解し、HPLCで分離した際のクロマトグラムを示す。
【図6】本発明の糸状菌の酵素液によるPBS、PBSAおよびPBS/PBSA混合フィルムの分解を示す。(上段:培養6日後、下段:計量後)
【図7】ペレット状PBSAを含む培地を使用した生分解性プラスチック分解酵素酵素の生産を示す。
【図8】ジャーファーメンターによる初代培養の酵素活性の変化を示す。
【図9】ジャーファーメンターを使用して継代培養を行い、継代回数ごとに回収した培養液の酵素活性を示す。
【図10】4℃及び28℃の温度条件下で98日間放置した培養液上清の酵素活性を示す。
【図11】-20℃の条件で115日間放置した培養液上清の酵素活性を示す。
【図12】培養液上清を真空凍結乾燥した酵素の酵素活性を示す。
【図13】培養液上清を真空凍結乾燥した酵素を4℃の条件で50日間放置した後の酵素活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の糸状菌は、培養液中に純度の高い生分解性プラスチック分解酵素を生産する糸状菌(子のう菌系不完全菌類47-9菌株)をオオムギ葉から分離し、同定することにより得られたものである。糸状菌による生分解性プラスチック分解については、農業現場で実用されているマルチフィルム分解に関する研究事例がAspergillus oryzaeで一例知られているが、Aspergillus属菌は麦芽エキス寒天培地やツァペック寒天培地上で黒、緑、オレンジ色等の色調を呈するコロニーを形成し、培地表面に多数の分生子柄を立ち上げフィアライドから大量の分生子を産生する特徴がある。本発明の糸状菌は麦芽エキス寒天培地およびツァペック-ドックス寒天培地上で暗オリーブ色の菌糸体のみを形成するなどの点において本菌は形態的にAspergillus属とは異なった別種である。また、本発明の糸状菌は後述の科学的性質に示すように胞子の形成が認められていないため、分類上は不完全菌類の無胞子不完全菌目に属するものである。なお、糸状菌は有性世代の胞子の形態を比較することで分類が可能となるが、有性世代が確認されず、無性生殖を繰り返すのみの菌も数多くいることが知られており、それらの菌は有性世代が確認されるまでは無性生殖の状態の形態で分類を行っている。それらの有性世代が知られていないか、または存在しない菌類は一般に不完全菌類として分類されている。
【0010】
本発明の糸状菌は、該糸状菌を接種した固体培地上に置いた分子量14-15万のポリブチレンサクシネート(PBS)からなる4cm2、厚さ2μmのフィルムを25℃の温度条件下で10日間静置した場合に、該フィルムを面積換算で90%以上分解する。また、好ましくは、本発明の糸状菌はさらに、上記と同様の条件においてポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)からなるフィルムも面積換算で90%以上分解する。
上記の分解試験の方法は当業者に知られており、例えば後述する実施例に記載の方法により行うことが可能である。また、PBS及びPBSAの生分解性プラスチックは多く市販されており、当業者は上記の分解性試験に用いるのに適したフィルムを容易に準備または調製することが可能である。また、糸状菌を接種した固体培地は、糸状菌がその生分解性プラスチック分解活性を有効に発揮するように調製することが可能であり、具体的には、例えば後述の実施例に示したようにフィルム中心となる位置に5mm角の菌体を接種して使用することができる。培地の組成についても当業者が任意のものを選択することができる。また、面積換算での分解率の解析は、後述の実施例に示す画像解析などにより、例えばフィルムの輝度を測定することにより調べることができる。
【0011】
なお、本発明において「生分解性プラスチック」とは、「使用時は従来の石油由来のプラスチックと同様の機能を有し、使用後は自然界の土中や水中の微生物により、最終的に水や二酸化炭素に分解されるプラスチック」という、当該技術分野において一般に理解される意味を有する。具体的には、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、およびポリコハク酸ブチレン、ポリ乳酸等のポリエステルが挙げられ、コハク酸系ポリエステル[ポリブチレンサクシネート(PBS)およびポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)との混合物]が好ましい。
【0012】
本発明の糸状菌はさらに以下の科学的性質を有する。
(培養条件)
培地名:ポテトデキストロース寒天培地
培地の組成:
ポテト 200g
ブドウ糖 20g
寒天 20g
蒸留水 1L
培地のpH(滅菌前):5.6
滅菌温度・時間:121℃ 15分
培養温度:25℃
培養期間:7日
酸素要求性:好気性
・上記のジャガイモブドウ糖寒天培地で培養2日後にはコロニーの生育が認められる。
・コロニーの表面は灰白色で裏面は暗オリーブ色の菌叢が生育する。
・ジャガイモブドウ糖寒天培地の他に、コーンミール寒天培地およびオートミール寒天培地上においても同様の生育を示す。
・最適生育条件:25℃、pH5〜9
・生育の範囲:5℃〜35℃、pH3〜10
・その特徴的な形態は以下の通りである。
- 栄養菌糸(vegetative hyphae)は、暗褐色に着色し、寒天表面上もしくは寒天内に形成され、有隔壁菌糸の形成が認められる。
- 菌糸幅はほぼ一定で、菌糸の表面は平滑(smooth)である。かすがい連結(clamp connection)の形成は確認できない。
- 長期間培養しても分生子(conidium)、厚壁胞子(chlamydospore)およびテレオモルフ(teleomorph)の形成は認められない。
【0013】
単離された前記糸状菌の菌株についてITS1-5.8SrDNA-ITS2の塩基配列(配列番号:1)の相同性解析を行った結果、子のう菌類のNeoplaconema gloeosporioidesのITS1-5.8SrDNA-ITS2の塩基配列(DNA Data Bank of Japan データベース登録番号AJ534443)と97%の高い相同性が示され、本菌はNeoplaconema属に近縁の子のう菌系の不完全菌類であることが示された。従って、本発明の糸状菌は、好ましくはNeoplaconema gloeosporioidesのITS1-5.8SrDNA-ITS2の塩基配列との相同性が97%以上である塩基配列を含むITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を有する。また好ましくは配列番号1に記載の塩基配列との相同性が99%以上である塩基配列を含むITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を有し、さらに好ましくは配列番号1に記載の塩基配列を含むITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を有する。
【0014】
単離された前記糸状菌の菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-573として寄託した。従って、本発明の糸状菌は、好ましくは受託番号がNITE P-573である糸状菌である。また、該菌株と同様の生分解性プラスチック分解活性を有する限り、上記糸状菌の変異株も本発明に包含される。これは、自然突然変異によるものであってもよいし、紫外線照射や化学的変異原処理などの物理的または化学的処理を施すことによって塩基の付加、欠失、置換等を人工的に誘発したものであってもよい。
【0015】
本発明にはさらに、上記の糸状菌の生産する生分解性プラスチック分解酵素が包含される。前記生分解性プラスチック分解酵素の単離は、当業者に知られる任意の方法によって行うことが可能であるが、本発明においては、例えば以下の工程を含む生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を用いることができる:
(a) 本発明の糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
(b) 培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程。
【0016】
前記方法の工程(a)においては、本発明の糸状菌を生分解性プラスチック分解活性酵素を生産する条件で培養することにより、前記酵素を細胞外の培地中に分泌させる。培養条件は当業者が任意に設定することが可能であり、例えば実施例の項において後述する1%PBSAエマルジョン添加FMZ培地の液体培地を作製し、植菌して振とう培養することにより、菌を増殖させて生分解性プラスチック分解酵素を培地中に分泌させることができる。例えば、Kamini NR et al. Production, purification and characterization of an extracellular lipase from the yeast, Cryptococcus sp. S-2. Process Biochemistry 36 p. 317-324 (2000)および Kolattukudy PE et al. Cutinases from fungi and pollen. Methods in Enzymology 71 p. 652-664 (1981)に記載の方法またはその方法を改変して使用することができる。また、糸状菌による酵素生産に一般的に用いられる、植物体を担体に用いた固体培養や、ウレタンフォームなどの発泡担体を用いた固体培養物から抽出する方法を用いることもできる。
【0017】
また、上記の工程(a)においては、培地に添加する生分解性プラスチックとしてPBSAエマルジョンの代わりにPBSAペレットを使用することも可能である。ペレットの形状等は特に限定されず、具体的には、例えば昭和高分子株式会社製のビオノーレペレット規格#3020を使用することができる。
【0018】
また、天然油脂(例えば大豆油)やグリセロール等の非糖質系物質を炭素源に用いることが可能である。これらの炭素源を使用することにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率よく誘導することができる。また、特にグリセロールを用いた場合には、その後の精製工程を通して酵素が失活しにくく、酵素活性を高く保つことができるという利点がある。
【0019】
工程(b)では、前記培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する。酵素の精製は当該技術分野に知られる任意の方法で行うことが可能であり、工程(a)で挙げた文献をを参照することもできる。例えば、培養液の上清に硫酸アンモニウムを加えて沈殿物を得てもよいし、旭化成マイクローザ等を用いた限界濾過法を用いて、培養液を濃縮しても良い。さらに前記沈殿を20mM Tris-HClバッファーに溶解した後、spectrapor MWCO 12000-14000などの透析チューブを使用して20mM Tris-HClバッファーで透析してもよいし、さらにその後DEAE sepharose カラムを通過させて共在する蛋白質を除去してもよいし、必要によりさらにSP sepharoseカラムを通して酵素を精製してもよい。また、上記の操作を適宜組み合わせてもよい。
また別の例では、本発明の酵素と基質(PBSA)との親和性及びPBSAが水系溶媒に不溶であることを利用して簡便に精製することが可能である。例えば、限外ろ過によって濃縮及び緩衝液(10mM PIPES、 pH6.8)交換した培養液にPBSAエマルジョンを添加した後遠心分離によって酵素-PBSA複合体を沈殿させ、他のタンパク質等の夾雑物を含む上清を除き、5mM CaCl2を含む10mM Tris-HCl(pH8.0)で酵素-PBSA複合体を再懸濁して30℃下PBSAを完全に分解させ、最終的に透析あるいは限外ろ過によってPBSAの分解物を除去することにより純粋な酵素溶液を得ることができる。
【0020】
本発明の方法により製造された生分解性プラスチック分解酵素の分子量をSDS電気泳動法により測定すると、約18〜22kDa、より詳細には約19〜21kDa、さらに詳細には約20kDaの分子量を示す。
また、本発明の方法により製造された酵素はPBSA及びPBSの分解活性を有する。精製された生分解性プラスチック分解酵素の活性は、例えば、PBSAエマルジョンを20mM Tris-HCl (pH6.8)に懸濁した、吸光度(OD660)が約0.5の水溶液1.8mlを口径13mmの試験管に入れ、粗酵素液や、微生物培養上清液を200μl加え、Spectronic20A(島津)等の装置を用いて透過率を測定することにより判定することができる。
【0021】
さらに、本発明の生分解性プラスチック分解酵素は、以下の工程を含む生分解性プラスチック分解酵素の製造方法を用いることも可能である:
(c) 上記糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地に加える工程、
(d) 糸状菌を培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
(e) 工程(d)の培養液を回収する工程、
(f) 培養液を回収した後の培養容器に残存する糸状菌に新たな培地を加える工程、
(g) 工程(d)-(f)を繰り返す工程。
【0022】
ここで、上記工程(f)の培養容器としては、無菌的な操作が可能な培養容器を使用することが好ましく、例えばジャーファーメンター(サクラ精機株式会社 バイオリアクター TBR-2-1)を使用することができる。また、工程(d)-(f)を繰り返す回数は、生分解性プラスチック分解菌が生分解性プラスチック分解酵素を生産できるのであれば特に限定はされないが、例えば2〜10回、例えば5回以上、6回以上等とすることができる。上記方法により回収した培養液に含まれる生分解性プラスチック分解酵素は、必要により前述の精製方法により精製することができる。
【0023】
また、本発明者らは上記の精製された本発明の生分解性プラスチック分解酵素を精製し、その部分アミノ酸配列を決定した。本発明の酵素は、配列番号4〜8に示されるアミノ酸配列を含む。タンパク質が生分解性プラスチック分解活性を有する限り、アミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されていてもよい。
【0024】
また、本発明者らはさらに、上記の生分解性プラスチック分解酵素をコードするヌクレオチド配列(配列番号20)、及び前記酵素の全長アミノ酸配列(配列番号21)を決定した。本発明においては、タンパク質が生分解性プラスチック分解活性を有する限り、アミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されていてもよい。
【0025】
また、本発明の糸状菌、および/または、生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質を含む、生分解性プラスチック分解製剤を製造することができる。上記の生分解性プラスチック分解製剤は当業者は周知の方法により作製することができ、前記糸状菌等を単独で使用してもよいし、周知の溶媒、添加剤などと混合することもできる。
【0026】
本発明の生分解性プラスチック分解酵素は優れた保存安定性を有し、本発明の菌の培養液から菌体を除去した上清の状態で、28℃〜-20℃の範囲の温度条件、例えば28℃(室温)、4℃、-20℃等で、90日以上、例えば100日以上、さらには110日以上にわたって安定的に保存することができる。さらには、本発明の生分解性プラスチック分解酵素は、常法により凍結乾燥しても活性を保つことが可能であり、例えば4℃の条件で50日間以上にわたって安定的に保存することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
1.生分解性プラスチック分解微生物の単離
マルチフィルムの多くが、コハク酸系ポリエステル[ポリブチレンサクシネート(PBS)およびアジピン酸エステルとの混合物(PBSA)]で作られていることから、これらの生プラ分解能力を持つ微生物を、自然界、および保存菌株から探索した。
分離方法としては、始めに寒天平板培地上でPBSAエマルジョン(分子量約1万、1%)分解菌を選抜し、次に、これらの菌から、PBSAおよびPBSのマルチフィルム(分子量約14-15万、厚さ2μm)を分解する菌を選抜する、2段階の選抜方法を作った。
【0028】
なお、生分解性プラスチックを分解する糸状菌のセレクションは、以下の培地を使用した。
糸状菌用誘導型酵素生産株選択培地(FMZ: Czapek-Dox Minimum Medium)
下層


上層B

9cmシャーレに約15mlの下層平板培地を作り、固まった後に45℃のインキュベーター内に保存した。その間に、スターラーを入れた三角フラスコ内で溶解・殺菌した上層Bを約5ml重層した。このとき、上層Bはスターラーで撹拌し、油が均一に混ざるようにした。抗生物質としてクロラムフェニコールを最終濃度40ppmで加えた。
【0029】
発明者らが既にイネやムギ葉面から分離・同定をし、保存していた糸状菌がPBSAエマルジョンを溶解するかを、FMZ培地に唯一の炭素源としてPBSAエマルジョンを重層した培地を用い、該培地上層に含まれるエマルジョンを分解して菌の周囲にクリアゾーンを形成することを確認することにより調べた。その結果、1227株の共試菌から70株のエマルジョン分解能力を持つ糸状菌を分離した。その中で、2006年5月に茨城県つくば市のオオムギから分離した不完全菌類47-9菌株(図1)が特に高い生プラ分解能を持つことを見出した。本菌は4cm2のPBSAおよびPBSのマルチフィルムを10日間で面積換算で、それぞれ93%と91%分解した(図2)。なお、本菌以外の菌株でも、41-12菌株(88.1%と46.5%)や40-6菌株(83.6%と39.4%)などの糸状菌が分解活性を有したが、PBS分解能力は47-9菌株の方が特に優れていた。
【0030】
ここで、上記の値は、FMZ培地の下層のみの培地を9cmのペトリ皿に作成し、その中央に正方形4cm2のPBSAおよびPBSのマルチフィルム4枚をお互いに5mmのすき間をあけて正方形状に置き、そのすき間の中心部にポテトデキストロース寒天培地に培養した5mm角の菌を移植して10日間25℃で培養したものを、以下の測定法により測定した値である。
「透過原稿ポジフィルムモード300dpiで膜をスキャンする。解析にはAquacosmos ver2.0を用い、画像をTIFFファイル(グレースケール)で保存する。Aquacosmos上でファイルを開き、計測ウインドウでツールバーを選択して、ドラッグでプラスチック膜の絵を一枚囲う。「前回と同じ計測ウインドウを作成」を選んで、取り込んだ画像上の全ての膜を、同じ大きさの独立した計測ウインドウとして選定する。(この時に未処理の膜および、膜のない白色に抜けた場所も、コントロールとして同じように囲う。)解析メニュー内の「領域解析」から各領域の輝度の計算を行う。コントロールをもとに、膜の分解量を計算する。」
(計測した膜の輝度−未分解膜の輝度)/(白い画面の輝度−未分解膜の輝度)X100=分解(%)
【0031】
本菌の培養条件を詳細に検討し、分解活性がFMZ液体培地に1%のPBSAエマルジョンを加えた培地で28℃、回転数90 rpm/minで7日間振とう培養した場合に、最も高まることも見出した(図3)。また、PBSAに対する親和性を利用することで、培地から分解酵素を精製することができ、電気泳動で当該酵素のバンドの強度をマーカーと比較することによって培地1リットル当たり100μg程度生産されているものと推定された(図4)。さらに、その上清を限外ろ過することによってPBSAの分解物を除去することにより、純粋な酵素を精製することができ、その生産量はおよそ培地1リットル当たり100μgであった。
また、当該菌は未精製の培養ろ液においても夾雑タンパク質がほとんど無く、高純粋な分解酵素のみを分泌する能力を示した(図4、M:マーカー、1:酵素液ろ液、2:アフィニティーを利用した精製物)。従って、本発明の糸状菌を宿主として用いることにより、高純度な異種タンパク質を生産することも可能である。前記異種タンパク質の生産は常法により行うことが可能であり、例えば、本発明の糸状菌の生分解性プラスチック分解酵素の遺伝子と異種生物の遺伝子を遺伝子組み換え技術で入れ換え、生分解性プラスチック分解酵素遺伝子の一部と異種生物遺伝子を融合し、生分解性プラスチック分解遺伝子の分泌シグナルのすぐ下流に異種生物遺伝子を接続することにより、前記異種遺伝子由来のタンパク質の生産を誘導することができる。
また、本菌はPBSAやPBS以外の生分解性プラスチックである、ポリカプロラクトン(PCL)の分解能も有していた。分子量4万のPCL 0.25gを5 mlのジクロロメタンで溶解し、その後ドラフト中で直径9cmのペトリ皿に溶解液を薄く伸ばし、ジクロロメタンを揮発させPCLの膜を作成し、PBSA同様に膜の分解率を測定したところ処理後10日間で53.0%分解した。
【0032】
2.遺伝子解析
本菌はジャガイモブドウ糖寒天培地、素寒天培地、ジャガイモニンジン寒天培地、コーンミール寒天培地、オートミール寒天培地、V-8寒天培地、Sabouraudブドウ糖寒天培地、Czapek-Dox寒天培地、Foust寒天培地の8種類の各種培地、近紫外線照射、有傷などの処理を行って培養したが、胞子の形成は全く認められなかった。そこで、ジャガイモショ糖液体培地で3日間培養後、菌体を液体窒素で磨砕し、QIAquick PCR Purification Kit (Qiagen社製)によりDNAを抽出し、遺伝子解析を行った。DNA抽出液にWhite et al. (1990)の方法に基づき、ITS1 と ITS4の2つのPCRプライマーの含まれた反応混合液を加え、変性(95℃30秒間)、アニーリング(55℃30秒間)、伸長(72℃2分間)のPCR条件で35サイクル繰り返し、DNAの増幅を行った。増幅したrDNAのITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を、Dye Terminator法でダイレクトシークエンスを行い塩基配列を決定し、日本DNAデーターバンク(DDBJ http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)においてBLAST検索を行った。その結果、子のう菌類のNeoplaconema gloeosporioidesのITS1-5.8SrDNA-ITS2の塩基配列と97%の高い相同性が示され、本菌はNeoplaconema属に近縁の子のう菌系の不完全菌類であることが示された。
なお、上記解析の詳細は、以下の文献の記載に準じて行った。
White TJ, Bruns TD, Lee SB, Taylor, JW (1990) Amplification and direct sequencing of fungal ribosomal RNA genes for phylogenetics.
In: Innis MA, Gelfand DH, Sninsky JJ, White TJ (eds) PCR Protocols, a guide to methods and applications. Academic, San Diego, CA, pp 315-322.
また、使用したプライマーの配列は以下の通りである。
ITS1:TCCGTAGGTGAACCTGCG (配列番号2)
ITS4:TCCTCCGCTTATTGATATGC(配列番号3)
【0033】
3.生分解性プラスチック分解酵素の精製
未同定菌株 47-9の斜面培地(ポテト・デキストロース寒天培地)から10白金耳ずつを100mlの糸状菌用誘導型酵素生産培地 (FMZ: Fungal Minimum Medium Czapek-Dox Base)で培養した。培地組成はNaNO3 0.2 %、KCl 0.05%、K2HPO4 0.1%、MgSO4・7H2O 0.05%、FeSO4・7H2O 0.001%(オートクレーブ後、別殺菌したものを加えた)、PBSAエマルジョン 1.0 %(ビオノーレエマルジョンEM-301 昭和高分子株式会社製)であった。培養条件は、300ml容の三角フラスコで90rpm/minで28℃で7日間培養し、この培養液をろ過した上清から酵素を精製した。
【0034】
限外ろ過によって濃縮及び緩衝液(10mM PIPES、 pH6.8)交換した培養液にPBSAエマルジョンを添加した後遠心分離によって酵素-PBSA複合体を沈殿させ、他のタンパク質等の夾雑物を含む上清を除き、5mM CaCl2を含む10mM Tris-HCl(pH8.0)で酵素-PBSA複合体を再懸濁して30℃下PBSAを完全に分解させ、最終的に透析あるいは限外ろ過によってPBSAの分解物を除去することにより純粋な酵素溶液を得た。上記の方法により製造された生分解性プラスチック分解酵素の分子量をSDS電気泳動法により測定したところ、約20kDであった。
【0035】
4.生分解性プラスチック分解酵素の内部アミノ酸配列特定
上記の47-9株の培養液上清から精製した生分解性プラスチック分解酵素の内部アミノ酸配列を決定した。
前記酵素をトリプシンで分解し、以下の条件のHPLCカラムで分離したもののうち、1番、2番、3番、4番および5番のピークN末端配列を特定した(図5参照)。
HPLC条件
カラム 逆相 C18
サイズ 2mmID × 150mm
溶媒 A=0.1%TFA B=0.075TFA/MeCN
流速 0.2ml/分
検出 216nm
画分 0.1ml/画分 開始:20分、終了:70分
1番:GGIPGYPQDR(配列番号:4)
2番:NEAPAFLISK(配列番号:5)
3番:GSTETGNLGTLGAPLGDALE(配列番号:6)
4番:YGASNVWVQGVGGPYDAALGDNALP(配列番号:7)
5番:VVAGGYSQGAALAAAAISDAST(配列番号:8)
【0036】
5.酵素液による生分解性プラスチックマルチフィルムの分解
栄研2号角形シャーレ(縦10cm 横14cm 高さ1.5cm:栄研化学株式会社製)に園芸培土(くみあい園芸用育苗培土:呉羽化学社製)を70g敷きつめ、その上にPBS、PBSA、およびPBS/PBSA混合フィルム(ビオマルチ:タキイ種苗社製)(厚さ 20μm)をシャーレ同型(縦10cm 横14cm)に切断したものを置いた。ガーゼでろ過した酵素液70mlを上から注ぎ、30℃の恒温器に静置した。なお、酵素液は、47-9菌株の斜面培地(ポテト・デキストロース寒天培地)から20白金耳ずつを、2L容の三角フラスコ中の1Lの糸状菌用誘導型酵素生産培地で90rpm/minで28℃で14日間培養し、この培養液をガーゼでろ過した上清を用いた。
培養6日後には各フィルムに当該菌が生育し、分解が認められた(図6)。各フィルムをはがし、蒸留水で洗浄後に充分乾燥させて重さを量り、対照との比を求めた(3反復)。
その結果PBSAフィルムが最も分解しており、マルチフィルム全面が崩壊していて剥がすことができず、対照に比べて91.2%のフィルムが分解された。PBSおよびPBS/PBSA混合フィルムはそれぞれ23.7%と14.6%分解した。分解は空気と触れていると効果が高く、栄研2号角形シャーレの底に各種フィルムを敷いてから土を入れた場合は各フィルムともほとんど分解されなかった。
【0037】
6.生分解性プラスチック分解酵素の遺伝子配列及び全長アミノ酸配列の特定
上記の4で特定した生分解性プラスチック分解酵素の、配列番号7及び4の内部アミノ酸配列に含まれる「NVWVQG」および「PGYPQD」の配列をもとに、プライマーF6(5’-aaygtytgggtccaggg-3’)(配列番号9)およびR10(5’-tcctgrgggtanccgg-3’)(配列番号10)を設計、合成した。一方、Wizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社)を用いて47-9株のゲノムDNAを抽出した。
抽出したゲノムDNAを鋳型にし、設計した前記プライマーを用いてPCRを行った結果、約350bp(F6-R10増幅断片)が得られた。F6-R10増幅断片の塩基配列を解読し、結果をもとに、さらにプライマーTSP1-1(5’-aagggcgttgtcaccaagag-3’)(配列番号11)、TSP1-2(5’-ttgtcaccaagagctgcgtcgta-3’)(配列番号12)、TSP1-3(5’-acgccctggacccaaacatt-3’)(配列番号13)、TSP2-1(5’-acaccaagaaccagcaaaac-3’)(配列番号14)、TSP2-2(5’-agaaccagcaaaaccgtggcgg-3’)(配列番号15)、TSP2-3 (5’-agcaaaaccgtggcggcatc-3’)(配列番号16)を設計した。
次に、47-9株のゲノムDNAを鋳型にし、プライマーTSP1-1、TSP1-2、TSP1-3およびDNA walking SpeedUPTM Premix Kit(Seegene社)を用いて、PCR法でF6-R10増幅断片の上流遺伝子を増幅させ、約700bpの増幅断片(TSP1増幅断片)を得た。同様にTSP2-1、TSP2-2、TSP2-3を用いてF6-R10増幅断片の下流遺伝子を増幅させ、約650bpの増幅断片を得た。さらにTSP1増幅断片の上流の遺伝子断片を得るために、TSP1増幅断片の塩基配列を解読し、結果をもとにプライマーTSP3-1 (5’-ggtgaatgaaggaccactcc-3’)(配列番号17)、TSP3-2(5’-ctccgctgcaccaagtaaagatg-3’)(配列番号18)、TSP3-3(5’- taaagatggaaccgtgtggt-3’)(配列番号19)を設計した。同様に47-9株のゲノムDNAを鋳型にし、TSP3-1、TSP3-2、TSP3-3を用いて、TSP1増幅断片の上流の約850bpの増幅断片を得た。
TSP3増幅断片、TSP1増幅断片、F6-R10増幅断片およびTSP2増幅断片TSP3増幅断片を結合し、アミノ酸配列に置換した後、N末のアミノ酸配列の結果をもとにORFと分泌された酵素のアミノ酸配列を決定した。得られたヌクレオチド配列及び酵素の全長アミノ酸配列をそれぞれ配列番号20及び21に示す。
【0038】
また、これらの結果をもとにプライマーProbeF2 (5’-atgaagtacttcaccat-3’) (配列番号22)とProbeR2 (5’- gttgccgatcttgctgat-3’)(配列番号23)を合成し、ProbeF2-ProbeR2増幅断片をプローブに用いて47-9株のゲノミックサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、制限酵素EcoRIで消化した染色体DNAにハイブリダイズしたバンドが1本検出され、該当遺伝子は染色体中に1本あることが推察された。
さらに、上記の47-9株から得た生分解性プラスチック分解酵素のDNA配列およびアミノ酸配列と相同性が高い既登録配列を、国立遺伝研究所内DNA data bank of Japan (DDBJ)でBLAST search法を用いて検索した。検索条件は、検索条件 上位10件 期待値 10ギャップ1 フィルター1とした。「DNA-DNA比較」、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA 配列-アミノ酸配列比較」、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA 配列-アミノ酸翻訳したDNA配列比較」の、3つの方法で比較した。その結果、各々の検索で最も高い相同性を示したものは、「DNA-DNA比較」では、M16876|M16876.Soybean lipoxygenase-1 mRNA, 3’ end,clone pLX-65 score:56 E-Value:3e-04、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA 配列-アミノ酸配列比較」では、tr|QOTWK1| QOTWK1_PHANO SubName: Full=Putative uncharacterizedprotein score:249 E-Value:2e-64、「DNA配列→アミノ酸配列翻訳をしたDNA 配列-アミノ酸翻訳したDNA配列」では、CU633899| CU633899. 1 Podospora anserine genomic DNA chromosome 1, supercontig 4 score:127 E-Value:7e-63であった。以上より、今回特定されたDNA配列およびアミノ酸配列は、既知遺伝子配列やアミノ酸配列とは異なる新規の配列であることが推察された。
【0039】
7.ペレット状PBSAを含む培地を使用した生分解性プラスチック分解酵素酵素の生産
上記の項目3では、PBSAエマルジョンを含む培地を使用して糸状菌47-9株を培養して生分解性プラスチック分解酵素を生産したが、このPBSAエマルジョンの代わりにPBSAペレットを含む培地を使用して同様の生分解性プラスチック分解酵素を生産できるか確認した。
使用した培地の組成は以下の通りである。

【0040】
容量3lのフラスコに1lの培地を入れ、振とう器で回転数90 rpm/minで培養すると、7日後には活性が得られ、培養28日で最も活性が高くなった(図7)。なお、活性の測定方法は特開2008-237212号公報に記載された方法に従った。なお、図7以降の活性測定結果では活性の指標として透過度(%T)を用いているが、この値は「吸光度(ABS) = -Log(透過度測定値/100)」の式で対数をとることにより特開2008-237212号公報に記載される吸光度(ABS)に変換することができる。即ち、透過度が高い方が活性が高いことを意味する。
図7の結果から、本願の生分解性プラスチック分解菌は、PBSAエマルジョンを含む培地のみならず、PBSAペレットを含む培地を使用して培養した場合であっても増殖し、生分解性プラスチック分解酵素を生産できることが分かった。
【0041】
8.生分解性プラスチック分解菌の継代培養による生分解性プラスチック酵素の連続生産
本願生分解性プラスチック分解菌を継代培養することによって連続的に生分解性プラスチック分解酵素を生産できるか確認した。
容量2lのジャーファーメンター(サクラ精機株式会社 バイオリアクター TBR-2-1)を使用し、培養液800ml、28℃、100 rpm/min、通気0.6l/minの条件で本願生分解性プラスチック分解菌を培養した。一日毎に培養液を回収し、培養液を回収した後のジャーファーメンターに新しい培地を加えて再び培養を行った。回収した各培地について活性を測定した。なお、培地組成及び活性測定法は特開2008-237212号公報に記載したものに従った。
図8は、初代培養における酵素活性の変化を示す。また、図9は、継代培養を行い、継代回数ごとに回収した培養液の酵素活性を示す。これら結果より、本発明の生分解性プラスチック分解菌は、継代培養することによって繰り返し生分解性プラスチック分解酵素を生産させることが可能であることが分かった。なお、今回の実験においては、6回繰り返して、液交換後一日で酵素が再生産できることが確認された。
【0042】
9.生分解性プラスチック分解酵素の保存安定性
本発明の生分解性プラスチック分解菌の培養液から菌体を除去した上清を様々な温度条件下に放置し、その後酵素活性を測定することにより、本発明の生分解性プラスチック分解酵素の保存安定性を確認した。
まず、4℃及び28℃の温度条件下で98日間放置した上清について、特開2008-237212号公報に記載された方法に従いPBSAと30分反応させた後に酵素活性を測定した。なお、再現性の確認のため5つの上清サンプルをとって保存し、それぞれについて酵素活性を測定した。その結果、図10に示されるように、28℃および4℃の条件で98日間放置しても活性の大きな低下は認められなかった。
同様に、-20℃の条件で115日間放置しても活性の大きな低下は認められなかった(図11)。
以上より、本発明の生分解性プラスチック分解酵素は、培養液から菌体を除去した上清の状態で28℃〜-20℃、の範囲の各温度条件で長期間にわたって安定的に保存出来ることが分かった。
【0043】
次に、培養液から菌体を除去した上清を真空凍結乾燥することに対する酵素活性の安定性を確認した。
上清10mlを300mlのフラスコに入れ、マルト商会株式会社製のフリーズモバイル12によって−80℃で6時間乾燥させたところ、上清1mlあたり4.19±0.53mgの粉末が得られた。その後、前記粉末を乾燥以前の濃度と同等になるように滅菌蒸留水で溶解したところ、乾燥前と同等の活性が認められた(図12)。
【0044】
さらに、凍結乾燥させた粉末の状態における本願生分解性プラスチック酵素の保存安定性を確認した。上記の通り凍結乾燥させた酵素粉末を4℃の条件で50日間放置した。その後、乾燥以前の濃度と同等になるように滅菌蒸留水で溶解し、酵素活性を確認したところ、乾燥前と同等の活性が認められた(図13)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不完全菌類の無胞子不完全菌目に属する糸状菌であって、該糸状菌を接種した固体培地上に置いた分子量14-15万のPBSからなる4cm2、厚さ2μmのフィルムを25℃の温度条件下で10日間静置した場合に、該フィルムを面積換算で90%以上分解する、糸状菌。
【請求項2】
Neoplaconema gloeosporioidesのITS1-5.8SrDNA-ITS2の塩基配列との相同性が97%以上である塩基配列を含むITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を有する、請求項1記載の糸状菌。
【請求項3】
配列番号1に記載の塩基配列との相同性が99%以上である塩基配列を含むITS1-5.8srDNA-ITS2領域を有する、請求項1または2記載の糸状菌。
【請求項4】
配列番号1に記載の塩基配列を含むITS1-5.8SrDNA-ITS2領域を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の糸状菌。
【請求項5】
受託番号がNITE P-573である、請求項1から4のいずれか1項記載の糸状菌。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の糸状菌の生産する生分解性プラスチック分解酵素。
【請求項7】
(a) 請求項1〜5のいずれか1項記載の糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
(b) 培養液から生分解性プラスチック分解酵素を精製する工程、
を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項8】
請求項6記載の方法により得られる、分子量がSDS電気泳動法で約18〜22kDaの生分解性プラスチック分解酵素。
【請求項9】
配列番号4〜8に示されるアミノ酸配列を含み、分子量がSDS電気泳動法で約18〜22kDaであり、かつ、PBSおよびPBSAの分解活性を有するタンパク質。
【請求項10】
請求項6、8または9記載の生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項記載の糸状菌、および/または、請求項6、8または9記載の生分解性プラスチック分解酵素またはタンパク質を含む、生分解性プラスチック分解製剤。
【請求項12】
配列番号20の塩基配列を含む核酸。
【請求項13】
請求項12記載の核酸を含むベクター。
【請求項14】
請求項12記載の核酸がコードするタンパク質。
【請求項15】
配列番号21の配列を含むタンパク質。
【請求項16】
配列番号21の配列のアミノ酸の1もしくは数個が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、PBSおよびPBSAの分解活性を有するタンパク質。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項記載のタンパク質と生分解性プラスチックとを接触させることを含む、生分解性プラスチックを分解する方法。
【請求項18】
請求項14〜16のいずれか1項記載の記載のタンパク質を含む、生分解性プラスチック分解製剤。
【請求項19】
培地に含まれる生分解性プラスチックがPBSAペレットである、請求項7記載の方法。
【請求項20】
(c) 請求項1〜5のいずれか1項記載の糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地に加える工程、
(d) 糸状菌を培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
(e) 工程(d)の培養液を回収する工程、
(f) 培養液を回収した後の培養容器に残存する糸状菌に新たな培地を加える工程、
(g) 工程(d)-(f)を繰り返す工程、
を含む、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項21】
(h) 請求項1〜5のいずれか1項記載の糸状菌を、生分解性プラスチックを含む培地で培養して生分解性プラスチック分解酵素を培養液に分泌させる工程、
(i) 培養液の上清を凍結乾燥させる工程、
を含む、生分解性プラスチック分解酵素粉末の製造方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法により製造される生分解性プラスチック分解酵素粉末。

【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−99066(P2010−99066A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224794(P2009−224794)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】