説明

新規微生物

【課題】エタノールを生成する能力を有する新規微生物を提供すること。
【解決手段】一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを基質として導入し、嫌気的環境下で、エタノール生成能を有するバイロネラ(Veillonella)属に属する新規微生物であり、Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な微生物に関し、詳しくは一酸化炭素、または二酸化炭素と水素を基質として、エタノールを生成する能力を有する新種の微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化対策や、化石燃料の消費抑制のため、新たなエネルギーに関する研究が進められている。
【0003】
産業廃ガスや木質系バイオマスのガス化・改質にともなって排出されるガスに含まれる気体状の二酸化炭素や一酸化炭素などを原料として、微生物による発酵を行い、酢酸やエタノールなどの有用物を回収する技術がある。
【0004】
特に、エタノールは近年、燃料としての需要が高まっており、有用物としての価値が高い。さらに、二酸化炭素は温暖化ガスのひとつであるので、二酸化炭素を炭素源として利用できる菌が得られれば、温暖化ガスの削減効果が期待できる。
【特許文献1】特開平1−98472号公報 アセトバクテリウム(Acetobacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属
【特許文献2】米国特許第5173429号明細書 クロストリジウム(Clostridium)属
【特許文献3】特表2002−543793号公報 クロストリジウム(Clostridium)属
【特許文献4】特開2003−339371号公報 クロストリジウム(Clostridium)属又はその派生属
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素や一酸化炭素を基質として酢酸やエタノールなどの有用物を生産する微生物としては、主にクロストリジウム属菌が知られているに過ぎなかった(特許文献1〜4)。
【0006】
本発明者らは、微生物の単離とスクリーニングを重ね、二酸化炭素や一酸化炭素を基質として、エタノールを生成する能力を有する微生物を選抜し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は、エタノールを生成する能力を有する新規微生物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを基質として導入し、嫌気的環境下で、エタノール生成能を有するバイロネラ(Veillonella)属に属する新規微生物。
【0011】
(請求項2)
Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されているものである請求項1記載の新規微生物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エタノール生成能を有する新規微生物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明のバイロネラ(Veillonella)属に属する新規微生物は、以下、必要に応じて「本菌株」と称する。
【0015】
本菌株は、福岡市下水処理場のメタン発酵処理分画より単離した菌株であり、二酸化炭素や一酸化炭素を基質として酢酸の他にエタノールを生成する能力を持つ、バイロネラ(Veillonella)属に属する新種である。
【0016】
本菌株は、Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されており、以下のような性質を有する。なお、+は陽性又は有を示し、−は陰性又は無を示している。
【0017】
A.形態的性質
(1)細胞の形及び大きさ:約0.3μmの球菌
(2)運動性の有無:−
(3)胞子の有無:−
【0018】
B.培養的性質
(1)Clostridium ljungdahlii(CL)培地寒天平板培養(※1)
37℃、培養日数2日で直径1〜2mmの円形のコロニーを形成する
i)色:白色
ii)表面の形状:スムーズ
iii)透明度:半透明
iv)変異によるコロニー形態の変化:−
v)培養条件や生理的状態によるコロニー形態の変化:−
※1 C.ljungdahlii培地の培地組成を下記に示す。
NHCl 1.00g
KCl 0.10g
MgSO 0.20g
NaCl 0.80g
KHPO 0.10g
CaCl 0.02g
NaWO 0.20mg
Yeast Extract 1.00g
NaHCO 1.00g
Fructose 5.00g
Cysteine−HCl 0.30g
NaS 0.30g
Trace element solution(I) 10ml
Vitamin solution (II) 10ml
Distilled water 1000ml
Agar 15g
pH 5.9
なお、上記の(I)Trace element solution及び(II)Vitamin solutionは以下の組成である。
(I)Trace element solution
Nitrilotriacetic acid 1.5g
MgSO 3.0g
MnSO 0.5g
NaCl 1.0g
FeSO 0.1g
CoSO 0.18g
CaCl 0.1g
ZnSO 0.18g
CuSO 0.01g
KAl(SO 0.02g
BO 0.01g
NaMoO 0.01g
NiCl 0.025g
NaSeO 0.3mg
Distilled water 1000ml
(II)Vitamin solution
Biotin 2.0mg
Folic asid 2.0mg
Pyridoxine−HCl 10mg
Thiamine−HCl 5.0mg
Riboflavin 5.0mg
Nicotinic acid 5.0mg
D−Ca−pantothenate 5.0mg
Vitamin B12 0.1mg
P−Aminobenzoic acid 5.0mg
Lipoic acid 5.0mg
Distilled water 1000ml
(2)ゼラチン穿刺培養
i)ゼラチン液化:−
(3)リトマス・ミルク
i)反応:リトマス還元
ii)凝固:+
(4)B.C.P.ミルク
i)反応:アルカリ性
【0019】
C.生理学的性質
(1)グラム染色性:−
(2)硝酸塩の還元:+
(3)インドールの生成:−
(4)硫化水素の生成:−
(5)デンプンの加水分解:−
(6)ウレアーゼ:−
(7)カタラーゼ:−
(8)生育の範囲
i) 至適pH:7.2
ii)温度:20〜42℃で良好に生育
(9)酸素に対する態度:偏性嫌気性
(10)O−Fテスト:酸化型
(11)糖類からの酸及びガスの生成
i)L−アラビノース:酸(−)/ガス(−)
ii)D−キシロース:酸(−)/ガス(−)
iii)グルコース:酸(+)/ガス(−)
iv)D−マンノース:酸(−)/ガス(−)
v)フラクトース:酸(+)/ガス(−)
vi)マルトース:酸(−)/ガス(−)
vii)ラクトース:酸(−)/ガス(−)
viii)D−トレハロース:酸(−)/ガス(−)
ix)D−ソルビトール:酸(−)/ガス(−)
x)D−マンニトール:酸(−)/ガス(−)
xi)グリセリン:酸(−)/ガス(−)
xii)D−セロビオース:酸(−)/ガス(−)
xiii)エスクリン:酸(−)/ガス(−)
xiv)サリシン:酸(−)/ガス(−)
xv)D−メレチトース:酸(−)/ガス(−)
xvi)D−ラフィノース:酸(−)/ガス(−)
xvii)L−ラムノース:酸(+)/ガス(−)
【0020】
D.酵素反応
i)アルギニンジヒドロラーゼ:+
ii)α−ガラクトシダーゼ:−
iii)β−ガラクトシダーゼ:−
iv)β−ガラクトシダーゼ−6−フォスフェート:−
v)α−グルコシダーゼ:−
vi)β−グルコシダーゼ:−
vii)α−アラビノシダーゼ:−
viii)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:−
ix)グルタミン酸デカルボキシラーゼ:−
x)α−フッコシダーゼ:−
xi)アルカリフォスファターゼ:−
xii)アルギニンアリルアミダーゼ:−
xiii)p−プロリンアリルアミダーゼ:−
xiv)ロイシルグリシンアリルアミダーゼ:−
xv)フェニルアラニンアリルアミダーゼ:−
xvi)ロイシンアリルアミダーゼ:−
xvii)ピログルタミン酸アリルアミダーゼ:−
xviii)チロシンアリルアミダーゼ:−
xix)アラニンアリルアミダーゼ:−
xx)グリシンアリルアミダーゼ:−
xxi)ヒスチジンアリルアミダーゼ:−
xxii)グルタミルグルタミン酸アリルアミダーゼ:−
xxiii)セリンアリルアミダーゼ:−
【0021】
E.16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析
16S rDNAの塩基配列を決定し、DNAデータベース(DDBJ)にアクセスし、BRASTプログラムを用いて16S rDNAの塩基配列の相同性検索を行った結果、いずれのVeillonella属細菌とも16S rDNAの相同性が97%未満であった。
【0022】
F.分類・同定の結果
本菌株の表現形質による分類学的性質に基づき、Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,Vol.1,N.R.Krieg,J.G.Holt(ed),Williams&Wilkins,Baltimore(1984)およびBergey’s Manual of Determinate Bacteriology(9th ed.),J.G.Holt,N.R.Krieg,P.H.A.Sneath,J.T.Staley,S.T.Williams(ed),Williams&Wilkins,Baltimore(1994)を参考に分類・同定を行った結果、本菌株はVeillonella属と同定された。
【0023】
Veillonella属には基準種V.parvulaの他に、V.atypica、V.disapar、V.criceti、V.rattiなどが知られている。知られているVeillonella属菌は、V.cricetiにのみフルクトース発酵能があるが、一般的には糖類を発酵することなく、ピルビン酸や乳酸などの有機酸の発酵能を有するのみである。
【0024】
一方、本菌株は、フルクトースで生育可能(発酵能有)であり、さらにグルコースに対しても発酵能を有する点で他のVeillonella属菌と分類学的に異なる。
【0025】
また、一般に、16S rDNAの塩基配列に基づく分子系統解析では、相同性が95%以上であれば同属、97%以上であれば類縁関係があり、99%以上であれば同種とみなすことができるとされている。
【0026】
本菌株の16S rDNAの結果では、他のVeillonella属の菌との相同性は97%未満であったので、公知のVeillonella属菌株とは別の種であることが示された。
【0027】
本菌株は、グルコース、フラクトースから酢酸の他にエタノールを生成するほか、一酸化炭素、または二酸化炭素と水素を基質として、酢酸の他にエタノールを生成することを特徴とする。
【0028】
本菌株を用いて、エタノールを生産する方法は、特に限定されない。
【0029】
一酸化炭素、または二酸化炭素と水素を基質として、エタノールを生産する方法としては、嫌気状態で、微生物に一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを供給して行う方法が挙げられる。
【0030】
エタノール生成機構は以下の通りである。
【0031】
図1は本菌株が備えていると考えられているエタノール生成経路の模式図である。
【0032】
この経路をもつ多くの微生物は、アセチルCoAから、酢酸または細胞を形成する有機物を生成するのみであるが、本菌株は、酢酸の他にエタノールも生成することができる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0034】
実施例1
本菌株によるエタノール生成能を確認した。
【0035】
まず、本菌株を接種した滅菌済CL培地20mlを50ml耐圧バイアルに入れCO/COガス(CO:CO=8:2)を封入し、150rpmで振とうしながら37℃で24〜48時間培養し、培養液を作製した。
【0036】
培養液を、図2に示す実験装置(発酵槽の実効体積1L)に加圧状態のまま移し、CO/COガスを再封入した。pHを7.0、温度37℃、攪拌を100rpmとし、CO/COガス循環が0.1vvmの条件で3日間エタノール生成実験を行った。
【0037】
微生物の細胞1gにつき、1日あたり0.46gのエタノールを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】エタノール生成経路の模式図
【図2】実施例に用いたエタノール生産を行う装置を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素、または二酸化炭素と水素からなる合成ガスを基質として導入し、嫌気的環境下で、エタノール生成能を有するバイロネラ(Veillonella)属に属する新規微生物。
【請求項2】
Veillonella sp. Strain G11(寄託番号NITE P−471)として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されているものである請求項1記載の新規微生物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201387(P2009−201387A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45183(P2008−45183)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】