説明

新規有機テルロニウムおよびセレノニウム化合物

【課題】安定でありながら、強く着色し、有機色素として有用な、新規なカチオン性トリアリール型化合物を提供する。
【解決手段】一般式(II)で示されるトリアリールテルロニウムまたはセレノニウム塩化合物:E+−[−(C64)−NR2]3-・・・(II)式中、EはTeまたはSeであり、−NR2基はジ低級アルキルアミノ基(ジメチルアミノ、ジエチルアミノなど)、ジフェニルアミノ、低級アルキル置換ジフェニルアミノ、9−カルバゾリル、および低級アルキル置換9−カルバゾリルから選ばれ;Xは、ハロゲン、特にClおよびBr、BF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれたアニオンである。Xは、より好ましくはBF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は青色ないし緑色を呈する新規有機テルロニウムおよびセレノニウム化合物に関する。本発明に係る新規金属化合物は、有機色素として有用であり、また有機電子材料としての有用性も期待される。
【背景技術】
【0002】
緑色ないし青色の有機色素として、下記に構造式を示すクリスタルバイオレット、マラカイグリーンなどのカチオン性トリアリールメタン系化合物が古くから知られている。これらの化合物は、還元されると、やはり下記に構造式を示すそれぞれロイコクリスタルバイオレット、ロイコマラカイトグリーンになる。
【0003】
【化1】

【0004】
クリスタルバイオレットは、中和指示薬として特に酢酸を溶媒とする非水滴定に使用されるほか、各種金属や過酸化水素の比色定量、生体染色、繊維の染色に有機色素または染料として使用され、その還元作用を利用して抗菌剤としても利用されている。さらには、有機電子材料として光磁気記録といった用途への利用も検討されている。クリスタルバイオレットよりジメチルアミノ基が1つ少ないマラカイトグリーンも、同様に染料、抗菌剤、有機電子材料などとして利用されている。また、ロイコクリスタルバイオレットおよびロイコマラカイトグリーンも中和指示薬などとして有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クリスタルバイオレットなどの炭素骨格を主骨格とする化合物は種々の誘導体においてその有用性が見出されているが、中心元素を炭素以外に置き換えれば、様々な化合物へと展開が可能となると期待される。より有利な性質を持つ新たな有機色素を開発する目的で、トリアリールカチオン構造を持つクリスタルバイオレットの中心炭素原子を、高周期典型元素(第3周期以降の典型元素、特に14〜16族元素)で置き換えることを試みた。
【0006】
しかし、中心元素を14族元素(Si、Ge、Sn)に置き換えたトリアリールカチオン化合物は、反応性が高く、不安定であった。中心元素を15族元素(N,P,As,Sb)に置き換えた化合物は、トリアリール体は中性であり、カチオンではテトラアリール体となる。これらは安定ではあるが、容易に酸化される性質を有している。一方、中心元素を16族元素(O,S,Se,Te)で置き換えたオニウム塩型の化合物は、安定ではあるものの、一般に無色または淡黄色であった。従って、安定で強く着色した、色素として有用な、クリスタルバイオレットの高周期元素類縁化合物は存在しなかった。
【0007】
本発明は、安定でありながら、強く着色し、有機色素として有用な、新規なカチオン性トリアリール型化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、合成法を工夫することにより、中心元素が16族元素であるクリスタルバイオレットに構造が類似するオニウム塩化合物(中心元素=O,S,Se,Te)のうち中心元素がTeまたはSeである化合物の合成に成功し、合成された化合物を構造解析した。そして、特定のアニオンを有するそれらオニウム塩化合物が強く着色していることを確認し、本発明に到達した。
【0009】
ここに、本発明は、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0010】
【化2】

【0011】
式中、EはTeまたはSeであり、
A〜Cはそれぞれ独立してH原子または−NR2基を意味し、ただしA〜Cの少なくとも1つは−NR2基であり、ここで各−NR2基の2つのRは、低級アルキル基または非置換もしくは置換フェニル基から選ばれた、互いに同一または異なる基を意味し、これら2つのR基は互いに結合して、これらが結合するN原子と一緒にN含有複素環(例、Rがエチルである場合のピロリジン環、Rがフェニルである場合のカルバゾール環など)を形成していてもよく、このN含有複素環は不飽和複素環(例、ピロール環)であってもよく、
Xは、アニオン、好ましくは低求核性のアニオンである。
【0012】
A〜Cの2以上が−NR2基である場合、その2以上の−NR2基は互いに同一でも異なっていてもよい。
本発明において、低級アルキル基とは炭素数4以下の直鎖または分岐鎖アルキル基(即ち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチルおよびt−ブチル)を意味する。
【0013】
置換フェニル基の置換基の例としては、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルキルカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基などが挙げられる。置換フェニル基の好ましい例としては、4−低級アルキル置換フェニル基、例えば、4−t−ブチルフェニル基が挙げられる。
【0014】
好適態様において、
・A〜Cはいずれも−NR2基あり;
・各−NR2基は該フェニル基のパラ位(4位)に位置し、
・各−NR2基はジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジフェニルアミノ、ピロリジノ、9−カルバゾリル、および9−[3,6−ジ(t−ブチル)]カルバゾリルから選ばれ;
・Xは、ハロゲン、特にClおよびBr、BF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれた1価アニオンである。
【0015】
Xは、より好ましくはBF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれる。
本発明に係る化合物は、クリスタルバイオレットやマラカイトグリーンと同様に、中心元素Eがカチオンとなるオニウム塩型構造をとり、カチオン性中心元素Eへの結合は3つともすべて単結合であるが、共鳴構造式の寄与として、窒素上に正電荷を有する構造もとりうるため、形式的には中心元素Eと二重結合を書くことも可能である。
【0016】
クリスタルバイオレットなどは炭素を中心とする平面分子であり、3つのアリール基は平面内120度方向に位置している。これに対して、本発明のオニウム塩型化合物では、中心元素Eに結合したアリール基は、Eを中心とする三角錐構造を有しており、3つのアリール基とEの結合は互いに直交する構造をとりうる。そのため、オニウム塩としての安定性を有しながら、構造的に多様な新しい化合物群を提供することが可能である。
【0017】
また、これらの化合物のうち、Xがハロゲン以外のアニオン、例えば、BF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれたアニオンであると、青色ないし緑色(黄緑を含む)の強い着色を有するので、色素として有用である。本発明によれば、上記一般式(I)で示され、Xがハロゲン以外のアニオンである化合物からなる有機色素も提供される。Xがハロゲンである化合物は、これらの色素を合成するための前駆体として有用である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、色素として有用な、化学的に安定で、青〜緑色の強い着色を有する新規化合物とその合成において前駆体として有用な新規化合物が提供される。これらの化合物は、化学構造がクリスタルバイオレットやマラカイトグリーンに類似しているので、それらと同様の有用性を持つことが期待される。即ち、強く着色した化合物が色素として使用できるほかに、有機電子材料、機能性色素材料、抗菌剤などの用途においても有用性が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、上記一般式(I)において、A〜Cがすべて該フェニル基のパラ位(4位)に位置する−NR2基である、下記一般式(II)で示される化合物を例にとって、本発明を説明する。
【0020】
【化3】

【0021】
この化合物は、中心原子のテルルまたはセレン上に結合したフェニル基のパラ位に電子供与性置換基であるアミノ基(−NR2基)が存在する。このような化学構造をとることにより、本化合物は中心E原子上で正電荷を有しまた窒素上からの電子供与による共鳴の寄与構造を有し、3つのアリール基と中心E原子が互いに直交する立体構造をとるという特徴を有する。
【0022】
この−NR2基の置換位置は、一般式(II)に示すようにパラ位であることが好ましいが、他の位置であってもよい。また、3つのフェニル基の少なくとも1つが−NR2基を有していればよいが、好ましくは上に示したように3個のフェニル基のすべてが−NR2基を有する。特に好ましいのは、3個のフェニル基がいずれもパラ位に−NR2基を有する、(II)式に示される化合物である。この化合物では上述した特徴が最も強く現れるからである。
【0023】
−NR2基の好ましい例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジフェニルアミノ、ピロリジノ、9−カルバゾリル、および9−[3,6−ジ(t−ブチル)]カルバゾリルが挙げられる。前述したように、−NR2基の2つのR基は互いに異なっていてもよく、その場合の−NR2基の例としては、メチルエチルアミノ、メチルプロピルアミノ、エチルプロピルアミノなどが挙げられる。
【0024】
上記一般式(II)で示され、中心元素がTe、対アニオンXがClである化合物は、p−アミノ置換臭化フェニルから出発して、次式に示す反応経路で合成することができる。
【0025】
【化4】

【0026】
まず、対応する有機置換基を有するリチウム試薬ArLi(Ar=−C64−NR2)を、対応する臭化物ArBr(R2N−C64−Br)から合成する。このリチウム試薬の4当量を四塩化テルル(TeCl4)と反応させて、テトラアリールテルル(Ar4Te)としたのち、このテトラアリール体にクロロホルムを作用させて分解ハロゲン化反応を行うことにより、高収率で塩化物形態のトリアリールテルロニウム塩(Ar3TeCl)が合成される。
【0027】
この塩の対アニオン(Cl)を公知手法(例えば、目的アニオンのリチウム塩化合物を作用させる)により他のイオンに変換することができる。対イオンをBrに変換したものは、Clであるものと同様に、一般に淡黄色結晶である。一方、対イオンを配位性の低い(低求核性の)BF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、SbF6などのアニオンに変換したものは、青から緑色、多くは緑色に強く着色した結晶となる。
【0028】
反応停止時に塩酸などを用いると、アリール置換基Ar上のアミノ基(−NR2)の一部または全部がアンモニウムイオンに変換されるため、本発明で目的とする化合物は得られず、また生成物が複雑な混合物となる可能性がある。上述した反応経路では、テトラアリール体(Ar4Te)を経由し、酸を用いずにクロロホルムで分解ハロゲン化することによってトリアリールカチオンを生成させる。それにより、アミノ基からアンモニウムへの変化を回避することができる。
【0029】
上記反応において、四塩化テルルに代えて四塩化セレン(SeCl4)を使用すれば、対応するセレノニウム化合物(中心元素がSeである化合物)を同様に合成することができる。
【0030】
上記方法で合成された塩化物形態の生成物(一般式(II)でX=Clの化合物)の対アニオンの変換は例えば次のようにして実施できる。X=Brである化合物は、X=Clである上記化合物をLiBrと反応させることにより定量的収率で得ることができる。X=BF4、BPh4、B(C65)4、PF6またはSbF6ある化合物も同様に、X=Clである化合物に化合物MX(Mはアルカリ金属、特にLiまたはNa)を作用させることにより、定量的または高収率で合成することができる。X=OSO2CF3またはOSO2CH3である化合物は、X=Clである化合物に化合物AgXを作用させることにより定量的または高収率で合成できる。
【0031】
以上に説明した合成手法は例示にすぎず、本発明に係る化合物を合成できれば、他の方法により合成してもよい。
本発明に係る上記一般式(I)で示される化合物は、塩であるので水および極性有機溶媒(例、クロロホルム)に可溶性である。溶液状態でのこれらの化合物の色はpH依存性を示し、色調可変であることがわかった。従って、これらの化合物は中和指示薬として使用できる。また、類似構造を持つクリスタルバイオレット、マラカイトグリーンと同様に、現在クリスタルバイオレットが使用されている各種用途に使用可能であると予想され、さらに有機電子材料としての用途も期待される。
【実施例】
【0032】
以下の実施例は本発明を例示するために示すものであり、本発明はそれらに制限されない。以下の実施例において、中間生成物であるテトラアリール体および目的生成物であるトリアリール体(トリアリールテルロニウムもしくはセレノニウム塩)の結晶構造は、X線回折による単結晶構造解析により確認した。
【実施例1】
【0033】
トリス[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]テルロニウムクロリド[一般式(II)でR=メチル(CH3)、E=Te、X=Clである化合物]の合成
(a)リチウム試薬ArLiの合成[Ar=4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]
50ml二口フラスコにArBr(4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン:4.08g,20.4mmol)を入れたのち、エーテル(=ジエチルエーテル)20mlを加えて攪拌した。得られた溶液を氷浴で冷却しながら、そこにn−BuLi(n−ブチルリチウム:13.2ml,20.4mmol)を滴下し、5分攪拌した後、0℃から室温まで20分かけて撹拌しながら昇温させたところ、ArLi[4−N,N−ジメチルアミノフェニルリチウム]が生成した。得られたArLiを含有するエーテル溶液をそのまま次工程に使用した。
【0034】
(b)テトラアリール体Ar4Teの合成
350mlシュレンクフラスコに四塩化テルル(TeCl4:1.00g,3.71mmol)を入れ、エーテル10mlを加えて攪拌し、−70℃に冷却した。この冷溶液に、(a)で合成したArLiのエーテル溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後、−70℃で20分間攪拌を続け、−70℃から室温まで1時間かけて撹拌しながら昇温させると、目的とするAr4Te[テトラ(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)テルル]が黄色懸濁液として得られた。この懸濁液をそのまま次工程に使用した。
【0035】
(c)目的物Ar3TeClの合成
上記(b)で得られた黄色懸濁液を氷浴で冷却し、クロロホルム[CHCl3]10ml加えて攪拌した。クロロホルムはテトラアリール体(Ar4Te)の分解ハロゲン化剤として作用し、目的とするトリアリールテルロニウム・塩化物塩を生ずる。得られた懸濁液をナスフラスコに移し、蒸発乾固して、灰緑色の固体(粗製の目的物)を得た。この固体にクロロホルム200mlを加えて固体を溶かし、得られた懸濁液をセライトでろ過して、赤褐色の溶液を得た。この溶液を減圧濃縮し、得られた固体をヘキサンで洗浄した後、クロロホルムに溶かし、得られた溶液を水洗し、クロロホルム層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥し、濃縮して、黄色の固体として目的物Ar3TeCl(1.67g,3.19mmol)を収率86.1%で(四塩化テルルに対して)得た。
【0036】
化学式:(Me2NC64)3TeCl
融点:219〜220℃
1HNMR:δ2.96 (s, 18H), 6.67 (d, 6H), 7.46 (d, 6H)
13CNMR:δ 39.9, 108.4, 113.4, 135.4, 152.2
125TeNMR:δ 711.2。
【実施例2】
【0037】
トリス[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]テルロニウムブロミド[一般式(II)でR=メチル(CH3)、E=Te、X=Brである化合物]の合成
50mlナスフラスコに、実施例1で得られたAr3TeCl(0.500g,0.955mmol)とクロロホルム15mlを入れ、攪拌して黄橙色溶液とした。この溶液に臭化リチウムLiBr(0.87g,1.00mmol)のエタノール溶液10mlを加えて攪拌した。生成した溶液を濃縮後、クロロホルムを加えて、水洗し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮して、黄色固体として目的物Ar3TeBr[0.53g,0.933mmol、Ar=4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]を定量的収率で得た。
【0038】
化学式:(Me2NC64)3TeBr
融点:238〜239℃
1HNMR:δ2.98 (s, 18H), 6.69 (d, 6H), 7.48 (d, 6H)
13CNMR:δ 39.9, 107.8, 113.4, 135.4, 152.2
125TeNMR:δ 709.7。
【実施例3】
【0039】
トリス[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]テルロニウムヘキサフルオロホスフェート[一般式(II)でR=メチル(CH3)、E=Te、X=PF6である化合物]の合成
50mlナスフラスコに、実施例1で得られたAr3TeCl(0.500g,0.955mmol)とクロロホルム15mlを入れ、攪拌して黄橙色溶液とした。この溶液にヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6(0.145g,0.955mmol)のエタノール溶液10mlを加えて攪拌した。生成した緑色の溶液を濃縮後、クロロホルムを加えて、水洗し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮することにより、深緑色の固体として目的物Ar3TePF6[0.605g,0.954mmol、Ar=4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]を定量的収率で得た。
【0040】
化学式:(Me2NC64)3TePF6
融点:99〜100℃
1HNMR:δ3.03 (s, 18H), 6.76 (d, 6H), 7.35 (d, 6H)
13CNMR:δ 40.0, 103.3, 114.0, 134.9, 152.8
125TeNMR:δ 719.1。
【0041】
UV-VIS(紫外可視吸収スペクトル):611 nm (CH2Cl2)。
本化合物(クロロホルム溶液より単結晶作成、クロロホルム1分子を内包する包接化合物の単結晶)のX線結晶回折結果は次の通りである:
(C243063PTe・CHCl3
分子量=752.45、単斜晶、空間群=P21/n、a=7.8629(6), b=16.3494(13), c=24.043(2), beta=96.548(1), V=3070.7(4), Z=4, R=0.0395 (Rw=0.104), GOF=1.042。
【実施例4】
【0042】
トリス[4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]テルロニウムクロリド[一般式(II)でR=エチル(CH3CH2)、E=Te、X=Clである化合物]の合成
工程(a)で使用する出発物質のArBrとして、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンに代えて、4−ブロモ−N,N−ジエチルアニリンを使用すること以外は実施例1の工程(a)、(b)、(c)を同様の手順で行うことにより、目的化合物Ar3TeCl[Ar=4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]を黄色固体として得た。収率は四塩化テルルに対して85%であった。
【0043】
化学式:(Et2NC64)3TeCl
融点:242〜243℃
1HNMR:δ d 1.16 (t, 18H), 3.36 (q, 12H), 6.67 (d, 6H), 7.49, (d, 6H)
13CNMR:δ 12.4, 44.3, 106.9, 112.8, 135.7, 149.9
125TeNMR:δ 709.0。
【実施例5】
【0044】
トリス[4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]テルロニウムブロミド[一般式(II)でR=エチル(CH3CH2)、E=Te、X=Brである化合物]の合成
実施例4で得られたAr3TeClを用いて、実施例2と同様にしてLiBrを作用させることにより、目的物Ar3TeBr[Ar=4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]を黄色固体として定量的収率で得た。
【0045】
化学式:(Et2NC64)3TeBr
融点:221〜222℃
1HNMR:δ1.16 (t, 18H), 3.35 (q, 12H), 6.67 (d, 6H), 7.48 (d, 6H)
13CNMR:δ 12.4, 44.3, 106.4, 112.9, 135.7, 149.9
125TeNMR:δ 708.1。
【0046】
本化合物(ベンゼン溶液より単結晶作成、ベンゼン2.5分子を内包する包接化合物の単結晶)のX線結晶回折結果は次の通りである:
(C3042BrN3Te・2.5C66)
分子量=847.47、三斜晶、空間群=P-1、a=11.5799(4), b=12.0052(4), c=16.3715(6), alpha=70.750(1), beta=88.730(1), gamma=75.440(1), V=2075.1(1), Z=2, R=0.0234 (Rw=0.063), GOF=1.002。
【実施例6】
【0047】
トリス[4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]テルロニウムヘキサフルオロホスフェート[一般式(II)でR=エチル(CH3CH2)、E=Te、X=PF6である化合物]の合成
実施例4で得られたAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてLiPF6を作用させることにより、目的物Ar3TePF6[Ar=4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル]を深緑色固体として定量的収率で得た。
【0048】
化学式:(Et2NC64)3TePF6
融点:94〜95℃
1HNMR:δ d 1.17 (t, 18H), 3.38 (q, 12H), 6.74 (d, 6H), 7.29, (d, 6H)
13CNMR:δ 12.2, 44.5, 106.5, 113.5, 135.1, 150.6
125TeNMR:δ 714.3
UV−vis:612 nm (CH2Cl2)。
【実施例7】
【0049】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムクロリド[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=Clである化合物]の合成
工程(a)で使用する出発物質のArBrとして、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンの代わりに、4−ブロモ−N,N−ジフェニルアニリンを使用すること以外は、実施例1の工程(a)、(b)、(c)を同様の手順で行うことにより、目的化合物Ar3TeCl[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を黄緑色固体として得た。収率は四塩化テルルに対して78%であった。
【0050】
化学式:(Ph2NC64)3TeCl
融点:298〜299℃
1HNMR:δ6.99 (d, 6H), 7.11-7.13 (m, 18H), 7.26-7.31 (m, 12H), 7.54, (d, 6H)
13CNMR:δ 114.6, 121.4, 124.8, 126.1, 129.7, 135.5, 146.2, 151.0。
【0051】
125TeNMR:δ 709。
【実施例8】
【0052】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムブロミド[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=Brである化合物]の合成
実施例7で得られたAr3TeClを用いて、実施例2と同様にしてLiBrを作用させることにより、目的物Ar3TeBr[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を黄緑色固体として定量的収率で得た。
【0053】
化学式:(Ph2NC64)3TeBr
融点:300〜302℃
1HNMR:δ d 6.99 (d, 6H), 7.10-7.14 (m, 18H), 7.26-7.31 (m, 12H), 7.54, (d, 6H)
13CNMR:δ 114.0, 121.0, 124.5, 127.0, 127.7, 132.4, 148.4, 151.3。
【0054】
125TeNMR:δ 708.1。
【実施例9】
【0055】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムヘキサフルオロホスフェート[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=PF6である化合物]の合成
実施例7で得られたAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてLiPF6を作用させることにより、目的物Ar3TePF6[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を深緑色固体として定量的収率で得た。
【0056】
化学式:(Ph2NC64)3TePF6
融点:143〜144℃
1HNMR:δ7.02 (d, 6H), 7.14-7.18 (m, 18H), 7.28-7.34 (m, 18H)
13CNMR:δ 109.8, 121.3, 125.3, 126.4, 129.8, 135.0, 145.8, 151.8
125TeNMR:δ 743.6
UV−vis:621 nm (CH2Cl2)。
【実施例10】
【0057】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムテトラフルオロボレート[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=BF4である化合物]の合成
実施例7で得られたAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてテトラフルオロホウ酸リチウムLiBF4を作用させることにより、目的物Ar3TeBF4[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を深緑色固体として定量的収率で得た。
【0058】
化学式:(Ph2NC64)3TeBF4
融点:146〜147℃
1HNMR:δ7.00 (d, 6H), 7.10-7.16 (m, 18H), 7.28-7.36 (m, 18H)
13CNMR:δ 110.0, 121.1, 125.3, 126.1, 129.8, 135.1, 145.7, 151.7
125TeNMR:δ 740.0
UV−vis:629 nm (CH2Cl2)。
【実施例11】
【0059】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムテトラフェニルボレート[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=BPh4である化合物]の合成
実施例7で得られたAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてテトラフェニルホウ酸リチウムLiBPh4を作用させることにより、目的物Ar3TeBPh4[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を深緑青色固体として定量的収率で得た。
【0060】
化学式:(Ph2NC64)3TeBPh4
融点:123〜124℃
1HNMR:δ6.74-6.95 (m, 24H), 7.12-7.17 (m, 14H), 7.31 (t, 12H), 7.45, (d, 12H)
13CNMR:δ 109.8, 120.9, 122.2, 125.4, 125.9, 125.9, 126.3, 129.8, 134.5, 136.5, 145.6, 151.6
125TeNMR:δ 760.0
UV−vis:619 nm (CH2Cl2)。
【実施例12】
【0061】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]テルロニウムトリフルオロメタンスルホネート[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Te、X=SO3CF3である化合物]の合成
実施例7で得られたAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてトリフルオロスルホン酸リチウムLiSO3CF3を作用させることにより、目的物Ar3TePF6[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を深緑色固体として定量的収率で得た。
【0062】
化学式:(Ph2NC64)3TeSO3CF3
融点:137〜138℃
1HNMR:δ7.01 (d, 6H), 7.12-7.15 (m, 18H), 7.28-7.36 (m, 18H)
13CNMR:δ 110.3, 113.0 121.2, 125.2, 126.2, 129.7, 135.1, 145.8, 151.6
125TeNMR:δ 742.3
UV−vis:612 nm (CH2Cl2)。
【実施例13】
【0063】
本実施例は、次式で示される化合物(X=PF6)トリス[4−(9−カルバゾリル)フェニル]テルロニウムヘキサフルオロホスフェートの合成を例示する。
【0064】
【化5】

【0065】
工程(a)で使用する出発物質のArBrとして、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンに代えて、9−(4−ブロモフェニル)カルバゾールを使用すること以外は実施例1の工程(a)、(b)、(c)を同様の手順で行うことにより、目的物の対応塩化物塩Ar3TeCl[Ar=4−(9−カルバゾリル)フェニル]を黄色固体として得た。収率は四塩化テルルに対して65%であった。
【0066】
このAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてLiPF6を作用させることにより、目的物Ar3TePF6[Ar=4−(9−カルバゾリル)フェニル]を緑色固体として定量的収率で得た。
【0067】
化学式:[(C64)2NC64]3TePF6
融点:250〜251℃
1HNMR:δ7.25-7.34 (m, 12H), 7.48 (d, 6H), 7.80 (d, 6H), 8.08 (d, 6H), 8.35 (d, 6H)
13CNMR:δ 109.6, 120.5, 120.8, 123.8, 123.9, 126.2, 128.2, 137.1, 139.9, 141.4
125TeNMR:δ 738.8
UV−vis:520nm (CH2Cl2)。
【0068】
本化合物(ジクロロメタン溶液より単結晶作成、ジクロロメタン2分子を内包する包接化合物の単結晶)のX線結晶回折結果は次の通りである:
(C543636PTe・2CH2Cl2)
分子量=1169.3、三斜晶、空間群=P-1、a=10.585(3), b=15.196(4), c=16.377(4), alpha=68.641(3), beta=85.977(3), gamma=87.439(4), V=2447(1), Z=2, R=0.0627 (Rw=0.178), GOF=1.117。
【実施例14】
【0069】
本実施例は、次式で示される化合物(X=PF6)トリス[9−{3,6−ジ(t−ブチル)カルバゾリル}フェニル]テルロニウムヘキサフルオロホスフェートの合成を例示する。
【0070】
【化6】

【0071】
工程(a)で使用する出発物質のArBrとして、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンに代えて、9−(4−ブロモフェニル)−3,6−ジ(t−ブチル)カルバゾールを使用すること以外は、実施例1の工程(a)、(b)、(c)を同様の手順で行うことにより、目的物の対応塩化物塩Ar3TeCl[Ar=4−{9−(3,6−ジ−t−ブチル)カルバゾリル}フェニル]を黄色固体として得た。収率は四塩化テルルに対して70%であった。
【0072】
このAr3TeClを用いて、実施例3と同様にしてLiPF6を作用させることにより、目的物Ar3TePF6[Ar=4−{9−(3,6−ジ−t−ブチル)カルバゾリル}フェニル]を黄緑色固体として定量的収率で得た。
【0073】
化学式:[3,6−t−Bu2(C63)2NC64]3TePF6
融点:223〜224℃
1HNMR:δ1.45(d, 54H), 7.35-7.49 (m, 6H), 7.63(d, 6H), 7.82 (d, 6H), 7.93 (d, 6H), 8.16 (d, 6H)
13CNMR:δ 19.8, 38.5, 109.1, 109.2, 109.3, 116,3, 123.5, 123,6, 123.7, 127.0, 127.1, 127.6, 127.8, 128.3, 138.3, 138.9, 139.2, 139.5, 143.0, 143.1
125TeNMR:δ 691.4
UV−vis:506nm (CH2Cl2)。
【実施例15】
【0074】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]セレノニウムクロリド[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Se、X=Clである化合物]の合成
工程(b)で使用する四塩化テルル(TeCl4)の代わりに四塩化セレン(SeCl4)を使用すること以外は、実施例1の工程(a)、(b)、(c)を同様の手順で行うことにより、目的化合物Ar3SeCl[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を黄緑色固体として得た。収率は四塩化セレンに対して88%であった。
【0075】
化学式:(Ph2NC64)3SeCl
融点:183〜184℃
1HNMR:δ7.03 (m, 6H), 7.14-7.18 (m, 18H), 7.29-7.35 (m, 12H), 7.46(d, 6H)
13CNMR:δ 116.2, 120.6, 125.4, 126.3, 129.8, 132.0, 145.6, 151.7
77SeNMR:δ 479.1。
【実施例16】
【0076】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]セレノニウムブロミド[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Se、X=Brである化合物]の合成
実施例15で得られたAr3SeClを用いて、実施例2と同様にしてLiBrを作用させることにより、目的物Ar3SeBr[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を黄緑色固体として定量的収率で得た。
【0077】
化学式:(Ph2NC64)3SeBr
融点:183〜184℃
1HNMR:δ δ 7.02 (m, 6H), 7.16-7.22 (m, 18H), 7.23-7.30 (m, 6H), 7.38(d, 6H)
13CNMR:δ 116.0, 120.2, 125.8, 126.8, 129.2, 131.4, 145.5, 152.5
77SeNMR:δ478
本化合物(エタノール溶液から単結晶作成、エタノール1分子を内包する包接化合物の単結晶)のX線結晶回折結果は次の通りである:
(C4842BrN3Se・C25OH)
分子量=936.84、単斜晶、空間群=P21/n、a=14.4821(7), b=12.1642(6), c=24.970(1), beta=93.964(1), V=4388.3(4), Z=4, R=0.0439 (Rw=0.124), GOF=1.046。
【実施例17】
【0078】
トリス[4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]セレノニウムヘキサフルオロホスフェート[一般式(II)でR=フェニル(C65)、E=Se、X=PF6である化合物]の合成
実施例15で得られたAr3SeClを用いて、実施例3と同様にしてLiPF6を作用させることにより、目的物Ar3SePF6[Ar=4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル]を深緑色固体として定量的収率で得た。
【0079】
化学式:(Ph2NC64)3SePF6
融点:135〜136℃
1HNMR:δ7.04 (m, 6H), 7.16-7.20 (m, 18H), 7.25-7.28 (m, 6H), 7.35(d, 6H)
13CNMR:δ 116.2, 120.5, 125.6, 126.4, 129.8, 131.3, 145.3, 152.1
77SeNMR:δ 487.0
UV−vis:480 nm (CH2Cl2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物:
【化7】

式中、EはTeまたはSeであり、
A〜Cはそれぞれ独立してH原子または−NR2基を意味し、ただしA〜Cの少なくとも1つは−NR2基であり、ここで各−NR2基の2つのRは、低級アルキル基または非置換もしくは置換フェニル基から選ばれた、互いに同一または異なる基を意味し、これら2つのR基は互いに結合して、これらが結合するN原子と一緒にN含有複素環を形成していてもよく、このN含有複素環は不飽和複素環であってもよく、
Xは、アニオンである。
【請求項2】
A〜Cがすべて−NR2基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
−NR2基が該フェニル基の4位に位置する、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
置換フェニル基が4−低級アルキル置換フェニル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
−NR2基がジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジフェニルアミノ、ピロリジノ、1−ピロリル、9−カルバゾリル、および9−[3,6−ジ(t−ブチル)]カルバゾリルから選ばれる、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
Xが、ハロゲン、BF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれたアニオンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
ハロゲンがClまたはBrである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
XがBF4、BPh4、B(C65)4、OSO2CF3、OSO2CH3、PF6、ならびにSbF6から選ばれる、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
請求項8に記載の化合物からなる有機色素。

【公開番号】特開2011−57637(P2011−57637A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210669(P2009−210669)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第89春季年会−講演予稿集II、平成21年3月13日発行
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】