説明

新規血栓溶解分子及びその製造法

本発明は、組換えスタフィロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子等及びその変異体が適する新規血栓溶解タンパク質分子であって、対象血栓溶解分子と、タンパク質導入ドメインを含有する強力な両親媒性のアルファヘリックスを含むタンパク質配列とを融合又は合成することのいずれかにより、脳組織又は他の任意の組織を対象とする新規血栓溶解タンパク質を開示している。タンパク質導入ドメインで改変された血栓溶解タンパク質分子は、そのような血栓溶解タンパク質は細胞膜及び血液脳関門を含む組織を通過しての摂取向上に有利であり、治療用に使用した場合、脳血栓症又は脳出血に起因する脳血管障害を含む血管内血栓の治療においての利用が見い出される。本発明は、その設計、並びにクローニング、発現、精製及びそのようなタンパク質が細胞膜を通過してタンパク質導入する方法を開示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質導入効果が向上した新規血栓溶解分子の生成及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の閉塞は、血塊(血栓)が存在するために発生する。フィブリンと血球から構成される血栓は、静脈、動脈、心臓、微小循環を含む循環系のいかなる部分にも形成される可能性がある(Badimon L. and Badimon JJ. 1989)。血栓は、次第に構造的に変化し;凝集した血小板又は血漿タンパク質のタンパク質分解断片から放出された化学走化性因子によって引き付けられた白血球が、血栓中に取り込まれる。これら凝集した血小板は肥大し、分解して、徐々にフィブリンと入れ替わる。これらの塊は、心臓及び肺にしばしば影響を及ぼし、より微細な血管を弛緩したり閉塞したりすることがある。損傷した血管を通過しての正常で適時な血流には、繊維素溶解薬の使用が必要である。Chesbro JH., Knatterud G., Roberts R., et al (1987), Circulation, 76, 142 - 154の論文を参照されたい。
【0003】
ストレプトキナーゼ、スタフィロキナーゼ、またはウロキナーゼ及び組織プラスミノゲン活性化因子等の他の血栓溶解剤が、心筋梗塞症、肺疾患、動脈又は静脈血栓塞栓症、外科用癒着及び血栓が形成される他の例の治療に一般的に使用される。血栓溶解剤は、内因性プラスミノゲン(酵素前駆体)を、塊を溶解し、インビボで血栓溶解剤として使用できるプラスミン(活性酵素)に変換することによって作用する。プラスミノゲンは、天然型がアミノ末端グルタミン酸を有する単鎖糖タンパク質であり、Arg−Val(560−561)ペプチド結合の切断によりプラスミドに変換される(Robbins KC. Summaria L. (1976): Methods in Enzymology. 45, 257 - 273)。
【0004】
脳出血の場合、罹患した小動脈が破裂して、そして脳内に出血することがある。これら両事象は脳を損傷し、脳卒中(stroke)(脳血管障害又はCVA)と総称される。脳卒中は、通常、症状の突発を現す。疾患した動脈によって、麻痺、言語障害、並びに嚥下障害、視覚及び知覚障害の症状が含まれる。
【0005】
外傷性が高く、しばしば治療効果が低く実質的な副作用を伴う侵襲的手法により、脳血栓症を治療することができる。脳卒中を治療する代替方法の1つとして、ストレプトキナーゼ、アシル化プラスミノゲン−ストレプトキナーゼ複合体、スタフィロキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子等の1又は複数の繊維素溶解薬を脳組織中に用いることができる。
【0006】
しかしながら、すべてのタンパク質ではないにせよ、血液脳関門はほとんどのタンパク質に対して不浸透性であるため、そのようなタンパク質分子の脳への摂取には限界がある。
【0007】
すべての小分子の98%未満、及び大タンパク分子の100%が血液脳関門を通過しないので、血液脳関門は、事実上、すべての脳薬剤開発プログラムにおいての制限因子である。分子レベルにおいて、血液脳関門は、密接に関連するアストロサイトの終足過程(end feet processes)と共に脳微小血管内の微小血管内皮細胞からなる。微小毛細血管内皮細胞は、脳組織からほとんどの血液感染性の物質を選択的に排除する拡散障壁を形成する脳内皮細胞間に密着結合が存在することを特徴とする。
【0008】
脳内に薬剤を分布するには、経血管ルートを必要とし、この手法は、血液脳関門を透過する能力を必要とする。親水性カーゴを運搬するために、タンパク質をタンパク質導入ドメイン(PTD)と融合又は合成することによって、血液脳関門を通過してタンパク質分子を導入することに成功している。導入ペプチド、特にSynB(Rouselle et al. 2001)、ペネトラチン(Penetratin)(Mazel et al. 2001; Rouselle et al. 2000)、及びTATペプチド(TAT peptide)(Schwarz et al. 1999; Cao et al. 2002; Asoh et al. 2002)は、脳へのアクセスを顕著に増加させる。例えば、脳内への抗アポトーシスペプチド(Cao et al. 2002; Asoh et al. 2002)のターゲティングは、虚血性障害から保護するために使用されている。ホメオドメイン由来のペプチドは、C3−トランスフェラーゼ(Rhoを中和する低分子量GTP結合タンパク質(small GTP-binding protein))を内在化し、損傷後の脊髄中の神経細胞の死を50%回復させた(reversed neuronal death in the spinal cord by 50% after injury.)(Mainguy et al. 2000)。真核生物開始因子(eukaryotic initiation factor)をターゲティングする細胞透過性ペプチドは、癌細胞のアポトーシスを誘発するために使用されている(Herbert et al. 2000)。ターゲット分子中での細胞透過性ペプチドの使用は、タンパク質治療において無制限の範囲を提供する。本発明は、血管系中、及び脳血栓症の兆候を表す脳組織を含む組織中の血栓を溶解する新規血栓溶解分子を設計する技法を使用したそのような一例である。
【非特許文献1】Badimon L. and Badimon JJ. (1989): J.Clin.Invest. 84, 1134-1144
【非特許文献2】Rousselle, C. et al. (2001): Enhanced delivery of doxorubicin into the brain via a peptide-vector-mediated strategy: saturation kinetics and specificity. J. Pharmacol. Exp. Ther. 296, 124-131
【非特許文献3】Mazel, M. et al. (2001): Doxorubicin-peptide conjugates overcome multidrug resistance. Anticancer Drugs 12, 107-116
【非特許文献4】Rousselle, C. et al. (2000): New advances in the transport of doxorubicin through the blood-brain barrier by a peptide vector-mediated strategy. Mol. Pharmacol. 57, 679-686
【非特許文献5】Schwarze, S.R., Ho, A., Vocero-Akbani, A. & Dowdy, S.F. (1999): In vivoprotein transduction: delivery of a biologically active protein into the mouse. Science. 285, 1569-1572
【非特許文献6】Cao, G. et al. (2002).In vivo delivery of a Bcl-xL fusion protein containing the TAT protein transduction domain protects against ischemic brain injury and neuronal apoptosis. J. Neurosci. 22, 5423-5431
【非特許文献7】Asoh, S. et al. Protection against ischemic brain injury by protein therapeutics. Proc. Natl Acad. Sci USA 99, 17107-17112 (2002)
【非特許文献8】Mainguy, G. et al. An induction gene trap for identifying a homeoprotein-regulated locus. Nature Biotechnol. 18, 746-749 (2000)
【非特許文献9】Herbert, T.P., Fahraeus, R., Prescott, A., Lane, D.P. & Proud, C.G. Rapid induction of apoptosis mediated by peptides that bind initiation factor eIF4E. Curr. Biol. 10, 793-796 (2000)
【非特許文献10】Ho A., Schwarze S.R. Mermelstein S.J. Waksman G., Dowdy S.F. (2001): Synthetic protein transduction domains: Enhanced transduction potential in vitro and in vivo. Cancer Research 61, 474-477
【非特許文献11】Chesbro JH., Knatterud G., Roberts R., et al (1987), Circulation, 76, 142 - 154
【非特許文献12】Robbins KC. Summaria L. (1976): Methods in Enzymology. 45, 257 - 273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、血管系及び脳組織を含む組織における血栓症の治療のため、血液脳関門を含む組織内へのタンパク質の摂取を向上させるためのタンパク質導入ドメインで改変された新規血栓溶解剤を提供することである。適切な血栓溶解分子は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、スタフィロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子等を含み、またその変異体に適しており、血栓を溶解する実証された潜在力がある。
【0010】
別の目的は、タンパク質導入ドメインを含有する強力な両親媒性アルファヘリックスを含むタンパク質配列と候補の血栓溶解分子に融合すること、又はこれと合成することのいずれかにより、新しい組換えタンパク質を提供することである。さらに、介在リンカー配列の有無にかかわらず、タンパク質血栓溶解分子のN又はC末端のいずれかで融合させたタンパク質導入ドメイン(PTD)は、以下の配列のいずれかを含むことができる:HIV TATタンパク質のアミノ酸47〜57の配列に対応するYGRKKRRQRRR、又は血液脳関門を通過して脳組織に入ることができるように細胞及び組織への導入を向上させるために強力な両親媒性ヘリックスを含有するように合成的に最適化したタンパク質配列。
【0011】
タンパク質導入ドメインを取り込むために用いられる組換え血栓溶解タンパク質分子は、成熟スタフィロキナーゼである。記載された製造方法に従い、タンパク質をクローン化し、細胞内タンパク質として大腸菌(E.coli)中で組換えタンパク質として発現し、また、真核生物発現系においても同様に発現することができる。発現したタンパク質は、製剤処方に利用するため、さらに単離、及び精製される。
【0012】
本発明は、かかる血栓溶解分子の設計、クローニング、組換え発現、及び精製方法を提供する。また本発明の別の目的は、脳血栓症、脳出血、脳卒中、又は脳組織を含む組織への血液の浸透により形成された血栓を溶解する必要があるあらゆる状態に起因する脳血管障害等の脳組織内の血管を含む血管系における血栓症の治療に使用されるように、タンパク質導入ドメインで改変された血栓溶解タンパク質分子を提供することである。
【0013】
本発明は、ストレプトキナーゼ、スタフィロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、並びにそれらのあらゆる変異体及び誘導体等の任意のタンパク質血栓溶解剤が、治療用タンパク質をタンパク質導入ドメインから分離するリンカー配列の存在の有無に係わらず、N末端又はC末端のいずれかで、タンパク質導入ドメインと融合又はこれと合成するのに適する方法を開示する。タンパク質の2つの機能ドメイン間にリンカー配列を付加することは、ドメインの適切なフォールディングを助長し、それにより、機能活性を保持することを促進する。タンパク質導入ドメインは、機能活性を喪失することなく、N又はC末端以外のタンパク質の任意の領域において導入することができる。
【0014】
組織ターゲティングのための本発明の治療用分子は、N末端側終端(DELTA10SAK)で最初の10個のアミノ酸欠失を有する成熟スタフィロキナーゼに由来し、配列NH2−末端Lys−Gly−Asp(the sequence NH2-terminal Lys-Gly-Asp)で始まり、その繊維素溶解活性は成熟スタフィロキナーゼ(mSAK)のものと同様である。タンパク質導入ドメインを含むように変性されたスタフィロキナーゼタンパク質は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、配列YGRKKRRQRRRのHIV TATタンパク質のアミノ酸47〜57を含む配列か、タンパク質導入特性を有する強力な両親媒性ヘリックスを含むように合成的に最適化された配列のいずれかと合成される。本発明の実施態様で言及されるそのような配列の1つは、アミノ酸配列YARAAARQARAである。タンパク質導入ドメインは、アミノ酸の長さが5〜25であればどこであってもよい。細胞透過特性を有するあらゆるアミノ酸配列が、細胞膜を通過して、また脳血液関門を通過することによって脳組織を含む組織への導入潜在力を向上するようにタンパク質と融合して使用できることは、当業者にも周知である。
【0015】
本設計には、さらに治療用タンパク質からタンパク質導入ドメインを分離するアミノ酸のリンカー配列を含む。タンパク質導入ドメイン及びリンカー配列はPCRによって付加され、細胞内タンパク質として大腸菌宿主において発現するために、最終のPCR生産物がpET11B等の発現ベクター中にクローン化される。タンパク質が、大腸菌においてセクレタリータンパク質(secretary protein)として、又はイースト、昆虫若しくは哺乳類細胞等の細胞真核生物発現系において、セクレタリータンパク質若しくは細胞内タンパク質のいずれかとして発現し得ることも、当業者には周知である。
【0016】
N末端かC末端のいずれかで、タンパク質導入ドメインで改変された血栓溶解タンパク分子は、ストレプトキナーゼ、遺伝子組換え型組織プラスミノゲン活性化因子、ウロキナーゼ、又はアニソイル化プラスミノゲンストレプトキナーゼ(anisoylated plasminogen streptokinase)等の成熟タンパク質を含んでもよく、これらは血栓溶解活性を有し、また、免疫原性を減少させ、及び/又はタンパク質の繊維素溶解活性を向上させるように配列が変性されたスタフィロキナーゼを含む上記の誘導体又は変異体を含んでもよい。
【0017】
発現した組換えタンパク質は、スタフィロキナーゼをコードするプラスミドでタンパク質導入ドメインと共に形質転換した大腸菌細胞の可溶性画分から、又は尿素、塩酸グアニジン、若しくは他の任意の適切な変性剤で変性した後の封入体のいずれかから精製する。可溶性又は可溶化されたタンパク質は、カラムクロマトグラフィーによって精製し、精製したタンパク質は、全身注射用に適切な緩衝剤に調合する。精製した組換えタンパク質は、生物検定法(bioassay)及び他にもある手法のうちHPLC及びSDS−PAGEを含む分析法によって特徴づけられる。この方法は、組換え成熟ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノゲン活性化因子等、任意の他の血栓溶解タンパク分子又はそれらの誘導体及び変異体、並びに減少された免疫原性及び/若しくは向上された繊維素溶解活性のために改変されたスタフィロキナーゼのすべての変異体及び誘導体に適用することもできる。
【0018】
タンパク質導入ドメインは、血液脳関門を含むすべての組織を通過するそのようなタンパク質血栓溶解分子の摂取向上のために有益であり、また脳出血、脳血栓症、及び脳卒中、又は脳組織内血管中に形成される血栓を溶解することが必要なあらゆる状況等、脳血管障害の治療での用途が見い出される。
【実施例1】
【0019】
タンパク質導入ドメインの付加による新規スタフィロキナーゼの設計:
この設計は、11のアミノ酸残基のタンパク質導入ドメイン(PTD)をスタフィロキナーゼ(配列番号1)のN末端に付加することを含む。PTDドメインとスタフィロキナーゼは、配列Gly−Gly−Gly−Serのアミノ酸リンカーによって隔てられている。PTDドメインなしの天然のスタフィロキナーゼ分子を、コントロールとして使用した。同じような配列のPTDドメインからなるeGFP(緑色蛍光タンパク質)は、実験中ポジティブコントロールとして使用した。SAK−PTD及びeGFP−PTD両方のクローニング方法は同じであった。SAK−PTD及びeGFP−PTDの設計を、図1に示す。N末端配列KGDDAで始まるスタフィロキナーゼの127アミノ酸残基をコードする領域は、本発明において、スタフィロキナーゼ又はSAKとして言及する。5’末端にPTDドメインを付加したタンパク質は、SAK−PTDとして言及する。eGFPの5’末端にPTDドメインを付加したタンパク質は、eGFP−PTDとして言及する。
【実施例2】
【0020】
SAK−PTD及びeGFP−PTDのクローニング及び組換え発現:
プラスミドpET23aでクローン化された配列番号1のスタフィロキナーゼ遺伝子は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるSAK−PTDの合成のためのテンプレートとして使用した。PCR増幅は、SAK−PTDを生成するために、スタフィロキナーゼ遺伝子の5’末端に、リンカー配列Gly−Gly−Gly−Serの4個のアミノ酸残基と配列Tyr−Gly−Arg−Lys−Lys−Arg−Arg−Gln−Arg−Arg−Arg(YGRKKRRQRRR)、又は配列Tyr−Ala−Arg−Ala−Ala−Ala−Arg−Gln−Ala−Arg−Ala(YARAAARQARA)の11個のアミノ酸残基を連続的に付加するように実施された。PCR増幅は、連続する4つのステップにおいて、5’末端の開始剤Metを含む合計で16個のアミノ酸残基を付加するようにプライマーセットを重複することで実施された。最終SAK−PTD断片の生成のため使用されるプライマーセットの例は:
BTNTFPISAK−5’GGTGGTGGTTCGAAAGGCGATGACGCGAGTTATTTTG3’;BTNTFP2SAK−5’CGTCAGGCGCGTGCGGGTGGTGGTTCGAAAG3’;BTNTFP3−5’GCACGTGCAGCAGCACGTCAGGCGCGTG3’;BTNTFP4−5’CAATGAATTCATATGGGTTATGCACGTGCAGCAGCA3’;SAKRP−5’CACGGATCCTTATTTCTTTTCTATAACAAC3’である。eGFP−PTDの生成に使用されたプライマーセットは、以下の通りであった:GFPRP−5’GTACGGATCCTTATCTAGATCCGGTGGATCCCGG3’;GFPFP−5’GTACGAATTCATATGGTGAGCAAGGGCGAGGAG3’;BTNTFP1GFP−5’GGTGGTGGTTCGGTGAGCAAGGGCGAG3’;BTNTFP2GFP−5’CGTCAGGCGCGTGCGGGTGGTGGTTCGGTG3’;プライマーBTNTFP3及びBTNTFP4は、連続的増幅の最後の2ステップにおいてSAK−PTD及びeGFP−PTD両方の増幅に共通であった。さらなる研究のためのSAK−PTDタンパク質は、可溶性画分から精製された。最終SAK−PTD生産物のPCR増幅は、図2に示されており、eGFP−PTDについては、図3に示されている。増幅の最終生産物は、1%アガロース・ゲルから精製されたゲルであり、EcoRl及びBamHlで消化して、熱誘導プロモーターの制御下でT4DNAリガーゼによりPGS100ベクターへ結紮し、同じ制限酵素で切断した。結紮したベクターは、CaCl法により大腸菌DH5α株に形質転換した。クローンは、ジデキシオ法によるDNAシーケンシングにより確認された。大腸菌株DH5αは最初の選択で、プラスミドの増幅。大腸菌DH5αから分離されたSAK−PTD挿入体及びeGFP−PTD挿入体を含む組換えプラスミドは、発現のため大腸菌宿主株BL21(λDE3)RIL株へ転換した。組換えプラスミドを内部に含む大腸菌BL21DE3RIL細胞を一晩培養した物は、50μg/mlのアンピシリンを含有する1リットルのルリア培地で1:50に希釈した。大腸菌細胞を、30℃で振動培養してA600の0.6を得た。インキュベーションの温度を42℃に上昇させて標的タンパク質の発現を誘導した。8000rpmで10分間の遠心分離を行った後、4時間後に細胞を採取し、SAK−PTD及びeGFP−PTDの組換え発現を、15%SDS−PAGE電気泳動により分析した。細菌ペレットを、緩衝剤A中(pH7.4の50mMのTris−HCl、0.05MのNaCl、0.5%のTritonX100、10mMのEDTA、及び5mMのPMSF)に再縣濁した。細胞は、氷上において15ミクロンの振幅で60秒間隔で45秒間を35サイクル行い、超音波処理により溶解され、細菌溶解物は、細菌の破片を除去するために8000gで20分間、遠心分離機にかけた。封入体中に存在する画分は、同じ緩衝液中8Mの尿素で8時間可溶化し、1mMのEDTAを含有するpH8.0の10mMのTris−HClにおいて透析した。SAK−PTD(図4参照)及びeGFP−PTDタンパク質の主な画分は、大腸菌の可溶性画分において発現した。PGS100中でクローン化された天然のeGFPは、42℃で4時間の熱誘導により、発現及び誘導された。タンパク質は、可溶性画分において高いレベルで発現した。pET23aベクターでクローン化された天然のスタフィロキナーゼ遺伝子を1mMのIPTG(イソプロピル−1−チオ−b−D−ガラクトピラノシド)で、37℃で4時間誘導した。天然のGFP及びスタフィロキナーゼタンパク質の両方を、それぞれコントロールとして、SAK−PTD及びeGFP−PTDのインビトロでの細胞摂取に関する実験において使用した。
【実施例3】
【0021】
タンパク質の精製:SAK−PTD及びGFP−PTD:
大腸菌溶解物の可溶性画分において発現されたSAK−PTDタンパク質を、pH8.0の10mMのTris−HCl緩衝液中で12時間透析し、同じ緩衝液で平衡化したQ−セファロースカラムにロードした。緩衝液でカラムを洗浄した後、同じ緩衝液中で、50mM〜250mMのNaClで溶出した。SAK−PTDを70mMのNaClで溶出した。タンパク質を含有する画分をプールし、pH8.0の10mMのTris−HClで平衡化したフェニルセファロースカラムにロードした。カラムを100mMのNaClを含有する緩衝液で広範囲に洗浄した後、タンパク質を水中に溶出した。大腸菌溶解物の可溶性画分において発現されたeGFPは、最初に、pH7.5の50mMのTris−HCl緩衝液で平衡化したQ−セファロースカラムにおいて精製し、150mMの同じ緩衝液中にNaCLで溶出した。タンパク質を含有する画分をプールし、pH7.5の50mMのTris−HCl緩衝液で平衡化したフェニルセファロースカラムにロードした。カラムは、同じ緩衝液中0.5MのNaCl〜20mMのNaClで広範囲に洗浄し、タンパク質を低塩濃度で緩衝液中に溶出した。タンパク質をpH7.4の10mMのリン酸塩緩衝液で透析した。精製したタンパク質の画分をプールして、12%のSDS−PAGEで分析した。精製したSAK及びSAK−PTDを図5に示す。スタフィロキナーゼ及び天然eGFPタンパク質を同様の条件下で精製した。
【実施例4】
【0022】
スタフィロキナーゼ及びSAK−PTDタンパク質のFITC接合体:
1mg/mlの精製したスタフィロキナーゼ及びSAK−PTDタンパク質の各々に、1Mの炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液を添加し、0.1Mの最終濃度とした。5μlの新たに調製したFITC溶液を添加し、穏やかに連続的混合をした。反応バイアルを、37℃で2時間インキュベートし、光から保護した。インキュベーションの最後に1Mの塩化アンモニウム溶液の1/20体積を添加し、室温で1時間インキュベートした。FITC接合タンパク質を、154mMのNaClを含有する1×PBS(pH7.4の10mMのリン酸塩)で平衡化したセファデックスG−25カラムにおいて溶出した。画分の吸収度は、A280nmでモニターした。FITC接合SAK−PTD及び天然のSAKを含有する画分は、インビトロでのタンパク質導入研究に使用された。
【実施例5】
【0023】
スタフィロキナーゼ及びeGFPへのPTDドメイン付加の効果を調査するため、天然タンパク質、並びにスタフィロキナーゼ及びeGFPを含有するPTDドメインのインビトロでの細胞摂取の調査をベロ細胞において実施し、蛍光顕微鏡下で可視化した。ベロ細胞を6個のウェルの組織培養プレートに播種し、37℃で、5%のFBS(ウシ胎児血清)を含有するDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)で培養した。70〜80%コンフルエンスに成長した細胞を同じ培地で2度洗浄した。2回の別個の実験では、ベロ細胞を1%のFBSを含有するDMEM培地において37℃でそれぞれ15分、30分間、50μgのスタフィロキナーゼ又はSAK−PTDタンパク質でインキュベートした。インキュベーションの最後に、細胞を同じ培地で少なくとも3回洗浄し、4%のホルムアルデヒドで室温において30分間、細胞を固定して、又は固定せずに蛍光顕微鏡で青色光の下可視化した。細胞をホルムアルデヒドで固定した場合には、PBS(154mMのNaClを含有するpH7.4の10mMのリン酸塩)で3回洗浄した。励起波長は450nm〜490nmであり、発光は520nmであった。同様の実験をeGFP及びeGFP−PTDで、タンパク質の細胞摂取におけるタンパク質導入ドメインの効果を調査するため平行して行った。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】eGFP−PTD及びSAK−PTDタンパク質の設計を示す図である。PTD−タンパク質導入ドメインのアミノ酸配列:YARAAARQARA又はYGRKKRRQRRR;L−リンカー領域の配列:Gly−Gly−Gly−Ser(GGGS);SAK−N末端配列KGDDAで始まるスタフィロキナーゼの127アミノ酸残基をコードする領域は、本発明においてスタフィロキナーゼ又はSAKと称する。5’末端でPTDドメインが付加されたタンパク質は、SAK−PTDと称する。eGFPの5’末端でPTDドメインが付加されたタンパク質は、eGFP−PTDと称する。
【図2】A−100bpラダーの図。B−SAK−PTDの最終PCR増幅生産物〜429bp。
【図3】A−100bpラダーの図。B−eGFP−PTDの最終PCR増幅生産物。
【図4】熱誘導プロモーターの下での大腸菌における組換えSAK−PTDの発現;A−封入体において発現したSAK−PTDタンパク質;B−精製されたSAKタンパク質;C−可溶性タンパク質として発現されたSAK−PTD;分子サイズマーカー。
【図5】A−精製したeGFP−PTDの摂取;B−37℃で30分間のインキュベーション後、蛍光顕微鏡で青色光の下観察したベロ細胞におけるeGFPコントロール;B−eGFPコントロール;C−37℃で30分間インキュベーション後のベロ細胞へのFITC標識のSAKタンパク質の摂取;コントロールとしてのFITC標識のSAKタンパク質。
【0025】
配列番号1:
MKGDDASYFEPTGPYLMVNVTGVDGKGNEILSPHYVEFPIKPGTTLTKEKIEYYVEWALDATAYKEFRVVELDPSAKIEVTYYDKNKKKEETKSFPITEKGFVVPDLSEHIKNPGFNLITKVVIEKK
【0026】
配列番号2:
MGYARAAARQARAGGGSKGDDASYFEPTGPYLMVNVTGVDGKGNEILSPHYVEFPIKPGTTLTKEKIEYYVEWALDATAYKEFRVVELDPSAKIEVTYYDKNKKKEETKSFPITEKGFVVPDLSEHIKNPGFNLITKVVIEKK
【0027】
配列番号3:
MGYGRKKRRQRRRGGGSKGDDASYFEPTGPYLMVNVTGVDGKGNEILSPHYVEFPIKPGTTLTKEKIEYYVEWALDATAYKEFRVVELDPSAKIEVTYYDKNKKKEETKSFPITEKGFVVPDLSEHIKNPGFNLITKVVIEKK

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓溶解タンパク質及びその変異体の組成物であって、細胞膜を通過して前記タンパク質を導入することができるタンパク質導入ドメインを含むように変性された組成物。
【請求項2】
タンパク質が、組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、スタフィロキナーゼからなる群より選択される、請求項1に記載の血栓溶解タンパク質の組成物。
【請求項3】
血栓溶解タンパク質が、細胞膜を通過してタンパク質を導入することができる血栓溶解タンパク質を生成するためにタンパク質導入ドメイン(PTD)と融合された配列番号1の成熟スタフィロキナーゼ(SAK)のアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
タンパク質が、タンパク質のあらゆる領域、N末端、又はC末端側終端、好ましくは或いはタンパク質のN末端において融合されたタンパク質導入ドメインからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
タンパク質導入ドメインが、配列番号2に示される、アミノ酸配列5’YARAAARQARA3’からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
タンパク質導入ドメインが、配列番号3に示される、アミノ酸配列5’YGRKKRRQRRR3’からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
タンパク質が、スタフィロキナーゼ等の血栓溶解タンパク質とタンパク質導入ドメインとの間のアミノ酸のリンカー配列からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
リンカー配列が、血栓溶解タンパク質及びタンパク質導入ドメインの適正なフォールディングをさせるように付加された任意の配列のアミノ酸からなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
リンカー配列が、グリシン及びセリンアミノ酸残基、好ましくは配列Gly−Gly−Gly−Serからなる、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
タンパク質導入ドメインとリンカー配列とを血栓溶解タンパク質に付加する方法であって、化学合成、化学接合、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるヌクレオチドレベルでの配列の付加のいずれかによって、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応によって付加する方法。
【請求項11】
タンパク質が、原核生物又は真核生物発現系のいずれかにおいて発現する組換えタンパク質である、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
(i)ベクターと(ii)請求項1〜10に記載のアミノ酸配列をコードする少なくとも1つの核酸フラグメントとを含む組換えDNAコンストラクト。
【請求項13】
ベクターが、原核生物宿主、好ましくは大腸菌でクローン化された原核生物プラスミド発現ベクターである、請求項11又は12に記載の組換えDNAコンストラクト。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の組換えタンパク質の発現を最適化する方法であって、ヌクレオチド配列全体が、好ましくは組換えタンパク質をコードするN末端領域が、大腸菌宿主中における発現のために最適化されたコドンである方法。
【請求項15】
以下のステップを含む請求項1に記載のタンパク質を製造する方法:
(a)請求項11〜14のいずれかに記載の組換えDNAコンストラクトでクローン化された宿主細胞を培養するステップ;
(b)細胞を採取して、そこから組換えタンパク質を分離するステップ;
(c)少なくとも以下の1つの方法によって前記タンパク質を精製するステップ:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過、親和性クロマトグラフィー、塩分画、有機溶媒、遠心分離、電気泳動等による分画。
【請求項16】
可溶性画分から又は変性状態下での封入体のいずれかから、請求項1〜15のいずれかに記載の精製した組換えタンパク質を製造する方法であって、タンパク質可溶化が、尿素、塩酸グアニジン、又は他の任意の適切な変性剤のうち少なくとも1つを使用して実施される方法。
【請求項17】
緩衝液が、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸塩緩衝液、又は他の任意の薬学的及び生理学的に許容される緩衝液のいずれかを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項18】
タンパク質導入ドメインで変性された血栓溶解タンパク質が、インビトロで細胞膜を通過する導入効率の向上を示すとともに、インビボで投与された場合に組織内への摂取が向上する可能性がある、請求項1〜17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
血栓溶解タンパク質からなる組成物が、血管系及び組織における血塊を溶解する治療的血栓溶解タンパク質として使用できる、請求項1〜18のいずれかに記載の血栓溶解タンパク質の使用方法。
【請求項20】
血栓溶解タンパク質からなる組成物が、脳出血及び脳卒中を含むがこれらに限定されない脳血栓症及び任意の脳血管障害の治療のための治療的血栓溶解タンパク質として使用できる、請求項1〜19のいずれかに記載の血栓溶解タンパク質の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−536821(P2009−536821A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508677(P2009−508677)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/IN2007/000191
【国際公開番号】WO2007/132481
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(506226131)バハラ バイオテック インターナショナル リミテッド (3)
【Fターム(参考)】