説明

新規重合体及びその製造方法

【課題】優れた機械的特性及び光学特性を有する新規重合体の提供。
【解決手段】下記式(1)


(式(1)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される繰り返し単位を有する重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の主鎖に環式構造を有する炭化水素系重合体であるポリシクロアルカンは、熱的・化学的安定性に加え、光学的特性や機械的特性を有していることから、電気・電子材料や光学・情報材料などへの応用が期待されている。
例えば、特許文献1には、特定のポリシクロアルカン化合物とウレタンアクリレートを用いた、低収縮で、ハードコート性能を発現できる樹脂が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−187497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、コート材や、レンズ材等の光学用用途に用いられる材料の耐久性及び光学特性の要求の上昇により、更なる性能及び機能が向上した炭化水素系重合体が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、環式構造を有する炭化水素系重合体に置換基を導入することにより、更なる性能及び機能の向上が見込まれるとの予測に立ち、鋭意検討した結果、特定の位置に水酸基を導入した環式構造を有する炭化水素系重合体が、優れた性能及び機能有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、1)本発明は、下記式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される繰り返し単位を有する重合体(以下、化合物(1)ともいう)を提供するものである。
【0009】
また、2)本発明は、化合物(1)の製造方法であって、下記式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式(2)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(2)ともいう)を、還元剤存在下で重合させる工程を含むことを特徴とする、製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の重合体は、優れた機械的特性及び光学特性を有する。したがって、本発明の重合体は、エンジニアプラスチック等の材料やレンズ等の光学材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた重合体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた重合体のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本明細書で使用する記号の定義について説明する。
1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。これら「2価の炭化水素基」は、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、及び2価の芳香族炭化水素基を包含する概念であるが、耐久性及び耐熱性の点から、2価の脂肪族炭化水素基が好ましい。なお、当該2価の炭化水素基は分子内に不飽和結合を有していてもよい。
【0015】
上記2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は1〜20であるが、耐久性及び耐熱性の点から、1〜16が好ましく、1〜12がより好ましく、1〜8が更に好ましく、1〜4が特に好ましい。なお、当該2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、メチレン基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられるが、中でも、耐久性及び耐熱性の点から、メチレン基、アルキレン基が好ましく、アルキレン基が特に好ましい。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基等が挙げられる。中でも、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基が特に好ましい。
【0016】
また、上記「炭素数1〜20の2価の炭化水素基」に置換しうる基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜5のアルキル基;シクロプロピル基等のシクロアルキル基;アリール基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;水酸基;シアノ基;ニトロ基;アミノ基;アミド基;カルボキシル基;アセチル基、プロパノイル基等の炭素数2〜10のアルカノイル基;アセトキシ基、プロパノイルオキシ基等のアルカノイルオキシ基;ベンゾイル基;ベンゾイルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。これら置換基の位置及び数は任意であり、置換基を2以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0017】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の、化合物(1)は、化合物(2)を、還元剤存在下で反応させ(工程1)、当該工程により得られる化合物とプロトン供与体とを反応させる(工程2)ことにより製造できる。なお、本発明の製造方法においては、化合物(2)を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、R1及びR2は前記と同義である。)
【0020】
上記工程1に用いる還元剤としては、一電子還元作用及び反応効率の点から、ランタノイド化合物が好ましく、これに含まれる2種以上を用いてもよい。具体的には、ヨウ化サマリウム(II)、ヨウ化イッテルビウム(II)等のハロゲン化ランタノイド;サマリウム金属、イッテルビウム金属等のランタノイド金属等が挙げられる。中でも、ハロゲン化ランタノイドが特に好ましい。当該還元剤の使用量としては、化合物(2)に対して、2〜10モル当量が好ましく、2〜6モル当量がより好ましく、2〜4モル当量が特に好ましい。
【0021】
また、本工程においては、塩化リチウム、臭化リチウム等の金属ハロゲン化物;ヘキサメチルリン酸トリアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;N,N’−ジメチル-N,N’−プロピレンウレア等のウレア化合物等の添加剤を、上記還元剤と併用するのが好ましい。中でも、反応効率の点から、金属ハロゲン化物が特に好ましい。当該添加剤の使用量としては、化合物(2)に対して、1〜50モル当量が好ましく、5〜30モル当量がより好ましく、10〜20モル当量が特に好ましい。
【0022】
上記工程2に用いるプロトン供与体としては、水;メタノール、エタノール等の低級アルコール;酢酸、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸等のプロトン酸が挙げられる。中でも、反応効率、並びに化合物(1)の耐久性、耐熱性、偏光特性、光透過性及び相溶性の点から、水が特に好ましい。
【0023】
また、上記工程1及び2は、溶媒存在下、及び非存在下のいずれでも行うことができるが、反応効率の点から、溶媒存在下で行うのが好ましい。当該溶媒としては、エーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;これらの混合溶媒が挙げられる。中でも、反応効率の点から、エーテル系溶媒が好ましく、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の非環状エーテル系溶媒が挙げられる。中でも、環状エーテル系溶媒が好ましく、THFが特に好ましい。当該溶媒の使用量としては、化合物(2)1gに対して、0.1〜1Lが好ましい。
なお、上記エーテル系溶媒を用いる場合、上記に挙げた溶媒の他に、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒を併用してもよい。
【0024】
上記工程1及び2の反応温度としては、0〜100℃が好ましく、0〜50℃がより好ましい。また、反応時間は、工程1と2を合わせて、1分〜72時間が好ましく、10分〜12時間がより好ましい。
【0025】
上記工程1及び2において、各反応生成物の単離は、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、濃縮、再沈殿、遠心分離、各種溶媒による抽出、中和、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて、反応系から、単離、精製することで分離することができる。また、工程1により得られる化合物については、単離せずに次の反応に付すこともできる。
【0026】
上記反応により得られる化合物(1)は、簡便且つ効率よく製造できる。また、化合物(1)は、優れた機械的特性(耐久性、耐熱性、耐摩耗性等)と優れた光学特性(光透過性、偏光特性等)を有する。更に、他の極性を有する高分子化合物等に対する優れた相溶性(親和性)を有する。なお、このような効果が得られる要因は必ずしも明らかではないが、水酸基の導入により、重合体同士の高分子鎖間で水素結合が生じるからであると、本発明者らは推察する。
したがって、化合物(1)は、エンジニアプラスチック等の材料;レンズ、光通信部品、光ディスク等の光学材料として有用である。
【0027】
上記化合物(1)の数平均分子量(Mn)としては、200〜100000が好ましく、200〜10000がより好ましい。また、Mw/Mnとしては、1.01〜3が好ましく、1.2〜2がより好ましい。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
実施例における試料の分析条件は以下に示すとおりである。
<IRスペクトル>
IRスペクトルは、Thermo Scientific製のSMARTiTRサンプリングユニット付NICOLET iS10を用いてATR法により測定した。
<NMRスペクトル>
1H−NMRスペクトルは、ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)溶媒中の残存プロトンピークを内部標準として用い、30℃で、Varian製Inova 400(400MHz)にて測定をした。
<分子量測定>
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー:溶媒LiBr(10mM)を含むDMF)HLC−8320GPC(東ソー(株)製)を用いて測定した。測定値は、ポリスチレン換算によるものである。
【0030】
実施例1
以下の合成経路に従い、1,4−シクロヘキサンジオンを基質として、重合体を合成した。
【0031】
【化4】

【0032】
あらかじめ100℃、減圧下で一晩乾燥させた塩化リチウム6.1g(144mmol、和光純薬)を脱水THF27mLに懸濁させた後、ヨウ化サマリウム(SmI2)のTHF溶液180mL(0.1M溶液をJ.Am.Chem.Soc.,1980,102,2693を参考に作製)を加えて溶液を作成した。この溶液に、1,4−シクロヘキサンジオン917mg(8.18mmol、東京化成製)を脱水THF(9mL)に溶解させた溶液を添加して、室温で30分間攪拌した。
攪拌後、生じた沈殿物を遠心分離により回収した後、THFで洗浄し、得られた固体を、80mLの水中で30分間攪拌した。水不溶部を遠心分離により除去した後、水可溶部を凍結乾燥により水を除去することで固体を回収した。得られた固体を、水20mLに溶解させた後、アセトン600mLに再沈殿して、アセトン不溶部を遠心分離により除去した。アセトン可溶部を濃縮して、少量の水を加えた後、凍結乾燥により水を除去することで粗生成物を回収した。得られた粗生成物をメタノール20mLに溶解させた後、ジエチルエーテル300mLに再沈殿した。生じた不溶部をろ過により回収し、少量の水で溶解後、凍結乾燥により水を除去することで目的の重合体を収率15%(mol/mol)で得た。なお、得られた重合体は、NMR測定(図1)、及びIR測定(図2)により同定をした。また、分子量測定を行った結果、Mn=4.6×102、Mw/Mn=1.6であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の重合体は、優れた機械的特性と優れた光学特性とを有する。更に、他の極性を有する高分子化合物等に対する優れた相溶性(親和性)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される繰り返し単位を有する重合体。
【請求項2】
1が、単結合、メチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基であり、R2が、メチレン基又は炭素数2〜20のアルキレン基である請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
1が、単結合又は炭素数2〜8のアルキレン基であり、R2が、炭素数2〜8のアルキレン基である請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の重合体の製造方法であって、下記式(2)
【化2】

(式(2)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を、還元剤存在下で重合させる工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
前記還元剤がランタノイド化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤がハロゲン化ランタノイドであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
下記式(2)
【化3】

(式(2)中、R1は、単結合、又は置換若しくは非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示し、R2は、置換又は非置換の炭素数1〜20の2価の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を、還元剤存在下で重合させることにより得られる、下記式(1)
【化4】

(式(1)中、R1及びR2は前記と同じ。)
で表される繰り返し単位を有する重合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236306(P2011−236306A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108045(P2010−108045)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】