説明

方向性結合器および無線通信装置

【課題】結合度の周波数特性が広帯域に亘って平坦なカプラを得る。
【解決手段】 送信信号を伝送する主線路と、主線路に送信信号を入力する入力ポートと、主線路から送信信号を出力する出力ポートと、主線路と電磁界結合して送信信号の一部を取り出す副線路と、副線路の一端部に備えられた結合ポートと、副線路の他端部に備えられたアイソレーションポートとを有する方向性結合器であって、副線路と結合ポートとの間に、ローパスフィルタとしての機能を有するローパスフィルタ部を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性結合器および無線通信装置に係り、特に、方向性結合器における結合度の周波数特性を平坦化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
伝送線路上を伝搬する電力の一部を取り出すことを可能とする方向性結合器(Directional Coupler/以下単に「カプラ」と称する)は、携帯電話機や無線LAN通信装置、ブルートゥース(Bluetooth)規格の通信装置など各種の無線通信機器の送信回路を構成する上で不可欠な部品となっている。
【0003】
具体的には、カプラは送信信号のレベルが一定になるように制御する調整手段を構成するが、この調整手段は、利得を制御可能な電力増幅器(以下「PA」と言う)と、送信信号のレベルを検出するカプラと、自動出力制御回路(以下「APC回路」と言う)を備える。入力された送信信号は、PAによって増幅された後、カプラを通して出力される。カプラは、PAから出力された送信信号のレベルに対応したレベルのモニタ信号をAPC回路に出力する。APC回路は、モニタ信号のレベル(即ち送信信号のレベル)に応じてPAの出力が一定になるようにPAの利得を制御する。このようなPAのフィードバック制御により送信出力の安定化が図られる。
【0004】
上記カプラは、電磁界結合するように互いに近接して配置した主線路と副線路とを備え、送信信号を伝送する主線路は一端に入力ポートを、他端に出力ポートをそれぞれ備え、送信信号のレベルを検出する副線路は一端に結合ポートを、他端にアイソレーションポートをそれぞれ備えている。そして、主線路を伝送する送信信号の一部が副線路によって取り出され、結合ポートを通じモニタ信号としてAPC回路へ出力される。
【0005】
カプラの主要な特性としては挿入損失、結合度、アイソレーション、および、方向性が挙げられる。挿入損失はカプラによって生じる損失であり、低いことが望ましい。結合度は、順方向に伝搬する電力と結合ポートに取り出される電力の比である。アイソレーションは、逆方向に伝搬する電力の結合ポートへの漏れの少なさの程度を示すもので、これは高い(漏れが小さい)ことが望ましい。また、方向性は、アイソレーションと結合度の差であり、当該カプラが進行波と反射波を区別する能力を示すものである。この方向性は、高い(絶対値が大きい)ほど良好なカプラとされ、検出誤差が小さく良好なAPC回路を形成することが出来る。このため、方向性は一般に20dB以上が要求される。
【0006】
一方、携帯電話機やスマートフォンに代表される携帯端末の通信周波数帯は国や地域ごとに異なるため、これらの周波数事情に柔軟に対応できるよう複数の周波数帯を利用可能な通信装置が近年提供されている。例えば、2つの周波数帯を利用可能なデュアルバンド方式や3つの周波数帯を利用可能なトリプルバンド方式、更には4つの周波数帯を利用可能なクアッドバンド方式等である。
【0007】
また、このようなカプラに関連する文献として下記特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−280812号公報
【特許文献2】特開2011−61440号公報
【特許文献3】特開2009−27617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、送信信号として伝搬される電力とカプラの結合ポートに取り出される電力の比である前記結合度は、送信電力の高精度の制御(PAの正確なフィードバック制御)を実現する点でその周波数特性は平坦であることが望ましく、一般には主線路と副線路の長さを使用周波数帯の1/4波長程度に設定すればその周波数帯において平坦な結合度を得ることが出来る。
【0010】
しかしながら、携帯電話機等の移動体無線機器で主に用いられる準マイクロ波帯の1/4波長は、25cm〜3cm程度(例えば10GHzで3cm)と非常に長くなり、軽薄短小化が必要な携帯電話機等の移動体無線機器に使用するカプラにこの長さの結合線路を備えることはサイズの点から現実的ではない。また、数cm以上の長い結合線路を使用すると挿入損失が非常に大きくなり、電池寿命の大幅な劣化に繋がってしまうという移動体無線機器にとって致命的な不具合を生じる。このため、使用周波数帯の1/4波長よりも短い結合線路のカプラが使用されるのが通常である。ただし、このような結合線路の特性は一般に周波数によって変動し、周波数が高くなるほど結合度が上昇してしまう傾向がある。
【0011】
このため従来では、利用周波数帯が広範に及ぶ装置を構成する場合には、カプラを複数個備える必要があった。例えば、図18は複数の周波数帯を利用可能な携帯電話機の送受信部の一例を示すブロック図であるが、この図に示すように従来のマルチバンド方式の携帯電話機では、利用周波数帯に対応して設けられた送信回路301,401のそれぞれにカプラ311,411を備えている。なお、同図において、符号101はアンテナ、102はアンテナ101を通じて受信した電波を受信回路103,104へ振り分けるとともに、送信回路301,401から入力された送信信号をアンテナ101に送り出すスイッチをそれぞれ示す。スイッチ102は、例えばダイプレクサや高周波スイッチを組み合わせることにより構成される。
【0012】
一方、このようなマルチバンド方式の通信装置においてもカプラを共通化する(例えば1つにする)ことが出来れば、送信回路内の部品点数を減らし、装置の製造コストを低減することが出来る。また、携帯通信装置のより一層の小型化を図ることも可能となる。さらに、カプラの結合度を平坦化することは、送信電力のより簡便かつ検出誤差の少ない制御を行う点で好ましい。なお、前記特許文献はいずれも、このような本願発明の着想およびその解決手段を示すものではない。
【0013】
したがって、本発明の目的は、結合度が広帯域に亘って平坦なカプラを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係るカプラ(方向性結合器)は、送信信号を伝送する主線路と、当該主線路に前記送信信号を入力する入力ポートと、当該主線路から前記送信信号を出力する出力ポートと、前記主線路と電磁界結合して前記送信信号の一部を取り出す副線路と、当該副線路の一端部に備えられた結合ポートと、当該副線路の他端部に備えられたアイソレーションポートとを有する方向性結合器であって、前記副線路と前記結合ポートとの間に、ローパスフィルタとしての機能を有するローパスフィルタ部を備えた。
【0015】
本発明は、発明が解決しようとする課題の項で述べたように従来複数備えていたカプラを共通化することを検討する中でなし得たもので、送信信号を伝送する主線路と、この主線路に対して電磁界結合するよう近接して配置した副線路を用いるカプラにおいて、副線路と結合ポートとに間にローパスフィルタ部(以下「LPF部」と言う)を備えれば当該カプラの結合度の周波数特性を平坦化できることを本発明者は見出し、この知見に基づいて本発明は構成されたものである。
【0016】
上記LPF部は、高周波数の信号を遮断し(減衰させ)、低周波数の信号を通過する機能を有し、当該カプラの結合度が周波数によって変動(高周波になるほど上昇)するのを抑制する機能を果たす。これにより、従来のカプラに比べて結合度の周波数特性を低周波から高周波に亘る広帯域に平坦化することが可能となる。なお、この点については後の実施形態の説明においてシミュレーション結果に基づいて更に述べる。
【0017】
LPF部の具体的な構成としては、例えば、副線路と結合ポートの間に直列に接続したインダクタと、一端が副線路と結合ポートの間に接続され且つ他端がグランドに接続されたキャパシタとを含むようにすれば良い。
【0018】
また、上記本発明のカプラでは、(1)一端が前記主線路と前記入力ポートの間に接続され且つ他端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続されたキャパシタを更に備えるか、或いは、(2)一端が前記主線路と前記入力ポートの間に接続され且つ他端がグランドに接続されたキャパシタを更に備えても良い。
【0019】
前述のようにLPF部を備えることにより、結合度を平坦化することは可能となるが、一方においてLPF部を付加したカプラにおいてアイソレーションと方向性の劣化が見られることがあった。そこで、このような場合に結合度の平坦性を維持しつつこれらを改善することを試みた結果、上記キャパシタを付加する(1)または(2)の構成を採用することでアイソレーションと方向性の劣化を是正し、これらを改善することが出来ることを見出した。なお、この点については、後の実施形態の説明において更に詳しく述べる。
【0020】
また本発明の一態様では、上記LPF部(副線路と結合ポートとの間に接続したLPF部/以下これを「第1LPF部」と称することがある)に加え、ローパスフィルタとしての機能を有する別のLPF部(以下これを「第2LPF部」と称することがある)を副線路とアイソレーションポートとの間に更に備える。
【0021】
このように副線路の両端部にLPF部を備える態様によれば、前記主線路の入力ポートから出力ポートに向けた方向(この方向を「順方向」と称する)についてだけでなく、これとは逆に、主線路の出力ポートから入力ポートに向けた方向(この方向を「逆方向」と称する)に関する結合度の周波数特性についてもこれを平坦化することが可能となる。例えば、無線通信装置においてアンテナとのマッチング(アンテナからの反射電力)を検出・計量するために逆方向に伝搬する反射波をアイソレーションポートから取り出してモニタリングするような場合に、逆方向の結合度を平坦化できる当該態様によれば、順方向と同様に誤差の少ないより正確な検出を行うことが出来る。
【0022】
また、当該態様におけるLPF部の構成としては、例えば、第1LPF部(副線路と結合ポートとの間に備えたLPF部)が、副線路と結合ポートの間に直列に接続したインダクタと、一端が副線路と結合ポートの間に接続され且つ他端がグランドに接続されたキャパシタとを含み、第2LPF部(副線路とアイソレーションポートとの間に備えたLPF部)が、副線路とアイソレーションポートの間に直列に接続したインダクタと、一端が副線路とアイソレーションポートの間に接続され且つ他端がグランドに接続されたキャパシタとを含むようにすれば良い。
【0023】
さらに、本発明では、一端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続され且つ他端が前記副線路と前記アイソレーションポートとの間に接続されたキャパシタを更に備えても、同様の結合度の平坦性に優れたカプラを構成することが出来る。
【0024】
また本発明では、上記本発明のいずれかのカプラにおいて、副線路と結合ポートとの間、および、副線路とアイソレーションポートとの間、のいずれか一方または双方にアッテネータを接続しても良い。このように副線路にアッテネータを付加すれば、副線路に接続される他の回路要素のインピーダンス変動の影響を当該アッテネータにより軽減することができ、本発明のカプラを実際に装置に組み込んで使用するときに他の回路要素による影響を受け難くすることが出来る。
【0025】
また、本発明に係る無線通信装置は、上記いずれかのカプラを含むものである。
【0026】
なお、本発明に言う無線通信装置は、典型的には、携帯電話機やスマートフォン、無線通信機能を備えたPDA(Personal Digital Assistants)やタブレット型コンピュータなどの携帯端末装置であるが、これらに限られるものではなく、無線LAN用の通信装置やブルートゥース(Bluetooth)規格の通信装置などの無線通信が可能な各種の通信装置が本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、結合度が広帯域に亘って平坦で、かつ、アイソレーションと方向性に優れた、小型のカプラを実現することが出来る。
【0028】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基づいて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の第一の実施形態に係るカプラを示す図である。
【図2】図2は、前記第一実施形態に係るカプラの結合度の周波数特性を従来のカプラと比較して示す線図である。
【図3】図3は、前記第一実施形態に係るカプラのアイソレーションの周波数特性を従来のカプラと比較して示す線図である。
【図4】図4は、前記第一実施形態のカプラを備えたマルチバンド方式の携帯電話機の構成例を示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の第二の実施形態に係るカプラを示す図である。
【図6】図6は、本発明の第三の実施形態に係るカプラを示す図である。
【図7】図7は、前記第三実施形態に係るカプラの結合度の周波数特性を従来のカプラと比較して示す線図である。
【図8】図8は、前記第三実施形態に係るカプラのアイソレーションの周波数特性を従来のカプラと比較して示す線図である。
【図9】図9は、前記第一実施形態の変形例に係るカプラを示す図である。
【図10】図10は、前記第一実施形態に基づいてLPF部を加えたカプラの周波数特性(結合度およびアイソレーション)を示す線図である。
【図11】図11は、前記第一実施形態の変形例に係るカプラの周波数特性(結合度およびアイソレーション)を示す線図である。
【図12】図12は、前記第一実施形態の別の変形例に係るカプラを示す図である。
【図13】図13は、前記第一実施形態に基づいてLPF部を加えたカプラの周波数特性(結合度)を示す線図である。
【図14】図14は、前記第一実施形態に基づいてLPF部を加えたカプラの周波数特性(アイソレーション)を示す線図である。
【図15】図15は、前記第一実施形態の別の変形例に係るカプラの周波数特性(結合度)を示す線図である。
【図16】図16は、前記第一実施形態の別の変形例に係るカプラの周波数特性(アイソレーション)を示す線図である。
【図17】図17は、本発明の第四の実施形態に係るカプラを示す図である。
【図18】図18は、従来のマルチバンド方式の携帯電話機の送受信部の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔第1実施形態〕
図1に示すように本発明の第一の実施形態に係るカプラ11は、送信信号を伝送する主線路12と、この主線路12に電磁界結合するように近接して配置した副線路13とを備える。主線路12は、その一端部に入力ポートP1を有し、他端部に出力ポートP2を有する。また、副線路13は、その一端部に結合ポートP3を有し、他端部にアイソレーションポートP4を有している。なお、以下の説明では、入力ポートを「P1」、出力ポートを「P2」、結合ポートを「P3」、アイソレーションポートを「P4」とそれぞれ称することがある。
【0031】
また、前述のように主線路と副線路の長さを使用周波数帯の4分の1波長程度に設定すれば平坦な結合度が得られるが、これでは当該主線路と副線路とが非常に長くなってしまうため、本実施形態では主線路および副線路は共に使用周波数帯の4分の1波長より短い線路長を有するものとする。
【0032】
また、副線路13と結合ポートP3との間にはLPF部21を備える。このLPF部21はインダクタ22とキャパシタ23とからなる所謂L型のローパスフィルタであり、副線路13と結合ポートP3との間に直列に挿入したインダクタ22と、当該副線路13と結合ポートP3との間の伝送路とグランドとの間に接続したキャパシタ23とからなる。
【0033】
図2および図3は本実施形態に係るカプラ11の結合度(図2)とアイソレーション(図3)の周波数特性のシミュレーション結果を従来のカプラ(LPF部21を備えないもの)と比較してそれぞれ示すものである。なお、LPF部21を構成するインダクタ22のインダクタンスは2.7nH、キャパシタ23の容量は5pFである。
【0034】
図2に示すように結合ポート部にLPF部21を備えた本実施形態によれば、結合度を従来と比較して平坦化することが出来ることが分かる。また、図3に示すようにアイソレーションも従来と比較して改善することが出来た。
【0035】
このように本実施形態によれば結合度を平坦化することが出来るから、カプラの配設個数を減らすことが出来る。
【0036】
例えば、800MHz帯と2GHz帯の2つの通信周波数帯を利用可能なデュアルバンド方式の携帯電話機を構成することを考えた場合、従来であれば800MHz帯と2GHz帯とでは結合度が大きく変動してしまうため、各周波数帯(800MHz帯と2GHz帯)で結合度がほぼ等しくなるように調整した2つのカプラを各周波数帯の送信回路それぞれに設ける必要があったが(前記図18参照)、本実施形態によれば両周波数帯(800MHz帯と2GHz帯)に亘って結合度がほぼ平坦であるから、各周波数帯に共通のカプラを1つ設ければ良く、部品点数を減らして送信回路を単純化することが出来る。
【0037】
図4は、本実施形態のカプラ11を使用したマルチバンド方式の携帯電話機の送受信部の構成例を示すものである。この図に示すように本実施形態によれば、アンテナ101とスイッチ102との間にカプラ11を1つ設ければ良く、従来(前記図18参照)と比べて送信回路201を簡素化することが出来る。なお、PA202は両周波数帯に亘って使用可能なものを使用し、カプラ11により得られたモニタ信号(送信信号のレベルに対応した信号)をAPC回路203に入力し、APC回路203がモニタ信号のレベル(即ち送信信号のレベル)に応じてPA202の出力が一定になるようにPA202の利得を制御する。また、スイッチ102は、アンテナ101を通じて受信した電波を受信回路103,104へ振り分けるとともに、送信回路201から入力された送信信号をアンテナ101に送り出す機能を果たすもので、例えばダイプレクサや高周波スイッチを組み合わせることにより構成すれば良い。
【0038】
〔第2実施形態〕
本発明の第二の実施形態に係るカプラは、図5に示すように、前記第一実施形態と同様に副線路13と結合ポートP3との間にLPF部(第1LPF部)31を備えるが、更に副線路13とアイソレーションポートP4との間にもLPF部(第2LPF部)41を備えたものである。
【0039】
なお、本実施形態では、各LPF部31,41は直列に接続したインダクタ32,42の両側に並列に接続した2つのキャパシタ33,34;43,44を備えた所謂π型のローパスフィルタであり、第1LPF部31は、副線路13と結合ポートP3との間に直列に挿入したインダクタ32と、このインダクタ32の両側において副線路13−結合ポートP3間の伝送路とグランドとの間にそれぞれ接続したキャパシタ33,34とからなる。また、第2LPF部41は、副線路13とアイソレーションポートP4との間に直列に挿入したインダクタ42と、このインダクタ42の両側において副線路13−アイソレーションポートP4間の伝送路とグランドとの間にそれぞれ接続したキャパシタ43,44とからなる。なお、各LPF部31,41は、前記第一実施形態と同様にL型のローパスフィルタであっても、あるいは、直列に接続した2つのインダクタと、それら2つのインダクタの間とグランドとの間に接続したキャパシタとからなる所謂T型のローパスフィルタであっても良い。
【0040】
このように主線路12および副線路13からなるカプラ本体部を挟んで対称に(入力側と出力側との両方に)LPF部31,41を備えた本実施形態によれば、前記第一実施形態のように順方向の結合度を平坦化することが出来るだけでなく、逆方向の結合度(主線路の出力ポートP2から入力し、アイソレーションポートP4に出力される電力)の周波数特性も第2LPF部41によって順方向と同様に平坦化することが出来る。したがって、前述したように例えば、無線通信装置においてアンテナとのマッチング(アンテナからの反射電力)を検出・計量するために逆方向に伝搬する反射波をアイソレーションポートP4から取り出してモニタリングするような場合に、順方向と同様に誤差の少ないより正確な検出を行うことが可能となる。
【0041】
〔第3実施形態〕
本発明の第三の実施形態に係るカプラは、図6に示すように、前記第二実施形態のカプラと同様に副線路13の両側(結合ポートP3と副線路13との間、およびアイソレーションポートP4と副線路13との間)にそれぞれLPF部51,61を備えるが、更にこれらに加えて、結合ポートP3とアイソレーションポートP4間にキャパシタ65を接続したものである。なお、各LPF部51,61は、前記第一実施形態と同様のインダクタ52,62とキャパシタ53,63とからなるL型のローパスフィルタである。
【0042】
図7および図8は本実施形態に係るカプラの結合度(図7)とアイソレーション(図8)の周波数特性のシミュレーション結果を、前記図2および図3と同様に従来のカプラ(LPF部51,61およびP3−P4間のキャパシタ65を備えないもの)と比較してそれぞれ示すものである。なお、各LPF部51,61を構成するインダクタ52,62のインダクタンスは共に5.5nH、各LPF部51,61を構成するキャパシタ53,63の容量は共に2.2pFであり、P3−P4間のキャパシタ65の容量は1.2pFである。
【0043】
図7に示すようにP3−P4間にキャパシタ65を備えた本実施形態によっても結合度を従来と比較して平坦化することが出来る。
【0044】
また本実施形態は、LPF部が2次のL型ローパスフィルタであるから、LPF部が3次のπ型ローパスフィルタである前記第二実施形態と比べ、素子数や導体線路の引き回しを減らして不要な結合成分や共振の発生を抑えることができ、これによりアイソレーション特性と方向性を改善させつつ、結合度の周波数特性を平坦化することが出来る。
【0045】
さらに本実施形態では、P3−P4間にキャパシタ65を接続することにより、アイソレーション特性と方向性を改善させることができ、図7および図8に示すように0.7〜2GHzの領域において、実用上必要とされる20dB以上の方向性(結合度とアイソレーションの差)を確保することが出来た。なお、このP3−P4間のキャパシタ65は、アイソレーションポートP4に生じてしまう不要な漏洩電流をキャンセルする位相調整機能を果たしていると考えられる。
【0046】
〔第1実施形態の変形例〕
前記第一実施形態のカプラ11では、LPF部21を備えることにより結合度を平坦化することが出来たが、このようにLPF部21を接続するとアイソレーションや方向性の劣化が生じることがあった。
【0047】
すなわち、カプラは副線路における誘導電流と変位電流との組み合わせによって方向性を得ているが、結合ポートと出力ポートの間の不要な結合や副線路における誘導電流と変位電流の位相ずれ等が生じるとアイソレーションや方向性の劣化を引き起こすことが多い。一方、前記実施形態では副線路13にLPF部21を接続する。このため、LPF部21の接続によって副線路13における誘導電流と変位電流の間の位相差のバランスが崩れ、これがアイソレーションや方向性の劣化を引き起こす原因となる場合があると考えられる。
【0048】
アイソレーションや方向性の劣化原因には、他の様々な要因(例えば寄生容量や不要結合による信号分離度の劣化、カプラにおいて生じる偶モードと奇モードの位相速度差による方向性の劣化、リアクタンス素子付加によるインピーダンス不整合や不要共振の発生等)があり、LPF部21の接続とこれら様々な要因との相互関係にもよるため、LPF部21を接続すると直ちにアイソレーションや方向性が劣化するとは一概には言えないが、そのような特性劣化が生じた場合には、下記の方法によってこれを解消することが出来ることを見出した。
【0049】
(1)第一の方法としては、図9に示すようにLPF部21に加え更に、入力ポートP1と結合ポートP3との間にキャパシタ71を接続する。
【0050】
図10は前記第一実施形態と同様に結合ポートと副線路との間にL型ローパスフィルタからなるLPF部を備えたカプラの結合度(実線)とアイソレーション(破線)の周波数特性を示すシミュレーション結果であり、図11は上記第一の方法を適用したカプラの結合度(実線)とアイソレーション(破線)の周波数特性を示すシミュレーション結果である。なお、これら図10および図11に係る構成においてLPF部内のインダクタ22のインダクタンスは共に2.7nH、キャパシタ23の容量は共に5pF、P1−P3間に接続したキャパシタ71の容量は1pFである。
【0051】
これら図10および図11に示すように、入力ポートP1と結合ポートP3の間にキャパシタ71を接続することにより、ほぼ同等に平坦な結合度を維持しながらアイソレーションを(したがってアイソレーションと結合度の差である方向性も)改善することが出来る。
【0052】
(2)第二の方法としては、図12に示すようにLPF部21に加え更に、入力ポートP1とグランドとの間にキャパシタ72を接続する。
【0053】
図13および図14はそれぞれ前記第一実施形態と同様に結合ポートと副線路との間にL型ローパスフィルタからなるLPF部を備えたカプラの結合度(図13)とアイソレーション(図14)の周波数特性を示すシミュレーション結果であり、図15および図16はそれぞれ上記第二の方法を適用したカプラの結合度(図15)とアイソレーション(図16)の周波数特性を示すシミュレーション結果である。なお、これら図13および図14に係る構成においてLPF部内のインダクタのインダクタンス22は共に0.3nH、キャパシタ23の容量は共に5pF、入力ポートP1−グランド間に接続したキャパシタ72の容量は0.16pFである。
【0054】
これらの図13から図16に示すように、入力ポートP1とグランドとの間にキャパシタ72を接続することによっても、ほぼ同等に平坦な結合度を維持しつつアイソレーションを(したがって方向性も)改善することが出来た。
【0055】
なお、上記第一および第二の方法では、付加したキャパシタ71,72によって副線路13に生じる誘導電流と変位電流の位相差のバランスの崩れがキャンセルされ、これによりアイソレーションと方向性の劣化が改善されるものと考えられる。
【0056】
〔第4実施形態〕
さらに、本発明の第四の実施形態に係るカプラは、図17に示すように、前記第三実施形態に係るカプラと同様に、副線路13の両側にそれぞれLPF部51,61を備え、P3−P4間にキャパシタ65を接続したものであるが、副線路13(LPF部51)と結合ポートP3との間、および、副線路13(LPF部61)とアイソレーションポートP4との間にアッテネータ73,74をそれぞれ接続した。
【0057】
このように副線路にアッテネータを付加すれば、前述のように副線路に接続される他の回路要素のインピーダンス変動の影響を軽減することが出来る。なお、前記第一から第三実施形態および変形例(図1、図5、図6、図9および図12)に係る各カプラにおいても本実施形態と同様に、結合ポートP3と副線路13(LPF部21,31,51)との間、ならびにアイソレーションポートP4と副線路13(LPF部41,61)との間にアッテネータを接続しても良い。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことが出来ることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0059】
11 カプラ(方向性結合器)
12 主線路
13 副線路
21,31,41,51,61 LPF部(ローパスフィルタ部)
22,32,42,52,62 インダクタ
23,33,34,43,44,53,63,65,71,72 キャパシタ
101 アンテナ
102 スイッチ
103,104 受信回路
201 送信回路
202 PA(電力増幅器)
203 APC回路(自動出力制御回路)
P1 入力ポート
P2 出力ポート
P3 結合ポート
P4 アイソレーションポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を伝送する主線路と、
当該主線路に前記送信信号を入力する入力ポートと、
当該主線路から前記送信信号を出力する出力ポートと、
前記主線路と電磁界結合して前記送信信号の一部を取り出す副線路と、
当該副線路の一端部に備えられた結合ポートと、
当該副線路の他端部に備えられたアイソレーションポートと
を有する方向性結合器であって、
前記副線路と前記結合ポートとの間に、ローパスフィルタとしての機能を有するローパスフィルタ部を備えた
ことを特徴とする方向性結合器。
【請求項2】
前記ローパスフィルタ部は、
前記副線路と前記結合ポートの間に直列に接続したインダクタと、
一端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続され、他端がグランドに接続されたキャパシタと
を含む請求項1に記載の方向性結合器。
【請求項3】
一端が前記主線路と前記入力ポートの間に接続され、他端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続されたキャパシタ
を更に備えた請求項1または2に記載の方向性結合器。
【請求項4】
一端が前記主線路と前記入力ポートの間に接続され、他端がグランドに接続されたキャパシタ
を更に備えた請求項1または2に記載の方向性結合器。
【請求項5】
前記ローパスフィルタ部に加え、ローパスフィルタとしての機能を有する別のローパスフィルタ部を前記副線路と前記アイソレーションポートとの間に更に備えた
請求項1に記載の方向性結合器。
【請求項6】
前記副線路と結合ポートとの間に備えたローパスフィルタ部は、
前記副線路と前記結合ポートの間に直列に接続したインダクタと、
一端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続され、他端がグランドに接続されたキャパシタと
を含み、
前記副線路とアイソレーションポートとの間に備えたローパスフィルタ部は、
前記副線路と前記アイソレーションポートの間に直列に接続したインダクタと、
一端が前記副線路と前記アイソレーションポートの間に接続され、他端がグランドに接続されたキャパシタと
を含む
請求項5に記載の方向性結合器。
【請求項7】
一端が前記副線路と前記結合ポートの間に接続され、他端が前記副線路と前記アイソレーションポートとの間に接続されたキャパシタ
を更に備えた請求項5または6に記載の方向性結合器。
【請求項8】
前記副線路と前記結合ポートとの間、および、前記副線路と前記アイソレーションポートとの間、のいずれか一方または双方にアッテネータを接続した
前記請求項1から7のいずれか一項に記載の方向性結合器。
【請求項9】
前記請求項1から8のいずれか一項に記載の方向性結合器を含む無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−30904(P2013−30904A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164362(P2011−164362)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)