方向探知装置
【課題】マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能な方向探知装置を提供する。
【解決手段】今回の測定時の第1段階推定方向D1(N)および1回前の第2段階推定方向D2(N−1)から角度差ΔDを算出し、この角度差ΔDと無線タグまでの推定距離Rとから、無線タグの推定移動距離Bを決定する。その推定移動距離Bの移動可能性に応じた重み係数Wを決定し、推定移動距離Bが、移動可能な距離でない場合には、小さい重み係数Wを決定する。よって、マルチパスの影響により、突然、第1段階推定方向D1(N)が大きく変化し、それにより、推定移動距離Bが大きくなると、重み係数Wは小さい値となる。この重み係数Wを用いて複数回分の第1段階推定方向D1の加重平均を行って第2段階推定方向D2(N)を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができ、精度のよい方向探知が可能となる。
【解決手段】今回の測定時の第1段階推定方向D1(N)および1回前の第2段階推定方向D2(N−1)から角度差ΔDを算出し、この角度差ΔDと無線タグまでの推定距離Rとから、無線タグの推定移動距離Bを決定する。その推定移動距離Bの移動可能性に応じた重み係数Wを決定し、推定移動距離Bが、移動可能な距離でない場合には、小さい重み係数Wを決定する。よって、マルチパスの影響により、突然、第1段階推定方向D1(N)が大きく変化し、それにより、推定移動距離Bが大きくなると、重み係数Wは小さい値となる。この重み係数Wを用いて複数回分の第1段階推定方向D1の加重平均を行って第2段階推定方向D2(N)を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができ、精度のよい方向探知が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグなど、電波を発する発信機の方向を探知する方向探知装置に関し、特に、発信機の方向探知精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発信機からの電波到来方向を探知することで発信機の方向を探知する装置が知られている。電波の到来方向を探知する装置は、基本的には、アンテナの指向性を変化させつつ、各指向性において電波を受信して受信強度を測定し、受信強度の比較に基づいて電波の到来方向を決定している。このような装置として、たとえば、特許文献1、2の装置が知られている。
【0003】
特許文献1の装置では、円の中心に1本のアンテナ、円周上に等間隔に6本のアンテナを配置し、各アンテナにつながったコンデンサの電荷を変化させることで、指向性を変化させ、12方向で電波を受信して方向を探知している。アンテナの指向性と電波の到来方向が合っていると、測定できる電波の強度が大きくなるので、各方向の電波強度を比較し最も強度の大きい方向を電波の到来方向としている。また、特許文献2には、最も大きい受信強度と次に大きい受信強度の差から電波の到来方向を推定することが開示されている。
【0004】
このように発信機の方向を探知する装置を用いて、無線タグなどの発信機を人に携帯させることで、人の位置を把握したいという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3836080号公報
【特許文献2】特許第4232640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発信機を人が携帯する場合、人の移動により発信機を中心とした場合の周囲環境が種々変化することになり、また、人が携帯するため、発信機の向きも種々変化する。これらの要因によって、マルチパスが生じて、直接波よりも強い間接波が検出されることにより、実際には発信機が存在しない方向を、発信機が存在する方向として誤って推定してしまうことがある。なお、実際には発信機が存在しない方向であるにも関わらず、誤って推定してしまった方向、あるいは、その方向に存在する発信機をゴーストという。また、人が携帯していることから、ゴーストの出現方向は常に変化しており、一定ではない。
【0007】
その結果、単純に最も電波強度が強い方向を電波の到来方向と推定したり、また、受信強度と次に大きい受信強度の差から電波の到来方向を推定する方法では、方向推定精度が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能な方向探知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するための請求項1記載の発明は、
指向性を切り替えつつ電波を受信し、受信した電波の強度に基づいて発信機からの電波到来方向を決定することで、発信機の方向を探知する方向探知装置であって、指向性を切り替えつつ、各指向性において受信した電波の受信強度を、指向性とともに記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶されている記憶内容から、各指向性における受信強度を比較して、発信機の推定方向を決定する第1段階方向推定手段と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向、および、過去複数回分の推定方向の加重平均により、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向を修正した第2段階の推定方向を逐次決定する第2段階方向推定手段を備える。
【0010】
その第2段階方向推定手段は、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向と、第2段階方向推定手段で推定した1回前の推定方向との角度差を算出する角度差算出手段と、その角度差算出手段で算出した角度差と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの距離とに基づいて、発信機の推定移動距離を決定する移動距離推定手段と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向に対して、移動距離推定手段で決定した推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定する係数決定手段とを有し、記第1段階方向推定手段で決定した推定方向を最新のものから過去所定数用いるとともに、それら推定方向に対応する重み係数を用いて、加重平均により、第2段階の推定方向を決定する。
【0011】
このように、本発明では、最新の推定方向および1回前の推定方向との角度差と、最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの推定距離とに基づいて、発信機の推定移動距離を決定している。そして、その推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定している。よって、推定移動距離が、移動可能な距離でない場合には、小さい重み係数を決定することになるので、マルチパスの影響により、突然、第1段階方向推定手段による推定方向が大きく変化し、それにより、推定移動距離が移動困難な距離になると、重み係数は小さい値となる。この重み係数を用いて所定数分の推定方向の加重平均を行って第2段階の推定方向を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができる。よって、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能となる。
【0012】
なお、重み係数は、推定移動距離の移動可能性が低いほど、段階的に小さくしてもよいし、また、推定移動距離の移動可能性が低くなるに従って、連続的に小さくしてもよい。
【0013】
請求項2記載の発明では、
前記第1段階方向推定手段は、全体の推定方向範囲を複数領域に分割して、いずれかの領域を前記発信機の推定方向として選択するものであり、
前記発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、前記第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線が不連続境界線に設定されており、この不連続境界線により、前記第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲が複数に区分されて複数の連続領域が設定されており、
前記第1段階方向推定手段で推定した推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、前記発信機が存在する連続領域であるとする第1連続領域決定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向が、どの連続領域に含まれるかを決定する第2連続領域決定手段と、
前記第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、前記第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する領域変化判断手段と、を備え、
前記第2段階方向推定手段は、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数よりも少ない場合には、前記推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして前記第2段階の推定方向を決定し、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数となった場合には、前記推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する。
【0014】
第1段階の推定方向が誤っており、その推定方向へ発信機が移動するためには、壁、塀など、その発信機を携帯する者は通過することができない遮蔽物を通過することになるとしても、推定移動距離の移動可能性に応じて重み係数を決定する場合、推定移動距離が短ければ大きい重み係数を決定してしまう。
【0015】
そこで、請求項2の発明では、発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線を不連続境界線として設定し、この不連続境界線により、第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲を複数の連続領域に区分する。そして、発信機が存在する連続領域を2つの連続領域決定手段(第1連続領域決定手段、第2連続領域決定手段)により別々に決定する。第1連続領域決定手段は、第1段階の推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、発信機が存在する連続領域であるとする。推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれている場合には、発信機が存在する連続領域を誤って推定している可能性は極めて低いので、この連続領域を正しく方向推定したときの連続領域と考える。
【0016】
そして、領域変化判断手段において、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する。第2連続領域決定手段は、第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向のみを用いて連続領域を決定するので、ここで決定する連続領域は誤っている可能性がある。加えて、連続領域は不連続境界線により区分されているのであるから、その不連続境界線の一部に設置された扉等を通過する、あるいは遮蔽物を避けて回りこむなど、限られた経路でしか異なる連続領域へ移動することができない。
【0017】
そこで、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なったとの判断回数がまだ所定回数連続しない場合には、第1段階の推定方向が誤っている可能性を排除できないと考え、推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして第2段階の推定方向を決定する。これにより、不連続境界線を越える現実にはありえない移動となってしまう第1段階の推定方向について、その影響を低くして第2段階の推定方向を決定することができる。
【0018】
さらに、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なったとの判断回数が所定回数連続した場合には、第1段階の推定方向は誤推定ではなかったと考える。そして、推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値にしていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する。つまり、誤推定ではなかったと判断した場合には、重み係数を大きい値に修正して、第2段階の推定方向を再決定することになる。これにより、第1段階の推定方向が正しい方向であるものに対して大きい重み係数を設定して第2段階の推定方向を決定することになる。よって、方向推定精度がより向上する。
【0019】
ここで、上記重み係数決定手段において決定する重み係数の最小値は0であってもよいが、請求項3のように、係数決定手段は、最も小さい重み係数を0よりも大きい値とすることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、仮に、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができるからである。ゴーストの影響を迅速に小さくすることができる理由を以下に説明する。1回目測定時の電波は、マルチパスによる間接波が強いが、2回目以降の電波は、発信機の本来の方向からである場合を想定する。この場合において、2回目の第1段階の推定方向に対する重み係数を0としてしまうと、加重平均により算出する2回目の第2段階の推定方向は、結局、1回目測定時の第1段階の推定方向と同じとなる。また、その結果、さらに、3回目の測定が発信機の本来の方向からの電波であったとしても、加重平均により算出する3回目測定時の第2段階の推定方向も、1回目測定時の第1段階の推定方向と同じとなる可能性もある。特に1回目のゴーストが本来の方向からの差が大きくなるに従って同じとなる傾向が高まる。更に加重平均に使う過去分のデータ数が多いほどやはり1回目のゴーストの影響が残り易く2回目以降の本来の位置の影響が出にくく、1回目と同じ方向になる傾向が高まる。つまり、重み係数0を採用すると、1回目にゴーストが出た場合における本来の位置への制御判断の修正が遅くなる。
【0021】
これに対して、重み係数の最小値を0よりも大きい値とすれば、仮に、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであっても、2回目測定時の電波が、発信機の本来の方向からの電波であれば、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階の推定方向は、1回目測定時の第1段階の推定方向よりは、2回目測定時の第1段階の推定方向に近い方向となる。さらに、3回目測定時の電波が、発信機の本来の方向からの電波であれば、3回目測定時の第2段階の推定方向は、2回目測定時の第2段階の推定方向より、さらに、3回目測定時の第1段階の推定方向に近い方向となる。このように、重み係数の最小値を0よりも大きい値とすれば、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0022】
こういった人の位置方向特定は、その性質上、迅速であることは望まれるが方向はある程度が特定できれば良く、厳密な角度の一致が必要ないことを考えれば、だいたいの方向であっても迅速にゴーストの影響を緩和できる制御方法は、人の位置特定を迅速にできるということに繋がり、本懐を遂げることができると言え、効果的である。
【0023】
さらに、請求項4記載のように、係数決定手段は、第1段階方向推定手段による前回の推定方向が存在しない初回測定時は、推定移動距離の移動可能性が最も高い場合に決定する重み係数よりも、小さい値の重み係数を決定することが好ましい。
【0024】
このようにすれば、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであり、2回目測定時の電波が発信機の本来の方向からの電波である場合に、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階の推定方向を、より、2回目測定時の第1段階の推定方向に近づけることができる。よって、より迅速に、ゴーストの影響を小さくすることができる。
【0025】
また、請求項5記載のように、第2段階方向推定手段は、第1段階方向推定手段で決定し、過去所定数分に含まれる推定方向であっても、所定時間以上経過している場合には、その推定方向は用いずに、第2段階の推定方向を決定することが好ましい。このようにすれば、信頼性の低い古い推定方向を除外して第2段階の推定方向を決定することになるので、第2段階の推定方向の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る無線タグリーダの構成図である。
【図2】本実施形態の無線タグリーダが実行する処理を示すフローチャートである。
【図3】第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】推定移動距離Bを算出する式1の計算内容を説明する図である。
【図6】本実施形態の効果を示す実験結果であって、開始位置が3mの場合である。
【図7】本実施形態の効果を示す実験結果であって、開始位置が8mの場合である。
【図8】家屋の平面形状と無線タグリーダ100の配置との関係の一例を示す図である。
【図9】無線タグリーダ100が第1段階方向推定により無線タグの方位を推定する12領域を示している。
【図10】第2実施形態において無線タグリーダ100を設置する際に行なう処理を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態において図2のステップS7に代えて実行する改良第2段階方向推定処理S100を示すフローチャートである。
【図12】図11を実行することによるシーケンスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の方向探知装置としての機能を備えた無線タグリーダであり、この無線タグリーダは、無線タグ(図示せず)を発信機とし、その無線タグの方向探知を行う。図1は、本実施形態に係る無線タグリーダの構成図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の無線タグリーダは、アンテナ部1、分配器3、復調器4、電力検出回路5、方向探知コンピュータ6を備えている。アンテナ部1は、電子制御導波器アレーアンテナ装置であり、1本の励振素子10と、その励振素子10を中心とする円周上に等間隔に設けられた6本の非励振素子11〜16とを備えている。これらはいずれも直棒形状であり、その長さは、たとえば、いずれも約λ/4となっている。
【0029】
これら励振素子10、非励振素子11〜16は、接地導体17の上に、その接地導体17から絶縁された状態に設けられている。その接地導体17は、励振素子10や非励振素子11〜16に対して十分に大きい広さ(たとえば半径λ/2)を有している。
【0030】
励振素子10の給電点は、同軸ケーブル19を介して分配器3に接続されており、外部の無線タグから送信され励振素子10によって受信された電波を示す受信信号は、分配器3に供給される。
【0031】
非励振素子11〜16には、可変リアクタンス回路18A〜18Fがそれぞれ接続されている。この可変リアクタンス回路18は、電子制御導波器アレーアンテナ装置において一般的に用いられるものと同一の回路であり、たとえば、バイアス電圧が印加されることによってリアクタンス値が変化する可変リアクタンス素子(例えば可変容量ダイオード)を含む回路として構成される。この回路は、高周波的に接地導体17に接続され、方向探知コンピュータ6の後述する可変リアクタンス制御部61によってリアクタンス値が電子的に変化させられる。このリアクタンス値が変化させられることにより、アンテナ部1は指向性が変化する。
【0032】
分配器3は、励振素子10から供給される受信信号を復調器4と電力検出回路5に分配する。復調器4では、分配器3から供給された受信信号から変調情報(搬送波によって搬送されたデジタル情報)を復調する。
【0033】
電力検出回路5は、分配器3から供給された受信信号の電力の大きさ(電力値)を検出する回路である。この電力検出回路5は、無線信号の電力を検出する種々の公知の回路を用いることができ、たとえばダイオード検波器を含む回路構成のものである。この電力検出回路5で検出された電力値(以下、RSSI値)を示すRSSI値信号は図示しないAD変換回路を介して方向探知コンピュータ6の記憶部62に供給される。
【0034】
方向探知コンピュータ6は、CPU、ROM、RAM等(いずれも図示せず)を備えており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに記憶されているプログラムを実行することにより、可変リアクタンス制御部61、方向探知部63として機能する。また、方向探知コンピュータ6は、記憶部62も有している。
【0035】
可変リアクタンス制御部61は、図示しないメモリに記憶されたデジタル電圧値を参照して、内蔵した6個のDA変換器(図示せず)を用いてそのデジタル電圧値をアナログのバイアス電圧値に変換し、このバイアス電圧値をリアクタンス値信号C11(θ)〜C16(θ)として各可変リアクタンス回路18A〜18Fに出力する。上記デジタル電圧値は、予め設定された複数の方向角(本実施形態では、0°から330°まで30°毎)にビームを形成する複数の指向性ビームパターンに対して記憶されている。可変リアクタンス制御部61は、リアクタンス値信号C11(θ)〜C16(θ)を切り替えることにより、指向性ビームパターンを、0°から330°まで30°ずつ順次変化させる指向性変化処理を行う。なお、メモリに記憶されたデジタル電圧値は、実験に基づいて予め求められた値である。
【0036】
記憶部62には、可変リアクタンス制御部61から、設定された指向性(0°から330°まで30°毎)を示す信号が入力されるとともに、電力検出回路5からRSSI値が入力される。記憶部62は、これら指向性とRSSI値とを対応付けて記憶する。この記憶部62が特許請求の範囲の記憶手段に相当する。
【0037】
方向探知部63は、記憶部62に記憶されている記憶内容を用いて無線タグの方向探知を行う。この方向探知部63の処理は、図2を用いて詳しく説明する。図2は、本実施形態の無線タグリーダが実行する処理を示すフローチャートである。次に、この図2を説明する。このフローチャートは、無線タグからの電波を受信できた場合、所定周期(たとえば125ms)毎に実行する。なお、無線タグからの電波を受信できたかどうかは、たとえば、復調器4により復調した信号に基づいて判断し、また、このフローチャートは、無線タグのID毎に実行する。
【0038】
まず、ステップS1では、指向性を設定する。この処理は可変リアクタンス制御部61が行う。設定する指向性は、具体的には、初回の実行時は、所定の初期方向(たとえば0°)であり、2回目以降は、現在の指向性を30°変化させる。
【0039】
続くステップS2では、ステップS1で設定した指向性で電波を受信する。そして、ステップS3では、ステップS2で受信した電波の受信強度を測定する。この受信強度は、具体的には前述のRSSI値であり、ステップS3では、このRSSI値を検出するとともに、検出したRSSI値を、ステップS1で設定した指向性と対応付けて記憶部62に記憶する。
【0040】
続くステップS4では、全方向において受信強度を測定したか否かを判断する。この判断が否定判断であればステップS1へ戻り、肯定判断であればステップS5へ進む。ステップS5は特許請求の範囲の第1段階方向推定手段に相当し、第1段階方向推定処理を行う。この第1段階方向推定処理では、まず、ステップS1〜S4の繰り返しにより記憶部62に記憶した全方向のRSSI値から、最大のRSSI値を決定する。そして、その最大のRSSI値に対応する方向を電波到来方向として推定する。以下、このステップS5で推定した方向を第1段階推定方向D1という。
【0041】
続くステップS6では、ステップS5の推定結果を記憶部62の履歴保存領域に保存する。続くステップS7は、特許請求の範囲の第2段階方向推定手段に相当しており、第2段階方向推定処理を行う。第2段階方向推定処理は、ステップS5で推定した最新の第1段階推定方向D1と過去所定数分の第1段階推定方向D1の加重平均により、最新の第1段階推定方向を修正した第2段階推定方向D2を逐次決定する。この第2段階方向推定処理の詳細は後述する。
【0042】
続くステップS8では、ステップS7で推定した第2段階推定方向D2を出力する。その後、ステップS1へ戻る。
【0043】
次に、ステップS7で実行する第2段階方向推定処理を詳しく説明する。図3は、第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS701では、直前のステップS5で推定した最新の第1段階推定方向D1(N)と、前回の第2段階推定方向D2(N−1)との角度差ΔDを算出する。このステップS701が特許請求の範囲の角度差算出手段に相当する。
【0044】
続くステップS702〜ステップS704は、特許請求の範囲の移動距離推定手段に相当する処理であり、前回測定時から今回測定時までの無線タグの推定移動距離Bを算出する。まず、ステップS702では、ステップS701で算出した角度差ΔDが0か否かを判断する。この判断が肯定判断である場合(角度差ΔDが0である場合)にはステップS704へ進み、否定判断である場合(角度差ΔDが0でない場合)にはステップS703へ進む。
【0045】
ステップS703、S704では、いずれも、前回の方向推定時から今回の方向推定時までの間の推定移動距離Bを算出する。ステップS703では、まず、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)とを比較して、いずれか大きい値を次の計算に用いる推定距離Rに決定する。なお、推定距離R(N)、R(N−1)は、いずれも、RSSI値と距離との予め記憶された関係と、ステップS3で記憶したRSSI値のうち推定距離Rの方向(すなわち、第1段階推定方向)に指向性を向けたときのRSSI値とから決定する。次に、比較の結果により決定した推定距離Rと、ステップS701で算出した角度差ΔDから、下記式(1)により、推定移動距離Bを算出する。
(式1) B=2R×sin(ΔD/2)
図5は、この式1の計算内容を説明する図である。この図において原点Oが無線タグリーダの位置である。この図に示すように、推定移動距離Bは、推定距離Rを斜辺とする直角三角形に近似させて算出する。また、この図の例は、推定距離R(N−1)と推定距離R(N)を比較すると、推定距離R(N−1)の方が長いので、推定距離R(N−1)を斜辺とする直角三角形により推定移動距離Bを算出している。
【0046】
一方のステップS704では、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)との差の絶対値を推定移動距離Bとして算出する。
【0047】
ステップS703またはS704を実行後はステップS705を実行する。ステップS705〜ステップS709は、推定移動距離Bの移動可能性(換言すれば推定移動距離Bの妥当性)に応じた重み係数Wを設定する処理であり、特許請求の範囲の係数決定手段に相当する。まず、ステップS705では、ステップS703またはS704で算出した推定移動距離Bが、2×tよりも小さいか否かを判断する。ここで、tは、測定間隔(s)である。また、「2」は、無線タグは人が携帯するものであり、人の移動速度は、通常、2m/sよりも小さいことに基づく数値である。よって、推定移動距離Bが2×tよりも小さい場合には、その推定移動距離Bを移動できる可能性は高い。この判断が肯定判断である場合にはステップS706へ進み、否定判断である場合にはステップS707へ進む。
【0048】
ステップS706では、重み係数W(N)にweight1を設定する。本実施形態では、weight1〜3の中から選択して重み係数Wを設定するようになっており、このweight1は、weight1〜3の中で最も大きい重み係数である。このステップS706を実行後はステップS710へ進む。
【0049】
推定移動距離Bが2×t以上であった場合に実行するステップS707では、推定移動距離Bが、10×tよりも小さいか否かを判断する。この「10」は、人の移動速度は、速く走っても10m/sは越えないと考えられることに基づく数値である。よって、推定移動距離Bが10×tよりも小さい場合には、ある程度は、その推定移動距離Bを移動できる可能性があると言え、推定移動距離Bが10×t以上である場合には、その推定移動距離Bを移動できる可能性は極めて低いと言える。このステップS707の判断が肯定判断であった場合には、ステップS708へ進み、否定判断であった場合にはステップS709へ進む。
【0050】
ステップS708では、重み係数W(N)に、weight1〜3の中で中間の大きさの値であるweight2を設定する。一方、ステップS709では、重み係数W(N)に、weight1〜3の中で最も小さい値であるweight3を設定する。なお、推定移動距離Bを算出することができない初回の測定時も、ステップS705、ステップS707をともに否定判断して、このステップS709を実行する。すなわち、推定移動距離Bを算出することができない初回の測定時も、最も小さい重み係数Wを設定する。これらステップS708、S709を実行後はステップS710へ進む。
【0051】
ステップS710では、測定回数Nが、加重平均を算出するデータ数Mよりも小さいか否かを判断する。この判断が肯定判断であればステップS711へ進み、否定判断であればステップS712へ進む。
【0052】
ステップS711では、角度合計値SumVおよび重み係数合計値SumWの初期化を行う。一方、ステップS712では、これら角度合計値SumV、重み係数合計値SumWの初期化に加えて、kの初期値(k=N−M)を設定する。
【0053】
続くステップS713以降は図4に示す。ステップS713以降では、加重平均により、第2段階推定方向D2(N)を算出する。まず、ステップS713において、下記式2、3を算出する。なお、下記式2、3において、D1(k)は、図2のステップS5で推定した値であり、W(k)は、図3のステップS705〜S709で決定した値である。
(式2) SumV=SumV+D1(k)+W(k)
(式3) SumW=SumW+W(k)
ステップS714ではkに1を加え、ステップS715へ進む。ステップS715では、kがNを越えたか否かを判断する。この判断が否定判断であればステップS713へ戻り、肯定判断であればステップS716へ進む。
【0054】
ステップS716では、N回目の測定における第2段階推定方向D2(N)を、下記式4から算出する。式4において「mod」は、余りを求める関数であり、式4の右辺は、「SumV/SumW」を360で割った余りを求める式である。
(式4) D2(N)=mod(SumV/SumW,360)
図6、図7は本実施形態の効果を示す実験結果である。図6のデータは、無線タグを携帯した人が、無線タグリーダから60°の方向に3m離れた位置から無線タグリーダに向かって、秒速1m/sでまっすぐ進んだとき結果である。この図6(A)は、この実験において得た第1段階推定方向D1(N)、第2段階推定方向D2(N)を、タグまでの推定距離R、重み係数W、推定移動距離B等とともに示している。図6(B)は、図6(A)の第1段階推定方向D1(N)、第2段階推定方向D2(N)をグラフ化したものである。
【0055】
なお、この図6の実験では、測定間隔tを0.125(s)とし、平均を算出するデータ数Mを4、重み係数W1、W2の境界距離を0.25m、重み係数W2、W3の境界距離を1.25mとし、重み係数W1、W2、W3をそれぞれ8、4、1としている。
【0056】
前述のように、実験は、60°の方向に3m離れた位置から無線タグリーダに向かってまっすぐ進んでいるにも関わらず、図6(B)に示すように、第1段階推定方向D1(N)は、測定回数5、9のところで、マルチパスの影響により方向が急激に変化している。しかしながら、測定回数5、9のときは、推定移動距離Bがそれぞれ2.75(m)、2.79(m)となる結果、重み係数Wがいずれも1に設定される。そのため、第2段階推定方向D2(N)は、測定回数5、9のときも、ほぼ60°の方向となる。
【0057】
図7も図6と同様の実験であり、図6との違いは、図6の実験ではスタート位置が3mであったのに対して図7の実験では8mであることのみである。図7においても、第1段階推定方向D1(N)は、測定回数5、9のところで方向が急激に変化しているが、測定回数5、9のときは、推定移動距離Bがそれぞれ7.78(m)、7.35(m)となる結果、重み係数Wがいずれも1に設定される。そのため、第2段階推定方向D2(N)は、測定回数5、9のときも、ほぼ60°の方向となる。
【0058】
なお、遠い距離からスタートする場合、前述の式1から分かるように、角度差ΔDが同じであっても、算出される推定移動距離Bが長くなり、その結果、重み係数Wが低い値となる。たとえば、7回目、8回目の測定では、角度差ΔDは4.62であり、図6では、測定回数N=7に示されるように、角度差ΔDが4.62であると、重み係数は8となっているが、図7では重み係数Wが4となっている。
【0059】
以上、説明した本実施形態によれば、今回の測定時の第1段階推定方向D1(N)および1回前の第2段階推定方向D2(N−1)から角度差ΔDを算出しており、この角度差ΔDと、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)および前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)との比較から決定した推定距離Rとから、無線タグの推定移動距離Bを決定している。そして、その推定移動距離Bの移動可能性が低いほど小さい重み係数Wを決定している。よって、マルチパスの影響により、突然、第1段階推定方向D1(N)が大きく変化し、それにより、推定移動距離Bが大きくなると、重み係数Wは小さい値となる。この重み係数Wを用いて複数回分の第1段階推定方向D1の加重平均を行って第2段階推定方向D2(N)を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができる。よって、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能となる。
【0060】
さらに、上述の図6、図7の実験では、重み係数Wの最小値を1、つまり、0よりも大きい値としている。このようにすると、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0061】
詳しく説明すると、1回目測定時の電波はマルチパスによる間接波が強いが、2回目測定時の電波は、無線タグの本来の方向からの電波であった場合、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に対する重み係数W(2)は小さい値となる。ここで、この重み係数W(2)を0としてしまうと、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)は、結局、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)と同じとなる。また、その結果、さらに、3回目の測定が無線タグの本来の方向からの電波であったとしても、加重平均により算出する3回目測定時の第2段階推定方向D2(3)も、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)と同じとなる可能性もある。
【0062】
これに対して、重み係数Wの最小値を0よりも大きい値とすれば、仮に、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであっても、2回目測定時の電波が、無線タグの本来の方向からの電波であれば、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)は、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)よりは、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に近い方向となる。さらに、3回目測定時の電波が、無線タグの本来の方向からの電波であれば、3回目測定時の第2段階推定方向D2(3)は、2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)より、さらに、3回目測定時の第1段階推定方向D1(3)に近い方向となる。このように、重み係数Wの最小値を0よりも大きい値とすれば、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0063】
また、図6、図7の実験では、推定移動距離Bを算出することができない初回測定時は、重み係数Wを最も小さい値「1」に設定している。この実験の場合には、初回測定時の推定方向はゴーストではない。しかし、この実験のように、初回測定時の重み係数Wを最も小さい値に設定しておけば、仮に、初回測定時の推定方向がゴーストであり、2回目測定時の電波が無線タグの本来の方向からの電波である場合に、2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)を、より、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に近づけることができる。よって、より迅速に、ゴーストの影響を小さくすることができる。
【0064】
そして、迅速に、ゴーストの影響を小さくできることは、人の位置特定を迅速にできるということに繋がり、本懐を遂げることができると言え、効果的である。
【0065】
(第2実施形態)
第2実施形態では、不連続境界線により区別される複数の連続領域に対してそれぞれ異なるラベル(連続領域ラベル)を設定し、この連続領域ラベルが異なるラベルへと変化した場合に、第2段階方向推定の重み係数をひとまず小さい係数に仮設定し、異なる連続領域ラベルへの移動が確実だと判断できた場合に、仮設定した重み係数を遡及して修正する。
【0066】
まず、連続領域ラベルについて説明する。連続領域ラベルは、不連続境界線により区別される個々の連続領域に対してそれぞれ設定したラベルである。不連続境界線とは、家屋の壁、塀など、人が通ることができない遮蔽物が存在する部分である。異なる連続領域への移動は、壁、塀などの遮蔽物を回りこんで移動するか、あるいは、遮蔽物の一部に扉等の通路が設けられている場合にその通路を通るなど、限られた経路でしか移動できない。
【0067】
図8は、家屋の平面形状と無線タグリーダ100の配置との関係の一例を示す図である。図8において、110は家屋の壁であり、この壁110により家屋内と家屋外とは不連続となっている。そのため、玄関扉112を通る場合以外には、家屋内と家屋外との移動は不可能である。
【0068】
図9は、無線タグリーダ100が第1段階方向推定(図2のS5)により無線タグの方位を推定する12領域を示している。無線タグリーダ100を図8に示す位置に配置した場合、図9における領域1と領域Gとの間には壁部111が存在することから、領域1と領域Gとの間を直接行き来することはできない。そこで、領域1と領域Gとの間は不連続境界線120とする。また、領域5は主として屋外部分であり、領域Aは主として屋内部分である。この領域5の屋外部分と領域Aの屋内部分との間も、玄関扉112を通る以外には行き来することができない。そこで、領域5と領域Aとの間も不連続境界線121としている。
【0069】
図9に示すように、2つの不連続境界線120、121が存在する場合には、無線タグリーダ100が第1段階推定方向D1を決定する領域が2つに分けられる。本実施形態では、この2つを連続領域ラベルにより区別する。連続領域ラベルは、ここではα、βとする。連続領域αには、図9に示す数字領域、領域1〜5が含まれ、連続領域βには、図9に示すアルファベット領域、領域A〜領域Gが含まれる。
【0070】
なお、不連続境界線は、図9に示した具体的位置には限定されない。しかし、後述するように、連続領域ラベルは第1段階推定方向D1から決定する。従って、不連続境界線は、第1段階方向推定において推定する領域の境界上に設定する。
【0071】
第1実施形態で説明したように、無線タグの移動距離の移動可能性を考慮することで、マルチパスの影響を低減することができる。しかし、移動距離だけでは不連続境界線を越える、現実にはありえない移動を排除できない。その理由を図8を用いて説明する。
【0072】
図8において、破線L1は家人の移動線であり、P1、P2はそれぞれ時刻t1、t2における家人の位置である。P2地点において家人が携帯する無線タグの電波が、玄関扉112に反射した場合には、矢印Y1、Y2の経路を通り無線タグリーダ100に受信される。この場合、無線タグリーダ100は、矢印Y2方向から電波を受信するため、第1段階方向推定において、家人の位置をP2−1と判定してしまう恐れがある。しかし、この場合には、移動距離が大きいことから、P2−1に対する重み係数Wが低く設定されて第2段階方向推定が行われるので、マルチパスの影響を低く抑えることができる。
【0073】
また、無線タグの電波が、無線タグリーダ100に近い壁部111に反射して、矢印X1、X2の経路を通り無線タグリーダ100に受信された場合には、無線タグリーダ100は、第1段階方向推定において、家人の位置をP2−2と判定してしまう恐れがある。この場合、P1とP2−2との間の距離が長くないことから、P2−2に対する重み係数Wは低い値に設定されない。つまり、壁部111を越える、実際には移動できない位置P2−2に対して高い重みを設定してしまう恐れがある。
【0074】
そこで、第2実施形態では、第1段階推定方向D1の属する連続領域ラベルが、デフォルトラベルとは異なる場合には、ひとまず、重み係数Wを小さい値に設定する。なお、デフォルトラベルは、その設定時においては、無線タグがほぼ確実に存在していたと考えることができる連続領域を示すラベルである。
【0075】
次に、第2実施形態における方向推定処理をフローチャートを用いて説明する。図10は無線タグリーダ100を設置する際に行なう処理を示すフローチャートである。無線タグリーダ100の設置時には、まず、ステップS11で不連続境界線を設定する。この処理は、図9に例示したように、隣接する領域との間、あるいは、領域内に壁等が存在することにより、隣の領域への移動が制限される場合に、隣の領域との境界線を不連続境界線として設定する処理である。この処理は、設置時に、人による設定操作により行われる。
【0076】
ステップS12では、ステップS11で設定された不連続境界線により全推定範囲を区分して複数の連続領域を設定し、各連続領域にラベル(識別符号)を設定する。このステップS12を実行した後に測定を開始する。
【0077】
測定開始した後に実行する処理は、ステップS7を除き、図2に示した処理と同一である。
【0078】
第2実施形態では、図2のステップS7において、図11に示す改良第2段階方向推定処理S100を実行する。この改良第2段階方向推定処理S100では、まず、ステップS101にて、今回の第1段階方向推定処理(S5)で推定した第1段階推定方向D1(N)が、図10のステップS12でラベリングした連続領域のうちのどの連続領域ラベルに属するかを決定する。そして、その決定した連続領域ラベルを今回の連続領域ラベルとする。
【0079】
続くステップS102では、上記ステップS101で決定した今回の連続領域ラベルがデフォルトの連続領域ラベルと一致するか否かを判断する。この判断がNOである場合、第1段階推定方向D1が異なる連続領域に変化したことになる。この場合、ステップS105へ進む。
【0080】
一方、ステップS102の判断がYESである場合、すなわち、第1段階推定方向D1が属する連続領域が変わらない場合、ステップS103にて、修正カウンタを初期化する。この修正カウンタの意味は後述する。続いて、ステップS104において、図2のステップS7と同じ第2段階方向推定処理を実行し、第2段階推定方向D2を決定する。
【0081】
一方、ステップS102がNOとなった場合には、ステップS105以下を実行する。ステップS105では、修正カウンタが3よりも小さいか否かを判断する。修正カウンタは、ステップS106を実行する毎に「1」ずつ増えるカウンタであり、その次のステップS107で重み係数Wを修正した回数を示すカウンタである。
【0082】
このステップS105がYESの場合には、ステップS106を実行して修正カウンタを+1にする。続くステップS107では、今回の重み係数W(N)として、最も小さい重み係数であるweight3を設定する。本実施形態では、連続領域ラベルがデフォルトラベルと異なった当初は、まずは、マルチパスによるゴーストである可能性があるとして、重み係数Wを小さい値に設定するのである。
【0083】
上記ステップS107は図3のステップS709に対応しており、ステップS107に続くステップS108では、ステップS709を実行した場合と同様、図3のステップS710から図4のステップS716を実行する。これにより、第2段階推定方向D(N)が決定される。なお、ステップS108を実行した場合には、デフォルトラベルの変更はない。
【0084】
デフォルトラベルと今回の連続領域ラベルとが異なった場合(S102がNO)において、修正カウンタが3になっていると(S105がNO)、ステップS109へ進む。よって、今回の重み係数W(N)を低くして(S107)、第2段階推定方向D(N)を決定するのは3回である。ただし、このステップS105の判断、および、その直前のステップS103の判断(デフォルトラベルと今回の領域ラベルとが一致するかの判断)は、修正カウンタを1増やす前に行なっている。よって、ステップS109へ進んだ場合、4回連続して、今回の領域ラベルがデフォルトラベルと異なったことになる。4回連続して今回の領域ラベルがデフォルトラベルと異なった場合、第1段階推定方向D1は誤推定ではなかったと考えられるので、以下の処理を行なう。
【0085】
誤推定の可能性があるとして重み係数Wを低くしていたのは、3回前の測定から前回の測定までの過去3回分である。そこで、3回前から前回までの重み係数Wを、第1実施形態と同じく推定移動距離Bに基づいて設定して第2段階推定方向D2を修正する。また、今回の第2段階推定方向D2(N)も、推定移動距離Bに基づいて重み係数W(N)を設定して推定する。
【0086】
具体的には、まず、3回前の第2段階推定方向D2を修正するために、ステップS109でN=N−3とする。続くステップS110では、図2のステップS7と同じ第2段階方向推定処理を行う。これにより、ステップS108で決定した第2段階推定方向D2を修正することになる。
【0087】
続くステップS111では、修正カウンタが0以下となったか否かを判断する。この判断が否定判断となった場合にはステップS112へ進む。ステップS112では、修正カウンタを「1」減算する。なお、ステップS105がNOとなり、ステップS109を実行した当初は修正カウンタは3である。
【0088】
続くステップS113ではNに1を加算する。ステップS113を実行後はステップS110へ戻る。たとえば、上記ステップS113の処理が初回である場合、Nは実際の測定回数−2となるので、ステップS110へ戻ることにより、2回前の第2段階推定方向D2が修正される。
【0089】
当初、「3」であった修正カウンタは、ステップS112を1回実行する毎に1ずつ減算されるので、修正カウンタが0になった場合、修正カウンタは「3」、「2」、「1」、「0」と変化し、Nは「N−3」、「N−2」、「N−1」、「N」と変化する。よって、過去3回分の第2段階推定方向D2を修正し、さらに、今回の第2段階推定方向D2も決定したことになる。
【0090】
修正カウンタが0となった場合、ステップS111がYESとなりステップS114へ進む。ステップS114では、今回の連続領域ラベルをデフォルトラベルに変更する。これにより、次回は、今回(次回を基準とすると前回)の連続領域ラベルをデフォルトラベルとしてステップS102の判断を行なうことになる。ステップS114を実行したら図11の改良第2段階方向推定処理を終了する。
【0091】
図12は、図11を実行することによるシーケンスを説明する図である。図12に例示したシーケンスは、図11のステップS101で決定した今回の連続領域ラベルがα→β→α→β→β→β→β→βとなった場合における修正カウンタ等の変化を示す。
【0092】
シーケンス1では、デフォルトラベルはαである。また、今回の連続領域ラベルもαである。よって、ステップS102がYESになるので、修正カウンタは0である。シーケンス2でも、デフォルトラベルはαである。一方、今回の連続領域ラベルはβに変化した(つまり、連続領域ラベルが変化する第1段階推定方向D1を推定した)。よって、ステップS102がNOとなり、また、ステップS105はYESとなるのでステップS106の実行により、修正カウンタは1となる。また、ステップS107、S108を実行するので、今回の重み係数W(2)を最小値(weight3)として、第2段階方向推定方向D2を決定する。
【0093】
シーケンス3でも、まだ、デフォルトラベルはαのままである。また、今回の領域ラベルはαに戻っている。よって、ステップS102がYESになり、ステップS103を実行するので、修正カウンタは0に戻る。
【0094】
シーケンス4でも、デフォルトラベルはαである。一方、今回の連続領域ラベルはβに変化した。よって、シーケンス2と同じく、修正カウンタは1、重み係数W(4)はweight3となる。
【0095】
シーケンス5でも、今回の連続領域ラベルは、前回と同様、βである。よって、修正カウンタはさらに1増えて2となり、また、重み係数W(5)はweight3となる。しかし、デフォルトラベルはまだαのままである。
【0096】
シーケンス6でも、今回の連続領域ラベルはβである。よって、修正カウンタはさらに1増えて3となり、また、重み係数W(6)はweight3となる。修正カウンタは3となるのであるが、修正カウンタが3となるのは、ステップS105の判断の後であるので、ステップS114は実行しない。よって、デフォルトラベルはαのままである。
【0097】
シーケンス7でも、今回の連続領域ラベルはβとなった。一方、デフォルトラベルはαなので、ステップS102がNOとなり、ステップS105を実行する。この時点において、修正カウンタは3となっているので、ステップS105がNOとなる。これにより、ステップS109を実行して、Nが3減算されて「4」となる。そして、ステップS110を実行してN=4の第2段階推定方向D2(4)を再計算する。
【0098】
その後、修正カウンタが0となっていないので、ステップS112、S113を実行する。よって、修正カウンタが1減算されて2となる一方、Nは1増えて5となる。その後、ステップS110へ戻り、N=5の第2段階推定方向D2(5)を再計算する。
【0099】
まだ修正カウンタは2なので、再度、ステップS11、S113を実行する。よって、修正カウンタがさらに1減算されて1となり、Nはさらに1増えて6となる。その後、ステップS110へ戻り、N=6の第2段階推定方向D2(6)を再計算する。
【0100】
修正カウンタはまだ1なので、再度、ステップS112、S113を実行する。よって、修正カウンタがさらに1減算される。その結果、修正カウンタは0となる。また、Nはさらに1増えて7となる。つまり、ステップS109での減算前のNに戻る。その後、ステップS110へ戻り、N=7の第2段階推定方向D2(7)を計算する。その次に実行するステップS111では、修正カウンタが0となっているので、ステップS114へ進み、デフォルトラベルをβに変更する。
【0101】
シーケンス8では、今回の領域ラベルはβであるが、デフォルトラベルもβに変更されていることから、修正カウンタは0のままである。
【0102】
以上、説明した本実施形態によれば、遮蔽物の存在に対応して第1段階方向推定処理(図2のS5)における一部の領域の境界線を不連続境界線として設定し(図10のS11)、この不連続境界線により、第1段階方向推定処理における全体の推定方向範囲を複数の連続領域に区分する(図10のS12)。
【0103】
そして、無線タグが存在する連続領域を2つの方法により別々に決定する。1つ目の方法はデフォルトラベルを決定するための方法であり、第1段階推定方向D1が4回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域の連続領域ラベルをデフォルトラベルとする。第1段階推定方向D1が4回数連続して同じ連続領域に含まれている場合には、第1段階推定方向D1が存在する連続領域を誤って推定している可能性は極めて低いので、この連続領域を正しく方向推定したときの連続領域と考え、この連続領域のラベルをデフォルトラベルとしているのである。
【0104】
そして、今回の第1段階推定方向D1(N)から決定した連続領域ラベルが、デフォルトラベルとは異なるか否かを判断する(図11のS101、S102)。S101は、今回の第1段階推定方向D1(N)のみを用いて連続領域ラベルを決定するので、この連続領域ラベルは誤っている可能性がある。加えて、異なる連続領域へは、前述したように、限られた経路でしか移動することができない。
【0105】
そこで、S101で決定した連続領域ラベルがデフォルトラベルとは異なったとの判断回数がまだ所定回数連続しない場合には(S105:YES)、第1段階方向推定D1(N)が誤っている可能性を排除できないと考え、推定移動距離とは無関係に今回の重み係数W(N)を最低値であるweight3に設定し(S107)、第2段階の推定方向を決定している(S108)。これにより、不連続境界線を越える現実にはありえない移動となってしまう第1段階推定方向D1(N)について、その影響を低くして第2段階推定方向D2(N)を決定することができる。
【0106】
さらに、S101で決定した連続領域ラベルがデフォルトラベルとは異なったとの判断回数が所定回数連続した場合には(S105:NO)、第1段階方向推定D1(N)は誤推定ではなかったと考える。そして、推定移動距離とは無関係にweight3としていた重み係数W(N)を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階推定方向D2を再決定する(S109−S113)。つまり、誤推定ではなかったと判断した場合には、重み係数を大きい値に修正して、第2段階の推定方向を再決定することになる。これにより、第1段階推定方向D1が正しい方向であるものに対して大きい重み係数を設定して第2段階推定方向を決定することになる。この処理(S109−S113)によって、方向推定精度がより向上する。
【0107】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0108】
たとえば、前述の実施形態では、過去所定数分以上の第1段階推定方向D1があるときは、必ずそれら過去所定数分の第1段階推定方向D1を用いて第2段階推定方向D2を算出していた。しかし、それら第1段階推定方向D1の測定時点から、予め設定した所定時間以上経過している場合には、その第1段階推定方向D1は用いずに、第2段階推定方向D2を算出するようにしてもよい。このようにすれば、信頼性の低い古い第1段階推定方向D1を除外して第2段階推定方向D2を決定することになるので、第2段階推定方向D2の精度が向上する。
【0109】
また、前述の実施形態では、推定移動距離Bの算出において、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)とを比較して、いずれか大きい値を用いて推定移動距離Bを算出していた。しかし、比較することなく、いずれか一方を用いることを予め決定しておいてもよい。また、両者の平均を用いることにしてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1:アンテナ部、 3:分配器、 4:復調器、 5:電力検出回路、 6:方向探知コンピュータ、 10:励振素子、 11〜16:非励振素子、 17:接地導体、 18:可変リアクタンス回路、 19:同軸ケーブル、 61:可変リアクタンス制御部、 62:記憶部(記憶手段)、 63:方向探知部、 100:無線タグリーダ、 110:壁、 111:壁部、 112:玄関扉、 120:不連続境界線、 121:不連続境界線
B:推定移動距離、 D1:第1段階推定方向、 D2:第2段階推定方向、 ΔD:角度差、 M:平均を算出するデータ数、 N:測定回数、 R:無線タグまでの距離、 W:重み係数、 S5:第1段階方向推定手段、 S7:第2段階方向推定手段、 S101:第1連続領域決定手段、 S102:領域変化判断手段、 S114:第1連続領域決定手段、 S701:角度差算出手段、 S702〜S704:移動距離推定手段、 S705〜S709:係数決定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグなど、電波を発する発信機の方向を探知する方向探知装置に関し、特に、発信機の方向探知精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発信機からの電波到来方向を探知することで発信機の方向を探知する装置が知られている。電波の到来方向を探知する装置は、基本的には、アンテナの指向性を変化させつつ、各指向性において電波を受信して受信強度を測定し、受信強度の比較に基づいて電波の到来方向を決定している。このような装置として、たとえば、特許文献1、2の装置が知られている。
【0003】
特許文献1の装置では、円の中心に1本のアンテナ、円周上に等間隔に6本のアンテナを配置し、各アンテナにつながったコンデンサの電荷を変化させることで、指向性を変化させ、12方向で電波を受信して方向を探知している。アンテナの指向性と電波の到来方向が合っていると、測定できる電波の強度が大きくなるので、各方向の電波強度を比較し最も強度の大きい方向を電波の到来方向としている。また、特許文献2には、最も大きい受信強度と次に大きい受信強度の差から電波の到来方向を推定することが開示されている。
【0004】
このように発信機の方向を探知する装置を用いて、無線タグなどの発信機を人に携帯させることで、人の位置を把握したいという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3836080号公報
【特許文献2】特許第4232640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発信機を人が携帯する場合、人の移動により発信機を中心とした場合の周囲環境が種々変化することになり、また、人が携帯するため、発信機の向きも種々変化する。これらの要因によって、マルチパスが生じて、直接波よりも強い間接波が検出されることにより、実際には発信機が存在しない方向を、発信機が存在する方向として誤って推定してしまうことがある。なお、実際には発信機が存在しない方向であるにも関わらず、誤って推定してしまった方向、あるいは、その方向に存在する発信機をゴーストという。また、人が携帯していることから、ゴーストの出現方向は常に変化しており、一定ではない。
【0007】
その結果、単純に最も電波強度が強い方向を電波の到来方向と推定したり、また、受信強度と次に大きい受信強度の差から電波の到来方向を推定する方法では、方向推定精度が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能な方向探知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するための請求項1記載の発明は、
指向性を切り替えつつ電波を受信し、受信した電波の強度に基づいて発信機からの電波到来方向を決定することで、発信機の方向を探知する方向探知装置であって、指向性を切り替えつつ、各指向性において受信した電波の受信強度を、指向性とともに記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶されている記憶内容から、各指向性における受信強度を比較して、発信機の推定方向を決定する第1段階方向推定手段と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向、および、過去複数回分の推定方向の加重平均により、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向を修正した第2段階の推定方向を逐次決定する第2段階方向推定手段を備える。
【0010】
その第2段階方向推定手段は、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向と、第2段階方向推定手段で推定した1回前の推定方向との角度差を算出する角度差算出手段と、その角度差算出手段で算出した角度差と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの距離とに基づいて、発信機の推定移動距離を決定する移動距離推定手段と、第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向に対して、移動距離推定手段で決定した推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定する係数決定手段とを有し、記第1段階方向推定手段で決定した推定方向を最新のものから過去所定数用いるとともに、それら推定方向に対応する重み係数を用いて、加重平均により、第2段階の推定方向を決定する。
【0011】
このように、本発明では、最新の推定方向および1回前の推定方向との角度差と、最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの推定距離とに基づいて、発信機の推定移動距離を決定している。そして、その推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定している。よって、推定移動距離が、移動可能な距離でない場合には、小さい重み係数を決定することになるので、マルチパスの影響により、突然、第1段階方向推定手段による推定方向が大きく変化し、それにより、推定移動距離が移動困難な距離になると、重み係数は小さい値となる。この重み係数を用いて所定数分の推定方向の加重平均を行って第2段階の推定方向を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができる。よって、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能となる。
【0012】
なお、重み係数は、推定移動距離の移動可能性が低いほど、段階的に小さくしてもよいし、また、推定移動距離の移動可能性が低くなるに従って、連続的に小さくしてもよい。
【0013】
請求項2記載の発明では、
前記第1段階方向推定手段は、全体の推定方向範囲を複数領域に分割して、いずれかの領域を前記発信機の推定方向として選択するものであり、
前記発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、前記第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線が不連続境界線に設定されており、この不連続境界線により、前記第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲が複数に区分されて複数の連続領域が設定されており、
前記第1段階方向推定手段で推定した推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、前記発信機が存在する連続領域であるとする第1連続領域決定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向が、どの連続領域に含まれるかを決定する第2連続領域決定手段と、
前記第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、前記第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する領域変化判断手段と、を備え、
前記第2段階方向推定手段は、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数よりも少ない場合には、前記推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして前記第2段階の推定方向を決定し、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数となった場合には、前記推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する。
【0014】
第1段階の推定方向が誤っており、その推定方向へ発信機が移動するためには、壁、塀など、その発信機を携帯する者は通過することができない遮蔽物を通過することになるとしても、推定移動距離の移動可能性に応じて重み係数を決定する場合、推定移動距離が短ければ大きい重み係数を決定してしまう。
【0015】
そこで、請求項2の発明では、発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線を不連続境界線として設定し、この不連続境界線により、第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲を複数の連続領域に区分する。そして、発信機が存在する連続領域を2つの連続領域決定手段(第1連続領域決定手段、第2連続領域決定手段)により別々に決定する。第1連続領域決定手段は、第1段階の推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、発信機が存在する連続領域であるとする。推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれている場合には、発信機が存在する連続領域を誤って推定している可能性は極めて低いので、この連続領域を正しく方向推定したときの連続領域と考える。
【0016】
そして、領域変化判断手段において、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する。第2連続領域決定手段は、第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向のみを用いて連続領域を決定するので、ここで決定する連続領域は誤っている可能性がある。加えて、連続領域は不連続境界線により区分されているのであるから、その不連続境界線の一部に設置された扉等を通過する、あるいは遮蔽物を避けて回りこむなど、限られた経路でしか異なる連続領域へ移動することができない。
【0017】
そこで、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なったとの判断回数がまだ所定回数連続しない場合には、第1段階の推定方向が誤っている可能性を排除できないと考え、推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして第2段階の推定方向を決定する。これにより、不連続境界線を越える現実にはありえない移動となってしまう第1段階の推定方向について、その影響を低くして第2段階の推定方向を決定することができる。
【0018】
さらに、第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なったとの判断回数が所定回数連続した場合には、第1段階の推定方向は誤推定ではなかったと考える。そして、推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値にしていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する。つまり、誤推定ではなかったと判断した場合には、重み係数を大きい値に修正して、第2段階の推定方向を再決定することになる。これにより、第1段階の推定方向が正しい方向であるものに対して大きい重み係数を設定して第2段階の推定方向を決定することになる。よって、方向推定精度がより向上する。
【0019】
ここで、上記重み係数決定手段において決定する重み係数の最小値は0であってもよいが、請求項3のように、係数決定手段は、最も小さい重み係数を0よりも大きい値とすることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、仮に、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができるからである。ゴーストの影響を迅速に小さくすることができる理由を以下に説明する。1回目測定時の電波は、マルチパスによる間接波が強いが、2回目以降の電波は、発信機の本来の方向からである場合を想定する。この場合において、2回目の第1段階の推定方向に対する重み係数を0としてしまうと、加重平均により算出する2回目の第2段階の推定方向は、結局、1回目測定時の第1段階の推定方向と同じとなる。また、その結果、さらに、3回目の測定が発信機の本来の方向からの電波であったとしても、加重平均により算出する3回目測定時の第2段階の推定方向も、1回目測定時の第1段階の推定方向と同じとなる可能性もある。特に1回目のゴーストが本来の方向からの差が大きくなるに従って同じとなる傾向が高まる。更に加重平均に使う過去分のデータ数が多いほどやはり1回目のゴーストの影響が残り易く2回目以降の本来の位置の影響が出にくく、1回目と同じ方向になる傾向が高まる。つまり、重み係数0を採用すると、1回目にゴーストが出た場合における本来の位置への制御判断の修正が遅くなる。
【0021】
これに対して、重み係数の最小値を0よりも大きい値とすれば、仮に、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであっても、2回目測定時の電波が、発信機の本来の方向からの電波であれば、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階の推定方向は、1回目測定時の第1段階の推定方向よりは、2回目測定時の第1段階の推定方向に近い方向となる。さらに、3回目測定時の電波が、発信機の本来の方向からの電波であれば、3回目測定時の第2段階の推定方向は、2回目測定時の第2段階の推定方向より、さらに、3回目測定時の第1段階の推定方向に近い方向となる。このように、重み係数の最小値を0よりも大きい値とすれば、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0022】
こういった人の位置方向特定は、その性質上、迅速であることは望まれるが方向はある程度が特定できれば良く、厳密な角度の一致が必要ないことを考えれば、だいたいの方向であっても迅速にゴーストの影響を緩和できる制御方法は、人の位置特定を迅速にできるということに繋がり、本懐を遂げることができると言え、効果的である。
【0023】
さらに、請求項4記載のように、係数決定手段は、第1段階方向推定手段による前回の推定方向が存在しない初回測定時は、推定移動距離の移動可能性が最も高い場合に決定する重み係数よりも、小さい値の重み係数を決定することが好ましい。
【0024】
このようにすれば、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであり、2回目測定時の電波が発信機の本来の方向からの電波である場合に、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階の推定方向を、より、2回目測定時の第1段階の推定方向に近づけることができる。よって、より迅速に、ゴーストの影響を小さくすることができる。
【0025】
また、請求項5記載のように、第2段階方向推定手段は、第1段階方向推定手段で決定し、過去所定数分に含まれる推定方向であっても、所定時間以上経過している場合には、その推定方向は用いずに、第2段階の推定方向を決定することが好ましい。このようにすれば、信頼性の低い古い推定方向を除外して第2段階の推定方向を決定することになるので、第2段階の推定方向の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る無線タグリーダの構成図である。
【図2】本実施形態の無線タグリーダが実行する処理を示すフローチャートである。
【図3】第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】推定移動距離Bを算出する式1の計算内容を説明する図である。
【図6】本実施形態の効果を示す実験結果であって、開始位置が3mの場合である。
【図7】本実施形態の効果を示す実験結果であって、開始位置が8mの場合である。
【図8】家屋の平面形状と無線タグリーダ100の配置との関係の一例を示す図である。
【図9】無線タグリーダ100が第1段階方向推定により無線タグの方位を推定する12領域を示している。
【図10】第2実施形態において無線タグリーダ100を設置する際に行なう処理を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態において図2のステップS7に代えて実行する改良第2段階方向推定処理S100を示すフローチャートである。
【図12】図11を実行することによるシーケンスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の方向探知装置としての機能を備えた無線タグリーダであり、この無線タグリーダは、無線タグ(図示せず)を発信機とし、その無線タグの方向探知を行う。図1は、本実施形態に係る無線タグリーダの構成図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の無線タグリーダは、アンテナ部1、分配器3、復調器4、電力検出回路5、方向探知コンピュータ6を備えている。アンテナ部1は、電子制御導波器アレーアンテナ装置であり、1本の励振素子10と、その励振素子10を中心とする円周上に等間隔に設けられた6本の非励振素子11〜16とを備えている。これらはいずれも直棒形状であり、その長さは、たとえば、いずれも約λ/4となっている。
【0029】
これら励振素子10、非励振素子11〜16は、接地導体17の上に、その接地導体17から絶縁された状態に設けられている。その接地導体17は、励振素子10や非励振素子11〜16に対して十分に大きい広さ(たとえば半径λ/2)を有している。
【0030】
励振素子10の給電点は、同軸ケーブル19を介して分配器3に接続されており、外部の無線タグから送信され励振素子10によって受信された電波を示す受信信号は、分配器3に供給される。
【0031】
非励振素子11〜16には、可変リアクタンス回路18A〜18Fがそれぞれ接続されている。この可変リアクタンス回路18は、電子制御導波器アレーアンテナ装置において一般的に用いられるものと同一の回路であり、たとえば、バイアス電圧が印加されることによってリアクタンス値が変化する可変リアクタンス素子(例えば可変容量ダイオード)を含む回路として構成される。この回路は、高周波的に接地導体17に接続され、方向探知コンピュータ6の後述する可変リアクタンス制御部61によってリアクタンス値が電子的に変化させられる。このリアクタンス値が変化させられることにより、アンテナ部1は指向性が変化する。
【0032】
分配器3は、励振素子10から供給される受信信号を復調器4と電力検出回路5に分配する。復調器4では、分配器3から供給された受信信号から変調情報(搬送波によって搬送されたデジタル情報)を復調する。
【0033】
電力検出回路5は、分配器3から供給された受信信号の電力の大きさ(電力値)を検出する回路である。この電力検出回路5は、無線信号の電力を検出する種々の公知の回路を用いることができ、たとえばダイオード検波器を含む回路構成のものである。この電力検出回路5で検出された電力値(以下、RSSI値)を示すRSSI値信号は図示しないAD変換回路を介して方向探知コンピュータ6の記憶部62に供給される。
【0034】
方向探知コンピュータ6は、CPU、ROM、RAM等(いずれも図示せず)を備えており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに記憶されているプログラムを実行することにより、可変リアクタンス制御部61、方向探知部63として機能する。また、方向探知コンピュータ6は、記憶部62も有している。
【0035】
可変リアクタンス制御部61は、図示しないメモリに記憶されたデジタル電圧値を参照して、内蔵した6個のDA変換器(図示せず)を用いてそのデジタル電圧値をアナログのバイアス電圧値に変換し、このバイアス電圧値をリアクタンス値信号C11(θ)〜C16(θ)として各可変リアクタンス回路18A〜18Fに出力する。上記デジタル電圧値は、予め設定された複数の方向角(本実施形態では、0°から330°まで30°毎)にビームを形成する複数の指向性ビームパターンに対して記憶されている。可変リアクタンス制御部61は、リアクタンス値信号C11(θ)〜C16(θ)を切り替えることにより、指向性ビームパターンを、0°から330°まで30°ずつ順次変化させる指向性変化処理を行う。なお、メモリに記憶されたデジタル電圧値は、実験に基づいて予め求められた値である。
【0036】
記憶部62には、可変リアクタンス制御部61から、設定された指向性(0°から330°まで30°毎)を示す信号が入力されるとともに、電力検出回路5からRSSI値が入力される。記憶部62は、これら指向性とRSSI値とを対応付けて記憶する。この記憶部62が特許請求の範囲の記憶手段に相当する。
【0037】
方向探知部63は、記憶部62に記憶されている記憶内容を用いて無線タグの方向探知を行う。この方向探知部63の処理は、図2を用いて詳しく説明する。図2は、本実施形態の無線タグリーダが実行する処理を示すフローチャートである。次に、この図2を説明する。このフローチャートは、無線タグからの電波を受信できた場合、所定周期(たとえば125ms)毎に実行する。なお、無線タグからの電波を受信できたかどうかは、たとえば、復調器4により復調した信号に基づいて判断し、また、このフローチャートは、無線タグのID毎に実行する。
【0038】
まず、ステップS1では、指向性を設定する。この処理は可変リアクタンス制御部61が行う。設定する指向性は、具体的には、初回の実行時は、所定の初期方向(たとえば0°)であり、2回目以降は、現在の指向性を30°変化させる。
【0039】
続くステップS2では、ステップS1で設定した指向性で電波を受信する。そして、ステップS3では、ステップS2で受信した電波の受信強度を測定する。この受信強度は、具体的には前述のRSSI値であり、ステップS3では、このRSSI値を検出するとともに、検出したRSSI値を、ステップS1で設定した指向性と対応付けて記憶部62に記憶する。
【0040】
続くステップS4では、全方向において受信強度を測定したか否かを判断する。この判断が否定判断であればステップS1へ戻り、肯定判断であればステップS5へ進む。ステップS5は特許請求の範囲の第1段階方向推定手段に相当し、第1段階方向推定処理を行う。この第1段階方向推定処理では、まず、ステップS1〜S4の繰り返しにより記憶部62に記憶した全方向のRSSI値から、最大のRSSI値を決定する。そして、その最大のRSSI値に対応する方向を電波到来方向として推定する。以下、このステップS5で推定した方向を第1段階推定方向D1という。
【0041】
続くステップS6では、ステップS5の推定結果を記憶部62の履歴保存領域に保存する。続くステップS7は、特許請求の範囲の第2段階方向推定手段に相当しており、第2段階方向推定処理を行う。第2段階方向推定処理は、ステップS5で推定した最新の第1段階推定方向D1と過去所定数分の第1段階推定方向D1の加重平均により、最新の第1段階推定方向を修正した第2段階推定方向D2を逐次決定する。この第2段階方向推定処理の詳細は後述する。
【0042】
続くステップS8では、ステップS7で推定した第2段階推定方向D2を出力する。その後、ステップS1へ戻る。
【0043】
次に、ステップS7で実行する第2段階方向推定処理を詳しく説明する。図3は、第2段階方向推定処理の詳細を示すフローチャートである。まず、ステップS701では、直前のステップS5で推定した最新の第1段階推定方向D1(N)と、前回の第2段階推定方向D2(N−1)との角度差ΔDを算出する。このステップS701が特許請求の範囲の角度差算出手段に相当する。
【0044】
続くステップS702〜ステップS704は、特許請求の範囲の移動距離推定手段に相当する処理であり、前回測定時から今回測定時までの無線タグの推定移動距離Bを算出する。まず、ステップS702では、ステップS701で算出した角度差ΔDが0か否かを判断する。この判断が肯定判断である場合(角度差ΔDが0である場合)にはステップS704へ進み、否定判断である場合(角度差ΔDが0でない場合)にはステップS703へ進む。
【0045】
ステップS703、S704では、いずれも、前回の方向推定時から今回の方向推定時までの間の推定移動距離Bを算出する。ステップS703では、まず、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)とを比較して、いずれか大きい値を次の計算に用いる推定距離Rに決定する。なお、推定距離R(N)、R(N−1)は、いずれも、RSSI値と距離との予め記憶された関係と、ステップS3で記憶したRSSI値のうち推定距離Rの方向(すなわち、第1段階推定方向)に指向性を向けたときのRSSI値とから決定する。次に、比較の結果により決定した推定距離Rと、ステップS701で算出した角度差ΔDから、下記式(1)により、推定移動距離Bを算出する。
(式1) B=2R×sin(ΔD/2)
図5は、この式1の計算内容を説明する図である。この図において原点Oが無線タグリーダの位置である。この図に示すように、推定移動距離Bは、推定距離Rを斜辺とする直角三角形に近似させて算出する。また、この図の例は、推定距離R(N−1)と推定距離R(N)を比較すると、推定距離R(N−1)の方が長いので、推定距離R(N−1)を斜辺とする直角三角形により推定移動距離Bを算出している。
【0046】
一方のステップS704では、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)との差の絶対値を推定移動距離Bとして算出する。
【0047】
ステップS703またはS704を実行後はステップS705を実行する。ステップS705〜ステップS709は、推定移動距離Bの移動可能性(換言すれば推定移動距離Bの妥当性)に応じた重み係数Wを設定する処理であり、特許請求の範囲の係数決定手段に相当する。まず、ステップS705では、ステップS703またはS704で算出した推定移動距離Bが、2×tよりも小さいか否かを判断する。ここで、tは、測定間隔(s)である。また、「2」は、無線タグは人が携帯するものであり、人の移動速度は、通常、2m/sよりも小さいことに基づく数値である。よって、推定移動距離Bが2×tよりも小さい場合には、その推定移動距離Bを移動できる可能性は高い。この判断が肯定判断である場合にはステップS706へ進み、否定判断である場合にはステップS707へ進む。
【0048】
ステップS706では、重み係数W(N)にweight1を設定する。本実施形態では、weight1〜3の中から選択して重み係数Wを設定するようになっており、このweight1は、weight1〜3の中で最も大きい重み係数である。このステップS706を実行後はステップS710へ進む。
【0049】
推定移動距離Bが2×t以上であった場合に実行するステップS707では、推定移動距離Bが、10×tよりも小さいか否かを判断する。この「10」は、人の移動速度は、速く走っても10m/sは越えないと考えられることに基づく数値である。よって、推定移動距離Bが10×tよりも小さい場合には、ある程度は、その推定移動距離Bを移動できる可能性があると言え、推定移動距離Bが10×t以上である場合には、その推定移動距離Bを移動できる可能性は極めて低いと言える。このステップS707の判断が肯定判断であった場合には、ステップS708へ進み、否定判断であった場合にはステップS709へ進む。
【0050】
ステップS708では、重み係数W(N)に、weight1〜3の中で中間の大きさの値であるweight2を設定する。一方、ステップS709では、重み係数W(N)に、weight1〜3の中で最も小さい値であるweight3を設定する。なお、推定移動距離Bを算出することができない初回の測定時も、ステップS705、ステップS707をともに否定判断して、このステップS709を実行する。すなわち、推定移動距離Bを算出することができない初回の測定時も、最も小さい重み係数Wを設定する。これらステップS708、S709を実行後はステップS710へ進む。
【0051】
ステップS710では、測定回数Nが、加重平均を算出するデータ数Mよりも小さいか否かを判断する。この判断が肯定判断であればステップS711へ進み、否定判断であればステップS712へ進む。
【0052】
ステップS711では、角度合計値SumVおよび重み係数合計値SumWの初期化を行う。一方、ステップS712では、これら角度合計値SumV、重み係数合計値SumWの初期化に加えて、kの初期値(k=N−M)を設定する。
【0053】
続くステップS713以降は図4に示す。ステップS713以降では、加重平均により、第2段階推定方向D2(N)を算出する。まず、ステップS713において、下記式2、3を算出する。なお、下記式2、3において、D1(k)は、図2のステップS5で推定した値であり、W(k)は、図3のステップS705〜S709で決定した値である。
(式2) SumV=SumV+D1(k)+W(k)
(式3) SumW=SumW+W(k)
ステップS714ではkに1を加え、ステップS715へ進む。ステップS715では、kがNを越えたか否かを判断する。この判断が否定判断であればステップS713へ戻り、肯定判断であればステップS716へ進む。
【0054】
ステップS716では、N回目の測定における第2段階推定方向D2(N)を、下記式4から算出する。式4において「mod」は、余りを求める関数であり、式4の右辺は、「SumV/SumW」を360で割った余りを求める式である。
(式4) D2(N)=mod(SumV/SumW,360)
図6、図7は本実施形態の効果を示す実験結果である。図6のデータは、無線タグを携帯した人が、無線タグリーダから60°の方向に3m離れた位置から無線タグリーダに向かって、秒速1m/sでまっすぐ進んだとき結果である。この図6(A)は、この実験において得た第1段階推定方向D1(N)、第2段階推定方向D2(N)を、タグまでの推定距離R、重み係数W、推定移動距離B等とともに示している。図6(B)は、図6(A)の第1段階推定方向D1(N)、第2段階推定方向D2(N)をグラフ化したものである。
【0055】
なお、この図6の実験では、測定間隔tを0.125(s)とし、平均を算出するデータ数Mを4、重み係数W1、W2の境界距離を0.25m、重み係数W2、W3の境界距離を1.25mとし、重み係数W1、W2、W3をそれぞれ8、4、1としている。
【0056】
前述のように、実験は、60°の方向に3m離れた位置から無線タグリーダに向かってまっすぐ進んでいるにも関わらず、図6(B)に示すように、第1段階推定方向D1(N)は、測定回数5、9のところで、マルチパスの影響により方向が急激に変化している。しかしながら、測定回数5、9のときは、推定移動距離Bがそれぞれ2.75(m)、2.79(m)となる結果、重み係数Wがいずれも1に設定される。そのため、第2段階推定方向D2(N)は、測定回数5、9のときも、ほぼ60°の方向となる。
【0057】
図7も図6と同様の実験であり、図6との違いは、図6の実験ではスタート位置が3mであったのに対して図7の実験では8mであることのみである。図7においても、第1段階推定方向D1(N)は、測定回数5、9のところで方向が急激に変化しているが、測定回数5、9のときは、推定移動距離Bがそれぞれ7.78(m)、7.35(m)となる結果、重み係数Wがいずれも1に設定される。そのため、第2段階推定方向D2(N)は、測定回数5、9のときも、ほぼ60°の方向となる。
【0058】
なお、遠い距離からスタートする場合、前述の式1から分かるように、角度差ΔDが同じであっても、算出される推定移動距離Bが長くなり、その結果、重み係数Wが低い値となる。たとえば、7回目、8回目の測定では、角度差ΔDは4.62であり、図6では、測定回数N=7に示されるように、角度差ΔDが4.62であると、重み係数は8となっているが、図7では重み係数Wが4となっている。
【0059】
以上、説明した本実施形態によれば、今回の測定時の第1段階推定方向D1(N)および1回前の第2段階推定方向D2(N−1)から角度差ΔDを算出しており、この角度差ΔDと、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)および前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)との比較から決定した推定距離Rとから、無線タグの推定移動距離Bを決定している。そして、その推定移動距離Bの移動可能性が低いほど小さい重み係数Wを決定している。よって、マルチパスの影響により、突然、第1段階推定方向D1(N)が大きく変化し、それにより、推定移動距離Bが大きくなると、重み係数Wは小さい値となる。この重み係数Wを用いて複数回分の第1段階推定方向D1の加重平均を行って第2段階推定方向D2(N)を決定することから、マルチパスの影響を抑えることができる。よって、マルチパスが生じる状況であったとしても、精度のよい方向探知が可能となる。
【0060】
さらに、上述の図6、図7の実験では、重み係数Wの最小値を1、つまり、0よりも大きい値としている。このようにすると、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0061】
詳しく説明すると、1回目測定時の電波はマルチパスによる間接波が強いが、2回目測定時の電波は、無線タグの本来の方向からの電波であった場合、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に対する重み係数W(2)は小さい値となる。ここで、この重み係数W(2)を0としてしまうと、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)は、結局、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)と同じとなる。また、その結果、さらに、3回目の測定が無線タグの本来の方向からの電波であったとしても、加重平均により算出する3回目測定時の第2段階推定方向D2(3)も、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)と同じとなる可能性もある。
【0062】
これに対して、重み係数Wの最小値を0よりも大きい値とすれば、仮に、1回目測定時の電波がマルチパスによるものであっても、2回目測定時の電波が、無線タグの本来の方向からの電波であれば、加重平均により算出する2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)は、1回目測定時の第1段階推定方向D1(1)よりは、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に近い方向となる。さらに、3回目測定時の電波が、無線タグの本来の方向からの電波であれば、3回目測定時の第2段階推定方向D2(3)は、2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)より、さらに、3回目測定時の第1段階推定方向D1(3)に近い方向となる。このように、重み係数Wの最小値を0よりも大きい値とすれば、1回目測定時の推定方向が、マルチパスの影響によるゴーストであったとしても、そのゴーストの影響を迅速に小さくすることができる。
【0063】
また、図6、図7の実験では、推定移動距離Bを算出することができない初回測定時は、重み係数Wを最も小さい値「1」に設定している。この実験の場合には、初回測定時の推定方向はゴーストではない。しかし、この実験のように、初回測定時の重み係数Wを最も小さい値に設定しておけば、仮に、初回測定時の推定方向がゴーストであり、2回目測定時の電波が無線タグの本来の方向からの電波である場合に、2回目測定時の第2段階推定方向D2(2)を、より、2回目測定時の第1段階推定方向D1(2)に近づけることができる。よって、より迅速に、ゴーストの影響を小さくすることができる。
【0064】
そして、迅速に、ゴーストの影響を小さくできることは、人の位置特定を迅速にできるということに繋がり、本懐を遂げることができると言え、効果的である。
【0065】
(第2実施形態)
第2実施形態では、不連続境界線により区別される複数の連続領域に対してそれぞれ異なるラベル(連続領域ラベル)を設定し、この連続領域ラベルが異なるラベルへと変化した場合に、第2段階方向推定の重み係数をひとまず小さい係数に仮設定し、異なる連続領域ラベルへの移動が確実だと判断できた場合に、仮設定した重み係数を遡及して修正する。
【0066】
まず、連続領域ラベルについて説明する。連続領域ラベルは、不連続境界線により区別される個々の連続領域に対してそれぞれ設定したラベルである。不連続境界線とは、家屋の壁、塀など、人が通ることができない遮蔽物が存在する部分である。異なる連続領域への移動は、壁、塀などの遮蔽物を回りこんで移動するか、あるいは、遮蔽物の一部に扉等の通路が設けられている場合にその通路を通るなど、限られた経路でしか移動できない。
【0067】
図8は、家屋の平面形状と無線タグリーダ100の配置との関係の一例を示す図である。図8において、110は家屋の壁であり、この壁110により家屋内と家屋外とは不連続となっている。そのため、玄関扉112を通る場合以外には、家屋内と家屋外との移動は不可能である。
【0068】
図9は、無線タグリーダ100が第1段階方向推定(図2のS5)により無線タグの方位を推定する12領域を示している。無線タグリーダ100を図8に示す位置に配置した場合、図9における領域1と領域Gとの間には壁部111が存在することから、領域1と領域Gとの間を直接行き来することはできない。そこで、領域1と領域Gとの間は不連続境界線120とする。また、領域5は主として屋外部分であり、領域Aは主として屋内部分である。この領域5の屋外部分と領域Aの屋内部分との間も、玄関扉112を通る以外には行き来することができない。そこで、領域5と領域Aとの間も不連続境界線121としている。
【0069】
図9に示すように、2つの不連続境界線120、121が存在する場合には、無線タグリーダ100が第1段階推定方向D1を決定する領域が2つに分けられる。本実施形態では、この2つを連続領域ラベルにより区別する。連続領域ラベルは、ここではα、βとする。連続領域αには、図9に示す数字領域、領域1〜5が含まれ、連続領域βには、図9に示すアルファベット領域、領域A〜領域Gが含まれる。
【0070】
なお、不連続境界線は、図9に示した具体的位置には限定されない。しかし、後述するように、連続領域ラベルは第1段階推定方向D1から決定する。従って、不連続境界線は、第1段階方向推定において推定する領域の境界上に設定する。
【0071】
第1実施形態で説明したように、無線タグの移動距離の移動可能性を考慮することで、マルチパスの影響を低減することができる。しかし、移動距離だけでは不連続境界線を越える、現実にはありえない移動を排除できない。その理由を図8を用いて説明する。
【0072】
図8において、破線L1は家人の移動線であり、P1、P2はそれぞれ時刻t1、t2における家人の位置である。P2地点において家人が携帯する無線タグの電波が、玄関扉112に反射した場合には、矢印Y1、Y2の経路を通り無線タグリーダ100に受信される。この場合、無線タグリーダ100は、矢印Y2方向から電波を受信するため、第1段階方向推定において、家人の位置をP2−1と判定してしまう恐れがある。しかし、この場合には、移動距離が大きいことから、P2−1に対する重み係数Wが低く設定されて第2段階方向推定が行われるので、マルチパスの影響を低く抑えることができる。
【0073】
また、無線タグの電波が、無線タグリーダ100に近い壁部111に反射して、矢印X1、X2の経路を通り無線タグリーダ100に受信された場合には、無線タグリーダ100は、第1段階方向推定において、家人の位置をP2−2と判定してしまう恐れがある。この場合、P1とP2−2との間の距離が長くないことから、P2−2に対する重み係数Wは低い値に設定されない。つまり、壁部111を越える、実際には移動できない位置P2−2に対して高い重みを設定してしまう恐れがある。
【0074】
そこで、第2実施形態では、第1段階推定方向D1の属する連続領域ラベルが、デフォルトラベルとは異なる場合には、ひとまず、重み係数Wを小さい値に設定する。なお、デフォルトラベルは、その設定時においては、無線タグがほぼ確実に存在していたと考えることができる連続領域を示すラベルである。
【0075】
次に、第2実施形態における方向推定処理をフローチャートを用いて説明する。図10は無線タグリーダ100を設置する際に行なう処理を示すフローチャートである。無線タグリーダ100の設置時には、まず、ステップS11で不連続境界線を設定する。この処理は、図9に例示したように、隣接する領域との間、あるいは、領域内に壁等が存在することにより、隣の領域への移動が制限される場合に、隣の領域との境界線を不連続境界線として設定する処理である。この処理は、設置時に、人による設定操作により行われる。
【0076】
ステップS12では、ステップS11で設定された不連続境界線により全推定範囲を区分して複数の連続領域を設定し、各連続領域にラベル(識別符号)を設定する。このステップS12を実行した後に測定を開始する。
【0077】
測定開始した後に実行する処理は、ステップS7を除き、図2に示した処理と同一である。
【0078】
第2実施形態では、図2のステップS7において、図11に示す改良第2段階方向推定処理S100を実行する。この改良第2段階方向推定処理S100では、まず、ステップS101にて、今回の第1段階方向推定処理(S5)で推定した第1段階推定方向D1(N)が、図10のステップS12でラベリングした連続領域のうちのどの連続領域ラベルに属するかを決定する。そして、その決定した連続領域ラベルを今回の連続領域ラベルとする。
【0079】
続くステップS102では、上記ステップS101で決定した今回の連続領域ラベルがデフォルトの連続領域ラベルと一致するか否かを判断する。この判断がNOである場合、第1段階推定方向D1が異なる連続領域に変化したことになる。この場合、ステップS105へ進む。
【0080】
一方、ステップS102の判断がYESである場合、すなわち、第1段階推定方向D1が属する連続領域が変わらない場合、ステップS103にて、修正カウンタを初期化する。この修正カウンタの意味は後述する。続いて、ステップS104において、図2のステップS7と同じ第2段階方向推定処理を実行し、第2段階推定方向D2を決定する。
【0081】
一方、ステップS102がNOとなった場合には、ステップS105以下を実行する。ステップS105では、修正カウンタが3よりも小さいか否かを判断する。修正カウンタは、ステップS106を実行する毎に「1」ずつ増えるカウンタであり、その次のステップS107で重み係数Wを修正した回数を示すカウンタである。
【0082】
このステップS105がYESの場合には、ステップS106を実行して修正カウンタを+1にする。続くステップS107では、今回の重み係数W(N)として、最も小さい重み係数であるweight3を設定する。本実施形態では、連続領域ラベルがデフォルトラベルと異なった当初は、まずは、マルチパスによるゴーストである可能性があるとして、重み係数Wを小さい値に設定するのである。
【0083】
上記ステップS107は図3のステップS709に対応しており、ステップS107に続くステップS108では、ステップS709を実行した場合と同様、図3のステップS710から図4のステップS716を実行する。これにより、第2段階推定方向D(N)が決定される。なお、ステップS108を実行した場合には、デフォルトラベルの変更はない。
【0084】
デフォルトラベルと今回の連続領域ラベルとが異なった場合(S102がNO)において、修正カウンタが3になっていると(S105がNO)、ステップS109へ進む。よって、今回の重み係数W(N)を低くして(S107)、第2段階推定方向D(N)を決定するのは3回である。ただし、このステップS105の判断、および、その直前のステップS103の判断(デフォルトラベルと今回の領域ラベルとが一致するかの判断)は、修正カウンタを1増やす前に行なっている。よって、ステップS109へ進んだ場合、4回連続して、今回の領域ラベルがデフォルトラベルと異なったことになる。4回連続して今回の領域ラベルがデフォルトラベルと異なった場合、第1段階推定方向D1は誤推定ではなかったと考えられるので、以下の処理を行なう。
【0085】
誤推定の可能性があるとして重み係数Wを低くしていたのは、3回前の測定から前回の測定までの過去3回分である。そこで、3回前から前回までの重み係数Wを、第1実施形態と同じく推定移動距離Bに基づいて設定して第2段階推定方向D2を修正する。また、今回の第2段階推定方向D2(N)も、推定移動距離Bに基づいて重み係数W(N)を設定して推定する。
【0086】
具体的には、まず、3回前の第2段階推定方向D2を修正するために、ステップS109でN=N−3とする。続くステップS110では、図2のステップS7と同じ第2段階方向推定処理を行う。これにより、ステップS108で決定した第2段階推定方向D2を修正することになる。
【0087】
続くステップS111では、修正カウンタが0以下となったか否かを判断する。この判断が否定判断となった場合にはステップS112へ進む。ステップS112では、修正カウンタを「1」減算する。なお、ステップS105がNOとなり、ステップS109を実行した当初は修正カウンタは3である。
【0088】
続くステップS113ではNに1を加算する。ステップS113を実行後はステップS110へ戻る。たとえば、上記ステップS113の処理が初回である場合、Nは実際の測定回数−2となるので、ステップS110へ戻ることにより、2回前の第2段階推定方向D2が修正される。
【0089】
当初、「3」であった修正カウンタは、ステップS112を1回実行する毎に1ずつ減算されるので、修正カウンタが0になった場合、修正カウンタは「3」、「2」、「1」、「0」と変化し、Nは「N−3」、「N−2」、「N−1」、「N」と変化する。よって、過去3回分の第2段階推定方向D2を修正し、さらに、今回の第2段階推定方向D2も決定したことになる。
【0090】
修正カウンタが0となった場合、ステップS111がYESとなりステップS114へ進む。ステップS114では、今回の連続領域ラベルをデフォルトラベルに変更する。これにより、次回は、今回(次回を基準とすると前回)の連続領域ラベルをデフォルトラベルとしてステップS102の判断を行なうことになる。ステップS114を実行したら図11の改良第2段階方向推定処理を終了する。
【0091】
図12は、図11を実行することによるシーケンスを説明する図である。図12に例示したシーケンスは、図11のステップS101で決定した今回の連続領域ラベルがα→β→α→β→β→β→β→βとなった場合における修正カウンタ等の変化を示す。
【0092】
シーケンス1では、デフォルトラベルはαである。また、今回の連続領域ラベルもαである。よって、ステップS102がYESになるので、修正カウンタは0である。シーケンス2でも、デフォルトラベルはαである。一方、今回の連続領域ラベルはβに変化した(つまり、連続領域ラベルが変化する第1段階推定方向D1を推定した)。よって、ステップS102がNOとなり、また、ステップS105はYESとなるのでステップS106の実行により、修正カウンタは1となる。また、ステップS107、S108を実行するので、今回の重み係数W(2)を最小値(weight3)として、第2段階方向推定方向D2を決定する。
【0093】
シーケンス3でも、まだ、デフォルトラベルはαのままである。また、今回の領域ラベルはαに戻っている。よって、ステップS102がYESになり、ステップS103を実行するので、修正カウンタは0に戻る。
【0094】
シーケンス4でも、デフォルトラベルはαである。一方、今回の連続領域ラベルはβに変化した。よって、シーケンス2と同じく、修正カウンタは1、重み係数W(4)はweight3となる。
【0095】
シーケンス5でも、今回の連続領域ラベルは、前回と同様、βである。よって、修正カウンタはさらに1増えて2となり、また、重み係数W(5)はweight3となる。しかし、デフォルトラベルはまだαのままである。
【0096】
シーケンス6でも、今回の連続領域ラベルはβである。よって、修正カウンタはさらに1増えて3となり、また、重み係数W(6)はweight3となる。修正カウンタは3となるのであるが、修正カウンタが3となるのは、ステップS105の判断の後であるので、ステップS114は実行しない。よって、デフォルトラベルはαのままである。
【0097】
シーケンス7でも、今回の連続領域ラベルはβとなった。一方、デフォルトラベルはαなので、ステップS102がNOとなり、ステップS105を実行する。この時点において、修正カウンタは3となっているので、ステップS105がNOとなる。これにより、ステップS109を実行して、Nが3減算されて「4」となる。そして、ステップS110を実行してN=4の第2段階推定方向D2(4)を再計算する。
【0098】
その後、修正カウンタが0となっていないので、ステップS112、S113を実行する。よって、修正カウンタが1減算されて2となる一方、Nは1増えて5となる。その後、ステップS110へ戻り、N=5の第2段階推定方向D2(5)を再計算する。
【0099】
まだ修正カウンタは2なので、再度、ステップS11、S113を実行する。よって、修正カウンタがさらに1減算されて1となり、Nはさらに1増えて6となる。その後、ステップS110へ戻り、N=6の第2段階推定方向D2(6)を再計算する。
【0100】
修正カウンタはまだ1なので、再度、ステップS112、S113を実行する。よって、修正カウンタがさらに1減算される。その結果、修正カウンタは0となる。また、Nはさらに1増えて7となる。つまり、ステップS109での減算前のNに戻る。その後、ステップS110へ戻り、N=7の第2段階推定方向D2(7)を計算する。その次に実行するステップS111では、修正カウンタが0となっているので、ステップS114へ進み、デフォルトラベルをβに変更する。
【0101】
シーケンス8では、今回の領域ラベルはβであるが、デフォルトラベルもβに変更されていることから、修正カウンタは0のままである。
【0102】
以上、説明した本実施形態によれば、遮蔽物の存在に対応して第1段階方向推定処理(図2のS5)における一部の領域の境界線を不連続境界線として設定し(図10のS11)、この不連続境界線により、第1段階方向推定処理における全体の推定方向範囲を複数の連続領域に区分する(図10のS12)。
【0103】
そして、無線タグが存在する連続領域を2つの方法により別々に決定する。1つ目の方法はデフォルトラベルを決定するための方法であり、第1段階推定方向D1が4回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域の連続領域ラベルをデフォルトラベルとする。第1段階推定方向D1が4回数連続して同じ連続領域に含まれている場合には、第1段階推定方向D1が存在する連続領域を誤って推定している可能性は極めて低いので、この連続領域を正しく方向推定したときの連続領域と考え、この連続領域のラベルをデフォルトラベルとしているのである。
【0104】
そして、今回の第1段階推定方向D1(N)から決定した連続領域ラベルが、デフォルトラベルとは異なるか否かを判断する(図11のS101、S102)。S101は、今回の第1段階推定方向D1(N)のみを用いて連続領域ラベルを決定するので、この連続領域ラベルは誤っている可能性がある。加えて、異なる連続領域へは、前述したように、限られた経路でしか移動することができない。
【0105】
そこで、S101で決定した連続領域ラベルがデフォルトラベルとは異なったとの判断回数がまだ所定回数連続しない場合には(S105:YES)、第1段階方向推定D1(N)が誤っている可能性を排除できないと考え、推定移動距離とは無関係に今回の重み係数W(N)を最低値であるweight3に設定し(S107)、第2段階の推定方向を決定している(S108)。これにより、不連続境界線を越える現実にはありえない移動となってしまう第1段階推定方向D1(N)について、その影響を低くして第2段階推定方向D2(N)を決定することができる。
【0106】
さらに、S101で決定した連続領域ラベルがデフォルトラベルとは異なったとの判断回数が所定回数連続した場合には(S105:NO)、第1段階方向推定D1(N)は誤推定ではなかったと考える。そして、推定移動距離とは無関係にweight3としていた重み係数W(N)を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階推定方向D2を再決定する(S109−S113)。つまり、誤推定ではなかったと判断した場合には、重み係数を大きい値に修正して、第2段階の推定方向を再決定することになる。これにより、第1段階推定方向D1が正しい方向であるものに対して大きい重み係数を設定して第2段階推定方向を決定することになる。この処理(S109−S113)によって、方向推定精度がより向上する。
【0107】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0108】
たとえば、前述の実施形態では、過去所定数分以上の第1段階推定方向D1があるときは、必ずそれら過去所定数分の第1段階推定方向D1を用いて第2段階推定方向D2を算出していた。しかし、それら第1段階推定方向D1の測定時点から、予め設定した所定時間以上経過している場合には、その第1段階推定方向D1は用いずに、第2段階推定方向D2を算出するようにしてもよい。このようにすれば、信頼性の低い古い第1段階推定方向D1を除外して第2段階推定方向D2を決定することになるので、第2段階推定方向D2の精度が向上する。
【0109】
また、前述の実施形態では、推定移動距離Bの算出において、今回測定時における無線タグまでの推定距離R(N)と、前回測定時における無線タグまでの推定距離R(N−1)とを比較して、いずれか大きい値を用いて推定移動距離Bを算出していた。しかし、比較することなく、いずれか一方を用いることを予め決定しておいてもよい。また、両者の平均を用いることにしてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1:アンテナ部、 3:分配器、 4:復調器、 5:電力検出回路、 6:方向探知コンピュータ、 10:励振素子、 11〜16:非励振素子、 17:接地導体、 18:可変リアクタンス回路、 19:同軸ケーブル、 61:可変リアクタンス制御部、 62:記憶部(記憶手段)、 63:方向探知部、 100:無線タグリーダ、 110:壁、 111:壁部、 112:玄関扉、 120:不連続境界線、 121:不連続境界線
B:推定移動距離、 D1:第1段階推定方向、 D2:第2段階推定方向、 ΔD:角度差、 M:平均を算出するデータ数、 N:測定回数、 R:無線タグまでの距離、 W:重み係数、 S5:第1段階方向推定手段、 S7:第2段階方向推定手段、 S101:第1連続領域決定手段、 S102:領域変化判断手段、 S114:第1連続領域決定手段、 S701:角度差算出手段、 S702〜S704:移動距離推定手段、 S705〜S709:係数決定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を切り替えつつ電波を受信し、受信した電波の強度に基づいて発信機からの電波到来方向を決定することで、発信機の方向を探知する方向探知装置であって、
指向性を切り替えつつ、各指向性において受信した電波の受信強度を、指向性とともに記憶する記憶手段と、
記憶手段に記憶されている記憶内容から、各指向性における受信強度を比較して、発信機の推定方向を決定する第1段階方向推定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向、および、過去複数回分の推定方向の加重平均により、前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向を修正した第2段階の推定方向を逐次決定する第2段階方向推定手段を備え、
その第2段階方向推定手段は、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向と、第2段階方向推定手段で推定した1回前の推定方向との角度差を算出する角度差算出手段と、
その角度差算出手段で算出した角度差と、前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの距離とに基づいて、前記発信機の推定移動距離を決定する移動距離推定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向に対して、前記移動距離推定手段で決定した推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定する係数決定手段とを有し、
前記第1段階方向推定手段で決定した推定方向を最新のものから過去所定数用いるとともに、それら推定方向に対応する前記重み係数を用いて、加重平均により、前記第2段階の推定方向を決定する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1段階方向推定手段は、全体の推定方向範囲を複数領域に分割して、いずれかの領域を前記発信機の推定方向として選択するものであり、
前記発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、前記第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線が不連続境界線に設定されており、この不連続境界線により、前記第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲が複数に区分されて複数の連続領域が設定されており、
前記第1段階方向推定手段で推定した推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、前記発信機が存在する連続領域であるとする第1連続領域決定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向が、どの連続領域に含まれるかを決定する第2連続領域決定手段と、
前記第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、前記第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する領域変化判断手段と、を備え、
前記第2段階方向推定手段は、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数よりも少ない場合には、前記推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして前記第2段階の推定方向を決定し、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数となった場合には、前記推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記係数決定手段は、最も小さい重み係数を0よりも大きい値とすることを特徴とする方向探知装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記係数決定手段は、第1段階方向推定手段による前回の推定方向が存在しない初回測定時は、前記推定移動距離の移動可能性が最も高い場合に決定する重み係数よりも、小さい値の重み係数を決定することを特徴とする方向探知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記第2段階方向推定手段は、前記第1段階方向推定手段で決定し、過去所定数分に含まれる推定方向であっても、所定時間以上経過している場合には、その推定方向は用いずに、第2段階の推定方向を決定することを特徴とする方向探知装置。
【請求項1】
指向性を切り替えつつ電波を受信し、受信した電波の強度に基づいて発信機からの電波到来方向を決定することで、発信機の方向を探知する方向探知装置であって、
指向性を切り替えつつ、各指向性において受信した電波の受信強度を、指向性とともに記憶する記憶手段と、
記憶手段に記憶されている記憶内容から、各指向性における受信強度を比較して、発信機の推定方向を決定する第1段階方向推定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向、および、過去複数回分の推定方向の加重平均により、前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向を修正した第2段階の推定方向を逐次決定する第2段階方向推定手段を備え、
その第2段階方向推定手段は、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向と、第2段階方向推定手段で推定した1回前の推定方向との角度差を算出する角度差算出手段と、
その角度差算出手段で算出した角度差と、前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向および1回前の推定方向の少なくともいずれか一方に対応する発信機までの距離とに基づいて、前記発信機の推定移動距離を決定する移動距離推定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した最新の推定方向に対して、前記移動距離推定手段で決定した推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数を決定する係数決定手段とを有し、
前記第1段階方向推定手段で決定した推定方向を最新のものから過去所定数用いるとともに、それら推定方向に対応する前記重み係数を用いて、加重平均により、前記第2段階の推定方向を決定する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1段階方向推定手段は、全体の推定方向範囲を複数領域に分割して、いずれかの領域を前記発信機の推定方向として選択するものであり、
前記発信機を携帯する者の移動を阻止する遮蔽物の存在に対応して、前記第1段階方向推定手段における一部の領域の境界線が不連続境界線に設定されており、この不連続境界線により、前記第1段階方向推定手段における全体の推定方向範囲が複数に区分されて複数の連続領域が設定されており、
前記第1段階方向推定手段で推定した推定方向が所定回数連続して同じ連続領域に含まれた場合に、その連続領域を、前記発信機が存在する連続領域であるとする第1連続領域決定手段と、
前記第1段階方向推定手段で推定した今回の推定方向が、どの連続領域に含まれるかを決定する第2連続領域決定手段と、
前記第2連続領域決定手段で決定した連続領域が、前記第1連続領域決定手段で決定した連続領域とは異なるか否かを判断する領域変化判断手段と、を備え、
前記第2段階方向推定手段は、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数よりも少ない場合には、前記推定移動距離とは無関係に今回の重み係数を最低値にして前記第2段階の推定方向を決定し、
領域変化判断手段で連続領域が異なると判断した場合であって、連続してその判断をした回数が所定回数となった場合には、前記推定移動距離とは無関係に最低値に設定していた重み係数を、推定移動距離の移動可能性が低いほど小さい重み係数として、重み係数を最低値としていた測定回の第2段階の推定方向を再決定する
ことを特徴とする方向探知装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記係数決定手段は、最も小さい重み係数を0よりも大きい値とすることを特徴とする方向探知装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記係数決定手段は、第1段階方向推定手段による前回の推定方向が存在しない初回測定時は、前記推定移動距離の移動可能性が最も高い場合に決定する重み係数よりも、小さい値の重み係数を決定することを特徴とする方向探知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記第2段階方向推定手段は、前記第1段階方向推定手段で決定し、過去所定数分に含まれる推定方向であっても、所定時間以上経過している場合には、その推定方向は用いずに、第2段階の推定方向を決定することを特徴とする方向探知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−215559(P2012−215559A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45482(P2012−45482)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
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