説明

方法及び触媒

芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物は、支持体上の元素白金を含んでなる白金触媒の存在中で対応するアミンに接触的に水素化され;白金触媒は、モリブデン化合物及びリンが+5より少ない酸化状態を有するリン化合物、例えば次亜リン酸で改変され;触媒は、ハロゲン及び/又は硫黄含有置換基を持つニトロ化合物の水素化において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族及び複素芳香族ニトロ化合物を対応するアミンにする触媒的水素化の方法に関する。これは、更にモリブデン及びリンを含有する改変され支持された白金触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族及び複素芳香族ニトロ化合物の還元は、対応するアミンへの重要な合成経路を提供する。然しながら、この反応は、幾つかの中間体にわたって進行し、そしてこれは、時に完全な還元を達成することが困難である。特にヒドロキシルアミン中間体は、これが比較的安定であり、そして反応混合物中に蓄積することができるために、しばしば問題を提起する。還元が接触水素化により行われる場合、ハロゲン原子或いは炭素−炭素多重結合を含有する基、又は硫黄を含有する基(例えばチオエーテル基)のような他の還元可能な物質は、望まない副反応(例えば炭素−炭素多重結合の水素化分解又は水素化)又は阻害効果(“触媒の汚染”)を起こすことができ、これは、望ましくない複製品の形成、不満足な収率、又は不経済に大量の触媒の必要量をもたらす。芳香族及び複素芳香族ニトロ化合物の、対応するアミンへの選択的還元のための方法を提供することが本発明の目的であり、該方法はハロゲン或いは酸素含有又は硫黄含有物質の存在中にもかかわらず、強烈な反応条件又は不当に大量の触媒を必要とせずに良好な収率を与える。
【発明の概要】
【0003】
本発明によれば、この目的は、本明細書中に記載される方法及び触媒によって達成される。芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物の対応するアミンへの水素化における支持された白金触媒の性能が、これを、モリブデン化合物及びリンが+5より少ない酸化状態を有するリン化合物で改変することによって実質的に改良することができることが見いだされている。
【0004】
特に、本発明は、白金触媒が、モリブデン化合物及びリンが+5より少ない酸化状態を有するリン化合物で改変されていることを特徴とする、支持体上の元素白金を含んでなる白金触媒の存在中の、芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物の対応するアミンへの接触水素化のための方法を提供する。
【0005】
特に、リン化合物は、次亜リン酸又は塩或いはこれらの反応生成物であり、そしてモリブデン化合物は、オルトモリブデン酸塩又はその反応生成物(オルトモリブデン酸アンモニウム又はオルトモリブデン酸亜鉛或いはこれらの反応生成物)である。
【0006】
特に、本発明は、芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物が、ハロゲン原子及び酸素含有又は硫黄含有基からなる群;特にハロゲン原子及び硫黄含有基からなる群から選択される一つ又はそれより多い置換基で置換されている方法を提供する。
【0007】
特に、本発明は、医薬的に活性なトリアゾロ[4,5−d]ピリミジンシクロペンタンの調製において有用な中間体である5−アミノピリミジンの調製のための方法に関する。
化合物[1S−(1α,2α,3β(1S,2R),5β)]−3−[7−[2−(3,4−ジフルオロフェニル)−シクロプロピル]アミノ]−5−(プロピルチオ)−3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル)−5−(2−ヒドロキシエトキシ)−シクロペンタン−1,2−ジオール(化合物A)、及び同様なこのような化合物は、WO00/34283及びWO99/05143中で、医薬的に活性なP2T(これは、今や通常P12と呼ばれる)受容体アンタゴニストとして開示されている。このようなアンタゴニストは、特に血小板活性化、凝集又は脱顆粒の阻害剤として使用することができる。
【0008】
【化1】

【0009】
式(I)の化合物(以下を参照)は、化合物A及びその類似物の調製(WO01/92263の実施例3を参照)において有用である。
特に、本発明は、以下の式(I):
【0010】
【化2】

【0011】
{上記式中、Xはハロゲンであり;YはZRであり;Zは酸素又は硫黄であり;そして、RはC1−6アルキル、C1−6ハロアルキル又はC3−7シクロアルキルである}の化合物の調製のための方法を提供し;この方法は、本発明による、以下の式(II)のニトロ化合物の、適した溶媒中の、支持された白金触媒の存在中の水素化を含んでなる:
【0012】
【化3】

【0013】
特に、式(II)の本発明の化合物は、4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−(プロピルチオ)−ピリミジン(更に4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−(プロピルスルファニル)ピリミジンとも命名される)である。
【0014】
本発明による改変された触媒は、容易に調製し、そして活性化することができる。従って、これらを使用前に新鮮に調製し、従って最大の活性を確保することが可能である。本発明の方法は、モノニトロ化合物及び二つ又はそれより多いニトロ基を有する化合物の両方を水素化するために使用することができる。
【0015】
好ましい態様において、リン化合物は、次亜リン酸(HPO)又は次亜リン酸ナトリウム又はカルシウムのようなその塩、或いは前記酸又は塩の反応生成物である。用語“反応生成物”は、前記酸又は塩の、白金触媒又はモリブデン化合物との、水素との、或いは芳香族若しくは複素芳香族ニトロ化合物又はその水素化生成物との化学反応から得られるいずれもの生成物を意味すると理解される。
【0016】
もう一つの好ましい態様において、モリブデン化合物は、オルトモリブデン酸塩若しくはジモリブデン酸塩(即ち、MoO2−又はMo2−アニオンを含有する塩)又はポリモリブデン酸塩(例えばMo2−24アニオンを含有する塩)、或いはこれらの反応生成物である。用語“反応生成物”は、前記モリブデン酸塩の、白金触媒又はリン化合物との、水素との、或いは芳香族若しくは複素芳香族ニトロ化合物又はその水素化生成物との化学反応から得られるいずれもの生成物を意味すると理解される。
【0017】
特に好ましいものは、オルトモリブデン酸塩、特にオルトモリブデン酸アンモニウム((NHMoO)又はオルトモリブデン酸亜鉛(ZnMoO)である。
白金触媒の支持体(担体)は、制約されるものではないが、アルミナ、シリカ及び木炭(活性炭)を含むいずれもの通常の担体であることができ、木炭が好ましい。
【0018】
本発明の方法は、ハロゲン原子及びアルキルチオ(アルキルスルファニル、チオエーテル)基のような硫黄含有基からなる群から選択される一つ又はそれより多い置換基で置換されているニトロ化合物の水素化に、特に適している。前記の置換基は、望ましくない副反応又は触媒の汚染を起こすことによって、ニトロ基(単数又は複数)の還元を妨害しないものである。
【0019】
更に好ましくは、この方法は、ニトロピリジン又はニトロピリミジンのような複素芳香族ニトロ化合物の水素化のために使用され、後者が特に好ましい。
具体的に好ましい複素芳香族ニトロ化合物は、4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−(プロピルスルファニル)ピリミジンであり、これは、5−アミノ−4,6−ジクロロ−2−(プロピル−スルファニル)ピリミジンに還元することができる。
【0020】
モリブデン及びリンが+5より小さい酸化状態を有するリン化合物を含有する改変され支持された白金触媒は、支持された白金触媒を、次亜リン酸又はその塩及びオルトモリブデン酸塩の水溶液で処理することによって得ることができる。
【0021】
モリブデン/白金のモル比は、好都合には1:1から100:1の範囲、好ましくは1:1から10:1の範囲、そして最も好ましくは1:1から5:1の範囲であり、一方、リン/モリブデンのモル比は、好都合には1:1から100:1の範囲、好ましくは1:1から10:1の範囲、そして最も好ましくは1:1から5:1の範囲である。
【0022】
式(II)の化合物の水素化のために適した溶媒は、水、C1−6脂肪族アルコール(エタノール及びイソ−プロピルアルコールのような)、エーテル(例えばジエチルエーテル又はメチルtert−ブチルエーテルのようなジ(C1−6)エーテル;或いはテトラヒドロフランのような環式エーテル)、エステル(例えば酢酸エチル)又は炭化水素溶媒(芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン又はキシレンのような)である。このような溶媒の適当な混合物も、更に使用することができる。
【0023】
もう一つの側面において、式(II)の化合物の水素化は、10から90℃の範囲の温度で行われる。
なおもう一つの側面において、式(II)の化合物の水素化は、1から10バールの圧力で行われる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の非制約的な例は、本発明及びその好ましい態様を更に例示するものである。
【実施例】
【0025】
実施例1: 触媒の調製
4.6gの市販の木炭上の白金触媒(5%のPt、Engelhard タイプ18、40.5湿潤重量%、ロット番号12410)の水(38g)中のスラリーに、次亜リン酸の水溶液(50%、0.44g、3.4mmol)を加え、そして15分間20℃で撹拌した。この後、オルトモリブデン酸アンモニウム((NHMoO、0.27g、1.4mmol;HPO/(NHMoOモル比=2.4:1;(NHMoO/Ptモル比=2:1)をスラリーに加え、これを激しく15分間撹拌し、そして次いで水素化オートクレーブに移した。フラスコ及び移動管路をtert−ブチルメチルエーテル(31g)で洗い流した。水相の測定されたpHは2.3であり、そしてモリブデン含有率は123ppmであった。
【0026】
実施例2: 5−アミノ−4,6−ジクロロ−2−プロピルスルファニルピリミジン
tert−ブチルメチルエーテル(370g)を、温度制御ジャケット、Ekato InterMIG(登録商標)撹拌機、内部温度センサー及び封管を備えた1Lのステンレス鋼のオートクレーブに窒素下で入れ、そして4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−プロピルスルファニル−ピリミジン(94.5g、0.35mol)を加え、そして200分−1の撹拌速度で溶解した。
【0027】
先の実施例に記載したとおりに、触媒の懸濁液を調製し、そしてオートクレーブに移した。オートクレーブを密封し、そして撹拌速度を600分−1に増加し、一方、オートクレーブを窒素で4回置換した。その後、水素ガスを封管を経由して一定の流量で供給し(pmax=10バール)、同様に20℃から65℃への加熱勾配(45K/時)を並行して、600分−1で撹拌しながら開始した。発熱反応の進行を、水素の取込み、並びに内部及びジャケット温度曲線を記録することによって追跡した。約4時間後、水素の取込み(約1.1mol、又は3モル当量)の完了後、反応混合物の撹拌を更に3時間65℃で続けた。オートクレーブの負荷を解放(反応器を20℃に冷却し、水素圧力を放出し、そして反応器を窒素で4回置換した)した後、触媒を濾過して除去した。オートクレーブ、並びに濾過ケーキ(触媒)をtert−ブチルメチルエーテル(185g)で洗浄した。有機相を混合し、そして水層を分離した。IPCの試料を取り出して、生成物の混合物を分析した。
【0028】
転換は、定量的であることが見いだされ、ニトロソ又はヒドロキシルアミン中間体は、検出されなかった。
H NMR(CDCl,400MHz):δ 4.24(br.s,2H),3.08(t,J=7.2Hz,2H),1.74(六重線,J=7.2Hz,2H),1.02(t,J=7.2Hz,3H)。
【0029】
比較例1: (改変されていないPt/C触媒)
tert−ブチルメチルエーテル(370g)を、温度制御ジャケット、InterMIG(登録商標)撹拌機、内部温度センサー及び封管を備えた1Lのステンレス鋼のオートクレーブに窒素下で入れた。4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−プロピルスルファニル−ピリミジン(94.5g、0.35mol)を加え、そして200分−1の撹拌速度で溶解した。オートクレーブを窒素で4回置換した(撹拌速度:600分−1)。
【0030】
触媒のスラリーを別個のフラスコ中で次のように調製した:市販の木炭上の白金触媒(4.6g、5%のPt、Engelhard タイプ18、40.5湿潤重量%、ロット番号12410;S/C=500:1)の水(38g、2.1mol)を、15分間20℃で撹拌した(水相の測定されたpHは7.4であった)。得られた触媒の懸濁液をオートクレーブに移し、そしてフラスコ及び移動管路をtert−ブチルメチルエーテル(31g、0.35mol)で洗浄した。次いでオートクレーブを密封し、そして窒素で4回置換した(撹拌速度:600分−1)。
【0031】
その後、封管を経由する一定の流量の水素ガスの投与(pmax=10バール)、並びに65℃への加熱勾配(45K/時)を並行して、600分−1で撹拌しながら開始した。発熱反応の進行を、水素の取込み、並びに内部及びジャケット温度曲線を記録することによって追跡した。水素の取込みの完了後、反応混合物の撹拌(600分−1)を更に3時間65℃で続けた。
【0032】
オートクレーブの負荷を解放(反応器を20℃に冷却し、H圧力を放出し、そして反応器を窒素で4回置換した)した後、触媒を濾過して除去した。オートクレーブ、並びに濾過ケーキ(触媒)をtert−ブチルメチルエーテル(185g、2.10mol)で洗浄した。有機相を混合し、そして水層を分離した。IPCの試料を取り出して、生成物の混合物を分析した。収率:79%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上の元素白金を含む白金触媒の存在下での、芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物の対応するアミンへの接触水素化のための方法であって、前記白金触媒が、モリブデン化合物及びリンが+5より少ない酸化状態を有するリン化合物で改変されていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記リン化合物が、次亜リン酸又は塩或いはこれらの反応生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モリブデン化合物が、オルト−モリブデン酸塩又はその反応生成物である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記モリブデン化合物が、オルト−モリブデン酸アンモニウム又はオルトモリブデン酸亜鉛或いはこれらの反応生成物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記支持体が、木炭である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が、1:1から100:1のモリブデン/白金モル比及び1:1から100:1のリン/モリブデンモル比を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒が、1:1から10:1のモリブデン/白金モル比及び1:1から10:1のリン/モリブデンモル比を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記芳香族又は複素芳香族ニトロ化合物が、ハロゲン原子及び酸素含有又は硫黄含有基からなる群から選択される一つ又はそれより多い置換基で置換されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記複素芳香族ニトロ化合物が、ニトロピリミジンである、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記複素芳香族ニトロ化合物が、以下の式(II):
【化1】

[式中、Xは、ハロゲンであり;Yは、ZRであり;Zは、酸素又は硫黄であり;そしてRは、C1−6アルキル、C1−6ハロアルキル又はC3−7シクロアルキルである]
の化合物である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記複素芳香族ニトロ化合物が、4,6−ジクロロ−5−ニトロ−2−(プロピルスルファニル)ピリミジンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
改変され支持された白金触媒であって、モリブデン及びリン化合物を含有し、リンが+5より小さい酸化状態を有し、次亜リン酸又はその塩及びオルトモリブデン酸塩の水溶液で、1:1から100:1のモリブデン/白金モル比及び1:1から100:1のリン/モリブデンモル比で、支持された白金触媒を処理することによって得ることが可能な、前記白金触媒。
【請求項13】
前記モリブデン/白金モル比が、1:1から10:1であり、そしてリン/モリブデンモル比が1:1から10:1である、請求項12に記載の改変され支持された白金触媒。
【請求項14】
前記オルトモリブデン酸塩が、オルトモリブデン酸アンモニウム又はオルトモリブデン酸亜鉛から選択される、請求項12又は13のいずれか1項に記載の改変され支持された白金触媒。

【公表番号】特表2013−505288(P2013−505288A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530339(P2012−530339)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051583
【国際公開番号】WO2011/036479
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】