説明

施用装置付き移植機

【課題】畝内の薬肥粒剤が施用されている部位に適切に苗株を植付けることができる施用装置付き移植機を提供する。
【解決手段】施用装置付き移植機は、圃場走行可能に支持した機体に歩行操作用の操縦ハンドル(8)を設けるとともに、苗株を圃場に植付ける苗株植付装置(3)と薬肥粒剤を圃場に施用する薬肥粒剤施用装置(5)とを装荷して構成され、上記薬肥粒剤施用装置(5)は、苗株植付装置(3)より前方位置で、薬肥粒剤をタンクから定量繰出しする繰出部(31)と、その繰出し薬肥粒剤を土壌中に攪拌するための攪拌部(32)とを設けることにより、施用部位への確実な苗株の植付けを可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬肥粒剤を施用しつつ野菜苗株を植付けする施用装置付き移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
殺菌殺虫用の薬剤や肥料等の薬肥粒剤を圃場に散布施用する薬肥粒剤施用装置を備えた歩行型野菜苗株移植機は、エンジン動力を変速伝動する変速伝動装置と駆動輪および歩行操作用の操縦ハンドルを設けた機体に苗株植付装置と薬肥粒剤施用装置を備えたものであり、植付けするべき各苗株について規定量の薬肥粒剤を施用するためには、植付具の動作タイミングと合わせるとともに、株間距離の変更に対応するための複雑な伝動系による薬肥粒剤吐出手段を要し、コスト上およびメンテナンス上の問題を避けることができないことから、この問題を解決するために、特許文献1に示される薬肥粒剤施用装置を備えた苗株移植機が知られている。
【0003】
この苗株移植機は、投入された苗株を所定位置まで搬送する周回カップを備えた回転テーブルによる苗株供給装置に薬肥粒剤施用装置を設けることによって簡易かつ確実に規定量の薬肥粒剤を施用しつつ、その下方で上下動作する植付具によって苗株を圃場に植付けすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−125619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記薬肥粒剤施用装置は、周回カップ内の苗に上方から薬肥粒剤が供給される構成であるために、苗の葉や茎に薬肥粒剤が付着することがあり、苗が薬害を受けることによって移植後の苗の成育に問題があった。一方、苗株を植え付ける畝について薬肥粒剤を散布して畝の所定部に鋤き込む施用土壌攪拌作業を事前に行うことも考えられるが、苗株植付位置が畝内の施用位置から外れることがあり、問題がある。
【0006】
本発明の目的は、苗株植付位置が畝内の薬肥粒剤を土壌中に攪拌した部位から外れることなく、畝内の薬肥粒剤が施用されている部位に適切に苗株を植付けることができる施用装置付き移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、圃場走行可能に支持した機体に苗株を圃場に植付ける苗株植付装置と薬肥粒剤を圃場に施用する薬肥粒剤施用装置とを装荷した施用装置付き移植機において、上記薬肥粒剤施用装置は、苗株植付装置より前方位置で、薬肥粒剤をタンクから定量繰出しする繰出部と、その繰出し薬肥粒剤を土壌中に攪拌するための攪拌部とを設けたことを特徴とする。
上記薬肥粒剤施用装置は、苗株植付装置の前方で繰出部が薬肥粒剤を繰出しするとともに、攪拌部がその繰出し薬肥粒剤を土壌中に攪拌する。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記機体には、原動機として片側配置の排気管を備えた内燃機関を搭載し、かつ、前記薬肥粒剤施用装置は、その繰出部と攪拌部を共に駆動する電動駆動部を備え、この電動駆動部を上記内燃機関の排気管の反対側に配置したことを特徴とする。
上記苗株移植機は、薬肥粒剤施用装置の電動駆動部の配置を内燃機関の排気管の反対側とすることにより、内燃機関による原動機の排気熱の影響が抑えられる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1の構成において、前記薬肥粒剤施用装置は、その繰出部の後方に攪拌部を配置し、この攪拌部は、機体の前進方向に転動可能に軸支した中央拡径状の攪拌ローラと、その周面に放射状に突設した複数の攪拌ピンとからなることを特徴とする。
攪拌ローラの攪拌ピンが土壌に対して攪拌作用を有し、この攪拌ピンは、攪拌ローラの拡径部において土壌に対して強く作用する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明の歩行型野菜苗株移植機は、苗株植付装置の前方で薬肥粒剤施用装置の繰出部が薬肥粒剤を繰出しするとともに、攪拌部がその繰出し薬肥粒剤を土壌中に攪拌することから、薬肥粒剤を土壌の攪拌範囲内に確実に施用して、この施用部位に苗株が適切に植付けられる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1の効果に加え、薬肥粒剤施用装置の電動駆動部の配置を排気管の反対側とすることにより、上記苗株移植機は、内燃機関によって効率的な稼働を可能とした上で、電動駆動部に対する排気熱の影響が抑えられて耐久性を確保することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1の効果に加え、攪拌ローラの攪拌ピンが土壌に対して攪拌作用を有し、この攪拌ピンは、攪拌ローラの拡径部において土壌に対して強く作用することから、土壌の攪拌幅の中央位置が集中的に攪拌される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】苗株移植機の実施の一形態の側面図
【図2】図1の苗株移植機の要部正面図
【図3】別例1の薬肥粒剤施用装置の要部側面図(a)およびワイヤ連結図(b)
【図4】別例2の薬肥粒剤施用装置の要部側面図(a)およびホース配置図(b)
【図5】別例3の薬肥粒剤施用装置の要部側面図(a)およびホース配置図(b)
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について、以下に図面を参照しつつ説明する。
図1および図2は、本発明の実施の一形態の1条植えの歩行型薬肥粒剤施用苗株移植機の側面図とその要部正面図である。
【0015】
機体2は、前部に原動機としての内燃式のエンジン6、及び変速伝動装置であるミッションケース7を配置して、その後方に延びるフレーム2cの後端部に操縦ハンドル8を設け、ミッションケース7の両側から後方に延びる左右の車輪伝動ケース1,1を揺動可能に軸支し、この車輪伝動ケース1,1を介してそれぞれの後端部に左右の主車輪10,10を伝動支持し、これら左右の車輪10,10と、機体2の前端部に設けた左右の案内輪13,13とによって走行する構成である。
【0016】
また、エンジン6の上側には燃料タンク6bが設けられ、その上部をボンネット6cが覆い、このボンネット6cの上方に苗株の予備保持台を設ける。主車輪10,10の近傍には苗株植付装置3と左右の鎮圧輪4,4を備え、案内輪13,13の近傍には薬肥粒剤施用装置5を備えている。
【0017】
操縦ハンドル8の基部には操作パネル8aが設けられ、この操作パネル8aには、車輪伝動ケース1,1を回動させて機体を上下動させるとともに苗株植付装置3の駆動を止める植付昇降レバー、メインクラッチの入・切操作をするメインクラッチレバー等が設けられている。
【0018】
苗株植付装置3は、複数の苗カップ19をターンテーブル状に構成して周回搬送する苗供給装置20と、その下側で平行リンク機構25によって昇降支持した植付具21とによって構成する。苗カップ19は、所定位置で開くシャッタを底部に備え、作業者が投入した苗株を周回搬送しつつ所定位置で苗株を投下し、また、植付具21は、開閉可能な嘴状ホッパによって構成され、上昇位置で苗株を受け、次いで畝の土壌中に下降した位置で開くことにより、苗株を圃場に植付けする。
【0019】
左右の主車輪10,10は、機体制御機構により、左右の車輪伝動ケース1,1の回動によって個別に上下動させて機体高さと姿勢を調節し、不図示にの畝センサーにより畝上端から一定高さに機体を維持して一定の植付け深さに制御される。また、前記左右の車輪伝動ケース1,1の回動によって機体を上昇させるとともに、左右の鎮圧具4,4を非接地高さまで上昇するように連動構成し、左右の主車輪10,10を中心に容易に機体の旋回が行える。
【0020】
(薬肥粒剤施用装置)
薬肥粒剤施用装置5は、苗株植付装置3よりも前方で、薬肥粒剤を定量繰出しする繰出部31と、その後方で繰出し薬肥粒剤を土壌中に埋めるための攪拌部32とから構成する。繰出部31は、エンジン排気管6aの逆側に配置した電動駆動部であるモータ33によって繰出し動作可能に繰出ロール31aを駆動し、吐出側に薬肥粒剤の案内ホース31bを下垂する。
【0021】
攪拌部32は、薬肥粒剤を土中に埋めるために案内ホース31aの後方位置で転動可能な攪拌ローラ34を高さ調節可能に軸支し、この攪拌ローラ34は中央を拡径して薬肥粒剤を埋めやすく構成し、その外周面に攪拌ピン35を放射状に突設した「くし」を形成し、このくしは、薬肥粒剤を中央に集めるために中央に向かって傾斜させる。攪拌ローラ34の回転方向は、薬肥粒剤を土中に埋めるために反時計まわりに構成する。
【0022】
上記モータ33は、繰出部31と攪拌部32とをつなぐ駆動系の外側に配置して両者を一体駆動するとともに、苗株植付装置3の植付け入り切りと連動動作させ、繰出部31の薬肥粒剤が無くなるとオペレータに知らせるためにブザーを鳴動制御する。
【0023】
上記構成の薬肥粒剤施用装置5は、苗株植付装置3の前方で繰出部31が薬肥粒剤を繰出しするとともに、攪拌部32がその攪拌幅内に繰出し薬肥粒剤を受けることから、繰出し薬肥粒剤を無駄なく土壌中に混ぜ込むことができる上に、その攪拌ピン35が攪拌ローラ34の中央拡径部において土壌に対して強く作用することから、攪拌幅の中央位置に薬肥粒剤が集中される。
また、薬肥粒剤施用装置5の電動駆動部33の配置をエンジン排気管6aの逆側とすることにより、排気管6aの熱の影響が抑えられて電動駆動部33の耐久性を確保することができる。
【0024】
次に、別の薬肥粒剤施用装置の構成例を説明する。
図3の要部側面図(a)およびワイヤ連結図(b)に示すように、薬肥粒剤施用装置の繰出部41の繰出ロール41aをワイヤー42で回動することにより、動力と繰出部41の位置を自由に配置できる。ワイヤー42はトルクワイヤでもよく、また、苗の植付けと同時に薬肥粒剤を施用するために、開閉ワイヤ43aによって動作する植付具21の開閉アーム43に取付ける。
【0025】
また、苗の供給に合わせて薬肥粒剤を繰出すために、薬肥粒剤施用装置の繰出部51の目皿の数を苗供給装置20のテーブル駆動軸の回転数としてこのテーブル駆動軸から動力をとり、その薬肥粒剤を苗株の植付け位置の近傍に施用するために、図4の要部側面図(a)およびホース配置図(b)に示すように、薬肥粒剤施用装置の繰出部51のホース52とそのストッパ52aを植付具21のホッパ開閉体21a、21bに個別に取付ける。
【0026】
また、植付具21や鎮圧輪4,4等の錆を招く施用薬肥粒剤の付着を避けるために、図5の要部側面図(a)およびホース配置図(b)に示すように、薬肥粒剤施用装置61のホース62を鎮圧輪フレーム4aの鎮圧輪4より後方位置に取付けるとともに、ホース62の終端にシャッタ63を設け、その開閉を植付具21と連動するために、シャッタ63の開閉ワイヤ63aを植付具21の開閉アーム43に取付ける。
【符号の説明】
【0027】
3 苗株植付装置
5 薬肥粒剤施用装置
6 エンジン(原動機)
6a エンジン排気管
8 操縦ハンドル
21 植付具
31 繰出部
32 攪拌部
33 モータ(電動駆動部)
34 攪拌ローラ
35 攪拌ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場走行可能に支持した機体に苗株を圃場に植付ける苗株植付装置(3)と薬肥粒剤を圃場に施用する薬肥粒剤施用装置(5)とを装荷した施用装置付き移植機において、
上記薬肥粒剤施用装置(5)は、苗株植付装置(3)より前方位置で、薬肥粒剤をタンクから定量繰出しする繰出部(31)と、その繰出し薬肥粒剤を土壌中に攪拌するための攪拌部(32)とを設けたことを特徴とする施用装置付き移植機。
【請求項2】
前記機体には、原動機として片側配置の排気管(6a)を備えた内燃機関(6)を搭載し、かつ、前記薬肥粒剤施用装置(5)は、その繰出部(31)と攪拌部(32)を共に駆動する電動駆動部(33)を備え、この電動駆動部(33)を上記内燃機関(6)の排気管(6a)の反対側に配置したことを特徴とする請求項1記載の施用装置付き移植機。
【請求項3】
前記薬肥粒剤施用装置(5)は、その繰出部(31)の後方に攪拌部(32)を配置し、この攪拌部(32)は、機体の前進方向に転動可能に軸支した中央拡径状の攪拌ローラ(34)と、その周面に放射状に突設した複数の攪拌ピン(35)とからなることを特徴とする請求項1記載の施用装置付き移植機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−263867(P2010−263867A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119969(P2009−119969)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】