説明

旋動式破砕機用取付穴加工治具およびそれを用いた取付穴加工方法

【課題】旋動式破砕機のマントルコアに防塵部材取り付け用の取付穴をあける作業を、破砕機の使用現場で簡単にかつ精度よく行えるようにする。
【解決手段】マントルコア14の下面側に軸心と同心に形成された円筒面14bと係合する係合面1aを有する取付穴加工治具1を用いる。この加工治具1は、マントルコア14の外周縁部14cの下面と当接するベース面1bに三つの貫通孔2a、2b、3があけられており、そのうちのボルト穴加工用の二つの貫通孔2a、2bは、マントルコア14の軸心と同心の仮想円A上に位置するように配されている。この加工治具1をマントルコア14にセットしてボルト穴6をあける工程と、加工治具1をマントルコア14の周方向にずらし、先にあけたボルト穴6を利用して固定する工程とを順に繰り返し、その間の任意の穴あけ工程でピン穴加工用の貫通孔3からピン穴9をあけるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋動式破砕機のマントルコアに防塵部材取り付け用の取付穴を加工するための治具とそれを用いた取付穴加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨材生産設備で使用される旋動式破砕機には、通常、破砕機内部へのダストの侵入を防止する防塵機構が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。このような防塵機構を有する旋動式破砕機の一例を図6に示す。この旋動式破砕機は、縦置きの筒状ケーシング11の内部に鉛直軸まわりに回転駆動される回転軸12を配し、回転軸12の偏心した傾斜孔12aに主軸13の下半部を嵌め込んで、主軸13の上半部に装着した略円錐台状のマントルコア14の上面にマントルライナ15を固定するとともに、マントルライナ15と対向するようにバウルライナ16をケーシング11内壁に固定し、回転軸12の回転により主軸13を旋動回転させて、主軸13と一体に旋動回転するマントルライナ15とバウルライナ16との間で被破砕物を破砕するものである。
【0003】
この破砕機の防塵機構は、図7にも示すように、マントルコア14の下方で潤滑油を溜める油溜室17を囲うように防塵リング18をケーシング11に固定するとともに、マントルコア14のスカート部14aの下面に環状の防塵輪ガイド19を固定し、防塵リング18の頂部に取り付けたシールゴム20を防塵輪ガイド19の内周側の傾斜部19aに摺接させたものである。
【0004】
ここで、防塵輪ガイド19は、マントルコア14とともに旋動回転しながら防塵リング18のシールゴム20と摺接して防塵機能を果たすものであるから、マントルコア14に精度よく取り付ける必要がある。このため、マントルコア14への防塵輪ガイド19の取り付けは、通常、図8に示すように、マントルコア14のスカート部14aに防塵輪ガイド19を重ねて、互いの対応する位置にあけられたピン穴21、22にノックピン23を圧入することにより両部材14、19を正確に位置決めした後、防塵輪ガイド19のボルト通し穴24からマントルコア14のボルト穴25へボルト26をねじ込んで両部材14、19を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−284963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような旋動式破砕機では、ケーシング内に滞留する被破砕物の量が多くなると、主軸の旋動回転に伴って被破砕物から防塵輪ガイドに作用する偏荷重が大きくなり、防塵輪ガイドをマントルコアに固定しているボルトが折損して、防塵輪ガイドが落下してしまうことがある。その場合は、マントルコアに新たなボルト穴やノックピン用のピン穴をあけたうえで、落下した防塵輪ガイドを再度固定するようにしている。これは、マントルコアの元のボルト穴やピン穴には折損したボルトやノックピンの一部が残っており、これらの折損部品を取り除くことが困難な場合が多いからである。
【0007】
ところで、マントルコアのピン穴は前述のように破砕機の防塵性能を確保するために精度よく加工する必要がある一方、このような精密な加工を破砕機の使用現場で行うことは難しい。このため、防塵輪ガイドの落下が発生したときには、マントルコアを加工工場に持ち込んでピン穴やボルト穴の加工を行わざるをえなかった。そして、一般に、破砕機の使用現場は加工工場からかなり離れているので、この加工工場での加工を行うことにより加工費のほかに運送費も発生し、メンテナンスコストの増大をまねいていた。また、落下した防塵輪ガイドを再度マントルコアに取り付けるまでの破砕機の稼働停止時間が長くなり、工期延長が発生する場合もあった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、旋動式破砕機のマントルコアに防塵部材(防塵輪ガイド)取り付け用のボルト穴やピン穴等の取付穴をあける作業を、破砕機の使用現場で簡単にかつ精度よく行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、旋動式破砕機の主軸に装着される略円錐台状のマントルコアの下面に、防塵部材取り付け用のボルト穴およびピン穴をそれぞれ周方向に所定の間隔で加工する際に用いられる旋動式破砕機用取付穴加工治具として、前記マントルコアの下面側に軸心と同心に形成された円筒面またはテーパ面と係合する係合面を有し、前記マントルコアの下面と当接するベース面にはボルト穴加工用の二つの貫通孔とピン穴加工用の貫通孔があけられており、そのボルト穴加工用の二つの貫通孔は、前記係合面を前記マントルコアの円筒面またはテーパ面に係合させたときに、前記マントルコアの軸心と同心の仮想円上に位置するように配されている構成のものを採用したのである。
【0010】
上記構成の取付穴加工治具を用いれば、マントルコアに一つ目のボルト穴をあけるときを除いて、加工治具の係合面をマントルコアの円筒面またはテーパ面に係合させた状態で、先にあけたボルト穴を利用して加工治具をマントルコアに固定することができるので、加工治具のマントルコアへの周方向固定位置をずらしながらボルト穴やピン穴をあけていくことにより、ピン穴を所定の位置に精度よくあけることが可能となる。
【0011】
ここで、前記ボルト穴加工用の二つの貫通孔の中心間の距離を、前記仮想円に内接する正多角形の一辺の長さとすれば、ボルト穴およびピン穴をそれぞれマントルコアに周方向に等間隔であけることができる。
【0012】
また、本発明の取付穴加工方法は、上記の構成の旋動式破砕機用取付穴加工治具を用いて、前記旋動式破砕機のマントルコアに前記防塵部材取り付け用のボルト穴およびピン穴を加工する取付穴加工方法において、前記加工治具のベース面をマントルコアの下面に当接させ、前記係合面をマントルコア下面側の前記円筒面またはテーパ面と係合させた状態で、前記加工治具の一方のボルト穴加工用貫通孔からマントルコアにボルト穴をあける穴あけ工程と、前記加工治具をマントルコアの周方向にずらして、他方のボルト穴加工用貫通孔を前記穴あけ工程で一方のボルト穴加工用貫通孔からあけられたボルト穴に重ねた状態でマントルコアに固定する治具固定工程とを順に繰り返し、その間の任意の穴あけ工程で前記加工治具のピン穴加工用の貫通孔からマントルコアにピン穴をあけるようにしたものである。
【0013】
ここで、前記治具固定工程において前記加工治具をマントルコアに固定する手段としては、前記加工治具の一方のボルト穴加工用貫通孔から前記マントルコアのボルト穴に、長手方向中央部に円筒部を有する治具固定ねじをねじ込んで、その円筒部を一方のボルト穴加工用貫通孔に嵌め合わせるものを採用するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、旋動式破砕機の使用現場でマントルコアに簡単にかつ精度よく防塵部材取り付け用のピン穴をあけられるようになるので、破砕機の運転中に防塵部材がマントルコアから外れても、マントルコアを加工工場に持ち込んで加工する必要がなくなる。その結果、従来のマントルコア加工の際に生じた運送費や加工費を削減できるとともに、破砕機の稼働停止時間を短縮でき工期延長の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の取付穴加工治具の使用状態を示す斜視図
【図2】a、bは、それぞれ図1の加工治具を用いた取付穴加工方法の手順を説明する平面図
【図3】図2(a)のIII−III線に沿った断面図
【図4】図3に対応して加工治具の固定状態を示す断面図
【図5】図2(a)のV−V線に沿った断面図
【図6】一般的な旋動式破砕機の縦断面図
【図7】図6の破砕機のマントルコア下部近傍の拡大断面図
【図8】図6の破砕機のマントルコアへの防塵輪ガイドの取付方法を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1乃至図5に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、実施形態の旋動式破砕機用取付穴加工治具1を用いて、破砕機で既に使用されていたマントルコア14に防塵部材取り付け用の取付穴(ピン穴およびボルト穴)を新たに加工するときの配置を示している。加工対象となるマントルコア14は、前述の図6乃至図8に示したのと同じ構成の略円錐台状のもので、下面側を上に向けた姿勢で置かれ、そのスカート部14aの上に加工治具1が載せられている。
【0017】
図1および図2(a)に示すように、前記マントルコア14は、そのスカート部14aの下面側に軸心と同心に形成された円筒面14bを有し、この円筒面14bよりも外側の外周縁部14cの下面に、使用前に加工された元の取付穴(ピン穴21およびボルト穴25)を有している。一方、加工治具1は、矩形板状で、その下面側にマントルコア14の円筒面14bと係合する係合面1aを有し、マントルコア14の外周縁部14cの下面と当接するベース面1bにはボルト穴加工用の二つの貫通孔2a、2bとピン穴加工用の貫通孔3があけられている。なお、マントルコアのスカート部下面側に円筒面の代わりに軸心と同心のテーパ面が設けられている場合は、そのテーパ面と係合するように加工治具の係合面形状を変更すればよい。
【0018】
そして、前記加工治具1のボルト穴加工用の貫通孔2a、2bは、加工治具1の係合面1aをマントルコア14の円筒面14bに係合させたときに、マントルコア14の軸心と同心の仮想円A上に位置し、かつ両貫通孔2a、2bの中心間の距離が仮想円Aに内接する正十六角形の一辺の長さとなるように配されている。
【0019】
次に、この加工治具1を用いた取付穴加工方法について説明する。まず、図1および図2(a)に示したように、マントルコア14を下面側が上に向く姿勢で置き、そのスカート部14aに加工治具1を載せる。このとき、加工治具1は、ベース面1bがマントルコア14の外周縁部14cの下面と当接し、係合面1aがマントルコア14の円筒面14bと係合する姿勢で、各貫通孔2a、2b、3がマントルコア14の元のピン穴21やボルト穴25と重ならない位置にセットされる。なお、各貫通孔2a、2b、3には、それぞれ図示省略した穴加工工具を案内するブッシュ4、5が挿入されている(第1工程)。
【0020】
そして、図3に示すように、加工治具1の一方のボルト穴加工用貫通孔2aからマントルコア14の外周縁部14cに下穴(図示省略)をあけた後、ブッシュ4を外して前記下穴に沿ってボルト穴6をあける(第2工程)。次に、図4に示すように、第2工程でマントルコア14にあけたボルト穴6に、加工治具1の一方のボルト穴加工用貫通孔2aから長手方向中央部に円筒部7aを有する治具固定ねじ7をねじ込んで、その円筒部7aを加工治具1の貫通孔2aに嵌め合わせ、さらに治具固定ねじ7の加工治具1上面からの突出部分にナット8を締め込むことにより加工治具1をマントルコア14に固定する(第3工程)。この状態で、第2工程と同様に、加工治具1の他方のボルト穴加工用貫通孔2bからマントルコア14にボルト穴6をあけるとともに、図5に示すように、加工治具1のピン穴加工用貫通孔3からマントルコア14にピン穴9をあける。なお、ピン穴9の加工精度を高めるには、前もって加工治具1のピン穴加工用貫通孔3に図示省略した下穴用ブッシュを挿入して下穴10をあけておくことが望ましい(第4工程)。
【0021】
次に、マントルコア14から治具固定ねじ7を抜き取り、図2(b)に示すように、加工治具1をマントルコア14の周方向にずらして、他方のボルト穴加工用貫通孔2bを前の穴あけ工程で一方のボルト穴加工用貫通孔2aからあけられたボルト穴6に重ね、その貫通孔2aからボルト穴6に治具固定ねじ7をねじ込んで、第3工程と同様に加工治具1をマントルコア14に固定する(第5工程)。この状態で、第2工程と同様に、加工治具1の一方のボルト穴加工用貫通孔2aからマントルコア14にボルト穴6をあける(第6工程)。その後は、この治具固定工程(第5工程)と穴あけ工程(第6工程)とを順に繰り返してボルト穴6をあけいく。
【0022】
ここで、加工治具1は、ボルト穴加工用の二つの貫通孔2a、2bの中心間距離が前記仮想円Aに内接する正十六角形の一辺の長さとなっているので、上記の手順により、マントルコア14の外周縁部14cに周方向に等間隔で16個のボルト穴6をあけることができる。そして、その途中の穴あけ工程(第6工程)において、第4工程であけたピン穴9とマントルコア14の径方向で対向する位置にもう一つのピン穴9をあければよい。
【0023】
なお、最初に加工治具1をセットした位置では基準となるボルト穴6を少なくとも一つあければよく、ピン穴9は任意の穴あけ工程であければよいので、上記の手順のうち第3工程および第4工程を省略して、第2工程から第5工程に移行し(このときは治具固定ねじ7の抜き取りは行われない)、第5工程と第6工程とを繰り返す途中でピン穴9をあけるようにしてもよい。
【0024】
上述した実施形態の取付穴加工治具1を用いた取付穴加工方法によれば、マントルコア14に一つ目のボルト穴6をあけるときを除いて、加工治具1の係合面1aをマントルコア14の円筒面14bに係合させた状態で、先にあけたボルト穴6を利用して加工治具1をマントルコア14に固定することができるので、加工治具1のマントルコア14への周方向固定位置をずらしながらボルト穴6やピン穴9をあけていくことにより、ピン穴9を所定の位置に精度よくあけることができる。
【0025】
従って、旋動式破砕機の運転中に防塵部材がマントルコア14から外れても、マントルコア14を加工工場に持ち込んで加工する必要がなくなり、運送費や加工費を削減できるとともに、破砕機の稼働停止による工期延長の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 取付穴加工治具
1a 係合面
1b ベース面
2a、2b 貫通孔(ボルト穴加工用)
3 貫通孔(ピン穴加工用)
4、5 ブッシュ
6 ボルト穴
7 治具固定ねじ
7a 円筒部
8 ナット
9 ピン穴
10 下穴
14 マントルコア
14a スカート部
14b 円筒面
14c 外周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋動式破砕機の主軸に装着される略円錐台状のマントルコアの下面に、防塵部材取り付け用のボルト穴およびピン穴をそれぞれ周方向に所定の間隔で加工する際に用いられ、前記マントルコアの下面側に軸心と同心に形成された円筒面またはテーパ面と係合する係合面を有し、前記マントルコアの下面と当接するベース面にはボルト穴加工用の二つの貫通孔とピン穴加工用の貫通孔があけられており、そのボルト穴加工用の二つの貫通孔は、前記係合面を前記マントルコアの円筒面またはテーパ面に係合させたときに、前記マントルコアの軸心と同心の仮想円上に位置するように配されている旋動式破砕機用取付穴加工治具。
【請求項2】
前記ボルト穴加工用の二つの貫通孔の中心間の距離を、前記仮想円に内接する正多角形の一辺の長さとしたことを特徴とする請求項1に記載の旋動式破砕機用取付穴加工治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の旋動式破砕機用取付穴加工治具を用いて、前記旋動式破砕機のマントルコアに前記防塵部材取り付け用のボルト穴およびピン穴を加工する取付穴加工方法において、前記加工治具のベース面をマントルコアの下面に当接させ、前記係合面をマントルコア下面側の前記円筒面またはテーパ面と係合させた状態で、前記加工治具の一方のボルト穴加工用貫通孔からマントルコアにボルト穴をあける穴あけ工程と、前記加工治具をマントルコアの周方向にずらして、他方のボルト穴加工用貫通孔を前記穴あけ工程で一方のボルト穴加工用貫通孔からあけられたボルト穴に重ねた状態でマントルコアに固定する治具固定工程とを順に繰り返し、その間の任意の穴あけ工程で前記加工治具のピン穴加工用の貫通孔からマントルコアにピン穴をあけることを特徴とする取付穴加工方法。
【請求項4】
前記治具固定工程において前記加工治具をマントルコアに固定する手段が、前記加工治具の一方のボルト穴加工用貫通孔から前記マントルコアのボルト穴に、長手方向中央部に円筒部を有する治具固定ねじをねじ込んで、その円筒部を一方のボルト穴加工用貫通孔に嵌め合わせるものであることを特徴とする請求項3に記載の取付穴加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−20028(P2011−20028A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165710(P2009−165710)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(506059861)クリモトメック株式会社 (34)
【Fターム(参考)】