説明

既存建物における免震化工法

【課題】 本発明は既存建物における免震化工法に関し、既存建物に建物の荷重を仮受けする基礎梁等が存在しない場合において、既存柱を利用して施工できるようにすることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】 既存建物の柱に免震装置を挿入して建物の全体を免震化する工法において、 前記既存建物の荷重を仮受け支柱で仮受けする際の反力部材として、下側の既存部分を補強した下部補強部5と、上側には既存柱の途中に当該既存柱の周囲に形成した上部補強部12とが形成され、前記上部補強部12には、当該上部補強部12に埋設されその両端部を外部に露出させた緊張材10により所要のプレストレスが付与され、その後、前記下部補強部5と前記上部補強部12との上下方向間に配設される仮受け支柱13a及びジャッキ13bにより既存建物の荷重が仮受けされるようにした既存建物における免震化工法とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物における柱に免震装置を挿入して、建物を免震化させる免震化工法
に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既存建物を免震化する場合には、例えば、特許文献1に記載されており、図5に示すように、既存建物15の地下を根切りして支持杭16の周囲にシャーコネクターを形成し、新設の基礎梁17を前記シャーコネクターと一体にして施工し、この基礎梁17に反力を取る仮受け支柱18とジャッキ19とを設置して上部の既存建物の基礎梁20を支持させ、前記新設の基礎梁17と既存建物の基礎梁20との間の支持杭16aの一部を切断してそこに免震装置21を設置する。その後、前記仮受け支柱18とジャッキ19を撤去する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−227137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の既存建物における免震化工法においては、既存建物が歴史的に古いものであると、基礎梁等を仮受けに使用することができない場合があり、そのまま従来の工法を適用できないこととなり、更に、既存柱を切断した時の仮受け柱へ軸力を伝達する柱部分が弱体化している場合もあって、仮受け時に基礎梁に有害なクラック等が発生することもある。本発明に係る既建物における免震化工法は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る既存建物における免震化工法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、既存建物の柱に免震装置を挿入して建物の全体を免震化する工法において、前記既存建物の荷重を仮受け支柱で仮受けする際の反力部材として、下側の既存部分を補強した下部補強部と、上側には既存柱の途中に当該既存柱の周囲に形成した上部補強部とが形成され、前記上部補強部には、当該上部補強部に埋設されその両端部を外部に露出させた緊張材により所要のプレストレスが付与され、その後、前記下部補強部と前記上部補強部との上下方向間に配設される仮受け支柱及びジャッキにより既存建物の荷重が仮受けされることである。
【0006】
前記上部補強部は、その内部に位置する既存柱に接続補強用のコッターを斫って設けて、その周囲に設けた型枠内にコンクリートを打設して形成したものであることを含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の既存建物における免震化工法によれば、既存柱に上部補強部を形成してこれにひび割れが生じないようにプレストレスを付与して、軸力の伝達を行い得るようにする。それにより、免震化工事を省スペースで施工することができる。それに伴い免震層上部居室の早期引き渡しが可能となって、客先のニーズに柔軟に対応できる。
また、既存柱にコッターを設けることで、既存柱に対する上部補強部である例えば柱頭部(以下、キャピタルという)の接続が強化され軸力伝達が確実となる。このように本発明は、既存建物に特に適した工法である。更に、免震装置交換時などの再仮受け時にも、再度何らかの補強を要することなく仮受けを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る既存建物における免震化工法の手順を示す工法説明図(1)〜(4)である。
【図2】同本発明に係る既存建物における免震化工法の手順を示す工法説明図(1)〜(4)である。
【図3】本発明に係る既存建物における免震化工法の手順を示す工法説明図(1)〜(2)である。
【図4】本発明の他の実施例に係る免震化工法を示す説明図(1),(2)である。
【図5】従来例に係る免震化工法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る既存建物における免震化工法は、図1に示すように、既存建物において、基礎梁やスラブ等による軸力伝達手段が無くなってしまう場合において、若しくは、建物の地下ピットでスラブが軸力を伝達させる場合において、軸力伝達手段とする既存柱を補強しながら、免震化を施工するものである。
【実施例1】
【0010】
既存建物の柱に免震装置を挿入して建物の全体を免震化する工法において、既存建物1は、 図1(1),(2)に示すように、土間コンクリート2及び土間の土砂3を掘削して撤去する。符号4は既存柱を示している。
【0011】
図1(3)に示すように、前記既存建物1の荷重を後述の仮受け支柱で仮受けする際の反力部材(耐圧版)として、下側の既存部分である基礎部分を補強した下部補強部5を形成する。前記既存の基礎は、独立フーチング基礎6若しくは連続フーチング基礎6であり、符号6aは基礎梁を示している。なお、既存の基礎部分は上記の一例に特に限定されるものではなく、他の複合フーチング、ベタ基礎、布基礎などのいずれか一つを含むものである。
【0012】
前記フーチング基礎6に型枠(図示せず)を周囲に設けて配筋し、コンクリート7を打設して、下部補強部5を構築する。そして、図1(4)に示すように、既存柱4の途中で、チッパー等の作業機械でコッター8を形成する。
【0013】
そして、図2(1)に示すように、前記コッター8とその周囲において、水平方向において縦横に貫通孔9を穿設する。更に、図2(2)に示すように、その貫通孔9に緊張材としての、アンボンドタイプのPC鋼棒10と、繋ぎ用の補強筋11を差し込む。
【0014】
前記PC鋼棒10と補強筋11との配筋が完了したら、図2(3)に示すように、コッター8の周囲を囲むようにして型枠を設置して、それを支保工で支持する。前記PC鋼棒10の両端部10aを前記型枠の外部に露出させておく。この型枠の中にコンクリートを打設して、上部補強部としてのキャピタル12を形成する。
【0015】
前記キャピタル12の打設コンクリートが所要の強度に発現したら、型枠及び支保工等を撤去して、センターホールジャッキ等で前記PC鋼棒10の端部10aを緊張する。この緊張作業で、PC鋼棒10により、キャピタル12に所要のプレストレスを付与して、前記両端部10aを定着ナットで定着する。
【0016】
そして、図2(4)に示すように、上側において既存柱4の途中で当該既存柱の周囲に形成したキャピタル12と、前記下部補強部5との上下方向間に仮受け支柱13a及びジャッキ13bからなる仮受け支持部材13を設置する。
【0017】
そして、既存柱4における、前記下部補強部5とキャピタル12との間の既存柱4a(図2(3)参照)を切断して撤去する。これには、例えば、ワイヤソーによって切断するものである。こうして、既存建物の荷重が前記キャピタル12と仮受け支持部材13を介して、下部補強部5に仮受けされる。
【0018】
図3(1)に示すように、前記切断した既存柱4aの跡に、免震装置14を設置する。その後、図3(2)に示すように、仮受け支持部材13を撤去する。このような工事(図1〜図3)を、既存建物の全体を複数の工区に分けて施工するものである。
【実施例2】
【0019】
次ぎに、本発明の他の実施例として、図4(1)に示すように、前記PC鋼棒を既存柱4に貫通させないで施工する場合説明する。キャピタル12を構築する際に、既存柱4にはPC鋼棒10を貫通させないで行う。前記キャピタル12用の型枠(図示せず)を既存柱4の周囲に配置して、補強用の補強筋11を配筋すると共に、アンボンドタイプのPC鋼棒10bを配置する。そして、前記型枠の中にコンクリートを打設するものである。他は上記実施例と同様である。この実施例2では、既存柱4にPC鋼棒が貫通してないので、柱軸力の伝達力としては上記実施例1の場合よりも小さい。
【実施例3】
【0020】
また、図4(2)に示すように、既存柱4にPC鋼棒10を貫通させるものと、PC鋼棒10bを貫通させないものとの複合タイプである。この場合には、前記実施例1と前記実施例2との併用であり、柱軸力の伝達力としては上記実施例1,2の場合よりも大であり、実施例中で最も大きい実施例である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明に係る既存建物における免震化工法は、既存柱を強化して仮受けさせるので、古い建物であっても免震化が可能であり、あらゆる既存建物に適した免震化工法である。
【符号の説明】
【0022】
1 既存建物、
2 土間コンクリート、
3 土砂、
4 既存柱、
5 下部補強部、
6 フーチング基礎、 6a 基礎梁、
7 コンクリート、
8 コッター、
9 貫通孔、
10 PC鋼棒、 10a 端部、
10b 既存柱に貫通させないPC鋼棒、
11 補強筋、
12 キャピタル、
13 仮受け支持部材、 13a 仮受け支柱、
13b ジャッキ、
14 免震装置、
15 既存建物、
16 支持杭、 16a 支持杭、
17 基礎梁、
18 仮受け支柱、
19 ジャッキ、
20 基礎梁、
21 免震装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の柱に免震装置を挿入して建物の全体を免震化する工法において、
前記既存建物の荷重を仮受け支柱で仮受けする際の反力部材として、下側の既存部分を補強した下部補強部と、上側には既存柱の途中に当該既存柱の周囲に形成した上部補強部とが形成され、
前記上部補強部には、当該上部補強部に埋設されその両端部を外部に露出させた緊張材により所要のプレストレスが付与され、
その後、前記下部補強部と前記上部補強部との上下方向間に配設される仮受け支柱及びジャッキにより既存建物の荷重が仮受けされること、
を特徴とする既存建物における免震化工法。
【請求項2】
上部補強部は、その内部に位置する既存柱に接続補強用のコッターを斫って設けて、その周囲に設けた型枠内にコンクリートを打設して形成したものであること、
を特徴とする請求項1に記載の既存建物における免震化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−17187(P2011−17187A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162541(P2009−162541)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】