説明

既存建物の上部増床工法

【課題】 既存建物の上部の未利用容積部分に増築建物を構築する。
【解決手段】 既存建物の上部に構築した増築建物を、既存建物に隣接する支持構造物から張り出させた吊構造支持部に吊設する工法であり、既存建物に隣接して支持構造物を構築する支持構造物の構築工程と、支持構造物の構築工程で構築した支持構造物から既存建物の上部に水平に張り出る吊構造支持部を構築する吊構造支持部の構築工程と、吊構造支持部の構築工程で構築した吊構造支持部から、吊材を介して吊床を順次下方に送り出すことによって、既存建物に向かって順次増床し、既存建物の上部空間に吊構造支持部によって吊設された増築建物を構築する増築建物の構築工程と、増築建物の構築工程によって構築された増築建物の下部と既存建物の上部との間を連結する既存建物と増築建物との連結工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の上部増床工法に関し、特に、都心部等の表通りに面する既存建物の未利用容積分の空間を有効に利用することができるとともに、街区の再開発、ヒートアイランド対策等の事業を行うのに有効な既存建物の上部増床工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、都心部等の表通りに面している既存建物は、未利用の容積を有していることが多く、この未利用の容積空間を有効に利用することが望まれている。既存建物の未利用の容積空間を有効利用する方法としては、「既存建物の上部に増築する」、「既存建物を地下躯体を残して建替える」、「既存建物を全面建替えする」、「既存建物を隣接地等と一緒に協同建替えする」等の方法がある。
【0003】
これらの方法のうち、既存建物の上部に増築する方法は、増築部分の荷重を下部の既存建物で受けるため、下部の既存建物を補強する必要が生じ、既存建物の1階部分の利用面積が減少してしまう。この場合、利用面積の減少の問題をなくすため、増築部分を支持する柱を既存建物の周囲に立てる方法もあるが、建物が密集している都心部等においては、スペースを確保することが困難であるため、実施が不可能である。
【0004】
また、地下躯体を残して建替える方法は、その地下躯体の信用度を確かめたり、地下の補強をすることが困難であるため、1階や地下部分の利用が制約されてしまう。
【0005】
さらに、既存建物を全面建替えする方法は、建物が密集している都心部等では、地下躯体を構築することが難しため、全面建替えが困難になる。
【0006】
さらに、協同建替えする方法は、複数の建物や地権者が存在する場合に、調整に時間や手間がかかる。
【0007】
さらに、地区レベルで上記のような事業を行う場合には、一旦、全ての居住者を移住させて、全ての建物を撤去しなければならないため、個々人の状況や個々の建物の状況により調整に非常に時間がかかり、また、耐用性のある建物をも撤去しなければならないため、無駄が生じてしまう。
【0008】
一方、上記のような問題に対処するため、市街地の既存建物を跨ぐ人工地盤を構築し、この人工地盤の上部に建替建物を構築し、建替建物が完成した後に既存建物から建替建物に移住し、この後に既存建物を解体し、既存建物の跡地に建替え建物を増築するように構成した建替工法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3350802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のような建替工法にあっては、市街地の既存の建物を跨ぐ大掛かりな人工地盤を構築しなければならないため、都心部等の建物が密集している地区においては人工地盤を支持する支柱の立設が困難になるため、適用可能な範囲が制限されてしまう。
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、都心部等の建物が密集している地区においても、既存の建物上部の未利用の容積部分に容易に増築建物を構築することができるとともに、街区全体の再開発、ヒートアイランド対策等を実施する場合に、居住したままの状態で再開発、ヒートアイランド対策を実施することができる、既存建物の上部増床工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
主たる解決手段は、既存建物の上部に増築建物を構築する既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物の上部に構築した増築建物を、前記既存建物に隣接する支持構造物から張り出させた吊構造支持部に吊設する工法であり、前記既存建物に隣接して支持構造物を構築する支持構造物の構築工程と、該支持構造物の構築工程で構築した支持構造物から前記既存建物の上部に水平に張り出る前記吊構造支持部を構築する吊構造支持部の構築工程と、該吊構造支持部の構築工程で構築した吊構造支持部から、吊材を介して吊床を順次下方に送り出すことによって、前記既存建物に向かって順次増床し、前記既存建物の上部空間に前記吊構造支持部によって吊設された前記増築建物を構築する増築建物の構築工程と、該増築建物の構築工程によって構築された増築建物の下部と前記既存建物の上部との間を連結する既存建物と増築建物との連結工程とを備えていることを特徴とする既存建物の上部増床工法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の既存建物の上部増床工法によれば、既存建物を撤去することなく、既存建物の上部に増築建物を構築することができるので、大規模の地下躯体の再構築が困難な既存建物であっても、既存建物の未利用容積部分を有効に利用することができる。従って、都心部等の表通りに面している既存建物の増床に有効に利用することができる。
【0014】
また、既存街区に適用することにより、既存建物を撤去することなく、既存建物に居住したままの状態で、人工地盤を構築することができ、この人工地盤を利用することにより、既存建物の上部に増築建物を構築したり、人工地盤の上部に公園等の緑化施設を構築したりすることができ、既存街区の再開発、ヒートアイランド対策等を行うことができ、環境保全に貢献できる街づくりを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による既存建物の上部増床工法の第1の実施の形態を示した説明図である。
【図2】本発明による既存建物の上部増床工法の第2の実施の形態を示した説明図である。
【図3】本発明による既存建物の上部増床工法の第3の実施の形態を示した説明図である。
【図4】本発明による既存建物の上部増床工法の第4の実施の形態を示した説明図である。
【図5】本発明による既存建物の上部増床工法の第5の実施の形態を示した説明図である。
【図6】本発明による既存建物の上部増床工法の第6の実施の形態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示す本発明の実施の形態について説明する。
なお、本明細書及び添付図面には、少なくとも以下の事項が開示されている。
【0017】
第1事項は、既存建物の上部に増築建物を構築する既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物の上部に構築した増築建物を、前記既存建物に隣接する支持構造物から張り出させた吊構造支持部に吊設することを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存建物の上部に構築した増築建物は、既存建物に隣接する支持構造物から張り出た吊構造支持部に吊設されることになる。
【0018】
また、第2事項は、第1事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物に隣接して支持構造物を構築する支持構造物の構築工程と、該支持構造物の構築工程で構築した支持構造物から前記既存建物の上部に張り出る前記吊構造支持部を構築する吊構造支持部の構築工程と、該吊構造支持部の構築工程で構築した吊構造支持部から前記既存建物に向かって順次増床し、前記既存建物の上部空間に前記吊構造支持部によって吊設された前記増築建物を構築する増築建物の構築工程と、該増築建物の構築工程によって構築された増築建物の下部と前記既存建物の上部との間を連結する既存建物と増築建物との連結工程とを備えていることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、支持構造物の構築工程において、既存建物に隣接する部分に支持構造物が構築され、吊構造支持部の構築工程において、支持構造物から既存建物の上部に張り出る吊構造支持部が構築される。そして、増築建物の構築工程において、吊構造支持部から既存建物の上部に向かって順次増床されて、吊構造支持部に吊設された状態で増築構造物が構築され、既存建物と増築建物との連結工程において、増築建物と既存建物との間が連結され、既存建物の未利用空間に増築建物が構築されることになる。
【0019】
さらに、第3事項は、第2事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記吊構造支持部の構築工程において、前記支持構造物の構築工程で構築した支持構造物の上部に前記吊構造支持部を構築し、該吊構造支持部を前記既存建物の上方まで延出させることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、吊構造支持部の構築工程において、支持構造物の構築工程で構築した支持構造物の上部に吊構造支持部が構築され、この吊構造支持部が既存建物の上方まで延出され、この吊構造支持部に吊設された状態で増築構造物が構築される。
【0020】
さらに、第4事項は、第2又は第3事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物と増築建物との連結工程の後に、前記既存建物を撤去する既存建物の撤去工程と、該既存建物の撤去工程で撤去した前記既存建物の跡地に建替建物を構築する建替建物の構築工程とを備えていることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存建物の撤去工程において、耐用年数の経過によって撤去する必要が生じた既存建物が撤去される。そして、建替建物の構築工程において、既存建物が撤去された跡地に建替建物が構築されることになる。
【0021】
さらに、第5事項は、第2又は第3事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物と増築建物との連結工程の後に、既存建物を上部から下部に向かって順次解体し、既存建物の解体に追従して増築建物を下方に延ばして、増築建物を再構築する既存建物の撤去・増築建物の再増築工程を備えていることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存建物の撤去・増築建物の再構築工程において、耐用年数の経過によって撤去する必要が生じた既存建物が上部から順次解体されるとともに、既存建物の解体に追従して増築建物が下方に向かって順次増床され、増築建物の先端が地上に到達することになる。
【0022】
さらに、第6事項は、第2又は第3事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物と増築建物との連結工程の後に、既存建物の撤去工程、吊構造支持部及び増築建物の降下工程、吊構造支持部の再構築工程、増築建物の再構築工程とを備えていることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存建物の撤去工程において既存建物を撤去した後に、吊構造支持部及び増築建物の降下工程において、既存建物の跡地に吊構造支持部及び増築建物が一体となって降下する。そして、吊構造支持部の再構築工程、増築建物の再構築工程において、支持構造物の上部に吊構造支持部が構築され、この吊構造支持部に吊設された状態で増築建物が再構築されることになる。
【0023】
さらに、第7事項は、第2事項から第6事項の何れかに記載の既存建物の上部増床工法であって、前記増築建物の構築工程は、下方から上方に向かって順次増床させて増築建物を構築することを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、増築建物の構築工程において、下方から上方に向かって順次増床されて、吊構造支持部に吊設された増築構造物が構築されることになる。
【0024】
さらに、第8事項は、第1事項から第7事項の何れかに記載の既存建物の上部増床工法であって、前記既存建物と前記支持構造物との間又は前記既存建物と前記増築建物との間の少なくとも何れか一方に制振装置を介装させたことを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存建物と支持構造物との間又は既存建物と増築建物との間の少なくとも一方に介装させた制振装置により、既存建物、支持構造物、及び増築建物が制振されることになる。
【0025】
さらに、第9事項は、第1事項から第8事項に記載の既存建物の上部増床工法における吊構造支持部を人工地盤とすることを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存街区の既存建物に隣接して支持構造物を構築し、この支持構造物に既存建物の上部に張り出る吊構造支持部を構築し、この吊り構造支持部を既存街区を覆う人工地盤とすることにより、既存建物の上部に吊構造支持部に吊設された増築建物を構築することができる。
【0026】
さらに、第10事項は、第9事項に記載の既存建物の上部増床工法であって、前記人工地盤の上部に、公園、庭園等の緑化施設を構築することを特徴とする。
本事項による既存建物の上部増床工法によれば、既存街区全体を覆う人工地盤の上部に公園、緑化施設を構築することにより、ヒートアイランド対策等を施すことができる。
【0027】
図1には、本発明による既存建物の上部増床工法の第1の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床方法は、都心部等の表通りに面している既存建物の未利用容積分の空間を利用して増築建物を構築するのに有効な工法であって、支持構造物の構築工程と、吊構造支持部の構築工程と、増築建物の構築工程と、増築建物と既存建物との連結工程とを備えている。
【0028】
(1)支持構造物の構築工程
支持構造物の構築工程は、都心部等の表通りに面している既存建物1に隣接する部分に支持構造物2を構築する工程であって、図1(a)に示すように、既存建物1に隣接する部分に既存建物1よりも高層のメグストラクチャー構造の支持構造物2を構築する。
【0029】
一般に、都心部等の表通りに面している既存建物1に隣接する部分、例えば、既存建物1の裏側の裏通りに面する部分等には、低密度の建物や時間貸し駐車場等の施設があることが多く、これらの建物や施設は容易に撤去することが可能であり、その撤去後の跡地に大掛かりな地下躯体を構築することも可能であるので、その撤去後の跡地に支持構造物2を構築する。なお、既存建物1に隣接する部分が空き地になっている場合には、そのまま支持構造物2を構築すればよい。
【0030】
支持構造物2は、梁、柱等を組み合わせて構成したメガストラクチャー構造であって、低密度の建物等を撤去した跡地に地下躯体を構築し、その地下躯体を基礎として既存建物1よりも高層の支持構造物2を構築する。
【0031】
支持構造物2は、後述する吊構造支持部3及び吊構造支持部3に吊設される増築建物6を支持するための支柱としてのみ使用してもよいし、居住用空間、オフィス用空間等と兼用してもよいし、階段、エレベーターシャフト等と兼用してもよい。支持構造物2は、1棟に限らず、2棟以上としてもよい。
【0032】
(2)吊構造支持部の構築工程
吊構造支持部の構築工程は、支持構造物の構築工程で構築した支持構造物2から既存建物1の上部に張り出る吊構造支持部3を構築する工程であって、例えば、図1(b)、(c)に示すように、支持構造物2の上部に吊構造支持部3を水平に構築し、吊構造支持部3の両端部を支持構造物2を中心として外方に延出させ、既存建物1の上方まで延出させる。
【0033】
この場合、支持構造物2の上部において、吊構造支持部3に吊材4を介して所定数の吊床5を取り付け、吊構造支持部3の両端部を支持構造物2から外方に延出させる際に、吊構造支持部3と一緒に吊床4及び吊材4を外方に送り出し、既存建物1の上方の所定の位置に位置決めする。
【0034】
吊構造支持部3は、梁、柱、ブレース等を組み合わせて構成したメガストラクチャー構造であって、この吊構造支持部3の両端部に既存建物1の上部に構築される増築建物6が吊設される。吊構造支持部3としては、増築建物6を吊設できる構造ものであれば特に制限はなく、例えば、トラス構造、可変形状トラス(Variable Geometry Truss)構造等が挙げられる。吊構造支持部3は、増築建物6を支持する用途のみに使用してもよいし、吊構造支持部3の内部を居住空間、オフィス空間等と兼用してもよい。
【0035】
なお、吊構造支持部3は、建替建物2の高さ方向の途中部分に設けてもよいし、工場等で製作した後に、支持構造物2の上部、途中部分に設けてもよい。
【0036】
(3)増築建物の構築工程
増築建物の構築工程は、図1(d)に示すように、吊構造支持部の構築工程で構築した吊構造支持部3の両端部に吊材4を介して取り付けた吊床5を順次下方に送り出し、吊構造支持3から既存建物1の上部に向かって所定の間隔ごとに吊床5を設置し、既存建物1の上部に複数階層の増築建物6を構築する。
【0037】
(4)増築建物と既存建物との連結工程
増築建物と既存建物との連結工程は、図1(e)に示すように、吊構造支持部3の両端に吊設した増築建物6の下部と、増築建物6の下方に位置する既存建物1の上部との間を連結する工程であって、両建物6、1間を柱、梁、ブレース等を介して連結する。この場合、両建物6、1間の連結部に必要に応じて、既存建物1の上部と増築建物6の下部との間を連結する階段等を設置する。
【0038】
そして、上述した支持構造物の構築工程、吊構造支持部の構築工程、増築建物の構築工程、及び増築建物と既存建物との連結工程を経ることにより、既存建物1を撤去することなく、既存建物1を使用したままの状態で、既存建物1の上部の未利用容積分の空間に増築建物6を構築することができる。
【0039】
図2には、本発明による既存建物の上部増床工法の第2の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床工法は、第1の実施の形態による既存建物の上部増床工法の4つの工程(支持構造物の構築工程、吊構造支持部の構築工程、増築建物の構築工程、及び増築建物と既存建物との連結工程)の後に、既存建物1を撤去する既存建物の撤去工程、及び既存建物1の撤去後の跡地に建替建物7を構築する建替建物の構築工程を備えたものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様であるので、第1の実施の形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0040】
(5)既存建物の撤去工程
既存建物の撤去工程は、図2(a)に示すように、既存建物1の上部に増築建物6を構築し、既存建物1と増築建物6とを連結した後に、図2(b)に示すように、耐用年数が経過したこと等を理由として既存建物1を撤去する工程であって、既存建物1の地下躯体を残して既存建物1の地上部の全体を解体し、撤去する。
【0041】
都心部等の表通りに面している部分には、建築基準に合致した優良建物が密集しており、これらの建物は当面の使用には何ら問題はないが、耐用年数の経過によって建替えの必要性が生じることがあり、そのような場合に有効に適用することができる。優良建物の地下躯体は、そのままでも強度的には問題はなく、十分に使用することができるので、その地下躯体を利用して既存建物1の撤去後の跡地に建替建物7を構築する。
【0042】
(6)建替建物の構築工程
建替建物の構築工程は、図2(c)に示すように、既存建物1の地上部を撤去した後の跡地に、既存建物1の地下躯体を基礎とする建替建物7を、その上方に位置している増築建物6に向かって構築し、建替建物7の構築後に、建替建物7の上部と増築建物6の下部との間を連結する。
このようにして、既存建物の撤去工程、及び建替建物の構築工程を経ることにより、既存建物1を、地下躯体を再構築することなく、建替えることができる。
【0043】
図3には、本発明による既存建物の上部増床工法の第3の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床工法は、第1の実施の形態の既存建物の上部増床工法の4つの工程(支持構造物の構築工程、吊構造支持部の構築工程、増築建物の構築工程、及び増築建物と既存建物との連結工程)の後に、既存建物の撤去・増築建物の再増築工程を備えたものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様であるので、第1の実施の形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0044】
(7)既存建物の撤去・増築建物の再増築工程
既存建物の撤去・増築建物の再増築工程は、既存建物1の上部に増築建物6を構築し、既存建物1と増築建物6とを連結した後に、耐用年数が経過したこと等を理由として既存建物1を撤去する際に、図3(a)、(b)に示すように、既存建物1を上部から下部向かって順次解体し、既存建物1の解体に追従して増築建物2を下方に延ばし、既存建物1を撤去した跡地に増築建物6の先端(下端部)を到達させる。
【0045】
このようにして、既存建物1を解体しながら、増築建物6を地上に向けて順次延ばしていくことにより、既存建物1の跡地に吊構造支持部3に吊設された増築建物6を構築することができる。
【0046】
図4には、本発明による既存建物の上部増床工法の第4の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床工法は、第1の実施の形態の既存建物の上部増床工法の4つの工程(支持構造物の構築工程、吊構造支持部の構築工程、増築建物の構築工程、及び増築建物と既存建物との連結工程)の後に、既存建物の撤去工程、吊構造支持部及び増築建物の降下工程、吊構造支持部の再構築工程、増築建物の再構築工程とを備えたものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様であるので、第1の実施の形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0047】
(8)既存建物の撤去工程
既存建物の撤去工程は、第2実施の形態の既存建物の撤去工程と同一の工程であって、既存建物1の上部に増築建物6を構築し、既存建物1と増築建物6とを連結した後に、図4(a)に示すように、耐用年数が経過したこと等を理由として既存建物1を撤去する。この場合にも、第2の実施の形態と同様に、既存建物1の地下躯体を残して既存建物1の地上部の全体を解体し、撤去する。
【0048】
(9)吊構造支持部及び増築建物の降下工程
この工程では、図4(b)に示すように、吊構造支持部3と増築建物6とを一体として降下させ、増築建物6を既存建物1の撤去後の跡地に到達させる。この場合、吊構造支持部3及び増築建物6は、吊材4によって支持構造物2の上部に支持されたままの状態とする。
【0049】
(10)吊り構造支持部の再構築工程、増築建物の再構築工程
この工程では、図4(c)に示すように、支持構造物2の上部に、吊構造支持部3を再構築し、この吊構造支持部3の両端部に増築建物6を再構築して吊設する。この場合、上側の増築建物6と下側の増築建物6との間を吊構造支持部3を介して相互に連結してもよい。
なお、前記各実施の形態においては、支持構造物2から両側に吊構造支持部3を延出させたが、複数方向に延出させてもよいし、片側のみに延出させてもよい。
【0050】
図5には、本発明による既存建物の上部増床工法の第5の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床工法は、第1の実施の形態の既存建物の上部増床工法の4つの工程(支持構造物の構築工程、吊構造支持部の構築工程、増築建物の構築工程、及び増築建物と既存建物との連結工程)を備え、増築建物の構築工程において、下方から上方に向かって順次増床させて増築建物を構築するように構成したものであって、その他の構成は前記第1の実施の形態に示すものと同様である。
【0051】
すなわち、この増築建物の構築工程においては、図5(b)〜(e)に示すように、吊構造支持部3に吊材4を介して吊床5を吊設し、この吊床5を既存建物2の上方の所定の位置に最下層として位置決めし、この吊床5から上方に向かって順次各階層を構築し、既存建物2の上部に所定階層の増築建物6を構築する。増築建物6の構造形式としては、メガトラス、フィーレンデールトラス等の構造を採用することができる。
【0052】
そして、増築建物6を構築した後に、図5(f)に示すように、既存建物1と増築建物6との間を連結する。この場合、必要に応じて、両建物1、6間の連結部に制振装置8を介装させてもよい。
【0053】
図6には、本発明による既存建物の上部増床工法の第6の実施の形態が示されていて、この既存建物の上部増床工法は、図6(a)に示すように、複数の大小の建物が建てられている街区の再開発、ヒートアイランド対策に適用したものである。
【0054】
すなわち、この既存建物の上部増床工法は、前述した第1〜第5の実施の形態によって構築される吊構造支持部3を人工地盤10としたものであって、図6(b)に示すように、既存建物1に隣接する部分に既存建物1よりも高層の支持構造物2を構築し、図6(c)に示すように、支持構造物2の上部に既存建物1の上方に張り出る吊構造支持部3を構築し、この吊構造支持部3を街区の複数の既存建物1の全体を覆う人工地盤10とする。そして、図6(d)に示すように、人工地盤10から下方に順次増床して、各既存建物1の上部空間に増築建物6を構築し、さらに、人工地盤10の上部に公園、庭園等の緑化施設11を構築する。
【0055】
このようにして、既存建物1に居住したままの状態で街区全体の再開発を行うことができるとともに、人工地盤10の上部に構築した公園、庭園等の緑化施設11によってヒートアイランド対策を施すこともでき、環境保全に大いに貢献することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 既存建物 2 支持構造物
3 吊構造支持部 4 吊材
5 吊床 6 増築建物
7 建替建物 8 制振装置
10 人工地盤 11 緑化施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の上部に増築建物を構築する既存建物の上部増床工法であって、
前記既存建物の上部に構築した増築建物を、前記既存建物に隣接する支持構造物から張り出させた吊構造支持部に吊設する工法であり、
前記既存建物に隣接して支持構造物を構築する支持構造物の構築工程と、
該支持構造物の構築工程で構築した支持構造物から前記既存建物の上部に水平に張り出る前記吊構造支持部を構築する吊構造支持部の構築工程と、
該吊構造支持部の構築工程で構築した吊構造支持部から、吊材を介して吊床を順次下方に送り出すことによって、前記既存建物に向かって順次増床し、前記既存建物の上部空間に前記吊構造支持部によって吊設された前記増築建物を構築する増築建物の構築工程と、
該増築建物の構築工程によって構築された増築建物の下部と前記既存建物の上部との間を連結する既存建物と増築建物との連結工程とを備えていることを特徴とする既存建物の上部増床工法。
【請求項2】
前記吊構造支持部の構築工程において、前記支持構造物の構築工程で構築した支持構造物の上部に前記吊構造支持部を構築し、該吊構造支持部を前記既存建物の上方まで延出させることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の上部増床工法。
【請求項3】
前記吊構造支持部は、メガストラクチャー構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の既存建物の上部増床工法。
【請求項4】
前記吊構造支持部は、トラス構造、又は、可変形状トラス構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の既存建物の上部増床工法。
【請求項5】
前記吊構造支持部の内部を、居住空間、又はオフィス空間と兼用することを特徴とする求項1〜4のいずれか1項に記載の既存建物の上部増床工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−163869(P2010−163869A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106320(P2010−106320)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2005−188748(P2005−188748)の分割
【原出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】