既存建物の免震化工法
【課題】 支柱の軸径を小さくしても座屈を起さずに施工を遂行できるように構成すると共に、免震構造化の後に撤去する部材の発生を無くして耐火被覆も最小限にした既存建物の免震化工法を提供する。
【解決手段】 本発明による既存建物の免震化工法は、スラブ4上にジャッキと上部荷重支持支柱6を配置して、既設柱の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリート16を打設し、次いでジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱6に移行させてから、既設柱を切断して免震装置25を既存柱とスラブ間に設置し、上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。
【解決手段】 本発明による既存建物の免震化工法は、スラブ4上にジャッキと上部荷重支持支柱6を配置して、既設柱の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリート16を打設し、次いでジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱6に移行させてから、既設柱を切断して免震装置25を既存柱とスラブ間に設置し、上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、既存建物の免震化工法に関し、特に、切断した既設柱の間に免震装置を安全確実に設置する既存建物の免震化工法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、既存建物に対する耐震補強対策が積極的に適用されており、このために既存建物の免震構造化技術の提案が数多くなされている。すでに提案されている既存建物の免震構造化技術は、大きく分けると、ジャッキを用いて既存建物をジャッキアップしながら上部構造体と切断した基礎部に免震装置を挿入、設置し、ジャッキダウンさせることで免震構造化する方式と、ジャッキを用いずに既設柱の周囲に補強用の支持体を介在させることで上部構造体を支持しながら基礎部に免震装置を挿入、設置し、その後に、補強用の支持体を切断除去することで免震構造化する方式に分類することが出来る。
【0003】上記ジャッキ方式の例を記述している特開平2―20767号公報には、最初に、既存建物の支持杭を掘り出し、その周囲に仮受けサポートを建て込んで、この仮受けサポートの上部にジャッキを設置し、仮受けサポート上のジャッキをジャッキアップすることで支持杭の軸力を仮受けサポートに盛り変えている。
【0004】軸力を盛り替えた後の作業は、軸力が開放された支持杭を解体して、支持杭に変わる鉄骨柱を建てることで鉄骨柱と既存建物との間に免震装置を設置し、その後にジャッキダウンすることで仮受けサポートの軸力を鉄骨柱に盛り替えして、既存建物を免震構造化する工程が代表的である。しかし、この方式では建物を支持する杭に免震装置を設置するために、杭が露出するまで地盤を掘削することが必須になっており、山止め壁の構築や排水処理の処置のように大掛かりな困難な作業を必要とし、特に、柱が負担する軸力が過大な場合には基礎梁の補強さえも必要になる等の下準備に膨大な手間と長期の工期を要する問題点を抱えている。
【0005】又、既存建物の柱を切断して免震構造化を図ろうとする方式も提案されている。しかしながら、いずれの方式も上部構造体の荷重を一時的に支持する必要があることから、スラブの上にジャッキを設定して、この上に支持支柱を配置することになり、支持支柱は座屈を避けながら上部構造体の荷重を軸力として受けなければならない。このために、相応の強度を持った嵩張った構造にならざるを得なくなっている。さらに、この支持支柱は建物の免震化の後は不要であり、かえって邪魔になることから切除することが必要になって、除去費用を要することになる。
【0006】一方、ジャッキを用いない例としては、特開平9―100634号公報に示されている方式がある。この方式では、既存柱51の表面仕上げを撤去し、既存柱51の切断する部分を除く上下部分に耐力に応じた埋め込みアンカージベル52、53を取り付けて置き、その外周にスタッドジベル54やグラウト仕切り板55を付設した柱巻き補強鋼板56を溶接付けで包み込んでいる(図10参照)。次いで、上下のスタットジベル54を配した部分にグラウトモルタルを注入硬化させ、既設柱51の中間部57をダイヤモンドチェーンカッターで切断して免震装置の設置部分を除去し(図11参照)、免震装置58を組み込んで既設柱51に挿入してから免震装置58の上下部分にグラウトモルタル注入のために開口部分を押え板59で塞いでいる(図12参照)。しかる後に、免震装置の上下部分にグラウトモルタルを注入し、硬化を待ってから柱巻き鋼板56をCUT線に沿って切断して免震装置付き既設柱50を完成している(図13参照)。
【0007】しかし、この方式では、柱巻き鋼板に施工時には支柱と型枠との機能を求めており、免震構造化の後には、コンクリート構造の主筋やせん断補強筋の役目を負担させているために、以下のような問題点を抱えている。
■ 上部構造を支えるために鋼鈑は厚いものに成り、重量が嵩んで運搬及び組み立てに人手だけでは処理できない困難さがある。
■ 鋼鈑の柱切断位置や増打コンクリートの打設開口を、予め切欠いて置く必要があるために、特殊な鋼鈑になってコスト上昇を招くことになる。
■ 鋼鈑と既存柱間の狭隘部に増打コンクリートを受けるために、せき板を設けなければならない。
■ 独立柱の場合には、容易に柱巻き鋼板をセットできるが、角柱や外壁等の壁に連なる柱の場合には柱巻き鋼板の取り付けが困難である。
■ 柱巻き鋼板の合わせ目を溶接しなければならない。
■ 免震装置取り付け後に、余分な鋼鈑は切除するために費用を要することになる。
■ 露出している柱巻き鋼板は、防火上表面に耐火被覆を施す必要がある。
■ 柱の切断時において、鋼管に荷重が移転するに際して梁等に上部荷重が不等に作用することでひび割れ等の発生を招く恐れがある。
【0008】又、既存建物の柱とジャッキを利用して免震構造化を図ろうとする改良された方式も、特開平10−299263号に紹介されている。本方式の概要は、最初に、図14(a)に示すように既存柱60の躯体表面に目荒らし処理を施してから既存柱の免震装置の取り付け部位67を除く上部61と下部62の外周に所定の配筋とPC鋼線63を配置して、コンクリートの増打64、65を施てから、PC鋼線を利用して円周方向にプレストレスを導入して既存柱を増打コンクリートで締め付けている。次いで、図14(b)に示すように上下の増打コンクリート64、65の端面間に支保用ジャッキ66を設置しており、既設柱60が負担している軸力を支保用ジャッキ66に盛り変えてから、既存柱60の免震装置の取り付け部位67を切除している。
【0009】図15(a)では、既存柱60の切除した部位67に免震装置68を取り付けている。免震装置68の取り付け後は、支保用ジャッキ66をジャッキダウンさせて支保用ジャッキ66から免震装置68への荷重の盛り替えを行なう。次いで、図15(b)のように支保用ジャッキ66をさらに緩めることで、支保用ジャッキ66を取り外しており、開示された工法は、以上の工程を経て既存建物の免震構造化を図っている。
【0010】しかし、この方式は、既存柱の上下部外周に設けた増打コンクリートで上部荷重の全てを支持しなければならないために、増打コンクリートはPC鋼線を利用して円周方向に強力なプレストレスを導入する必要がある。しかして、圧縮力に強い特性をコンクリートが本来的に備えているにしても、PC鋼線による強力なプレストレスを導入した増打コンクリートの構築は、鉄筋の綿密な配筋と所望のプレストレス機構を装備する必要があり、既設建物の免震構造化がコストアップにならざるを得ないという問題点を抱えていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上の状況に鑑みてその改善を図っているものであり、上部荷重を支持するためにスラブと既設柱に取り付く梁との間に構造の簡素な支柱を配置して、支柱の軸径を小さいものにしても座屈を起さずに施工を遂行できるように構成すると共に、免震構造化の後に撤去する部材の発生を無くして耐火被覆も最小限にした既存建物の免震化工法を提供している。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱の外周面と所定の距離を保ってスラブ上にジャッキを設置して、ジャッキ上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置する段階と、既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設する段階と、ジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させ、免震装置の取付位置に該当する既設柱を切断する段階と、既設柱の切断個所に免震装置を挿入し、免震装置を切断された上記既存柱に固定する段階と、ジャッキダウンによって上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。
【0013】これによって、上部荷重支持支柱は、増打コンクリートのせん断補強筋で一体に補強してから上部荷重を受けることで、その軸径を小さく抑えても座屈を防止できることになり、施工時の取り扱いを容易にしている。又、免震構造化を完成した後においても上部荷重支持支柱の切断個所をなくすると共に、耐火処置を最小にしている。さらに、上記上部荷重支持支柱を免震装置のメンテナンスにも再度活用できるようにしている。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱の外周面のスラブ上に設置したジャッキの上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置して、既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設し、しかる後にジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させてから、既設柱の免震装置取付位置を切断して免震装置を挿入し、免震装置を既存柱に固定した後に、上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】図1乃至6は、本発明による既存建物の免震化工法の施工手順を示している。図1は、既存建物を免震構造化に施工するために、既存建物の上部荷重を既存柱から上部荷重支持支柱に盛り替えるための準備工程を示している。図1(a)では、施工の準備を行っており、既設柱1の全長にわたり、仕上げをモルタルと共に撤去し、表面の目荒らしを行っている。尚、外周部の既存柱については、柱外面より1mの範囲の壁をはつり取るようにしている。次いで、柱を切断する際にダイヤモンドワイヤソーの回転スペースを確保する目的で、既存柱のコア抜き2を行うが、後述の作業で既存柱の切断部を撤去・搬出する際に切断片を分割して軽量化すると作業性が向上することから、柱を水平方向に2ヶ所で切断するだけでなく、この水平切断面の間で鉛直方向にも2ヶ所切断するようにして、コア抜きは図示のようにあらかじめ、2ヶ所×2段の計4ヶ所で行っている。尚、この際に柱・梁接合部にもフープ筋用のコア抜き3を行っておくことは、増打コンクリートの作業性を向上させることになる。
【0016】図1(b)では、スラブと既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置して上部荷重の盛り替え準備の工程を示している。本工程では、最初に既存柱の外周面から所定の間隔を確保して、スラブ4上にジャッキ5を設置するために調整ピース等の基礎部材を設置している。ジャッキ5の基礎部材は、地中梁の上部に位置するように留意し、必要に応じて無収縮モルタルの注入、キャンバー設置等を行って設定するジャッキ5の水平度を確保するように処置している。
【0017】次いで、基礎部材の上部にジャッキ5をセットし、ジャッキ5と既設柱1に取り付く梁8との間に、コンクリート充填鋼管から成る上部荷重支持支柱6を配置する。上述のように、ジャッキ5は、地中梁の上部に配置され上部荷重を支持するために、手押し水圧ポンプ等を利用して上部荷重支持支柱6と梁8を押し上げて、既設柱1に加えられていた長期軸力を開放できる体勢を整備している。尚、上部荷重支持支柱6の本数は、当該既存柱に取り付く梁の本数と同数とし、上部荷重支持支柱6の天端にはプレート7を取り付けてあり、上階の梁下端に密着させているが、密着しない場合は、必要に応じて無収縮モルタル注入、キャンバー設置を行って、梁8の下端と上部荷重支持支柱6を密着させるようにしている。
【0018】図2では、増打コンクリートの配筋(a)と、型枠建て込み及び増打コンクリートの打設(b)を行う工程を示している。増打コンクリートの配筋は、図2R>2(a)に示すように、増打部の縦筋を曲げ補強筋として上側の既設スラブ9と梁10内にケミカルアンカー11で定着している。又、増打部のフープ筋12は、後の工程で免震装置を設置するために撤去する部分を除いて、高強度スパイラルフープ筋を4本の上部荷重支持支柱6が4隅に位置するよう巻き立て配筋する。柱・梁接合部は梁を貫通して割フープ13を配筋後、溶接して一体化する。
【0019】次いで、既設柱1の切断撤去する部分から上方の増打部分について、図2(b)に示すように型枠14を建て込み、免震装置上部架台配筋用のアンカー15を所定の位置にセットしてから増打コンクリート16の打設を行っている。これによって、上部荷重支持支柱6は、免震装置を設置するために撤去する部分を除いて増打コンクリート16内に埋め込まれた状態で設置され、増打コンクリート16が所定の強度を発現するまで養生されると、増打コンクリートの縦主筋と同様にフープ筋12で補強された強固な状態を保持することになる。尚、上記免震装置上部架台配筋用のアンカー15は、既存柱の切断がし易いように機械式継手方式にしている。そして、既設柱1の増打部分に対するコンクリートは圧入工法によって打設し、上階のスラブ下まで確実に充填させている。
【0020】図3では、上部荷重の盛り替えと免震装置を設置するために、切り取り位置にある既存柱の1部を撤去する工程を示している。本工程では、先ず、手押し水圧ポンプ等を利用してジャッキ5をジャッキアップしている。これによって、ジャッキ上の上部荷重支持支柱6を押し上げることになり、既存柱1が分担している上部荷重による長期軸力を既設柱1から上部荷重支持支柱6に盛り替えている。この盛り替え作業に際しては、ジャッキ5に取り付けた荷重計でジャッキ5の負担軸力を慎重に確認して、ダイヤモンドワイヤソーによる既存柱1の切り取りに備えている。
【0021】次いで、既存柱の切り取り位置にダイヤモンドワイヤソーをセットし、既存柱1を鉛直・水平の順に分割して軽量化した切断片1’を撤去する。従って、既存柱1の切り取りと撤去は、上述の過程によってダイヤモンドワイヤソーの稼動が上部荷重の押圧力が全く存在しない状態で行えることから、極めて円滑に施工することが可能になる。そして、既存柱1が負担していた長期軸力は、既存柱1の切断によって上部荷重支持支柱6に盛り替えられ、上部荷重の全てを上部荷重支持支柱6とジャッキ5とが支持する状態になる。
【0022】既存柱の切断と撤去が行われて、上部荷重の全てを上部荷重支持支柱6が支持する状態になっても、本発明では、上述のように上部荷重支持支柱6の大部分が増打コンクリート16の中に補強された状態で保持されており、単独で露出しているのは免震装置を設置する切断面とスラブ4との間に残された狭い部分のみであるから、軸径の小さい上部荷重支持支柱6に上部荷重の盛り替えが行われても、上部荷重支持支柱6の座屈は殆ど発生することがない。
【0023】図4では、スラブ上に免震装置の架台の配筋(a)と、型枠建て込み及び架台コンクリートの打設(b)を行う工程を示している。免震装置の架台17は、スラブ4上に構築するが、架台の鉄筋18は、必要に応じてスラブ、地中梁内に樹脂アンカーで定着したうえでかご型に配筋19を行っている。次いで、図4(b)に示すように免震装置設置用の下部べースプレート20を所定のレベルにセットし、溶接で仮止めして架台の型枠21を建て込んで架台のコンクリート22を打設している。この際には、下部ベースプレート20の下部に空隙が生じないように圧入工法で確実に充填して、コンクリートが所定の強度を発現するまで養生する。
【0024】図5では、免震装置を下部ベースプレートにセットして、増打コンクリートで強化された上方の既存柱に免震装置を結合する工程を示している。この工程では、最初に上部ベースプレート24を取り付けた免震装置25を、スラブ4の上に構築された架台17の下部ベースプレート20にセットする。そして、免震装置上部架台26の鉄筋をコンクリート増打部16の鉄筋15に機械的に定着してかご型に配筋23を行なっている。次いで、免震装置25の上部ベースプレート24をコンクリート増打部16と補強された既存柱1等に結合する。この結合に際しては、上部ベースプレート24と既存柱1の切断面等との間に無収縮モルタル27を充填して一体化を図っており、無収縮モルタルが所定の強度を発現するまで養生する。
【0025】図6では、免震装置を増打コンクリートで強化された上方の既存柱に結合して、上部荷重の全てを免震装置に盛り替えた状態を示している。免震装置25の設置が完了すると、4本の上部荷重支持支柱6からジャッキ5を撤去し、上部荷重の全てを免震装置25に移行させるが、上部荷重支持支柱6からジャッキ5を撤去する作業は通常の手法で施工される。即ち、上部荷重支持支柱6の下部に介在させたジャッキ5をダウンさせることで、上部荷重支持支柱6から上部荷重を除去できるから、上部荷重の全ては上部荷重支持支柱6から既設柱に設置された免震装置25に簡単に盛り替えることができる。
【0026】以上の作業で、本発明による既存建物の免震構造化の主たる工程は完了するが、図示のようにこの状態でのスラブ4と上階の梁8との間には、既存柱1を補強した増打コンクリート16と上下の架台17、26に固定された免震装置25が存在するのみで、従来工法のように鋼管やPC鋼線のような余分の部材は殆ど存在していない。そして、増打コンクリート16の下部から露出している上部荷重支持支柱6は、構造的に何の荷重も負担していない状態にある。
【0027】図7は、図6の(A)―(A)矢視及び(B)―(B)矢視による平断面図(a)、(b)であり、上述の状態を更に明示している。既設柱1に免震装置25を設置する作業を完了させた後の状態は、平面図(a)に示すように、増打コンクリート16の中にコンクリート用の配筋と同様に上部荷重支持支柱6が埋設されているが、平面図(b)では、スラブ4上に免震装置25を配置した架台17が設置されている状態を示すのみで、上部荷重支持支柱6は表示されていないように、増打コンクリート16の外部には荷重を分担する状態の上部荷重支持支柱6や鉄筋等の露出部分がないことから、耐火処理は免震装置のみに耐火被覆材を取り付けるだけの施工で充分になっており、撤去して廃棄する部材もないのでコスト低減と施工効率の向上を達成している。
【0028】しかして、下端を部分的に露出させている上部荷重支持支柱6は、将来において免震装置25がメンテナンスを受けるために取り外され、点検後に再び装着されるかもしくは新規の免震装置に変換されるかの時に、上部荷重を免震装置から盛り替えするためにジャッキを装備する部材として保存されているものであり、免震機構の長期に亙る維持部材としても機能している。
【0029】図8、9は、従来のジャッキレス工法では施工が困難であった出隅部の柱と壁に連なる柱に対して、本発明を適用した実施の形態として示している。図8R>8は、出隅部の柱に適用した実施の形態であり、既設の出隅部の柱30に免震装置31を設置して既存建物の免震化を図っている。上部荷重支持支柱32は、出隅部の柱30に取り付いている梁33とこれに対応している地中梁との間に設置されており、増打コンクリート34は既設の出隅部の柱30と上部荷重支持支柱32とを取り囲んだ状態で配筋し、コンクリートを打設することで構築している。従って、出隅部の柱に対する本発明による既存建物の免震化工法の適用は、その施工が殆ど通常の現場作業と同等であって、何らの特殊な部材や特別の作業を伴っていないことから、コストや工期の面においても優れている。
【0030】図9は、外壁に連なる柱に適用した実施の形態であり、既設の柱40に免震装置41を設置して既存建物の免震化を図っている。上部荷重支持支柱42は、柱40に取り付いている梁43等とこれに対応する地中梁との間に設置されており、増打コンクリート44は既設柱40と上部荷重支持支柱42とを取り囲んだ状態で配筋し、コンクリートを打設することで構築されている。従って、既存建物の壁、特に外壁に連なる柱への本発明による免震化工法の適用は、上記実施の形態と同様にコストや工期の面において優れている。
【0031】以上のように、本発明による既存建物の免震化工法は、上部荷重を一時的に仮受けする上部荷重支持支柱を、増打コンクリートのせん断補強筋と増打コンクリートとで一体に補強してから、その下端に配置してあるジャッキをアップさせることで上部荷重を盛り替えさせると共に、施工が完了した後においては、上部荷重支持支柱の大部分を増打コンクリート内に埋設させて、免震装置を設置する間隙部分に存在する一部のみを荷重が加えられない状態で露出させているものであり、施工に際してはその軸径を小さく抑えても、盛り替えによって上部荷重を分担した際に座屈の発生を防止することが可能になっており、その構造を簡素に構成することで重量を軽くして施工時の取り扱いを容易にしている。又、免震構造化を完成した後においても、上部荷重支持支柱の露出個所を小さくできると共に荷重の負担がないので耐火処置の必要を無くしてコストの低減を図ることや、免震装置の点検や交換を必要とするときには、残存させてある上部荷重支持支柱の下端にジャッキをセットすることで再利用することを可能にしている。
【0032】以上、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明してきたが、本発明による既存建物の免震化工法は、上記実施の形態に何ら限定されるものでなく、その適用範囲、上部荷重支持支柱の具体的な構造や種類及び上部荷重の盛り替え手段等に関して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【0033】
【発明の効果】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱を切断して免震装置を設置するに際して、上部荷重を一時的に仮受けするジャッキ上の上部荷重支持支柱を、既設柱の増打コンクリートのせん断補強筋で一体に補強してコンクリートを打設すると共に、上部荷重支持支柱は、免震装置を設置する部分以外の大部分を増打コンクリート内に埋設させているので、ジャッキアップして上部荷重を盛り替えしても上部荷重支持支柱に座屈の心配が無くなり、上部荷重支持支柱を増打コンクリート中に残存させることで、以下の効果を発揮している。
■ 上部荷重支持支柱が、軸径もしくは鋼板厚の小さく薄いものになって軽量化が可能になり、運搬及び組み立てに人手だけで容易に対応できる。
■ 既設柱の増打コンクリートをPC鋼線等で補強する必要がない。
■ 上部荷重支持支柱が、簡素な構造になって製造コストの低減を図れる。
■ 出隅部の柱や外壁等の壁に連なる柱の場合にも容易に施工できる。
■ 鋼板の合わせ目溶接等が無くなって施工効率の向上を図れる。
■ 免震装置取り付け後の切除部分が無く、コスト低減になる。
■ 耐火被覆は、免震装置だけになって施工コストの削減になる。
■ 上部荷重支持支柱を免震装置のメンテナンスに活用できる。
【図面の簡単な説明】
【 図1】本発明による既存建物の免震化工法における上部荷重支持支柱の配置工程図
【 図2】既存柱と上部荷重支持支柱への増打コンクリートの施工工程図
【 図3】免震装置を設置するために既設柱の一部を撤去する工程図
【 図4】免震装置の架台施工図
【 図5】増打コンクリートで補強された既設柱への免震装置の設定図
【 図6】本発明による既存建物を免震化する工程の作業完了図
【 図7】図6の(A)−(A)矢視と(B)−(B)矢視図
【 図8】本発明を角柱に適用した実施の形態図
【 図9】本発明を壁に連なる柱に適用した実施の形態図
【 図10】従来の免震構造化工法における柱巻き補強鋼板の取り付け図
【 図11】従来の免震構造化工法における免震装置を設置するための鋼板切取図
【 図12】従来の免震構造化工法におけるモルタル注入図
【 図13】従来の免震構造化工法における免震装置の設置完了図
【 図14】従来の免震構造化工法における増打コンクリートの施工図
【 図15】従来の免震構造化工法における免震装置の設置完了図
【符号の説明】
1 既設柱、 2、3 コア抜き、 4 スラブ、 5 ジャッキ、6 上部荷重支持支柱、 8 梁、 12 フープ筋、13 割フープ、14 型枠、 15 上部架台のアンカー、16 増打コンクリート、17 架台、 18 鉄筋、 19 配筋、 20 下部ベースプレート、21 型枠、 22 架台のコンクリート、23 配筋、24 上部ベースプレート、 25 免震装置、 26 架台、27 無収縮コンクリート、30 出隅部の柱、 31、41 免震装置、32、42 上部荷重支持支柱、 33、43 梁、34、44 増打コンクリート、 40 壁に連なる柱、50 免震装置付き既設柱、 51 既設柱、52、53 アンカージベル、 54 スタッドジベル、56 柱巻き補強鋼板、 58 免震装置、60 既設柱、 61 既設柱の上部、 62 既設柱の下部、63 PC鋼線、 64、65 増打コンクリート、66 支保用ジャッキ、 67 免震装置取り付け部位、 68 免震装置、
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、既存建物の免震化工法に関し、特に、切断した既設柱の間に免震装置を安全確実に設置する既存建物の免震化工法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、既存建物に対する耐震補強対策が積極的に適用されており、このために既存建物の免震構造化技術の提案が数多くなされている。すでに提案されている既存建物の免震構造化技術は、大きく分けると、ジャッキを用いて既存建物をジャッキアップしながら上部構造体と切断した基礎部に免震装置を挿入、設置し、ジャッキダウンさせることで免震構造化する方式と、ジャッキを用いずに既設柱の周囲に補強用の支持体を介在させることで上部構造体を支持しながら基礎部に免震装置を挿入、設置し、その後に、補強用の支持体を切断除去することで免震構造化する方式に分類することが出来る。
【0003】上記ジャッキ方式の例を記述している特開平2―20767号公報には、最初に、既存建物の支持杭を掘り出し、その周囲に仮受けサポートを建て込んで、この仮受けサポートの上部にジャッキを設置し、仮受けサポート上のジャッキをジャッキアップすることで支持杭の軸力を仮受けサポートに盛り変えている。
【0004】軸力を盛り替えた後の作業は、軸力が開放された支持杭を解体して、支持杭に変わる鉄骨柱を建てることで鉄骨柱と既存建物との間に免震装置を設置し、その後にジャッキダウンすることで仮受けサポートの軸力を鉄骨柱に盛り替えして、既存建物を免震構造化する工程が代表的である。しかし、この方式では建物を支持する杭に免震装置を設置するために、杭が露出するまで地盤を掘削することが必須になっており、山止め壁の構築や排水処理の処置のように大掛かりな困難な作業を必要とし、特に、柱が負担する軸力が過大な場合には基礎梁の補強さえも必要になる等の下準備に膨大な手間と長期の工期を要する問題点を抱えている。
【0005】又、既存建物の柱を切断して免震構造化を図ろうとする方式も提案されている。しかしながら、いずれの方式も上部構造体の荷重を一時的に支持する必要があることから、スラブの上にジャッキを設定して、この上に支持支柱を配置することになり、支持支柱は座屈を避けながら上部構造体の荷重を軸力として受けなければならない。このために、相応の強度を持った嵩張った構造にならざるを得なくなっている。さらに、この支持支柱は建物の免震化の後は不要であり、かえって邪魔になることから切除することが必要になって、除去費用を要することになる。
【0006】一方、ジャッキを用いない例としては、特開平9―100634号公報に示されている方式がある。この方式では、既存柱51の表面仕上げを撤去し、既存柱51の切断する部分を除く上下部分に耐力に応じた埋め込みアンカージベル52、53を取り付けて置き、その外周にスタッドジベル54やグラウト仕切り板55を付設した柱巻き補強鋼板56を溶接付けで包み込んでいる(図10参照)。次いで、上下のスタットジベル54を配した部分にグラウトモルタルを注入硬化させ、既設柱51の中間部57をダイヤモンドチェーンカッターで切断して免震装置の設置部分を除去し(図11参照)、免震装置58を組み込んで既設柱51に挿入してから免震装置58の上下部分にグラウトモルタル注入のために開口部分を押え板59で塞いでいる(図12参照)。しかる後に、免震装置の上下部分にグラウトモルタルを注入し、硬化を待ってから柱巻き鋼板56をCUT線に沿って切断して免震装置付き既設柱50を完成している(図13参照)。
【0007】しかし、この方式では、柱巻き鋼板に施工時には支柱と型枠との機能を求めており、免震構造化の後には、コンクリート構造の主筋やせん断補強筋の役目を負担させているために、以下のような問題点を抱えている。
【0008】又、既存建物の柱とジャッキを利用して免震構造化を図ろうとする改良された方式も、特開平10−299263号に紹介されている。本方式の概要は、最初に、図14(a)に示すように既存柱60の躯体表面に目荒らし処理を施してから既存柱の免震装置の取り付け部位67を除く上部61と下部62の外周に所定の配筋とPC鋼線63を配置して、コンクリートの増打64、65を施てから、PC鋼線を利用して円周方向にプレストレスを導入して既存柱を増打コンクリートで締め付けている。次いで、図14(b)に示すように上下の増打コンクリート64、65の端面間に支保用ジャッキ66を設置しており、既設柱60が負担している軸力を支保用ジャッキ66に盛り変えてから、既存柱60の免震装置の取り付け部位67を切除している。
【0009】図15(a)では、既存柱60の切除した部位67に免震装置68を取り付けている。免震装置68の取り付け後は、支保用ジャッキ66をジャッキダウンさせて支保用ジャッキ66から免震装置68への荷重の盛り替えを行なう。次いで、図15(b)のように支保用ジャッキ66をさらに緩めることで、支保用ジャッキ66を取り外しており、開示された工法は、以上の工程を経て既存建物の免震構造化を図っている。
【0010】しかし、この方式は、既存柱の上下部外周に設けた増打コンクリートで上部荷重の全てを支持しなければならないために、増打コンクリートはPC鋼線を利用して円周方向に強力なプレストレスを導入する必要がある。しかして、圧縮力に強い特性をコンクリートが本来的に備えているにしても、PC鋼線による強力なプレストレスを導入した増打コンクリートの構築は、鉄筋の綿密な配筋と所望のプレストレス機構を装備する必要があり、既設建物の免震構造化がコストアップにならざるを得ないという問題点を抱えていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上の状況に鑑みてその改善を図っているものであり、上部荷重を支持するためにスラブと既設柱に取り付く梁との間に構造の簡素な支柱を配置して、支柱の軸径を小さいものにしても座屈を起さずに施工を遂行できるように構成すると共に、免震構造化の後に撤去する部材の発生を無くして耐火被覆も最小限にした既存建物の免震化工法を提供している。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱の外周面と所定の距離を保ってスラブ上にジャッキを設置して、ジャッキ上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置する段階と、既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設する段階と、ジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させ、免震装置の取付位置に該当する既設柱を切断する段階と、既設柱の切断個所に免震装置を挿入し、免震装置を切断された上記既存柱に固定する段階と、ジャッキダウンによって上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。
【0013】これによって、上部荷重支持支柱は、増打コンクリートのせん断補強筋で一体に補強してから上部荷重を受けることで、その軸径を小さく抑えても座屈を防止できることになり、施工時の取り扱いを容易にしている。又、免震構造化を完成した後においても上部荷重支持支柱の切断個所をなくすると共に、耐火処置を最小にしている。さらに、上記上部荷重支持支柱を免震装置のメンテナンスにも再度活用できるようにしている。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱の外周面のスラブ上に設置したジャッキの上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置して、既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設し、しかる後にジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させてから、既設柱の免震装置取付位置を切断して免震装置を挿入し、免震装置を既存柱に固定した後に、上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成されている。以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】図1乃至6は、本発明による既存建物の免震化工法の施工手順を示している。図1は、既存建物を免震構造化に施工するために、既存建物の上部荷重を既存柱から上部荷重支持支柱に盛り替えるための準備工程を示している。図1(a)では、施工の準備を行っており、既設柱1の全長にわたり、仕上げをモルタルと共に撤去し、表面の目荒らしを行っている。尚、外周部の既存柱については、柱外面より1mの範囲の壁をはつり取るようにしている。次いで、柱を切断する際にダイヤモンドワイヤソーの回転スペースを確保する目的で、既存柱のコア抜き2を行うが、後述の作業で既存柱の切断部を撤去・搬出する際に切断片を分割して軽量化すると作業性が向上することから、柱を水平方向に2ヶ所で切断するだけでなく、この水平切断面の間で鉛直方向にも2ヶ所切断するようにして、コア抜きは図示のようにあらかじめ、2ヶ所×2段の計4ヶ所で行っている。尚、この際に柱・梁接合部にもフープ筋用のコア抜き3を行っておくことは、増打コンクリートの作業性を向上させることになる。
【0016】図1(b)では、スラブと既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置して上部荷重の盛り替え準備の工程を示している。本工程では、最初に既存柱の外周面から所定の間隔を確保して、スラブ4上にジャッキ5を設置するために調整ピース等の基礎部材を設置している。ジャッキ5の基礎部材は、地中梁の上部に位置するように留意し、必要に応じて無収縮モルタルの注入、キャンバー設置等を行って設定するジャッキ5の水平度を確保するように処置している。
【0017】次いで、基礎部材の上部にジャッキ5をセットし、ジャッキ5と既設柱1に取り付く梁8との間に、コンクリート充填鋼管から成る上部荷重支持支柱6を配置する。上述のように、ジャッキ5は、地中梁の上部に配置され上部荷重を支持するために、手押し水圧ポンプ等を利用して上部荷重支持支柱6と梁8を押し上げて、既設柱1に加えられていた長期軸力を開放できる体勢を整備している。尚、上部荷重支持支柱6の本数は、当該既存柱に取り付く梁の本数と同数とし、上部荷重支持支柱6の天端にはプレート7を取り付けてあり、上階の梁下端に密着させているが、密着しない場合は、必要に応じて無収縮モルタル注入、キャンバー設置を行って、梁8の下端と上部荷重支持支柱6を密着させるようにしている。
【0018】図2では、増打コンクリートの配筋(a)と、型枠建て込み及び増打コンクリートの打設(b)を行う工程を示している。増打コンクリートの配筋は、図2R>2(a)に示すように、増打部の縦筋を曲げ補強筋として上側の既設スラブ9と梁10内にケミカルアンカー11で定着している。又、増打部のフープ筋12は、後の工程で免震装置を設置するために撤去する部分を除いて、高強度スパイラルフープ筋を4本の上部荷重支持支柱6が4隅に位置するよう巻き立て配筋する。柱・梁接合部は梁を貫通して割フープ13を配筋後、溶接して一体化する。
【0019】次いで、既設柱1の切断撤去する部分から上方の増打部分について、図2(b)に示すように型枠14を建て込み、免震装置上部架台配筋用のアンカー15を所定の位置にセットしてから増打コンクリート16の打設を行っている。これによって、上部荷重支持支柱6は、免震装置を設置するために撤去する部分を除いて増打コンクリート16内に埋め込まれた状態で設置され、増打コンクリート16が所定の強度を発現するまで養生されると、増打コンクリートの縦主筋と同様にフープ筋12で補強された強固な状態を保持することになる。尚、上記免震装置上部架台配筋用のアンカー15は、既存柱の切断がし易いように機械式継手方式にしている。そして、既設柱1の増打部分に対するコンクリートは圧入工法によって打設し、上階のスラブ下まで確実に充填させている。
【0020】図3では、上部荷重の盛り替えと免震装置を設置するために、切り取り位置にある既存柱の1部を撤去する工程を示している。本工程では、先ず、手押し水圧ポンプ等を利用してジャッキ5をジャッキアップしている。これによって、ジャッキ上の上部荷重支持支柱6を押し上げることになり、既存柱1が分担している上部荷重による長期軸力を既設柱1から上部荷重支持支柱6に盛り替えている。この盛り替え作業に際しては、ジャッキ5に取り付けた荷重計でジャッキ5の負担軸力を慎重に確認して、ダイヤモンドワイヤソーによる既存柱1の切り取りに備えている。
【0021】次いで、既存柱の切り取り位置にダイヤモンドワイヤソーをセットし、既存柱1を鉛直・水平の順に分割して軽量化した切断片1’を撤去する。従って、既存柱1の切り取りと撤去は、上述の過程によってダイヤモンドワイヤソーの稼動が上部荷重の押圧力が全く存在しない状態で行えることから、極めて円滑に施工することが可能になる。そして、既存柱1が負担していた長期軸力は、既存柱1の切断によって上部荷重支持支柱6に盛り替えられ、上部荷重の全てを上部荷重支持支柱6とジャッキ5とが支持する状態になる。
【0022】既存柱の切断と撤去が行われて、上部荷重の全てを上部荷重支持支柱6が支持する状態になっても、本発明では、上述のように上部荷重支持支柱6の大部分が増打コンクリート16の中に補強された状態で保持されており、単独で露出しているのは免震装置を設置する切断面とスラブ4との間に残された狭い部分のみであるから、軸径の小さい上部荷重支持支柱6に上部荷重の盛り替えが行われても、上部荷重支持支柱6の座屈は殆ど発生することがない。
【0023】図4では、スラブ上に免震装置の架台の配筋(a)と、型枠建て込み及び架台コンクリートの打設(b)を行う工程を示している。免震装置の架台17は、スラブ4上に構築するが、架台の鉄筋18は、必要に応じてスラブ、地中梁内に樹脂アンカーで定着したうえでかご型に配筋19を行っている。次いで、図4(b)に示すように免震装置設置用の下部べースプレート20を所定のレベルにセットし、溶接で仮止めして架台の型枠21を建て込んで架台のコンクリート22を打設している。この際には、下部ベースプレート20の下部に空隙が生じないように圧入工法で確実に充填して、コンクリートが所定の強度を発現するまで養生する。
【0024】図5では、免震装置を下部ベースプレートにセットして、増打コンクリートで強化された上方の既存柱に免震装置を結合する工程を示している。この工程では、最初に上部ベースプレート24を取り付けた免震装置25を、スラブ4の上に構築された架台17の下部ベースプレート20にセットする。そして、免震装置上部架台26の鉄筋をコンクリート増打部16の鉄筋15に機械的に定着してかご型に配筋23を行なっている。次いで、免震装置25の上部ベースプレート24をコンクリート増打部16と補強された既存柱1等に結合する。この結合に際しては、上部ベースプレート24と既存柱1の切断面等との間に無収縮モルタル27を充填して一体化を図っており、無収縮モルタルが所定の強度を発現するまで養生する。
【0025】図6では、免震装置を増打コンクリートで強化された上方の既存柱に結合して、上部荷重の全てを免震装置に盛り替えた状態を示している。免震装置25の設置が完了すると、4本の上部荷重支持支柱6からジャッキ5を撤去し、上部荷重の全てを免震装置25に移行させるが、上部荷重支持支柱6からジャッキ5を撤去する作業は通常の手法で施工される。即ち、上部荷重支持支柱6の下部に介在させたジャッキ5をダウンさせることで、上部荷重支持支柱6から上部荷重を除去できるから、上部荷重の全ては上部荷重支持支柱6から既設柱に設置された免震装置25に簡単に盛り替えることができる。
【0026】以上の作業で、本発明による既存建物の免震構造化の主たる工程は完了するが、図示のようにこの状態でのスラブ4と上階の梁8との間には、既存柱1を補強した増打コンクリート16と上下の架台17、26に固定された免震装置25が存在するのみで、従来工法のように鋼管やPC鋼線のような余分の部材は殆ど存在していない。そして、増打コンクリート16の下部から露出している上部荷重支持支柱6は、構造的に何の荷重も負担していない状態にある。
【0027】図7は、図6の(A)―(A)矢視及び(B)―(B)矢視による平断面図(a)、(b)であり、上述の状態を更に明示している。既設柱1に免震装置25を設置する作業を完了させた後の状態は、平面図(a)に示すように、増打コンクリート16の中にコンクリート用の配筋と同様に上部荷重支持支柱6が埋設されているが、平面図(b)では、スラブ4上に免震装置25を配置した架台17が設置されている状態を示すのみで、上部荷重支持支柱6は表示されていないように、増打コンクリート16の外部には荷重を分担する状態の上部荷重支持支柱6や鉄筋等の露出部分がないことから、耐火処理は免震装置のみに耐火被覆材を取り付けるだけの施工で充分になっており、撤去して廃棄する部材もないのでコスト低減と施工効率の向上を達成している。
【0028】しかして、下端を部分的に露出させている上部荷重支持支柱6は、将来において免震装置25がメンテナンスを受けるために取り外され、点検後に再び装着されるかもしくは新規の免震装置に変換されるかの時に、上部荷重を免震装置から盛り替えするためにジャッキを装備する部材として保存されているものであり、免震機構の長期に亙る維持部材としても機能している。
【0029】図8、9は、従来のジャッキレス工法では施工が困難であった出隅部の柱と壁に連なる柱に対して、本発明を適用した実施の形態として示している。図8R>8は、出隅部の柱に適用した実施の形態であり、既設の出隅部の柱30に免震装置31を設置して既存建物の免震化を図っている。上部荷重支持支柱32は、出隅部の柱30に取り付いている梁33とこれに対応している地中梁との間に設置されており、増打コンクリート34は既設の出隅部の柱30と上部荷重支持支柱32とを取り囲んだ状態で配筋し、コンクリートを打設することで構築している。従って、出隅部の柱に対する本発明による既存建物の免震化工法の適用は、その施工が殆ど通常の現場作業と同等であって、何らの特殊な部材や特別の作業を伴っていないことから、コストや工期の面においても優れている。
【0030】図9は、外壁に連なる柱に適用した実施の形態であり、既設の柱40に免震装置41を設置して既存建物の免震化を図っている。上部荷重支持支柱42は、柱40に取り付いている梁43等とこれに対応する地中梁との間に設置されており、増打コンクリート44は既設柱40と上部荷重支持支柱42とを取り囲んだ状態で配筋し、コンクリートを打設することで構築されている。従って、既存建物の壁、特に外壁に連なる柱への本発明による免震化工法の適用は、上記実施の形態と同様にコストや工期の面において優れている。
【0031】以上のように、本発明による既存建物の免震化工法は、上部荷重を一時的に仮受けする上部荷重支持支柱を、増打コンクリートのせん断補強筋と増打コンクリートとで一体に補強してから、その下端に配置してあるジャッキをアップさせることで上部荷重を盛り替えさせると共に、施工が完了した後においては、上部荷重支持支柱の大部分を増打コンクリート内に埋設させて、免震装置を設置する間隙部分に存在する一部のみを荷重が加えられない状態で露出させているものであり、施工に際してはその軸径を小さく抑えても、盛り替えによって上部荷重を分担した際に座屈の発生を防止することが可能になっており、その構造を簡素に構成することで重量を軽くして施工時の取り扱いを容易にしている。又、免震構造化を完成した後においても、上部荷重支持支柱の露出個所を小さくできると共に荷重の負担がないので耐火処置の必要を無くしてコストの低減を図ることや、免震装置の点検や交換を必要とするときには、残存させてある上部荷重支持支柱の下端にジャッキをセットすることで再利用することを可能にしている。
【0032】以上、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明してきたが、本発明による既存建物の免震化工法は、上記実施の形態に何ら限定されるものでなく、その適用範囲、上部荷重支持支柱の具体的な構造や種類及び上部荷重の盛り替え手段等に関して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【0033】
【発明の効果】本発明による既存建物の免震化工法は、既設柱を切断して免震装置を設置するに際して、上部荷重を一時的に仮受けするジャッキ上の上部荷重支持支柱を、既設柱の増打コンクリートのせん断補強筋で一体に補強してコンクリートを打設すると共に、上部荷重支持支柱は、免震装置を設置する部分以外の大部分を増打コンクリート内に埋設させているので、ジャッキアップして上部荷重を盛り替えしても上部荷重支持支柱に座屈の心配が無くなり、上部荷重支持支柱を増打コンクリート中に残存させることで、以下の効果を発揮している。
【図面の簡単な説明】
【 図1】本発明による既存建物の免震化工法における上部荷重支持支柱の配置工程図
【 図2】既存柱と上部荷重支持支柱への増打コンクリートの施工工程図
【 図3】免震装置を設置するために既設柱の一部を撤去する工程図
【 図4】免震装置の架台施工図
【 図5】増打コンクリートで補強された既設柱への免震装置の設定図
【 図6】本発明による既存建物を免震化する工程の作業完了図
【 図7】図6の(A)−(A)矢視と(B)−(B)矢視図
【 図8】本発明を角柱に適用した実施の形態図
【 図9】本発明を壁に連なる柱に適用した実施の形態図
【 図10】従来の免震構造化工法における柱巻き補強鋼板の取り付け図
【 図11】従来の免震構造化工法における免震装置を設置するための鋼板切取図
【 図12】従来の免震構造化工法におけるモルタル注入図
【 図13】従来の免震構造化工法における免震装置の設置完了図
【 図14】従来の免震構造化工法における増打コンクリートの施工図
【 図15】従来の免震構造化工法における免震装置の設置完了図
【符号の説明】
1 既設柱、 2、3 コア抜き、 4 スラブ、 5 ジャッキ、6 上部荷重支持支柱、 8 梁、 12 フープ筋、13 割フープ、14 型枠、 15 上部架台のアンカー、16 増打コンクリート、17 架台、 18 鉄筋、 19 配筋、 20 下部ベースプレート、21 型枠、 22 架台のコンクリート、23 配筋、24 上部ベースプレート、 25 免震装置、 26 架台、27 無収縮コンクリート、30 出隅部の柱、 31、41 免震装置、32、42 上部荷重支持支柱、 33、43 梁、34、44 増打コンクリート、 40 壁に連なる柱、50 免震装置付き既設柱、 51 既設柱、52、53 アンカージベル、 54 スタッドジベル、56 柱巻き補強鋼板、 58 免震装置、60 既設柱、 61 既設柱の上部、 62 既設柱の下部、63 PC鋼線、 64、65 増打コンクリート、66 支保用ジャッキ、 67 免震装置取り付け部位、 68 免震装置、
【特許請求の範囲】
【請求項1】 既設柱の外周面と所定の距離を保ってスラブ上にジャッキを設置して該ジャッキの上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置する段階と、該既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に該上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設する段階と、ジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させ、免震装置の取付位置に該当する既設柱を切断する段階と、該既設柱の切断個所に免震装置を挿入し、該免震装置を切断された上記既存柱に固定する段階と、ジャッキダウンによって上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成される既存建物の免震化工法。
【請求項1】 既設柱の外周面と所定の距離を保ってスラブ上にジャッキを設置して該ジャッキの上部と既設柱に取り付く梁との間に上部荷重支持支柱を配置する段階と、該既設柱の免震装置を取り付ける切断位置の上方に該上部荷重支持支柱を囲んで増打コンクリートを打設する段階と、ジャッキアップによって上部荷重を上部荷重支持支柱に移行させ、免震装置の取付位置に該当する既設柱を切断する段階と、該既設柱の切断個所に免震装置を挿入し、該免震装置を切断された上記既存柱に固定する段階と、ジャッキダウンによって上部荷重を免震装置に移行してジャッキを撤去する段階から構成される既存建物の免震化工法。
【図3】
【図5】
【図6】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図10】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2001−193289(P2001−193289A)
【公開日】平成13年7月17日(2001.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−5709(P2000−5709)
【出願日】平成12年1月6日(2000.1.6)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成13年7月17日(2001.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成12年1月6日(2000.1.6)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]