説明

既存杭を利用した新設基礎の建築方法及び同方法により建築された基礎

【課題】 既存杭と新設杭を併用する基礎の建築方法において、既存の杭の健全性の程度および新設建物建築後に発生する応力に従って、既存杭の杭頭と既存基礎及び新設基礎との接合方法を調整することで、既存杭と既存基礎を最大限に利用することが可能な基礎の建築方法を提供することを課題とする。
【解決方法】 既存の杭と、その杭の上部に位置する既存のパイルキャップと既存の底版を利用して新たな杭と基礎を新設する建築方法であって、既存の底版に開口を設けて新たな杭を設けると共に、既存杭の健全性にしたがって、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との接合状態を剛接合からピン接合の間で調節する若しくは完全に離隔する新設基礎の建築方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の基礎の建築方法および同方法によって建築された基礎に関するものであり、特に、既存の杭とその杭の上部に位置する既存のパイルキャップと既存の基礎底版を利用して新たな杭と基礎を建築する方法と同方法によって建築された建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2000−45295号公報(特許文献1)は、既存杭と新設杭とを混在させて構成する新設建築物の杭基礎において、既存杭と新設杭の沈下特性が異なることに着目し、再利用する既存杭の応力度を許容値以下に抑えることができるように改良した既存杭混在型杭基礎構造と同基礎構造の施工方法に関する発明を開示する。特許文献1に記載された既存杭混在型杭基礎構造によれば、基礎版に有底孔あるいは蓋をした貫通孔を設けて既存杭を嵌入させ既存杭の上端との間に空隙を形成することを特徴としている。
【0003】
具体的には、既存杭の頭部には、複数の中空孔が上端面に均一に配設してある。中空孔の底面には鋼製の底板が敷設されていて、弾塑性体状材料が既存杭頭部に敷設されるのを受け支えている。当該構造は、杭頭上部に弾性体を設けることによって、基礎版から既存杭に対して所定値以上の鉛直荷重が加わることが無いように考慮されている。しかし、特許文献1に記載の構造では、既存の杭頭に加えられる曲げモーメントを制御することについては、格別な配慮はされていない。
【0004】
また、特開2000-45296号公報(特許文献2)は、基礎版に再利用する既存杭と新設杭とを混在させて構成する杭基礎構造において、基礎版と既存杭との間に軸応力を伝達しない緩衝材を介在させることを特徴とする既存杭混在型杭基礎構造を開示するものである。既存杭には水平力のみを分担させるようにして再利用する既存杭の応力度を許容値以下に抑えることができるように改良した既存杭混在型杭基礎構造を提供する。当該既存杭混在型杭基礎構造は、基礎版と既存杭との間に緩衝材を介在させる。具体的には、基礎版に有底孔を設けて既存杭を嵌入させ既存杭の上端と有底孔の底部との間に間隙を形成したり、基礎版に貫通孔を設けて既存杭を嵌入させ既存杭の上端と基礎版上面との間に間隙を形成することを特徴としている。
【0005】
特許文献2に記載された発明は、既存杭に鉛直方向の荷重を負担させず、水平方向の荷重と杭頭に加わる曲げモーメントだけを負担させることを目的としている。
【0006】
また、特開2000-154549号公報(特許文献3)は、既存基礎スラブ及び既存杭等の既存基礎を残留させ、前記既存基礎スラブの要所に新設杭用の通孔を設け、この通孔を貫通させて新設杭を施工し、この後前記新設杭の杭頭上に新設基礎スラブを、この新設基礎スラブと前記既存基礎スラブとの間に滑り層と弾性体とが介在するようにして既存杭に自身時の水平力が掛からないようにすることを特徴とする既存基礎再利用工法を開示するものである。
【0007】
当該方法によれば既存杭は既存基礎スラブに接合されたままで残るので、杭頭部の回転が拘束されており、地盤が変形するなどによって杭頭に生じる水平力および曲げモーメントの低減については配慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
従来は、既存杭や新設杭にかかわらず、杭の主筋をパイルキャップに定着して両者を緊結し、確実に荷重伝達を行う剛接合とすることが一般的であった。このため、既存杭の主筋を、新設するパイルキャップ内に定着させるため、既存のパイルキャップを解体して主筋を露出させる措置がとられてきた。
これに対し、本願発明では、杭とパイルキャップないしは基礎スラブとを主筋で繋がない半剛接合を適用するため、杭頭部の主筋をはつりだす必要がない。また、評価方法を工夫することにより、四角形となるパイルキャップ面での半剛接挙動も評価可能となったことから、既存杭と新設基礎スラブとの接合位置を、杭頭でなく既存パイルキャップ上部にすることも可能となっている。
【特許文献1】特開2000−45295号公報
【特許文献2】特開2000−45296号公報
【特許文献3】特開2000−154549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術が有する上記の課題を解決することを目的としたものであって、既存杭と新設杭を併用する基礎の建築方法において、新設建物建築後に発生する応力に従って、既存杭の上部に位置するパイルキャップと新設基礎との接合方法を調整することで杭頭に作用する曲げモーメントあるいは水平荷重を制御して、既存杭に作用する応力を許容値以下にするとともに、既存杭と既存基礎を最大限に利用することが可能な基礎の建築方法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明はさらに、既存基礎によって既存杭頭の回転拘束することを緩和する基礎構造の建築方法、あるいは、既存の杭頭と新設基礎版との曲げモーメント伝達を制限する基礎構造の建築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本出願では、既存の杭と、その杭の上部に位置する既存のパイルキャップと既存の底版を利用して新たな杭と基礎を新設する建築方法であって、既存の底版に開口を設けて新たな杭を設けると共に、既存杭の健全性にしたがって、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との接合状態を剛接合からピン接合の間で調節する若しくは完全に離隔する新設基礎の建築方法を提供する。
【0012】
上記方法において、新設基礎は、新設杭と新設基礎版とを有する。既存杭の健全性とは、新設基礎の建築を行う時点における応力負担能力を意味しており、既存杭を露出させて行う外観調査、長さ(実寸)調査、コンクリートのヤング率と強度試験、中性化深度試験、鉄筋の引張試験、杭体の深さに渡って亀裂・ひび割れなどがないことを確認するインティグリティ試験等の試験によって判断される。例えば、鉄筋やコンコリートが所定の強度に達しない場合や杭体の深さ方向のある部分に亀裂やひび割れがあることが確認された場合は、既存杭は健全でないと判断される。健全でないと判断された既存杭は、鉛直力、曲げモーメント、水平荷重を設計上期待することは適切でないと判断される。
剛接合からピン接合の間とは、既存の杭の鉛直方向の鉄筋や既存のパイルキャップの鉛直方向の鉄筋を新設基礎に定着させる剛接合、これらの鉄筋を新設基礎に定着させない半剛接合、ピン支持等である。
【0013】
本発明においては、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と既存底版との間に溝を設けて既存杭の杭頭の固定度を低減することもできる。
【0014】
前記溝は既存底版を厚さ方向に貫通するものであっても良いし、厚さ方向に一定の深さまで切込みを入れただけのものであっても良い。既存杭の杭頭の固定度を必要に応じて低減するものであれば良い。また、溝は、既存のパイルキャップの周囲を完全に囲むものであっても良いし、完全には閉じた形状でなくても良い。
【0015】
既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との接触面積を既存杭の杭頭の水平断面積より小さくして固定度を低減することもできる。新設基礎との接触面積を既存杭の杭頭の水平断面積より小さくすることによって、杭頭の支持状態はいわゆる半剛接合と称する状態になる。その際、構造計算上は既存杭の杭頭は新設基礎の底面にピン接合あるいは曲げモーメントに対応して所定の剛性を有する接合と評価することができる。
【0016】
杭頭と新設基礎との接触面における曲げモーメントおよび鉛直力と変形角の関係については以下の手法で求めることができる。すなわち、接触面の断面積および非線形性を考慮した材料剛性を設定し、接触面に生じる曲げモーメントおよび鉛直力に対する、変形条件を適合させた接触面の変形量を算定し、接触面の変形角を求める。接触面に生じる曲げモーメントおよび鉛直力を随時増加させ、その増加分に伴う接触面の変形角増加分を同様に算定する。これを繰り返すことにより、接触面の曲げモーメントおよび鉛直力と変形角の関係が得られる。当該手法については、今井和正,是永健好,瀧口克己「めり込みを考慮したRC部材端部の回転変形解析法」日本建築学会構造系論文集 第562号, pp99-106, 2002年12月に詳しい。
【0017】
本発明ではさらに、先に示した試験の結果、健全でないと判断した既存杭と新設基礎との間で荷重(鉛直力、曲げモーメント、水平荷重)の伝達が行われないよう、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との間に空隙又は弾性体を設け、完全に離隔させることもできる。本発明はさらに、前記建築方法によって建築された基礎に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、既存杭、既存基礎および既存の建物の概念図である。
【図2】図2は、既存の建物を取り壊した状態を示す概念図である。
【図3】図3は、本発明に基づき既存杭と既存基礎に新設杭と新設基礎を追加した状態を示す概念図である。
【図4】図4は、本発明に基づいて新設された基礎の上に骨組みを立設した状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、実施例に基づいて本発明の具体的な態様を説明するが、実施例は発明の理解を助けるために記載するに過ぎないものであるから、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではないことはいうまでも無い。
【実施例】
【0020】
図1は、既存杭200に支持された基礎100によって支持された既存建物500を示す概念図である。既存杭200は杭頭部にパイルキャップ220を有し、パイルキャップ220は基礎100と一体となって建物500を支持している。建物500の地下部分の側面は、地中壁120に接している。
【0021】
図2は、既存建物500を取り除いた状態を示した概念図である。既存の杭200、パイルキャップ220、基礎100および地中壁120はそのまま残して、建物500だけを解体撤去した状態である。
【0022】
図3は、既存杭200、202、204と基礎100の大部分を残し、さらに、新設杭400と新設基礎300を建築した状態を示した概念図である。既存杭200、202、204の上部に位置する既存パイルキャップ220、222、224と、これに連続する基礎底版であるの既存基礎100および新設基礎300との接合方法は、既存杭や既存パイルキャップ健全性を考慮して、建物を新築後に既存杭や既存パイルキャップに発生する応力が許容値以下になるように設定する。健全性の判断には、設計図や施工記録の確認、既存杭や既存パイルキャップを露出させて行う外観調査、寸法調査、コンクリートのヤング率と強度試験、中性化深度試験、鉄筋の引張試験、杭体の深さに渡って亀裂・ひび割れなどがないことを確認するインティグリティ試験が行われる。材料試験の結果、既存杭のコンクリート強度や鉄筋の強度が低い場合は、既存杭の強度を低く評価にすることとなる。また、既存杭の構築後長い年月が経過したような場合や設計情報が充実していない場合などは、その程度に応じて杭強度を算定するための材料強度を低減させて評価する。既存杭の材料強度の低減の方法を式(1)に示す。

強度低減率α = α1×α2×α3×α4×α5 ---------------------式(1)

α1:0.9〜1.0、設計情報の充実度を表す係数
α2:0.8〜1.0、試験片の抜取率に比例
α3:0.9〜1.0、既存建物の経年劣化係数
α4:0.9〜1.0、上部架構の地震時構造検証法の確かさ
α5:0.9〜1.0、地盤ならびに杭の地震時構造検証法の確かさ

このように、材料強度が低い場合や式(1)の値により強度低減が必要な場合は、既存杭に大きな曲げモーメントや水平力を負担させることができない可能性がある。そこで既存杭202の上部に位置する既存パイルキャップ222の周囲に既存基礎100を貫通するように溝360を設けて、既存パイルキャップ222と既存基礎100とを切り離し、かつ、既存パイルキャップ222の上面と新設基礎300とが接する面には既存パイルキャップ222の外周部に緩衝体370を設け、既存パイルキャップ222と新設基礎300との接触面積を小さくし、既存杭202や既存パイルキャップ222の鉛直方向の鉄筋を新築基礎300に定着させないことで、曲げモーメントの伝達を制限することができる。緩衝体370の材料として、例えば硬質ゴム、木材、スタイロフォームのような弾性体、強度の低い弾塑性体を用いるが、これを限定するものではない。接触面積を調整することで、既存パイルキャップ222と新築基礎の接合をピン接合、半剛接合とすることができる。緩衝体370を挿入させず、接触面積がパイルキャップの水平断面全体である場合もある。また、緩衝体370を挿入させずに既存杭202や既存パイルキャップ222の鉛直方向の鉄筋を新築基礎300に定着させることで剛接合を選択することも可能である。
【0023】
新設杭400は、既存基礎100に貫通孔460を設けて、当該部分に建築する。新設杭400と既存基礎100とは力学的に接合しないよう隙間を単に埋め戻すだけでもよいが、弾性体を挿入するあるいはモルタルを注入することによって、新設杭400と既存基礎100との間にある程度の力の伝達を図っても良い。
【0024】
杭204および既存パイルキャップ224は、既存基礎100と接合したままで、既存パイルキャップ224と新設基礎300を離間させた場合を例示したものである。インティグリティ試験で杭体の深さのある部分に亀裂・ひび割れなどが確認された場合、既存パイルキャップ224の上部と新設基礎300との間に、パイルキャップ上面全てを覆うように緩衝体380を設けて、鉛直力、曲げモーメントおよび水平力をほとんど伝達させないようにすることができる。既存杭204上部の既存パイルキャップ224と既存基礎100とを剛接合のまま残すことは、既存パイルキャップ224と新設基礎300との力伝達関係とは独立に決定すべき事項なので、既存杭204と新設基礎300とは前記半剛接合あるいは剛接合等であっても良い。
【0025】
既存杭200の上部にある既存パイルキャップ220は、既存基礎100とは剛接合のままで、新設基礎300との間は緩衝体390によって半剛接合された状態である。
【0026】
図4は、前記基礎構造上に、柱620梁640を有する新設建物600を建築した状態を示す概念図である。
【0027】
本発明によれば、既存の杭と基礎とをそのまま存置して有効に使用しつつ、既存杭と基礎の構造的健全性と新築建物を建築した際に発生する応力を考慮して、既存杭と既存基礎との接合を遮断、半剛接合、剛接合の範囲で選択し、さらに、既存基礎と新設基礎との接合を、遮断、半剛接合、剛接合の範囲で選択することができるので、既存構造を最も有効に利用することができる。同時に、既存杭を撤去する工程が不要になり、それに伴う埋め戻し等の作業も不用になる利点がある。
【符号の説明】
【0028】
100 既存基礎
120 地中壁
200、202、204 既存杭
220、222、224 既存パイルキャップ
300 新設基礎
370、380、390 緩衝体
400 新設杭
500 既存建物
600 新設建物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の杭と、その杭の上部に位置する既存のパイルキャップと既存の底版を利用して新たな杭と基礎を新設する建築方法であって、既存の底版に開口を設けて新たな杭を設けると共に、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との接合状態を剛接合からピン接合の間で調節する若しくは完全に離隔する新設基礎の建築方法。
【請求項2】
既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と既存底版との間に溝を設けて既存杭の杭頭の固定度を低減した請求項1に記載の新設基礎の建築方法。
【請求項3】
既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との接触面積を既存杭の杭頭の水平断面積より小さくして固定度を低減した請求項1または2に記載の新設基礎の建築方法。
【請求項4】
既存杭と新設基礎との間の荷重伝達が行われないよう、既存のパイルキャップもしくは既存のパイルキャップの一部と新設基礎との間に空隙又は弾性体を設けた請求項1ないし3のいずれかに記載の新設基礎の建築方法。
【請求項5】
前記請求項1ないし4の何れかに記載した建築方法によって建築された基礎。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112218(P2012−112218A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264401(P2010−264401)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】