説明

既成杭の設置方法

【課題】汚染層を有する地盤において既成杭を用いた杭の施工を行えるようにする。
【解決手段】地盤1は、汚染層10と、汚染層10の下方に位置する非透水層20と、非透水層20の下方に位置する支持層30を備えており、地表面から下部が非透水層20に到達するまで地盤1を掘削するとともに、掘削した部分の土砂を泥土モルタル41に置換し、置換した泥土モルタル41が硬化した後、泥土モルタル41を貫通し、下端が前記支持層30に到達するように掘削孔50を削孔し、掘削孔50内に既成杭70を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染層とその下方に非透水層とを備えた地盤における既成杭の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、図4に示すように、地表から下方に向かって、汚染土11を含んでなる汚染層10と、粘土層などの非透水性の非透水層20と、支持層30と、を備える地盤1において杭を打設する場合には、地盤1を掘削して掘削孔を形成する際に、汚染層10の汚染土11が支持層30に拡散しないように、オールケーシング工法(例えば、非特許文献1参照)を用いて場所打ち杭を構築することが行われている。
【0003】
すなわち、図5Aに示すように、ケーシング210を下端が非透水層20内もしくはそれよりも深い位置まで到達するように地盤1に挿入し、図5Bに示すようにケーシング210内をバケット220で掘削し、下端が支持層に到達するまで掘削孔221を削孔する。次に、図5Cに示すように、掘削孔221内に鉄筋かご222を挿入する。次に、図5Dに示すように、掘削孔221内にトレミー管を挿入し、ケーシング210を引き上げながら掘削孔221内にコンクリート222を打設する。そして、打設したコンクリート222が硬化することで場所打ち杭223を構築することができる。かかる工法によれば、ケーシング210内を掘削するため、汚染層10の汚染土11が掘削孔221内を通じて支持層30に落下することや、汚染土11に含まれる汚染物質が溶け出した汚染水が支持層30まで流れ出ることを防ぐことができ、汚染物質の拡散を防止できる。
【非特許文献1】公共建築協会、建築工事監理指針 平成19年度版(上巻)、株式会社建築出版センター平成19年9月20日、p.251
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、施工コストを削減するため、杭基礎として既成杭を用いることが広く行われており、既成杭を汚染層が含まれる地盤においても用いることが望まれる。既成杭を設置する工法としては、現在、オーガー機を用いたプレボーリング工法が広く用いられており、オールケーシング工法と同様のケーシングを備えたオーガー機も存在する。しかし、このようなオーガー機は、下端が粘土層に到達した状態でケーシングを保持しながら、支持層まで掘削を行うことができない。このため、汚染層を備えた地盤において既成杭を用いることができなかった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、汚染層を有する地盤において既成杭を設置することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の既成杭の設置方法は、汚染層と、当該汚染層の下方に位置する非透水層と、前記非透水層の下方に位置する支持層を備えた地盤に既成杭を設置する方法であって、 前記非透水層の上面よりも下方の深さ位置まで前記地盤を掘削し、掘削した部分の土砂を貧配合のセメント系材料に置換する土砂置換ステップと、前記置換したセメント系材料が硬化した後、当該硬化したセメント系材料を貫通し、下端が前記支持層に到達するような掘削孔を形成する削孔ステップと、前記掘削孔内に既成杭を設置する杭設置ステップと、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の方法において、前記削孔ステップでは、全旋回掘削機により前記地盤を掘削してもよい。
【0008】
また、本発明の既成杭の設置方法は、汚染層と、当該汚染層の下方に位置する非透水層と、前記非透水層の下方に位置する支持層を備えた地盤に既成杭を設置する方法であって、 前記汚染層を貫通し、下端が前記非透水層の上面よりも下方まで到達するソイルセメント柱を構築するソイルセメント柱構築ステップと、前記ソイルセメント柱を貫通し、下端が前記支持層に到達するように掘削孔を形成する削孔ステップと、前記掘削孔内に既成杭を設置する杭設置ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下端が非透水層に到達するように泥土モルタル又はソイルセメントからなる柱体を構築し、この柱体内に掘削孔を形成して、掘削孔内に既成杭を打設することとしたため、汚染層の汚染物質が支持層に落下することを防止でき、汚染物質が拡散するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、本発明の既成杭の設置方法の第一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の既成杭の設置方法により設置された杭を示す鉛直断面図である。同図に示すように、既成杭の設置される地盤1は、表面から下方に向かって、汚染層10、非透水層20、支持層30を備える。
【0011】
汚染層10は、少なくとも一部に汚染物質を含有する汚染土11が含まれた地盤である。また、汚染層10内には、例えば、岩盤や既存杭などの地中障害12が存在している。
【0012】
非透水層20は、例えば、粘土層などの非透水性を有する地層である。非透水層20が汚染層10と支持層30との間に介在することにより、汚染層10内の汚染物質が地下水に溶け出したとしても、汚染物質が溶け出した地下水は非透水層20により汚染層10内に保持され、支持層30まで到達することがない。
【0013】
本実施形態の既成杭の設置方法は、このように汚染層10を含む地盤において、汚染層10の汚染土11に含まれる汚染物質が支持層30に拡散することなく、下端が支持層30に到達するように既成杭70を設置するための方法である。
【0014】
以下、本実施形態の既成杭の設置方法を図2A〜図2Eを参照しながら説明する。
まず、図2Aに示すように、全旋回掘削機100により下端が非透水層20に到達するまで第1の掘削孔40を削孔し、この部分の土砂を掘削する。この際、汚染層10内に地中障害12が存在するような場合であっても、全旋回掘削機100は地中障害12を切削する性能を有するため、地盤1を掘削して地中障害12を掘り起こすことなく第1の掘削孔40を削孔することができる。
【0015】
次に、図2Bに示すように、地盤1を削孔することにより第1の掘削孔40内に発生した掘削土を、硬化した状態での圧縮強度5〜10kg/cm程度である泥土モルタル41と置換する。置換した泥土モルタル41が硬化することにより、汚染層10を貫通し、下端が非透水層20に到達するような、硬化した泥土モルタル41からなる柱体42が構築されることとなる。
【0016】
泥土モルタル41が硬化した後、プレボーリング工法により既成杭を設置する。すなわち、まず、図2Cに示すように、アースオーガ101により柱体42を貫通し、下端が支持層30に到達するように第2の掘削孔50を掘削する。この際、柱体42は下端が非透水層20内に到達しており、この柱体42を貫通するように第2の掘削孔50を削孔するため、汚染層10内の汚染土11が支持層30に落下するのを防止できる。また、汚染層10の下方に非透水層20が位置し、また、泥土モルタル41が硬化すると遮水性を有し、硬化した泥土モルタル41からなる柱体42の下端が非透水層20内に到達しているため、汚染土11内の汚染物質が溶け出した地下水が第2の掘削孔50内を通じて、支持層30に流れ込むのを防止できる。
【0017】
次に、図2Dに示すように、アースオーガ101の先端より第2の掘削孔50内にセメントミルク60を注入しながら、第2の掘削孔50からアースオーガ101を引き上げる。
【0018】
次に、図2Eに示すように、揚重機102により第2の掘削孔50内に既成杭70を挿入する。そして、第2の掘削孔50内のセメントミルク60が硬化することで、既成杭70が地盤1に定着され、既成杭70の設置が完了する。
【0019】
本実施形態によれば、下端が非透水層20に到達するように泥土モルタル41を打設し、この泥土モルタル41が硬化してなる柱体42を貫通するように、第2の掘削孔50を削孔することとしたため、第2の掘削孔50を通じて、汚染土11や、汚染土11から汚染物質が溶け出した地下水が支持層30に到達するのを防止した状態で既成杭70の設置を行うことができる。
【0020】
また、全旋回掘削機100を用いて第1の掘削孔40を削孔するため、地中に地中障害12があるような場合でも、地中障害12を切削して第1の掘削孔40を削孔することができる。
【0021】
なお、本実施形態では、硬化した泥土モルタル41により柱体42を構成することとしたが、これに限らず、アースオーガ101により削孔可能な強度(圧縮強度5〜10kg/cm程度)である貧配合のセメント系材料であれば、泥土モルタル41に代えて用いることができる。
【0022】
また、本実施形態では、下端が非透水層20に到達するような柱体42を構築するものとしたが、これに限らず、柱体42の下端はさらに深い位置まで延びてもよく、要するに、柱体42の下端が非透水層20の上面よりも深い位置まで到達していればよい。
【0023】
<第二実施形態>
以下、本発明の既成杭の設置方法の第二実施形態を図面を参照しながら説明する。第1実施形態では、下端が非透水層20に到達する第1の掘削孔40を形成し、この第1の掘削孔40内に泥土モルタル41を打設することとしたが、本実施形態では、これに変えて下端が非透水層20に到達するようにソイルセメント柱を構築する。なお、本実施形態における汚染層10の内部に地中障害は存在しないものとする。
【0024】
図3A〜図3Eは、本実施形態の既成杭の設置方法を説明するための図である。
まず、図3Aに示すように、例えば、3軸オーガー機などの掘削機103により地盤1に下端が非透水層に到達するような第1の掘削孔140を形成するとともに、地盤1を掘削することで第1の掘削孔140内に発生した掘削残土にセメントミルクを注入し、掘削残土とセメントミルクとを混合攪拌して第1の掘削孔140内にソイルセメント141を形成し、下端が非透水層20に到達するようなソイルセメント柱142を構築する。なお、本実施形態のように3軸オーガー機を用いる場合には、図3Aの左右方向に複数列にわたって掘削を行うことで、平面視で略正方形状のソイルセメント柱142を構築することができる。
【0025】
次に、図3Bに示すように、アースオーガ101によりソイルセメント柱142を貫通し、下端が支持層30まで到達するような第2の掘削孔50を削孔する。この際、第2の掘削孔50と汚染層10との間にソイルセメント柱142が介在するため、第1実施形態と同様に、汚染層10の汚染土11が第2の掘削孔50を通って支持層30に到達したり、汚染土11から汚染物質が溶け出した地下水が第2の掘削孔50を通って支持層30に流れ込んだりするのを防止できる。
【0026】
ここで、第2の掘削孔50を削孔する際に、ソイルセメント柱142を削孔することにより発生したソイルセメント141が第2の掘削孔50内に落下してしまう。これらソイルセメント141は、第2の掘削孔50を掘削する際に発生した掘削残土にセメントミルクを混合攪拌して形成してなるため、ソイルセメント141に汚染土11が含まれている。しかしながら、ソイルセメント141が汚染物質を内部に包み込んだ状態でと一体に硬化しているため、汚染物質が支持層30へ流出するのを防止できる。
【0027】
次に、図3Cに示すように、アースオーガ101の先端より第2の掘削孔50内にセメントミルク60を注入しながら、第2の掘削孔50からアースオーガ101を引き上げる。
【0028】
次に、図3Dに示すように、第2の掘削孔50内に既成杭70を挿入する。そして、第2の掘削孔50内のセメントミルク60が硬化することで、図3Eに示すように、既成杭70が地盤1に定着されることとなる。
【0029】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られ、さらに、汚染層10の汚染濃度が低い場合には、第2の掘削孔50を削孔する際に発生したソイルセメント141からなる掘削土を産業廃棄物として処分することができる。このため、従来のように掘削土を汚染土として処分する場合に比べて、処分費用を削減することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、下端が非透水層20に到達するようなソイルセメント柱142を構築するものとしたが、これに限らず、下端がさらに深い位置まで到達するようなソイルセメント柱142を掘削してもよく、要するに、ソイルセメント柱142の下端が非透水層20の上面よりも深い位置まで到達していればよい。
【0031】
また、上記の各実施形態では、非透水層20が汚染層10の直下にある場合について説明したが、これに限らず、汚染層10よりも深い位置に非透水層20が存在する場合であれば、非透水層20に下端が到達するように、泥土モルタル41を打設する又はソイルセメント141を構築すれば、本発明を適用できる。
【0032】
また、上記の各実施形態では、汚染層10が地盤1の表面にある場合について説明したが、これに限らず、汚染層10が地中にある場合であっても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態の既成杭の設置方法により設置された杭を示す鉛直断面図である。
【図2A】第1実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その1)である。
【図2B】第1実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その2)である。
【図2C】第1実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その3)である。
【図2D】第1実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その4)である。
【図2E】第1実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その5)である。
【図3A】第2実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その1)である。
【図3B】第2実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その2)である。
【図3C】第2実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その3)である。
【図3D】第2実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その4)である。
【図3E】第2実施形態の既成杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その5)である。
【図4】汚染層を有する地盤を示す鉛直断面図である。
【図5A】ケーシングを用いた杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その1)である。
【図5B】ケーシングを用いた杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その2)である。
【図5C】ケーシングを用いた杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その3)である。
【図5D】ケーシングを用いた杭の設置方法を説明するための鉛直断面図(その4)である。
【符号の説明】
【0034】
1 地盤
10 汚染層
11 汚染土
12 地中障害
20 非透水層
30 支持層
40 第1の掘削孔
41 泥土モルタル
50 第2の掘削孔
60 セメントミルク
70 既成杭
100 全旋回掘削機
101 アースオーガ
102 揚重機
103 掘削機
140 掘削孔
141 ソイルセメント
142 柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染層と、当該汚染層の下方に位置する非透水層と、前記非透水層の下方に位置する支持層を備えた地盤に既成杭を設置する方法であって、
前記非透水層の上面よりも下方の深さ位置まで前記地盤を掘削し、掘削した部分の土砂を貧配合のセメント系材料に置換する土砂置換ステップと、
前記置換したセメント系材料が硬化した後、当該硬化したセメント系材料を貫通し、下端が前記支持層に到達するような掘削孔を形成する削孔ステップと、
前記掘削孔内に既成杭を設置する杭設置ステップと、を備えることを特徴とする既成杭の設置方法。
【請求項2】
請求項1記載の既成杭の設置方法であって、
前記削孔ステップでは、全旋回掘削機により前記地盤を掘削することを特徴とする既成杭の設置方法。
【請求項3】
汚染層と、当該汚染層の下方に位置する非透水層と、前記非透水層の下方に位置する支持層を備えた地盤に既成杭を設置する方法であって、
前記汚染層を貫通し、下端が前記非透水層の上面よりも下方まで到達するソイルセメント柱を構築するソイルセメント柱構築ステップと、
前記ソイルセメント柱を貫通し、下端が前記支持層に到達するように掘削孔を形成する削孔ステップと、
前記掘削孔内に既成杭を設置する杭設置ステップと、を備えることを特徴とする既成杭の設置方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公開番号】特開2010−95941(P2010−95941A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268924(P2008−268924)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】