説明

既設構築物の耐震補強工法

【課題】固結材の養生環境を適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる既設構築物の耐震補強工法を提供する。
【解決手段】耐震補強すべき既設構築物に形成される開口103内に耐震補強架構2を設置し、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠3・3を配置し、型枠3・3内に固結材6を充填して固化させ、耐震補強架構2と既設構築物とを一体的に連結する既設構築物の耐震補強工法において、型枠3・3内に充填する固結材6の練り上がり時刻を認識し、練り上がり時刻から型枠3・3内に固結材6を充填した後の養生初期の間の任意時点で環境温度の第1測定値を測定し、第1測定値以下の設定環境温度に対応する脱型可能時間を認識し、練り上がり時刻から脱型可能時間を経過に応じて環境温度の第2測定値を測定し、第2測定値が設定環境温度以上である場合に型枠3を脱型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート構築物等の既設構築物の耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートの既設構築物を耐震補強する工法として、柱と梁によって構成される開口内に鉄骨枠付ブレースのような耐震補強架構を据え付ける工法が知られている。この耐震補強架構を開口内に据え付ける場合には、開口内の所定位置に耐震補強架構を仮固定し、耐震補強架構の周囲と柱や梁との間に型枠を設置し、グラウト材を注入して行う。グラウト材には、品質や施工性等を考慮して、セメント系無収縮モルタルを使用するのが一般的である。
【0003】
このグラウト材とその施工は、耐震補強架構と既設構築物とを連結して一体化する重要なものであるため、通常は非特許文献1、2のように所定品質のものが所定の施工管理状態で施工される。
【0004】
非特許文献1では、この種のグラウト材の品質として、コンシステンシーの範囲J14ロート値(J14漏斗流下値)が8±2秒、圧縮強度が30N/mm以上、乾燥収縮(×10−1)が0と決められ、これを得るためにグラウト材の施工時に水温の管理を十分に行い、水温10℃以上の水を用いてグラウト材を練り上げ、練り上がりの温度が10〜35℃の範囲のグラウト材を注入すること、練り混ぜ温度が規定温度以下になる場合は30℃以下の温水を用い、規定温度以上になる場合は氷を添加する等の措置を講じた冷水を用いること、グラウト材の湿潤養生期間はひび割れ防止のために5〜7日程度とすることが記載されている。
【0005】
非特許文献2にも、非特許文献1と同様に、練り混ぜ水の水温と練り上がりの温度が規定されており、型枠の取り外しはグラウト材である無収縮モルタルが十分に硬化し、かつ型枠による膨張圧の拘束が不要になってから行うとされ、その養生期間は3日間が標準とされている。尚、本件出願に関連する他の先行技術文献として特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4086969号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】建築改修工事監理指針 平成19年版 下巻(発行:財団法人建築保全センター)
【非特許文献2】耐震改修設計指針 2001年(発行:財団法人日本建築防災協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、これらの固結材であるグラウト材の施工管理規定は、一般的な無収縮モルタルを前提とするものであるが、最近開発されている、水量を増やさずに流動性を増し、可使時間(練り上がりから硬化開始までの時間)を1時間以上確保することが可能で、しかも打設後数時間で所定の圧縮強度(例えば脱型可能な強度5N/mm以上)となる速硬型無収縮モルタル等に対して、そのまま適用することは妥当ではない。
【0009】
即ち、この速硬型無収縮モルタルのように、練り上がり後の所定時間流動性を保持して硬化が急激に起こる材料では、打設後の僅かな時間の養生環境の差異によって、注入された固結材の強度や仕上がり状態に差が出てくる。そのため、固結材の養生環境を適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる工法が求められている。
【0010】
また、固結材を1バッチずつミキサーで練り上げて注入する場合には、水温や練り上がり温度を調整しながらJ14漏斗流下値試験を繰り返して目標の流動性を得るように試験練りして注入を行うことが容易であるが、固結材を大量に打設するために、連続的に注水しながら連続混錬して圧送する連続混錬ポンプを用いる場合には、固結材のプレミックス粉体に水を連続注水しながら練るため、水温調整による正確な品質管理は困難である。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、固結材の養生環境を適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる既設構築物の耐震補強工法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、連続的に注水しながら連続混錬して固結材を圧送する連続混錬ポンプを用いる場合にも、固結材の正確な品質管理を容易に行うことができる既設構築物の耐震補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、耐震補強すべき既設構築物に形成される開口内に耐震補強架構を設置し、前記耐震補強架構の周縁と前記開口の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、前記型枠内に固結材を充填して固化させ、前記耐震補強架構と前記既設構築物とを一体的に連結する既設構築物の耐震補強工法において、前記型枠内に充填する前記固結材の練り上がり時刻を認識し、前記練り上がり時刻から前記型枠内に前記固結材を充填した後の養生初期の間の任意時点で環境温度の第1測定値を測定し、前記第1測定値以下の設定環境温度に対応する脱型可能時間を認識し、前記練り上がり時刻から前記脱型可能時間を経過に応じて環境温度の第2測定値を測定し、前記第2測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする。
前記構成では、固結材の養生環境を適切に管理し、所定環境条件を充足する場合に脱型することが可能であり、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる。また、練り上がり後の所定時間流動性を保持して硬化が急激に起こる固結材を用いる場合に、一律の日数や時間ではなく所定環境条件に合わせた合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を行うことができる。
【0013】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記第1測定値の測定時と前記第2測定値の測定時との間の任意の時点で一若しくは複数の環境温度の測定値を測定し、前記一若しくは複数の環境温度の測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする。
前記構成では、固結材の養生環境をより適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態をより確実に確保することができる。また、練り上がり後の所定時間流動性を保持して硬化が急激に起こる固結材を用いる場合に、より確実に合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を確実に行うことができる。また、施主等に耐震補強の報告を行う際に、固結材の固定に対する信頼性や安全度の高い資料により報告を行うことが可能となる。
【0014】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記第1測定値の測定時と前記第2測定値の測定時との間で連続して環境温度の測定値を測定し、前記連続した測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする。
前記構成では、固結材の養生環境をより適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態をより確実に確保することができる。また、練り上がり後の所定時間流動性を保持して硬化が急激に起こる固結材を用いる場合に、より確実に合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を確実に行うことができる。また、施主等に耐震補強の報告を行う際に、固結材の固定に対する信頼性や安全度の一層高い資料により報告を行うことが可能となる。
【0015】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記固結材として、カルシウムアルミネートと石膏類とからなる速硬材と、遊離石灰を含むカルシウムスルホアルミネートからなる膨張材と、水溶性セルロースエーテルとを含有し、J14漏斗流下値が2〜12秒である速硬性無収縮グラウトモルタルを用いることを特徴とする。
前記構成では、特許文献1に開示の特定の速硬性無収縮グラウトモルタルを用いることにより、水和熱が発生して熱膨張によるひび割れが発生する以前に所定強度を発現させておくことができ、初期ひび割れの発生を防止することができる。また、ブリージング水が浮上するより早く硬化し、表層に脆い部分が浮き上がる前に固めることができるので、品質の良い均質な固結材の固定を行うことができ、表面仕上げが良好となる。また、この速硬性無収縮グラウトモルタルの養生環境を適切に管理し、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる。
【0016】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、前記固結材のプレミックス粉体を連続混錬ポンプに投入し、前記連続混錬ポンプで前記プレミックス粉体に注水し、混錬して練り上げて前記固結材とし、前記連続混錬ポンプで圧送して前記型枠内に前記固結材を注入することを特徴とする。
前記構成では、練り混ぜ時に水を連続給水する連続混錬ポンプを用いる場合、練り上がり温度に応じて水温を調整するのは極めて面倒な作業となるが、環境温度を管理指針とすることにより、連続的に注水しながら連続混錬して固結材を圧送する連続混錬ポンプを用いる場合にも、固結材の正確な品質管理を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の既設構築物の耐震補強工法は、固結材の養生環境を適切に管理し、所定環境条件を充足する場合に脱型することが可能であり、良好な固結材の強度や仕上がり状態を確保することができる。また、練り上がり後の所定時間流動性を保持して硬化が急激に起こる固結材を用いる場合に、一律の日数や時間ではなく所定環境条件に合わせた合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を行うことができる。また、連続的に注水しながら連続混錬して固結材を圧送する連続混錬ポンプを用いる場合にも、適切な固結材の品質管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造で、型枠固定治具を省略して固結材を充填する前の状態を示す斜視説明図。
【図2】図1の耐震補強構造で、躯体のアンカーボルトと耐震補強架橋のスタッドボルトを省略して固結材を充填する前の状態を示す斜視説明図。
【図3】本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法の施工工程を示すフローチャート。
【図4】図1及び図2の耐震補強構造に連続混練装置から固結材を充填する作業を説明する正面説明図。
【図5】固結材の配合例を示す図。
【図6】固結材の流動性の経時変化を示す図。
【図7】固結材の圧縮強度の経時変化を示す図。
【図8】脱型処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施形態の既設構築物の耐震補強工法〕
本発明による実施形態の既設構築物の耐震補強工法について説明する。図1及び図2は実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造で固結材を充填する前の状態を示す図、図3は実施形態の既設構築物の耐震補強工法の施工工程を示すフローチャートである。
【0020】
本実施形態の既設構築物の耐震補強工法を適用する耐震補強構造は、図1及び図2に示すように、既設構築物の躯体である柱101・101(手前側の柱省略)の間と、これを連結する上下の梁102・102の間に形成される開口103に設けられる。開口103の周面である柱101、梁102の面は、その表面をはつって所定形状にした後に目荒しされ、例えばEVA(エチレン・ビニル・アセテート)系等の吸水防止プライマーが塗布されると共に、アンカーボルト1が所定間隔を開けて複数打設される。
【0021】
開口103内には耐震補強架構2が配設される。耐震補強架構2は、開口103より一回り小さい鉄骨の枠状フレーム21と、その内部に溶接等で斜めに取付けた複数本の筋交い22とから構成され、その周縁には外方に突出してスタッドボルト23が設けられ、スタッドボルト23は所定間隔を開けて複数打設される。耐震補強架構2は、仮止め用のアンカー棒(図示省略)で開口103内に仮止めされる。
【0022】
耐震補強架構2の周縁の両側外面には鋼製又は木製の板状の型枠3・3がそれぞれ配置され、両側の型枠3・3は、間隔保持部材4で所定の間隔に保持される。両側の型枠3・3により、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間が閉塞され、固結材充填空間Sが形成される。
【0023】
間隔保持部材4は、型枠3・3が挿入され得るように断面が略U字状に屈曲した一対の係合部42・42と、係合部42・42を接続するように装着された丸鋼等からなる棒材41により構成されている。即ち、係合部42・42それぞれの対向する側には溶接等により一体化された雌ねじ部が形成されており、一方、棒材41の両端には雄ねじが形成され、棒材41の両端が係合部42の雌ねじ部にそれぞれ螺着されている。間隔保持部材4は、両端部の係合部42・42に両側の型枠3・3の一端側がそれぞれ挿入して係合され、型枠3・3の間隔が保持される。間隔保持部材4で所定間隔に保持された型枠3・3の他端側は、耐震補強架構2の枠状フレーム21に取り付けられた型枠固定治具5で押圧するように把持されて固定される。更に、型枠3・3と柱101及び梁102の接触或いは近接部位にはシール材が施される。尚、図示省略するが、固結材充填空間Sには図示省略する割裂防止筋或いはスパイラル筋が設けられる。
【0024】
更に、図4に示すように、例えば一方側の型枠3の下部の左右方向中央部に、固結材充填空間Sにモルタル等のグラウト材である固結材6を充填するための注入口31が設けられ、注入口31は固結材の連続混練装置200から延びる注入ホース201が接続され、固結材充填空間S内に固結材6が注入されるようになっている。また、例えば一方側の型枠3の最上部の両側角部には空気抜き孔32が設けられ、空気抜き孔32から固結材充填空間S内に固結材6を注入する際に固結材充填空間S内に残留する空気を排出させるようになっている。
【0025】
上記固結材充填空間Sに固結材6を充填することにより、躯体側のアンカーボルト1と耐震補強架構2側のスタッドボルト23とが固結材6に埋設され、固結材6が固化することで、耐震補強架構2と既設構築物の躯体である柱101と梁102とが一体的に連結される。
【0026】
そして、本実施形態の耐震補強工法を適用して上記耐震補強構造を構成する場合には、図3に示す施工工程により行う。
【0027】
先ず、例えば鉄筋コンクリートの既設構築物の開口103の周面に相当する柱101と梁102の面について、はつって所定形状にした後に目荒しすると共に、この柱101と梁102の面と耐震補強架構2のはつりガラ、溶接時の屑、木材の切粉、結束線の屑、油等を完全に取り除いて清掃する(S101)。次いで、この柱101と梁102の面に吸水防止プライマーを噴霧器を用いてまんべんなく塗布する(S102)。
【0028】
そして、開口103の周面にアンカーボルト1を打設すると共に、周縁にスタッドボルト23が設けられている耐震補強架構2を開口103内に配置し、耐震補強架構2の周縁と開口103の周面との間の隙間を塞ぐようにして両側に型枠3・3を配置する(S103)。型枠3・3の配置の際には、固結材注入時の圧力で破損や変形を防止すべく、間隔保持部材4を設置し、間隔保持部材4の係合部42・42に型枠3・3を係合して所定間隔を開けて保持すると共に、型枠固定治具5で型枠3・3を把持して固定し、堅固な構造とする。尚、固結材のドライアウトを防止するために、型枠3の乾燥し過ぎに留意する。更に、躯体である柱101及び梁102と耐震補強架構2と型枠3との隙間をシールする(S104)。このシール材には、固結材の圧力に耐えられるように、モルタルや発泡ウレタン等が用いられる。
【0029】
その後、一方側の型枠3に注入口31と空気抜き孔32を形成する(S105)。注入口31を形成する際には、断面欠損とならないように配慮する。更に、注入口31には注入ホース201が接続される。空気抜き孔32には、例えば直径20mm程度のビニールホース(不図示)を1m程度の間隔で配置すると共に、上方へ10cm以上立ち上げるようにして設置する。
【0030】
次いで、連続混練装置200と固結材6を準備する(S106)。連続混錬ポンプ200は、図4に示すように、固結材6の素材であるプレミックス粉体と水が投入され、これを連続的に混錬して固結材6とし、内蔵されている圧送ポンプにより注入ホース201を介して固結材6を圧送して注入する構成である。尚、混錬装置として、連続混錬ポンプ200に代えて、例えばモルタル用高速ミキサー、ハンドミキサー等を用いることも可能である。
【0031】
また、固結材6としては、例えば練り上がりから凝結開始までの時間(可使時間)が1時間以上で、且つ圧縮強度が少なくとも練り上がりからの材齢12時間で5N/mm以上の速硬性固結材を用いると好適である。この固結材6には、例えば特許文献1のカルシウムアルミネートと石膏類とからなる速硬材と、遊離石灰を含むカルシウムスルホアルミネートからなる膨張材と、水溶性セルロースエーテルとを含有し、J14漏斗流下値が2〜12秒である速硬性無収縮グラウトモルタルを用いると好適であり、そのプレミックス粉体の具体例としては、電気化学工業株式会社製の無収縮モルタル「デンカハイプレタスコン」等を用いる。プレミックス粉体は、湿気、直射日光を避けて保管しておく。
【0032】
そして、連続混錬ポンプである連続混錬ポンプ200により、プレミックス粉体と水を配合して混錬し、試験練りを行う(S107)。プレミックス粉体を「デンカハイプレタスコン」とする場合、例えば図5に示す混錬標準配合例に基づいて混錬する。この混錬の際には、水温を例えば10℃以上、練り上がり温度を例えば10〜35℃の規定値内に収まるように管理する。J14漏斗流下値が規定値にならない場合には水量を変え、水温や練り上がり温度が規定値から外れている場合には水温の調整を行って再度試験練りを行い、規定値を満足する水量を決定する(S108、S109)。更に、可使時間を調整する場合には、例えば有機酸系の凝結遅延材を環境温度毎にキャリブレーションされた分量ずつ添加して調整する。
【0033】
尚、プレミックス粉体を「デンカハイプレタスコン」とする混錬標準配合例の固結材6の流動性の経時変化を図6に、その圧縮強度の経時変化を図7に示す。図6、図7には前記標準配合例の固結材6で環境温度が30℃、20℃、5℃の場合と一般的な無収縮モルタルの場合の各線が示されている。前記標準配合例の固結材6は、図6から分かるように、何れの環境温度でも、練り上がりから可使限界に達する凝結開始までの時間(可使時間)が1時間以上になっている。また、前記標準配合例の固結材6は、図7から分かるように、何れの環境温度でも、練り上がりからの材齢12時間で圧縮強度が脱型可能強度である5N/mm以上になっている。
【0034】
そして、必要な水量と練り混ぜ時間の確認を行い、連続混錬ポンプ200により、プレミックス粉体と水を配合して混錬し、本練りを行う(S110)。本練りをした際には、圧縮強度試験体を定められた本数採取すると共に(S111)、型枠3・3内に充填する固結材6の練り上がり時刻である本練りの練り上がり時刻を時計から認識して管理シートに記録する(図8参照、S201)。連続混錬ポンプ200で混錬して本練りする場合には、その練り上がり時刻を連続的に認識し記録するか、固結材6の練り上がり量或いは所定練り上がり量である練り上がり単位が練りあがる所定時間間隔毎に当該練り上がり単位の練り上がり時刻を練り上がり時刻として認識し記録する。
【0035】
次いで、連続混錬ポンプ200の圧送ポンプにより圧送を開始し(S112)、本練りで混錬した固結材6を注入ホース201を介して圧送し、型枠3・3内の固結材充填空間S内に注入して充填する(S113)。この固結材6を圧送、注入する前には、注入ホース201内での固結材6のドライアウトを防止するため、事前に注入ホース102にセメントペーストを圧送することが好ましい。更に、固結材6を圧送、注入する際には、固結材6の気温による凝結開始時間の違いに留意し、凝結開始時間を超えて注入を中断しないようにすると共に、固結材6を落下させる注入を避け、固結材6が分離しないように配慮する。そして、空気抜き孔32から空気の巻き込みのない固結材6が流出するーバーフローを確認する(S114)。固結材6の充填が完了すると、注入口31、空気抜き孔32をテープで密閉すると共に、注入ホース201を折り曲げて結束線で結束する(S115)。
【0036】
また、固結材6の練り上がり時刻から型枠3・3内に固結材6を充填した後の養生初期の間の任意時点で、環境温度の第1測定値である気温の第1測定値を測定し(S202)、この第1測定値以下の設定環境温度に対応する脱型可能時間を認識する(S203)。前記養生初期は、例えば固結材6の型枠3・3内の充填が完了した時点である。本実施形態では、注入口31、空気抜き孔32をテープで密閉した直後に、第1測定値である気温を温度計で測定し(S116)、測定時刻と第1測定値を管理シートに記載し、この第1測定値以下ですぐ下の温度で設定されている設定環境温度を管理シートで認識し、所定配合の固結材6について予め実験で得られている、その設定環境温度に対応する脱型可能時間を管理シートで認識する。例えば図7により、第1測定値が27℃であった場合に、第1測定値以下のすぐ下の温度で設定されている設定環境温度25℃を認識し、その設定環境温度25℃に対応する脱型可能時間である材齢6時間を認識する。
【0037】
そして、固結材充填空間Sに充填した固結材6を養生し、固化していく(S117)。養生では、振動や衝撃を与えないようにし、注入口31、空気抜き孔32、シール部分からの漏れに注意する。
【0038】
その後、固結材6の練り上がり時刻から脱型可能時間の経過を時計で認識し、その経過に応じて環境温度の第2測定値を測定する(S204)。例えば図7の環境温度20℃の脱型可能強度となる脱型可能時間により、設定環境温度20℃に対応する脱型可能時間である材齢6時間の経過を認識し、第2測定値を測定する。そして、第2測定値が例えば26℃など前記設定環境温度20℃以上である場合に(S118)、必要な脱型可能時間の経過と脱型可能強度の確保により、型枠3を脱型する(S205、S119)。型枠3を脱型して撤去する際には、充填された固結材6の面に傷をつけないように撤去し、固結材6の面に無理な力がかからないようにする。
【0039】
他方で、第2測定値が例えば15℃など前記設定環境温度20℃未満である場合には、例えば第2測定値の下の5℃等の設定環境温度に対応する脱型可能時間の経過を認識し、その経過に応じて環境温度の第3測定値を測定し、第3測定値が前記5℃等の設定環境温度以上である場合に、5℃等の設定環境温度に対応する必要な脱型可能時間の経過と脱型可能強度の確保により、型枠3を脱型する。更に、ここでも第3測定値が設定環境温度未満である場合には同様に新たな脱型可能時間の認識と、第4測定値等の測定により、最終的に型枠3を脱型する。
【0040】
次いで、固結材の充填状況を確認し(S120)、必要に応じて充填が不十分な箇所を補修する。この補修では充填が不十分な箇所の広さを確認し(S121)、長さ5mm以下など狭い場合にはエポキシ樹脂等を注入して補修し(S122)、長さ5mm超など広い場合には断面修復材を充填して補修する(S123)。最後に、片付け、清掃をして耐震補強工法の施工が完了する(S124)。
【0041】
本実施形態の既設構築物の耐震補強工法により、固結材6の養生環境を適切に管理し、所定環境条件を充足する場合に脱型することが可能であり、良好な固結材6の強度や仕上がり状態を確保できる。また、一律の日数や時間ではなく所定環境条件に合わせた合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を行うことができる。また、固結材6の練り混ぜ時に水を連続給水する連続混錬ポンプ200を用いる場合、練り上がり温度に応じて水温を調整するのは極めて面倒な作業となるが、環境温度である気温を管理指針とすることにより、連続的に注水しながら連続混錬して固結材6を圧送する連続混錬ポンプ200を用いる場合にも、固結材6の正確な品質管理を容易に行うことができる。
【0042】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれ、例えば下記変形例も包含する。
【0043】
例えば上記実施形態の構成に加え、環境温度の第1測定値の測定時と環境温度の第2測定値の測定時との間の任意の時点で一若しくは複数の環境温度の測定値を測定し、この一若しくは複数の環境温度の測定値が第1測定値に基づき認識された設定環境温度以上である場合に、型枠3を脱型する構成にしてもよい。この際、前記間で測定する測定値が設定環境温度未満である場合には、その測定値以下の設定環境温度とこれに対応する新たな脱型可能時間を認識し、この認識した脱型可能時間の経過に応じて上記第2測定値を測定するようにするとよい。
【0044】
また、上記実施形態の構成に加え、環境温度の第1測定値の測定時と環境温度の第2測定値の測定時との間で連続して環境温度の測定値を測定し、この連続した測定値が設定環境温度以上である場合に型枠3を脱型する構成としてもよい。この際、前記間で測定する測定値が設定環境温度未満である場合には、その測定値以下の設定環境温度とこれに対応する新たな脱型可能時間を認識し、この認識した脱型可能時間の経過に応じて上記第2測定値を測定するようにするとよい。
【0045】
これらの第1測定値の測定時と第2測定値の測定時との間で測定値を測定する構成により、固結材6の養生環境をより適切に管理し、良好な固結材6の強度や仕上がり状態をより確実に確保することができる。また、より確実に合理的な管理や施工を行うことが可能であり、柔軟且つスピーディに適切な施工を確実に行うことができる。また、施主等に耐震補強の報告を行う際に、固結材6の固定に対する信頼性や安全度の高い資料により報告を行うことが可能となる。
【0046】
また、脱型可能時間の時間管理は、上記実施形態の如く、管理シートへの作業者の記載や時計での計測を作業者が認識する等を行う他、制御部と、制御プログラムや設定環境温度とこれに対応する脱型可能時間等を記憶する記憶部と、入力部と、表示部と、スピーカ等の注意情報出力部と、タイマーと、温度計を備える携帯型等の脱型管理装置を用い、脱型管理装置に固結材6の練り上がり時刻を入力部から入力して記憶させ、その制御部が前記入力等に応じて温度計で測定される第1測定値を取得し、第1測定値以下の設定環境温度に対応する脱型可能時間を記憶部から認識し、タイマーの計測により練り上がり時刻から前記脱型可能時間を経過に応じて温度計で測定される第2測定値を取得し、第2測定値が前記設定環境温度以上である場合に型枠を脱型する注意情報を出力する構成、更には上記各変形例を脱型管理装置で行う構成等とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば病院やオフィスビル等の既設構築物を耐震補強する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…アンカーボルト 2…耐震補強架構 21…枠状フレーム 22…筋交い 23…スタッドボルト 3…型枠 31…注入口 32…空気抜き孔 4…間隔保持部材 41…棒材 42…係合部 5…型枠固定治具 6…固結材 101…柱 102…梁 103…開口 200…連続混練装置 201…注入ホース S…固結材充填空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震補強すべき既設構築物に形成される開口内に耐震補強架構を設置し、
前記耐震補強架構の周縁と前記開口の周面との間の隙間を塞ぐようにして型枠を配置し、
前記型枠内に固結材を充填して固化させ、前記耐震補強架構と前記既設構築物とを一体的に連結する既設構築物の耐震補強工法において、
前記型枠内に充填する前記固結材の練り上がり時刻を認識し、
前記練り上がり時刻から前記型枠内に前記固結材を充填した後の養生初期の間の任意時点で環境温度の第1測定値を測定し、
前記第1測定値以下の設定環境温度に対応する脱型可能時間を認識し、
前記練り上がり時刻から前記脱型可能時間を経過に応じて環境温度の第2測定値を測定し、
前記第2測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする既設構築物の耐震補強工法。
【請求項2】
前記第1測定値の測定時と前記第2測定値の測定時との間の任意の時点で一若しくは複数の環境温度の測定値を測定し、
前記一若しくは複数の環境温度の測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする請求項1記載の既設構築物の耐震補強工法。
【請求項3】
前記第1測定値の測定時と前記第2測定値の測定時との間で連続して環境温度の測定値を測定し、
前記連続した測定値が前記設定環境温度以上である場合に前記型枠を脱型することを特徴とする請求項1記載の既設構築物の耐震補強工法。
【請求項4】
前記固結材として、カルシウムアルミネートと石膏類とからなる速硬材と、遊離石灰を含むカルシウムスルホアルミネートからなる膨張材と、水溶性セルロースエーテルとを含有し、J14漏斗流下値が2〜12秒である速硬性無収縮グラウトモルタルを用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の既設構築物の耐震補強工法。
【請求項5】
前記固結材のプレミックス粉体を連続混錬ポンプに投入し、前記連続混錬ポンプで前記プレミックス粉体に注水し、混錬して練り上げて前記固結材とし、前記連続混錬ポンプで圧送して前記型枠内に前記固結材を注入することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の既設構築物の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−185028(P2011−185028A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114016(P2010−114016)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】