説明

既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法

【課題】既存のPC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部により、空気溜りを残すことなくより完全な再充填が可能な既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法の提供。
【解決手段】グラウト未充填部12を減圧させた後、グラウト加圧注入口13からグラウト加圧注入装置20によってグラウトを加圧注入する際に、グラウト加圧注入装置20によるグラウト加圧注入によってもグラウト未充填部12に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、予め上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、これに耐真空圧容器30を取り付け、グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入完了直前に、空気溜り発生予想部分内の空気およびその周囲のグラウトを耐真空圧容器30内からの吸引圧によって吸引させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部にグラウトを再充填する際に、より完全なグラウト充填を可能にする既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポストテンション方式のPC構造物は、構造物内に設置したPC緊張材挿通用シース内にPC緊張材を挿通し、構造物のコンクリート硬化後にPC緊張材を緊張することによってプレストレスを導入するようにしており、プレストレス導入後にPC緊張材挿通用シース内の隙間にグラウトを充填している。
【0003】
近年、コンクリート構造物において、ひび割れや剥離、鉄筋腐食など、早期劣化が深刻な問題になっており、プレストレスを付与することでひび割れを生じさせないPC構造物においても例外ではない。PC構造物で特に問題となるのが、PC鋼材の腐食であり、その主要因がPCグラウト不良であり、初期のPCグラウト材料の品質と、施工時のグラウトの充填不良により、劣化損傷であるPC鋼材の腐食や破断が発生した。これは1980年代後半から1990年代にかけて顕在化した。しかし、対策が不十分のまま今日に至っている。
【0004】
一方、最近の非破壊検査法の進歩により、グラウト充填不良部の検査が容易に出来るようになり、グラウト未充填部への再充填が可能となったことに伴って、そのシース内の未充填部へグラウトを再充填する工法が開発されている。その主なものとして、圧入工法(例えば非特許文献1)、真空ポンプを併用した真空グラウト工法がある(例えば非特許文献2、特許文献1)。
【0005】
圧入工法は、グラウト未充填箇所を推定し、その区間の両端部2箇所に削孔し、削孔された孔間の通気を確認した後、一方の孔を注入用、他方の孔を排出用としてグラウトの加圧注入を行う方法である。また、真空グラウト工法は、グラウト未充填部に排出口とグラウト加圧注入口とを形成し、排出口から真空ポンプによってPC緊張材挿通用シース内を減圧し、その減圧状態を保ちながらグラウト加圧注入口から圧送ポンプによりグラウトを圧入し、排出口からグラウトが排出されるのを待って注入を停止させるものである。
【非特許文献1】PCグラウトの再注入等補修マニュアル(案) 財団法人鉄道総合技術研究所
【非特許文献2】川田技報 Vol.23 2004 56頁〜61頁 道路橋PC桁の補修・補強工事
【特許文献1】特開2005−23567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の再充填方法では、グラウト加圧注入口及び排出口がグラウト未充填部の端部に近ければ近いほど再充填はより完成度の高いものとすることができるが、現在の非破壊検査方法では、既存のPC緊張材挿通用シース内におけるグラウト未充填部と充填部分との境目を正確に知ることができず、このため、グラウト加圧注入口と排出口との間から外れた両端部分にグラウト未充填部が残るという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の如き従来の問題に鑑み、既存のPC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、空気溜りを残さず、より完全な再充填が可能な既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、前記グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に耐真空圧容器を、前記排出口に真空ポンプをそれぞれ連通させ、しかる後、該真空ポンプによりグラウト未充填部及び耐真空圧容器内を減圧させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って該排出口の開閉弁を閉じ、前記耐真空圧容器内へグラウトが吸引されるまで前記グラウト加圧注入装置による加圧を継続させることにある。
【0009】
請求項2に記載の発明の特徴は、既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、前記グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内の未充填部分に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に耐真空圧容器を開閉弁を介して連通させるとともに前記排出口に真空ポンプを開閉弁を介して連通させ、しかる後、前記真空ポンプにより未充填部分及び耐真空圧容器内を減圧させ、該減圧度が所定の値に達した時に前記分岐路の開閉弁を閉じて耐真空圧容器を密閉し、前記真空ポンプによる減圧を継続させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って前記分岐路の開閉弁を開き、前記分岐路内を減圧させることによって、耐真空圧容器内へ空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることにある。
【0010】
請求項3に記載の発明の特徴は、既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に、内部を減圧した状態の耐真空圧容器を開閉弁を介して取り付けるとともに前記排出口に真空ポンプを開閉弁を介して連通させ、しかる後、該真空ポンプによりグラウト未充填部及び耐真空圧容器内を減圧させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って前記分岐路の開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることにある。
【0011】
請求項4に記載の発明の特徴は、既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に内部を減圧した状態の耐真空圧容器を開閉弁を介して取り付けるとともに前記排出口に開閉弁を取り付け、然る後、前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、前記排出口からのグラウトが排出されるのを待って、排出口の開閉弁を閉じるとともに前記耐真空圧容器の開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることにある。
【0012】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項3又は4の何れか1の請求項の構成に加え、前記耐真空圧容器は、その全部又は1部に内部が透視できる透視可能材料を使用したものを使用し、該耐真空圧容器内を予め減圧した状態に密閉しておき、施工現場において前記耐真空圧容器を、開閉弁を介して前記分岐路に連通させ、該開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させることにある。
【0013】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1〜4又は5の何れか1の請求項の構成に加え、前記耐真空圧容器は、合成樹脂又はガラス製の透明な耐圧容器であって、該容器に開閉弁によって開閉される吸排気路を連通させた耐真空圧性の合成樹脂容器を使用することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に耐真空圧容器を連通させ、この耐真空圧容器内を減圧した状態でグラウト加圧注入装置による加圧注入を行うことにより、従来のグラウト未充填部内の減圧と加圧注入のみでは空気溜りが形成される部分の空気及びその周囲のグラウトが耐真空圧容器内に吸引されることとなり、空気溜りが発生しないグラウト再充填ができる。
【0015】
また、内部を減圧した状態の耐真空圧容器を開閉弁を介して取り付け、且つ、前記排出口に真空ポンプを連通させ、しかる後、該真空ポンプによりグラウト未充填部及び耐真空圧容器内を減圧させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って前記分岐路の開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気を耐真空圧容器内に吸引させるようにしてもよく、この場合には、耐真空圧容器内の減圧状態が工場における管理下によって形成されるため、作業の確実性が担保できる。
【0016】
更に、本発明に使用する耐真空圧容器は、その全部又は1部に内部が透視できる透視可能材料を使用したものを使用し、該耐真空圧容器内を予め減圧した状態に密閉しておき、施工現場において前記耐真空圧容器を、開閉弁を介して前記分岐路に連通させ、該開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させるようにすることにより、予め内部を減圧状態にした耐真空圧容器の現場への搬入が容易となり、しかもその容器は再利用することができ経済性が高い。また、空気溜りの除去状況は、耐真空圧容器内へのグラウトの吐出を外部から目視することによって容易に把握することができる。
【0017】
更に、本発明に使用する耐真空圧容器は、合成樹脂又はガラス製の透明な耐圧容器であって、該容器に開閉弁によって開閉される吸排気路を連通させた耐真空圧性の合成樹脂容器を使用することにより、容器の洗浄、再使用ができ、軽量で運搬が容易で現場における作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を、実施例の図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、既設PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部を探査する。未充填発生場所としては、PC緊張材の端部定着部付近、先流れ区間(主として下り傾斜部分で発生し、グラウトがシース内にいっぱいにならない状態で流れる部分)、水平部などが発生しやすい。
【0020】
また、PC緊張材挿通用シース内に未充填部がある場合のコンクリート構造体の外観として、水の浸透、シースに沿った湿潤、ひび割れ、遊離石灰が観察されるため、これらの部分を重点的に探査する。
【0021】
探査法として次の方法の何れか、或は複数を組み合わせて使用できる。
【0022】
1.X線透過法
高出力X線発生装置を用いてグラウト充填状態を検査する。画像処理をデジタルX線検査システムと組み合わせることにより精度の高い検査が出来る。しかしこれには、装置が大掛かりとなる、取り扱い上の法的規制がある、検出深さに限界がある、等の問題がある。
【0023】
2.電磁波レーダー法
電磁波をコンクリート表面から内部に放射し、対象物からの反射波を受信し画像処理する事により位置確認を行う技術。
【0024】
3.広帯域超音波法
広帯域(2.5〜1000kHz)の超音波を一度に発信することで、周波数調整作業が不要となり作業効率が良くなる。一方向からの計測が可能。シースまでのかぶり厚が26cm以内であればグラウト充填探査が可能である。
【0025】
4.衝撃弾性波法
衝撃による振動が空隙や鉄筋などに反射した弾性波を測定して、その波形の強弱により内部欠陥を判断する方法。得られた波形をスペクトルイメージングにより、可視化することで比較的容易に充填度を判断できる。
【0026】
5.磁気探査法
マグネットからPC鋼材に磁界を供給し、破断箇所で生じる磁気変化を検出する方法である。
【0027】
上記の探査法によってグラウト未充填部を特定し、その両端と想定される位置に対応するPC構造物表面にマーキングする。
【0028】
次いで、図1、図2に示すようにPC構造物10の表面から、PC緊張材挿通用シース11内におけるグラウト未充填部12に通じるグラウト加圧注入口13、同未充填部12内の空気を吸引するための排出口14及びグラウト再充填後の空気溜り発生予想位置の上側に通じる分岐口15を削孔によって形成する。
【0029】
この削孔は、図1に示すようにグラウト未充填部12が一方向に傾斜している場合には、傾斜の下側の端部近くの側面側にグラウト加圧注入口13を形成し、上側の端部近くの側面側に排出口14を形成する。この場合グラウト再充填後の空気溜り発生予想位置はグラウト未充填部12の前記排出口14より上端部側となるため、分岐口15は、排出口14より上側の端部により近づけた位置の上面側又は側面側とすることが好ましい。
【0030】
また、グラウト未充填部12が、その中央が低く両端が高い下向き弧状である場合や、水平でその長さが大きい場合には、図2に示すようにグラウト加圧注入口13を中央部分に、排出口14を両端側に形成し、分岐口15は、排出口14より端部側にそれぞれ形成する。
【0031】
削孔方法としてはコアドリル、ウオータージェットによる方法がある。コアドリルは鋼材損傷の危険がある。それゆえウオータージェットによる削孔方法が望ましく、特許第3388127号公報に示されている装置が使用できる。
【0032】
このようにして各口13,14,15を形成した後、通気を確認するとともに、グラウト未充填部12内をファイバースコープで観察し、ドライか湿潤か、水があるか、鋼線は健全か、錆の発生はあるか、破断しているか等の現状を把握する。水が入っていれば、一番低い位置を削孔して水抜きし、水抜きが困難な場合、グラウト加圧注入口から乾燥空気を送気し、シース内の水分を除去する。
【0033】
次いで、グラウト加圧注入口13にグラウト注入用ホース16を、排出口14に真空吸引ホース17を、分岐口15に真空吸引ホース18をそれぞれ取り付ける。これらのホースとしてはテトロンブレードホースが使用できる。また、取り付けに際してはパテなどで密閉する。
【0034】
グラウト注入用ホース16はグラウト加圧注入装置20に対し、開閉弁22を介在させて連通させ、排出口14の真空吸引ホース17は真空ポンプ21に開閉弁23を介して連通させる。更に分岐口15の真空吸引ホース18には耐真空圧容器30を開閉弁32を介して連通させる。この耐真空圧容器30には内部の圧力を表示する真空計34を取り付けておく。
【0035】
次いで、排出口14の開閉弁23及び耐真空圧容器30の開閉弁32を開け、他のグラウト加圧注入装置20の開閉弁22を閉じて真空ポンプ21を作動させ、グラウト未充填部12内を減圧し、真空計34やホースのつぶれで真空状態を確認する。耐真空圧容器30はグラウト未充填部12に通じているために、共に減圧されるため、真空計34によってグラウト未充填部12内の真空度を知ることができる。
【0036】
所望の真空状態(減圧状態)、具体的にはケージ圧表示で−0.09Mpaに達したことが確認されたら開閉弁22を開くと共にグラウト加圧注入装置20を作動させてグラウト再充填を開始する。このとき真空ポンプ21は作動したままとしておく。これによって減圧状態にあるグラウト未充填部12内にグラウトaが注入され、図3に示すように排出口14まで達するとそこから排出される。この排出口14からのグラウトaの排出が確認されたら、真空ポンプ21の開閉弁23を閉じると共に真空ポンプ21の作動を停止させる。
【0037】
グラウト加圧注入装置20からの加圧注入は継続させたままにしておく。このとき耐真空圧容器30内は減圧状態にあるため、図4に示すように排出口14より分岐口15側にある空気が吸引され、この空気と共に排出口周囲に達したグラウトが耐真空圧容器30内に吸引される。耐真空圧容器30内へのグラウトの上昇が確認され、ホース18のつぶれが戻ったら開閉弁32を閉じる。
【0038】
その後グラウト加圧注入装置20による加圧を0.5Mpa程度に達するまで継続した後、グラウト加圧注入装置20の開閉弁22を閉じ、加圧状態でグラウトを硬化させ、硬化後に非破壊検査により充填確認を行う。
【0039】
尚、耐真空圧容器30としては図5に示す構造のものが使用できる。これは透明な合成樹脂又はガラス製の耐圧製容器を使用する。該容器に使用できる合成樹脂材料としては、例えば、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネートがある。
【0040】
耐真空圧容器30は、上面開口型の容器本体30aと、その上面開口を開閉する密閉蓋30bとからなっており、容器本体30aの胴部には内部に連通する吸排気路31が設けられ、この吸排気路31に開閉弁32が設けられている。そして吸排気路31の先端が前述した分岐口15に連通させた真空吸引ホース18の先端を連通させる継ぎ手部33となっている。
【0041】
尚、上述の実施例では、真空ポンプ21によりグラウト未充填部12及び耐真空圧容器30内を減圧させ、該減圧度が所定の値に達した時にグラウト加圧注入装置20によるグラウトの加圧注入を開始させるようにしているが、この他に、真空ポンプ21により未充填部分及び耐真空圧容器30内を減圧させ、該減圧度が所定の値に達した時に耐真空圧容器30の開閉弁32を閉じて耐真空圧容器30を密閉した状態で前記グラウト加圧注入装置20によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口14からのグラウトの排出を待って耐真空圧容器の開閉弁を開き、分岐路内を減圧させるようにしても良い。
【0042】
更に、上述の各実施例では、耐真空圧容器30内の減圧を、排出口14に連通させた真空ポンプ21によってグラウト未充填部12とともに減圧しているが、この他、耐真空圧容器30内を、現場又は減圧設備のある工場等で予め真空ポンプを使用して空気溜り除去作業に必要な真空度まで減圧しておく。これを前述したPC構造物10上に搬入し、継ぎ手部33に構造物10上に突出している分岐口からの真空吸引ホース18を、気密をもたせた状態に連結する。この状態で前述した真空ポンプ21による減圧及びグラウト加圧注入装置20によるグラウトの加圧注入を行い、排出口14からのグラウトの排出を確認し、真空ポンプ21の開閉弁22を閉じた後、吸排気路31の開閉弁32を開く。これによって排出口14より分岐口14側にある空気が吸引され、この空気と共に排出口周囲に達したグラウトが耐真空圧容器30内に吸引させるようにしてもよい。
【0043】
更に、前述した従来の圧入工法においても実施することができ、この場合には真空ポンプを使用せず、図1、図2に示す実施例における排出口14に開閉弁23のみを取り付ける。また、耐真空圧容器30は、開閉弁32付のものを使用し、予め所望の真空度に減圧したものを搬入して使用する。
【0044】
開閉弁23開いた状態で、グラウト加圧注入装置20によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口14からのグラウトが排出されるのを待って、該排出口14の開閉弁23を閉じるとともに耐真空圧容器30の開閉弁32を開くことによって分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させる。
【0045】
尚、上述したように予め真空ポンプ等の減圧設備によって減圧した状態の耐真空圧容器30を使用する場合には、容器毎に圧力計を必要とせず、簡易な容器が使用でき、更に、予め減圧した耐真空圧容器30を搬入して使用できるため、施工現場における減圧作業時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明方法を実施した例の装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同、他の例の装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明方法におけるグラウト再充填の途中の状態を示す部分拡大断面図である。
【図4】同、グラウト再充填完了状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明に使用する耐真空圧容器の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
a グラウト
10 PC構造物
11 PC緊張材挿通用シース
12 グラウト未充填部
13 グラウト加圧注入口
14 排出口
15 分岐口
16 グラウト注入用ホース
17,18 真空吸引ホース
20 グラウト加圧注入装置
21 真空ポンプ
22,23 開閉弁
30 耐真空圧容器
30a 容器本体
30b 密閉蓋
31 吸排気路
32 開閉弁
33 継ぎ手部
34 真空計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、
前記グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に耐真空圧容器を、前記排出口に真空ポンプをそれぞれ連通させ、しかる後、該真空ポンプによりグラウト未充填部及び耐真空圧容器内を減圧させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って該排出口の開閉弁を閉じ、前記耐真空圧容器内へグラウトが吸引されるまで前記グラウト加圧注入装置による加圧を継続させることを特徴としてなる既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法。
【請求項2】
既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、
前記グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内の未充填部分に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に耐真空圧容器を開閉弁を介して連通させるとともに前記排出口に真空ポンプを開閉弁を介して連通させ、しかる後、前記真空ポンプにより未充填部分及び耐真空圧容器内を減圧させ、該減圧度が所定の値に達した時に前記分岐路の開閉弁を閉じて耐真空圧容器を密閉し、前記真空ポンプによる減圧を継続させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って前記分岐路の開閉弁を開き、前記分岐路内を減圧させることによって、耐真空圧容器内へ空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることを特徴としてなる既設PC構造物内のグラウト未充填部分の再充填方法。
【請求項3】
既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、
グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に、内部を減圧した状態の耐真空圧容器を開閉弁を介して取り付けるとともに前記排出口に真空ポンプを開閉弁を介して連通させ、しかる後、該真空ポンプによりグラウト未充填部及び耐真空圧容器内を減圧させつつ前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、排出口からのグラウトの排出を待って前記分岐路の開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることを特徴としてなる既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法。
【請求項4】
既設のポストテンション方式PC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に、該グラウト未充填部にグラウトを注入するためのグラウト加圧注入口と該グラウト未充填部内の空気を排出するための排出口とを形成し、前記グラウト加圧注入口からグラウト加圧注入装置によってグラウトを加圧注入する既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法において、
グラウト加圧注入装置によるグラウト加圧注入によっても前記PC緊張材挿通用シース内のグラウト未充填部に空気が閉じ込められる恐れのある空気溜り発生予想位置に、あらかじめ上方に向かって連通分岐する耐真空圧性の材料からなる分岐路を設け、該分岐路に内部を減圧した状態の耐真空圧容器を開閉弁を介して取り付けるとともに前記排出口に開閉弁を取り付け、然る後、前記グラウト加圧注入装置によるグラウトの加圧注入を開始させ、前記排出口からのグラウトが排出されるのを待って、排出口の開閉弁を閉じるとともに前記耐真空圧容器の開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させ、空気溜り発生予想部分内の空気及びその周囲のグラウトを耐真空圧容器内に吸引させることを特徴としてなる既設PC構造物におけるケーブルシース内へのグラウト再充填方法。
【請求項5】
前記耐真空圧容器は、その全部又は1部に内部が透視できる透視可能材料を使用したものを使用し、該耐真空圧容器内を予め減圧した状態に密閉しておき、施工現場において前記耐真空圧容器を、開閉弁を介して前記分岐路に連通させ、該開閉弁を開くことによって前記分岐路内を減圧させる請求項3又は4の何れか1に記載のPC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内へのグラウトの注入方法。
【請求項6】
前記耐真空圧容器は、合成樹脂又はガラス製の透明な耐圧容器であって、該容器に開閉弁によって開閉される吸排気路を連通させた耐真空圧性の合成樹脂容器を使用する請求項1〜4又は5のいずれか1に記載のPC構造物におけるPC緊張材挿通用シース内へのグラウトの注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−222809(P2010−222809A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69584(P2009−69584)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(592090555)パシフィックコンサルタンツ株式会社 (30)