説明

日射遮蔽膜用塗布液及びこれを用いた日射遮蔽膜

【課題】 可視光透過率の制御が可能で、しかも効率の良い日射遮蔽機能をもち、併せて紫外線遮蔽機能も有する日射遮蔽膜およびこれに用いる塗布液を提供する。
【解決手段】 含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、および、含ロジウム酸化物微粒子のうちの1種もしくは2種以上からなる平均粒径100nm以下の微粒子が含有された分散液からなり、もしくはこれに樹脂バインダーとが混合されてなる日射遮蔽膜用塗布液。また、上記塗布液を、基材に塗布後加熱して得た日射遮蔽膜。また、上記日射遮蔽膜の上に更に樹脂膜を被膜して多層とした日射遮蔽膜。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガラス、プラスチックスなどの日射遮蔽機能を必要とする基材表面に塗布して日射遮蔽膜とするための塗布液及びこのようにして得られた日射遮蔽膜に関する。
【0002】
【従来の技術】太陽光線は、近赤外光、可視光、紫外光の3つに大きく分けることができる。この内近赤外光(熱線)は熱エネルギーとして人体に感じる波長領域の光であり、室内の温度上昇の原因ともなる。また、紫外線は皮膚ガン等の原因となるなど人体へ悪影響を及ぼすことが指摘されている。また、可視光は自動車、ビル、住宅等の窓ガラスにおいてその透過率を制御することで、プライバシー保護機能を持たせることができる。
【0003】従来、金属(Au、Ag、Cu)や、窒化チタン、アルミニウムなどの様な伝導電子を多量にもつ材料を応用した日射遮蔽膜が用いられている。これらの材料では、日射以外に可視光領域の光も同時に反射もしくは吸収する性質があり、可視光透過率が低い欠点がある。そのため建材、乗り物、電話ボックス等の透明基材にこれらの材料を利用する場合は、可視光領域の透過率を高くするため、膜厚を非常に薄くするなどの操作が必要となり、十分な日射遮蔽特性をもたせることが困難であった。また、純金属材料では、基材との相互拡散や膜の安定性の点から問題がある。
【0004】可視光透過性があり、かつ日射遮蔽機能をもつ材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)やアルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)などが知られているが、これらの材料に含まれる自由電子の量は金属に比べて少なく、十分な日射遮蔽機能を得ることは困難であった。これら材料を用いた膜の作製方法としてはスパッタ法や、蒸着法が利用されるが、これらの方法では大がかりな真空装置を必要とするため生産性に劣りまた大面積成膜が困難であるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題点を解決し、可視光透過率の制御が可能で、しかも効率の良い日射遮蔽機能をもち、併せて紫外線遮蔽機能も有する日射遮蔽膜およびこれに用いる塗布液を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】発明者らは従来の問題点を解決するため、材料そのものの特性として、紫外線領域に吸収をもち、可視光領域に透過性があり、かつ自由電子を多量に保有しプラズモン反射の強い酸化物である含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、及び含ロジウム酸化物微粒子に注目し、これを含む日射遮蔽膜およびこれを作製するための塗布液を発明するに至った。
【0007】即ち、上記問題を解決するための本発明の日射遮蔽膜用塗布液は、含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、および、含ロジウム酸化物微粒子のうちの1種もしくは2種以上からなる平均粒径100nm以下の微粒子が含有された分散液からなるか、もしくはこれに樹脂バインダーとが混合されてなることを特徴とする。
【0008】また、本発明の日射遮蔽膜は、上記いずれかの塗布液を、基材に塗布後加熱して得ることを特徴とする。
【0009】また、本発明の他の日射遮蔽膜は、上記日射遮蔽膜の上に更に樹脂膜を被膜して多層としたことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明における含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、及び含ロジウム酸化物微粒子は、二酸化ルテニウム(RuO2)、二酸化イリジウム(IrO2)、二酸化ロジウム(RhO2)のみならず、ルテニウム酸ビスマス(Bi2Ru27)、ルテニウム酸鉛(Pb2Ru26.5)、イリジウム酸ビスマス(Bi2Ir27)、イリジウム酸鉛(Pb2Ir26.5)なども含むものとし、またこれらに限定されるものではない。また、上記含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、および、含ロジウム酸化物微粒子のうちの1種でもよく、また2種以上が混合されていてもよい。
【0011】いずれの材料の場合もその平均粒径は100nm以下の微粒子であることが必要である。平均粒径が100nmを超えると分散液中の微粒子同士の凝集傾向が強くなり、塗布液中の微粒子の沈降の原因となるからである。また100nmを超える微粒子もしくはそれらの凝集した粗大粒子の存在は、それによる光散乱により可視光透過率低下の原因となるので好ましくない。
【0012】上記の微粒子は全て金属的電気伝導性を示す黒色粉末である。粒径100nm以下の微粒子として薄膜中に分散した状態では可視光透過性が生ずるが、近赤外光遮蔽能は充分強く保持でき、また紫外線領域の光を吸収する。
【0013】分散液中に上記微粒子を分散させるための分散媒は特に限定されるものではなく、塗布条件や、塗布環境等に合わせて選択可能であり、例えば水や、アルコール等の有機溶媒など各種使用可能である。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpHを調整しても良い。更に、上記微粒子の分散安定性を向上させるために、各種カップリング剤、界面活性剤等の利用も可能であり、そのときのそれぞれの添加量は、微粒子に対して30wt%以下、好ましくは5wt%以下が良い。
【0014】微粒子の分散方法は、微粒子が均一に溶液中に分散する方法であれば良く、例としては、ボールミル、サンドミル、超音波分散等を用いた方法が挙げられる。
【0015】本発明の日射遮蔽膜用塗布液は、上記微粒子を分散させた分散液のみ、もしくは分散液と樹脂バインダーとを混合したものである。分散液のみを基材に塗布した場合、基材上には微粒子のみが堆積した膜構造となり、このままでも十分日射遮蔽機能を示す。また、この分散液に樹脂バインダーを混合することにより、その成分が微粒子の堆積した間隙を埋めるため、膜のヘイズが低減し、可視光領域の光透過率を向上させ、微粒子の基材への結着性を向上させる。
【0016】このようにして得られた膜上に、更に樹脂バインダーを第2層として被膜することで、上記微粒子を主成分とする膜の基材への結着力や、膜の硬度および耐候性を更に向上させることが可能となる。
【0017】塗布液と混合する樹脂バインダ−、及び、多層膜用の樹脂バインダーとしては、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の樹脂を含むものを用いることが可能である。
【0018】本発明の塗布液の塗布方法は特に限定されるものではないが、例えばバーコート法、ブレードコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等が利用でき、処理液を平坦にかつ薄く均一に塗布できる方法であればいかなる方法でも良い。
【0019】本発明の塗布液は、焼成時の熱による塗布液成分の分解あるいは化学反応を利用したものではないため、特性の安定した均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0020】本発明の日射遮蔽膜の膜厚は、要求される透明性と日射遮蔽機能から決定され、通常の場合は0.05μm〜5μm程度が好ましい。膜厚が0.05μmより薄くなると効果的な日射遮蔽効果が得られず、また膜中の微粒子の分布が不均一になる傾向がある。また、厚膜を作製することも可能であるが、膜厚が5μm以上になると十分な透明性を保持するのが困難となり好ましくない。
【0021】本発明の日射遮蔽膜の構造は、膜中に電気絶縁性の高い樹脂が混在して各微粒子を電気的に孤立した状態で存在したものとなるので、この結果として表面抵抗が1MΩ/□以上の膜の作製が可能である。この様に高い表面抵抗をもつ日射遮蔽膜は、これを施した室内で、携帯電話等の電波通信機や、ラジオ、テレビ、ポケットベル等の電波受信機の利用が可能となり、応用範囲が広い。
【0022】更に、上記微粒子は可視光領域に吸収をもつ材料であり、日射遮蔽膜の膜厚を薄くすることで可視光領域の透過率を向上させることが可能となる。この可視光透過性をもたせた膜の色は、微粒子の種類や分散状態によって異なる。例えば含ルテニウム酸化物においてはブロンズ色〜濃いグリーン色を示し、紫外、近赤外域の太陽光線を遮蔽するだけでなく、膜を施した基材に非常に美しい色調を兼ね備えさせることも可能となる。また、透明基材に塗布する場合、膜厚等を変えて可視光透過率を制御することが可能となり、プライバシー保護膜としての応用価値も高い。
【0023】本発明中の塗布液は、さらに無機紫外線遮蔽材料として、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウム等、有機紫外線材料としてベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等を1種もしくは2種以上添加することで、紫外線遮蔽能をさらに向上させることも可能である。
【0024】また本発明の日射遮蔽膜をガラスやプラスチックの様な透明基材に直接塗布すれば、太陽光線フィルターとして利用することも可能であり、塗布液中の溶媒や樹脂成分を選択することで、塗布後常温固化させ、直ちに太陽光線フィルターの機能を透明基材にもたせることができる。また、薄いフィルム上に本発明の日射遮蔽膜を成膜し、このフィルムを目的の基材に直接接着剤等で接着し、太陽光線フィルター、プライバシー保護膜として利用することも可能である。
【0025】
【実施例】以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
【0026】実施例1 ・・・ 酸化ルテニウム(RuO2)微粒子(平均粒径30nm)15g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)23g、ジアセトンアルコール(DAA)14g、メチルエチルケトン47.5g、およびチタネート系カップリング剤(味の素(株)製プレンアクトKRー44)0.5gを混合し、直径4mmのジルコニアボールを用いて100時間ボールミル混合して酸化ルテニウムの分散液100gを作製した(A液)。
【0027】また、樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂50重量%メチルエチルケトン溶液を作製した(B液)。
【0028】A液とB液をそれぞれエタノールで目的の濃度となるように希釈し、A液とB液を混合撹拌し、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の固形分が全体の4重量%、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の重量比が75:25となるようにした(C液)。
【0029】この混合して得た塗布液(C液)を、ソーダライム系板硝子基板上にバーコーターを用いて塗布した。これを150℃の乾燥機に入れて1時間加熱硬化し、目的とする膜を得た。
【0030】形成された膜の表面抵抗は三菱油化株式会社製の表面抵抗計を用いて測定した。また、形成された膜の340〜1800nmの分光透過率を測定し、JISR 3106に従って日射透過率、可視光透過率を算出した。また、ヘイズメーターを用いて膜のヘイズ値を測定し、試料の紫外線領域の分光透過率を測定し、ISO9050に従って紫外線透過率を算出した。これらの結果を表1に示す。また、表1には実施例2〜6、比較例1、比較例2で得られた膜の特性についても併せて示した。
【0031】
【表1】


【0032】実施例2 ・・・ C液中の固形分濃度を1.2重量%、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の重量比を75:25となるようにした以外は実施例1と同様の方法で膜を作製した。
【0033】実施例3 ・・・ C液中の固形分濃度を1.4重量%、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の重量比を70:30となるようにした以外は実施例1と同様の方法で膜を作製した。
【0034】実施例4 ・・・ C液中の固形分濃度を0.8重量%、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の重量比を100:0とし、この溶液をソーダライム系板硝子基板上にバーコーターを用いて塗布した。これを、80℃の乾燥機で30分乾燥させた後、エタノールで固形分納度を1.6重量%に希釈したB液を更にこの基板上に上記と同様の方法でで塗布し、2層構造の膜を作製した。
【0035】実施例5 ・・・ B液中のエポキシ樹脂の替わりにアクリル樹脂を用い、C液中の固形分濃度を1.3重量%、酸化ルテニウムとアクリル樹脂の重量比を85:15となるようにした以外は実施例1と同様の方法で膜を作製した。
【0036】実施例6 ・・・ C液中の固形分濃度を4重量%となるようにした以外は実施例5と同様の方法で膜を作製した。
【0037】実施例7 ・・・ 酸化ルテニウム(RuO2)微粒子の替わりに、酸化イリジウム(IrO2)を用い、チタネート系カップリング剤の替わりにシラン系カップリング剤を使用した以外は実施例1と同様の方法でA液を作製し、C液中の固形分濃度を1.3重量%とした以外は実施例1と同様の方法で膜を作製した。
【0038】実施例8 ・・・ 酸化ルテニウム(RuO2)微粒子の替わりに、ルテニウム酸鉛(Pb2Ru26.5)を用い、C液中のルテニウム酸鉛とエポキシ樹脂の重量比を80:20とした以外は実施例7と同様の方法で膜を作製した。
【0039】実施例9 ・・・ 酸化ルテニウム(RuO2)微粒子の替わりに、イリジウム酸鉛(Pb2Ir26.5)を用い、C液中の全固形分濃度を1.2重量%とした以外は実施例7と同様の方法で膜を作製した。
【0040】比較例1 ・・・ 用いる酸化ルテニウム微粒子の平均粒径を120nmとした以外は実施例1と同様の方法で膜を作製した。得られた膜付きガラスは、ヘイズ値が35と非常に高く、曇りガラスの様になってしまった。また、インク中に多量の沈殿が生じてしまい、目的とする膜、及びインクが得られなかった。
【0041】比較例2 ・・・ C液中の固形分濃度を1重量%、酸化ルテニウムとエポキシ樹脂の重量比を80:20となるようにした以外は比較例1と同様の方法で膜を作製した。得られた膜付きガラスは、比較例1と同様に、ヘイズ値が18と非常に高く、曇りガラスの様になってしまった。また、インク中に多量の沈殿が生じてしまい、目的とする膜、及びインクは得られなかった。
【0042】
【発明の効果】以上示したように、本発明の日射遮蔽膜は、特に太陽光スペクトルの強度の大きい近赤外領域(780〜1400nm)の日射遮蔽効率が高いので、日射遮蔽には極めて有効である。また、人体に悪影響を及ぼす紫外線領域の光を吸収し、かつ可視光領域の透過率制御も可能であり、太陽光の紫外、可視、近赤外域の光をまとめて制御できる材料として応用範囲が広い。また、高導電性微粒子を用いているにも関わらず膜の表面抵抗を1MΩ/□以上にすることができるため、これを施した室内で、携帯電話等の電波通信機や、ラジオ、テレビ、ポケットベル等の電波受信機の利用が可能となり、現在の電波事情に適している。また高コストの物理成膜法により作製された日射遮蔽膜と比較して、簡便で安価な塗布法で成膜でき、コスト面や大面積成膜の面から工業的有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、および、含ロジウム酸化物微粒子のうちの1種もしくは2種以上からなる平均粒径100nm以下の微粒子が含有された分散液からなる日射遮蔽膜用塗布液。
【請求項2】 含ルテニウム酸化物微粒子、含イリジウム酸化物微粒子、および、含ロジウム酸化物微粒子のうちの1種もしくは2種以上からなる平均粒径100nm以下の微粒子が含有された分散液と、樹脂バインダーとが混合されてなる日射遮蔽膜用塗布液。
【請求項3】 特許請求の範囲1または特許請求の範囲2に記載の日射遮蔽膜用塗布液を、基材に塗布後加熱して得た日射遮蔽膜。
【請求項4】 特許請求の範囲1または特許請求の範囲2に記載の日射遮蔽膜用塗布液を、基材に塗布後加熱して得た日射遮蔽膜の上に、更に樹脂膜を被膜した多層日射遮蔽膜。

【公開番号】特開平9−302284
【公開日】平成9年(1997)11月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−119280
【出願日】平成8年(1996)5月14日
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)