説明

日射量予測方法、装置及びプログラム

【課題】
数値予報モデルの予報値を使って、翌日又は翌々日の日射量を精度よく予測する。
【解決手段】
蓄積装置(12)に、数値予報モデル(10)からの過去30日分の予報データを蓄積し、蓄積装置(14)に同期間の全天日射量観測値を蓄積する。予測太陽位置計算装置(16)は、予測対象地点の予報日時における太陽位置を計算する。快晴時全天日射量計算装置(18)は過去の予報値から快晴時全天日射量を計算する。快晴指数計算装置(20)は、全天日射量観測値を快晴時全天日射量で除算して、快晴指数を計算する。予測係数計算装置(22)は、過去の予報値と快晴指数との間の関係を示す予測式の予測係数を決定する。装置(24〜32)により、数値予報モデル(10)からの予測対象日時の予報値を予測式に適用して、予測対象日時の全天日射量を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射量予測方法、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会に向け、風力発電や太陽光発電といった自然エネルギーの積極利用が推進されている。特に、太陽光を電気信号に変換する光電変換素子を使用する太陽光発電施設が導入されつつある。太陽光発電は、日射量に大きく左右されるので、効率的な運用のためには日射量の予測が必要である。
【0003】
特許文献1には、太陽光発電システムの設置地域において過去に観測された天気現象と過去に計測された日射量とを基に日射量予測式を導出し、当該設置地域の天気予報と、予測対象日の予測実施時刻前に当該設置地域において計測された日射量とを日射量予測式に入力することにより、日射量を予測する技術が記載されている。
【0004】
特許文献2には、リモートセンシング画像から現在の日射量(実績値)を算出し、過去のリモートセンシング画像と現在のリモートセンシング画像から雲の移動量の予測値を求め、将来の、例えば3時間先までの日射量を予測することが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、毎時観測されるGMS(Geostationary Meteorological Satellite)画像データから、1時間毎に約1kmの分解能で地上到達日射量を推定することが記載され、日射量推定モデルに、雲のない晴天域での計算式と、雲のある雲域での計算式があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−033908号公報
【特許文献2】特開2005−031927号公報
【特許文献3】特開平11−211560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大規模太陽光発電施設では、計画的な発電と発電量の予測が重要であり、そのためには、前日の段階で翌日の日射量を可能な限り正確に予測できるのが好ましいが、従来の技術は、このような要望を満たせるほどの正確な予測を達成出来ていない。
【0008】
本発明は、翌日又は翌々日の日射量変化をより高い精度で予測出来る日射量予測方法、装置及びプログラムを提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る日射量予測方法は、数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従って日射量を予測する日射量予測方法であって、過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積装置に蓄積する蓄積ステップと、コンピュータが、当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定する予測前処理ステップと、当該コンピュータが、当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測処理ステップとを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る日射量予測装置は、数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従って日射量を予測する日射量予測装置であって、過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積する蓄積装置と、当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定する予測前処理手段と、当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測処理手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る日射量予測プログラムは、数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従ってコンピュータに日射量を予測させる日射量予測方法プログラムであって、当該コンピュータに、過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積装置に蓄積させる蓄積機能と、当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定させる予測前処理機能と、当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算させる予測処理機能とを実現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気象予報値と日射量観測値との関係を考慮した予測式に従い、同じ数値予報モデルからの気象予報値に従って日射量を予測するので、数値予報モデルが持つ系統的誤差を低減又は除外でき、予測精度を改善できる。これにより、翌日または翌々日について高精度な予測を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例の概略構成ブロック図を示す。
【図2】数値予報モデルの概要を示す。
【図3】本実施例の全体的な動作フローチャートを示す。
【図4】予想前処理の詳細な動作フローチャートを示す。
【図5】予測処理の詳細な動作フローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の一実施例の概略構成ブロック図を示す。本実施例は、コンピュータ上のプログラムとして実現されるが、その機能の一部又は全部を専用ハードウエアで代替することが可能であるかことは明らかである。
【0016】
本実施例は、おおまかに、予測前処理Aと、予測処理Bと、傾斜補正処理Cからなる。予測前処理Aは、数値予報モデルの予報値と実際の観測値との関係の重回帰分析、カルマンフィルタ方式又はニューラルネットワーク方式等の統計分析に基づき、数値予報モデルの予報値から全天日射量を予測する予測式の予測係数を決定する処理である。予測処理Bは、予測前処理Aにより決定された予測係数の下で、予想対象日時の予報値から全天日射量を予測する処理である。傾斜補正処理Cは、予測処理Bで得られた予測全天日射量に基づき、太陽電池の発電量を決定するために太陽電池の傾斜面への日射量を決定する処理である。
【0017】
数値予報モデル10は、日射量を予測する地点(予測対象地点)を含む一定地域範囲の地上及び空間について気象データを予報するコンピュータプログラムである。数値予報モデル10としては例えば、気象庁による地球全体の大気を対象とした全球モデル(GSM:Global Spectral Model)及び、日本及びその近海の大気を対象としたメソモデル(MSM:Meso Scale Model)、並びに、本出願人によるメソモデル(SYNFOS:SYnnefo Numerical Forecasting System)が、知られている。図2は、各数値予報モデルの概要を示す。なお、大気運動を支配する物理法則を、モデル化した大気に適用し、観測値を初期条件としてコンピュータを用いた数値解法(時間積分)で解いた理論予報を数値予報という。そして、この計算に用いるコンピュータプログラムが数値予報モデルと呼ばれる。
【0018】
数値予報モデル10の初期時刻は、数値予報モデルで計算するための初期条件場の時刻又は日時を意味し、例えば、初期時刻が9時である場合,9時の大気状態(実況値)に基づき、9時以降の予報時刻の大気状態を気象モデルに従って計算することになる。予報値が実際に利用可能になるのは、計算のタイムラグ等もあり、初期時刻から4乃至5時間後である。例えば、初期時刻を9時とする予報データは、14時以降に利用可能になる。但し、9時以降の予報値も含まれる。予報時刻は、予報値の対象となる時刻又は日時を示す。1日のうちの時刻のみを特定する場合、初期時刻及び予報時刻は、日を含まない時刻情報のみからなり、特に日を区別する必要がある場合に、初期時刻及び予報時刻をそれぞれ初期日時及び予報日時と表記する。
【0019】
本実施例では、同じ数値予報モデル10により、過去30日分の予報気象データ、及び、直近の初期時刻の予報気象データを取得する。詳細は後述するが、初期時刻9時の予報データから翌日又は翌々日の日射量を予測する場合には、過去30日分の同じ初期時刻9時の予報データを使って日射量を予測する。例えば、初期時刻15時の予報データから翌日又は翌々日の日射量を予測する場合には、過去30日分の初期時刻15時の予報データを使って日射量を予測する。30日は一例であり、予報値と観測値との間で十分に精度の良い関係式の予測係数を得られる程度の日数で十分である。
【0020】
なお、数値予報モデル10から得られる予報気象データの内で、本実施例で必要とする気象データは、地上についての地上気圧、気温、湿度及び降水量と、上中下層の雲量と、高層(950hPa〜300hPaの7層)の気圧、気温及び湿度の気象要素の数値データからなる。
【0021】
図3、図4及び図5に示す動作フローチャートも参照して,これらの処理A,B,Cの構成と作用を順次説明する。図3は、全体的な動作フローを示し、図4は、予想前処理Aの詳細な動作フローチャートを示し、図5は、予測処理Bの詳細な動作フローチャートを示す。
【0022】
先ず、日射量を予測する予測対象地点の緯度経度を指定する(S1)。そして、予測前処理Aとして、太陽位置計算装置16、快晴時全天日射量計算装置18、快晴指数計算装置20、及び予測係数計算装置22が、過去30日分の予報値と全天日射量観測値から、予測式の予測係数を決定する(S2)。図4は、ステップS2に示す予測前処理Aの詳細なフローチャートを示す。
【0023】
図4に示すように、先ず、予測対象地点について、数値予報モデル10からの過去30日分の予報気象データを蓄積装置12に蓄積し(S11)、また、日射量予測対象地点の、過去30日分の全天日射量観測データを蓄積装置14に蓄積する(S12)。もちろん、蓄積済みのデータがある場合にはそのまま利用し、現時点で必要なデータを補充的に蓄積すればよい。例えば7月1日の日射量を予測する場合、蓄積装置12には、6月1日から6月30日までの30日分の各初期時刻の予報値データセットが蓄積され、各予報値の予報時刻と同じ時刻の観測値のデータセットが蓄積装置14に蓄積されている。蓄積装置12の予報値及び蓄積装置14の観測値が互いに空間的又は時間的にずれている場合には、空間的及び時間的に一致するデータを得る補間処理を予報値又は観測値に対して事前に実行しておく。
【0024】
蓄積装置12、14は、いわゆるハードディスク装置であり、コンピュータネットワーク上のストレージであってもよい。理解を容易にするために、蓄積装置12、14を別装置であるように図示したが,同じストレージであっても良いことはいうまでもない。
【0025】
本実施例では、予報データの重複を避け、且つ、予報の一貫性を維持するために、過去の各日について、初期時刻が同じで予報時刻(ここでは初期時刻からの経過時間)の範囲も同じである予報気象データを使用する。具体的には、予測に使用する数値気象モデル10からの直近の初期時刻の予報データに対し、過去30日分の同じ初期時刻の翌日分の予報値を使って、予測係数を計算する。例えば、初期時刻9時の予報データから翌日又は翌々日の日射量を予測する場合には、過去30日分の同じ初期時刻9時の翌日の予報値をデータセットとして予測係数を決定する。また、初期時刻15時の予報データから翌日又は翌々日の日射量を予測する場合には、過去30日分の初期時刻15時の翌日の予報値をデータセットとして予測係数を決定する。
【0026】
蓄積装置12に蓄積される30日分の予報値データセットから、最初に全天日射量観測値と比較する予報値を指定する(S13)。すなわち、数値予報モデル10が出力する予報値の初期時刻と同じ初期時刻の30日分の予報値データセットから順に、観測値と対比する。
【0027】
太陽位置計算装置16は、日射量予測対象地点の緯度経度情報と、指定された過去の予報値の予報日時に従い、当該予報日時での大気外日射量及び太陽方位・高度を計算し、快晴時全天日射量計算装置18に供給する(S14)。
【0028】
快晴時全天日射量計算装置18は、太陽位置計算装置16からの大気外日射量及び太陽方位・高度を参照し、蓄積装置12のステップS13で指定された予報値による大気中水蒸気量等をも加味して、日射量予測対象地点での快晴時全天日射量(SRc)を計算する(S15)。具体的には、朝倉書店刊、「水環境の気象学」のp.87に記載される快晴時全天日射量の計算手法を使用し、蓄積装置12に蓄積された気圧、降水量、気温及び湿度の各予報値から快晴時の全天日射量(SRc)を計算する。なお、快晴時全天日射量とは、雲ひとつ無い場合を仮定した地上における全天日射量である。快晴時全天日射量は、同じ雲一つない快晴で、年月日時刻が同一でも、1割程度は変動する。これは、大気中の微粒子や水蒸気量が影響するからであり、快晴時全天日射量計算装置18は、大気中の水蒸気量を計算し、快晴時を仮定した全天日射量を計算する。
【0029】
快晴指数計算装置20が、蓄積装置14から予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値(SRm)を読み出し、快晴時全天日射量計算装置18からの快晴時全天日射量(SRc)で除算して規格化する(S16)。すなわち、快晴指数計算装置20は、
CC=SRm/SRc
により計算した快晴指数(CC)を出力する。ここで得られる快晴指数(CC)は、季節、時刻及び天気の状態によって異なる地上の全天日射量を規格化した指数であり、0〜1の範囲(1が快晴)をとる。
【0030】
以上の、予報値による全天日射量の計算(S14,S15)と、全天日射量観測値との比較による快晴指数の計算(S16)を、蓄積装置12の過去30日分の予報値のうちの先に説明した予報値データセットについて実行する(S17,S18)。すなわち、蓄積装置12の予報値データセットについて快晴指数(CC)が計算されるまで(S17)、蓄積装置12の次の予報値を指定して(S18)、ステップS14〜S16を実行する。に戻る。
【0031】
蓄積装置12の30日分の予報値データセットについて快晴指数(CC)が計算されると(S17)、予測係数計算装置22が、重回帰分析により過去の予測値と観測値との関係性を解析し、予測用の重回帰式の係数値を導出する(S19)。具体的には、快晴指数計算装置20で計算した各日時の快晴指数(CC)を目的変数とし、これと同日時における予測値である湿度(RH1〜8)と雲量(CA1〜3)を蓄積装置12から読み出して説明変数として、過去30日分のデータセットから重回帰式を計算し、偏回帰係数を導出する。快晴指数(CC)と、湿度(RH1〜8)及び雲量(CA1〜3)との関係は、
CC=aRH1+bRH2+cRH3+dRH4+eRH5+fRH6+gRH7+hRH8+iCA1+jCA2+kCA3+l (1)
と表現される。ここで、RH1は地上湿度である。RH2〜RH8は、それぞれ950,925,850,700,500,400,300hPa面の高層湿度である。CA1は雲量(上層)、CA2は雲量(中層)、CA3は雲量(下層)である。a〜lは、導出される偏回帰係数である。
【0032】
多重共線性を避けるため、予測係数計算装置22では、次のような変数選択処理が行われる。すなわち、湿度も雲量も値が増加すれば日射量は減少すると考えられるので、上式の係数a〜kは負の符号を有すことが望ましく、従って、これらの係数a〜kで正の符号が導出された場合、説明変数を除外して、重回帰分析を再実行する。予測係数計算装置22は、このような変数選択を全係数a〜kが負の符号を有するようになるまで繰り返して、最終的な偏回帰係数を決定し、出力する。
【0033】
以上の予測前処理Aにより、数値予報モデル10の予報値から日射量を予測する予測式の予測係数を、日射量観測値を勘案して生成できたことになる(S2)。すなわち、予測式の予測係数が、日射量観測値を考慮したものになっているので、予測結果も、観測値に近い高精度なものとなりうる。重回帰分析の目的変数に、日射量観測値を予報値に基づく快晴時全天日射量で除算または規格化した値を用いるので、日付や天候状態の異なる過去の日射量データを均質化でき、重回帰分析の精度が高まる。
【0034】
ステップS2に続けて、予測処理Bを実行する(S3)。図5は、ステップS3の詳細な動作フローを示す。数値予報モデル10からの直近の初期時刻の予報値セットから予測対象日時となる予報時刻を指定する(S21)。予測快晴指数計算装置24は、予測係数計算装置22で算出された偏回帰係数と、数値予報モデル10からの予測対象地点(又はその近辺)の予測対象日時の湿度及び雲量の予報値から、快晴指数(CC)に対応する予測値、いわゆる予測快晴指数(fCC)を計算する(S22)。より具体的に説明すると、予測係数計算装置22で算出された偏回帰係数の下で、式(1)に数値予報モデル10からの予測対象日時の湿度と雲量を代入し、快晴指数(ここでは、予測値なので予測快晴指数)を計算する。
【0035】
仮に、予測快晴指数が1であっても、降水量が多ければ0に近づけるべきである。また、雲量が0であれば、予測快晴指数が1未満の例えば、0.8程度であっても、雲量が0であれば、予測快晴指数を1とするのが現実に合致する。予測快晴指数が1以上の場合には、1にする。そこで、予測快晴指数補正装置26が、予測快晴指数計算装置24により計算された予測快晴指数fCCを、予測対象日時の湿度、雲量、気温及び降水量に従い補正する(S23)。先に説明したように、例えば、降水量が多ければfCC=0.1とし、また、雲量が0ならばfCC=1.0とする。予測快晴指数補正装置26により、予測対象地点における予測対象日時の快晴指数の予測精度が高まる。他には、降雪と看做せる条件下で、fCCが降雪時の代表値より小さい場合に、fCCを降雪時の代表値にする。
【0036】
太陽位置計算装置28は、太陽位置計算装置16と同じ機能からなり、予測対象日時と予測対象地点の緯度経度情報とから、予測対象日時における大気外日射量及び太陽方位・高度を計算する(S24)。
【0037】
快晴時全天日射量計算装置30は、快晴時全天日射量計算装置18と同じ機能からなり、太陽位置計算装置28からの情報と、数値予報モデル10からの予測対象地点(又はその近辺)における予測対象日時の予報値による大気中水蒸気量等から、快晴時全天日射量(SRc)を計算する。快晴時全天日射量計算装置18と同30は、投入されるデータが異なるのみであり、同じハードウエア又はソフトウエアで実現され得る。ここで計算される快晴時全天日射量(SRc)は、予測全天日射量の上限値になる。
【0038】
予測全天日射量計算装置32は、予測快晴指数補正装置26からの予測快晴指数(fCC)に、快晴時全天日射量計算装置30からの予測対象日時の快晴時全天日射量(fSRc)を乗算して、予測全天日射量(fSRm)を計算する(S25)。すなわち、
fSRm=fCC×fSRc
である。予測全天日射量(fSRm)を得ると、図5に示すフローを終了し、図3のステップS4に移行する。
【0039】
予測全天日射量計算装置32での計算は、快晴指数計算装置20の逆算に相当する。すなわち、数値予報モデル10による予報値から計算される快晴時全天日射量と、同じ日時の全天日射量観測値との関係を示す式の下で、数値予報モデル10による予測対象日時の予報値から計算した快晴時全天日射量を、当該予報対象日時に観測されるであろう全天日射量に換算することに相当する。数値予報モデル10による予報値からの全天日射量を、実際の観測値との定量的な関係を考慮して補正していることになり、この点で、予測全天日射量計算装置32により得られる予測全天日射量は、数値予報モデル10の予報値から計算した全天日射量よりも正確であると言える。
【0040】
大規模太陽光発電施設への適用では、太陽電池が一般に地上に傾斜して設置されることを考慮する必要がある。そこで、本実施例では、傾斜補正処理Cとして、太陽電池の傾斜面に入射する光量(傾斜面日射量)を計算する(S4,S5)。すなわち、直散分離装置34が、太陽位置計算装置28により計算される予測対象地点の予測対象日時における大気外日射量、太陽方位及び高度を参照し、予測全天日射量計算装置32により得られる予測全天日射量を直達日射量と散乱日射量に分離する(S4)。この分離計算には、例えば、日本建築学会刊「拡張アメダス気象データ」のp.341に記載されるErbsモデルを使用する。
【0041】
そして、傾斜面日射量計算装置36が、太陽電池の傾斜角と方位、太陽位置計算装置28からの大気外日射量、太陽方位及び高度、直散分離装置34からの直達日射量及び散乱日射量、並びに、予測全天日射量計算装置32からの予測全天日射量から、太陽電池に入射する傾斜面日射量(予測傾斜面日射量)を計算する(S5)。全天日射量、直達日射量及び散乱日射量から傾斜面における日射量を計算するには、例えば、日本建築学会刊「拡張アメダス気象データ」のp.352に記載されるPerezモデルを使用する。
【0042】
ステップS3〜S5を予測が必要な時間範囲について実行する(S6)。例えば、翌日分についての予測が必要な場合、翌日の夜明けから日没までの間、又は、その間の太陽電池を稼働させる時間帯について、ステップS3〜S5を実行する。数値予報モデル10からは、翌々日の予報値も得られるので、これを使って、翌々日の日射量も予測出来る。
【0043】
上記実施例では、過去の予報データについて、予測対象日時の予報データの初期時刻と同じ初期時刻の過去の予報データセットから予測係数を決定したが、予測対象日時の予報データに対し、初期時刻及び予報時刻が同じである予報データセットから予測係数を決定してもよい。
【0044】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
A:予測前処理
B:予測処理
C:傾斜補正処理
10:数値予報モデル
12,14:蓄積装置
16:太陽位置計算装置
18:快晴時全天日射量計算装置
20:快晴指数計算装置
22:予測係数計算装置
24:予測快晴指数計算装置
26:予測快晴指数補正装置
28:太陽位置計算装置
30:快晴時全天日射量計算装置
32:予測全天日射量計算装置
34:直散分離装置
36:傾斜面日射量計算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従って日射量を予測する日射量予測方法であって、
過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積装置(12,14)に蓄積する蓄積ステップと、
コンピュータが、当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定する予測前処理ステップ(18,20,22)と、
当該コンピュータが、当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測処理ステップ(28〜32)
とを具備することを特徴とする日射量予測方法。
【請求項2】
前記予測前処理ステップは、
当該コンピュータが、当該過去の気象予報値から予測対象地点における快晴時全天日射量を計算する第1の快晴時全天日射量計算ステップ(16,18)と、
当該コンピュータが、当該第1の快晴時全天日射量計算ステップによる快晴時全天日射量と、当該全天日射量観測値から快晴指数を計算する快晴指数計算ステップ(20)と、
当該コンピュータが、当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値とから、当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値との関係を示す快晴指数予測式の予測係数を計算する予測係数計算ステップ(22)
とを具備し、
当該予測処理ステップは、
当該コンピュータが、当該数値予報モデルからの予測対象日時の、当該所定気象要素の気象予報値を当該快晴指数予測式に適用し、予測快晴指数を計算する予測快晴指数計算ステップ(24)と、
当該コンピュータが、当該数値予報モデルからの当該予測対象日時における当該気象予報値から当該予測対象地点における快晴時全天日射量を計算する第2の快晴時全天日射量計算ステップ(28,30)と、
当該コンピュータが、当該第2の快晴時全天日射量計算ステップによる当該予測対象地点の当該予測対象日時における快晴時全天日射量と、当該予測快晴指数とから、当該予測対象地点の当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測全天日射量計算ステップ(32)
とを具備することを特徴とする請求項1に記載の日射量予測方法。
【請求項3】
当該予測処理ステップは更に、当該コンピュータが、予測全天日射量計算ステップ(32)の前に、当該予測快晴指数を当該数値予報モデルからの当該予測対象日時の気象予報値に従い補正する予測快晴指数補正ステップ(26)を具備することを特徴とする請求項2に記載の日射量予測方法。
【請求項4】
更に、当該コンピュータが、太陽電池の傾斜角及び方位、並びに当該予測対象日時を参照し、当該予測全天日射量から当該太陽電池に入射する日射量を計算する傾斜補正ステップ(34,36)を具備することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の日射量予測方法。
【請求項5】
数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従って日射量を予測する日射量予測装置であって、
過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積する蓄積装置(12,14)と、
当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定する予測前処理手段(18,20,22)と、
当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測処理手段(28〜32)
とを具備することを特徴とする日射量予測装置。
【請求項6】
前記予測前処理手段は、
当該過去の気象予報値から予測対象地点における快晴時全天日射量を計算する第1の快晴時全天日射量計算手段(16,18)と、
当該第1の快晴時全天日射量計算手段による快晴時全天日射量と、当該全天日射量観測値から快晴指数を計算する快晴指数計算手段(20)と、
当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値とから、当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値との関係を示す快晴指数予測式の予測係数を計算する予測係数計算手段(22)
とを具備し、
当該予測処理手段は、
当該数値予報モデルからの予測対象日時の、当該所定気象要素の気象予報値を当該快晴指数予測式に適用し、予測快晴指数を計算する予測快晴指数計算手段(24)と、
当該数値予報モデルからの当該予測対象日時における当該気象予報値から当該予測対象地点における快晴時全天日射量を計算する第2の快晴時全天日射量計算手段(28,30)と、
当該第2の快晴時全天日射量計算手段による当該予測対象地点の当該予測対象日時における快晴時全天日射量と、当該予測快晴指数とから、当該予測対象地点の当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算する予測全天日射量計算手段(32)
とを具備することを特徴とする請求項5に記載の日射量予測装置。
【請求項7】
当該予測処理手段は更に、当該予測快晴指数を当該数値予報モデルからの当該予測対象日時の気象予報値に従い補正して当該予測全天日射量計算手段に供給する予測快晴指数補正手段(26)を具備することを特徴とする請求項6に記載の日射量予測装置。
【請求項8】
更に、太陽電池の傾斜角及び方位、並びに当該予測対象日時を参照し、当該予測全天日射量から当該太陽電池に入射する日射量を計算する傾斜補正手段(34,36)を具備することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の日射量予測装置。
【請求項9】
数値予報モデルの初期時刻の気象予報値に従ってコンピュータに日射量を予測させる日射量予測方法プログラムであって、当該コンピュータに、
過去の所定日数について、当該数値予報モデルによる、当該初期時刻と同じ初期時刻の過去の気象予報値と、当該気象予報値の予報日時と同じ日時の全天日射量観測値とを蓄積装置(12,14)に蓄積させる蓄積機能と、
当該全天日射量観測値と、当該数値予報モデルによる当該過去の気象予報値との関係を示す予測式の予測係数を決定させる予測前処理機能(18,20,22)と、
当該数値予報モデルによる予測対象日時の予報値、及び当該予測式から、当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算させる予測処理機能(28〜32)
とを実現させることを特徴とする日射量予測プログラム。
【請求項10】
前記予測前処理機能は、当該コンピュータに、当該過去の気象予報値から予測対象地点における快晴時全天日射量を計算させる第1の快晴時全天日射量計算機能(16,18)と、
当該コンピュータに、当該第1の快晴時全天日射量計算機能による快晴時全天日射量と、当該全天日射量観測値から快晴指数を計算させる快晴指数計算機能(20)と、
当該コンピュータに、当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値とから、当該快晴指数と当該蓄積装置の所定気象要素の当該気象予報値との関係を示す快晴指数予測式の予測係数を計算させる予測係数計算機能(22)
とを具備し、
当該予測処理機能は、
当該コンピュータに、当該数値予報モデルからの予測対象日時の、当該所定気象要素の気象予報値を当該快晴指数予測式に適用させ、予測快晴指数を計算させる予測快晴指数計算機能(24)と、
当該コンピュータに、当該数値予報モデルからの当該予測対象日時における当該気象予報値から当該予測対象地点における快晴時全天日射量を計算させる第2の快晴時全天日射量計算機能(28,30)と、
当該コンピュータに、当該第2の快晴時全天日射量計算機能による当該予測対象地点の当該予測対象日時における快晴時全天日射量と、当該予測快晴指数とから、当該予測対象地点の当該予測対象日時における全天日射量を示す予測全天日射量を計算させる予測全天日射量計算機能(32)
とを具備することを特徴とする請求項9に記載の日射量予測プログラム。
【請求項11】
当該予測処理機能は更に、当該コンピュータに、当該予測快晴指数を当該数値予報モデルからの当該予測対象日時の気象予報値に従い補正させ、測全天日射量計算機能(32)に供給させる予測快晴指数補正機能(26)を具備することを特徴とする請求項10に記載の日射量予測プログラム。
【請求項12】
更に、当該コンピュータに、太陽電池の傾斜角及び方位、並びに当該予測対象日時を参照し、当該予測全天日射量から当該太陽電池に入射する日射量を計算させる傾斜補正機能(34,36)を実現させることを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の日射量予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−53168(P2011−53168A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204307(P2009−204307)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月17日 発行の「平成21年電気学会全国大会 講演論文集」(磁気ディスク)に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(397039919)一般財団法人日本気象協会 (29)