説明

日本酒の製造方法

【課題】日本酒の製造方法に関するものであり、日本酒の旨みを安価に増強させることができる日本酒の製造方法を提供する。
【解決手段】旨味成分の多い日本酒を安価に製造するためになされたものであり、その解決手段としては、アラニン、特にこのましくはD−アラニン、を添加することを特徴とし、特に、前記アラニンを0.005ミリモル/リットル以上0.025ミリモル/リットル以下添加することを特徴とする日本酒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旨みを増加させることができる日本酒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、旨味成分の多い日本酒を製造するためには、生もと造りなど非常に手間のかかる製法で製造するか、もしくは、原料として高価な日本酒原料米や水など高コストの原料を用いて製造されていたため、このような製法で得られる日本酒は非常に高価なものとなっていた。
【0003】
一方、食品の旨みを増強させるために、グルコン酸などのアミノ酸を添加することが行われている(特許文献1)。
【0004】
しかし、このような従来のアミノ酸を添加することでは、日本酒の旨みを十分に増強させることができず、特に、比較的安価な普通酒などにおいて旨みを増強させるには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO01/060178号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の問題点に鑑み、本発明は、日本酒の旨みを安価に増強させることができる日本酒の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の日本酒の製造方法は、アラニンを添加することを特徴としている。
【0008】
特に、前記アラニンが、D−アラニンであることが好ましい。
【0009】
さらに、前記アラニンを0.005ミリモル/リットル以上0.250ミリモル/リットル以下添加することを特徴としている。
【0010】
また、前記D−アラニンを、DL−アラニン混合物として添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の日本酒の製造方法は、アラニンを添加することで、容易に且つ経済的に旨みの多い日本酒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の日本酒の製造方法は、アラニンを醸造後の日本酒原料に添加することで、旨みを向上させることができる。
日本酒は醸造酒の一種であり、その製造工程において複雑な発酵などの工程を経て製造されるため、味や風味の調整は非常に難しい。
本発明の日本酒の製造方法は、一連の製造工程の最終段階の日本酒原料にアラニンを添加することで日本酒の旨みを増強することができる。
【0013】
アラニンとしては、L体のL−アラニンと、D体のD−アラニンが存在する。
本発明で使用されるアラニンとしては、このL−アラニン、D−アラニンどちらも用いることができるが、特に好ましいのは、D−アラニンである。
【0014】
D−アラニンを使用した場合には、添加量が少量でも旨みを増強する効果が得られる。
日本酒は、醸造の過程で生成される種々のアミノ酸が含まれており、これらの複数のアミノ酸のバランスで味のバランスも保たれている。
従って、後から添加するアミノ酸は少量である方がこれらのアミノ酸のバランスを崩しにくく、味のバランスもとりやすいという利点がある。
【0015】
D−アラニンは、D−アラニン単独で添加してもよく、あるいはDL−アラニン(ラセミ体)として添加してもよい。
この、D−アラニンは発酵法、タンパク質の加水分解物からの抽出法、合成法等の公知の方法に従い製造したものの何れであってもよく、市販品を使用することもできる。
また、遊離のD−アラニンとして添加する他に、アラニンの誘導体として添加してもよい。
DL−アラニンの混合体として添加する場合には、混合体は入手が容易で経済的であるため、より低コストで日本酒を製造することができる。
【0016】
本発明の日本酒原料にアラニンを添加する場合には、添加量は0.005〜0.250ミリモル/リットル、好ましくは0.005〜0.025ミリモル/リットル添加されることが好ましい。
0.005ミリモル/リットルより添加量が少ない場合には、旨み増強効果が充分に得られないことがあり、0.250ミリモル/リットルを超える場合には、苦味が増したり、風味のバランスが崩れて日本酒の味を損なうためである。
【0017】
本発明の日本酒の製造方法で製造される日本酒としては、どのような種類の日本酒でもよいが、例えば、原料米として日本酒専用の原料米ではない一般米を使用したものや、原料米の精米歩合の低いものや、醸造用アルコールが添加されたような、いわゆる比較的安価な普通酒などの日本酒の製造に適している。
【0018】
日本酒は、通常、醸造後に濾過、火入れなど一連の製造工程を終えて、通常は瓶などの容器に充填されて熟成されるが、上記アラニンを添加するタイミングとしては、モロミを上槽する前の日本酒原料に調味料とともに添加したり、または、容器に充填して熟成する直前の日本酒原料に添加してもよく、添加するタイミングは特に限定されることがない。また、合成酒の場合には、調合時に添加することが好ましい。
尚、本発明で、アラニンを添加する日本酒原料としては、すでに熟成済みの日本酒であってアラニンが添加されていない日本酒でもよく、通常の日本酒製造工程における未完成の日本酒原料であってもよい。したがって、本発明でいう日本酒とはアラニンを添加する工程を経たものを指す。
【0019】
本発明の日本酒の製造方法では、製造工程の任意の段階でアラニンを添加することで旨みを増強させることができるため、複雑な旨みを増強させるための作業が不要である。
また、調合時など製造工程の最終段階でアラニンを添加する場合には、醸造条件によって品質が一定でない日本酒の場合でも、品質に応じてアラニンの添加量を調整することにより、安定した品質の日本酒を製造することができる。
【0020】
上記のようにアラニンを添加することで旨み成分が増強され、風味のよい日本酒を容易に製造することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明にかかる日本酒の製造方法で製造された日本酒について、試験例と比較例をあげて説明する。なお、本発明は下記の試験例に限定して解釈されるものではない。
【0022】
表1に示す4種類の市販の日本酒(熟成後の日本酒)A、B、C、Dを本発明の日本酒原料として準備した。
【0023】
【表1】

【0024】
試験例1〜64としては、前記各日本酒にL−アラニン(商品名:L−アラニン協和、協和発酵バイオ株式会社製)を0.005から1.000ミリモルになるように添加したもの、および、DL−アラニン(商品名:DL−アラニン協和、協和発酵工業株式会社製)を0.010〜2.000ミリモル/リットル添加したものを準備した。
尚、DL−アラニンは、D−アラニンとL−アラニンが同モル量混合された混合体であり、D−アラニンとしてのモル量は半分の値になる。
さらに、比較例1−4として、日本酒原料AからDにアラニンを添加していないものを準備した。
【0025】
(DL−アラニン量/アミノ酸量の測定)
各試験例および比較例に含まれる、D−アラニン、L−アラニン、および総アミノ酸量を測定した。
測定は、OPA‐NACキラル誘導体化法を用いた高速液体クロマトグラフィーによるD−及びL−アミノ酸定量分析により実施した。
各実施例および比較例は50mM酢酸ナトリウム溶液で100倍に希釈後、GLクロマトディスク4A(孔径0.2μm、倉敷紡績株式会社)でろ過した。これらサンプル60μlに、2% N‐アセチル‐L‐システイン(1%四ホウ酸ナトリウム溶液)20μl、1.6% O−フタルアルデヒド(メタノール溶液)20μl、1%四ホウ酸ナトリウム溶液40μlを添加してキラル誘導体化し、高速液体クロマトグラフィーによる分析に用いた。
高速液体クロマトグラフィーはシステムコントローラCBM−20A、送液ユニットLC−20AB、オートサンプラSIL−20AC、カラムオーブンCTO−20AC、オンラインデガッサDGU−20A5、蛍光検出器RF−10A XL(株式会社島津製作所)を用い、以下の分析条件で実施した。
カラム:Develosil ODS−UG−5(内径6.0×250mm、野村化学株式会社)、移動相:A;50mM酢酸ナトリウム溶液 B;メタノール A/B=100/0→20/80(V/V)(タイムプログラム別表)、流速:1.2ml/min、注入量:10μl、温度:40℃、検出:蛍光検出Ex=350nm Em=450nm。
尚、移動相タイムプログラムは表2に示すとおりである。
【0026】
【表2】

【0027】
同様にアミノ酸標準試料についても測定を行い、アミノ酸濃度の標準曲線を作成した。この標準曲線を用いて、各実施例および比較例のアミノ酸濃度を算出した。
尚、測定に使用したアミノ酸分析用試薬、及び、標準曲線作成用のアミノ酸標準試料試薬は表2および表3に示すとおりである。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
(鑑定評価)
各試験例及び比較例を、大阪国税局清酒鑑評議員2名が大阪国税局清酒鑑評会の評価方法に準じた試験方法で官能評価した旨みおよび苦味について評価を行った。
尚、旨みの評価は、1から10までのポイント評価であり、5付近がもっとも良好であり、1では旨みが弱く、10ではだれる、という評価である。
すなわち、3から8.5の範囲が旨みが多く、5.0から7.0では特に旨みが高いという評価である。
また、苦味の評価は1から10までのポイント評価であり、5付近が普通であり、1では苦味が弱く8.0ではやや苦みが強く、8.0を超えると苦いという評価になる。
【0031】
上記の結果を表5から表8に示した。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】
【表8】

【0036】
各表に示すように、各日本酒とも試験例では比較例よりも旨み評価が上がっていることがあきらかである。
以上より、アラニンを添加した試験例では比較例よりも旨みが向上されていることがわかった。
また、特に、D−アラニンを添加した試験例では、添加量が少量でも旨み評価が向上しており、且つ、添加量が増えても苦味評価があがりにくいことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラニンを添加することを特徴とする日本酒の製造方法。
【請求項2】
前記アラニンが、D−アラニンである請求項1に記載の日本酒の製造方法。
【請求項3】
前記アラニンを0.005ミリモル/リットル以上0.250ミリモル/リットル以下添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の日本酒の製造方法。
【請求項4】
前記D−アラニンを、DL−アラニン混合物として添加する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の日本酒の製造方法。

【公開番号】特開2012−5425(P2012−5425A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144962(P2010−144962)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 辻 賢司 〔刊行物名〕 バイオインダストリー Vol.27 No.1 2010 〔発行年月日〕 平成22年1月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「イノベーション創出基礎的研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】