説明

昆虫の分化および成長の制御法ならびにそのための組成物

【課題】ローヤルゼリーと同様の活性を有し、昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分を決定し、その成分を用いることによる昆虫の分化および成長の制御法およびそのための組成物を確立することを、本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、ローヤルゼリーにおいて昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分がロイヤラクチンであることを同定し、ロイヤラクチンを用いる昆虫の分化および成長の制御法およびそのための組成物を提供することによって、解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫、特に内翅群昆虫の分化および成長の制御の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
雌性のミツバチ(Apis mellifera)は、女王蜂および働き蜂という2つにカースト分化する。このカースト分化は、遺伝的差異によるものではなく、働き蜂によって分泌されるローヤルゼリー(RJ)を発生の初期段階で摂取するか否かに依存する(非特許文献1〜3)。
【0003】
しかしながら、ローヤルゼリーに含有されるどの成分が、カースト分化を担うかについては解明されていない。昆虫の分化および成長の制御においてローヤルゼリーの使用は非常に有用ではあるが、ローヤルゼリーを大量に調製することは困難である。
【0004】
そこで、ローヤルゼリーと同様に昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分を決定し、その成分を用いることによる昆虫の分化および成長の制御法、ならびに、そのための組成物の確立が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PageおよびPeng、Exp.Gerontol.36,695-711(2001)
【非特許文献2】Wheeler、Am.Nat.128,13−34(1986)
【非特許文献3】Weaver、Annals Ent.Soc.Am.50,283−294(1957)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ローヤルゼリーと同様の活性を有し、昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分を決定し、その成分を用いることによる昆虫の分化および成長の制御法およびそのための組成物を確立することを、本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、RJに含有されるカースト分化を担うタンパク質がロイヤラクチン(登録商標)であると同定し、ロイヤラクチンを用いる昆虫の分化および成長の制御法、ならびに、ロイヤラクチンを含む組成物を提供することによって解決された。
【0008】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1) 雌性の内翅群昆虫の分化および成長を促進する方法であって、該方法は、(i)該雌性昆虫の幼虫にロイヤラクチンまたはその改変体を投与する工程、を包含し、ここで、該ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、方法。
(項目2) 項目1に記載の方法であって、ここで、前記ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、方法。
(項目3) 前記ロイヤラクチンまたはその改変体が配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、項目1に記載の方法。
(項目4) 前記EGFRが、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記昆虫が双翅目昆虫または膜翅目昆虫である、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記昆虫がDrosophila属の昆虫またはApis属の昆虫である、項目5に記載の方法。
(項目7) 前記昆虫がDrosophila melanogasterまたはApis melliferaである、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記雌性の内翅群昆虫の分化および成長の促進が、羽化までの発生に要する時間の減少、羽化時の成体の重量の増加、卵巣サイズの増大、卵巣あたりの卵巣小管数の増加、幼若ホルモンの分泌の増加、女王蜂への分化、体長の伸長、体重の増加、翅の面積の増大、蛹サイズの増大、および、産卵数の増加、からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目9) 雌性の内翅群昆虫の分化および成長を促進するための組成物であって、該組成物はロイヤラクチンまたはその改変体を含有し、ここで、該ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、組成物。
(項目10) 項目9に記載の組成物であって、ここで、前記ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、組成物。
(項目11) 前記ロイヤラクチンまたはその改変体が配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、項目9に記載の組成物。
(項目12) 前記EGFRが、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、からなる群から選択される、項目9に記載の組成物。
(項目13) 前記昆虫が双翅目昆虫または膜翅目昆虫である、項目9に記載の組成物。
(項目14) 前記昆虫がDrosophila属の昆虫またはApis属の昆虫である、項目13に記載の組成物。
(項目15) 前記昆虫がDrosophila melanogasterまたはApis melliferaである、項目14に記載の組成物。
(項目16) 前記雌性の内翅群昆虫の分化および成長の促進が、羽化までの発生に要する時間の減少、羽化時の成体の重量の増加、卵巣サイズの増大、卵巣あたりの卵巣小管数の増加、幼若ホルモンの分泌の増加、ビテロゲニン発現の増加、女王蜂への分化、体長の伸長、体重の増加、翅の面積の増大、蛹サイズの増大、および、産卵数の増加、からなる群から選択される、項目9に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
ローヤルゼリーにおいて昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分がロイヤラクチンであることを同定することによって、ロイヤラクチンまたはその改変体を用いる昆虫の分化および成長の制御法およびそのための組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で 7日間保存したローヤルゼリー(40−7d RJ)、40℃で14日間保存したローヤルゼリー(40−14d RJ)、40℃で21日間保存したローヤルゼリー(40−21d RJ)、および、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)をミツバチ幼虫に与えた場合の、羽化までの発生に要する時間。(b)ローヤルゼリー(RJ)、40−7d RJ、40−14d RJ、40−21d RJ、および、40−30d RJをミツバチ幼虫に与えた場合に羽化時の成体の重量(mg)。(c)ローヤルゼリー(RJ)、40−7d RJ、40−14d RJ、40−21d RJ、および、40−30d RJをミツバチ幼虫に与えた場合の、卵巣のサイズ(卵巣あたりの卵巣小管の数)。RJ投与群に対する有意な値は、**p<0.01で示されている。
【図2】(a)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)、2.0%のカゼイン(Casein 2.0%)、2.0%の450kDaタンパク質(450kDa 2.0%)、2.0%のロイヤラクチン(Rol 2.0%)、および、2.0%の大腸菌組換えロイヤラクチン(E−Rol 2.0%)をミツバチ幼虫に与えた場合の、羽化までの発生に要する時間。(b)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)、2.0%のカゼイン(Casein 2.0%)、示した濃度の450kDaタンパク質(450kDa)、示した濃度のロイヤラクチン(Rol)、および、示した濃度の大腸菌組換えロイヤラクチン(E−Rol)をミツバチ幼虫に与えた場合の羽化時の成体の重量。(c)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)、2.0%のカゼイン(Casein 2.0%)、示した濃度の450kDaタンパク質(450kDa)、示した濃度のロイヤラクチン(Rol)、および、示した濃度の大腸菌組換えロイヤラクチン(E−Rol)をミツバチ幼虫に与えた場合の、卵巣のサイズ(卵巣あたりの卵巣小管の数)。(d)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)、2.0%のカゼイン(Casein)、1.0%の450kDaタンパク質(450kDa)、1.0%のロイヤラクチン(Rol)、および、1.0%の大腸菌組換えロイヤラクチン(E−Rol)をミツバチ幼虫に与えた場合の、幼若ホルモンの分泌量の変化。(e)ローヤルゼリー(RJ)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)、2.0%のカゼイン(Casein 2.0%)、1.0%の450kDaタンパク質(450kDa)、1.0%のロイヤラクチン(Rol)、および、1.0%の大腸菌組換えロイヤラクチン(E−Rol)をミツバチ幼虫に与えた場合の、ビテロゲニンmRNA発現の誘導。40−30d RJ投与群に対する有意な値は、*p<0.05、**p<0.01で示されている。
【図3】(a)GFP処理群(GFP)、InRのRNAi処理群(InRi)、EGFRのInRのRNAi処理群(EGFRi)、wnt1のRNAi処理群(wnti)、S6KのRNAi処理群(S6Ki)、Hr38のRNAi処理群(HR38i)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー投与群(40−30d RJ)の羽化までの発生に要する時間。(b)GFP処理群(GFP)、InRのRNAi処理群(InRi)、EGFRのInRのRNAi処理群(EGFRi)、wnt1のRNAi処理群(wnti)、S6KのRNAi処理群(S6Ki)、Hr38のRNAi処理群(HR38i)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー投与群(40−30d RJ)の羽化時の成体の重量。(c)GFP処理群(GFP)、InRのRNAi処理群(InRi)、EGFRのInRのRNAi処理群(EGFRi)、wnt1のRNAi処理群(wnti)、S6KのRNAi処理群(S6Ki)、Hr38のRNAi処理群(HR38i)、40℃で30日間保存したローヤルゼリー投与群(40−30d RJ)の卵巣のサイズ(卵巣あたりの卵巣小管の数)。GFP処理群に対する有意な値は、**p<0.01で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0013】
本発明において使用する場合、「ロイヤラクチン」とは、配列番号1の核酸配列にコードされる遺伝子、または、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは、これらの改変体を意味する。ロイヤラクチンの改変体(変異体)としては、ロイヤラクチンと同様の生化学的機能および/または生理学的機能を有するポリペプチドが包含される。ロイヤラクチンの生化学的機能としては、EGFRとの結合が挙げられるが、これに限定されない。ロイヤラクチンを細胞と接触させた場合の生化学的機能としては、細胞におけるEGFRの活性化(EGFRのインターナリゼーションおよび/またはリン酸化)、細胞におけるTOR発現の増加、細胞におけるvg発現の増加、細胞におけるMAPキナーゼの活性化(リン酸化)、細胞におけるS6キナーゼの活性化(リン酸化)、細胞(脂肪体)におけるwinglessシグナル下流に存在する遺伝子(wnt1、wnt2、en、hh)の発現誘導、エクダイソンレセプターシグナル下流に存在する遺伝子(DHR38、E78C)の発現誘導、JH関連因子(JHAMET(JH合成酵素)、met(JH受容体))の発現誘導、ならびに、卵黄形成遺伝子(yp−1、yp−2、yp−3)の発現誘導が挙げられるが、これに限定されない。ロイヤラクチンの生理学的機能としては、卵巣サイズ(卵巣小管数)の増加、成体昆虫の重量の増加、および、成体への発生に必要な時間の短縮が挙げられるが、これに限定されない。
【0014】
ロイヤラクチンの改変体は、例えば、配列番号1に記載の核酸配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸配列によってコードされる遺伝子であって、上記ロイヤラクチンの生化学的機能および生理学的機能の少なくとも1つの機能を有するポリペプチドが挙げられるが、これに限定されない。また、ロイヤラクチンの改変体は、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個のアミノ酸の欠失、置換、および/または、付加を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、上記ロイヤラクチンの生化学的機能および生理学的機能の少なくとも1つの機能を有するポリペプチドが挙げられるが、これに限定されない。また、ロイヤラクチンの改変体には、上記改変体と、ロイヤラクチンの活性に悪影響を与えないペプチド(例えば、タグ、Fc領域などが挙げられるが、これらに限定されない)との融合体も含まれる。
【0015】
本発明の対象となる昆虫は、好ましくは内翅群昆虫であり、より好ましくは双翅目昆虫および膜翅目昆虫である。好ましい双翅目昆虫は、Drosophila属の昆虫であり、より好ましくはDrosophila melanogasterである。好ましい膜翅目昆虫は、Apis属の昆虫であり、より好ましくはApis melliferaである。本発明の対象となる昆虫は、好ましくは雌性である。
【0016】
本発明において使用する場合、「EGFR」とは、配列番号3の核酸配列にコードされるショウジョウバエEGFR−A遺伝子、もしくは、配列番号4のアミノ酸配列からなるショウジョウバエEGFR−Aポリペプチド、または、配列番号5の核酸配列にコードされるショウジョウバエEGFR−B遺伝子、もしくは、配列番号6のアミノ酸配列からなるショウジョウバエEGFR−Bポリペプチド、または、配列番号7の核酸配列にコードされるミツバチ(Apis mellifera)EGFR遺伝子、もしくは、配列番号8のアミノ酸配列からなるミツバチ(Apis mellifera)EGFRポリペプチド、あるいは、これらの改変体を意味する。
【0017】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」は、一本鎖形態、二本鎖形態、または他の形態である、リン酸エステルポリマー形態のリボヌクレオチド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、もしくはシチジン;「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオチド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、もしくはデオキシシチジン「DNA分子」)、またはそれらの任意のホスホエステルアナログ(例えば、ホスホロチオエートおよびチオエステル)を指し得る。
【0018】
「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」は、核酸(例えば、DNAまたはRNA)中の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオシド」とも呼ばれる)であり、2つの以上のヌクレオチドの任意の鎖またはその相補鎖を意味する。本発明の好ましい核酸は、配列番号1に示される核酸、ならびにその相補鎖、改変体およびフラグメントを包含する。
【0019】
「相補鎖」とは、ある核酸配列に対して塩基対を形成し得るようなヌクレオチドの鎖を意味する。例えば、二本鎖DNAの各々の鎖は互いに相補的な塩基配列を有し、一方の鎖から見て他方の鎖は相補鎖である。
【0020】
「コード配列」または発現生成物(例えば、RNA、ポリペプチド、タンパク質、もしくは酵素)を「コードする」配列は、発現された場合にその生成物の生成をもたらすヌクレオチド配列である。
【0021】
「タンパク質」、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸の連続列を含む。本発明の好ましいペプチドは、配列番号2に示されるペプチド、ならびにその改変体およびフラグメントを包含する。
【0022】
「タンパク質配列」、「ペプチド配列」、または「ポリペプチド配列」または「アミノ酸配列」は、タンパク質、ペプチド、またはポリペプチド中にある一連の2つ以上のアミノ酸を指す。
【0023】
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。また、本明細書において配列(核酸配列、アミノ酸配列など)の同一性とは、2以上の対比可能な配列の、互いに対する同一の配列(個々の核酸、アミノ酸など)の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて相同性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、相同性と類似性とは同じ数値を示す。
【0024】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて算出される。
【0025】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0026】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0027】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0028】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0029】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0030】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrooket al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(ColdSpring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.、NucleicAcid Hybridization:a Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0031】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na])+0.41(%G+C)−600/N−0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0032】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015
M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015Mナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0033】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015Mナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0034】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1MNaClにおける融解温度の適切な概算は、Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0035】
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1の核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下に配列番号1に示す配列またはその一部とハイブリダイズし得る。
【0036】
本明細書において配列(アミノ酸または核酸など)の「同一性」、「相同性」および「類似性」のパーセンテージは、比較ウィンドウで最適な状態に整列された配列2つを比較することによって求められる。ここで、ポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の比較ウィンドウ内の部分には、2つの配列の最適なアライメントについての基準配列(他の配列に付加が含まれていればギャップが生じることもあるが、ここでの基準配列は付加も欠失もないものとする)と比較したときに、付加または欠失(すなわちギャップ)が含まれる場合がある。同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列にも認められる位置の数を求めることによって、マッチ位置の数を求め、マッチ位置の数を比較ウィンドウ内の総位置数で割り、得られた結果に100を掛けて同一性のパーセンテージを算出する。検索において使用される場合、相同性については、従来技術において周知のさまざまな配列比較アルゴリズムおよびプログラムの中から、適当なものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムとしては、TBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTAおよびCLUSTALW(Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(8):2444−2448、 Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Res.22(2):4673−4680、Higgins et al.,1996,Methods Enzymol.266:383−402、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215(3):403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272)があげられるが、何らこれに限定されるものではない。特に好ましい実施形態では、従来技術において周知のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)(たとえば、Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268、Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403−410、Altschul et al.,1993,Nature Genetics 3:266−272、Altschul et al.,1997,Nuc.Acids Res.25:3389−3402を参照のこと)を用いてタンパク質および核酸配列の相同性を評価する。特に、5つの専用BLASTプログラムを用いて以下の作業を実施することによって比較または検索が達成され得る。
【0037】
(1) BLASTPおよびBLAST3でアミノ酸のクエリー配列をタンパク質配列データベースと比較;
(2) BLASTNでヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチド配列データベースと比較;
(3) BLASTXでヌクレオチドのクエリー配列(両方の鎖)を6つの読み枠で変換した概念的翻訳産物をタンパク質配列データベースと比較;
(4) TBLASTNでタンパク質のクエリー配列を6つの読み枠(両方の鎖)すべてで変換したヌクレオチド配列データベースと比較;
(5) TBLASTXでヌクレオチドのクエリー配列を6つの読み枠で変換したものを、6つの読み枠で変換したヌクレオチド配列データベースと比較。
【0038】
BLASTプログラムは、アミノ酸のクエリー配列または核酸のクエリー配列と、好ましくはタンパク質配列データベースまたは核酸配列データベースから得られた被検配列との間で、「ハイスコアセグメント対」と呼ばれる類似のセグメントを特定することによって相同配列を同定するものである。ハイスコアセグメント対は、多くのものが従来技術において周知のスコアリングマトリックスによって同定(すなわち整列化)されると好ましい。好ましくは、スコアリングマトリックスとしてBLOSUM62マトリックス(Gonnet et al.,1992,Science 256:1443−1445、Henikoff and Henikoff,1993,Proteins 17:49−61)を使用する。このマトリックスほど好ましいものではないが、PAMまたはPAM250マトリックスも使用できる(たとえば、Schwartz and Dayhoff,eds.,1978,Matrices for Detecting Distance Relationships: Atlas of Protein Sequence and Structure,Washington: National Biomedical Research Foundationを参照のこと)。BLASTプログラムは、同定されたすべてのハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価し、好ましくはユーザー固有の相同率などのユーザーが独自に定める有意性の閾値レベルを満たすセグメントを選択する。統計的な有意性を求めるKarlinの式を用いてハイスコアセグメント対の統計的な有意性を評価すると好ましい(Karlin and Altschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2267−2268参照のこと)。
【0039】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0040】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プライマーとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、最も好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0041】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0042】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ES and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0043】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0044】
本発明の遺伝子は、siRNAを用いてその発現をノックダウン(抑制)することが可能である。所定の遺伝子からsiRNAを調製する方法は周知であり、例えば、当該分野で公知のsiRNA提供業者(例えば、株式会社 ニッポンイージーティー、富山、日本)により、アニーリングしている2本鎖の合成siRNAを入手することができる。その合成siRNAをRNAseフリーの溶液に溶解し、最終濃度が20μMになるように調整し、その後細胞へ導入する。siRNAを調製する場合には、例えば、(1)GまたはCが連続して4つ以上存在しない、(2)AまたはTが連続して4つ以上存在しない、(3)GあるいはCが9塩基以上存在しない、などの条件を加えてもよい。本発明のsiRNAは、19塩基長、20塩基長、21塩基長、22塩基長、23塩基長、24塩基長、25塩基長、26塩基長、27塩基長、28塩基長、29塩基長、または30塩基長である。本発明のsiRNAは、好ましくは、19塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは20塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは21塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは22塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは23塩基長である。本発明のsiRNAはまた、好ましくは24塩基長である。
【0045】
用語「発現する」および「発現」は、遺伝子、RNA配列もしくはDNA配列中の情報が明らかになるのを可能にすることまたはそれを引き起こすこと(例えば、対応する遺伝子の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによって、タンパク質を生成すること)を意味する。DNA配列は、細胞中でかまたは細胞によって、「発現生成物」(例えば、RNA(例えば、mRNA)またはタンパク質)を形成するように発現される。その発現生成物自体はまた、その細胞によって「発現される」と言われ得る。
【0046】
用語「形質転換」とは、核酸を細胞中に導入することを意味する。導入される遺伝子または配列は、「クローン」と呼ばれ得る。その導入されるDNAまたはRNAを受ける宿主細胞は、「形質転換」されており、これは、「形質転換体」または「クローン」である。宿主細胞に導入されるDNAまたはRNAは、任意の供給源由来であり得、宿主細胞と同じ属または種の細胞由来であっても、異なる属または種の細胞由来であってもよい。
【0047】
用語「ベクター」は、宿主を形質転換し、必要に応じて導入された配列の発現および/または複製を促進するように、DNA配列またはRNA配列が宿主細胞中に導入され得る媒体(例えば、プラスミド)を包含する。
【0048】
本発明において使用され得るベクターとしては、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、組込み可能なDNAフラグメント、および宿主ゲノム中への核酸の導入を促進し得る他の媒体が挙げられる。プラスミドは、最も一般的に使用される形態のベクターであるが、同様の機能を提供しかつ当該分野で公知であるかまたは公知となる他のすべての形態のベクターが、本明細書中で野使用のために適切である。例えば、Pouwelsら、Cloning Vectors:A Laboratory Manual,1985 and Supplements,Elsevier,N.Y.およびRodriguezら、(編),Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses 1988,Buttersworth,Boston,MAを参照のこと。
【0049】
用語「発現系」とは、適切な条件下で、そのベクターにより保有されて宿主細胞中に導入されるタンパク質または核酸を発現し得る、宿主細胞および適合性ベクターを意味する。一般的な発現系としては、E.coli宿主細胞およびプラスミドベクター、昆虫宿主細胞およびバキュロウイルスベクター、ならびに哺乳動物宿主細胞およびベクターが挙げられる。
【0050】
本発明の配列番号2に記載のポリペプチドをコードする核酸の発現は、原核生物または真核生物細胞において従来の方法によって実行され得る。本発明はまた、本発明の配列番号2に記載のポリペプチドおよび配列番号1に記載のポリヌクレオチドと、第2ポリペプチド部分もしくは第2ポリヌクレオチド部分(「タグ」と呼ばれ得る)とを含む、融合物を包含する。本発明の融合ポリペプチドは、例えば、本発明のポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを、発現ベクター中に挿入することによって、簡便に構築され得る。本発明の融合物は、精製または検出を容易するタグを含み得る。そのようなタグとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ヘキサヒスチジン(His6)タグ、マルトース結合タンパク質(MBP)タグ、赤血球凝集素(HA)タグ、セルロース結合タンパク質(CBP)タグ、およびmycタグが挙げられる。検出可能なタグ(例えば、32P、35S、H、99mTc、123I、111In、68Ga、18F、125I、131I、113mIn、76Br、67Ga、99mTc、123I、111Inおよび68Ga)もまた、本発明のポリペプチドおよびポリヌクレオチドを標識するために使用され得る。このような融合物を構築および使用するための方法は、当該分野で周知である。
【0051】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0052】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0053】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【実施例】
【0054】
(実施例1:ミツバチ幼虫の分化および成長に関連する因子の同定)
(実施例1−1:インビトロでの幼虫の飼育)
第1齢の幼虫を、ミツバチ(Apis mellifera)の巣房から取り出した。幼虫は、室温、96%湿度でプレート上に1時間放置し、良好に摂食する幼虫を選択した。食餌は、以下のとおりである(単位は、幼虫の重量あたりの重量%):ローヤルゼリー(50.0%)、水(37.0%)、D−グルコース(6.0%)、D−フルクトース(6.0%)および酵母エキス(1.0%)。使用したローヤルゼリーは、40℃で 7日間保存したローヤルゼリー(40−7d RJ)、40℃で14日間保存したローヤルゼリー(40−14d RJ)、40℃で21日間保存したローヤルゼリー(40−21d RJ)、および、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)である。精製したロイヤラクチン、E.coliにて組換え発現した後に精製したロイヤラクチン、または、ローヤルゼリー由来の精製450kDaタンパク質を、40−30d RJを含む食餌に、0.5%(w/w)、1.0%(w/w)、または、2.0%(w/w)で添加した。幼虫を、食餌を含む60mmのプレートに配置し、34℃±1℃、96%湿度で飼育した。飼育開始の4日目に、幼虫を、24ウェルのマイクロタイタープレートに移した。幼虫の間に、24時間毎に、幼虫を新鮮な食餌を含むプレートに移した。幼虫が排便を開始した後、付着する食餌をキムワイプで取り除き、幼虫を、6ウェルのマイクロタイタープレート(底部にフィルターペーパーを敷いている)に移した。蛹の期間は、34℃±1℃、76%湿度で飼育した。羽化するまで、蛹を、同一条件で飼育した。
【0055】

(実施例1−2:女王蜂および働き蜂の測定)
女王蜂および働き蜂の以下の特徴を測定した。女王蜂の特徴:働き蜂よりも早く羽化する(発生のための時間が短い)、突出した腹部を有する大きな身体(重い重量)、分散した体毛を伴う大きな後脚附節隣接部、ノッチのある下顎、および、卵巣あたり120〜180の卵巣小管。働き蜂の特徴:女王蜂よりも遅く羽化する(発生のための時間が長い)、小さな身体(軽い重量)、分散した体毛を伴わない小さな後脚附節隣接部、ノッチのない下顎、および、卵巣あたり2〜6の未発達の卵巣小管。本実施例に記載の実験では、形態学的特徴と、卵巣のサイズが非常に良好に相関していた。そのため、本実施例においては、卵巣のサイズの結果のみを記載し、形態学的特徴については、記載しなかった。
【0056】

(実施例1−3:ビタミン、脂肪、および、糖の定量)
ローヤルゼリー中のビタミンB、B及びCは、L−column ODS(4.6×150mm),Cosmosil C18 Econopak column(4.6×150mm)またはSilica 2150−N column(4.6×100mm)をそれぞれ備えたHPLCを用いて定量的に分析した。ローヤルゼリー中のビタミンB、B12及び葉酸は、Saccharomyces cerevisiae ATCC9080,Lactobacillus delbrukii subsp. lactis ATCC7830 及びLactobacillus rhamnosus ATCC7469をそれぞれ用いた微生物定量によって分析した。パントテン酸、ニコチン酸及びビオチンは、Lactobacillus plantarum ATCC8014を用いた微生物定量によって分析した。10ハイドロキシデセン酸は、Nucleosil 5C18(4.6×150mm)を備えたHPLCを用いて定量的に分析した。ローヤルゼリー中のグルコースおよびフルクトースを、Wakosil 5NH(4.6×250mm)を備えたHPLCを用いて定量的に分析した。ローヤルゼリー中の脂肪酸を、DB−23(0.25×300mm)を備えたガスクロマログラフィーを用いて、定量的に分析した。脂肪酸の検出限界は、100gのローヤルゼリーあたり10mgであった。
【0057】

(実施例1−4:ローヤルゼリータンパク質の定量)
ローヤルゼリー中のタンパク質の定量分析を、5〜20%のグラジエントポリアクリルアミドゲルでのネイティブPAGEによって行った。0.15gのローヤルゼリーのサンプルを、20%のグリセリンを含む50mM Tris−HCl(pH7.0)緩衝液5ml中に懸濁し、5000×g 10分間遠心した。懸濁液をネイティブPAGEに供した。40℃の種々の条件下で保存したローヤルゼリー中の、450kDaタンパク質、170kDaタンパク質、および、ロイヤラクチンをブロットし、デンシトメトリーでのスキャンによって定量した。HPLCでのローヤルゼリータンパク質の定量の結果、450kDaタンパク質、170kDaタンパク質、および、ロイヤラクチンの濃度は、100gローヤルゼリーあたり、それぞれ、4.5g、0.77g、および、2.1gであった。これらの値に基いて、種々の条件下で保存されたローヤルゼリー内の各タンパク質の残存割合を計算した。ブロットのバンドを、NIH Image Ver.1.62(NIH,U.S.A.)を用いて定量した。
【0058】

(実施例1−5:ローヤルゼリー中のタンパク質の精製)
ロイヤラクチンをDEAE−Toyopearl 650M columnとHiLoad(登録商標)16/10 Superdex 200 columnを用いて精製し、精製ロイヤラクチンを、蒸留水に対して透析し、凍結乾燥した。450kDaタンパク質の精製では、ローヤルゼリーを、0.15M NaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)(緩衝液A)で平衡化したHiLoad 16/10 Superdex200ゲルろ過カラムに供した。次に、カラムを、同一緩衝液を用い、1.0ml/分の速度で溶出し、450kDaタンパク質を含む画分を回収し、蒸留水に対して透析し、凍結乾燥した。
【0059】

(実施例1−6:組換えロイヤラクチンの発現および精製)
配列番号1の核酸配列を有する、シグナルペプチドを欠く成熟全長ロイヤラクチンをコードするcDNAを、pET19bベクター(Novagen)にサブクローニングした。このサブクローニングによって生成したプラスミドを含むE.coli BL21株(DE3)pLysS細胞(Novagen)を、A600nmが約0.8になるまで、アンピシリン(50μg/ml)を含むLB培地中、37℃で3時間増殖させた。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG、0.5mM)を添加して、ロイヤラクチン発現を誘導し、37℃で17時間、培養を続けた。次に、細胞を遠心分離によって回収し、50mM NaClおよび1mM EDTAを含む50mM Tris−HCl(pH8.0)に懸濁し、Tomy超音波発生機を用いて、20kHz 80Wで80秒間破壊した。超音波処理した溶液を、20,000×g 30分間 4℃で遠心し、上清を、His−Bindレジン親和性カラムに供し、イミダゾールを用いて溶出した。組換えロイヤラクチン(E−ロイヤラクチン)を収集し、HiPrep(登録商標)16/60Sephacryl S−200カラムに供した。次にカラムを緩衝液Aで、10ml/分の流速で溶出し、1.0mlの画分を収集した。E−ロイヤラクチンを含む画分をプールし、蒸留水に対して透析して、凍結乾燥した。
【0060】

(実施例1−7:幼若ホルモンの定量)
ミツバチの3齢幼虫を回収し、血リンパ液を採取した。血リンパ液中に含まれる幼弱ホルモンをヘキサンで2回抽出し、真空乾燥の後、メタノールに溶解させた。幼若ホルモンはMightysil RP−18 MS 150−4.6 (4.6×150mm)を備えた高分解能を有すLC−MS、micrOTOF−Q(Bruker Daltonics)を用いて定量した。
【0061】

(実施例1−8:リアルタイムPCR)
総RNAを、RNeasyミニキット(QIAGEN)を用いて、3齢の幼虫から調製した。逆転写酵素反応を、PrimeScript RT試薬キット(Takara)を用いて行った。使用したプライマーは、以下のとおりである:
アクチンフォワードプライマー:5’−TGCCAACACTGTCCTTTCTG−3’(配列番号9)、
アクチンリバースプライマー:5’−AGAATTGACCCACCAATCCA−3’(配列番号10)、
ビテロゲニン(vg)フォワードプライマー:5’−CCCACGTTGATCTCCAACTACA−3’(配列番号11)、および、
ビテロゲニン(vg)リバースプライマー:5’−CCGCTTGTCTTGGTCAACTTTA−3’(配列番号12)。
【0062】
全てのPCRアッセイを、ABI Prism 7500 Sequence Detection System(Applied Biosystems)を用いて行った。PCRは、SYBR Premix Ex Taq(Takara)、プライマーおよびcDNAを含む20μL反応混合液中で行った。1:10のmRNAの段階希釈によって作成した4〜5log範囲の標準曲線を用いて、半定量分析を行った。PCR条件は次のとおりである:95℃10秒の後、95℃5秒および60℃35秒のサイクルを40サイクル行なった。40−30d RJを用いて飼育した幼虫での発現レベルに対する相対値として、各サンプルのアクチン濃度に対して規準化した後に、平均発現レベルを決定した。
【0063】

(実施例1−9:統計学的処理)
実験結果を、平均±S.E.M.として示した。ダネット多重比較試験を用いるANOVAによって、データを分析した。p<0.05を統計学的有意か否かの規準として用いた。
【0064】

(結果)
ローヤルゼリーに含まれる単一の成分がローヤルゼリーと同様に昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担うか否かは不明であったが、ローヤルゼリーと同様に昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分を決定するために、本発明者は、ローヤルゼリーの生理学的活性に対する、保存の影響を決定した。
【0065】
ローヤルゼリー(RJ)を摂取した幼虫は、完全に女王蜂に分化した。これに対して、40℃で30日間保存したローヤルゼリー(40−30d RJ)を与えた幼虫は、働き蜂となった。10−ヒドロキシ−2−デセン酸、数種類のビタミン、糖、および、脂肪酸は、30日間の保存の前後で変化しなかった。しかしながら、ロイヤラクチン(57kDaタンパク質)の量は、40℃での保存時間に比例して分解していた。保存後に残存する57kDaタンパク質の量は、ミツバチの女王蜂への分化誘導活性と相関した(幼虫を女王蜂に分化させる残存活性の指標として、羽化までの発生に要する時間、羽化時の成体の重量、および、卵巣のサイズを用いた、図1a〜c)。
【0066】
ローヤルゼリーを40℃で30日間の保存後(40−30d RJ)に、精製ロイヤラクチン(図2;「Rol」)を添加することによって、幼虫を女王蜂に分化させる活性が回復した。この結果は、ロイヤラクチンが幼虫を女王蜂に分化生させる活性を有することを実証している。組換え発現したロイヤラクチン(図2;「E−Rol」)を添加することによっても、幼虫を女王蜂に分化させる活性が回復した。この結果は、ロイヤラクチンのみによって、幼虫の女王蜂への分化が誘導されることを実証している。
【0067】
その一方で、ローヤルゼリーに含まれる450kDaタンパク質は、ロイヤラクチンのような機能を示さなかった(図2;450kDa)。この結果は、ロイヤラクチンがミツバチの女王蜂への分化および成長を担うタンパク質であることを実証している。
【0068】
さらに、ロイヤラクチンは、カースト決定における重要なホルモンである幼弱ホルモンの分泌(図2d)、および、卵母細胞発生に必須の因子であるビテロゲニンの遺伝子発現(図2e)を誘導した。
【0069】
これらの結果は、ロイヤラクチンが雌性ミツバチ幼虫の女王蜂への分化の誘導因子であることを示す。
【0070】

(実施例2:ショウジョウバエモデルを利用した実験結果)
(実施例2−1:ローヤルゼリー含有培地の調製)
ローヤルゼリー含有培地、ならびに、その比較対照としての、カゼイン含有培地、および、コントロール培地を以下の組成で調製した。なお、培地の調製においては、寒天をそのままペースト状で使用することで足場を確保し、培地として機能することを可能にした。また、ローヤルゼリーはpHが約4.0であることから、Trisを用いてpHを7.0に調整した。
(1)20%ローヤルゼリー含有培地:蒸留水 100ml、酵母エキス 8g、グルコース 10g、および、ローヤルゼリー 20gをよく混和し、Tris−HCl(pH7.0)緩衝液を用いてpHを7.0に調製し、バイアル当たり10mLの培地を添加し、さらに、粉末の寒天を添加して、よく攪拌した。これらの操作を無菌下で行った。
(2)カゼイン含有培地(ローヤルゼリー含有培地と摂取カロリーが同程度になるように、カゼインを中心として種々の成分を用いて調製した培地):蒸留水 100ml、酵母エキス 8g、グルコース 11.3g、カゼイン 2.8g、フルクトース 1.3g、コーンスターチ 0.4g、および、大豆油 0.76gをよく混和し、Tris−HCl(pH7.0)緩衝液を用いてpHを7.0に調製し、バイアル当たり10mLの培地を添加し、さらに、粉末の寒天を添加して、よく攪拌した。これらの操作を無菌下で行った。
(3)コントロール培地:蒸留水 100ml、酵母エキス 8g、および、グルコース 10gをよく混和し、Tris−HCl(pH7.0)緩衝液を用いてpHを7.0に調製し、バイアル当たり10mLの培地を添加し、さらに、粉末の寒天を添加して、よく攪拌した。これらの操作を無菌下で行った。
【0071】

(実施例2−2:野生型ショウジョウバエにおける体長、体重、細胞サイズ、および、細胞数の変化)
上記の結果は、以下の表1〜5のとおりである。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

以上の表1〜5に示されるように、ローヤルゼリーは、雌性ショウジョウバエについて、体長の伸長(表1)、体重の増加(表2:体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。)、細胞のサイズ増加に伴う翅の面積の増大(表3:体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。)、蛹サイズの増大(表4:体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。)、ならびに、産卵数の増加(表5:体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。)をもたらした。ローヤルゼリーは、雄性ショウジョウバエに対して効果を示さなかった。
【0077】
【表6】

ロイヤラクチンを用いた場合にも、同様の変化が観察された(表6:体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。)。
【0078】
さらに、ローヤルゼリーの添加によって、産卵速度の促進が観察された。この産卵速度の増加が、産卵数増加の原因である。
ローヤルゼリーの添加によって、雌性の寿命は有意に伸長したが、雄性の寿命に有意な変化は見られなかった。また、上記に示した雌性ショウジョウバエの形質変化は、次世代へは遺伝しなかった。
【0079】
このように、ローヤルゼリー含有培地で飼育したハエの表現型は、女王蜂の表現型と極めて類似していたことから、このハエの飼育系がミツバチのカースト分化解明の評価系(例えば、変異型ロイヤラクチンの評価系)として活用できることが明らかとなった。
【0080】

(実施例2−3:ショウジョウバエでのロイヤラクチン強制発現による表現型の変化)
ショウジョウバエでのロイヤラクチン形質転換体を作成し、Gal4/UAS系を用いて組織特異的にロイヤラクチンを強制発現させたときの表現型の変化について測定した。
【0081】
【表7】

ローヤルゼリー含有培地によるハエの飼育系においてローヤルゼリーの効果は、脂肪体のEGFRにロイヤラクチンが作用した結果もたらされたことが明らかとなった。そこで、ロイヤラクチン(UAS-Royalactin(R))を全身(Actin(Act-Gal4))、脂肪体(ppl-Gal4))、EGFRシグナル(Rhomboid(rho-Gal4)):RhomboidはハエにおいてEGFリガンドSpitzのリガンド部分を切断するプロテアーゼであり、EGFRの近傍で発現している)特異的に発現させた。その結果、Act>R、ppl>R、rho>RはUAS-Rに比べ、体長および体重の有意な増加が確認された。しかし、前胸線とアラタ体で特異的に誘導されたP0206>Rやアラタ体で特異的に誘導されたAug21>Rではそれらの変化は観察されなかった。また、ppl>R、rho>RにUAS−EGFRRNAiおよびUAS−S6キナーゼドミナントネガティブ(DN)を交配させた時、体長および体重の増加が抑制された。この結果から、ローヤルゼリーによる体サイズへの影響は、ロイヤラクチンが脂肪体のEGFRに作用し、その下流のS6キナーゼを活性化した結果に起因することが立証された。さらに、Act>R、ppl>R、rho>RはUAS-Rに比べ、産卵数が増加し、寿命が延長していることが確認された。この様に、ロイヤラクチンは経口摂取させてもハエの体内で発現させても同様の効果が見られたことから、ローヤルゼリーによるハエに対する体サイズの増加、産卵数の増加、寿命の延長などの効果における責任分子は、ロイヤラクチンがであることがさらに立証された。
【0082】

(実施例2−4:ショウジョウバエの変異体における、ローヤルゼリーの影響)
次に、各種変異型ショウジョウバエにおける、ローヤルゼリーの影響について検討した。結果を次の表7に示す。表中、ローヤルゼリーによる体長伸長および体重増加が有意な結果の数値を斜体として下線を付した。
【0083】
【表8】

上記の結果から明らかなように、インスリンシグナル伝達経路の変異(InR変異)は、ローヤルゼリーの効果に影響しなかった。また、MAPキナーゼ経路もローヤルゼリーによるシグナル伝達には関与していなかった。これに対して、EGFR変異型ではローヤルゼリーの効果が消失した。この結果から、従来、インスリンシグナルが個体の形態形成、体サイズの制御に関して中心的な役割を担っていることが多くの生物で証明されてきているが、ローヤルゼリーによるカースト分化に関してはEGFRシグナル伝達経路が関与していることが示された。
【0084】
Gal4/UAS系統で組織特異的に変異を入れたところ、ppl(脂肪体(肝臓)で誘導)でのEGFR変異でのみローヤルゼリーによる作用を阻害した(P0206は前胸線とアラタ体で誘導され、Aug21はアラタ体で誘導される)。これら結果は、各組織の中で、脂肪体のEGFRが最も重要であることを示す。また、ローヤルゼリーによる体サイズの増加は、細胞サイズの増加に起因していた。S6キナーゼは、細胞サイズの増加に関与し、また、EGFRの下流に存在する。そのため、S6キナーゼもまた、ローヤルゼリーによるシグナル伝達に関与していることが判明した。TORの下流でのS6キナーゼの活性化には富栄養状態によるものが考えられるが、富栄養状態よるS6キナーゼの活性化にはPI3K、Akt、PDK1からのシグナルが関わっていないにも関わらず、ローヤルゼリーによる効果にはこれらのシグナルが関与していたことからから、ローヤルゼリーが栄養素としてではなく、シグナル因子として機能していることが確認された。
【0085】

(実施例2−5:ロイヤラクチンによるシグナルの伝達:タンパク質のリン酸化)
次にロイヤラクチンがEGFRに作用するとき、直接作用しているかどうかを確認するため、ショウジョウバエ由来S2細胞に、ショウジョウバエ由来のEGFRであるEGFR−A(配列番号3および4)、または、EGFR−B(配列番号5および6)、または、ミツバチのEGFR(配列番号7または8)を発現させ、細胞内のシグナル活性化を確認した。
【0086】
具体的には、ショウジョウバエ由来S2細胞を形質転換して、ショウジョウバエ由来のEGFRであるEGFR−A(配列番号3および4)、または、EGFR−B(配列番号5および6)、または、ミツバチのEGFR(配列番号7または8)を発現させ、その細胞に対してロイヤラクチンを作用させた。その細胞を溶解し、各種抗体を用いてウェスタンブロットを行った。リン酸化EGFRの検出には抗ホスホチロシンモノクローナル抗体(GEヘルスケア)を用い、EGFR検出のコントロール実験においては抗EGFRモノクローナル抗体(Abcam)を用いた。リン酸化S6キナーゼの検出には抗pS6Kウサギ抗体(Cell Signaling Technology)を用い、S6キナーゼ検出のコントロール実験においては抗S6Kウサギ抗体(Abcam)を用いた。リン酸化MAPキナーゼの検出には抗pERKウサギ抗体(Cell Signaling Technology)を用い、MAPキナーゼ検出のコントロール実験においては抗ERKウサギ抗体(Cell Signaling Technology)を用いた。
【0087】
その結果、ロイヤラクチンは、ショウジョウバエ由来EGFRおよびミツバチ由来EGFRの両方に作用し、EGFRのリン酸化、MAPキナーゼのリン酸化、および、S6キナーゼのリン酸化をもたらすことが判明した。
【0088】

(実施例2−6:ローヤルゼリーが野生型ショウジョウバエの幼若ホルモン分泌及びエクダイソン分泌に及ぼす影響)
ミツバチを含む社会性昆虫は、幼若ホルモンにより女王個体へと分化する。そこで、ショウジョウバエの幼若ホルモンやエクダイソンがローヤルゼリーによりどのような影響を受けているかどうかについて検討した。孵化後2−5日後の野生型ショウジョウバエの幼虫を回収し、ヘキサンで2回抽出の後、真空乾燥させ、メタノールに溶解さた。サンプル中の幼若ホルモンは、Mightysil RP−18 MS 150−4.6(4.6×150mm)を備えた高分解能を有すLC−MS、micrOTOF−Q(Bruker Daltonics)を用いて定量した。一方、エクダイソン定量は、抗ウサギIgG抗体をコートしてある96穴プレート(コスモバイオ)にサンプル或いは標準液50μl、HRP標識エクダイソン(コスモバイオ)50μl、抗エクダイソン抗体(コスモバイオ)50μlを添加し、室温で3時間静置する。その後、PBSで3回洗浄の後、o−フェニレンジアミン溶液で発色させ、492nmの吸光度を測定することでエクダイソンを定量した。その結果、ローヤルゼリーの摂取により、ショウジョウバエの孵化後4日目に著しく幼弱ホルモンが増加し、孵化後3日目にエクダイソンが増加していた。また、ロイヤラクチン形質転換体においても分析したところ、ppl>RがUAS−Rに比べ、孵化後4日目に幼弱ホルモンが、孵化後3日目にエクダイソンが同様に増加していた。更に、各種変異体を対象に同様の試験を行った結果、幼若ホルモン、及びエクダイソンの分泌には、脂肪体のEGFRが関与していることが明らかとなった。
【0089】

(実施例2−7:ロイヤラクチンシグナルの伝達:遺伝子発現の誘導)
これまでに報告のある発生に関与する遺伝子38個(Wntシグナル関連遺伝子として、wnt−1、wnt−2、wnt−4、wnt−5、wnt−10、wn、hh、dpp、sal、Ubx、vg/sd、および、exd;JH関連遺伝子として、JHAMET、および、Met;卵黄形成関連遺伝子として、yp−1、yp−2、および、yp−3;エクダイソンシグナル関連遺伝子として、EcR、USP、DHR3、DHR4、BR−C、E74A、E74B、E75A、E75B、FTZ−F1、DHR38、E78C、dib、および、phm;EGFRシグナル関連遺伝子として、EGFR、Spitz、および、Gruken;ならびに、インスリンシグナル関連遺伝子として、InR、Il−1、Il−2、および、Il−3)について、幼虫期の発現変動をリアルタイムPCRを用いて解析した。その結果、孵化後4日目にwinglessシグナル(wnt1,wnt2,en,hh)、エクダイソンレセプターシグナル(DHR38,E78C)、幼弱ホルモン(JH)関連因子(JHAMET(JH合成酵素),met(JH受容体))、卵黄形成(yp−1,yp−2,yp−3)の遺伝子発現がローヤルゼリーにより上昇した。さらに、孵化後3日目にエクダイソン合成に関与するdib,phmの遺伝子発現がローヤルゼリーにより上昇した。これらの結果はホルモンの動態とよく一致していた。次に、発現変動が見られた因子の変異体を対象とした、ローヤルゼリー含有培地による飼育試験の結果から、ローヤルゼリーによる体サイズの増加には、wnt1とmetが関与していることが新たに明らかとなった。さらに、EGFR、wnt1、metとの関係を調べた結果、ロイヤラクチンが脂肪体のEGFRに作用した後、その下流でJHが分泌され、met(JH受容体)に作用し、その下流で脂肪体のwnt1の発現が増加され、体サイズの増加や産卵数の増加に関与していることが明らかとなった。
【0090】

(実施例2−8:ローヤルゼリーによるショウジョウバエの羽化までの発生に要する時間の変化)
ミツバチのカースト分化において女王蜂は働き蜂より早く羽化する特徴をもつ。この変化は、ショウジョウバエをローヤルゼリー含有培地で飼育した場合にも見られる。実施例2−7においてローヤルゼリーによる発現変動が見られる因子のうち、この表現型の変化に関与する因子を調べた。その結果、唾腺でのDHR38の発現増加がローヤルゼリーによるショウジョウバエの体サイズの増加には関与せず、羽化までの発生に要する時間の短縮に関与していることが分かった。さらに、脂肪体でのEGFRの変異体では、この唾腺でのDHR38の発現誘導と孵化後3日目にエクダイソンの分泌が抑制されていた。同様の結果が、ロイヤラクチンを脂肪体で強制発現させた系統であるppl>Rでも観察された。これらの結果から、ロイヤラクチンが脂肪体のEGFRに作用した後、エクダイソンの分泌を促進させ、エクダイソンにより発現が誘導されるDHR38の唾腺での発現を誘導し、羽化までの発生に要する時間を短縮させたものと判断された。
【0091】

(実施例2−9:ミツバチのRNAi試験)
ミツバチ由来amInR(インスリン受容体)、amEGFR、amwnt1、amS6K、amHR38とGFP(緑色蛍光タンパク質)のcDNAを鋳型としてLA−Taq(Takara)を用いてPCRを行い、末端にT7 promoter primerのついた断片を増幅させた。使用したプライマーは、以下のとおりである:
amInR-T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGGGAGCTGAGAGAGATCACCG−3’(配列番号13)、
amInR−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGTTTCTGTCGCAGATTCGTTG−3’(配列番号14)、
amEGFR−T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGGTGAACAGTGCGAAGACGAA−3’(配列番号15)、
amEGFR−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGCGTTTCCAAAAGCACCGTA−3’(配列番号16)、
amwnt1−T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGATGATTGCATTCGATCGTCA−3’(配列番号17)、
amwnt1−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGGAAACCGTAGCCGATGTTGT−3’(配列番号18)、
amS6K−T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGTGCTTACAGGTTCACCACCA−3’(配列番号19)、
amS6K−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGAAAACCACGCATATTGCCTC−3’(配列番号20)、
amHR38−T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGGTGAGGACGGATTCCTTGAA−3’(配列番号21)、
amHR38−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGGCTACGCTGACACTGTTCCA−3’(配列番号22)、
GFP−T7フォワードプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGACGTAAACGGCCACAAGTTC−3’(配列番号23)、
GFP−T7リバースプライマー:5’−TAATACGACTCACTATAGGGTGTTCTGCTGGTAGTGGTCG−3’(配列番号24)。
次にこの断片を鋳型として、MEGAscript RNAi Kit(Ambion)を用いてdsRNAを合成させる。幼虫飼育の培地に150μg/mlの濃度でdsRNAを添加し、孵化後2日目、3日目の幼虫に投与した(amHR38は孵化後2−4日目の間投与した)。尚、GFPは核酸添加のための影響がないかを確認するためのネガティブコントロールとして用いた。ミツバチにおけるRNAi飼育試験においては、核酸の影響は見られなったので、GFP培地は、女王蜂に分化する培地となる。RNAiの確認はリアルタイムPCRにより行った。使用したプライマーは、以下のとおりである:
アクチンフォワードプライマー:5’−TGCCAACACTGTCCTTTCTG−3’(配列番号9)、
アクチンリバースプライマー:5’−AGAATTGACCCACCAATCCA−3’(配列番号10)、
amInR−フォワードプライマー:5’−AGAGGGAGTGTGCCAAAGCA−3’(配列番号25)、
amInR−リバースプライマー:5’−TAGTCGGCATCCCTTCAGTCTT−3’(配列番号26)、
amEGFR−フォワードプライマー:5’−CAACGACCATGTACCTGAAGGA−3’(配列番号27)、
amEGFR−リバースプライマー:5’−GCCCCTGCTCTAGAGGACTCA−3’(配列番号28)、
amwnt1−フォワードプライマー:5’−GCGAACGTGGTCGAAATCTAC−3’(配列番号29)、
amwnt1−リバースプライマー:5’−CGGACATGCCGTGACACTT−3’(配列番号30)、
amS6K−フォワードプライマー:5’−GCATCCTTTCATCGTAGACCTTATG−3’(配列番号31)、
amS6K−リバースプライマー:5’−CGATAGATAGAAGCAAGCAGTTTCTTC−3’(配列番号32)、
amHR38−フォワードプライマー:5’−GCCTGGCCGAGAAAGCTT−3’(配列番号33)、
amHR38−リバースプライマー:5’−TCCTCACCACTTCCTTCACCAT−3’(配列番号34)。
【0092】
まず、amInR、amEGFR、amwnt1、amS6K、amHR38のそれぞれのRNAi個体において各遺伝子の発現抑制を確認した。次に、RNAiがミツバチの羽化までの発生に要する期間、羽化時の成体の重量、卵巣のサイズに及ぼす影響を調べた。その結果、ネガティブコントロールとして使用したGFPに比べ、amInRとのRNAiでは、羽化までの発生に要する期間、羽化時の成体の重量、卵巣のサイズに変化が見られなった(図3a−c)。一方、amEGFR、amwnt1及びamS6KのRNAiにおいては、GFPに比べ、羽化時の成体の重量、卵巣のサイズの減少が見られた(図3b、c)。amHR38のRNAiでは、GFPに比べ、羽化時の成体の重量、卵巣のサイズに差が見られなかった(図3b、c)。また、amEGFR及びamHR38のRNAiにおいては、GFPに比べ羽化までの発生に要する期間に差が見られず、amwnt1及びamS6KのRNAiにおいては、GFPに比べ羽化までの発生に要する期間が増加していた(図3a)。さらに、amEGFRのRNAiによりamwnt1及びamHR38の発現抑制が見られ、ロイヤラクチンで飼育したミツバチ個体(女王蜂)のEGFRシグナルの活性化(EGFRのリン酸化、MAPキナーゼの活性化、S6キナーゼの活性化)も確認された。これらの結果から、女王蜂分化において、体サイズの増加や産卵機能の発達に関しては、ロイヤラクチンがamEGFRに作用し、その下流でamwnt1、amS6Kが関与する。一方、羽化までの発生に要する期間の短縮には、ロイヤラクチンがamEGFRに作用し、その下流でamHR38が関与していることが明らかとなった。以上の結果は、ショウジョウバエのローヤルゼリー含有培地で飼育したときの結果と一致していた。従って、ショウジョウバエにおいてもミツバチにおいても、ローヤルゼリー或いはロイヤラクチンによる体サイズの増加、産卵数の増加などの表現型の変化は、InRシグナルではなく、EGFRシグナルが中心的な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0093】

(実施例2−10:変異ロイヤラクチンの評価)
ロイヤラクチンに種々の変異を導入し、野生型ロイヤラクチンと同等の活性を有する変異体を得ることが可能である。変異ロイヤラクチンの活性は、例えば、以下の方法によって評価することができる。
【0094】

(1:MAPキナーゼ、または、S6キナーゼのリン酸化を指標とする評価)
実施例2−5において実証したように、ロイヤラクチンは、EGFRに結合し、EGFRをリン酸化する。EGFRリン酸化の後、EGFRの下流にあるMAPキナーゼおよびS6キナーゼもまたリン酸化される。そのため、実施例2−5に記載の方法を用いて、EGFR、MAPキナーゼ、または、S6キナーゼのいずれかのリン酸化を指標として、変異ロイヤラクチンが野生型ロイヤラクチンと同様の活性を保持するか否かを決定することができる。
【0095】
ミツバチの幼虫または組織分解物、ショウジョウバエの幼虫または組織分解物、S2細胞などをリン酸化アッセイ用緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.0)、2mM EDTA、1mM NaVO、150mM NaCl、1% メルカプトエタノール、50mM NaF、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM βグリセロリン酸ナトリウム、1mM PMSF、10μg/ml アプロチニン、10μg/ml ロイペプチン、および、3μg/ml ペプスタチンA)に溶解させ、氷中30分放置する。さらに15000rpm、30分、4℃で遠心してその上清をキナーゼアッセイに用いる。組織または細胞の懸濁液をSDS−PAGEにて供した後、タンパク質をセルロースメンブランにトランスファーさせる。メンブランは一次抗体として抗pS6Kウサギ抗体(Cell Signaling Technology)、抗S6Kウサギ抗体(Abcam)、抗pERKウサギ抗体(Cell Signaling Technology)、抗ERKウサギ抗体(Cell Signaling Technology)と1時間反応させ、0.05%tween20 PBS(PBST)で3回洗浄ののち、二次抗体アルカリフォスファターゼIgGでと1時間反応させる。PBSTで3回洗浄の後、NBT/BCIP(Thermo Fisher Scientific)で発色させる。
【0096】

(2:EGFRのリン酸化を指標とする評価)
実施例2−5において実証したように、ロイヤラクチンは、EGFRに結合し、EGFRをリン酸化する。そのため、以下に記載の方法を用いて、EGFRのリン酸化を指標として、変異ロイヤラクチンが野生型ロイヤラクチンと同様の活性を保持するか否かを決定することができる。
【0097】
ミツバチの幼虫または組織分解物、ショウジョウバエの幼虫または組織分解物、S2細胞などをリン酸化アッセイ用緩衝液に溶解させ、氷中30分放置する。さらに15000rpm、30分、4℃で遠心してその上清をEGFRリン酸化アッセイに用いる。組織または細胞を懸濁した溶液200μlに抗EGFRウサギ抗体(santa cruz)10μlを入れ、4℃で3時間ローテーターで攪拌する。プロテインAアガロースビーズ(50%)懸濁液60μlを入れ、さらに4℃で一晩攪拌する。次に、リン酸化アッセイ用緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.0)、2mM EDTA、1mM NaVO、150mM NaCl、1% メルカプトエタノール、50mM NaF、5mM ピロリン酸ナトリウム、10mM βグリセロリン酸ナトリウム、1mM PMSF、10μg/ml アプロチニン、10μg/ml ロイペプチン、および、3μg/ml ペプスタチンA)で3回洗浄の後、2xSDS緩衝液(125mM Tris−HCl(pH6.8)、4% SDS 20%グリセロール、0.01%BPB)を30μl添加し、95℃で5分反応させ、遠心(5000rpm、2分)し、上清をウエスタンブロットで分析する。一次抗体として抗EGFRウサギ抗体(santa cruz)と抗ホスホチロシンモノクローナル抗体(GEヘルスケア)を用いることでEGFRのリン酸化を測定する。
【0098】

(3:EGFRのインターナリゼーションを指標とする評価)
実施例2−4において実証したように、ロイヤラクチンは、EGFRに結合し、EGFRをリン酸化する。リン酸化されたEGFRはインターナリゼーションされることから、EGFRのインターナリゼーションを指標として、変異ロイヤラクチンが野生型ロイヤラクチンと同様の活性を保持するか否かを決定することができる。
【0099】
ミツバチの幼虫または組織分解物、ショウジョウバエの幼虫または組織分解物、S2細胞などをリン酸化アッセイ用緩衝液に溶解させ、氷中30分放置する。さらに15000rpm、30分、4℃で遠心してその上清をEGFRインターナリゼーションアッセイに用いる。組織または細胞を懸濁した溶液を一次抗体として抗EGFRウサギ抗体(santa cruz)用いたウエスタンブロットで分析する。EGFRのバンド強度の測定によりEGFRの相対量を比較することでEGFRのインターナリゼーションを測定する。また、S2細胞などの細胞を用いたときは、EGFR−GFP、EGFR−YFP或いはEGFR−CFPなどを細胞に発現させ、GFP、YFP或いはCFPの蛍光強度を共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss LSM510)などで顕微鏡観察し、それら蛍光強度すなわちEGFRの発現量の相対量を比較することでEGFRのインターナリゼーションを測定する。
【0100】

(4:LSMでの解析を指標とする評価)
上記(1)〜(3)ではウェスタンブロットを用いたが、ウェスタンブロットに替えて、共焦点レーザー顕微鏡を用いることも可能である。孵化後2〜6日後のショウジョウバエまたはミツバチの幼虫を回収し、目的の組織を摘出の後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、一次抗体で1時間処理後、0.02%tween20含有PBS(PBST)で洗浄し、二次抗体で1時間反応させる。さらに、PBSTで洗浄した後、スライドガラスにマウントして共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss LSM510)で観察する。一次抗体は、ウエスタンの項で述べたものと同一のものを用いる。二次抗体としては、例えばTexasRed−IgGなどを用いる。また、染色の際、FITC−phalloidinなどにより細胞骨格(アクチン)を染色しておくと細胞の発現分布についても解析できる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
ローヤルゼリーと同様の活性を有し、昆虫の分化誘導能および成長刺激能を担う成分であるロイヤラクチンまたはその改変体を用いることによる昆虫の分化および成長の制御法およびそのための組成物が提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号1:ミツバチ(Apis mellifera)のロイヤラクチンの核酸配列
配列番号2:ミツバチ(Apis mellifera)のロイヤラクチンのアミノ酸配列
配列番号3:ショウジョウバエEGFR−Aの核酸配列
配列番号4:ショウジョウバエEGFR−Aのアミノ酸配列
配列番号5:ショウジョウバエEGFR−Bの核酸配列
配列番号6:ショウジョウバエEGFR−Bのアミノ酸配列
配列番号7:ミツバチ(Apis mellifera)EGFRの核酸配列
配列番号8:ミツバチ(Apis mellifera)EGFRのアミノ酸配列
配列番号9:アクチンフォワードプライマー
配列番号10:アクチンリバースプライマー
配列番号11:ビテロゲニンフォワードプライマー
配列番号12:ビテロゲニンリバースプライマー
配列番号13:amInR-T7フォワードプライマー
配列番号14:amInR-T7リバースプライマー
配列番号15:amEGFR-T7フォワードプライマー
配列番号16:amEGFR-T7リバースプライマー
配列番号17:amwnt1-T7フォワードプライマー
配列番号18:amwnt1-T7リバースプライマー
配列番号19:amS6K-T7フォワードプライマー
配列番号20:amS6K-T7リバースプライマー
配列番号21:amHR38-T7フォワードプライマー
配列番号22:amHR38-T7リバースプライマー
配列番号23:GFP-T7フォワードプライマー
配列番号24:GFP-T7リバースプライマー
配列番号25:amInR-フォワードプライマー
配列番号26:amInR-リバースプライマー
配列番号27:amEGFR-フォワードプライマー
配列番号28:amEGFR-リバースプライマー
配列番号29:amwnt1-フォワードプライマー
配列番号30:amwnt1-リバースプライマー
配列番号31:amS6K-フォワードプライマー
配列番号32:amS6K-リバースプライマー
配列番号33:amHR38-フォワードプライマー
配列番号34:amHR38-リバースプライマー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌性の内翅群昆虫の分化および成長を促進する方法であって、該方法は、(i)該雌性昆虫の幼虫にロイヤラクチンまたはその改変体を投与する工程、を包含し、ここで、該ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、方法。
【請求項3】
前記ロイヤラクチンまたはその改変体が配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記EGFRが、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記昆虫が双翅目昆虫または膜翅目昆虫である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記昆虫がDrosophila属の昆虫またはApis属の昆虫である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記昆虫がDrosophila melanogasterまたはApis melliferaである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記雌性の内翅群昆虫の分化および成長の促進が、羽化までの発生に要する時間の減少、羽化時の成体の重量の増加、卵巣サイズの増大、卵巣あたりの卵巣小管数の増加、幼若ホルモンの分泌の増加、ビテロゲニン発現の増加、女王蜂への分化、体長の伸長、体重の増加、翅の面積の増大、蛹サイズの増大、および、産卵数の増加、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
雌性の内翅群昆虫の分化および成長を促進するための組成物であって、該組成物はロイヤラクチンまたはその改変体を含有し、ここで、該ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRに対する結合活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのインターナリゼーションを促進する活性、EGFRを発現する細胞に適用した場合にMAPキナーゼのリン酸化を促進する活性、および、EGFRを発現する細胞に適用した場合にS6キナーゼのリン酸化を促進する活性、からなる群から選択される活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物であって、ここで、前記ロイヤラクチンまたはその改変体が、以下:
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列に1または数個の欠失、置換、または付加を含むポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%の同一性を有するポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;ならびに、
(f)配列番号1に記載の核酸配列を含む核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるポリペプチドであって、EGFRを発現する細胞に適用した場合にEGFRのリン酸化を促進する活性を有するポリペプチド;
からなる群から選択される、組成物。
【請求項11】
前記ロイヤラクチンまたはその改変体が配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記EGFRが、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、からなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
前記昆虫が双翅目昆虫または膜翅目昆虫である、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
前記昆虫がDrosophila属の昆虫またはApis属の昆虫である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記昆虫がDrosophila melanogasterまたはApis melliferaである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記雌性の内翅群昆虫の分化および成長の促進が、羽化までの発生に要する時間の減少、羽化時の成体の重量の増加、卵巣サイズの増大、卵巣あたりの卵巣小管数の増加、幼若ホルモンの分泌の増加、ビテロゲニン発現の増加、女王蜂への分化、体長の伸長、体重の増加、翅の面積の増大、蛹サイズの増大、および、産卵数の増加、からなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−139683(P2011−139683A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2938(P2010−2938)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(304051861)
【Fターム(参考)】