説明

昆虫細胞での外来タンパク質発現のための昆虫由来プロモーター

昆虫細胞での外来タンパク質発現のための昆虫由来プロモーター。幼虫の特定の発生段階で主要な昆虫タンパク質(ヘキサメリン)の発現を促進する調節ポリヌクレオチド配列を、昆虫(イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni))から単離した。この調節ポリヌクレオチド配列は、従来のポリヘドリンプロモーターよりも強いバキュロウイルス系での外来遺伝子発現を促進する。更に、新しい幼虫由来プロモーターとpLプロモーターとの組合せは、バイオテクノロジー産業で使用される従来のバキュロウイルスに対してバキュロウイルス発現レベルを(感染時間に応じて)61〜375%まで増加させる。プロモーターpB2はまた、ポリヘドリンプロモーターよりも早い時点で遺伝子発現を促進するが、この特徴は正確なタンパク質フォールディングと翻訳後修飾のための大きな利点である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に含まれる。昆虫のヘキサメリンファミリー遺伝子に由来する調節ポリヌクレオチド配列(例えば、プロモーター)と、例えば、バキュロウイルス発現ベクターを用いた、昆虫細胞及び昆虫の幼虫での外来タンパク質発現のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バキュロウイルス−昆虫細胞発現系は、汎用性があり、(ネイティブと組換えの両方の)異種タンパク質を産生するために広く用いられている。この系は、任意のサイズの組換えタンパク質を産生するための最も強力でかつ汎用性のあるものの1つとして一般に認識されている。これは、2つの主な特徴、すなわち、高レベルのタンパク質発現が達成されることと、生体活性をもつようになるようタンパク質が正確にフォールディングされ、同時に哺乳動物細胞の主な翻訳後修飾が起こることとに基づく。更に、この系の発達時間は比較的短く、組換えウイルスの遺伝的安定性は非常に高い。
バキュロウイルスゲノムは、ポリヘドリンプロモーター(pL)(これは、高等生物で知られている最も強力なプロモーターである)及びプロモーターp10(p10タンパク質)と呼ばれる2つの強力なプロモーターを含む。pLプロモーターは、ほとんど全ての遺伝子の発現を制御するために使用することができる。タンパク質産生のためにバキュロウイルスを操作するのは、形質転換動物細胞またはトランスジェニック動物に基づく任意の他の高度な産生系よりもはるかに速くかつ安価である。
【0003】
それにもかかわらず、これまでの市販のプロモーターには、極後期に遺伝子発現を促進することなどの不利な点がいくつかある。その時点で、細胞機構は大きく影響を受けていて、その結果、不完全なプロセッシングや凝集のために、昆虫細胞で発現される異種タンパク質の産出量が減る可能性がある。これらの制約は、ウイルス感染が進むにつれて、宿主細胞因子が劣化することによる可能性がある。
この問題を解決するために、本発明では、宿主細胞悪化の効果を弱め、同時に異種タンパク質の高い発現レベルを達成するための非常に興味深い選択肢として、ポリヘドリンプロモーターと少なくとも同じ程度に強力な初期プロモーターを安定発現とともに使用することを提案する。本発明は、幼虫(未成熟)形態から成虫(成熟)形態への移行が、様々な組織におけるいくつかの遺伝子の活性化と抑制によって達成される(昆虫変態発生)という事実に対する注意を喚起することを望むものである。
【0004】
変態関連タンパク質の中に、終齢期に非常に高いレベルで発現されるヘキサメリンとして知られるファミリーがある。これらのタンパク質は、大部分は、後幼生発生期に使用される血リンパ貯蔵タンパク質である。ヘキサメリンの最大レベルは、5齢の最初の48時間に認められ、このレベルは、この期間の後、約4倍に増える(図1)。上述の幼虫タンパク質のファミリーをコードする配列から出発して、外来タンパク質発現に使用されるプロモーターのファミリーが本発明で開発される。そのため、本発明は、当該技術水準で使用されるプロモーターと比較してより初期の、かつより強力なプロモーターであるpB1(配列番号1)及びpB2(配列番号2)を提供する。
特定の幼虫発達段階で主要な昆虫タンパク質の発現を促進し得るプロモーターが、本発明で単離される。これらは、幼虫のタンパク質ヘキサメリンをコードする配列に由来していて、いくつかの昆虫細胞、好ましくはヨウトガ(Spodoptera frugiperda)由来のsf9またはsf21細胞で異種タンパク質を発現させるための任意の発現ベクター(例えば、バキュロウイルス発現ベクター)を構築するために使用し得る。これらの新しいプロモーターを構成する調節配列と同様の調節配列が鱗翅目の幼虫で既に特徴付けされているが、バキュロウイルス発現系で使用されたことはこれまで一度もない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Il’ichev AA et al.,Genetika.1987 23:197−201;Kay R et al.,Science.1987 Jun 5;236(4806):1299−1302
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヘキサメリンファミリー遺伝子発現を調節する配列に由来する、pB1(配列番号1)及び/またはpB2(配列番号2)などの、調節ポリヌクレオチド配列を提供する。これらのタンパク質は5齢期に最大発現を示すが、発現の割合は、この幼虫発生期の最初の48時間を過ぎた後に非常に高く、これは、このタンパク質が短期間に非常に速やかに蓄積されることを示している(図1)。これらの特徴は、これらのタンパク質の発現が、より効率的なバキュロウイルスまたは任意の他の発現ベクターを作製するために、異種タンパク質の発現を最適化するために使用し得る強力なプロモーターによって促進されることを示唆する。バキュロウイルス発現系の場合、より初期のプロモーター活性は、分泌経路に局在化されるタンパク質の場合に特に重要であり、これらのタンパク質は、より初期のプロモーター活性がなければ、バキュロウイルス感染の非常に遅い段階で細胞の翻訳後修飾機構と分泌経路の両方の変化によって影響を受ける可能性がある。
【0007】
本発明のプロモーターの配列は、ヘキサメリンファミリー遺伝子(BJHSP1及びBJHSP2)発現を調節する配列に由来するが、このヘキサメリンファミリー遺伝子のもとの調節ヌクレオチド配列には含まれないいくつかの突然変異を有する。このヘキサメリンは、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)(T.ni)の幼虫から単離され、マススペクトロメトリー分析によって80KDaのバンドとして同定された(図2)。
タンパク質が同定された後すぐに、これらをコードする遺伝子及びそのそれぞれのプロモーターを含む上流配列が単離された。各々のもとのプロモーターを増幅するために使用されるプライマーを明記する。配列番号3及び4によって特徴付けられるプライマーは、もとのプロモーター(これは、最終的にはプロモーターpB1(配列番号1)に帰する)を増幅するために使用された。配列番号5及び6によって特徴付けられるプライマーは、もとのプロモーター(これは、最終的にはプロモーターpB2に帰する)を増幅するために使用された。
【0008】
本発明のプロモーター、特にpB2の主な利点は、今日バキュロウイルス発現系で使用されている既知の極後期プロモーターと比較したときに、それがより初期の、かつより強力な目的のタンパク質の発現をもたらすということである。
【0009】
好ましい一実施形態では、本発明は、本発明のプロモーターpB1及びpB2(好ましくはpB2)と任意の他のプロモーター、例えば、pLまたはp10(好ましくはpL)との組合せも含む。驚くべきことに、このような組合せを行なったとき、相乗効果が得られた。pLpB2プロモーターを含むバキュロウイルス発現ベクターを試験したとき、目的のタンパク質の発現レベルは、pLプロモーターのみの使用に対して(感染時間に応じて)61〜375%まで増加した。今日一般に、プロモーターpLがバイオテクノロジー産業で使用されているので、この実施形態は、本発明の目的のために非常に重要である。
【0010】
他の実施形態では、本発明は、本発明のプロモーター(pB1及びpB2)の組合せ、すなわち、pB1−pB1、pB2−pB2及びpB1−pB2に関する。
【0011】
哺乳動物細胞では、本発明のプロモーターの活性が検出されなかった。そこで、本発明は、組換えバキュロウイルスの開発のための2つの安全なプロモーターを提供するものでもある。
【0012】
従って、本発明は、当該技術水準に含まれるものよりも効果的な調節ポリヌクレオチド配列(プロモーター)を、ヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意のポリヌクレオチド配列から得ることができることを明らかにするものである(発明を実施するための形態を参照)。それゆえ、ヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意のポリヌクレオチド配列に由来する任意の調節ポリヌクレオチド配列が本発明に含まれる。
【0013】
本発明の目的のためだけに、以下の用語を定義する:
調節ポリヌクレオチド配列:遺伝子の転写を可能にする通常は遺伝子の(センス鎖の5’領域に向かって)上流にあるDNAの領域である。
ベクター発現:細胞内部に外因性の遺伝物質を移すために使用される「媒体」。このベクターは、クローニングされた遺伝子(1つまたは複数)の転写や翻訳の促進、そしてDNAの転写やクローニングのために必要な調節配列を含む。バキュロウイルス発現ベクターは本発明で好ましく使用された。
バキュロウイルス:主に昆虫や節足動物に感染する、無脊椎動物の感染性ウイルスのファミリーである。
組換えDNA:1以上のDNA鎖を組み合わせるかまたは挿入し、それにより、通常は一緒に存在しないDNAを組み合わせることによって人為的に作製された人工DNAの一形態である。組換えDNAは、関連するDNAを既存の生物ゲノムに付加することによって産生される。
組換えタンパク質:組換えDNAによってコードされるタンパク質。
初期発現:プロモーターが目的のタンパク質を発現し始める時間を指す。本発明では、この時間は、感染後16時間から始まる。
より強力な発現:従来のバキュロウイルスプロモーターp10またはpLによって達成される発現のレベルと比較して同等かまたはより高いレベルでの任意の目的のタンパク質の発現を指す。
目的のタンパク質:ヒトや動物の利益のために使用することができ、かつ産業上、商業上または治療上の用途を有し得るタンパク質。
生物工場:治療目的を含むいくつかの用途を有する産業的規模の割合のタンパク質(阻害剤、酵素、抗体、抗原など)または商業目的の主産物もしくは副産物を産生することができる、遺伝子改変されているかまたは遺伝子改変されていない、細胞または生物。
部分断片:本発明の調節ポリヌクレオチド配列に由来し、当該技術分野に含まれるものと比較してより初期及びより強力という同じ改善された特性を有する任意の部分断片を指す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】イラクサギンウワバ幼虫の最初の4つの発達段階において、以下でヘキサメリンと同定される80kDaバンドが存在しないこと(A)と、2日後の第5幼虫齢でそれが存在すること(B)とを示す写真。(C)は、第5幼虫齢の最初の6日間のこのバンドのデンシトメトリー定量を示すグラフ。
【図2】80KDaのバンドのマススペクトロメトリー分析による同定のスキーム図。
【図3】プロモーター配列のpB1もしくはpB2のみまたはpL配列と組み合わせたpB2(pLpB2)を担持する作製された発現ベクターの説明図。
【図4】様々な時点で組換えバキュロウイルスを感染させた後、様々なプロモーター(pB1、pB2、pL及びpLpB2)の制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する昆虫sf21細胞及び昆虫の幼虫、並びに、感染72時間後の幼虫の写真。
【図5】バキュロウイルスベクターに挿入された様々なプロモーター(pB1、pB2、pL及びpLpB2)を感染後の様々な時点(16〜72時間)で使用することにより、かつウェスタンブロットにより検出されたGFPの発現を示す写真(A)。組換えタンパク質を定量した、GFPバンドのデンシトメトリーのグラフ(B)、または細胞抽出物のフルオロメトリーのグラフ(C)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、配列番号1及び配列番号2によってそれぞれ特徴付けられ、かつ昆虫の幼虫のヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にあるポリヌクレオチド配列に由来する、プロモーターpB1及びpB2などの、調節ポリヌクレオチド配列を提供する。
本発明は更に、バキュロウイルスなどの昆虫発現ベクターを構築するための及び細胞、好ましくは昆虫細胞で異種タンパク質を発現させるためのそのような調節ポリヌクレオチド配列の使用に言及するものである。
プロモーターpB1及びpB2の配列は、それぞれ、イラクサギンウワバのヘキサメリンBJHSP1及びBJHSP2に由来し、これらのヘキサメリンは、5齢期に最高レベルで発現し、この時期の最初の48時間に非常に高い転写活性を有する(図1)。
【0016】
pB1配列は1057ヌクレオチド(配列番号1)で構成され、幼若ホルモンで抑制される塩基性タンパク質1であるBJHSP1タンパク質をコードする遺伝子の開始コドンの上流の5’領域に由来する。この配列を、2つの特異的プライマー:配列番号3及び配列番号4を用いてイラクサギンウワバのゲノムDNAから増幅した。その後、この断片を市販ベクターのpGEM−Teasy(Promega)にクローニングした。
【0017】
pB2配列は1041ヌクレオチド(配列番号2)で構成され、幼若ホルモンで抑制される塩基性タンパク質2であるBJHSP2タンパク質をコードする遺伝子の開始コドンの上流の5’領域に由来する。この配列を、2つの特異的プライマー:配列番号5及び配列番号6を用いてイラクサギンウワバのゲノムDNAから増幅した。その後、この断片を市販ベクターのpGEM−Teasy(Promega)にクローニングした。
【0018】
pB1配列とpB2配列をBamHI酵素とSphI酵素を用いてpGEM−Teasyから抜き出し、市販プラスミドのpFasTBacデュアル(INVITROGEN)中のこれらの部位にクローニングした。記載した酵素で開環されたこのpFasTBacデュアルベクターからは、バキュロウイルスプロモーター配列が除去されている(得られたベクターをpFBpB1及びpFBpB2と名付けた)。
これらの得られたベクターは全て、目的のcDNAを導入するためのクローニング部位を提供する。これらを用いて、昆虫細胞や昆虫の幼虫に感染しかつそれらの中で複製することができる組換えバキュロウイルスを作製した。
更に、制限酵素のNotIとPstI(両制限部位ともpGemT easyベクターに由来する)で消化することによってpB2配列を抜き出し、市販ベクターのpFasTBac1(INVITROGEN)中の、pLプロモーター配列の後ろにある同じ部位にクローニングした。得られたベクターをpFBpLpB2と名付けた。
【0019】
それゆえ、本発明の第1の実施形態は、発現調節ポリヌクレオチド配列:配列番号1(pB1)及び配列番号2(pB2)を開発するための方法に言及するものである。この方法は、ヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意のポリヌクレオチド配列の単離を含む。調節ポリヌクレオチド配列の配列が決定された後すぐに、それらは常法によって増幅された。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態では、ヘキサメリンのオープンリーディングフレームの上流ポリヌクレオチド配列は、昆虫、好ましくはイラクサギンウワバに属する。
【0021】
本発明の第2の実施形態は、調節ポリヌクレオチド配列:配列番号1(pB1)、配列番号2(pB2)、またはヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意の調節ヌクレオチド領域に由来する任意の配列を含むことを特徴とする、任意のその部分断片に言及するものである。これらのプロモーター配列は、転写活性の調節に関与する調節DNAモチーフを示す。それゆえ、これらの配列は、幼虫発生期にホルモンにより調節され得るが、他のシグナルにより、そして、発現ベクターとの関連では細胞培養物において調節される可能性もある。
【0022】
好ましい一実施形態では、本発明の調節ポリヌクレオチド配列:配列番号1(pB1)及び配列番号2(pB2)を任意の他の調節ポリヌクレオチド配列、好ましくはプロモーターpL(タンパク質ポリヘドリンのプロモーター)またはp10(タンパク質p10のプロモーター)と組み合わせて、様々な組合せ:pLpB2、pLpB1、p10pB2及びp10pB1を生じさせる。本発明は、pL配列(ポリヘドリンプロモーター)をpB2配列と組み合わせたときに、非常に強力なプロモーター配列を提供する。
【0023】
他の好ましい実施形態では、本発明の調節ポリヌクレオチド配列:配列番号1(pB1)及び配列番号2(pB2)をそれら同士と組み合わせて、様々な組合せ:pB1pB2、pB1pB1(少なくとも2回反復したもの)及びpB2pB2(少なくとも2回反復したもの)を生じさせる。タンデムに置かれたプロモーターが、細菌や植物における組換えタンパク質発現の効率を増加させることが示されている(非特許文献1)。
【0024】
本発明の第3の実施形態は、発現ベクター、好ましくはバキュロウイルスまたはプラスミドを構築するための上述の調節ポリヌクレオチド配列のいずれかの使用に言及するものである。
【0025】
本発明の第4の実施形態は、上で説明した調節ポリヌクレオチド配列のいずれかと、少なくとも目的のタンパク質をコードする配列とを含むことを特徴とする発現ベクターに言及するものである。好ましい一実施形態では、ベクターは、バキュロウイルスまたはプラスミドである。
【0026】
本発明の第5の実施形態は、発現ベクターにより形質転換されたか、トランスフェクトされたか、または先の段落で記載されたベクターとして使用された組換えウイルスに感染させられた細胞に言及するものである。好ましい一実施形態では、細胞は昆虫細胞、好ましくは、ヨウトガ由来のsf9またはsf21である。
【0027】
本発明の第6の実施形態は、上述の発現ベクターで形質転換されたか、トランスフェクトされたか、または感染させられた昆虫の幼虫に言及するものである。
【0028】
本発明の第7の実施形態は、上述の発現ベクターを用いて昆虫細胞または昆虫の幼虫の中で組換えタンパク質を産生するための方法と、常法による目的の組換えタンパク質の抽出及び精製とに言及するものである。
【0029】
本発明の第8の実施形態は、組換えタンパク質を産生するためのこの発現ベクターの使用に言及するものである。
【0030】
本発明の第9の実施形態は、組換えタンパク質を産生するためのこの細胞の使用に言及するものである。
【0031】
本発明の最後の実施形態は、組換えタンパク質を産生するための生物工場としてのこの昆虫の幼虫の使用に言及するものである。
【0032】
ブダペスト条約に準じた微生物の寄託;
プラスミドは、2008年7月2日付けで、受託番号CECT 7431として、スペイン、バレンシア大学のスペイン微生物株保護機関(Spanish Type Culture Collection)(CECT)に寄託された。
【実施例】
【0033】
本発明は、以下の実施例により詳しく説明されるが、その範囲に限定されず、本発明の趣旨を逸脱することなく、他の実施形態、修正形態及びそれらの等価物を使用することができ、これらはこの説明によって当業者に示唆され得る。
【0034】
本発明の実施例は、従来のプロモーターを使用した場合と比較して、タンパク質発現が、感染後のより早い時点で起こることを示している。更に、pB2及びpLpB2というプロモーター配列の場合、発現レベルは、感染後の早い時点と遅い時点の両方で、当該技術水準(プロモーターpL)で達成されるものと比較してより高かった。
【0035】
実施例1:
緑色蛍光タンパク質(GFP)が、本発明の昆虫プロモーターにより発現される。
GFPのクローニング
SphI制限酵素によってpFBpLGFPプラスミドから抜き出されたGFPをpFBpB1またはpFBpB2プラスミドのSphI制限部位にクローニングした。得られたドナー発現プラスミドは、それぞれ、pFBpB1GFP及びpFBpB2GFPと命名された。全ての場合において、pL配列が取り除かれていたので、GFP発現は、様々な昆虫プロモーターそれ自体の活性のみによるものであった(図3)。
【0036】
他方、NotI制限部位とPstI制限部位が両側にあるpB2プロモーターを、これも同じ制限酵素で開環されたpFBpLGFPに連結した。得られたドナー発現プラスミドはpFBpLpB2GFPと命名され、pL及びpB2という2つのプロモーターの制御下にGFPコード遺伝子を含んでいた(図3)。
【0037】
GFP−バキュロウイルス発現ベクターの構築
得られたプラスミドを自動配列決定で特徴付けし、製造元の指示に従ってBac−to−Bac(登録商標)バキュロウイルス発現系(Invitrogen,USA)を用いて、組換えバキュロウイルスBacpB2GFP、BacpB1GFP及びBacpLpB2GFPを作製するために使用した。簡潔に述べると、得られたドナー発現プラスミドを用いて、DH10Bac(商標)大腸菌(E.coli)細胞を形質転換し、転移によって組換えバックミドに移した。各バックミド1μgを用いて、1×10個のヨウトガsf21細胞にセルフェクチン(登録商標)試薬を用いてトランスフェクトした。27℃で72時間インキュベートした後、P1ウイルスストックが得られた。製造元の指示に従って、バキュロウイルスを増幅させた。50mg/mLのゲンタマイシンを補充したBD BaculoGold(商標)TNM−FH昆虫培地(BD Biosciences)で、sf21昆虫細胞を増殖させた。バキュロウイルスBacpLGFPは、本発明者らの研究室で以前に作製されたものであるが、これは、pFBpLGFPプラスミドを用いて同一のプロトコルに従って得られた。
【0038】
昆虫細胞への接種
次に、感染多重度0.1pfuで細胞を感染させ、感染後16時間、24時間、48時間または72時間で、2000rpm、5分間の遠心分離によって細胞をペレット化した。
【0039】
また、感染後の様々な時点で、感染細胞の蛍光顕微鏡写真を撮影した。これらの写真を図4に示す。注目すべきは、pLプロモーターと比較したとき、pB2プロモーター配列とpLpB2プロモーター配列の活性がより初期に見られること(感染16時間後から始まる)、更に、両配列が、感染の後期(感染48時間後及び72時間後)でさえも強力であることである。pB1プロモーターも活性を示すが、pB2プロモーターまたはpLプロモーターほど強力ではない。
【0040】
昆虫の成長条件と接種
5齢のイラクサギンウワバ幼虫の(体腔前方の)腹脚付近に、10〜10pfu/幼虫の用量を用いて組換えバキュロウイルスを注射した。感染した幼虫を28℃の成長室に入れ、72時間で回収した。図4の下のパネルは、pB1(低い)、pB2及びpLプロモーターとpB2プロモーターの組合せが、幼虫組織でGFPタンパク質を発現することによって昆虫の幼虫での活性を示すことを示している。
【0041】
タンパク質抽出物の調製
P6ウェルプレート(2×10細胞/ウェルに0.1pfu/ウェルで感染させた)からのペレット化した細胞を、30μlの150mM NaCl、1% NP−40、0.1% SDS、50mM Tris pH8、プロテアーゼインヒビター(コンプリート(登録商標),Roche)、2−メルカプトエタノール(RIPA緩衝液)に再懸濁し、氷上に30分間保持し、2000g、5分間、4℃の遠心分離により清澄化して、細胞破片を除去した。
【0042】
タンパク質抽出物の解析
40μgの全可溶性タンパク質(TSP)を12% SDS(w/v)ポリアクリルアミドゲル上で分離した。タンパク質をクマシーブリリアントブルーG−250(BioRad)で染色したかまたはニトロセルロースメンブレン(Hybond C,GE Healthcare)上に転写し、0.1%(v/v)Tween20を含むPBS(PBS−T)+4%スキムミルク(PBS−TM)で一晩ブロッキングし、PBS−TMに1:1000希釈したGFP一次抗体(Chemicon)及び1:500希釈したアクチン一次抗体(Sigma)とともに1時間インキュベートした。PBS−T中で10分間2回洗浄した後、メンブレンを、PBS−TMに希釈したペルオキシダーゼコンジュゲート抗マウスIgGまたは抗ウサギIgG(GE Healthcare)の1:2000希釈液とともに1時間インキュベートした。洗浄後、製造元の指示に従ってAdvanced ECLシステム(GE Healthcare)を用いて、特異的シグナルを検出した。
【0043】
ウェスタンブロットで行なわれた解析により、図5に示す結果が得られた。この場合もやはり、pB2プロモーターとpLpB2プロモーターが、pLプロモーターよりも初期の、かつ強力な活性を示すことが示された(図5)。GFPの特異的バンドのデンシトメトリーは、TINA 2.0プログラムを用いて、かつ結果を標準化するためにアクチンバンドを用いて測定された。
【0044】
フルオリメトリーアッセイ
GENIOSフルオリメーターを用いて485nmで励起した後、40μgのTSPの放出を535nmで測定した。各抽出物を3回測定して、各値を取得した。結果を図5Cに示す。この場合もやはり、pB2プロモーターの5’上流に置かれたpL配列の相乗効果がはっきりと認められ、タンパク質産生の増加は、pLプロモーターのみに対して、感染後の時間に応じて61〜375%であった(図5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にあり、その対応する調節ポリヌクレオチド配列を含む任意のポリヌクレオチド配列を単離するステップと、
b)常法による工程a)の調節ポリヌクレオチド配列を増幅するステップと、を有する
ことを特徴とする発現調節ポリヌクレオチド配列を開発する方法。
【請求項2】
開発された最終的な調節ポリヌクレオチド配列が、配列番号1(pB1)及び配列番号2(pB2)によって特徴付けられる
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増幅が、pB1を開発するためのプライマーである配列番号3及び配列番号4を用いて、並びに、pB2を開発するためのプライマーである配列番号5及び配列番号6を用いて行なわれる
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記調節ポリヌクレオチド配列が、昆虫の幼虫に属する
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記昆虫の幼虫が、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)である
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意のポリヌクレオチド配列に由来する
ことを特徴とする調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項7】
前記配列がプロモーターである
請求項6に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項8】
配列番号1(pB1)、配列番号2(pB2)またはヘキサメリンファミリータンパク質をコードする遺伝子のオープンリーディングフレームの上流にある任意のポリヌクレオチド配列に由来する任意のその部分断片から選択される
請求項6または7に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれかに記載の調節ポリヌクレオチド配列のいずれかと、任意の他の調節ポリヌクレオチド配列の配列とを含む
調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項10】
前記他の調節ポリヌクレオチド配列が、タンパク質ポリヘドリンのプロモーターまたはタンパク質p10のプロモーターである
請求項9に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項11】
pB2(配列番号2)の配列とタンパク質ポリヘドリンのプロモーターの配列とを含む
請求項9または10に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項12】
pB1(配列番号1)の配列とタンパク質ポリヘドリンのプロモーターの配列とを含む
請求項9または10に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項13】
pB2(配列番号2)の配列とタンパク質p10のプロモーターの配列とを含む
請求項9または10に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項14】
pB1(配列番号1)の配列とタンパク質p10のプロモーターの配列とを含む
請求項9または10に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項15】
それら同士と組み合わせた請求項8に記載の配列のいずれかを含む
調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項16】
pB1(配列番号1)の配列とpB2(配列番号2)の配列とを含む
請求項15に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項17】
少なくとも2回反復したpB1(配列番号1)の配列を含む
請求項15に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項18】
少なくとも2回反復したpB2(配列番号2)の配列を含む
請求項15に記載の調節ポリヌクレオチド配列。
【請求項19】
発現ベクターを構築するための請求項6ないし18のいずれかに記載の調節ポリヌクレオチド配列の使用。
【請求項20】
前記発現ベクターがウイルス、好ましくはバキュロウイルスである
請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記発現ベクターがプラスミドである
請求項19に記載の使用。
【請求項22】
請求項6ないし18のいずれかに記載の調節ポリヌクレオチド配列のいずれかと、少なくとも目的のタンパク質をコードする配列とを含む
ことを特徴とする発現ベクター。
【請求項23】
前記ベクターが、ウイルス、好ましくはバキュロウイルスである
請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記ベクターが、プラスミドである
請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項22ないし24のいずれかに記載の発現ベクターによって形質転換またはトランスフェクトされた
ことを特徴とする細胞。
【請求項26】
前記細胞が、昆虫細胞、好ましくはヨウトガ(Spodoptera frugiperda)由来のsf9またはsf21である
請求項25に記載の細胞。
【請求項27】
請求項22ないし24のいずれかに記載の発現ベクターでトランスフェクトされたか、感染させられたかまたは形質転換された
ことを特徴とする昆虫の幼虫。
【請求項28】
請求項22ないし24のいずれかに記載の発現ベクターによる昆虫細胞または昆虫の幼虫の接種またはトランスフェクションと、常法による目的の組換えタンパク質の抽出及び精製とを含む
ことを特徴とする組換えタンパク質を産生する方法。
【請求項29】
組換えタンパク質を産生するための請求項22ないし24のいずれかに記載の発現ベクターの使用。
【請求項30】
組換えタンパク質を産生するための請求項25または26に記載の細胞の使用。
【請求項31】
組換えタンパク質を産生するための生物工場としての請求項27に記載の昆虫の幼虫の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公表番号】特表2012−501171(P2012−501171A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524203(P2011−524203)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061580
【国際公開番号】WO2010/025764
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511053193)オルタナティブ ジェネ エクスプレッション エス.エル. (アルヘネクス) (1)
【氏名又は名称原語表記】ALTERNATIVE GENE EXPRESSION S.L.(ALGENEX)
【住所又は居所原語表記】INIA,Autovia A6 Km.7,E−28040 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】