説明

昇圧装置

【課題】従来のチャージポンプの昇圧装置より極めて小型で、ブラシなどの摺動部を有せず、スイッチ数が2個で済み、大きな所定の昇圧比が得られる単純構造で経時変化が少なく、大きなS/Nで高速応答できる安価な増幅器や電源として使用できる昇圧装置を提供する。
【解決手段】対を成す電極の少なくとも一方を往復振動可能な可動電極とした可変容量コンデンサと、機械的なスイッチSとスイッチSとを備え、可変容量コンデンサの可動電極またはその導通電極をスイッチSとスイッチSの共通電極とし、可動電極をカンチレバに形成するか、可動櫛歯状電極にしたこと、可変容量コンデンサの所定の容量値C1が大きい状態でスイッチSを通して被昇圧電源で充電し、可動電極を移動させ、所定の小さな容量値C2になった時にチャージポンプとして、この昇圧された電圧がスイッチSを通して、また、必要に応じて、更にバッファ回路、逆流防止用のダイオードや出力コンデンサを通して外部に取り出すことができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量コンデンサを用いたチャージポンプの一種で、微小電圧を昇圧する装置に関するものである。その応用として、例えば、熱電対を用いて温度差を検出するに当たり、その微小電圧を大きな信号対雑音比(S/N)で所定の増幅度で増幅させるようにした熱型赤外線センサやフローセンサなどのセンサとしての高感度な温度差検出装置、また、例えば、熱源から熱電対などを利用して、大きな電流に成りえるが微小熱起電力である電圧を昇圧する直流電圧源装置などに使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
チャージポンプは、コンデンサとスイッチを組み合わせることによって電圧を上昇させるための電子回路であり、入力電圧より高い電圧を出力する電源回路に使用されている。従来、チャージポンプとしての起電機が報告されている。その古く電磁気学の教科書にも記載されている有名なものに、ウィムズハースト起電機やバンデグラフ起電機がある。ウィムズハースト起電機の原理は、例えば、次のようなものである。プラスチック円盤に貼り付けたスズ箔電極1に負に帯電したエボナイト棒を近づけると,スズ箔電極1はブラシのついた金属棒で円盤の対向する位置のスズ箔電極2とつながるようにしているから,静電誘導によりスズ箔電極1が正,スズ箔電極2が負に帯電する。円盤を一方向に回転すると,スズ箔電極1は正の電気をもったまま回転してその位置に移動し,正の電荷はブラシなどを通して集電極T1からライデンびんP に集められる。同時にスズ箔電極2は同時に回転してその位置に移動し,集電極T2を経てライデンびんQ に負電荷が集められる。円盤を回すと,次々にスズ箔電極1,スズ箔電極2の位置に来た箔電極にそれぞれ正負の電荷が与えられ,それぞれ2個のライデンびんP,Qに集められるというもので、1万ボルト以上の高い電圧を発生させることができる。また、バンデグラフ起電機は、円盤の代わりに、ベルトとプーリとを用意してあり、ベルトによって電荷を高電圧電極に運ぶ静電高圧発生装置で、ブラシとの摩擦によってベルトに生じた正または負の電荷を,集電極を通じて頭部の金属球に集めるもので、電子、重陽子、イオンを加速する「加速器」として原子核実験に用いられており,2000万ボルトくらいの高電圧が得られるものもある。
【0003】
ウィムズハースト起電機に近い形式のチャージポンプで、これまで提案されている文献(特許文献1)について、その概要を説明すると次のようである。固定子に形成した固定子電極と、回転子としての電気絶縁性の円盤に可動電極を形成してあり、円盤を回転させることにより、被昇圧直流電圧からの電荷を固定子電極との可動電極との間に印加し、このときに帯電した電荷を回転方向の特定の位置の固定子に設けた電荷収集電極で取り出して、回転を続けることにより次々に運ばれた電荷を電荷収集電極に移し、その電荷収集電極を高圧にさせると言う原理である。ただ、常に回転しているので、可動電極が回転により移動すると可動電極に帯電した電荷による電位が上昇してしまい、小さな被昇圧直流電圧を昇圧することが困難であった。また、可動電極が回転により移動するので、固定子電極と可動電極とが対向している時間が少なく、この対向しているときの固定子電極と可動電極間の可変容量での充電時間が少ないことになり、1回の回転では被昇圧直流電圧まで充電することができ難いと言う問題があった。また、微小機械としての回転円盤の形成は、フォトファブリケーション技術を利用するMEMS技術でも、ブラシや回転支持部などの摺動部や摩擦部があるので、カンチレバなどに対して、ノイズの存在や磨耗による経時変化が大きく、さらに、微小電圧の増幅器として利用する場合は、センサの微小電圧を所定の電圧増幅度で増幅することも困難で、問題が多いことが分かっていた。
【0004】
また、従来、可動電極を有する可変容量コンデンサを用いたセンサで、固定電極と、固定電極と空隙を介し、対向して設置され、物理量の変化に応じて変位する可動電極とを有するセンサがあった(特許文献2)。しかしながら、当該センサは、可変容量コンデンサの容量(静電容量)を計測することにより、物理量を計測するセンサとしての役割であった。
【0005】
また、従来、可動電極を有する可変容量コンデンサを用いた微小電圧を高いS/Nで、しかも高感度で高精度に計測する装置に振動容量型電位計があった。その測定原理は、可動電極を電磁コイルなどで振動させて、被測定微小電圧をチャージポンプとして昇圧すると共に、交流に変換して、これを更に交流増幅するものであった。
【0006】
このように、従来、微小電圧を高いS/Nで昇圧する方法が求められていた。しかしながら、温度差を検出する熱電対からの微小電圧信号をS/Nが大きい状態で増幅するには、従来の振動容量型電計では、小型化が困難であり、例えば、センサの出力電圧を増幅するのに一度の昇圧で済むのに、交流として取出すために、継続させて振動させる必要があった。このために高速応答の微小電圧の検出が困難であった。振動させるにも、コイルを用いた電磁駆動など、大掛かりなものであった。
【0007】
また、従来、チャージポンプとしてスイッチトキャパシタがあり、複数のコンデンサの接続状態を、スイッチなどを用いて切り替えることによって異なる電圧を発生させていた。例えば、2つのコンデンサを並列に接続した状態で充電した後、直列接続に切り替えることによって2倍の電圧を得ることができる。コンデンサの数とそれに対応するスイッチ数を増やすことで(コンデンサの数の2倍のスイッチ数)、コンデンサ数に応じた倍率の電圧が得られるものである。
【0008】
このような可変容量コンデンサとしてのスイッチトキャパシタを用いて、昇圧する方法では、昇圧比を大きくするためには、スイッチ数が多くなり、しかもスイッチには、一般にトランジスタを用いているために、内部抵抗が大きく、充電時間とそこでの損失が問題になっていた(特許文献3)。特にセンサからの微小電圧を計測するために用いる場合は、この微小電圧からの可変容量コンデンサへの充電電流もその分小さく、スイッチでの電力損失が、充電電荷を少なくさせるために、変換効率が悪く、S/Nを低下させるという問題があった。従って、従来、この昇圧された電圧を利用して、発光ダイオード(LED)などを点灯させるための高い電圧を得るための電源として使用する場合は、被昇圧電源の電圧は小さいが、充分に大きな電流が供給できる場合で、スイッチとしてのトランジスタでの消費電力を問題にしないような場合に限られていた。
【0009】
また、1個の1.5Vの乾電池を利用し、この電圧を1個のコンデンサに1回充電し、トランジスタ2個でスイッチの切替を行い、このコンデンサに充電された電圧と、元の乾電池の電圧とを加算させるようにして昇圧させるLEDを駆動させるチャージポンプもあった。この場合もやはりトランジスタをスイッチとして用いるので、充放電時のトランジスタでの消費電力が問題になる。例えば、この場合、トランジスタでの消費電力は、LED点灯時では、電流20ミリアンペアで、コレクタ・エミッタ間電圧0.7Vとしても、コレクタ損失が14ミリワットとなる。2個のトランジスタは、時間的に交互に使用されるので、2個合わせてこの14ミリワットが、消費されることになる。このようにコンデンサの充電時および放電時に、2個のトランジスタでもこのような電力損失があるから、2n個のトランジスタを用いると、14ミリワットのn倍だけ電力が消費されることになり、それぞれのコンデンサでこの程度の消費電力を要することになる。
【0010】
上述のように、トランジスタなどの半導体素子をスイッチとした従来の被昇圧電源の昇圧装置では、スイッチがオン(閉)状態でも、その内部抵抗が大きいために、半導体素子での消費電力が大きく、昇圧するのに被昇圧電源の電力を消費してしまうという問題があった。また、被昇圧電源の電圧が小さい場合には、スイッチとしてのトランジスタなどの半導体素子が動作しないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US7612541B1
【特許文献2】特開2007−86002
【特許文献3】特開平5−344710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
チャージポンプで昇圧する場合、スイッチで消費させても、被昇圧電源の電力に余裕があるので、兎に角、所定の電圧まで昇圧したい場合と、被昇圧電源の電力に余裕が無いので、スイッチで消費させずに昇圧したい場合がある。特に、センサなどの微小信号電圧を増幅するには、元の被昇圧電源の電力には、まったく余裕が無いので、外部電源や外部の力を利用して、昇圧装置を駆動させる必要がある。
本発明は、被昇圧電源の電力は、ほとんど消費させないようにしたチャージポンプに一種と考えることができ、従来の可変容量コンデンサを用いた昇圧装置より極めて小型で、スイッチ数が2個で済み、大きな昇圧比(出力電圧を入力電圧で除した値)が得られる単純構造で経時変化が少なく、高速応答できる安価な昇圧装置を提供することを目的としている。しかも、必要に応じて、熱電対などの被昇圧電源からの微小電圧を昇圧するのに、所定の昇圧比が確保されるようにできること、被昇圧電源と昇圧装置とを直結して、しかも途中の電力損失を極力小さくすることできる昇圧装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる昇圧装置は、可変容量コンデンサを用いた昇圧装置において、対を成す電極の少なくとも一方を往復振動可能な可動電極とした可変容量コンデンサと、機械的なスイッチSとスイッチSと、前記可動電極の駆動手段とを備え、該可変容量コンデンサの可動電極、もしくは、この可動電極に同通した電極をスイッチSとスイッチSの共通電極としたこと、前記可動電極がその対電極に接近して可変容量コンデンサの所定の容量値C1が大きい状態の時、スイッチSは開状態で、スイッチSが閉状態となるようにして、スイッチSを通して被昇圧電源からの電流で可変容量コンデンサを充電させるようにしたこと、前記可変容量コンデンサの可動電極を、その可変容量コンデンサの容量値が小さくなるように移動させた時にスイッチSを開状態になるようにしたこと、前記可変容量コンデンサの可動電極が移動して、所定の移動距離もしくは所定の小さな容量値C2になった時にスイッチSが閉状態になるようにして、帯電した可変容量コンデンサの容量値が小さくなることに基づく昇圧された電圧がスイッチSを通して外部に取り出すことができるようにしたこと、を特徴とするものである。
【0014】
本発明昇圧装置は、可動電極をもつ可変容量コンデンサと、スイッチ数は、少なくとも2個のスイッチ(S, S)で済み、しかも、これらの2個の機械的なスイッチの一方の電極は共通であり、可動電極としても良く、またはこの可動電極に導通して、可動電極が形成されている板に形成されて共に移動できるものであれば良いので、極めてコンパクトに形成できる。この2個のスイッチの共通電極は、可動電極を延在させて形成してもよく、また、可動電極にスイッチ用電極としての接点を形成しても良い。
【0015】
スイッチSとスイッチSとは、それぞれの対になる電極同士が機械的に接触してスイッチが閉状態(オン状態)になるので、そこでの接触抵抗(接点抵抗)は、トランジスタをスイッチにした場合に比べ、極めて小さく、例えば、数ミリΩにすることができる。従って、これらのスイッチでの電力損失は極めて小さくできる。
【0016】
本発明昇圧装置は、チャージポンプの原理で基本的にカンチレバなどの往復振動が可能な可動電極を有する可変容量コンデンサの容量が大きい状態(このときの容量をC1とする)でスイッチSをオン状態にして、被昇圧電源からの電流で可変容量コンデンサをその被昇圧電源電圧近くまで十分に充電させて、可動電極に電荷を貯める。そして、この電荷を逃がさない状態で、可動電極を移動させて可変容量コンデンサの容量を小さくさせる(このときの容量をC2とする)ことにより、被昇圧電源E0のC1/C2倍に昇圧するものである。実際には、浮遊容量Cfも考慮する必要があり、一般にこの浮遊容量Cfは、これらのC1やC2に並列接続の形になるので、昇圧された出力電圧V0は、C1/C2倍にはならず、この浮遊容量Cfにより制限され形になる。このために、如何にこの浮遊容量Cfが小さくさせるか、更に、充電した電荷を逃がさないための電気絶縁性の高い材料への電極の形成と電気絶縁性の維持が課題となる。従って、可変容量コンデンサを構成する可動電極を含む対の電極以外の電極の面積やそれらの距離および位置と、それらの配置関係、更には、電極を形成する下地材料の電気的絶縁性とリークの対策が設計上、必要となる。可動電極を移動させて可変容量コンデンサの容量を小さくさせたときに、スイッチSが閉(オン)状態になるようにして、外部にスイッチSを通して、昇圧された可変容量コンデンサの電圧を検出するようにするか、もしくは、外部負荷や電荷を貯える出力コンデンサに電流が流れるようにするものである。なお、スイッチSとスイッチSとの共通電極は、少なくとも可動電極と導通しており、この可動電極に貯えられた高電位になった電荷を、スイッチSの共通電極とその対になった電極との接触(閉状態)を通して外部に取出すことができる構造となっている。
【0017】
本発明の請求項2に係わる昇圧装置は、前記可動電極と、スイッチSとスイッチSの共通電極とを、カンチレバ、両端支持梁もしくは可動櫛歯状電極に設けた場合である。
【0018】
MEMS技術を利用して、可変容量コンデンサの可動電極として、カンチレバ、両端支持梁や櫛歯電極を有する可変容量コンデンサを形成すると、超小型の昇圧装置を作成することができる。なお、可変容量コンデンサの可動電極に対して、対向して対になる電極は、可動電極がカンチレバの場合は、平面状に形成しても良いが、可動電極が櫛歯電極の場合は、容量(静電容量)の変化を対向する電極との重なり合う面積の変化を利用しているので、やはり、対向する(固定)電極の構造も櫛歯形状の方が良い。
【0019】
本発明の請求項3に係わる昇圧装置は、前記可動電極の駆動手段として、熱源からの熱を用いた熱膨張や熱による形状記憶合金の変形力の利用、磁気的吸引力もしくは反発力の利用、静電引力の利用、圧電効果の利用、機械的駆動手段のいずれかの手段を用いた場合である。
【0020】
駆動手段として、熱源からの熱を用いた熱膨張の利用する場合は、例えば、可動電極がバイメタルのようなカンチレバの場合、その反りを利用して、容易に可動電極を移動させることができる。また、熱源を利用して、形状記憶合金とバネ(スプリング)との組み合わせなどで可動電極を移動(往復動作も含む)させることもできる。カンチレバの反りを利用する場合は、熱源としての廃熱やヒータを用いてカンチレバの支持部に近い領域を加熱すると効果的である。しかし、熱電対などを温度センサとして使用している場合には、加熱ヒータなどからの熱が熱電対の温度センサとしての出力に、影響を与える可能性が大きく、注意する必要がある。被昇圧電源の電圧としての熱電対のような温度センサの出力を増幅する場合のように、熱が問題になる場合には、可動電極の駆動手段として熱を使用しない別の手段、例えば、圧電素子を利用するようにした方が良い。
【0021】
熱源からの熱を利用する場合は、必ずしもヒータとは限らず、形体は多少大きくなるが、廃熱などを利用し、熱膨張での可動電極としてのカンチレバ状バイメタルの反りを利用すること、形状記憶合金とバネとの組み合わせなどで可動電極の移動を利用すること、作動液体の蒸気を利用してピストンを動かすようにして可動電極を駆動させることもできる。このような場合は、熱電対などの起電力を昇圧させて、直流電源として利用するのに好適である。特に、大容量の可変容量コンデンサを用いた大容量の直流電源を製作する場合は、多層化した可動櫛歯状電極により大容量の可変容量コンデンサを形成した方が良い。昇圧は、これらの大容量の可変容量コンデンサに蓄えられた正負の大きな電荷の静電引力に抗して、多層化した可動櫛歯状電極を移動させることによるので、大容量であればあるほど、可動櫛歯状電極の移動には、大きな力が必要になる。このことを考慮した設計が必要であり、更に、その力の供給源を得る必要がある。熱源からの熱を用いた熱膨張や形状記憶合金とバネとの組み合わせなどが、この力の供給源として好適である。
【0022】
可動電極の駆動手段として、磁気的吸引力もしくは反発力の利用する場合は、電磁コイルなどを利用した吸引力や永久磁石と組み合わせた反発力もあるが、更に、ヒータなどの熱源と永久磁石などと組み合わせて、強磁性体のキュリー温度Tc以上に昇温させたときには常磁性体になる事を利用することもできる。すなわち、低温では強磁性体を有する可動電極が永久磁石に引かれて、ある位置に引き込まれているが、キュリー温度Tc以上になると、強磁性体は常磁性体になるので磁気的に吸引されなくなり、可動電極をカンチレバに形成しておくと、そのスプリング作用や別に設けたスプリングなどを利用して、別の位置に移動させて、可変容量コンデンサの容量を大きく変化させるようにすることができる。
【0023】
可動電極の駆動手段として、静電引力を利用する場合は、可変容量コンデンサの可動電極とその対向する対電極とは異なる対の2つの電極を別に設けて、それらの静電引力を利用して、可動電極を移動させることができる。また、必要に応じて、例えば、可動電極に対向する対電極を延在させて、この部分を静電引力駆動用の電極として共有することもできる。
【0024】
可動電極の駆動手段として、形状記憶セラミックスなどを含む圧電効果の利用する場合は、積層型の圧電素子(電歪素子)を用いると、比較的小さい電圧印加で、大きな変形が得られるので、例えば、カンチレバの反りを利用する場合は、カンチレバの支持部付近にこの圧電素子を設置すれば良い。また、有機材料であるPVDFフィルムや無機材料であるPZTフィルムなどのピエゾフィルムをバイモルフ構造にするなどして、可動電極を駆動することもできる。この場合もカンチレバ状にすると大きな変位が得やすい。
【0025】
可動電極の駆動手段として、機械的駆動を利用する場合は、モータと組み合わせた往復運動やピストンを利用するなど、機械的に可動電極を駆動するものである。また、大きな変位を生じさせるのに、テコの原理を利用すると良い。
【0026】
本発明の請求項4に係わる昇圧装置は、前記可変容量コンデンサの可動電極の移動距離もしくは容量値を所定の大きさに指定するストッパを設けた場合である。
【0027】
特に、本発明の昇圧装置を、熱型赤外線センサなどで用いる熱電対やサーモパイルの微小出力電圧を、S/Nの良い形で増幅するための増幅器として利用する場合には、所定の増幅度が必要である。このためには、被昇圧入力電圧もしくは、入力電流を可変容量コンデンサの最も大きな容量時に充電させたときの可変容量コンデンサの電圧に対して、可変容量コンデンサの容量値が最小になったときの昇圧された電圧の比である昇圧比を所定の値にしておく必要がある。このような場合には、可変容量コンデンサの可動電極の移動距離もしくは容量値を所定の大きさに指定するストッパを設け置くことにより、可動電極の移動距離を指定し、所定の最小可変容量コンデンサの容量値にすることができる。
【0028】
本発明の請求項5に係わる昇圧装置は、昇圧された電圧を、スイッチSを通して外部に出力させる時に、昇圧された電圧が小さくなり難いように、入力インピーダンスを大きくしたバッファ回路を通して外部に取り出すようにした場合である。
【0029】
本発明の昇圧装置は、帯電させた可変容量コンデンサを大きい状態から小さい状態にさせることによる昇圧原理であり、昇圧させるための小さい可変容量コンデンサに直接、小さいインピーダンスの外部の負荷を接続すると、電圧の分担により折角昇圧された電圧が小さくなってしまうので、大きな入力インピーダンスを有するバッファ回路を、可変容量コンデンサの出力端子と外部に出力させる為の端子との間に挿入して、ほぼ、無限大の入力インピーダンスに見えるように、インピーダンス変換することが望まれる。また、可変容量コンデンサからバッファ回路までの距離が長いと浮遊容量も増加し、やはり、可変容量コンデンサに蓄えられた電荷がこの浮遊容量にも分割されて、外部に取り出す出力電圧が低下してしまうので、インピーダンス変換用のこのバッファ回路は、可変容量コンデンサの出力用の電極に直結して形成することが望まれる。もちろん、バッファ回路の入力インピーダンスばかりではなく、この昇圧装置の可変容量コンデンサを構成する可変電極と対電極間の電気的絶縁性が大切で、可変容量コンデンサの容量Cとこれらのリーク抵抗Rの掛け算値がC・Rが蓄えられた電荷の可変容量コンデンサの保持時間(時定数)と見ることができる。従って、可変電極の移動時間もこの時定数以内に終了しなければならない。例えば、小型化した昇圧装置の場合、C=10pF、R=100MΩ程度であると、時定数は、1ミリ秒程度になる。また、バッファ回路の入力インピーダンスも含めて、リーク抵抗Rが1011Ω以上であれば、可変容量コンデンサが小さくなった時点での容量C=10pFであっても、時定数は、1秒以上となる。上述のことを考慮して、設計上、浮遊容量は極力小さくなるようにし、可変容量コンデンサの最終の値を余り小さくしないで、更に、バッファ回路の入力インピーダンスも含めて、リーク抵抗Rを極めて大きくするようにしなければならない。また、内部抵抗が小さく電流は大きく取れるが、熱起電力などの電圧が小さいとき、その電圧を昇圧して、所定の電圧を得るようにする直流電源としての応用では、大型化した昇圧装置となるので、可変容量コンデンサの小さい状態においても、例えば、1マイクロファラッド程度の容量があり、この場合は、リーク抵抗Rの値が、1MΩ以上あれば、その時定数も1秒以上となる。
【0030】
バッファ回路として、演算増幅器(OPアンプ)やMOSFETなどのFET(電界効果トランジスタ)を利用することもできる。
【0031】
本発明の請求項6に係わる昇圧装置は、スイッチSを通して、昇圧された電圧からの電流で充電する出力コンデンサC0を設けた場合である。
【0032】
可変容量コンデンサの可動電極に貯えられた電荷は、一般に時間と共に漏洩して、折角昇圧した電圧が低下してゆく。また、電荷の漏洩が無くとも、可変容量コンデンサの最小容量値で昇圧された電圧は、その可動電極を元の容量の大きい方に移動させるとその電圧が減少してゆく。外部で昇圧された電圧を安定に取出すのに、可動電極に設けるか、もしくは、可動電極の移動に同期して、スイッチSを作動させて、このスイッチSを通して、昇圧された電圧からの電流で充電する出力コンデンサC0を設けると良い。この出力コンデンサC0の具備により、昇圧された電圧を多少減らしても安定な電源となり、また、スイッチSの接点の不良などによる通電の不安定さの改善にも有効である。特に、本発明の昇圧装置を昇圧電源として利用するには、この出力コンデンサC0の設置が電流の安定供給の観点から重要である。この場合、スイッチSと出力コンデンサC0との間に、入力インピーダンスを変換するバッファ回路を挿入することが望まれる。しかしながら、上述のような直流電源などの応用では、大きな可変容量コンデンサとなり、リーク抵抗Rを小さくできるので、必ずしもバッファ回路を必要としない。このような場合、可能な限り、他の電源を利用したくないので、バッファ回路を使用しないで、出力コンデンサの前に逆流防止用のダイオードを接続しておくだけで良い場合がある。このように昇圧装置を直流電源として利用する場合では、シリコンのpn接合ダイオードは、0.6V以上の立ち上がり電圧を要するので、可能な限り低い立ち上がり電圧のダイオードが好適で、例えば、ショットキ接合ダイオードなどを利用すると良い。
【0033】
本発明の請求項7に係わる昇圧装置は、前記可変容量コンデンサの可動電極の移動が往復繰り返すことにより、該可変容量コンデンサの容量値が大小繰り返すようにした場合である。
【0034】
特に、上述のように、スイッチSを通して、昇圧された電圧からの電流で充電する出力コンデンサC0を設けた場合は、その出力コンデンサC0の容量が大きい場合には、1回の昇圧された電荷によるこの出力コンデンサC0への充電による出力コンデンサC0の端子電圧は小さく、この可変容量コンデンサの容量値の大小を繰り返す回数を多くして、可変容量コンデンサの昇圧された電圧に近づくようにすることが望ましい。特に、本発明の昇圧装置を小さな電圧の昇圧電源として利用する場合に有効である。
【0035】
本発明の請求項8に係わる昇圧装置は、被昇圧電源と前記可変容量コンデンサとを一体化させた場合である。
【0036】
熱型センサの熱電対やサーモパイルなどの微小電圧を被昇圧電源の電圧として高いS/Nで昇圧するときには、例えば、シリコンチップなどの同一基板に、この熱型センサとしての熱電対やサーモパイルと、カンチレバを可動電極とした可変容量コンデンサとを近接配置して、一体化させた昇圧装置が有効である。同一基板に一体化させることにより、コンパクトでS/Nが大きい昇圧装置が提供できる。ただ、カンチレバを可動電極とした場合は、浮遊容量を小さくさせるために、カンチレバをスペーサなどで基板から十分離して設置しておくようにすると良い。初期状態の可変容量コンデンサの容量(静電容量)が大きい状態では、むしろ、カンチレバを曲げておき、可動電極がその対電極に近接するようにして、その容量が大きくなるようにしておく方が良く、可動電極が移動して可変容量コンデンサの静電容量が小さくなったときでもその浮遊容量が小さいように配慮すべきである。
【0037】
上述では、同一基板に一体化させた昇圧装置の例を挙げたが、可変容量コンデンサの浮遊容量を減らすために、異なる基板にそれぞれ可変容量コンデンサと熱電対やサーモパイルなどの被昇圧電源とを形成しておき、合体させて一体化させることもできる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の昇圧装置では、従来の可変容量コンデンサを用いた昇圧装置より極めて小型で、回転する可動電極を有しないので、ブラシなどの摺動部を持たないので磨耗などがなく、その分経時変化が少なく、スイッチ数が2個で済む単純構造という利点がある。
【0039】
本発明の昇圧装置では、往復振動可能なカンチレバに形成した可動電極や可動櫛歯状電極を利用して可変容量コンデンサが形成できるので、所定の可動電極の移動距離やそれに伴う容量値が、例えば、ストッパを設けることで2値(初期と最終)とすることができる。したがって、被昇圧電源電圧が微小であっても所定の2値の容量比で決定される所定の昇圧比が得られ、例えば、センサからの微小電圧をS/Nが大きい状態で所定の大きな増幅度(昇圧比)で増幅することができると言う利点がある。従来の可動電極による可変容量コンデンサでは、可動電極の位置制御が可変容量コンデンサの対応する容量値を決定するので、容量値の微細な制御が困難で、容量値を、例えば、1桁以上の大きく変化させることが困難であったのに対し、本発明の昇圧装置では、途中の容量値を定める必要が無く、初期と最終の所定の2値の容量値だけで済むので、1桁以上の大きな2値の容量比の可変容量コンデンサの構造体を形成することは、容易である。
【0040】
本発明の昇圧装置では、被昇圧電源電圧で可変容量コンデンサに充電する際に、可動電極を静止させて十分時間をかけて充電することができる。そして、その後、可変容量コンデンサの可動電極を移動させて昇圧させることができるので、1回の可動電極の移動による2値の可変容量コンデンサ(初期値と移動後の最終値)だけでも、所定の昇圧比が得られるという利点がある。もちろん、可動電極を往復(振動)させて、昇圧を繰り返すこともできる。
【0041】
本発明の昇圧装置では、可変容量コンデンサの往復振動可能な可動電極の駆動手段として、熱源からの熱を用いた熱膨張の利用、形状記憶材料の変形力の利用、磁気的吸引力もしくは反発力の利用、静電引力の利用、圧電効果の利用、機械的駆動手段、例えば、ピストンなどが利用できるので、駆動の選択が広がり、用途に応じて駆動の最適な選択ができるという利点がある。特に、熱源からの熱を用いた熱膨張の利用では、例えば、地熱や廃熱を利用して直流電源を得るような発電機としても利用できる。
【0042】
本発明の昇圧装置では、スイッチSを通して、昇圧された電圧からの電流で充電する出力コンデンサC0を設けることができるので、昇圧された安定な直流電源として利用できる。
【0043】
本発明の昇圧装置では、被昇圧電源と可変容量コンデンサとを一体化させることができる。従って、特に、極めて微小なセンサ出力電圧を増幅する場合には、増幅器と直結する形となるので、S/Nが大きい状態で、例えば、100倍以上の増幅が可能となり、極めて小型の増幅装置として利用することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、カンチレバに可動電極を形成した可変容量コンデンサが初期値の大きい値C1の場合である。(実施例1)
【図2】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、カンチレバに可動電極を形成した可変容量コンデンサが最終値の小さな値C2の場合である。(実施例1)
【図3】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、可動櫛歯電極を可動電極にした可変容量コンデンサが初期値の大きい値C1の場合である。なお、この場合、駆動手段として静電吸引力を利用した場合の例である。(実施例2)
【図4】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路構成概略図で、バッファ回路200を取り付けた場合である。(実施例3)
【図5】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、図4に示した昇圧装置に出力コンデンサ25(C0)を取り付けた場合である。(実施例3)
【図6】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、図5に示した昇圧装置に逆流防止用のダイオード27を取り付けた場合である。(実施例3)
【図7】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、バッファ回路200として、MOSFETを利用した場合である。(実施例3)
【図8】本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、被昇圧電源と可変容量コンデンサとが同一基板に一体化させた場合である。(実施例4)
【図9】本発明の昇圧装置の基本部400の一実施例を示す構成概略図である。(実施例5)
【図10】図9に示す昇圧装置の基本部400を用いた本発明の昇圧装置とその駆動システムの一実施例のシステム構成概略図を示したものである。(実施例5)
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の昇圧装置の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0046】
図1は、本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、可変容量コンデンサ1の可変電極2の位置が初期状態であり、その容量値が大きい値C1の場合である。この状態で、スイッチSが閉状態となり、可変容量コンデンサ1に外部にある被昇圧電源10の電圧E0から充電される。
【0047】
図1に示す本発明の昇圧装置の構造について、その概要を簡単に説明すると、次のようである。先ず、基板100(電気絶縁性の方が浮遊容量を少なくする観点から望ましい)の一方の面に、可変容量コンデンサ1としての対電極5が形成されてあり、誘電体層21を介して可変容量コンデンサ1の可変電極2が重なるように形成されているが、この可変電極2は、カンチレバ11の一方の面に形成されているので、カンチレバ11が振動などで動かすと、可変容量コンデンサ1の誘電体層21や対電極5から距離が離れることになる。この図1に示すように、可変電極2が可変容量コンデンサ1の対電極5上の誘電体層21に接触していたときが、最も可変容量コンデンサ1の容量値が大きい状態であるC1になっている。そして、この初期状態で、本実施例では、電気絶縁性の基板100の裏面に形成した電極31,32と配線22を介して、被昇圧電源10の電圧E0から初期状態の可変容量コンデンサ1に充電できるようにしている。このときの充電電流の経路にスイッチSがあり、スイッチSの固定電極13とカンチレバ11に形成した可変電極2に導通した共通電極7とで、閉状態のスイッチS13を形成している。
【0048】
また、往復振動可能な可変電極2を有するカンチレバ11は、電気絶縁性のスペーサ50を介して支持部として接合固定されてあり、カンチレバ11の支持部付近に駆動手段8としての圧電素子を設けてある。駆動手段8と、可動電極2を持つカンチレバ11とは、フレキシブルな駆動接続部108で接合されている。この駆動手段8の圧電素子に電圧を印加することにより伸縮させることができるので、カンチレバ11は、往復振動することができる。もちろん、一度の往復でも良いし、必要に応じてカンチレバ11を一回だけ反らし、次の図2に示すように可変容量コンデンサ1の可変電極2を対電極5から距離が離れるようにすることができる。
【0049】
カンチレバ11の支持部である接合固定部には、更に電気絶縁性のスペーサ51を接合固定してあり、その上にカンチレバ11がこれ以上その振動振幅が大きくならないようにするための振幅制限用のストッパ20を設けてある。このストッパ20も、電気絶縁性出あった方が良い。また、このストッパ20には、カンチレバ11が到着したときに、可変電極2に導通した共通電極7と接触するスイッチSの固定電極14を設けてあり、閉状態のスイッチS4を形成できるようにしている。そして、本発明の昇圧装置では、可変容量コンデンサ1の可変電極2に充電により貯まった電荷を、スイッチSの固定電極14に導通した電極33を介して出力端子Aと可変容量コンデンサ1の対電極に導通した出力端子Bとの間に昇圧した出力が外部に取出せるように構成してある。
【0050】
ここでの被昇圧電源10の電圧E0は、例えば、温度センサを熱電対やサーモパイルなどの熱起電力であっても良く、その場合は、本発明の昇圧装置は、所定の増幅度を有する電圧増幅器として利用することができる。また、被昇圧電源10の電圧E0が廃熱を利用した熱起電力などであった場合は、本発明の昇圧装置は、昇圧された直流電源としても利用することができる。
【0051】
図2は、本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、上記の図1の可変容量コンデンサ1の可動電極2が移動して、ストッパ20の位置により定まる所定の移動距離もしくは所定の小さな容量値C2になった時にスイッチS4が閉〔オン〕状態になった場合である。
【0052】
上述の図1について説明したように、可変容量コンデンサ1の可動電極2の初期状態で被昇圧電源10の電圧E0から可変容量コンデンサ1を充電して、可動電極2に貯えた電荷をほとんど逃がさないで、カンチレバ11を駆動手段8である圧電素子の電圧印加で対電極5から距離を離し、その可変容量コンデンサ1の静電容量を所定の小さな値C2にさせた状態を図2では示している。このとき帯電した可動電極2が初期の可変容量コンデンサ1の大きな静電容量C1から所定の小さな値C2にさせることによりチャージポンプとして昇圧し、可動電極2に導通している共通電極7とスイッチSの固定電極14とで構成する電極スイッチS4を閉状態にする。このとき、スイッチSの固定電極14と導通している電極33を介して、昇圧された可動電極2の電荷が出力端子Aに導かれるようにしている。このために、本発明の昇圧装置では、被昇圧電源10の電圧E0をほぼC1/C2で定まる所定の増幅度で昇圧された電圧が、出力端子Aと出力端子Bとの間から取出せるように構成してある。なお、実際には、可変容量コンデンサ1に浮遊容量が並列に入るので、小さい静電容量値であるC2がその影響を受けやすく、可変容量コンデンサ1の構造において、その電気絶縁性を高めると共に近接する各種の導体を、可変容量コンデンサ1を構成しているそれぞれの電極から遠ざけるようにすることが重要である。ただ、一度、可変容量コンデンサ1が形成されるとその浮遊容量がほぼ固定するので、それをも含む形で増幅度(昇圧比)が決まる。
【0053】
上述では、基板100として電気絶縁性の方が浮遊容量を少なくする観点から望ましいので、電気絶縁性基板を用いた場合を示したが、例えば、シリコン単結晶基板のように導電性があっても、スペーサ50、51の高さを調節することにより、浮遊容量を小さくさせることができるので、導体である半導体基板を用いることもできる。このようにシリコン単結晶基板のように半導体基板を用いると、集積回路やセンサなどと一体化がしやすいという利点がある。このように半導体基板を用いる場合は、表面に熱酸化膜などの電気絶縁性の膜を形成しておくと良い。
【実施例2】
【0054】
図3は、本発明の昇圧装置を説明するための他の一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、可変容量コンデンサ1として可動櫛歯状電極を用いた場合の概略図である。また、この実施例では、可動電極2と共通電極7とが可動櫛歯状電極構造の可変容量コンデンサ1を用いると共に、その可動電極2を駆動するのに、駆動手段8として、もう一組の可動櫛歯状電極である駆動用可動電極80と駆動用固定電極81とを備えてあり、静電引力で可動電極2を引き寄せ、可変容量コンデンサ1の対電極5から可動電極2を引き離し、可変容量コンデンサ1の初期状態の大きな静電容量値C1からストッパ20で制限される移動距離のために最終状態の小さな静電容量値C2に変化するようにしている。なお、ストッパ20は、スイッチSの固定電極14としても利用している。
【0055】
そして、図3は、可変容量コンデンサ1の初期状態の大きな静電容量値C1のときであるが、このときスイッチSが閉状態で、これを介して被昇圧電源10の電圧E0から可変容量コンデンサ1が充電されて、可動電極2が帯電する。このとき可動電極2に蓄えられた電荷が最終状態の小さな静電容量値C2に変化したとき、浮遊容量を無視すると、初期の可変容量コンデンサ1の充電電圧(ほぼ被昇圧電源10の電圧E0)が、C1/C2倍に昇圧される。そして、昇圧された電圧は、出力端子Aに同通して、アース電位である出力端子Bとの間に出力される。上述の実施例1で記述したように、被昇圧電源10の電圧E0が熱型センサの出力電圧、例えば、熱電対などの微小熱起電力であった場合には、この昇圧比は、増幅度と考えることができる。可変容量コンデンサ1の可動電極2は、駆動手段8である静電引力を引き起こすための駆動用電源85からの電圧が駆動用スイッチ86を開状態(オフ状態)にすることにより、スプリング70,71の作用により、図3に示すような初期状態に戻ることになる。
【0056】
図3に示した本発明の昇圧装置は、公知のMEMS技術としてシリコンマイクロマシシーン技術で、シリコン単結晶基板に形成することができる。同図の支持固定部60、61,62,63や可動電極支持体82をシリコン単結晶で形成し、その表面を電気絶縁体であるシリコン熱酸化膜等の絶縁膜で覆うようにすると良い。また、駆動用可動電極80や駆動用固定電極81、さらには、可動電極2や対電極5も必ずしも金属である必要は無く、電気導体であれば良いので、単結晶シリコンを使用し、その表面も酸化膜等の絶縁膜で覆うようにすることができる。また、スプリング70,71も公知のMEMS技術でシリコン単結晶を用いて形成することもできるし、公知にLIGA技術によりアスペクト比の大きな金属メッキ層で形成できる。スプリング70は、本実施例では、駆動用電源85からの電流を通して駆動用可動電極80を駆動するためにも利用するので、金属などの導体で形成するか、絶縁体で形成したときには、少なくとも、その表面などに導体膜などを形成しておく必要がある。
【0057】
実際には、昇圧されて出力端子Aと出力端子Bとの間に出力された電圧は、ここに接続した負荷を通して電流が流れ、その電圧を小さくする。例えば、この出力端子Aと出力端子Bとの間に、出力コンデンサ25を接続すると、その出力コンデンサ25の静電容量C0にも電荷が分担するので、その出力電圧V0は、出力コンデンサ25を接続しないときに比べて小さくなる。この様子を電気回路で置き換えると図4に示すようになる。そして、駆動手段8である静電引力を引き起こすための駆動用電源85からの電圧が駆動用スイッチ86を開状態(オフ状態)にすることにより、スプリング70,71の作用により、図3に示すような初期状態に戻ると、再び、その電荷の減少量を補うように、被昇圧電源10から可変容量コンデンサ1が充電されるようになる。このような可動電極2の往復振動運動を繰り返すようにするには、図3における駆動用スイッチ86の開閉を繰り返すか、駆動用電源85を交流電源に置き換えて、駆動用スイッチ86を閉状態にすればよい。なお、交流電源において、正負の電圧印加時のどちらにおいても駆動手段8である静電引力は生じるので、可動電極2などを備えた可動電極支持体82の応答がその交流周波数に十分応答するならば、その交流周波数の2倍の周波数で往復振動運動を生じることになる。
【実施例3】
【0058】
図4は、本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、上述の実施例1と実施例2における図1から図3に示す本発明の昇圧装置の出力端子Aに、入力インピーダンスが無限大に見えるようなバッファ回路200を取り付けて、昇圧した電圧V0を外部に出力させるようにした場合の例である。図1から図3に示す本発明の昇圧装置の出力端子Aと出力端子Bとの間に、直接、外部負荷を取り付けると外部負荷への電圧分担により、その出力電圧V0が、小さくなる負荷を取り付けないときに比べて小さくなる。そこで、図4に示すように、インピーダンス変換用のバッファ回路200を取り付けて、本発明の昇圧装置の実際の出力端子がA‘とB’(接地端子)となるようにした場合で、バッファ回路200として、演算増幅回路(OPアンプ)26を利用した場合の例である。このOPアンプ26を用いたバッファ回路200では、出力端子A―B間の電圧V0が、そのまま、出力端子A‘―B’間の電圧となる。
【0059】
図5は、上述の図4に示した本発明の昇圧装置の構成概略図において、出力コンデンサC025を出力端子A’と出力端子B’との間に取り付けた昇圧装置の例であり、出力端子A’と出力端子B’との間の出力電圧が、時間変動が少なく安定した増幅した信号または電圧が得られ、センサの微小信号増幅には、極めて好適な初段アンプとなり得る。もちろん、出力端子A’と出力端子B’との間に取り付ける外部負荷にも安定な出力電圧が得られるし、直流電源としても用いることが出来る。
【0060】
図6は、上述の図5に示した本発明の昇圧装置の構成概略図において、バッファ回路200の出力端と出力端子A’との間に、ダイオード27を取り付け、出力端子A’と出力端子B’との間に取り付けてある出力コンデンサC025からの電流の逆流を防ぐようにした場合の昇圧装置の例である。被昇圧電源10の電圧が大きく変動するような場合に、繰り返し昇圧動作において、折角、大きく昇圧されて出力コンデンサC025に大きな電圧が発生していても、ある時刻においては、その時刻における昇圧された出力端子Aと出力端子Bとの間電圧V0が、出力コンデンサC025の電圧よりも小さくなってしまう場合があり、このようなときに、このダイオード27が逆流防止として役立つ。
【0061】
図7は、バッファ回路200として、MOSFETを利用した場合の例を示す。上述の実施例1と実施例2における図4から図6までの本発明の昇圧装置におけるバッファ回路200として、OPアンプを用いた例を示したが、入力インピーダンスのほぼ無限大に見えるMOSFETをバッファ回路200として利用することが出来る。この場合、MOSFETに直列接続している抵抗R0の両端(出力端子A’と出力端子B’)との間の電圧が、本発明の昇圧装置の外部への出力となる。この場合も、上述のOPアンプ26を利用したバッファ回路200と同様に、バッファ回路200の入力端と出力端での電圧はほぼ等しく、インピーダンス変換のみとなる。
【0062】
本実施例では示していないが、上述のバッファ回路200の入力インピーダンスが極めて高いので、外来雑音(ノイズ)を拾いやすく、バッファ回路200の入力端子A−B間に、可変容量コンデンサ1の所定の小さな容量値C2に比べて、小さな容量のコンデンサを接続しておくことにより、スイッチS2の開閉時のノイズや外来のノイズのノイズ除去用として作用させることができる。
【実施例4】
【0063】
図8には、本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、被昇圧電源10として、熱型赤外線センサの赤外線受光部15に熱電対16を用いた場合の熱起電力を利用した場合で、しかも同一のシリコン単結晶の基板10に可変容量コンデンサ1を一体化形成した場合を示している。図8には、図1や図2に示したように、可変容量コンデンサ1の可動電極2をカンチレバ11で形成した場合で、ここに共通電極7もその先端部に形成してある。しかし、複雑な構造による煩雑化を避けるために、スペーサ51やストッパ20などは省いて、電気回路を含むその一部をのみ図示した場合である。このように図8は、被昇圧電源10としての熱型赤外線センサの熱起電力を利用し、この被昇圧電源10と可変容量コンデンサ1とを同一シリコン単結晶の基板10に一体化したこと以外は、昇圧装置の動作が前述の図1や図2とほぼ同一であるので、ここではその動作説明を省略する。なお、シリコン単結晶の基板10は半導体であるので、基板一体が同通しており、電気絶縁のために、その表面を熱酸化して、シリコン熱酸化膜などの絶縁膜19を形成しておいた方が良い。
【実施例5】
【0064】
図9は、本発明の昇圧装置を説明するための一実施例を示す電気回路を含む構成概略図で、昇圧装置のうち、駆動手段8を除いた昇圧装置の基本部400の実施例を示したものである。図10は、この図9に示す昇圧装置の基本部400を用いた本発明の昇圧装置とその駆動システムの一実施例のシステム構成概略図を示したものである。本実施例では、実施例2における図3に示した昇圧装置と同様に、可変容量コンデンサ1として可動櫛歯状電極を用いた場合である。なお、可変容量コンデンサ1は、空気コンデンサである必要は無く、高誘電率のオイルなどの液体で満たして、容量を大きくしても良い。また、実施例2における昇圧装置に実施例では、駆動手段8として、もう一組の可動櫛歯状電極からなるコンデンサの静電引力を用いた場合であったが、本実施例は、可動電極2の可動電極支持体82に駆動接続部108を設けて、これと外部の可動電極2を駆動させる駆動手段8、例えば、温度差を利用して熱の膨張と収縮などで動作させる駆動手段8としての熱作動機構150とを、金具などの連結機構160を介して連動させて、可動電極2を持つ可動電極支持体82を往復運動させるようにする場合の一実施例を示したものである。温度Thの高温体120と温度Tlの低温体130との間に、被昇圧電源10となるサーモパイル110が熱的に接触させてあり、このとき発生しているサーモパイル110の熱起電力が被昇圧電源10となり、その電圧が本発明の昇圧装置により昇圧されて、所定の電圧を有する直流電源として利用することができ、その出力電圧は、出力コンデンサ25(C0)の両端A’−B’間から取り出すことができる。
【0065】
熱的な駆動手段8としての熱作動機構150も、地熱、廃熱や太陽熱などにより暖められた水などの液体や固体などの温度Thの高温体120を利用し、例えば、動作流体の蒸発したガスでピストン動かしたり、バイメタルの熱膨張による反りを利用したりすることができる。また、温度Tlの低温体130としては、室温の川の水や固体などを利用することができる。これらの高温体120や低温体130の熱容量が大きいほど、安定して電圧を取り出すことができるので好都合である。
【0066】
微小電圧信号の増幅においては、上述のインピーダンス変換用のバッファ回路200が必要であるが、熱起電力などを昇圧して、直流電源として使用する場合、一般に可変容量コンデンサの静電容量が大きいので、可変容量コンデンサの最小容量よりも出力コンデンサ25の容量が小さい場合は、必ずしもバッファ回路200が無くとも動作させることができる。例えば、図10においては、バッファ回路200を設けた例を示しているが、この場合でも、バッファ回路200を入れないで動作させることができる。また、この場合、バッファ回路200の代わりに、逆流防止用のダイオードをこの場所に挿入すると良い。
【0067】
本発明の昇圧装置は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の昇圧装置は、上述のように、可変容量コンデンサ1に被昇圧電源10からの電圧で充電により、その可変容量コンデンサ1の対となる電極である対電極5と可変電極2に蓄えた電荷のうち、可変電極2を対電極5から引き離すことにより可変容量コンデンサ1の静電容量を小さくさせることにより、チャージポンプとして昇圧するものであるが、ブラシなどの摺動部を有せず、MEMS技術でも簡単に製作できる単純な構成の2つのスイッチS3、スイッチS4と可変電極2としてのカンチレバ11や可動櫛歯状電極などを用いることにより小型かつ安価に製造できるものである。そして、本発明により、S/Nの高いセンサとして、高感度の熱型赤外線センサやフローセンサなどに応用できるものである。従って、微小温度差を高精度で、しかも高感度に計測する必要がある赤外線放射温度計、特に耳式体温計の温度差センサとしても有望であり、また、微流量の液体や気体のフローセンサ、水素などの可燃性ガスセンサにおける微小発熱量の計測による水素などのガス検出、熱伝導型ガスセンサ、ピラニ真空計、熱型湿度センサや気圧センサなどの圧力センサなどの温度差計測に最適である。さらに、風力や水流などを利用してピストン運動などを利用して可変容量コンデンサ1の可変電極2を駆動したり、太陽熱や廃熱などの微小温度差によるバイメタルによるカンチレバ11の反りを利用して可変電極2を駆動したりして、太陽熱や廃熱などによる微小温度差に基づく熱電対からの熱起電力や化学反応に基づく微小起電力を含む各種の微小起電力を昇圧させて、電源として利用するのに好適である。このような直流電源として利用する場合は、電圧の安定度を得るために、昇圧された出力端子Aに入力インピーダンスを大きくしたインピーダンス変換用のバッファ回路を介して、場合によっては、バッファ回路を介さずに、外部出力端子間(A−B間、またはA‘−B’
間)に出力コンデンサ25を取り付けておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0069】
1 可変容量コンデンサ
2 可動電極
3 スイッチS
4 スイッチS
5 対電極
7 共通電極
8 駆動手段
10 被昇圧電源
11 カンチレバ
13 スイッチSの固定電極
14 スイッチSの固定電極
15 赤外線受光部
16 熱電対
17a, 17b 熱電対導体
18 コンタクトホール
19 絶縁膜
20 ストッパ
21 誘電体層
22 配線
23 空洞
25 出力コンデンサ
26 OPアンプ
27 ダイオード
31,32,33,34,35,36 電極
40,41 同通電極
50,51 スペーサ
60,61,62,63 支持固定部
70,71 スプリング
80 駆動用可動電極
81 駆動用固定電極
82 可動電極支持体
85 駆動用電源
86 駆動用スイッチ
100 基板
108 駆動接続部
110 サーモパイル
120 高温体
130 低温体
150 熱作動機構
160 連結機構
200 バッファ回路
400 昇圧装置の基本部
500 昇圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量コンデンサを用いた昇圧装置において、対を成す電極の少なくとも一方を往復振動可能な可動電極とした可変容量コンデンサと、機械的なスイッチSとスイッチSと、前記可動電極の駆動手段とを備え、該可変容量コンデンサの可動電極、もしくは、この可動電極に同通した電極をスイッチSとスイッチSの共通電極としたこと、前記可動電極がその対電極に接近して可変容量コンデンサの所定の容量値C1が大きい状態の時、スイッチSは開状態で、スイッチSが閉状態となるようにして、スイッチSを通して被昇圧電源からの電流で可変容量コンデンサを充電させるようにしたこと、前記可変容量コンデンサの可動電極を、その可変容量コンデンサの容量値が小さくなるように移動させた時にスイッチSを開状態になるようにしたこと、前記可変容量コンデンサの可動電極が移動して、所定の移動距離もしくは所定の小さな容量値C2になった時にスイッチSが閉状態になるようにして、帯電した可変容量コンデンサの容量値が小さくなることに基づく昇圧された電圧がスイッチSを通して外部に取り出すことができるようにしたこと、を特徴とする昇圧装置。
【請求項2】
前記可動電極と、スイッチSとスイッチSの共通電極とを、カンチレバ、両端支持梁もしくは可動櫛歯状電極に設けた請求項1記載の昇圧装置。
【請求項3】
前記駆動手段として、熱源からの熱を用いた熱膨張の利用、熱による形状記憶合金の変形力の利用、磁気的吸引力もしくは反発力の利用、静電引力の利用、圧電効果の利用、機械的駆動手段のいずれかの手段を用いた請求項1もしくは2のいずれかに記載の昇圧装置。
【請求項4】
前記可変容量コンデンサの可動電極の移動距離もしくは容量値を所定の大きさに指定するストッパを設けた請求項1から3のいずれかに記載の昇圧装置。
【請求項5】
昇圧された電圧を、スイッチSを通して外部に出力させる時に、昇圧された電圧が小さくなり難いように、入力インピーダンスを大きくしたバッファ回路を通して外部に取り出すようにした請求項1から4のいずれかに記載の昇圧装置。
【請求項6】
スイッチSを通して、昇圧された電圧からの電流で充電する出力コンデンサC0を設けた請求項1から5のいずれかに記載の昇圧装置。
【請求項7】
前記可変容量コンデンサの可動電極の移動が往復繰り返すことにより、該可変容量コンデンサの容量値が大小繰り返すようにした請求項1から6のいずれかに記載の昇圧装置。
【請求項8】
被昇圧電源と前記可変容量コンデンサとを一体化させた請求項1から7のいずれかに記載の昇圧装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−135766(P2011−135766A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248102(P2010−248102)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(709002004)学校法人東北学院 (10)