説明

昇華染料インクによるダイレクトプリントの発色機

【課題】
第1に、生地の出力裏面側に接触する接触面を有する乾式の発熱体として、生地の裏面より一気に熱をかけ、低温による蒸発や気化を防ぎ、染料分子を一気に気化させ、良好な発色を得ることのできる発色機とする。
第2に、発熱体近傍に排煙除去装置を設置し、発生したガスに含まれる残留物を除去し、新たな汚れを残さず、不良品の発生の少ない発色機とすると共に、環境に優しいものとする。

【解決手段】
本発明は、昇華染料インクにより生地にダイレクトプリントする方法において、生地に対するインクジェット出力の後の発色工程で使用する発色機であって、生地の出力裏面側に直接接触する接触面を有する乾式の発熱体と、該発熱体に対して生地を送り出す送り出し装置と、発熱体から生地を巻き取る巻き取り装置と、発熱体近傍に設置される排煙除去装置とを有する発色機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華染料インクにより生地に対してダイレクトプリントする方法において、生地に対するインクジェット出力の後の発色工程で使用する発色機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昇華染料インクを用いて生地にプリントする手段として、転写プリント方式とダイレクトプリント方式がある。転写プリント方式は、転写紙に1度印刷し、生地に転写紙を当ててローラープレスで生地に色を転写する方式なので、紙に色が必ず残るものであった。そのため生地の色が出力時よりも淡色になる。特に、生地の裏面への色のぬけが悪くなるといった問題点があった。他方、ダイレクトプリント方式は、生地に直接出力するので、裏ぬけがすぐれており、発色もより濃色が可能なものであった。
【0003】
このダイレクトプリント方式は、前処理加工、インクジェット出力、発色、後処理というプロセスを必要としていた。従来の発色工程は、通常特許文献1に紹介されるような湿熱方式(スチーム)のものであった。湿熱方式は、蒸気の発生のための設備が大がかりなものになる他、蒸発したガスやガスが溶解した液体の除去が必要となる等の問題点があり、コンパクトな発色機の開発が求められていた。
【0004】
そこで、特許出願人は、湿熱方式を有する発色機から着想を得て、図7(イ)及び(ロ)に示す非接触型(出力された生地を直接発熱体に接触させず発熱体の間を通す型)の乾式の発熱体を利用した発色機を提案した。図7(イ)に示す非接触型乾式発色機31は、生地9をテーブル32に添って移動させ、テーブル32上方に設置した発熱体33により生地9の上方から加熱し発色させようとするものであった。他方、図7(ロ)に示す非接触型乾式発色機34は、走行する生地9の上下に発熱体35、36を設け、上下より加熱し発色させようとするものであった。
【0005】
しかし、この非接触型の発色機は、生地9に対して間接的に加熱するものであるため、熱が上がりにくい。そのため、一気に熱がかからず生地9に出力された昇華染料インクの水溶性の成分や、ダイレクトプリント用に施された前処理剤などが、必要温度より低温の加熱により、蒸発及び気化などし、発色機の中に残留物として残る。その残留物が生地に汚れとして付着し、その付着が新たな発色を起こし、不良品の生じる原因となっていた。
【0006】
更に、特に生地9の導入部分にかかる熱は低く、昇華染料インクに含まれる染料の発色に要する温度に到達するまでに時間がかかり、ひいてはそれが発色の鮮明さを失う原因となっていた。又、発色機を使用すればするほど残留物が、発熱体にも付着し、著しく熱効率を悪化させ、ひいては熱低下における発色不良による不良品の生ずる原因ともなっていた。又、蒸発及び気化したガスは、有害物質も含むため新たな環境問題ともなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−310986号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は第1に、生地の出力裏面側に接触する接触面を有する乾式の発熱体とすることにより、生地の裏面より一気に熱をかけ、低温による蒸発や気化を防ぎ、染料分子を一気に気化させ、良好な発色を得ることのできる発色機を提供しようとするものである。
第2に、発熱体近傍に排煙除去装置を設置することにより、発生したガスに含まれる残留物を除去し、新たな汚れとして残さず、不良品の発生の少ない発色機とすると共に、環境に優しい発色機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1の発明は、昇華染料インクにより生地にダイレクトプリントする方法において、生地に対するインクジェット出力の後の発色工程で使用する発色機であって、生地の出力裏面側に直接接触する接触面を有する乾式の発熱体と、該発熱体に対して生地を送り出す送り出し装置と、発熱体から生地を巻き取る巻き取り装置と、発熱体近傍に設置される排煙除去装置とを有することを特徴とする発色機を提供する。
【0010】
第2の発明は、上記排煙除去装置が、上記乾式の発熱体の上方に位置する集煙装置と、該集煙装置と連結された所望の除煙フィルターを有する除煙装置と、除煙装置と連結された排煙ダクトとを有し、発熱体上方の蒸発及び気化したガスを集煙装置にて吸引集煙し、除煙装置の除煙フィルターにより残留物を除去し、排煙ダクトより排出するという手段を第1の発明に付加した発色機である。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明に、上記発熱体が、回転する円筒型発熱体であって、生地の移動速度と同じ周速度で回転し、生地と円筒型発熱体の周面が一体的に移動するという手段を付加した発色機である。
【0012】
第4の発明は、第1又は第2の発明に、上記発熱体の接触面が、固定された湾曲面又は固定された平板面であり、生地が該接触面に接触しながら滑り移動するという手段を付加した発色機である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、生地の出力裏面側に接触する接触面を有する乾式の発熱体を用いるため、生地の裏面より一気に熱がかかり、昇華染料インクに適度の高温を付与することができるものとなった。このため必要温度より低い温度による蒸発や気化が防げると共に、染料分子が一気に気化するため良好な発色が得られる発色機となった。
【0014】
尚、乾式の発熱体に生地が直接接触するものであるので、装置全体をコンパクトにすることが可能となった。更に、第3の発明のように、生地の移動速度と円筒型発熱体の回転周速度とを同じくすることにより、適度の高温の付与を均一に行うことができるものとなった。
【0015】
更に、発熱体近傍に排煙除去装置を設置することにより、発生したガスに含まれる残留物が除去され、発色機内部に新たな汚れとして残らず、その結果、不良品の発生の少ない発色機となると共に、環境に優しい発色機となった。尚、排煙除去装置を第2の発明のようにすることにより、有害物質を含有するガスより有害物質を除去した後の排ガスのみを排出することができるので空気の汚染をも防止できるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例に係る発色機の正面説明図
【図2】同右側面説明図
【図3】本実施例に係る発熱ロールと生地との関係を示す説明図
【図4】湾曲発熱体と生地との関係を示す説明図
【図5】平板発熱体と生地との関係を示す説明図
【図6】本実施例に係る発熱ロールと排煙除去装置との関係を示す説明図
【図7】非接触型乾式発色機の原理を示す説明図で、(イ)は生地上方に1個の発熱体を設置した例であり、(ロ)は生地の上下両面側に発熱体を設置した例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例と共に本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の実施例である発色機1の正面説明図であり、図2は同右側面説明図である。尚、図2中左側が正面であり右側が背面となる。発色機1は、昇華染料インクにより生地9にダイレクトプリントする方法において、生地9に対するインクジェット出力の後の発色工程で使用するものである。
【0018】
ここにおいて、昇華染料インクの主成分である昇華染料とは、分散染料の内不安定なものをいい、水を使わなくても熱をかけると拡散する(昇華していく)ものである。昇華染料であるため、必要温度で一気に加熱する必要があり、必要温度以下の低温状態であると発色が良くない。尚、実施例での生地9は布地である。
【0019】
発色機1は、図2及び図6に示すように、生地送り出し装置2と、生地巻き取り装置3と、発熱ロール4と、集煙装置5と、除煙フィルター装置6と、排煙ダクト7とを有する。生地巻き取り装置3と発熱ロール4と集煙装置5と除煙フィルター装置6とは、ボックス8内に配置され、生地送り出し装置2及び排煙ダクト7はボックス8外部に設置されている。尚、図6は各部の位置関係を示す。
【0020】
発熱ロール4は、内部に熱源(図示されていない)を有する乾式のもので、回転自在に設置された円筒型のものである。発熱ロール4の回転は、後述する生地巻き取り装置3により引かれた生地9の力で回転する。発熱ロール4は、図6においては手前側に図3においては時計回りに回転している。尚、図2は右側より観察するため時計回りと逆方向に回転している。熱源は、発熱ロール4の周面に均一に熱がかかるものなら良いが、実施例では、電気による熱源を用いている。
【0021】
尚、実施例では最適効果を発揮させるため、回転する発熱ロール4を用いているが、本発明では回転する必要はなく、生地9の出力裏面側10(インクジェット出力により出力された面の裏側)に直接接触する接触面を有する乾式の発熱体であれば良い。
【0022】
例えば、図4に示すように、接触面が一定の面積を有する固定された乾式の湾曲発熱体11であったり、図5に示すように、接触面が一定の面積を有する固定された乾式の平板発熱体12であっても良い。
【0023】
生地巻き取り装置3は、図1中符号M1に示されるモータにより回転する巻き取りローラー16で構成され、ボックス8内の発熱ロール4の手前側に設置されている。他方、生地送り出し装置2は、生地9がインク出力面を内側にして巻かれる送り出しローラー17で構成され、図2に示すように、取付板15によりボックス8の背面側外部に回転自在に装着されている。生地送り出し装置2より送り出された生地9は、ガイドローラー13にガイドされ、生地9の出力裏面側10が発熱ロール4の周面と直接接触するよう送り出される。
【0024】
発熱ロール4により加熱された生地9は、ガイドローラー14に案内されて生地巻き取り装置3に巻き取られる。発熱ロール4による加熱の際には、生地9の移動速度と発熱ロール4の周速度が同じとなる。従って、生地9は、発熱ロール4の周面を滑ることなく、図2によれば、時計方向と逆方向に回転する発熱ロール4の周面と一体となって、図中右方から左方へと移動する。
【0025】
発熱ロール4からの加熱温度は、摂氏180度から210度であって、時間的には、摂氏190度であれば、発熱ロール4と生地9の接触時間は約60秒が好ましい。この時間に適合するよう巻き取りローラー16のモータM1をコントロールする。尚、発熱ロール4の温度を上げると生地9と発熱ロール4との接触時間は短くなる。
【0026】
発熱ロール4と生地9とは、生地9が発熱ロール4の周面に接触する。即ち、図3に示すように、ガイドローラー13で案内された生地9は、出力裏面側10を発熱ロール4の周面に接触させた後、生地9の移動速度と発熱ロール4の周速度を同一として移動するため、生地9は発熱ロール4に接触した状態のまま一体として移動する。尚、図4及び図5に示す固定された湾曲発熱体11や平板発熱体12を用いる場合には、生地9の裏面側が湾曲発熱体11や平板発熱体12の上面を滑りながら移動する。
【0027】
実施例では、生地巻き取り装置3にのみ巻き取りローラー16を駆動させるモータM1があり、生地送り出し装置2の送り出しローラー17及び発熱ロール4は従動ローラーである。即ち、巻き取りローラー16の駆動により、生地9が巻き取り力により引かれ、その力により送り出しローラー17及び発熱ロール4が回転するのである。
【0028】
集煙装置5と除煙フィルター装置6と排煙ダクト7とが本発明における排煙除去装置となる。集煙装置5と除煙フィルター装置6と排煙ダクト7とは順に連結されており、図示されていない別設の吸引装置により集煙、除煙、排煙されていく。
【0029】
詳しくは、集煙装置5がボックス8内の発熱ロール4の上方に配置され、発熱ロール4により熱せられた生地9から蒸発及び気化したガスを吸引、集煙する。集煙装置5から、ボックス8内下部に配置された除煙フィルター装置6に送られてきたガスに含有する有害物質は、除煙フィルター装置6内に設けられた何層かのフィルターにより除去される。尚、該フィルターは交換可能となっている。熱がかかった染料を含むガスは、染料が移染するので排煙しなければならない。しかし、該ガス中には有害物質が含まれているので排煙前に有害物質を除去する必要がある。
【0030】
除煙フィルター装置6により有害物質を除去された排ガスは、排煙ダクト7より排出される。
【符号の説明】
【0031】
1・・・・・・・・・発色機
2・・・・・・・・・生地送り出し装置
3・・・・・・・・・生地巻き取り装置
4・・・・・・・・・発熱ロール
5・・・・・・・・・集煙装置
6・・・・・・・・・除煙フィルター装置
7・・・・・・・・・排煙ダクト
8・・・・・・・・・ボックス
9・・・・・・・・・生地
10・・・・・・・・出力裏面側
11・・・・・・・・湾曲発熱体
12・・・・・・・・平板発熱体
13、14・・・・・ガイドローラー
15・・・・・・・・取付板
16・・・・・・・・巻き取りローラー
17・・・・・・・・送り出しローラー
31、34・・・・・発色機
32・・・・・・・・テーブル
33、35、36・・発熱体
M1・・・・・・・・モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華染料インクにより生地にダイレクトプリントする方法において、生地に対するインクジェット出力の後の発色工程で使用する発色機であって、生地の出力裏面側に直接接触する接触面を有する乾式の発熱体と、該発熱体に対して生地を送り出す送り出し装置と、発熱体から生地を巻き取る巻き取り装置と、発熱体近傍に設置される排煙除去装置とを有することを特徴とする発色機。
【請求項2】
上記排煙除去装置が、上記乾式の発熱体の上方に位置する集煙装置と、該集煙装置と連結された所望の除煙フィルターを有する除煙装置と、除煙装置と連結された排煙ダクトとを有し、発熱体上方の蒸発及び気化したガスを集煙装置にて吸引集煙し、除煙装置の除煙フィルターにより残留物を除去し、排煙ダクトより排出することを特徴とする請求項1に記載の発色機。
【請求項3】
上記発熱体が、回転する円筒型発熱体であって、生地の移動速度と同じ周速度で回転し、生地と円筒型発熱体の周面が一体的に移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の発色機。
【請求項4】
上記発熱体の接触面が、固定された湾曲面又は固定された平板面であり、生地が該接触面に接触しながら滑り移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の発色機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58130(P2011−58130A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210108(P2009−210108)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(308037579)
【出願人】(308037580)
【出願人】(509029221)
【Fターム(参考)】