説明

昇降式スラスタ装置

【課題】スラスタを沖合い稼動地点においても点検、補修が可能なように喫水面よりも上方まで引き上げることができるコンパクトな昇降装置を備えた昇降式スラスタ装置を提供する。
【解決手段】キャニスタ21の外面に設けた、上下方向に一定ピッチの歯部32を有する所要長さの一対のラック31と、各ラック31に沿って設けたガイド部材と、キャニスタ21を昇降路2内で昇降させる一対の昇降装置30とを備え、一対の昇降装置30は、ラック31の上下に離れた位置の歯部32に各々独立して嵌脱させる上下一対のキャッチと、各キャッチを具備した上下一対のフレームと、フレームの間に設けられた昇降シリンダ33とを有し、昇降シリンダ33は、昇降路側に固定した一方のフレームに対し、他方のフレームを前記ガイド部材をガイドとして昇降させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削船や浮体式生産設備等を定点保持するために使用されるスラスタを内蔵する昇降式スラスタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陸地から離れた沖合の海域で海底石油、ガス田開発が行なわれているが、近年、このような海底石油、ガス田開発は大水深化の傾向にある。そして、大水深海域での開発に使用される掘削船や浮体式生産設備等(以下、総称する場合は「掘削船等」という)の場合、数千メートルの海底を掘削するため、海底に固定することなく海上で定点保持ができるようになっている。このような掘削船等を海上で定点保持するシステムとして、複数台のスラスタを装備させて姿勢制御ができるようにしたものが増えてきている。この複数台のスラスタを備えた掘削船等は、荒天下でも、例えば、GPS信号を利用して定点保持ができるように、各スラスタの推力等が制御されるようになっている。例えば、掘削船の場合には4台から6台程度のスラスタを設けて、定点保持ができるようになっている。
【0003】
しかしながら、上記スラスタは、経年使用による故障や、偶発的なメンテナンスを必要とする場合がある。しかし、掘削船等の稼動時は、例えば、掘削ドリルによって海底を掘削している状態を保たなければならず、その定点を離れることができない。そのため、スラスタを点検、補修する必要が生じた場合には、潜水夫によるスラスタの水中取り外し作業等が必要となり、困難さを伴っている。しかも、荒天期にはスラスタの取り外し作業も行えないため、補修作業時期も制約される。
【0004】
また、掘削船等を陸地のドックまで移動してスラスタの点検、補修作業を行なうことも考えられるが、この場合、多大な時間と費用が必要となる。
【0005】
そこで、近年、上記スラスタを沖合いの稼動地点においても点検、補修することが可能となるように、スラスタを喫水面よりも上方へ引き上げることができる装置が提案されている。
【0006】
例えば、この種の先行技術として、スラスタをラック&ピニオン駆動方式あるいは油圧シリンダ駆動方式によって昇降させるようにした船舶がある。ラック&ピニオン駆動方式としては、スラスタ側にピニオンを設け、船体側のラックを上方へ伸長させることができるようにし、そのラックに沿ってピニオンでスラスタを喫水面よりも上方まで引き上げるようにしている。また、油圧シリンダ駆動方式としては、昇降シリンダをデッキ下に吊り下げ、この昇降シリンダによって昇降体を昇降させるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、他の先行技術として、スラスタを油圧シリンダ駆動方式あるいはラック&ピニオン駆動方式によって昇降させるようにしたものがある。この先行技術には、油圧シリンダ駆動方式としては、一工程押し上げ方式と一工程押し上げテレスコープ式とが記載され、ラック&ピニオン駆動方式としては、船体側に設けたピニオンでスラスタ側のラックを一工程で昇降させるものと、昇降途中で別のピニオンによって昇降させるようにしたものとが記載されている。そして、これらによって、スラスタを船底よりも下方の位置と甲板よりも上方の位置との間で昇降させるようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4526184号公報
【特許文献2】特開2001−55197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の場合、ラック&ピニオン駆動方式でスラスタを昇降させるためには大荷重を昇降させることができる非常に大きな駆動装置が必要となる。また、この駆動装置をコンパクトにするためには、ラック、ピニオンともに高強度な材質を使用する必要があり、しかも減速歯車機構は機械加工仕上げ品となるため、昇降装置が非常に高価なものとなる。
【0010】
なお、特許文献2に記載されたラック&ピニオン駆動方式の場合も、上記特許文献1と同様に昇降装置が非常に高価なものとなる。
【0011】
また、上記特許文献2の場合、一工程押し上げ油圧シリンダ方式では、必要押し上げ長さを油圧シリンダの一工程で押し上げるので、油圧シリンダの必要ストロークは長大となり、しかも、喫水面から上方ではスラスタの大重量を昇降させるので、十分な座屈強度を有するようにするためには非常に大掛かりな装置になり、非常に高価なものとなる。さらに、一工程押し上げテレスコープ式油圧シリンダ方式の場合、テレスコープ式のロッドを順次伸縮させてスラスタを必要昇降長さ分で昇降させるため、シリンダの構成が複雑となり、しかも、上記油圧シリンダと同様に、座屈強度対策のために非常に大掛かりな装置になり、非常に高価なものとなる。
【0012】
また、特許文献1の油圧シリンダ方式の場合、スラスタの昇降体を取り巻く環を介して昇降させているため、スラスタが大型化して昇降体断面も大型化したときに昇降体を取り巻く環も大型化することとなり、昇降装置の大型化への対応に難点がある。
【0013】
そこで、本発明は、スラスタを沖合い稼動地点においても点検、補修が可能なように喫水面よりも上方まで引き上げることができるコンパクトな昇降装置を備えた昇降式スラスタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、底部から下方に突出するように設けたスラスタと、前記スラスタを駆動する駆動装置を内蔵して船体に設けた昇降路内を昇降するキャニスタとを備えた昇降式スラスタ装置であって、前記キャニスタの外面の水平方向対向位置に設けた、一定ピッチの歯部を上下方向に有する所要長さの少なくとも一対のラックと、前記各ラックに沿って上下方向に設けたガイド部材と、前記一対のラックに沿って前記キャニスタを前記昇降路内でスラスタの稼動位置と喫水面よりも上方位置との間で昇降させる一対の昇降装置とを備え、前記一対の昇降装置は、前記ラックの上下に離れた位置の歯部に各々独立して嵌脱させる上下一対のキャッチと、前記各キャッチを具備した上下一対のフレームと、前記上下一対のフレームの間に設けられた昇降シリンダとを有し、前記昇降シリンダは、前記昇降路側に固定した一方のフレームに対し、他方のフレームを前記ガイド部材をガイドとして昇降させるように構成されていることを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「船体」は、掘削船や浮体式生産設備等を含む昇降式スラスタ装置を備えさせる対象物をいう。また、「キャニスタ」は、スラスタを下方に突設し、前記スラスタを駆動する駆動装置を内蔵した筒型容器をいう。
【0015】
この構成により、キャニスタに設けられたラックの歯部に一方のキャッチを嵌合させて昇降シリンダで上昇させた後、他方のキャッチをラックの歯部に嵌合して昇降式スラスタ装置の荷重を支持し、一方のキャッチを歯部から離脱させて昇降シリンダで下降させて下方の歯部に嵌合した後、他方のキャッチを歯部から離脱し、一方のキャッチを昇降シリンダで上昇させる、いわゆる尺取虫動作を繰り返すことで、短ストロークの昇降シリンダを備えたコンパクトな昇降装置で安定して上昇させることができる。また、逆の動作によって、安定して下降させることができる。従って、コンパクトな昇降装置でもって、昇降式スラスタ装置を稼動位置と喫水面よりも上方位置との間で昇降させることができる。しかも、昇降装置はスラスタを大型化することによるキャニスタ断面の大型化に対しても、前記一対のラックに対し昇降装置は各ラック毎に独立して設けてあるため、昇降装置のフレームを大型化することなく容易に対応することができる。
【0016】
また、前記上下一対のフレームは、下方に位置するフレームを前記昇降路に固定するように取り付けられていてもよい。このように構成すれば、上下一対のフレーム間に設けられた昇降シリンダの面積の大きいボア側にて昇降式スラスタ装置の自重を支持して昇降させることができ、昇降シリンダを最適設計で使用することができる。
【0017】
また、前記昇降路は、喫水面よりも上方位置に保守点検床を備え、前記キャニスタは、前記保守点検床位置まで前記スラスタを上昇させる所要長さのラックを備え、前記昇降装置は、前記スラスタを稼動時位置から保守点検床位置まで昇降可能なように昇降路の所要高さ位置に配置されていてもよい。このように構成すれば、スラスタを稼動位置からメンテナンス可能な保守点検床位置まで昇降させることができ、保守点検床でキャニスタからスラスタを取り外して保守点検作業を行うことができる。
【0018】
また、前記上下一対のフレームは、前記キャッチを上下位置で各々独立して前記ラックに嵌脱させる駆動シリンダと、前記駆動シリンダの伸縮動作によって前記キャッチをラックの歯部に嵌合又は離脱させる案内部とを有していてもよい。このように構成すれば、昇降シリンダの上下位置に設けられたフレームから、ラックの歯部にキャッチを嵌合又は離脱させることがコンパクトな構成で安定して行える。
【0019】
また、前記昇降シリンダは、前記スラスタの稼動時に、前記上下一対のキャッチをラックの歯部に嵌合させ、該キャッチに上下逆方向の力を作用させてキャニスタに作用する上下方向の荷重を保持するように構成されていてもよい。このように構成すれば、キャニスタに作用する荷重保持方法として、一対のキャッチに作用させた逆方向の力によって、キャニスタに作用する上下方向静荷重は昇降路に固定して取り付けられているフレームに具備されているキャッチで保持し、波浪等で静荷重と反対方向に作用する動荷重は昇降するフレームに具備されているキャッチで保持することができる。
【0020】
また、前記昇降路は、上下方向に離れた複数箇所に設けた前記昇降装置の固定部と、前記固定部を変更するときに昇降式スラスタ装置の荷重を一時的に保持する荷重保持装置とを有し、前記昇降装置は、前記昇降路の固定部に着脱可能な固定手段を有していてもよい。このように構成すれば、昇降式スラスタ装置の昇降時に、昇降路の途中で荷重保持装置で一時的に昇降式スラスタ装置の荷重を保持して昇降装置の固定部位置を変更することで、ラックの長さを抑えて昇降式スラスタ装置の昇降距離を確保することができる。
【0021】
また、前記昇降路は、前記キャニスタに作用する水平方向の荷重を支持する支持ガイドと、前記支持ガイドの位置で、前記キャニスタと昇降路との間隔を全周で小さくする囲み板とを有していてもよい。このように構成すれば、昇降路とキャニスタとの間の水面の波浪による水面変動を抑制することができる。
【0022】
また、前記支持ガイドと前記キャニスタとの間に、該キャニスタを水平方向に支持するジャッキを具備させてもよい。このように構成すれば、スラスタの稼働時におけるキャニスタと昇降路との隙間によるガタツキを容易に無くすことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スラスタを沖合い稼動地点において喫水面よりも上方まで引き上げて点検、補修が可能なように昇降させることができるコンパクトな昇降装置を備えた昇降式スラスタ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る昇降式スラスタ装置を示す側面図である。
【図2】図1に示す昇降式スラスタ装置の正面図である。
【図3】図1に示すIII−III矢視拡大断面図である。
【図4】図1に示すIV−IV矢視拡大断面図である。
【図5】図1に示すV−V矢視拡大断面図である。
【図6】図5に示すVI部拡大図である。
【図7】図1に示すVII−VII矢視拡大断面図である。
【図8】図2に示す昇降装置部分の拡大図である。
【図9】図8に示すIX−IX矢視断面図である。
【図10】図9に示すX−X矢視断面図である。
【図11】図9に示すXI−XI矢視断面図である。
【図12】(a) 〜(i) に、キャッチに下向きの正荷重が作用している状態での上昇動作を示している。
【図13】(a) 〜(i) に、キャッチに下向きの正荷重が作用している状態での下降動作を示している。
【図14】(a) 〜(i) に、キャッチに上向きの負荷重が作用している状態での上昇動作を示している。
【図15】(a) 〜(i) に、キャッチに上向きの負荷重が作用している状態での下降動作を示している。
【図16】(a),(b) は、第1実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図17】(a),(b) は、図16に続く第1実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図18】(a),(b) は、第2実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図19】(a),(b) は、図18に続く第2実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図20】(a),(b) は、図19に続く第2実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図21】(a),(b) は、図20に続く第2実施形態に係る昇降式スラスタ装置の上昇動作を示す側面図である。
【図22】本発明の昇降式スラスタ装置における波浪対策の第1例に係るラックとキャッチの関係を示す正面図である。
【図23】本発明の昇降式スラスタ装置における波浪対策の第2例に係るラックとキャッチの関係を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、船舶に設けられた昇降式スラスタ装置を例に説明する。
【0026】
図1、2に示すように、昇降式スラスタ装置20は、船体1に設けられた昇降路2を昇降するキャニスタ21と、このキャニスタ21の下部から下方へ突出するスラスタ22とを備えている。上記キャニスタ21及び昇降路2は、平面視が矩形状断面に形成されている(図4,5)。これらキャニスタ21と昇降路2との間には、所定の間隔S1,S2が設けられている。この間隙S1,S2は、後述するラック31が設けられた方が広いS2となっている。
【0027】
上記キャニスタ21の内部には、上記スラスタ22を旋回させる旋回用駆動ユニット23と、プロペラ24を回転させる駆動モータ25、上記旋回用駆動ユニット23に駆動油を供給する旋回ポンプユニット26、及び各部を潤滑する潤滑油ポンプユニット27等が設けられている。
【0028】
また、上記キャニスタ21の対向する2面の外面には、一対のラック31が設けられている。このラック31は、上下方向に一定ピッチの歯部32が形成され、キャニスタ21の上下方向に連続して設けられている。図では、中間部分の歯部32の図示を省略している。このラック31は、キャニスタ21から外方向に突出した部分の対向するラック31が、補強部材31bによって連結されている。
【0029】
さらに、このようなキャニスタ21が昇降する上記昇降路2には、スラスタ22の稼動時にキャニスタ21に作用する水平方向の荷重を支持する支持ガイド3と、キャニスタ21の水平方向荷重支持と昇降時にガイドする支持兼昇降ガイド4と、キャニスタ21の昇降時のガイドとなる昇降ガイド5とが設けられている。この例では、最下部に支持ガイド3が設けられ、その上部の上下2個所に支持兼昇降ガイド4が設けられている。また、昇降路2の上部には、スラスタ22の稼働時にはキャニスタ21の上方に位置し、昇降式スラスタ装置20が昇降する時にガイドとなる昇降ガイド5が設けられている。
【0030】
そして、上記キャニスタ21と船体1の昇降路2との間には、キャニスタ21を昇降路2に沿って昇降させることによりスラスタ22を昇降させる一対の昇降装置30が設けられている。
【0031】
この昇降装置30は、上記ラック31の位置に備えられ、ラック31を介してキャニスタ21を昇降させる昇降シリンダ33がそれぞれ設けられている。この昇降シリンダ33は、下部が昇降路2側に支持され、上部がキャニスタ21側に支持されている。この昇降シリンダ33の支持、及び昇降装置30によるキャニスタ21の昇降は、後述する。
【0032】
図3に示すように、上記キャニスタ21の上方位置における断面としては、キャニスタ21の対向する2面の外面に設けられたラック31が外方向に突出している。ラック31は、上下方向に延びる所要長さで形成されている(図1)。このラック31を介して、昇降式スラスタ装置20の荷重を昇降装置30で船体1に支持している。この例では、キャニスタ21の対向する2面にラック31を設けた例を示しているが、対角位置にラック31を設けるようにしてもよい。
【0033】
図4に示すように、上記キャニスタ21の上方の昇降装置30の下部位置における断面としては、昇降路2の4隅に設けられた昇降ガイド5によってキャニスタ21がガイドされるようになっている。また、この実施形態では、この位置に、昇降装置30の荷重支持構造体(固定部)9が設けられている。
【0034】
図5に示すように、上記キャニスタ21の支持兼昇降ガイド4の位置における断面としては、昇降路2の4隅に設けられた支持兼昇降ガイド4によってキャニスタ21が支持されている。図6に示すように、支持兼昇降ガイド4は、キャニスタ21に作用する水平方向荷重を支持する支持ガイド部4aと、昇降時にガイドする昇降ガイド部4bとを備えている。昇降ガイド部4bは、上記昇降ガイド5の延長線上に位置するように隅部に設けられ、支持ガイド部4aは、その内側に設けられている。この支持ガイド部4aが当接する位置のキャニスタ21には、パッド6(図1,2)が設けられている。支持ガイド部4aとパッド6との隙間は狭く、昇降ガイド部4bとキャニスタ21との隙間は少し広く設置されている。なお、パッド6と支持ガイド部4aとの間の隙間Tは、キャニスタ21の昇降を許容するが、水平方向の移動は極力抑える小さな隙間T(例えば、数mm程度:図では誇張して示す)に設定される。
【0035】
図7に示すように、上記キャニスタ21の最下部位置における断面としては、昇降路2の4隅に設けられた支持ガイド3によってキャニスタ21が水平方向に支持されている。支持ガイド3は、上記支持兼昇降ガイド4に設けられた支持ガイド部4aの下方延長線上に位置するように設けられている。
【0036】
また、この実施形態では、図7に示すように、支持ガイド3の上部に、キャニスタ21の周囲との間隔S1,S2を小さな間隔S3とする囲み板7が設けられている。この囲み板7は、キャニスタ21の周囲の空間が所定の小さな間隔S3となるように設けられており、後述するように、間隔S3の絞り効果によって、昇降路2とキャニスタ21との間の水面の波浪による水面変動を抑制している。この囲み板7は、この例では、最下部の支持ガイド3と下側1箇所の支持兼昇降ガイド4(図1,2)とに設けられている。
【0037】
なお、上記支持ガイド3及び支持兼昇降ガイド4の支持ガイド部4aとキャニスタ21の外面との間には、上記隙間Tがある(図6)。そのため、スラスタ22の稼働時には、キャニスタ21は隙間T分だけ動くこととなる。そこで、このキャニスタ21の動きを防止するために、稼動時のキャニスタ21の下部の支持ガイド3のレベル近辺にジャッキ8を設けてもよい(図1)。このジャッキ8としては、例えば、上方の支持兼昇降ガイド4の位置にも設け(図示せず)、各面に2箇所、合計8箇所に設ければ、安定した保持ができる。
【0038】
次に、図8に示すように、上記昇降装置30は、昇降シリンダ33の下部を昇降路2側で支持する下部フレーム34(以下、この下部フレーム34を、ホールディングキャッチフレーム「HCフレーム34」という)と、昇降シリンダ33の上部に設けられて昇降する上部フレーム35(以下、この上部フレーム35を、ワーキングキャッチフレーム「WCフレーム35」という)とを有している。このWCフレーム35は、キャニスタ21側に支持される。また、昇降シリンダ33は、HCフレーム34及びWCフレーム35とピン33aで連結されており、ピン33aを中心に屈曲可能となっている。
【0039】
上記HCフレーム34には、上記ラック31の歯部32に嵌合(隙間を有する係合を含む)するホールディングキャッチ(係止片)36(以下、「HC36」という)が内蔵(具備)され、このHC36を水平方向に移動させるホールディングキャッチ駆動シリンダ37(以下、「HCシリンダ37」という)が反ラック方向に設けられている。また、上記WCフレーム35には、ワーキングキャッチ(係止片)38(以下、「WC38」という)が内蔵(具備)され、このWC38を水平方向に移動させるワーキングキャッチ駆動シリンダ39(以下、「WCシリンダ39」という)が反ラック方向に設けられている。これらのHCシリンダ37及びWCシリンダ39は、後述するように交互に、独立して駆動制御される。
【0040】
図9に示すように、上記昇降シリンダ33は、ラック31を挟んで左右両側に設けられている。また、この昇降シリンダ33の上部に設けられたWCフレーム35及び下部に設けられたHCフレーム34も、ラック31を挟んで設けられている。これらのHCフレーム34、WCフレーム35からラック31に向けて進退させられるHC36及びWC38は、ラック31の歯部32に嵌合する部分が高く、幅方向両端部のHCフレーム34、WCフレーム35に沿って進退する部分が低い厚板で形成されている。これらのWC38及びHC36は、昇降式スラスタ装置20を昇降させるときの荷重及び稼動時に昇降式スラスタ装置20に作用する上下方向荷重を支持できる板厚で形成される。
【0041】
また、これらのHC36及びWC38は、HCフレーム34及びWCフレーム35に設けられた案内部34a,35aに沿って進退するようになっている。HC36は上記HCフレーム34に設けられたHCシリンダ37により、WC38はWCフレーム35に設けられたWCシリンダ39によってラック31に嵌脱させられる。HCフレーム34は、ラック31を挟んで船体1側の昇降路2に設けられた荷重支持構造体9に固定されている。HCフレーム34の固定は、溶接接合、あるいは取り付け、取り外しが可能なように、例えば、ピン結合取り付け、ボルト取り付け等となっている。
【0042】
図10に示すように、ラック31を挟んで設けられたHCフレーム34は、HC36を案内する案内部34aがそれぞれに設けられ、反ラック方向に設けられたHCシリンダ37によってHC36がラック31に向けて嵌脱させられる。
【0043】
また、図11に示すように、上記WCフレーム35も、上記HCフレーム34と同様にラック31を挟んで設けられているが、左右の部分が一体的に形成されている(図9)。このWCフレーム35には、ラック31のベース部31aに設けられたガイド部材40に沿って昇降可能な案内溝41が設けられている。ガイド部材40は、ラック31の両側部に設けられており、キャニスタ21の上下方向に連続するように設けられている。従って、WCフレーム35は、常に案内溝41がキャニスタ21に設けられたガイド部材40に案内されて昇降するようになっている。
【0044】
さらに、このようにWCフレーム35をラック31の両側部に設けたガイド部材40に沿って昇降可能としたことにより、WC38がラック31の歯部32から離脱した状態のWCフレーム35もキャニスタ21に沿って昇降させることができる。従って、昇降装置30は、旋回式スラスタ22の大型化によってキャニスタ21の断面が大型化しても、WCフレーム35を大型化させる必要がないので、昇降式スラスタ装置20の大型化に対して容易に対応することができる。
【0045】
次に、図12乃至図15に基づいて、上記昇降装置30による昇降式スラスタ装置20の昇降動作を説明する。この説明では、WCシリンダ39とHCシリンダ37とによるキャッチ36,38の嵌脱と、昇降シリンダ33による昇降式スラスタ装置20のキャニスタ21に設けられたラック31の昇降動作について説明する。また、図中には、キャッチ36,38の嵌脱をチェックするリミットスイッチの状態及び上下位置の切換え(チェンジオーバ)と、キャッチ36,38を昇降させる昇降シリンダ33のバルブ操作の状態等を示している。なお、昇降式スラスタ装置20の荷重を支持しているキャッチには、斜線を付している。また、ラック31の一部に横線を示して昇降動作が明確となるようにしている。
【0046】
図12に示す(a) 〜(i) 及び図13に示す(a) 〜(i) は、キャッチ36,38がラック31から下向きの正荷重を受けている状態(「昇降式スラスタ装置の自重−昇降式スラスタ装置に作用する浮力>0」の状態)での昇降動作を示している。図12に示す(a) 〜(i) は上昇動作の1サイクルを示す図であり、この図に基づいて、昇降式スラスタ装置20を上昇させる1サイクルを説明する。
【0047】
[上昇動作]
図12の(a) に示す状態は、上記昇降装置30のHCシリンダ37によってラック31の歯部32に嵌合させられたHC36によって昇降式スラスタ装置20を支持している状態であり、この状態から説明する。
【0048】
まず、昇降シリンダ33でWC38を少し上昇させ、このWC38によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、HC36をラック31の歯部32から離脱させる(b),(c) 。
【0049】
次に、昇降シリンダ33でWC38を上昇させるとともに、HC36をHCシリンダ37でラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分上昇させる。これにより、HC36がラック31の1ピッチ下位置の歯部32に嵌合する(d),(e) 。
【0050】
次に、昇降シリンダ33でWC38を少し下降させ、下方のHC36によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、WC38をラック31の歯部32から離脱させる(f),(g) 。
【0051】
次に、昇降シリンダ33でWC38を下降させるとともに、WCシリンダ39でWC38をラック31に向けて押圧しながら、WC38をラック31の1ピッチ分下降させる。これにより、WC38がラック31の1ピッチ下位置の歯部32に嵌合する(h),(i) 。
【0052】
このようにして、ラック31の1ピッチ分上昇させられた昇降式スラスタ装置20は、上記作業を繰り返すことで順次上昇させられる。
【0053】
[下降動作]
図13に示す(a) 〜(i) は、下降動作の1サイクルを示す図である。この図に基づいて、昇降式スラスタ装置20を下降させる1サイクルを説明する。
【0054】
図13(a) に示す状態は、上記昇降装置30のHCシリンダ37によってラック31の歯部32に嵌合させられたHC36によって昇降式スラスタ装置20を支持している状態であり、この状態から説明する。
【0055】
まず、昇降シリンダ33でWC38を少し上昇させ、このWC38によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、HC36をラック31の歯部32から離脱させる(b),(c) 。
【0056】
次に、昇降シリンダ33でWC38を下降させるとともに、HC36をHCシリンダ37でラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分下降させる。これにより、HC36がラック31の1ピッチ上位置の歯部32に嵌合する(d),(e) 。
【0057】
引き続いて、昇降シリンダ33を少し下降させてHC36によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、WC38をラック31の歯部32から離脱させる(f),(g) 。
【0058】
次に、昇降シリンダ33でWC38を上昇させるとともに、WCシリンダ39でWC38をラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分上昇させる。これにより、WC38がラック31の1ピッチ上位置の歯部32に嵌合する(h),(i) 。
【0059】
このようにして、ラック31の1ピッチ分下降させられた昇降式スラスタ装置20は、上記作業を繰り返すことで順次下降させられる。
【0060】
図14に示す(a) 〜(i) 及び図15に示す(a) 〜(i) は、キャッチ36,38がラック31から上向きの負荷重を受けている状態(「昇降式スラスタ装置の自重−昇降式スラスタ装置に作用する浮力<0」の状態)での昇降動作を示している。図14に示す(a) 〜(i) は上昇動作の1サイクルを示す図であり、この図に基づいて、昇降式スラスタ装置20を上昇させる1サイクルを説明する。
【0061】
[上昇動作]
図14(a) に示す状態は、上記昇降装置30のHCシリンダ37によってラック31の歯部32に嵌合させられたHC36によって昇降式スラスタ装置20を支持している状態であり、この状態から説明する。
【0062】
まず、昇降シリンダ33でWC38を少し下降させ、このWC38によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、HC36をラック31の歯部32から離脱させる(b),(c) 。
【0063】
次に、昇降シリンダ33でWC38を上昇させるとともに、HC36をHCシリンダ37でラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分上昇させる。これにより、HC36がラック31の1ピッチ下位置の歯部32に嵌合する(d),(e) 。
【0064】
次に、昇降シリンダ33でWC38を少し上昇させてHC36によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、WC38をラック31の歯部32から離脱させる(f),(g) 。
【0065】
次に、昇降シリンダ33でWC38を下降させるとともに、WCシリンダ39でWC38をラック31に向けて押圧しながら、WC38をラック31の1ピッチ分下降させる。これにより、WC38がラック31の1ピッチ下位置の歯部32に嵌合する(h),(i) 。
【0066】
このようにして、ラック31の1ピッチ分上昇させられた昇降式スラスタ装置20は、上記作業を繰り返すことで順次上昇させられる。
【0067】
[下降動作]
図15(a) 〜(i) は、下降動作の1サイクルを示す図である。この図に基づいて、昇降式スラスタ装置20を下降させる1サイクルを説明する。
【0068】
図15(a) に示す状態は、上記昇降装置30のHCシリンダ37によってラック31の歯部32に嵌合させられたHC36によって昇降式スラスタ装置20を支持している状態であり、この状態から説明する。
【0069】
まず、昇降シリンダ33でWC38を少し下降させ、このWC38によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、HC36をラック31の歯部32から離脱させる(b),(c) 。
【0070】
引き続いて、昇降シリンダ33でWC38を下降させるとともに、HC36をHCシリンダ37でラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分下降させる。これにより、HC36がラック31の1ピッチ上位置の歯部32に嵌合する(d),(e) 。
【0071】
次に、昇降シリンダ33でWC38を少し上昇させてHC36によって昇降式スラスタ装置20の荷重を支持した後、WC38をラック31の歯部32から離脱させる(f),(g) 。
【0072】
引き続いて、昇降シリンダ33でWC38を上昇させるとともに、WCシリンダ39でWC38をラック31に向けて押圧しながら、WCフレーム35をラック31の1ピッチ分上昇させる。これにより、WC38がラック31の1ピッチ上位置の歯部32に嵌合する(h),(i) 。
【0073】
このようにして、ラック31の1ピッチ分下降させられた昇降式スラスタ装置20は、上記作業を繰り返すことで順次下降させられる。
【0074】
以上のように、上記昇降装置30による昇降式スラスタ装置20の昇降動作は、いわゆる、短ピッチの尺取虫運動による昇降方式によって行なわれる。
【0075】
次に、図16(a),(b) 乃至図21(a),(b) に基づいて、上記昇降装置によって昇降させる昇降式スラスタ装置の動作を説明する。図16(a),(b) 乃至図17(a),(b) は、上述した図1,2に示す第1実施形態に係る昇降式スラスタ装置20の動作を示している。図18(a),(b) 乃至図21(a),(b) は、第2実施形態に係る昇降式スラスタ装置50の動作を示している。以下、これら2つの実施形態の動作を説明する。
【0076】
[第1実施形態の動作]
図16(a) に示す第1実施形態の昇降式スラスタ装置20は、キャニスタ21の側部に設けられたラック31が、キャニスタ21の上端から上方に突出した例である。この第1実施形態の場合、昇降装置30が昇降路2の一定位置に固定されている。この昇降装置30を設ける位置は、後述するようにスラスタ22を喫水面Wよりも上方で取外すことができる位置までキャニスタ21を上昇させることが可能な位置に設定される。
【0077】
この第1実施形態の場合、図16(a) に示すように船底10から突出させている位置(稼動位置)のスラスタ22(図では高さLとしている)を、上記昇降装置30によって上記図12(a) 〜(i) 又は図14(a) 〜(i) に示すように、WC38とHC36とを交互に嵌合/離脱させる動作を行なわせることで上昇させる。図16(b) に示す状態は、スラスタ22を船底10から格納した状態の位置(航海時位置)を示している。
【0078】
その後、上記図12(a) 〜(i) 又は図14(a) 〜(i) に示す動作を繰り返すことにより、図17(a) に示すように、スラスタ22を昇降路2の喫水面Wよりも上方の所定位置に設けた保守点検床11の位置(保守点検位置)まで上昇させる。そして、図17(b) に示すように、保守点検床11で作業者等がスラスタ22をキャニスタ21から取り外し、保守点検床11の方に移動させる。この例では、図17(a) に示すように、船底10から喫水面Wまでの高さAに対し、保守点検床11が喫水面Wから高さBの位置に設けられている。そして、保守点検床11の高さ空間を、上記スラスタ22の高さLに作業用高さCを加えた高さにしている。そのため、上記キャニスタ21の上昇量としては高さHとなっている。
【0079】
このように、スラスタ22を喫水面Wよりも上昇させる構成をコンパクトな昇降装置30で行うことができるようにしたので、スラスタ22が沖合い稼動地点において故障したとしても、その稼動地点で点検、補修を行うことが可能な昇降式スラスタ装置20を提供することができる。
【0080】
[第2実施形態の動作]
次に、図18(a),(b) 乃至図21(a),(b) に基づいて第2実施形態を説明する。上記第1実施形態と同一の構成には、同一符号を付して説明する。この第2実施形態では、昇降装置33のHCフレーム34もキャニスタ21のガイド部材40に沿って昇降可能なように、WCフレーム35と同様に左右の部分が一体的に形成され、案内溝41が設けられている(図11参照)。また、キャニスタ21に設けられるラック31の高さは、スラスタ22を昇降路2内に格納した状態の位置(航海時位置)で、ラック31が上甲板位置(図示する船体1位置)よりも上方へ突出しないようにしている。従って、この第2実施形態によれば、航海時等に上方へ突出する構成があることが許容されない場合に利用できる。また、この第2実施形態は、上甲板位置が低くなって、昇降装置30を第1実施形態のように所定高さ位置に装備することができない場合等にも利用できる。
【0081】
図18(a) に示す第2実施形態の昇降式スラスタ装置50は、キャニスタ21の側部に設けられたラック31が、キャニスタ21の上端位置までに設けられている。この第2実施形態の場合、昇降装置30が昇降路2の所定位置に固定されているが、この昇降装置30を設ける位置は、後述するように変更可能となっている。
【0082】
この第2実施形態の場合も、図18(a) に示すように船底10から突出させているスラスタ22を、上記昇降装置30によって上記図12(a) 〜(i) 又は図14(a) 〜(i) に示すように、WC38とHC36とを交互に嵌合/離脱させる動作を行なわせることで上昇させる。図18(b) に示す状態は、スラスタ22を船底10から格納した状態を示している。この第2実施形態の昇降式スラスタ装置50では、この状態で船体1の上甲板から上方へ突出するものはない。
【0083】
その後、上記図12(a) 〜(i) 又は図14(a) 〜(i) に示す動作を繰り返すことにより、図19(a) に示すように、スラスタ22を喫水面Wの近くまで上昇させる。この状態で、昇降路2に設けられた荷重保持装置12(二点鎖線で示す位置で、キャッチ36と同様の構成をラック31の歯部32に嵌合させて荷重を支持する装置)によって、昇降式スラスタ装置50の荷重を一時的に保持する。
【0084】
その後、昇降装置30のHCフレーム34を船体1に固定している構成を外し、昇降装置30をフリーの状態にする。そして、上記図15(a) 〜(i) に示す動作を繰り返すことにより、図19(b) に示すように、昇降装置30をラック31に沿って所定の上部位置まで上昇させる。この所定の上部位置は、後述するように、昇降式スラスタ装置50のスラスタ22を喫水面Wの上方に設けた保守点検床11の位置まで上昇させることができる位置に設定される。
【0085】
次に、図20(a) に示すように、昇降路2における昇降装置30の下方に、荷重支持構造体13を設ける。そして、図20(b) に示すように、昇降装置30を所定量下降させて上記荷重支持構造体13にHCフレーム34を固定する。これにより、昇降式スラスタ装置50の荷重を、昇降装置30を介して荷重支持構造体13によって支持する。その後、上記昇降式スラスタ装置50の荷重を一時的に保持している荷重保持装置12が取外される。
【0086】
その後、上記図12(a) 〜(i) 又は図14(a) 〜(i) に示す動作を繰り返すことにより、図21(a) に示すように、スラスタ22を昇降路2の所定位置に設けた保守点検床11の位置まで上昇させる。そして、図21(b) に示すように、保守点検床11で作業者等がスラスタ22をキャニスタ21から取り外し、保守点検床11の方に移動させる。
【0087】
このように、スラスタ22を喫水面Wよりも上昇させる構成をコンパクトな昇降装置30で行うことができるようにしたので、スラスタ22が沖合い稼動地点において故障したとしても、その稼動地点で点検、補修を行うことが可能な昇降式スラスタ装置50を提供することができる。しかも、この第2実施形態の昇降式スラスタ装置50によれば、上方へ大きく突出する構成をなくすことができる。
【0088】
以上のように、上記昇降式スラスタ装置20,50によれば、キャニスタ21に所要長さの一対のラック31を上下方向に設け、一対の昇降装置30を昇降路2の所要高さ位置に配置することにより、昇降式スラスタ装置20,50のスラスタ22を稼動位置と保守点検位置との間で昇降させることが安定して可能となる。
【0089】
しかも、昇降装置30による昇降式スラスタ装置20,50の昇降方式を、短ストロークの昇降シリンダ33による、いわゆる尺取虫運動を繰り返す方式とすることにより、昇降装置30をコンパクトで安価な構成とすることができる。また、昇降装置30の昇降シリンダ33は短ストロークでよいため、重量物である昇降式スラスタ装置20,50を昇降させる時の座屈強度も十分に備えさせることが容易にできる。
【0090】
その上、昇降シリンダ33の下部側(シリンダの向きは間わない。)を昇降路2に固定する構成としたことで、昇降式スラスタ装置20,50の自重は面積の大きいボア側で支持することになり、昇降シリンダ33の最適設計が可能となる。
【0091】
これにより、1隻に複数台のスラスタ22を備える掘削船等においても、コストを抑えて適用が可能なコンパクトな昇降装置30を備えた昇降式スラスタ装置20,50を提供することができる。
【0092】
ところで、上記昇降式スラスタ装置20,50は、昇降させるために船体1の昇降路2との間に所定の間隔S1,S2を設けている。そのため、陸地から離れた海域などでは波浪等の影響で喫水面Wが大きく変動する。このような場合、上記したように昇降式スラスタ装置20,50を昇降させる時の喫水面Wの変動によって正常な動作が妨げられるおそれがある。
【0093】
そこで、上記図1,2,7に示すように、上記昇降式スラスタ装置20(50)には、稼動位置における横荷重支持ガイド3,4の位置レベルに、上述したようにキャニスタ21の全周と昇降路2の全周との間隔S1,S2を小さい間隙S3として絞り効果を発揮するようにした囲み板7が設けられている(図7)。この囲み板7は、上記したように最下部の支持ガイド3と下側1箇所の支持兼昇降ガイド4とに設けられており、昇降路2とキャニスタ21との間の水面が波浪等によって大きく上下変動するのを抑えている。この実施形態では、囲み板7を稼動位置におけるキャニスタ21の最下部とその上部に位置する支持兼昇降ガイド4の位置レベルに設けることで、水の移動を確実に抑えることができて好ましい。
【0094】
また、図22,23に示すように、上記したような波浪等も考慮し、昇降式スラスタ装置20,50の稼動時においては、以下のようなラック31とキャッチ36,38の関係にして荷重保持をしてもよい。昇降式スラスタ装置20に作用する静的な上下方向荷重の方向は、波浪による動的荷重が作用していない状態では、昇降式スラスタ装置20の自重とこれに作用する浮力の大きさとの関係によって決まる。
【0095】
図22は静的な状態で、昇降式スラスタ装置20に下向きの正荷重が作用している状態、すなわち「昇降式スラスタ装置の自重−昇降式スラスタ装置に作用する浮力>0」の状態での荷重保持状態を示している。
【0096】
図22に示すラックとキャッチとの関係は、WCフレーム35に内蔵されているWC38を昇降シリンダ33でHCフレーム34の方向に引くことで、このWC38とHCフレーム34に内蔵されているHC36とが互いにラック31を押合う状態にしている。これにより、稼動時の波浪によるキャニスタ21の上下動を抑制している。
【0097】
また、図23は静的な状態で、昇降式スラスタ装置に上向きの負荷重が作用している状態、すなわち「昇降式スラスタ装置の自重−昇降式スラスタ装置に作用する浮力<0」の状態での荷重保持状態を示している。
【0098】
図23に示すラックとキャッチとの関係は、WCフレーム35に内蔵されているWC38を昇降シリンダ33でHCフレーム34とは逆方向に押すことで、このWC38とHCフレーム34に内蔵されているHC36とが互いにラック31を引合う状態にしている。これにより、稼動時の波浪によるキャニスタ21の上下動を抑制している。
【0099】
なお、これら図22,23に示す油圧回路では、昇降シリンダ33によってHC36とWC38とでラック31を上下方向に押し引きした状態を保つための、アキュムレータ45、低圧リリーフ弁46a,高圧リリーフ弁46b,チェック弁47及びタンク48のみを示し、ポンプ、方向切替弁等の図示を省略している。アキュムレータ45及び低圧リリーフ弁46aの圧力は、昇降シリンダ33が空荷のWCフレーム35を昇降することが可能な圧力より少しだけ高めの圧力に設定される。
【0100】
このように、キャニスタ21に作用する上下方向静荷重は昇降路2に固定して取り付けられているHCフレーム34に内蔵されているHC36で保持するようにしている。この保持は、波浪によって静荷重と反対方向に作用する動荷重を昇降装置30の上下位置に設けられたHC36、WC38で保持すべく、両キャッチ36,38を押し引き状態として保持するものである。これにより、稼動時の波浪によるキャニスタ21の上下動を抑制することができる。
【0101】
なお、上述した実施形態では、キャニスタ21の対向する2面の幅方向中央部分における外面に、上下方向(鉛直方向)に延びる一対の対向するラック31を設けているが、ラック31は、キャニスタ21の水平方向断面中心点を通っていれば、対角線上であってもよく、また、一対でなく二対としてもよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0102】
また、上記ラック31は、歯部32を略矩形形状としているが、一定ピッチの凹凸状に形成されてキャッチ36,38を嵌合することで昇降式スラスタ装置20,50を支持できる構成であればよく、例えば、一定ピッチの嵌合孔形状であってもよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0103】
さらに、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る昇降式スラスタ装置は、故障時等に喫水面の上方位置までスラスタを上昇させて点検・整備を行いたい掘削船等に利用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 船体
2 昇降路
3 支持ガイド
4 支持兼昇降ガイド
4a 支持ガイド部
4b 昇降ガイド部
5 昇降ガイド
6 パッド
7 囲み板
8 ジャッキ
9 荷重支持構造体(固定部)
10 船底
11 保守点検床
12 荷重保持装置
13 荷重支持構造体(固定部)
20 昇降式スラスタ装置
21 キャニスタ
22 スラスタ
30 昇降装置
31 ラック
31a ベース部
32 歯部
33 昇降シリンダ
33a ピン
34 ホールディングキャッチフレーム(HCフレーム)
34a 案内部
35 ワーキングキャッチフレーム(WCフレーム)
35a 案内部
36 ホールディングキャッチ(HC)
37 ホールディングキャッチ駆動シリンダ(HCシリンダ)
38 ワーキングキャッチ(WC)
39 ワーキングキャッチ駆動シリンダ(WCシリンダ)
40 ガイド部材
41 案内溝
50 昇降式スラスタ装置
S1,S2 間隔
T 隙間
W 喫水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部から下方に突出するように設けたスラスタと、前記スラスタを駆動する駆動装置を内蔵して船体に設けた昇降路内を昇降するキャニスタとを備えた昇降式スラスタ装置であって、
前記キャニスタの外面の水平方向対向位置に設けた、一定ピッチの歯部を上下方向に有する所要長さの少なくとも一対のラックと、
前記各ラックに沿って上下方向に設けたガイド部材と、
前記一対のラックに沿って前記キャニスタを前記昇降路内でスラスタの稼動位置と喫水面よりも上方位置との間で昇降させる一対の昇降装置とを備え、
前記一対の昇降装置は、前記ラックの上下に離れた位置の歯部に各々独立して嵌脱させる上下一対のキャッチと、前記各キャッチを具備した上下一対のフレームと、前記上下一対のフレームの間に設けられた昇降シリンダとを有し、
前記昇降シリンダは、前記昇降路側に固定した一方のフレームに対し、他方のフレームを前記ガイド部材をガイドとして昇降させるように構成されていることを特徴とする昇降式スラスタ装置。
【請求項2】
前記上下一対のフレームは、下方に位置するフレームを前記昇降路に固定するように取り付けられている請求項1に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項3】
前記昇降路は、喫水面よりも上方位置に保守点検床を備え、
前記キャニスタは、前記保守点検床位置まで前記スラスタを上昇させる所要長さのラックを備え、
前記昇降装置は、前記スラスタを稼動時位置から保守点検床位置まで昇降可能なように昇降路の所要高さ位置に配置されている請求項1又は2に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項4】
前記上下一対のフレームは、前記キャッチを上下位置で各々独立して前記ラックに嵌脱させる駆動シリンダと、前記駆動シリンダの伸縮動作によって前記キャッチをラックの歯部に嵌合又は離脱させる案内部とを有している請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項5】
前記昇降シリンダは、前記スラスタの稼動時に、前記上下一対のキャッチをラックの歯部に嵌合させ、該キャッチに上下逆方向の力を作用させてキャニスタに作用する上下方向の荷重を保持するように構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項6】
前記昇降路は、上下方向に離れた複数箇所に設けた前記昇降装置の固定部と、
前記固定部を変更するときに昇降式スラスタ装置の荷重を一時的に保持する荷重保持装置とを有し、
前記昇降装置は、前記昇降路の固定部に着脱可能な固定手段を有している請求項1〜5のいずれか1項に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項7】
前記昇降路は、前記キャニスタに作用する水平方向の力を支持する支持ガイドと、前記支持ガイドの位置で、前記キャニスタと昇降路との間隔を全周で小さくする囲み板とを有している請求項1〜6のいずれか1項に記載の昇降式スラスタ装置。
【請求項8】
前記支持ガイドと前記キャニスタとの間に、該キャニスタを水平方向に支持するジャッキを具備させた請求項7に記載の昇降式スラスタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−206556(P2012−206556A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72206(P2011−72206)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)