説明

昇降用椅子

【課題】この発明は身体の不自由な利用者が段差部を楽に移動することができるようにした昇降用椅子を提供することにある。
【解決手段】段差部の高位置と低位置とを移動するために用いられる昇降用椅子であって、低位置に設置される基体1と、基体に上下駆動可能に設けられた上下可動体3,4と、上下可動体の上面に回転可能に設けられた座部体7と、上下可動体の上部に一端部が取付け固定され他端部が下方に向かって延出された取付け部材23と、取付け部材の他端部に回動可能に設けられ座部体に着座した利用者が足を載せる倒伏位置と上方向に回動させた起上位置とで保持可能な足載せ体26とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はたとえば足腰の不自由な人が段差部を移動するときに用いるための昇降用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋内には、たとえば玄関の土間と上がり床のように段差部があり、老人や足腰の不自由な人、或いは車椅子の利用者などにとっては上記段差部の昇り降りが困難なことがある。たとえば、車椅子の利用者の場合、室内用と室内用の車椅子に乗り換えるために、上記段差部を移動しなければならない。その際、介助者が車椅子の利用者抱きかかえるなどして所定の車椅子に移乗させなければならないから、介助者には大きな負担となる。
【0003】
そこで、段差部のある壁面に手摺を設け、この手摺に掴まって段差部を昇り降りしたり、上記段差部の低位置(土間)に、段差部の高位置(上がり床)よりも低い高さの踏み台を設け、この踏み台を利用して段差部の移動を楽に行なえるようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある程度の握力や脚力などの体力を有する老人などにとっては、手摺や踏み台を利用することで、段差部の昇り降りを行なうことは可能である。しかしながら、手摺を利用して段差部を昇り降りする際には手摺をしっかりと把持する握力が要求されることになるから、握力の低下した老人などは上記段差部の昇り降りを確実に行なうことができないことがある。
【0005】
しかも、手摺や踏み台のいずれを利用する場合であっても、たとえば足首や膝などの下肢或いは腰などが不自由で、脚力が十分でない利用者、たとえば車椅子の利用者などの場合、段差部を昇り降りする際に、下半身に力を入れることができないから、段差部の昇り降りを容易に行なうことができないということがあった。
【0006】
この発明は、身体が不自由であったり、体力が十分でない病人や老人などであっても、段差部の移動を比較的楽に行なうことができるようにした昇降用椅子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、段差部の高位置と低位置とを移動するために用いられる昇降用椅子であって、
上記低位置に設置される基体と、
この基体に上下駆動可能に設けられた上下可動体と、
この上下可動体の上面に回転可能に設けられた座部体と、
上記上下可動体の上部に一端部が取付け固定され他端部が下方に向かって延出された取付け部材と、
この取付け部材の他端部に回動可能に設けられ上記座部体に着座した利用者が足を載せる倒伏位置と上方向に回動させた起上位置とで保持可能な足載せ体と
を具備したことを特徴とする昇降用椅子にある。
【0008】
上記基体は、その下端の幅方向両側に幅方向と交差する前後方向に沿って設けられた一対の脚部材によって支持されていて、一対の脚部材の両端部は、上記足載体が倒伏位置にある状態で上記可動体が下降したときに、この足載体の幅方向の両端部と脚部材の端部との間に利用者の足が入り込む空間部が形成されるよう、上記基体の幅方向外方に向かって湾曲されていることが好ましい。
【0009】
上記座部体には背凭れが設けられ、この背凭れには肘掛け体が上下方向に回動可能かつ水平に倒伏させた倒伏位置と上方に回動させた上昇位置とで保持可能に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、段差部の高位置或いは低位置のどちらか一方で利用者が座部体に着座したならば、この座部体を回転させるとともに、段差部の高位置或いは低位置の他方で利用者が立ち上がり易いよう座部体の高さを変えることで、利用者は足腰に大きな負担を掛けることなく、段差部を移動することができる。しかも、その際に利用者は足載せ体に足を載せておくことで、座部体を回転させたときに足をぶつけるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の一実施の形態を図面を参照して説明する。
図1と図2に示すこの発明の昇降用椅子は基体1を備えている。この基体1の幅方向両側には脚部材2が両端部を上記基体1の前後方向に突出させて設けられている。一対の脚部材2の上記基体1の前面側と背面側に突出した両端部は、図5と図6に示すように、基体1の幅方向外方に向かって湾曲された湾曲部2aに形成されている。4つの湾曲部2aの先端部下面には高さ調整部材5が高さ調整可能に螺合されている。それによって、上記基体1は脚部材2に設けられた4つの高さ調整部材5によって水平度を調整して設置できるようになっている。
【0012】
上記基体1は図2(b)に示すように、たとえば段差部の低位置である、玄関の土間Xに、高位置である上がり床Yに近接して設置される。基体1は土間Xに上記受け部材5の高さを調整することで、がたつくことがないよう水平に設置される。
【0013】
上記基体1は角筒状に形成されている。この基体1には、基体1よりもわずかに大きな角筒状の第1の上下可動体3が上下動可能に外装されている。この第1の上下可動体3には第1の上下可動体3よりもわずかに大きな第2の上下可動体4が上下動可能に設けられている。
【0014】
上記基体1内には図示しないエレベータ機構が設けられていて、このエレベータ機構を図示しないリモートコントローラによって操作することで、図3に示すように上記基体1に対して上記第1の上下可動体3と第2の上下可動体4を順次上昇させることができるようになっている。なお、第1、第2の上下可動体3,4は上昇限と下降限との途中の任意の高さ位置で停止させることができるようになっている。
【0015】
上記第2の上下可動体4の上端には回転機構6によって座部体7が回転可能に設けられている。上記回転機構6は上記第2の上下可動体4の上面に取り付けられた固定盤8と、この固定盤8に回転可能に連結されて上記座部体7の下面に取り付けられた回転盤9とによって構成されている。それによって、上記座部体7は上記第2の上下可動体4の上面で水平方向に回転可能となっている。
【0016】
上記回転盤9の回転は図示せぬストッパ機構によって90度ごとに回転不能に保持されるようになっていて、このストッパ機構による上記回転盤9の保持状態は、上記座部体7の後端部の幅方向両側に設けられた一対の解除レバー11を後方へ倒すことで解除されるようになっている。
【0017】
上記座部体7の上面にはシート状の座クッション体12が設けられている。さらに、座部体7の後端部には背凭れ13が設けられている。この背凭れ13は平行に立設されたパイプ材からなる一対の縦部材14を有し、縦部材14の上端には腰当てクッション体16が調整ねじ17によって高さ調整可能に設けられている。
【0018】
一対の縦部材14の上部背面には中空状の支持短管18がそれぞれ軸線を水平にして設けられている。一対の支持短管18にはパイプ材をL字状に曲成した一対の肘掛け体19の一端部がそれぞれ回転可能に支持されている。それによって、一対の肘掛け体19は上記支持短管18に支持された一端部を支点として図1(b)に実線で示す倒伏位置から矢印で示す上昇方向に回動させることができるようになっている。
【0019】
上記一対の縦部材14の中途部には支持杆21が座部体7の幅方向外方に向かって固着されている。一対の支持杆21は、一対の肘掛け体19を水平に倒伏させた状態で、上記支持杆21に当たって保持されるようになっている。また、一対の支持杆21は起立方向に回動させると、垂直よりもやや後方に倒伏した位置で回動が阻止されて保持されるようになっている。
【0020】
上記第2の上下可動体4の上部両側には、パイプ材を側面形状がL字状で、平面形状がU字状に曲成した取付け部材23が両端部を固定して設けられている。図5に示すように、上記第2の上下可動体4の前面の下部に位置する上記取付け部材23の他端部、つまり取付け部材23のU字状に形成された部分の中間部には取付けパイプ24が回転可能に外嵌されている。
【0021】
上記取付けパイプ24には平面形状がコ字状で、側面形状がくの字状に曲成された足載せ用パイプ25の両端部(基端部)が固着されている。図4(a),(b)に示すように、上記足載せ用パイプ25の先端部には板状の足載せ体26が幅方向に沿って架設されている。この足載せ体26の上面には突起を有するゴムシートなどの滑り止めシート26aが貼着されている。
【0022】
図4(a),(b)と図5に示すように、上記保持パイプ25の両端部には周方向に約160度の範囲でガイド溝28が形成されている。このガイド溝28には上記取付け部材23に螺合されたねじ29が挿入されている。保持パイプ25を回動させると、その回動方向に応じて上記ガイド溝28の一端或いは他端に上記ねじ29が当たり、その位置で足載せ用パイプ25の回転が阻止される。
【0023】
それによって、上記足載せ体26は、図4(a)に示すように水平に保持された倒伏位置と、図4(b)に示すように上方に回動した起上位置とで保持されるようになっている。
【0024】
図5に示すように、上記一対の脚部材2の両端部が外方に向かって湾曲された湾曲部2aに形成されているとことで、上記足載せ体26を水平な倒伏位置に保持すると、この足載せ体26の幅方向両端部と湾曲部2aの内面との間に空間部31が形成される。この空間部31は利用者の足が入り込む大きさに設定されている。
【0025】
それによって、座部体7に着座した利用者が立つときに、足載せ体26に載置した足をその足載せ体26の側方の空間部31に降ろすことができる。つまり、脚が不自由で、座部体7から下りるときに、足を前方に大きく踏み出すことができないような利用者の場合、足を足載せ体26の側方に降ろしてから立ち上がることが可能となる。
【0026】
図1(a),(b)に示すように、上記取付け部材23の上記座部体7の下方に位置する端部には、ストッパピン33が先端部を上記取付け部材23の径方向上方に突出させて着脱可能にねじ込まれている。上記座部体7の後端部の下面には係合片34が設けられている。上記係合片34は、座部体7を図1(a)、(b)に示すように正面を向いた状態から反時計方向に270度或いは時計方向に90度回転させることで、上記ストッパピン33に係合する。
【0027】
それによって、座部体7が無制限に回転するのが阻止されるから、上記基体1内に設けられた図示しないエレベータ機構と、このエレベータ機構を操作するリモートコントローラを結ぶコード(図示せず)が座部体7や第1、第2の上下可動体3,4などに巻きつくのを防止できるようになっている。
【0028】
このように構成された昇降用椅子によって利用者がたとえば高位置の上がり床Yから低位置の土間Xに移動する場合、図3に示すように座部体7を上がり床Yから利用者が着座できる高さまで上昇させる。
【0029】
その状態で、利用者が座部体7に着座して足載せ体25に足を載せたならば、介助者は解除レバー11を操作して座部体7を回動可能な状態としながら、この座部体7を90度或いは180度回転させる。つまり、座部体7に着座した利用者の向きを側方或いは後方に変える。
【0030】
座部体7の向きを変えたならば、座部体7を図1に示すように下降させる。それによって、座部体7に着座した利用者は足載せ体25から足を降ろし、自力或いは介助者の介助で立ち上がったり、土間Xにある車椅子(図示せず)に乗るなどのことができる。
【0031】
なお、利用者が上がり床Yから座部体7に着座したならば、座部体7を速報或いは後方に回転させる前に、座部体7を利用者が土間Xに降りることができる高さに下降させてもよい。
【0032】
上記足載せ体25の幅方向両側には、基体1を支持した脚部材2の両端部が外方に向かって湾曲した湾曲部2aに形成されていて、座部体7を下降させると足載せ体26の幅方向両側と脚部材2の端部との間に空間部31が形成される。
【0033】
そのため、利用者が座部体7から降りるとき、足を前に大きく踏み出せなくとも、足載せ体25の側方の空間部31に降ろすことができるから、脚が不自由な利用者であっても、座部体7から降り易くなる。
【0034】
上記足載せ体25は回動可能に設けられている。そのため、利用者が座部体7に座るときには、上記足載せ体25を上方向に回動させて起上位置に保持しておけば、利用者は足載せ体25によって邪魔されることなく、臀部を座部体7に十分に近付けてから着座することができる。そして、利用者が座部体7に着座した後、足載せ体25を倒伏位置に回動させて足を載せれば、座部体7を上昇させたり、回転させたときに利用者は足を土間Xと上がり床7との段差部などにぶつけるようなことがない。
【0035】
背凭れ13に設けられた一対の肘掛け体19は、それぞれ回動可能であって、水平な位置で保持可能となっている。そのため、利用者が座部体7に着座したときには上記肘掛け体19を水平に倒伏させて保持すれば、利用者が肘を載せて利用したり、座部体7の側方から利用者が落ちるのを防止することができる。
【0036】
利用者が座部体7に座ったり、立つときには上記肘掛け体19を上昇させれば、邪魔になることがない。一対の肘掛け体19は別々に回動可能となっているから、座部体7の一方の側方から着座したり、立ち上がるときにはその一方の肘掛け体19だけを上昇させればよい。
【0037】
上記一実施の形態では低位置と高位置として土間と上がり床を例に挙げ、これらの間を昇り降りする場合について説明したが、低位置と高位置としては土間と上がり床に限られず、他の段差部であっても、この発明の昇降用椅子を適用することができる。
【0038】
また、基体に第1の可動体と第2の可動体を設けたが、可動体の数は2つに限られず、1つ或いは3つ以上であってもよく、要は必要とする最大と最小の高さに応じて高さ調整できる構造であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施の形態を示し、(a)は座部体が下降した状態の昇降用椅子の正面図、(b)は同じく側面図。
【図2】座部体が下降した昇降用椅子の背面図。
【図3】座部体を上昇させた昇降用椅子の側面図。
【図4】(a)は足載せ体を倒伏させた状態を示す側面図、(b)は同じく起立させた状態を示す側面図。
【図5】足載せ体を倒伏させた状態の斜視図。
【図6】足載せ体を起立させた状態の斜視図。
【符号の説明】
【0040】
1…基体、2…脚部材、2a…湾曲部、3…第1の上下可動体、4…第2の上下可動体、7…座部体、23…取付け部材、26…足載せ体、31…空間部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段差部の高位置と低位置とを移動するために用いられる昇降用椅子であって、
上記低位置に設置される基体と、
この基体に上下駆動可能に設けられた上下可動体と、
この上下可動体の上面に回転可能に設けられた座部体と、
上記上下可動体の上部に一端部が取付け固定され他端部が下方に向かって延出された取付け部材と、
この取付け部材の他端部に回動可能に設けられ上記座部体に着座した利用者が足を載せる倒伏位置と上方向に回動させた起上位置とで保持可能な足載せ体と
を具備したことを特徴とする昇降用椅子。
【請求項2】
上記基体は、その下端の幅方向両側に幅方向と交差する前後方向に沿って設けられた一対の脚部材によって支持されていて、一対の脚部材の両端部は、上記足載体が倒伏位置にある状態で上記可動体が下降したときに、この足載体の幅方向の両端部と脚部材の端部との間に利用者の足が入り込む空間部が形成されるよう、上記基体の幅方向外方に向かって湾曲されていることを特徴とする請求項1記載の昇降用椅子。
【請求項3】
上記座部体には背凭れが設けられ、この背凭れには肘掛け体が上下方向に回動可能かつ水平に倒伏させた倒伏位置と上方に回動させた上昇位置とで保持可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の昇降用椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate