説明

昇降装置

【課題】 回転軸を回すことで重量物を昇降させる昇降装置において、コストがあまりかからず、確実に回転軸の予期せぬ回転を防止することができる昇降装置を提供する。
【解決手段】 鉛直方向に対して交差する方向に延びる回転軸30を備え、該回転軸30を回転することで回転軸の一方に係属された重量物を昇降させる昇降装置において、前記回転軸30が曲折部32を有し、該曲折部32が回転力の伝達が可能で、前記回転軸の停止位置にかかわらず、回転軸30の先端部33が鉛直方向に垂下し、該垂下した先端部33の重さにより、前記重量物から前記回転軸30に加えられる回転を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転軸を回転することで重量物を昇降する昇降装置に関し、特に、回転軸を停止したときの重量物の自重による予期せぬ回転を防止する機構を備えた昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物の昇降には、従来よりボールネジ機構が多用されている。例えば、プラズマエッチング装置は、70〜80kg程度の重量物であるプラズマ形成用高周波電力供給ユニットを備えており、この高周波電力供給ユニットはメンテナンスのために昇降可能である必要があり、そのためにボールネジ機構が用いられている。具体的には、ハンドルを用いて回転軸を回し、回転軸の回転を歯車列を介してボールネジのシャフトに伝達し、それによって高周波電力供給ユニットを昇降させている。
【0003】
しかし、この場合には、回転軸の回転を停止したとき、持ち上げた重量物が、自重により回転軸を逆転して落下する可能性が生じる。
【0004】
この現象は、理論的には、ボールネジのリード角を静止摩擦角より小さくすることでセルフロック作用が起こり、落下を防止できる。しかし、ボールネジの静止摩擦角は小さく、そのため、ボールネジのリード角が小さくなりすぎて、ネジのピッチが小さくなり、実用性がなくなる。
【0005】
このようなことを防止するための手段として、特許文献1に記載されているようなラチェット機構を設けることや、摩擦によるブレーキを設ける構成が知られている。
【特許文献1】特開平11−125318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ラチェット機構は、一方向にだけしか作用しない。また、外れる可能性もあり、外れると全く逆転防止機能が発揮できなくなる。さらに、ラチェット爪等が破損することもあり、総じて確実性に欠ける。また、摩擦によるブレーキを使用する場合は、ブレーキパッドは摩耗するので交換が必要となり、消耗品のコストがかかってしまう。また、定期的なブレーキの調整も必要で、メンテナンスのコストもかかる。
【0007】
また、回転軸とボールネジ軸との間の歯車列に、ウォームホイールとウォームギヤを設ける構成とした場合、ウォームギヤのリード角を静止摩擦角より小さくすることで、セルフロック機構が働き、逆転を防止することができる。しかし、初速が付いた場合、ギヤの摩擦以外にブレーキがかからないことになり、ギヤが回転して落下する可能性がある。
【0008】
本発明は、このような事実に鑑みてなされたもので、コストがあまりかからず、確実に回転軸の重量物の自重による予期せぬ回転を防止することができる昇降装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、回転軸の逆転は、坂道を転がるのと同じで、初速は遅いが、徐々に加速され速くなることに着目した。すなわち、初速がかからないうちに回転を阻止すれば、小さな力で逆転を防止できることを見いだした。
【0010】
そこで、本発明は、鉛直方向に対して交差する方向に延び、一端に重量物が係属され、他端が自由端となった回転軸を備え、該回転軸を回転することで前記重量物を昇降させる昇降装置であって、前記回転軸は、回転力を伝達可能でその回転停止位置にかかわらず曲折する曲折部を有し、前記回転軸の前記曲折部より前記自由端側の先端部が鉛直方向に垂下し、垂下した先端部により、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転を阻止することを特徴とする昇降装置を提供する。
【0011】
たとえば、前記垂下した先端部の重量により前記回転軸に加わる制動トルクが、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転トルクより大きいことにより、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転を阻止することができる。
【0012】
また、前記垂下した自由端が、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転力により回転したとき、周囲にある昇降装置の壁面等に前記先端部が当接することで前記回転軸の回転が阻止される構成とすれば、特に、先端部の重さは問題とならない。また、回転軸に初速がついた場合でも、壁面等に当接した後は、回転を阻止することができる。
【0013】
曲折部の構成としては、前記曲折部が、回転軸の一部としての1以上のリンクを有し、各リンクがその両端で前記リンク又は回転軸と回動自在に結合し、リンクの一方の結合軸と他方の結合軸とが異なる方向に延びている構成とすることで、回転軸がどのような回転角度で停止しても、先端部は鉛直方向に垂下することができる。前記リンクが1つで、両端の結合軸の方向が、直交していると先端部は鉛直方向にさらに垂下し易くなる。
【0014】
前記回転軸と重量物との係属が、前記重量物を昇降するボールネジと、該ボールネジと前記回転軸とを接続する歯車列とにより構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
ここでは、本発明をプラズマエッチング装置に適用した場合を例にとって説明する。図1は、本発明の昇降装置を使用したプラズマエッチング装置を示す斜視図、図2(a)は、図1のA−A線で切断した断面の要部構成を模式的に示す図、(b)は、図1のBから見た図である。
【0016】
このプラズマエッチング装置10は、気密に構成され、壁部が例えばアルミニウム製のチャンバー(処理容器)11を有している。このチャンバー11内には、被処理基板である半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」と記す)を水平に支持し、下部電極として機能するサセプタ(図示せず)と、上部電極12とが上下に対向して設けられている。このプラズマエッチング装置10は、下部電極であるサセプタに、プラズマ形成用の相対的に高い周波数(例えば100MHz)の第1の高周波電力と、イオン引き込み用の相対的に低い周波数(例えば3.2MHz)の第2の高周波電力とが印加される、下部2周波数印加タイプとして構成されている。
【0017】
チャンバー11の下部には、高周波電力供給ユニット13が設けられている。この高周波電力供給ユニット13は、チャンバー11の直下に設けられた第1の高周波電力用の第1のマッチャー14と、その下に設けられた第2の高周波電力用の第2のマッチャー15と、さらにその下に設けられ、第1の高周波電力を供給する第1の高周波電源16と、その側方に設けられ、第2の高周波電力を供給する第2の高周波電源(図示せず)とを有している。
【0018】
上記高周波電力供給ユニット13は、ボールネジ21 を含むボールねじ機構により昇降可能となっている。ボールねじ機構は、ボールネジ21の両側に、昇降のガイドとなるリニアシャフト22を備えている。ボールネジ21 とその両側のリニアシャフト22とは、高周波電力供給ユニット13を挟むようにエッチング装置10の両側に配置されている。
【0019】
図3は昇降装置の構成を示す図で、(a)は正面図で図1のBから見た図で、(b)は底面図である。各ボールネジ21 の下端には、ウォームホイール23が取り付けられ、各ウォームホイール23には、ウォームギヤ24が噛み合っている。両方のウォームギヤ24の軸は、それぞれの継手25を介して一本のクロスシャフト26で連結され、一方の継手25とウォームギヤ24との間にはベベルギヤ27が固定されている。ベベルギヤ27は、ベベルギヤ28と噛み合い、このベベルギヤ28は、回転軸30の基端部31に固定されている。
【0020】
回転軸30は、基端部31と、曲折部32と、先端部33とを有し、エッチング装置10のフレームに固定されたブラケット29により基端部31が支持された状態である。図示の実施例では、回転軸30は水平であるが、特に水平に限定されるものではない。中間に設けられる歯車列でどのような角度でも可能であり、鉛直方向に対して交差していればよい。
【0021】
回転軸30の先端部33の端部には、四角柱状の接続部34があり、ここにハンドル40が着脱自在に接続される。ハンドル40は、ハンドル軸41とハンドルバー42と取手43とから構成される。ハンドル軸41の先端には、接続部34が嵌合する接続穴44があり、ハンドル軸41には握り易くするための太径部45を設けてもよい。
【0022】
曲折部32は、回転は伝達するが、曲がりは伝達しないもので、具体的な構成は以下の通りである。すなわち、曲折部32は、両端に回転軸と結合するための結合軸32b,32cを備えたリンク32aを有する。両端の結合軸32bと結合軸32cとは、その方向が相違している。相違する角度は任意でよいが、実施例に示すように一方の結合軸32bが垂直方向で、他方の結合軸32cが水平方向となって、お互いに90゜ずれた関係となっているのが望ましい角度である。
【0023】
図4は回転軸30にハンドル40を取り付けた状態を示す斜視図である。先端部33の接続部34を、ハンドル軸41の接続穴44に嵌合すると(図3(a)参照)、ハンドル40が図4に示すように、回転軸30に接続される。そして、一方の手で太径部45を握り、他方の手で取手43を掴んで回転すると、ハンドル40の回転は回転軸30に伝わり、ベベルギヤ28が回転する。ベベルギヤ28の回転は、ベベルギヤ27で直角方向に曲げられ、クロスシャフト26が回転する。クロスシャフト26は両側のウォームギヤ24を同様に回転し、各ウォームギヤ24はそれぞれのウォームホイール23を回転し、ウォームホイール23は両側のボールネジ21を回転する。ボールネジ21の回転によって、高周波電力供給ユニット13が昇降することになる。
【0024】
高周波電力供給ユニット13が所望の高さに達したら、昇降作業が完了する。そして、ハンドル軸41を接続部34から引き抜く。
【0025】
図5は、回転軸30からハンドル40を引き抜いた状態を示す斜視図である。ハンドル40が引き抜かれると、回転軸30の先端部33は、曲折部32のところから垂直下方に垂れ下がる。この実施例では、先端部33とハンドル40とは分離する構成となっているが、先端部33とハンドル40とを一体としてもよい。その場合、ハンドル40の部分も先端部33に含まれ、垂れ下がることになる。
【0026】
図6は、回転軸30がどのような回転角度であろうと、必ず、先端部33が垂れ下がる状態を説明する図である。図6(a)では、基端部31の回転位置が、結合軸32bが水平になる位置であるが、リンク32aは結合軸32bを中心に回転して垂直になり、先端部33が垂れ下がっている。図6(b)では、結合軸32bが垂直になっている。すると、他方の結合軸32cを中心として先端部33が回転して垂直に垂れ下がることになる。回転軸30の基端部31が、図6(a)と(b)の中間の角度になっても、同様に先端部33は垂直方向に垂れ下がることになる。
【0027】
回転軸30が回転を停止し、先端部33が垂直方向に垂れ下がったとき、回転軸30には、高周波電力供給ユニット13の自重により落下方向の回転トルクが加わる。しかし、本発明では、先端部33の重さにより回転軸30に加えられる制動トルクが、前記の落下方向の回転トルクより大きくなるようにしているので、重量物が落下する方向に回転軸30が回転するのを阻止できることになる。
【0028】
図7は、本発明の他の実施例を示す図である。この実施例では、回転軸30の中心からL1の距離にエッチング装置などのフレーム10aが来るように、回転軸30を配置している。回転軸30の先端部33が軽くて、重量物の自重による落下方向の回転トルクを抑えられない場合や、先端部33は初速を抑えるのに十分な重さがあるが、重量物の落下に加速が加わったような場合、先端部33の重さだけでは停止できない場合がある。その場合、回転軸30は図6の(a)の状態からたとえば、反時計方向に回転して図7の位置に達する。このとき先端部33の先端から回転軸30の中心までの距離をLとした場合、L>L1とすることで、回転軸30の回転を強制的に阻止することができる。
【0029】
以上に説明したように、本発明の昇降装置では、回転軸30の先端部33を曲折部32で接続し、回転軸30がどのような位置で停止しても先端部33が垂下するようにしたので、昇降させる重量物の自重で回転軸が回転して重量物が落下する、といった現象を防止することができる。また、本発明の落下防止機構は、摩耗や破損が殆どなく、確実性を有する。
【0030】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、曲折部32としてリンク32aと結合軸32b,32cを例示したが、この構成に限定されるものではない。曲折部32としては、回転を伝達するが、曲げは伝達しないものであればよく、たとえば、リンク32aとして球体を使用してもよく、スチール製の十分な強度のある網を使用してもよい。リンク32aの数は、本発明の実施例では1つであるが、2以上を結合軸で接続するようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態では昇降装置として、ボールネジを用いたものを実施例に示したが、ボールネジに限定されるものではなく、例えば通常のネジを用いたものにでも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、上記プラズマエッチング装置の高周波電力供給ユニットの昇降のみならず、重量物一般の昇降に適用可能であり、いずれの場合にも上記効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の昇降装置を使用したエッチング装置の斜視図である。
【図2】(a)は、図1のA−A線で切断した要部構成を模式的に示す図、(b)は、図1のBから見た図である。
【図3】昇降装置の構成を示す図で、(a)は正面図で図1のBから見た図で、(b)は底面図である。
【図4】回転軸30にハンドル40を取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】回転軸30からハンドル40を引き抜いた状態を示す斜視図である。
【図6】(a),(b)は、回転軸がどのような回転角度であろうと、必ず、先端部が垂れ下がる状態を説明する図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 エッチング装置
10a フレーム
11 チャンバー
12 上部電極
13 高周波電力供給ユニット
14 第1のマッチャー
15 第2のマッチャー
16 第1の高周波電源
21 ボールネジ
22 リニアシャフト
23 ウォームホイール
24 ウォームギヤ
25 継手
26 クロスシャフト
27 ベベルギヤ
28 ベベルギヤ
29 ブラケット
30 回転軸
31 基端部
32 曲折部
32a リンク
32b,32c 結合軸
33 先端部
34 接続部
40 ハンドル
41 ハンドル軸
42 ハンドルバー
43 取手
44 接続穴
45 太径部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に対して交差する方向に延び、一端に重量物が係属され、他端が自由端となった回転軸を備え、該回転軸を回転することで前記重量物を昇降させる昇降装置であって、前記回転軸は、回転力を伝達可能でその回転停止位置にかかわらず曲折する曲折部を有し、前記回転軸の前記曲折部より前記自由端側の先端部が鉛直方向に垂下し、垂下した先端部により、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転を阻止することを特徴とする昇降装置。
【請求項2】
前記垂下した先端部の重量により前記回転軸に加わる制動トルクが、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転トルクより大きいことにより、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転を阻止することを特徴とする請求項1に記載の昇降装置。
【請求項3】
前記垂下した自由端が、前記重量物から前記回転軸に加えられる回転力により回転したとき、周囲にある昇降装置の壁面等に前記先端部が当接することで前記回転軸の回転が阻止されることを特徴とする請求項1又は2に記載の昇降装置。
【請求項4】
前記曲折部が、回転軸の一部としての1以上のリンクを有し、各リンクがその両端を結合軸によって前記リンク又は回転軸と回動自在に結合し、リンクの一方の結合軸と他方の結合軸とが異なる方向に延びていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の昇降装置。
【請求項5】
前記リンクが1つで、両端の結合軸の方向が、直交していることを特徴とする請求項4記載の昇降装置。
【請求項6】
前記回転軸と重量物との係属が、前記重量物を昇降するボールネジと、該ボールネジと前記回転軸とを接続する歯車列とにより構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−174314(P2008−174314A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6594(P2007−6594)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)