説明

明瞭度改善機能付再生装置

【課題】声音と背景音のレベルバランスを変更することなく、声音の明瞭度を改善することのできる明瞭度改善機能付再生装置を提供する。
【解決手段】声音信号Sを所定の声音信号分割比rに従って第1の声音信号と第2の声音信号に分割する声音信号分割部11と、背景音信号Sを所定の背景音信号分割比rに従って第1の背景音信号と第2の背景音信号に分割する背景音信号分割部12と、第1の声音信号および第1の背景音信号を第1の可聴音Lに変換する第1の変換部13と、第2の声音信号および第2の背景音信号を第2の可聴音Lに変換する、第1の変換部13の下方に配置される第2の変換部14と、要求明瞭度設定部15で設定された要求明瞭度に応じて声音信号分割比rまたは背景音信号分割比rを変更する制御部16を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可聴音を再生する再生装置に係り、特に声音の明瞭度を改善する機能を有する明瞭度改善機能付再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可聴音は、ナレーションあるいは台詞といった声音と、例えば音楽のような声音以外の背景音とに大別される。
【0003】
しかし、声音と背景音とが同時に再生される場合には、声音の明瞭度が低下して声音が聞き取りにくくなることが一般的であり、高齢者のような聴力弱者にあってはこの傾向が顕著となる。
【0004】
上記課題を解決するものとして、可聴音を声音と背景音に分離した後声音と背景音のレベルバランスを変更して声音のレベルを上げることにより声音の明瞭度を上げることができる技術が既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、声音の提示方向を左右に振り分けて再生することで、明瞭度を改善する技術も公知である。
【0006】
特許文献1に開示された技術は、雑音除去機能を有する補聴器に適用されており、2つのマイクロフォンで検出された可聴音信号から同相成分を除去することにより背景音である雑音を除去している。
【0007】
しかし、ラジオあるいはテレビジョンで放送される番組では、番組内容に適したバランスで声音および背景音のレベルが調整されているため、再生時に相対的に声音と背景音のバランスを変更する、あるいは左右に振り分けることは、番組制作者の制作意図を損なうこととなり好ましくない。
【0008】
さらに、可聴音から同相成分を分離する信号処理の際に声音の音質が損なわれるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−22797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は上記課題に鑑みなされたものであって、声音と背景音のレベルバランスを変更することなく、声音の明瞭度を改善することのできる明瞭度改善機能付再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、声音信号を声音放射位置から放射される声音に変換する声音変換手段と、背景音信号を背景音放射位置から放射される背景音に変換する背景音変換手段と、前記声音と前記背景音とを同時再生したときの前記声音に対する明瞭度の要求値である要求明瞭度を設定する要求明瞭度設定手段と、前記要求明瞭度に応じて前記声音放射位置と前記背景音放射位置との相対位置関係を変更する相対位置関係変更手段とを備える。
【0012】
上記構成により、声音と背景音のレベルバランスを変更することなく声音の明瞭度を改善することができることとなる。
【0013】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、前記声音変換手段および前記背景音変換手段が、前記声音信号を所定の声音信号分割比に従って第1の声音信号と第2の声音信号に分割する声音信号分割部と、前記背景音信号を所定の背景音信号分割比に従って第1の背景音信号と第2の背景音信号に分割する背景音信号分割部と、前記第1の声音信号および前記第1の背景音信号を第1の可聴音に変換する第1の変換部と、前記第2の声音信号および前記第2の背景音信号を第2の可聴音に変換する前記第1の変換部の下方に配置される第2の変換部とで構成され、
前記相対位置関係変更手段が、前記要求明瞭度に応じて前記声音信号分割比または前記背景音信号分割比を変更する構成を有している。
【0014】
上記構成により、声音信号分割比または背景音信号分割比を変更することにより声音の明瞭度を改善できることとなる。
【0015】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、前記第1の変換部が1つの第1のスピーカで構成され、前記第2の変換部が1つの第2のスピーカで構成される。
【0016】
上記構成により、声音信号分割比または背景音信号分割比を変更することにより2つのスピーカ間に生成される仮想声音スピーカと仮想背景音スピーカの位置を上下に変更して声音の明瞭度を改善できることとなる。
【0017】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、前記第1の変換部が第1の水平面内に配置される少なくとも2つの第1のスピーカ群で構成され、前記第2の変換部が前記第1の水平面と所定距離隔てた第2の水平面内に配置される少なくとも2つの第2のスピーカ群で構成され、
前記声音信号分割部が前記声音信号を所定の声音信号分割比に従って第1の声音信号と第2の声音信号に分割するとともに前記第1の声音信号を所定の第1の声音信号分配比に従って前記第1のスピーカ群を構成するスピーカに分配し、前記第2の声音信号を所定の第2の声音信号分配比に従って前記第2のスピーカ群を構成するスピーカに分配するものであり、
前記背景音信号分割部が前記背景音信号を所定の背景音信号分割比に従って第1の背景音信号と第2の背景音信号に分割するとともに前記第1の背景音信号を所定の第1の背景音信号分配比に従って前記第1のスピーカ群を構成するスピーカに分配し前記第2の背景音信号を所定の第2の背景音信号分配比に従って前記第2のスピーカ群を構成するスピーカに分配するものであり、
前記相対位置関係変更手段が、前記要求明瞭度に応じて前記声音信号分割比、前記背景音信号分割比、前記第1の声音信号分配比、前記第2の声音信号分配比、前記第1の背景音信号分配比および前記第2の背景音信号分配比の1つを変更するものである構成を有している。
【0018】
上記構成により、声音信号分割比、背景音信号分割比、前記第1の声音信号分配比、前記第2の声音信号分配比、前記第1の背景音信号分配比および前記第2の背景音信号分配比の少なくとも1つを変更することにより2つのスピーカ間に生成される仮想声音スピーカと仮想背景音スピーカの位置を上下左右に変更して声音の明瞭度を改善できることとなる。
【0019】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、前記相対位置関係変更手段が、前記声音信号分割比または前記背景音信号分割比の変更を、前記第1の声音信号分配比、前記第2の声音信号分配比、前記第1の背景音信号分配比および前記第2の背景音信号分配比の少なくとも1つの変更より優先させる構成を有している。
【0020】
上記構成により、可聴音の放射位置の変化を抑制しつつ声音の明瞭度を改善できることとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置によれば、声音と背景音のレベルバランスを変更することなく、声音の明瞭度を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態のブロック線図である。
【図2】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態のハードウエア構成図である。
【図3】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態に適用する第1の信号処理プログラムのフローチャートである。
【図4】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態におけるスピーカ配置図である。
【図5】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の効果を示すグラフである。
【図6】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態におけるスピーカ配置図である。
【図7】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態のブロック線図である。
【図8】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態に適用する第2の信号処理プログラムのフローチャートである。
【図9】本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態における仮想スピーカ配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、声音信号Sを声音放射位置Pから放射される声音Lに変換する声音変換手段と、背景音信号Sを背景音放射位置Pから放射される背景音Lに変換する背景音変換手段と、声音Lと背景音Lとを同時再生したときの声音Lに対する明瞭度の要求値である要求明瞭度Cを設定する要求明瞭度設定手段と、要求明瞭度Cに応じて声音放射位置Pと背景音放射位置Pとの相対位置関係を変更する相対位置関係変更手段とを備える。
【0024】
以下図面を参照しつつ本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態のブロック線図であって、声音信号を所定の声音信号分割比に従って第1の声音信号と第2の音声信号とに分割する声音信号分割部11と、背景音信号を所定の背景音信号分割比に従って第1の背景音信号と第2の背景音信号とに分割する背景音信号分割部12と、第1の声音信号と第1の背景音信号とを第1の可聴音に変換する第1の変換部13と、第2の声音信号と第2の背景音信号とを第2の可聴音に変換する第1の変換部13の下方に配置される第2の変換部14と、声音に対する明瞭度の要求値である要求明瞭度を設定する要求明瞭度設定部15と、要求明瞭度に応じて声音信号分割比または背景音信号分割比を制御する制御部16とから構成されている。
【0025】
そして、第1の実施形態においては、第1の変換部13および第2の変換部14はそれぞれ1つのスピーカで構成されている。
【0026】
即ち、第1の実施形態においては、声音変換手段は声音信号分割部11と第1の変換部13とで構成され、背景音変換手段は背景音信号分割部12と第2の変換部14とで構成され、要求明瞭度設定手段は要求明瞭度設定部15で構成され、相対位置関係変更手段は制御部16により構成される。
【0027】
図2は、第1の実施形態のハードウエア構成図であって、テレビジョン放送波あるいはラジオ放送波を受信再生する場合を示している。
【0028】
搬送波に重畳されて伝送されてきた声音信号Sおよび背景音信号Sはチューナ21で受信、検波、分離されて、信号処理部22に送られる。
【0029】
信号処理部22は、いわゆるマイクロプロセッサシステムであり、バス220を中心として、CPU221、メモリ222、アナログ・デジタル変換部(以下A/Dと記す)223、デジタル・アナログ変換部(以下D/Aと記す)224、周辺機器225および周辺機器用インターフェイス(以下I/Oと記す)226を含む。
【0030】
A/D223はチューナ21から伝送されるアナログ信号である声音信号Sおよび背景音信号Sをデジタル信号に変換するために使用され、D/A224は信号処理部内で生成された第1の可聴音信号Mおよび第2の可聴音信号Mをアナログ信号に変換するために使用される。
【0031】
周辺機器225は、ディスプレイ、キーボードおよび例えばマウスであるポインティングデバイスから構成され、声音信号分割比rまたは背景音信号分割比rを設定するために使用される。なお、周辺機器225に代えて専用の操作機器(例えば可変抵抗器)により声音信号分割比rまたは背景音信号分割比rを設定するようにしてもよい。
【0032】
D/A224から出力された第1の可聴音信号Mは第1の増幅器23で増幅され、第1のスピーカ24で第1の可聴音Lに変換される。
【0033】
D/A224から出力された第2の可聴音信号Mは第2の増幅器25で増幅され、第2のスピーカ26で第2の可聴音Lに変換される。
【0034】
即ち、声音信号分割部11および背景音信号分割部12は、チューナ21および信号処理部22の一部で構成される。
【0035】
第1の変換部13は信号処理部22の一部と第1の増幅器23および第1のスピーカ24で構成され、第2の変換部14は信号処理部22の一部と第2の増幅器25および第2のスピーカ26で構成される。
【0036】
また、要求明瞭度設定部15および制御部16は信号処理部22に含まれることとなる。
【0037】
以下に図3のフローチャートを参照しつつ、本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第1の実施形態の動作を説明する。
【0038】
図3は信号処理部22にインストールされる第1の信号処理プログラムのフローチャートであって、所定時間(例えば、21.3ミリ秒)ごとに時間割り込み信号により起動される。
【0039】
まず、CPU221は、A/D223を介してチューナ21から出力される声音信号Sおよび背景音信号Sを読み込み(ステップS31)、次に周辺機器225に設定された声音信号分割比rまたは背景音信号分割比rを読み込む(ステップS32)。
【0040】
CPU221は、声音信号Sに声音信号分割比rを乗算して第1の声音信号Vを算出し(ステップS33)、声音信号Sに(1−声音信号分割比r)を乗算して第2の声音信号Vを算出する(ステップS34)。
【0041】
さらに、CPU221は、背景音信号Sと背景音信号分割比rとを乗算して第1の背景音信号Bを算出し(ステップS35)、背景音信号Sと(1−背景音信号分割比r)とを乗算して第2の背景音信号Bを算出する(ステップS36)。
【0042】
次に、CPU221は、第1の声音信号Vと第1の背景音信号Bとを加算して第1の可聴音信号Mを算出し(ステップS37)、第2の声音信号Vと第2の背景音信号Bとを加算して第2の可聴音信号Mを算出する(ステップS38)。
【0043】
最後に、CPU221はD/A224を介して第1の可聴音信号Mおよび第2の可聴音信号Mを出力してこのプログラムを終了する。
【0044】
図4は聴取位置Pの正面Pに第2のスピーカ26を、第2のスピーカ26の直上で聴取位置Pから見た仰角が2φの位置Pに第1のスピーカ24を配置した場合のスピーカ配置図である。
【0045】
声音信号Sに対する第1のスピーカ24のゲインをgV1、第2のスピーカ26のゲインをgV2とすると、声音信号Sは第1のスピーカ24と第2のスピーカ26の間に位置する仮想声音スピーカ41から放射されているとみなすことができる。
【0046】
仮想声音スピーカ41の仰角をφ+φ(仰角2φの二等分線を基準として反時計回りの角度を正、時計周りの角度を負で表す。)とすると、φは[数1]により算出することができる。
【0047】
【数1】

【0048】
背景音信号Sに対する第1のスピーカ24のゲインをgB1、第2のスピーカ26のゲインをgB2とすると、背景音信号Sは第1のスピーカ24と第2のスピーカ26の間に位置する仮想背景音スピーカ42から放射されているとみなすことができる。
【0049】
仮想背景音スピーカ42の仰角をφ+φとすると、φは[数2]により算出することができる。
【0050】
【数2】

【0051】
なお、声音信号分割比rおよび背景音信号分割比rと声音信号Sに対する第1のスピーカ24のゲインgV1および第2のスピーカ26のゲインgV2との関係、ならびに、声音信号分割比rおよび背景音信号分割比rと背景音信号Sに対する第1のスピーカ24のゲインgB1および第2のスピーカ26のゲインgB2との関係は[数3]により表される。
【0052】
【数3】

【0053】
従って、声音信号分割比rあるいは背景音信号分割比rを変更することによって仮想声音スピーカ41および仮想背景音スピーカ42の位置を変更できることとなる。
【0054】
図5は本発明の効果を示すグラフであって、声音として単語および単音節を、背景音としてノイズおよび音楽を使用し、声音および背景音を同時に聴取した場合に声音の聞きとり正答率を示している。
【0055】
図5から、声音と背景音を同方向から出力する場合よりも異方向から出力する場合の方が正答率は向上すること、および若年者の方が高齢者よりも正答率が高いことが判る。
【0056】
また、聴取位置Pから仮想声音スピーカ41および仮想背景音スピーカ42を見込む角度θ(=φ−φ)と背景音のレベルの低下量C(dB)の間には、[数4]の関係式が成立することが実験的に判明している。
【0057】
【数4】

【0058】
従って、聴取位置Pから仮想声音スピーカ41および仮想背景音スピーカ42を見込む角度θを60°とすれば、声音と背景音のレベルを変更することなく声音の明瞭度を3dB程度向上させることが可能となる。
【0059】
本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置は、以下のような状況において特に有用である。
【0060】
即ち、番組制作者により最適なレベルバランスに調整して送出されたドラマ等声音と背景音が同時に再生されるプログラムを聴取する場合に、高齢者をはじめとする聴力弱者にとっては声音が明瞭でないことが考えられる。
【0061】
このような場合に、聴力弱者は声音信号分割比rあるいは背景音信号分割比rを変更し、仮想声音スピーカ41と仮想背景音スピーカ42の相対位置を変更することにより、声音と背景音のレベルバランスを変更することなく声音の明瞭度を向上させることができる。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態について説明する。
【0063】
第1の実施形態ではそれぞれ1つのスピーカで構成されていた第1の変換部13および第2の変換部14が、第2の実施形態ではそれぞれ第1の水平面および第2の水平面から所定距離下方の第2の水平面内に配置された複数のスピーカで構成される。
【0064】
図6は第2の実施形態におけるスピーカ配置の一例であって、聴取位置Pを含む第2の水平面内に聴取位置Pを取り囲むように4つのスピーカ741、742、743および744から成る第2のスピーカ群74が、第2の水平面から所定距離上方の第1の水平面内に聴取位置Pを取り囲むように4つのスピーカ731、732、733および734から成る第1のスピーカ群73が配置されている例を示している。
【0065】
図7は、本発明に係る明瞭度改善機能付再生装置の第2の実施形態のブロック線図であって、声音信号分割部71と、背景音信号分割部72と、スピーカ731、732、733および734から成る第1のスピーカ群73と、スピーカ741、742、743および744から成る第2のスピーカ群74と、要求明瞭度設定部75と、制御部76とから構成されている。
【0066】
声音信号分割部71は、声音信号に声音信号分割比rを乗じた第1の声音信号を第1のスピーカ群73を構成する各スピーカに第1の声音信号分配比に従って分配するとともに、声音信号に(1−声音信号分割比r)を乗じた第2の音声信号を第2のスピーカ群74を構成する各スピーカに第2の声音信号分配比に応じて分配する。
【0067】
背景音信号分割部72は、背景音信号に背景音信号分割比rを乗じた第1の背景音信号を第1のスピーカ群73を構成する各スピーカに第1の背景音信号分配比に応じて分配するとともに、背景音信号に(1−背景音信号分割比r)を乗じた第2の背景音信号を第2のスピーカ群74を構成する各スピーカに第2の背景音信号分配比に応じて分配する。
【0068】
第1のスピーカ群73を構成する各スピーカは、第1の声音信号と第1の背景音信号とを第1の可聴音に変換する。
【0069】
第2のスピーカ群74を構成する各スピーカは、第2の声音信号と第2の背景音信号とを第2の可聴音に変換する。
【0070】
要求明瞭度設定部75は声音に対する明瞭度の要求値である要求明瞭度を設定し、制御部76は要求明瞭度に応じて声音信号分割比r、背景音信号分割比r、第1の声音信号分配比、第2の声音信号分配比、第1の背景音信号分配比および第2の背景音信号分配比の少なくとも1つを制御する。
【0071】
なお、第2の実施形態のハードウエア構成は、第1の実施形態ではそれぞれ1つのスピーカであった第1の変換部13および第2の変換部14が、第2の実施形態ではそれぞれ同一水平面に配置された複数のスピーカで構成される以外に相違点はないので、図示を省略する。
【0072】
図8は信号処理部22にインストールされる第2の信号処理プログラムのフローチャートであって、ステップS31からステップS36までの処理は第1の信号処理プログラムの処理と同一であるので、説明を省略する。
【0073】
CPU221は、ステップS36の処理が終了すると、スピーカ群を構成するスピーカを特定するためのインデックスiを初期値"1"に設定する(ステップS81)。
【0074】
次に、CPU221は[数5]により、第1のスピーカ群73を構成するi番目のスピーカに出力する第1の可聴音信号M1iおよび第2のスピーカ群74を構成するi番目のスピーカに出力する第2の可聴音信号M2iを算出する(ステップS82およびステップS83)。
【0075】
【数5】

【0076】
CPU221は、第1のスピーカ群73を構成するi番目のスピーカに出力する第1の可聴音信号M1iおよび第2のスピーカ群74を構成するi番目のスピーカに出力する第2の可聴音信号M2iを出力し(ステップS84)、インデックスiが各スピーカ群を構成するスピーカの個数である"4"に到達したか否かを判定する(ステップS85)。
【0077】
CPU221は、ステップS85で否定判定した場合はインデックスiをインクリメントして(ステップS86)、ステップS82の処理に戻る。
【0078】
一方、CPU22は、ステップS85で肯定判定した場合はこのプログラムを終了する。
【0079】
以上の説明から理解できるように、第1の実施形態では声音と背景音の放射位置を鉛直方向だけにしか移動させることができなかったが、第2の実施形態においては声音と背景音の放射位置を水平方向にも移動させることが可能となる。
【0080】
同一水平面に配置された2つのスピーカから声音または背景音を放射する場合にも、[数1]および[数2]を適用して仮想声音スピーカおよび仮想背景音スピーカの位置を定めることができる。
【0081】
また、[数1]および[数2]を繰り返し適用することによって、1つのスピーカ群が3個以上のスピーカから構成されている場合にも、仮想声音スピーカおよび仮想背景音スピーカの位置を定めることができる。
【0082】
さらに、2つの仮想スピーカに対しても、[数1]および[数2]を適用してさらなる仮想スピーカの位置を定めることもできる。
【0083】
図9は聴取位置Pから仰角θの位置に仮想声音スピーカが、方向角δの位置に仮想背景音スピーカが配置されている場合の仮想スピーカ配置図である。
【0084】
この場合、背景音のレベルの低下量C(dB)の間には、[数6]の関係式が成立することが実験的に判明している。
【0085】
【数6】

【0086】
なお、声音と背景音の放射位置を鉛直方向だけでなく水平方向にも移動させることが可能である場合は、まず声音の放射位置を上方に移動させて声音の明瞭度を上げ、さらに明瞭度が不足する場合は背景音の放射位置を水平方向に移動させることが有効である。
【0087】
これは、人間は可聴音放射位置の水平方向の変化に対する認識能力よりも上下方向の変化に対する認識能力が低いからである。
【0088】
即ち、声音放射位置と背景音放射位置を上下方向に変化させると、放射位置の変更を認識することなく声音の明瞭度を向上させることができるのに対し、声音放射位置と背景音放射位置を左右方向に変化させると、声音の明瞭度を向上させることもできるが、放射位置の変更も認識してしまうこととなるからである。
【0089】
例えば、声音の明瞭度をDdB(例えば6dB)改善したい場合を想定すると、仮想声音スピーカを聴取位置Pの直上に配置したとしてもθ=90°、(sinθ)=1となり、明瞭度は4dBしか向上しない。
【0090】
さらに、仰角θを60°以上としても明瞭度はほとんど向上しないことが実験的に判明している。そこで、仰角θの最大値を60°とすることが実際的である。
【0091】
そこで、声音の明瞭度をDdB改善したい場合には、仮想声音スピーカを仰角60°の位置に配置する。これにより、声音の明瞭度は3dB向上する。
【0092】
DdBが3dB以上である場合には、声音の明瞭度を改善するために仮想背景音スピーカの位置を、聴取位置Pを中心とする水平円上で回転移動させる。
【0093】
このときの回転角δは[数7]により算出することができる。
【0094】
【数7】

【0095】
D=6dBの場合には、仮想背景音スピーカの位置を聴取位置Pの正面から約45°回転移動させることが必要となることが判る。
【0096】
上記の実施形態においては、声音および背景音はスピーカから放射されるものとしたが、ヘッドフォンを装着した聴取者に対してはスピーカに供給される可聴音信号とスピーカから聴取者の左右耳までの可聴音の伝達経路の伝達関数(HRTF)を畳み込み積分した信号をヘッドフォンに供給することにより、同等の効果を得ることができる。
【0097】
なお、実施形態として説明はしないが、声音と背景音を別個のスピーカから放射し、声音の明瞭度を改善するためにスピーカを物理的に移動させてもよいことは明らかであり、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、声音と背景音が同時に再生される場合に、声音と背景音の音量バランスを変更することなく声音の明瞭度を改善することが可能となり、聴覚障害者用受信機等に適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
11、71...声音信号分割部
12、72...背景音信号分割部
13...第1の変換部
14...第2の変換部
15、75...要求明瞭度設定部
16、76...制御部
21...チューナ
22...信号処理部
23...第1の増幅器
24...第1のスピーカ
25...第2の増幅器
26...第2のスピーカ
41...仮想声音スピーカ
42...仮想背景音スピーカ
73...第1のスピーカ群
74...第2のスピーカ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
声音信号を声音放射位置から放射される声音に変換する声音変換手段と、
背景音信号を背景音放射位置から放射される背景音に変換する背景音変換手段と、
前記声音と前記背景音とを同時再生したときの前記声音に対する明瞭度の要求値である要求明瞭度を設定する要求明瞭度設定手段と、
前記要求明瞭度に応じて前記声音放射位置と前記背景音放射位置との相対位置関係を変更する相対位置関係変更手段とを備える明瞭度改善機能付再生装置。
【請求項2】
前記声音変換手段および前記背景音変換手段が、
前記声音信号を所定の声音信号分割比に従って第1の声音信号と第2の声音信号に分割する声音信号分割部と、
前記背景音信号を所定の背景音信号分割比に従って第1の背景音信号と第2の背景音信号に分割する背景音信号分割部と、
前記第1の声音信号および前記第1の背景音信号を第1の可聴音に変換する第1の変換部と、
前記第2の声音信号および前記第2の背景音信号を第2の可聴音に変換する、前記第1の変換部の下方に配置される第2の変換部とで構成され、
前記相対位置関係変更手段が、前記要求明瞭度に応じて前記声音信号分割比または前記背景音信号分割比を変更するものである請求項1に記載の明瞭度改善機能付再生装置。
【請求項3】
前記第1の変換部が1つの第1のスピーカで構成され、前記第2の変換部が1つの第2のスピーカで構成される請求項2に記載の明瞭度改善機能付再生装置。
【請求項4】
前記第1の変換部が第1の水平面内に配置される少なくとも2つの第1のスピーカ群で構成され、
前記第2の変換部が前記第1の水平面と所定距離隔てた第2の水平面内に配置される少なくとも2つの第2のスピーカ群で構成され、
前記声音信号分割部が、前記声音信号を所定の声音信号分割比に従って第1の声音信号と第2の声音信号に分割するとともに、前記第1の声音信号を所定の第1の声音信号分配比に従って前記第1のスピーカ群を構成するスピーカに分配し、前記第2の声音信号を所定の第2の声音信号分配比に従って前記第2のスピーカ群を構成するスピーカに分配するものであり、
前記背景音信号分割部が、前記背景音信号を所定の背景音信号分割比に従って第1の背景音信号と第2の背景音信号に分割するとともに、前記第1の背景音信号を所定の第1の背景音信号分配比に従って前記第1のスピーカ群を構成するスピーカに分配し、前記第2の背景音信号を所定の第2の背景音信号分配比に従って前記第2のスピーカ群を構成するスピーカに分配するものであり、
前記相対位置関係変更手段が、前記要求明瞭度に応じて前記声音信号分割比、前記背景音信号分割比、前記第1の声音信号分配比、前記第2の声音信号分配比、前記第1の背景音信号分配比および前記第2の背景音信号分配比の少なくとも1つを変更するものである請求項2に記載の明瞭度改善機能付再生装置。
【請求項5】
前記相対位置関係変更手段が、前記声音信号分割比または前記背景音信号分割比の変更を、前記第1の声音信号分配比、前記第2の声音信号分配比、前記第1の背景音信号分配比および前記第2の背景音信号分配比の少なくとも1つの変更より優先させるものである請求項4に記載の明瞭度改善機能付再生装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−206499(P2010−206499A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49506(P2009−49506)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【Fターム(参考)】