説明

映像品質評価装置および方法

【課題】視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮して、視聴者が実感する品質を高精度に推定する。
【解決手段】単位時間映像品質評価値推定部11により、入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定して記憶部12へ格納し、総合映像品質評価値推定部13により、記憶部12から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定し、総合映像品質評価値補正部14により、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて前記総合映像品質評価値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質評価技術に関し、特にネットワークを介して配信された映像について視聴者が実感する品質(主観品質)を評価する映像品質評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットアクセス回線のブロードバンド化に伴い、商用の映像配信サービスが普及してきている。このようなネットワークを用いて視聴者に映像を配信する技術は大きく2つに分けられる。1つはネットワーク上の映像配信サーバから映像データを視聴者端末にファイル転送し、転送終了後に映像を再生するダウンロード技術である、もう1つの方法は、ネットワーク上の映像配信サーバから映像データをダウンロードしながら再生するストリーミング技術である。映像配信を行う場合、現在では後者の技術が広く認知されており、Windows Media(登録商標)、Real、QuickTime(登録商標)等の多くの映像配信システムがこの技術を採用している。
【0003】
ストリーミング技術を用いて視聴者に映像配信する場合、映像配信システムと視聴者端末間のネットワークが混雑すると、高品質な映像を配信するのに十分なネットワーク伝送帯域を使用することができず、映像データが欠落する場合がある。これにより、符号化映像を正しく復号することができず、再生映像にブロック状の歪みやフリーズ等が発生するため、視聴者が実感する主観的な映像品質が低下してしまう。
【0004】
この品質劣化を軽減するため、上記映像配信システムでは、多段階の品質の符号化映像を作成し、利用できるネットワーク帯域に応じて最適な符号化速度の映像を配信する等の処理が行われている。
具体的には、視聴者端末で映像配信システムから正確に受信できなかったデータ量(パケット損失量)やデータ到着の時間的なゆらぎ(遅延ゆらぎ量)の情報、あるいは、視聴者端末に既に到着している再生前のデータ量(バッファリング量)の情報等を映像配信システムに返信し、これらの情報から映像配信システムと視聴者端末間のネットワークの混雑度合いを推定している。映像配信システムと視聴者端末間が混雑している場合、映像配信システムはその視聴者端末に対する映像の伝送帯域を1段階低下させる。
【0005】
これにより、必要となるネットワーク伝送帯域が低下するため、符号化速度の低下に伴う映像品質劣化は発生するものの、データ損失(パケット損失)等による映像の歪み・フリーズ、音の途切れ等のような重大な品質劣化現象を避けることが可能となる。例えば、クライアント毎のストリーミング受信アプリケーションに実際の通信環境に即した適正な接続速度パラメータを自動設定可能であるストリーミング・メディア・サーバーが考案されている。
【0006】
このような映像配信システムを用いると、映像の配信ビットレートが時間的に変動するため、視聴者が実感する品質も時間的に変動することになる。また、配信ビットレートを動的に変動させないシステムにおいても、品質劣化が非定常に発生することになるため、前述の場合と同様に、映像品質が時間的に変動することになる。したがって、ネットワークを用いて配信された映像に対して視聴者が実感する品質を評価するためには、時間的に変動する品質をどのように評価するかが課題となる。従来の品質評価技術では、10秒程度の映像を視聴してその品質を評価するという方法が一般的であるが、(1)配信ビットレートの時間変動が数秒以上の単位で発生することを考慮すると、10秒程度の映像では様々な時間変動を模擬して評価できないことや(2)視聴者が映像コンテンツの意味を理解するためにはある程度の時間長が必要であること等から、数分単位での品質評価が必要となる。
【0007】
従来、このような課題を解決する方法の一例として、単位時間毎に得られた映像品質評価の時系列データから品質変動の影響と視聴者の品質劣化の忘却特性を考慮して、任意の評価期間内における映像品質を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照、非特許文献1−3など参照)。また文献2では、10秒程度の映像の品質評価値の平均値を用いて3分間の品質評価値を推定しても、品質評価推定精度が非常に悪くなることを示している。
【0008】
【特許文献1】特開2004−172753号公報
【非特許文献1】川口銀河,林孝典、「映像配信サービスにおけるビットレート変動の影響の主観品質評価」、2002年7月、社団法人電子情報通信学会、コミュニケーションクオリティ研究会、CQ2002-71
【非特許文献2】川口銀河,林孝典,岡本淳,高橋玲、「QoS制御下の映像配信サー一ビスの主観品質推定モデル」、2003年、社団法人電子情報通信学会、総合大会SB-7-1
【非特許文献3】川口銀河,林孝典,岡本淳,高橋玲、「マルチビットレート映像配信サービスにおけるQoS制御方式の検討」、2004年9月、社団法人電子情報通信学会、コミュニケーションクオリティ研究会、CQ2004-78
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような従来技術では、映像符号化速度が時間的に変動する場合でも、ある程度の精度でユーザが実感する映像品質を評価できるものの、ユーザの映像品質評価特性における、単位時間の映像を視聴した場合の品質評価特性(短時間視聴時の品質評価特性)と単位時間よりも長い評価時間の映像を視聴した場合の品質評価特性(長時間視聴時の品質評価特性)の違いを考慮していないため、品質評価値の大きさによっては品質推定精度が低くなるという問題点があった。
【0010】
図10に示すように、例えば10秒程度の単位時間の映像に対する品質が比較的良いと判断された場合、単位時間よりも長い例えば3分程度の評価期間分継続して同じ品質レベルの映像を視聴した場合の評価値は、単位時間の品質評価値よりも高く評価される傾向がある。逆に、10秒程度の単位時間の映像に対する品質が比較的悪いと判断された場合、単位時間よりも長い例えば3分程度の評価期間分継続して同じ品質レベルの映像を視聴した場合の評価値は、単位時間の品質評価値よりも低く評価される傾向がある。従来技術では、このような特性を反映できておらず、品質評価値が高い領域と低い領域で推定精度が低くなってしまうという問題がある。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮して、視聴者が実感する品質を高精度に推定できる映像品質評価装置および方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明にかかる映像品質評価装置は、ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置であって、入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定して記憶部へ格納する単位時間映像品質評価値推定部と、記憶部から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する総合映像品質評価値推定部と、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正部とを備えている。
【0013】
この際、総合映像品質評価値補正部で、総合映像品質評価値推定部で推定された総合映像品質評価値が高い場合はさらに高く、かつ総合映像品質評価値推定部で推定された総合映像品質評価値が低い場合はさらに低くなるよう補正するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明にかかる映像品質評価方法は、ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置で用いられ、配信映像から単位時間毎に得た単位時間映像品質評価値のうち、所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値に基づき、当該評価期間における配信映像に対して視聴者が実感する品質を総合映像品質評価値として推定する映像品質評価方法であって、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正ステップを備えている。
【0015】
また、本発明にかかる他の映像品質評価方法は、ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置で用いられる映像品質評価方法であって、単位時間映像品質評価値推定部により、入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定して記憶部へ格納する単位時間映像品質評価推定ステップと、総合映像品質評価値推定部により、記憶部から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する総合映像品質評価値推定ステップと、総合映像品質評価値補正部により、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正ステップとを備えている。
【0016】
この際、総合映像品質評価値補正ステップで、総合映像品質評価値推定ステップで推定された総合映像品質評価値が高い場合はさらに高く、かつ総合映像品質評価値推定ステップで推定された総合映像品質評価値が低い場合はさらに低くなるよう補正してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、入力された映像信号の映像品質評価値が単位時間毎に単位時間映像品質評価値として時系列で推定されて、所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値が推定され、得られた総合映像品質評価値に対して視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮して補正が行われるため、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮し、視聴者が実感する品質を高精度に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置の構成を示すブロック図である。
この映像品質評価装置1は、パーソナルコンピュータなどの通信機能を有する情報処理装置からなり、インターネットなどのネットワーク3を介して配信サーバ2から配信された映像について視聴者が実感する品質(主観品質)を評価する機能を有している。
【0019】
本実施の形態は、入力された映像信号の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として時系列で推定し、所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定し、得られた総合映像品質評価値に対して視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮して補正を行うようにしたものである。
【0020】
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかる映像品質評価装置の構成について詳細に説明する。映像品質評価装置1には、主な機能部として、単位時間映像品質評価値推定部11、単位時間映像品質評価値記憶部12、総合映像品質評価値推定部13、および総合映像品質評価値補正部14が設けられている。
【0021】
これら機能部のうち、単位時間映像品質評価値推定部11、総合映像品質評価値推定部13、および総合映像品質評価値補正部14は、各種演算処理を行う演算処理部から構成される。演算処理部ついては、専用の演算処理回路で構成してもよいが、CPUとその周辺回路を用いて、CPU内部や周辺回路のメモリからプログラムを読み込んで実行することにより、上記ハードウェアとプログラムとを協働させて上記機能部を実現させてもよい。
また、単位時間映像品質評価値記憶部12は、ハードディスクやメモリなどの記憶装置から構成される。
【0022】
単位時間映像品質評価値推定部11は、入力された映像信号の映像品質評価値を単位時間(短時間)毎に単位時間映像品質評価値として時系列で推定する機能と、単位時間映像品質評価値記憶部12に格納する機能とを有している。
総合映像品質評価値推定部13は、単位時間映像品質評価値記憶部12から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得する機能と、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する機能とを有している。
総合映像品質評価値補正部14は、推定された総合映像品質評価値を所定の補正関数に基づいて補正する機能を有している。
【0023】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置の動作について説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置の映像品質評価処理を示すフローチャートである。
映像品質評価装置1は、ネットワーク3を介して配信サーバ2から配信された映像について視聴者が実感する品質(主観品質)を評価する場合、図2の映像品質評価処理を実行する。
【0024】
図2の映像品質評価処理において、映像品質評価装置1は、まず、単位時間映像品質評価値推定部11により、配信映像から単位時間毎、例えば10秒毎に単位時間映像品質評価値を時系列でそれぞれ推定し、これら単位時間映像品質評価値を単位時間映像品質評価値記憶部12へ格納する(ステップ100)。
次に、総合映像品質評価値推定部13により、単位時間映像品質評価値記憶部12から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら各単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する(ステップ101)。
続いて、総合映像品質評価値補正部14により、推定された総合映像品質評価値を所定の補正関数に基づいて補正し(ステップ102)、一連の映像品質評価処理を終了する。
【0025】
次に、図3〜図5を参照して、図2の映像品質評価処理を構成する各処理ステップについて詳細に説明する。図3は、単位時間映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。図4は、総合映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。図5は、総合映像品質評価値補正処理を示すフローチャートである。
【0026】
まず、図3を参照して、単位時間映像品質評価値推定処理について説明する。図2の映像品質評価処理のステップ100において、単位時間映像品質評価値推定部11は、図3の単位時間映像品質評価値推定処理を実行する。
図3の単位時間映像品質評価値推定処理において、単位時間映像品質評価値推定部11は、まず、入力された配信映像の符号化ビットレートを取得して(ステップ110)、この符号化ビットレートから単位時間毎、例えば10秒毎の映像品質評価値すなわち単位時間映像品質評価値を順次算出する(ステップ111)。
【0027】
単位時間映像品質評価値を算出する際、符号化ビットレートと単位時間映像品質評価値の対応関係を事前に求めておいて、符号化ビットレートを単位時間映像品質評価値へ変換すればよい。具体的には、品質評価対象とする映像配信アプリケーションにおいて、符号化ビットレートを変更した映像の主観品質評価特性を事前に求め、例えばデータベース化しておく。映像品質は平均オピニオン評点(MOS:Mean Opinion Score)を用い、「非常に良い」、「良い」、「普通」、「悪い」、「非常に悪い」の5段階の品質評価尺度に対してそれぞれ5〜1点を付け、16名以上の評価者が投票した得点の平均値を平均オピニオン評点と呼ぶ)で表現する。
【0028】
主観評価実験方法の詳細は、国際標準化機関ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)勧告P.910に記載されている。同じ符号化ビットレートの映像でも、映像の動き量や細かさの違いにより実現される品質は異なるため、多くの評価映像に対する評価結果を用い、その平均値などを主観品質評価値の代表値として定義することにより求めることができる。この単位時間映像品質評価値は、例えば10秒間の映像を評価して導出する。また、ITU−T勧告J.144に記載されている映像品質客観評価法を用いて、符号化ビットレートと単位時間の映像品質評価値の対応関係を導出することも可能である。
【0029】
その後、単位時間映像品質評価値推定部11は、得られた各単位時間映像品質評価値を時系列で単位時間映像品質評価値記憶部12へ格納し(ステップ112)、一連の単位時間映像品質評価値推定処理を終了する。
これら単位時間映像品質評価値は、総合映像品質評価値推定の元データとなる。本実施の形態では、所望の評価期間を3分間とし、この評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定している。図3のステップ111では、単位時間を10秒間とし、この単位時間の符号化ビットレート毎に単位時間映像品質評価値を求めているが、ここでは1秒間の映像品質も10秒間の映像品質と同等であると仮定し、3分間180個の単位時間映像品質評価値を格納しておく。
【0030】
次に、図4を参照して、総合映像品質評価値推定処理について説明する。図2の映像品質評価処理のステップ102において、総合映像品質評価値推定部13は、図4の総合映像品質評価値推定処理を実行する。
図4の総合映像品質評価値推定処理において、総合映像品質評価値推定部13は、まず、単位時間映像品質評価値記録部12から過去3分間の評価期間内に得られた180個の単位時間映像品質評価値を取得する(ステップ120)。
【0031】
続いて、総合映像品質評価値推定部13は、品質変動の影響と視聴者の品質劣化の忘却特性を考慮して、評価期間における配信映像の総合映像品質評価値を推定するため、180個の単位時間映像品質評価値のデータ群を品質劣化量および経過時間長で加重平均化された総合品質評価値を導出する。
具体的には、まず、時刻tの平均オピニオン評点をMOS(t)とし、現在時刻t=0から3分前の時刻t=−180のMOS(t)を用いて、式(1)により平均オピニオン評点MOS(t)を心理的な距離尺度であるQ(t)に変換する(ステップ121)。
【0032】
【数1】

【0033】
次に、このQ(t)のデータ群に対して、式(2)により、心理的な距離尺度上で総合映像品質評価値Qestを算出して(ステップ122)、総合映像品質評価値補正部14へ出力し(ステップ123)、一連の総合映像品質評価値推定処理を終了する。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、wおよびTは定数を表し、それぞれ、w=0.355、T=441の値をとる。数式(2)の右辺のexp{−wQ(t)}は劣化が大きいほど、すなわちQ(t)が小さい値をとるほど、総合映像品質に与える影響が強くなることを考慮した項を表している。また、exp(t/T)は時間的に後で発生した劣化の影響が前に発生したそれと比べて大きいことを考慮した項を表している。
【0036】
次に、図5を参照して、総合映像品質評価値補正処理について説明する。図2の映像品質評価処理のステップ103において、総合映像品質評価値補正部14は、図5の総合映像品質評価値補正処理を実行する。
図5の総合映像品質評価値補正処理において、総合映像品質評価値補正部14は、まず、単位時間映像品質評価値推定部13から過去3分間の評価期間における総合映像品質評価値Qestを取得する(ステップ130)。
【0037】
続いて、総合映像品質評価値補正部140は、式(3)により、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを補正した総合映像品質評価値補正値Qest_cを算出する(ステップ131)。図6は、補正前後の映像品質評価特性の違いを示す説明図であり、式(3)はこれら特性の違いを補正する関数である。式(3)において、c1〜c3は定数を表し、例えば、c1=0.117、c2=0.145、c3=1.049の値をとる。ここでは、総合映像品質評価値推定部140で推定された総合映像品質評価値が高い場合はさらに高くなるよう補正し、かつ総合映像品質評価値推定部140で推定された総合映像品質評価値が低い場合はさらに低くなるよう補正する。
【0038】
【数3】

【0039】
次に、総合映像品質評価値補正部140は、式(4)により、心理的な距離尺度上で表現された総合映像品質評価値補正値Qest_cを、元の評価尺度上、ここでは平均オピニオン評点での総合映像品質評価値MOSallへ変換し(ステップ132)、評価期間における配信映像に対応する所望の総合映像品質評価値15として出力し(ステップ133)、一連の総合映像品質評価値補正処理を終了する。
【0040】
【数4】

【0041】
図7は、配信映像から得られた映像品質評価値(補正有り)の推定精度を示す説明図である。図8は、配信映像から得られた映像品質評価値(補正無し)の推定精度を示す説明図である。
図7において、横軸は視聴者が評価期間3分間の映像を視聴して実感した主観品質評価値を示し、縦軸は本実施の形態にかかる映像品質評価装置で得られた主観品質評価値の推定値(MOSall)を示している。ここでは、2種類のコンテンツA,Bに適用した場合の推定結果がプロットされている。
【0042】
一方、図8には、前述した式3の補正を行わず、式2で得られたQestをQest_cとしてそのまま式4に代入してMOS値へ逆変換して得た品質評価値の推定結果がプロットされている。
主観品質評価値自体が持つ統計的ばらつき(95%信頼区間)の平均値MCI(Mean of 95% Confidence Interval)が0.23であるのに対して、図7における推定誤差(RMSE:Root Mean Square Error)がMCIより小さい0.19であり、図8における推定誤差がMCIより大きい0.25であることから、本実施の形態にかかる映像品質評価装置は、MCIよりも推定誤差が小さいという、実用上十分な精度で映像品質を推定できていることがわかる。
【0043】
このように、本実施の形態は、単位時間映像品質評価値推定部11により、入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定し、これら単位時間映像品質評価値のうち所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を総合映像品質評価値推定部13により推定し、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて、総合映像品質評価値補正部14により総合映像品質評価値を補正するようにしたので、映像符号化速度が時間的に変動する場合でも、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを考慮して、視聴者が実感する品質を高精度に推定できる。
【0044】
[第2の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる映像品質評価装置について説明する。図9は、本発明の第2の実施の形態にかかる映像品質評価装置の単位時間映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。
【0045】
第1の実施の形態では、単位時間映像品質評価値推定部11において、配信映像の符号化ビットレートを入力とし、符号化ビットレートと映像品質評価値の関係から、単位時間の映像品質評価値を推定して出力した。本実施の形態では、配信映像信号からその品質評価値の変動を時系列として得る場合について説明する。なお、映像品質評価装置の構成は図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0046】
図2の映像品質評価処理のステップ100において、単位時間映像品質評価値推定部11は、図9の単位時間映像品質評価値推定処理を実行する。
図9の単位時間映像品質評価値推定処理において、単位時間映像品質評価値推定部11は、まず、入力された配信映像の映像信号を取得して(ステップ200)、この映像信号から単位時間毎、例えば10秒毎の映像品質客観評価値を順次算出する(ステップ201)。この際、映像品質客観評価値は、例えば、ITU−T勧告J.144に記載されている映像品質客観評価法を用いればよい。
【0047】
その後、単位時間映像品質評価値推定部11は、得られた各映像品質客観評価値を時系列で単位時間映像品質評価値記憶部12へ格納し(ステップ202)、一連の単位時間映像品質評価値推定処理を終了する。
これにより、単位時間映像品質評価値を推定する場合、配信映像信号からその品質評価値の変動を時系列として得ることができる。
【0048】
[実施の形態の拡張]
以上の各実施の形態では、映像品質評価装置1が視聴者端末とは別個の装置から構成される場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、視聴者端末で実行されるアプリケーションプログラムにより映像品質評価装置1の各機能部を実現してもよい。この場合、映像品質評価装置1の各機能部を実現するアプリケーションプログラムをCD−ROMなどの記録媒体に記録して配布してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる映像品質評価装置の映像品質評価処理を示すフローチャートである。
【図3】単位時間映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。
【図4】総合映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。
【図5】総合映像品質評価値補正処理を示すフローチャートである。
【図6】補正前後の映像品質評価特性の違いを示す説明図である。
【図7】映像品質評価値(補正有り)の推定精度を示す説明図である。
【図8】映像品質評価値(補正無し)の推定精度を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態にかかる映像品質評価装置の単位時間映像品質評価値推定処理を示すフローチャートである。
【図10】視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いを示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1…映像品質評価装置、11…単位時間映像品質評価値推定部、12…単位時間映像品質評価値記憶部、13…総合映像品質評価値推定部、14…総合映像品質評価値補正部、15…総合映像品質評価値、2…配信サーバ、3…ネットワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置であって、
入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定して記憶部へ格納する単位時間映像品質評価値推定部と、
前記記憶部から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する総合映像品質評価値推定部と、
視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて前記総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正部と
を備えることを特徴とする映像品質評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の映像品質評価装置において、
前記総合映像品質評価値補正部は、前記総合映像品質評価値推定部で推定された総合映像品質評価値が高い場合はさらに高く、かつ前記総合映像品質評価値推定部で推定された総合映像品質評価値が低い場合はさらに低くなるよう補正することを特徴とする映像品質評価装置。
【請求項3】
ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置で用いられ、配信映像から単位時間毎に得た単位時間映像品質評価値のうち、所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値に基づき、当該評価期間における配信映像に対して視聴者が実感する品質を総合映像品質評価値として推定する映像品質評価方法であって、
視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて前記総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正ステップを備えることを特徴とする映像品質評価方法。
【請求項4】
ネットワークを介して配信された配信映像に対して視聴者が実感する品質を推定評価する映像品質評価装置で用いられる映像品質評価方法であって、
単位時間映像品質評価値推定部により、入力された配信映像の映像品質評価値を単位時間毎に単位時間映像品質評価値として推定して記憶部へ格納する単位時間映像品質評価推定ステップと、
総合映像品質評価値推定部により、前記記憶部から所望の評価期間内に得られた各単位時間映像品質評価値を取得し、これら単位時間映像品質評価値から当該評価期間における総合映像品質評価値を推定する総合映像品質評価値推定ステップと、
総合映像品質評価値補正部により、視聴者の単位時間視聴時の品質評価特性と評価期間視聴時の品質評価特性の違いに応じた補正関数に基づいて前記総合映像品質評価値を補正する総合映像品質評価値補正ステップと
を備えることを特徴とする映像品質評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−194893(P2007−194893A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10899(P2006−10899)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】