時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計
【課題】計時精度を向上することができる時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計を提供する。
【解決手段】軸中心に回転する軸体143と、軸体の端部に設けられ、軸体を回転可能に支持する軸受180と、を備えた時計用軸受ユニットであって、軸体の先端部には先細り形状のテーパ部183が形成され、軸受は、テーパ部に当接可能に軸体の周方向に沿って配された複数の球体181と、球体を転動自在に保持する環状部184を有する外輪部182と、外輪部を内包するとともに、支持部材167に支持固定される枠体166と、を備え、テーパ部と球体とが点接触するとともに、球体と環状部とが点接触するように構成されている。
【解決手段】軸中心に回転する軸体143と、軸体の端部に設けられ、軸体を回転可能に支持する軸受180と、を備えた時計用軸受ユニットであって、軸体の先端部には先細り形状のテーパ部183が形成され、軸受は、テーパ部に当接可能に軸体の周方向に沿って配された複数の球体181と、球体を転動自在に保持する環状部184を有する外輪部182と、外輪部を内包するとともに、支持部材167に支持固定される枠体166と、を備え、テーパ部と球体とが点接触するとともに、球体と環状部とが点接触するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、腕時計や懐中時計などの携帯用時計に用いられる歯車などの機械部品は、その中心に軸受が配され、該軸受を中心に回転することにより、時刻を刻むように構成されている。
【0003】
ここで、従来の時計用軸受の構成としては、図17に示すような構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、図17は、テンプを示したものである。
図17に示すように、テンプ520は、テンプ受505および地板504に中心軸線Cに沿って形成された時計用軸受510により両端の細い小径軸部521,522において該中心軸線Cのまわりで回転自在に支持されたてん真523と、てん輪本体をなす環状のリム部524および該リム部524に両端でつながり該リム部524の直径方向に延びたアーム部525を備え該アーム部525の中間部526においててん真523の中央軸部527に固定されたてん輪528と、を備えている。
【0004】
時計用軸受510は、内側軸受枠511および外側軸受枠512を含む組合せ軸受枠513と、該組合せ軸受枠513の中径凹部に配設され、てん真523の上端の小径軸部522のジャーナル軸受として働く穴石514と、組合せ軸受枠513の大径凹部に配設されてん真523の小径軸部522のスラスト軸受として働く受石515と、軸受枠513の溝に係止され受石515を軸受枠513内に保持する押えバネ516と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−294320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の時計用軸受510は、軸の回転を許容するために、軸(小径軸部522)と受石515との間にアガキと呼ばれる隙間が形成されており、軸(小径軸部522)と穴石514との間にホゾがたと呼ばれる隙間が形成されている。このアガキやホゾがたがあることにより、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりすると、軸の位置が変動してしまう。
【0007】
具体的には、図18に示すように、軸600が鉛直方向を向いている場合には軸600の一端が一方の受石515に当接するようになり、このときの摩擦トルクT1は、テンプ520の重さをWとし、軸600と受石515との間の摩擦係数をμ1、該当接箇所の半径をrとすると、T1=μ1×W×rとなる。一方、図19に示すように、軸600が水平方向を向いている場合には軸の両端においてそれぞれに配されている穴石514に当接するようになり、このときの摩擦トルクT2は、軸600と穴石514との間の摩擦係数をμ2、軸の半径をRとすると、T2=μ2×W×Rとなる。ここで、一般的に受石515と穴石514は同一材料であるためμ1=μ2となる。したがって、R>rであるため、T2>T1となる。つまり、軸が鉛直方向を向いている場合より、軸が水平方向を向いている場合の方が、摩擦が増大し、軸受損失が大きくなる。言い換えれば、軸の向いている方向によって、香箱からテンプ520に伝達されるトルクが変動し、振り角および歩度が変動してしまう。その結果、時計の計時精度が悪化するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、計時精度を向上することができる時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る時計用軸受ユニットは、軸中心に回転する軸体と、該軸体の端部に設けられ、前記軸体を回転可能に支持する軸受と、を備えた時計用軸受ユニットであって、前記軸体の先端部には先細り形状のテーパ部が形成され、前記軸受は、前記テーパ部に当接可能に前記軸体の周方向に沿って配された複数の球体と、該球体を転動自在に保持する環状部を有する外輪部と、該外輪部を内包するとともに、支持部材に支持固定される枠体と、を備え、前記テーパ部と前記球体とが点接触するとともに、前記球体と前記環状部とが点接触するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
このように構成することで、軸体と球体の間および球体と外輪部との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0011】
また、前記環状部の内周面に、前記球体が転動自在に保持されるガイド溝が周方向に沿って形成され、該ガイド溝は、前記球体の半径よりも大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されていることを特徴としている。
【0012】
このように構成することで、球体とガイド溝とを確実に点接触させることができる。また、ガイド溝を断面略半円形状に形成することで、球体を確実にガイド溝内に保持することができる。
【0013】
また、前記環状部における前記軸体の先端部が挿入される側には、前記ガイド溝の端部から前記外輪部の径方向内方へ向かって突出された突出部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
このように構成することで、時計用軸受ユニットをメンテナンスする際に外輪部を取り外しても外輪部から球体が脱落するのを確実に防止することができる。
【0015】
また、前記外輪部と前記枠体との間に、前記軸受から前記軸体に向かって軸方向に付勢力を有する弾性体が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このように構成することで、軸受の球体と軸体のテーパ部とをより確実に点接触させることができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0017】
また、前記付勢力を調整可能な与圧調整機構を有していることを特徴としている。
【0018】
このように構成することで、軸受の球体と軸体のテーパ部とを当接させつつ、軸体を軸中心に回転させることができる圧力に容易に設定することができる。したがって、軸受の球体と軸体のテーパ部とをより確実に点接触させることができる。
【0019】
また、前記外輪部が前記枠体から着脱できる着脱機構を有していることを特徴としている。
【0020】
このように構成することで、時計用軸受ユニットをメンテナンスする際に、外輪部を枠体から容易に取り外すことができ、それぞれの部材ごとにメンテナンスを行うことができる。したがって、メンテナンス効率を向上することができる。
【0021】
また、前記軸受を介して前記軸体の反対側に、前記軸受の軸方向の変位量を規制するストッパー部材が設けられていることを特徴としている。
【0022】
このように構成することで、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしたときに、軸受が軸方向に変位するのを抑制することができる。その結果、軸体の位置の変動を抑制することができ、時計の計時精度を向上することができる。
【0023】
また、前記ストッパー部材が、前記枠体に固定されるとともに、前記軸受と軸方向に隙間を形成して配されていることを特徴としている。
【0024】
このように構成することで、軸受から軸体に向かって付勢する付勢力に影響を与えることなくストッパー部材を配することができる。したがって、時計の計時精度を向上することができる。
【0025】
また、前記外輪部の可動方向を軸方向のみに規制するガイド部材が設けられていることを特徴としている。
【0026】
このように構成することで、軸体が軸方向に直交する径方向に変位するのを確実に防止することができる。したがって、時計の計時精度を向上することができる。
【0027】
また、前記外輪部と前記弾性体とが一体形成されていることを特徴としている。
【0028】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0029】
また、前記弾性体と前記枠体とが一体形成されていることを特徴としている。
【0030】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0031】
また、前記枠体と前記ストッパー部材とが一体形成されていることを特徴としている。
【0032】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0033】
また、前記枠体と前記ガイド部材とが一体形成されていることを特徴としている。
【0034】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0035】
さらに、本発明に係るムーブメントは、香箱、番車、がんぎ車、アンクルおよびテンプを備えた時計のムーブメントであって、少なくとも前記テンプの軸受ユニットに、上述したいずれかに記載の時計用軸受ユニットが用いられていることを特徴としている。
【0036】
このように構成することで、軸体と球体との間および球体と外輪部との間はともに点接触となり、この状態で軸体を軸中心に回転させることができるため、時計用軸受ユニットの姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0037】
そして、本発明に係る携帯用時計は、上述したムーブメントと、該ムーブメントを内包するケーシングと、を備えていることを特徴としている。
【0038】
このように構成することで、軸体と球体との間および球体と外輪部との間はともに点接触となり、この状態で軸体を軸中心に回転させることができるため、時計用軸受ユニットの姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る時計用軸受ユニットによれば、軸体と球体の間および球体と外輪部との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態における機械式時計のムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
【図2】本発明の実施形態における香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるがんぎ車からテンプの部分を示す概略部分断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態における軸受の平面図である。
【図5】本発明の第一実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図)である。
【図6】本発明の第一実施形態における軸受の斜視図である。
【図7】本発明の第一実施形態における外輪部の斜視図である。
【図8】本発明の第二実施形態における軸受の平面図である。
【図9】本発明の第二実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図に相当)である。
【図10】本発明の第二実施形態における軸受の斜視図である。
【図11】本発明の第二実施形態における外輪部の斜視図である。
【図12】本発明の第三実施形態における軸受の平面図である。
【図13】本発明の第三実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図に相当)である。
【図14】本発明の第三実施形態における軸受の斜視図である。
【図15】本発明の実施形態における軸受ユニットの別の態様(1)を示す部分断面図である。
【図16】本発明の実施形態における軸受ユニットの別の態様(2)を示す部分断面図である。
【図17】従来のテンプの構成を示す概略部分断面図である。
【図18】従来の問題点を説明する図(1)である。
【図19】従来の問題点を説明する図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(第一実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。なお、本実施形態では、時計用軸受が腕時計などの携帯用の機械式時計に用いられる場合について説明する。
【0042】
(機械式時計)
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。なお、ムーブメント100にケーシング(不図示)を設けることにより携帯用時計として構成される。
【0043】
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0044】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0045】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、テンプ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0046】
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0047】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124a、下軸部124bおよびそろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dは黄銅などの金属で形成されている。
【0048】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0049】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dは黄銅などの金属で形成されている。
【0050】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0051】
香箱車120は、地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0052】
アンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0053】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0054】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0055】
(テンプの構造)
次に、本実施形態のテンプの構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、てん真140aおよびひげぜんまい140cを備えている。
【0056】
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、テンプ受167に回転可能に取り付けられたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。軸受180は枠体166の外周部でテンプ受167に固定されている。緩急針168は、テンプ受167に回転可能に取り付けられている。また、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0057】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144および上側の軸部145は、ともに軸受180に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受180とで軸受ユニット200として構成されている。
【0058】
軸受180は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144,145に設けられ、軸部144,145の周方向に沿って配された複数の球体181(本実施形態では、3個)と、球体181を転動自在に保持する環状部を有する外輪部182と、外輪部182を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体166と、を備えている。軸部144側に設けられている軸受180と、軸部145側に設けられている軸受180の構成は略同一であるため、以下の説明では、軸部145側についてのみ説明する。
【0059】
図4〜図7に示すように、軸受180は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。なお、本実施形態では断面直線状のテーパ部183が形成されている。
【0060】
外輪部182は、球体181を転動自在に保持する環状部184と、枠体166に対して係止するための係止部185と、を備えている。また、環状部184の内周面には、球体181が転動自在に保持されるガイド溝186が周方向に沿って形成されている。ガイド溝186は、球体181の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体181がガイド溝186に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部184における軸部145が挿入される側には、ガイド溝186の端部から外輪部182の径方向内方へ向かって突出された突出部187が形成されている。この突出部187により、球体181が外輪部182から脱落しないように構成されている。そして、環状部184における突出部187が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体181とが点接触するように構成されている。
【0061】
また、環状部184における突出部187が形成されていない側に係止部185が形成されている。係止部185は、環状部184の外周面184aよりも径方向外方へ突出した係止突起188が形成されている。本実施形態では、係止突起188が周方向に略等間隔に3個形成されている。
【0062】
枠体166は、外輪部182を内包するとともに、テンプ受167に支持固定されている。枠体166は、略円筒形状に形成されており、外輪部182を挿入するとともに支持することができるようになっている。具体的には、枠体166の一方の面166aには、外輪部182を挿通可能な貫通孔189が形成されている。貫通孔189は、外輪部182の環状部184の直径より大きく、係止部185の係止突起188が挿通することができない大きさの直径で形成されている。また、貫通孔189には、外輪部182の係止突起188を挿通させることができる凹陥部191が係止突起188の位置に合わせて形成されている。本実施形態では、凹陥部191は、貫通孔189の周方向に沿って3箇所形成されている。さらに、枠体166の一方の面166aには、テンプ受167に支持されるフランジ部190が周方向外方へ突出するように形成されている。
【0063】
枠体166の内周面166bにおける一方の面166a側には、外輪部182の係止突起188が配される係止溝部192が周方向に沿って形成されている。また、枠体166の内周面166bにおける一方の面166aの反対側には、外輪部182を支持するために内周面166bから径方向内方へ突出された内側フランジ部193が形成されている。内側フランジ部193のさらに径方向内側には、軸部145が挿通可能な貫通孔194が形成されている。
【0064】
このように構成することで、外輪部182を枠体166の一方の面166a側から挿入し、外輪部182の係止突起188を貫通孔189の凹陥部191の位置に合わせることで、外輪部182が枠体166に内包される。そして、外輪部182の係止突起188を枠体166の係止溝部192に沿って周方向に回転させることにより、外輪部182を枠体166に支持固定することができる。つまり、上記した手順と逆の手順をふむことにより、外輪部182を枠体166から取り外すことができる。このように、本実施形態の軸受180は着脱機構を有している。なお、外輪部182は、その軸方向両端面が枠体166に当接する大きさで形成されている。
【0065】
図3に戻り、軸体143の軸方向両端に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、いずれか一方の軸受180の球体181と軸体143(軸部144または145)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受180,180のそれぞれの球体181と軸体143(軸部144および145)とが点接触することになる。
【0066】
また、環状部184の内周面にガイド溝186を形成したため、球体181を確実にガイド溝186内に保持することができるとともに、球体181とガイド溝186(外輪部182)との間も点接触させることができる。
【0067】
本実施形態によれば、軸体143(軸部144または145)と球体181の間および球体181と外輪部182との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0068】
また、環状部184に突出部187を形成したため、軸受ユニット200をメンテナンスする際に外輪部182を取り外しても外輪部182から球体181が脱落するのを確実に防止することができる。
【0069】
また、外輪部182を枠体166から着脱できるように構成したため、軸受ユニット200をメンテナンスする際に、外輪部182を枠体166から容易に取り外すことができ、それぞれの部材ごとにメンテナンスを行うことができる。したがって、メンテナンス効率を向上することができる。
【0070】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第二実施形態を図8〜図11に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と軸受の構成が異なるのみであり、その他の構成は第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0071】
(軸受の構造)
次に、本実施形態のテンプ140に配された軸受の構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0072】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144は第一実施形態の軸受180に対して回転可能に支持されており、上側の軸部145は軸受280に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受とで軸受ユニット200として構成されている。
【0073】
軸受280は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144および軸部145のいずれか一方に設けられる。本実施形態では、軸受280が軸部145側に設けられている場合について説明する。なお、軸部144には、例えば、第一実施形態の軸部180が設けられている。
【0074】
図8〜図11に示すように、軸受280は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。
【0075】
軸受280は、軸部145の周方向に沿って配された複数の球体281(本実施形態では、3個)と、球体281を転動自在に保持する環状部を有する外輪部282と、外輪部282を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体266と、を備えている。
【0076】
外輪部282は、球体281を転動自在に保持する環状部284と、枠体266に対して係止するための係止部285と、を備えている。また、環状部284の内周面には、球体281が転動自在に保持されるガイド溝286が周方向に沿って形成されている。ガイド溝286は、球体281の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体281がガイド溝286に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部284における軸部145が挿入される側には、ガイド溝286の端部から外輪部282の径方向内方へ向かって突出された突出部287が形成されている。この突出部287により、球体281が外輪部282から脱落しないように構成されている。そして、環状部284における突出部287が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体281とが点接触するように構成されている。
【0077】
また、環状部284における突出部287が形成されていない側に係止部285が形成されている。係止部285は、環状部284の外周面284aよりも径方向外方へ突出した係止突起288が形成されている。本実施形態では、係止突起288が周方向に略等間隔に3個形成されている。
【0078】
さらに、係止部285は、平面視で三方向へ突出するように形成された係止突起288の内側(中心軸線C側)が空洞になっている。つまり、隣り合う係止突起288同士を繋ぐ湾曲された棒状部材が連設されて係止部285が形成されている。したがって、係止部285は、軸方向に沿って付勢力を有する弾性機構として機能するように構成されている。
【0079】
枠体266は、外輪部282を内包するとともに、テンプ受167に支持固定されている。枠体266は、略円筒形状に形成されており、外輪部282を挿入するとともに支持することができるようになっている。具体的には、枠体266の一方の面266aには、外輪部282を挿通可能な貫通孔289が形成されている。貫通孔289は、外輪部282の環状部284の直径より大きく、係止部285の係止突起288が挿通することができない大きさの直径で形成されている。また、貫通孔289には、外輪部282の係止突起288を挿通させることができる凹陥部291が係止突起288の位置に合わせて形成されている。本実施形態では、凹陥部291は、貫通孔289の周方向に沿って3箇所形成されている。さらに、枠体266の一方の面266aには、テンプ受167に支持されるフランジ部290が周方向外方へ突出するように形成されている。
【0080】
枠体266の内周面266bにおける一方の面266a側には、外輪部282の係止突起288が配される係止溝部292が周方向に沿って形成されている。また、枠体266の内周面266bにおける一方の面266aの反対側には、外輪部282を支持するために内周面266bから径方向内方へ突出された内側フランジ部293が形成されている。内側フランジ部293のさらに径方向内側には、軸部145が挿通可能な貫通孔294が形成されている。
【0081】
このように構成することで、外輪部282を枠体266の一方の面266a側から挿入し、外輪部282の係止突起288を貫通孔289の凹陥部291の位置に合わせることで、外輪部282が枠体266に内包される。そして、外輪部282の係止突起288を枠体266の係止溝部292に沿って周方向に回転させることにより、外輪部282を枠体266に支持固定することができる。つまり、上記した手順と逆の手順をふむことにより、外輪部282を枠体266から取り外すことができる。このように、本実施形態の軸受280は着脱機構を有している。なお、外輪部282は、その軸方向両端面が枠体266に当接する大きさで形成されている。
【0082】
図3に戻り、軸体143の一方の軸部145に軸受280を設け、他方の軸部144に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受280,180のそれぞれの球体281,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受280,180のそれぞれの球体281,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。
【0083】
また、環状部284の内周面にガイド溝286を形成したため、球体281を確実にガイド溝286内に保持することができるとともに、球体281とガイド溝286(外輪部282)との間も点接触させることができる。
【0084】
本実施形態においては、軸受280の外輪部282は弾性機構を有しているため、外輪部282を枠体266に取り付けた際に、枠体266に対して外輪部282を軸体143が配された軸方向に向かって付勢することができる。つまり、軸受280が軸部145(軸体143)に対して適度な与圧をかけることができるため、軸部145と軸受280との間にアガキが形成されていない状態で、軸部145(軸体143)を中心軸線Cを中心に回転させることができる。したがって、軸受280の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。その結果、香箱車120からテンプ140に伝達されるトルク変動を抑えることができ、テンプ140の振り角および歩度の変動を抑えることができ、腕時計や懐中時計などの携帯用時計の計時精度を向上することができる。
【0085】
また、軸受280の外輪部282に弾性機構を設けたため、枠体266に対して外輪部282の軸方向の位置を固定することができるとともに、軸受280の球体281と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。さらに、軸受280に弾性機構を備えたことにより、軸受280の姿勢が変わったり、軸受ユニット200に衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0086】
(第三実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第三実施形態を図12〜図14に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と軸受の構成が異なるのみであり、その他の構成は第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0087】
(軸受の構造)
次に、本実施形態のテンプ140に配された軸受の構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0088】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144は第一実施形態の軸受180に対して回転可能に支持されており、上側の軸部145は軸受380に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受とで軸受ユニット200として構成されている。
【0089】
軸受380は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144および軸部145のいずれか一方に設けられる。本実施形態では、軸受380が軸部145側に設けられている場合について説明する。なお、軸部144には、例えば、第一実施形態の軸部180が設けられている。
【0090】
図12〜図14に示すように、軸受380は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。
【0091】
軸受380は、軸部145の周方向に沿って配された複数の球体381(本実施形態では、3個)と、球体381を転動自在に保持する環状部を有する外輪部382と、外輪部382を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体366と、を備えている。
【0092】
外輪部382は、球体381を転動自在に保持する環状部384と、枠体366との間を連結するように配されたバネ部385と、を備えている。つまり、バネ部385は、軸方向に沿って付勢力を有する弾性機構として機能するように構成されている。また、環状部384の内周面には、球体381が転動自在に保持されるガイド溝386が周方向に沿って形成されている。ガイド溝386は、球体381の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体381がガイド溝386に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部384における軸部145が挿入される側には、ガイド溝386の端部から外輪部382の径方向内方へ向かって突出された突出部387が形成されている。この突出部387により、球体381が外輪部382から脱落しないように構成されている。そして、環状部384における突出部387が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体381とが点接触するように構成されている。
【0093】
また、環状部384における突出部387が形成されていない側にバネ部385が形成されている。バネ部385は、環状部384の外周面384aから径方向外方へ形成された板バネ形状に形成されている。バネ部385は枠体366に連設されている。なお、外輪部382と枠体366とは一体形成してもよい。
【0094】
枠体366は、略円筒形状に形成されており、軸方向に沿って形成された貫通孔389には外輪部382が内包されるとともに、テンプ受167に支持固定されている。また、枠体366における一方の面366a側には、バネ部385が連設されている。さらに、枠体366の外周面366bには、テンプ受167と螺合されるネジ部388が形成されている。
【0095】
このように構成することで、外輪部382のバネ部385が連設された枠体366をテンプ受167に螺合することにより、外輪部382に保持された球体381と軸体143の軸部145とを当接支持することができる。また、テンプ受167に対して枠体366の螺合する割合を調節することにより、バネ部385の付勢力を調節することができる。つまり、軸受380から軸体143に向かって付勢する付勢力を調節することができ、この付勢力を適正に設定することにより、軸体143を確実に回転させることができる。したがって、このネジ部388が付勢力を調整可能な与圧調整機構として構成されている。このような与圧調整機構を設けることにより、個体差のある軸受および軸体であっても、個体ごとに与圧を調整することができ、常に、外輪部382と軸部145(軸体143)とを当接させつつ、軸体143を中心軸線Cを中心に回転させることができる適正な付勢力に容易に設定することができる。したがって、軸受380でのエネルギーロスや摩耗量を略一定にすることができる。
【0096】
図3に戻り、軸体143の一方の軸部145に軸受380を設け、他方の軸部144に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受380,180のそれぞれの球体381,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受380,180のそれぞれの球体381,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。
【0097】
また、環状部384の内周面にガイド溝386を形成したため、球体381を確実にガイド溝386内に保持することができるとともに、球体381とガイド溝386(外輪部382)との間も点接触させることができる。
【0098】
本実施形態においては、軸受380の外輪部382はバネ部385(弾性機構)を有しているため、軸受380が軸部145(軸体143)に対して適度な与圧をかけることができる。したがって、軸部145と軸受380との間にアガキが形成されていない状態で、軸部145(軸体143)を中心軸線Cを中心に回転させることができる。したがって、軸受380の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。その結果、香箱車120からテンプ140に伝達されるトルク変動を抑えることができ、テンプ140の振り角および歩度の変動を抑えることができ、腕時計や懐中時計などの携帯用時計の計時精度を向上することができる。
【0099】
また、軸受380の外輪部382にバネ部385を設けたため、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。さらに、軸受380に弾性機構を備えたことにより、軸受380の姿勢が変わったり、軸受ユニット200に衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0100】
さらに、バネ部385の付勢力を調整できるように構成したため、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とを当接させつつ、軸体143を軸中心に回転させることができる圧力に容易に設定することができる。したがって、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。
【0101】
なお、図15に示すように、枠体366と外輪部382との間に形成された空間部に、略円筒状のガイド部材303を配してもよい。ガイド部材303は、例えば枠体366の内周面366cに圧入固定可能な大きさで形成されており、ガイド部材303の貫通孔304内に外輪部382を配することができるように形成されている。このように構成することにより、外輪部382が径方向に移動しようとしても、ガイド部材303により径方向の移動を確実に規制することができるように構成されている。なお、このときガイド部材303の内周面と外輪部382の外周面との間には僅かに隙間が形成されていることが好ましい。また、ガイド部材303は枠体366と一体形成されていてもよい。
【0102】
また、図16に示すように、外輪部382を介して軸部145(軸体143)の反対側に、外輪部382の軸方向の変位量を規制するストッパー部材305を設けてもよい。ストッパー部材305を配することにより、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしたときに、外輪部382がストッパー部材305にぶつかることにより、軸方向に変位するのを規制することができる。その結果、軸体143の軸方向の位置変動を確実に抑制することができ、時計の計時精度を向上することができる。なお、このストッパー部材305は、例えば、外輪部382と軸方向に隙間を形成しつつ、枠体366に固定すればよい。枠体366に固定する方法としては、例えば、ストッパー部材305の両端に係止部306を形成し、該係止部306を枠体366の係止溝部307に係止するように構成すればよい。このように構成することで、外輪部382から軸体143に向かって付勢する付勢力に影響を与えることなくストッパー部材305を配することができる。
【0103】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0104】
例えば、上記実施形態では、軸受を構成する各部材(外輪部、バネ部、枠体、ガイド部材およびストッパー部材)をそれぞれ個別の部品として構成しているが、適宜これらの部材を一部一体形成してもよい。このように一体形成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0105】
また、上記したガイド部材、ストッパー部材および与圧調整機構を組み合わせて採用してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、軸部の先端形状が断面直線状の先細りテーパ部を形成した場合の説明をしたが、これに限らず、軸部の先端形状は断面略半円形状の先細りテーパ部を形成したものであってもよい。つまり、軸部と球体とが点接触できるように構成されていればよい。
【0107】
また、上記実施形態では、ガイド溝の形状は、断面略半円形状の場合で説明したが、それ以外にも断面テーパ状の傾斜面であってもよい。つまり、球体と外輪部とが点接触できるように構成されていればよい。
【0108】
さらに、上記第2実施形態および第3実施形態では、軸部145側に軸受280,380を設けた場合の説明をしたが、軸部144側に軸受280,380を配する構成にしてもよい。また、両側に軸受280,380を配する構成にしてもよい。
【0109】
そして、上記実施形態では、テンプ140に配する軸受として上記構成の軸受180,280,380を採用した場合の説明をしたが、テンプ140以外にも、香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130およびアンクル142の軸受として上記構成の軸受180,280,380を採用してもよい。このような各所に軸受180,280,380を設けることで、軸体と軸受体との間にアガキが形成されていない状態で軸体を軸中心に回転させることができる。したがって、時計用軸受の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体の位置の変動を抑制することができる。その結果、時計の計時精度を向上することができる。また、各部品ごとに容易に分割することができるため、メンテナンスを部品ごとに容易に行うことができ、メンテナンス効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0110】
100…ムーブメント 143…軸体 145…軸部(軸体の先端部) 166…枠体 167…テンプ受(支持部材) 180…軸受 181…球体 182…外輪部 183…テーパ部 184…環状部 186…ガイド溝 187…突出部 200…軸受ユニット(時計用軸受ユニット) 285…係止部(弾性体) 303…ガイド部材 305…ストッパー部材 385…バネ部(弾性体) 388…ネジ部(与圧調整機構) C…中心軸線(軸中心)
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、腕時計や懐中時計などの携帯用時計に用いられる歯車などの機械部品は、その中心に軸受が配され、該軸受を中心に回転することにより、時刻を刻むように構成されている。
【0003】
ここで、従来の時計用軸受の構成としては、図17に示すような構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、図17は、テンプを示したものである。
図17に示すように、テンプ520は、テンプ受505および地板504に中心軸線Cに沿って形成された時計用軸受510により両端の細い小径軸部521,522において該中心軸線Cのまわりで回転自在に支持されたてん真523と、てん輪本体をなす環状のリム部524および該リム部524に両端でつながり該リム部524の直径方向に延びたアーム部525を備え該アーム部525の中間部526においててん真523の中央軸部527に固定されたてん輪528と、を備えている。
【0004】
時計用軸受510は、内側軸受枠511および外側軸受枠512を含む組合せ軸受枠513と、該組合せ軸受枠513の中径凹部に配設され、てん真523の上端の小径軸部522のジャーナル軸受として働く穴石514と、組合せ軸受枠513の大径凹部に配設されてん真523の小径軸部522のスラスト軸受として働く受石515と、軸受枠513の溝に係止され受石515を軸受枠513内に保持する押えバネ516と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−294320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の時計用軸受510は、軸の回転を許容するために、軸(小径軸部522)と受石515との間にアガキと呼ばれる隙間が形成されており、軸(小径軸部522)と穴石514との間にホゾがたと呼ばれる隙間が形成されている。このアガキやホゾがたがあることにより、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりすると、軸の位置が変動してしまう。
【0007】
具体的には、図18に示すように、軸600が鉛直方向を向いている場合には軸600の一端が一方の受石515に当接するようになり、このときの摩擦トルクT1は、テンプ520の重さをWとし、軸600と受石515との間の摩擦係数をμ1、該当接箇所の半径をrとすると、T1=μ1×W×rとなる。一方、図19に示すように、軸600が水平方向を向いている場合には軸の両端においてそれぞれに配されている穴石514に当接するようになり、このときの摩擦トルクT2は、軸600と穴石514との間の摩擦係数をμ2、軸の半径をRとすると、T2=μ2×W×Rとなる。ここで、一般的に受石515と穴石514は同一材料であるためμ1=μ2となる。したがって、R>rであるため、T2>T1となる。つまり、軸が鉛直方向を向いている場合より、軸が水平方向を向いている場合の方が、摩擦が増大し、軸受損失が大きくなる。言い換えれば、軸の向いている方向によって、香箱からテンプ520に伝達されるトルクが変動し、振り角および歩度が変動してしまう。その結果、時計の計時精度が悪化するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、計時精度を向上することができる時計用軸受ユニット、ムーブメントおよび携帯用時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る時計用軸受ユニットは、軸中心に回転する軸体と、該軸体の端部に設けられ、前記軸体を回転可能に支持する軸受と、を備えた時計用軸受ユニットであって、前記軸体の先端部には先細り形状のテーパ部が形成され、前記軸受は、前記テーパ部に当接可能に前記軸体の周方向に沿って配された複数の球体と、該球体を転動自在に保持する環状部を有する外輪部と、該外輪部を内包するとともに、支持部材に支持固定される枠体と、を備え、前記テーパ部と前記球体とが点接触するとともに、前記球体と前記環状部とが点接触するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
このように構成することで、軸体と球体の間および球体と外輪部との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0011】
また、前記環状部の内周面に、前記球体が転動自在に保持されるガイド溝が周方向に沿って形成され、該ガイド溝は、前記球体の半径よりも大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されていることを特徴としている。
【0012】
このように構成することで、球体とガイド溝とを確実に点接触させることができる。また、ガイド溝を断面略半円形状に形成することで、球体を確実にガイド溝内に保持することができる。
【0013】
また、前記環状部における前記軸体の先端部が挿入される側には、前記ガイド溝の端部から前記外輪部の径方向内方へ向かって突出された突出部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
このように構成することで、時計用軸受ユニットをメンテナンスする際に外輪部を取り外しても外輪部から球体が脱落するのを確実に防止することができる。
【0015】
また、前記外輪部と前記枠体との間に、前記軸受から前記軸体に向かって軸方向に付勢力を有する弾性体が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このように構成することで、軸受の球体と軸体のテーパ部とをより確実に点接触させることができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0017】
また、前記付勢力を調整可能な与圧調整機構を有していることを特徴としている。
【0018】
このように構成することで、軸受の球体と軸体のテーパ部とを当接させつつ、軸体を軸中心に回転させることができる圧力に容易に設定することができる。したがって、軸受の球体と軸体のテーパ部とをより確実に点接触させることができる。
【0019】
また、前記外輪部が前記枠体から着脱できる着脱機構を有していることを特徴としている。
【0020】
このように構成することで、時計用軸受ユニットをメンテナンスする際に、外輪部を枠体から容易に取り外すことができ、それぞれの部材ごとにメンテナンスを行うことができる。したがって、メンテナンス効率を向上することができる。
【0021】
また、前記軸受を介して前記軸体の反対側に、前記軸受の軸方向の変位量を規制するストッパー部材が設けられていることを特徴としている。
【0022】
このように構成することで、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしたときに、軸受が軸方向に変位するのを抑制することができる。その結果、軸体の位置の変動を抑制することができ、時計の計時精度を向上することができる。
【0023】
また、前記ストッパー部材が、前記枠体に固定されるとともに、前記軸受と軸方向に隙間を形成して配されていることを特徴としている。
【0024】
このように構成することで、軸受から軸体に向かって付勢する付勢力に影響を与えることなくストッパー部材を配することができる。したがって、時計の計時精度を向上することができる。
【0025】
また、前記外輪部の可動方向を軸方向のみに規制するガイド部材が設けられていることを特徴としている。
【0026】
このように構成することで、軸体が軸方向に直交する径方向に変位するのを確実に防止することができる。したがって、時計の計時精度を向上することができる。
【0027】
また、前記外輪部と前記弾性体とが一体形成されていることを特徴としている。
【0028】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0029】
また、前記弾性体と前記枠体とが一体形成されていることを特徴としている。
【0030】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0031】
また、前記枠体と前記ストッパー部材とが一体形成されていることを特徴としている。
【0032】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0033】
また、前記枠体と前記ガイド部材とが一体形成されていることを特徴としている。
【0034】
このように構成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0035】
さらに、本発明に係るムーブメントは、香箱、番車、がんぎ車、アンクルおよびテンプを備えた時計のムーブメントであって、少なくとも前記テンプの軸受ユニットに、上述したいずれかに記載の時計用軸受ユニットが用いられていることを特徴としている。
【0036】
このように構成することで、軸体と球体との間および球体と外輪部との間はともに点接触となり、この状態で軸体を軸中心に回転させることができるため、時計用軸受ユニットの姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0037】
そして、本発明に係る携帯用時計は、上述したムーブメントと、該ムーブメントを内包するケーシングと、を備えていることを特徴としている。
【0038】
このように構成することで、軸体と球体との間および球体と外輪部との間はともに点接触となり、この状態で軸体を軸中心に回転させることができるため、時計用軸受ユニットの姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る時計用軸受ユニットによれば、軸体と球体の間および球体と外輪部との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態における機械式時計のムーブメント表側の平面図である(一部の部品を省略し、受部材は仮想線で示している)。
【図2】本発明の実施形態における香箱からがんぎ車の部分を示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるがんぎ車からテンプの部分を示す概略部分断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態における軸受の平面図である。
【図5】本発明の第一実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図)である。
【図6】本発明の第一実施形態における軸受の斜視図である。
【図7】本発明の第一実施形態における外輪部の斜視図である。
【図8】本発明の第二実施形態における軸受の平面図である。
【図9】本発明の第二実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図に相当)である。
【図10】本発明の第二実施形態における軸受の斜視図である。
【図11】本発明の第二実施形態における外輪部の斜視図である。
【図12】本発明の第三実施形態における軸受の平面図である。
【図13】本発明の第三実施形態における軸受ユニットの部分断面(図3のA部拡大図に相当)である。
【図14】本発明の第三実施形態における軸受の斜視図である。
【図15】本発明の実施形態における軸受ユニットの別の態様(1)を示す部分断面図である。
【図16】本発明の実施形態における軸受ユニットの別の態様(2)を示す部分断面図である。
【図17】従来のテンプの構成を示す概略部分断面図である。
【図18】従来の問題点を説明する図(1)である。
【図19】従来の問題点を説明する図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(第一実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。なお、本実施形態では、時計用軸受が腕時計などの携帯用の機械式時計に用いられる場合について説明する。
【0042】
(機械式時計)
図1〜図3に示すように、機械式時計のムーブメント100は、ムーブメント100の基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。文字板104(図2参照)はムーブメント100に取り付けられる。一般に、地板102の両側のうち、文字板104が配される側をムーブメント100の裏側と称し、文字板104が配される側の反対側をムーブメント100の表側と称する。ムーブメント100の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント100の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。なお、ムーブメント100にケーシング(不図示)を設けることにより携帯用時計として構成される。
【0043】
おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194、裏押さえ196を含む切換装置により、巻真110の軸線方向の位置が決められている。きち車112は巻真110の案内軸部に回転可能に設けられている。巻真110が、回転軸線方向に沿ってムーブメント100の内側に一番近い方の第1の巻真位置(0段目)にある状態で巻真110を回転させると、つづみ車の回転を介してきち車112が回転する。丸穴車114は、きち車112の回転により回転する。また、角穴車116は、丸穴車114の回転により回転する。角穴車116が回転することにより、香箱車120に収容されたぜんまい122(図2参照)を巻き上げる。
【0044】
二番車124は、香箱車120の回転により回転する。がんぎ車130は、四番車128、三番車126、二番車124の回転を介して回転する。香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128は表輪列を構成する。
【0045】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、テンプ140と、がんぎ車130と、アンクル142とを含む。二番車124の回転に基づいて、筒かな150が同時に回転する。筒かな150に取り付けられた分針152が「分」を表示する。筒かな150には、二番車124に対するスリップ機構が設けられている。筒かな150の回転に基づいて、日の裏車の回転を介して、筒車154が回転する。筒車154に取り付けられた時針156が「時」を表示する。
【0046】
香箱車120は、香箱歯車120dと、香箱真120fと、ぜんまい122とを備えている。香箱真120fは、上軸部120aと、下軸部120bとを含む。香箱真120fは、炭素鋼などの金属で形成されている。香箱歯車120dは黄銅などの金属で形成されている。
【0047】
二番車124は、上軸部124aと、下軸部124bと、かな部124cと、歯車部124dと、そろばん玉部124hとを含む。二番車124のかな部124cは香箱歯車120dと噛み合うように構成されている。上軸部124a、下軸部124bおよびそろばん玉部124hは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部124dは黄銅などの金属で形成されている。
【0048】
三番車126は、上軸部126aと、下軸部126bと、かな部126cと、歯車部126dとを含む。三番車126のかな部126cは歯車部124dと噛み合うように構成されている。
【0049】
四番車128は、上軸部128aと、下軸部128bと、かな部128cと、歯車部128dとを含む。四番車128のかな部128cは歯車部126dと噛み合うように構成されている。上軸部128aと、下軸部128bは、炭素鋼などの金属で形成されている。歯車部128dは黄銅などの金属で形成されている。
【0050】
がんぎ車130は、上軸部130aと、下軸部130bと、かな部130cと、歯車部130dとを含む。がんぎ車130のかな部130cは歯車部128dと噛み合うように構成されている。アンクル142は、アンクル体142dと、アンクル真142fとを備えている。アンクル真142fは、上軸部142aと、下軸部142bとを含む。
【0051】
香箱車120は、地板102および香箱受160に対して回転可能に支持されている。すなわち、香箱真120fの上軸部120aは、香箱受160に対して回転可能に支持される。香箱真120fの下軸部120bは、地板102に対して、回転可能に支持される。二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130は、地板102および輪列受162に対して回転可能に支持されている。すなわち、二番車124の上軸部124a、三番車126の上軸部126a、四番車128の上軸部128a、がんぎ車130の上軸部130aは、輪列受162に対して回転可能に支持される。また、二番車124の下軸部124b、三番車126の下軸部126b、四番車128の下軸部128b、がんぎ車130の下軸部130bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0052】
アンクル142は、地板102およびアンクル受164に対して回転可能に支持されている。すなわち、アンクル142の上軸部142aは、アンクル受164に対して回転可能に支持される。アンクル142の下軸部142bは、地板102に対して、回転可能に支持される。
【0053】
香箱真120fの上軸部120aを回転可能に支持する香箱受160の軸受部と、二番車124の上軸部124aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、三番車126の上軸部126aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、四番車128の上軸部128aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、がんぎ車130の上軸部130aを回転可能に支持する輪列受162の軸受部と、アンクル142の上軸部142aを回転可能に支持するアンクル受164の軸受部には、潤滑油が注油される。また、香箱真120fの下軸部120bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、二番車124の下軸部124bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、三番車126の下軸部126bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、四番車128の下軸部128bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、がんぎ車130の下軸部130bを回転可能に支持する地板102の軸受部と、アンクル142の下軸部142bを回転可能に支持する地板102の軸受部には、潤滑油が注油される。この潤滑油は、精密機械用油であるのが好ましく、いわゆる時計油であるのが特に好ましい。
【0054】
地板102のそれぞれの軸受部、香箱受160の軸受部、輪列受162のそれぞれの軸受部には、潤滑油の保持性能を高めるために、円錐状、円筒状、または円錐台状の油溜め部を設けるのが好ましい。油溜め部を設けると、潤滑油の表面張力により油が拡散するのを効果的に阻止することができる。地板102、香箱受160、輪列受162、アンクル受164は、黄銅などの金属で形成してもよいし、ポリカーボネートなどの樹脂で形成してもよい。
【0055】
(テンプの構造)
次に、本実施形態のテンプの構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、てん真140aおよびひげぜんまい140cを備えている。
【0056】
ひげぜんまい140cは、複数の巻き数をもったうずまき状(螺旋状)の形態の薄板ばねである。ひげぜんまい140cの内端部は、てん真140aに固定されたひげ玉140dに固定され、ひげぜんまい140cの外端部は、テンプ受167に回転可能に取り付けられたひげ持受170に取り付けたひげ持170aを介してねじ締めにより固定されている。軸受180は枠体166の外周部でテンプ受167に固定されている。緩急針168は、テンプ受167に回転可能に取り付けられている。また、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0057】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144および上側の軸部145は、ともに軸受180に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受180とで軸受ユニット200として構成されている。
【0058】
軸受180は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144,145に設けられ、軸部144,145の周方向に沿って配された複数の球体181(本実施形態では、3個)と、球体181を転動自在に保持する環状部を有する外輪部182と、外輪部182を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体166と、を備えている。軸部144側に設けられている軸受180と、軸部145側に設けられている軸受180の構成は略同一であるため、以下の説明では、軸部145側についてのみ説明する。
【0059】
図4〜図7に示すように、軸受180は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。なお、本実施形態では断面直線状のテーパ部183が形成されている。
【0060】
外輪部182は、球体181を転動自在に保持する環状部184と、枠体166に対して係止するための係止部185と、を備えている。また、環状部184の内周面には、球体181が転動自在に保持されるガイド溝186が周方向に沿って形成されている。ガイド溝186は、球体181の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体181がガイド溝186に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部184における軸部145が挿入される側には、ガイド溝186の端部から外輪部182の径方向内方へ向かって突出された突出部187が形成されている。この突出部187により、球体181が外輪部182から脱落しないように構成されている。そして、環状部184における突出部187が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体181とが点接触するように構成されている。
【0061】
また、環状部184における突出部187が形成されていない側に係止部185が形成されている。係止部185は、環状部184の外周面184aよりも径方向外方へ突出した係止突起188が形成されている。本実施形態では、係止突起188が周方向に略等間隔に3個形成されている。
【0062】
枠体166は、外輪部182を内包するとともに、テンプ受167に支持固定されている。枠体166は、略円筒形状に形成されており、外輪部182を挿入するとともに支持することができるようになっている。具体的には、枠体166の一方の面166aには、外輪部182を挿通可能な貫通孔189が形成されている。貫通孔189は、外輪部182の環状部184の直径より大きく、係止部185の係止突起188が挿通することができない大きさの直径で形成されている。また、貫通孔189には、外輪部182の係止突起188を挿通させることができる凹陥部191が係止突起188の位置に合わせて形成されている。本実施形態では、凹陥部191は、貫通孔189の周方向に沿って3箇所形成されている。さらに、枠体166の一方の面166aには、テンプ受167に支持されるフランジ部190が周方向外方へ突出するように形成されている。
【0063】
枠体166の内周面166bにおける一方の面166a側には、外輪部182の係止突起188が配される係止溝部192が周方向に沿って形成されている。また、枠体166の内周面166bにおける一方の面166aの反対側には、外輪部182を支持するために内周面166bから径方向内方へ突出された内側フランジ部193が形成されている。内側フランジ部193のさらに径方向内側には、軸部145が挿通可能な貫通孔194が形成されている。
【0064】
このように構成することで、外輪部182を枠体166の一方の面166a側から挿入し、外輪部182の係止突起188を貫通孔189の凹陥部191の位置に合わせることで、外輪部182が枠体166に内包される。そして、外輪部182の係止突起188を枠体166の係止溝部192に沿って周方向に回転させることにより、外輪部182を枠体166に支持固定することができる。つまり、上記した手順と逆の手順をふむことにより、外輪部182を枠体166から取り外すことができる。このように、本実施形態の軸受180は着脱機構を有している。なお、外輪部182は、その軸方向両端面が枠体166に当接する大きさで形成されている。
【0065】
図3に戻り、軸体143の軸方向両端に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、いずれか一方の軸受180の球体181と軸体143(軸部144または145)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受180,180のそれぞれの球体181と軸体143(軸部144および145)とが点接触することになる。
【0066】
また、環状部184の内周面にガイド溝186を形成したため、球体181を確実にガイド溝186内に保持することができるとともに、球体181とガイド溝186(外輪部182)との間も点接触させることができる。
【0067】
本実施形態によれば、軸体143(軸部144または145)と球体181の間および球体181と外輪部182との間がともに点接触となるため、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。したがって、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0068】
また、環状部184に突出部187を形成したため、軸受ユニット200をメンテナンスする際に外輪部182を取り外しても外輪部182から球体181が脱落するのを確実に防止することができる。
【0069】
また、外輪部182を枠体166から着脱できるように構成したため、軸受ユニット200をメンテナンスする際に、外輪部182を枠体166から容易に取り外すことができ、それぞれの部材ごとにメンテナンスを行うことができる。したがって、メンテナンス効率を向上することができる。
【0070】
(第二実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第二実施形態を図8〜図11に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と軸受の構成が異なるのみであり、その他の構成は第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0071】
(軸受の構造)
次に、本実施形態のテンプ140に配された軸受の構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0072】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144は第一実施形態の軸受180に対して回転可能に支持されており、上側の軸部145は軸受280に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受とで軸受ユニット200として構成されている。
【0073】
軸受280は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144および軸部145のいずれか一方に設けられる。本実施形態では、軸受280が軸部145側に設けられている場合について説明する。なお、軸部144には、例えば、第一実施形態の軸部180が設けられている。
【0074】
図8〜図11に示すように、軸受280は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。
【0075】
軸受280は、軸部145の周方向に沿って配された複数の球体281(本実施形態では、3個)と、球体281を転動自在に保持する環状部を有する外輪部282と、外輪部282を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体266と、を備えている。
【0076】
外輪部282は、球体281を転動自在に保持する環状部284と、枠体266に対して係止するための係止部285と、を備えている。また、環状部284の内周面には、球体281が転動自在に保持されるガイド溝286が周方向に沿って形成されている。ガイド溝286は、球体281の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体281がガイド溝286に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部284における軸部145が挿入される側には、ガイド溝286の端部から外輪部282の径方向内方へ向かって突出された突出部287が形成されている。この突出部287により、球体281が外輪部282から脱落しないように構成されている。そして、環状部284における突出部287が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体281とが点接触するように構成されている。
【0077】
また、環状部284における突出部287が形成されていない側に係止部285が形成されている。係止部285は、環状部284の外周面284aよりも径方向外方へ突出した係止突起288が形成されている。本実施形態では、係止突起288が周方向に略等間隔に3個形成されている。
【0078】
さらに、係止部285は、平面視で三方向へ突出するように形成された係止突起288の内側(中心軸線C側)が空洞になっている。つまり、隣り合う係止突起288同士を繋ぐ湾曲された棒状部材が連設されて係止部285が形成されている。したがって、係止部285は、軸方向に沿って付勢力を有する弾性機構として機能するように構成されている。
【0079】
枠体266は、外輪部282を内包するとともに、テンプ受167に支持固定されている。枠体266は、略円筒形状に形成されており、外輪部282を挿入するとともに支持することができるようになっている。具体的には、枠体266の一方の面266aには、外輪部282を挿通可能な貫通孔289が形成されている。貫通孔289は、外輪部282の環状部284の直径より大きく、係止部285の係止突起288が挿通することができない大きさの直径で形成されている。また、貫通孔289には、外輪部282の係止突起288を挿通させることができる凹陥部291が係止突起288の位置に合わせて形成されている。本実施形態では、凹陥部291は、貫通孔289の周方向に沿って3箇所形成されている。さらに、枠体266の一方の面266aには、テンプ受167に支持されるフランジ部290が周方向外方へ突出するように形成されている。
【0080】
枠体266の内周面266bにおける一方の面266a側には、外輪部282の係止突起288が配される係止溝部292が周方向に沿って形成されている。また、枠体266の内周面266bにおける一方の面266aの反対側には、外輪部282を支持するために内周面266bから径方向内方へ突出された内側フランジ部293が形成されている。内側フランジ部293のさらに径方向内側には、軸部145が挿通可能な貫通孔294が形成されている。
【0081】
このように構成することで、外輪部282を枠体266の一方の面266a側から挿入し、外輪部282の係止突起288を貫通孔289の凹陥部291の位置に合わせることで、外輪部282が枠体266に内包される。そして、外輪部282の係止突起288を枠体266の係止溝部292に沿って周方向に回転させることにより、外輪部282を枠体266に支持固定することができる。つまり、上記した手順と逆の手順をふむことにより、外輪部282を枠体266から取り外すことができる。このように、本実施形態の軸受280は着脱機構を有している。なお、外輪部282は、その軸方向両端面が枠体266に当接する大きさで形成されている。
【0082】
図3に戻り、軸体143の一方の軸部145に軸受280を設け、他方の軸部144に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受280,180のそれぞれの球体281,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受280,180のそれぞれの球体281,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。
【0083】
また、環状部284の内周面にガイド溝286を形成したため、球体281を確実にガイド溝286内に保持することができるとともに、球体281とガイド溝286(外輪部282)との間も点接触させることができる。
【0084】
本実施形態においては、軸受280の外輪部282は弾性機構を有しているため、外輪部282を枠体266に取り付けた際に、枠体266に対して外輪部282を軸体143が配された軸方向に向かって付勢することができる。つまり、軸受280が軸部145(軸体143)に対して適度な与圧をかけることができるため、軸部145と軸受280との間にアガキが形成されていない状態で、軸部145(軸体143)を中心軸線Cを中心に回転させることができる。したがって、軸受280の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。その結果、香箱車120からテンプ140に伝達されるトルク変動を抑えることができ、テンプ140の振り角および歩度の変動を抑えることができ、腕時計や懐中時計などの携帯用時計の計時精度を向上することができる。
【0085】
また、軸受280の外輪部282に弾性機構を設けたため、枠体266に対して外輪部282の軸方向の位置を固定することができるとともに、軸受280の球体281と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。さらに、軸受280に弾性機構を備えたことにより、軸受280の姿勢が変わったり、軸受ユニット200に衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0086】
(第三実施形態)
次に、本発明に係る時計用軸受ユニットの第三実施形態を図12〜図14に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態と軸受の構成が異なるのみであり、その他の構成は第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0087】
(軸受の構造)
次に、本実施形態のテンプ140に配された軸受の構造について説明する。
図3に示すように、テンプ140は、地板102およびテンプ受167に対して回転可能に支持されている。
【0088】
ここで、テンプ140は、中心軸線Cを中心に回転可能に構成されており、軸体143の両端には細い軸部144,145が形成されている。下側の軸部144は第一実施形態の軸受180に対して回転可能に支持されており、上側の軸部145は軸受380に対して回転可能に支持されている。なお、軸体143と軸受とで軸受ユニット200として構成されている。
【0089】
軸受380は、中心軸線Cを中心に回転する軸体143の軸方向両端部である軸部144および軸部145のいずれか一方に設けられる。本実施形態では、軸受380が軸部145側に設けられている場合について説明する。なお、軸部144には、例えば、第一実施形態の軸部180が設けられている。
【0090】
図12〜図14に示すように、軸受380は、軸体143の先端部である軸部145に当接するように配されている。軸部145の先端は先細り形状のテーパ部183が形成されている。
【0091】
軸受380は、軸部145の周方向に沿って配された複数の球体381(本実施形態では、3個)と、球体381を転動自在に保持する環状部を有する外輪部382と、外輪部382を内包するとともに、テンプ受167に支持固定される枠体366と、を備えている。
【0092】
外輪部382は、球体381を転動自在に保持する環状部384と、枠体366との間を連結するように配されたバネ部385と、を備えている。つまり、バネ部385は、軸方向に沿って付勢力を有する弾性機構として機能するように構成されている。また、環状部384の内周面には、球体381が転動自在に保持されるガイド溝386が周方向に沿って形成されている。ガイド溝386は、球体381の半径よりも若干大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されている。つまり、球体381がガイド溝386に当接した際に、点接触するように構成されている。さらに、環状部384における軸部145が挿入される側には、ガイド溝386の端部から外輪部382の径方向内方へ向かって突出された突出部387が形成されている。この突出部387により、球体381が外輪部382から脱落しないように構成されている。そして、環状部384における突出部387が形成された側から軸体143の軸部145を挿入すると、軸部145のテーパ部183と球体381とが点接触するように構成されている。
【0093】
また、環状部384における突出部387が形成されていない側にバネ部385が形成されている。バネ部385は、環状部384の外周面384aから径方向外方へ形成された板バネ形状に形成されている。バネ部385は枠体366に連設されている。なお、外輪部382と枠体366とは一体形成してもよい。
【0094】
枠体366は、略円筒形状に形成されており、軸方向に沿って形成された貫通孔389には外輪部382が内包されるとともに、テンプ受167に支持固定されている。また、枠体366における一方の面366a側には、バネ部385が連設されている。さらに、枠体366の外周面366bには、テンプ受167と螺合されるネジ部388が形成されている。
【0095】
このように構成することで、外輪部382のバネ部385が連設された枠体366をテンプ受167に螺合することにより、外輪部382に保持された球体381と軸体143の軸部145とを当接支持することができる。また、テンプ受167に対して枠体366の螺合する割合を調節することにより、バネ部385の付勢力を調節することができる。つまり、軸受380から軸体143に向かって付勢する付勢力を調節することができ、この付勢力を適正に設定することにより、軸体143を確実に回転させることができる。したがって、このネジ部388が付勢力を調整可能な与圧調整機構として構成されている。このような与圧調整機構を設けることにより、個体差のある軸受および軸体であっても、個体ごとに与圧を調整することができ、常に、外輪部382と軸部145(軸体143)とを当接させつつ、軸体143を中心軸線Cを中心に回転させることができる適正な付勢力に容易に設定することができる。したがって、軸受380でのエネルギーロスや摩耗量を略一定にすることができる。
【0096】
図3に戻り、軸体143の一方の軸部145に軸受380を設け、他方の軸部144に軸受180を設けることにより、軸体143が鉛直方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受380,180のそれぞれの球体381,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。一方、軸体143が水平方向を向いている場合には、軸方向両端の軸受380,180のそれぞれの球体381,181と軸体143(軸部145および144)とが点接触することになる。
【0097】
また、環状部384の内周面にガイド溝386を形成したため、球体381を確実にガイド溝386内に保持することができるとともに、球体381とガイド溝386(外輪部382)との間も点接触させることができる。
【0098】
本実施形態においては、軸受380の外輪部382はバネ部385(弾性機構)を有しているため、軸受380が軸部145(軸体143)に対して適度な与圧をかけることができる。したがって、軸部145と軸受380との間にアガキが形成されていない状態で、軸部145(軸体143)を中心軸線Cを中心に回転させることができる。したがって、軸受380の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。その結果、香箱車120からテンプ140に伝達されるトルク変動を抑えることができ、テンプ140の振り角および歩度の変動を抑えることができ、腕時計や懐中時計などの携帯用時計の計時精度を向上することができる。
【0099】
また、軸受380の外輪部382にバネ部385を設けたため、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。さらに、軸受380に弾性機構を備えたことにより、軸受380の姿勢が変わったり、軸受ユニット200に衝撃が加わったりしても、軸体143の位置の変動を抑制することができる。したがって、時計の姿勢が変わった場合においても接触状態がほとんど変化せず、軸受損失も変化しない。つまり、振り角および歩度が変動するのを抑制することができるため、時計の計時精度を向上することができる。
【0100】
さらに、バネ部385の付勢力を調整できるように構成したため、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とを当接させつつ、軸体143を軸中心に回転させることができる圧力に容易に設定することができる。したがって、軸受380の球体381と軸体143のテーパ部183とをより確実に点接触させることができる。
【0101】
なお、図15に示すように、枠体366と外輪部382との間に形成された空間部に、略円筒状のガイド部材303を配してもよい。ガイド部材303は、例えば枠体366の内周面366cに圧入固定可能な大きさで形成されており、ガイド部材303の貫通孔304内に外輪部382を配することができるように形成されている。このように構成することにより、外輪部382が径方向に移動しようとしても、ガイド部材303により径方向の移動を確実に規制することができるように構成されている。なお、このときガイド部材303の内周面と外輪部382の外周面との間には僅かに隙間が形成されていることが好ましい。また、ガイド部材303は枠体366と一体形成されていてもよい。
【0102】
また、図16に示すように、外輪部382を介して軸部145(軸体143)の反対側に、外輪部382の軸方向の変位量を規制するストッパー部材305を設けてもよい。ストッパー部材305を配することにより、時計の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしたときに、外輪部382がストッパー部材305にぶつかることにより、軸方向に変位するのを規制することができる。その結果、軸体143の軸方向の位置変動を確実に抑制することができ、時計の計時精度を向上することができる。なお、このストッパー部材305は、例えば、外輪部382と軸方向に隙間を形成しつつ、枠体366に固定すればよい。枠体366に固定する方法としては、例えば、ストッパー部材305の両端に係止部306を形成し、該係止部306を枠体366の係止溝部307に係止するように構成すればよい。このように構成することで、外輪部382から軸体143に向かって付勢する付勢力に影響を与えることなくストッパー部材305を配することができる。
【0103】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0104】
例えば、上記実施形態では、軸受を構成する各部材(外輪部、バネ部、枠体、ガイド部材およびストッパー部材)をそれぞれ個別の部品として構成しているが、適宜これらの部材を一部一体形成してもよい。このように一体形成することで、部品点数を少なくすることができ、製造時の製造効率やメンテナンス時のメンテナンス効率を向上することができる。
【0105】
また、上記したガイド部材、ストッパー部材および与圧調整機構を組み合わせて採用してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、軸部の先端形状が断面直線状の先細りテーパ部を形成した場合の説明をしたが、これに限らず、軸部の先端形状は断面略半円形状の先細りテーパ部を形成したものであってもよい。つまり、軸部と球体とが点接触できるように構成されていればよい。
【0107】
また、上記実施形態では、ガイド溝の形状は、断面略半円形状の場合で説明したが、それ以外にも断面テーパ状の傾斜面であってもよい。つまり、球体と外輪部とが点接触できるように構成されていればよい。
【0108】
さらに、上記第2実施形態および第3実施形態では、軸部145側に軸受280,380を設けた場合の説明をしたが、軸部144側に軸受280,380を配する構成にしてもよい。また、両側に軸受280,380を配する構成にしてもよい。
【0109】
そして、上記実施形態では、テンプ140に配する軸受として上記構成の軸受180,280,380を採用した場合の説明をしたが、テンプ140以外にも、香箱車120、二番車124、三番車126、四番車128、がんぎ車130およびアンクル142の軸受として上記構成の軸受180,280,380を採用してもよい。このような各所に軸受180,280,380を設けることで、軸体と軸受体との間にアガキが形成されていない状態で軸体を軸中心に回転させることができる。したがって、時計用軸受の姿勢が変わったり、衝撃が加わったりしても、軸体の位置の変動を抑制することができる。その結果、時計の計時精度を向上することができる。また、各部品ごとに容易に分割することができるため、メンテナンスを部品ごとに容易に行うことができ、メンテナンス効率を向上することができる。
【符号の説明】
【0110】
100…ムーブメント 143…軸体 145…軸部(軸体の先端部) 166…枠体 167…テンプ受(支持部材) 180…軸受 181…球体 182…外輪部 183…テーパ部 184…環状部 186…ガイド溝 187…突出部 200…軸受ユニット(時計用軸受ユニット) 285…係止部(弾性体) 303…ガイド部材 305…ストッパー部材 385…バネ部(弾性体) 388…ネジ部(与圧調整機構) C…中心軸線(軸中心)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸中心に回転する軸体と、
該軸体の端部に設けられ、前記軸体を回転可能に支持する軸受と、を備えた時計用軸受ユニットであって、
前記軸体の先端部には先細り形状のテーパ部が形成され、
前記軸受は、
前記テーパ部に当接可能に前記軸体の周方向に沿って配された複数の球体と、
該球体を転動自在に保持する環状部を有する外輪部と、
該外輪部を内包するとともに、支持部材に支持固定される枠体と、を備え、
前記テーパ部と前記球体とが点接触するとともに、前記球体と前記環状部とが点接触するように構成されていることを特徴とする時計用軸受ユニット。
【請求項2】
前記環状部の内周面に、前記球体が転動自在に保持されるガイド溝が周方向に沿って形成され、
該ガイド溝は、前記球体の半径よりも大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項3】
前記環状部における前記軸体の先端部が挿入される側には、前記ガイド溝の端部から前記外輪部の径方向内方へ向かって突出された突出部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項4】
前記外輪部と前記枠体との間に、前記軸受から前記軸体に向かって軸方向に付勢力を有する弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項5】
前記付勢力を調整可能な与圧調整機構を有していることを特徴とする請求項4に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項6】
前記外輪部が前記枠体から着脱できる着脱機構を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項7】
前記軸受を介して前記軸体の反対側に、前記軸受の軸方向の変位量を規制するストッパー部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項8】
前記ストッパー部材が、前記枠体に固定されるとともに、前記軸受と軸方向に隙間を形成して配されていることを特徴とする請求項7に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項9】
前記外輪部の可動方向を軸方向のみに規制するガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項10】
前記外輪部と前記弾性体とが一体形成されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項11】
前記弾性体と前記枠体とが一体形成されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項12】
前記枠体と前記ストッパー部材とが一体形成されていることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項13】
前記枠体と前記ガイド部材とが一体形成されていることを特徴とする請求項9に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項14】
香箱、番車、がんぎ車、アンクルおよびテンプを備えた時計のムーブメントであって、
少なくとも前記テンプの軸受ユニットに、請求項1〜13のいずれかに記載の時計用軸受ユニットが用いられていることを特徴とするムーブメント。
【請求項15】
請求項14に記載のムーブメントと、
該ムーブメントを内包するケーシングと、を備えていることを特徴とする携帯用時計。
【請求項1】
軸中心に回転する軸体と、
該軸体の端部に設けられ、前記軸体を回転可能に支持する軸受と、を備えた時計用軸受ユニットであって、
前記軸体の先端部には先細り形状のテーパ部が形成され、
前記軸受は、
前記テーパ部に当接可能に前記軸体の周方向に沿って配された複数の球体と、
該球体を転動自在に保持する環状部を有する外輪部と、
該外輪部を内包するとともに、支持部材に支持固定される枠体と、を備え、
前記テーパ部と前記球体とが点接触するとともに、前記球体と前記環状部とが点接触するように構成されていることを特徴とする時計用軸受ユニット。
【請求項2】
前記環状部の内周面に、前記球体が転動自在に保持されるガイド溝が周方向に沿って形成され、
該ガイド溝は、前記球体の半径よりも大きい曲率半径を有する断面略半円形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項3】
前記環状部における前記軸体の先端部が挿入される側には、前記ガイド溝の端部から前記外輪部の径方向内方へ向かって突出された突出部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項4】
前記外輪部と前記枠体との間に、前記軸受から前記軸体に向かって軸方向に付勢力を有する弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項5】
前記付勢力を調整可能な与圧調整機構を有していることを特徴とする請求項4に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項6】
前記外輪部が前記枠体から着脱できる着脱機構を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項7】
前記軸受を介して前記軸体の反対側に、前記軸受の軸方向の変位量を規制するストッパー部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項8】
前記ストッパー部材が、前記枠体に固定されるとともに、前記軸受と軸方向に隙間を形成して配されていることを特徴とする請求項7に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項9】
前記外輪部の可動方向を軸方向のみに規制するガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項10】
前記外輪部と前記弾性体とが一体形成されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項11】
前記弾性体と前記枠体とが一体形成されていることを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項12】
前記枠体と前記ストッパー部材とが一体形成されていることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の時計用軸受ユニット。
【請求項13】
前記枠体と前記ガイド部材とが一体形成されていることを特徴とする請求項9に記載の時計用軸受ユニット。
【請求項14】
香箱、番車、がんぎ車、アンクルおよびテンプを備えた時計のムーブメントであって、
少なくとも前記テンプの軸受ユニットに、請求項1〜13のいずれかに記載の時計用軸受ユニットが用いられていることを特徴とするムーブメント。
【請求項15】
請求項14に記載のムーブメントと、
該ムーブメントを内包するケーシングと、を備えていることを特徴とする携帯用時計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−80879(P2011−80879A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233804(P2009−233804)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
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