時限放出製剤
【課題】製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤を提供すること。
【解決手段】薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤。
【解決手段】薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与された製剤は、胃、十二指腸、小腸、大腸へと順次移動する過程で、通常小腸で吸収される。しかしながら、潰瘍性大腸炎のように大腸部分が原因となる疾患については、小腸下部、大腸に薬物を正確に送達する技術が必要である。また、消化管での化学分解や酵素分解を受け易いペプチド系薬物や吸収部位が限定される薬物等の経口投与療法等では、大腸へ選択的に薬物を送達することが強く望まれている。
【0003】
消化管のpHは、胃内では通常1.8〜4.5とされ、小腸及び大腸では6.5〜7.5とされている。また、製剤の胃内滞留時間は0.5〜10時間であり、個人差が大きいことに加え、食事や製剤の大きさによってもかなり影響を受けるとされている。これに対して、小腸通過時間はばらつきが比較的小さく、3±1時間とされている。
【0004】
小腸下部及び大腸に薬物を正確に送達するためには、胃内滞留時間及び消化管のpHに左右されない時限放出製剤が特に必要となる。すなわち、酸性から中性領域で薬物を放出せず、アルカリ領域で一定時間を経過したのち薬物を放出する必要がある。
【0005】
従来、胃排出後に薬物を放出する技術として腸溶性製剤があるが、一般的には胃液に対して不溶性で、腸液に溶解する有機高分子物質を用いて錠剤又は顆粒等にコーティングを施したものである。そのため、胃内では薬物を放出しないが、小腸では速やかに薬物を放出するため小腸下部や大腸に薬物を送達することは出来ない。
【0006】
小腸下部や大腸等の消化管下部へ特異的に薬物を放出するような経口投与システムとしては、例えば、製剤の消化管移動時間を利用して放出開始時間を制御する時限放出製剤による方法が知られている。
【0007】
このような一定のラグタイムを有する時限放出製剤としては、例えば、核粒子の周囲に膨潤性物質と薬物を付着させ、エチルセルロースとタルクの混合皮膜で被覆した製剤で水膨潤性物質が膨脹することで皮膜が破壊され薬物が放出するもの(特許文献1及び2)、放出開始までのラグタイムを得る製剤の皮膜として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属塩等の撥水性塩とアクリル酸系ポリマーを用いたもの(特許文献3)、及びオイドラギットRS(デグサジャパン社製)と有機酸の相互作用を利用したもの(特許文献4)等が挙げられる。
しかし、これらの製剤は、胃中における滞留時間に左右されるため、放出部位の特定が困難と考えられる。
【0008】
そこで製剤の消化管内移動時間を利用するシステムして、製剤の小腸通過時間が個体間で殆ど一定であることに着目して、製剤の胃内滞留時間のバラツキを除去し、小腸内の移動時間を利用するシステムが幾つか考え出されている。つまり腸溶性皮膜の機能を付加した放出時間制御タイプの製剤である。
【0009】
このような製剤としては、例えば、オイドラギットRS(デグサジャパン社製)と有機酸の相互作用を利用した時限放出製剤を、腸溶性高分子で被覆した製剤(特許文献5)、酸性物質を含有する核に、水不溶性高分子を被覆し、薬物層、低pH溶解性高分子そして腸溶性高分子を被覆した5層構造の顆粒剤(特許文献6)、薬物と酸性物質を含む核に、低pH溶解性高分子の圧縮層及び腸溶性高分子の圧縮層を設けた有核錠(特許文献7)、酸性物質を含有するカプセルに、水不溶性高分子を被覆し、低pH溶解性高分子そして腸溶性高分子を被覆したカプセル剤(特許文献8)等が挙げられる。
【特許文献1】特公平7−72130号公報
【特許文献2】特開平7−196477号公報
【特許文献3】特許第2558396号公報
【特許文献4】特公平6−74206号公報
【特許文献5】特開平7−2650号公報
【特許文献6】特開平7−10745号公報
【特許文献7】特開平7−223970号公報
【特許文献8】特開平9−87169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの製剤は胃内滞留時には薬物の放出はなく胃を出て小腸に移行してから一定時間後、即ち胃から一定の距離離れた部位、例えば、大腸部位で特異的に薬物を放出することが可能である。しかし、これらの製剤は、乳糖等球形顆粒(例えば、ノンパレル101(フロイント産業(株)製))に酸性物質層、薬物層、放出制御層及び腸溶性層等の多層構造の顆粒として製造され、腸溶性皮膜の機能と薬物放出時間の制御の機能の二つを合わせ持ったシステムで、構造的に複雑且つ製造に時間と手間がかかり、高度な製剤技術が必要である。そのため、製造法が簡単で、高度な製剤技術を必要とはしない、胃排出後一定のラグタイムの後に、大腸、小腸の所定の部位で薬物を速やかに放出する時限放出製剤が、強く望まれていた。
そこで、本発明は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤を開発することを目的として鋭意研究を重ねた結果、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜を被覆することで、上記目的が達成されることを見出した。本発明者らは更に詳細に検討を進めたところ、水不溶性高分子として(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子を用いることで、酸性から中性領域で薬物を放出せず、アルカリ領域で一定のラグタイム後、薬物を速やかに放出可能な時限放出製剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜を一層のみ被覆し、皮膜の組成、コーティング量及び中心核中の水膨潤性物質の配合割合を変えることにより、製剤から薬物が放出を開始する時間及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調整し得る時限放出性製剤を提供することができ、更に水不溶性高分子として(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子を用いることで胃内のようなpHの低い領域では全く薬物の放出をせず、小腸及び大腸のようなpHの比較的中性に近い領域においてのみ皮膜が破壊されるため、アルカリ領域で一定の薬物を放出しない時間(ラグタイム)を生じたのち薬物を速やかに放出し得るpH依存型時限放出製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の時限放出製剤は、中心核と、該中心核の外表面を覆う皮膜とから構成される2層構造を採用し、中心核が薬物及び水膨潤性物質を含み、皮膜が水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含むことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に適用される薬物は、経口投与可能な薬物であれば特に限定されるものではない。かかる薬物としては、化学療法剤、抗生物質、呼吸促進剤、鎮咳去たん剤、抗悪性腫瘍剤、自律神経用薬剤、精神神経用薬剤、局所麻酔剤、筋弛緩剤、消化器官用薬剤、抗ヒスタミン剤、中毒治療剤、催眠鎮静剤、解熱鎮痛消炎剤、強心剤、不正脈治療剤、利尿剤、血管拡張剤、抗脂血剤、滋養強壮変質剤、抗凝血剤、肝臓用薬剤、血糖降下剤、血圧降下剤、大腸炎治療剤、ペプチド、タンパク等が挙げられる。とりわけ、疾患部位である大腸において効率よく吸収させることが必要な大腸炎治療剤や胃内において分解を受け易いペプチド、タンパク等に適している。
【0016】
薬物の含有量は目的に応じて適宣決定することができるが、ラグタイム及びラグタイム後の薬物の放出性の点から、中心核を構成する組成物中の85質量%以下、更に70質量%以下、特に60質量%以下とすることが好ましい。なお、薬物含有量の下限は、薬理効果の点から、3質量%、特に5質量%とすることが好ましい。
【0017】
中心核を構成する水膨潤性物質としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウムである。中でも、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましく、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしては、ヒドロキシプロポキシル基を約7.0〜16.0質量%、好ましくは約10〜12.9質量%有するものであって、平均粒子径が30μm以下、特に20μm以下のものが好ましい。
【0018】
水膨潤性物質は1種又は2種以上を混合して用いることができ、その含有量は中心核中の15質量%以上、更に30質量%以上、特に40質量%以上とすることが好ましい。なお、水膨潤性物質の含有量の上限は、薬物含量の観点から、97質量%、特に95質量%とすることが好ましい。
【0019】
中心核には、賦形剤、結合剤、滑択剤、凝集防止剤、医薬化合物の溶解補助剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。賦形剤としては、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられ、結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん等が挙げられる。また、滑択剤、凝集防止剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。更に、医薬化合物の溶解補助剤としては、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0020】
皮膜を構成する水不溶性高分子としては、(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子が好ましく、特にアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル三元共重合体が好ましい。この三元共重合体を構成するアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルの質量比は1:2:0.1〜1:2:0.2が好ましく、市販のものとして、オイドラギットRS(例えば、RSPO、RS100、RS30D)及びオイドラギットRL(例えば、RLPO、RL100、RL30D)(以上、デグサジャパン社製)が例示される。なお、オイドラギットRSは塩化トリメチルアンモニウム基の含有量が4.48〜6.77質量%であり、オイドラギットRLは塩化トリメチルアンモニウム基の含有量が8.85〜11.96質量%である。
水不溶性高分子は1種でも2種以上を混合して用いることができ、例えば、塩化トリメチルアンモニウム基の含有量の異なる2種の三元共重合体を用いる場合、各配合成分の割合(RS:RL)は質量比で9.5:0.5〜5:5が好ましく、更に9.75:0.25〜5:5、特に7:3〜5:5が好ましい。
【0021】
皮膜中の水不溶性高分子の含有量(固形分)は、30質量%以上、更に40質量%以上、特に45質量%以上が好ましい。なお、かかる含有量の上限は、コーティング容易性の観点から、90質量%、特に95質量%が好ましい。
【0022】
可塑剤としては、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル及びトリアセチン等が挙げられる。中でも、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特にクエン酸トリエチルが好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステル中の構成脂肪酸は飽和でも不飽和であってもよく、その炭素数は4〜36が好ましく、特に12〜22が好ましい。
皮膜中の可塑剤の含有量は、水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%が好ましく、更に4質量%、また更に6質量%、更にまた7質量%以上、特に7.5質量%以上、殊更8質量%以上が好ましい。その上限は50質量%、更に40質量%、特に35質量%が好ましい。これにより、pHの低い領域では全く薬物の放出をせず、アルカリ領域で一定のラグタイム後、薬物を速やかに放出し得るpH依存型時限放出製剤とすることができる。
【0023】
水不溶性賦形剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル等が挙げられる。中でも、タルク、カオリン、酸化チタンが好ましく、タルク(平均粒子径:10〜40μm)が更に好ましく、粉砕したタルク(平均粒子径:1〜10μm)が特に好ましい。例えば、ビクトリアライトSK-C(平均粒子径:3.45μm、勝山工業所(株)製)、ビクトリアライトSK-BB(平均粒子径:4.6μm、勝山工業所(株)製)として商業的に入手することができる。
【0024】
水不溶性賦形剤の含有量は、皮膜の全質量に対して15質量%以上、更に25質量%以上、特に30質量%が好ましく、その上限は80質量%、更に70質量%、特に60質量%が好ましい。
【0025】
皮膜には、ワックス、ステアリン酸、隠蔽剤、着色剤、香料、滑択剤、凝集防止剤等の添加剤を配合することができる。これら添加剤の使用量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0026】
本発明の製剤は、例えば、次の如くして好適に製造することができる。
まず、薬物及び水膨潤性物質に、必要に応じて他の添加剤を加え、攪拌型混合機、例えばバーチカルグラニュレーター(パウレック(株)製)等の混合機で混合後、精製水又は含水アルコールを加えて練合し膨潤状態とする。
含水アルコール中のアルコールとしては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール等の医薬品又はその製造に用いることができるアルコールが挙げられる。アルコール濃度は、50質量%以下、特に30質量%以下が好ましく、下限は5質量%、特に10質量%が好ましい。水又は含水アルコールは、湿式造粒の練合溶媒として使用し、水膨潤性物質を膨潤状態にするためのもので、その使用量は水膨潤性物質に対して2〜5質量倍、特に2〜3質量倍とすることが好ましい。水又は含水アルコールの練合溶媒には、目的により甘味料、精製白糖等の糖類、D−マンニトール等の糖アルコール、水に溶解又は分散した高分子等の医薬品で通常使用することができる添加物を加えてもよい。
【0027】
本発明に係る中心核は湿式造粒により好適に製造されるが、湿式造粒に適用される方法は、攪拌造粒や流動層造粒そして押出し造粒であれば特に限定されるものではない。中でも、押出し造粒が好ましく、特に好ましいのは、押出し造粒後、マルメライザーで球形化を施すことである。具体的には、膨潤状態にある練合物を押出し造粒機、例えば、0.3〜1.0mm径のスクリーンを装着したツインドームグラン(不二パウダル(株)製)押出し造粒機で押出し造粒し、その後マルメライザー(不二パウダル(株)製)にて球形化を施したのち、箱型乾燥機又は流動層乾燥機にて乾燥する。次いで、得られた薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含有するコーティング液を被覆することにより、本発明の製剤を製造することができる。このとき必要に応じて、上記各種添加剤等を配合してもよい。コーティング基剤を溶解分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素又はそれらの混合物が挙げられるが、好ましくは水、アルコール類又はこれらの混合物であり、特に好ましくはエタノール又はエタノールと水の混合物である。アルコール水溶液のアルコール濃度は目的に応じて適宜決定することができるが、80質量%未満、特に20〜60質量%とすることで、ラグタイムが5分、10分又は15分以内であり、かつラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内に製剤中に含まれる薬物の80質量%以上を放出し得る時限放出製剤とすることが可能であり、更に不快な苦味等を呈する薬物に対しては服用時の不快な味をマスキングし得るマスキング型時限放出製剤とすることができる。
【0028】
皮膜の被覆は、流動層コーティング法、パンコーティング法、転動流動層コーティング法等の製剤技術で常用される方法を採用することができるが、例えば流動層コーティング法によるときは、芯物質を装置中で空気圧により流動させながらスプレーガンのノズルから前記のコーティング基剤の分散液を適当な速度で、芯物質に噴霧コーティングすることにより実施することができる。
【0029】
コーティング液中のコーティング基剤の濃度は、特に限定されるものではないが、皮膜形成能、作業性等を考慮すれば5〜30質量%が好ましい。このようにして得られた本発明の製剤は、前述の剤形でそのまま投与してもよく、またカプセル等に充填して投与してもよく、更には錠剤としてもよい。必要であれば糖衣層等を更にコーティングしてもよい。
【0030】
皮膜のコーティング量は、ラグタイム及びラグタイム後の薬物の放出性の点から、中心核の全質量に対して10質量%以上が好ましく、更に30質量%以上、特に50質量%以上が好ましい。なお、コーティング量の上限は、300質量%、特に250質量%が好ましい。
【0031】
このように、本発明においては、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核を製造する際に、膨潤状態で押出し造粒し、マルメライザーで球形顆粒とするため、乾燥時に水膨潤性物質が収縮することで押出しスクリーン径より小さな球形粒子の中心核を得ることができる。この方法によって得られる球形の中心核は、従来の遠心転動造粒機、例えばCFグラニュレーター(フロイント産業(株)製)を用いてノンパレル(平均粒子径:840〜350μm)の核に、結合剤の水溶液を噴霧しながら薬物や水膨潤性物質をパウダーコーティングする方法に比較して、高度な製剤技術を必要とせず、薬物と水膨潤性物質を含む球形の中心核を製造することができる。しかも、ノンパレルを用いる方法では、1020〜500μm程度の顆粒剤を製造するのが限界であるが、本発明で好適に使用される方法では、水膨潤性物質を膨潤状態として押出し造粒するため、造粒時の押出し圧力が小さくて済み、通常押出し造粒では使用が困難な0.3、0.4mm径スクリーンでの造粒が可能となり、粒度が散剤や細粒剤規格の球形の核、例えば500〜355μm、355〜250μm、250〜180μmの微小球形粒子を製造することができる。この核を使用することで、従来製造が困難であった散剤や細粒剤の時限製剤を簡単に製造することが可能となり、特に服用感の良い時限放出製剤が得られ、苦味の強い薬物を口腔内崩壊錠とすることができる。
【0032】
本発明に係る製剤の主薬放出機構は次のとおりである。経口投与された本発明の製剤は、まずpHの低い胃内では皮膜から水分の浸透は少なく、中心核中の水膨潤性物質の膨潤はない。故に、薬物の放出も起こらない。次に胃内からpHの高い小腸上部に移行すると、皮膜中から水分の浸透が始まり、中心核中の水膨潤性物質が徐々に膨潤していく。そして一定時間後に皮膜が、中心核中の水膨潤性物質の膨潤による体積増加の膨潤力により、皮膜の破壊が起き、薬物が瞬時に全量放出される。この時間がラグタイムとなる。このラグタイムは、水不溶性高分子(特に、オイドラギットRS)、可塑剤及び水不溶性賦形剤の配合割合を変えることによって自由に調節できる。特に、可塑剤の配合量を増加することによりラグタイムが長くなり、水不溶性賦形剤の配合量の増加により、ラグタイムとラグタイム後の放出性を早くすることができる。そしてまた、皮膜厚を変えることによっても調節は可能である。本発明によれば、薬物の胃排出から薬物作用部位或いは吸収部位までの到達時間を調節することによって(即ちラグタイムを調節することによって)所定の下部消化管部位において瞬時に薬物の放出を行うことが可能なpH依存型時限放出製剤とすることができる。
【0033】
より具体的には、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、可塑剤を水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%以上添加し、更に水不溶性賦形剤を皮膜の全質量に対して30質量%以上添加した組成物により皮膜を形成することで、ラグタイムが5分、10分又は15分以内であり、かつラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内(好ましくは5分、10分又は15分以内)に製剤中に含まれる薬物の80質量%以上を放出し得る時限放出製剤がより確実に得られ、更に可塑剤を水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して7質量%以上、水不溶性賦形剤を皮膜の全質量に対して30質量%以上添加した組成物により皮膜を形成することで、酸性及び中性領域で薬物を放出せずアルカリ領域でのみ一定のラグタイムの後に薬物を放出する時限放出製剤がより確実に得られる。従って、経口投与後、胃液では薬物を放出せず胃を通過して一定時間を経過した後、速やかに薬物を放出させて、十分な有効血中濃度を得ることができるという特徴を有している。即ち被覆剤中のクエン酸トリエチルの配合量又は被覆量を変化することで胃を通過した時点から薬物の放出開始時間を任意に調整できるという特徴を有している。
従って、胃排出後、一定時間後にパルス的に急激な放出が起こり、確実に所定の腸内部位での薬物の放出が可能となり、それ故大腸等の局所で薬物を作用させたり、ペプチド、タンパク等が分解を受けることなく大腸まで送達できる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下「%」は「質量%」を示し、表中のラグタイム及びT80%の単位は分である。
【0035】
実施例1
テオフィリン(白鳥製薬(株) 製)100gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)900gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%質量エタノール水溶液2900gを加えて練合した。この練合物を、0.8mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形粒子とした。その後、流動層乾燥機WSG-55型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、20と30メッシュの篩で整粒し20〜30メッシュ(840〜500μm)のテオフィリンを10%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2000g、2500gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、50%コーティングした製剤を製造した。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表2に示すコーティング液2000g、25000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を40、50%コーティングした製剤を製造した。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例3
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表3に示すコーティング液2000g、2500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を40%、50%コーティングした製剤を製造した。
【0040】
【表3】
【0041】
実施例4
実施例1で製造した20〜30メッシュの10%テオフィリン顆粒を500gに、表4に示すコーティング液2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0042】
【表4】
【0043】
実施例5
実施例1で製造した20〜30メッシュの10%テオフィリン顆粒を500gに、表5に示すコーティング液2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0044】
【表5】
【0045】
試験例1
実施例1〜5で製造した製剤を次の試験法に従って溶出試験を実施した。
溶出試験法:日局15 溶出試験法(2)第2法(パドル法)試験液
水900mLにテオフィリンとして60mg含有量の製剤を入れ、100rpm/分の回転数で攪拌したとき、テオフィリンの溶出量をUV法(波長:267nm)で測定した。そして製剤に配合したテオフィリン量に対する溶出量の百分率で評価した。図2〜3(実施例1)、図4〜5(実施例2)、図6〜7(実施例3)、図8〜9(実施例4)及び図10〜11(実施例5)に溶出曲線を示した。
【0046】
図1に示すように溶出曲線から、溶出量が20〜80%の各測定値を相関分析し、相関係数、直線の傾き、直線が横軸(時間軸)に接する点をラグタイム(薬物を放出しない時間)、溶出量が80%に達する時間T80%を計算し、T80%-ラグタイムを放出開始時間制御製剤の放出性とした。その結果を、表6(実施例1)、表7(実施例2)、表8(実施例3)、表9(実施例4)、表10(実施例5)に示した。
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
【表10】
【0052】
実施例4及び実施例5より、ラグタイム後に薬物を放出する時限放出製剤が得られることが確認され、この結果から可塑剤を水不溶性高分子の全質量に対して7質量%以上含有すれば、アルカリ領域でのみ薬物を放出し得るpH依存型時限放出製剤が得られることが推察された。そこで、クエン酸トリエチルの添加量が8.7%(実施例1)、11.1%(実施例2)、25.0%(実施例3)の製剤を検討したところ、pH1.2及び精製水(中性)では、薬物の放出は認められず、pH6.8でのみラグタイムの後に薬物を放出するpH依存型時限放出製剤が得られることが確認された。
【0053】
比較例1
ノンパレル103(30〜42メッシュ,フロイント産業(株)製)5000gを遠心流動造粒機(CF-3601)に入れ転動させ、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L 日本槽達(株)製)20gを水-エタノール(1:1)の混液500gに溶解した溶液を噴霧しながらテオフィリン(白鳥製薬(株)製)1250g及び乳糖730gの混合物を徐々に添加してノンパレルの周囲に被覆して、20〜30メッシュのテオフィリン50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0054】
この製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施したが、40%、50%コーティングした顆粒のいずれの場合もラグタイムは認められなかった。
【0055】
実施例6
無水カフェイン(寧薬化学工業(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gを、10%質量エタノール水溶液1500gを加えて練合し、実施例1と同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)の無水カフェインを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0056】
実施例7
アセトアミノフェン(山本化学工業(株) 製)300gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)700gを、10%質量エタノール水溶液2100gを加えて練合し、実施例1と同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)のアセトアミノフェンを30%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0057】
実施例8
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学工業(株) 製)850gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)150gを、10%質量エタノール水溶液1400gを加えて練合し、実施例1同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)の無水カフェインを85%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0058】
試験例2
実施例6〜8で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図12〜17に溶出曲線を示した。また、表11〜13に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0059】
【表11】
【0060】
【表12】
【0061】
【表13】
【0062】
無水カフェイン(実施例6、図12〜13、表11)、アセトアミノフェン(実施例7、図14〜15、表12)、塩酸ジフェンヒドラミン(実施例8、図16〜17、表13)等の製剤も、実施例1の製剤と同様に、酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかにパルス的に放出する時限放出製剤が得られた。
【0063】
実施例9
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液1500g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0064】
【表14】
【0065】
実施例10
実施例6で製造した、50%無水カフェイン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液1750g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を35%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0066】
実施例11
実施例7で製造した、30%アセトアミノフェン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液5000g、5500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を100%、110%コーティングした製剤を製造した。
【0067】
実施例12
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表15に示すコーティング液1500g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0068】
【表15】
【0069】
試験例3
実施例9〜12で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図18〜25に溶出曲線を示した。また、表16〜19に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0070】
【表16】
【0071】
【表17】
【0072】
【表18】
【0073】
【表19】
【0074】
オイドラギットRS30D(水系)をオイドギットRSPO(有機溶剤系)に変更し、テオフィリン(実施例9、図18〜19、表16)、無水カフェイン(実施例10、図20〜21、表17)、アセトアミノフェン(実施例11、図22〜23、表18)等の薬物を使用した場合においても、実施例1、6、7と同様に酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかに瞬間的に放出する時限放出製剤が得られた。
また、クエン酸トリエチルの代わりにグリセリン脂肪酸エステルを使用した実施例12(図24〜25、表19)においても実施例1と同様に、酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかに瞬間的に放出する時限放出製剤が得られた。
【0075】
実施例13
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株)製)300gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)700gをバーチカルグラニュレーターFM−VG−25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液2300gを加えて練合した。この練合物を、実施例1と同様にして、20〜30メッシュの塩酸ジフェンヒドラミンを30%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを流動層コーティング装置MP-01 転動流動層コーティング装置(パウレック(株)製)で、表20に示すコーティング液、500g、1000g、1500g、2000、2500、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を10%、20%、30%、40%、50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0076】
【表20】
【0077】
試験例4
実施例13で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図26に溶出曲線を示した。また、表21に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0078】
【表21】
【0079】
実施例13より、皮膜のコーティング量を変えることでラグタイムを調整できることが確認された。
【0080】
実施例14
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液1800gを加えて練合した。この練合物を、0.8mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形顆粒とした。その後、流動層乾燥機WSG-5型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、30(500μm)と40(420μm)メッシュの篩で整粒し30〜40メッシュ(500〜420μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを流動層コーティング装置MP-01 転動流動層コーティング装置(パウレック(株)製)で、表22に示すコーティング液、2000g、2750g、3250gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、55%、65%コーティングした製剤を製造した。
【0081】
【表22】
【0082】
実施例15
実施例14で製造した、50%塩酸ジフェンヒドラミン含有顆粒(30〜40メッシュ)500gに表23に示すコーティング液2250g、3000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を45%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0083】
【表23】
【0084】
実施例16
実施例14で製造した、50%塩酸ジフェンヒドラミン含有顆粒(30〜40メッシュ)500gに表24に示すコーティング液2250g、3750g、5000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を45%、65%、100%コーティングした製剤を製造した。
【0085】
【表24】
【0086】
試験例5
実施例14〜16で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図27〜29に溶出曲線を示した。また、表25〜27に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0087】
【表25】
【0088】
【表26】
【0089】
【表27】
【0090】
図27〜29に示すように、テオフィリンを50%含有(粒子径:840〜500μm)する製剤は、いずれもラグタイムが5分、10分又は15分以内で、ラグタイム後それぞれ5分、10分、15分以内に製剤中に含まれるテオフィリンの80%以上が放出されることが確認された。この結果より、マスキング型時限放出製剤として有用であることが確認された。
【0091】
実施例17
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液1500gを加えて練合した。この練合物を、0.5mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形顆粒とした。その後、流動層乾燥機WSG-5型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、30(500μm)と42(355μm)メッシュの篩で整粒し30〜42メッシュ(500〜355μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表28に示すコーティング液、1000g、1250g、1500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を20%、25%、30%コーティングした製剤を製造した。
【0092】
【表28】
【0093】
実施例18
実施例16で製造した30〜42メッシュ(500〜355μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表29に示すコーティング液を、1500g、1750gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、35%コーティングした製剤を製造した。
【0094】
【表29】
【0095】
試験例6
実施例17〜18で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図30〜31に溶出曲線を示した。また、表30〜31に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0096】
【表30】
【0097】
【表31】
【0098】
図30〜31に示すように、塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する粒子径が、500〜355μmの中心核に、タルク60%添加(実施例17)及びタルク70%添加(実施例18)においても、いずれもラグタイムが5分、10分又は15分以内で、ラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内に製剤中の塩酸ジフェンヒドラミンの80%以上を放出する時限放出製剤が得られることが確認された。この結果より、マスキング型時限放出製剤として有用であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】溶出曲線から、ラグタイム(薬物を放出しない時間)、T80% (溶出量が80%に達する時間)、T80%-ラグタイム(時限放出製剤の放出性)の計算方法を説明するための図である。
【図2】実施例1で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図3】実施例1で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図4】実施例2で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図5】実施例2で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図6】実施例3で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図7】実施例3で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図8】実施例4で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図9】実施例4で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図10】実施例5で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図11】実施例5で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図12】実施例6で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図13】実施例6で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図14】実施例7で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図15】実施例7で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図16】実施例8で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図17】実施例8で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図18】実施例9で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図19】実施例9で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図20】実施例10で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図21】実施例10で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図22】実施例11で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図23】実施例11で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図24】実施例12で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図25】実施例12で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図26】実施例13で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図27】実施例14で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図28】実施例15で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図29】実施例16で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図30】実施例17で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図31】実施例18で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与された製剤は、胃、十二指腸、小腸、大腸へと順次移動する過程で、通常小腸で吸収される。しかしながら、潰瘍性大腸炎のように大腸部分が原因となる疾患については、小腸下部、大腸に薬物を正確に送達する技術が必要である。また、消化管での化学分解や酵素分解を受け易いペプチド系薬物や吸収部位が限定される薬物等の経口投与療法等では、大腸へ選択的に薬物を送達することが強く望まれている。
【0003】
消化管のpHは、胃内では通常1.8〜4.5とされ、小腸及び大腸では6.5〜7.5とされている。また、製剤の胃内滞留時間は0.5〜10時間であり、個人差が大きいことに加え、食事や製剤の大きさによってもかなり影響を受けるとされている。これに対して、小腸通過時間はばらつきが比較的小さく、3±1時間とされている。
【0004】
小腸下部及び大腸に薬物を正確に送達するためには、胃内滞留時間及び消化管のpHに左右されない時限放出製剤が特に必要となる。すなわち、酸性から中性領域で薬物を放出せず、アルカリ領域で一定時間を経過したのち薬物を放出する必要がある。
【0005】
従来、胃排出後に薬物を放出する技術として腸溶性製剤があるが、一般的には胃液に対して不溶性で、腸液に溶解する有機高分子物質を用いて錠剤又は顆粒等にコーティングを施したものである。そのため、胃内では薬物を放出しないが、小腸では速やかに薬物を放出するため小腸下部や大腸に薬物を送達することは出来ない。
【0006】
小腸下部や大腸等の消化管下部へ特異的に薬物を放出するような経口投与システムとしては、例えば、製剤の消化管移動時間を利用して放出開始時間を制御する時限放出製剤による方法が知られている。
【0007】
このような一定のラグタイムを有する時限放出製剤としては、例えば、核粒子の周囲に膨潤性物質と薬物を付着させ、エチルセルロースとタルクの混合皮膜で被覆した製剤で水膨潤性物質が膨脹することで皮膜が破壊され薬物が放出するもの(特許文献1及び2)、放出開始までのラグタイムを得る製剤の皮膜として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属塩等の撥水性塩とアクリル酸系ポリマーを用いたもの(特許文献3)、及びオイドラギットRS(デグサジャパン社製)と有機酸の相互作用を利用したもの(特許文献4)等が挙げられる。
しかし、これらの製剤は、胃中における滞留時間に左右されるため、放出部位の特定が困難と考えられる。
【0008】
そこで製剤の消化管内移動時間を利用するシステムして、製剤の小腸通過時間が個体間で殆ど一定であることに着目して、製剤の胃内滞留時間のバラツキを除去し、小腸内の移動時間を利用するシステムが幾つか考え出されている。つまり腸溶性皮膜の機能を付加した放出時間制御タイプの製剤である。
【0009】
このような製剤としては、例えば、オイドラギットRS(デグサジャパン社製)と有機酸の相互作用を利用した時限放出製剤を、腸溶性高分子で被覆した製剤(特許文献5)、酸性物質を含有する核に、水不溶性高分子を被覆し、薬物層、低pH溶解性高分子そして腸溶性高分子を被覆した5層構造の顆粒剤(特許文献6)、薬物と酸性物質を含む核に、低pH溶解性高分子の圧縮層及び腸溶性高分子の圧縮層を設けた有核錠(特許文献7)、酸性物質を含有するカプセルに、水不溶性高分子を被覆し、低pH溶解性高分子そして腸溶性高分子を被覆したカプセル剤(特許文献8)等が挙げられる。
【特許文献1】特公平7−72130号公報
【特許文献2】特開平7−196477号公報
【特許文献3】特許第2558396号公報
【特許文献4】特公平6−74206号公報
【特許文献5】特開平7−2650号公報
【特許文献6】特開平7−10745号公報
【特許文献7】特開平7−223970号公報
【特許文献8】特開平9−87169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの製剤は胃内滞留時には薬物の放出はなく胃を出て小腸に移行してから一定時間後、即ち胃から一定の距離離れた部位、例えば、大腸部位で特異的に薬物を放出することが可能である。しかし、これらの製剤は、乳糖等球形顆粒(例えば、ノンパレル101(フロイント産業(株)製))に酸性物質層、薬物層、放出制御層及び腸溶性層等の多層構造の顆粒として製造され、腸溶性皮膜の機能と薬物放出時間の制御の機能の二つを合わせ持ったシステムで、構造的に複雑且つ製造に時間と手間がかかり、高度な製剤技術が必要である。そのため、製造法が簡単で、高度な製剤技術を必要とはしない、胃排出後一定のラグタイムの後に、大腸、小腸の所定の部位で薬物を速やかに放出する時限放出製剤が、強く望まれていた。
そこで、本発明は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、製剤から薬物が放出を開始するまでの時間、及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調節することのできる時限放出製剤を開発することを目的として鋭意研究を重ねた結果、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜を被覆することで、上記目的が達成されることを見出した。本発明者らは更に詳細に検討を進めたところ、水不溶性高分子として(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子を用いることで、酸性から中性領域で薬物を放出せず、アルカリ領域で一定のラグタイム後、薬物を速やかに放出可能な時限放出製剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜を一層のみ被覆し、皮膜の組成、コーティング量及び中心核中の水膨潤性物質の配合割合を変えることにより、製剤から薬物が放出を開始する時間及び薬物放出開始後の薬物放出速度を自由に調整し得る時限放出性製剤を提供することができ、更に水不溶性高分子として(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子を用いることで胃内のようなpHの低い領域では全く薬物の放出をせず、小腸及び大腸のようなpHの比較的中性に近い領域においてのみ皮膜が破壊されるため、アルカリ領域で一定の薬物を放出しない時間(ラグタイム)を生じたのち薬物を速やかに放出し得るpH依存型時限放出製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の時限放出製剤は、中心核と、該中心核の外表面を覆う皮膜とから構成される2層構造を採用し、中心核が薬物及び水膨潤性物質を含み、皮膜が水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含むことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に適用される薬物は、経口投与可能な薬物であれば特に限定されるものではない。かかる薬物としては、化学療法剤、抗生物質、呼吸促進剤、鎮咳去たん剤、抗悪性腫瘍剤、自律神経用薬剤、精神神経用薬剤、局所麻酔剤、筋弛緩剤、消化器官用薬剤、抗ヒスタミン剤、中毒治療剤、催眠鎮静剤、解熱鎮痛消炎剤、強心剤、不正脈治療剤、利尿剤、血管拡張剤、抗脂血剤、滋養強壮変質剤、抗凝血剤、肝臓用薬剤、血糖降下剤、血圧降下剤、大腸炎治療剤、ペプチド、タンパク等が挙げられる。とりわけ、疾患部位である大腸において効率よく吸収させることが必要な大腸炎治療剤や胃内において分解を受け易いペプチド、タンパク等に適している。
【0016】
薬物の含有量は目的に応じて適宣決定することができるが、ラグタイム及びラグタイム後の薬物の放出性の点から、中心核を構成する組成物中の85質量%以下、更に70質量%以下、特に60質量%以下とすることが好ましい。なお、薬物含有量の下限は、薬理効果の点から、3質量%、特に5質量%とすることが好ましい。
【0017】
中心核を構成する水膨潤性物質としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウムである。中でも、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましく、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしては、ヒドロキシプロポキシル基を約7.0〜16.0質量%、好ましくは約10〜12.9質量%有するものであって、平均粒子径が30μm以下、特に20μm以下のものが好ましい。
【0018】
水膨潤性物質は1種又は2種以上を混合して用いることができ、その含有量は中心核中の15質量%以上、更に30質量%以上、特に40質量%以上とすることが好ましい。なお、水膨潤性物質の含有量の上限は、薬物含量の観点から、97質量%、特に95質量%とすることが好ましい。
【0019】
中心核には、賦形剤、結合剤、滑択剤、凝集防止剤、医薬化合物の溶解補助剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。賦形剤としては、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられ、結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん等が挙げられる。また、滑択剤、凝集防止剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。更に、医薬化合物の溶解補助剤としては、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0020】
皮膜を構成する水不溶性高分子としては、(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子が好ましく、特にアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル三元共重合体が好ましい。この三元共重合体を構成するアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルの質量比は1:2:0.1〜1:2:0.2が好ましく、市販のものとして、オイドラギットRS(例えば、RSPO、RS100、RS30D)及びオイドラギットRL(例えば、RLPO、RL100、RL30D)(以上、デグサジャパン社製)が例示される。なお、オイドラギットRSは塩化トリメチルアンモニウム基の含有量が4.48〜6.77質量%であり、オイドラギットRLは塩化トリメチルアンモニウム基の含有量が8.85〜11.96質量%である。
水不溶性高分子は1種でも2種以上を混合して用いることができ、例えば、塩化トリメチルアンモニウム基の含有量の異なる2種の三元共重合体を用いる場合、各配合成分の割合(RS:RL)は質量比で9.5:0.5〜5:5が好ましく、更に9.75:0.25〜5:5、特に7:3〜5:5が好ましい。
【0021】
皮膜中の水不溶性高分子の含有量(固形分)は、30質量%以上、更に40質量%以上、特に45質量%以上が好ましい。なお、かかる含有量の上限は、コーティング容易性の観点から、90質量%、特に95質量%が好ましい。
【0022】
可塑剤としては、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル及びトリアセチン等が挙げられる。中でも、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特にクエン酸トリエチルが好ましい。また、グリセリン脂肪酸エステル中の構成脂肪酸は飽和でも不飽和であってもよく、その炭素数は4〜36が好ましく、特に12〜22が好ましい。
皮膜中の可塑剤の含有量は、水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%が好ましく、更に4質量%、また更に6質量%、更にまた7質量%以上、特に7.5質量%以上、殊更8質量%以上が好ましい。その上限は50質量%、更に40質量%、特に35質量%が好ましい。これにより、pHの低い領域では全く薬物の放出をせず、アルカリ領域で一定のラグタイム後、薬物を速やかに放出し得るpH依存型時限放出製剤とすることができる。
【0023】
水不溶性賦形剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル等が挙げられる。中でも、タルク、カオリン、酸化チタンが好ましく、タルク(平均粒子径:10〜40μm)が更に好ましく、粉砕したタルク(平均粒子径:1〜10μm)が特に好ましい。例えば、ビクトリアライトSK-C(平均粒子径:3.45μm、勝山工業所(株)製)、ビクトリアライトSK-BB(平均粒子径:4.6μm、勝山工業所(株)製)として商業的に入手することができる。
【0024】
水不溶性賦形剤の含有量は、皮膜の全質量に対して15質量%以上、更に25質量%以上、特に30質量%が好ましく、その上限は80質量%、更に70質量%、特に60質量%が好ましい。
【0025】
皮膜には、ワックス、ステアリン酸、隠蔽剤、着色剤、香料、滑択剤、凝集防止剤等の添加剤を配合することができる。これら添加剤の使用量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0026】
本発明の製剤は、例えば、次の如くして好適に製造することができる。
まず、薬物及び水膨潤性物質に、必要に応じて他の添加剤を加え、攪拌型混合機、例えばバーチカルグラニュレーター(パウレック(株)製)等の混合機で混合後、精製水又は含水アルコールを加えて練合し膨潤状態とする。
含水アルコール中のアルコールとしては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール等の医薬品又はその製造に用いることができるアルコールが挙げられる。アルコール濃度は、50質量%以下、特に30質量%以下が好ましく、下限は5質量%、特に10質量%が好ましい。水又は含水アルコールは、湿式造粒の練合溶媒として使用し、水膨潤性物質を膨潤状態にするためのもので、その使用量は水膨潤性物質に対して2〜5質量倍、特に2〜3質量倍とすることが好ましい。水又は含水アルコールの練合溶媒には、目的により甘味料、精製白糖等の糖類、D−マンニトール等の糖アルコール、水に溶解又は分散した高分子等の医薬品で通常使用することができる添加物を加えてもよい。
【0027】
本発明に係る中心核は湿式造粒により好適に製造されるが、湿式造粒に適用される方法は、攪拌造粒や流動層造粒そして押出し造粒であれば特に限定されるものではない。中でも、押出し造粒が好ましく、特に好ましいのは、押出し造粒後、マルメライザーで球形化を施すことである。具体的には、膨潤状態にある練合物を押出し造粒機、例えば、0.3〜1.0mm径のスクリーンを装着したツインドームグラン(不二パウダル(株)製)押出し造粒機で押出し造粒し、その後マルメライザー(不二パウダル(株)製)にて球形化を施したのち、箱型乾燥機又は流動層乾燥機にて乾燥する。次いで、得られた薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含有するコーティング液を被覆することにより、本発明の製剤を製造することができる。このとき必要に応じて、上記各種添加剤等を配合してもよい。コーティング基剤を溶解分散させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素又はそれらの混合物が挙げられるが、好ましくは水、アルコール類又はこれらの混合物であり、特に好ましくはエタノール又はエタノールと水の混合物である。アルコール水溶液のアルコール濃度は目的に応じて適宜決定することができるが、80質量%未満、特に20〜60質量%とすることで、ラグタイムが5分、10分又は15分以内であり、かつラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内に製剤中に含まれる薬物の80質量%以上を放出し得る時限放出製剤とすることが可能であり、更に不快な苦味等を呈する薬物に対しては服用時の不快な味をマスキングし得るマスキング型時限放出製剤とすることができる。
【0028】
皮膜の被覆は、流動層コーティング法、パンコーティング法、転動流動層コーティング法等の製剤技術で常用される方法を採用することができるが、例えば流動層コーティング法によるときは、芯物質を装置中で空気圧により流動させながらスプレーガンのノズルから前記のコーティング基剤の分散液を適当な速度で、芯物質に噴霧コーティングすることにより実施することができる。
【0029】
コーティング液中のコーティング基剤の濃度は、特に限定されるものではないが、皮膜形成能、作業性等を考慮すれば5〜30質量%が好ましい。このようにして得られた本発明の製剤は、前述の剤形でそのまま投与してもよく、またカプセル等に充填して投与してもよく、更には錠剤としてもよい。必要であれば糖衣層等を更にコーティングしてもよい。
【0030】
皮膜のコーティング量は、ラグタイム及びラグタイム後の薬物の放出性の点から、中心核の全質量に対して10質量%以上が好ましく、更に30質量%以上、特に50質量%以上が好ましい。なお、コーティング量の上限は、300質量%、特に250質量%が好ましい。
【0031】
このように、本発明においては、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核を製造する際に、膨潤状態で押出し造粒し、マルメライザーで球形顆粒とするため、乾燥時に水膨潤性物質が収縮することで押出しスクリーン径より小さな球形粒子の中心核を得ることができる。この方法によって得られる球形の中心核は、従来の遠心転動造粒機、例えばCFグラニュレーター(フロイント産業(株)製)を用いてノンパレル(平均粒子径:840〜350μm)の核に、結合剤の水溶液を噴霧しながら薬物や水膨潤性物質をパウダーコーティングする方法に比較して、高度な製剤技術を必要とせず、薬物と水膨潤性物質を含む球形の中心核を製造することができる。しかも、ノンパレルを用いる方法では、1020〜500μm程度の顆粒剤を製造するのが限界であるが、本発明で好適に使用される方法では、水膨潤性物質を膨潤状態として押出し造粒するため、造粒時の押出し圧力が小さくて済み、通常押出し造粒では使用が困難な0.3、0.4mm径スクリーンでの造粒が可能となり、粒度が散剤や細粒剤規格の球形の核、例えば500〜355μm、355〜250μm、250〜180μmの微小球形粒子を製造することができる。この核を使用することで、従来製造が困難であった散剤や細粒剤の時限製剤を簡単に製造することが可能となり、特に服用感の良い時限放出製剤が得られ、苦味の強い薬物を口腔内崩壊錠とすることができる。
【0032】
本発明に係る製剤の主薬放出機構は次のとおりである。経口投与された本発明の製剤は、まずpHの低い胃内では皮膜から水分の浸透は少なく、中心核中の水膨潤性物質の膨潤はない。故に、薬物の放出も起こらない。次に胃内からpHの高い小腸上部に移行すると、皮膜中から水分の浸透が始まり、中心核中の水膨潤性物質が徐々に膨潤していく。そして一定時間後に皮膜が、中心核中の水膨潤性物質の膨潤による体積増加の膨潤力により、皮膜の破壊が起き、薬物が瞬時に全量放出される。この時間がラグタイムとなる。このラグタイムは、水不溶性高分子(特に、オイドラギットRS)、可塑剤及び水不溶性賦形剤の配合割合を変えることによって自由に調節できる。特に、可塑剤の配合量を増加することによりラグタイムが長くなり、水不溶性賦形剤の配合量の増加により、ラグタイムとラグタイム後の放出性を早くすることができる。そしてまた、皮膜厚を変えることによっても調節は可能である。本発明によれば、薬物の胃排出から薬物作用部位或いは吸収部位までの到達時間を調節することによって(即ちラグタイムを調節することによって)所定の下部消化管部位において瞬時に薬物の放出を行うことが可能なpH依存型時限放出製剤とすることができる。
【0033】
より具体的には、薬物及び水膨潤性物質を含む中心核に、可塑剤を水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%以上添加し、更に水不溶性賦形剤を皮膜の全質量に対して30質量%以上添加した組成物により皮膜を形成することで、ラグタイムが5分、10分又は15分以内であり、かつラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内(好ましくは5分、10分又は15分以内)に製剤中に含まれる薬物の80質量%以上を放出し得る時限放出製剤がより確実に得られ、更に可塑剤を水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して7質量%以上、水不溶性賦形剤を皮膜の全質量に対して30質量%以上添加した組成物により皮膜を形成することで、酸性及び中性領域で薬物を放出せずアルカリ領域でのみ一定のラグタイムの後に薬物を放出する時限放出製剤がより確実に得られる。従って、経口投与後、胃液では薬物を放出せず胃を通過して一定時間を経過した後、速やかに薬物を放出させて、十分な有効血中濃度を得ることができるという特徴を有している。即ち被覆剤中のクエン酸トリエチルの配合量又は被覆量を変化することで胃を通過した時点から薬物の放出開始時間を任意に調整できるという特徴を有している。
従って、胃排出後、一定時間後にパルス的に急激な放出が起こり、確実に所定の腸内部位での薬物の放出が可能となり、それ故大腸等の局所で薬物を作用させたり、ペプチド、タンパク等が分解を受けることなく大腸まで送達できる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下「%」は「質量%」を示し、表中のラグタイム及びT80%の単位は分である。
【0035】
実施例1
テオフィリン(白鳥製薬(株) 製)100gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)900gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%質量エタノール水溶液2900gを加えて練合した。この練合物を、0.8mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形粒子とした。その後、流動層乾燥機WSG-55型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、20と30メッシュの篩で整粒し20〜30メッシュ(840〜500μm)のテオフィリンを10%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2000g、2500gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、50%コーティングした製剤を製造した。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表2に示すコーティング液2000g、25000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を40、50%コーティングした製剤を製造した。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例3
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表3に示すコーティング液2000g、2500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を40%、50%コーティングした製剤を製造した。
【0040】
【表3】
【0041】
実施例4
実施例1で製造した20〜30メッシュの10%テオフィリン顆粒を500gに、表4に示すコーティング液2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0042】
【表4】
【0043】
実施例5
実施例1で製造した20〜30メッシュの10%テオフィリン顆粒を500gに、表5に示すコーティング液2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0044】
【表5】
【0045】
試験例1
実施例1〜5で製造した製剤を次の試験法に従って溶出試験を実施した。
溶出試験法:日局15 溶出試験法(2)第2法(パドル法)試験液
水900mLにテオフィリンとして60mg含有量の製剤を入れ、100rpm/分の回転数で攪拌したとき、テオフィリンの溶出量をUV法(波長:267nm)で測定した。そして製剤に配合したテオフィリン量に対する溶出量の百分率で評価した。図2〜3(実施例1)、図4〜5(実施例2)、図6〜7(実施例3)、図8〜9(実施例4)及び図10〜11(実施例5)に溶出曲線を示した。
【0046】
図1に示すように溶出曲線から、溶出量が20〜80%の各測定値を相関分析し、相関係数、直線の傾き、直線が横軸(時間軸)に接する点をラグタイム(薬物を放出しない時間)、溶出量が80%に達する時間T80%を計算し、T80%-ラグタイムを放出開始時間制御製剤の放出性とした。その結果を、表6(実施例1)、表7(実施例2)、表8(実施例3)、表9(実施例4)、表10(実施例5)に示した。
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
【表10】
【0052】
実施例4及び実施例5より、ラグタイム後に薬物を放出する時限放出製剤が得られることが確認され、この結果から可塑剤を水不溶性高分子の全質量に対して7質量%以上含有すれば、アルカリ領域でのみ薬物を放出し得るpH依存型時限放出製剤が得られることが推察された。そこで、クエン酸トリエチルの添加量が8.7%(実施例1)、11.1%(実施例2)、25.0%(実施例3)の製剤を検討したところ、pH1.2及び精製水(中性)では、薬物の放出は認められず、pH6.8でのみラグタイムの後に薬物を放出するpH依存型時限放出製剤が得られることが確認された。
【0053】
比較例1
ノンパレル103(30〜42メッシュ,フロイント産業(株)製)5000gを遠心流動造粒機(CF-3601)に入れ転動させ、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L 日本槽達(株)製)20gを水-エタノール(1:1)の混液500gに溶解した溶液を噴霧しながらテオフィリン(白鳥製薬(株)製)1250g及び乳糖730gの混合物を徐々に添加してノンパレルの周囲に被覆して、20〜30メッシュのテオフィリン50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2000g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0054】
この製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施したが、40%、50%コーティングした顆粒のいずれの場合もラグタイムは認められなかった。
【0055】
実施例6
無水カフェイン(寧薬化学工業(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gを、10%質量エタノール水溶液1500gを加えて練合し、実施例1と同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)の無水カフェインを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0056】
実施例7
アセトアミノフェン(山本化学工業(株) 製)300gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)700gを、10%質量エタノール水溶液2100gを加えて練合し、実施例1と同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)のアセトアミノフェンを30%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0057】
実施例8
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学工業(株) 製)850gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)150gを、10%質量エタノール水溶液1400gを加えて練合し、実施例1同様にして20〜30メッシュ(840〜500μm)の無水カフェインを85%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表1に示すコーティング液を、2500g、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0058】
試験例2
実施例6〜8で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図12〜17に溶出曲線を示した。また、表11〜13に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0059】
【表11】
【0060】
【表12】
【0061】
【表13】
【0062】
無水カフェイン(実施例6、図12〜13、表11)、アセトアミノフェン(実施例7、図14〜15、表12)、塩酸ジフェンヒドラミン(実施例8、図16〜17、表13)等の製剤も、実施例1の製剤と同様に、酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかにパルス的に放出する時限放出製剤が得られた。
【0063】
実施例9
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液1500g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0064】
【表14】
【0065】
実施例10
実施例6で製造した、50%無水カフェイン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液1750g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を35%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0066】
実施例11
実施例7で製造した、30%アセトアミノフェン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表14に示すコーティング液5000g、5500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を100%、110%コーティングした製剤を製造した。
【0067】
実施例12
実施例1で製造した、10%テオフィリン含有顆粒(20〜30メッシュ)500gに表15に示すコーティング液1500g、2000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、40%コーティングした製剤を製造した。
【0068】
【表15】
【0069】
試験例3
実施例9〜12で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図18〜25に溶出曲線を示した。また、表16〜19に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0070】
【表16】
【0071】
【表17】
【0072】
【表18】
【0073】
【表19】
【0074】
オイドラギットRS30D(水系)をオイドギットRSPO(有機溶剤系)に変更し、テオフィリン(実施例9、図18〜19、表16)、無水カフェイン(実施例10、図20〜21、表17)、アセトアミノフェン(実施例11、図22〜23、表18)等の薬物を使用した場合においても、実施例1、6、7と同様に酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかに瞬間的に放出する時限放出製剤が得られた。
また、クエン酸トリエチルの代わりにグリセリン脂肪酸エステルを使用した実施例12(図24〜25、表19)においても実施例1と同様に、酸性及び中性領域で薬物を放出せず、pH6.8のアルカリ領域で一定のラグタイムの後に、薬物を速やかに瞬間的に放出する時限放出製剤が得られた。
【0075】
実施例13
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株)製)300gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)700gをバーチカルグラニュレーターFM−VG−25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液2300gを加えて練合した。この練合物を、実施例1と同様にして、20〜30メッシュの塩酸ジフェンヒドラミンを30%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを流動層コーティング装置MP-01 転動流動層コーティング装置(パウレック(株)製)で、表20に示すコーティング液、500g、1000g、1500g、2000、2500、3000gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を10%、20%、30%、40%、50%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0076】
【表20】
【0077】
試験例4
実施例13で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図26に溶出曲線を示した。また、表21に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0078】
【表21】
【0079】
実施例13より、皮膜のコーティング量を変えることでラグタイムを調整できることが確認された。
【0080】
実施例14
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液1800gを加えて練合した。この練合物を、0.8mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形顆粒とした。その後、流動層乾燥機WSG-5型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、30(500μm)と40(420μm)メッシュの篩で整粒し30〜40メッシュ(500〜420μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを流動層コーティング装置MP-01 転動流動層コーティング装置(パウレック(株)製)で、表22に示すコーティング液、2000g、2750g、3250gを噴霧し、顆粒に対してコーティング液(固形分)を40%、55%、65%コーティングした製剤を製造した。
【0081】
【表22】
【0082】
実施例15
実施例14で製造した、50%塩酸ジフェンヒドラミン含有顆粒(30〜40メッシュ)500gに表23に示すコーティング液2250g、3000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を45%、60%コーティングした製剤を製造した。
【0083】
【表23】
【0084】
実施例16
実施例14で製造した、50%塩酸ジフェンヒドラミン含有顆粒(30〜40メッシュ)500gに表24に示すコーティング液2250g、3750g、5000gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を45%、65%、100%コーティングした製剤を製造した。
【0085】
【表24】
【0086】
試験例5
実施例14〜16で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図27〜29に溶出曲線を示した。また、表25〜27に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0087】
【表25】
【0088】
【表26】
【0089】
【表27】
【0090】
図27〜29に示すように、テオフィリンを50%含有(粒子径:840〜500μm)する製剤は、いずれもラグタイムが5分、10分又は15分以内で、ラグタイム後それぞれ5分、10分、15分以内に製剤中に含まれるテオフィリンの80%以上が放出されることが確認された。この結果より、マスキング型時限放出製剤として有用であることが確認された。
【0091】
実施例17
塩酸ジフェンヒドラミン(金剛化学(株) 製)500gと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC LH31、信越化学工業(株)製)500gをバーチカルグラニュレーターFM-VG-25(パウレック(株)製)で混合後、10%エタノール水溶液1500gを加えて練合した。この練合物を、0.5mmスクリーンを装着したツインドームグランTDG-80(不二パウダル(株)製)で押出し造粒し、マルメライザーQ400(不二パウダル(株)製)で球形顆粒とした。その後、流動層乾燥機WSG-5型(大川原製作所(株)製)で乾燥し、30(500μm)と42(355μm)メッシュの篩で整粒し30〜42メッシュ(500〜355μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒を製造した。
次に、この球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表28に示すコーティング液、1000g、1250g、1500gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を20%、25%、30%コーティングした製剤を製造した。
【0092】
【表28】
【0093】
実施例18
実施例16で製造した30〜42メッシュ(500〜355μm)の塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する球形顆粒500gを転動流動層コーティング装置MP-01(パウレック(株)製)で、表29に示すコーティング液を、1500g、1750gを、実施例1と同様にして噴霧しコーティング液(固形分)を30%、35%コーティングした製剤を製造した。
【0094】
【表29】
【0095】
試験例6
実施例17〜18で製造した製剤を試験例1と同様にして溶出試験を実施した。
図30〜31に溶出曲線を示した。また、表30〜31に溶出曲線から計算したラグタイム及びT80%を示した。
【0096】
【表30】
【0097】
【表31】
【0098】
図30〜31に示すように、塩酸ジフェンヒドラミンを50%含有する粒子径が、500〜355μmの中心核に、タルク60%添加(実施例17)及びタルク70%添加(実施例18)においても、いずれもラグタイムが5分、10分又は15分以内で、ラグタイム後それぞれ12分、15分又は20分以内に製剤中の塩酸ジフェンヒドラミンの80%以上を放出する時限放出製剤が得られることが確認された。この結果より、マスキング型時限放出製剤として有用であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】溶出曲線から、ラグタイム(薬物を放出しない時間)、T80% (溶出量が80%に達する時間)、T80%-ラグタイム(時限放出製剤の放出性)の計算方法を説明するための図である。
【図2】実施例1で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図3】実施例1で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図4】実施例2で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図5】実施例2で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図6】実施例3で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図7】実施例3で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図8】実施例4で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図9】実施例4で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図10】実施例5で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図11】実施例5で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図12】実施例6で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図13】実施例6で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図14】実施例7で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図15】実施例7で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図16】実施例8で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図17】実施例8で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図18】実施例9で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図19】実施例9で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図20】実施例10で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図21】実施例10で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図22】実施例11で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図23】実施例11で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図24】実施例12で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図25】実施例12で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図26】実施例13で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図27】実施例14で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図28】実施例15で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図29】実施例16で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図30】実施例17で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【図31】実施例18で得られた製剤の溶出曲線を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤。
【請求項2】
水不溶性高分子が(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子である請求項1記載の時限放出製剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子がアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル三元共重合体である請求項2記載の時限放出製剤。
【請求項4】
可塑剤がクエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル及びトリアセチンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項5】
水不溶性賦形剤がタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項6】
水膨潤性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウムから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項7】
中心核が水又は含水アルコールで湿式造粒することにより製造されたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項8】
中心核中の水膨潤性物質の含有量が15質量%以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項9】
皮膜中の水不溶性高分子の含有量が30質量%以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項10】
皮膜中の可塑剤の含有量が水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%以上である請求項1〜9のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項11】
皮膜中の水不溶性賦形剤の含有量が15質量%以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項12】
皮膜の被覆量が中心核の全質量に対して10質量%以上である請求項1〜11のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項13】
pH依存型である請求項1〜12のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項1】
薬物及び水膨潤性物質を含む中心核が、水不溶性高分子、可塑剤及び水不溶性賦形剤を含む皮膜で被覆されていることを特徴とする時限放出製剤。
【請求項2】
水不溶性高分子が(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子である請求項1記載の時限放出製剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸系水不溶性高分子がアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル三元共重合体である請求項2記載の時限放出製剤。
【請求項4】
可塑剤がクエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル及びトリアセチンから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項5】
水不溶性賦形剤がタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、カオリン、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項6】
水膨潤性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウムから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項7】
中心核が水又は含水アルコールで湿式造粒することにより製造されたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項8】
中心核中の水膨潤性物質の含有量が15質量%以上である請求項1〜7のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項9】
皮膜中の水不溶性高分子の含有量が30質量%以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項10】
皮膜中の可塑剤の含有量が水不溶性高分子の全質量(固形分)に対して2質量%以上である請求項1〜9のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項11】
皮膜中の水不溶性賦形剤の含有量が15質量%以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項12】
皮膜の被覆量が中心核の全質量に対して10質量%以上である請求項1〜11のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【請求項13】
pH依存型である請求項1〜12のいずれか一項に記載の時限放出製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2009−191035(P2009−191035A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35056(P2008−35056)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【Fターム(参考)】
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