説明

曲面構造体及び建築物

【課題】 本発明は、構成が単純でありながら耐震性に優れ、且つ大空間を備えた建築物、及び当該建築物を容易に形成することができる、耐震性に優れた曲面構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】 床12と、床12の周縁部13から鉛直方向に立設され、且つ平面視で弧状を成す、互いに対向する2枚の曲面壁14a、14bと、天井18とを含んで構成され、2枚の曲面壁14a、14bのうち、一の曲面壁14aの一側端15aが、他の曲面壁14bの一側端16aと剛接合され、一の曲面壁14aの他側端15bが、他の曲面壁14bの他側端16bと剛接合された曲面構造体10である。また、曲面構造体10を、間隔を空けて複数配置し、複数配置された曲面構造体10間に屋根52が架設されて成る建築物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側壁が弧状を成す曲面構造体、及びこの曲面構造体を複数配置して構成される建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震国である我が国においては、近年、建築物の耐震性が特に重要視されている。その一方で、大空間を要する建築物、例えば博物館や美術館等の展示館、多目的ホール、体育館等の需要も高まっており、耐震性を備え、且つ大空間を備えた建築物が特に求められている。
【0003】
従来の建築物は、主に木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造に分類できる。木造には軸組壁工法(在来工法)、枠組壁工法(2×4工法)、及び大断面集成材工法による建築物がある。軸組壁工法による建築物では、筋交いや耐力壁が地震力(水平力)を負担するため、筋交い等をバランスよく多数配置することで耐震性が向上される。また、枠組壁工法による建築物では、壁が地震力を負担するため、壁面をバランスよく多数配置することで耐震性が向上される。更に、大断面集成材工法では、集成材を使用することによって大空間を備えた建築物の構築が可能であると共に、筋交い、或いはラーメン構造の場合には柱及び梁が一体となったラーメンが地震力を負担するため、筋交いをバランスよく多数配置する、或いは断面の大きい柱や梁をバランスよく配置することで耐震性が向上される。
【0004】
また、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築物には、ラーメン構造のものが多く見られ、柱と梁が一体となったラーメンが地震力を負担するため、柱や梁の断面を大きくすると共に、柱をバランスよく配置することで耐震性が向上される。
【0005】
更に、居室空間を広くすることができる建物の構造等も開示さている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に係る建物の構造は、平面視で開断面を有する集合住宅において、第1の構造体と第2の構造体が、それぞれ建物の桁行方向を向いて平面視で二列をなすとともに屈曲または湾曲して配置され、第1の構造体と第2の構造体の一方または両方の構造体が、平面視で直行二方向に所定の剛性及び耐力を有する剛強な構造であることにより、この直行二方向における建物の構造安全性を確保したことを特徴としている。
【特許文献1】特開2004−316141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、軸組壁工法や枠組壁工法による木造建築では、上述のとおり、耐震力を向上するために筋交いや壁面をバランスよく多数配置する必要があり、建築物内に大空間を形成することが困難である。また、大断面集成材工法によると、建築物内に大空間を形成することは可能であるが、柱や梁の断面が大きくなると共に、この柱及び梁によって空間が圧迫されるため、建築物の種類によっては必ずしも好ましい工法とは言えない。更に、当該工法は建築コストが高くなるという問題もある。
【0007】
また、鉄筋コンクリート造や鉄骨造によっても大空間を備えた建築物を構築することは可能であるが、柱や梁の断面を大きくする必要があるため、建築物自体の重量が重くなると共に、建築コストも高くなる。
【0008】
更に、特許文献1に開示された建物の構造も基本的にはラーメン構造であって、第1の構造体と第2の構造体の間に大空間を形成する場合には、柱の断面を大きくする必要がある。従って、空間内に大断面の柱が出っ張って空間が圧迫されると共に、空間の有効利用を図ることができない。
【0009】
そこで本発明者は、上記の問題点に鑑み、構成が単純でありながら耐震性に優れ、且つ大空間を備えた建築物、及び当該建築物を容易に形成することができる、耐震性に優れた構造体を提供するべく鋭意検討を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは、床と、該床の周縁部から立設され且つ平面視で弧状を成す、互いに対向する2枚の曲面壁と、天井とを含んで構成され、前記2枚の曲面壁のうち、一の前記曲面壁の一側端が、他の前記曲面壁の一側端と剛接合され、前記一の曲面壁の他側端が、前記他の曲面壁の他側端と剛接合された曲面構造体であることにある。
【0011】
また、かかる曲面構造体において、水平方向の外断面形状は舟形又は弓形でることを特徴とする。
【0012】
本発明の別の要旨とするところは、上記の曲面構造体を、間隔を空けて複数配置し、該複数配置された曲面構造体間に屋根が架設されて成る建築物であることにある。
【0013】
また、かかる建築物において、前記複数配置された曲面構造体間には側壁が設けられ得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の曲面構造体によると、構造体自体が床、2枚の曲面壁、及び天井の計4枚の壁面で囲まれた箱形構造を成しているため、構造は単純でありながら、耐震性の向上が図られる。特に、2枚の曲面壁を剛接合し、水平方向の外断面形状を舟形又は弓形とすることによって、従来の水平方向の外断面形状が略矩形の建築物に比べて靱性に富み、大きな変形を受けても崩壊し難い構造体を得ることができる。
【0015】
更に、本発明の曲面構造体は予め工場で製作することができるため、施工現場における作業を極力少なくすることができ、工期の短縮が図られ、工費削減に大きく貢献できる。
【0016】
また、本発明の建築物は、本発明の曲面構造体を、間隔を空けて複数配置し、屋根を架設するのみで、広い空間を備えた建築物を容易に構築できる。更に、側壁が無ければ解放された広い空間として、また、側壁を設ければ広い室内空間として、あらゆる空間設計を可能とした建築物を提供できる。
【0017】
更にまた、本発明の建築物によると、曲面構造体を新たに付加、若しくは撤去又は移動することによって、建築物の施設規模及び空間レイアウトを必要に応じて容易に拡張、縮小、及び変更することができる。
【0018】
また、本発明の曲面構造体及び建築物は、曲面壁によって描かれる曲線美を備えており、デザイン性に優れた、従来にない新たな構造体及び建築物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の曲面構造体及び建築物の実施形態について、図面に基づき説明する。なお、以下で「固定」と記した場合には、特に断らない限り、建築用金物や釘等を用いた剛接合を意味する。また、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施の形態に係る曲面構造体10は木造の構造体であって、図1(a)に示すように、床12と、互いに対向する2枚の曲面壁14a、14bと、天井18とを含んで構成されている。曲面壁14a、14bは、床12の周縁部13から鉛直方向に立設され、且つ平面視で弧状を成しており、一の曲面壁14aの一側端15aが、他の曲面壁14bの一側端16aと剛接合され、一の曲面壁14aの他側端15bが、他の曲面壁14bの他側端16bと剛接合されている。
【0021】
本実施形態の曲面構造体10に係る2枚の曲面壁14a、14bについて、より具体的には、平面視で舟形をなす床12の周縁部13に下枠20を固定し、この下枠20に複数の枠材22を鉛直方向に等間隔で立設し、複数の枠材22の上端に上枠24を固定することによって、まず曲面壁14a、14bの骨組が形成される。続いて、この骨組に、曲面構造体10の屋外側から複数の面材26を固定することにより、平面視で弧状を成し、互いに対向する2枚の曲面壁14a、14bが各々形成される。このとき、一の曲面壁14aの一側端15aは、他の曲面壁14bの一側端16aと剛接合され、一の曲面壁14aの他側端15bは、他の曲面壁14bの他側端16bと剛接合されている。
【0022】
そして、2枚の曲面壁14a、14bの上端縁で形成された開口には、この開口を覆って面材26が固定され、面材26により天井18が形成される。つまり、本実施形態の曲面構造体10は、床12、2枚の曲面壁14a、14b、及び天井18の計4枚の壁面で囲まれた箱形構造を成しており、更に、水平方向の外断面形状が舟形を成している。
【0023】
なお、「舟形」とは、2本の弧状を成す曲線を互いに対向させ、且つ各々の曲線の端部同士を接合した際に、各々の曲線が外側に膨らんだ状態で形成される平面形状を意味し、本発明において舟形の曲面構造体とは、本実施形態の曲面構造体10のように、曲面構造体の平面形状、つまり水平方向の外断面形状が上記の「舟形」をなすものを意味する。但し、曲面構造体10のように、必ずしも2枚の曲面壁14a、14bの曲率が同じである必要はない。その例として、図2(a)〜(d)に本発明に係る舟形の曲面構造体の種々の平面形状を示すが、同図(a)の曲面構造体10のように、2枚の曲面壁14a、14bのそれぞれの曲率が異なるものであってもよい。また、曲面構造体10、10aのように、2枚の曲面壁14a、14bがそれぞれ平面視で円弧をなす必要はなく、同図(b)、(c)に示した曲面構造体10b、10cのように、一の曲面壁内において、平面視で曲率が途中で異なる弧状をなす曲面壁14a、14bにより構成されるものであってもよい。更に、同図(d)に示した曲面構造体10dのように、平面視で円弧をなす曲面壁14aと、平面視で曲率が途中で異なる弧状をなす曲面壁14bにより構成されてもよい。
【0024】
また、図1に示した本実施形態に係る舟形の曲面構造体10において、床12と天井18は平行をなしているが、本発明の曲面構造体に係る床と天井は平行に限定されず、図3(a)の正面図、及び同図(b)の側面図に示すように、床12に対して天井18が傾斜して設けられた曲面構造体10eのような態様であってもよい。更に、天井18は平面である必要もなく、同図(c)の側面図に示すように、天井18が湾曲した曲面構造体10fのような態様であってもよい。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る曲面構造体10及び他の実施形態に係る曲面構造体10a〜10fは、床12、2枚の曲面壁14a、14b、及び天井18の計4枚の壁面で囲まれた箱形構造であるため、耐震性に優れた構造体を得ることができる。特に、曲面構造体10、10a〜10fに係る2枚の曲面壁14a、14bが各々の側端部同士で剛接合されて、曲面構造体10、10a〜10fの水平方向の外断面形状が舟形をなしているため、従来の平面視が略矩形の建築物に比べて変形性能に優れており、耐震性を更に向上することができる。
【0026】
また、本実施形態に係る曲面構造体10等は施工現場で直接構築することも当然に可能であるが、曲面構造体10を工場で予め製作しておき、これを施工現場にトラック等で運搬して、クレーンで吊り込んで設置することも可能である。このように予め工場で曲面構造体10等を製作しておくことによって、施行現場における作業を極力少なくすることができ、工期も短縮できるため、工費削減に大きく貢献できる。更に、曲面構造体10等の規模が大きい場合であっても、曲面構造体10等を幾つかに分割して製作し、施行現場へ搬入して組み立てることも可能となる。また更に、曲面構造体10等の製作に、枠組壁工法で使用される2×4材や2×6材等の建材を適用することによって、製作コストの抑制を図ることができる。
【0027】
また、図1に示した曲面壁14aに形成された開口28は、曲面構造体10内へ入るための出入口となり、この開口28に扉等が取り付けられることとなるが、開口28の形成箇所や、開口数、開口28の用途等は特に限定されない。つまり、特に図示しないが、曲面構造体に係る曲面壁14a、14bや天井18には、曲面構造体の用途、形状等に応じて開口が適宜設けられ、扉や窓等が取り付けられる。
【0028】
更に、曲面構造体10等の内部は、その用途及び機能に応じて自由な空間設計が可能であり、間仕切りを設けたり、曲面構造体10内を水平方向に二分して2階建て構造としたりすることも可能である。
【0029】
以上、本発明の実施形態に係る曲面構造体10、10a〜10fについて詳述したが、本発明の曲面構造体はこれらの形態に限定されない。
【0030】
例えば、上記の曲面構造体10、10a〜10fは、水平方向の外断面形状が何れも舟形をなしているが、本発明の曲面構造体に係る水平方向の外断面形状は舟形に限定されず、図4(a)、(b)に示す曲面構造体10g、10hのような弓形のものであってもよい。「弓形」とは、2本の弧状を成す曲線を互いに対向させ、且つ各々の曲線の端部同士を接合した際に、一の曲線が外側に膨らみ、且つ他の曲線が内側に凹んだ状態で形成される平面形状を意味し、本発明において弓形の曲面構造体とは、本実施形態の曲面構造体10g、10hのような、曲面構造体の平面形状、つまり水平方向の外断面形状が上記の「弓形」をなすものを意味する。従って、本実施形態の曲面構造体10g、10hに係る2枚の曲面壁14a、14bの曲率は必ず異なるが、曲面構造体10gのように、2枚の曲面壁14a、14bがそれぞれ平面視で円弧をなす必要はなく、同図(b)に示した曲面構造体10hのように、平面視で円弧をなす曲面壁14aと、平面視で曲率が途中で異なる弧状をなす曲面壁14bにより構成されてもよい。更に、同図(c)に示した曲面構造体10iのように、それぞれの曲面壁内において、平面視で曲率が途中で異なる弧状をなす曲面壁14a、14bにより構成されるものであってもよい。
【0031】
なお、これら弓形の曲面構造体10g〜10iに係る床12及び天井18については、上述した舟形の曲面構造体10、10a〜10fに係る種々の天井18の態様と同様に形成することができる。
【0032】
また、以上に例示した曲面構造体10、10a〜10iは木造建築を前提として説明したが、本発明の曲面構造体は木造に限定されず、鉄筋コンクリート造や鉄骨造等であってもよい。但し、本発明の曲面構造体は、4枚の壁面で囲まれた箱形構造であるため、鉄筋コンクリート造の場合には壁式構造、鉄骨造の場合には鉄骨で形成された曲面構造体の骨組に鋼板を溶接やボルト留めにより固定した構造とすることが好ましい。
【0033】
更に、図1(a)には、曲面構造体10に係る曲面壁14a、14bが、骨組に複数の矩形合板を面材26として固定することによって形成される態様が図示されているが、上記の鋼板を面材26とする場合には、予め湾曲された1枚の鋼板を骨組に固定することによって、曲面壁14a、14bを形成することも可能である。また、床12や天井18についても、同図に示した曲面壁14aと同様、複数の面材26を固定することによって形成されてもよい。
【0034】
また更に、本発明の曲面構造体に係る床及び天井の平面視形状、すなわち床及び天井を曲面構造体の鉛直方向から見た際の形状は、上記に例示した曲面構造体10、10a〜10iに係る床及び天井のように必ずしも同形状である必要はなく、例えば、図2(a)に示した平面視形状をなす床と、同図(b)に示した平面視形状をなす天井を備えた曲面構造体のような態様であってもよい。或いは、図2(a)に示した平面視形状をなす床と、図4(a)に示した平面視形状をなす天井とを備えた曲面構造体のような態様であってもよい。
【0035】
なお、このような床と天井の平面視形状が異なる曲面構造体に係る少なくとも一の曲面壁は、床の周縁部から斜め方向に立設されることとなる。すなわち、本発明の曲面構造体に係る曲面壁は、図1(a)等に示したように、必ずしも床の周縁部から鉛直方向に立設される態様に限定されず、斜め方向に立設される態様であってもよい。例えば、上記に例示した曲面構造体10、10a〜10iに係る曲面壁14a及び/又は曲面壁14bを、床12の周縁部13から斜め方向に立設することによって、これらの曲面構造体10等に係る床12と、平面視形状や外形状、傾き、水平方向の位置等が異なる天井を備えた態様の曲面構造体を得ることができる。ここで、床及び天井の外形状とは、床及び天井の外周形状を意味し、上述の通り、床及び天井を曲面構造体の鉛直方向から見た際の形状、すなわち平面視形状とは、意味を異にする。
【0036】
次に、本発明の建築物の実施形態について、図面に基づき詳述する。なお、以下に示す実施形態は木造建築を前提に説明するが、本発明の建築物は、木造建築に限定されず、鉄筋コンクリート造、鉄骨造等、何れであってもよい。
【0037】
図5(a)に、本実施形態に係る建築物50の平面図を示す。建築物50は、舟形の曲面構造体10jと弓形の曲面構造体10kが、所定の間隔を空けて配置され、これら曲面構造体10j、10k間に屋根52が架設されることにより構成されている。
【0038】
図5(b)に、同図(a)におけるA−A端面図を示す。なお、同図(b)において、曲面構造体10j、10kの内部は図示を省略する。屋根52は、具体的には、複数の垂木54を曲面構造体10j、10k間に架け渡すことによって屋根52の骨組が形成され、この骨組に合板等の面材(不図示)が固定されることにより形成される。また、本実施形態では、曲面構造体10kに係る曲面壁14bにより描かれる曲線を屋根52の稜線として、一方は曲面構造体10jの曲面壁14bに向かって、他方は曲面構造体10kの曲面壁14aに向かって、それぞれ傾斜して設けられている。
【0039】
このように、2棟の曲面構造体10j、10k間に屋根52を架設することによって、この2棟の曲面構造体10j、10k間に、屋根52で覆われた無柱の巨大な空間S1(以下、「1次空間S1」という。)及び大開口53を形成することが容易にできる。つまり、曲面構造体10j、10kが、建築物50における柱となり、壁となって、この建築物50に1次空間S1及び大開口53が形成されるのである。そして、曲面構造体10j、10kは、上述のとおり耐震性に優れた構造体であるため、これらの間に屋根52を架設するのみで、耐震性に優れ、且つ1次空間S1及び曲面構造体10j、10k内の空間S2(以下、「2次空間」という。)を備え、側面に大開口53が形成された建築物50を容易に構築することができ、建築物50の用途、機能等に応じて、機能的且つ自由な空間設計が可能となる。
【0040】
また、本発明の建築物には、図6に示したように、2棟の曲面構造体10j、10k間に形成された大開口53に、側壁56が設けられてもよい。同図は、側壁56が設けられた建築物50aの平面図(屋根は不図示)を示したものであるが、建築物50aは、一端が一の曲面構造体10jに係る曲面壁14aの一側端15a近傍で、他端が他の曲面構造体10kに係る曲面壁14bの一側端16a近傍で各々接合された側壁56a、及び一端が一の曲面構造体10jに係る曲面壁14aの他側端15a近傍で、他端が他の曲面構造体10kに係る曲面壁14bの他側端16b近傍で各々接合された側壁56bとを備えている。つまり、本実施形態に係る建築物50aでは、1次空間S1が、屋根52(不図示)、2枚の側壁56a、56b、曲面構造体10jに係る曲面壁14a、及び曲面構造体10kに係る曲面壁14bにより囲まれた室内空間となっている。
【0041】
このように、1次空間S1が建築物50aの外部と隔てられることによって、従来の建築物と同様、1次空間S1を室内空間として利用することができると共に、曲面構造体10j、10kが備える2次空間S2と併せて、あらゆる空間設計が可能となる。また、建築物50aに作用する地震力は曲面構造体10j、10kが負担するため、側壁56a、56bを全面ガラス張りとし、1次空間S1に多くの外光を採り入れることも容易にできる。
【0042】
以上、本発明の建築物の実施形態について詳述したが、建築物の実施形態は上述のものに限定されない。例えば、屋根52の架設態様は図5に図示したものに限定されず、建築物を構成する曲面構造体の平面視形状、天井の傾斜、建築物の外観等に応じて、あらゆる架設態様を採用することができる。例えば、図7(a)に示した建築物50bのように、2棟の曲面構造体11a、11b間に屋根52を架設した際、屋根52の一端が曲面構造体11bに係る曲面壁14bに接合されて、曲面構造体11bの天井18を覆わない態様であってもよい。なお、この態様では、曲面構造体11bに係る天井18が、建築物50bの屋根の一部を構成することとなる。また、同図(b)、(c)に示した建築物50cに係る屋根52のように、一の曲面構造体11aに係る曲面壁14aの一側端15aと、他の曲面構造体11bに係る曲面壁14bの他側端16bとを結ぶ直線を稜線として、一方は曲面構造体11aの曲面壁14aに向かって、他方は曲面構造体11bの曲面壁14bに向かって、それぞれ傾斜して設けられてもよい。
【0043】
更に、上述した実施形態に係る建築物は、何れも2棟の曲面構造体間に屋根を架設することによって構成されているが、本発明の建築物は、3棟以上の曲面構造体を、間隔を空けて配置し、これらの曲面構造体間に屋根を架設することによっても構築することができる。例えば、図8(a)に示したように、4棟の舟形及び弓形の曲面構造体11を所定の間隔を空けて配置し、これら4棟の曲面構造体11間に屋根52を架設することによって、1次空間S1及び2次空間S2を備えた建築物50dを構築することができる。同図(b)は屋根52を不図示とした建築物50dの平面図であるが、本実施形態に係る建築物50dによると、連続した無柱の1次空間S1を容易に形成することができる。また、建築物50dに作用する地震力は、各曲面構造体11が負担するため、各曲面構造体11間に設けられた側壁56は、何れも全面ガラス張りとすることも可能である。
【0044】
更にまた、本発明の建築物によると、必要に応じて施設規模を拡張又は縮小したり、空間レイアウトを変更したりすることを容易に行い得る。つまり、図9に示したように、例えば建築物50dを増築して1次空間S1を拡張したい場合には、建築物50dの周辺に新たに曲面構造体11を配置し、建築物50dに係る曲面構造体11と、新たな曲面構造体11間に屋根を架設し、必要に応じて側壁56を設けることにより、容易に建築物50dの規模を拡張することができる。また、建築物50dの施設規模を縮小したい場合には、建築物50dを構成している曲面構造体11を、縮小規模に応じて撤去することによって、容易に縮小することができる。更に、建築物50dの施設規模の拡縮は、建築物50dを構成する1又は複数の曲面構造体11を移動させることによっても可能であり、また更に、曲面構造体11を移動させることによって、建築物50dに係る空間レイアウトの変更も容易に行うことができる。
【0045】
以上に例示した本発明の実施形態に係る曲面構造体及び建築物は、本発明の技術的思想を実質的に限定するものと解してはならない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、当業者の創意と工夫により、適宜に改良、変更又は追加をしながら実施できる。例えば、本発明に係る曲面構造体及び建築物は何れも平家構造に限定されず、図1に示した曲面構造体10を上下に2段以上積層し、下側の曲面構造体10に係る天井18を、上側の曲面構造体10に係る床12とすることによって、2階建て以上の曲面構造体を構築することもできる。そして、このような2階建て以上の曲面構造体を複数配置して、これらの曲面構造体間に、屋根を架設すると共に、上階部分の1次空間の床(下階部分の1次空間の天井)を架設することによって、2階建て以上の建築物を構築することともできる。そして、この建築物において、曲面構造体内の2次空間に階段やエレベーター等を内包することによって、曲面構造体間に形成された1次空間を最大限に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の建築物は、主に博物館や美術館等の展示館、図書館、多目的ホール、レストラン等に好適である。つまり、本発明に係る複数の曲面構造体間に形成される1次空間を展示室や閲覧室とし、曲面構造体内の2次空間をトイレや事務所、所蔵庫、厨房、機械室等の機能空間とすることによって、1次空間を最大限に利用することができると共に、空間設計の自由度も広がる。また、図5に示した建築物50のような側壁を設けない態様では、有料道路における料金所やガソリンスタンド、ドライブスルー型の店舗等に適用することもできる。
【0047】
また、本発明の曲面構造体は、公共施設、公衆トイレ、倉庫、事務所、店舗等に好適に利用し得るが、一般住宅の増築等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1(a)】本発明の実施形態に係る曲面構造体の斜視図である。
【図1(b)】図1(a)に示した曲面構造体の水平方向断面図である。
【図2】本発明に係る舟形の曲面構造体の種々の形態を示した平面図である。
【図3】本発明に係る舟形の曲面構造体の他態様を示したものであり、(a)は正面図、(b)は(a)に示した曲面構造体の側面図、(c)は更に別の態様を示した側面図である。
【図4】本発明に係る弓形の曲面構造体の種々の形態を示した平面図である。
【図5】本発明の建築物の実施形態を示したものであり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A端面図である。
【図6】本発明の建築物に側壁を設けた態様を示す平面図である。
【図7】(a)は本発明の建築物に係る屋根の他の架設態様を示す端面図、(b)は更に他の架設態様を示す平面図、(c)は(b)におけるB−B端面図である。
【図8】(a)は本発明の建築物の他の実施形態を示す平面図、(b)は(a)における屋根を外した状態を示す平面図である。
【図9】本発明の建築物の拡張及び縮小の態様を示す平面図である。
【符号の説明】
【0049】
10、10a〜10k、11、11a、11b:曲面構造体
12:床
13:周縁部
14a、14b:曲面壁
15a:曲面壁14aの一側端
15b:曲面壁14aの他側端
16a:曲面壁14bの一側端
16b:曲面壁14bの他側端
18:天井
26:面材
50、50a〜50d:建築物
53:大開口
56、56a、56b:側壁
S1:1次空間
S2:2次空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床と、
該床の周縁部から立設され且つ平面視で弧状を成す、互いに対向する2枚の曲面壁と、
天井と
を含んで構成され、
前記2枚の曲面壁のうち、一の前記曲面壁の一側端が、他の前記曲面壁の一側端と剛接合され、
前記一の曲面壁の他側端が、前記他の曲面壁の他側端と剛接合された曲面構造体。
【請求項2】
水平方向の外断面形状が舟形又は弓形である請求項1に記載の曲面構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の曲面構造体を、間隔を空けて複数配置し、
該複数配置された曲面構造体間に屋根が架設されて成る建築物。
【請求項4】
請求項3に記載の建築物において、
前記複数配置された曲面構造体間に側壁が設けられた建築物。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−255043(P2007−255043A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80338(P2006−80338)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年11月11日 「京都新聞電子版」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 2005年10月19日〜21日 滋賀環境ビジネスメッセ実行委員会主催の「びわ湖環境ビジネスメッセ2005(第8回滋賀環境ビジネスメッセ)」に出品
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)11月12日 「京都新聞」に発表
【出願人】(506099096)
【出願人】(506099100)
【出願人】(502134432)株式会社翠豊 (3)