説明

最適なインピーダンス範囲を有する心臓ハーネス

心臓を治療するためのシステムは、患者の心臓の少なくとも一部に概ね倣うように構成された心臓ハーネス(10)を含んでいる。このシステムはまた、心臓ハーネスに関連付けられるとともに心臓の心外膜の表面上にあるいはその近傍に配設された電極を含んでいる。電極がパルス発生器によって作動することを保証するために、このシステムは約10オームから約120オームの間のインピーダンスを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓病を治療するための装置に関する。より詳しくは、本発明は、除細動あるいはまたペーシング/検知のための電極を有する心臓ハーネスに関する。心臓ハーネスの設計は、商業的に入手可能な体内心臓除細動器に対するシステムの互換性を最適化するインピーダンスを有した、心臓ハーネスと一体化される電極を提供する。
【背景技術】
【0002】
米国出願第10/704,376号(以下、376出願)に開示されているような心臓ハーネスは、心臓病を治療するために用いることができる。この376出願は、その内容の全体がこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。心臓の不整脈を含む他の心臓病を治療するために、376出願の心臓ハーネスは移植可能な心臓除細動器(ICD)に接続される電極を含むことができるが、それらは周知の技術である。そのような電極は、除細動処置のための電気的ショックをICDから心臓へと供給することができる。これらの電極はまた、徐脈および頻脈を含む心不全を治療するために、心臓にペーシング/検知の機能を提供することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
心臓ハーネスは、Guidant, MedtronicおよびSt. Jude Medicalからの製品のような商業的に入手可能なICD、除細動能力を有した心臓再同期治療(CRT-D)およびパルス発生回路(PG)に対する適合性を有することが望ましいが、これらの商業的に入手可能なICD、CRT-D、PGに対する適合性を有するためには、心臓ハーネスの電極は適切な電気インピーダンスを有していなければならない。もしこのシステム(電力源に接続された電極を有する心臓ハーネス)のインピーダンスが低すぎると、このシステムは損傷を受けるおそれがある。一方、このシステムのインピーダンスが高すぎると、このシステムは、細動の波頭を終了させるために十分な量の心臓組織を消極させるべく心臓組織の全体を横切るには不十分な量の電流を生じさせることになる。したがって必要とされているものは、その電極が適切な範囲のインピーダンスを有している、除細動あるいはまたペーシング/検知の能力を有した心臓ハーネスである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によると、心臓を治療するためのシステムは、患者の心臓の少なくとも一部にほぼ倣うように構成された心臓ハーネスを備える。また、このシステムは、心臓ハーネスに関連付けられるとともに心臓の外側表面の近傍に配設された少なくとも一つの電極と、これらの電極に連通している電力源とを備える。これらの電極および電力源は、少なくとも電気回路の一部をなしている。この電気回路はまた、電極と電力源とを連通させる導体を含むことができるが、電極と電力源とをワイヤレスでつなぐこともできる。電気回路が適切に機能することを保証するために、この電気回路は約10オームと約120オームとの間のインピーダンスを有する。インピーダンスの範囲が約20オームと80オームとの間にあることがより好ましい。下側のインピーダンス範囲は、電力源あるいはパルス発生回路の機能によって規定される。あまりに低いインピーダンス(10オーム未満)は、心臓ハーネスに組み込まれた電気回路を損傷させる。上側のインピーダンス限界は、十分な除細動限界(DFT)を与え続けるためのものである。
【0005】
このシステムについては、そのインピーダンスを高めて10オームという下側限界を下回ることを回避するために、いくつかの変更をなすことができる。一つの態様においては、シリコンゴムのような誘電物質を電極の心膜側の側面(電極のうち心臓とは反対を向いた側面)上に配設し、電極の心外膜側の側面(電極のうち心臓と接触する側)を非絶縁状態のままとする。電極の心膜側の側面を絶縁することはシステムのインピーダンスを増加させ、低インピーダンス限界を下回るインピーダンスをこのシステムが有することを防止する。
【0006】
他の態様においては、通常の電極コイルのピッチを増大させることができる。電極コイルのピッチの増大はその表面積を減少させるので、その結果として、システムのインピーダンスが増大する。
【0007】
本発明の更に他の態様において、導電性の電線あるいは導体の組成は、MP35N−Ag複合材料を含むことができるが、銀の含有量を変化させることによって変更することができる。インピーダンスと機械的な強度の好ましいバランスは、導電性の電線の複合材料に25%の銀を含有させることによって達成されるが、本発明のシステムのインピーダンスを下側インピーダンス限界より高くするためには、導体の銀の含有量を0%から約50%とすることができる。
【0008】
また、インピーダンスを増大させるために、電極を形成している電線の断面積を減少させることができる。この実施形態においては、どんな形であれ、その断面積あるいはその外径を減少させるために電極の電線を変更することがインピーダンスを増大させる。
電極を形成している電線の断面の幅あるいはまた高さは、その断面積を減少させるために減少させることができる。他の実施形態において、電極コイルの電線の断面形状は、その表面積を減少させるために変更することができる。一例を挙げると、電極の電線は矩形断面から円形断面に変更することができる。
【0009】
さらに、システムのインピーダンスを増大させるために、電極の全体的な外径を減少させることができる。電極が螺旋コイルの形である場合には、螺旋コイルの全体的な外径を減少させるために、そのコイルを形成している電線をよりきつく巻くことができる。
【0010】
さらなる態様においては、システムのインピーダンスを増大させるために、リードシステムに抵抗器を直列に接続することができる。
【0011】
他の態様には、その全長に沿って配設された円周方向に絶縁する部分を有した電極が含まれる。この絶縁部分は、シリコンゴムのような任意の誘電材料から形成することができるし、任意のサイズとすることができる。さらに、多くの絶縁部分を電極に沿って配設することができる。電極の周囲に配設された絶縁部分は電極の露出表面積を減少させ、それによってインピーダンスを増大させる。絶縁部分はまた、DFTを最適化するために、電極の露出領域における電流の再分配を強制することができる。
【0012】
他の態様には、電極表面に配設された電気抵抗性のフィルム(すなわち酸化被膜)を有した電極が含まれる。電気抵抗性のフィルムは、空間的に表面抵抗を調整する(すなわち、電流密度の縁効果を減少させ、あるいはDFTを最適化するために電極の長手方向に沿った電流分布を変化させる)ために不均一に析出させることができる。
【0013】
さらに他の態様においては、電極の全長を短くすることができる。電極を短くすることによって電極の全体的な表面積が減少するので、それによってシステムのインピーダンスが増大するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、心臓を治療するための心臓ハーネスシステムに向けられている。本発明の心臓ハーネスシステムは、心臓を治療するための心臓ハーネスを心臓リズム管理装置に接続する。より詳しくは、この心臓ハーネスは、心臓上の壁応力の圧力を軽減するべく弛緩期および収縮期の間に心臓上に圧縮力を与える、ばね要素の列あるいは波形の素線を含んでいる。心臓ハーネスに関連付けられているものは、様々な理由のうち特に鬱血性心不全による心拍動の多くの不規則さを治療するための心臓リズム管理装置である。これにより、心臓ハーネスに関連付けられている心臓リズム管理装置は、以下の1つ若しくは複数を含むことができる。関連付けられた導線および電極を有する移植可能な心臓除細動器(ICD);心臓機能を検知するとともに両方の血管の同期性を治療するためのペーシング刺激を出力するために用いられる心臓ペースメーカー(あるいは心臓同期治療(CRT)パルス発生回路);細動除去ショックを出力しあるいはまたペーシング/検知機能をもたらすICDおよびペースメーカーの組み合わせ(CRT-D)。
【0015】
この心臓ハーネスシステムは、少なくとも部分的に心臓を取り囲むとともに弛緩期および収縮期の間に心臓を援助するべく互いに接続された、様々な構造のパネルを含むことができる。この心臓ハーネスシステムはまた、心臓ハーネスと細動除去ショックあるいはペーシング刺激を供給するために電極に供給される電気エネルギーの供給源とに関連付けられた電極を有する、1つ若しくは複数の導線を含んでいる。
【0016】
本発明の一実施形態において、図1に示すように、心臓ハーネス10は、ほぼ連続している波形の素線14の4つのパネル12を含んでいる。パネルは、互いに接続されるとともに一対の電極の間の配置された、ヒンジ若しくはばね要素の列あるいは波形の素線を有しており、この列あるいは波形は円周方向には非常に弾性的であるが、長手方向においてはその程度は小さい。心臓ハーネスはまた、間隔を開けて配置されてパネル12を分離する導電性の電極部分18を有した、別個の導線16を含んでいる。図1に示したように、電極は、好ましくは螺旋形の導電性のコイルワイヤから形成される。導電性の電線あるいは導体20は、コイルワイヤおよび電力源22に取付けられてシステムの回路の一部を形成している。本明細書において用いられる電力源は、電極の特定の用途に応じて、パルス発生回路(PG)、ICD、ペースメーカーあるいはCRT、およびペースメーカーあるいはCRT-Dに接続される移植可能な心臓除細動器のうち、いずれかを含むことができる。図1に示した実施形態において、電極は、導電性の電線および電力源を介して心臓の心外膜表面に電気ショックを供給し、それによってこの電気ショックが心筋を通過するように構成されている。電極は、適切な電気ショックを供給するために、それらが概ね0度、45度、60度、90度、120度、あるいは任意のアーク長(本質的に心臓の周りにおける任意のアーク長)を開けて離れるように配置することができる。前述したように、心臓に除細動処置を施すには、心臓に除細動処置を施すために適切な電気ショックを供給するべく電極18を構成することが必要となる。
【0017】
図1に示した実施形態においては、隣接する2つの導線20を接続するために、Y字形の接合部材21が用いられている。図2に最も良く示されているように、このY字形の接合部は、シリコンゴムあるいは他の誘電材料から小さい輪郭に成形されて2つの管腔23を有しているが、それぞれが導線用となっている。2つ以上の導線を接続するために、より多くの管腔をこのY字形の接合部に形成することができる。この実施形態においては、接続された導体の近位端は、電力源22に取付けられるピン(図示せず)に対して互いに圧着される。Y字形の接合部を形成している成形部分は、Y字形の接合部から電力源へと延びることもできるし、電力源の前方に終端するある距離まで延びることもできる。このY字形の接合部は、導体を患者の体内への組織化および処理を助ける。他の実施態様においては、このY字形の接合部には導体が接続されない。
【0018】
図3に最も良く示されているように、電極18は、心臓ハーネス10に、より詳しくは波形の素線14に、誘電材料24によって取り付けられている。この誘電材料は、電流が電極からハーネスへと通過しないように電極を心臓ハーネスから絶縁し、それによって細動除去のために望ましくない電流の短絡から心臓を分離している。好ましくは、この誘電材料は、波形の素線を覆うとともに、電極18の少なくとも一部を覆う。図3はまた、導電性の電線あるいは導体20が如何にして電極18と連通しているかを詳細に示している。図示した実施形態においては、電極部分は、コイル状に巻かれるとともに心臓ハーネスの遠位端においてドーム26に溶接された導電材料の薄帯となっている。このドームは、(MP35Nのような)導電材料から形成されるとともに、止まり穴28を具備した遠位端、および座面30を形成している近位端を有している。製造の間、シリコーンゴムあるいは他の誘電材料は止まり穴28に流入し、電極の端部への誘電材料の取り付けを助ける。また、組み立ての間、導線20の遠位端は座面30の内側に配置されて圧着され、それによって導体がドーム26を介して電極18と電気的に連通するようにする。この実施形態においては、導体と電極との間の接点接続部は曲げモーメントがより少ない心臓ハーネスの遠位端にあり、したがって、この接点接続部が破壊しあるいは疲労することはない。図3は、波形の素線14の端部の周囲に成形された誘電材料24と、波形の素線の終端に配設されたキャップ32とを示している。鼓動している心臓の周りに配置された心臓ハーネスの所定の場所への保持を助けるために、握りパッド(図示せず)を誘電材料に取付けることもできる。
【0019】
心臓ハーネス10は、波形の素線14のサイズおよび数あるいは列に応じて異なった全長を有する、ある範囲のサイズに製造することができる。図1に示した実施形態においては、心臓ハーネスが6列の波形の素線を含んでいるが、他の実施形態においては、より少ないあるいはより多くの波形の素線の列を含むことができる。電極18の全長および表面積は、好ましくはハーネスの全長に比例する。例えば、電極の全長および表面積は、それぞれ4つ、5つ、6つの波形の素線の列を有した心臓ハーネスについて、概ね49ミリメートルおよび307平方ミリメートル、65ミリメートルおよび407平方ミリメートル、81ミリメートルおよび505平方ミリメートルとすることができる。しかしながら、電極のサイズは、心臓ハーネスのサイズに関係なく一定のままとすることができる。
【0020】
一つの実施形態において、心臓ハーネス10は、商業的に入手可能なペーシング/検知用の導線およびICDパルス発生器と共に機能することが意図される。心臓ハーネスは、商業的に入手可能なICDおよびCRT-Dパルス発生器と互換性を有することを保証するために、適切な電気インピーダンスを有しなければならない。Guidant, MedtronicおよびSt. Jude Medicalからの機器のように、商業的に入手可能なICDおよびCRT-Dパルス発生器は、典型的に、下側のインピーダンス限界を有しており、それ以下では体内移植の際にプログラムされた装置を試験する間にこれらの装置はショックを出力しない。この限界は、典型的に20オームであるが、パルス発生回路の電流限界によって規定される。ICDは帯電したコンデンサから設定された電圧を供給するので、システムインピーダンスが低下すると供給される電流は増大する。一旦植設されると、ICDは、インピーダンスが20オーム以下に低下した場合であっても細動除去ショックを供給しなければならず、システム回路が損傷を受けるリスクがある。初期電圧にもよるが、実際のユニット損傷は約10オームまでは生じることがない。したがって、心臓ハーネスに取付けられるリードシステムの下側のインピーダンス範囲は、機能的な限界が概ね10オームであるときに、概ね20オームよりも低くないことが好ましい。
【0021】
いくつかのパラメータが、システムインピーダンスに影響を及ぼす。これらのパラメータには以下のものが含まれるが、これらには限定されない。細動除去電流がそこを通って流れる組織体積の固有の抵抗率(組織密度、組織液レベル、気積、その他の影響を受けることがある);心臓ハーネスに取り付けられた電極の間の距離;体組織に露出している電極の表面積;電極の幾何学的形状(および電流の縁効果の影響);電流の等電位線間の相互関係;導線電極、導体、接点接続部、ICDあるいはCRT-D回路の抵抗;電極材料(偏極効果)および顕微鏡的な表面組織(フラクタルコーティング、黒色白金、その他);およびショック波形の形態(二相波形の再分極効果)。
【0022】
様々な全長の心臓ハーネスに沿って延びるように電極18の全長が増大すると、システムのインピーダンスは減少する。言い換えると、より大きな心臓ハーネスは、より小さな心臓ハーネスに取り付けられる電極よりも大きな露出表面積を具備したより長い電極を有し、かつより長い電極に関連付けられた電気回路は、より小さな電極に関連付けられた電気回路よりも低いインピーダンスを有する。したがって、必要とされるものは、20オームという下側のインピーダンス限界よりも低くなることを回避するために、システムのインピーダンスを増大させる方法である。図4の断面図に示されている一実施形態においては、シリコンゴム34のような誘電材料は、電極のうち心膜側の側面36(電極のうち心臓とは反対の側面)に配設され、電極の心外膜側の側面38(電極のうち心臓と接触する側面)を絶縁しないままとなっている。電極のうち心膜側の側面は、最大で電極の全長に至る任意の長さにおいて絶縁することができる。電極の心膜側の側面を絶縁することはシステムのインピーダンスを増大させるので、このシステムが下側インピーダンス限界を下回るインピーダンスを有することを防止する。好ましくはないが、電極の表面積を減少させてそのインピーダンスを増大させるために、心膜側の側面に加えてあるいはそれに代えて、電極のうち心外膜側の側面のある部分を絶縁できることもまた予期されることである。
【0023】
他の実施形態においては、電極コイル18のピッチを増大させることができる。図5に示されているコイルは、図1に示されている電極のピッチに比較して、より大きいピッチを有している。電極コイルのピッチを増大させることは、単位長さあたりの表面積を減少させ、その結果としてシステムのインピーダンスを増大させる。
【0024】
さらに他の実施形態においては、導電性の電線あるいは導体20の組成は、MP35N-Ag複合材料を含むことができるが、銀の含有量を変更することによって変化させることができる。導体の銀の含有量を25%あたりに特定することにより、リードシステムのインピーダンスと機械的強さとの好ましいバランスが達成される。本発明のシステムのインピーダンスが下側インピーダンス限界を上回るようにするために、導体の銀の含有量を0%から約50%とすることができる。
【0025】
電極コイル18を形成している電線の断面寸法は、インピーダンスを増大させるために減少させることができる。この実施形態においては、いかなる形であれ、その断面積あるいはその外径を減少させるために電極の電線を変更することが、インピーダンスを増大させる。減少前の電極を点線が表している図6aに示したように、その断面積を減少させるべく、電極コイルを形成している電線の幅あるいはまた高さを減少させることができる。また、図6bに示した他の実施形態においては、その面積を減少させるために、電極コイルの電線の断面形状を変更することができる。この場合、電極の電線は、矩形断面から円形断面に変更されている。他の実施形態においては、断面形状は、電極ワイヤにより小さな断面積を与える楕円形あるいは任意の多角形といった、任意の形状に変更することができる。
【0026】
他の実施形態においては、システムのインピーダンスを増大させるために、電極の全体的な外径を減少させることができる。電極が螺旋コイルの形態である場合には、コイルを形成している電線をよりきつく巻くことで螺旋コイルの全体的な外径を減少させ、それによって電極の全体的な表面積を減少させることができる。
【0027】
さらに他の実施形態においては、システムのインピーダンスを増大させるために、抵抗体40をリードシステムに対し直列に接続することができる。図7は、導体に対して直列に接続された抵抗体40を示す、一つの導体20の部分図である。別個の抵抗体をシステムの各導体に直列に接続することができる。導体20は、通常、誘電材料24によって絶縁されているが、図7に示したように、抵抗器もまた誘電材料によって絶縁することが好ましい。
【0028】
ここで図8を参照すると他の実施形態が示されているが、電極18は、その全長に沿って配設された円周方向に絶縁する部分42を有している。明暸性のためにこの図はこの電極だけを示しているが、3つの別個の絶縁部分42が電極の全周に配設されている。この絶縁部分は、シリコンゴムのような任意の誘電材料から形成することができるとともに、電極の全長に至る任意の寸法とすることができる。さらに、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、その他の絶縁部分を含む、多くの絶縁部分を電極の周囲に配設することができる。
これらの絶縁部分は、等しい間隔を開けて配置することもできるが、他の実施形態においてはランダムに間隔を開けて配置することができる。電極の周囲に配設される絶縁部分は電極の露出表面積を減少させ、それによってインピーダンスを増大させる。
【0029】
他の一実施形態において、電極18は、その表面の少なくとも一部に配設された電気抵抗性のフィルム(すなわち酸化被膜)を含むことができる。電気抵抗性のフィルムは、表面抵抗を空間的に調整する(すなわち、電流密度の縁効果を減少させ、あるいはDFTを最適化するために電極の長手方向に沿って電流分布を変化させる)ために不均一に堆積させることができる。電極の表面に沿って電気抵抗性のフィルムを配設することにより、システムのインピーダンスは増大する。
【0030】
さらに他の実施形態において、電極18の全長を短くすることができる。例えば、図1に示した電極の全長は、電極の表面積を減少させるために短くすることができる。電極を短くすると電極の全体的な表面積が減少し、それによってシステムのインピーダンスが増大する。
【0031】
本発明のシステムはまた、上側のインピーダンスレベルを越えてはいけない。システムのインピーダンスがあまりに高いと、心臓組織の重要な量を十分に復極させて細動している波頭を終了させるには不十分な電流量が心臓組織を横切ることになる。二相の波形については、80%の細動除去成功率を達成するために少なくとも3V/cmの電圧傾度が必要であることを研究は示している。Zhou X, Daubert JP, WoIf PD, Smith WM, Ideker RE;犬における一相性および二相性のショックによる媒体細動除去の心外膜マッピング;Circulation Research 72:145-160 (1993);を参照されたい。なお、この文献はこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。このように、特定の上側インピーダンス限界というものはないが、細動除去の成功を保証するためにはインピーダンスが合理的な範囲にあることが必要である。合理的な上限を定める一つの方法は、許容できるDFT値を有した商業的に入手可能な装置において、どの様なインピーダンス値が典型的であるかを最初に決定することである。
【0032】
人体に見られる典型的なシステムショックインピーダンス値は、様々な研究において報告されている(付表1に示されている表を参照)。付表1の表のデータは以下の参考文献から集めたものであり、付表1に記載されている;
1) Rinaldi A.C., Simon R.D., Geelen P., Reek S., Baszko A., Kuehl M., Gill J.S.。移植可能な心臓除細動器治療を受けた心室性不整脈の患者における単一コイル対二重コイルの細動除去のランダム化された計画調査。Journal of Pacing and Clinical Electrophysiology 26:1684-1690 (2003);
2) Gold MR, Olsovsky MR, Pelini MA, Peters RW, Shorofsky SR。単一および二重コイルの能動的胸筋細動除去リードシステムの比較。Journal of the American College of Cardiology 1391-4 (1998);
3) Schulte B, Sperzel J, Carlsson J, Schwarz T, Ehrlich W, Pitschner HF, Neuzner J。二重コイル対単一コイルの能動的胸筋移植可能除細動器リードシステム:
細動除去エネルギー所要量の倍数における細動除去エネルギー所要量と細動除去成功の確率。Europace 3:177-180 (2001);
4) Sandstedt B, Kennergren C, Edvardsson N。移植可能な除細動器を用いた二方向細動除去:胸筋および腹筋の能動的発生装置の間における予測的無作為化比較。Journal of the American College of Cardiology 1343-1353 (2001);
5) Shorofsky SR, Peters RW, Rashba EJ, Gold MR。人体における細動除去許容限界を決定するための段階的減少および二成分サーチアルゴリズムの比較。Journal of Pacing and Clinical Electrophysiology 27:218-220 (2004)。
なお、これらの参考文献の全てが、この参照によって本願明細書に組み込まれたものとする。
【0033】
前述した参考文献のデータに基づくと、移植時の平均インピーダンスは二重コイル能動胸筋PGシステムにおいて約40オームであり(標準偏差は4〜10オームに及ぶ)、単一コイル能動PGシステムにおいては約60±10オームである。これらの研究において用いられた単一の(遠位側)コイルは、長さが約50ミリメートルで、約450〜480平方ミリメートルの表面積を有していた。二重コイルシステムにおける第2(近位側の)コイルは、長さが約72ミリメートルで、約660〜671平方ミリメートルの表面積を有していた。
【0034】
比較のために、4列の波形の素線を有するとともに電極間の間隔が60度の心臓ハーネスの一実施形態を体内移植するときのDFTを決定するべく、豚における研究が実施された。この実験において用いられた心臓ハーネスに組み込まれた電極は、その表面積が約660平方ミリメートルの露出した内側および外側コイル表面を有している。この研究の成果は米国特許出願第11/051,823号(以下、823出願)に提示されている。なお、その全体がこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。1つの試験においては、除細動処置を施す心臓ハーネスシステムに対する細動除去ベクトルが、心臓ハーネスの右心室電極から心臓ハーネスの左心室電極および互いに接続された不関電極(Active Can)に生成された。この試験については、823出願のリストに記載されているように、平均DFTは9.6Jであり、かつインピーダンスは27オームと測定された。また、823出願のリストに記載されているものは、平均DFTおよびインピーダンスに相当する値であり、右心室心内膜の標準的な単一導線細動除去コイルからの、細動除去コイルから不関電極へと至る細動除去ベクトルによるものである。平均DFTは19.3Jと決定され、かつインピーダンスは46オームと測定された。付表1に報告されている同様のシステムによる人体のデータに比較すると、豚の試験における平均DFTの値は、右心室心内膜に配設された細動除去コイルから不関電極に至る細動除去ベクトルによるものであり、ほぼ8J高くかつインピーダンスはわずかに低い。また、豚の研究で注目されるものは、平均DFTの低下における、一対の電極間の間隔を増加させることの利点であった。
【0035】
他の商業的に入手可能な心外膜パッチおよびある程度は心内膜の導線と同様に、移植組織のインピーダンスが体内移植後の時間と共に変化することが予想される。Schwartzman D, Hull ML, Callans DJ, Gottlieb CD, Marchlinski FE。心外膜および非開胸リードシステムを有する患者の直列細動除去導線インピーダンス。Journal of Cardiovascular Electrophysiology 7:697-703 (1996)、を参照されたい。なお、この文献は、この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。したがって、ICDあるいはCRT-Dシステムと共に機能する心臓ハーネス移植組織を設計する際には、回復段階の全体にわたってシステムが機能的なままであることを保証するために、インピーダンス変化の時間経過の検討が重要である。
【0036】
6列の波形の素線を有した心臓をテストするために、(人間の心臓を模倣する)含浸させた発泡体の心臓形ピースの上に配置された細動除去電極を含む心臓ハーネスについて、塩水タンク内における追加のベンチ試験が実施された。電極の両側が露出しあるいは絶縁されていない細動除去電極および4列の波形の素線を含む心臓ハーネス上でのショック試験が実行された。この試験の細動除去ベクトルは、右心室の電極の組から左の胸部の不関電極に接続された左心室の電極の組に至るベクトルをシミュレートした。このテストの間、インピーダンスは(前述した豚のデータと同様に)約26オームと測定された。60度の電極間隔を具備した細動除去電極と、1組につき約1060平方ミリメートルの電極表面面積を与える露出した内側および外側コイル表面とを有する、6列の心臓ハーネスを有する試験を反復したところ、約20オームのインピーダンスに帰着したが、それはより小さな心臓ハーネスのインピーダンスよりも少ない値であった。
【0037】
細動除去電極を含んでいる6列心臓ハーネスが、ICDの下側限界にあまりに近いインピーダンスを有しているという懸念のために、電極の外側(心膜側の側面)にシリコーンゴム絶縁体を追加するとともに内側表面(あるいは心外膜側の側面)を露出させたままとすることによって心臓ハーネスの設計を変更した。このことは、露出した電極の表面積が、4列の組および6列の組においてそれぞれ330平方ミリメートルおよび530平方ミリメートルということに帰着した。期待されていたことは、電極表面積を減少させると、インピーダンスが増大するというものであった。前述した試験管内テストの反復は、4列心臓ハーネスがそのインピーダンスを約26オームから約39オームに増加させ、6列心臓ハーネスがそのインピーダンスを約20オームから約30オームに増加させる結果となった。60度および45度の電極間分離の比較は、インピーダンスレベルに有意な差を示さなかった。
【0038】
電極の外側を絶縁することはインピーダンスを増大させる一つの方法であるが、システムのショックインピーダンスを増大させあるいはさもなければ改良するために、上述したような他の方法も用いることができる。
【0039】
再び述べると、下側のインピーダンス範囲は、電力源あるいはパルス発生器の機能によって規定される。これは、約10オームの機能的な限界に対して、好ましくは約20オームより低くないことが望ましい。上側のインピーダンス限界は、十分なDFTを出力し続けるというものである。上述した人体のデータを考慮すると、好ましい上側インピーダンス範囲は約80オームである。しかしながら、豚の研究において注目したように、除細動処置を施す電極の幾何学的形状を有した心臓ハーネスは、市販の導線と比較して、より一様な電流分布を出力することができるから、従来の電極で報告されたものよりも高いインピーダンス値において十分な電圧傾度を出力することができる。これより、機能的なインピーダンス範囲は、約50%高く、最高120オームにわたると推定される。要約すると、リードシステムを有した心臓ハーネスの好ましいインピーダンス範囲は、約10オームからの120オームに至る機能的な範囲に対して、約20オームから約80オームである。
【0040】
ある好ましい実施形態について本発明を説明してきたが、当業者にとって明らかな他の実施形態もまた本発明の範囲内である。したがって、本発明の範囲は、添付の請求の範囲を参照することのみによって定められることが意図される。本願明細書に記載されたインピーダンス値、電極寸法、材料および塗料のタイプは本発明のパラメータを定めるものであることが意図されており、それらは決して限定ではなく例示的な実施形態である。
【0041】
【表1】

【0042】
付表1
1) Rinaldi AC, Simon RD, Geelen P, Reek S, Baszko A, Kuelil M, Gill JS。移植可能な心臓除細動器治療を受けた心室性不整脈の患者における単一コイル対二重コイルの細動除去のランダム化された計画調査。Journal of Pacing and Clinical Electrophysiology 26: 1684-1690 (2003);
2) Gold MR, Olsovsky MR, Pelini MA, Peters RW, Shorofsky SR。単一および二重コイルの能動的胸筋細動除去リードシステムの比較。Journal Of The American College Of Cardiology: 1391-4 (1998);
3) Scliulte B, Sperzel J, Carlsson J, Schwarz T, Ehrlich W, Pitschner HF, Neuzner J。二重コイル対単一コイルの能動的胸筋移植可能除細動器リードシステム。細動除去エネルギー所要量の倍数における細動除去エネルギー所要量と細動除去成功の確率。
Europace 3:177-180 (2001);
4) Sandstedt B, Kennergren C, Edvardsson N。移植可能な除細動器を用いた二方向細動除去。胸筋および腹筋の能動的発生装置の間における予測的無作為化比較。Journal Of The American College Of Cardiology: 24:1343- 1353 (2001);
5) Shorofsky SR, Peters RW, Rashba EJ, Gold MR。人体における細動除去許容限界を決定するための段階的減少および二成分サーチアルゴリズムの比較。Journal of Pacing and Clinical Electrophysiology 27:218-220 (2004)。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電力源に接続されたリードシステムを含む心臓ハーネスの斜視図。
【図2】図1中の破断線2−2に沿った断面図。
【図3】心臓ハーネスに取付けられる電極の遠位端の部分的な断面図。
【図4】その心膜側の側面が絶縁されている電極を示す、図1中の破断線線4−4に沿った断面図。
【図5】巻線ピッチを増大させた電極の螺旋コイルの部分投影図。
【図6a】減少させた寸法を有する電極を形成している電線の断面図。
【図6b】電線の断面形状の変更に起因してより少ない断面積を有した、電極を形成している電線の断面形状を示す図。
【図7】導線に直列に接続された抵抗器の部分投影図。
【図8】電極の長手方向に沿って配設された誘電材料の円周部分を有した電極の部分投影図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓を治療するためのシステムであって、
患者の心臓の少なくともに一部にほぼ倣うように構成された心臓ハーネスと、
前記心臓ハーネスに取り付けられて前記心臓の心外膜の表面上にあるいはその近傍に配設される電極と、
前記電極に連通して前記電極と共に電気回路の少なくとも一部分となる電力源と、
を備え、
前記電気回路が約10オームから約120オームの間のインピーダンスを有していることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記電気回路が約20オームから約80オームの間のインピーダンスを有していることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項3】
前記電極および前記電力源と連通する導体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項4】
前記導体と直列に配設された抵抗器をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載したシステム。
【請求項5】
前記電極は、心膜側の側面の反対側に心外膜側の側面を含み、
前記電極の心外膜側の側面の少なくとも一部が誘電材料によって絶縁されていることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項6】
前記電極は、心膜側の側面の反対側に心外膜側の側面を有し、
前記電極の心膜側の側面の少なくとも一部が誘電材料によって絶縁されていることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項7】
前記導体が約50%未満の銀を含有していることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項8】
前記電極は、その周囲に円周方向に配設された少なくとも一つの誘電材料の部分を含み、前記少なくとも一つの誘電材料の部分が前記電極の全長よりも短い全長を有していることを特徴とする請求項1に記載したシステム。
【請求項9】
心臓ハーネスに関連している電極のインピーダンスを増大させる方法であって、
患者の心臓の少なくとも一部にほぼ倣うように構成された心臓ハーネスに取り付けられている電極の表面積を減少させることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記電極の表面積を減少させることが、前記電極を誘電材料によって被覆することを含むことを特徴とする請求項9に記載した方法。
【請求項11】
前記電極の心膜側の側面を誘電材料によって被覆することを特徴とする請求項10に記載した方法。
【請求項12】
前記電極の心外膜側の側面を誘電材料によって被覆することを特徴とする請求項10に記載した方法。
【請求項13】
前記電極を誘電材料の円周方向部分により前記電極の長手方向に沿って被覆することを特徴とする請求項10に記載した方法。
【請求項14】
前記電極が螺旋コイルであり、
前記電極の表面積を減少させることが、前記電極の螺旋コイルのピッチを増大させることを含むことを特徴とする請求項9に記載した方法。
【請求項15】
前記電極の表面積を減少させることが、前記電極の断面寸法を減少させることを含むことを特徴とする請求項9に記載した方法。
【請求項16】
前記電極の表面積を減少させることが、前記電極の全長を減少させることを含むことを特徴とする請求項9に記載した方法。
【請求項17】
心臓を治療するためのシステムであって、
患者の心臓の少なくともに一部にほぼ倣うように構成された心臓ハーネスと、
前記心臓ハーネスに関連付けられるとともに前記心臓の心外膜の表面上にあるいはその近傍に配設され、かつ心外膜側の側面の反対側に心膜側の側面を有している電極と、
前記電極に連通して前記電極と共に電気回路の少なくとも一部分となる電力源と、
前記電極の心膜側の側面に配設された絶縁体と、
を備え、
前記電気回路のインピーダンスが約10オームより大きいことを特徴とするシステム。
【請求項18】
前記電気回路のインピーダンスが約20オームより大きいことを特徴とする請求項17に記載したシステム。
【請求項19】
前記電極および前記電力源と連通する導体をさらに備え、
前記導体が約50%未満の銀を含有していることを特徴とする請求項17に記載したシステム。
【請求項20】
前記絶縁体が誘電材料であることを特徴とする請求項17に記載したシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−502418(P2009−502418A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524981(P2008−524981)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027436
【国際公開番号】WO2007/015762
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(502329636)パラコー メディカル インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】