説明

有機アルセノキシド化合物およびその使用

本発明は有機アルセノキシド化合物およびその合成の方法に関する。本発明は同様に、これらの化合物を含む薬学的組成物、ならびに疾患および障害、具体的には、固形腫瘍および白血病を含む、増殖性疾患および障害の処置における、その使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は有機アルセノキシド化合物に関し、かつその合成の方法に関する。本発明は同様に、これらの化合物を含む薬学的組成物に関し、かつ増殖性疾患および障害を含む、疾患および障害の処置におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒ素化合物は疾患の処置のための治療剤としてこれまでに使用されてきた。しかしながら、ヒ素化合物の固有の毒性およびその一般的に好ましくない治療指数から、医薬剤としてのその使用は本質的に除外されてきた。
【0003】
有機アルセノキシド化合物はWO 01/21628(特許文献1)に開示されている。そのような化合物は、増殖性疾患の治療において有用な抗増殖性を有すると記述されている。WO 04/042079(特許文献2)は、特に内皮細胞において、ミトコンドリア透過性転移(MPT)を誘導するための有機アルセノキシド化合物の使用およびアポトーシスを誘導するための有機アルセノキシド化合物の使用について開示している。WO 01/21628(特許文献1)およびWO 04/042079(特許文献2)に開示されている有機アルセノキシド化合物は、連結基を介してアルセノキシド基に連結された、実質的に細胞膜不透過性のペンダント基を有する。WO 01/21628(特許文献1)もWO 04/042079(特許文献2)も本発明による式(I)の化合物について具体的に開示していない。
【0004】
急性前骨髄球性白血病(APL)を有する患者は、現在の治療法、つまり全トランス型レチノイン酸療法による処置後の再発に苦しむことがある。そのような場合、三酸化ヒ素は最適な処置と考えられる(Reiter et al., 2004(非特許文献1))。三酸化ヒ素は、APL細胞を選択的に死滅させる三価ヒ素剤である。三酸化ヒ素は同様に、標準的な処置が現在のところ存在していない疾患である、骨髄異形成症候群の処置として期待されている(Vey, 2004(非特許文献2))。
【0005】
しかしながら、三酸化ヒ素などの無機ヒ素剤は、体内に半金属を解毒するその能力を超えるレベルで存在する場合、毒物および発がん性物質だと長年にわたり認識されており、多くの副作用を伴う。
【0006】
がん(固形腫瘍の処置を含む)などの、増殖性疾患、および関連する状態を処置するための代替療法が必要である。具体的には、急性骨髄性白血病(AML)を含むAPLを処置するための代替療法が必要である。骨髄異形成症候群のための治療的処置も必要である。
【0007】
本発明は、連結基を介してフェニルアルセノキシド基に連結された、置換されてもよいアミノ酸残基を含む一群のアルセノキシド化合物に関する。本発明による化合物は、がん(例えば、固形腫瘍)などの、増殖性疾患の処置に使用される場合には特に、三酸化ヒ素および化合物4-(N-(S-グルタチオニルアセチル)アミノ)フェニルアルセノキシド(GSAO)を含む、WO 01/21628(特許文献1)またはWO 04/042079(特許文献2)に開示のアルセノキシド化合物などの、公知のヒ素化合物に比べて一つまたは複数の利点を持ちうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 01/21628
【特許文献2】WO 04/042079
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Reiter et al., 2004
【非特許文献2】Vey, 2004
【発明の概要】
【0010】
第一の局面において、本発明は以下の一般式(I)の化合物、ならびにその塩および水和物に関する:

式中
As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-、メタ-またはパラ-でありえ;
R1は水素およびC1〜3アルキルより選択され;
R2およびR3は同じかまたは異なっていてもよく、水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルケニルおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
R4およびR5は同じかまたは異なっていてもよく、水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルケニルおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
mは1、2および3より選択される整数であり;
nは1、2および3より選択される整数であり;
はキラル炭素原子を示す。
【0011】
第二の局面において、本発明は、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物を、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤または補助剤とともに含む薬学的組成物に関する。
【0012】
別の局面において、本発明は、脊椎動物において増殖性疾患を処置する方法であって、本発明の第一の局面による式(I)の化合物または本発明の第二の局面による組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む方法に関する。増殖性疾患は固形腫瘍などの、がんでありうる。
【0013】
さらなる局面において、本発明は、本発明の第一の局面による式(I)の化合物または本発明の第二の局面による組成物の有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において血管形成を阻害する方法に関する。
【0014】
別の局面において、本発明は、本発明の第一の局面による式(I)の化合物または本発明の第二の局面による組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物においてミトコンドリア透過性転移(MPT)を誘導する方法に関する。
【0015】
さらなる局面において、本発明は、本発明の第一の局面による式(I)の化合物または本発明の第二の局面による組成物のアポトーシス誘導量を哺乳動物に投与する段階を含む、増殖性哺乳動物細胞のアポトーシスを誘導する方法に関する。
【0016】
別の局面において、本発明は、本発明の第一の局面による式(I)の化合物または本発明の第二の局面による組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において白血病または骨髄異形成症候群を処置する方法に関する。
【0017】
さらなる局面において、本発明は、脊椎動物において増殖性疾患を処置するための医薬の製造における、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物の使用に関する。増殖性疾患は固形腫瘍などの、がんでありうる。
【0018】
別の局面において、本発明は、脊椎動物において血管形成を阻害するための医薬の製造における、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物の使用に関する。
【0019】
別の局面において、本発明は、脊椎動物においてMPTを誘導するための医薬の製造における、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物の使用に関する。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、増殖性哺乳動物細胞のアポトーシスを誘導するための医薬の製造における、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物の使用に関する。
【0021】
別の局面において、本発明は、脊椎動物において白血病を処置するための医薬の製造における、本発明の第一の局面による少なくとも一つの式(I)の化合物の使用に関する。
【0022】
定義
以下は、本発明の説明を理解するうえで役立ちうるいくつかの定義である。これらは一般的定義として意図されており、本発明の範囲をそれらの用語だけに決して限定するものではなく、以下の説明をよりよく理解するために提示される。
【0023】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、またはそうでないと特に述べられていない限り、本明細書において単数の整数、段階または要素として列挙されている本発明の整数、段階または要素は、列挙されている整数、段階または要素の単数形も複数形もともに明らかに包含する。
【0024】
本明細書を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変化形は、明記した段階もしくは要素もしくは整数または段階もしくは要素もしくは整数の群の包含を意味するが、その他任意の段階もしくは要素もしくは整数または要素もしくは整数の群の除外を意味するものではないことが理解されよう。したがって、本明細書の文脈において、「含む(comprising)」という用語は「主として含む(including)が、必ずしもそれのみを含むわけではない」ことを意味する。
【0025】
本明細書において記述の発明は、具体的に記述されているもの以外の変形および変更が可能であることを当業者なら理解するであろう。本発明はそのような全ての変形および変更を含むことが理解されるべきである。本発明は同様に、本明細書において言及または表示される段階、特徴、組成物および化合物の全てを、個別的にまたは集合的に、ならびにその段階または特徴の任意のおよび全ての組み合わせまたは任意の2つもしくはそれ以上を含む。
【0026】
本明細書の文脈において、BRAOは4-(2-ブロモアセチルアミノ)-ベンゼンアルソン酸をいい; CAOは4-(N-(S-システイニルアセチル)アミノ)-フェニルアルシナス酸をいい; GSAOは4-(N-(S-グルタチオニルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸をいい; およびPENAOは4-(N-(S-ペニシラミニルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸[「(S)-ペニシラミン-アルセノキシド」]をいう。
【0027】
本明細書において用いる場合、「C1〜3アルキル基」という用語は、その意味のなかに、1〜3個の炭素原子を持った一価(「アルキル」)および二価(「アルキレン」)の直鎖または分枝鎖飽和脂肪族基を含む。したがって、例えば、C1〜3アルキルという用語はメチル、エチル、1-プロピルおよびイソプロピルを含む。
【0028】
「C2〜3アルケニル基」という用語は、その意味のなかに、2〜3個の炭素原子および鎖内のどこかに少なくとも1つの二重結合を持った一価(「アルケニル」)および二価(「アルケニレン」)の直鎖または分枝鎖不飽和脂肪族炭化水素基を含む。別段の定めのない限り、各二重結合に関する立体化学は、独立して、適宜シスもしくはトランス、またはEもしくはZであってよい。アルケニル基の例としてはエテニル、ビニル、アリル、1-メチルビニル、1-プロペニルおよび2-プロペニルが挙げられる。
【0029】
本明細書において用いる「C2〜3アルキニル基」という用語は、その意味のなかに、2〜3個の炭素原子および少なくとも1つの三重結合を持った一価(「アルキニル」)および二価(「アルキニレン」)の不飽和脂肪族炭化水素基を含む。アルキニル基の例としてはエチニル、1-プロピニルが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0030】
本明細書において用いる「アルコキシ」という用語は、アルキルが上記に定義の、直鎖または分枝鎖アルキルオキシ(すなわち、O-アルキル)基をいう。アルコキシ基の例としてはメトキシ、エトキシ、n-プロポキシおよびイソプロポキシが挙げられる。
【0031】
本明細書において用いる「アミノ」という用語は、RaおよびRbが水素、置換されてもよい(C1〜4)アルキル、置換されてもよい(C2〜4)アルケニル、置換されてもよい(C2〜4)アルキニル、置換されてもよい(C6〜10)アリールおよび置換されてもよいアラルキル基、例えばベンジルより個別に選択される-NRaRb型の基をいう。アミノ基は第一級、第二級または第三級アミノ基であってよい。
【0032】
本明細書の文脈において、「アルセノキシド」という用語は「アルシナス酸」と同義語であり、As(OH)2部分をいう。この部分はAs=Oと表されることもある。
【0033】
本明細書において用いる「アミノ酸」という用語は、天然および非天然のアミノ酸、ならびにその置換変異体を含む。したがって、アミノ酸の(L)形および(D)形は「アミノ酸」という用語の範囲の中に含まれる。「アミノ酸」という用語は、その範囲のなかに、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジンを含む。アミノ酸残基の骨格は、(C1〜6)アルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシ(C1〜6)アルキル、アリール、例えばフェニル、アリール(C1〜3)アルキル、例えばベンジル、および(C3〜6)シクロアルキルより独立して選択される一つまたは複数の基で置換されてもよい。
【0034】
本明細書において用いる「C6〜10アリール」という用語または「アリーレン」などの変化形は、6〜10個の炭素原子を持った芳香族炭化水素の一価(「アリール」)および二価(「アリーレン」)の単一、多核、結合および融合残基をいう。芳香族基の例としてはフェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0035】
本明細書において用いる「アリールアルキル」という用語または「アラルキル」などの変化形は、その意味のなかに、二価、飽和、直鎖または分枝鎖アルキレンラジカルに付着した一価(「アリール」)および二価(「アリーレン」)の単一、多核、結合および融合芳香族炭化水素ラジカルを含む。アリールアルキル基の例としてはベンジルが挙げられる。
【0036】
本明細書において用いる「C3〜8ヘテロシクロアルキル」という用語は、その意味のなかに、1〜5個または1〜3個の環原子がO、N、NHまたはSより独立して選択されるヘテロ原子である、3〜8個の環原子を持った一価(「ヘテロシクロアルキル」)および二価(「ヘテロシクロアルキレン」)の飽和、単環式、二環式、多環式または融合炭化水素ラジカルを含む。ヘテロシクロアルキル基はC3〜6ヘテロシクロアルキル基であってよい。ヘテロシクロアルキル基はC3〜5ヘテロシクロアルキル基であってよい。ヘテロシクロアルキル基の例としてはアジリジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、キヌクリジニル、アゼチジニル、モルホリニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニルなどが挙げられる。
【0037】
本明細書において用いる「C5〜20ヘテロ芳香族基」という用語ならびに「ヘテロアリール」または「ヘテロアリーレン」などの変化形は、その意味のなかに、1〜6個の原子、または1〜4個もしくは1〜2個の環原子がO、N、NHおよびSより独立して選択されるヘテロ原子である、5〜20個の原子を持った一価(「ヘテロアリール」)および二価(「ヘテロアリーレン」)の単一、多核、結合および融合芳香族ラジカルを含む。ヘテロ芳香族基はC5〜10ヘテロ芳香族基であってよい。ヘテロ芳香族基はC5〜8ヘテロ芳香族基であってよい。ヘテロ芳香族基の例としてはピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、2,2'-ビピリジル、フェナントロリニル、キノリニル、イソキノリニル、イミダゾリニル、チアゾリニル、ピロリル、フラニル、チオフェニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリルなどが挙げられる。
【0038】
本明細書において用いる「ハロゲン」という用語または「ハロゲン化物」もしくは「ハロ」などの変化形はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素をいう。
【0039】
本明細書において用いる「ヘテロ原子」という用語または「ヘテロ-」などの変化形はO、N、NHおよびSをいう。
【0040】
本明細書において用いる「置換されてもよい」という用語は、この用語が言及する基が未置換であっても、またはアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルキニル、ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、チオアルコキシ、アルケニルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、NO2、NRaRb、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロヘテロシクリル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミン、アルキニルアミノ、アシル、アルケノイル、アルキノイル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、ヘテロシクロオキシ、ヘテロシクロアミノ、ハロヘテロシクロアルキル、アルキルスルフェニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルチオ、アシルチオ、ホスホノおよびホスフィニルなどのリン含有基、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリール、アラルキル、アルキルヘテロアリール、シアノ、シアネート、イソシアネート、CO2H、CO2アルキル、C(O)NH2、-C(O)NH(アルキル)、ならびに-C(O)N(アルキル)2より独立して選択される一つまたは複数の基で置換されてもよいことを意味する。好ましい置換基はC1〜3アルキル、C1〜3アルコキシ、-CH2-(C1〜3)アルコキシ、C6〜10アリール、例えばフェニル、-CH2-フェニル、ハロ、ヒドロキシル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、およびハロ-(C1〜3)アルキル、例えばCF3、CH2CF3を含む。特に好ましい置換基はC1〜3アルキル、C1〜3アルコキシ、ハロ、ヒドロキシル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、例えばCH2OH、およびハロ-(C1〜3)アルキル、例えばCF3、CH2CF3を含む。
【0041】
本明細書の文脈において、「投与すること」という用語ならびに「投与する」および「投与」を含むその用語の変化形は、任意の適切な手段によって本発明の化合物または組成物を生物または表面に接触させる、適用する、送達するまたは供与することを含む。
【0042】
本明細書の文脈において、「脊椎動物」という用語は、ヒト、ならびにヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、イヌ、霊長類(ヒトおよびヒト以外の霊長類を含む)、げっ歯類、マウス、ヤギ、ウサギおよびトリ属のメンバーを含むが、これらに限定されない社会的、経済的または研究に重要な任意の種の個体を含む。好ましい態様において、脊椎動物はヒトである。
【0043】
本明細書の文脈において、「処置」という用語は、疾患状態もしくは症状を治療する、疾患の確立を予防する、または別の方法で疾患もしくは他の望ましくない症状の進行を多少なりとも予防する、妨害する、遅延する、もしくは逆行させる任意のおよび全ての用途をいう。
【0044】
本明細書の文脈において、「有効量」という用語は、その意味のなかに、望ましい効果を供与するのに十分であるが無毒な、本発明の化合物または組成物の量を含む。したがって「治療上有効量」という用語は、その意味のなかに、望ましい治療効果を供与するのに十分であるが無毒な、本発明の化合物または組成物の量を含む。必要とされる正確な量は、処置する種、被験体の性別、年齢および全身状態、処置する状態の重症度、投与する特定の薬剤、投与方法などのような要因に依り被験体によって異なると考えられる。したがって、正確な「有効量」を明記することはできない。しかしながら、所与のどの場合にも、当業者はルーチンな実験だけを用いて適切な「有効量」を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(S)-ペニシラミン-アルセノキシド(「PENAO」)の構造を示す。
【図2】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの1H-NMRスペクトルを示す。
【図3】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに対する2D 1H-13C多重結合相関データを示す。遠隔カップリングを4-(2-ブロモアセチルアミノ)-ベンゼンアルソン酸(「BRAO」)のアシル水素(δ 3.55)とペニシラミン第4級炭素(δ 46.75)との間で観測した。NMRスペクトルを300 MHz BrukerデュアルチャネルプローブNMR分光計にてD2O中で記録した。
【図4】質量分析: 413.011678で観測されたナトリウムイオン付加(sodiated)質量ピーク(計算値からのδ 1.5 ppm)を示す。使用したアルコール溶媒に依って素早いアルキルエステル形成が起こり、例えば、サンプルがメタノール中で流されたら、観測される主なピークは+15または+30の質量単位となる。
【図5】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは0.4 μMのIC50でBAE細胞の増殖を阻害する。5価のヒ素化合物(S)-ペニシラミン-アルセノン酸(arsenonic acid)は増殖に及ぼす効果がない。データ点は、三つ組で実施した3回の実験の平均±SDである。
【図6】BAEの増殖 vs 生存性に及ぼす(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの効果の比較を示す。データ点は、三つ組で実施した3回の実験の平均±SDである。
【図7】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは三酸化ヒ素と同じくらい良好なAPL細胞増殖阻害剤である。漸増濃度の三酸化ヒ素、ペニシラミン-アルセノキシドまたはGSAOとの72時間のインキュベーション後に残存するNB4生存細胞の数。データ点は三つ組の測定の平均±SDである。
【図8】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはミトコンドリア透過性転移の誘導でGSAOよりも効率的である。30分間にわたる520 nmでの光散乱の減少により測定した、100 μMのGSAOまたは(S)-ペニシラミン-アルセノキシドによるミトコンドリア膨化。トレース(trace)は、異なる2つのミトコンドリア調製物に対し二つ組で実施した2回の実験を代表するものである。
【図9】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはGSAOよりもおよそ70倍速い速度でBAE細胞に蓄積する。BAE細胞を50 μM GSAOまたは(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの存在下において最大で4時間インキュベートし、細胞質のヒ素を誘導結合プラズマ分光分析法によって測定した。データ点およびエラーバーは三つ組の測定の平均±SDであり、2回の実験を代表するものである。
【図10】細胞表面OATPの阻害は(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの細胞内蓄積および抗増殖活性を鈍らせる。A. OATP阻害剤DIDSによる内皮細胞における(S)-ペニシラミン-アルセノキシド蓄積の阻害を示す。細胞を30分間500 μM DIDSで前処理するかまたは前処理せずに、その後、2時間20 μM (S)-ペニシラミン-アルセノキシドとともにインキュベートした。ヒ素含有量をICPMSによって判定した。値は三つ組の測定の平均±SDである。結果は2回の実験を代表するものである。**: p<0.01。B. DIDSは内皮細胞においてGSAOの抗増殖活性を鈍らせる。BAE細胞を30分間300 μM DIDSで前処理するかまたは前処理せずに、その後、24時間1.5 μM (S)-ペニシラミン-アルセノキシドとともにインキュベートした。細胞の生存をMTTによって判定した。結果は対照の割合として表現してある。値は三つ組の測定の平均±SDである。結果は2回の実験を代表するものである。**: p<0.01。
【図11】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはMRP 1/2によって細胞から送り出される。A BAE細胞を4H10 (5 μM)またはMK-571 (25 μM)の非存在下または存在下において50 μM (S)-ペニシラミン-アルセノキシドとともに最大で2時間インキュベートし、細胞質のヒ素を誘導結合プラズマ分光分析法によって測定した。データ点およびエラーバーは四つ組の測定の平均±SDであり、2回の実験を代表するものである。B ペニシラミン-アルセノキシド(0.3 μM)によるBAE細胞増殖の阻害に及ぼすMRP1/2阻害剤4H10 (2 μM)およびMK-571 (15 μM)の効果を示す。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドとの72時間のインキュベーションの前に、MRP阻害剤を細胞とともに30分間インキュベートした。データ点およびエラーバーは三つ組の測定の平均±SDである。***はp<0.001であり、**はp<0.01である。
【図12】細胞グルタチオンの枯渇は(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの抗増殖活性を増大する。BAE細胞を72時間(S)-ペニシラミン-アルセノキシドおよび表示濃度のBSOで同時に処理し、増殖停止に対するIC50を計算した。データ点およびエラーバーは、三つ組で実施した2回の実験の平均±SDである。
【図13】(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの持続皮下投与によるヒト膵臓がん腫瘍増殖の阻害を示す。BxPC-3腫瘍を7〜9週齢の雌性BalbCヌードマウスの近位正中線にて樹立した。およそ50 mm3の腫瘍を持ったマウスの側腹部皮下に28日alzet微小浸透圧ポンプを埋め込んだ。このポンプにより100 mMグリシン(溶剤)中0.25、0.5または1 mg/kg/日の(S)-ペニシラミン-アルセノキシドを送達した。
【図14】GSAOの酵素的切断によるCAOの作出を示す。
【図15】GSAOおよびCAOのHPLC分析を示す。5ナノモル(nmoles)のGSAO (パートA)またはCAO (パートB)をC18逆相カラムにて分離し、256 nmでの吸光度によって検出した。
【図16】CAOはGSAOよりも速く細胞に蓄積し、高い抗増殖活性を有する。A. CAOはGSAOよりもずっと速い速度で細胞に蓄積する。BAE細胞を4時間50 μM GSAOまたはCAOとともにインキュベートした。細胞のヒ素レベルをICPMSによって判定した。GSAOおよびCAOの蓄積速度はそれぞれ、0.03および0.20 nmol As原子/細胞106個である。データ点は3回の測定の平均±SDである。結果は2回の実験を代表するものである。B. CAOは多剤耐性関連タンパク質1によって細胞から搬出される。10 μMのMRP-1阻害剤4H10で30分間前処理したBAE細胞を2時間50 μM GSAOまたはCAOとともにインキュベートした。細胞のヒ素レベルをICPMSによって判定した。データ点は3回の測定の平均±SDである。結果は2回の実験を代表するものである。C. 内皮細胞の増殖停止に対するGSAOおよびCAOのIC50値を示す。BAE細胞を24、48または72時間0.8〜100 μMのGSAOまたはCAOとともにインキュベートした。細胞生存性をMTTによって判定した。結果は対照の割合として表現してある。値は三つ組の測定の平均±SDである。結果は3回の実験を代表するものである。
【図17】CAOはミトコンドリア透過性転移を誘発する。ミトコンドリアをなし(●)、150 μM Ca2+および6 mM Pi (○)または200 μM CAO (▲)とともにインキュベートし、膨化を60分間にわたり520 nmでの光散乱の減少によってモニターした。トレース(trace)は2回の実験を代表するものである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の好ましい態様の詳細な説明
本発明は、リンカー基を介してフェニルアルセノキシド基に連結された、置換されてもよいアミノ酸部分を含む有機アルセノキシド化合物に関する。
【0047】
本発明による有機アルセノキシド化合物は、置換または非置換アミノ酸部分を有する。アミノ酸部分の例としてはシステイニル、置換システイニル、例えばペニシルアミニル(β,β-ジメチルシステイニルもしくは3-メルカプトバリニルとしても公知)、置換されてもよいアラニニル、置換されてもよいメルカプトアラニニル、置換されてもよいバリニル、置換されてもよい4-メルカプトバリニル、置換されてもよいロイシニル、置換されてもよい3-もしくは4-、または5-メルカプトロイシニル、置換されてもよいイソロイシニル、あるいは置換されてもよい3-、4-または5-イソロイシニルが挙げられる。本発明の好ましい態様において、アミノ酸部分はβ,β-ジメチルシステイニル(「ペニシルアミニル」)である。本発明の別の態様において、アミノ酸部分は(S)-ペニシルアミニルである。本発明の別の態様において、アミノ酸部分はシステイニルである。アミノ酸部分は(L)、(D)、(R)または(S)立体配置を有してよい。任意の置換基はC1〜3アルキル、シクロプロピル、C1〜3アルコキシ、-CH2-(C1〜3)アルコキシ、C6〜10アリール、-CH2-フェニル、ハロ、ヒドロキシル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、およびハロ-(C1〜3)アルキル、例えばCF3、CH2CF3を含む。好ましい態様において、任意の置換基は、ヒドロキシル、メトキシ、ハロ、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、CH2OHおよびCF3より独立して選択される。
【0048】
本発明による有機アルセノキシド化合物のリンカー基は、置換または非置換アセトアミド基である。一つの態様において、リンカー基は、非置換アセトアミド基である。
【0049】
具体的には、本発明は以下の一般式(I)の化合物、ならびにその塩および水和物
に関する:

式中
As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-、メタ-またはパラ-でありえ;
R1は水素およびC1〜3アルキルより選択され;
R2およびR3は同じかまたは異なっていてもよく、水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルケニルおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
R4およびR5は同じかまたは異なっていてもよく、水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルケニルおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
mは1、2および3より選択される整数であり;
nは1、2および3より選択される整数であり;
はキラル炭素原子を示す。
【0050】
一般式(I)の化合物の好ましい態様を以下に記述する。本明細書において開示する態様のいずれか一つまたは複数は、好ましい態様を含む、その他任意の態様と組み合わされてもよいと理解されるべきである。
【0051】
任意の置換基は同じかまたは異なっていてもよく、C1〜3アルキル、シクロプロピル、C1〜3アルコキシ、-CH2-(C1〜3)アルコキシ、C6〜10アリール、-CH2-フェニル、ハロ、ヒドロキシル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、およびハロ-(C1〜3)アルキル、例えばCF3、CH2CF3より独立して選択される。一つの態様において、任意の置換基はヒドロキシル、メトキシ、ハロ、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、CH2OHおよびCF3より独立して選択される。一つの態様において、任意の置換基は存在しない。
【0052】
As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であってよい。一つの態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しパラ-である。別の態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-である。
【0053】
R1は水素、メチルまたはエチルであってよい。一つの態様において、R1は水素である。
【0054】
R2およびR3は同じかまたは異なっていてもよい。R2およびR3は水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択することができる。好ましい態様において、R2およびR3は水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、CH2OH、CF3およびOCF3より独立して選択することができる。別の好ましい態様において、R2およびR3は水素、メチルおよびエチルより独立して選択することができる。別の態様において、R2はメチルであり、かつR3は水素である。別の態様において、R2およびR3はともに水素である。
【0055】
R4およびR5は同じかまたは異なっていてもよい。R4およびR5は水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ-(C1〜3)アルキルより独立して選択することができる。好ましい態様において、R4およびR5は水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、CF3およびOCF3より独立して選択することができる。別の好ましい態様において、R4およびR5は水素、メチル、エチルおよびCH2OHより独立して選択することができる。別の態様において、R4はメチルまたはエチルであり、かつR5は水素またはメチルである。別の態様において、R4はメチルであり、かつR5は水素である。別の態様において、R4およびR5はともに水素である。別の態様において、R4およびR5はともにメチルである。
【0056】
一つの態様において、mは1または2である。別の態様において、nは1または2である。別の態様において、mおよびnはともに1である。
【0057】
式(I)の化合物の一つの態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1は水素またはメチルであり; R2およびR3は水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ-(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択され; R4およびR5は水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択され; mは1または2であり; かつnは1または2である。
【0058】
式(I)の化合物の別の態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1は水素またはメチルであり; R2およびR3は水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、CH2OH、CF3およびOCF3より独立して選択され; R4およびR5は水素、メチル、エチル、CH2OH、メトキシ、ビニル、CF3およびOCF3より独立して選択され; mは1であり; かつnは1である。
【0059】
式(I)の化合物のさらなる態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1は水素またはメチルであり; R2およびR3は水素、メチルおよびエチルより独立して選択され; R4およびR5は水素、メチルおよびエチルより独立して選択され; mは1であり; かつnは1である。
【0060】
式(I)の化合物の別の態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1は水素またはメチルであり; R2は水素またはメチルであり; R3は水素またはメチルであり; R4は水素、メチルまたはエチルであり; R5は水素またはメチルであり; mは1であり; かつnは1である。
【0061】
式(I)の化合物の別の態様において、As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しパラ-であり; R1は水素であり; R2は水素またはメチルであり; R3は水素であり; R4は水素またはメチルであり; R5は水素またはメチルであり; mは1であり; かつnは1である。
【0062】
本発明の特定の態様において、式(I)の化合物は

である。この化合物を本明細書では「ペニシラミン-アルセノキシド」という。
【0063】
本発明の別の態様において、式(I)の化合物は

である。この化合物を本明細書では「システイニル-フェニルアルセノキシド」ということもある。
【0064】
式(I)の化合物の合成
当業者は、式(I)の化合物を、当技術分野において公知の方法および材料を用いて、ならびにJerry Marchによる「Advanced Organic Chemistry」(第3版, 1985, John Wiley and Sons)またはRichard C. Larockによる「Comprehensive Organic Transformations」(1989, VCH Publishers)などの、標準的な教科書を参照して容易に調製することができる。
【0065】
式(I)の化合物の調製のための代表的なスキームを以下に示す。
スキーム1

ここでXは脱離基であり、かつP1およびP2は水素または保護基である。
【0066】
スキーム1で、Xは求核反応において求核試薬により置換されうる脱離基である。適当な脱離基はヨード、ブロモおよびクロロなどの、ハロゲンを含む。その他の適当な脱離基は当業者に公知である。本発明によれば、求核基はチオールとすることができる。-SHは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのような、塩基によって脱プロトン化することができる。アミノ基および/またはカルボン酸基は保護することができる。適当な保護基は当業者に公知であり、Theodora Greene and Peter Wutsによる「Protective Groups in Organic Synthesis」(第3版, 1999, John Wiley and Sons)を参照することができる。
【0067】
別の合成戦略において、本発明による式(I)の化合物は、有機アルセノキシド化合物のペプチジル残基の酵素的切断によって調製することができる。適当な酵素はペプチジル残基の組成に応じて選択することができる。したがって、例えば、有機アルセノキシド出発化合物がグルタチオンなどのトリペプチド残基を含む場合、式(I)の化合物はγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(例えば、ヒツジ腎臓由来I型γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)での末端γ-グルタミル残基の酵素的切断によって、その後、アミノペプチダーゼ(例えば、ブタ腎臓由来アミノペプチダーゼ)でのグリシニル残基の切断によってシステイニルアミノ酸残基を残すことにより調製することができる。
【0068】
式(I)中ので示されるキラル原子の立体化学は、(R)または(S)であってよい。本発明は式(I)の化合物の鏡像異性的に純粋な形態、任意の比率での鏡像異性体の混合物、およびラセミ体を含む。本発明の一つの態様において、式(I)中ので示されるキラル原子の立体化学は(R)である。本発明の別の態様において、式(I)中ので示されるキラル原子の立体化学は(S)である。
【0069】
本発明の別の好ましい態様において、式(I)の化合物は(S)-ペニシラミン-アルセノキシドである。本発明の別の好ましい態様において、式(I)の化合物は(R)-ペニシラミン-アルセノキシドである。別の態様において、式(I)の化合物はペニシラミン-アルセノキシドの(R)および(S)鏡像異性体の混合物を含む。別の態様において、ペニシラミン-アルセノキシドの(R)および(S)鏡像異性体の混合物はラセミ混合物である。
【0070】
本発明の好ましい態様において、式(I)の化合物は(S)-システイニル-フェニルアルセノキシドである。本発明の別の好ましい態様において、式(I)の化合物は(R)-システイニル-フェニルアルセノキシドである。別の態様において、式(I)の化合物はシステイニル-フェニルアルセノキシドの(R)および(S)鏡像異性体の混合物を含む。別の態様において、システイニル-フェニルアルセノキシドの(R)および(S)鏡像異性体の混合物はラセミ混合物である。
【0071】
本発明の範囲内に同様に含まれるのは、一種より多い異性を示す化合物、およびその一つまたは複数の混合物を含む、式(I)の化合物の全ての立体異性体、幾何異性体および互変異性形態である。対イオンが光学的に活性である酸付加塩もしくは塩基塩、例えば、d-乳酸塩もしくはl-リジン、またはラセミ体である酸付加塩もしくは塩基塩、例えば、dl-酒石酸塩もしくはdl-アルギニンも含まれる。
【0072】
シス/トランス(E/Z)異性体は、当業者に周知の慣用的技術、例えば、クロマトグラフィーおよび分別再結晶により分離することができる。
【0073】
個々の鏡像異性体の調製/単離のための慣用的技術は光学的に純粋な適当な前駆体からのキラル合成または、例えばキラル高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた、ラセミ体(または塩もしくは誘導体のラセミ体)の分割を含む。
【0074】
あるいは、ラセミ体(もしくはラセミ前駆体)を光学的に活性な適当な化合物、例えばアルコールと、または、式Iの化合物が酸性もしくは塩基性部分を含有する場合、1-フェニルエチルアミンもしくは酒石酸などの塩基もしくは酸と反応させてもよい。得られたジアステレオ異性混合物をクロマトグラフィーおよび/または分別再結晶によって分離し、ジアステレオ異性体の一方または両方を当業者に周知の手段によって対応する純粋な鏡像異性体に変換してもよい。
【0075】
本発明のキラル化合物(およびそのキラル前駆体)は、0〜50容量%、典型的には2%〜20%のイソプロパノール、および0〜5容量%のアルキルアミン、典型的には0.1%のジエチルアミンを含有する炭化水素、典型的にはヘプタンまたはヘキサンからなる移動相での不斉樹脂上でのクロマトグラフィー、典型的にはHPLCを用いて、鏡像異性体が富化された形態で得ることができる。溶出物を濃縮すると、富化混合物が得られる。
【0076】
治療用途
本発明による式(I)の化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩および水和物は、増殖性内皮細胞中のミトコンドリア・アデニンヌクレオチドトランスロケータ(ANT)のシステイン残基に結合し、それによってミトコンドリア透過性転移(MPT)を誘導しうる。したがって、本発明による式(I)の化合物は、増殖停止および細胞死を誘導するために使用することができる。有利なことに、式(I)の化合物は増殖性内皮細胞中のMPTを、腫瘍細胞などの、他の細胞と比べて選択的に誘導することができる。式(I)の化合物は、それゆえ、増殖性疾患の処置において有用でありうる。
【0077】
有利なことに、ペニシラミン-アルセノキシドおよびシステイニル-フェニルアルセノキシドなどの式(I)の化合物は、細胞増殖(特に内皮細胞の増殖)の阻害および/または内皮細胞の生存能の低減について、化合物4-(N-(S-グルタチオニルアセチル)アミノ)フェニルアルセノキシド(「GSAO」)などのWO 01/21628に開示の有機アルセノキシド化合物を含む、公知のアルセノキシド化合物よりも有効でありうる。本発明の文脈において、「内皮細胞の生存能の低減」とは、細胞死、または細胞死の方向に進むことを含みうる。例えば、式(I)の化合物は内皮細胞の増殖の阻害および/または内皮細胞の生存能の低減でGSAOよりも約5倍、約10倍、約15倍、約20倍、約25倍、約30倍、約40倍、約50倍、約75倍または約100倍有効でありうる。特定の態様において、式(I)の化合物は増殖の阻害および/または内皮細胞の生存能の低減でGSAOよりも約5〜50倍有効である。別の態様において、式(I)の化合物は増殖の阻害および/または内皮細胞の生存能の低減でGSAOよりも約10〜30倍有効である。別の態様において、式(I)の化合物は増殖の阻害および/または内皮細胞の生存能の低減でGSAOよりも約20〜25倍有効である。
【0078】
有利なことに、ペニシラミン-アルセノキシドおよびシステイニル-フェニルアルセノキシドなどの式(I)の化合物は、ミトコンドリア透過性転移(MPT)の誘導で公知のアルセノキシド化合物、例えばGSAOよりも効率的でありうる。例えば、単離ミトコンドリアの半値(half-maximal)膨化時間は、式(I)の化合物の場合、GSAOなどの、他のアルセノキシド化合物と比べて約2〜約20倍、約2〜約15倍、約2〜約10倍、約2〜約8倍、約2〜約6倍または約2〜約4倍速くなりうる。本発明の特定の態様において、式(I)の化合物はGSAOなどの、他のアルセノキシド化合物よりもMPTの誘導について約2〜約10倍速い。別の態様において、式(I)の化合物はGSAOなどの、他のアルセノキシド化合物よりもMPTの誘導について約2〜約6倍速い。別の態様において、式(I)の化合物はGSAOなどの、他のアルセノキシド化合物よりもMPTの誘導について約4倍速い。
【0079】
本発明の式(I)の化合物による増殖性内皮細胞の阻害効率の増大は細胞内蓄積の増大に起因しうる。例えば、式(I)の化合物はGSAOなどの、他のアルセノキシド化合物と比較して速い速度で内皮細胞内に蓄積しうる。したがって、式(I)の化合物はGSAOなどの、他の有機アルセノキシド化合物よりも有効な細胞増殖阻害剤でありうる。
【0080】
すなわち、本発明の別の態様は脊椎動物において細胞増殖性疾患を処置する方法であって、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む方法に関する。細胞は内皮細胞でありうる。式(I)の化合物は増殖性内皮細胞に選択的でありうる。式(I)の化合物は化合物GSAOよりも増殖性細胞に対して高い選択性を示しうる。増殖性疾患は、固形腫瘍などの、がんでありうる。すなわち、本発明の特定の態様は固形腫瘍を処置する方法であって、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む方法に関する。好ましい態様において、式(I)の化合物はペニシラミン-アルセノキシドまたはシステイニル-フェニルアルセノキシドでありうる。
【0081】
別の態様において、本発明は、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物の有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において血管形成を阻害する方法に関する。
【0082】
本発明のさらなる態様は、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において増殖性細胞中のMPTを選択的に誘導する方法に関する。本発明による式(I)の化合物は、ミトコンドリア・アデニンヌクレオチドトランスロケータのシステイン残基に結合することによってMPTを誘導しうる。式(I)の化合物は、化合物GSAOよりも、増殖性細胞中のMPTの誘導について約2〜約20倍、約2〜約10倍、約2〜約5倍、例えば、約4倍効果的でありうる。
【0083】
本発明の別の態様は、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物のアポトーシス誘導量を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物において増殖性細胞のアポトーシスを誘導する方法に関する。式(I)の化合物は正常細胞と比べ増殖性細胞においてアポトーシスを選択的に誘導しうる。式(I)の化合物は化合物GSAOよりも増殖性細胞におけるアポトーシスの誘導について有効でありうる。
【0084】
本発明による式(I)の化合物は同様に、急性前骨髄球性白血病(APL)を処置するのに有用な可能性がある。現在のAPL処置は、根本的な分子的傷害を標的とし白血病性芽球の成熟顆粒球への分化をもたらす、全トランス型レチノイン酸(ATRA)療法である(Reiter et al., 2004)。しかしながら、ATRAによる処置は、死に至る可能性のあるレチノイン酸症候群を伴う。再発も問題である。再発患者では、三酸化ヒ素は最適な処置と考えられる(Reiter et al., 2004)。しかしながら、三酸化ヒ素などの無機ヒ素剤は、治療に用いられる場合、不利な点がいくつかある。例えば、三酸化ヒ素などの無機ヒ素剤は、体内に半金属を解毒するその能力を超えるレベルで存在する場合、毒物および発がん性物質だと長年にわたり認識されている。QTcの延長、APL分化症候群、末梢神経障害、肝機能異常および胃腸反応を含む副作用を最小限にするために三酸化ヒ素は2時間にわたって静脈内注射により投与される(Evens et al., 2004)。AMLを含むAPL、および骨髄異形成症候群の処置のためにより安全なヒ素剤が必要である。
【0085】
それゆえ、本発明のさらなる態様は、少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物、あるいはその薬学的組成物の治療上有効量を脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において白血病または骨髄異形成症候群を処置する方法に関する。一つの態様において、白血病は急性前骨髄球性白血病(APL)である。別の態様において、白血病は急性骨髄性白血病(AML)である。本発明によれば、式(I)の化合物はAPL細胞の阻害で三酸化ヒ素と少なくとも同程度に有効でありうる。一つの態様において、式(I)の化合物はAPLの処置で三酸化ヒ素よりも有効である。有利なことに、式(I)の化合物は三酸化ヒ素よりも低い副作用を示しうる。式(I)の化合物はAPL、AMLおよび/または骨髄異形成症候群の処置について、GSAOなどの、他の有機アルセノキシド化合物よりも有効でありうる。
【0086】
本発明による式(I)の化合物の別の特徴は、例えば三酸化ヒ素と比較して、脂溶性の低減している可能性があるということである。式(I)の化合物の水溶性は、組織への浸透が低減され、主に、血管内区画に制限される可能性があるというようなものである。それゆえ、式(I)の化合物は有利なことに、三酸化ヒ素などの、他のヒ素剤よりも低い副作用をもたらしうる。
【0087】
併用投与計画を通じて治療的利点を実現することができる。併用療法では、それぞれの薬剤を同時に、または任意の順序で連続的に投与することができる。したがって、本発明による処置の方法は、一つまたは複数の式(I)の化合物の投与を伴うことができる。式(I)の化合物は放射線療法、化学療法、外科手術または他の形態の医学的介入などの、通常療法と併せて投与することができる。化学療法剤の例としてはアドリアマイシン、タキソール、フルオロウリシル、メルファラン、シスプラチン、オキサリプラチン、αインターフェロン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、アンギオインヒビン、TNP-470、ペントサンポリサルフェート、血小板第4因子、アンギオスタチン、LM-609、SU-101、CM-101、テクガラン、サリドマイド、SP-PGなどが挙げられる。他の化学療法剤にはメクロレタミン(mechloethamine)、メルファン(melphan)、クロラムブシル、シクロホスファミドおよびイホスファミドを含むナイトロジェンマスタードなどのアルキル化剤; カルムスチン、ロムスチン、セムスチンおよびストレプトゾシンを含むニトロソウレア; ブスルファンを含むアルキルスルホネート; ジカルバジンを含むトリアジン; チオテパおよびヘキサメチルメラミンを含むエチレンイミン(ethyenimines); メトトレキセートを含む葉酸類似体; 5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシドを含むピリミジン類似体; 6-メルカプトプリンおよび6-チオグアニンを含むプリン類似体; アクチノマイシンDを含む抗腫瘍抗生物質; ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシンCおよびミトラマイシン(methramycin)を含むアントラサイクリン; タモキシフェンおよびコルチコステロイドを含むホルモンおよびホルモンアンタゴニストならびにシスプラチンおよびブレキナルを含む種々の薬剤、かつCOMP (シクロホスファミド、ビンクリスチン、メトトレキサートおよびプレドニゾン)、エトポシド、mBACOD (メトトレキサート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびデキサメタゾン)、ならびにPROMACE/MOPP (プレドニゾン、メトトレキサート(ロイコボリン救助療法を伴う(w/leucovin rescue))、ドキソルビシン、シクロホスファミド、タキソール、エトポシド/メクロレタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン)などの投与計画が含まれる。
【0088】
薬学的および/または治療的製剤
典型的には、医学的用途の場合、本発明の化合物の塩は薬学的に許容される塩である; とはいえ、本発明の化合物のまたは薬学的に許容されるその塩の調製において他の塩が使用されてもよい。薬学的に許容される塩とは、正しい医学的判断の範囲内にあり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などを伴うことなくヒトおよび下等動物の組織と接触させて用いるのに適し、かつ妥当な損益比にふさわしい塩を意味する。薬学的に許容される塩は当技術分野において周知である。
【0089】
式Iの化合物の薬学的に許容される塩は、例えば、(i) 式Iの化合物を所望の酸もしくは塩基と反応させることによる; (ii) 式Iの化合物の適当な前駆体から酸もしくは塩基に不安定な保護基を除去することによる、または所望の酸もしくは塩基を用いて、適当な環状前駆体、例えば、ラクトンもしくはラクタムを開環することによる; あるいは(iii) 適切な酸もしくは塩基との反応によりまたは適当なイオン交換カラムを用いて、式Iの化合物のある塩を別の塩に変換することによるなどの、当業者に公知の方法により調製することができる。
【0090】
3つの反応は全て、典型的には溶液中で行われる。その結果生じる塩は析出し、これをろ過によって収集してもよく、または溶媒の蒸発によって回収してもよい。その結果生じる塩の電離度は、完全電離からほぼ非電離まで変化しうる。
【0091】
このように、例えば、本発明による化合物の適当な薬学的に許容される塩は、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、安息香酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、炭酸、酒石酸またはクエン酸などの薬学的に許容される酸を本発明の化合物と混合することにより調製することができる。本発明の化合物の適当な薬学的に許容される塩は、それゆえ、酸付加塩を含む。
【0092】
S. M. Bergeらは薬学的に許容される塩をJ. Pharmaceutical Sciences, 1977, 66:1-19のなかで詳述している。塩は本発明の化合物の最終的な単離および精製の間にインサイチューで調製することができるし、または、別途、遊離塩基官能基を適当な有機酸と反応させることによって調製することもできる。代表的な酸付加塩は酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、二グルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などを含む。代表的アルカリまたはアルカリ土類金属塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、トリエタノールアミンなどを含むが、これらに限定されることはない、非毒性アンモニウム、第四級アンモニウムおよびアミンカチオンを含む。
【0093】
好都合な投与方法には注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸入、経皮適用、局所クリームもしくはゲルもしくは粉末、または直腸投与が含まれる。一つの態様において、投与方法は非経口である。別の態様において、投与方法は経口である。投与経路に応じて、製剤および/または化合物は、酵素、酸および化合物の治療活性を不活性化する可能性のある他の天然条件の作用から化合物を保護するための材料でコーティングすることができる。化合物は非経口的にまたは腹腔内に投与されてもよい。
【0094】
本発明による化合物の分散液をグリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で、ならびに油中で調製することもできる。通常の貯蔵および使用条件の下で、薬学的調製物は、微生物の増殖を阻止するための保存剤を含有することができる。
【0095】
注射に適した薬学的組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および注射可能な滅菌溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。理想的には、組成物は製造および貯蔵の条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して組成物を安定化するための保存剤を含むことができる。
【0096】
本発明の化合物は、例えば、不活性な希釈剤または吸収性の食用担体とともに経口的に投与することができる。化合物および他の成分は、硬殻もしくは軟殻ゼラチンカプセルに封入されても、錠剤に圧縮されても、または患者の食餌の中に直接組み入れられてもよい。経口治療投与のため、化合物は賦形剤とともに組み入れられ、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、カシェ剤などの形態で使用されてもよい。適宜、このような組成物および調製物は、少なくとも1重量%の活性化合物を含有することができる。当然ながら、薬学的組成物および調製物中の式(I)の化合物の割合は変化してもよく、例えば、好都合には、投与単位の約2重量%〜約90重量%、約5重量%〜約80重量%、約10重量%〜約75重量%、約15重量%〜約65重量%、約20重量%〜約60重量%、約25重量%〜約50重量%、約30重量%〜約45重量%または約35重量%〜約45重量%の範囲であってもよい。治療的に有用な組成物中の化合物の量は、適当な投与量が得られるようなものである。
【0097】
「薬学的に許容される担体」という用語は、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などを含むよう意図される。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が化合物と適合性のない場合を除いて、治療的組成物ならびに処置および予防の方法におけるその使用が企図される。補助的な活性化合物を本発明による組成物に組み入れてもよい。投与の簡便性および投与量の均一性のために単位剤形で非経口組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書において用いる「単位剤形」とは、処置される個体に向けた単一の投与量として適した物理的に別個の単位をいい、所定量の化合物を含有する各単位は、必要な薬学的担体に関連して望ましい治療効果を生ずるように計算される。化合物は有効量での簡便かつ有効な投与のため、適当な薬学的に許容される担体とともに、許容される投与量単位で製剤化することができる。補助的な活性成分を含有する組成物の場合、投与量は、その成分の通常の用量および投与方法を参照することによって判定される。
【0098】
一つの態様において、担体は経口的に投与可能な担体である。
【0099】
薬学的組成物の別の形態は、経口投与に適した腸溶コーティング顆粒剤、錠剤またはカプセルとして製剤化された剤形である。
【0100】
遅延放出性製剤も本発明の範囲の中に含まれる。
【0101】
本発明による式(I)の化合物は「プロドラッグ」の形態で投与することもできる。プロドラッグは、インビボにおいて活性な形態に転換される不活性な形態の化合物である。適当なプロドラッグには、活性型化合物のエステル、ホスホン酸エステルなどが含まれる。
【0102】
一つの態様において、式(I)の化合物は注射によって投与することができる。注射可能な溶液の場合、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適当な混合液、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒体であってもよい。例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、および界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の阻止は、種々の抗菌剤および/または抗真菌剤を含めることによって達成することができる。適当な薬剤は当業者に周知であり、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、アスコルビン酸、チメロサールなどを含む。多くの場合、組成物の中に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを含めることが好ましい可能性がある。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延する薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物の中に含めることによって行うことができる。
【0103】
注射可能な滅菌溶液は、必要量の類似体を、適宜、上記に列挙した成分の一つまたは組み合わせとともに適切な溶媒に組み入れ、次にろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、基礎の分散媒体および上記に列挙するものから他の必要な成分を含有する滅菌溶剤に類似体を組み入れることによって調製される。
【0104】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどは以下を含有することもできる: トラガカントゴム(gum gragacanth)、アカシア、トウモロコシデンプンまたはゼラチンなどの結合剤; リン酸二カルシウムなどの賦形剤; トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸などのような崩壊剤; ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤; およびスクロース、ラクトースもしくはサッカリンなどの甘味剤またはペパーミント、ウィンターグリーン油もしくはチェリーフレーバーなどの香料添加剤。単位剤形がカプセルである場合、これは上記種類の材料に加えて、液体担体を含有することができる。種々の他の材料がコーティングとしてまたは投与量単位の物理的形態を別の方法で改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、ピルまたはカプセルをシェラック、糖またはその両方でコーティングすることができる。シロップまたはエリキシルは、類似体、甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、チェリーまたはオレンジフレーバーなどの染料および香味料を含有することができる。当然ながら、任意の単位剤形を調製する際に使われる任意の材料は、薬学的に純粋で、利用される量において実質的に非毒性であるべきである。さらに、類似体を徐放性調製物および製剤に組み入れてもよい。
【0105】
好ましくは、薬学的組成物は、酸加水分解を最小限にするのに適した緩衝液をさらに含むことができる。適当な緩衝剤は当業者に周知であり、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩およびそれらの混合物を含むが、これらに限定されることはない。
【0106】
本発明による化合物および/または薬学的組成物の単回または複数回投与を行うことができる。当業者なら、ルーチンな実験により、本発明の化合物および/または組成物の有効な、非毒性の投与量レベル、ならびに該化合物および組成物を適用できる疾患および/または感染症を処置するのに適していると考えられる投与パターンを判定することができるであろう。
【0107】
さらに、規定の日数にわたって1日当たりに受ける本発明の化合物または組成物の投薬回数などの、最適な処置経過を従来の処置経過判定試験によって確認できることは当業者には明らかであろう。
【0108】
一般に、24時間当たりの有効な投与量は、体重1 kgにつき約0.0001 mg〜約1000 mgの範囲、例えば、体重1 kgにつき約0.001 mg〜約750 mg、体重1 kgにつき約0.01 mg〜約500 mg、体重1 kgにつき約0.1 mg〜約500 mg、体重1 kgにつき約0.1 mg〜約250 mg、または体重1 kgにつき約1.0 mg〜約250 mgであってよい。さらに適当には、24時間当たりの有効な投与量は、体重1 kgにつき約1.0 mg〜約200 mg、体重1 kgにつき約1.0 mg〜約100 mg、体重1 kgにつき約1.0 mg〜約50 mg、体重1 kgにつき約1.0 mg〜約25 mg、体重1 kgにつき約5.0 mg〜約50 mg、体重1 kgにつき約5.0 mg〜約20 mgまたは体重1 kgにつき約5.0 mg〜約15 mgの範囲であってよい。
【0109】
または、有効な投与量は最大で約500 mg/m2であってもよい。例えば、一般に、有効な投与量は約25〜約500 mg/m2、約25〜約350 mg/m2、約25〜約300 mg/m2、約25〜約250 mg/m2、約50〜約250 mg/m2および約75〜約150 mg/m2の範囲であると予想される。
【0110】
別の態様において、式(I)の化合物は1日当たり約100〜約1000 mgの範囲、例えば、1日当たり約200 mg〜約750 mg、1日当たり約250〜約500 mg、1日当たり約250〜約300 mgまたは1日当たり約270 mg〜約280 mgの量で投与することができる。
【0111】
本発明による化合物は、治療投与計画の一部として他の薬物とともに投与することができる。例えば、特定の疾患または状態を処置する目的で、活性化合物の組み合わせを投与することが望ましい場合がある。したがって、少なくとも一つが本発明による式(I)の化合物を含有する、二つまたはそれ以上の薬学的組成物を、組成物の同時投与に適したキットの形態で組み合わせられることは本発明の範囲内である。
【0112】
次に、以下の実施例に関して、本発明を例示のためにのみ詳細に記述する。実施例は、本発明を例示する役割を果たすよう意図されており、本明細書全体にわたる記述の開示の一般性を限定するものと解釈されるべきではない。
【0113】
実施例
実施例1- (S)-ペニシラミン-アルセノキシド(「PENAO」)の調製および効力
材料および方法
(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの合成および精製:
500 mLの丸底フラスコの中でH2O (120 mL)に溶解したNa2CO3 (15 g, 141.5 mmol)から作出した1.18 MのNa2CO3溶液にp-アルサニル酸(10 g, 46.07 mmol)を溶解した。溶液を2時間4℃の冷蔵庫の中で冷却し、次いで磁気撹拌機上の氷浴の中に入れた。混合物を激しく撹拌しながら、臭化ブロムアセチル(9 mL, 101.4 mmol)のCH2Cl2 (14 mL)溶液をフラスコに4分割量で添加した。CO2の発生により約1分間添加を行った。CO2の発生が止まるまで、混合物を5分間氷浴中で、次に30分間室温で撹拌させた。混合物を250 mLの分液漏斗の中にデカントした。さらにCH2Cl2 (10 mL)を添加し、層を約10分間分離させた。CH2Cl2層を分離し、水層を400 mLのビーカーの中に入れた。溶液を撹拌し、98% H2SO4 (2.8 mL)でpH 4に酸性化した。白色の沈殿物が生じ、これをろ過によって収集した(14.83 g, 収率95%)。得られた4-(2-ブロモアセチルアミノ)-ベンゼンアルソン酸(「BRAO」) (14.83 g, 43.88 mmol)を500 mLの3口丸底フラスコ中で1:1のHBr/MeOH (210 mL)に溶解した。NaI (5 mg)を添加し、混合物を撹拌した。約2泡/秒でSO2を泡立てると、10分後に白色の沈殿物が生じ始めた。さらに20時間SO2を泡立て、混合物を中速で撹拌した。固形物をろ過によって収集し、ろ液、次に水(30 mL×3)で洗浄し、50℃で5時間ロータリエバポレータにかけて4-(2-ブロモアセチルアミノ)ベンゼンアルソン酸(6.04 g, 収率38.8%)を得た。一部の4-(2-ブロモアセチルアミノ)ベンゼンアルソン酸(500 mg, 1.553 mmol)を、窒素置換したDMSO (10 mL)に溶解し、窒素飽和H2O (20 mL)を使ったNaHCO3水溶液(840 mg, 10 mmol)中のS-ペニシラミン(265 mg, 1.77 mmol)の溶液に約1分間かけて滴下した。100 mLの丸底フラスコの中で添加を行い、澄明な溶液を4時間アルゴン下、低速にて撹拌した。溶液を98% H2SO4 (約0.2 mL)でpH 5に酸性化した。アセトン(500 mL)を激しく撹拌し、酸性化した溶液を約5分間かけて滴下し、白色の沈殿物を得た。上清を遠心分離し、デカントし、得られた白色の固形物をアセトン(20 mL×2)でさらに洗浄し再び遠心分離し、アセトン(40 mL)で100 mLの梨型フラスコの中に移し、2時間25℃でロータリエバポレータにて乾燥した。内部標準の1H-NMRによって粗ペニシラミン-アルセノキシドは約30%の純度であることが分かった。
【0114】
粗(S)-ペニシラミン-アルセノキシド(純度30%として100.2 mg, 0.077 mmol)を窒素飽和H2O (2.5 mL)に溶解し、低圧液体クロマトグラフィーシステムにて精製した。使用した条件は、内半径1.25 cmの30 cmカラム、分離用緩衝液(running buffer)として窒素飽和H2O、Biogel P-2樹脂および0.25 mL/分の速度であった。2番目のピークを50 mLのFalcon試験管の中に収集し、液体N2中で凍結し、3日間凍結乾燥し、1日間デシケータの中に入れて、乾燥した純粋な(S)-ペニシラミン-アルセノキシド(20.3 mg, 0.052 mmol)を得た。この工程をさらに多くの部分の粗ペニシラミン-アルセノキシド(全部で696 mg)で繰り返し、これによって精製(S)-ペニシラミン-アルセノキシド(114 mg, 収率26.5%)を得た。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの構造(図1)をMS、1H-NMRおよび2D NMRによって確認した。得られた純度はヒ素活性アッセイ法により90%であった。最終生成物は極めて吸湿性であることから、主な不純物は水であった。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの分子量は390.28 g/モルである。
【0115】

プロトンNMRスペクトル(図2)をBrukerデュアルチャネルプローブNMR分光計にて記録した。迅速なケト・エノール互変異性およびその後の重水素置換は、1時間で生じるδ3.5518のダブレットピークの喪失をもたらす。これは時間依存的NMRを用いてモニターすることができる。
【0116】

(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの構造をHMBC実験(2D 1H-13C多重結合カップリング、図3参照)によっても確認した。
【0117】
MS: m/z 413.011678 (M+Na)+ (C13H19SO5N2AsNaは413.012285を要する) (図4)。
【0118】
ペニシラミン-アルソン酸の合成
500 mLの丸底フラスコの中でH2O (120 mL)に溶解したNa2CO3 (15 g, 141.5 mmol)から作出した1.18 MのNa2CO3溶液にp-アルサニル酸(10 g, 46.07 mmol)を溶解した。溶液を2時間4℃の冷蔵庫の中で冷却し、次いで磁気撹拌機上の氷浴の中に入れた。混合物を激しく撹拌しながら、臭化ブロムアセチル(9 mL, 101.4 mmol)のCH2Cl2 (14 mL)溶液をフラスコに4分割量で添加した。CO2の発生により約1分間添加を行った。CO2の発生が止まるまで、混合物を5分間氷浴中で、次に30分間室温で撹拌させた。混合物を250 mLの分液漏斗の中にデカントした。さらにCH2Cl2 (10 mL)を添加し、層を約10分間分離させた。CH2Cl2層を分離し、水層を400 mLのビーカーの中に入れた。溶液を撹拌し、98% H2SO4 (2.8 mL)でpH 4に酸性化した。得られた白色の沈殿物4-(2-ブロモアセチルアミノ)ベンゼンアルソン酸(「BRAO」)をろ過によって収集した(14.83 g, 収率95%)。
【0119】
一部の4-(2-ブロモアセチルアミノ)ベンゼンアルソン酸(500 mg, 1.479 mmol)をH2O (10 mL)中のNaHCO3水溶液(420 mg, 4.999 mmol)に溶解し、H2O (15 mL)中のNaHCO3水溶液(640 mg, 7.618 mmol)中の(S)-ペニシラミン(265 mg, 1.77 mmol)の溶液に約1分間かけて滴下した。100 mLの丸底フラスコの中で添加を行い、澄明な溶液を4時間低速にて撹拌した。溶液を98% H2SO4 (約0.25 mL)でpH 5に酸性化した。1:1のアセトン:エタノール(500 mL)溶液を激しく撹拌し、酸性化した溶液を約5分間かけて滴下し、白色の沈殿物を得た。上清を遠心分離し、これをデカントし、得られた白色の固形物を1:1のアセトン:エタノール(25 mL×2)でさらに洗浄し再び遠心分離し、1:1のアセトン:エタノール(50 mL)で100 mLの梨型フラスコの中に移し、2時間25℃でロータリエバポレータにて乾燥した。得られた(S)-ペニシラミン-アルソン酸は、内部標準の1H-NMR分光法によって約44%の純度であることが分かり、さらには精製せずに使用した(1.022 g, 収率75%)。(S)-ペニシラミン-アルソン酸の構造をMS、1H-NMRおよび2D NMRによって確認した。最終生成物は極めて吸湿性であることから、主な不純物は水であった。分子量は406.28 g/モルである。
【0120】
GSAOを既報(Don et al., 2003)のように調製した。
【0121】
三酸化ヒ素の1 M溶液はその固形物(Sigma, St. Louis, MO)を、脱酸素水中で調製した3 M NaOHに溶解することによって調製した。溶液を脱酸素水中で10倍に希釈し、HClを用いてpHを7.0に調整し、これを使用時まで気密容器中4℃で貯蔵した。
【0122】
ヒ素アッセイ法
(S)-ペニシラミン-アルセノキシドを滴定緩衝液に溶解し、滅菌ろ過し、その濃度をジメルカプトプロパノールでの滴定および5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)での残存遊離チオールの計算によって測定した。溶液を使用時まで暗所中4℃で貯蔵した。これらの条件の下で貯蔵した場合には少なくとも1ヶ月、ヒ素剤保存液の活性濃度の有意な喪失は認められなかった。
【0123】
ミトコンドリア膨化アッセイ法
既報(Dilda et al., 2005a; Don et al., 2003)のように分画遠心分離法を用いておよそ250 gの雄性Wistarラットの肝臓からミトコンドリアを単離した。最後のミトコンドリアペレットを、213 mMマンニトール、71 mMスクロースおよび10 mMコハク酸ナトリウムを含有する3 mM HEPES-KOH、pH 7.0緩衝液に、30 mgタンパク質/mLの濃度で再懸濁した。ミトコンドリア透過性転移の誘導は、75 mMマンニトール、250 mMスクロース、10 mMコハク酸ナトリウムおよび2 μMロテノンを含有する3 mM HEPES-KOH、pH 7.0緩衝液に25℃にて0.5 mgタンパク質/mLで肝ミトコンドリアを懸濁することによって分光光度的に評価した。膨化は、SpectraMax Plusマイクロプレートリーダー(Molecular Devices, Palo Alto, CA)を用い520 nmで、関連する光散乱の減少をモニタリングすることによって測定した。
【0124】
細胞培養
BAE細胞はCell Applications, San Diego, CAからのものであり、BxPC-3、HT1080、LLC、PANC-1、MCF-7、HCT116およびK562細胞はATCC, Bethesda, MDからのものであった。NB4およびMDCK2細胞はShane Supple (Kanematsu Laboratories, Royal Prince Alfred Hospital, Sydney, Australia)およびP. Borst (The Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, The Netherlands)からのものであった。BAE、HT1080、Panc-1、MCF-7、HCT116、MDCK2およびLLC細胞はDMEM中で培養した。NB4、K562およびBxPC-3細胞はRPMI培地中で培養した。細胞に10%ウシ胎仔血清(FBS)、2 mM L-グルタミンおよび1 U.mL-1ペニシリン/ストレプトマイシンを補充した。細胞培養プラスチックウェアはTechno Plastic Products (Trasadingen, Switzerland)からのものであった。その他全ての細胞培養試薬はGibco (Gaithersburg, MD)からのものであった。
【0125】
細胞増殖および生存性アッセイ法
BAE、NB4、K562、MDCK2、HT1080、LLC、HCT116、Panc-1、MCF-7およびBxPC-3細胞を96ウェルプレートの中に、それぞれ、1ウェル当たり細胞1.5×103、3×103、4×103、5×102、2×103、5×102、5×102、6×103、6×103および1×104個の密度で播種した。接着細胞を終夜接着させた。次いでそれらを、10%ウシ胎仔血清および(S)-ペニシラミン-アルセノキシドを含有する培地中で72時間培養した。生存細胞により代謝されて紫色の不溶性ホルマザン結晶を形成するテトラゾリウム塩MTT (Sigma, St. Louis, MO)とともに細胞をインキュベートすることによって、生存細胞を判定した。細胞を溶解するためにDMSOを添加し、ウェルの内容物をホモジナイズし、吸光度を550 nmで測定した。未処理対照の細胞数を100%として規準化し、全処理の生存細胞数を対照の割合として表現した。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの細胞傷害効果をヨウ化プロピジウムでのフローサイトメトリーによってアッセイした。BAE細胞を12ウェルプレートの中に1ウェル当たり細胞5×104個の密度で播種し、終夜接着させた後に、GSAOで48時間処理した。接着細胞をトリプシン/EDTAで剥離し、処理の間に剥離した細胞を含有する増殖培地と合わせた。合わせた細胞をペレット状にし、1 μg.mL-1ヨウ化プロピジウム(Molecular Probes, Eugene, OR)を含有する無血清培地0.5 mLに再懸濁し、フローサイトメトリーによって解析した。
【0126】
(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの流入
BAE細胞をペトリ皿に細胞1.5×106個の密度で播種し、終夜接着させた。細胞を37℃にて最大2時間までの別個の時間で50 μM (S)-ペニシラミン-アルセノキシドとともにインキュベートし、その後、氷冷PBSで3回洗浄した。洗浄した細胞を70% w/w硝酸1 mLに溶解した。次いでペトリ皿をPBS 1 mLで2回洗浄し、使用時まで4℃で保持した。サンプルを10倍希釈し、Elan 6100 Inductively Coupled Plasma Spectrometer (Perkin Elmer Sciex Instruments, Shelton, CT)によりヒ素原子について解析した。
【0127】
有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)試験
750,000個のBAE細胞を、10%ウシ胎仔血清の入ったDMEMを含有する6ウェルプレートに播種し、終夜接着させた。細胞を30分間、500 μM 4,4'-ジイソチオシアノスチルベン-2,2'-ジスルホン酸(DIDS)で前処理しまたは前処理せずに、その後、37℃および5% CO2で2時間20 μM (S)-ペニシラミン-アルセノキシドとともにインキュベートした。次に細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、70%硝酸で溶解した。細胞のヒ素レベルをICPMSによって判定した。
【0128】
5000個のBAE細胞を、10%ウシ胎仔血清の入ったDMEMを含有する96ウェルプレートに播種し、終夜接着させた。細胞を30分間、300 μM DIDSで前処理しまたは前処理せずに、その後、37℃および5% CO2で24時間1.5 μM (S)-ペニシラミンアルセノキシドとともにインキュベートした。MTTを用いて細胞生存性を判定した。
【0129】
薬物輸送体形質転換体
多剤耐性関連タンパク質(MRP) 1、2または3を過剰発現する、Madin-Darbyイヌ腎臓II (MDCKII)極性化上皮細胞の形質転換体が報告されており(Evers et al., 2000; Kool et al., 1999)、ヒトMDR1またはBCRPを過剰発現するMEF/MDR1クローンH4も報告されている(Dilda et al., 2005b)。細胞を10%ウシ血清(Cosmic (商標), Hyclone, Tauranga, New Zealand)、100 μg.mL-1ペニシリンおよび60 μg.mL-1ストレプトマイシンを含有するDMEMの中で接着性の単層として増殖および維持した。細胞毒性アッセイ法を既報(Allen et al., 1999)のように行った。
【0130】
原発性腫瘍増殖アッセイ法
7〜9週齢の雌性Balb Cヌードマウスを使用した(UNSW Biological Resource Centre)。マウスを3〜5匹の群にて12時間の日夜周期で保持し、適宜、マウスに動物固形飼料および水を与えた。PBS 0.2 mL中BxPC-3細胞2×106個の懸濁液を近位正中線に皮下注射した。腫瘍を樹立させ、およそ50 mm3のサイズに増殖させ、その後、それらを無作為に4つの群に分けた。長さ×高さ×広さ×0.523の相関を用いて腫瘍容積を計算した。VFが最終の腫瘍容積であり、VIが最初の腫瘍容積である、式TD = 0.693/ln(VF/VI)を用いて、指数増殖の間の腫瘍増殖速度曲線から腫瘍倍加時間(TD)を計算した(Wolff et al., 2004)。動物の側腹部皮下に28日alzetモデル1004微小浸透圧ポンプ(ALZA Corporation, Palo Alto, CA)を埋め込んだ。このポンプにより100 mMグリシン中0.25、0.5または1 mg/kg/日の(S)-ペニシラミンアルセノキシドを送達する。腫瘍容積および動物重量を2日または3日ごとに測定した。
【0131】
統計解析
結果は平均±SDとして示されている。統計的有意性のAU検定は両側とし、P値<0.05を統計的に有意と見なした。
【0132】
結果および考察
(S)-ペニシラミンアルセノキシドは哺乳動物細胞の増殖を阻害する
GSAOによって誘導されるウシ大動脈内皮(BAE)細胞の増殖停止および生存性喪失に対するIC50報告値は、それぞれ、10 μMおよび75 μMである(Dilda et al., 2005a; Don et al., 2003)。BAE細胞の増殖停止に対するIC50は、GSAOでの10 μMに比べて(S)-ペニシラミン-アルセノキシドでは0.4 μMであり(図5)、その一方で、生存性喪失に対するIC50値は3.5 μMである(図6)。それゆえ、(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは、増殖の遮断および内皮細胞の生存性の低減でGSAOよりもおよそ25倍有効である。
【0133】
(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは腫瘍細胞に比べて内皮細胞の選択的阻害剤である。8種の異なる腫瘍細胞株との比較で、内皮細胞および上皮細胞の増殖停止に対するIC50の比較を表1に示す。試験した腫瘍細胞は全て(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに対し、内皮細胞よりも1.6〜30倍高い耐性を示した。また、BAE細胞は(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに対し、腎臓上皮細胞よりも5.6倍高い感受性を示した。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは、APL細胞に及ぼすその効果で三酸化ヒ素と等価であるのに対し、GSAOはおよそ10倍活性が低い(図7)。
【0134】
(表1) 種々の細胞株の増殖停止に対する(S)-ペニシラミン-アルセノキシドのIC50

【0135】
(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはまた、ミトコンドリア透過性転移の誘導でGSAOよりも効率的である。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドは、GSAOのように、単離ラット肝ミトコンドリアの膨化を時間かつ濃度依存的に誘発した(図8)。単離ミトコンドリアの半値膨化時間は、GSAOに比べて(S)-ペニシラミン-アルセノキシドではおよそ4倍速かった。
【0136】
任意の特定の理論によって束縛されることを意図しないが、GSAOに比べて(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの抗増殖活性の増大に関して考えられる機構は細胞における蓄積の増大であった。ヒ素の細胞内蓄積を測定することで内皮細胞における二つの化合物の取り込みを比較することにより、この理論について検証した。(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはGSAOよりもおよそ70倍速い速度でBAE細胞に蓄積した(図9)。GSAOおよび(S)-ペニシラミン-アルセノキシドの初期蓄積速度は、それぞれ、1分につき細胞106個当たり1および69 pmolであった。
【0137】
OATPは原形質膜を介する(S)-ペニシラミン輸送に関与する
DIDSは原形質膜有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)の阻害剤である(Kobayashi et al., 2003)。BAE細胞においてこの化合物が(S)-ペニシラミンアルセノキシドの取り込みを阻害し(図10A)、その抗増殖活性を低減する(図10B)という所見は、この輸送体がこれらの細胞への(S)-ペニシラミンアルセノキシドの取り込みに関与することを意味している。
【0138】
(S)-ペニシラミンアルセノキシドはMRP1および2によって細胞から搬出される
MRP1/2はBAE細胞からのGSAOの搬出を媒介する(Dilda et al., 2005b)。ペニシラミン-アルセノキシドはMRP1/2に対する基質でもある。MRP1/2阻害剤4H10およびMK-571の存在下においていっそう多くの(S)-ペニシラミン-アルセノキシドがBAE細胞に蓄積し(図11A)、いっそう強力な抗増殖効果と関連していた(図11B)。これらの阻害剤のみではBAE細胞の増殖に効果がなかった(データ記載せず)。
【0139】
MRP1、2、3もしくは6、またはMDR1もしくはBCRPを過剰発現する哺乳動物細胞を(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに対する耐性について試験した。MRP1、MRP2またはMRP3はイヌ腎臓上皮MDCKII細胞株において過剰発現し、その一方でMRP6、MDR1またはBCRPはマウス胚線維芽細胞MEF3.8株において過剰発現した。細胞を表示濃度の(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに96時間曝露し、生存細胞の数を測定し、未処理細胞の数と相対的に表現した。非トランスフェクト親細胞の増殖停止に対する(S)-ペニシラミンアルセノキシドのIC50と比べて耐性因子を計算する。
【0140】
(表2) 種々の薬物輸送体を過剰発現する哺乳動物細胞の、(S)-ペニシラミン-アルセノキシドに対する耐性

【0141】
これらの結果は、GSAOも(S)-ペニシラミン-アルセノキシドもともにMRP1/2によってBAE細胞から搬出されることを示している。
【0142】
グルタチオンによるBAE細胞の処理ではGSAOによるBAE細胞増殖の阻害が低減されたが、γ-グルタミルシステインシンターゼ阻害剤のブチオニンスルホキシミン(BSO)でグルタチオンの新規合成を遮断することでは増殖停止がほぼ100倍増強された(Dilda et al., 2005b)。これらの結果により、細胞からのGSAOの効率的な輸送にはMRP1/2が細胞グルタチオンを必要とすることが示された。GSAOでの所見と同様に、BSOによりBAE細胞を処理することで、(S)-ペニシラミン-アルセノキシドによる増殖停止のIC50がおよそ25倍増強された(図12)。
【0143】
これらの結果から、(S)-ペニシラミン-アルセノキシドはGSAOよりもずっと速い速度で細胞に蓄積するので、いっそう有効な内皮細胞阻害剤であることが示唆される。
【0144】
(S)-ペニシラミンアルセノキシドの抗腫瘍活性
近位正中線の皮下にヒトBxPC-3膵臓がん腫瘍を持ったBalbCヌードマウスの側腹部皮下に28日微小浸透圧alzetポンプを埋め込んだ。このポンプにより0.25、0.5または1 mg/kg/日の(S)-ペニシラミンアルセノキシドを送達した。BxPC-3腫瘍の増殖は、(S)-ペニシラミンアルセノキシドを受けたマウスにおいて顕著に阻害された(図13)。腫瘍倍加時間は溶剤(100 mMグリシン)または0.25、0.5および1 mg/kg/日の(S)-ペニシラミンアルセノキシドで処置した群について、それぞれ9.2、8.3、13.9および16.2日である。
【0145】
溶剤処置動物対(S)-ペニシラミンアルセノキシド処置動物の体重に変化は認められなかった(データ記載せず)。最高用量の動物ではポンプ送達部位にいくぶんの皮膚毒性が認められた。マウス10匹中3匹で送達部位に皮膚壊死が認められ、マウス1匹で結合組織の蓄積が認められた。予備のマウスにおいて低用量の(S)-ペニシラミンアルセノキシドで送達部位に結合組織の蓄積を示す証拠がいくつか認められた。
【0146】
実施例2 - 4-(N-(S-システイニルアセチル)アミノ)-フェニルアルシナス酸(「CAO」)の調製および効力
材料および方法
細胞増殖アッセイ法
ウシ大動脈内皮(BAE)細胞はCell Application (San Diego, CA)からのものであった。10%ウシ胎仔血清、2 mM L-グルタミン、ならびに5ユニット/mLのペニシリンおよびストレプトマイシン(Gibco, Gaithersburg, MD)を補充したDMEM中でBAE細胞を培養した。細胞を5% CO2、95%空気雰囲気中37℃で培養した。BAE細胞を培地0.2 ml中で96ウェルプレート(1ウェル当たり細胞5,000個)に播種した。24時間の増殖後、培地を、GSAO、CAOまたは4H10を補充した新鮮な培地と交換し、細胞をさらに24、48または72時間培養した。生存付着細胞を製造元のプロトコルにしたがってテトラゾリウム塩MTT (Sigma, St. Louis, MO)により判定した。結果を未処置対照の割合として表現した。
【0147】
CAOの調製
GSAOはHPLCによる純度>94%にまで既報(WO 01/21628)のように生成した。GSAOの50 mM溶液はその固形物を、0.14 M NaCl、20 mMグリシンおよび1 mM EDTAを含有する20 mM Hepes, pH 7.0緩衝液に溶解することによって作出した。4-(N-(S-システイニルグリシルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸は、ヒツジ腎臓由来I型γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(Sigma, 製品番号G8040)でGSAOからγ-グルタミル基を切断することによって作出した(図14)。GSAOの10 mM溶液を30℃で1時間、40 mMグリシル-グリシンを含有する15 mM Tris, pH 7.4緩衝液中0.55単位/mlのγGTとともにインキュベートした。YM3 Microcon膜(Millipore, Billerica, MA)を用いたろ過により、反応液からγGTを除去した。
【0148】
4-(N-(S-システイニルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸(CAO)はブタ腎臓由来アミノペプチダーゼN (Type IV-S, Sigma, 製品番号L5006)で4-(N-(S-システイニルグリシルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸からグリシンアミノ酸を切断することによって作出した(図14)。ろ液を37℃で1時間2単位/mlのアミノペプチダーゼNとともにインキュベートした。YM3 Microcon膜(Millipore)を用いたろ過により、反応液からアミノペプチダーゼNを除去した。CAOの濃度をジメルカプトプロパノールでの滴定および5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)での残存遊離チオールの計算によって測定した(Don et al., 2003)。滴定した溶液を滅菌ろ過し、使用時まで暗所中4℃で貯蔵した。
【0149】
HPLC分析
GSAOおよびCAOをHPLC (1200シリーズ; Agilent Technologies, Santa Clara, CA)により特徴付けた。アセトニトリル-水(25:75 vol/vol)の移動相、0.5 ml.min-1の流速および256 nmでの吸光度による検出を用いZorbax Eclipse XDB-C18カラム(4.6×150 mm, 5 μm; Agilent Technologies)にてサンプルを分離した(図15)。
【0150】
BAE細胞におけるGSAOおよびCAOの蓄積
実験の種類に応じて、BAE細胞1.6×106個または7.5×105個を、それぞれ、ペトリ皿または6ウェルプレートに播種し、終夜付着させた。培地を交換し、細胞をアシビシンまたは4H10の非存在下または存在下において30分間インキュベートした。次いで細胞を4時間30分間(for 30 min for 4 h) 50または100 μMのGSAOまたはCAOとともにインキュベートした。次に細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、70% w/w硝酸1 mlで溶解した。可溶化液を30倍希釈し、Elan 6100 Inductively Coupled Plasma Spectrometer (Perkin Elmer Sciex Instruments, Shelton, CT)によりヒ素原子について解析した。
【0151】
ミトコンドリア膨化アッセイ法
既報(Dilda et al., 2005a)のように分画遠心分離法を用いておよそ20 gの雌性BalbCヌードマウスの肝臓からミトコンドリアを単離した。最後のミトコンドリアペレットを、213 mMマンニトール、71 mMスクロースおよび10 mMコハク酸ナトリウムを含有する3 mM Hepes-KOH、pH 7.0緩衝液に、30 mgタンパク質/mLの濃度で再懸濁した。ミトコンドリア透過性転移の誘導は、75 mMマンニトール、250 mMスクロース、10 mMコハク酸ナトリウムおよび2 mMロテノンを含有する3 mM Hepes-KOH、pH 7.0緩衝液に37℃にて1 mgタンパク質/mlで肝ミトコンドリアを懸濁することによって分光光度的に評価した(Dilda et al., 2005a)。膨化は、Molecular Devices M2マイクロプレートリーダー(Palo Alto, CA)を用い520 nmで、関連する光散乱の減少をモニタリングすることによって測定した。
【0152】
結果および考察
CAOはGSAOよりも速く細胞に蓄積し、高い抗増殖活性を有する
4-(N-(S-システイニルアセチル)アミノ)フェニルアルシナス酸(CAO)をGSAOの酵素的切断によって作出し、内皮細胞におけるその蓄積および細胞増殖に及ぼす効果を測定した。ヒツジ腎臓由来γ-グルタミルトランスペプチダーゼでGSAOからγ-グルタミル基を切断することによって4-(N-(S-システイニルグリシルアセチル)アミノ)-フェニルアルシナス酸を作出し、ブタ腎臓由来アミノペプチダーゼNでこの中間体からグリシンアミノ酸を切断することによって4-(N-(S-システイニルアセチル)アミノ)-フェニルアルシナス酸(CAO)を作出した(図14)。これらの酵素はサイズ排除ろ過によって反応液から除去した。
【0153】
CAOはGSAOよりもおよそ8倍速い速度で内皮細胞に蓄積した(図16A)。これらの代謝産物の細胞内蓄積は、取り込み速度と細胞からの搬出速度とのバランスである。細胞におけるGSAOの蓄積は多剤耐性関連タンパク質(MRP) 1および2による搬出速度によって制御される(Dilda et al., 2005b)。CAOもMRPによって搬出されるかどうかを試験するため、内皮細胞における蓄積に及ぼすMRP-1阻害剤4H10の効果を測定した。MRP-1が阻害された場合、CAOの細胞内蓄積は、それぞれ、およそ3倍増大した(図16B)。この所見は、内皮細胞におけるCAOの蓄積の増大が主として取り込み速度の増大によるものであることを意味する。
【0154】
内皮細胞におけるCAOのさらに速い蓄積速度は、抗増殖活性の増大をもたらすものと期待された。24、48および72時間のアッセイでのGSAOおよびCAOによる内皮細胞の増殖停止に対するIC50を図16Cに示す。GSAOに対するIC50はインキュベーション時間とともに著しく減少し、CAOの場合にはそれほどではないことが結果から明らかである。例えば、72時間のGSAOのIC50はCAOに対する24時間のIC50と同様である。
【0155】
CAOはミトコンドリア透過性転移を誘発する
GSAOはミトコンドリア内膜輸送体アデニンヌクレオチドトランスロカーゼ(ANT)を不活性化することが明らかにされており、その不活性化よって増殖停止および細胞死が引き起こされる(Don et al., 2003)。CAOもミトコンドリア透過性転移を誘導する(図17)。
【0156】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)の化合物、ならびにその塩および水和物、その鏡像異性体およびラセミ体:

式中
As(OH)2基はフェニル環のN原子に対しオルト-、メタ-またはパラ-でありえ;
R1は水素およびC1〜3アルキルより選択され;
R2およびR3は同じかまたは異なっていてもよく、かつ水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルケニルおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
R4およびR5は同じかまたは異なっていてもよく、かつ水素、置換されてもよいC1〜3アルキル、置換されてもよいシクロプロピル、置換されてもよいC2〜3アルキレンおよび置換されてもよいC1〜3アルコキシより独立して選択され;
mは1、2および3より選択される整数であり;
nは1、2および3より選択される整数であり;
はキラル炭素原子を示す。
【請求項2】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R1が水素、メチルおよびエチルより選択される、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
R1が水素である、請求項1〜3のいずれか一項記載の化合物。
【請求項5】
R2およびR3が水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択される、請求項1〜4のいずれか一項記載の化合物。
【請求項6】
R2およびR3が水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、ヒドロキシメチル、CF3およびOCF3より独立して選択される、請求項1〜5のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
R2およびR3が水素、メチルおよびエチルより独立して選択される、請求項1〜6のいずれか一項記載の化合物。
【請求項8】
R2がメチルであり、かつR3が水素である、請求項1〜7のいずれか一項記載の化合物。
【請求項9】
R2およびR3がともに水素である、請求項1〜8のいずれか一項記載の化合物。
【請求項10】
R4およびR5が水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択される、請求項1〜9のいずれか一項記載の化合物。
【請求項11】
R4およびR5が水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、ヒドロキシ(C1〜3)アルキル、CF3およびOCF3より独立して選択される、請求項1〜10のいずれか一項記載の化合物。
【請求項12】
R4およびR5が水素、メチル、エチルおよびヒドロキシメチルより独立して選択される、請求項1〜11のいずれか一項記載の化合物。
【請求項13】
R4が水素、メチルまたはエチルであり、かつR5が水素である、請求項1〜12のいずれか一項記載の化合物。
【請求項14】
R4がメチルであり、かつR5が水素である、請求項1〜13のいずれか一項記載の化合物。
【請求項15】
R4およびR5がともに水素である、請求項1〜12のいずれか一項記載の化合物。
【請求項16】
R4およびR5がともにメチルである、請求項1〜12のいずれか一項記載の化合物。
【請求項17】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1が水素またはメチルであり; R2およびR3が水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択され; R4およびR5が水素、C1〜3アルキル、C2〜3アルケニル、C1〜3アルコキシ、ハロ(C1〜3)アルコキシ、ヒドロキシ(C1〜3)アルキルおよびハロ(C1〜3)アルキルより独立して選択され; mが1または2であり; かつnが1または2である、請求項1記載の化合物。
【請求項18】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しオルト-またはパラ-であり; R1が水素またはメチルであり; R2およびR3が水素、メチル、エチル、メトキシ、ビニル、CH2OH、CF3およびOCF3より独立して選択され; R4およびR5が水素、メチル、エチル、CH2OH、メトキシ、ビニル、CF3およびOCF3より独立して選択され; mが1であり; かつnが1である、請求項1記載の化合物。
【請求項19】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しパラ-であり; R1が水素またはメチルであり; R2およびR3が水素、メチルおよびエチルより独立して選択され; R4およびR5が水素、メチルおよびエチルより独立して選択され; mが1であり; かつnが1である、請求項1記載の化合物。
【請求項20】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しパラ-であり; R1が水素またはメチルであり; R2が水素またはメチルであり; R3が水素またはメチルであり; R4が水素、メチルまたはエチルであり; R5が水素またはメチルであり; mが1であり; かつnが1である、請求項1記載の化合物。
【請求項21】
As(OH)2基がフェニル環のN原子に対しパラ-であり; R1が水素であり; R2が水素またはメチルであり; R3が水素であり; R4が水素またはメチルであり; R5が水素またはメチルであり; mが1であり; かつnが1である、請求項1記載の化合物。
【請求項22】
以下の構造式を有する請求項1記載の化合物、ならびにその塩、水和物、鏡像異性体およびラセミ体:


【請求項23】
以下の構造式を有する請求項1記載の化合物、ならびにその塩、水和物、鏡像異性体およびラセミ体:


【請求項24】
で示されるキラル炭素の立体化学が(S)である、請求項22または23記載の化合物、ならびにその塩および水和物。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項記載の少なくとも一つの式(I)の化合物またはその塩もしくは水和物を、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤または補助剤とともに含む薬学的組成物。
【請求項26】
治療上有効量の請求項1〜24のいずれか一項記載の式(I)の化合物または請求項25記載の組成物を、脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において細胞増殖性疾患を処置する方法。
【請求項27】
増殖性疾患が固形腫瘍である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
有効量の請求項1〜24のいずれか一項記載の式(I)の化合物または請求項25記載の組成物を、脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において血管形成を阻害する方法。
【請求項29】
治療上有効量の請求項1〜24のいずれか一項記載の式(I)の化合物または請求項25記載の組成物を、脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物の増殖性細胞においてMPTを選択的に誘導する方法。
【請求項30】
アポトーシス誘導量の請求項1〜24のいずれか一項記載の式(I)の化合物または請求項25記載の組成物を、哺乳動物に投与する段階を含む、増殖性哺乳動物細胞のアポトーシスを誘導する方法。
【請求項31】
細胞が内皮細胞である、請求項26〜28または30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
治療上有効量の請求項1〜24のいずれか一項記載の式(I)の化合物または請求項25記載の組成物を、脊椎動物に投与する段階を含む、脊椎動物において白血病または骨髄異形成症候群を処置する方法。
【請求項33】
白血病が急性前骨髄球性白血病(APL)または急性骨髄性白血病(AML)である、請求項32記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−508245(P2010−508245A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533614(P2009−533614)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001676
【国際公開番号】WO2008/052279
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509121905)ニューサウス イノベイションズ ピーティーワイ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】