説明

有機デバイス

【課題】電極−機能層間のキャリア輸送効率の高い有機デバイスを提供する。
【解決手段】第一電極と、前記第一電極を構成する材料と共有結合させたπ共役系分子からなる単分子層と、前記π共役系分子と共有結合させた機能性分子からなる機能層と、前記機能層と接続させた第二電極とを備えることを特徴とした有機デバイスにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機デバイスに関する。更に詳しくは、本発明は、電極と共有結合で連結したπ共役系分子を含む有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機分子からなる積層型デバイスを形成する手法として、例えば、真空蒸着法、蒸着重合法、スピンコート法やインクジェット法が用いられてきた。これらの方法のうち、低分子(モノマーを含む)を用いる真空蒸着法や蒸着重合法では、均一な有機層を形成することが困難である。また、得られる有機層の熱的安定性が劣るという問題がある。
【0003】
一方、スピンコート法やインクジェット法では、高分子材料を使用できる。しかし、高分子材料の溶液を用いて成膜するので、溶媒を除去する過程で形成される高濃度溶液状態においてメゾフェーズが発現する。その結果、有機層の性質が不均一になるという問題が生じる。
【0004】
また、これらの手法によって得られた有機層は、本来、異方性を持っている有機分子がランダムに配向された層となる。そのため、有機分子の異方的な特性が平均化され、特性の利用効率(例えば、移動度や発光効率)が低下することが知られている。
【0005】
他にも、これら有機層は、物理的に積層されているため、異なる有機層間での拡散による機能の低下や劣化が問題となっている。また、電極−有機分子の積層体において、現在、多くの場合電極に無機物が用いられているが、無機物と有機分子との親和性が低いため、物理的な接触では電極と有機分子の界面の密着性が低い。そのため、界面での接触抵抗が増加し、その結果、キャリア輸送効率の低下だけでなく、界面での抵抗熱によりデバイスが劣化するといった深刻な課題がある。
【0006】
この課題を解決する手段としては、例えば、電極−有機分子層間を化学結合で接合するという手法がある。例えば、特開平11−265786号公報(特許文献1)では、電子注入電極、発光層及び正孔注入電極を化学結合で互いにカスケード接続した有機分子発光デバイスが開示されている。このデバイスでは、前記発光層として電子輸送、発光、正孔輸送の機能を果たす部位が実質的に単一の分子内に備わった分子からなる有機層を用いている。特に、この公報では、電極と有機層との間を化学結合で接合したデバイスが開示されている(上記公報の2頁参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−265786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記公報では電極−機能層(発光層)間のキャリア輸送効率の向上が期待できない。具体的には、上記公報の構造では電子輸送、発光、正孔輸送の機能を示す部位が単一の分子内に含まれることで分子サイズが大きくなる。その分子の分子運動の大きさにより、電極に機能性分子を高密度で固定できない。つまり、電極近傍でも分子密度、言い換えればキャリア運搬を担うπ電子の密度、が低いため、電極から効果的に機能層へキャリアを輸送できなかった。
【0009】
そこで、より効果的に電極から機能層へキャリアを輸送しうる有機デバイスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして本発明によれば、第一電極と、前記第一電極を構成する材料と共有結合させたπ共役系分子からなる単分子層と、前記π共役系分子と共有結合させた機能性分子からなる機能層と、前記機能層と接続させた第二電極とを備えることを特徴とした有機デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0011】
電極上にπ共役系分子からなる単分子層を設けることで、電極近傍でのキャリア運搬を担うπ電子密度を高めることができる。また、前記単分子層と共有結合した機能層を設けることで、分子鎖を経路としたキャリア輸送が可能となる。これらの結果、電極−機能層間のキャリア輸送効率をより向上できる。
【0012】
前記π共役系分子が、シランカップラー部位で前記第一電極と共有結合していることで、強固なシロキサン結合を形成できるため、デバイスを長寿命化できる。
【0013】
前記π共役系分子がチオール由来のスルフィド結合により前記第一電極と共有結合していることで、第一電極とπ共役系分子の距離を近づけることができ、その結果、キャリア輸送効率を向上できる。
【0014】
前記π共役系分子が、アミド結合により前記機能性分子と共有結合し、アミド結合が、アミノ基又はカルボキシル基を有するπ共役系分子の前駆体と、カルボキシル基又はアミノ基を有する機能性分子の前駆体に由来することで、穏和な反応条件下でアミド結合を形成できるため、デバイスに熱的、化学的な負荷を与えずに単分子層と機能層とを積層することが可能である。
【0015】
前記π共役系分子が、フェニレン骨格を有し、該骨格が、パラ位に結合手を有することで、主鎖骨格が剛直であるため、結合手に位置する互いの官能基の位置を遠くできる。その結果、略垂直方向に配向した単分子層及び機能層を形成することが可能となる。従って、異方性を活かした特性、つまり、キャリア輸送効率の向上が可能である。
【0016】
前記機能層が共有結合で連結された複数の機能性分子からなる層を備えれば、積層段階での自由な膜厚制御が可能で、層界面が均一なデバイスを作製できる。そのため、有機デバイスの光電変換効率及び発光効率の向上、長寿命化が可能である。
【0017】
前記機能層にp層とn層とを設けることにより、短絡光電流密度、光電変換効率の高い有機デバイスを作製することが可能である。
【0018】
前記機能層に少なくとも発光層を備えることにより、高輝度、高発光効率の有機デバイスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施の形態1)
本発明の有機デバイスについて構造、材料及び製造方法について図1〜3、図4a)〜e)、図5a)〜b)を用いて詳細に説明する。
まず、構造について説明する。
【0020】
図1は基本的な構造を模式的に描いたものである。基板11と、第一電極12と、π共役系分子の単分子層13と、単分子層と共有結合した複数の機能性分子からなる機能層14と、第二電極15から構成される。図1では、基板が設けられているが、必ずしも設けなくてもよく、例えば第一電極に基板の機能を担わせてもよい。
【0021】
機能層は、単層でも複数層であってもよい。また、複数層は、同一の分子層を複数回積層しても、多種の分子層を複数回積層しても構わない。なお、図1中、nは機能層14の積層数を意味する。
【0022】
次に、材料について説明する。
基板11に使用できる材料は、光電変換デバイスや電界発光デバイスへの応用を考慮すると透明材料が好ましい。具体的には、ガラス、石英、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0023】
第一電極12に使用できる材料は、無機酸化物又は表面に薄い自然酸化膜が形成され易い金属が好ましい。言い換えると、無機酸化物、それの酸素プラズマ処理や酸処理等により水酸基を生じるものが好ましい。具体例を挙げるとITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、ドープされたシリコン、アルミニウム等が挙げられる。また、それ以外にも単分子層形成用の前駆体と直接共有結合する金属でもよい。具体的には、金、銀、白金等が挙げられる。
【0024】
第一電極12と共有結合させるπ共役系分子からなる単分子層13の前駆体の基本的な構造模式図を図2に示す。
【0025】
まず、第一電極と共有結合する官能基Xは、表面が水酸基を生じる電極(ITO、IZO等)の場合は強固なシロキサン結合を形成することが好ましい。よって、シロキサン結合を形成しうるシランカプラー部位に代表されるトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルキルシリル基、トリクロロシリル基のようなトリハロシリル基が好ましい。つまり、このような官能基Xは、電極の材料と強固な共有結合を形成するため、有機デバイスを長寿命化できるという効果を生じる。また、電極表面の水酸基と容易に反応し酸エステルを形成する酸クロライド基及びリン酸基でも構わない。
【0026】
それ以外の結合手段として、電極表面の金属原子と直接、共有結合させてもよい。この場合の官能基Xはチオール基、ジスルフィド基が好ましい。つまり、このような官能基は、電極と共有結合させた場合、電極とπ共役系分子とを硫黄原子一つを介して結合できるため、電極とπ共役系分子の距離が近づき、キャリア輸送効率を向上できる。
【0027】
なお、図2のX中、−Si(OR)3のRはメチル、エチル等の低級アルキル基を意味する。
【0028】
官能基Yは、官能基Xと自己反応せず、機能性分子と共有結合しさえすれば特に限定されず、種々の官能基を使用できる。特に、高収率で機能性分子と反応するものであることが好ましい。官能基Yと機能性分子との共有結合は、アミド結合であることが好ましい。アミド結合を生じうる官能基Yとしては、アミノ基又はカルボキシル基が挙げられる。つまり、アミノ基又はカルボキシル基のような官能基は、穏和な反応条件下で共有結合を形成できるので、デバイスに熱的、化学的な負荷を与えずに積層可能なため、デバイスの歩留りを高めることができるという効果がある。官能基Yと機能性分子とを共有結合させる場合、カルボジイミド類のような縮合剤を用いることが好ましい。
【0029】
π共役系分子Zは、その長軸方向が第一電極の表面に対して、ほぼ垂直方向に配向していることが好ましい。そのためπ共役系分子Zは、官能基X及びYが遠い位置に付与され、分子サイズが小さく、剛直なπ共役系骨格からなることが好ましい。具体的には、1,4−フェニレン基(式(1))、2,6位に結合手を有するナフタレンジイル基(式(2))、4,4’位に結合手を有するビフェニルジイル基(式(3))、ビニレン基(式(4))、エチニレン基(式(5))等が好ましい。
【0030】
機能層14を形成する機能性分子の前駆体の基本的な構造及び積層方法を図3に模式的に示す。
【0031】
官能基Aは、前記官能基Yと反応しさえすれば特に限定されない。機能層と単分子層との共有結合が、アミド基による場合、官能基Yがアミノ基ならば官能基Aはカルボキシル基、官能基Yがカルボキシル基ならば官能基Aはアミノ基が好ましい。
【0032】
また、官能基Bは、官能基Aと反応しさえすれば特に限定されない。官能基Bとしては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基等が挙げられる。特に、官能基Bは、官能基Aとアミド結合を形成しうる基であることが好ましい。従って、官能基Aがアミノ基ならば官能基Bはカルボキシル基、官能基Aがカルボキシル基ならば官能基Bはアミノ基が好ましい。つまり、アミノ基又はカルボキシル基のような官能基は、穏和な反応条件下で共有結合を形成できるので、デバイスに熱的、化学的な負荷を与えずに積層可能なため、デバイスの歩留りを高めることができるという効果がある。
【0033】
骨格Cは、ホール輸送性、発光性、電子輸送性、キャリア発生性を発揮するものが好ましい。加えて、第一電極の表面に対して、機能性分子の長軸が略垂直方向に次の機能性分子と結合することが好ましい。この目的から、例えば、スチルベン(式(1))、ベンゼン(式(2))、ビフェニル(式(3))、ビスピリジルエチレン(式(5))、ピリジン(式(6))、ビピリジン(式(7))等の6員環、チオフェン(式(4))、オキサジアゾール(式(8))、トリアゾール等の5員環の化合物に由来する2価の基が挙げられる。更に、ベンゼン、ピリジンの場合、1,4位、スチルベン、ビフェニル、ビスピリジルエチレン、ビピリジンの場合、4,4’位、チオフェン、オキサジアゾール、トリアゾールの場合、2,5位に官能基AとBが位置していることが好ましい。
【0034】
上記以外の骨格Cとして、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)式(9)、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム(BeBq)式(10)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム(Eu(DBM)3(phen))、ジロルイルビニルビフェニル(DTVBi)等に由来する2価の基も挙げられる。
【0035】
第二電極13に使用できる材料は、光電変換デバイス、電界発光デバイスへの応用を考慮すると、第一電極よりも仕事関数の低い材料が好ましい。仕事関数が0.5eV程度低いことが好ましく、0.3〜1.5eVの範囲で低いことが好ましい。具体的な第一電極と第二電極との組み合わせとしては、ITOとアルミニウム、金とアルミニウム等が挙げられる。
【0036】
次に図1に示した有機デバイスの製造方法について図4a)〜e)を用いて説明する。
まず、基板11にスパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、めっき法等により第一電極12を形成させる(図4a))。図4a)では、基板上に第一電極が積層された構成であるが、第一電極が基板を兼ねていてもよい。この後、第一電極12は、酸素プラズマによるアッシング処理等を行うことにより清浄表面を露出させることが好ましい。また、この処理により第一電極表面に酸素ラジカルを付与できる。
【0037】
ここで、第一電極表面に酸素ラジカルが付与されている場合、第一電極を水(例えば、超純水)に浸漬することが好ましい。そうすることで酸素ラジカルを水酸基化でき、この水酸基を介して第一電極と単分子層を共有結合させて積層できる。
【0038】
次に、図4b)に示すように、第一電極12上に図2で示すような前駆体に由来する単分子層13を形成する。形成方法は、例えば、液相法、気相法等が挙げられる。液相法は、前駆体をトルエンやアセトン等の溶媒に溶解させ、そこに第一電極を数時間浸漬させることにより単分子層を形成させる方法である。一方、気相法は、耐熱、耐圧容器に第一電極及び前駆体を入れ、加熱することで、前駆体の蒸気と第一電極との反応により、単分子層13を形成させる方法である。
【0039】
前者は溶媒に溶けさえすれば使用できるため、数多くの化合物に適応できる。特に、蒸気にするのが困難な分子量の大きいものには前者が適する。しかし、シランカップリング剤のようにシランカップラー部位が重合してしまう系においては、生成したオリゴマー成分が基板に吸着しないことがある。この場合、均一で高密度な単分子層を作製するのが容易である後者を使用することが好ましい。後者ではオリゴマー成分がその分子量の高さゆえに蒸気にならないため、電極との反応に寄与せず、均一で高密度な単分子層を形成できる。
【0040】
次に、図3に示すような機能性分子の前駆体を水、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン等の溶媒に溶解し、そこへ単分子層を浸漬することで、単分子層表面に機能層を形成できる(図4c))。溶媒中には、固相ペプチド合成に用いられるような縮合剤、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、塩酸N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド等を加えておくことが好ましい。また、溶媒は、室温で数時間撹拌することが好ましい。これにより、高収率で単分子層13と機能層14を例えばアミド結合を介して積層できる。
【0041】
次に、必要に応じて、機能層を複数層積層できる。図5a)及びb)は複数の機能層の積層方法を模式的に描いたものである。図5a)は一つの機能性分子に官能基A及び官能基Bをもつ分子を順に積層する手法(A−B型)であり、図5b)は一つの機能性分子に官能基Aを二つもつ分子と一つの機能性分子に官能基Bを二つもつ分子とを交互積層する手法(A−A+B−B型)である。
【0042】
A−B型では、一種類の分子だけを使用するという利点がある。この場合、分子同士の自己反応を防ぐという理由から官能基Bの保護、及び脱保護を行うことが好ましい。一方、A−A+B−B型ではA−B型のような官能基Bの保護、脱保護をする手間が少ない。よって、例えば、図3に示すような剛直で、互いの官能基が遠い位置に付与されている機能性分子の前駆体を用いれば、機能性分子が略垂直方向に配列した複数の機能層を、高収率で積層することが可能である。
【0043】
また、pn接合型光電変換機能を付与したデバイスを形成する場合は、図3に示すようなp型分子を含む機能層を繰り返し積層することによりp層を形成し、次にn型分子を含む機能層を繰り返し積層することによりn層を形成することが好ましい。このp層とn層は機能層に対応する。それぞれの膜厚は、励起子拡散長を考慮するとp層が5nm以上、n層が20nm以上が好ましい。一方、界面で発生したキャリアの電極までの輸送を考慮すると、p層が1μm以下、n層が4μm以下が好ましい。このようなpn接合を形成することで、接合界面が均一なpn接合型光電変換デバイスを作製できる。それにより、拡散による劣化が少なく、長寿命化や高キャリア発生効率、つまり変換効率の向上したデバイスが得られる。
【0044】
また、電界発光機能を付与したデバイスを形成する場合は、図3に示すような発光性分子を含む機能層を繰り返し積層した発光層からなる構造が好ましい。更に、ホール輸送性分子を含む機能層を繰り返し積層したホール輸送層と、電子輸送性分子を含む機能層を繰り返し積層した電子輸送層を発光層の上下に加えても構わない。それぞれの膜厚は任意だが、電極からのキャリア輸送効率を考慮すると、機能層の全膜厚は5μm以下が好ましい(図4d))。
【0045】
本発明によれば、ホール輸送層及び電子輸送層間の接合界面を均一にできる。そのため、拡散による劣化が少なく、長寿命化という効果と、発光性分子が一方向に配向しているため、光が散乱することなく集約して発光できる。その結果、高輝度、高発光効率のデバイスが得られるという効果がある。
【0046】
そして、最後に機能層の上にスパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、めっき法等により第二電極15を形成させ図1のデバイスを作製できる(図4e))。
【0047】
(実施の形態2)
上記実施の形態1の有機デバイスの構造に加えて、機能層と第二電極の間に他の機能層を挿入した場合の有機デバイスの構造、材料及び製造方法について図6、図7a)〜f)を用いて詳細に説明する。
まずは構造について説明する。
【0048】
図6中、基板61、第一電極62、π共役系分子の単分子層63、単分子層と共有結合した機能性分子からなる機能層(第一機能層)64及び第二電極65については、実施の形態1同様である。図6では、前記第一機能層64と第二電極65との間に、更に他の機能層(第二機能層)66を備えている。
【0049】
次に材料を示す。
基板61、第一電極62、単分子層63、第一機能層64及び第二電極65用の材料には、実施の形態1と同様の材料を用いることができる。
【0050】
第二機能層には、第一機能層との関連、所望する有機デバイスの種類に応じて様々な材料を用いることができる。例えば、光電変換デバイスの場合であれば、第一機能層をホール輸送層、第二機能層をキャリア発生層とし、第一機能層には、スチルベン、ベンゼン、ビフェニル、チオフェンなどを主鎖骨格とした分子層(n≧1)を用い、第二機能層には銅フタロシアニン(CuPc)とフラーレン(C60)を用いることが好ましい。また、有機電界発光デバイスの場合であれば、第一機能層をホール注入層、第二機能層を発光層とし、第一機能層には、スチルベン、ベンゼン、ビフェニル、チオフェンなどを主鎖骨格とした分子層(n≧1)を用い、第二機能層にはトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)を用いることが好ましい。
【0051】
次に、図6に示した有機デバイスの製造方法を図7a)〜f)を用いて説明する。
基板61、第一電極62、単分子層63及び第一機能層64までは実施の形態1と同様の方法で形成できる。
次に、第二機能層66を真空蒸着法、蒸着重合法、スピンコート法やインクジェット法等を用いて形成できる。
最後に第二電極65を実施の形態1と同様の方法で形成すれば、図6のデバイスを作製できる。
【実施例】
【0052】
実施例1
図8a)〜i)は本発明の有機光電変換デバイス(太陽電池)の作製方法を模式的に示したものである。
まず、25×25mmの石英基板81上に電極としてITO膜(第一電極)82を形成した(図8a))。その後、ITO膜82のパターニングを塩酸によるエッチングで行い、クロロホルムで20分超音波洗浄し、アセトンとエタノールの混合溶液で20分洗浄した。次に、ITO膜82を酸素プラズマによるアッシングで清浄表面を露出した後、超純水に10分浸漬することで酸素ラジカル表面を水酸基化した(図8b))。
【0053】
次に、耐熱、耐圧テフロン(登録商標)容器に前記ITO膜を備えた基板とp−アミノフェニルメトキシシラン1mgの入ったスクリュー管とを入れ、100℃、90分間、防爆用オーブンにて加熱し、π共役分子の単分子層83をITO膜82上に形成した(図8c))。アセトンの超音波洗浄後、紫外可視分光光度計による吸光度測定を行ったところ、p−アミノフェニルメトキシシランのモル吸光係数から見積もった基板への吸着分子量は4.0×10-10mol/cm-2であった。一方、p−アミノフェニルメトキシシランを電極に最密充填で敷き詰めた時の吸着分子量の計算値は、4.3×10-10mol/cm-2であった。よって高密度でπ共役分子を配列することができた。
【0054】
また、分光エリプソメーターによる膜厚測定では、単分子層形成前の電極から8.0Åの増加が確認された。ここで、p−アミノフェニルメトキシシランが、電極に垂直に配向したときの電極からアミン末端までの距離の計算値は、8.3Åであることから、上記工程でp−アミノフェニルメトキシシランの単分子層が形成されたことが支持されていた。
【0055】
次に、前記単分子層の略垂直方向に配列したアミノ基と、ジカルボン酸(p型分子)とを以下のように反応させてp型機能層の第一層目を得た。
【0056】
すなわち、ジカルボン酸としてテレフタル酸を10mmol/L水酸化ナトリウム水溶液に5mmol/lの濃度になるように溶解させた。次に、縮合剤として塩酸N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドをテレフタル酸に対しそれぞれ20当量、5当量加えた。この後、前記単分子層表面のアミノ基を浸漬し、3時間、室温で撹拌した。次いで、超純水、THFによる洗浄後、紫外可視分光光度計による吸光度測定を行ったところ、テレフタル酸のモル吸光係数から見積もった単分子層への吸着分子量は4.1×10-10mol/cm-2であった。
【0057】
また、分光エリプソメーターによる膜厚測定では、p型機能層の第一層目形成前の単分子層から7.4Åの増加が確認された。ここで、テレフタル酸の積層により予想される膜厚増加量の計算値は7.5Åであることから、上記工程でテレフタル酸が単分子層表面のアミノ基と高収率で反応し、π共役分子の高密度状態を保持したまま層成長したことが支持されていた。こうして、p型機能層の第一層目84を形成した。
【0058】
次に前記単分子層の略垂直方向に配列したカルボキシル基と、ジアミンp型分子とを以下のように反応させてp型機能層の第二層目を得た。
【0059】
まず、前記カルボキシル基表面となった基板を塩酸N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(0.767g、4mmol)とN−ヒドロキシスクシンイミド(0.115g、1mmol)を超純水20mlに溶解させた縮合剤溶液に1時間浸漬させ、基板表面のカルボキシル基を活性エステル化した。次に、ジアミンとして1,4−フェニレンジアミン二塩酸塩(90.5mg、0.500mmol)を超純水50mlに溶解させ、そこへ、表面を活性エステル化させた基板を浸漬させ、3時間、室温で撹拌した。次いで、超純水、THFによる洗浄後、紫外可視分光光度計による吸光度測定を行ったところ、1,4−フェニレンジアミン二塩酸塩のモル吸光係数から見積もった単分子層への吸着分子量は4.2×10-10mol/cm-2であった。
【0060】
また、分光エリプソメーターによる膜厚測定では、p型機能層の第二層目形成前のp型機能層の第一層目から6.8Åの増加が確認された。ここで、1,4−フェニレンジアミンの積層により予想される膜厚増加量の計算値は7.1Åであることから、上記工程で1,4−フェニレンジアミンがp型機能層の第一層目表面のカルボキシル基と高収率で反応し、π共役分子の高密度状態を保持したまま層成長したことが支持されていた。こうして、p型機能層の第二層目85を形成した。
【0061】
次に前記ジカルボン酸と前記ジアミンとの繰り返し積層によりp型機能層を得た。
【0062】
アミノ基表面とジカルボン酸、続いてジアミンを反応させるのを一回の繰り返しとして、これをあと9回繰り返した。それぞれの積層段階における紫外可視分光光度計による吸光度測定から得られる吸着分子量は3.8〜4.3×10-10mol/cm-2であり、収率良く、高密度に分子層を積層することが支持された。また、p型機能層形成後、分光エリプソメーターによる膜厚測定を行ったところ、電極に積層された有機層の膜厚は13.6nmであった(計算値:14.1nm)。よって、p型機能層86を形成した(図8f))。
【0063】
次にn型機能層を形成する。
ジカルボン酸として、2,5−ピリジンジカルボキシリックアシッド、ジアミンとして2,5−ジアミノピリジン二塩酸塩を用いて、前記p型機能層同様にアミン表面とジカルボン酸、続いてジアミンを反応させるのを一回の繰り返しとして、10回繰り返した。この時の積層条件はp型機能層の時と同様の条件でおこなった。それぞれの積層段階における紫外可視分光光度計による吸光度測定から得られる吸着分子量は3.7〜4.0×10-10mol/cm-2であり、収率良く、高密度に分子層を積層することが支持された。また、n型機能層形成後、分光エリプソメーターによる膜厚測定を行ったところ、電極に積層された有機層の膜厚は25.0nmであった(計算値:26.9nm)。よって、n型機能層87を形成した(図8g))。
【0064】
次に、第二機能層の上に、第二電極としてAlを2×25mmのパターンを形成できるマスクを付け、真空蒸着法によりAl電極(第二電極)88を形成した(図8i))。
上記工程により、有機光電変換デバイスを作製した。
【0065】
次に得られた有機光電変換デバイス特性の測定を行った。測定はすべて空気中で行い、光源として150Wハロゲンタングステンランプからの白色光を有機光電変換デバイス上に集光したものを用いた。光パワーメーターで測定した光強度は2mW/cm2であった。光電変換効率を求めるために電流−電圧特性は電圧をかけながらエレクトロメーターで電流値を測定し、測定値をGP−IBインターフェイスによりコンピューターに取り込み記録した。この電流−電圧曲線により開放起電力(Voc)、短絡光電流密度(Jsc)、フィルファクター(FF)及び光電変換効率(η)といった有機光電変換デバイス特性を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
ここで、フィルファクターはFF=(有機光電変換デバイスの作動により実際取り出すことのできる最大出力/有機光電変換デバイスが理想的に作動すれば取り出すことのできるJsc×Vocワットの出力)とする割合で与えられる値である。更に光電変換効率は、η(%)=(取り出すことができた電気出力/入射した光エネルギー)×100により与えられる。
【0067】
実施例2
図9a)〜g)は本発明の有機光電変換デバイス(太陽電池)の作製方法を模式的に示したものである。
【0068】
実施例1と同様の手法、材料で、石英基板91上に形成されたITO膜92上にπ共役単分子層93および、ホール輸送層(第一機能層)94を形成させた(図9a)〜d))。
【0069】
次に前記ホール輸送層94の上に光電変換機能をもった第二機能層96(p層)、97(n層)を以下のように形成した。
【0070】
すなわち、第二機能層96用の電子供与性材料として銅フタロシアニン(CuPc)、第二機能層97用の電子受容性材料としてフラーレン(C60)を用いた。それぞれ、真空蒸着法によって製膜した。具体的には、まず、CuPcを製膜速度が約1.0Å/sec程度になるように温度を調節しながら、膜厚が100nmになるまで蒸着を行ってp型の第二機能層96を形成した。その後、C60をCuPcと同様に製膜速度が約1.0Å/sec程度になるように温度を調節しながら、膜厚が100nmになるまで蒸着を行ってn型の第二機能層97を形成した。こうして、第二機能層としてCuPc/C60の二層構造を形成した(図9e)とf))。
【0071】
次に、第二機能層の上に、第二電極としてAlを2×25mmのパターンを形成できるマスクを付け、真空蒸着法によりAl電極(第二電極)95を形成した。
上記工程により、有機光電変換デバイスを作製した。
実施例1と同様の手法により光電変換特性を測定した。
【0072】
(比較例1)
図9g)の有機光電変換デバイスから単分子層93及びホール輸送層94を形成しないこと以外は、実施例2と同様にして有機光電変換デバイスを作製した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1及び実施例2のデバイスは、比較例1のデバイスよりも、短絡光電流密度、フィルファクター及び光電変換効率において劇的な上昇が確認できた。この結果は、電極−光電変換層間のホール輸送性の向上を支持している。
【0075】
実施例1の有機光電変換デバイスは、石英基板と、その上に成膜されたITO膜と、ITO膜に共有結合されたp−アミノフェニルトリメトキシシランからなる単分子層と、その単分子層に共有結合されたテレフタル酸と、そのテレフタル酸と1,4−フェニレンジアミンが共有結合で連結された層が繰り返し積層されたp型分子層と、2,5−ピリジンジカルボキシリックアシッドと2,5−ジアミノピリジンが共有結合で連結された層が繰り返し積層されたn型分子層と、アルミニウム電極とを備えた構造を有している。この構造によれば、ITO電極近傍でのキャリア運搬を担うπ電子密度が上昇するという効果がある。その結果、電極-機能層間のキャリア輸送効率の向上という課題を解決することができた。
【0076】
実施例2の有機光電変換デバイスは、石英基板と、その上に成膜されたITO膜と、ITO膜に共有結合されたp−アミノフェニルトリメトキシシランからなる単分子層と、その単分子層に共有結合されたテレフタル酸からなるホール輸送層と、CuPc/C60からなる光電変換機能層と、アルミニウム電極とを備えた構造を有している。この構造によれば、ITO電極近傍でのキャリア運搬を担うπ電子密度が上昇するという効果がある。その結果、電極-機能層間のキャリア輸送効率の向上という課題を解決することができた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の有機デバイスの概略図である。
【図2】本発明に使用可能なπ共役系分子の模式図である。
【図3】本発明に使用可能な機能性分子の模式図である。
【図4】図1の有機デバイスの製造方法の概略工程図である。
【図5】本発明の有機デバイスを構成する機能層の製造方法の概略工程図である。
【図6】本発明の有機デバイスの概略図である。
【図7】図6の有機デバイスの製造方法の概略工程図である。
【図8】実施例1の有機光電変換装置の製造方法の概略工程図である。
【図9】実施例2の有機光電変換装置の製造方法の概略工程図である。
【符号の説明】
【0078】
11,61:基板、12,62:第一電極、13,63,83,93:単分子層、14:機能層、15,65:第二電極、64:第一機能層、66,96,97:第二機能層,81,91:石英基板、82,92:ITO膜、84,85,86:p型分子層、87:n型分子層、94:ホール輸送層、88,95:Al電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と、前記第一電極を構成する材料と共有結合させたπ共役系分子からなる単分子層と、前記π共役系分子と共有結合させた機能性分子からなる機能層と、前記機能層と接続させた第二電極とを含むことを特徴とした有機デバイス。
【請求項2】
前記π共役系分子が、シランカップラー部位で前記第一電極と共有結合している請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記π共役系分子が、チオール由来のスルフィド結合により前記第一電極と共有結合している請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記π共役系分子が、アミド結合により前記機能性分子と共有結合し、アミド結合が、アミノ基又はカルボキシル基を有するπ共役系分子の前駆体と、カルボキシル基又はアミノ基を有する機能性分子の前駆体に由来する請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記π共役系分子が、フェニレン骨格を有し、該骨格が、パラ位に結合手を有する請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項6】
前記機能層が、共有結合で連結された複数の機能性分子からなる層を備える請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項7】
前記機能層が、p層とn層とを備える請求項6に記載の有機デバイス。
【請求項8】
前記機能層が、少なくとも発光層を備える請求項6に記載の有機デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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