説明

有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体

【課題】ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能な有機ハロゲン化合物分析方法を提供する。
【解決手段】ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析方法であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定するステップと、この有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を求めるステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、マススペクトルの測定ピーク形状を標準ピーク形状と比較し、被測定試料の候補ハロゲン数yを決定するステップと、被測定試料の炭素数xを決定するステップと、候補質量数を計算するステップと、測定ステップで得られた測定質量数と候補質量数を比較するステップと、被測定試料の成分同定を行うステップを有することを特徴とする有機ハロゲン化合物分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析による有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
未知の有機化合物を質量分析により定性する場合、一般に既知化合物のマススペクトルが登録されたライブラリを検索し、スペクトル形状が類似しているものをリストアップして同定作業が行われる(例えば特許文献1)。しかし、ライブラリに登録されていない化合物も多い。
【0003】
例えば塩素化パラフィンのような炭素数および塩素数の異なる成分の複雑な混合物の場合、すべての成分をライブラリ登録するのは現実的には不可能である。このため、ライブラリ検索法による塩素化パラフィンの定性分析は非常に困難であった。
【特許文献1】特開2004−132946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能な有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様の有機ハロゲン化合物分析方法は、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析方法であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有することを特徴とする。
【0006】
ここで、前記測定ステップの後に、前記測定ピーク形状をもとに、前記分析対象成分となる有機ハロゲン化合物の有無を判定する判定ステップを有することが望ましい。
【0007】
ここで、前記分析対象成分となる有機ハロゲン化合物が塩素化パラフィンであることが望ましい。
【0008】
ここで、前記分析対象成分となる有機ハロゲン化合物が塩素化パラフィンである場合に、前記質量数比較ステップにおいて、前記候補質量数の差の半分の値nが、前記炭素数xよりも大きい場合には、塩素化パラフィンが被測定試料に含有されないと判定することが望ましい。
【0009】
ここで、前記測定が、イオン付着質量分析法により行われることが望ましい。
【0010】
本発明の一態様の有機ハロゲン化合物分析装置は、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析装置であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を記憶する標準ピーク形状記憶手段と、被測定試料のマススペクトルを測定する測定手段と、前記マススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定手段と、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定手段と、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに候補質量数を計算する候補質量数算出手段と、前記測定手段で得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較手段と、前記質量数比較手段での比較において前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは自然数)の場合は前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定手段を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様の有機ハロゲン化合物分析プログラムは、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析プログラムであって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する有機ハロゲン化合物分析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様のコンピュータ読取可能な記録媒体は、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読取可能な記録媒体であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する有機ハロゲン化合物分析方法をコンピュータに実行させる有機ハロゲン化合物分析プログラムを記録したことを特徴とする
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能な有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析方法は、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析方法であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を標準ピーク形状と比較し、被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、候補ハロゲン数yをもとに被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、候補ハロゲン数yおよび炭素数xをもとに被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、記測定ステップで得られた測定質量数と候補質量数を比較する質量数比較ステップと、質量数比較ステップにおいて測定質量数と候補質量数が一致する場合には候補ハロゲン数yを被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、測定質量数と候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する。
【0016】
図1は、本実施の形態の一例を示すフローチャートである。ここでは、有機ハロゲン化合物として、塩素化パラフィン(分子式:C2x+2−yCl)を分析対象成分とする場合を例に説明する。塩素化パラフィンは、炭素数および塩素数の異なるものの混合物であり、鎖長により短鎖(C10〜C13)、中鎖(C14〜C17)、長鎖(C18〜C30)に分類される。もっとも、登録候補となる成分が膨大になるため、これらすべての成分をライブラリに登録するのは実質的には不可能である。
【0017】
本実施の形態の分析方法において、まず、被測定試料の分析対象成分を決定する(S1)。ここで分析対象成分とは、被測定物質中の存否およびその成分同定を行おうとする有機ハロゲン化合物である。上述のように、分析対象成分を塩素化パラフィンとする場合を例に説明する。
【0018】
次に、この塩素化パラフィンの、ハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、ハロゲンの同位体存在比に基づき計算によって求める(S2)。塩素の安定同位体は35Clおよび37Clであり、これらの組み合わせによってマススペクトル形状は特徴的なものとなる。y個のClのうち、35Clおよび37Clの個数をそれぞれy35、y37とする。ここで、y=y35+y37である。35Clおよび37Clの同位体比をそれぞれP、Qとすると、y個のClのうち35Clがy35個である確率は組み合わせCを用いて(式1)のように書ける。
【数1】

【0019】
図2は、ハロゲン数y=5〜8について標準ピーク形状を計算した結果である。ここでは、P=75.77%、Q=24.23%として計算している。図2の横軸は37Clの個数を指標とする質量数(質量電荷比:m/z)であり、縦軸は該当する37Clの個数を有するCl群の存在比であり、マススペクトル測定のピーク強度の指標となる。図2(a)〜(d)に示すように、ハロゲン数yによって、それぞれ特徴的な異なったピーク形状を示すことがわかる。
【0020】
次に、被測定試料を質量分析装置により測定し、横軸を質量数(質量電荷比:m/z)、縦軸をイオン強度とするマススペクトルを得る(S3)。質量分析手法は特に限定されるものではないが、溶媒抽出等が不要で試料の前処理の簡易なイオン付着質量分析法(IAMS)によることが望ましい。また、IAMSでは、被測定試料に対しソフトに電荷を付加できるため、分子の解離が発生しにくい点からも好適である。
【0021】
図3は、塩素化パラフィンの単純系として1,1,1,3,8,10,10,10−オクタクロロデカン(C1014Cl)をLiイオンを付着させるIAMSにより測定した結果である。図3(b)は図3(a)の破線四角部のマススペクトルの拡大図である。分子の解離を発生させずに質量分析を行うことを特徴とするIAMS分析であるが、図3(a)に示すように、塩素が脱離したピークが検出されている。
【0022】
次に、マススペクトルの測定ピーク形状を、先に算出しておいた標準ピーク形状と比較し、被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する(S4)。ここでは、図3(b)の質量数351付近に検出されたピーク形状について着目して定性分析を行う。なお、どのピーク形状に着目するかについては特に限定されるものではない。例えば、もっとも強度の強いピーク形状に着目してもかまわないし、もっとも質量数(質量電荷比)の大きなピーク形状に着目するものであってもかまわない。
【0023】
図3(b)に示す質量数351付近に検出されたピーク形状と、図2(a)〜(d)に示すハロゲン数yごとのピーク形状を比較すると、最も近いのは塩素数が6個の場合であることがわかる。したがって、塩素数候補y=6とできる。
【0024】
次に、候補塩素数y=6をもとに被測定試料の炭素数xを決定する(S5)。図3(b)のピークのうち最も強度が大きいのは質量数351のピークであるため、このピークに着目し、この質量数を測定質量数と称するものとする。y=6のとき、(式1)において最も存在比が高くなるのはy35=5(すなわちy37=1)のときである。したがって、候補塩素数y=6、y35=5、炭素数をxとすると、リチウムイオン(+7)が付着した場合の質量数は(式2)のように計算できる。
【数2】

【0025】
ここで、実測により得られた測定質量数351以上となる最小の整数xを求める。
【数3】

(式3)を満たす最小の整数xを求めると、x=10である。これにより炭素数x=10と決定できる。
【0026】
次に、候補ハロゲン数y=6および炭素数xをもとに候補質量数を計算する(S6)。x=10のとき、(式2)より候補質量数は355と計算できる。
【0027】
そして、測定で得られた測定質量数351と候補質量数355を比較する(S7)。ここで、質量数比較において測定質量数と候補質量数が一致する場合には塩素数候補yを被測定試料の塩素数と決定して(S8)、成分同定を行う(S9)。一方、測定質量数と候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合は被測定試料の塩素数をy+nと決定して(S8)、成分同定を行う(S9)。
【0028】
測定質量数と候補質量数の差が2nとなる場合は、Liイオンが付着することによりn個の塩素が脱離し、n個の2重結合が生成されているものと考えられる。ここでは、実測により得られた質量数351と比較すると質量数の差は4(n=2)であることから、二重結合が2つ生成していることがわかる。そのため塩素数を修正し、塩素数y=6+2=8と決定できる。決定した炭素数および塩素数を元に成分の同定を行うと、C1014Clとできる。このように、着目するピークが塩素の脱離した分子のピークであったとしても正確な成分同定が可能である。
【0029】
このように、本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析方法では、ライブラリを用いることなく有機ハロゲン化合物の定性分析を行うことができる。よって、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能となる。
【0030】
なお、本実施の形態において、被測定試料のマススペクトルの測定(S3)の後、候補ハロゲン数y決定(S4)の前に、有機ハロゲン化合物の有無を判定するステップを設けることも可能である。このようなステップを設けることで不要な処理を省略する、あるいは誤同定を防止することが可能となる。
【0031】
例えば、図3(b)に示すような一つのピークに着目し、このピークが図3(b)のように、質量数(質量電荷比)が1ずつ増加する毎に、強−弱−強−弱−強−弱の周期を有する場合、被測定試料には有機塩素化合物が含まれないと判定することが可能である。これは、上述のように、塩素の安定同位体が質量数にして2だけ異なる、35Clおよび37Clであることによる。
【0032】
また、塩素化パラフィンを分析対象成分とする場合、質量数を比較する際(S7)、候補質量数の差の半分の値nが、炭素数xよりも大きい場合には、塩素化パラフィンが被測定試料に含有されないと判定することが望ましい。塩素化パラフィンの場合には、炭素数が塩素数よりも大きくなることはないため、候補質量数の差の半分の値nが、炭素数xよりも大きくなることはないからである。
【0033】
以上、分析対象成分として塩素化パラフィンを例に説明したが、例えば、ポリ塩化ナフタレン等その他の有機塩素化合物に本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析方法を適用することが可能である。さらに、有機塩素化合物のみならず、有機臭素化合物の分析にも本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析方法を適用することも可能である。
【0034】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析装置は、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析装置であって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を記憶する標準ピーク形状記憶手段と、被測定試料のマススペクトルを測定する測定手段と、前記マススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定手段と、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定手段と、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに候補質量数を計算する候補質量数算出手段と、前記測定手段で得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較手段と、前記質量数比較手段での比較において前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは自然数)の場合は前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定手段を有することを特徴とする。
【0035】
本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析装置は、第1の実施の形態に記載の有機ハロゲン化合物分析方法を実現可能とする有機ハロゲン化合物分析装置である。有機ハロゲン化合物分析方法等について、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0036】
図4は、本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析装置の概略構成を示すブロック図である。分析装置10は、測定部12、データ処理部14、表示部16、入力部18で構成されている。また、データ処理部14は演算部20、記憶部22で構成されている。
【0037】
測定部12は、被測定試料のマススペクトルの測定手段となる質量分析装置である。質量分析装置は特に限定されるものではなく、例えば、LC/MS、GC/MS、IAMSその他の質量分析装置を適用することが可能である。ただし、上述のように前処理の簡便性および分子の乖離が抑制されるという観点からはIAMSを適用することが望ましい。
【0038】
データ処理部14においては、被測定試料の対象成分分析を行い、被測定資料の成分同定を行う。演算部20は、CPU(Central Processing Unit)を備えている。記憶部22は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等である。オペレーティングシステム、ウィンドウシステム、アプリケーション等の各種プログラム、プログラムが必要とするデータ等は、あらかじめ記憶部22の例えば、ROMやハードディスクに記憶されている。そして、プログラムは、例えば、RAMにロードされ、ロードされたプログラムをCPUが処理することで実行される。
【0039】
演算部20が、候補ハロゲン数決定手段、炭素数決定手段、候補質量数算出手段、質量数比較手段および成分同定手段として機能する。また、記憶部22が標準ピーク形状記憶手段として機能する。
【0040】
表示部16は、例えば、測定部12で測定された被測定試料のマススペクトルやデータ処理部14で処理された被測定試料の成分同定結果を画面に表示する。表示部16は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)であり、例えば、LCD制御回路を備えている。
【0041】
入力部18は、キーボード、マウス、ハードウェアキー、または、タッチパネル等からなる。ユーザによって各種キー等が操作され、例えば、被測定試料の分析対象成分等が入力される。
【0042】
本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析装置によれば、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能となる。
【0043】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析プログラムは、ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析プログラムであって、分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する有機ハロゲン化合物分析方法をコンピュータに実行させる。
【0044】
本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析プログラムは、第1の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析をコンピュータに実行させるプログラムである。この場合、コンピュータとは、例えば図4に記載のデータ処理部14である。また、このプログラムを実行するコンピュータは必ずしも図1のデータ処理部14のように測定部12と一体になった分析装置10中に備えられものでなくとも、独立に存在するコンピュータであってもかまわない。
【0045】
本実施の形態の有機ハロゲン化合物分析プログラムによれば、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能となる。
【0046】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態のコンピュータ読取可能な記録媒体は、第3の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析プログラムを記録している。
【0047】
記録媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリーカード、ROM、DVD(DVD−ROM、DVD−R)などがある。
【0048】
本実施の形態のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムを所望のコンピュータ上で動作させることにより、ライブラリ登録が困難な有機ハロゲン化合物について、簡便に成分の同定を行うことが可能となる。
【0049】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0050】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての有機ハロゲン化合物分析方法、有機ハロゲン化合物分析装置、プログラムおよびコンピュータ読取可能な記録媒体は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1の実施の形態の一例を示すフローチャートである。
【図2】第1の実施の形態において標準ピーク形状を計算した結果である。
【図3】第1の実施の形態において塩素化パラフィンの単純系をIAMSにより測定した結果である。
【図4】第2の実施の形態の有機ハロゲン化合物分析装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0052】
10 分析装置
12 測定部
14 データ処理部
16 表示部
18 入力部
20 演算部
22 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析方法であって、
分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、
被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、
前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、
前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有することを特徴とする有機ハロゲン化合物分析方法。
【請求項2】
前記測定ステップの後に、前記測定ピーク形状をもとに、前記分析対象成分となる有機ハロゲン化合物の有無を判定する判定ステップを有することを特徴とする請求項1記載の有機ハロゲン化合物分析方法。
【請求項3】
前記分析対象成分となる有機ハロゲン化合物が塩素化パラフィンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の有機ハロゲン化合物分析方法。
【請求項4】
前記質量数比較ステップにおいて、前記候補質量数の差の半分の値nが、前記炭素数xよりも大きい場合には、塩素化パラフィンが被測定試料に含有されないと判定することを特徴とする請求項3記載の有機ハロゲン化合物分析方法。
【請求項5】
前記測定が、イオン付着質量分析法により行われることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載の有機ハロゲン化合物分析方法。
【請求項6】
ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析装置であって、
分析対象成分となる有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を記憶する標準ピーク形状記憶手段と、
被測定試料のマススペクトルを測定する測定手段と、
前記マススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定手段と、
前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定手段と、
前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに候補質量数を計算する候補質量数算出手段と、
前記測定手段で得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較手段と、
前記質量数比較手段での比較において前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは自然数)の場合は前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定手段を有することを特徴とする有機ハロゲン化合物分析装置。
【請求項7】
ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析プログラムであって、
分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、
被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、
前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、
前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する有機ハロゲン化合物分析方法をコンピュータに実行させることを特徴とする有機ハロゲン化合物分析プログラム。
【請求項8】
ハロゲンが塩素または臭素である有機ハロゲン化合物分析プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読取可能な記録媒体であって、
分析対象成分となる有機ハロゲン化合物を決定する分析対象成分決定ステップと、
前記有機ハロゲン化合物のハロゲン数別のマススペクトルの標準ピーク形状を、同位体存在比に基づき計算によって求める標準ピーク形状算出ステップと、
被測定試料のマススペクトルを測定する測定ステップと、
前記測定ステップで得られたマススペクトルの測定ピーク形状を前記標準ピーク形状と比較し、前記被測定試料の候補ハロゲン数yを決定する候補ハロゲン数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yをもとに前記被測定試料の炭素数xを決定する炭素数決定ステップと、
前記候補ハロゲン数yおよび前記炭素数xをもとに前記被測定試料の候補質量数を計算する候補質量数算出ステップと、
前記測定ステップで得られた測定質量数と前記候補質量数を比較する質量数比較ステップと、
前記質量数比較ステップにおいて前記測定質量数と前記候補質量数が一致する場合には前記候補ハロゲン数yを前記被測定試料のハロゲン数と決定して成分同定を行い、前記測定質量数と前記候補質量数の差が2n(nは1以上の自然数)の場合には前記被測定試料のハロゲン数をy+nと決定して成分同定を行う成分同定ステップを有する有機ハロゲン化合物分析方法をコンピュータに実行させる有機ハロゲン化合物分析プログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読取可能な記録媒体。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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