説明

有機・無機複合体の製造方法及び光学素子の製造方法

【課題】 粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体を容易に得ることができる有機・無機複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法において、
前記無機酸化物のゲルに、前記粒子が分散している重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物及び前記粒子を拡散させる工程と、
前記拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程と、
を有することを特徴とする粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体を容易に得ることができる有機・無機複合体の製造方法及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率分布型レンズはGRIN(GRADIENT INDEX)レンズと呼ばれ、半径(RADIAL)方向や軸(AXIAL)方向に屈折率分布を持たせたレンズであり、通常の屈折型均質レンズでは得られない独特の効果を持つことから、特に注目されている。なお、レンズに屈折率分布をつける手法として、レンズ母材に粒子を濃度分布を有するように分散させることが知られている。
【0003】
母材として有機材料を用いたレンズが、比重が低く軽量化できることや耐衝撃性に優れているという利点から、幅広く用いられている。その一方で、有機材料は比較的高い線膨張率を有しており、光学材料として用いる際に寸法安定性が問題になる。この問題を解決するために、有機材料に無機酸化物を添加することで、軽量、耐衝撃性、低線膨張率を実現した有機・無機複合体が知られている。
【0004】
特許文献1には、有機・無機複合体中に無機微粒子の濃度分布をもたせることで、屈折率分布を有する光学部品が開示されている。具体的には、無機酸化物と重合性化合物とからなる液状のマトリックス相と、その相中に分散されたナノスケール粒子とからなる材料に、電場をかけることでナノスケール粒子の濃度分布を生じさせ、屈折率分布を有する光学部品を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−508783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、液状のマトリックス相を用いているため、ナノスケール粒子の所望の濃度分布を形成することが難しいという課題があった。
【0007】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体を容易に得ることができる有機・無機複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法は、前記無機酸化物のゲルに、前記粒子が分散している重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物及び前記粒子を拡散させる工程と、前記拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
別の本発明に係る粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法は、前記粒子が分散した前記無機酸化物のゲルに、重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物を拡散させる工程と、前記拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体を容易に得ることができる有機・無機複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る光学素子の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための形態を示す。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法は、無機酸化物のゲルと粒子とを用いる有機・無機複合体の製造方法であって、重合性化合物を含む無機酸化物のゲル中に粒子の濃度分布を形成させる工程と、前記重合性化合物の重合反応により粒子の濃度分布を固定化させる工程とを有することを特徴とする。
【0015】
ここで、粒子の濃度分布とは、ある位置とそれとは異なる位置とで粒子の濃度が異なることを意味し、濃度の勾配を有する場合を包含する概念である。ここで、有機・無機複合体が円柱状である場合、粒子の濃度の勾配は有機・無機複合体の径方向にあってもよく、高さ方向にあってもよい。
【0016】
以下、実施形態の詳細について説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)無機酸化物のゲルに、粒子が分散している重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物及び前記粒子を拡散させる工程
(2)(1)の拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程
このように本実施形態に係る製造方法は、無機酸化物のゲルを用いているため、液状のマトリックス相を用いる場合に比べて、粒子の濃度分布を形成することが容易である。
(1)及び(2)の工程を行うことによって、粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体が得られる。
【0018】
また、本発明の第1の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法の一例は、溶媒を含有する無機酸化物のゲルの周囲に、前記粒子が分散している重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの溶媒を前記重合性化合物で置換すると共に前記重合性化合物に分散している粒子を前記無機酸化物のゲル中に拡散させて、前記無機酸化物のゲル中に粒子の濃度分布を形成させる工程と、前記重合性化合物を重合して高分子化合物とする工程とを有する。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法の一例を示す説明図である。同図1において、本実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法は、溶媒を含有する無機酸化物のゲル1を用意する(図1(a)参照)。
【0020】
前記無機酸化物のゲル1の周囲に、重合性化合物2を接触させて、前記無機酸化物のゲルの溶媒を重合性化合物2で置換してゲル3を得る(図1(b)参照)。具体的には、無機酸化物のゲル1を重合性化合物2に浸漬して、前記無機酸化物のゲルの溶媒を重合性化合物で置換する方法が好ましい。
【0021】
次に、前記溶媒を重合性化合物で置換した無機酸化物のゲル3の周囲に、粒子5が分散した重合性化合物4を接触させて、前記無機酸化物のゲル3中に前記重合性化合物4に分散している粒子5を拡散方向Aの方向に拡散させて、前記無機酸化物のゲル3中に粒子の濃度分布を形成させる(図1(c)参照)。重合性化合物2と重合性化合物4とは、同じでも異なる化合物でもいずれも用いることができるが、後の重合反応および有機・無機複合体の物性を考慮すると同じまたは同系の化合物が好ましい。無機酸化物のゲル3中の粒子の濃度分布は、無機酸化物のゲル3の周囲は粒子の濃度が高く、ゲル3の中心方向に向かうに従って粒子の濃度が低い濃度分布となる。矢印21は粒子の濃度分布を示し、線の幅の大きい部分は粒子の濃度が高く、線の幅の小さい部分は粒子の濃度が低いことを表す。
【0022】
次に、前記重合性化合物2と重合性化合物4を重合して高分子化合物6とする(図1(d)参照)。このようにして、本実施形態に係る有機・無機複合体が得られる。
【0023】
なお、得られた有機・無機複合体のうち、有効径外の部位(図1(d)において、斜線で示す部位)を除去して、粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有する、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体7を得てもよい(図1(e)参照)。上記の除去する方法としては、切削除去する方法、溶解させる方法などが挙げられる。
【0024】
粒子の屈折率が、高分子化合物及び無機酸化物よりも高い場合、中心部から円周部にかけて屈折率が徐々に大きくなる、有機・無機複合体ができる。このような有機・無機複合体は凹レンズと同じ機能を有する。
【0025】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法は、以下の工程を有する。
【0026】
(i)粒子が分散した無機酸化物のゲルに、重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物を拡散させる工程
(ii)(i)の拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程
このように本実施形態に係る製造方法は、第1の実施形態と同様、無機酸化物のゲルを用いているため、液状のマトリックス相を用いる場合に比べて、粒子の濃度分布を形成することが容易である。
【0027】
(1)及び(2)の工程を行うことによって、粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体が得られる。また、本発明の第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法の一例は、溶媒を含有し、前記粒子が分散した前記無機酸化物のゲルの周囲に、重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの溶媒を前記重合性化合物で置換すると共に前記無機酸化物のゲル中に分散している粒子を前記重合性化合物中に拡散させて、前記無機酸化物のゲル中に粒子の濃度分布を形成させる工程と、前記重合性化合物を重合して高分子化合物とする工程とを有する。
【0028】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法の一例を示す説明図である。同図2において、本実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法は、溶媒を含有し、粒子15が分散している無機酸化物のゲル11の周囲に、重合性化合物12を接触させて、前記無機酸化物のゲルの溶媒を前記重合性化合物12で置換すると共に前記無機酸化物のゲル11中に分散している粒子15を拡散方向Aの方向に、前記重合性化合物12中に拡散させて、前記無機酸化物のゲル11中に粒子15の濃度分布を形成させる(図2(a)参照)。Bは重合性化合物12の拡散方向、Cは溶媒の拡散方向を示す。無機酸化物のゲル11中の粒子の濃度分布は、無機酸化物のゲル11の周囲は粒子の濃度が低く、ゲル11の中心方向に向かうに従って粒子の濃度が高い濃度分布となる。矢印22は粒子の濃度分布を示し、線の幅の大きい部分は粒子の濃度が高く、線の幅の小さい部分は粒子の濃度が低いことを表す。
【0029】
次に、前記重合性化合物12を重合して高分子化合物16とする(図2(b)参照)。このようにして、本実施形態に係る有機・無機複合体が得られる。
【0030】
なお、得られた有機・無機複合体のうち、有効径外の部位(図2(b)において、斜線で示す部位)を除去して、粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有する、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体17を得てもよい(図2(c)参照)。上記の除去する方法としては、切削除去する方法、溶解させる方法などが挙げられる。
【0031】
粒子の屈折率が、高分子化合物及び無機酸化物よりも高い場合、円周部から中心部にかけて屈折率が徐々に大きくなる、有機・無機複合体ができる。このような有機・無機複合体は凸レンズと同じ機能を有する。
【0032】
第1及び第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法において、ゾルゲル法により作製された無機酸化物のゲルを好適に用いることができる。ここでいうゾルゲル法とは、公知のゾルゲル反応のことを指し、前述した無機酸化物に対応した前駆体のゾルゲル脱水縮合反応を経て、無機酸化物のゲルが作成される。例えば、シリカゲルを作製する場合、対応する前駆体としてテトラメトキシシラン等のシリルアルコキサイドが好ましく用いられ、酸或いはアルカリ触媒によって反応が進行する。この際に希釈する溶剤の量を増加させたり、三官能、二官能性の前駆体を併用することで、ゲルの架橋密度を下げることが可能である。ゲルの架橋密度が低いことで粒子が拡散しやすくなるため、適切なゲルの架橋密度にすることが好ましい。
【0033】
本実施形態の、重合性化合物を含む前記無機酸化物のゲル中に粒子の濃度分布を形成させる工程については様々な方法が挙げられるが、本実施形態においては、粒子として、例えば後述する無機ナノ粒子の拡散を利用する方法が好ましく用いられる。本実施形態において、無機ナノ粒子の濃度分布を形成させる工程としては特に前記無機酸化物のゲル中に前記無機ナノ粒子を拡散させる工程、または無機ナノ粒子を含有した無機酸化物のゲル中より無機ナノ粒子を系外に拡散させる工程、のいずれかであることが好ましい。
【0034】
前者の場合の製造方法として、例えば予め無機酸化物のゲルを作成し、ゲル内部の溶媒を重合性化合物で置換してから、重合性化合物に分散した無機ナノ粒子溶液に含浸させ、無機ナノ粒子を拡散させていくことで無機ナノ粒子の濃度分布を形成させる方法などが挙げられる。この拡散工程で拡散速度を速めるために温度を高くしたり、電位等の外力を付与する等の補助的な操作を加えても良い。
【0035】
また、後者の場合の製造方法としては、例えば予め無機ナノ粒子を含んでいる状態でゾルゲル反応を行い、無機ナノ粒子含有ゲルを作製する。次いで、ゲルの溶媒を重合性化合物に置換しながら、或いは置換後に内部の無機ナノ粒子を外部に拡散させていき、無機ナノ粒子の濃度分布を形成させる方法が挙げられる。この場合、無機ナノ粒子の表面にはゾルゲル反応で反応する置換基がないことが好ましく、また無機酸化物のゲル密度は無機ナノ粒子が移動しやすいように、低いほうが好ましい。この拡散工程では前記同様、温度を高くしたり、遠心分離や電位等の外力を付与する、といった補助的な操作を加えても良い。
【0036】
また、本実施形態において、例えば、第一の重合性化合物を予め無機酸化物のゲル中に置換させておき、第二の重合性化合物に分散した粒子を拡散させていくことで、粒子の濃度分布と重合性化合物の濃度分布とを同時に形成させることが可能である。この方法を用いることで、より広範囲な光学特性を付与させることが可能となる。
【0037】
本実施形態の重合性化合物の重合反応により(前記工程で形成された)粒子の濃度分布を固定化させる工程は、前記重合性化合物を重合反応させることで、粒子の濃度分布を固定化させる工程を指す。前記重合反応とは、ラジカル重合、イオン重合、配位重合等の付加重合反応、さらには重縮合、重付加等といった公知の重合反応を、使用する重合性化合物の種類に応じて用いることができる。これらの重合反応は単一の場合でも構わないし、複数の重合性化合物を用いた場合など、必要に応じて複数の重合反応を用いることもできる。また、作製する有機・無機複合体の環境安定性を高めるために、一度重合反応で粒子の濃度分布を固定化した後に、再度重合成化合物を浸透させて重合反応を行うことも可能である。
【0038】
前記重合性化合物の重合反応は、各々の重合反応において用いられる公知の開始剤、触媒、反応促進剤、等を予め重合性化合物に添加しておき、熱や光といった外部からのエネルギーを加えることで行われる。この際に局所的にエネルギーを加えることで徐々に重合反応させることもできる。例えば、前記反応性基がビニル基等の重合性オレフィンである場合、反応開始にはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や、過酸化ベンゾイル(BPO)等の公知の重合開始剤を用いることができるが、これらに限定されない。
【0039】
また、第1の実施形態、あるいは第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法の各工程において、透明性、線膨張率を損なわない範囲で、前記以外の成分を添加する工程を含んでもよい。このような成分としては、高分子化合物、連鎖移動剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、染顔料、充填剤、耐光安定剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
特に前記高分子化合物は前述の重合性化合物とは別に、例えば複屈折の調整や、線膨張率の低減といった、光学特性の調整や環境安定性の向上を目的に敢えて添加することができる。高分子化合物を使用する場合、前記高分子化合物中には前記重合性化合物と反応し得る置換基を有していると、重合反応において効果的に系内に取り込まれるため、局在化しづらくなり、透明性を高める点で好ましい。
【0041】
本発明の第1及び第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法によって得られた複合体は粒子の濃度分布を有しているため屈折率・アッベ数分布を有しており、さらに良好な環境安定性を有するために、レンズや光導波路等の光学素子として好適に用いられる。上記、第1の実施形態、あるいは第2の実施形態に係る有機・無機複合体の製造方法によって得られる有機・無機複合体は、そのままレンズや光導波路などの光学素子として用いてもよいし、適宜成形して用いてもよい。また、前記製造方法により得られた複合体を目的に応じて切削研磨することで光学部材として加工することも可能であるが、より好ましくは、所望の部材形状の型で注形重合させ、光学部材に加工する方法である。この場合、例えば前記ゲルを注形重合用の型に保持させ、前記重合性化合物を重合して高分子化合物とする工程を行うことでより簡便に光学部材を得ることが可能となる。
【0042】
なお、高分子化合物を得る工程の後に、得られた材料の外周部を除去する工程を有していてもよい。ここで外周部とは、レンズの有効径外の部分のことである。これは、外周部は、高分子化合物の割合が高く、線膨張率が高いという問題があるからである。このように外周部を除去することで、光学素子として必要な部位だけが残り、不要な部位がなくなるという利点がある。上記の除去する方法としては、切削除去する方法、溶解させる方法などが挙げられる。
【0043】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態では、光学素子の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る光学素子の製造方法は、上記のようにして製造された有機・無機複合体の表面に、反射防止膜を設ける工程を有する。
【0045】
なお、ここでいう光学素子として例えば、カメラの撮像系レンズや、顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズ等のレンズや、眼鏡レンズ等の全光線透過型レンズなどが挙げられるが特に限定されない。
【0046】
本実施形態に係る光学素子の製造方法は、反射防止膜と光学素子との間に中間層を設けてもよい。反射防止膜は特に限定されないが、レンズの屈折率と近い屈折率を有するものであることが好ましい。また、中間層は特に限定されないが、レンズの屈折率と反射防止膜の屈折率との間の値をもつ材料からなることが好ましい。また、レンズにおいて、内面反射を低減するため、光が通過できない部分、通常はレンズ側端部(通称はコバ部)などに、使用波長域において実質不透明な膜を形成してもよい。
【0047】
ここで、本実施形態に係る光学素子の製造方法の一例について、図3を用いて説明する。まず、上記の第1の実施形態あるいは第2の実施形態で説明した製造方法によって得られた有機・無機複合体101を用意する。図3では、直方体形状の有機・無機複合体101の断面を示している。次に、有機・無機複合体101の2つの主面に反射防止膜102を設けて、光学素子103を得る。なお反射防止膜は、主面と、主面以外の面に設けてもよい。
【0048】
ここからは上記の、第1の実施形態及び第2の実施形態において用いた粒子、無機酸化物、重合性化合物などについて説明する。以下の説明において、本実施形態というのは、第1の実施形態及び第2の実施形態のことである。
【0049】
(無機酸化物)
本実施形態において、ゾルゲル法によって作製されるゲルを構成する無機酸化物としては、一般的な金属・非金属の無機酸化物を用いることができる。本実施形態に用いることができる無機酸化物は光学部材として好適な光学特性を有することが好ましく、前駆体よりゾルゲル反応によってゲル化し得る無機酸化物であれば構わない。
【0050】
無機酸化物の例として、具体的には酸化ケイ素(SiOなど)、酸化チタン(TiOなど)、酸化ジルコニウム(ZrOなど)、酸化アルミニウム(Alなど)が挙げられ、より好ましくはSiOである。
【0051】
本実施形態の無機酸化物のゲルは、無機アルコキシドのゾルゲル反応による加水分解縮重合によって得られる。このゾルゲル反応において、用いられる無機アルコキシドについては、一種類でもよく、複数種類の化合物を用いても構わない。本実施形態における無機酸化物として好ましくはシリカであるため、対応するアルコキシドとしてはテトラメトキシシラン(TMOS)やテトラエトキシシラン(TEOS)のような四官能性シラン、或いはエチルトリエトキシシランやフェニルトリエトキシシランといったアルキル置換された三官能性シラン、さらにメタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようにビニル基を含有する三官能性シランといった化合物が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもいいし、複数種類用いても良い。複数種類用いる場合、置換されているアルキル基の種類によっては加水分解性、縮合性が大きく異なる場合があるが、その場合は予め別々に加水分解させてから混合させて縮合させると反応性が向上することもある。
【0052】
(粒子)
本実施形態に用いられる粒子は、無機酸化物や金属等の無機ナノ粒子、ポリマーや、フラーレンなど炭素化合物等の有機ナノ粒子等が用いられるが、好ましくは無機ナノ粒子である。無機ナノ粒子は大きさがナノスケールの粒子を指す。具体的には、平均粒径100nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。平均粒径は、通常、動的光散乱法などの手段で測定することができる。平均粒径が100nmより大きくなると、粒子の散乱により複合体のヘイズ値が大きくなり、透明性を損なう場合があるため、好ましくない。
【0053】
無機ナノ粒子としては、特に限定されないが、酸化ストロンチウム(SrOなど)、酸化チタン(TiOなど)、酸化ジルコニウム(ZrOなど)、酸化ニオブ(Nbなど)、酸化タンタル(Taなど)、酸化モリブデン(MoOなど)、酸化タングステン(WO、Wなど)、酸化亜鉛(ZnOなど)、酸化アルミニウム(Alなど)、酸化インジウム(In、InOなど)、酸化ゲルマニウム(GeO、GeOなど)、酸化スズ(SnOなど)、酸化鉛(PbO、PbOなど)、酸化アンチモン(Sb、Sbなど)、酸化ビスマス(Biなど)、酸化ランタン(Laなど)などの酸化物、または、これらの酸化物に他の金属あるいは金属酸化物を複合化した複合酸化物、または、ダイヤモンド、シリカなどが挙げられる。
【0054】
本実施形態において、粒子が移動する前の初期状態においては、粒子は均一に分散している状態であることが好ましい。すなわち、第1の実施形態では、粒子は重合性化合物中に均一に分散している状態であることが好ましく、第2の実施形態では、粒子は、無機酸化物ゲル中に均一に分散している状態であることが好ましい。粒子を重合性化合物中あるいは無機酸化物ゲル中に均一に分散させる方法としては、粒子を、シランカップリング剤等を用いて、表面修飾する方法が好ましい。この表面修飾は公知の技術を用いることができる。また、本実施形態における粒子の表面には、後述する重合性化合物と反応し得る置換基が結合していることが好ましい。この場合、後述の製造工程のうち、粒子の濃度分布を固定化する工程において、粒子が効果的に固定化され、重合反応時の重合相分離による濃度分布ムラを防ぎやすくなる。
【0055】
(溶媒)
本実施形態において、無機酸化物のゲルの溶媒には、公知のゾルゲル反応時に用いられる、水やアルコール、有機溶媒などの各種溶媒の他に、それらを置換させることであらゆる公知の有機溶剤、またはそれらの複数種類の混合物を用いることができる。これに加えて、溶媒中に粘度や揮発性を調整する目的で高分子化合物、その他低分子化合物等の添加剤を添加することもできる。
【0056】
(重合性化合物)
本実施形態に用いられる重合性化合物とは一般的な高分子化合物の前駆体である重合性単量体(モノマー)の事を指す。重合性化合物として、例えば、アクリル系モノマー、スチレン系モノマー、環状ポリオレフィン系モノマーといったビニル系重合性化合物が挙げられる。さらに、エポキシ系モノマー、ポリカーボネート系モノマー、ポリエステル系モノマー、ポリエーテル系モノマー、ポリアミド系モノマーなどといった化合物例が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
また、本実施形態の重合性化合物は前記例示した化合物がいずれか一種類のみでも構わないし、複数種類含まれていても構わない。例えば、スチレン−アクリル共重合体のような、前記例示したビニル系重合性化合物のモノマー単位が複数含まれていて共重合させる場合がある。また、ポリエステル系モノマー、ポリアミド系モノマーとを混合させ、それぞれに対応する樹脂を生成させ、複数種類の樹脂の混合系とする場合でもよく、目的とする光学特性や材料物性に応じて前述した重合性化合物を自由に組み合わせて用いても構わない。
【0058】
本実施形態の複合体に含有される重合性化合物として、好ましくはビニル系重合性化合物である。ビニル系重合性化合物はラジカル重合、イオン重合、配位重合といった公知の重合方法で重合させることができるビニル基含有モノマーの総称であり、本実施形態においては好ましく用いることができる。
【0059】
また、本実施形態の重合性化合物は、光学部材あるいは光学素子としての特性を向上させるために多官能性モノマー、或いは複数の反応性官能基を有する化合物を用いることができる。これらを用いることで、重合時に三次元的な架橋構造が生じるため、有機成分の三次元ネットワーク構造が形成され、線膨張率の低下や、ガラス転移点が高くなる等、光学特性的に良好となる場合がある。
【0060】
前記ビニル系重合性化合物としては、例えばアクリル系モノマーの場合、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルフォスフェート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロキシエチルイソシアヌレート、などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0061】
また、スチレン系モノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、トリメチルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、p−ヒドロキシスチレン、メトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ジビニルベンゼン、などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0062】
本実施形態の有機・無機複合体の製造方法に使用される無機酸化物、粒子および重合性化合物の使用割合は下記のとおりである。
【0063】
無機酸化物は、得られた有機・無機複合体に対して1から95質量%であることが好ましく、より好ましくは5から90質量%の範囲である。1質量%より少ないと環境安定性の差が大きくなってしまい、好ましくない。また、95質量%より大きいと粒子の拡散がしづらくなる場合があり、好ましくない。
【0064】
粒子は、得られた有機・無機複合材に対して最も濃度の高い部分において、0.1から95質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1から90質量%の範囲である。0.1質量%より少ないと粒子の濃度分布による光学特性差が出にくくなる場合があり、好ましくない。また、95質量%より大きいと系の粘度が大きくなりすぎて取扱が困難になるため、好ましくない。
【0065】
重合性化合物は、得られた有機・無機複合材における高分子化合物として1から95質量%であることが好ましく、より好ましくは5から90質量%の範囲である。1質量%より少ないと重合前において粒子拡散の速度が遅くなりすぎて好ましくない。また、95質量%より大きいと環境安定性が悪くなる場合があり、好ましくない。
【0066】
(有機・無機複合体)
本実施形態により得られる有機・無機複合体は、無機酸化物のゲル中に無機ナノ粒子が分布していることを特徴としており、その結果として屈折率やアッベ数などの光学特性分布を有していることを特徴とする。
【0067】
本実施形態の有機・無機複合体は、無機酸化物のゲル中に無機ナノ粒子が分布し、高分子化合物との複合体を形成している。そのため、無機酸化物と無機ナノ粒子、高分子化合物との間に複雑な相互作用が生じ、結果的に無機ナノ粒子の濃度差に比べて線膨張率の変化が少なくなっているものと考えられる。
【0068】
ここでいう線膨張率とは20℃から60℃における線膨張係数の平均値であり、熱機械分析装置(TMA)等により測定することができる。
【0069】
本実施形態の有機・無機複合体は無機ナノ粒子の濃度分布に加えて、無機酸化物のゲルや重合性化合物が重合反応した結果生じる、高分子化合物においても濃度や組成分布を有していても良い。それぞれが分布を有することで、複合体全体としてより広範な光学特性を持たせることが可能となる。例えば、無機酸化物のゲルに分布を持たせる場合は、光酸(或いは塩基)発生剤等を添加し、UV等の光を照射して部分的にゾルゲル反応を進行させる方法が挙げられる。また、それに加えて他の種類のゾルゲル反応前駆体を組み合せてゾルゲル反応させ、無機酸化物の組成分布を持たせることも可能である。一方、高分子化合物に分布を持たせる場合は、二種類以上の重合性化合物の組成分布を持たせておいて重合する方法が挙げられる。また、重合反応に寄与しない低分子・高分子化合物を含有させておき、重合反応前に濃度分布をつける方法や、重合反応させながら濃度分布をつける方法、などが挙げられる。ここで挙げた方法以外にも様々な方法があり、本実施形態においてはこれらに限定されない。
【0070】
また、本実施形態の有機・無機複合体には、透明性、線膨張率、および各種光学特性を損なわない範囲で、前記以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、高分子化合物、連鎖移動剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、染顔料、充填剤などが挙げられる。特に前記高分子化合物は前述の重合性化合物とは別に、例えば複屈折の調整や、線膨張率の低減といった、光学特性の調整や環境安定性の向上を目的に敢えて添加することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、後述する表中の各評価は次の方法に従い実施した。
【0072】
(線膨張率の測定)
以下の実施例において行った線膨張率の測定は、熱機械測定装置((株)リガク製Thermo plus EVO/TMA8310)を用い、20℃から60℃の温度範囲で行った。なお、以下の実施例における線膨張率は、プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法((JIS−K7197)を参考にして測定した。具体的には、有機・無機複合体のサンプルを5mm立方の大きさとなるように切り出し、JIS−K7197と同様の測定手法を用いて線膨張率を測定した。
【0073】
(実施例1)
ベースとなるゲルは次のように作製した。テトラメトキシシラン(TMOS)100質量部、エタノール200質量部、1N塩酸100質量部の混合液を加えてよく混合する。この溶液を円盤状の型(20mmφ、厚さ5mm)に入れ、60℃でゲル化するまで加熱することでゲル状物質を得た。
【0074】
得られたゲルを型から出し、メチルメタクリレート(MMA)反応液(MMA90質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)10質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1質量部の混合液)に浸漬し、ゲル中の溶媒を完全に置換した。
【0075】
得られたゲルを、上下面が石英ガラスである内径50mmφ、内部幅5mmの円柱状注形重合用セル内にセットし、ジルコニア/MMA反応液(住友大阪セメント社製ナノジルコニア/MMA分散液(平均粒径7nm、10wt%)を濃縮し、ジルコニア分散体20wt%、TMPTAを10wt%、AIBNを1wt%、MMAは残分と調整した反応液)で空隙を満たしてから24時間静置後、60℃で重合反応させた。重合反応終了後、セルから有機・無機複合体を取り出してから、その有機・無機複合体の有効径外の部位を切削除去した。
【0076】
有機・無機複合体の外観は無色透明であり、目視により凹レンズ状の屈折率分布がついていたため、両面を鏡面研磨加工し、ジルコニアの濃度分布を評価するため、蛍光X線分析を行った(島津製作所製、μEDX−1300)。分析の結果、中心部から周辺部の方向へジルコニアの分布が濃度換算で0から20wt%まで変化していることを確認した。その中から濃度0wt%、10wt%、20wt%となる部分を5mm四方に切り出し、線膨張率の測定を行った。その結果、それぞれ64ppm/K、60ppm/K、58ppm/Kとなった。その結果、濃度0から20wt%での線膨張率差は6ppm/Kであった。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
ベースとなるゲルを、テトラメトキシシラン(TMOS)100質量部、ジルコニア/テトラヒドロフラン(THF)分散液(前記の住友大阪セメント社製ナノジルコニア/MMA分散液を濃縮乾固し、THFに再分散して30wt%に調整したもの)200質量部、THF50質量部、0.1Nアンモニア水50質量部の混合液を加えてよくかき混ぜる。この溶液を円盤状の型(20mmφ、厚さ5mm)に入れ、40℃でゲル化するまで加熱することでゲル状物質を得た。
【0078】
得られたゲルを、上下面が石英ガラスである内径50mmφ、内部幅5mmの円柱状注形重合用セル内にセットし、まずTHFでゲル内の溶媒交換を行った。その後、MMA反応液(MMA90質量部、TMPTA10質量部、AIBN1質量部)で空隙を満たし、静置して空隙の溶液濃度が安定してから抜き出し、再度MMA反応液を注入、という操作を5回繰り返した後、さらに24時間静置してから60℃で重合反応させた。重合反応終了後、セルから有機・無機複合体を取り出してから、その有機・無機複合体の有効径外の部位を切削除去した。
【0079】
有機・無機複合体の外観は無色透明であり、目視により凸レンズ状の屈折率分布がついていたため、両面を鏡面研磨加工し、ジルコニアの濃度分布を実施例1と同様に評価した。分析の結果、周辺部から中心部の方向へジルコニアの分布が濃度換算で5から15wt%まで変化していることを確認し、その中から5wt%、15wt%となる部分を5mm四方に切り出し、線膨張率の測定を行った。その結果、それぞれ63ppm/K、60ppm/Kとなった。その結果、5から15wt%での線膨張率差は3ppm/Kであった。その結果は表1に示す。
【0080】
(実施例3)
ベースとなるゲルは次のように作製した。まず、オキソブタン酸エチル50質量部、2−エチルブタノール200質量部を混ぜ、これにアルミニウムsecブトキシドを100質量部を加え、よくかき混ぜる。この溶液に2−エチルブタノール135質量部、1−エトキシ−2−プロパノール15質量部、0.01N塩酸1質量部を混合した溶液を少しずつ滴下し、よくかき混ぜる。その後、110℃で2時間加熱し、0.45μmのフィルターでろ過することでアルミナゾルを得た。このゾル液を円盤状の型(20mmφ、厚さ5mm)に入れ、室温(23℃)で溶媒をゆっくり揮発させることでゲル状物質を得た。
【0081】
得られたゲルを型から出し、実施例1と同様のMMA/TMPTAの反応液に浸漬し、ゲル中の溶媒を完全に置換した。
【0082】
得られたゲルを、実施例1と同様の方法でジルコニア/MMA反応液を用いて注形重合させた。重合反応終了後、セルから有機・無機複合体を取り出してから、その有機・無機複合体の有効径外の部位を切削除去し、有機・無機複合体を得た。
【0083】
有機・無機複合体の外観は無色透明であり、目視により凹レンズ状の屈折率分布がついていたため、両面を鏡面研磨加工し、実施例1と同様の手法によりジルコニアの濃度分布を分析した結果、中心部から周辺部の方向へジルコニアの分布が濃度換算で0から15wt%まで変化していることを確認し、その中から濃度0wt%、15wt%となる部分を5mm四方に切り出し、線膨張率の測定を行った。その結果、それぞれ62ppm/K、58ppm/Kとなった。濃度0から15wt%での線膨張率差は4ppm/Kであった。その結果を表1に示す。
【0084】
(実施例4)
ベースとなるゲルは実施例1と同様の手法により作製した。その後、得られたゲルを型から出し、オキセタン(OXT)反応液(2−エチルヘキシルオキセタン(EHOX:東亞合成(株)社製OXT−212)90質量部、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン(DOX:東亞合成(株)社製OXT−221)10質量部、IRGACURE250(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1質量部の混合液)に浸漬し、ゲル中の溶媒を完全に置換した。
【0085】
得られたゲルを、実施例1と同様の注型重合用セル内にセットし、ジルコニア/OXT反応液(住友大阪セメント社製ナノジルコニア/MMA分散液(平均粒径7nm、10wt%)を濃縮乾固し、EHOXで濃度調整を行ったジルコニア分散体のEHOX溶液20wt%、DOXを10wt%、IRGACURE250を0.1wt%、EHOXは残分と調整した反応液)で空隙を満たしてから公知の光重合法により放射線を照射し、硬化するまで重合反応させた。放射線照射光源として、250W超高圧水銀ランプを備えたUV光源EX250(HOYA CANDEO OPTRONICS CORPORATION社製)を用いた。光源と注型重合用セルとの間に、紫外透過可視吸収フィルター(UTVAF−50S−36U)及びフロスト型拡散板(DFSQ1−50C02−800)(いずれもシグマ光機製)を配置し、光源から注型重合用セルに放射線を照射した。注型重合用セルの照射側の石英ガラス表面における照度は、波長365nmにおいて30mW/cm2であった。
【0086】
重合反応終了後、セルから有機・無機複合体を取り出してから、その有機・無機複合体の有効径外の部位を切削除去し、有機・無機複合体を得た。
【0087】
有機・無機複合体の外観は無色透明であり、目視により凹レンズ状の屈折率分布がついていたため、両面を鏡面研磨加工し、実施例1と同様の手法によりジルコニアの濃度分布を分析した結果、中心部から周辺部の方向へジルコニアの分布が濃度換算で0から16wt%まで変化していることを確認し、その中から濃度0wt%、16wt%となる部分を5mm四方に切り出し、線膨張率の測定を行った。その結果、それぞれ67ppm/K、62ppm/Kとなった。濃度0から16wt%での線膨張率差は5ppm/Kであった。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、粒子の濃度分布を有する環境安定性の良好な有機・無機複合体を得ることができるので、レンズ等の光学部材に利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 無機酸化物のゲル
2 重合性化合物
3 溶媒を重合性化合物で置換した無機酸化物
5 粒子
4 重合性化合物
6 高分子化合物
7 有機・無機複合体
11 無機酸化物のゲル
12 重合性化合物
15 粒子
16 高分子化合物
17 有機・無機複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法において、
前記無機酸化物のゲルに、前記粒子が分散している重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物及び前記粒子を拡散させる工程と、
前記拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程と、
を有することを特徴とする粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法。
【請求項2】
粒子と無機酸化物と高分子化合物を含有し、前記粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法において、
前記粒子が分散した前記無機酸化物のゲルに、重合性化合物を接触させて、前記無機酸化物のゲルの中に前記重合性化合物を拡散させる工程と、
前記拡散させる工程の後に前記重合性化合物を重合して高分子化合物を得る工程と、
を有することを特徴とする粒子の濃度分布を有する有機・無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記無機酸化物がSiO、TiO、Al、ZrOのいずれか一つまたは複数であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機・無機複合体の製造方法。
【請求項4】
前記粒子が無機ナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機・無機複合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合性化合物がビニル系重合性化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機・無機複合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合性化合物を重合して高分子化合物とする工程の後に、得られた材料の外周部を除去する工程を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機・無機複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法によって得られた有機・無機複合体を用意する工程と、
前記有機・無機複合体の表面に、反射防止膜を設ける工程を有することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17463(P2012−17463A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129553(P2011−129553)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】