説明

有機光電変換素子及びその製造方法

【課題】多層の有機層を有する場合においても、有機層を塗布法により容易に形成することが可能であり、かつ、優れた素子特性を有する有機光電変換素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも一層の重合層を有する有機光電変換素子であって、前記重合層が、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を用いて形成された層であり、前記重合開始剤がオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まないことを特徴とする有機光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を有機光電変換素子(有機太陽電池、光センサー等)の活性層に用いる検討が活発に行われている。特に、有機半導体薄膜により構成された太陽電池である有機薄膜太陽電池は、従来のシリコンや化合物半導体太陽電池と比較して、簡便な製法により低コストで製造することができるため、将来の低コスト太陽電池として期待されている。
【0003】
このような有機薄膜太陽電池としては、ショットキー型、pnヘテロ接合型、バルクヘテロ接合型、p−i−n接合型などが提案されている。特に、p型有機半導体(例えば、ポリチオフェン誘導体やポルフェニレンビニレン誘導体など)と、n型有機半導体(例えば、フラーレン(C60)誘導体など)とをブレンドし、pn接合面をナノオーダで薄膜全体に分散させるようにしたバルクヘテロ接合型は、変換効率が高く、有望な技術として多くの研究がなされ始めている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
また、有機薄膜太陽電池は、有機化合物の薄膜を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有しており、薄膜の形成方法としては、蒸着法と塗布法とに大別される。蒸着法は、主に低分子化合物を用い、真空中で基板上に薄膜を形成する手法である。一方、塗布法は、インクジェットや印刷など、溶液を用いて基板上に薄膜を形成する手法であり、材料の利用効率が高く、大面積化に向いており、低コストな有機薄膜太陽電池を製造するのに不可欠な手法である。
【0005】
図1に、塗布法によって形成された有機薄膜太陽電池の一例を示す。一般に、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の高効率化、長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましいと考えられている。1は光電変換層であり、バルクヘテロ接合型の場合は、p型半導体とn型半導体の混合物からなる。2、3は電極であり、少なくとも1つは透明電極である。光電変換層と電極との間には、変換効率を向上させるためにバッファ層4を挿入することができる。なお、5は基板である。
【0006】
近年報告されている、塗布法を用いて形成された有機薄膜太陽電池では、バッファ層としてPEDOT:PSSが多用されている。PEDOT:PSSは、ポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸からなる導電性高分子である。
【0007】
バッファ層としてPEDOT:PSSが多用されているが、これはPEDOT:PSSが水を、光電変換層がトルエン等の有機溶媒を溶媒として使用しており、PEDOT:PSSはトルエン等の有機溶媒には不溶であるために、塗布法によって2層構造を作製することが可能であるためである。
【0008】
一方で、PEDOT:PSSが大気中の水分を吸湿することで素子劣化を引き起こしていることも指摘されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−179802号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Xue, S. Uchida, B. P. Land, S. R. Forrest, Appl. Phys. Lett., 85, p.5757(2004)
【非特許文献2】山成敏広,當磨哲也,吉田郵司,M&BE Vol.19, No.4, 231-234 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況を鑑み、さらなる高効率化、長寿命化のためには、塗布法によって形成された多層の有機層を有する有機光電変換素子において、有機層の改良が求められていた。
【0012】
したがって、本発明は、多層の有機層を有する場合においても、有機層を塗布法により容易に形成することが可能であり、かつ、優れた素子特性を有する有機光電変換素子を提供することを目的とする。また、本発明は、大面積であっても製膜が可能な塗布法を用い、上層の有機層を製膜する際に、下層の有機層を溶解させることなく、優れた素子特性を有する有機光電変換素子を容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、1つ以上の重合可能な置換基を有し、かつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーと、特定の重合開始剤とを含む混合物を用いることにより、塗布法により多層の有機層を容易に形成することが可能であり、かつ、優れた素子特性を有する有機光電変換素子を提供することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、少なくとも一層の重合層を有する有機光電変換素子であって、前記重合層が、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を用いて形成された層であり、前記重合開始剤がオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まないことを特徴とする有機光電変換素子に関する。
本発明の有機光電変換素子の好ましい態様として、例えば、
前記オニウム塩が、スルホニウム塩、アニリニウム塩、及びトリチル塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む上記有機光電変換素子、
前記重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される少なくとも1種を含む上記有機光電変換素子、
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである上記有機光電変換素子、
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである上記有機光電変換素子、
前記重合層がバッファ層である上記有機光電変換素子、
有機光電変換素子が前記重合層と光変換層を有し、重合層と光電変換層とが隣接して積層されている上記有機光電変換素子、
前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、形成した重合層上に光電変換層を積層する工程を含む手段により得られた上記有機光電変換素子、
前記有機光電変換素子が基板を有し、基板がフレキシブル基板である上記有機光電変換素子、
前記有機光電変換素子が基板を有し、基板が樹脂フィルムである上記有機光電変換素子、を挙げることができる。
【0015】
また、本発明は、少なくとも一方が透明な一対の電極と、前記電極間に形成された重合層とを備えた有機光電変換素子の製造方法であって、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を塗布して得られた層を重合させることにより前記重合層を形成する工程を有し、前記重合開始剤がオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まないことを特徴とする有機光電変換素子の製造方法に関する。
本発明の有機光電変換素子の製造方法の好ましい態様として、例えば、有機光電変換素子がさらに光電変換層を有し、光電変換層用混合物を前記重合層上に塗布することにより前記光電変換層を積層する工程を有する上記有機光電変換素子の製造方法、を挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機光電変換素子は、多層の有機層を有する場合においても、塗布法を用いて容易に形成することが可能であり、かつ、優れた光電変換効率及び寿命を有する。また、本発明の有機光電変換素子の製造方法は、大面積であっても製膜が可能な塗布法を用いる方法であり、上層の有機層を製膜する際に、下層の有機層を溶解させることなく、優れた光電変換効率及び寿命を有する有機光電変換素子を容易に製造することができる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】有機光電変換素子の一例を示す断面図である。
【図2】実施例及び比較例において得られた有機光電変換素子の電流−電圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の有機光電変換素子は、少なくとも一層の重合層を有する。本発明の有機光電変換素子は、少なくとも一方が透明な一対の電極を有していてもよい。さらに、本発明の有機光電変換素子は、基板を有していてもよい。本発明の有機光電変換素子の実施態様として、互いに隣接する重合層と光電変換層とを備えた素子が挙げられ、また、少なくとも一方が透明な一対の電極と、電極間に形成された光電変換層及び重合層とを備えた素子が挙げられる。重合層は、バッファ層として機能させることができる。
【0019】
本発明の有機光電変換素子においては、重合層が、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を用いて形成された層であり、重合開始剤として、オニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まない重合開始剤が用いられる。
【0020】
以下、各構成要素及びその形成方法について順に説明する。
[重合層]
本発明の有機光電変換素子は、1つ以上の重合性置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含む混合物を用いて形成された重合層を有する。1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含む混合物を用いて形成された重合層とは、例えば、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーと重合開始剤とを含む混合物を用いて、塗布法により所望の基体や電極等の上に塗布層を形成した後、光照射や加熱処理などにより、ポリマー又はオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化させた(塗布層を硬化させた)層である。
【0021】
上記塗布法は、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法が挙げられる。
【0022】
上記のような塗布方法は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができる。また、混合物には溶媒を含有させることができ、溶媒としては、特に制限されないが、例えば、クロロベンゼン、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、テトラリン等を挙げることができる。
【0023】
また、塗布後、ホットプレートやオーブンによって+30〜+300℃の温度範囲で加熱することで溶媒を除去してもよい。
【0024】
また、上記光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができる。
【0025】
一方、上記加熱処理は、ホットプレート上やオーブン内で行うことができ、0〜+300℃の温度範囲、好ましくは20〜250℃、特に好ましくは80〜200℃で実施することができる。
【0026】
また、ポリマー又はオリゴマーが有する重合可能な置換基の重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(塗布層を硬化)させることで、さらに重合層の上に光電変換層等の他の層を塗布形成する場合でも、その塗布液によって重合層が溶解することがないため、当該他の層を塗布法により形成することができる。つまり、塗布法によって多層構造を容易に作製することができ、高効率、長寿命の有機光電変換素子を、低コストで製造することができる。また、重合反応によって重合層の熱的安定性を改善することもできる。
【0027】
[混合物]
次に、上記重合層を形成するために用いる、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含む混合物について詳細を述べる。
【0028】
上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことである。
【0029】
重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基又はシロキサン誘導体を含有する基(例えば、環状シロキサン基等)等が挙げられる。
【0030】
また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。
【0031】
重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、有機光電変換素子の素子特性の観点から、オキセタン基が最も好ましい。
【0032】
また、重合可能な置換基は、ポリマー又はオリゴマーの側鎖として導入されていても、末端に導入されていてもよく、側鎖と末端の両方に導入されていてもよい。有機光電変換素子の素子特性の観点から、末端に導入されていることが好ましく、末端にのみ導入されていることが最も好ましい。
【0033】
上記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーは、例えば、重合層を電極(正極)と光電変換層との間に介在させ、バッファ層として機能させる場合には、隣接した有機層から隣接した電極または有機層へと効率よく正孔を輸送する観点から、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有することが好ましい。このような正孔輸送性を有する繰り返し単位としては、芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を有する単位であることが好ましく、具体的には、例えば、下記一般式(1a)〜(6a)、(7a)〜(13a)等が挙げられる。
【0034】
【化1】

【0035】
上記一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31は、それぞれ独立に置換又は非置換のアリーレン基、ヘテロアリーレン基、又はこれらの両方を含む基を表す。ここで、アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団である。また、アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、置換又は非置換であってもよい。
【0036】
アリーレン基としては、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。
【0037】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。
【0038】
また、置換又は非置換であってもよいアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、又はこれらの両方を含む基の例を下記構造式(1)〜(30)に示す。なお、下記構造式(29)、(30)におけるl、m、nは、1〜5の整数であり、2〜4が好ましい。
【0039】
【化2】

【0040】
上記一般式(1a)〜(6a)の置換基R〜R10、及び(7a)〜(13a)の置換基R、並びに上記構造式(1)〜(30)における置換基Rとしては、特に制限はないが、例えば、−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR又はポリエーテルである下記一般式
【0041】
【化3】

(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状若しくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表し、a、b及びcは、1以上の整数、好ましくは1〜4の整数を表す。)で表される置換基を挙げることができ、それぞれは同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
これらの置換基のうち、上記R〜R10又はRとしては、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は−Rで表されるアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基であるか、−ORで表される水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基が、重合反応性及び耐熱性の点から好ましい。
【0043】
前記一般式(10a)〜(13a)のX及びYは、それぞれ独立に、前記Rのうち、水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。X及びYは、前記Rと同様の置換基を有していてもよい。xは、例えば、0又は1の整数である。
【0044】
【化4】

【0045】
上記一般式(10a)のZは、それぞれ独立に、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から、さらに2つの水素原子を除去した基を表し、例えば、下記構造式が挙げられる。Zは、前記Rと同様の置換基を有していてもよい。
【0046】
【化5】

【0047】
また、上記一般式(1a)〜(6a)において、窒素原子に直接結合していないアリーレン基又はヘテロアリーレン基(式中、Ar、Ar、Ar15)は、溶解度や化学的安定性の観点から、フェニレン基、フルオレン−ジイル基、フェナントレン−ジイル基、縮環構造を有する上記の構造式(29)、式(30)が好ましい。
【0048】
また、重合層の形成のために用いるポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有する場合、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、正孔輸送性を有する繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基を共重合繰り返し単位として有する共重合体でもよい。
【0049】
この場合、共重合体は、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよく、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
【0050】
また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0051】
以下、重合可能な置換基が、ポリマー又はオリゴマーの末端に導入されている場合の詳細について説明する。重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位として上記一般式(1a)〜(6a)のいずれかを有する場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(1b)〜(6b)が例示される。
【0052】
【化6】

【0053】
上記一般式(1b)〜(6b)中のAr32〜Ar73及び置換基R11〜R20は、上記一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31及び置換基R〜R10と同様である。
【0054】
また、重合可能な置換基がポリマー又はオリゴマーの末端に導入され、かつ、正孔輸送性を有する繰り返し単位が上記一般式(7a)〜(13a)のいずれかである場合のポリマー又はオリゴマーとしては、例えば、下記一般式(7b)〜(20b)が例示される。
【0055】
【化7】

【0056】
上記一般式(7b)〜(20b)中のR、X、Y、及びZ、x、並びにArは、上記一般式(7a)〜(13a)中のR、X、Y、及びZ、x、並びに一般式(1a)〜(6a)中のAr〜Ar31と同様である。
【0057】
上記E〜E12及びEは、前述の重合可能な置換基を含有する基であり、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアミン構造を有する基、これらの2つ以上が連結した基等に前述の重合可能な置換基が1つ以上結合した基である。E〜E12及びEとして、好ましくはオキセタン基含有基であり、例えば、以下の構造を含む基が挙げられる。
【0058】
【化8】

【0059】
また、上記一般式(1b)〜(20b)において、繰り返し数nの数平均は、2以上100以下が好ましく、2以上20以下がより好ましい。nが小さすぎると製膜安定性が低下し、大きすぎると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる場合がある。
【0060】
また、重合層に用いるポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、1,000以上100,000以下であることが好ましく、1,000以上、10,000以下であることがより好ましい。分子量が1,000未満であると製膜安定性が低下し、100,000を超えると重合反応を行っても溶解度の変化が小さく、積層化が困難になる場合がある。なお、ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの数平均分子量のことである。
【0061】
また、重合層に用いるポリマー又はオリゴマーの多分散度は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上、5.0以下がより好ましく、1.2以上、3.0以下が最も好ましい。多分散度が小さすぎると、成膜後に凝集しやすくなる傾向があり、大きすぎると素子特性が低下する傾向がある。なお、ポリマー又はオリゴマーの多分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算で測定したときの(重量平均分子量/数平均分子量)のことである。
【0062】
重合層に用いるポリマー又はオリゴマーは、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、ポリマー又はオリゴマーの合成に用いる各モノマー単位が芳香族環を有し、芳香族環同士を結合させたポリマー又はオリゴマーを製造する場合には、ヤマモト(T. Yamamoto)らのBull. Chem. Soc. Jap., 51巻, 7号, 2091頁 (1978)及びゼンバヤシ(M. Zembayashi)らのTet. Lett., 47巻, 4089頁 (1977)に記載されている方法を用いることができるが、スズキ(A.Suzuki)によりSynthetic Communications, Vol.11, No.7, p.513 (1981)において報告されている方法がポリマー又はオリゴマーの製造には一般的である。
【0063】
この反応は、芳香族ボロン酸(boronic acid)誘導体と芳香族ハロゲン化物の間でPd触媒化クロスカップリング反応(通常、「鈴木反応」と呼ばれる)を起こさしめるものであり、所望とする芳香族環同士を結合する反応に用いることにより、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーを製造することができる。
【0064】
また、この反応は、一般的にPd(II)塩又はPd(0)錯体の形態の可溶性Pd化合物を必要とする。芳香族反応体を基準として0.01〜5mol%のPd(PhP)、3級ホスフィンリガンドとのPd(OAc)錯体及びPdCl(dppf)錯体が一般に好ましいPd源である。
【0065】
この反応は、一般的に塩基も必要とし、水性アルカリカーボネートもしくはバイカーボネートが最も好ましい。また、相間移動触媒を用いて、非極性溶媒中で反応を促進することもできる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、アニソール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0066】
本発明において、「重合開始剤」はオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンはヨードニウムを含まない。ヨードニウムを含まないオニウム塩を用いることで、有機光電変換素子の特性を向上させることができる。また、塗布溶液の安定性が増すという利点もある。
【0067】
重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等を加えることによって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましく、加熱によって重合を開始させるものがより好ましい。加熱によって重合を開始させる重合開始剤は、50℃から250℃の範囲で重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものが好ましい。
【0068】
重合開始剤として用いられるオニウム塩として、例えば、スルホニウム塩、アニリニウム塩、トリチル塩等が挙げられる。中でも、スルホニウム塩が素子特性向上の観点から特に好ましい。
【0069】
オニウム塩のアニオンとしては、(C、SbF、PF、(CFSO、CFSO等が挙げられる。中でもPF、SbFが硬化性及び素子特性の観点から好ましい。
【0070】
重合開始剤として好ましく用いられるスルホニウム塩の具体例を以下に示す。
【化9】

式中、Xは、(C、SbF、PF、(CFSO、又はCFSOであり、PF、又はSbFが硬化性及び素子の特性の観点から好ましい。
【0071】
市販されているスルホニウム塩としては、三新化学工業株式会社のスルホニウム塩(SI−15,SI−20,SI−25,SI−40,SI−45,SI−60,SI−60L,SI−80,SI−80L,SI−100,SI−110,SI−110L,SI−150,SI−150L,SI−180,SI−180L)、みどり化学株式会社のスルホニウム塩(DTS−102,DTS−103,DTS−105,MDS−103,MDS−105,MDS−109,MDS−205,NDS−103,NDS−105,NDS−155,NDS−159,NDS−165,TPS−102,TPS−103,TPS−105,TPS−106,TPS−109,TPS−1000等が好適である。
【0072】
また、重合開始剤の配合割合は、ポリマー又はオリゴマーの重量に対して0.1〜50重量%の範囲であることが好ましく、1〜40重量%の範囲であることがより好ましく、3〜30重量%の範囲であることがさらに好ましい。重合開始剤の配合割合が0.1重量%未満であると積層化が困難になる傾向があり、50重量%を超えると素子特性が低下する傾向がある。
【0073】
[光電変換層]
光電変換層は、光を吸収して電荷分離を起こし、起電力を発生するものであれば任意の材料を用いることができる。特に、変換効率の観点から、p型有機半導体と、n型有機半導体とをブレンドした混合物が好ましい。混合物に適切な材料を含有させることにより、重合層を光電変換層とすることも可能である。
【0074】
p型有機半導体としては、例えば、オリゴチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のオリゴマーまたはポリマー;ポルフィリン、フタロシアニン、銅フタロシアニン;これらの誘導体が好適に使用できる。
【0075】
n型有機半導体としては、例えば、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)(CN−PPV)、MEH−CN−PPV、それらの−CF置換ポリマー等の−CN基または−CF基含有オリゴマーまたはポリマー;ポリ(フルオレン)誘導体、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体等のオリゴマーまたはポリマー;フラーレン(C60)、[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester(PCBM)、[6,6]-phenyl-C71-butyric acid methyl ester(PCBM)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、キナクドリン等;これらの誘導体が好適に使用できる。
【0076】
光電変換層の形成方法としては、特に限定されず、蒸着法により形成しても、塗布法により形成してもよい。
【0077】
塗布法により形成する場合、有機光電変換素子を安価に製造することができ、より好ましい。塗布法により形成する方法としては、重合層の形成方法で述べた塗布方法を用いることができる。塗布する際には、光電変換層用混合物が用いられ、光電変換層用混合物は、例えば、p型有機半導体、n型有機半導体、及び溶媒を含む。
【0078】
[その他の層]
また、変換効率または空気中の安定性を向上させる目的で、本発明の有機光電変換素子は、バッファ層や電子輸送層などの光電変換層以外の層を有していてもよい。本発明においては、前述のとおり、重合層をバッファ層として機能する層として設けることが好ましい。電子輸送層としては、LiF、TiOx、ZnOx等が一般的に用いられる。
【0079】
[電極]
電極は、導電性を有するものであれば任意の材料を用いることが可能である。電極としては、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、フッ化リチウム等の金属あるいはそれらの合金や塩;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(ITO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加したもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0080】
また、電極は少なくとも一対(2個)設けられるが、通常、少なくとも一方は透明電極である。透明電極は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物;金属薄膜;PEDOT:PSS等の導電性高分子などが挙げられる。
【0081】
電極は、光電変換層内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものであり、正孔及び電子の捕集に適した電極材料を対にして用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極材料としては、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極としては、例えば、Alのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0082】
電極の形成方法は、特に制限はないが、例えば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等を用いることができる。
【0083】
[基板]
基板は、各層を支持できるものであれば任意の材料を用いることが可能である。基板としては、例えば、ガラス等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、塩化ビニル、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、ポリ乳酸等の有機材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料などが挙げられる。また、ガスバリア性の付与のために、酸化珪素や窒化珪素等の無機物を積層してもよい。
【0084】
特に、PET、PEN、PES、PI、PEI、COP、PPS等の有機材料からなる樹脂フィルムは、透明性、フレキシブル性を付与でき、好ましい。
【0085】
[封止]
本発明の有機光電変換素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPEN等のプラスチックフィルム、酸化珪素や窒化珪素等の無機物等を用いることができる。
【0086】
封止の方法としては、特に限定されないが、たとえば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等により有機光電変換素子上に直接形成する方法や、ガラスやプラスチックフィルムを接着剤により張り合わせる方法等が使用可能である。
【0087】
[有機光電変換素子の製造方法]
本発明の有機光電変換素子の製造方法は、1つ以上の重合性置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を用い、塗布法により薄膜を形成し、さらに重合性置換基を反応させて溶解度を変化させて(ポリマー又はオリゴマーを重合させて)、重合層を形成する過程を含む。
【0088】
重合層を上記方法で形成した後、重合層上に光電変換層を形成する場合には、低いコストで製造できる観点から、光電変換層も塗布法によって製造されることがより好ましい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0090】
<重合可能な置換基を有するモノマーの合成>
(モノマー合成例1)
【化10】

【0091】
丸底フラスコに、p−ブロモベンジルアルコール(16.4g,0.088mol)、3−(6−ブロモヘキシルオキシメチル)−3−エチルオキセタン(22.2g,0.080mol)をn−ヘキサン320mLに溶解し、さらにテトラブチルアンモニウム−ブロミド(1.29g,4.0mmol)と45%水酸化ナトリウム水溶液80gを加えて9時間加熱還流を行った。反応終了後、水200mLを加えて有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:ワコーゲル(R)C−300HG、移動層:n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製し、無色油状の重合可能な置換基を有するモノマーAを得た(18.4g,収率60.2重量%)。NMRの結果を以下に記す。
1H NMR(300MHz, CDCl3, dppm) ; 0.88(t, 3H), 1.37(m, 4H), 1.59(m, 4H), 1.74(q, 2H)
【0092】
<重合可能な置換基を有しかつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するオリゴマーの合成>
(オリゴマー合成例1)
【化11】

【0093】
ジムロート冷却管及び3方コックを取り付けた3つ口フラスコに、4−n−ブチルトリフェニルアミン−4’,4”−ジブロニックアシッドビス(ピナコール)エステル(18.2mmol)、4,4’−ジブロモ−4”−n−ブチルトリフェニルアミン(14.5mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(7.4mmol)、Tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium(0)(0.125mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン(0.200mmol)、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(100mL)、アニソール(60mL)を入れ、窒素雰囲気下、90℃、2時間加熱撹拌した。
【0094】
反応終了後、有機層を水洗した後、メタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer(Strem Chemicals社、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。撹拌終了後、triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymerと不溶物をろ過して取り除き、メタノールに滴下し沈殿物を得た。前記の再沈殿を4回繰り返し行って精製することで、重合可能な置換基を有し、かつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するオリゴマーAを得た。得られたオリゴマーAの数平均分子量はポリスチレン換算で8300であった。
【0095】
[実施例1]
<有機光電変換素子の作成>
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、上記で得たオリゴマーA(4.5mg)、下記構造式で表される重合開始剤SI−110(三新化学社製、0.15mg)、トルエン(1.2mL)を混合した塗布溶液を滴下し、3000rpmで60秒間スピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、バッファ層(重合層)(40nm)を形成した。
【化12】

【0096】
次に、各20mgのP3HTとPCBMを1mLのクロロベンゼンに溶解した混合溶液をスピンコートし、光電変換層を形成した。次に、得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、Al(膜厚100nm)を蒸着し、有機光電変換素子を作製した。下層であるバッファ層が溶解することはなかった。
【0097】
得られた有機光電変換素子に、AM1.5G(100mW/cm)の擬似太陽光を照射し、電流−電圧特性(J−V特性)を測定し、エネルギー変換効率を求めた。エネルギー変換効率は0.5%であった。
【0098】
次に、寿命特性として、室温、暗所に保管し、100時間おきにエネルギー変換効率を評価した。500時間経過後のエネルギー変換効率は初期に対して22%減少した。
【0099】
[実施例2]
重合開始剤を下記構造式で表されるSI−60(三新化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にして有機光電変換素子を作製した。下層であるバッファ層が溶解することはなかった。得られた有機光電変換素子のエネルギー変換効率を実施例と同様にして評価したところ0.5%であった。寿命特性は、500時間経過後のエネルギー変換効率が初期に対して20%減少した。
【化13】

【0100】
[比較例1]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、PEDOT:PSS分散液(H.C.Stark社製、Clevios−CH8000)を1500min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中200℃/10分加熱乾燥してバッファ層(40nm)を形成した。以後、実施例1と同様にして光電変換層、電極を形成し、エネルギー変換効率、寿命特性を評価した。エネルギー変換効率は0.5%であり、500時間経過後のエネルギー変換効率は95%減少した。
【0101】
[比較例2]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、バッファ層を設けずに有機光電変換素子を作製した。バッファ層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして光電変換層、電極を形成し、エネルギー変換効率、寿命特性を評価した。エネルギー変換効率は0.3%であり、500時間経過後のエネルギー変換効率は95%減少した。
【0102】
[比較例3]
重合開始剤をみどり化学社製光酸発生剤(4,4’−ジ(t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート)BBI−103に変更した以外は実施例1と同様にしてバッファ層を形成した。下層であるバッファ層が溶解することはなかった。以後、実施例1と同様にして光電変換層、電極を形成し、エネルギー変換効率、寿命特性を評価した。エネルギー変換効率は0.05%であり、500時間経過後のエネルギー変換効率は95%減少した。
【0103】
以上の実施例及び比較例に示したとおり、本発明の、1つ以上の重合性置換基を有するポリマー又はオリゴマー及び特定の重合開始剤を含有する混合物を用いて形成された重合層を有する有機光電変換素子は、高効率、長寿命の素子であり、また、塗布法によって簡便に製造できた。
【符号の説明】
【0104】
1 光電変換層
2 電極
3 電極
4 重合層
5 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一層の重合層を有する有機光電変換素子であって、
前記重合層が、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を用いて形成された層であり、
前記重合開始剤がオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まないことを特徴とする有機光電変換素子。
【請求項2】
前記オニウム塩が、スルホニウム塩、アニリニウム塩、及びトリチル塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーが、芳香族アミン構造又はカルバゾール構造を有する繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記重合層がバッファ層である請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
有機光電変換素子が前記重合層と光変換層を有し、重合層と光電変換層とが隣接して積層されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項8】
前記混合物を塗布して得られた層を重合させて前記重合層を形成し、形成した重合層上に光電変換層を積層する工程を含む手段により得られた請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項9】
前記有機光電変換素子が基板を有し、基板がフレキシブル基板である請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項10】
前記有機光電変換素子が基板を有し、基板が樹脂フィルムである請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項11】
少なくとも一方が透明な一対の電極と、前記電極間に形成された重合層とを備えた有機光電変換素子の製造方法であって、
1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー、及び重合開始剤を含有する混合物を塗布して得られた層を重合させることにより前記重合層を形成する工程を有し、前記重合開始剤がオニウム塩を含み、オニウム塩のカチオンがヨードニウムを含まないことを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
有機光電変換素子がさらに光電変換層を有し、光電変換層用混合物を前記重合層上に塗布することにより前記光電変換層を積層する工程を有する請求項11記載の有機光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−46027(P2013−46027A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184972(P2011−184972)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】