説明

有機変性層状珪酸塩及びポリエステル樹脂組成物

【課題】 高い耐熱性を有する有機変性層状珪酸塩、及び該有機変性層状珪酸塩を用い、高強度で、且つ高い耐熱性を有するポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 フッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩の有機カチオン、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンの少なくとも何れか一方を、膨潤性層状珪酸塩の層間に有することを特徴とする有機変性層状珪酸塩、及び該有機変性層状珪酸塩と、熱可塑性ポリエステル樹脂と、を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素原子を有するアルキル基を有するホスホニウム塩又は含窒素複素環式化合物の4級塩を含有する有機変性層状珪酸塩、及びその製造方法、並びにこれを含むポリエステル樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)或いはポリエチレンナフタレート(PEN)に代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた力学的強度や耐熱性、成型加工性などを有しているため、成型品やフィルム、繊維など広汎な用途に用いられている。
【0003】
力学的強度(機械的特性)や耐熱性の更なる向上を図る観点から、この熱可塑性ポリエステル樹脂にガラス繊維や炭素繊維などの繊維状強化材や、炭酸カルシウム、粘土鉱物、雲母などの無機充填材を加えて混練し強化した樹脂組成物が種々知られている。しかし、無機質材料の場合、単に混合し混練するのみでは微細粒子となり難く均一に分散できないため、力学的強度や耐熱性を充分に向上し得ない問題があった。例えば、PET−PEN共重合体樹脂にカオリンやタルク等を分散してなる樹脂組成物も開示されている(例えば、特許文献1参照。)が、この場合においても同様の問題がある。殊に、耐熱性が充分でない場合には、高温加工時にポリエステル自身が加水分解してしまい、実質的に外観や物性の良好な成型品やフィルムを得ることができない。また、力学的強度や耐熱性を更に高めるために、無機質材料を多量に添加しようとすると、比重の増加や加工性の低下を招来してしまう。
【0004】
近年、上記の問題を解消する技術として、ポリエステル樹脂中に層状珪酸塩を分子レベルで分散させることによって、少量の無機質材料で耐熱性や機械的特性を向上させた複合材料が種々提案されている。例えば、ポリアミド中に層状粘土鉱物を均一に分散させ、強度や剛性、耐熱性に優れた複合材料が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。確かに、少量の層状粘土鉱物でも機械的強度や耐熱性を顕著に向上できるが、ポリエステル樹脂の場合には、同文献記載の方法によって、ポリアミドと同様に層状粘土鉱物が均一に分散された複合体を得ることはできない。これに鑑み、相溶化剤の添加により層状粘土鉱物の分散性を改良する技術も開示されているが、機械的強度や耐熱性の向上効果は小さく、強靭性の低下が大きい成型品しか得られない(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、非反応性の化合物を層間に有する層状珪酸塩をポリマー中に分散させた樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、マトリクス樹脂にポリエステルを用いた場合には、成型加工時の温度が高いために加水分解し易く、外観や物性の良好な成型品及びフィルムなどを得ることはできない。
【0006】
また、ホスホニウム塩で有機化した層状珪酸塩を含むポリエステル複合材料が開示され、機械的強度や耐熱性を良化できると記載されている(例えば、特許文献5参照。)。確かに、有機化剤そのものの熱分解による着色等を防止して色調を良好とすると共に強度や耐熱性をある程度向上させ得るものの、有機化剤の有機カチオンの存在によって高熱時(成型加工時)のポリエステル樹脂の加水分解が促進されるため、複合材料の機械的強度や耐熱性が低下して、結果的に実用に耐え得る成型品やフィルムを得ることはできない。また、有機ホスホニウムイオンを層間にイオン結合させることで層状珪酸塩をポリエステル樹脂中に高分散させることができ、強度や剛性、耐熱性等に優れた成型品とし得る旨が記載されている(例えば、特許文献6参照。)が、上記と同様に高熱時の加水分解を抑止することはできない。また、組成物や樹脂フィルムにおいても、高熱時の耐加水分解性の点で問題があった(例えば、特許文献7及び8参照。)。
【特許文献1】特開平6−56975号公報
【特許文献2】特開昭62−74957号公報
【特許文献3】特開平3−62846号公報
【特許文献4】特開平8−53572号公報
【特許文献5】特開平11−130951号公報
【特許文献6】特開平11−1605号公報
【特許文献7】特開2000−53847号公報
【特許文献8】特開2000−327805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べたように、ポリエステル樹脂のマトリクス中に層状珪酸塩を高度に均一分散させてなり、力学的に高強度で、且つ高い耐熱性を備えたポリエステル樹脂組成物は、未だ提供されていないのが現状である。
本発明は、上記に鑑みて成されたものであり、高い耐熱性を有する有機変性層状珪酸塩及びその製造方法を提供し、また、該有機変性層状珪酸塩を用い、高強度で、且つ高い耐熱性を有するポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、膨潤性層状珪酸塩の層間にフッ素原子を有するアルキル基を有するホスホニウム塩又は含窒素複素環式化合物の4級塩を挿入(インターカレート)し作成した有機変性層状珪酸塩を用いることで、高強度であると共に、極めて高い耐熱性を有するポリエステル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
<1> フッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩の有機カチオン、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンの少なくとも何れか一方を、膨潤性層状珪酸塩の層間に有することを特徴とする有機変性層状珪酸塩である。
【0010】
<2> 前記含窒素複素環式化合物の4級塩がイミダゾリウム塩であることを特徴とする前記<1>に記載の有機変性層状珪酸塩である。
【0011】
<3> 前記ホスホニウム塩が下記一般式(1)で表わされる化合物であるか、或いは前記イミダゾリウム塩が下記一般式(2)で表わされる化合物又はその互変異性体であることを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の有機変性層状珪酸塩である。
【0012】
【化1】

【0013】
(一般式(1)及び(2)において、R1、R2はアルキル基又はアリール基を、R3、R4、R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を、(A)は2価の連結基又は結合手を、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わす。また、m、nは1〜20の整数を、X-はアニオンを表わす。)
【0014】
<4> 前記膨潤性層状珪酸塩が、合成ヘクトライト、天然ヘクトライト、天然モンモリロナイト、合成スメクタイト又は合成膨潤性雲母の少なくとも何れか一つであることを特徴とする前記<1>〜<3>の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩である。
【0015】
<5> 少なくとも前記<1>〜<4>の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩と、熱可塑性ポリエステル樹脂と、を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物である。
【0016】
<6> 前記有機変性層状珪酸塩の含有率が0.5〜30質量%であることを特徴とする前記<5>に記載のポリエステル樹脂組成物である。
【0017】
<7> 前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする前記<5>又は<6>に記載のポリエステル樹脂組成物である。
【0018】
<8> 膨潤性層状珪酸塩を、フッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の少なくとも何れか一方を用いて有機変性し、
且つ、前記ホスホニウム塩の有機カチオン、又は前記含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンを珪酸塩の結晶層間に置換させることを特徴とする有機変性層状珪酸塩の製造方法である。
【0019】
<9> 前記含窒素複素環式化合物の4級塩がイミダゾリウム塩であることを特徴とする前記<8>に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法である。
【0020】
<10> 前記ホスホニウム塩として下記一般式(1)で表わされる化合物を、或いは前記イミダゾリウム塩として下記一般式(2)で表わされる化合物又はその互変異性体を用い、且つ、前記一般式(1)で表される化合物のカチオン成分、或いは下記一般式(2)で表される化合物又はその互変異性体のカチオン成分を前記珪酸塩の結晶層間に置換させることを特徴とする前記<8>又は<9>に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法である。
【0021】
【化2】

【0022】
(一般式(1)及び(2)において、R1、R2はアルキル基又はアリール基を、R3、R4、R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を、(A)は2価の連結基又は結合手を、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わす。また、m、nは1〜20の整数を、X-はアニオンを表わす。)
【0023】
前記膨潤性層状珪酸塩として、合成ヘクトライト、天然ヘクトライト、天然モンモリロナイト、合成スメクタイト又は合成膨潤性雲母の少なくとも何れか一つを用いることを特徴とする前記<8>〜<10>の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法である。
【0024】
<12> 少なくとも前記<1>〜<4>の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩を、熱可塑性ポリエステル樹脂に溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法である。
【0025】
<13> 前記有機変性層状珪酸塩の含有率が0.5〜30質量%であることを特徴とする前記<12>に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法である。
【0026】
<14> 前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする前記<12>又は<13>に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高い耐熱性を有する有機変性層状珪酸塩及びその製造方法を提供し、また、該有機変性層状珪酸塩を用い、高強度で、且つ高い耐熱性を有するポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の有機変性層状珪酸塩は、フッ素原子を有するアルキル基(以下、単に「フッ素原子含有アルキル基」ということがある)を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩の有機カチオン、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンの少なくとも何れか一方を、膨潤性層状珪酸塩の層間に有することを特徴とする。尚、「層間に有する」とは、前記ホスホニウム塩、又は前記含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンが上記珪酸塩の結晶層間に置換していることをさす。
該有機変性層状珪酸塩は高い耐熱性を有し、特にポリエステル樹脂組成物に用いた場合、高強度で、且つ高熱時の加水分解を抑制できる耐熱性を備えたポリエステル樹脂とすることができる。
以下、本発明の有機変性層状珪酸塩及びポリエステル樹脂組成物について詳細について説明する。
【0029】
(フッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩又は含窒素複素環式化合物の4級塩)
本発明で用いるフッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩又は含窒素複素環式化合物の4級塩は、フッ素原子含有アルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩又はフッ素原子含有アルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩である。
【0030】
ここで、フッ素原子含有アルキル基とは置換基中にフッ素原子を少なくとも一つ以上有するアルキル基であり、フッ素原子以外の置換基を有していてもいなくてもよい。総炭素数は1〜30が好ましく、4〜25がさらに好ましく、8〜25が特に好ましい。具体的には、CF3CH2基、CF3CF2CH2基、CF3CF2(CH26基、CF3CF2CF2CH2基、CF3CHFCF2CH2基、F(CF24CH2CH2基、F(CF24CH2CH2CH2基、F(CF24(CH26基、F(CF23OCF(CF3)CH2基、F(CF26CH2CH2基、F(CF26(CH23基、F(CF26(CH26基、F(CF28CH2CH2基、F(CF28(CH23基、F(CF28(CH26基、F(CF210CH2CH2基、C37OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2基、(CF32CF(CH26基、(CF32CF(CF22CH2CH2基、(CF32CF(CF24CH2CH2基、(CF32CF(CF26CH2CH2基、CHF2CF2CH2基、H(CF24CH2基、H(CF26CH2基、H(CF28CH2基、(CF32CH基、CF3CHFCF2CH2基、CF3CF2(CH26OCH2CH2基、F(CF23OCF(CF3)CH2OCH2CH2基、H(CF24CH2OCH2CH2基、H(CF26CH2OCH2CH2基、H(CF28CH2OCH2CH2基、CF3CHFCF2CH2OCH2CH2基、C715CH2OCH2CH2基等が挙げられる。
またこれらの中でも、CF3CH2基、F(CF24CH2CH2基、F(CF26CH2CH2基、F(CF28CH2CH2基、F(CF28(CH23基、F(CF210CH2CH2基、(CF32CF(CH26基、(CF32CF(CF22CH2CH2基、(CF32CF(CF24CH2CH2基、(CF32CF(CF26CH2CH2基、CF3CF2(CH26OCH2CH2基、H(CF24CH2OCH2CH2基、H(CF26CH2OCH2CH2基、H(CF28CH2OCH2CH2基がより好ましく、さらには、F(CF24CH2CH2基、F(CF26CH2CH2基、F(CF28CH2CH2基、F(CF210CH2CH2基、(CF32CF(CF24CH2CH2基、(CF32CF(CF26CH2CH2基、H(CF26CH2OCH2CH2基、H(CF28CH2OCH2CH2基が特に好ましい。
【0031】
フッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩において、前記フッ素原子含有アルキル基はホスホニウム塩分子内に少なくとも一つ含まれていればよく、2以上有する場合には各フッ素原子含有アルキル基は同一であっても異なっていてもよい。尚、分子内に含まれるフッ素原子含有アルキル基は一つであることがさらに好ましい。また、フッ素原子含有アルキル基以外の置換基(その他の置換基)としてはアルキル基又はアリール基が好ましい。
【0032】
前記アルキル基(フッ素原子含有アルキル基以外の、その他の置換基としてのアルキル基)はさらに置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、アリール基、ハロゲン原子(但しフッ素原子を除く)、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルバモイルアミノ基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基又はヘテロ環基等が好ましい。総炭素数が1から30のアルキル基が好ましく、総炭素数が1から25のアルキル基が更に好ましく、1から20のアルキル基が特に好ましい。例えばメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルオクチル基、ノルマルノニル基、イソノニル基、ターシャリーノニル基、シクロヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、4−クロロベンジル基、(4−エトキシフェニル)メチル基が好ましい。
【0033】
また、前記アリール基(その他の置換基としてのアリール基)はさらに置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、カルバモイルアミノ基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基又はヘテロ環基等が好ましい。総炭素数6から30のアリール基が好ましく、総炭素数が6から25のアリール基が更に好ましく、総炭素数が6から20のアリール基が特に好ましい。例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナスリル基が好ましい。
【0034】
フッ素原子含有アルキル基を有する含窒素複素環式化合物の4級塩において、該含窒素複素環式化合物の4級塩は、特に限定されないが、好ましくは複素環を構成する窒素原子を4級化して得られる化合物である。複素環を構成する元素数は特に限定されないが、好ましくは4〜10員環であり、さらに好ましくは5〜8員環である。また、複素環は、飽和でも不飽和であってもよく、また縮合したものであってもよく、さらに芳香族性を有していてもよい。また、複素環には窒素原子、炭素原子の他に酸素原子や硫黄原子が含まれていてもよい。
【0035】
本発明で使用できる含窒素6員環芳香族化合物としては、例えば、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジンなどを挙げることができ、1位以外の位置に置換基を有する含窒素6員環芳香族化合物であることが好ましい。特にピリジン、4−ピコリンが好ましい。
また、本発明で使用できる含窒素5員環芳香族化合物又は含窒素縮合複素環としては、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、イソオキサゾール、オキサゾール、チアゾール、インドール、イソインドール、インダゾール、1H−インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンズイソオキサゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、キノリン、イソキノリン、フェナンスリジン、アクリジン、1,8−ナフタリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、フェノキサジン、フェノチアジン、フェナジン等や、これらの誘導体を挙げることができる。中でもイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、インドール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾールが好ましく、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾールがさらに好ましい。
更に、本発明で使用できる含窒素非芳香族系化合物としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、デカヒドロキノリン、デカヒドロイソキノリン、インドリン、イソインドリン、ピロリジジン、キノリジジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどを挙げることができる。中でもピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンが好ましく、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、キヌクリジンがさらに好ましい。
【0036】
本発明における含窒素複素環式化合物の4級塩は、4級塩を形成する窒素原子及びそれ以外の原子の置換基については特に制限はなく、いかなる置換基を有していてもよいし、また置換基を有していなくてもよい。
【0037】
このような置換基としては例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホ基、アシル基、アミノ基などが挙げられる。
【0038】
上記置換基としてのアルキル基は、直鎖又は環状のアルキル基を表わし、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数が1から30のアルキル基が好ましく、総炭素数が1から25のアルキル基が更に好ましく、1から20のアルキル基が特に好ましい。例えばメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルオクチル基、ノルマルノニル基、イソノニル基、ターシャリーノニル基、シクロヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、4−クロロベンジル基、(4−エトキシフェニル)メチル基が好ましい。
【0039】
前記アリール基は、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数6から30のアリール基が好ましく、更には6から25のアリール基が好ましく、特には6から20のアリール基が好ましい。例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナスリル基が好ましい。
【0040】
前記ヘテロ環基はさらに置換基を有していてもよく、飽和ヘテロ環でも、不飽和ヘテロ環でもよく、また3員環から10員環のヘテロ環が好ましく、4員環から8員環のヘテロ環が更に好ましく、5員環から7員環のヘテロ環が特に好ましい。例えば、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環が好ましい。ただし、この場合へテロ原子部分により結合することはない。このヘテロ環基はベンゾ縮環してもよい。
【0041】
前記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子が特に好ましい。
【0042】
前記アルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、総炭素数1から30のアルコキシ基が好ましく、1から25のアルコキシ基が更に好ましく、1から20のアルコキシ基が特に好ましい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ノルマルブチルオキシ基、ターシャリーブチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、ノルマルオクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基、ノルマルデシルオキシ基、ノルマルドデシルオキシ基、ノルマルテトラデシルオキシ基、ノルマルヘキサデシルオキシ基、ノルマルオクタデシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基、α−メチルベンジルオキシ基、4−ビニルベンジルオキシ基、3−ビニルベンジルオキシ基、アリルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基が好ましい。
【0043】
前記アリールオキシ基は、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数6から30のアリールオキシ基が好ましく、総炭素数が6から25のアリールオキシ基が更に好ましく、総炭素数が6から20のアリールオキシ基が特に好ましい。例えばフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラセニルオキシ基、ピレニルオキシ基、2−クロロフェニルオキシ基、4−メトキシフェニルオキシ基、4−フェノキシフェニルオキシ基、4−ドデシルチオキシフェニルオキシ基、4−シアノフェニルオキシ基が好ましい。
【0044】
前記アルキルチオ基は、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数が1から30のアルキルチオ基が好ましく、総炭素数が1から25のアルキルチオ基が更に好ましく、1から20のアルキルチオ基が特に好ましい。例えばメチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、イソブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ノルマルヘキシルチオ基、ノルマルオクチルチオ基、ノルマルノニルチオ基、ノルマルデシルチオ基、ノルマルドデシルチオ基、ノルマルテトラデシルチオ基、ノルマルヘキサデシルチオ基、ノルマルオクタデシルチオ基、イソノニルチオ基、ターシャリーノニルチオ基、シクロヘキシルチオ基、アリルチオ基等が好ましい。
【0045】
前記アリールチオ基は、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数6から30のアリールチオ基が好ましく、更に好ましくは6から25のアリールチオ基が好ましく、特に好ましくは6から20のアリールチオ基が好ましい。例えばフェニルチオ基、ナフチルチオ基、アントラセニルチオ基、フェナスリルチオ基、ピレニルチオ基、ペリレニルチオ基、2−ブトキシフェニルチオ基、2−ベンゾイルアミノフェニルチオ基、3−オクチルオキシフェニルチオ基が好ましい。
【0046】
前記アルコキシカルボニル基としては、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数が2から30のアルコキシカルボニル基が好ましく、総炭素数が2から18のアルコキシカルボニル基が更に好ましく、総炭素数が2から16のアルコキシカルボニル基が特に好ましい。例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、オクタデシルオキシカルボニル基等が好ましい。
【0047】
前記アリールオキシカルボニル基としては、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数が7から20のアリールオキシカルボニル基が好ましく、総炭素数が7から18のアリールオキシカルボニル基が更に好ましく、総炭素数が7から16のアリールオキシカルボニル基が特に好ましい。例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラセニルオキシカルボニル基、ピレニルオキシカルボニル基が好ましい。
【0048】
前記アシルオキシ基としては、さらに置換基を有していてもよく、脂肪族、芳香族のアシルオキシ基のいずれでもよい。総炭素数が2から30のアシルオキシ基が好ましく、総炭素数が2から24のアシルオキシ基が更に好ましく、2から20のアシルオキシ基が特に好ましい。例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、n−オクタノイルオキシ基、n−デカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、N−フェニルアセチルオキシ基、N−メチルアセチルオキシ基等が好ましい。
【0049】
前記アシルアミノ基としては、さらに置換基を有していてもよく、脂肪族、芳香族のアシルアミノ基のいずれでもよい。総炭素数が2から30のアシルアミノ基が好ましく、総炭素数が2から24のアシルアミノ基が更に好ましく、2から20のアシルアミノ基が特に好ましい。例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ノルマルオクタノイルアミノ基、ノルマルデカノイルアミノ基、ノルマルドデカノイルアミノ基、ノルマルテトラデカノイルアミノ基、ノルマルオクタデカノイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、N−フェニルアセチルアミノ基、N−メチルアセチルアミノ基等が好ましい。
【0050】
前記カルバモイル基としては、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数1から30のカルバモイル基が好ましく、総炭素数1から25のカルバモイル基が更に好ましく、総炭素数1から20のカルバモイル基が特に好ましい。例えば、エチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、ヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、オクタデシルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジノルマルオクチルアミノカルボニル基、ジノルマルドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ベンジルアミノカルボニル基等が好ましい。
【0051】
前記スルファモイル基は、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数が0から30のスルファモイル基が好ましく、無置換のスルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル基、N,N−ジエチルスルファモイル基、N,N−ジブチルスルファモイル基、ピロリジノスルファモイル基、ピペリジノスルファモイル基、モルホリノスルファモイル基、N’−スルホニルピペラジノスルファモイル基、ヘキサメチレンイミノスルファモイル基が好ましい。総炭素数が3から13のスルファモイル基が更に好ましく、N,N−ジメチルスルファモイル基、N,N−ジエチルスルファモイル基、N,N−ジ−n−ブチルスルファモイル基、ピロリジノスルファモイル基、ピペリジノスルファモイル基が特に好ましい。
【0052】
前記アシル基としては、さらに置換基を有していてもよく、総炭素数2から20のアシル基が好ましく、総炭素数が2から18のアシル基が更に好ましく、2から16のアシル基が特に好ましい。例えば、アセチル基、プロパノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、ベンゾイル基が好ましい。
【0053】
フッ素原子含有アルキル基を有する含窒素複素環式化合物の4級塩において、該含窒素複素環がイミダゾールであるイミダゾリウム塩がさらに好ましい。
【0054】
また、前記フッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩は下記一般式(1)で、フッ素原子含有アルキル基を有するイミダゾリウム塩は下記一般式(2)で表わされる化合物であることがより好ましい。
【0055】
【化2】

【0056】
(一般式(1)及び(2)において、R1、R2はアルキル基又はアリール基を、R3、R4、R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を、(A)は2価の連結基又は結合手を、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わす。また、m、nは1〜20の整数を、X-はアニオンを表わす。)
【0057】
式中、R1で表されるアルキル基、アリール基の好ましい置換基の例は、前述のホスホニウム塩におけるその他の置換基の場合と同様である。
また、式中、R2で表されるアルキル基、アリール基の好ましい置換基の例、及びR3、R4、R5で表されるハロゲン原子、アルキル基、アリール基の好ましい置換基の例は、前述の含窒素複素環式化合物の4級塩における場合と同様である。
【0058】
式中、(A)で表される連結基は、特に制限は無いが、例えば鎖員1〜30の連結基、さらに好ましくは鎖員1〜20の連結基、特に好ましくは鎖員1〜12の連結基が挙げられる。この連結基としては芳香族基、脂肪族基、エーテル基、チオエーテル基のうち少なくとも一種の構造を有するものが挙げられ、フッ素原子を置換基として含んでいてもよい。直鎖又は分枝アルキレン基やエーテル結合を含むアルキレン基であることが好ましく、具体的には−CH2−、−(CH22−、−(CH23−、−(CH26−、−CH2CH2O−、−CH2CF2CHF−などが挙げられる。
【0059】
式中、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わし、m、nは1〜20の整数を表わす。
【0060】
式中、X-はアニオンを表わす。前記有機変性層状珪酸塩はその層間に該アニオンを含有してもよいが、特には含有しないことが好ましい。このアニオンは特に限定されず、例えば、ハロゲン原子、p−トルエンスルホン酸、BF4、ClO4、PF6、NO3などのアニオンを挙げることができる。
【0061】
以下に本発明に使用されるフッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩又は含窒素複素環式化合物の4級塩の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
本発明のフッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩及び含窒素複素環式化合物の4級塩は公知の合成法における反応条件を採用することができる。例えば、無溶媒でフッ素原子を有するアルキルハライドと3級リン化合物又は含窒素複素環式化合物を加熱することにより反応させる方法、などが挙げられる。一例として以下のスキームに示す反応を挙げる。いずれの原料も市販の化合物を用いることができる。
【0067】
【化7】

【0068】
また、フッ素原子を有するアルキルハライドを合成する方法は、公知の反応条件を用いて行なうことができる。例えば、三臭化リンを用いて臭素化する方法や、四臭化炭素とトリフェニルホスフィンを用いて臭素化する方法などが挙げられる。
【0069】
(膨潤性層状珪酸塩)
本発明に用いる膨潤性層状珪酸塩は特に限定されず、公知の物の中から適宜選択することができる。該膨潤性層状珪酸塩としては、例えば、天然若しくは合成のヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト等のスメクタイト属粘土鉱物や、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母属粘土鉱物、又はバーミキュライト、或いはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0070】
また、上記層状珪酸塩としては、市販品として、ラポナイトXLG(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、ラポナイトRD(英国ラポート社製、合成ヘクトライト類似物)、サーマビス(独国ヘンケル社製、合成ヘクトライト類似物)、スメクトンSA−1(クニミネ工業(株)製、サポナイト類似物)、ベンゲル(豊順洋行(株)製、天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業(株)製、天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国バンダービルト社製、天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製、合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製、合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)、SWF(コープケミカル(株)製、合成スメクタイト)等が挙げられる。
【0071】
尚、上記「膨潤性」とは、層状珪酸塩の結晶層間に水やアルコール、エーテル等の溶媒が侵入したときに膨潤する性質をいう。
【0072】
本発明において膨潤性層状珪酸塩は、前述のフッ素原子含有アルキル基を有するホスホニウム塩、又は含窒素複素環式化合物の4級塩(以下、両者を併せて「有機化剤」ということがある)によって有機変性を行う。無機成分である層状珪酸塩の層間無機イオンを有機カチオンで置換することによって、マトリックスを構成する樹脂成分との相溶性を高めることができる。
【0073】
本発明において、前記膨潤性層状珪酸塩を有機化する方法としては、公知のいかなる方法を用いてもよい。
一例としては、膨潤性層状珪酸塩を溶媒中に分散した後、これに前記有機化剤を混合し、乾燥して有機化を行う方法が挙げられる。尚、上記分散の際の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンやこれらの混合溶媒が用いられ、また、分散機としては一般に用いられる分散機から適宜選択して用いることができ、例えば、マグネティックスターラー、スリーワンモーター等の攪拌機が用いられる。
また、上記乾燥の際の条件として、温度は25〜150℃で行うことが一般的であり、より好ましくは30〜120℃であり、特に好ましくは40〜110℃である。乾燥の時間は上記温度によって異なり適宜選択すればよいが、一般的には4〜72時間であり、より好ましくは8〜48時間であり、特に好ましくは12〜36時間である。更に、上記乾燥は常圧下で行っても減圧下で行ってもよく、具体的には0.01〜760Torr(約1.33Pa〜1013hPa)で行うことが好ましく、0.01〜50Torrがより好ましく、0.01〜1Torrが特に好ましい。尚、特に限定されるわけではないが、取り扱い性や、ポリエステルとの混練時の分散性、気泡などの観点から、珪酸塩中の溶媒量は20質量%以下にまで乾燥することが好ましく、更には、0.1〜5質量%とすることがより好ましく、0.1〜2質量%とすることが特に好ましい。
【0074】
上記の方法により、膨潤性層状珪酸塩の結晶層間に存在するカチオン(例えば、Na、Li等)の一部又は全部と、有機化剤の有機カチオンとの間でイオン交換が行われ、珪酸塩が有機化される。
【0075】
(熱可塑性ポリエステル樹脂)
本発明のポリエステル樹脂組成物に用いる熱可塑性ポリエステル樹脂は、熱時流動性を有する線状ないし分岐状ポリエステル化合物であり、通常は、2価のカルボン酸化合物と2価アルコール類の重縮合により得られる。
上記2価カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸でも脂肪族及びその他ジカルボン酸でもよく、具体的には、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4−ジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、グリコール酸、2−クロロテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の2官能性カルボン酸の1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0076】
尚、実際の縮合重合においては、上記の2価カルボン酸をメチルアルコール等でエステル化して脱アルコールにより重縮合を行なうか、又は2価カルボン酸の無水物を用いて重縮合物を得る方法を採用することもある。この場合は、2価カルボン酸成分としては、上記のジカルボン酸のエステル物或いは酸無水物である。
【0077】
また、上記2価アルコール成分としては、芳香族ジアルコールでも脂肪族及びその他ジアルコールでもよく、具体的には、例えば、エチレングリコール、HO(CH2nOH(該nは3〜10の整数を示す。)で表されるポリエチレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ビス−4−ヒドロキシフェニルプロパン、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の2官能性アルコールの1種若しくは2種以上を挙げることができる。
【0078】
本発明のポリエステル樹脂組成物における前記有機変性層状珪酸塩の含有量としては、ポリエステル樹脂組成物の全質量に対して、0.5〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。該配合量が0.5質量%未満であると、層状珪酸塩の充填による補強効果が充分に得られないことがあり、一方、該配合量が30質量%を超えると、層状珪酸塩等の無機フィラーの分散性及び透明性の低下を招来したり、ポリエステル樹脂組成物を用いて作製された成型品やフィルム等の力学強度が不足して脆くなることがある。
【0079】
(混練り及び分散)
本発明のポリエステル樹脂組成物は、各材料を溶融状態で混練することにより容易に製造することが可能であり、その混練の手順及び使用する手段等は特に制限されない。該溶融混練に使用される混合混練機としては、例えば、二軸スクリュー式押出機、二軸ローター型連続混練機、回転円盤と固定円盤との間で混練を行う石臼型連続混練機(KCK)、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等が挙げられる。
【0080】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、各種の成型品や光学材料用フィルム、磁気材料用支持体、及び画像形成層用支持体等の用途に広汎に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、本実施例中の「部」は、特に断わりのない限り「質量部」を表わす。
[実施例1]
(有機化剤の合成)
トリオクチルホスフィン(東京化成製)5.1gと下記アルキルハライド(I)10.0gとを混合し、温度140℃で6時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−1)得た。
【0082】
【化8】

【0083】
(有機変性層状珪酸塩の作製)
膨潤性層状珪酸塩として、コープケミカル(株)製の「SWN」(合成スメクタイト)4gを用意し、これを水−アセトン混合溶媒400mLに加えて分散し、前記化合物(A−1)6.0gを混合・攪拌した後、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過し、圧力1Torrのもと110℃で12時間乾燥することで有機変性層状珪酸塩(1)を得た。
【0084】
(有機変性層状珪酸塩の層間隔及び熱重量損失の測定)
有機変性層状珪酸塩(1)についてRIGAKU株式会社製ガイガーフレックスRAD−rAを用いて、CuKα線を線源としてθ−2θ法により、2θ=2〜30°の範囲のX線回折を室温で測定することにより層間隔を決定した。さらに、窒素雰囲気下、10℃/minの速度で、室温(25℃)から275℃まで昇温した場合における有機変性層状珪酸塩(1)の熱重量損失を島津株式会社製TGA−50を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0085】
(ポリエステル樹脂組成物の作製)
熱可塑性ポリエステル樹脂として極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を使用し、該ポリエステル樹脂50部に、上記より得た有機変性層状珪酸塩(1)2.5部、及び酸化防止剤としてチバ・ガイギー社製の「Irgafos168」と「Irganox1010」の各0.25部を配合して、東芝機械(株)製の二軸スクリュー式押出機「TEM−37」に投入して溶融混練し、本発明に従うポリエステル樹脂組成物を得た。ここで上記の溶融混練は、温度280℃でスクリュー回転数500rpm、処理量10kg/hで行なった。尚、上記ポリエステル樹脂組成物中における有機変性層状珪酸塩の含有率は5質量%となるようにして作製した。
【0086】
[実施例2]
(有機化剤の合成)
トリフェニルホスフィン(東京化成製)3.6gと前記アルキルハライド(I)10.0gとを混合し、温度140℃で3時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−3)得た。
【0087】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−3)6.0gに変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(3)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0088】
[実施例3]
(有機化剤の合成)
トリブチルホスフィン(東京化成製)6.1gと前記アルキルハライド(II−1)17.2gとを混合し、温度140℃で4時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−5)得た。
【0089】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−5)4.7gに変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(5)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0090】
[実施例4]
(有機化剤の合成)
N−メチルイミダゾール(東京化成製)2.5gと前記アルキルハライド(II−1)17.2gとを混合し、温度140℃で6時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−7)得た。
【0091】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−7)4.0gに変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(7)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0092】
[実施例5]
(有機化剤の合成)
トリフェニルホスフィン(東京化成製)26.2gと前記アルキルハライド(II−2)52.7gとを混合し、温度140℃で6時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−9)得た。
【0093】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−9)4.5gに変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(9)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0094】
[実施例6]
(有機化剤の合成)
トリオクチルホスフィン(東京化成製)10.4gと前記アルキルハライド(III)14.8gとを混合し、温度140℃で8時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−13)得た。
【0095】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−13)5.5gに変更し、また水−アセトン混合溶媒を水−エタノール混合溶媒に変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(13)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0096】
[実施例7]
(有機化剤の合成)
N−メチルイミダゾール(東京化成製)1.6gと前記アルキルハライド(III)10.8gとを混合し、温度130℃で6時間加熱反応させ、常法により分離して化合物(A−15)得た。
【0097】
次いで、実施例1の(有機変性層状珪酸塩の作製)における、化合物(A−1)6.0gを、上記で得た化合物(A−15)4.0gに変更し、また水−アセトン混合溶媒を水−エタノール混合溶媒に変更した以外は、同様の方法により有機変性層状珪酸塩(15)を得た。
また、同様の方法にて、珪酸塩の層間隔及び熱重量損失を測定し、ポリエステル樹脂組成物を作製した。
【0098】
[比較例1]
実施例1において、市販のコープケミカル(株)製の「SWN」(合成スメクタイト)を有機変性せずに用いた以外は実施例1と同様の方法により層状珪酸塩及びポリエステル樹脂組成物を作製した。層状珪酸塩の層間隔及び熱重量損失の測定についても同様にして行った。
【0099】
[比較例2]
実施例1において、化合物(A−1)の代わりに下記のテトラアルキルアンモニウム塩(B−1)を使用した以外は実施例1と同様の方法により有機変性層状珪酸塩及びポリエステル樹脂組成物を作製した。有機変性層状珪酸塩の層間隔及び熱重量損失の測定についても同様にして行った。
【0100】
【化9】

【0101】
【表1】

【0102】
表1より実施例1〜7の有機変性層状珪酸塩は、比較例1の有機変性されていない層状珪酸塩と比較すると、層間隔が10.6〜22.2Åの範囲で拡張した。また、実施例1〜7の有機変性層状珪酸塩の熱重量損失は、比較例2のテトラアルキルアンモニウム塩で有機変性された層状珪酸塩よりも少なかった。これより、本発明の有機変性層状珪酸塩は、テトラアルキルアンモニウム塩と同程度に層間に含窒素複素環式化合物がインターカレート(挿入)でき、かつ熱安定性は比較例2のテトラアルキルアンモニウム塩で親有機化された層状珪酸塩よりも優れていることが分かる。
【0103】
(評価試験)
上記より得られた本発明及び比較のポリエステル樹脂組成物について、下記の評価試験を行なった。その結果を下記の表2に示す。
(1)分散状態の評価
広角X線回折による層状珪酸塩の(001)面の回折ピークを測定すると共に、更に透過型電子顕微鏡を用いて目視によりその分散状態を観察し、顕微鏡で撮影した画像における一定面積内の凝集粒子の割合を求めた。これらの測定及び観察結果を基に、下記の基準に基づいて評価した。
○ ………回折ピークはなく、認められた凝集粒子は10%以下であった。
△ ………回折ピークはなく、認められた凝集粒子は30%未満であった。
× ………回折ピークがあり、認められた凝集粒子は30%以上であった。
【0104】
(2)引張り弾性率
各ポリエステル樹脂組成物から、厚み1mm×幅10mmの試験片を作製し、引張り試験機(東洋精機製作所(株)製)を用いて引張り試験を行ない、その結果を基に各々の弾性率を求め、「非強化樹脂」組成物よりなる試験片の弾性率に対する各弾性率の向上割合(%)を評価の指標とした。評価基準は下記の通りである。
◎ ………非強化樹脂片に対する向上割合が100%以上であった。
○ ………非強化樹脂片に対する向上割合が50%以上100%未満であった。
△ ………非強化樹脂片に対する向上割合が20%以上50%未満であった。
× ………非強化樹脂片に対する向上割合が20%未満、若しくは向上せず低下してしまった。
ここでいう「非強化樹脂」組成物とは層状珪酸塩を含まない、ポリエチレンテレフタレート(PET)単独で同様の操作を行って得られた組成物をいう。
【0105】
【表2】

【0106】
上記表2に示すように、本発明に従うポリエステル樹脂組成物(実施例1〜7)では、層状珪酸塩の分散性に優れており、引張り弾性(機械的強度)が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩の有機カチオン、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンの少なくとも何れか一方を、膨潤性層状珪酸塩の層間に有することを特徴とする有機変性層状珪酸塩。
【請求項2】
前記含窒素複素環式化合物の4級塩がイミダゾリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の有機変性層状珪酸塩。
【請求項3】
前記ホスホニウム塩が下記一般式(1)で表わされる化合物であるか、或いは前記イミダゾリウム塩が下記一般式(2)で表わされる化合物又はその互変異性体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機変性層状珪酸塩。
【化1】

(一般式(1)及び(2)において、R1、R2はアルキル基又はアリール基を、R3、R4、R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を、(A)は2価の連結基又は結合手を、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わす。また、m、nは1〜20の整数を、X-はアニオンを表わす。)
【請求項4】
前記膨潤性層状珪酸塩が、合成ヘクトライト、天然ヘクトライト、天然モンモリロナイト、合成スメクタイト又は合成膨潤性雲母の少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩。
【請求項5】
少なくとも請求項1〜4の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩と、熱可塑性ポリエステル樹脂と、を含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記有機変性層状珪酸塩の含有率が0.5〜30質量%であることを特徴とする請求項5に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
膨潤性層状珪酸塩を、フッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有するホスホニウム塩、又はフッ素原子を有するアルキル基を分子内に少なくとも一つ有する含窒素複素環式化合物の4級塩の少なくとも何れか一方を用いて有機変性し、
且つ、前記ホスホニウム塩の有機カチオン、又は前記含窒素複素環式化合物の4級塩の有機カチオンを珪酸塩の結晶層間に置換させることを特徴とする有機変性層状珪酸塩の製造方法。
【請求項9】
前記含窒素複素環式化合物の4級塩がイミダゾリウム塩であることを特徴とする請求項8に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法。
【請求項10】
前記ホスホニウム塩として下記一般式(1)で表わされる化合物を、或いは前記イミダゾリウム塩として下記一般式(2)で表わされる化合物又はその互変異性体を用い、
且つ、前記一般式(1)で表される化合物のカチオン成分、或いは下記一般式(2)で表される化合物又はその互変異性体のカチオン成分を前記珪酸塩の結晶層間に置換させることを特徴とする請求項8又は9に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法。
【化2】

(一般式(1)及び(2)において、R1、R2はアルキル基又はアリール基を、R3、R4、R5は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基を、(A)は2価の連結基又は結合手を、(B)はH(CF2m基又は直鎖状でも分枝状でもよいCn2n+1基を表わす。また、m、nは1〜20の整数を、X-はアニオンを表わす。)
【請求項11】
前記膨潤性層状珪酸塩として、合成ヘクトライト、天然ヘクトライト、天然モンモリロナイト、合成スメクタイト又は合成膨潤性雲母の少なくとも何れか一つを用いることを特徴とする請求項8〜10の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩の製造方法。
【請求項12】
少なくとも請求項1〜4の何れか一項に記載の有機変性層状珪酸塩を、熱可塑性ポリエステル樹脂に溶融混練することを特徴とするポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記有機変性層状珪酸塩の含有率が0.5〜30質量%であることを特徴とする請求項12に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項12又は13に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−347787(P2006−347787A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172997(P2005−172997)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】