説明

有機性物質のメタン発酵方法

【課題】 高負荷で、効率的かつ安定的に処理可能な汚泥循環返送型のメタン発酵処理法を提供する。
【解決手段】 本発明のメタン発酵処理法は、基質が、たとえば、生ごみの場合、固形物に起因する化学的酸素要求量(COD)の割合が全CODに対して、たとえば、70%以下の有機性物質をメタン発酵するに際して、たとえば、5kgCOD/m3 /day以上の容積負荷で、たとえば、5日以上30日以下(1日1回ないしは複数回を含めて)の反応器への基質の連続供給と、たとえば、4日以上20日以下の基質供給停止期間を設け、(消化)汚泥(循環)返送を伴い、微生物および未分解起因固形物質の和に基づく反応器内の汚泥滞留時間(SRT)30日以上で反応器を運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基質として、たとえば、生ゴミなど食品系廃棄物に含まれる有機性物質からメタンを発酵させる技術に関する。
本発明は特に、高負荷で運転している状態で安定にメタン発酵処理を可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵処理は、たとえば、生ごみからメタンガスとしてエネルギーを回収可能であり、有機性廃棄物の創エネルギー・省エネルギー処理として期待されている。
【0003】
メタン発酵プロセスは、たとえば、図1に図解したように、(1)高分子有機物を各種バクテリアにより単分子化、加水分解反応などにより可溶化する過程、(2)酸生成過程、(3)酢酸生成過程、および、(4)揮発性脂肪酸(Volatile Fatty Acid :VFA)中の酢酸やメタンからメタン生成菌によりメタン(CH4 )と二酸化炭素(CO2 )に分解するメタン生成過程からなる(たとえば、非特許文献1、図2.3)。
【0004】
有機性の溶解性(Soluble ) 物質(Total Suspended Solid :TSS)が酢酸や水素を経て最終的なガス物質であるメタンや二酸化炭素に変化する速度は、有機性固形物質(TSS)が可溶化する速度より速い。
【0005】
したがって、1日1回、メタン発酵槽(反応器)へ供給される生ごみなどの基質中に含有される溶解性(Soluble )物質に起因する化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand:COD)S−COD1 と、固形物が可溶化することに起因する化学的酸素要求量S−COD2 との総和S−CODT は、メタン発酵反応が良好に行われている間は、たとえば、図2に図解した特性となる。
図2は、毎日1回、反応器から汚泥を引き抜き、その後、メタン発酵槽(反応器)へ基質(廃棄物)を投入する運転を連続した場合、生成されるガスの変化を図解した図である。
図2において、最大値を示す反応器への基質の供給点から次の基質の供給点までの間は下に凸状の「ノコギリ波」状に変化する。なお、反応器からの抜液は基質供給前に1日1回実施し、メタン発酵槽のオーバーフローは起きない。
【0006】
汚泥を濾過してメタン発酵槽(反応器)へ返送する汚泥循環返送方式の場合、固形物可溶化がガス化反応によって消費される溶解性・化学的酸素要求量S−CODに間に合わないと、固形物(TSS)が徐々に反応器内に蓄積し、徐々に固形物の濃度が上昇する。
その結果、(1)可溶化速度の低下、(2)各種中間反応速度の低下、(3)酢酸経由および水素経由のメタン生成反応の低下、(4)各種反応に寄与する細菌への基質同化反応の低下により、これらのバランスが崩れ、各種揮発性脂肪酸(VFA)、たとえば、プロピオン酸の蓄積による、いわゆる、”酸敗”や、水素分圧の上昇による、メタン発酵の系が破綻することになる。
上述した理由により、湿式メタン発酵の固形物濃度の限界は、経験的に10%程度である。
【0007】
通常、生ごみの連続メタン発酵処理には、嫌気性条件下で運転される完全混合型発酵槽(Continous Stirred Tank Reactor:CSTR)が用いられている。
嫌気性処理は、好気性処理に比較して、固形物の濃度が2〜3%程度以上の高濃度廃液や、有機性固形廃棄物がメタン発酵の処理対象とされており、一般に、汚泥返送を行わない、一過性のCSTRが用いられてきた。
嫌気性処理において、寄与する主な細菌群のうち、最も増殖速度が遅いのは、一連のメタン生成菌であり、基質の、たとえば、3%程度しか菌体に転換しない。
そのことが、これまで、CSTR方式における基質滞留時間(Hydrauric Retention Time:HRT)を約30日(33日)にしている理由である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−254203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CSTR方式においては、図2に図解のごとく、1日1回、基質、たとえば、生ごみを反応器に投入した容量分だけ、反応器から反応混合液(消化液(汚泥も均一に混合されている)を引き抜くので、SRT=HRTとなる。
なお、HRTは基質滞留時間を示し、SRTはメタン発酵槽(反応器)内の汚泥の反応器内(平均)滞留時間を示す。
したがって、反応器内で菌体変換率の低い細菌群を一定以上に増殖させることは難しく、基質分解率、メタンのガス化率には限界がある。
特に、CSTR方式においては、高負荷で運転した場合、安定性に問題がある。
以下、その理由を述べる。
【0010】
メタン発酵槽(反応器)は、運転を誤ると、”酸敗”によってメタンの生成が中断し、処理系として破綻する。
酸敗は、基質の種類によって、中間生成物である酪酸や、プロピオン酸、場合によっては、酢酸やその他の揮発性脂肪酸(VFA)、あるいは、その複合化したVFA群の蓄積によって起こる。
VFAが蓄積すると、(1)pHが低下する、(2)pH低下に伴う非解離のVFA、たとえば、プロピオン酸の濃度が増すことにより、可溶化もメタン発酵も同時に阻害される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は下記の構想に基づく。
(1)汚泥循環返送型のメタン発酵処理法で行う。
(2)汚泥の増殖が十分な高い容積負荷、たとえば、基質が生ごみの場合、5kgCOD/m3 /日以上の容積負荷で運転する。
(3)細菌と基質との接触速度を保持し、反応器内の固形物濃度を一定量以下にした運転状態で、汚泥中の菌体濃度(生菌濃度)を極大(最大)にする。
(4)反応器への基質を連続供給する期間と、基質の供給を停止する期間との合計を1単位とし、たとえば、1単位を基質滞留時間(HRT)とする。
(5)微生物および未分解起因固形物質の和に基づく反応器(反応槽またはメタン発酵槽)内の汚泥滞留時間(SRT)を基質滞留時間(HRT)より長い状態で反応器を運転する。
【0012】
なお、有機性物質をメタン発酵には、固形物に起因する化学的酸素要求量(p−COD)の割合が全CODに対して所定の割合、たとえば、70%以下の有機性物質をメタン発酵する場合を想定している。
固形物に起因する化学的酸素要求量の割合は、基質(廃棄物)の性状によっても異なるが、固形物基質のCODが狭すぎると速くTSS(固形物)の濃度が上がり、基質供給期間に比べて必要とする休止期間の割合が1:1程度となり、好ましくない。基質の性状としては、たとえば、(1)固形物の可溶化速度と可溶化物質(S−COD)の分解性、(2)固形物の粒径分布、(3)有機性物質の組成などが対象となる。
以上から、有機性物質をメタン発酵の場合、固形物に起因する化学的酸素要求量の割合が全CODに対して所定の割合として、経験的事項をも考慮して、上記のように、たとえば、70%以下の有機性物質をメタン発酵する場合を想定している。
【0013】
反応器内の汚泥の反応器内(平均)滞留時間(SRT)は毎日行う反応液引き抜きと、反応液から汚泥分を分離して循環するに際して、全量を循環返送するのではなく、一部抜去処分する量を調整することにより、容易に制御可能である。ただし、一定以上の高負荷、適正な負荷をかけて運転する必要がある。
【0014】
反応器内の固形物濃度を一定以上に保持しながら、汚泥中の基質の連続供給と基質供給休止期間の合体した期間を1つの単位期間として、その期間中の平均総菌体濃度を、なるべく、活性の高い状態で極大(または最大)に保つ運転を行う。
【0015】
より特定的には、基質を、たとえば、生ごみとした場合、本発明のメタン発酵処理法は、固形物に起因する化学的酸素要求量(p−COD)の割合が全CODに対して、たとえば、70%以下の有機性物質を基質としてメタン発酵するに際して、たとえば、5kgCOD/m3 /日以上の容積負荷で、5日以上30日以下(1日1回ないしは複数回を含めて)の連続供給と、4日以上20日以下の基質供給停止期間を設け、(消化)汚泥(循環)返送を伴い、微生物、未分解のいずれかを含む固形物の反応槽内の滞留時間(SRT)を基質滞留時間(HRT)より長い30日以上で運転する、ことを特徴とする。
なお、上述した数値は、基質としての有機性廃棄物の種類、性状によって変化する。たとえば、上述した、容積負荷が5kgCOD/m3 /日以上という意味は、基質として生ごみを用いた場合、汚泥の増殖が、5kgCOD/m3 /日未満では不十分となることから設定しているが、基質が異なれば、容積負荷も変化する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、効率的かつ安定的に処理する、汚泥循環返送型のメタン発酵処理法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1はメタン発酵プロセスの基本を図解した図である。
【図2】図2は、毎日1回、反応器から汚泥を引き抜き、その後、メタン発酵槽(反応器)へ基質(廃棄物)を投入する運転を連続した場合、生成されるガス量の変化を図解した図である。
【図3】図3は本発明のメタン発酵処理法を実施する1例としてのメタン発酵システムの概要を示す図である。
【図4】図4は、基質として生ごみを対象とした場合の、化学的酸素要求量(COD)容積負荷(kg−COD/m3 /day)と、反応器内の汚泥生成量、たとえば、固形物TSSの蓄積速度(mg−ss/l(リットル)/day)との関係を示した図である。
【図5】図5は、容積負荷を、6.0、9.0、12.0、12.0、15.0(kg−COD/m3 /day)の6フェーズについて段階的に変化させたときの、運転日数と、単位TSSに含まれる微生物の数の経時変化を示した図である。
【図6】図6は、負荷速度と定常状態のTSS濃度を示した特性図である。
【図7】図7は、有機物負荷速度を6.0(kg−COD/m3 /day)、9.0(kg−COD/m3 /day)、12.0(kg−COD/m3 /day)と3段階に変化させた場合の、基質としての生ごみの嫌気性連続実験における微生物サンプル引き抜きを補正しないでもとで入れる濃度を図解した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を述べる。
図3は、本発明のメタン発酵処理法を実施するメタン発酵システムの概要を示す図である。
本発明の実施の形態のメタン発酵システムは、メタン発酵槽(反応器)10と、攪拌器11と、反応器10に基質を投入する投入口12と、反応器10から消化汚泥を抜き取る抜取口13と、抜き取った汚泥の一部を遠心分離して細菌を分離するための遠心分離器14と、遠心分離した細菌を含む汚泥を反応器10に戻す返送系15と、メタン発酵されて生成したメタンガスを排出するガス排出部16とを有する。
本実施の形態のメタン発酵システムは、完全混合型発酵槽(CSTR)方式ではなく、汚泥の一部を反応器10に返送する、「汚泥循環返送型のメタン発酵処理システム」である。
【0019】
図4は、化学的酸素要求量(COD)容積負荷(kg−COD/m3 /day)と、反応器内の汚泥生成量、たとえば、固形物TSSの蓄積速度(mg−ss/l(リットル)/day)との関係を示した図である。横軸は有機物負荷比率(OLR)を示し、縦軸は固形物(TSS)蓄積比率を示す。
図4の図解から、高い容積負荷をかけるほど汚泥の生成量が増加することが理解できる。
【0020】
汚泥の増加速度について述べる。
総菌体Sの増殖速度dS/dtは、dS/dt=Σ(dSi /dt)として表すことができる。下記式1、2は、嫌気発酵に寄与する菌体iの増加速度を示す。
【0021】
dSi /dt=kSiii −kdii
…(1)
ただし、iは細菌iであり、
i は細菌iの濃度であり、
Siは細菌iの基質との接触速度に起因する係数であり、
i は細菌iが作用する対象とする基質の濃度であり、
diは細菌iの自己消化係数である。
【0022】
細菌iは、たとえば、図1に図解した過程における、加水分解細菌、酢酸形成細菌などである。
細菌iの自己消化係数kdiは、基質の種類、特性状態(性状)、反応器の形式、攪拌方法と反応器とのマッチングに依存する。
式1において、右辺第1項:kSiii は増殖項であり、第2辺:kdii は分解項である。
【0023】
dCi /dt=−kci(kmaxi /(khi+Ci )×Si
…(2)
ただし、kciは細菌iと基質との接触速度に起因する係数であり(kci≦1)、
max は最大比基質利用速度(gCOD/gvss/月)であり、
i は細菌iが作用する対象とする基質の濃度であり、
hiは半飽和定数(mg/l)である。
【0024】
一般に、反応器内において、溶解性の基質成分S−CODは比較的速やかに分解するため、固体物質の可溶化が可溶化した物質の消費に間に合わない。したがって、消化汚泥循環(返送)運転(以下、汚泥循環法)を続けた場合、ある程度の容積負荷以上では反応器内の固体成分は徐々に増加していく。
【0025】
式1を参照すると、反応器内の固形物濃度(TSS濃度)が増加すると、細菌と基質との接触速度に起因する係数ksiは低下するが、細菌iの自己消化係数kdiは余り変化しないため、左辺の菌体増殖速度dSi /dtは減少する。
【0026】
図5は、容積負荷を、6.0、9.0、12.0、12.0、15.0(kg−COD/m3 /day)の6フェーズについて段階的に変化させたときの、運転日数と、単位TSSに含まれる微生物の数の経時変化を示した図である。
図5において、各々の黒丸は、反応器への基質を連続供給する期間と、基質の供給を停止する期間との合計を1単位とし、たとえば、1単位を基質滞留時間(HRT)としたことを示している。
各フェーズの間に休止期間が設けられている。
【0027】
図5において、各フェーズの容積負荷の設定条件での一定期間の運転後、基質供給休止期間後に、矢印で示したように、固形物TSS中に占める菌体濃度が増加していることが理解される。
各フェーズ間に基質供給の休止期間を設けることにより、すなわち、SRT>HRTとすることにより、反応器内の固体物質の可溶化が進み、攪拌効果が改善されて、式1における可溶化した基質濃度Ci の増加とともに、接触速度に起因する係数ksiが増大する。その結果、式1の右辺第1項kSiii は増殖項の値が増大して、菌体増殖速度dSi
/dtが増大する。
【0028】
最終的には、高い容積負荷のもとで、安定した運転を達成するということは、各素反応に寄与する菌体iの濃度Si が高い濃度で反応器内に保持され、式2において、分解に寄与する細菌iと基質との接触速度に起因する係数kciがなるべく1に近い値に保持されることである。
【0029】
たとえば、基質としての生ごみについて考察すると、種々の生ごみを収集混合するとほぼ同じになるように、基質がそれほど変化しなければ、関与する菌体iが反応に関与する基質Ci (中間生成物を含む)の組成は大きく変化しない。したがって、反応器に投入する基質(廃棄物)の性状に合わせて、反応器から引き抜く汚泥量を制御すること、および、微生物および未分解基質のいずれかを含む固形物の反応器内の滞留時間(SRT)を適切な値に制御することができる。
【0030】
実施例
有機性物質として、図3に例示した装置を用いて、破砕生ごみを対象としたメタン発酵の実施例を述べる。
また、図5〜図7の実験値を考察する。
【0031】
本実施例において、固形物に起因する割合が生CODに対して一定の割合、たとえば、、70%以下の有機性物質をメタン発酵する場合を例にとる。
なお、上述したとおり、固形物に起因する化学的酸素要求量の割合は、基質(廃棄物)の性状によっても異なるが、固形物基質のCODが狭すぎると速くTSS(固形物)の濃度が上がり、基質供給期間に比べて必要とする休止期間の割合が1:1程度となり、好ましくない。基質の性状としては、たとえば、(1)固形物の可溶化速度と可溶化物質(S−COD)の分解性、(2)固形物の粒径分布、(3)有機性物質の組成などが対象となる。
以上から、有機性物質をメタン発酵の場合、固形物に起因する化学的酸素要求量の割合が全CODに対して所定の割合として、経験的事項をも考慮して、上記のように、たとえば、70%以下の有機性物質をメタン発酵する場合を想定している。
【0032】
固形物が難分解性であり、固形物の占める割合rP が比較的小さい場合、たとえば、rP <0.6の場合、メタン生成の関連が取り扱い易い重クロム酸カリウム(CODcr)の指標をもって示す。
本実施例では、重クロム酸カリウム(CODcr)の指標を持って示す。
【0033】
T−COD=p−COD+S−COD
ただし、T−CODは、全基質のCODであり、
p−CODは、固形物起因のCODであり、
s−CODは、溶解しているCODである。
【0034】
とすると、固形物の占める割合rP は下記となる。
【0035】
P =p−COD/T−COD
【0036】
また、溶解物の占める割合rS は下記になる。
【0037】
S =s−COD/T−COD=1−rP
【0038】
図5に図解したように、微生物および未分解固形物質を含む固形物の反応器内の汚泥滞留時間(SRT)をHRTより長い60日とし、他方、HRT=16日として、容積負荷を5段階に上昇させた運転の結果、各運転中で、各段階において、終期において、固形物(TSS)濃度はほぼ一定値となった。
このことから、常法では言われている湿式運転の限界濃度10%値における容積負荷を、図5において、内挿すると、容積負荷が約17kg−COD/m3 /dayとなった。この値は、一般の生ごみを対象としたCSTR方式に比べると、かなり高い値であり、本実施例は、高い効率で運転できたことを示している。
【0039】
その理由を考察する。
図5は、上述したように、各有機物負荷速度における単位TSSに含まれる微生物数の経時変化を図解した図である。
微生物濃度は、反応器に有機物(基質)を投入していない休止期間に、上向きの矢印を示したように、増加する。
図5において、たとえば、フェーズ1〜3の休止時間は、微生物濃度を段階的に増加させたが、フェーズ相互間のTSS濃度には余り変化がない。このことは、汚泥内に存在する固形量は増減せず、微生物だけが休止期間に増加したことを意味する。
他方、フェーズ3〜6におけるフェーズ間の休止期間には固形物濃度の急激な減少が起きているにも関わらず、微生物濃度には大きな変化が認められない。このことは、フェーズ間の微生物濃度の変化に関わらず、単位TSSに含まれる微生物濃度が休止期間において増加していることを示している。
このように、本願発明者は、基質を投入しない休止期間に、単位TSSに含まれる微生物濃度が増加していることを見いだし、基質供給期間と休止期間を設けることにより、効果的な微生物量を保持することができる有機性物質のメタン発酵法を発明するに至った。
【0040】
各有機物負荷での定常状態でのTSS濃度は、反応器に投入する有機物の分解性と、固形物の滞留時間、および有機物の負荷速度によって決定されている。有機物負荷速度を上昇させ続けると、定常状態におけるTSS濃度は上昇する。
このまま有機物負荷速度を上昇させると、半乾式メタン発酵あるいは乾式メタン発酵で使用されるような高濃度TSS濃度領域へと増加し、分解率は低下すると予想される。
【0041】
図6は、横軸に負荷速度をとり、縦軸に定常状態のTSS濃度を示した特性図である。 図6を参照すると、本発明法(湿式メタン発酵法)における半乾式状態や乾式状態でのメタン発酵法との境界の有機物容積負荷率は、約17(kgCOD/m3 /day)である。
この図から、基質として生ごみを用いた場合、容積負荷は5kgCOD/m3 /day以上が好ましい。すなわち、5kgCOD/m3 /日以上であると、汚泥の増殖が十分となる。もちろん、上述した数値は、基質としての有機性廃棄物の種類、性状によって変化する。
【0042】
図7は、有機物負荷速度(容積負荷)を6.0(kg−COD/m3 /day)、9.0(kg−COD/m3 /day)、12.0(kg−COD/m3 /day)と3段階に変化させた場合の、生ごみの嫌気性連続実験における修正した微生物濃度を図解した図である。
基質供給期間と休止期間を設けることにより、微生物の濃度が増加していることが理解される。
【0043】
なお、基質(廃棄物)供給時の有機物容積負荷を小さくとれば、廃棄物供給期間を長くし、休止期間を短くすることができる。もちろん、その逆も言える。
【0044】
本発明の実施に際しては、上述した例示した数値に限らず、上述した技術思想を敷衍した変形例をとることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…メタン発酵槽(反応器)、11…攪拌器、12…基質投入口、13…抜取口、14…遠心分離器、15…返送系、16…ガス排出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物に起因する化学的酸素要求量(COD)の割合が、全CODに対して所定値以下の有機性物質を基質としてメタン発酵するに際して、
汚泥循環返送型のメタン発酵処理法で、汚泥の増殖を十分にする容積負荷で運転し、
細菌と基質との接触速度を保持するため、反応器内の固形物濃度を一定量以下にした運転状態で、汚泥中の菌体濃度(生菌濃度)を極大(最大)にし、
反応器への基質を連続供給する期間と、基質の供給を停止する期間との合計を1単位とし、
微生物および未分解起因固形物質の和に基づく反応器内の汚泥滞留時間(SRT)を基質滞留時間(HRT)より長い状態で運転する、
ことを特徴とする、有機性物質のメタン発酵方法。
【請求項2】
基質が生ごみの場合、
固形物に起因する化学的酸素要求量(COD)の割合が全CODに対して70%以下の有機性物質をメタン発酵するに際して、
汚泥の増殖を十分にする前記容積負荷は5kg−COD/m3 /day以上で、
前記基質の連続供給期間を5日以上30日以下(1日1回ないしは1日複数回を含めて)とし、前記基質供給停止期間を4日以上20日以下とし、
(消化)汚泥(循環)返送を伴い、
微生物および未分解起因固形物質の和に基づく反応器内の汚泥滞留時間(SRT)30日以上で反応器を運転する、
ことを特徴とする、
請求項1に記載の有機性物質のメタン発酵方法。
【請求項3】
前記汚泥循環返送型のメタン発酵処理法は、CSTR方式で嫌気性処理を行う、
請求項1または2に記載の、有機性物質のメタン発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75273(P2013−75273A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217807(P2011−217807)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(598123138)学校法人 創価大学 (49)
【Fターム(参考)】