説明

有機無機複合体、該複合体からなる不織布、及びその製造方法

【課題】 貴金属を含む金属単体微粒子を該複合体の最表面に均一に遍在した状態で担持させた有機無機複合体を提供することである。加えて、このような構造を持つ有機無機複合体の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(A)と、該有機ポリマー(A)のマトリックス中に微分散された、平均粒子径が1〜300nmの酸化ケイ素(シリカ)及び/又は酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する無機化合物微粒子(B)とを含む有機無機複合体であって、前記無機化合物微粒子(B)の表面上に、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位が−0.5V以上であり、平均粒子径が0.1〜300nmの金属微粒子(C)が担持されている有機無機複合体、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属を含む金属単体微粒子を該複合体の最表面に均一に遍在した状態で担持させた、有機無機複合体、該複合体からなる不織布、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、無機材料が持つ耐熱性、耐摩耗性等、表面硬度等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に分散、複合化することにより有機無機複合体を作り出す検討が広く行われている。
例えば、無機材料の特性を生かすような有機無機複合体の設計は、極力小さい粒径の無機微粒子を高い充填率で複合化することで、より高い複合化効果を期待することができる。粒径が小さいほど無機微粒子の重量当たりの表面積が大きくなり、有機ポリマーと無機材料との界面領域が広くなるためである。更に、無機微粒子の充填率が高くなると、無機材料の特性を強く出せることとなる。
【0003】
無機材料として金属を複合化した有機無機複合体は、光学材料、高弾性率材料、あるいは装飾用材料に有用な材料として、現在、様々な検討がなされている。たとえば、固体高分子化合物に、そのガラス転移温度以上において、重金属化合物の蒸気を接触することを特徴とする高分子−金属クラスター複合体が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし特許文献1の方法は、有機ポリマーと金属とを内部までほぼ均一に複合化させる方法であり、金属が持つ各種特性(光学特性、修飾性等)を材料のバルク全体に付与する方法としては好ましい方法であるが、金属が接触することで特性を発現する、触媒等の使用としては好ましい方法ではなかった。即ち金属を触媒として使用する場合は、金属の表面積が大きい程金属の使用量は少量で済むため、ナノサイズの担持金属が複合体表面に遍在して担持されていることが好ましい。しかし特許文献1の方法は、複合体内部に入り込んだ金属量が多いため、触媒反応に関与しない金属が存在することになり、触媒活性の高い高価な貴金属を使用する場合、あるいは触媒活性の小さい金属を使用する場合には、不利な方法である。
【0005】
一方、無機材料として酸化ケイ素(シリカ)や酸化アルミニウム(アルミナ)等の酸化物を、有機無機複合体の無機材料として使用した有機無機複合体が知られている。該有機無機複合体は、例えば、ゾルゲル法(有機モノマーの存在下で、金属アルコキシドを加水分解、脱水縮合させることで有機無機複合体を合成する方法)(たとえば特許文献2)、 溶融混練法(加熱溶融させた樹脂に無機成分を混合、分散させることで有機無機複合体を製造する方法)(例えば特許文献3参照)や、界面重合法(例えば、特許文献4、5参照)により得ることができる。
【特許文献1】特開2000―256489号公報
【特許文献2】特開平8−157735号公報
【特許文献3】特開2003−170420号公報
【特許文献4】特開2005−36211号公報
【特許文献5】特開平10−176106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、貴金属を含む金属単体微粒子を該複合体の最表面に均一に遍在した状態で担持させた有機無機複合体を提供することである。加えて、このような構造を持つ有機無機複合体の簡便な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸化ケイ素(シリカ)や酸化アルミニウム(アルミナ)を高い表面積状態で有機ポリマーに複合化させた有機無機複合体に、金属を担持させることで、貴金属を含む金属単体微粒子を該複合体の最表面に均一に遍在した状態で担持させた有機無機複合体が得られると考えた。
【0008】
前記特許文献2に代表されるゾルゲル法を応用した場合、一般にゾルゲル反応に長時間を要するため製造効率が低い上、担持できる金属酸化物が限られるといった欠点がある。即ち、ゾルゲル法で有機無機複合体を得るためにはゾルゲル反応を起こし得る金属アルコキシドが必須であり、安定性が高い貴金属類等は、一般的に金属アルコキシドを形成しないため酸化物の形態としても複合化することができない。
【0009】
前記特許文献3に代表される溶融混練法を応用した場合、無機材料を有機ポリマー中の20質量%以上分散状態で導入するのは困難である。また、前記酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物と、金属微粒子のような、樹脂への混合特性が異なる複種類の無機材料を、各々均一に分散させることも難しい。
【0010】
本発明者らは、特許文献4及び5に記載の、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマーと、該有機ポリマーのマトリックス中に微分散された、平均粒子径が1〜300nmの酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを含有する無機化合物微粒子とを含む有機無機複合体の、前記無機化合物微粒子表面に、貴金属を含む金属を担持させることができることを見いだし、界面重合法を応用することで該複合体を得る方法を見いだした。
【0011】
特許文献4及び5に記載の有機無機複合体は無機材料の含有量を高くできるので、酸化ケイ素(シリカ)や酸化アルミニウム(アルミナ)を使用すれば高い表面積を有する有機無機複合体が得られる。具体的には、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つのハロゲン化合物(a−1)を有機溶媒に溶解した有機溶液(1)と、ジアミン(a−2)と、珪酸アルカリ及びアルミン酸アルカリから選ばれる少なくとも一種の金属アルカリ化合物(b−1)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−1)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを接触させて各溶液中のモノマー同士を反応させつつ、水溶液(2)中の珪酸アルカリ及び/又はアルミン酸アルカリより、酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを析出させる反応を行い(工程1)、その後、還元剤の水溶液を工程1で合成した有機無機複合体が分散したスラリーに添加し、攪拌することにより、金属微粒子(C)を還元させることで、反応触媒、環境浄化触媒等に有効な金属を微粒子、0価(金属単体)、且つ均一に分散させた状態で有機無機複合体の無機成分の表面上に担持した有機無機複合体が簡便に得られることを見いだし、上記課題を解決した。
【0012】
即ち、本発明は、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(A)と、
該有機ポリマー(A)のマトリックス中に微分散された、平均粒子径が1〜300nmの酸化ケイ素(シリカ)及び/又は酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する無機化合物微粒子(B)とを含む有機無機複合体であって、
前記無機化合物微粒子(B)の表面上に、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位が−0.5V以上であり、平均粒子径が0.1〜300nmの金属微粒子(C)が担持されている有機無機複合体を提供する。
【0013】
また、本発明は、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つのハロゲン化合物(a−1)を有機溶媒に溶解した有機溶液(1)と、ジアミン(a−2)と、珪酸アルカリ及びアルミン酸アルカリから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物(b−1)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−1)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを混合攪拌し反応させ有機無機複合体を得る工程1と、
工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−1)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、を有する有機無機複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機無機複合体は、貴金属を含む金属単体微粒子が該複合体の最表面に均一に遍在した状態で担持されている。酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを主成分とするナノサイズの無機化合物微粒子(B)が有機ポリマーに複合化しており、該無機化合微粒子(B)にナノサイズの担持金属が担持されているので、金属担持重量あたりの表面積が非常に高い。
無機化合物微粒子(B)により各種機能の発現の場となる高比表面積が付与されているので、例えば担持金属を触媒として使用する際にも、高い触媒活性が期待できる。また、無機化合物微粒子(B)を高い含有率(最大80質量%)で含有させることができるので、高い表面積の他、耐熱性、寸法安定性、表面硬度といった無機材料固有の特性も付与させることができる。
【0015】
本発明の有機無機複合体は、前記製造方法により得られる。前記製造方法において工程1は、有機ポリマー(A)と無機化合物微粒子(B)との複合体を合成し、且つ、金属微粒子(C)の前駆体である金属イオン化物を複合体上に吸着させる工程であり、工程2は、工程1で得られた複合体を還元処理することにより、担持金属を析出させる工程である。前記製造方法は、無機化合物微粒子(B)、金属微粒子(C)ともに、水溶した状態から析出させるため、製造工程において粗大粒子化しにくい。そのため、無機化合物微粒子(B)はナノサイズで有機ポリマー(A)と複合化することができる。
更に、金属微粒子(C)の析出は、金属微粒子(C)の前駆体である金属イオン化物が予め有機無機複合体の合成系内に溶解しているため、金属イオン化物は工程1において多孔質状に固体化する無機化合物微粒子(B)の細孔の極めて近傍に位置することができ細孔内に(イオンとして)取り込まれた状態で、工程2において添加された還元剤によって還元され生じる。該方法は、微粒子状で且つ触媒活性が高い0価の金属状態の金属微粒子を析出させることができる。工程1、工程2ともに、移送を伴わずに連続的に行うことが出来る上、常温常圧下での短時間(基本的に30分未満)で終了するので、簡便に本発明の有機無機複合体を得ることができる。特に、工程2での還元を十分に行うことにより、金属微粒子(C)を原料の金属化合物(c−1)からほぼ100%の収率で有機無機複合体に担持させることができる。加えて、使用する有機ポリマー(A)、無機化合物微粒子(B)及び金属微粒子(C)の種類や比率を調整することで、容易に複合体の設計が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
(有機無機複合体の有機ポリマー)
本発明の有機無機複合体の有機ポリマーはポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(A)から選択される。これらの有機ポリマーには水素原子を含む極性が高い結合部位が含まれているため、該複合体の無機化合物微粒子(B)に含まれる酸化ケイ素や酸化アルミニウム中の酸素と、水素結合等の相互作用を形成する。従って、無機化合物微粒子は凝集せずナノサイズの微粒子状態で有機ポリマー(A)中に分散され、高い比表面積、耐熱性、高硬度等の特徴が付与される。
有機ポリマーがポリアミドの場合には、高分子量のポリマーが合成できるため、繊維状、パルプ状の有機無機複合体が得られやすい。そのため、抄紙等の方法によりシート形状にすることができるため特に好ましい。
【0018】
(有機無機複合体の無機成分)
本発明の有機無機複合体の無機材料は無機化合物微粒子(B)と、該微粒子に担持された金属微粒子(C)とから構成される。
【0019】
(無機化合物微粒子(B))
本発明の有機無機複合体中の無機化合物微粒子(B)は、金属微粒子(C)の担体としての役割を果たす。
本発明においては、無機化合物微粒子(B)として、酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを使用する。これらの無機化合物は、ナノサイズに複合化しやすく多孔質を形成しやすい。表面積が大きくなるので表面活性が高くなり、担持する金属を微粒子状に出来る上、該金属の活性も高くすることができる。
【0020】
(無機化合物微粒子(B)が酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む場合)
無機化合物微粒子(B)は酸化ケイ素単独、あるいは、酸化アルミニウム単独で構成されていても良いし、両方を含んでいても良い。酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの両方を含む複合酸化物は、その割合、即ちSiO/Al比を任意に変えることにより無機化合物の結晶形状が大きく変化するので(ゼオライトが例として知られるように)、比表面積、平均細孔径、細孔径分布等の物理形状、酸点等の表面の化学的特性を任意で変更することが可能であり、金属担持用の担体としての特性を様々に変えることができるので、より好ましい。SiO/Al比は特に限定はないが、好ましいSiO/Al比は3以上0.33以下であり、さらに好ましくは5以上0.2以下であり、もっとも好ましくは10以上0.1以下である。
【0021】
(無機化合物微粒子(B)が酸化ケイ素と酸化アルミニウムの以外の化合物を含む場合)
また本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で、無機化合物微粒子(B)として、酸化ケイ素、酸化アルミニウム以外の、他の無機化合物(B’)を含有させてもよい。無機化合物(B’)としては具体的には金属酸化物、金属水酸化物又は金属炭酸化物が好ましく、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素(但しアルミニウムは除く)の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物を含有するのがより好ましい。無機化合物微粒子(B)の全量100質量%に対する無機化合物(B’)の割合は、50質量%以下が好ましく、更に好ましくは25質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。無機化合物(B’)の割合が50質量%を超えると有機ポリマー中で凝集し易くなり、酸化ケイ素及び/または酸化アルミニウムで構成されているナノ微粒子によるネットワーク構造が乱れ表面積や、無機微粒子による補強効果が低下するおそれがある。
例えば、酸化ケイ素と酸化ジルコニウム(無機化合物(B’)に相当)とからなる無機化合物微粒子(B)を担持した有機無機複合体は、Si(4配位)とZr(8配位)との配位数の差により固体酸による酸性を発現するので、酸化ケイ素のみを担持した有機無機複合体や、酸化アルミニウムのみを担持した有機無機複合体とは異なる化学的表面特性を示す。
【0022】
(有機無機複合体全量100質量%に対する無機化合物微粒子(B)の含有率)
本発明の有機無機複合体において、無機化合物微粒子(B)の役目は、金属微粒子(C)を担持することにある。従って、一定量以上で、且つより多くの金属微粒子(C)を担持させるため、無機化合物微粒子(B)の有機無機複合体全量100質量%に対する含有率は一定以上であることがよく、好ましくは10〜80質量%であり、更に好ましくは20〜80質量%であり、最も好ましくは30〜80質量%である。有機ポリマー比率が少なくなりすぎると、本発明の複合体が持つシート化や積層板等への加工性が損なわれる恐れがある。
【0023】
(無機化合物微粒子(B)の粒子径、複合化形態)
本発明の有機無機複合体では無機化合物微粒子(B)の平均粒径が1〜300nmの範囲内で有機ポリマー中に分散している必要がある。無機化合物微粒子(B)の平均粒径が300nmより大きいと本複合体に期待される各種機能の発現の場である高比表面積が付与されにくくなる。また、無機材料を複合化することに伴う耐熱性や寸法安定性、表面硬度等の特性の向上も乏しくなる上、無機化合物微粒子(B)が有機ポリマー(A)より脱落しやすくなる恐れもある。これらの問題は無機化合微粒子(B)の粒径が小さいほど起こりにくい上、逆にこれらの特性を高くできるため、無機化合物微粒子(B)の粒径は小さいほど好ましく、このましい平均粒径は150nm以下であり、更に好ましくは100nm以下、最も好ましくは30nm以下である。また、無機化合物微粒子(B)の複合化形状は、高比表面積、耐熱性や寸法安定性、表面硬度等の特性の向上の観点より、無機微粒子同士が一部で接合したネットワーク構造を有していることが好ましい。本発明では、後述の製造方法で有機無機複合体を合成し、無機化合物微粒子(B)含有量が高く且つその平均粒子径が10nm付近と小さい状態で複合化した場合、無機化合物微粒子(B)の主成分が酸化ケイ素ならばSiが四配位であることにより3次元ネットワーク構造(網目構造)を形成し、主成分が酸化アルミニウムではAlが三配位であることにより二次元ネットワーク構造(2次元層状構造)を形成することができ、上記の各特性を高めることができる。
【0024】
(金属微粒子(C)の構成成分)
本発明において、無機化合物微粒子(B)上に担持される金属微粒子(C)は、該金属の水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上の金属である。金属微粒子(C)は、該金属微粒子の原料である金属化合物(c−1)中の金属を還元することで有機無機複合体上に析出させる。前記の標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上の金属とは、具体的には、水溶液中で、還元剤を用いることによる金属への還元処理が可能な金属であることを意味する。例えば、Eの値が小さい金属(アルカリ金属やアルカリ土類金属の他、アルミニウム、チタン等の卑金属)の金属イオンを水中で還元しようとしても、該還元反応の競争反応である水中の水素イオンの水素への還元が優先するため実質的に金属にまで還元することが出来ない。
前記の範囲の酸化還元電位を有する金属は、酸化還元電位が低い方より、鉄、インジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、スズ、鉛、レニウム、ビスマス、銅、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金を例示が出来る。中でも、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属が好ましい。
【0025】
金属が有する標準酸化還元電位(E)は、還元操作がより容易になることから、(E)の値は高いほうが好ましく、好ましくは−0.25V以上、更に好ましくは0V以上、最も好ましくは0.5V以上である。(E)の値が0.5以上となると、水溶液中での金属イオンの金属への還元反応が、副反応である水素発生よりもほぼ確実に優先し、金属の析出効率が高くなる上、反応速度も速くなる。このような金属としてはルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金が挙げられる。またこれらの金属は触媒特性等にも優れたものが多いため、実用面でも好ましく用いられる。また、ニッケルは標準酸化還元電位(E)がー0.228Vと比較的低いものの、カニゼン法で知られるように量産にも対応できる無電解メッキ法(つまり金属還元法)が確立されている上、白金族に属しており触媒活性等も高いため好ましく用いられる。これらの中でもパラジウム、白金は触媒として汎用性が高い上、還元も容易であるため最も好ましく用いられる。
【0026】
(有機無機複合体全量100質量%に対する金属微粒子(C)の含有率)
金属微粒子(C)の含有率(担持量)は複合体の用途により適宜選定されれば良く特に限定は無い。しかし、金属微粒子(C)が無機化合物微粒子(B)の表面上に担持されることから、無機化合物微粒子(B)よりも少ない量が現実的である。具体的には、有機無機複合体全量100質量%に対して最大量15質量%程度担持されているのが好ましい。本発明では前述の通り金属微粒子はナノサイズで担持することができるので担持効果が高く、用途によっては0.01質量%以上担持すれば機能することもあるが、特に好ましい範囲は0.1質量%〜10質量%である。特に金属微粒子(C)の担持量は、前駆体の金属化合物(c−1)の水溶液(2)への溶解量が支配する。従って例えば担持量を増やしたい場合には、後述の製造方法の工程において、使用する金属化合物(c−1)として水溶解度の高い金属を選択し、多量に水溶液(2)中に溶解させて工程1を行うとともに、工程2の還元工程において、十分な還元剤を供給すればよい。
【0027】
(金属微粒子(C)の粒径)
金属微粒子(C)の粒径は、金属微粒子(C)が無機化合物微粒子(B)の表面上に担持されることから、実質無機化合物微粒子(B)よりも同じか小さいことが望ましく、具体的には0.1〜300nmの範囲である。なお好ましくは0.1〜100nmであり、更に好ましくは0.1〜10nmである。このようなナノサイズの金属微粒子(C)を有機無機複合体に担持することにより、様々な利点がある。例えば、担持質量あたりの表面積が広くなるため担持効率が高くなる。特に金属微粒子(C)が高価格な貴金属である場合は、担持量が少ない状態で高い特性が求められるため特に重要である。また、粒径が小さいほど有機無機複合体表面での密着性が向上するので、本発明の有機無機複合体を触媒として使用する際、気体や液体と接触させる時や、加工する時に、金属微粒子(C)が無機化合物微粒子(B)からはがれたりすることが少ない。
【0028】
(有機無機複合体の形状)
本発明の有機無機複合体の形状は特に限定はなく、製造方法、使用原料によって粉体状、長繊維状、パルプ状の各形状にて得ればよい。具体的には、有機ポリマーを合成するためのモノマーの種類や、後述の製造方法における有機溶液(A)の水への相溶性の影響、合成工程での複合体のせん断処理の影響が大きく、これらを変更することにより設計可能である。
有機無機複合体の形状は使用目的によって適宜選択されればよいが、中でも、繊維径が20μm以下でアスペクト比が10以上のパルプ形状で得られた場合には、抄紙が可能となり且つ抄紙により平滑かつ引っ張り強度が強い不織布シートが得られ、さらにハニカム状等へ二次加工することができるため特に好ましく用いられる。
【0029】
(有機無機複合体の製造方法)
本発明の有機無機複合体は、ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つのハロゲン化合物(a−1)を有機溶媒に溶解した有機溶液(1)と、ジアミン(a−2)と、珪酸アルカリ及びアルミン酸アルカリから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物(b−1)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−1)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを混合攪拌し反応させ有機無機複合体を得る工程1と、
工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−1)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、により得ることができる。
【0030】
(有機無機複合体の合成工程(工程1))
工程1は、前記有機溶液(1)と前記水溶液(2)とを接触させて各溶液中のモノマー同士を重縮合反応させつつ、前記水溶液(2)中の珪酸アルカリ及び/又はアルミン酸アルカリより、酸化ケイ素及び/又は酸化アルミニウムを析出させる反応である。重縮合反応させる温度は特に限定はなく、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。加圧や減圧は特に必要としない。工程1における重合反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常10分以下で完結する。得られた有機無機複合体は親水性が高いので、水溶液(2)由来の水中にスラリー状に分散する。
本発明での前記有機溶液(1)と前記水溶液(2)中のモノマー濃度としては重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0031】
(有機溶液(1)に用いる有機溶媒)
有機溶液(1)に用いる有機溶媒として水に対して非相溶の有機溶媒を用いた場合、生じる重縮合反応は有機溶液(1)と水溶液(2)の界面のみで生じる界面重縮合反応となる。この場合は得られる有機ポリマーの分子量を容易に高くすることができるため、繊維形状やパルプ形状の複合体が得られやすい。また、有機溶液(1)と水溶液(2)の界面で生じた複合体膜を引き上げつつ紡糸することで、強度の高い長繊維を得ることもできる。有機無機複合体を繊維状で得た場合には、不織布形状に加工することで柔軟な複合体シートとすることができる上、該シートよりハニカム状、帯状等に更に加工することができ用途も広くなることから、有機溶液(1)としては水に対して非相溶の有機溶媒を用いることが好ましい。一方、有機溶液(1)として水に対して相溶するものを用いた場合には、有機溶媒と水とが乳化した状態下で重合が生じるため、粉体形状の複合体が容易に得られる。これら粉体状の複合体も加熱下で圧縮成型することにより任意の形状に加工することができる。
【0032】
有機溶液(1)に用いる有機溶媒としては上記の有機溶液(1)中の各種モノマーやジアミンとは反応せず、有機溶液(1)中の各種モノマーを溶解させるものであれば特に制限なく用いることができる。このうち水と非相溶の有機溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類を挙げることができる。また、水と相溶する有機溶媒としては、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類などを代表的な例として挙げることができる。
【0033】
(有機溶液(1)に用いるハロゲン化合物(a−1))
本発明ではハロゲン化合物(a−1)を適宜選択することにより、有機無機複合体のマトリクス有機ポリマーの組成物性を変化させることができる。ハロゲン化合物(a−1)としてジカルボン酸ハロゲン化物を用いた場合はポリアミドを、ジクロロホルメート化合物を用いた場合はポリウレタンを、ホスゲン系化合物を用いた場合にはポリ尿素を、水溶液(2)との反応によって得ることができる。
【0034】
(有機溶液(1)に用いるハロゲン化合物(a−1) ジカルボン酸ハロゲン化物)
有機ポリマーがポリアミドの場合は容易に繊維化できこれによりシート形状にできるため、ハニカム状の外表面積が高い形状や、反応容器内の内壁にあった形状にすることができる。
ジカルボン酸ハロゲン化物としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、およびイソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基などで置換した芳香族ジカルボン酸の酸ハロゲン化物などが例として挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、アジポイルクロライド、アゼラオイルクロライド、セバシルクロライド等の脂肪族のジカルボン酸の酸ハロゲン化物を使用すると、繊維状の有機無機複合体を得やすく、不織布等へ加工しやすい。
【0035】
(有機溶液(1)に用いるハロゲン化合物(a−1) ジクロロホルメート化合物)
ジクロロホルメート化合物としては、1.2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール類や、1個または2個以上の芳香環に水酸基を2個持つレゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、ビスフェノールS、ビスフェノールA、テトラメチルビフェノール等の2価フェノール類の水酸基を全てホスゲン化処理によりクロロホルメート化したものを挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
(有機溶液(1)に用いるハロゲン化合物(a−1) ホスゲン系化合物)
ホスゲン系化合物としてはホスゲン、ジホスゲンおよびトリホスゲンを挙げることができる。これらは単独で、またはいずれかを組み合わせて使用することができる。
【0037】
(水溶液(2)に用いるジアミン(a−2))
前記水溶液(2)に用いるジアミン(a−2)としては、前記有機溶液(1)中の各モノマーと反応し、有機ポリマーを生成するものであれば特に制限なく用いることができ、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタンなどの脂肪族ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミン、あるいはこれら芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、またはアルキル基などで置換した芳香族ジアミンなどが例として挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン等の脂肪族ジアミンを使用すると、繊維状の有機無機複合体を容易に得ることができ不織布等へも加工することができるため特に好ましい。
【0038】
(水溶液(2)に用いるアルカリ金属化合物(b−1) 酸化ケイ素の原料;珪酸アルカリ)
水溶液(2)に用いるアルカリ金属化合物(b−1)が、無機化合物微粒子(B)の原料となる。無機化合物微粒子(B)として酸化ケイ素を含有させる場合には、珪酸アルカリを用いる。本発明での水溶液(2)に使用する珪酸アルカリとしては、最も代表的なものとして珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、これらの他に、nの平均値が1、Mがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムや、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。これらの珪酸アルカリに含まれるアルカリ金属は、有機ポリマー(A)の重合の際に発生する酸の除去剤として作用することで、ポリアミド等の本発明の有機無機複合体のポリマー成分の重合反応を促進する。アルカリ金属が除去された珪酸アルカリは、シラノール基を経由し、脱水縮合しつつ相互に結合し、ナノサイズの酸化ケイ素微粒子を中心としたネットワーク構造を形成する。このとき、モノマーからポリマーへの成長と珪酸アルカリから酸化ケイ素への成長が、並行して進行するため、片方の生成物が優先的に析出することを抑制し、ナノ微分散構造が形成される。このような反応機構により、水溶液(2)に珪酸アルカリを用いた場合は、各種ポリマーと酸化ケイ素よりなる無機のナノネットワーク構造を有する有機無機複合体が得られる。
【0039】
(水溶液(2)に用いるアルカリ金属化合物(b−1) 酸化アルミニウムの原料;アルミン酸アルカリ)
本発明の有機無機複合体中の無機化合物微粒子(2)として酸化アルミニウムを含有させる場合には、アルミン酸アルカリを用いる。本発明での水溶液(2)に使用するアルミン酸アルカリとしてはMAlO(メタアルミン酸アルカリ)やMAlO(オルトアルミン酸アルカリ)およびこれらの共溶物であり、Mがアルカリ金属であるものが挙げられる。特にアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムは水溶性が高いため特に好ましく用いられる。アルミン酸アルカリ中に含まれるアルカリ金属もまた、珪酸アルカリの場合と同様に重合の際に発生する酸の除去剤として作用することで、各種ポリマーの重合反応を促進する。また、アルカリ金属が除去された酸化アルミニウムも珪酸アルカリの時と同様な機構により、アルミノール基を経由してネットワーク構造を有するナノ微分散構造を形成しポリアミド中に複合化される。
【0040】
これら、珪酸アルカリとアルミン酸アルカリは水溶液(2)中に同時に溶解させることにより、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物を有する無機化合物微粒子を本発明の有機無機複合体に導入することができる。そのため、珪酸アルカリとアルミン酸アルカリの両方を用いてもよい。また珪酸アルカリ(水ガラス)とアルミン酸アルカリ(アルミン酸ソーダー)とも、土木材料、土壌改質剤にも大量に用いられている極めて安価な材料であり、こうした原料を使用できるのも本発明の特徴のひとつである。
【0041】
前記無機化合物微粒子(B)が酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの両方を含む場合、酸化ケイ素の原料として珪酸アルカリを、また酸化アルミニウムの原料としてアルミン酸アルカリを使用する時は、SiO/Al比が1前後で混合すると、Si−O−Alの架橋反応が進行しゲル化することがある。水溶液(2)がゲル化を起こすと、有機無機複合体中の無機化合物微粒子(B)が粗大化することで、ナノメートルサイズの複合化が出来なくなる。そのため、混合する珪酸アルカリとアルミン酸アルカリ中のSiO/Al比については、1前後を除外することが好ましい。
【0042】
(水溶液(2)に用いるアルカリ金属化合物(b−1) 無機化合物(B’)の原料)
前記酸化ケイ素及び/または酸化アルミニウムに、更に無機化合物(B’)を含有させる場合は、水溶液(2)中に、前記珪酸アルカリや前記アルミン酸アルカリと、同時に無機化合物(B’)の原料を溶解状態で共存させて同様の反応を行うことで有機無機複合体を得ることができる。ここで、無機化合物(B’)の原料をアルカリ金属化合物(b−2)とする。無機化合物(B’)が酸化スズ(IV)(SnO)であるとすると、アルカリ金属化合物(b−2)としてはスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムが例示できる。たとえばスズ酸カリウム(KSnO)を用いた場合、前記化合物は水中で下記化学式に従い完全に溶解し、珪酸アルカリ、アルミン酸アルカリと同様に塩基性を呈する。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、有機ポリマーの重縮合に伴い発生する酸により、KOHが消費されると水溶性に乏しいSnOが水溶状態を保てずに析出することにより、酸化ケイ素、酸化アルミニウムの場合と同様にSnOが有機ポリマー(A)に複合化される。
【0045】
具体的には、アルカリ金属化合物(b−2)は少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素(但しアルミニウムは除く)と、の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属化合物、と定義することができる。
【0046】
このとき、珪酸アルカリやアルミン酸アルカリはアルカリ金属化合物(b−2)よりも水溶時に高い塩基性を示すため、ポリアミドの重縮合反応にアルカリ金属化合物(b−2)よりも強く関与すると考えられる。そのため、まず酸化ケイ素及び/または酸化アルミニウム特有のナノ微粒子によるネットワーク構造が構成されたのち、それを一種の鋳型として酸化物に対して親和性が高い、化合物(b−2)中のアルカリ金属以外の部分を構成する無機化合物(B’)が固体として複合化する。
【0047】
本発明で用いられるアルカリ金属化合物(b−2)の内、酸化物である化合物としては、亜鉛酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム、アンチモン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物を好適に用いることができる。
また、金属水酸化物、炭酸化物の双方の基(CO、OH)を含むアルカリ金属化合物(b−2)としては、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、および炭酸スズカリウム等を例示することができる。
これらのアルカリ金属化合物(b−2)は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。また、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
(水溶液(2)に用いる金属化合物(c−1))
水溶液(2)に用いる金属化合物(c−1)は、金属微粒子(C)の原料である。金属化合物(c−1)は、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上の、水溶性の金属を有する金属化合物である。具体的には、酸化還元電位が低い方より、鉄、インジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、スズ、鉛、レニウム、ビスマス、銅、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、又は金の金属化合物であり、前記水溶液(2)中に必須の成分であるジアミンや、珪酸アルカリ及び/またはアルミン酸アルカリと反応せずに水溶液中で溶解状態を保てる材料であれば特に限定されない。但し、水溶液(2)が塩基性を呈することから、前記水溶液が酸性を呈すると水溶液(2)中のジアミンや、珪酸アルカリ、アルミン酸アルカリと反応し、有機無機複合体の合成反応を阻害する場合があるので、金属化合物(c−1)を単独で溶解した水溶液が塩基性、もしくは中性であることが好ましい。
【0049】
また、水溶液中でのより還元しやすく、得られた金属担持有機無機複合体の応用範囲が広いことから、好ましい金属化合物(c−1)としては、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金の金属化合物が挙げられ、特に好ましくはパラジウム、白金の金属化合物である。パラジウムや白金は触媒特性等にも優れたものが多いため、実用面でも好ましく用いられる。
【0050】
金属化合物(c−1)としては、上記金属の過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸等の過ハロゲン酸物、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、水酸化物等が例示される。また、特に貴金属類は前記の金属化合物では水溶性が不十分であるため、担持量を増加させることが困難な場合がある。この場合、水溶性を高くしつつ水溶液を中性、または塩基性にするために、金属化合物(c−1)にアルカリ金属や、アンモニウム塩が含まれていることが特に好ましい。このような化合物を以下に例示する。
【0051】
パラジウム化合物としては、シアン化パラジウムカリウム、塩化パラジウムナトリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)リチウムを、
白金化合物としては、ヘキサクロロ白金(VI)酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金(VI)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(VI)酸アンモニウム、テトクロロ白金(II)酸ナトリウム、テトクロロ白金(II)酸アンモニウム、シアン化白金ニナトリウム、シアン化第一白金カリウムシアン化白金ルビジウム、シアン化白金セシウムを、
ロジウム化合物としては、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウム、シアン化ロジウムカリウムを、
イリジウム化合物としては、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸ナトリウム、ヘキサクロロイリジウム(III)酸アンモニウム、シアン化イリジウム三カリウムを、
オスミウム化合物としては、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸ナトリウム、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸アンモニウム、オスミウム酸カリウムを、
ルテニウム化合物としては、五塩化ルテニウム二アンモニウム、六塩化ルテニウム三アンモニウム、塩化ヘキサアンミンルテニウム、ルテニウム酸カリウム、シアン化ルテニウムカリウムを、
金化合物としては、テトクロロ金(III)酸ナトリウム、テトクロロ金(III)酸カリウムシアン化第二金ナトリウム、シアン化第一金カリウムを、
銀化合物としては、シアン化銀カリウムを例示することができる。
これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用することで2種類以上の金属化合物(C)を担持することができる。
【0052】
本発明での合成工程(工程1)に用いる製造装置としては、前記有機溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbau Gmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。バッチ式の場合は有機溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、マックスブレンド翼やファウドラー翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いると良い。
【0053】
前記有機溶液(1)で使用するハロゲン化合物(a−1)として、脂肪族ジカルボン酸ハロゲン化物を使用し、前記水溶液(2)で使用するジアミン(a−2)として脂肪族ジアミンを用いた場合には、重合操作の際に強固なゲル状物が生成する場合がある。その場合には、ゲルを破砕し反応を進行させるために高い剪断力を持つミキサーを用いることが好ましく、例としてはオスタライザー(OSTERIZER)社製ブレンダーなどが挙げられる。
【0054】
上記金属化合物(c−1)を、水溶液(2)中に共存させることで、得られた有機無機複合体が上記金属化合物中の担持対象である金属イオンを複合体表面近傍に極めて近い状態で吸着、保持することができる。
しかし、この状態では金属はイオン状態にあるため、複合体の洗浄工程や、溶液中での使用の等で流出する恐れがある。そのため実使用を考慮すると金属として複合体表面上に固定することが望まれる上、担持金属の触媒活性の強さの観点からも0価の金属の状態で存在していることが好ましい。そのため、担持対象である金属イオンを金属へ還元処理する必要がある。
【0055】
(有機無機複合体上の金属イオンを金属に還元する工程(工程2))
工程2に相当する還元処理操作は、還元剤の水溶液を工程1で合成した有機無機複合体が分散したスラリーに添加し、攪拌することにより行う。この操作は還元剤と金属微粒子(C)の前駆体である金属イオンが吸着された有機無機複合体スラリーとが十分に接触さえすれば得に限定されない。還元処理の温度は水中で還元反応が生じる範囲では特に限定されない。金属微粒子(C)が還元容易な貴金属であれば、適切な還元剤を選定することで常温下での30分以内の攪拌処理で金属イオンが金属へと還元される。還元する対象の標準酸化還元電位(E)が低い等の理由で還元反応が生じにくい場合は、数十度まで加温し、より長時間還元処理をしても良い。
【0056】
(還元剤)
本発明で用いられる還元剤としては、水溶液中に溶解している金属微粒子(C)の前駆体である金属イオンを還元できるものであれば制限なく用いることができる。還元剤の例を挙げると、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)等の低原子価状態にある金属イオンを有する金属化合物や、酸化程度の低い有機化合物であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、酢酸、ギ酸等のカルボン酸類の他、シュウ酸、糖類や、ヒドロキノン、カテコール等の二価フェノール類に加えて、次亜リン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等を例示することができる。
【0057】
還元剤は、前記工程1で得られた水中に分散している有機無機複合体に吸着している金属微粒子(C)の前駆体金属イオンに作用して、これを金属微粒子に還元する必要があるため、水と相溶する必要がある。ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ヒドラジン(水和物)等の液体であるものは、直接または水希釈液を有機無機複合体スラリーに導入してもよい。また、固体の還元剤は有機無機複合体スラリーに添加する前に、水に溶解させて用いると還元処理が迅速かつ均一にできるため好ましい。水溶液中の還元剤の濃度は還元対象の金属種や担持金属量によって適宜選定してよい。
【0058】
また、金属への還元を良好に行うために、有機無機複合体スラリーや還元剤の水溶液中にメッキ技術で用いられる公知慣用の薬剤である錯化剤、緩衝材、光沢剤、界面活性剤等を用いてもよい。
【0059】
本発明での金属還元工程(工程2)に用いる装置としては、有機無機複合体スラリーと還元剤溶液とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。担持金属の標準酸化還元電位(E)が高く且つ還元力の強力な還元剤を用いた場合は還元反応が早いため、複合体の合成に用いたのと同様な連続式攪拌装置の使用が可能である。それ以外の場合では攪拌を十分な時間行わせるため、汎用のバッチ式攪拌装置が好ましい。本発明での製造法では還元剤が極端に不足した場合や、還元条件が還元対象の金属に適合していない場合を除いて、ほぼ100%の収率で金属微粒子(C)を担持することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0061】
(実施例1)
(酸化ケイ素(無機化合物微粒子(B))/白金(金属微粒子(C))/ポリアミド(有機ポリマー(A))からなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
(合成工程:工程1)
イオン交換水27.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)としてケイ酸ナトリウム3号9.18gを入れ、室温で15分間攪拌し、均質透明な水溶液を得た。次に別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−1)としてヘキサクロロ白金ナトリウム・六水和物0.162gを入れ室温で15分間攪拌し、褐色透明な水溶液を得た。これら2種の水溶液を混合し、室温で10分間攪拌することにより淡褐色透明な水溶液(2)を得た。室温下でこの水溶液をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、ハロゲン化合物(a−1)としてアジポイルクロライド2.49gをトルエン44.4gに溶解させた有機溶液(1)を20秒かけて滴下した。生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作により淡黄色の有機無機複合体パルプが分散したスラリーが得られた。静止状態でのスラリーは上層がトルエン、下層が水の2層に分離した液中で下層の水中に分散していた。
【0062】
(還元工程:工程2)
本スラリーを200cmのビーカーに移し、攪拌子を入れた後マグネチックスターラーで常温で攪拌しつつ、ヒドラジン1水和物5gとイオン交換水10gとを混合した還元剤水溶液を4g採取し、これを5秒間で滴下した。還元剤水溶液を滴下直後より、複合体スラリーが徐々に黒変していき20分間で均一な濃灰色となった。この色の変化は還元剤の添加により複合体上の白金イオンが白金金属(担持金属(C))に還元されたことを示している。
【0063】
(洗浄工程)
この操作で得られたパルプ状の生成物が分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。この際発生した濾液の一部を、金属微粒子(C)の収率測定用に回収した。ヌッチェ上の目的生成物を再度イオン交換水200部に分散させスターラーで2時間攪拌し0.01MPaで減圧濾過することで残留したトルエンの除去処理を行った。これを再度減圧濾過することで、濾紙上に均一濃灰色の有機無機複合体ウエットケーキを得た。
【0064】
(有機無機複合体の不織布の作成)
得られた有機無機複合体ウエットケーキを、蒸留水に0.2g/dLの濃度に分散させた分散液200gを直径55mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。得られたケーキを170℃、5MPa/cm、の条件で2分間熱プレスを行い濃灰色の不織布を作成した。得られた不織布は柔軟性に富むものであり、折り曲げても粒子類の脱落は一切なかった。
これを後述の金属担持有機無機複合体の各種評価に用いた。
【0065】
(実施例2)
(酸化アルミニウム/パラジウム/ポリアミド複合体からなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
実施例1での水溶液(2)及び還元剤水溶液を以下の組成に変更した以外は実施例1と同一の方法で灰色の有機無機複合体および該複合体より不織布を得た。
水溶液(2)製法:イオン交換水27.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)としてアルミン酸ナトリウム(北陸化成製#−100)2.40gを入れ、室温で15分間攪拌し、淡黄色均質透明な水溶液を得た。次に、別のイオン交換水27.0gに金属化合物(c−1)として塩化パラジウムナトリウム0.150gを入れ室温で15分間攪拌し、褐色透明な水溶液を得た。これら2種の水溶液を混合し、室温で10分間攪拌することにより淡褐色透明な水溶液(2)を得た
還元剤水溶液製法:イオン交換水10gにホスフィン酸ナトリウム5gを入れ、常温下で5分間攪拌することで溶解し還元剤溶液とした。この内、4gを還元剤として複合体スラリーに添加した。
【0066】
(実施例3)
(酸化ケイ素・酸化アルミニウム(SiO/Al=8.3)/パラジウム/ポリアミドからなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
実施例1での水溶液(2)を以下の組成に変更した以外は実施例1と同一の方法で灰色均一な有機無機複合体および該複合体より不織布を得た。
水溶液(2)製法:イオン交換水18.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)として珪酸ナトリウム4号15.7gを入れ、室温で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た。次に、別のイオン交換水18.0gにアルカリ金属化合物(b−1)としてアルミン酸ナトリウム(北陸化成製#−100)0.24gを入れ、室温で15分間攪拌し、淡黄色均質透明な水溶液を得た。さらに、イオン交換水18.0に金属化合物(c−1)として塩化パラジウムナトリウム0.150gを入れ室温で15分間攪拌し、褐色透明な水溶液を得た。これら3種の水溶液を混合し、室温で10分間攪拌することにより淡褐色透明な水溶液(2)を得た。
【0067】
(実施例4)
(酸化アルミニウム・酸化ケイ素(SiO/Al=0.13)/銀/ポリアミドからなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
実施例1での水溶液(2)を以下の組成に変更した以外は実施例1と同一の方法で黒色で均一な有機無機複合体および該複合体より不織布を得た。
水溶液(2)製法:イオン交換水18.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)としてオルソケイ酸ナトリウム0.35gを入れ、室温で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た。次に、別のイオン交換水18.0gにアルカリ金属化合物(b−1)としてアルミン酸ナトリウム(北陸化成製#−100)2.16gを入れ、室温で15分間攪拌し、淡黄色均質透明な水溶液を得た。さらに、イオン交換水18.0gに金属化合物(c−1)として過塩素酸銀0.112gを入れ室温で15分間攪拌し、透明な水溶液を得た。これら3種の水溶液を混合し、室温で10分間攪拌することにより淡黄色透明な水溶液(2)を得た。
【0068】
(実施例5)
(酸化ケイ素・酸化スズ(SiO/SnO=5.6)/白金/ポリアミドからなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
実施例1での水溶液(2)及び還元剤水溶液を以下の組成に変更した以外は実施例1と同一の方法で灰色の有機無機複合体および該複合体より不織布を得た。
水溶液(2)製法:イオン交換水18.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)としてケイ酸ナトリウム3号7.34gを入れ、室温で15分間攪拌し均質透明な水溶液を得た。次に、別のイオン交換水18.0gにアルカリ金属化合物(b−2)としてスズ酸カリウム・3水和物0.54gを入れ、室温で15分間攪拌し、均質透明な水溶液を得た。さらに、イオン交換水18.0に金属化合物(c−1)としてヘキサクロロ白金ナトリウム・六水和物0.162gを入れ室温で15分間攪拌し、褐色水溶液を得た。これら3種の水溶液を混合し、室温で10分間攪拌することにより淡褐色透明な水溶液(2)を得た。
還元剤水溶液製法:イオン交換水20gにヒドロキノン0.8gを入れ常温下で15分攪拌することでヒドロキノンを溶解した。これの全量を還元剤水溶液として用いた。
【0069】
比較例として以下の方法により、金属担持有機無機複合体の製造を試みた。
(比較例1)
(溶融混練法により作成した酸化ケイ素/ポリアミドからなる有機無機複合体の製造)
ポリマーとしてナイロン66ペレット80.0部と平均粒径100nmの酸化ケイ素粉末20.0部とを、ツバコー製小型2軸押し出し機MP2015中で270℃で溶融混練することで、ペレット状の有機無機複合体を得た。混練操作に先立つ原料仕込み操作は、酸化ケイ素の粒径が極めて小さいことによる粉体の飛散が生じやすく極めて困難であった。本複合体を200℃、100MPa/cmの条件で3時間熱プレスを行うことで、複合体板を得た。複合体板はやや黄色味を帯びた白色であった。また、本複合体からは得られた形状の関係で不織布は得られなかった。本複合体では、ナノサイズの酸化ケイ素を用いたにもかかわらず、後述の透過型電子顕微鏡(TEM)観察で粗大な無機凝集物が見られたため、金属微粒子の複合化は断念した。
【0070】
(比較例2)
(無機化合物微粒子(B)を含有しないポリアミド/白金からなる有機無機複合体の合成・不織布の作成)
実施例1での水溶液(2)中の珪酸ナトリウム3号を水酸化ナトリウム1.18gに変更した以外は実施例1と同一の方法でポリアミド合成及び白金イオンの還元を行った。合成工程においては、水酸化ナトリウムが珪酸ナトリウム3号と同様にポリアミドの重合を促進したことにより、実施例1よりは繊維形状が荒いものの繊維状のポリアミドが分散したスラリーが得られた。このポリアミドスラリー中に、還元剤水溶液を導入したところ無機化合物微粒子(B)を有する複合体を用いた場合と異なり、15分間は白金イオンの還元が生じずにスラリーの色は変化無かった。白金の還元を促進するために、さらに同一量の還元剤溶液を再度添加したところ5分後から徐々にスラリーが黒変し始め、30分後には黒色がかなり濃くなった。本スラリーより減圧下の攪拌処理によりトルエン除去を行った後、濾過をおこなった所、濾紙面に還元された白金である黒色粉末が層状に偏在しポリアミド部分には僅かな白金しか残存しない結果となった。
【0071】
濾紙面の白金を除いた部分を回収し、実施例1と同様な方法で抄紙することで淡黄色で黒い斑点がある不均一な不織布を得た。
【0072】
参考例として以下の方法により、金属担持有機無機複合体の製造を試みた。
(参考例1)
参考例として、金属微粒子(C)の原料である金属化合物(c−1)を水溶液(2)中に共存させずに、酸化アルミニウム/ポリアミド複合体パルプを予め合成し、該パルプを塩化パラジウムナトリウムの水溶液中で分散させた後、ヒドラジン水溶液によりパラジウムイオンを還元させることにより、有機無機複合体上にパラジウムを担持する実験をおこなった。作製方法は以下の通りである。尚、対照となるのは実施例2である。
【0073】
(有機無機複合体の合成工程)
イオン交換水54.0gにジアミン(a−2)として1,6−ジアミノヘキサン1.58g、アルカリ金属化合物(b−1)としてアルミン酸ナトリウム(北陸化成製#−100)2.40gを入れ、室温で15分間攪拌し、均質透明な水溶液を得た。室温下でこの水溶液をオスタライザー社製ブレンダー瓶中に仕込み、毎分10000回転で攪拌しながら、アジポイルクロライド2.49部をトルエン44.4部に溶解させた有機溶液(1)を20秒かけて滴下した。生成したゲル状物をスパチュラで砕き、さらに毎分10000回転で40秒間攪拌した。この操作により白色の有機無機複合体パルプが分散したスラリーが得られた。この操作で得られたパルプ状の生成物が分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。ヌッチェ上の生成物をメタノール100部に分散させスターラーで30分間攪拌し減圧濾過することで洗浄処理を行った。引き続き同様な洗浄操作を蒸留水100部を用いて行い、白色の有機無機複合体ウエットケーキを得た。
【0074】
(有機無機複合体へのパラジウムの担持工程)
イオン交換水150.0gに金属化合物(c−1)として塩化パラジウムナトリウム0.150gを入れ室温で15分間攪拌し、褐色透明な水溶液を得た。この水溶液に上記合成工程で得られた複合体ウエットケーキをいれ、スラーラー室温で30分間攪拌で攪拌することにより均一分散させた。この分散液に還元剤として実施例2で用いたのと同一の還元剤水溶液を5秒間で滴下し混合攪拌した。還元剤を導入して10分後よりスラリーが灰色に変色し始め、約30分で着色変化が止まった。本スラリーより減圧によりトルエン除去を行った後、濾過をおこなった所、比較例2の場合よりは少ないものの濾紙面に還元されたパラジウムである黒色粉末が層状に偏在し有機無機複合体部分には設計した量のパラジウムが担持できない結果となった。
【0075】
濾紙面のパラジウムを除いた部分を回収し、実施例1と同様な方法で抄紙することで灰色のやや不均一の色調の不織布を得た。得られた不織布には一定量のパラジウムは有機無機複合体上に担持されはしたが、水溶液(2)にあらかじめ金属化合物(C−1)を共存させたときに比べると、担持効率が劣った。
【0076】
上記各実施例、比較例および参考例で得られた各試料、および不織布について以下の項目の測定、試験を行い、得られた結果を実施例は表1に、比較例、参考例は表2に示した。
【0077】
(a)無機化合物微粒子(B)の含有率の測定法
有機無機複合体を絶乾後に精秤(有機無機複合体質量)し、これを空気中、500℃で3時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。式(1)により灰分含有率を算出した後、式(2)及び式(3)に従い含有率を算出した。
【0078】
【数2】

【0079】
【数3】

【0080】
この時、金属化合物微粒子(C)は後述の濾液中の金属化合物の分析により収率がほぼ100%であることより存在量は既知である。したがって、
【0081】
【数4】


が成り立つ。
【0082】
(b)有機無機複合体中の金属化合物(C)含有率、無機化合物微粒子(B)含有率の検証 (蛍光X線でのFP法による解析)
有機無機複合体不織布を3cm角に切り出し、これを開口部が直径20mmの測定用ホルダーにセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;フィルム、補正成分;セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0083】
いずれの実施例で得られた試料でも、金属微粒子(C)は、0.1質量%の誤差範囲内で水溶液(2)への金属化合物(c−1)の仕込み量から算出した予測値と一致した。また、前記(a)の方法により算出した、無機化合物微粒子(B)含有率も本測定での定量値とほぼ一致した。したがって、実施例3〜5の無機化合物微粒子(B)が複数種類の化合物からなる複合体での各成分の含有率(質量%)は、本測定値を採用した。また、本測定値は原料仕込み比率より予測される値とよく適合した。
また、本測定ではアルカリ金属はいずれの実施例、比較例とも0.03質量%以下しか検出されず、本発明でのポリマーの重縮合およびアルカリ金属化合物(b−1)の金属化合物微粒子(B)へのアルカリ除去及び固体化反応が予測された反応機構のとおり行われていることが明らかとなった。
【0084】
(c)濾液中に流出した金属化合物(C−1)中の金属微粒子(C)イオンの測定
各実施例、比較例2、参考例の還元工程の後に行った濾過で発生した濾液の水相の上澄み液を各10g回収し、熱風乾燥機中で120℃、2時間加熱処理を行い水分を蒸発させた。残留した粉体を回収し、(b)で用いた同一の装置で粉体成分の全元素分析を行った。その結果、いずれの実験で得られた廃液からも、検出されたのは、複合体合成副生成物として発生するNaCl、KClと微量のFe等の不純物元素のみであり金属微粒子(C)に相当する金属元素は検出されなかった。このことからも、金属化合物(c−1)中の金属微粒子(C)元素は還元剤によって全て還元されたことが示された。
【0085】
(透過型電子顕微鏡観察および元素マッピング)
有機無機複合体を170℃、20MPa/cmの条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これを収束イオンビーム装置を用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片をTEM(透過型電子顕微鏡)観察と同時にEDS元素分析による元素マッピングが可能なエネルギーフィルターTEMである「JEM−2010EFE」(日本電子株式会社製)を用いて、各々50万倍のTEM写真をベースにして元素マッピングを行った。マッピングにより示された元素種類より無機化合物微粒子(B)と金属微粒子(C)とを判別した。本元素マッピングにより後述(d)の無機化合物微粒子(B)、金属微粒子(C)の粒径測定及び、後述(e)の金属微粒子(C)の無機化合物微粒子(B)への担持状態の観察を行った。
【0086】
(d)無機化合物微粒子(B)、金属微粒子(C)の粒径測定
無機化合物微粒子(B)と金属微粒子(C)のそれぞれの粒子の平均粒径を以下の方法で測定した。尚、測定は100個の粒子について行い、その平均値を平均粒径とした。
・球状粒子:(無機化合物微粒子(B)が酸化ケイ素ベースの場合と金属微粒子(C)の場合) 任意の1辺の長さをその粒子の粒径とした。
・板状粒子:(無機化合物微粒子(B)が酸化アルミニウムベースの場合)
無機化合物粒子の長軸と短軸の長さをそれぞれ測定し、(長軸+短軸)/2の数値をその粒子の粒径とした。
【0087】
(e)無機化合物微粒子(B)表面での金属微粒子(C)の担持状態の観察
金属化合物微粒子(C)へ金属微粒子(B)がどの様な状態で担持されているかを観察した。無機化合物微粒子(B)の外周(表面)部分に金属微粒子(C)が凝集することなく分散していた場合は○と判定した。一方、金属微粒子(C)に一部凝集が見られた場合は△と、金属微粒子(C)と無機化合物微粒子(B)とが粗大な凝集物を形成した場合は×と判定した。
【0088】
(f)金属微粒子(C)の不織布表面での分散状態の測定(金属微粒子(C)の表面での凝集物の有無の確認)
有機無機複合体不織布を1cm角に切り出し、炭素を10nmの厚さで蒸着して得た試料を、日立社製電解放射型走査電子顕微鏡「SEM−EDX」を用いて金属微粒子(C)を対象とした元素マッピングを行い、担持させた金属微粒子の分散状態を測定した。なお、本測定法での金属化合物粒子の大きさの分解能は1μmである。1μm以上の粗大な粒子が生じていた場合は凝集物有り、なければ凝集物無しとした。
【0089】
(g)比表面積の測定
有機無機複合体不織布(比較例1のみ塊状物の粉砕物)0.2gを湯浅アイオニクス社製全自動ガス吸着装置「オートソーブ1C」にセットして、窒素ガスを用いて相対圧力0〜1の間で吸着、脱離曲線を測定した。この測定結果をBET多点法(相対圧0〜0.3の間を使用)により解析し、各種有機無機複合体の比表面積(m/g)を測定した。
【0090】
以下、表1に実施例1〜5の結果を、表2に比較例および参考例の上記の測定結果をまとめた。尚無機化合物微粒子(B)の第2成分とは、該微粒子(B)が複数の化合物より構成される場合の少量の化合物を意味する。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
表2で示された通り、比較例1では無機化合物微粒子(B)として平均粒子径100nmの酸化ケイ素粉末を使用したにもかかわらず、混練の工程で凝集が生じ、ナノサイズの複合を行うことができなかった。また、比較例2では、無機化合物微粒子(B)が無いポリアミドには担体成分がないため、金属微粒子(C)を殆ど担持することができなかった。参考例1では、金属化合物(c−1)を水溶液(2)に共存させずに複合体の合成後に担持操作を行ったため、金属化合物(C)の担持効率や分散状態が各実施例よりも劣った。
【0094】
一方、表1に示した実施例1〜5は、有機ポリマーマトリクスに各無機化合物微粒子がナノサイズかつ、3次元ネットワークまたは2次元層構造をとって35質量%以上の高い含有率で分散した。これらの無機の複合形状は無機化合物微粒子(B)の主成分の化合物により支配され、酸化ケイ素ベースでは3次元ネットワーク状に、酸化アルミニウムベースでは2次元層構造となった。また、これらの複合体の比表面積は有機ポリマーを有しており柔軟な不織布であったにもかかわらず、50〜130m/gと比較的高い値を示した。さらに各金属微粒子(C)は5nm以下のきわめて小さい粒径で、凝集物を構成せずに分散した。エネルギーフィルターTEMでの観察の結果、金属微粒子(C)は無機化合物微粒子(B)の表面近傍にて凝集することなく良好に分散しているのが見られた。
また上記の特徴を持つ有機無機複合体を、常温常圧下での短時間の合成(工程1)及び還元操作(工程2)で得ることができた。さらにその際の、金属微粒子(C)の収率はほぼ100%であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の有機無機複合体の用途としては、繊維状複合体を抄紙したシート状のものは各種触媒ペーパーや、該ペーパーを加工したハニカム状物(各種有機合成、排ガス処理等)、抗菌防カビシート、プラント配管やリアクター内部に該シートを設置することによる触媒機能性外壁を例示することができる。また、長繊維形状を利用したものとしては、長繊維をメンブレンフィルタ―状に整形したリアクティングメンブレンを例示することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ポリマー(A)と、該有機ポリマー(A)のマトリックス中に微分散された、平均粒子径が1〜300nmの酸化ケイ素(シリカ)及び/又は酸化アルミニウム(アルミナ)を含有する無機化合物微粒子(B)とを含む有機無機複合体であって、前記無機化合物微粒子(B)の表面上に、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位が−0.5V以上であり、平均粒子径が0.1〜300nmの金属微粒子(C)が担持されていることを特徴とする有機無機複合体。
【請求項2】
前記金属微粒子(C)が、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属微粒子である請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記無機化合物微粒子(B)が、酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含有する、請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項4】
前記無機化合物微粒子(B)が、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(B’)を含有する、請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項5】
有機無機複合体全量100質量%に対する前記無機化合物微粒子(B)の含有率が、20〜80質量%である請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項6】
前記有機無機複合体が、繊維径が20μm以下でアスペクト比が10以上のパルプ形状を有する請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項7】
請求項6に記載のパルプ状有機無機複合体を有する不織布。
【請求項8】
ジカルボン酸ハロゲン化物、ジクロロホルメート化合物、及びホスゲン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つのハロゲン化合物(a−1)を有機溶媒に溶解した有機溶液(1)と、ジアミン(a−2)と、珪酸アルカリ及びアルミン酸アルカリから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物(b−1)と、水溶液中における25℃での標準酸化還元電位(E)が−0.5V以上である金属を有する金属化合物(c−1)とを含有する、塩基性の水溶液(2)とを混合攪拌し反応させ有機無機複合体を得る工程1と、工程1により得られた有機無機複合体を含有するスラリーに還元剤を添加し、金属化合物(c−1)中の金属イオンを有機無機複合体上で金属に還元する工程2と、を有する有機無機複合体の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶液(1)を構成する有機溶媒が水に非相溶である、請求項8に記載の有機無機複合体の製造方法。



【公開番号】特開2007−269847(P2007−269847A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93781(P2006−93781)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】