説明

有機無機複合体及びその製造方法

【課題】 有機材料の有する加工性と、ポリマー中に高い質量割合で複合化された無機化合物が持つ機能とに加え、該複合体上に微分散した金属化合物が持つ各種機能(例えば反応触媒能、抗菌防カビ能等)を兼備しうる有機無機複合体の提供。
【解決手段】 ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーと、該有機ポリマーのマトリックス中に1μm以下の微粒子として20〜80質量%微分散された、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、シリカとからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)と、無機化合物(1)とは異なる金属化合物(2)の微粒子とを含む有機無機複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーがもつ加工性、柔軟性等の特性と、ガラス等の無機物質が持つ耐熱性、耐摩耗性、表面硬度等の特性を付与することを目的として、無機微粒子を有機ポリマー内に複合化することは広く検討されている。この方法によって複合化の効果を十分に発揮するには、粒子径が極力小さい無機微粒子を高い充填率で複合化することが好ましい。無機微粒子の粒子径が小さくなると、無機粒子の重量当たりの表面積が大きくなり有機材料と無機材料との界面領域が広くなることで高い補強効果が期待できる(面積効果)。また、無機微粒子の充填率が高くなると、当然複合化の効果が大きくなる(体積効果)。
【0003】
上記のような特徴を持つ複合体に、複合化された無機化合物とは異なる種類の金属化合物をさらに複合化することができると、多様な機能を有機無機複合体に付与することが可能となる。この場合、ある種類の無機化合物を有機ポリマー全域にわたって小粒子径(好ましくはナノオーダー)で高い充填率で分散させ、それとは異なる種類の金属化合物を、均一に分散させることで、有機ポリマーへの無機化合物による補強等の効果に加え、新たに触媒機能等の付加的機能を材料に付与することができる。しかしながら、このような機能を有する有機無機複合体は知られておらず、また従来知られた方法で製造することもできなかった。
【0004】
さらに有機無機複合体の有機ポリマー成分として知られているポリマー種は、ポリアミド、ポリイミド等の数種類に限定されており、他のポリマーを有機成分として用いる例は非常に少ない。ポリウレタンを用いた複合体については先行技術がすくなく、特許文献1や2等が知られる程度である。これらの特許文献による方法はいずれも金属アルコキシドを加水分解重縮合反応させて金属酸化物とする、いわゆるゾル−ゲル法を利用し、有機ポリマーにガラス等を複合化する方法であるが、加水分解、及び重縮合の反応にそれぞれ長時間を要するため製造効率が極めて低い問題点がある。例えば、特許文献1の実施例1では、目的の複合体を得るためには室温で1〜2日間の反応時間を要する。また、特許文献2の実施例中の製造例1では80℃で5時間の反応の後、さらに50℃で1時間の反応が必要とある。
【0005】
加えて、これらのいずれの方法では溶媒に溶解した状態で有機無機複合体が得られるため、固体形状の複合体を得るためには、さらにキャスト等の方法により溶媒を除く必要がある。そのため、表面の被覆等に用いる塗工材料としては適しているが、それ以外の用途として用いるためには大変効率が悪い。また、ゾル−ゲル法で有機無機複合体を得るためにはゾル−ゲル反応を起こし得る金属アルコキシドが必須であるが、金属アルコキシド類は一般的に高価な材料であるため、複合体の高価格化は免れない。また、ポリ尿素を有機ポリマー成分として用いた有機無機複合体は現在まで知られていない。
【0006】
上記の問題を避けるために、いわゆる溶融混練法により有機ポリマーに無機材料を強制的に混合することで複合体を製造する方法が知られている。しかし、無機材料と有機ポリマーとは表面特性、比重、熱不溶性、薬品不溶性の点で本質的に異なるため、無機材料を均一に高い充填率で微分散状態にするのが極めて困難である。加えて、ナノメートルオーダーの無機微粒子は通常高価な上、飛散等の恐れがあり取り扱い性が悪い。さらに複数の無機成分を均一にポリマー中に分散させることはさらに困難となる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−291131
【特許文献2】特開2000−63661
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ポリウレタンおよびポリ尿素とからなる群から選ばれる有機ポリマーに、20〜80質量%の高い含有率の無機化合物(1)を平均粒子径が1μm、さらに好ましくは100nm以下の微粒子状で分散させ、さらに、無機化合物(1)とは異なる種類の金属化合物(2)も同様に微粒子状に分散させた、新規な有機無機複合体を提供することにある。また、該有機無機複合体を常圧室温下の短時間の反応で容易に固体形状の複合体を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジクロロホルメート化合物およびホスゲン系化合物からなる群から選ばれる1種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、
少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、珪酸アルカリからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属含有無機化合物(3)と、
塩基性水溶液に溶解する周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(2)と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)と
を混合攪拌し、反応させることにより有機ポリマーと様々な種類の無機化合物との複合体に、さらに該無機化合物とは別種の金属化合物を担持した有機無機複合体を常温、常圧下での1ステップの迅速な反応により簡便に製造できることを見出した。また、この有機無機複合体には、有機ポリマー中にナノメートルサイズの無機化合物が高い含有率で均一に微分散している上に、該無機化合物とは別種の金属化合物もまた均一に微分散していることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーと、
該有機ポリマーのマトリックス中に微分散された、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、シリカとからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)の微粒子と、
無機化合物(1)とは異なる、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(2)の微粒子と、
を含む有機無機複合体であって、前記無機化合物(1)および金属化合物(2)の微粒子の平均粒子径が1μm以下であり、前記複合体100質量%中の無機化合物(1)の微粒子の含有率が20〜80質量%である有機無機複合体を提供する。
【0011】
また、本発明は、ジクロロホルメート化合物およびホスゲン系化合物からなる群から選ばれる1種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、
少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、珪酸アルカリからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属含有無機化合物(3)と、塩基性水溶液に溶解する周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(2)と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)と
を混合攪拌し、反応させることにより得られる有機無機複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ポリウレタンおよびポリ尿素とからなる群から選ばれる有機ポリマーに、20〜80質量%の高い含有率の無機化合物(1)を平均粒子径が1μm、好ましくは100nm以下の微粒子状で分散させ、さらに、無機化合物(1)とは異なる種類の金属化合物(2)も同様に微粒子状に分散させた、新規な有機無機複合体を提供することができる。また、本発明の製造方法により、前記特徴を有する有機無機複合体を汎用の攪拌装置を用い、且つ常圧室温下の30分間以下の短い攪拌操作1ステップのみの反応で固体形状を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
(有機無機複合体合成工程)
本発明の有機無機複合体の合成工程においては、例えば、常温、常圧下で数分〜30分程度の攪拌操作により、有機溶液(A)中のモノマーと水溶液(B)中のジアミンとが迅速に重縮合し、有機ポリマーが収率よく得られる。この際、アルカリ金属含有無機化合物(3)中のアルカリ金属が、モノマーとジアミンとの重縮合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することで有機ポリマーの生成を促進する。例えば、アルカリ金属含有無機化合物(3)として珪酸アルカリを使用した場合、本反応と同時に、珪酸アルカリはシリカへと転化することで有機溶液や水に不溶化し、固体として析出する。さらにこの際、モノマーとジアミンとの重縮合による有機ポリマーの生成と、シリカの析出とは、どちらか一方のみが生じることはなく平行して起こる。このため、アルカリ金属含有無機化合物(3)のアルカリ金属成分が除かれたシリカや、金属化合物である無機化合物(1)がナノメートルオーダーで有機ポリマーに微分散した複合体が得られる。
【0015】
この反応の際、ジアミンや、珪酸アルカリ、アルカリ金属含有無機化合物(3)が溶解していることで塩基性である水溶液(B)に金属化合物(2)が可溶であり、かつ中性を示す水溶液に不溶性または難溶性であれば、上記の有機無機複合体の生成反応が進行し、水溶液(B)が中性に近づくにつれ、金属化合物(2)は水溶液(B)中では溶解状態で存在できなくなり、有機ポリマーと無機化合物との複合体上に微粒子状で高収率で複合化される。このように本発明で得られる有機無機複合体は、単に有機ポリマーと無機化合物粉末と、金属化合物(2)粉末とを混ぜ合わせた混合物とは本質的に異なるものである。また、いわゆるゾル−ゲル法によって得られる、有機材料と無機化合物ゲルとの複合体とも異なるものである。
【0016】
本発明の製造法によると、無機化合物(1)の含有率が20〜80質量%で、無機化合物(1)の平均粒子径が1μm以下で、更に微粒子状の金属化合物(2)も含有する有機無機複合体を作製することができる。
無機化合物(1)の含有率は好ましくは、25〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%である。また、無機化合物の平均粒子径は好ましくは250nm以下であり、特に好ましくは100nm以下である。
【0017】
有機溶液(A)中のジクロロホルメート化合物としては、例えば、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール類の水酸基を全てホスゲン化処理によりクロロホルメート化したもの;レゾルシン(1,3−ジヒドロキシベンゼン)、ヒドロキノン(1,4−ジヒドロキシベンゼン)、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、ビスフェノールS、ビスフェノールA、テトラメチルビフェノール等、1個または2個以上の芳香環に水酸基を2個持つ2価フェノール類の水酸基を全てホスゲン化処理によりクロロホルメート化したものが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
有機溶液(A)中のホスゲン系化合物としては、例えばホスゲン、ジホスゲンおよびトリホスゲンを挙げることができる。これらは単独で、または両種を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明においては、有機溶液(A)中のモノマーを選択することにより、複合体のマトリクスである有機ポリマーの種類を変えることができる。モノマーとしてジクロロホルメート化合物を用いた場合はポリウレタンを、ホスゲン系化合物を用いた場合にはポリ尿素を、水溶液(B)中のジアミンとの反応によって得ることができる。
【0020】
有機溶液(A)に用いる有機溶媒としては、上記各種モノマーやジアミンとは反応せず、有機溶液(A)中の各種モノマーを溶解させるものであれば特に制限なく用いることができる。このうち水と非相溶なものとしては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類を、水と相溶するものとしては、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル等の酢酸アルキルなどを代表的な例として挙げることができる。
【0021】
水溶液(B)中のジアミンとしては、有機溶液(A)中の各モノマーと反応し、有機ポリマーを生成するものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタンなどの脂肪族ジアミン;m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,3−ジアミノナフタレンなどの芳香族ジアミン;あるいは芳香環の水素をハロゲン原子、ニトロ基、またはアルキル基などで置換した芳香族ジアミンなどが例として挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
有機溶液(A)中のモノマー濃度、および水溶液(B)中のジアミン濃度は、重縮合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0023】
本発明の有機無機複合体は、有機ポリマーのマトリックス中に微分散する、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物とシリカとからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)の微粒子を有する。
【0024】
ここで言う遷移金属元素とは、銅や亜鉛を含めた周期表第11族及び第12族も含めた広義の意味での遷移金属元素を意味している。具体的には、本発明で言う周期表第3〜第12族の遷移金属元素とは、周期表の21Sc〜30Znまでと、39Y〜48Cdまでと、57La〜80Hgまでと、89Ac以上の金属元素を意味する。
【0025】
また、周期表第13〜16族の典型金属元素とは、周期表の13Al、31Ga、32Ge、49In、50Sn、51Sb、81Tl、82Pb、83Biおよび84Poを意味する。
【0026】
無機成分のうち、水溶液(B)中のアルカリ金属含有無機化合物(3)が、シリカ(SiO)の原料となる珪酸アルカリである場合、JIS K 1408に記載された水ガラス1号、2号、3号などのA2O・nSiO2の組成式で表されるもの等が挙げられる。ここで、Aはアルカリ金属、nの平均値は1.8〜4である。また、nの平均値が0.8〜1.1である、メタ珪酸アルカリ等(例えばメタ珪酸ナトリウム1種、2種)も用いることができる。珪酸アルカリに含まれるアルカリ金属化合物が有機溶液(A)中のモノマーと水溶液(B)中のジアミンとが重縮合する際に発生する酸の除去剤として作用することで、水ガラス(珪酸アルカリ)は、モノマーとジアミンとの重縮合を促進すると同時に、極性溶媒に不溶の固体ガラス(シリカ)に転化することで複合体を構成する無機化合物の原料ともなる。
【0027】
無機成分うち、無機化合物(1)の原料となる水溶液(B)中のアルカリ金属含有無機化合物(3)の例として、一般式AxMyBzとして表すことができる化合物を挙げることができる。但し、Aはアルカリ金属元素であり、Mは周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素であり、BはO、CO、OHからなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、x、y、zは、A、MとBの結合を可能とする数である。上記一般式AxMyBzで表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。また、アルカリ金属含有無機化合物(3)中のアルカリ金属が、重合の際に発生するハロゲン化水素の除去剤として作用することにより除かれた残りの無機化合物(1)が水や合成に用いる有機溶媒に殆どまたは全く溶解しなければ、より効率的に有機ポリマーに金属化合物を複合化することができるため好ましい。
【0028】
本発明で用いられるアルカリ金属含有無機化合物(3)の内、上記一般式中のBがOである化合物としては、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、ニオブ酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、鉄酸カリウム、チタン酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物、セシウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0029】
上記一般式中のBがCOとOHとの双方の基を含むアルカリ金属含有無機化合物(3)としては、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、および炭酸スズカリウム等を例示することができる。
これらのアルカリ金属含有無機化合物(3)は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。また、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明では、有機溶液(A)中のモノマー(ジクロロホルメート化合物、ホスゲン系化合物と水溶液(B)中のジアミンとの反応は、ジカルボン酸ハロゲン化物とジアミンとの混合によりポリアミドを合成する反応に比べ反応性がやや低い。そのため水に溶解したときに、高いpHを示す無機化合物(1)の原料(すなわちアルカリ金属含有無機化合物(3))を水溶液(B)の成分として用いることで、本発明による反応を促進し高収率で複合体を得ることができる。このような材料としては、珪酸アルカリとしては水ガラス1号やメタ珪酸アルカリが、金属化合物(2)としてはアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルカリアルミン酸(組成式MAlO(メタアルカリアルミン酸)やMAlO(オルトアルカリアルミン酸)およびこれらの共溶物、ここでのMはアルカリ金属)が特に好ましく用いられる。
【0031】
水溶液(B)中の無機化合物(1)の原料の濃度は、有機溶液(A)中のモノマー濃度および水溶液(B)中のジアミン濃度によってある程度は決定されるが、複合体の高収率を維持し、かつ重縮合時の過剰な発熱により生じうる有機溶液(A)中のモノマーと水との副反応を防止する理由より、1〜200g/Lが望ましい。
【0032】
本発明では有機ポリマーと無機化合物との複合体に、さらに金属化合物(2)を微粒子上で複合化していることが特徴である。本発明での水溶液(B)に用いる金属化合物としては、塩基性水溶液に少なくとも一部は溶解する必要がある。金属化合物が水溶液(B)に溶解することで、金属化合物は有機ポリマーとガラスとの複合体上の表面近傍に微分散かつ密着状態で担持される。また、水溶液(B)中に溶解させた金属化合物が合成後のろ過や水洗の工程で流出することなく収率よく該複合体上に担持されるためには、金属化合物(2)は中性を示す水溶液に不溶性または難溶性であることが好ましい。
【0033】
本発明に用いる金属化合物(2)の塩基性溶液への溶解量は、pH13の常温下の塩基性溶液に100mg/1dm以上であることが好ましい。この量よりも溶解量が小さいと、金属化合物が持つ機能を十分に発揮させうる量を該複合体上に微粒子状に担持することができない。また、上記値よりも溶解量が少なく金属化合物が溶解しない場合には、該化合物が粗大な粒子状となり該複合体上に担持されることにより、担持重量当たりの金属化合物表面積が小さくなるため十分な機能を発揮できなくなるばかりか、該複合体との接着性が乏しく、金属化合物粒子が脱落しやすくなる恐れがある。また、本発明に用いる金属化合物の中性溶液への溶解量は、pH7付近の常温下の中性水溶液に50mg/1dm以下である、いわゆる不溶性または難溶性であることが好ましい。この量よりも溶解量が大きい場合には、該複合体の合成後のろ過や水洗の工程で金属化合物が流出し、担持効率が低くなり、目的とする担持量が得られにくくなる場合がある。
【0034】
本発明で用いられる金属化合物の金属種は、上記の溶解特性を示す化合物を有するものであればいずれの金属も用いることができる。リチウム、マグネシウムカルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、金、モリブデン、タングステン、パラジウム、ルテニウムなどの遷移金属、アルミニウム、亜鉛、インジウム、スズ、鉛、アンチモン等の典型金属を例示することができるがこれらに限定されない。また、金属元素が2種以上含まれる複合化合物を用いることもできる。また、化合物種としては上記溶解特性を満たすものであれば酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩等を制限なく用いることができる。そのため、本発明では極めて多種多様の金属化合物を担持することができる。
【0035】
好適に用いられる金属化合物を例示すると、リン酸リチウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属化合物、酸化タングステン(VI)、酸化バナジウム(V)、酸化コバルト(II) 、水酸化コバルト(II) 、シュウ酸コバルト(II)、酸化ニオブ(II)、水酸化鉄(II)、酸化ニオブ(V)、酸化モリブデン(VI)、酸化チタン(IV)、水酸化マンガン(II)、酸化金(III)、水酸化金(III)、塩化銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)、ヨウ素酸銀(I)、炭酸銀(I)、酸化銀(I)、硫化銀(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酸化銅(I)、水酸化銅(II)、塩基性炭酸銅(II)、酸化銅(II)、リン酸銅(II)、硫化銅(I)、シュウ酸銅(II)、酸化レニウム(VI)、水酸化パラジウム(II)、水酸化ルテニウム(IV)等の遷移金属化合物、酸化スズ(II)、水酸化スズ(II)、硫化スズ(IV)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化インジウム(III)、シュウ酸ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、水酸化亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、酸化アンチモン(III)、酸化ガリウム(III)、酸化鉛(II) 、酸化鉛(IV)、リン酸鉛(II)、硫酸鉛(II)、 水酸化鉛(II)等の典型金属化合物が挙げられる。これら金属化合物は水に溶解させて用いるため、水和物であっても良い。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
有機無機複合体中の金属化合物(2)の含有率は、金属化合物を水溶液(B)に溶解させる量により容易に制御できる。含有率としてはとくに限定はされないが、該複合体の全質量に対して0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜10質量%の範囲であればより好ましい。金属化合物の含有率が0.01質量%以下であると、金属化合物由来機能が十分に得られないおそれがある。また、20質量%を越える金属化合物の複合化の効果が飽和する恐れがある。
【0037】
アルカリ金属含有無機化合物(3)は、ポリウレタンやポリ尿素の重縮合反応時に生じるハロゲン化水素を中和して重縮合反応を促進させる作用も有するため、これらの配合量が少なく、生じるハロゲン化水素が重縮合反応の進行を阻害する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの酸受容体を水溶液(B)に添加してもよく、上記酸受容体の溶液を合成系に後添加してもよい。
【0038】
複合体の製造に用いられる製造装置としては、有機溶液(A)と水溶液(B)とを良好に接触させることができる装置であればとくに限定されず、連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。しかしながら、重縮合反応には数分〜30分の時間を要するため、十分な反応時間を確保するためバッチ式攪拌装置を用いることが好ましい。バッチ式の装置としては、有機溶液(A)と水溶液(B)との接触を良好に行わせる必要があるので、プロペラ状翼、マックスブレンド翼、ファウドラー翼等を持つような汎用の攪拌装置を用いることができる。
【0039】
有機溶液(A)中のモノマーと水溶液(B)中のジアミンとの重縮合反応は、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に進行する。したがって、有機溶液(A)と水溶液(B)とを接触させる温度は、−10〜50℃の常温付近の温度範囲とされる。この際、加圧、減圧も必要としない。また、重縮合反応は、用いるモノマー種や反応装置にもよるが、通常30分以下で完結する。
【0040】
(有機無機複合体の用途)
本発明により得られた有機無機複合体は、高い割合で複合化された無機化合物(1)に加えて、金属化合物(2)も微粒子状に複合化されている。そのため、有機ポリマー、無機化合物(1)、金属化合物(2)が有するそれぞれの機能を兼備することができる。有機成分に起因する性能としては加工性を有するため加圧成型することができ、各種構造材として用いることや、有機材料への親和性を有しているため、各々の複合体が有している有機成分に相当するポリマーに混練、分散させることによりポリマーの補強剤として用いることができる。
【0041】
また、無機化合物(1)の特徴としては複合化した各種無機化合物が持つ機能(例えば、硬度、触媒能、絶縁性、半導体性、電子導電性、イオン導電性、高比表面積、高耐熱性、耐摩耗性、又は温度変化や吸湿に対する寸法安定性等)を複合体に付与することができる。無機化合物(1)は高い質量%で複合化できるため、上記に列記した機能のうち例えば硬度、耐摩耗性、寸法安定性、高比表面積を付与するように選定することが好ましい。金属化合物(2)によっても無機化合物(1)と同様な機能を複合体に付与することができるが、特に複合化する量が少なくとも機能しうる例えば触媒能や抗菌防カビ能等を付与できる化合物を選定することが好ましい。
【0042】
上記用途に加えて、該複合体は高い無機分率と有機成分が有する極性基により、極性溶媒を多量(複合体の自重に対して10倍以上)に保持する、極性溶媒吸収体としても用いることができる。また、特に極性溶媒が電解液である場合は、電解液を保持した電池セパレータ、キャパシタのセパレータ、エレクトロクロミック型表示素子のセパレータ等の電気化学ディバイスとしても用いることができる。
【0043】
特に有機ポリマー成分がポリ尿素である場合には、各種原料として極めて広範囲にて用いられるホスゲンを使用して合成できるため、ホスゲンを使用可能な設備さえ有していれば安価に製造することができる。また、上記用途のうち、特に極性溶媒吸収体や、電解液保持体として用いる場合には、極性基である尿素結合が全複合体重量に対して多量に存在するため、極性溶媒の保持量を特に高くすることができ、好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。特に断らない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0045】
(実施例1)(シリカ/酸化銅(I)/ポリ尿素複合体の合成)
イオン交換水35.8部に1,6−ジアミノヘキサン1.58部、アルカリ金属含有無機化合物(3)として水ガラス1号5.37部、金属化合物(2)として酸化銅(I)0.1部を加え、25℃で15分間攪拌し、均質青透明な水溶液(B)を得た。室温下でこの水溶液(B)を300mlセパラフラスコ中に仕込み、アンカー翼を用いて毎分300回転で攪拌しながら、トリホスゲン1.34部をトルエン44.4部に溶解させた有機溶液(A)を20秒かけて滴下した。攪拌開始後5分後より淡青色のポリマー状物が徐々に析出しだした。15分以降は析出物量に増加は見られなかったため、攪拌開始後25分で合成操作を終了した。この操作で得られた白色生成物が分散した液を、直径90mmのヌッチェを用い目開き4μmのろ紙上で減圧濾過した。ヌッチェ上の生成物をメタノール100部に分散させスターラーで30分間攪拌し減圧濾過することで洗浄処理を行った。引き続き同様な洗浄操作を蒸留水100部を用いて行い減圧濾過することで、淡青色のシリカ/酸化銅/ポリ尿素複合体のウエットケーキを得た。
【0046】
(実施例2)(酸化アルミニウム/塩化銀/ポリ尿素複合体の合成)
水溶液(B)としてイオン交換水35.8部に1,6−ジアミノヘキサン1.58部、金属化合物(2)として、塩化銀(I)0.1部、アルカリ金属含有無機化合物(3)としてアルミン酸ナトリウム(メタアルミン酸ナトリウムNaAlOとオルトアルミン酸ナトリウムNaAlOの共溶物でAl/NaOH=0.8のもの)2.26部を加え、25℃で15分間攪拌して得た、均質透明な水溶液を用いた以外は実施例1と同様な方法で、淡青色の酸化アルミニウム/塩化銀/ポリ尿素複合体のウエットケーキを得た。
【0047】
(実施例3)(シリカ/酸化タングステン/ポリウレタン複合体の合成)
(ジクロロホルメート化合物の合成)
1.4−ブタンジオール2.583部にトリホスゲン2.835部を加え常温下で30分間攪拌することで、トリホスゲンを完全に溶解させた。さらにトリホスゲンを3.000部加え常温で30分間攪拌することで、粘調な淡黄色の透明液体を得た。該液体を攪拌しつつ0.02MPaで3時間減圧処理することで、残存した過剰のトリホスゲン及び、ジオールがホスゲン系化合物によりクロロホルメート化する際に発生する塩酸を除去した。以上の操作により、1.4ブタンジオールの両末端をクロロホルメート化した、ブタン−ビス−クロルギ酸エステルを得た。
【0048】
(シリカ/酸化タングステン/ポリウレタン複合体の合成)
有機溶液(A)として、ブタン−ビス−クロルギ酸エステル2.924部にトルエン44.4部を溶解させたものを、水溶液(B)として、イオン交換水35.8部に1,6−ジアミノヘキサン1.58部、アルカリ金属含有無機化合物(3)として水ガラス1号5.37部、金属化合物(2)として酸化タングステン(VI)0.2部を加え、60℃で15分間攪拌して得た均質透明な水溶液を用いた以外は、実施例1に記載した方法と同様にして、純白色のシリカ/酸化タングステン/ポリウレタン複合体のウエットケーキを得た。
【0049】
(比較例1)
(比較例1:溶融混練法により作成したガラス/酸化タングステン/ポリ尿素複合体)
(ガラスを含まないポリ尿素の合成)
水溶液(B)中の水ガラス1号の替わりに水酸化ナトリウム1.247部を用いた以外は実施例1と同様な方法で合成をおこなうことで、無機成分を一切含まないポリ尿素ウエットケーキを得た。得られたポリ尿素ウエットケーキを120℃で2時間乾燥させ、乾燥ポリ尿素を得た。このようにして得られたポリ尿素10部と平均粒子径100nmの酸化ケイ素(シリカ)粉末5.0部とを、ツバコー製小型2軸押し出し機MP2015中で200℃で溶融混練することで、ペレット状の有機無機複合体を得た。混練操作に先立つ原料仕込み操作は、酸化ケイ素の粒子径が極めて小さいことによる粉体の飛散が生じやすく極めて困難であった。
【0050】
(比較例2:金属化合物(2)として、塩基性水溶液に溶解しない化合物を用いた場合)
実施例1で用いた水溶液(B)中の金属化合物(2)を酸化銅(I)から、酸化鉄(III)に変更したが、酸化鉄(III)は60℃加温下での1時間以上の攪拌処理によっても殆ど溶解しなかった。該水溶液を用いた以外は実施例1と同様な方法で有機無機複合体を合成したが、得られた複合体ウエットケーキには斑状、不均一に茶色の酸化鉄(III)粉末が複合化されずに付着した。またこれらの粉末は脱落しやすかった。
【0051】
<各種複合体の材料特性の評価>
上記操作で得られた複合体について、以下の項目の測定行い、得られた結果を表1に示した。
【0052】
(a)無機成分含有率(灰分)の測定法(灰分測定法)
有機無機複合体に含まれる無機成分の含有率の測定法は以下の通りである。
有機無機複合体絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で3時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量(=無機成分質量)とした。下式により無機分含有率を算出した。
無機成分含有率(質量%)=(灰分質量/複合体質量)×100
【0053】
(b)有機無機複合体中の金属化合物種の検証 (FP法)
有機無機複合体を170℃、20MPa/cm、の条件で2時間熱プレスを行い、1.5cm角、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これを開口部が直径10mmの測定用ホルダーにセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;フィルム、化合物種;酸化物、補正成分;セルロース、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて該複合体中の元素存在割合を算出した。
【0054】
いずれの実施例で得られた試料でも、金属化合物(2)は、ほぼ水溶液(B)への金属化合物の仕込み量から算出した予測値と一致したため、本数値を金属化合物(2)量とした。本結果より、目的とする金属化合物(2)が系外に流出することなく複合体上に高効率で担持されていることが明らかとなった。その一方で、比較例3で作成した複合体では、金属化合物(2)は洗浄、ろ過操作等により酸化鉄(III)が脱落したことに起因し、仕込み量の80%以下しか担持されていなかった。
【0055】
また、本測定ではアルカリ金属はいずれの実施例、比較例とも0.03質量%以下しか検出されず、本発明でのポリマーの重縮合およびアルカリ金属含有無機化合物(3)の無機化合物(1)へのアルカリ除去及び固体化反応が予測された機構のとおり行われていることが明らかとなった。
【0056】
(c)無機成分の粒子径測定
有機無機複合体を170℃、20MPa/cm、の条件で2時間熱プレスを行い、厚さ約1mmの有機無機複合体からなる薄片を得た。これをマイクロトームを用いて厚さ75nmの超薄切片とした。得られた切片を日本電子社製透過型電子顕微鏡「JEM−200CX」にて100000倍の倍率で観察した。無機化合物(1)及び金属化合物(2)に相当する無機成分は暗色の像として、明るい有機ポリマーに微分散しているのが観察された。無機粒子の個々の短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒子径とした。100個の無機粒子に対して得られた粒子径の平均値を無機成分平均粒子径とした。本測定では無機化合物(1)及び金属化合物(2)の同定はできないため、暗色の像は多量成分である無機化合物(1)であるとした。
【0057】
(d)金属化合物(2)粒子の表面分散状態の測定
不織布を1cm角に切り出し、炭素を10nmの厚さで蒸着して得た試料を、日立社製電解放射型走査電子顕微鏡「SEM−EDX」を用いて元素マッピングを行い、担持させた金属化合物粒子の分散状態を測定した。なお、本測定法での金属化合物粒子の大きさの分解能は1μmである。
【0058】
本測定の結果、実施例1〜3で得られた有機無機複合体においては、いずれも1μm以上の粗大な金属化合物(2)粒子が生じておらず、分布状態もきわめて均一であることが確認された。一方、比較例3(塩基性水溶液に溶解しない化合物を用いた場合)では用いた金属化合物の粒子径に相当する10μ以上の粗大粒子が二次粒子を作りつつ不均一な状態で分布していることが確認された。
【0059】
(e)金属化合物(2)の担持収率の算出
(b)で行った金属化合物の定量結果より、有機無機複合体中の金属化合物(2)の総量を算出した。この値を用い下式より金属化合物(2)の担持収率を算出した。
金属化合物の担持収率(%)=(有機無機複合体中の金属化合物(2)量/金属化合物(2)仕込み量)×100
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1の実施例1〜3の結果より、本発明によって得られた有機無機複合体では、複合の無機化合物(1)が、珪酸アルカリや金属化合物(2)を構成するアルカリ金属がほぼ完全に除去された形態で、ナノメートルオーダーの粒子サイズで、無機成分含有率も40wt%以上と高い含有率で複合化することができた。また、金属化合物(2)が1μm以下の微粒子状態且つ90%以上の高い収率で、有機無機複合体に分散していることが明らかとなった。また本発明では、以上の特徴を持つ有機無機複合体を、常温常圧下での汎用の攪拌装置を用いた短時間の操作で得ることができた。
【0063】
一方、表2の比較例1で示されたとおり、平均粒子径100nmの酸化ケイ素粉末を使用したにもかかわらず、混練の工程でシリカ成分の凝集が生じ、ナノメートルオーダーの複合を行うことができなかった。また、比較例2で示されたとおり、金属化合物(2)として比較例2のように塩基性水溶液に溶解しない化合物を用いた場合では、金属化合物粒子が30μmと粗大状態で担持された上、複合化工程で複合体より脱落しやすくなったことより担持収率も低下した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法により得られる有機ポリマーと無機化合物と金属化合物との複合体は、有機材料の有する加工性と、ポリマー中に高い質量割合で複合化された無機化合物が持つ機能(例えば、硬度、触媒能、絶縁性、半導体性、電子導電性、イオン導電性、高比表面積、高耐熱性、耐摩耗性、温度変化や吸湿に対する寸法安定性等)とに加え、該複合体上に存在する金属化合物による各種機能(例えば反応触媒能、抗菌防カビ能等)を兼備しうる有機無機複合体を提供することができる。
また本発明では、以上の特徴を持つ有機無機複合体を、常温常圧下で30分以下の短時間の操作で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンおよびポリ尿素からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機ポリマーと、
該有機ポリマーのマトリックス中に微分散された、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、シリカとからなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物(1)の微粒子と、
無機化合物(1)とは異なる、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(2)の微粒子と、
を含む有機無機複合体であって、前記無機化合物(1)の微粒子の平均粒子径が1μm以下であり、前記複合体100質量%中の無機化合物(1)の微粒子の含有率が20〜80質量%である有機無機複合体。
【請求項2】
前記無機化合物(1)の微粒子の平均粒子径が100nm以下である請求項1に記載の有機無機複合体。
【請求項3】
前記金属化合物(2)の微粒子の平均粒子径が1μm以下である請求項1記載の有機無機複合体。
【請求項4】
ジクロロホルメート化合物およびホスゲン系化合物からなる群から選ばれる1種の化合物を有機溶媒に溶解した有機溶液(A)と、
少なくとも一種のアルカリ金属元素と、周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素との金属酸化物、金属水酸化物および金属炭酸化物と、珪酸アルカリからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属含有無機化合物(3)と、塩基性水溶液に溶解する周期表第3〜第12族の遷移金属元素又は周期表第13〜16族の典型金属元素の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(2)と、ジアミンとを含有する塩基性の水溶液(B)と
を混合攪拌し、反応させることにより得られる、請求項1または2に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物(2)が中性を示す水溶液に不溶性または難溶性である請求項4に記載の有機無機複合体の製造方法。


【公開番号】特開2006−37004(P2006−37004A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221690(P2004−221690)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】