説明

有機無機複合組成物、成形体および光学部品

【課題】複屈折が小さく、透明性が高く、吸水率が低い光学部品を提供する。
【解決手段】無機微粒子と前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基をポリマー鎖1本あたりに平均5個以上有している熱可塑性樹脂とを含んでいて、1mm厚に成形したときの複屈折が12nm以下である有機無機複合組成物を用いた光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の中に無機微粒子が均一に分散している有機無機複合組成物と、複屈折が小さく、透明性が高く、吸水率が低いことを特徴とする成形体に関する。この成形体は、レンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ)等の光学部品として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズの薄肉化や撮像素子の小型化を目的として、素材自体を高屈折率化することが求められるようになっている。例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献1および2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(例えば、特許文献3参照)等が活発に研究されてきた。しかし、屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。また、光ファイバーや光導波路では、異なる屈折率を有する材料を併用したり、屈折率に分布を有する材料を使用したりする。このように屈折率が部位によって異なる材料を提供するために、屈折率を任意に調節できる技術の開発も望まれている。
【0005】
有機物のみで屈折率を高めることは難しいことから、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって樹脂を高屈折率化する手法が報告されている(例えば、特許文献4参照)。レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリックス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の1次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリックス中に均一に分散させることは極めて難しい。また、レンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。このため、樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散することはこれまでできなかった。
【0006】
また、数平均粒子サイズ0.5〜50nmの超微粒子が分散した熱可塑性樹脂組成物を主体とする成形体であって、光波長1mm当たりの複屈折率の平均が10nm以下である樹脂組成物成形体(例えば、特許文献5参照)や、特定の数式で示される屈折率およびアッベ数を有する熱可塑性樹脂と、特定の平均粒子直径と屈折率とを有する無機微粒子とからなる熱可塑性材料組成物およびこれを用いた光学部品が報告されている(例えば、特許文献6、7参照)。これらも樹脂中に無機微粒子を分散させたものであるが、いずれも樹脂の透明性を低下させずに微粒子を高濃度で樹脂マトリックスに分散するといった観点からは十分な性能を発揮するものではなかった。
【0007】
側鎖にカルボキシル基などの官能基を導入した樹脂に無機微粒子を分散した組成物に関する技術が特許文献8〜10に開示されているが、これらの特許文献にも高屈折率のレンズに使用可能な厚い透明成形体に関する記載はない。
【0008】
このような状況下において、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、優れた透明性と高い屈折率を有する有機無機複合組成物とその成形体が提案されている(特許文献11参照)。この有機無機複合組成物は、無機微粒子と、側鎖に該無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂とを含むものであり、厚さ1mmの成形体の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であり、屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2003−73559号公報
【特許文献5】特開2003−147090号公報
【特許文献6】特開2003−73563号公報
【特許文献7】特開2003−73564号公報
【特許文献8】特表2004−524396号公報
【特許文献9】特開2004−352975号公報
【特許文献10】特開2004−217714号公報
【特許文献11】特開2007−238929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献11は、側鎖に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂を用いることにより、該熱可塑性樹脂中における無機微粒子の分散性を改善することを意図したものである。そこで、分散性を大幅に改善しようとして、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を多量に有する熱可塑性樹脂を用いて無機微粒子と混合すると、混合溶液がゲル化してしまうという問題が生じる。混合溶液がゲル化すると、ハンドリング性やコーティング性が低下し、透過率も悪くなるため、実用的ではない。このため、特許文献11には、ポリマー鎖1本あたりに含まれる官能基数が4.39以下の実施例しか記載されていない。
一方、有機無機複合組成物を成形してレンズ基材などの光学用途に用いる場合は、透明度が高くて複屈折が低いことが必要とされる。また、湿気や水を吸収して表面状態や形状が変化しにくいものであることも必要とされる。しかしながら、従来の有機無機複合組成物の成形体の中には、これらの要求のすべてを満足するものはなかった。特許文献11に記載される有機無機複合組成物も、この点についてはなお改良が望まれる。すなわち、複屈折と吸水率がともに十分に低く、なおかつ透明度が一段と高い有機無機複合組成物成形体が求められている。
本発明は前記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散された有機無機複合組成物を開発して、複屈折と吸水率が低くて、透明性が高いレンズ基材等の成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の官能基を一定以上の量で有する熱可塑性樹脂中に無機微粒子を分散した組成物を用いれば、複屈折と吸水率が低くて、透明性が高い成形体を製造しうることを見出し、以下の構成を有する本発明を提供するに至った。
【0012】
[1] 無機微粒子と熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、
前記熱可塑性樹脂が、前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均5個以上有しており、
前記有機無機複合組成物を1mm厚に成形したときの複屈折が12nm以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
[2] 前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化1】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−OSO3H、−SO3H、−CO2H、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、および、−SHからなる群より選択されることを特徴とする[1]に記載の有機無機複合組成物。
[3] 前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化2】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−CO2H、−SO3H、または−Si(OR5m63-m[R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。]であることを特徴とする[2]に記載の有機無機複合組成物。
[4] 前記官能基が前記熱可塑性樹脂の側鎖に含まれていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[5] 前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【化3】

〔一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基から選ばれる2価の連結基を表す。Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは
【化4】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは0〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を表す。〕。
[6] 前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[7] 前記有機無機複合組成物を1mm厚に成形したときの405nmにおける透過率が60%以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[8] 前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物を含有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[9] 前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜20nmであることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[10] 前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[11] 熱可塑性であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[12] 溶媒を含まない固体であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【0013】
[13] [1]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含むことを特徴とする成形体。
[14] 吸水率が1.5%以下であることを特徴とする[13]に記載の成形体。
[15] 最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする[13]または[14]に記載の成形体。
[16] [13]〜[15]のいずれか一項に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
[17] レンズ基材であることを特徴とする[16]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機無機複合組成物は、無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散されている。また、本発明の有機無機複合組成物は、熱可塑性を有するため成形しやすい。本発明の有機無機複合組成物を用いてなる成形体は、複屈折と吸水率が低くて、透明性が高いため、レンズ基材等の光学部品として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の有機無機複合組成物およびそれを含んで構成されるレンズ基材等の成形体について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[有機無機複合組成物]
本発明の有機無機複合組成物は、無機微粒子と熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物である。その特徴は、熱可塑性樹脂として、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基をポリマー鎖1本あたりに平均5個以上有している熱可塑性樹脂を用いる点にある。ポリマー鎖1本あたりの官能基数は5〜20個であることが好ましく、6〜10個であることがより好ましく、7〜9個であることがさらに好ましい。官能基数が平均5個以上であれば、無機微粒子を均一に分散して成形したときに、複屈折と吸水性を低くして、透明性を高めやすい。また、官能基数が平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。
【0017】
本発明の有機無機複合組成物は、1mm厚に成形したときの複屈折が12nm以下である。好ましくは10nm以下であり、より好ましくは8nm以下である。なお、本発明における1mm厚に成形したときの複屈折は、有機無機複合組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、その3mm×3mmにおける平均位相差を測定した値である。
また、本発明の有機無機複合組成物は、1mm厚に成形したときの405nmにおける透過率が通常60%以上である。透過率は70%以上であることがより好ましく、74%以上であることがさらに好ましい。波長405nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が60%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を製造しやすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、有機無機複合組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置((株)島津製作所製「UV−3100」)で測定した値である。
【0018】
本発明の有機無機複合組成物は、固体であることが好ましい。溶媒含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、溶媒を含まないことが最も好ましい。
本発明の有機無機複合組成物の吸水率は、通常1.5%以下であり、好ましくは1.4%以下であり、より好ましくは1.3%以下である。本発明における吸水率は、カールフィッシャー法(水分気化法、サンプル加熱温度150℃)により測定した値である。
本発明の有機無機複合組成物の屈折率は、波長589nmにおいて1.60以上であることが好ましく、1.63以上であることがより好ましく、1.65以上であることがさらに好ましく、1.67以上であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の有機無機複合組成物は、ガラス転移温度が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0020】
以下において、本発明の有機無機複合組成物の必須構成成分である熱可塑性樹脂と無機微粒子について順に説明する。本発明の有機無機複合組成物には、これらの必須構成成分以外に、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
[熱可塑性樹脂]
本発明の有機無機複合組成物は、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基をポリマー鎖1本あたりに平均5個以上有する熱可塑性樹脂を含む。
【0022】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の基本骨格には特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルなど公知の樹脂骨格を利用することができる。好ましくはビニル重合体、ポリアリレート、およびポリカーボネートであり、より好ましくはビニル重合体である。
【0023】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、側鎖に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、後述する実施例に記載されるような有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。本発明の有機無機複合組成物中において、熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0024】
側鎖に無機微粒子と結合しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成することによって、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基の具体的構造と好ましい範囲については、特開2007−238929号公報の[0030]〜[0035]の記載を本明細書の一部としてここに引用する。
【0025】
無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、ポリマーの末端に結合していても側鎖に結合していてもよい。熱可塑性樹脂へ官能基を導入する方法としては、特に制限はなく、官能基を有するモノマーを共重合させる方法、官能基前駆体部位(例えばエステルなど)を有するモノマーを共重合させた後に加水分解などの手法により官能基に変換する方法、水酸基、アミノ基、芳香環などの反応性部位を有する前駆体樹脂を合成した後に該反応性部位に官能基を導入する方法などが挙げられる。好ましいのは、官能基を含有するモノマーを共重合する方法である。
【0026】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するコポリマーであることが特に好ましい。このようなコポリマーは、下記一般式(2)で表わされるビニルモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0027】
【化5】

【0028】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、および、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選ばれる2価の連結基を表す。Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表し、Zは
【化6】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-mからなる群より選ばれる官能基を表す。
【0029】
一般式(1)および一般式(2)の好ましい範囲については、特開2007−238929号公報の[0039]〜[0045]の記載を本明細書の一部としてここに引用する。
【0030】
以下に一般式(2)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
本発明において一般式(2)で表わされるモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。具体例については、特開2007−238929号公報の[0049]〜[0059]の記載を本明細書の一部としてここに引用する。
【0034】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(分散ポリマー)の重量平均分子量は1,000〜500,000であることが好ましく、3,000〜300,000であることがさらに好ましく、1,000〜100,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が500,000より大きいと成形加工性が悪くなり、1,000未満の場合には十分な力学強度のある有機無機複合組成物を得ることができない。特に、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基数を平均5個以上にする際に、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が大きくなり過ぎないようにすることが、複屈折が小さく、透明性が高く、吸水率が低い有機無機複合組成物を提供するために有効である。
【0035】
ここで、上述の重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0036】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、80〜400℃であることが好ましく、130〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0037】
熱可塑性樹脂の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。熱可塑性樹脂の屈折率が1.48程度であれば屈折率1.60レベルの透明性成形体を提供することができるが、1.65以上の屈折率を実現するためには本発明に用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0038】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0039】
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0040】
【化9】

【0041】
【化10】

【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
【化13】

【0045】
【化14】

【0046】
【化15】

【0047】
【化16】

【0048】
これらの熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の有機無機複合組成物には、本発明の条件を満たす熱可塑性樹脂とともに、本発明の条件を満たさない樹脂を含有させてもよい。例えば、側鎖に官能基を有さない樹脂と本発明の条件を満たす熱可塑性樹脂を混合して使用してもよい。側鎖に官能基を有さない樹脂の種類に特に制限はないが、前記で挙げた光学物性、熱物性、分子量を満たすものが好ましい。
【0049】
[無機微粒子]
本発明で用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子等が挙げられる。より具体的には酸化ジルコニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。本発明では、屈折率や透明性や安定性の観点から、これらの無機物の複合物を用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドーピングしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾したものであってもよい。
【0050】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、特開2007−238929号公報の[0078]〜[0082]に記載される方法を用いることができる。
【0051】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、さらに好ましくは10nm以下、さらにより好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズとしては、1nm〜20nmが好ましく、1nm〜15nmがより好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、上述の数平均粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0052】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率の範囲は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0053】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明で用いられる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0054】
本発明の有機無機複合組成物における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、本発明における前記無機微粒子と熱可塑性樹脂(分散ポリマー)との質量比は、分散性の点から、1:0.01〜1:100が好ましく、1:0.05〜1:10がさらに好ましく、1:0.05〜1:5が特に好ましい。
【0055】
[添加剤]
本発明の有機無機複合組成物には、上記の熱可塑性樹脂や無機微粒子以外に、均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂の合計量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
添加剤の具体例については、特開2007−238929号公報の[0088]〜[0101]に記載される表面処理剤や可塑剤などを挙げることができ、本発明においても適宜選択して用いることができる。
【0056】
[有機無機複合組成物の製造方法]
本発明に用いられる無機微粒子は、側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と化学結合して樹脂中に分散される。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合物の好ましい製造方法としては、(1)無機粒子を表面処理剤の存在下に表面処理を行い、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、(2)無機微粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて、両者を均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法が挙げられる。
【0057】
上記(1)の方法によって無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよい。有機溶媒中に抽出された無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0058】
上記(2)の方法を採用する場合は、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、tert−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加してもよい。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。このとき、前記表面処理剤を添加してもよい。
【0059】
得られた有機無機複合組成物の溶液は、そのままキャスト成形して成形体とすることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
【0060】
[成形体]
本発明の有機無機複合組成物を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。本発明の成形体は、有機無機複合組成物の説明の欄で前記した屈折率と光学特性を示すものが有用である。
【0061】
また本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上であることが好ましい。最大厚みは、好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは1〜3mmである。これらの厚みを有する成形体は、高屈折率の光学部品として特に有用である。このような厚い成形体は、溶液キャスト法で製造しようとしても溶剤が抜けにくいため一般に容易ではない。しかしながら、本発明の有機無機複合組成物を用いれば成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に実現することができる。このように、本発明によれば、微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する成形体を得ることができる。
【0062】
[光学部品]
本発明の成形体は、低複屈折、低吸水率、高透過率を備えているとともに、高屈折性、軽量性をも併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。具体的には、特開2007−238929号公報の[0108]〜[0109]に記載される光学部品にすることができる。
【0063】
本発明の有機無機複合組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合組成物を用いて製造されたレンズ基材では、有機無機複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0064】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0066】
[測定方法]
(1)複屈折測定
測定するサンプルを成形して厚さ1.0mmの基板を作成し、その3mm×3mmにおける平均位相差を測定した。
(2)光線透過率測定
測定するサンプルを成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置((株)島津製作所製「UV−3100」)を用いて波長405nmの値を測定した。
(3)吸水率測定
吸水率は、カールフィッシャー法(水分気化法、サンプル加熱温度150℃)により測定した。具体的には、測定するサンプルを25℃、相対湿度80%下で24時間調湿した後、カールフィッシャー水分計(平沼産業(株)製「EV−2010」)を用いて測定した。
【0067】
(4)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
(5)分子量測定
重量平均分子量および数平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0068】
(6)熱可塑性樹脂における高分子鎖一本当たりの、官能基の数の測定
高分子鎖一本当たりの、官能基の数の測定方法を、官能基含有ユニット中の官能基数が1である場合について示す。なお、官能基含有ユニットが2以上の場合も、同様の手法を利用できる。
まず、ポリマーの酸価aを測定により求めた。ここで酸価とは、ポリマー1gの滴定に必要なKOHのmg量を指す。得られたポリマーの酸価a[mg]、官能基含有ユニットの分子量m1、KOHの分子量m2=56.1を利用して、高分子中の官能基含有ユニット量X[wt%]を、
【数1】

で求めた。
次に、GPCを用いて測定し、ポリマーの分子量Mを求めた。これらの値を利用して下記式より、高分子鎖一本当たりの官能基の数を定量的に求めた。
【数2】

【0069】
[無機微粒子分散液の調製]
(1)酸化ジルコニウム微粒子の合成
50g/lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム分散液を得た。この分散液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水を溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。TEMより数平均粒子サイズが3.2nm、標準偏差0.5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。得られたジルコニウム微粒子分散液をろ過した後、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。
【0070】
(2)酸化ジルコニウム微粒子ジメチルアセトアミド分散液の調製
ジメチルアセトアミド500g中に、4−n−プロピル安息香酸を4.55g溶解させた。これを、上記(1)により予め準備していた450gの酸化ジルコニウム微粒子分散液中に添加し、充分攪拌した。その後、メタノールをエバポレーションによって固形分が8.5質量%になるまで蒸発させ、酸化ジルコニウム微粒子のジメチルアセトアミド分散液を作製した。
【0071】
(3)酸化ジルコニウム微粒子酢酸ブチル分散液の調製
酢酸ブチル500g中に、4−n−プロピル安息香酸を9.00g溶解させた。これを、上記(1)により予め準備していた450gの酸化ジルコニウム微粒子分散液中に添加し、充分攪拌した。その後、メタノールをエバポレーションによって固形分が8.5質量%になるまで蒸発させ、酸化ジルコニウム微粒子の酢酸ブチル分散液を作製した。
【0072】
[熱可塑性樹脂の合成]
(1)熱可塑性樹脂(Q−1)の合成
スチレン47.5g、β-カルボキシエチルアクリレート(Aldrich製)2.50g、及び和光純薬(株)製重合開始剤V−601(商品名)0.5gを酢酸エチル21.4gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(Q−1)を合成し、実施例1で使用した。GPCで測定したところ重量平均分子量は38,600であった。
共重合比を変えることで同様にして重量平均分子量35,000の熱可塑性樹脂(Q−1)を合成し、比較例1で使用した。
【0073】
(2)熱可塑性樹脂(Q−2)の合成
4−クロロスチレン(北興化学工業株式会社製)465.0g、β―カルボキシエチルアクリレート(Aldrich製)10.0g、アクリロニトリル(和光純薬製)25.0g、及び重合開始剤(和光純薬(株)製、V−601(商品名))12.0gを、酢酸ブチル214.3gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂(Q−2)を合成し、実施例2で使用した。GPCで測定したところ重量平均分子量は90,800であった。
共重合比を変えることで同様にして重量平均分子量89,800の熱可塑性樹脂(Q−2)を合成し、実施例3で使用した。
さらに共重合比を変えることで同様にして重量平均分子量84,200の熱可塑性樹脂(Q−2)を合成し、比較例2で使用した。
また、重合開始剤量及び重合時間を変えることで同様にして重量平均分子量246,896の熱可塑性樹脂(Q−2)を合成し、比較例3で使用した。
【0074】
[有機無機複合組成物の調製および成形体の作製]
(1)実施例1
重量平均分子量38,600の熱可塑性樹脂(Q−1)100質量部をジメチルアセトアミドに溶解させた溶液(濃度10質量%)に、酸化ジルコニウム微粒子ジメチルアセトアミド分散液1216質量部を5分かけて滴下した。混合物を80℃で1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合組成物を得た。この有機無機複合組成物は、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる組成物であった。
得られた有機無機複合組成物を、組成物に接する表面がスタバックス鋼でできた金型(直径5.08cmの円形金型)の中に導入し、180℃、13.7MPaにて2分間加熱圧縮成形することにより、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
【0075】
(2)比較例1
重量平均分子量38,600の熱可塑性樹脂(Q−1)のかわりに重量平均分子量35,000の熱可塑性樹脂(Q−1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる有機無機複合組成物と厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。この比較例1は、特開2007−238929号公報(特許文献11)の実施例8に相当する。
【0076】
(3)実施例2
重量平均分子量90,800の熱可塑性樹脂(Q−2)100質量部を酢酸ブチルに溶解させた溶液(濃度10質量%)に、酸化ジルコニウム微粒子酢酸ブチル分散液1304質量部を5分かけて滴下した。混合物を50℃で1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合組成物を得た。この有機無機複合組成物は、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる組成物であった。
得られた有機無機複合組成物を、組成物に接する表面がスタバックス鋼でできた金型(直径5.08cmの円形金型)の中に導入し、180℃、13.7MPaにて2分間加熱圧縮成形することにより、厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
【0077】
(4)実施例3
重量平均分子量90,800の熱可塑性樹脂(Q−2)のかわりに重量平均分子量89,800の熱可塑性樹脂(Q−2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる有機無機複合組成物と厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
【0078】
(5)比較例2
重量平均分子量90,800の熱可塑性樹脂(Q−2)のかわりに重量平均分子量84,200の熱可塑性樹脂(Q−2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる有機無機複合組成物と厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
【0079】
(6)比較例3
重量平均分子量90,800の熱可塑性樹脂(Q−2)のかわりに重量平均分子量246,896の熱可塑性樹脂(Q−2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂48質量%と酸化ジルコニウム微粒子52質量%からなる有機無機複合組成物と厚さ1mmの透明成形体(レンズ基材)を得た。
【0080】
[評価]
上記の各実施例と各比較例で得られた透明成形体について、複屈折、405nmにおける透過率、吸水率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1は、同系統の熱可塑性樹脂を用いた場合、平均官能基含率を5以上にすることにより、複屈折を小さくし、透明性を高くし、吸水率を低くできることを示している。また、平均官能基含率を5以上にする際に、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が大きくなり過ぎないようにすることが、複屈折が小さくて、透明性が高く、吸水率が低い有機無機複合組成物を得るうえで好ましいことを示している。このため、本発明の有機無機複合組成物と成形体は、光学用途に好適に使用することができる。
また熱可塑性樹脂を主体とした本発明の有機無機複合組成物は、生産性よくかつ型の形状に合わせて正確にレンズ形状を形成することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、成形しやすい有機無機複合組成物が得られる。また、この有機無機複合組成物を用いれば、複屈折と吸水率が低くて、透明性が高い成形体が得られる。屈折性が高くて、軽量性や加工性にも優れる成形体も得ることができるため、本発明はレンズ基材を始めとする光学部品などの成形品に幅広く応用されうる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子と熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、
前記熱可塑性樹脂が、前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均5個以上有しており、
前記有機無機複合組成物を1mm厚に成形したときの複屈折が12nm以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化1】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−OSO3H、−SO3H、−CO2H、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、および、−SHからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の官能基が、
【化2】

[R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−CO2H、−SO3H、または−Si(OR5m63-m[R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。]であることを特徴とする請求項2に記載の有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記官能基が前記熱可塑性樹脂の側鎖に含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表される繰り返し単位を含むコポリマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【化3】

〔一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基から選ばれる2価の連結基を表す。Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは
【化4】

−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR5m63-m〔R1、R2、R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。mは0〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を表す。〕。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記有機無機複合組成物を1mm厚に成形したときの405nmにおける透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項8】
前記無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項9】
前記無機微粒子の数平均粒子サイズが1〜20nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項10】
前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項11】
熱可塑性であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項12】
溶媒を含まない固体であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含むことを特徴とする成形体。
【請求項14】
吸水率が1.5%以下であることを特徴とする請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項13または14に記載の成形体。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の成形体からなることを特徴とする光学部品。
【請求項17】
レンズ基材であることを特徴とする請求項16に記載の光学部品。

【公開番号】特開2010−189482(P2010−189482A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33036(P2009−33036)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】