説明

有機発光素子

【課題】放熱性をより高めるとともに、有機発光素子の構造を簡素化にした有機発光素子を提供する。
【解決手段】第1可堯性基板1上に、第2可堯性基板2、第1電極3、有機発光体4、第2電極5が順次積層されている。有機発光体4と接触している第1電極3の一部、有機発光体4と接触している第2電極5の一部、有機発光体4の周囲に伝熱性充填材6が形成されている。有機発光体4が伝熱性充填材6に埋め込まれた構造となっている。このように、有機発光体4からの熱を拡散させる面積を広げている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光体を有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の有機発光素子では、特許文献1の図12に示されるような封止を行っていた。封止板とガラス基板との間に形成されるゲッター室と呼ばれる内部空間には、不活性ガスなどを充満させ、さらには乾燥材を配置していた。これにより、有機発光層等が外部の湿気や水分に触れるのを防いでいる。
【0003】
しかしながら、不活性ガスの対流による封止板206への熱伝導は非常に小さく、有機発光層やガラス基板の熱伝導率も小さいため、素子温度の上昇を招いていた。有機EL(Electroluminescence)素子等の有機発光素子は、発光時に発光素子内部の電気抵抗による発熱、いわゆるジュール熱が発光素子の温度を上昇させる。この温度上昇は、有機薄膜の劣化や電極膜の剥離等の進行を加速させ、発光素子寿命や性能の低下を招く要因となっていることが知られている。また、有機発光素子は温度が上がると電流が流れ易くなり、さらに温度が上昇するという破壊サイクルを持っており、温度上昇は寿命に直結する。
【0004】
そこで、特許文献1の図1等に示されるように、放熱性を高めるために、封止板と陰極層との間に伝熱性部材を配置して熱の拡散を図った構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−134897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術では、伝熱性部材は、陰極層の上面のみが密着しており、ゲッター室の空間は確保されている。このため、放熱性が十分ではなく、また、ゲッター室に乾燥材を配置する等、製造工程が煩雑になり、コストも高くなる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、放熱性をより高めるとともに、有機発光素子の構造を簡素化にした有機発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の有機発光素子は、基板と、前記基板上に形成された有機発光体と、前記有機発光体を埋め込むように該有機発光体の周囲に形成され、電気的絶縁性を有する伝熱性充填材と、前記伝熱性充填材上に配置された封止板とを備えたことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機発光体を埋め込むように、有機発光体の周囲を電気的絶縁性のある伝熱性充填材で覆い、前記伝熱性充填材上に封止板を配置しているので、有機発光体で発生した熱が拡散する面積が拡がり、効率良く有機発光体からの熱を逃がすことができる。また、有機発光体の周囲に形成された伝熱性充填材により、従来用いられていたゲッター材や中空部分(ゲッター室)を排除しているので、製造工程を簡単にし、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【図2】本発明の有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【図3】本発明の有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【図4】本発明の有機発光素子の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の有機発光素子作製の基になる全体構造の平面図である。
【図6】有機発光素子の製造過程における接着層の硬化工程を示す図である。
【図7】有機EL素子の輝度半減寿命の温度依存性を示す図である。
【図8】有機EL素子の短絡箇所の温度上昇例を示す図である。
【図9】封止板にセラミックスを用いた場合に、温度分布、輝度分布のばらつきが抑制されることを示す図である。
【図10】図9の輝度分布について、輝度分布曲線を表示した図である。
【図11】有機発光素子の放熱性向上の構成を付加した一構造例を示す図である。
【図12】基板と封止板とが異種材料の場合、反り防止の構成を付加した有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【図13】基板と封止板との熱膨張係数の差による反りを防止する構成を付加した有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【図14】基板と封止板との熱膨張係数の差による反りを防止する構成を付加した有機発光素子の一構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。構造に関する図面は模式的なものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0012】
まず、有機発光素子は、図1のように構成することができる。図1は、本発明の有機発光素子の構造例を示す断面図である。有機発光素子は、第1可堯性基板1、第2可堯性基板2、第1電極3、有機発光体4、第2電極5、伝熱性充填材6、封止板7等で構成される。
【0013】
第1可堯性基板1上に、第2可堯性基板2、第1電極3、有機発光体4、第2電極5が順次積層されている。有機発光体4と接触している第1電極3の一部、有機発光体4と接触している第2電極5の一部を少なくとも含み、かつ有機発光体4の全体を内包するように有機発光体4の周りに伝熱性充填材6が形成されている。すなわち、伝熱性充填材6は、有機発光体4、第1電極3、第2電極5に密着しており、有機発光体4が伝熱性充填材6に埋め込まれた構造となっている。図1の有機発光素子の構造例は、有機発光体4で発光した光を第1可堯性基板1側から取出す、いわゆるボトムエミッション型である。
【0014】
第1可堯性基板1は、電気的絶縁体であり、フレキシブル性があり、光に対して透明なプラスチック等が用いられる。第2可堯性基板2は、光に対して透明で、電気的絶縁体であるとともに、その上に有機発光体を形成する必要があるため、ガラス等が用いられる。また、フレキシブル性を満たすために、第2基板2がガラスの場合、厚さ50μm程度の超薄板ガラスを用いる。第1可堯性基板1は、有機発光素子に力が加えられた場合、第2可堯性基板2が割れないように保護する役割もある。
【0015】
第1電極3は、光を透過可能な厚さ約150〜約450nmのITO(インジウム−スズ酸化物)の透明電極からなる。また、第1電極3は、本実施例の場合、陽極に相当する。
【0016】
伝熱性充填材6は、有機発光体4で発生したジュール熱を封止板7側に伝え、放熱させるためのものである。また、封止板7を基板側に接着させる役割もある。さらには、電気的絶縁性やフレキシブル性を備えている必要がある。したがって、伝熱性充填材6としては、UV硬化樹脂や熱硬化樹脂等の樹脂を用いることが好ましい。
【0017】
封止板7は、第1電極3、第2電極5、および有機発光体4を保護し、これらを封止するものである。封止板7には、金属、セラミックス、フレキシブル性のあるプラスチック等を用いることができる。
【0018】
有機発光体4は、例えば、有機EL(エレクトロルミネセンス)構造に形成されており、第1電極3側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層が順次積層された構成を取る。その他にも、正孔注入層や電子注入層等を挿入しても良い。
【0019】
第2電極5は、本実施例では陰極に相当し、例えば厚さ約60〜約150nmのアルミニウムからなる。図1の有機発光素子の第1可堯性基板1から封止板7までの厚みは、0.3mm程度に形成することができる。
【0020】
このように、樹脂等の伝熱性充填材で有機発光体を完全に覆いつくすようにすることで、従来用いられてきたゲッター室という中空部分を排除した。また、封止板に上記のような熱伝導性や放熱性の高い材料を用いている。このため、有機発光体で発生した熱は、伝熱性充填材に拡散し、その熱が封止板に伝導して、封止板から効率良く外部に熱を逃がすことになるので、有機発光素子の均熱化、及び放熱を実現することができる。また、基板、伝熱性充填材及び封止板について、可堯性の材料を用いているので、全体にフレキシブル性を付与することができる。
【0021】
次に、図2に、図1と近い構造であるが、主に充填材が異なる構成を示す。図1と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。充填材が伝熱性充填材6と伝熱性充填材8とに分かれている。伝熱性充填材6は図1と同じものであり、接着層としての役割も果たすため、UV硬化樹脂や熱硬化樹脂等の樹脂を用いる。一方、伝熱性充填材8は、伝熱性充填材6とは異なる材料で形成されたものであり、固体又は液体の充填材とすることができる。
【0022】
伝熱性充填材8は、伝熱性充填材6と異なり、接着層としての機能は特に必要ではない。したがって、伝熱性充填材8が液体の場合は、不活性材料を用い、例えば、耐熱性、不燃性、耐薬品性に優れたフッ素オイル等とすることができる。一方、伝熱性充填材8が固体又は液体の場合は、ゲッター機能を有する充填材とすることができる。ゲッター機能とは、酸素や水分を吸着させる機能のことである。また、有機発光素子にフレキシブル性を持たせる場合は、伝熱性充填材8は、ゲッター機能とフレキシブル性を有する固体材料とすることが好ましい。伝熱性充填材8が固体又は液体の場合は、ゼオライト等の物理吸着剤、又は、化学的に吸着する成分を含む材料、物理的吸着及び化学的吸着の両方の機能を有する材料を用いることができる。伝熱性充填材6及び伝熱性充填材8の厚みは、例えば、20μm程度に形成することができる。
【0023】
また、図2の封止板7Aには、フレキシブル性に加えて、熱伝導性や放熱性に優れた材料を用いている。熱伝導性や放熱性に優れた材料として、ガラスよりも大きな熱伝導率TC>1W/m・Kを有する封止材料が望ましい。これらの条件を満たす封止材料として、金属フィルムが挙げられる。金属フィルムは、例えば銅(Cu)、アルミ(Al)等の金属を厚さ100μm程度以下に作製したものが望ましい。
【0024】
フレキシブル性が必要ない場合の有機発光素子の例を図3に示す。図3は、フレキシブル性を特に必要としないため、封止板と基板等が図2とは異なる。図3と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。まず、基板10は、可堯性を有する必要がないため、光に対して透明で電気的絶縁体であるガラス等の材料が用いられる。この場合、基板10、第1電極3、有機発光体4、第2電極5を合わせた厚さは、例えば、約0.7mm程度に形成される。
【0025】
図3の封止板7Bは、フレキシブル性が必要ではなく、熱伝導性や放熱性に優れた材料を用いれば良い。具体的材料として、金属では銅(Cu)、アルミ(Al)、ニッケル(Ni)、銅モリブテン(CuMo)合金、セラミックスとしてはAlN、Alを用いることができる。
【0026】
次に、有機発光素子の製造方法を図3の構造を例に取り、図4により簡単に説明する。図4(a)に示すように、基板10上に第1電極3をパターニング、エッチングした後、真空蒸着法により有機発光体4を形成し、その後に第2電極5を成膜する。図4(b)に示すように、封止板7Bに接着性を有する伝熱性充填材6と、伝熱性充填材6とは異なる種類の伝熱性充填材8を塗布する。次に、図4(c)に示すように、封止板7Bを基板10に圧着して貼り合わせて封止すれば、図5に示す有機発光素子アレイが完成する。なお、完全に中空部分を排除するには、真空状態で圧着するのが望ましい。
【0027】
図5は、有機発光素子が作製される前の全体構造の平面図を示す。矩形状の基板10上に4つの有機発光素子が完成しており、各々の有機発光素子は、基板10上に形成された第1電極3、有機発光体4、第2電極5、伝熱性充填材6、伝熱性充填材8、封止板7Bで構成されている。4つの各封止板7Bは、平面視形状が正方形となっている。図5を縦横の破線に沿ってスクライブカットすれば、図3の有機発光素子が完成する。
【0028】
ここで、接着性を有する伝熱性充填材6には、UV硬化樹脂や熱硬化樹脂等の樹脂等が用いられる。例えば、UV硬化樹脂を用いた場合、図4(c)の貼り合わせ後、図6のようにUV(紫外)光を照射して伝熱性充填材6のUV硬化樹脂を硬化させて接着する。しかし、図6のように、製造時に伝熱性充填材6を充填後、UV照射により硬化させる方法では、UV照射時に発熱するため、基板10と封止板7Bとの熱膨張係数の差により、有機発光素子に反りが生じたり、さらには電極を損傷するおそれがある。
【0029】
そこで、基板10とは熱膨張係数が異なる封止板7を用いた場合、図6に示すように、UV光を照射して伝熱性充填材6のUV硬化樹脂を硬化させ、伝熱性充填材6を介して封止板7と基板10を接着させる場合に、冷却材11を有機発光素子の一部、例えば封止板7上に配置する。冷却材11は、例えばペルチエ素子等で構成することができる。冷却材11の冷却効果により、基板10と封止板7を冷却して、これらの温度を室温付近に保つことで、UV光照射時の熱による反りの発生を防ぐことができる。
【0030】
また、有機発光素子完成後に、有機発光素子を駆動した場合、有機発光体4からジュール熱が発生し、基板10と封止板7Bとの熱膨張係数の差により、有機発光素子に反りが生じるので、これを防ぐために冷却材11を配置した状態にしておいても良い。また、冷却材11を配置する構成は、図1、2等の構成にも、適用できる。
【0031】
以上のようにして作製された有機発光素子と、従来の有機発光素子とを比較した。まず、従来構成の有機EL素子として、特許文献1の図12に示される構造の素子を用い、輝度半減寿命と温度との関係を測定した。
【0032】
図7に測定結果を示す。25℃(室温)の状態で上記有機EL素子の輝度半減寿命を測定し、65℃及び85℃の恒温槽に上記有機EL素子を入れて輝度半減寿命を測定した。ここで、輝度半減寿命とは、電流を流して継続的に有機EL素子を発光させた場合、有機EL素子が最初に発光したときの初期輝度から輝度が半減するまでの期間(時間)を言う。図7の横軸は有機EL素子が置かれた雰囲気の温度を、縦軸は25℃の輝度半減寿命を1とした場合の相対寿命を示す。
【0033】
また、有機EL素子に流す電流を調整して初期輝度を1000cd/mの場合の測定曲線をL1、初期輝度を3000cd/mとした場合の測定曲線をL2、初期輝度を5000cd/mとした場合の測定曲線をL3で表わした。25℃のときの輝度半減寿命から、65℃、85℃と温度が高くなるにつれて、初期輝度がいずれの場合も輝度半減寿命は1/10以下にまで落ち込んでおり、温度上昇に対する劣化が著しいことがわかる。逆に、素子の温度上昇を抑制すれば、輝度半減寿命を延ばすことができる。
【0034】
そこで、封止板7、7Aに、熱伝導率・放射率に優れた材料、例えば、Alフィルム(熱伝導率237 W/m・K、熱放射率約0.1)、Cuフィルム(熱伝導率401 W/m・K、熱放射率約0.2以下)の各々を、封止板7BにAlNセラミックス(熱伝導率170〜W/m・K、放射率0.93)、Alセラミックス(熱伝導率39W/m・K、熱放射率0.97)の各々を用い、充填材だけを介して直接貼り付けて、図1、2、3のいずれかの構成とすることにより、有機EL素子で発熱した熱を逃がし、温度上昇を抑制することができ、寿命を向上させることができる。
【0035】
次に、従来の有機EL素子による照明では、異物等の存在により特異点のように、部分的なショートが生ずる場合がある。図8(a)は、有機EL素子の発光部径30mm×30mmを発光上部から見た図となっている。横側と下側に記載されたグラフは、輝度分布を示す。図8(b)は、図8(a)の発光部径30mm×30mmの温度分布を示す。図8(b)の中央付近が白っぽくなっているのは、発光部の特定の領域の温度が高くなっていることを示す。輝度分布が特に上がっている箇所、すなわち温度が特に高くなっている箇所が電流が集中している領域であり、短絡している領域である。
【0036】
このとき、図8(b)に記載された数値からわかるように、最高温度は70.5℃、最低温度は26.6℃であり、より高温状態になると、素子が破壊されることがある。このように、ショート箇所では温度が上昇し破壊の引き金になることがある。
【0037】
一般に有機発光素子は温度が上昇すると電流が流れ易くなる特性を持つ。従って、温度が高い部分の輝度は高くなる。しかし、本発明のように、封止板を熱伝導性、熱放射性に優れた材料で構成すると、熱分布を均熱化することができ、破壊を抑制することが可能となる。また、熱の拡散放熱効果により面内の温度分布が一様になり、輝度分布のばらつきも抑制できる。この効果を図9、10に示す。
【0038】
図9は、封止板をAlNセラミックスにした図3の本発明の構造による有機発光素子と、封止板をガラスにした従来構造(特許文献1の図12の構造)による有機発光素子との輝度分布及び温度分布を比較したものである。封止板をガラスにした従来構造の素子の方が、輝度分布に大きな偏りがあることがわかる。また、封止板をAlNセラミックスにした本発明の素子の方が、従来構造の素子に比べて、素子の中心付近温度が、46.5℃から36.9℃に低下していることがわかる。
【0039】
図10は、図9の輝度分布の部分のみを取り出して、縦方向の輝度分布と横方向の輝度分布をグラフ化した図である。図10(a)が封止板をAlNセラミックスにした本発明の有機発光素子であり、図10(b)が封止板をガラスにした従来の有機発光素子である。図10(a)の方が温度分布を均熱化したことにより、輝度分布のばらつきも改善されている。
【0040】
ここで、画像の各ピクセルの輝度値を平均化した値をI1、輝度値の標準偏差をI2とすると、変動係数はI2/I1で表わされる。この変動係数を算出すると、本発明の構造の有機発光素子の場合は、変動係数は17.8%、従来構造の有機発光素子の場合は、変動係数は24.7%となり、封止板をAlNセラミックスにした本発明の有機発光素子での方が、ばらつきを抑制できていると考えられる。なお、図10(a)の横軸のグラフを見ると、正極から負極に遠ざかるにつれて、輝度が低下しているが、これは、陽極に用いたITOのシート抵抗値が高いため、電圧の接続端子から遠ざかるにつれて抵抗値が大きくなって電圧降下が生じ、暗くなっている。
【0041】
次に、封止板の放熱性を向上させた構成を図11に示す。図3の構造に放熱性を向上させるための手段が付加された構成となっている。図3と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。まず、あらかじめ、金属の封止板7Bの両側にクロメート処理を施し、クロメート被膜13A、13Bを形成し、クロメート被膜13B上に放熱塗料12を積層する。このように形成された積層体を図3の構造の伝熱性充填材6及び伝熱性充填材8に貼り付けることにより、図11の有機発光素子が形成される。クロメート処理によるクロメート被膜13A、13Bの形成は、放熱塗料12と封止板7Bと伝熱性充填材6、8との密着性を上げるための処理である。
【0042】
金属の熱放射率は低い(Alで0.1程度)ので、放熱塗料12を塗ることで熱放射率を上げ、放熱性を向上させることができる。放熱塗料12としては、輻射率の高いカーボン材料を含有した塗料等が挙げられる。
【0043】
次に、有機発光素子を作製する場合に、基板と封止板とが異種材料ということになると、これらの線膨張係数が異なるため、図6の貼り合わせ時に発生する熱、あるいは、有機発光素子の駆動時の熱により反りが発生する可能性がある。このため、図3の封止板7Bは線膨張係数が基板10に近いものが望ましい。
【0044】
一般に有機EL素子等の基板としてはガラス基板が使用される。例えば、基板10にソーダガラスを用いる場合は、封止板はソーダガラスの線膨張係数(9〜10×10−6/℃)と同程度(望ましくは±50%以内)の線膨張係数を有する材料が望ましい。これらの条件を満足する封止材料としては、セラミックス材料が好適である。例えば、セラミックス材料として、AlN(線膨張係数4.5×10−6/℃)、Al(線膨張係数5.3×10−6/℃)、Zrセラミックス(線膨張係数9.4×10−6/℃)等を用いる。
【0045】
しかしながら、封止板7Bに、必ずしも線膨張係数が基板10に近い材料を用いることができるとは限らない。
【0046】
そこで、図12のように、反り防止の構造を付加した。図12は、図3の構造に、金属封止板70を用いた場合に、反り防止構造を付加したものである。図3と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。図12では、基板10にはガラスが良く使用されるので、金属封止板70であると線膨張係数がかなり異なるので、膨張長さの違いから反りが生じてしまう。これを防止するために、反り防止材16を配置した。
【0047】
まず、あらかじめ、金属封止板70に表面処理を施し、絶縁層14を形成する。絶縁層14は、数μmの厚さのAl等のセラミックス絶縁体を用いる。絶縁層14は、金属封止板70と電極等との絶縁を確保するためのものである。図3の構造の伝熱性充填材6及び伝熱性充填材8上に、上記絶縁層14が形成された金属封止板70を貼り付ける。金属封止板70の貼り付けは、絶縁層14が伝熱性充填材6及び伝熱性充填材8と接合するようにする。さらに、金属封止板70上に接着層15を介して反り防止材16を形成する。反り防止材16には、AlNセラミックス等のセラミックス材料が用いられる。
【0048】
接着層15の接着剤は高熱伝導性のものが望ましく、例えば、5W/m・K程度の材料を用いることができる。基板10がガラスの場合は、ガラスと近い線膨張係数を持つ材料、例えばAlNセラミックスによる反り防止材16を反対側に貼ることで、ガラスと金属を貼り合わせた際の反りを防ぐ。また、反り防止材16は、有機発光素子の温度上昇を防ぐために、AlNセラミックスのように高熱伝導・高放射率材料が望ましい。
【0049】
図13は、フレキシブル基板を用いた場合の反り防止構造を示す。封止板が金属の場合、フレキシブル化が可能である。図13は、図2の構造に反り防止構造を付加したものである。図2と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。また、図13の絶縁層14と接着層15は図12と同じものであるため、これも説明を省略する。
【0050】
図13では、第1可堯性基板1と第2可堯性基板2と同じものをそれぞれ封止板7上に積層している。具体的には、金属封止板70上に接着層15を介して第2可堯性基板2を接着し、第2可堯性基板2上に第1可堯性基板1を積層する。第1可堯性基板1には、例えばプラスチックが、第2可堯性基板2には50μm程度の厚さの超薄板ガラス等を用いることができる。このように、異種材料貼り付けによる反りは、基板が複合化している場合でも、基板と同様の材料を上下対称に貼ることで防ぐことができる。金属封止板70上に、超薄板ガラスやプラスチックが積層されているため、熱放射は望めないが、金属封止板70の熱伝導による均熱化は実現できる。
【0051】
有機発光素子の最大の特徴として、薄く作製できることが挙げられる。例えば、図2のように、封止板に金属フィルムを使用することで均熱化のメリットを有したフレキシブルデバイスが作製可能である。そこで、最も薄く有機発光素子を構成するために、図14のように構成する。図14は、図2の構造に反り防止構造を付加したものである。図2と同じ数字の部分は、同じ構成を示すものであるため、説明は省略する。図2の構造に、第1可堯性基板1と同じ線膨張係数を有し、かつ第1可堯性基板1と同じ厚さを有する封止板1Aを伝熱性充填材6及び伝熱性充填材8上に形成する。このようにすれば、図13のように封止板上に複合的な構造物を形成せずに反りを防止することができ、かつ有機発光素子を極めて薄く作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の有機発光素子の構成は、有機EL照明、フレキシブル有機ELデバイス、有機ELディスプレイなど、幅広いデバイスに適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 第1可堯性基板
1A 封止板
2 第2可堯性基板
3 第1電極
4 有機発光体
5 第2電極
6 伝熱性充填材
7 封止板
7A 封止板
7B 封止板
8 伝熱性充填材
10 基板
11 冷却材
12 放熱塗料
13A クロメート被膜
13B クロメート被膜
14 絶縁層
15 接着層
16 反り防止材
70 金属封止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された有機発光体と、
前記有機発光体を埋め込むように該有機発光体の周囲に形成され、電気的絶縁性を有する伝熱性充填材と、
前記伝熱性充填材上に配置された封止板とを備えたことを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記封止板は、ガラスよりも大きな熱伝導率を有することを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記封止板は、Cu、Al、Ni、CuMo合金、AlN、Alのいずれかで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記封止板は、表面に放熱塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記封止板は、フレキシブル性を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記封止板は、金属フィルムであることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記封止板の線膨張係数は、前記基板の線膨張係数の±50%以内であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記伝熱性充填材は、前記有機発光体を埋め込むように該有機発光体の周囲に形成された第1の伝熱性充填材と、前記第1の伝熱性充填材とは異なる材料であって前記第1の伝熱性充填材の周囲に形成された接着性を有する材料による第2の伝熱性充填材とで構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記第1の伝熱性充填材は、液体又は固体で構成されていることを特徴とする請求項8に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第1の伝熱性充填材は、不活性材料の液体であることを特徴とする請求項9に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記第1の伝熱性充填材は、ゲッター機能を有する固体であることを特徴とする請求項9に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記有機発光素子の一部に冷却材を配置したことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−119064(P2012−119064A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264826(P2010−264826)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】